(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190922
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 129/14 20060101AFI20221220BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221220BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221220BHJP
【FI】
C09D129/14
C09D7/61
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099459
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】501415844
【氏名又は名称】中川 芳▲高▼
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】中川 芳▲高▼
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CE071
4J038HA206
4J038HA566
4J038JA17
4J038JA19
4J038MA06
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA02
4J038NA07
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC09
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】水酸化カルシウムの粉末を含む事で抗菌性および抗ウイルス性を有する塗料の撥水性素地への塗装が可能になる。
【解決手段】塗料は、水酸化カルシウムを含む複数の粒子と、前記複数の粒子が混入した溶液とを有し、前記溶液の溶媒はアルコールを含み、前記溶液の溶質は、ポリビニルブチラールを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムを含む複数の粒子と、
前記複数の粒子が混入した溶液とを有し、
前記溶液の溶媒は、アルコールを含み、
前記溶液の溶質は、ポリビニルブチラールを含む
塗料。
【請求項2】
前記アルコールは、エタノールまたはイソプロパノールであることを
特徴とする請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記複数の粒子は、粉砕した帆立貝の貝殻を焼成し更に水と反応させることで得られる粉体であることを
特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項4】
前記複数の粒子の平均粒径は、0.6μm以下であることを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の粉末(以下、水酸化カルシウム粉と呼ぶ)を含む抗菌および抗ウイルス性の塗料(以下、漆喰塗料と呼ぶ)が注目されている。漆喰塗料は、漆喰を改良した新しい被覆材である。
【0003】
漆喰は、消石灰(すなわち、石灰石を焼成し水と反応させて生成した水酸化カルシウムの粉末)と水を練り合わせ更に、海藻糊と繊維材料(麻、藁、紙等)を混合する事で製造される。漆喰には、流動性に欠けるため塗装には熟練技能を要するという問題がある。この問題を解決するため開発された被覆材が、漆喰塗料である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
漆喰塗料は、消石灰を含む水性組成物に樹脂成分を混合して流動性を高めた被覆材である。流動性に欠ける漆喰の塗装には鏝を用いる熟練技能を要するが、流動性が高い漆喰塗料は、ローラーや刷毛により素地(すなわち、下地)に容易に塗布できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、漆喰塗料は漆喰と同じく水性の被覆材なので、撥水性の素地への塗装が困難であるという問題を有している。そこで本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するために、一つの実施の形態では、塗料は、水酸化カルシウムを含む複数の粒子と、前記複数の粒子が混入した溶液とを有し、前記溶液の溶媒はアルコールを含み、前記溶液の溶質はポリビニルブチラールを含む。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面では、本発明によれば、水酸化カルシウムの粉末を含む事で抗菌性および抗ウイルス性の少なくとも一方を有する塗料の撥水性素地への塗装が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1の塗料2の一例を示す図である
