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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190915
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/06 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
F16H25/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099446
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB32
3J062AC01
3J062BA11
3J062BA15
3J062BA25
3J062BA31
3J062CC04
3J062CC34
(57)【要約】
【課題】動力伝達装置内部のバックラッシを低コストに低減させる。
【解決手段】減速装置1は、軸方向両側の側面に第1の転動体係合溝13を有する入力部材10と、第2の転動体係合溝16を有する一対の固定部材5と、第1の転動体係合溝13と第2の転動体係合溝16に係合する複数のボール4と、複数のボール4を周方向に保持する複数のポケット17を有する一対の出力部材31,32とを備える。第1の転動体係合溝13は、回転中心Xから偏心した曲率中心を有する円に沿って形成される。第2の転動体係合溝16は、回転中心X上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成される。一対の出力部材31,32の間に、両出力部材31,32に円周方向の弾性力を付与する弾性部材35を介在させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置であって、
軸方向両側の側面に第1の転動体係合溝を有する第1部材と、前記第1部材の軸方向両側に設けられ、それぞれ第2の転動体係合溝を有する一対の第2部材と、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、軸方向に対向する前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝に係合する複数のボールと、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、前記複数のボールを周方向に保持する複数のポケットを有する一対の第3部材とを備え、
前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝のうちの一方が、前記入力回転部及び前記出力回転部の回転中心から偏心した曲率中心を有する円に沿って形成され、前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝のうちの他方が、前記回転中心上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成され、
前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの何れかが前記入力回転部に設けられ、前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの他の何れかが前記出力回転部に設けられ、
前記一対の第3部材の間に、両第3部材に円周方向の弾性力を付与する弾性部材を介在させたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記トルク伝達部の前記弾性部材の弾性力を、最大トルクを伝達する際に前記一対の第3部材の一方に対する他方の円周方向位置が変化しない大きさに設定した請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記弾性部材を金属材料で形成した請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記弾性部材を樹脂材料で形成した請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1部材を回転可能に支持する軸受を有する請求項1~4の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記第1部材を前記入力回転部に設け、前記一対の第3部材を前記出力回転部に設け、前記一対の第2部材を固定部材とした請求項1~5の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記一対の第2部材が同一形状である請求項1~6の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記一対の第3部材が同一形状である請求項1~7の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達装置の一例として、転動体を介し、軸方向に所定の変速比で回転トルクを伝達する減速装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
