(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190902
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】トランスミッションケース及びトランスミッション
(51)【国際特許分類】
F16H 57/032 20120101AFI20221220BHJP
F16H 57/04 20100101ALN20221220BHJP
【FI】
F16H57/032
F16H57/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099418
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 浩二
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA02
3J063AA07
3J063AA40
3J063BA11
3J063CD41
3J063XD03
3J063XD62
3J063XE50
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、撥油性能に優れたトランスミッションケース、及び該トランスミッションケースを含むトランスミッションを提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、内表面の少なくとも一部に被膜が形成されたトランスミッションケースであって、前記被膜が非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含み、前記多孔質材料が、前記非晶質フッ素樹脂中に分散しており、前記多孔質材料の一部が被膜表面から露出している、トランスミッションケースである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内表面の少なくとも一部に被膜が形成されたトランスミッションケースであって、
前記被膜が非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含み、
前記多孔質材料が、前記非晶質フッ素樹脂中に分散しており、
前記多孔質材料の一部が被膜表面から露出している、トランスミッションケース。
【請求項2】
前記被膜表面が、前記非晶質フッ素樹脂を含んでなる海部と、実質的に前記多孔質材料からなる島部とから構成される海島構造を有する、請求項1に記載のトランスミッションケース。
【請求項3】
前記多孔質材料が多孔質粒子を含む、請求項1又は2に記載のトランスミッションケース。
【請求項4】
前記多孔質粒子の平均粒子径が15μm以下である、請求項3に記載のトランスミッションケース。
【請求項5】
前記多孔質粒子が、シリカ粒子及びアルミナ粒子から選択される少なくとも1種の多孔質粒子を含む、請求項3又は4に記載のトランスミッションケース。
【請求項6】
前記被膜の平均膜厚が、12μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のトランスミッションケース。
【請求項7】
前記被膜の平均膜厚が、1μm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のトランスミッションケース。
【請求項8】
前記非晶質フッ素樹脂及び前記多孔質材料の合計体積を100vol%とした際、多孔質材料の体積が、5~50vol%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のトランスミッションケース。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のトランスミッションケースを含むトランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスミッションケース及びトランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、鉄道車両、シールド掘削機、発電機、圧延機等への組込装置の一つとして、これらに搭載されたエンジンやモータなどの動力源から回転軸に出力された回転動力を被回転軸へ伝達するための装置、すなわち、動力伝達装置が存在する。
【0003】
装置内に潤滑剤が供給される動力伝達装置の外筐の内面の少なくとも一部に撥油加工を施すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、内面の少なくとも一部に撥油加工を施した外筐構造とすることで、装置内に供給された潤滑剤の流動性を向上させることができること、これにより潤滑剤の供給量を増加させることなく、動力伝達装置の内部を長期に亘って良好な潤滑状態に保つことができること等が開示されている。動力伝達装置としては様々なものがあるが、特許文献1には、自動車のデファレンシャルギア装置の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、内面に撥油性能を有する外筐を用いることは提案されていたが、本発明者らの検討によると、撥油性能は未だ十分なものではなかった。特にトランスミッションにおいて求められる撥油性能の観点からは未だ改良の余地があった。