【
図3】
図3は、ポリビニルアルコールの化学構造を示す図である。
【
図4】
図4は、水酸化カルシウム粉24を含む塗膜14の断面図の一例である。
【
図5】
図5は、本発明のPVB塗料および比較例の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。図面が異なっても同じ構造を有する部分等には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
(1)構成
図1は、実施の形態1の塗料2の一例を示す図である。
図1は、塗料2の一部を拡大した部分拡大図である。
【0012】
実施の形態1の塗料2は、複数の粒子4と、複数の粒子4が混入した溶液6とを有する。複数の粒子4はそれぞれが、水酸化カルシウムを含む粒子(以下、水酸化カルシウム粒子と呼ぶ)である。溶液6は、アルコールを含む溶媒と、ポリビニルブチラール(polyvinyl butyral;以下、PVBと 呼ぶ)を含む溶質とを有する。
【0013】
(1-1)複数の粒子4
複数の粒子4は例えば、粉砕した帆立貝の貝殻を高温(例えば、1100~1200℃)で焼成し、更に水と反応させることで得られる粉体(以下、ホタテ貝殻焼成パウダーと呼ぶ)である。ホタテ貝殻焼成パウダーは抗菌作用と抗ウイルス作用に優れ更に、皮膚を殆ど刺激しない安全な素材である。
【0014】
ホタテ貝殻焼成パウダーの安全性に関しては、皮膚刺激指数を評価した結果が報告されている。皮膚刺激指数とは、パッチテストによる皮膚刺激性の評価値である。上記報告によれば、31名による24時間のパッチテストを行ったところ、軽度の紅斑が生じた被験者が1名出ただけで、他の被験者には紅斑や浮腫などの異常は見られなかった。この結果に基づいて算出された皮膚刺激指数は1.61であり、安全品に求められる5.0未満という基準を満たしている。
【0015】
粉砕した帆立貝の貝殻を焼成すると、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等を含む粉末が生成される。この粉末に水を加えると、酸化カルシウムが水と反応して水酸化カルシウムに変化する。その結果、水酸化カルシウムを主成分とするホタテ貝殻焼成パウダーが生成される。
【0016】
水酸化カルシウムは、水溶液が強いアルカリ性を示す化合物である。この様な化合物を含むホタテ貝殻焼成パウダーが、低い皮膚刺激性を示す理由は現時点では不明である。
【0017】
帆立貝の貝殻は、炭酸カルシウムの結晶と連続した少量の有機物を含む複雑な葉状構造を有している。従って、帆立貝の貝殻から生成されるホタテ貝殻焼成パウダーは、純粋な水酸化カルシウム微粒子の集合体ではなく、水酸化カルシウムと水酸化カルシウム以外の微量成分とを含む複雑な立体構造を有する事で、低い皮膚刺激性を示すと考えられる。
【0018】
しかし本発明者の知る限り、ホタテ貝殻焼成パウダーの構造に関しては、水酸化カルシウムを含む微粒子の集合体であると事以外は、殆ど何も解明されていない。
【0019】
なお、塗料2に含まれる複数の粒子4は、ホタテ貝殻焼成パウダーには限られない。複数の粒子4は例えば、化学工業によって生産された水酸化カルシウムの粒子や消石灰であっても良い。或いは複数の粒子4は、ホタテ貝以外の貝(例えば、牡蠣)、珊瑚、卵の殻、動物の骨等を原料として製造されるものであっても良い。
【0020】
(1-2)溶液6
(1-2-1)溶媒
溶液6の溶媒は好ましくは、常温(すなわち、15~30℃)で液体のアルコール(以下、液体アルコールと呼ぶ)である。液体アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール、およびベンジルアルコール等が挙げられる。更に好ましくは、溶液6の媒質は、エタノールまたはイソプロパノール(すなわち、イソプロピルアルコール)である。エタノールおよびイソプロパノールは、人体に無害で取り扱いが容易な有機溶媒である。