図12に示すように、この種の動力伝達装置201は、軸方向両側の側面に第1の転動体係合溝213を有する入力部材210と、入力部材210の軸方向両側に設けられ、第2の転動体係合溝216を有する一対の固定部材205と、入力部材210と一対の固定部材205との軸方向間にそれぞれ設けられ、第1の転動体係合溝213と第2の転動体係合溝216に係合する複数のボール204と、入力部材210と一対の固定部材205との軸方向間にそれぞれ設けられ、複数のボール204を周方向に保持する複数のポケット217が設けられた一対の出力部材231,232とを備える。一対の出力部材231,232は、連結部材233によって連結されている。入力部材210は軸受209を介して入力軸207に対して回転自在に支持される。出力部材231,232は入力軸207に対して軸受211を介して回転自在に支持されている。
【0004】
第1の転動体係合溝213は、回転中心Xから偏心量aで偏心した曲率中心O1を有する円に沿って形成される。第2の転動体係合溝216は、回転中心X上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成される。
【0005】
入力軸207を、回転中心Xを中心として回転させると、入力部材210が、回転中心Xを中心に振れ回り半径aで公転運動を行う。入力部材210が公転運動を行うと、円形の第1の転動体係合溝213に係合する各ボール204が、固定部材205に形成された波形の第2の転動体係合溝216に沿って移動する。このボール204が、出力部材231,232のポケット217と周方向に係合し、これにより生じる接触力が、出力部材231,232を入力軸207と同方向に回転させる力として作用する。この接触力によって、出力部材231,232が一定の減速比で減速されつつ回転中心Xを中心として回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-051572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記減速装置201では、良好な応答性が求められており、良好な応答性を実現するためには、減速装置内部のバックラッシを極力少なくする必要がある。減速装置内部のバックラッシを生じる部分として、ボールとボールを円周方向に保持するポケットとの間の隙間がある。バックラッシを小さくしようとすると、ボールとポケットとの間の隙間を小さくする必要があるが、隙間を小さくするためにはボールとポケットの加工精度を高める必要があり、加工コストが高騰する。また、量産時に部品の加工精度を常に高精度に保つことは一般に困難である。その一方で、ボールとポケットの間の隙間を過度に小さくすると、加工精度のばらつきによりボールとポケットの間が負隙間となる可能性がある。ボールとポケットが負隙間で接触すると、ボールの運動が制限されるため、伝達効率の低下、振動や騒音の発生、あるいは減速装置の寿命低下等の不具合を招く。
【0008】
以上の事情から、本発明は、転動体を介して軸方向に回転トルクを伝達する動力伝達装置において、動力伝達装置内部のバックラッシを低コストに低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係る動力伝達装置は、入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置であって、 軸方向両側の側面に第1の転動体係合溝を有する第1部材と、前記第1部材の軸方向両側に設けられ、それぞれ第2の転動体係合溝を有する一対の第2部材と、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、軸方向に対向する前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝に係合する複数のボールと、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、前記複数のボールを周方向に保持する複数のポケットを有する一対の第3部材とを備える。この減速装置では、 前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝のうちの一方が、前記入力回転部及び前記出力回転部の回転中心から偏心した曲率中心を有する円に沿って形成され、前記第1の転動体係合溝と前記第2の転動体係合溝のうちの他方が、前記回転中心上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成され、 前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの何れかが前記入力回転部に設けられ、前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの他の何れかが前記出力回転部に設けられる。