【0006】
そこで、本開示の目的は、撥油性能に優れたトランスミッションケース、及び該トランスミッションケースを含むトランスミッションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、内表面の少なくとも一部に、特定の被膜を形成することにより、撥油性能に優れるトランスミッションケースを得ることができることを見出し、本開示に至った。
【0008】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0009】
(1) 内表面の少なくとも一部に被膜が形成されたトランスミッションケースであって、
前記被膜が非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含み、
前記多孔質材料が、前記非晶質フッ素樹脂中に分散しており、
前記多孔質材料の一部が被膜表面から露出している、トランスミッションケース。
(2) 前記被膜表面が、前記非晶質フッ素樹脂を含んでなる海部と、実質的に前記多孔質材料からなる島部とから構成される海島構造を有する、(1)に記載のトランスミッションケース。
(3) 前記多孔質材料が多孔質粒子を含む、(1)又は(2)に記載のトランスミッションケース。
(4) 前記多孔質粒子の平均粒子径が15μm以下である、(3)に記載のトランスミッションケース。
(5) 前記多孔質粒子が、シリカ粒子及びアルミナ粒子から選択される少なくとも1種の多孔質粒子を含む、(3)又は(4)に記載のトランスミッションケース。
(6) 前記被膜の平均膜厚が、12μm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載のトランスミッションケース。
(7) 前記被膜の平均膜厚が、1μm以上である、(1)~(6)のいずれかに記載のトランスミッションケース。
(8) 前記非晶質フッ素樹脂及び前記多孔質材料の合計体積を100vol%とした際、多孔質材料の体積が、5~50vol%である、(1)~(7)のいずれかに記載のトランスミッションケース。
(9) (1)~(8)のいずれかに記載のトランスミッションケースを含むトランスミッション。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、優れた撥油性能を有するトランスミッションケース、該トランスミッションケースを含むトランスミッションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本実施形態のトランスミッションケースの被膜及びその周辺の構成例を示す断面概略図(I)及び被膜を上部から観察した際の概略図(II)である。
【
図2】実施例及び比較例の供試油が動き始めた傾斜角度(相対値)を示す図である。
【
図3】実施例及び比較例の供試油が試験片上を10mm移動するのに要する時間(相対値)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態は、内表面の少なくとも一部に被膜が形成されたトランスミッションケースであって、前記被膜が非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含み、前記多孔質材料が、前記非晶質フッ素樹脂中に分散しており、前記多孔質材料の一部が被膜表面から露出している、トランスミッションケースである。また、別の本実施形態としては、前記トランスミッションケースを含むトランスミッションである。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態のトランスミッションケースは、内表面の少なくとも一部に被膜が形成されており、該被膜が撥油性能に優れるため、優れた撥油性能を有するトランスミッションケースを提供することができる。本発明者らの検討によると、被膜の撥油性能を向上させるためには、油種(撥油されることが望まれる油)よりも低い表面張力と、表面の不均一な表面張力分布が求められる。本実施形態のトランスミッションケースは、被膜が非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含んでいる。非晶質フッ素樹脂は表面張力が低く、多孔質材料は、その多孔質部で油を保持し、油とのなじみ性を確保することができる。すなわち、本実施形態において非晶質フッ素樹脂は、撥油材料であり、多孔質材料は親油材料である。本実施形態では、多孔質材料の一部が被膜表面から露出しているため、表面に親油材料と、撥油材料が存在することになり、不均一な表面張力分布となり、優れた撥油性能を示すことができる。
【0014】