【0021】
溶液6の溶媒は、互いに異なる液体アルコールの混合液であっても良い。例えば溶液6の媒質は、エタノールとプロパノール(例えば、ノルマル‐プロピルアルコール)の混合液であっても良い。
【0022】
(1-2-2)溶質
溶液6の溶質は、PVBである。PVBは、液体アルコールに良く溶ける合成樹脂である。実施の形態1の塗料2(以下、PVB塗料と呼ぶ)は、液体アルコール(溶媒)と液体アルコールに溶けたPVB(溶質)とを含む塗料である。
【0023】
PVBは、強靭性、柔軟性、疎水性および接着性を有する合成樹脂である。PVBは例えば、合わせガラス(自動車のフロントガラス等)の中間膜に用いられる。中間膜は、合わせガラスに含まれる2枚のガラスを貼り合わせて、これら2枚のガラスが衝撃を受けて砕けても、粉々に飛び散らないようにする。
【0024】
図2は、PVBの化学構造を示す図である。ここでl,m,nは、1以上の整数である。PVBは例えば、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒド(C
3H
7CHO)とを反応させることで製造される。
【0025】
図3は、ポリビニルアルコールの化学構造を示す図である。PVBの生成反応では、ポリビニルアルコールの水酸基8(
図3参照)とブチルアルデヒドのホルミル基(-CHO)が反応して、ブチラール基10(
図2参照)が生成される。但し、ポリビニルアルコールの水酸基8の全てがホルミル基(-CHO)と反応する訳ではなく、ポリビニルアルコールの水酸基8の一部はそのまま残される。
【0026】
また、ポリビニルアルコールはケン化という化学反応により生成されるがその際、少量のアセチル基12が残される。従ってPVBはブチラール基10に加え、水酸基8とアセチル基12とを有する。
【0027】
PVBは水酸基8を有するので、ガラス、金属、セラミックス、植物性粉粒体によく接着する。ブチラール基10はPVBに、柔軟性を与える。アセチル基12はPVBに、疎水性と強靭性を与える。
【0028】
(2)製造方法
実施の形態1の塗料2は例えば、3段階の工程により製造することができる。先ず、液体アルコール(例えば、エタノールまたはイソプロパノール)にPVBを溶かして、溶液6(以下、PVB溶液と呼ぶ)を生成する。次に、生成されたPVB溶液6に水酸化カルシウム粉(例えば、ホタテ貝殻焼成パウダー)を投入する。
【0029】
最後に、水酸化カルシウム粉が投入されたPVB溶液を攪拌して、水酸化カルシウム粉をPVB溶液に分散させる。
図1を参照して説明した複数の粒子4は、2番目の工程でPVB溶液に投入され3番目の工程によりPVB塗料に分散された水酸化カルシウム粉である。PVB溶液に投入される水酸化カルシウム粉は、乾燥した粉末でも良いし、液体アルコールと混合された粉末であっても良い。
【0030】
攪拌後しばらくすると、PVB塗料内の水酸化カルシウム粉の分布が不均一になる事がある。このような場合には、塗装前にPVB塗料を再度攪拌することが好ましい。
【0031】
(3)塗装、素地
実施の形態1のPVB塗料2は、刷毛塗り、ローラー塗装、およびスプレー塗装等の熟練技能を要しない方法で、洋紙、和紙、ダンボール等の紙類、セメント、コンクリート、モルタル、石膏等の無機材料に塗装できる。実施の形態1のPVB塗料2は更に、上記熟練技能を要しない方法で、木材、合成樹脂、不織布、布帛、繊維等の有機材料および有機無機複合材に塗装することができる。実施の形態1のPVB塗料2は更に、上記熟練技能を要しない方法で、漆喰塗料および漆喰の塗装が困難なガラス、金属、プラスティック、合成皮革等の撥水性の材料にも塗装できる。なお「塗装」とは、塗料等の被覆材を素地に塗ること(すなわち、塗布すること)で、素地を被覆する層(すなわち、塗膜)を形成することである。
【0032】
漆喰塗料や漆喰は水性なので、撥水性の材料への塗装は困難である。これに対して、PVB塗料2の溶媒に含まれるアルコールは親水性の材料だけでなく撥水性の材料にも良く濡れるので、実施の形態1のPVB塗料2は、撥水性の素地にも容易に塗装できる。
【0033】