【0010】
この動力伝達装置において、本発明では、前記一対の第3部材の間に、両第3部材に円周方向の弾性力を付与する弾性部材を介在させている。
【0011】
これにより弾性部材の弾性力を受けた一対の第3部材が互いに逆方向に回転する。その結果、一方の第3部材のポケットに収容されたボールがポケットの円周方向両側の内面のうちの一方に押し付けられ、他方の第3部材のポケットに収容されたボールがポケットの内面の他方に押し付けられる。そのため、その後、入力回転部を正逆方向に回転させる際のバックラッシを低減することができ、その回転開始直後からタイムラグなく第3部材を同方向に回転させることが可能となる。従って、動力伝達装置の応答性を高めることができる。
【0012】
本発明では、この動力伝達装置において、前記トルク伝達部の前記弾性部材の弾性力を、最大トルクを伝達する際に前記一対の第3部材の一方に対する他方の円周方向位置が変化しない大きさに設定することができる。
【0013】
これによりボールとポケットの内面とが常時接触した状態に保持されるため、減速装置の応答性を高めることができる。
【0014】
前記弾性部材は金属材料あるいは樹脂材料で形成することができる。
【0015】
上記の動力伝達装置が第1部材を回転可能に支持する軸受を有する場合、この第1部材を回転自在に支持する軸受は、ラジアル荷重のみを支持するもので足りるため、耐久力を維持しつつ小型化することができる。また、軸受に加わる荷重の方向が限定されることで、軸受内部におけるトルク損失を低減することができる。
【0016】
上記の動力伝達装置は、例えば、第1部材を入力回転部に設け、一対の第3部材を出力回転部に設け、一対の第2部材を固定部材とすることができる。このように、第2部材を固定部材とすることで、ボールと第2の転動体係合溝との間に発生する接触力を固定部材で支持することができるため、この接触力を支持するための大型の軸受が不要となる。また、第3部材を出力回転部に設けることで、ボールと出力回転部(第3部材)のポケットとの間に周方向(回転方向)の接触力のみが生じるため、第3部材を支持する軸受に加わる負荷が軽減されて、軸受サイズを縮小することができると共に、軸受内部におけるトルク損失を低減することができる。
【0017】
上記の動力伝達装置では、第2部材や第3部材がそれぞれ一対ずつ設けられるため、部品数が増えることによるコスト増が懸念される。そこで、一対の第2部材や一対の第3部材をそれぞれ同一形状とずれば、部品を共有することで各部材の製作コストを低減できるため、部品数増によるコスト増を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、第3部材の各ポケットに収容されたボールがポケットの内面に押し付けられる。そのため、その後、入力回転部を正逆方向に回転させる際のバックラッシを低減することができ、その回転開始直後からタイムラグなく第3部材を同方向に回転させることが可能となる。従って、動力伝達装置の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る減速装置の断面図である。
図2】入力部材(第1部材)の正面図である。
図3】固定部材(第2部材)の正面図である。
図4】出力部材(第3部材)の正面図である。
図5図4のV部の拡大図である。
図6】入力部材、出力部材、固定部材、及びボールを模式的に示す分解斜視図である。
図7】ボールに加わる接触力を示す正面図である。
図8図1の減速装置の拡大図である。
図9図1のA-A線で矢視した断面図である。
図10】(a)図は図1のB-B線で矢視した断面図であり、(b)図は(a)図中の領域Sを拡大して示す断面図である。
図11】(a)図は図1のC-C線で矢視した断面図であり、(b)図は(a)図中の領域Tを拡大して示す断面図である。
図12】従来の減速装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る動力伝達装置としての減速装置1は、図1に示すように、入力回転部2と、出力回転部3と、転動体としてのボール4と、固定部材5と、これらを収容するハウジング6とを主に備える。図示例では、ハウジング6が、入力側となる軸方向一方側(図1では左側)に設けられた第1ハウジング部材6aと、出力側となる軸方向他方側(図1では右側)に設けられた第2ハウジング部材6bとで構成される。両ハウジング部材6a,6bは、ボルト23等の適宜の手段により固定される。入力回転部2と出力回転部3とは同軸に配置され、共通の回転中心Xを有する。固定部材5は、ハウジング6に固定されている。