本実施形態のトランスミッションケースは、内表面の少なくとも一部に被膜が形成されているが、被膜が形成される部分は、少なくともトランスミッションとして使用した際に、油と接触する部分、特にトランスミッション内の回転体により油がかき上げられ飛散、付着する内表面の一部又は全部であり、好ましくは油と接触する部分の面積の50%以上100%以下であり、より好ましくは油と接触する部分の面積の70%以上100%以下であり、更に好ましくは油と接触する部分の面積の80%以上100%以下であり、特に好ましくは油と接触する部分の面積の90%以上100%以下であり、最も好ましくは油と接触する部分の面積の100%である。なお、トランスミッションとして使用した際に、油と接触しない部分にも、前記被膜が形成されていても差し支えない。
【0015】
トランスミッションとは例えば、エンジン等の内燃機関及びモータ等の電動機から選択される少なくとも1種の原動機を備える、自動車等の車両に搭載されている、原動機からの動力を伝達するギヤ類を備えている組込装置であり、原動機の動力をトルク、回転数、回転方向を、適宜変えて活軸へと伝達する装置である。トランスミッションケースとは、トランスミッションの外筐を構成する部材であればよく、他の組み込み装置等を同時に収容していてもよい。トランスミッションケースにおいて、被膜は基材上に形成される。基材を構成する材料としては特に制限はないが、例えば、従来からトランスミッションケースの材料として使用されている材料、具体例としてはアルミニウム合金が挙げられる。
【0016】
本実施形態に係るトランスミッションケースが有する被膜は非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含み、前記多孔質材料が、前記非晶質フッ素樹脂中に分散しており、前記多孔質材料の一部が被膜表面から露出している。以下、被膜について、
図1を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、被膜及びその周辺の構成例を示す断面概略
図1(I)及び被膜を上部から観察した際の概略
図1(II)である。なお、
図1(I)は、
図1(II)のA‐A’断面図に相当する。被膜1は通常は基材3上に設けられ、非晶質フッ素樹脂5及び多孔質材料を含む。多孔質材料としては、多孔質粒子7であることが好ましい。なお、
図1では、多孔質材料が多孔質粒子7である場合を図示している。多孔質材料(好ましくは多孔質粒子7)は、非晶質フッ素樹脂5中に分散しており、多孔質材料はその一部が被膜の表面から露出している。被膜を上部から観察した
図1(II)に示したように、被膜表面は、非晶質フッ素樹脂5を含んでなる海部と、実質的に多孔質材料(好ましくは多孔質粒子7)からなる島部とから構成される海島構造を有することが好ましい。島部は実質的に多孔質材料からなることが好ましいが、その他の成分が、例えば多孔質材料の孔に取り込まれること等により、島部に存在してもよい。
【0018】
被膜の平均膜厚9としては、12μm以下であることが好ましく、11μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。また、被膜の平均膜厚9としては、1μm以上であることが好ましく、1.3μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましい。膜厚が厚くなるほどコスト高になる傾向があるため、経済性の観点から被膜の平均膜厚が前記上限を超えないことが好ましく、安定的に被膜を形成する観点から被膜の平均膜厚が前記下限を下回らないことが好ましい。なお、被膜の平均膜厚9は、被膜1が形成されている基材3から、被膜表面までの厚さを意味し、多孔質材料の露出部分は含めない厚さである。なお、平均膜厚は、例えば、トランスミッションケースと同材料(例えばアルミ合金)で50mm角の試験片を準備し、トランスミッションケース内面に被膜形成する際と同条件で試験片上に被膜を形成し、膜厚計(例えばデュアルスコープFMP100 フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて膜厚を計測することにより求めることができる。
【0019】
多孔質材料が多孔質粒子7である場合、その粒子径11は、被膜の平均膜厚9よりも大きいことが好ましく、少なくとも粒子径11の平均、すなわち平均粒子径が、被膜の平均膜厚9よりも大きいことが好ましい。平均粒子径が、被膜の平均膜厚9よりも大きいことにより、容易に多孔質粒子7の一部を被膜から露出させることができる。
【0020】
非晶質フッ素樹脂としては、実質的に結晶性を示さない、アモルファスのフッ素樹脂であればよい。非晶質フッ素樹脂としては、ガラス転移点(Tg)が100℃以上であることが好ましい。また、非晶質フッ素樹脂としては、ガラス転移点が100℃未満のフッ素樹脂や、フッ素ゴムを架橋し、耐熱性を向上させたものを用いることもできる。
【0021】
非晶質フッ素樹脂としては、例えば下記一般式(1)で表される構造を有する樹脂が挙げられる。
【0022】
【0023】
一般式(1)において、x及びyは、x+yを1とした際の、括弧内の各構成単位の割合であり、xは0を超えて1未満であり、yは0を超えて1未満である。
【0024】
非晶質フッ素樹脂としては、市販品を用いてもよく、市販品としては例えば、デュポン社のTeflon(登録商標)AF1600、AF2600、ソルベイ社のHyflon AD60、AD80、旭硝子社のサイトップ(Cytop(登録商標))CTL-801NMX等が挙げられる。
【0025】