素地に塗布されたPVB塗料からアルコールが気化すると、水酸化カルシウム粉を含む塗膜(以下、PVB塗膜と呼ぶ)が現れる。PVBはガラスや金属等の撥水性材料に良く接着するので、この点もPVB塗料2の撥水性材料への塗装を容易にする。
【0034】
付言するならば、漆喰塗料を紙類に塗布すると、塗布された紙類が漆喰塗料の水分を吸収して膨潤してしまうことがある。PVB塗料2の液体部分はアルコールなので、この様な問題を生じさせない。
【0035】
更に付言するならば、PVB塗膜の基質(すなわち、マトリックス)は接着性が高いPVBなので、水酸化カルシウム粉(すなわち、複数の粒子4)はPVBによって強く固定され、PVB塗膜から容易には脱落しない。
【0036】
(4)抗菌性、抗ウイルス性
漆喰や漆喰塗料(以下、漆喰等と呼ぶ)から得られる塗膜が、抗菌性および抗ウイルス性を有することは広く知られている(例えば、特許文献1参照)。漆喰等から得られる塗膜(以下、漆喰等塗膜と呼ぶ)に水が付着すると、付着した水(以下、付着水と呼ぶ)が塗膜中の水酸化カルシウム粒子と反応して強アルカリ性になる。
【0037】
強アルカリ性の水は細菌の増殖を抑制しウイルス(特に、エンベロープウイルス)を不活化するので、漆喰等塗膜は抗菌性および抗ウイルス性を有する。例えば、漆喰等塗膜に付着した飛沫がウイルスや細菌を含んでいても、細菌は増殖できず、ウイルスは不活化されるので人へは感染しない。
【0038】
図4は、水酸化カルシウム粉24(すなわち、複数の粒子4)を含む塗膜14(例えば、漆喰等塗膜またはPVB塗膜)の断面図の一例である。
図4に示すように塗膜14は、水酸化カルシウム粉24と、水酸化カルシウム粉24を包み込み素地16に接着する基質18とを有する。塗膜14が漆喰から形成される場合には、基質18は水酸化カルシウム粉24以外にも種々の繊維材料(麻、藁、紙等)を包み込んでいる。
【0039】
漆喰等塗膜は親水性なので、漆喰等塗膜に付着した水の一部は基質18に浸み込んで水酸化カルシウム粉24に接触して、強アルカリ性になる。基質18に浸み込んだ水と基質表面の水は連結しているので、基質表面の水も強アルカリ性になって、ウイルスを不活化し細菌の増殖を防止する。
【0040】
一方、PVB塗膜の基質18は、疎水性のPVBである。従って、PVB塗膜に付着した水が基質18に浸み込んで、水酸化カルシウム粉24に接触するとは考え難い。更に、水酸化カルシウムはアルコールには溶けないので、PVB塗膜の基質18に水酸化カルシウムが溶け込んでいるとも考え難い。従って、PVB塗膜の表面に付着した水が、基質18に囲われた水酸化カルシウム粉24や基質18に溶け込んだ水酸化カルシウムによって、強アルカリ性になるとは考え難い。
【0041】
しかし、本発明者の実験によればこの予測に反し、PVB塗膜の付着水は強アルカリ性になる。PVBの分子(
図2参照)は、疎水性の官能基(すなわち、ブチラール基10およびアセチル基12)と共に親水性の水酸基8も有する。PVB塗膜の付着水は、親水性の水酸基8に近接した領域を渡り歩いて水酸化カルシウム粉24に到達すると考えれば、PVB塗膜の付着水が強アルカリ性になることは理解できる。
【0042】
発明者の知る限り、この様な付着水の振る舞いを開示または示唆する報告は存在しない。しかし、付着水が水酸基近傍を渡り歩いて到達する深さが例えば高々数十~数百μmであれば、上記の様な報告が無かったとしても不思議ではない。付着水の到達深さが数十~数百μmであっても、付着水と水酸化カルシウム粉24が接触するには十分である。
【0043】
なお、PVB塗料2に含まれるアルコール(特に、エタノールおよびイソプロパノール)は、素地に付着している細菌およびウイルスを消毒する。この点でも、実施の形態1のPVB塗料2は、抗菌性および抗ウイルス性塗料として優れている。
【0044】
実施の形態1の塗料2は、接触した水を強アルカリ性にする水酸化カルシウム粒子4と、種々の材料に良く接着するPVBと、このPVBが溶け込んだ溶媒であって撥水性の素地に良く濡れるアルコールとを含む。従って実施の形態1によれば、水酸化カルシウムの粉末を含む事で抗菌性および抗ウイルス性を有する塗料であって、撥水性の素地への塗装が可能な塗料を提供できる。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2は、複数の粒子4(