【0022】
入力回転部2は、入力軸7、偏心カム部8、転がり軸受9および入力部材10を有する。入力軸7は、ハウジング6に対して回転中心X周りに回転自在とされる。本実施形態では、出力回転部3の内周面との間に装着された複数の転がり軸受11によって、入力軸7がハウジング6に対して回転自在に支持されている。図示例では、偏心カム部8の軸方向両側に、軸受11がそれぞれ2個ずつ設けられる。入力軸7の外周面と第1ハウジング部材6aの内周面との間には、ハウジング6内に充填されたグリース又は油の漏れだしを防止するためのシール部材21が設けられる。偏心カム部8は入力軸7の外周に設けられ、図示例では入力軸7と一体に設けられている。偏心カム部8の円筒形外周面8aの中心線O1(図9参照)は、回転中心Xに対して偏心量aだけ半径方向に偏心している。入力部材10は略円盤状を成し、入力部材10の中心線は、偏心カム部8の円筒形外周面8aの中心線O1と一致している。偏心カム部8の円筒形外周面8aと入力部材10の内周面との間には、転がり軸受9が装着される。これにより、入力部材10が偏心カム部8に対して相対回転自在とされる。
【0023】
固定部材5は、入力部材10の軸方向両側に設けられる。固定部材5は環状を成し、図示例では両固定部材5が同一材料で同一形状に形成される。各固定部材5は、適宜の手段によりハウジング6に固定される。図示例では、固定部材5のハウジング6に対する周方向移動を規制する規制部材24が設けられる。規制部材24は、各ハウジング部材6a,6bの内周面及び各固定部材5の外周面に設けられたキー溝に装着され、これらと周方向で係合することで、固定部材5のハウジング6に対する周方向移動を規制している。
【0024】
入力部材10と各固定部材5とは、所定の間隔で軸方向に並べて配置される。入力部材10の軸方向両側の側面には、それぞれ第1の転動体係合溝13が形成される。各固定部材5には、それぞれ第1の転動体係合溝13と軸方向で対向する第2の転動体係合溝16が形成される。すなわち、本実施形態では、第1の転動体係合溝13を有する第1部材が入力部材10として入力回転部2に設けられ、第2の転動体係合溝16を有する第2部材が固定部材5とされる。
【0025】
図2に示すように、入力部材10に形成された第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1は、半径rの円形に形成される。第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1の曲率中心は、偏心カム部8の円筒形外周面8aおよび入力部材10の中心線O1と一致する。すなわち、軌道中心線L1の曲率中心(すなわち中心線O1)は、入力回転部2の回転中心Xに対して偏心量aだけ偏心している。この第1の転動体係合溝13と係合することにより、各ボール4が、周方向(軌道中心線L1に沿う方向)に移動可能な状態で所定の半径方向位置に保持される。尚、第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1とは、第1の転動体係合溝13に沿ってボール4を移動させたときのボール4の中心の軌跡を意味する。
【0026】
図3に示すように、固定部材5に形成された第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2は、回転中心X上に曲率中心を有する基準ピッチ円Cに対して一定のピッチで交互に交差する波状曲線で形成される。すなわち、第2の転動体係合溝16は、回転中心Xとの距離
Rが基準ピッチ円半径PCRに対して増減変動する波状曲線で形成される。本実施形態では、軌道中心線L2の波状曲線に、回転中心Xとの距離Rが基準ピッチ円半径PCRより大きい山部が10個、回転中心Xとの距離Rが基準ピッチ円半径PCRより小さい谷部が10個設けられる。両固定部材5に形成される第2の転動体係合溝16は、同じ形状を有し、且つ同じ位相となるように配される。尚、第2の転動体係合溝16の軌道中心線とは、第2の転動体係合溝16に沿ってボール4を移動させたときのボール4の中心の軌跡を意味する。
【0027】
図1に示すように、出力回転部3は、入力部材10の軸方向一方側(図中左側)に設けられた第1出力部材31と、入力部材10の軸方向他方側(図中右側)に設けられた第2出力部材32と、第1出力部材31と第2出力部材32との間に配置された弾性部材35とを有する。第1出力部材31は、円筒状の軸部31aと、軸部31aから外径側に延びる円盤部31bとを有する。第2出力部材32は、出力軸として機能する軸部32aと、軸部32aから外径側に延びる円盤部32bとを有する。第2出力部材32の軸部32aは、円筒部32a1と、円筒部32a1の開口部を閉塞する蓋部32a2とを有する。蓋部32a2には、減速された回転を伝達すべき他の部材を連結するための連結部が設けられる。図示例では、第1出力部材31の軸部31a及び円盤部31bが一体成形され、第2出力部材32の軸部32a及び円盤部32bが一体成形される。