多孔質材料としては、多孔質粒子を含むことが好ましい。多孔質粒子の形状としては特に制限はないが、例えば、球状、略球状、塊状、柱状、フレーク状等が挙げられ、被膜からの脱落が起こり辛い、球状、略球状が好ましい。
【0026】
多孔質粒子としては、平均粒子径が15μm以下であることが好ましい。平均粒子径が15μm以下であると、被膜からの脱落が起きづらいため好ましい。平均粒子径は、各多孔質粒子の粒子径(
図1の11)の平均を意味し、例えばマイクロスコープVHX-8000(キーエンス社製)及びその解析ソフトを用いて、平均粒子径を計測することができる。多孔質粒子の平均粒子径は、被膜の平均膜厚によっても異なり、通常は被膜の平均膜厚を超える。多孔質粒子の平均粒子径が、被膜の平均膜厚を超えることにより、安定的に多孔質材料の一部が被膜表面から露出、言い換えると突出する。多孔質粒子としては、平均粒子径が1.5~14μmであることが好ましく、2~13μmであることがより好ましい。また、多孔質粒子の平均粒子径としては、(被膜の平均膜厚+0.5μm)~(被膜の平均膜厚+4μm)であることが好ましい態様の一つであり、(被膜の平均膜厚+0.7μm)~(被膜の平均膜厚+3μm)であることがより好ましい態様の一つである。平均粒子径が前記範囲であると、被膜からの脱落が起こり辛く、且つ優れた撥油性能を示すため好ましい。
【0027】
多孔質粒子としては、前述の非晶質フッ素樹脂と比べて、油に対するなじみ性を有する物質であることが好ましく、例えばシリカ粒子及びアルミナ粒子から選択される少なくとも1種の多孔質粒子を含むことが優れた撥油性能を示す観点からより好ましく、シリカ粒子であることが特に好ましい。
【0028】
前記非晶質フッ素樹脂及び前記多孔質材料の合計体積を100vol%とした際、多孔質材料の体積が、5~50vol%であることが好ましく、10~30vol%であることがより好ましい。なお、体積を前記範囲とするためには、被膜を形成する際に用いる材料の使用量を適宜調整することにより達成することができる。なお、前記多孔質材料の体積は、被膜表面から露出している部分の体積を含めた体積である。前記範囲内では非晶質フッ素樹脂の撥油性能と、多孔質材料の存在に起因する表面張力の不均一性が十分に得られるため好ましい。
【0029】
被膜は前述の非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料を含むが、非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料のみから形成されていてもよく、非晶質フッ素樹脂及び多孔質材料以外の材料を含んでいてもよい。
【0030】
本実施形態に係るトランスミッションケースを製造する方法としては、特に制限はないが、例えば、非晶質フッ素樹脂を溶媒、例えばフッ素溶媒に溶解した溶液に多孔質粒子を添加し、多孔質粒子が添加された溶液を、被膜が形成されていないトランスミッションケースの内表面の少なくとも一部に、スプレー塗装等の塗布方法により塗布し、適宜乾燥や、焼成を行い、被膜を形成する方法が挙げられる。
【0031】
フッ素溶媒とは、フッ素原子を含む有機溶媒であり、例えば、パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の含フッ素芳香族炭化水素類、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン等の含フッ素アルキルアミン類、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロ-2,7-ジメチルオクタン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1H-1,1-ジクロロパーフルオロプロパン、1H-1,3-ジクロロパーフルオロプロパン、1H-パーフルオロブタン、2H,3H-パーフルオロペンタン、3H,4H-パーフルオロ-2-メチルペンタン、2H,3H-パーフルオロ-2-メチルペンタン、パーフルオロ-1,2-ジメチルヘキサン、パーフルオロ-1,3-ジメチルヘキサン、1H-パーフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H-パーフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタン、1H-パーフルオロオクタン、1H-パーフルオロデカン、1H,1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカン等の含フッ素脂肪族炭化水素類、パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ-1,3,5-トリメチルシクロヘキサン等の含フッ素脂環族炭化水素類、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン、パーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン等の含フッ素エーテルが挙げられ、有機溶媒としては一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0032】