図1参照)の平均粒径(直径)が0.6μm以下に限定される点で、実施の形態1とは異なる。この点を除けば、実施の形態2は、実施の形態1と実質的に同じである。従って、実施の形態1と共通する部分については、説明を省略または簡単にする。なお複数の粒子4の「平均粒径」とは、下記「実施例」に記載の方法で測定される平均粒径を意味する。
【0046】
水酸化カルシウム粉は、白色の粉末である。従って、実施の形態1のPVB塗料により得られる塗膜も白色になる。しかし実施の形態2のPVB塗料によれば、透明な塗膜が得られる。
【0047】
微粒子が光を散乱する効率(以下、光散乱効率と呼ぶ)は、その粒径が光の波長の半分程度の場合に最も大きく、粒径が光の波長の半分より小さくなると急激に減少する。従って微粒子が集まった粉体は、微粒子の平均粒径が可視光波長(0.4μm~0.8μm)の半分程度の場合に最も白くなり、平均粒径が可視光波長より十分に短い場合には透明になる。
【0048】
例えば、代表的な白色粉末である酸化チタン粉は、平均粒径が0.2μm~0.4μmの場合に最適な白色になり、平均粒径が0.05μm以下の場合に透明になる。水酸化カルシウム粉も、同様の挙動をすると考えられる。
【0049】
発明者の実験によれば、水酸化カルシウム粉は、その平均粒径が可視光域の中心波長0.6μmと同じ場合には白色であった。この結果は、酸化チタン粉の例と矛盾しない。しかしPVB塗料から得られる塗膜(すなわち、PVB塗膜)は、水酸化カルシウムの平均粒径が0.6μmであっても、略透明になった(後記「実験例12」参照)。すなわち、実施の形態2のPVB塗料(すなわち、水酸化カルシウムの平均粒径が0.6μm以下のPVB塗料)によれば、透明なPVB塗膜を得ることができる。PVBは、透明度の高い高分子材料である。PVBを含む実施の形態2の塗料は、この点でも、透明な塗膜の形成に好適である。
【0050】
平均粒径が0.6μmの水酸化カルシウム粉が、PVB塗膜中では透明になる理由は現時点では不明である。但し、水酸化カルシウムの粒子4はPVB塗膜中では、透明度の高いPVB(
図4の基質18)中に疎らに分散しているので、高密度に密集する粉末中とは異なる光学特性を示しても不思議ではない。
【0051】
水酸化カルシウム粉の平均粒径を0.5μm程度まで小さくすることはボールミルをも用いれば可能であり、0.05μm程度まで小さくすることはビーズミルを用いれば可能である。しかし、ボールミルやビーズミルによって得られる平均粒径が小さくなるほど、ボールミルやビーズミルによる粉砕に掛かる時間は長くなる。一方、水酸化カルシウム粉の平均粒径が小さくなるほど、PVB塗膜の透明度は高くなる。
【0052】
従って、水酸化カルシウム粉(すなわち、複数の粒子4)の平均粒径は好ましくは、0.05μm以上0.6μm以下である。更に好ましくは、水酸化カルシウム粉4の平均粒径は0.1μm以上0.5μm以下である。最も好ましくは、水酸化カルシウム粉4の平均粒径は0.2μm以上0.4μm以下である。但し、水酸化カルシウム粉4の平均粒径は、0.05μm以下であっても良い。材料は異なるが、平均粒径が0.01μm前後の酸化チタン粉は、紫外線を遮断し可視光は透過するUV遮蔽剤として用いられる。従って、透明性の観点からは、水酸化カルシウム粉4の平均粒径は、0.01μm前後(例えば、0.005μm以上0.02μm以下)が好ましい。
【0053】
水酸化カルシウム粒子4の微細化(すなわち、平均粒径を小さくする事)は、光散乱体の削減という観点からも、PVB塗膜の透明化に有益である。水酸化カルシウム粉の総重量を変えずに平均粒径を微細化すると、水酸化カルシウム粉の総表面積は広くなる。すると、PVB(
図4では基質18)に浸透した付着水と水酸化カルシウム粒子4との接触面積が拡大し、付着水が強アルカリ性化し易くなる。
【0054】
従って、水酸化カルシウム粒子4を微細化すれば、付着水を強アルカリ性化するPVB塗料の能力を維持しつつ、水酸化カルシウム粒子4の総数を削減できる。光散乱体である水酸化カルシウム粒子4の総数を削減すればPVB塗膜の透明度は向上するので、水酸化カルシウム粒子4の微細化は、光散乱体の削減という観点からもPVB塗膜の透明化にとって有益である。
【0055】