【0028】
出力回転部3は、ハウジング6に対して回転中心X周りに回転自在とされる。本実施形態では、後で述べる弾性部材35を介して両出力部材31,32が一体に回転可能とされる。具体的には、第1出力部材31の軸部31aの外周面と軸方向一方側の固定部材5の内周面との間に装着された転がり軸受14と、第2出力部材32の軸部32aの外周面と軸方向他方側の固定部材5の内周面との間に装着された転がり軸受15とで、出力回転部3がハウジング6に対して一体に回転自在に支持されている。第2出力部材32の軸部32aの外周面と第2ハウジング部材6bの内周面との間には、ハウジング6内に充填されたグリース又は油の漏れだしを防止するためのシール部材22が設けられる。
【0029】
第1出力部材31の円盤部31b及び第2出力部材32の円盤部32bには、それぞれボール4を保持する複数のポケット17が形成される。すなわち、本実施形態では、ポケット17を有する一対の第3部材が出力部材31,32として出力回転部3に設けられる。ポケット17は、図4に示すように、両出力部材31,32の回転中心Xを中心に径方向に放射状に延びる長穴で形成されている。ポケット17は、同一円周上で周方向等間隔に形成される。本実施形態では、両出力部材31,32に設けられたポケット17が、軸方向と直交する面内で同じ位置に設けられ、各ポケット17にボール4が1個ずつ配置されている。各出力部材31,32に形成されるポケット17の個数(すなわち、各出力部材31,32と入力部材10との間に配されるボール4の個数)は、軌道中心線L2の波状曲線の山部又は谷部の個数(10個)より1個多い11個である。
【0030】
図5に示すように、ボール4は、各ポケット17内で、基準ピッチ円Cを中心として半径方向に所定量mの範囲で移動することができる。本実施形態では、各ポケット17の周壁に、周方向に対向する一対の平行な平坦面17aが設けられ、この平坦面17aの周方向間隔が、ボール4の外径と略同等(僅かに大径)とされる。これにより、各ボール4が、各ポケット17により、半径方向移動可能な状態で所定の周方向位置に保持される。
【0031】
図6に示すように、入力部材10と両出力部材31,32とは共通の回転中心Xを有し、この回転中心X上に両固定部材5の軸心が配置されている。入力部材10の中心軸O1(すなわち、第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1の曲率中心)は、回転中心Xに対して偏心量aだけ偏心している。各出力部材31,32のポケット17内に配置されたボール4が、ポケット17から軸方向両側に突出した状態となり、この突出部分が入力部材10の第1の転動体係合溝13及び固定部材5の第2の転動体係合溝16に係合する(図1参照)。尚、図6では、概念的構成を示す図4と異なり、ポケット17を、各出力部材31,32の外周面に開口していない長穴としている。
【0032】
本実施形態の減速装置1では、第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2の山部の個数が10個(谷部の個数も同様に10個)で、ボール4の個数が11個であるので、次式により求められる減速比iは1/11となる。
減速比i=(ボール個数-山部の個数)/ボールの個数
なお、山部の個数はボールの個数±1とされ、減速比iがマイナスの値となる場合は、入力回転部2の回転方向に対して出力回転部3の回転方向が逆であることを意味する。
【0033】
第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2の形状は、入力回転部2から出力回転部3に減速された回転運動が同期回転で伝達されるように設定される。具体的に、減速装置1の減速比をiとしたとき、入力軸7の回転角θにおいて、出力回転部3が回転角iθの状態で、第1の転動体係合溝13に係合したボール4が第2の転動体係合溝16に係合してトルクを伝達するように、第2の転動体係合溝16の形状が設定される。詳しくは、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xと第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離Rが下記の式(1)を満たすように、第2の転動体係合溝16の形状が設定される。
R=a・cos(ψ/i)+√{r2-(a・sin(ψ/i))2}・・・(1)
但し、
R:回転中心Xと第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離