本実施形態に係るトランスミッションは、前述の本実施形態のトランスミッションケースを含んでいればよく、それ以外の構成については、特に制限はない。トランスミッションケース以外の構成、例えばギヤ類としては、従来公知の物を始め特に制限はない。本実施形態に係るトランスミッションは、前述のトランスミッションケースを含むため、トランスミッションケースの内表面の撥油性能に優れる。このため、本実施形態に係るトランスミッションは、トランスミッションケースの内表面に油(潤滑油)が付着することを抑制し、トランスミッションケース内に飛び散った油をトランスミッションケース内の下部に落とすことができ、必要な油量を低減することができる。また、本実施形態に係るトランスミッションは、必要な油量を低減することができるため、軽量化や引きずり損失の低減が可能であり、このため燃費向上にも寄与し、別の観点としてはコスト低減にも寄与することができる。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0034】
[実施例]
デュポン社のTeflon(登録商標)AF1600を住友スリーエム社製フッ素溶媒FC-40で、Teflon(登録商標)AF1600の濃度が6wt%となるように希釈し、更にフッ素溶媒FC-40で、Teflon(登録商標)AF1600の濃度が3wt%となるように希釈し、溶液を調製した。
【0035】
調製した溶液に、AGCエスアイテック社のサンフェアHシリーズ(多孔質シリカ粒子)(親油材料)を表1に記載の量添加し、多孔質シリカが添加された溶液を基材(ADC12)にスプレー塗装した。溶液が塗装された基材を、80℃で30分乾燥後、昇温し165℃で60分焼成し、被膜の平均膜厚が2~10μmである、多孔質シリカ粒子及び非晶質フッ素樹脂を含有する被膜を形成した。
【0036】
多孔質シリカ粒子であるサンフェアHシリーズとしては、サンフェアH32(平均粒子径3μm)、H52(平均粒子径5μm)、H122(平均粒子径12μm)を使用した。平均粒子径はマイクロスコープVHX-8000(キーエンス社製)及びその解析ソフトを用いて計測した。
【0037】
[比較例1]
サンフェアHシリーズを使用しない以外は、実施例と同様に行い、被膜を形成した。
【0038】
[比較例2]
ダイキン社製のポリフロンPTFE L-5(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)(晶質)粒子を、少量の樹脂バインダー(ポリアミドイミド樹脂:PAI樹脂)で固定(PTFE粒子80vol%/PAI樹脂20vol%)し、その複合組成物をN-メチルピロリドン及びキシレンの複合溶媒に溶解及び混合攪拌し、そこにサンフェアH52を10vol%添加した溶液を、実施例と同様に基材にスプレー塗布後、乾燥、焼成して被膜を形成した。
【0039】
[比較例3]
サンフェアH52を使用しない以外は、比較例2と同様に行い、被膜を形成した。
実施例、比較例を表1にまとめる。なお、各実施例、比較例における被膜の厚さ(平均膜厚)は、膜厚計(デュアルスコープFMP100 フィッシャー・インストルメンツ社製)によって測定した。
【0040】
【0041】
[撥油性能評価]
実施例、比較例で得た基材上に形成された被膜の撥油性能評価を、以下の方法で行った。
【0042】
撥油性能は、全自動滑落接触角計DMo-901SA(協和界面科学株式会社)を使用して、被膜面上での供試油の動き始め易さ及び供試油の動き易さの2観点で評価を実施した。
【0043】
具体的には、前記全自動滑落接触角計のテーブル上に試験片(被膜が形成された基材)を置き、静置した状態で、供試油を規定量(30μL)試験片の被膜上にマイクロピペットで配置した。
【0044】
テーブルを水平位置から0.5°/秒で傾斜させた時の供試油(油滴)が動き始めた傾斜角度(テーブル角度)で動き始め易さを評価した。
【0045】
また、動き始めた傾斜角度でテーブル傾斜角を固定して、供試油(油滴)が試験片上を10mm移動するのに要する時間を計測して、動き易さ(移動速度に該当)を評価した。
【0046】
なお、撥油性能評価は以下の条件で実施した。
・供試油:トヨタ純正ATF WS
・供試油量:30μL
・試験温度:25℃
【0047】
各実施例、比較例の供試油が動き始めた傾斜角度及び供試油が試験片上を10mm移動するのに要する時間を、比較例1を1.00とした相対値で評価したものを、表2及び
図2、3に示す。
【0048】
【0049】
実施例、比較例より、実施例の被膜は、供試油の動き始めのテーブル角度が比較例の被膜よりも小さく、且つ移動に要した時間も比較例の被膜よりも短いことが確認された。実施例の被膜は、従来技術の一態様に相当する比較例1の被膜と比較すると、2倍以上動きやすく、且つ表面に残り辛いこと、すなわち、良好な撥油性能を示すことが確認された。
【0050】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0051】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。