a:回転中心Xに対する第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1の中心O1の偏心量
i:減速比
ψ:出力回転部3の回転角
r:第1の転動体係合溝13の軌道中心線L1の半径
【0034】
入力部材10、両出力部材31,32、及び両固定部材5のうち、少なくともボール4と接触する第1の転動体係合溝13の側壁、第2の転動体係合溝16の側壁、及びポケット17の周壁は、ボール4との表面硬度差による摩耗を低減するために、ボール4の表面と同程度の表面硬度を付与することが好ましい。例えば、第1の転動体係合溝13の側壁、第2の転動体係合溝16の側壁、及びポケット17の周壁の表面硬度を、HRC50~60の範囲内とすることが好ましい。具体的には、入力部材10、出力部材31,32、及び固定部材5を、S45CやS50Cなどの機械構造用炭素鋼や、SCM415やSCM420などの機械構造用合金鋼を用いて形成し、これに全体熱処理又は浸炭熱処理を行うことで、上記の表面硬度を得ることができる。あるいは、上記の各部材を、SUJ2などの軸受鋼を用いて形成し、これに全体熱処理又は高周波熱処理を行うことでも、上記の表面硬度を得ることができる。
【0035】
次に、本実施形態の減速装置1の動作を要約して説明する。図1に示す入力回転部2の入力軸7を回転させると、入力部材10が、回転中心Xを中心に振れ回り半径aで公転運動を行う。その際、入力部材10は、入力軸7に設けられた偏心カム部8に対して回転自在であるので、自転運動をほとんど行わない。これにより、第1の転動体係合溝13とボール4との間の相対的な摩擦量が低減され、回転トルクの伝達効率が高められる。
【0036】
入力部材10が公転運動を行うと、円形の第1の転動体係合溝13に係合する各ボール4が、固定部材5に形成された第2の転動体係合溝16に沿って移動する。詳しくは、入力部材10の中心線O1が図4に示す位置から矢印方向に公転すると、図7に示すように、入力部材10に形成された第1の転動体係合溝13がボール4に係合して、各ボール4に略上向きの接触力F1が作用する。このボール4が、第2の転動体係合溝16と係合することで、第2の転動体係合溝16にボール4との接触力F2’が作用すると同時に、ボール4に、第2の転動体係合溝16との接触による接触力F2が作用する。この接触力F2の周方向成分F2aにより、ボール4が第2の転動体係合溝16に沿って周方向に移動する。このボール4が、出力回転部3のポケット17と周方向に係合し、これにより生じる接触力F3’が、出力回転部3を入力軸7と同方向に回転させる力として作用する(図4参照)。
【0037】
出力回転部3を回転させる力(すなわち、ボール4から各出力部材31,32のポケット17に作用する接触力F3’≒ボール4が第2の転動体係合溝16から受ける接触力F2の周方向成分F2a)は、ボール4と波形の第2の転動体係合溝16との接触状態によって変化するため、各々のボール4の位置によって大きさが異なる(図4参照)。ボール4は、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xを中心として配置されているため、出力回転部3を回転させる力は、回転中心Xを中心に分布される。具体的に、波形の第2の転動体係合溝16のうち、山部の頂部と谷部の頂部との中央付近(回転中心Xを中心としたピッチ円に対する傾斜角度が大きい部位)に接触する図中上下両端のボール4は、出力回転部3を回転させる力が大きく、波形の第2の転動体係合溝16の山部の頂部又は谷部の頂部付近(回転中心Xを中心としたピッチ円に対する傾斜角度が小さい部位)に接触する図中左右両端のボール4は、出力回転部3を回転させる力が小さい。
【0038】
上記の減速装置1では、入力部材10を中心として、一対の固定部材5、一対の出力部材31,32、及び複数のボール4をそれぞれ軸方向対称に配置している。これにより、図8に示すように、入力部材10は、軸方向両側に設けられたボール4から接触力F1’を受け、この接触力F1’のアキシャル成分F1a’が相殺される。これにより、入力部材10を支持する軸受9や、入力軸7を支持する軸受11(図1参照)にアキシャル方向の負荷が伝達されないため、軸受9,11を小型化し、ひいては減速装置1を小型化することができる。また、軸受9,11に加わる荷重の方向が限定されることで、軸受内部におけるトルク損失が低減され、減速装置1のトルク伝達効率が高められる。
【0039】
また、上記の減速装置1では、ボール4と第2の転動体係合溝16との接触力F2’が、ハウジング6に固定された固定部材5で支持されるため、この接触力F2’を支持する大型の軸受が不要となる。また、ボール4が、半径方向に往復動しながらポケット17と回転方向で係合することで、ボール4から出力回転部3に回転方向の接触力F3’のみが加わる。このように、接触力F3’の方向が回転方向に限定されることで、出力回転部3を支持する軸受14,15を小型化して減速装置1の小型化が図られると共に、軸受内部におけるトルク損失が低減され、減速装置1のトルク伝達効率が高められる。
【0040】
上記のように、トルク伝達時には、各出力部材31,32の円盤部31b,32bのうち、ポケット17間に設けられた柱部に、ボール4との接触による周方向の接触力F3’が加わる。従って、円盤部31b,32bのポケット17間に設けられた柱部が、ボール4から受ける接触力F3’により損傷することが懸念される。特に、減速比を大きくするためにポケット17の数(すなわちボール4の数)を多くすると、ポケット17間の柱部の周方向幅が細くなるため、ボール4との接触力F3’により柱部が損傷する懸念が高まる。
【0041】
この点に関し、本実施形態では、図4に示すように、回転中心Xよりも上側のボール4だけでなく、回転中心Xよりも下側のボール4にもポケット17との接触力F3’が作用し、トルク伝達に寄与する。このため、例えば回転中心Xよりも上側のボール4だけでトルク伝達を行う場合と比べて、各ボール4から円盤部31b,32bに加わる接触力F3’が分散されるため、円盤部31b,32bの各柱部に加わる荷重が軽減される。特に、本実施形態では、入力部材10の両側に出力部材31,32を設けることで、ボール4と出力部材31,32との接触点が増えるため、各接触点における荷重をさらに軽減できる。さらに、本実施形態では、上述のように、円盤部31b,32bの材料選択や熱処理により、ポケット17の周壁の表面硬度をHRC50以上まで高めている。以上により、各出力部材31,32のポケット17間の柱部の耐久性が高められ、あるいは、柱部の耐久性を維持しながら負荷容量を高めることができる。
【0042】
こうして、入力回転部2の入力軸7に入力された回転が、ボール4を介して出力回転部3に伝達される。その際、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xと第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離Rが上記の式(1)を満たすように、第2の転動体係合溝16の軌道中心線L2が設計されていることで、出力回転部3は入力軸7に対して減速された回転数で常に同期して回転する。
【0043】
次に、以上に述べた減速装置1における特徴的構成を説明する。
【0044】
この減速装置1では、図6に示すように、軸方向一方側の出力部材31に、軸方向他方側の出力部材32に向けて軸方向に突出する突出部31cが設けられている。また、軸方向他方側の出力部材12に、軸方向一方側の出力部材31に向けて軸方向に突出する突出部32cが設けられている。突出部31c,32cは、円盤部31b、32bの外周縁部に形成され、その内周面および外周面は円筒面状に形成されている。突出部31c、32cは、円周方向で180°よりも僅かに狭い範囲に形成される。図9に示すように、出力部材31,32は、突出部31c、32cの位置が円周方向で重ならないような位相で配置される。軸方向一方側の出力部材31の突出部31cの円周方向の両端面31c1は、軸方向他方側の出力部材32の突出部32cの円周方向の両端面32c1と円周方向で対向し、両端面31c1,32c1間に円周方向の隙間P,Qが形成される。この隙間P,Qは、円周方向で180°離れた位置に形成される。
【0045】
円周方向で対向する端面31c1,32c1間の二つの隙間P,Qのうち、何れか一方の隙間Pに圧縮状態の弾性部材35が配置される。一対の出力部材31,32の間でのトルク伝達は弾性部材35を介して行われる。弾性部材35の材質や形態は、必要な弾性力が得られ、かつ前記トルク伝達が可能となる程度の強度を有する限り任意に選択することができる。弾性部材35は、金属材料や樹脂材料で形成することができ、例えば金属製のばねや中実に形成された樹脂組成物等が弾性部材35として使用可能である。
【0046】
出力部材31,32は、既に述べたように、軸受11で入力回転部2に対して回転自在に支持され、軸受14,15で固定部材5に対して回転自在に支持されている。従って、図9の例では、弾性部材35の弾性力を受けた出力部材31,32は、図中の上側の隙間Pの間隔が拡大し、下側の隙間Qが縮小する方向に回転する。これに伴い、図10(a)および図11(a)に示すように、軸方向一方側の出力部材31が図中の反時計回りの方向Z1に回転し、軸方向他方側の出力部材32が図中の時計回りの方向Z2に回転する。
【0047】
その結果、図10(b)に示すように、軸方向一方側の出力部材31のポケット17に収容されたボール4は、ポケット17の円周方向両側の平坦面17aのうち、時計回り方向に位置する平坦面17a1に押し付けられる。また、図11(b)に示すように、軸方向他方側の出力部材32のポケット17に収容されたボール4は、ポケット17の円周方向両側の平坦面17aのうち、反時計回り方向に位置する平坦面17a2に押し付けられる。
【0048】
これにより、ポケット17をボール4の径よりも大きい幅で形成していても、出力部材31,32とボール4間のガタを正逆両回転方向でなくすことができる。そのため、その後、入力回転部2を正逆方向に回転させる際のバックラッシを低減することができ、その回転開始直後からタイムラグなく出力部材31,32を同方向に回転させることができる。そのため、減速装置1の応答性を高めることができ、本実施形態の減速装置1を例えばロボットアームの関節部に使用する場合にも良好な応答特性を得ることが可能となる。また、ポケット17をボール4の径よりも大きい幅で形成しても応答性に問題を生じないため、ポケット7の加工精度を極端に高精度化する必要がない。従って、出力部材の製造コストの低廉化を図ることができる。ポケット17をボール4の径よりも大きい幅で形成することで、加工精度のばらつきによりポケットとボールの間が負隙間となる事態を防止することができる。
【0049】
ボール4がポケット17の平坦面17a1,17a2に常時押し付けられるように、弾性部材35の弾性力は、最大トルクの伝達中に二つの出力部材31,32間に作用する回転方向の力よりも大きく設定するのが好ましい。言い換えれば、弾性部材35の弾性力は、最大トルクを伝達する際に、一対の第3部材31,32の一方に対する他方の円周方向位置が変化しない大きさに設定するのが好ましい。
【0050】
なお、以上の説明では、弾性部材35を圧縮させた状態で隙間Pに配置する場合を例示したが、弾性部材35を伸長させた状態で隙間Pに配置しても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0051】
本発明の実施形態は上記に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については説明を省略する。
【0052】
上記の実施形態では、円形の第1の転動体係合溝13が全周で連続している場合を示したが、これに限らず、第1の転動体係合溝13を、例えば、円形の軌道中心線L1に沿って形成された複数(例えば転動体と同数)の円弧状の溝で構成してもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、入力部材10を入力軸7に対して回転自在としたが、入力部材10と入力軸7とを一体に回転する構成としてもよい。また、上記の実施形態では、入力軸7と偏心カム部8とを一体形成した構成を例示したが、これに限らず、入力軸7と偏心カム部8とを別体に形成し、入力軸7の外周面に偏心カム部8を固定してもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、第1出力部材31の軸部31a、円盤部31b、突出部31cや、第2出力部材32の軸部32a、円盤部32b、突出部32cをそれぞれ一体形成しているが、これらの部材を別体に形成してもよい。また、第1出力部材31と第2出力部材32とを同一材料で同一形状に形成すれば、これらの製作コストを低減できる。
【0055】
また、上記実施形態では、減速比iの大きさが1/11の減速装置1に本発明を適用した場合を例示したが、これに限らず、本発明は、例えば1/5~1/50の範囲内の任意の大きさの減速比を有する減速装置に好適に適用することができる。この場合は、減速比iに応じて、転動体係合溝の軌道中心線の波状曲線の山部/谷部の数や、固定部材のポケットおよびボールの数を適宜設定すればよい。
【0056】
また、上記の実施形態では、第1の転動体係合溝13を有する第1部材を入力部材10、第2の転動体係合溝16を有する第2部材を固定部材5、ポケット17を有する第3部材を出力部材31,32とした場合を示したが、これに限らず、使用者の要求仕様や使用環境等によって、第1部材、第2部材、及び第3部材を、入力回転部、固定部材、及び出力回転部のそれぞれに適宜割り当てることで、動力伝達形態を任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 減速装置(動力伝達装置)
2 入力回転部
3 出力回転部
4 ボール
5 固定部材(第2部材)
6 ハウジング
7 入力軸
8 偏心カム部
10 入力部材(第1部材)
13 第1の転動体係合溝
16 第2の転動体係合溝
17 ポケット
31,32 出力部材(第3部材)
35 弾性部材
F1,F1’ ボールと第1の転動体係合溝との接触力
F2,F2’ ボールと第2の転動体係合溝との接触力
F3,F3’ ボールとポケットとの接触力
L1 第1の転動体係合溝の軌道中心線
L2 第2の転動体係合溝の軌道中心線
O1 第1の転動体係合溝の軌道中心線の曲率中心(入力部材の中心線)
X 入力回転部及び出力回転部の回転中心
図1
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図12