以上のように、水酸化カルシウム粉4を微細化する実施の形態2によれば、PVB塗膜の抗菌性や抗ウイルス性を損なうことなく、透明なPVB塗膜を得ることができる。すなわち、実施の形態2のPVB塗膜によれば、素地の意匠(模様、色彩等)や文字情報等を失うことなく、実施の形態1で説明した抗菌性や抗ウイルス性を実現できる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、各実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
図5は、本発明のPVB塗料および比較例の試験結果を示す表(以下、表1と呼ぶ)である。比較例は、消石灰を主成分とする関西ペイント社製の漆喰塗料(商品名:アレスシックイ)である。
【0058】
(1)PVB塗料の調合
先ず、表1の左から第5列目記載(「第5列記載」と呼ぶ。以下、同様)の溶剤に、第6列記載の分子量を有するPVBを溶かして、PVBの溶液(すなわち、PVB溶液)を生成する。溶剤に溶かすPVBの重量は、PVB溶液におけるPVBの重量比が第7列記載の値になる量である。例えば実施例1のPVB溶液は、85gのエタノールに、分子量1.5×104のPVBを15g溶かす事で生成された溶液である。
【0059】
次に生成したPVB溶液に、第2列記載の粉末であって第3列記載の平均粒径を有する水酸化カルシウム粉を入れて攪拌する。すると、水酸化カルシウムの粒子4(
図1参照)がPVB溶液6に分散され、PVB塗料2が生成される。
【0060】
PVB溶液6に入れる水酸化カルシウム粉の重量は、PVB塗料2における水酸化カルシウム粉の重量比が第4列記載の値になる量である。例えば実施例1のPVB塗料は、98gのPVB溶液6に平均粒径4μmの水酸化カルシウム粉を2g入れて攪拌する事で生成される。
【0061】
実施例1~12の水酸化カルシウム粉の平均粒径は、ふるい分け試験または動的光散乱法によって測定された平均粒径である。3μm以上の平均粒径は、JIS試験用ふるい(JIS Z8801-1)を用いる「ふるい分け試験」によって測定した。
【0062】
3μm以下の平均粒径は、動的光散乱法によって測定した。測定結果の解析方法は、キュムラント解析である。測定に用いた試料は、エタノールで希釈した水酸化カルシウム粉である。測定温度は25℃である。キュムラント解析により得られた平均粒径は、Contin法により得られる粒径分布(散乱強度分布、体積分布、個数分布)から導出される平均粒径と略一致した。
【0063】
表1に示すように、実施例1~12のPVB塗料に含まれるPVBの分子量は、1.5×104である。しかし本発明のPVBの分子量は、1.5×104には限られない。例えば、表1記載の分子量とは異なる分子量のPVBを用いても、表1記載のPVB塗料(すなわち、実施例1~12)と略同じ特性を有するPVB塗料を調合できる。
【0064】
PVB塗料の属性のうち分子量に依存する属性は、粘度である。PVB塗料の粘度は、分子量以外にも溶剤に対するPVBの重量比等にも依存する。従って、PVBの分子量を変更しても、例えばPVBの重量比を適宜調節することで、分子量の変更前と略同じ特性を有するPVB塗料を調合できる。
【0065】
(2)評価
(2-1)評価項目および評価基準
上記手順により調合したPVB塗料(すなわち、実施例1~12のPVB塗料)および漆喰塗料(すなわち、比較例)を、以下の評価項目および評価基準に基づいて評価した。
【0066】
<塗布の容易性>
実施例1~12のPVB塗料および比較例の漆喰塗料を素地(例えば、コンクリートブロック)に塗布し、塗布の容易性を評価した。評価結果は、第8列に記載した。
【0067】
「〇」は、刷毛、ローラー、およびスプレーのいずれの塗装用具を用いても容易に塗布できた事を示している。「塗布できた」とは、素地に被覆材(すなわち、PVB塗料または漆喰塗料)を均一に塗れたことを意味する。
【0068】
「△」は、刷毛およびローラーでは塗布できたが、スプレーでは塗布できなかった事を示している。「塗布できなかった」とは、素地に被覆材(すなわち、PVB塗料または漆喰塗料)を均一に塗れなかったことを意味する。「×」は、刷毛、ローラーおよびスプレーのいずれでも、素地に被覆材(すなわち、PVB塗料または漆喰塗料)を塗布できなかった事を示している。
【0069】
<粉末の塗膜定着度>
実施例1~12のPVB塗料および比較例の漆喰塗料を素地(例えば、コンクリートブロック)に塗布して塗膜を形成し、形成した塗膜への水酸化カルシウム粉の定着度を評価した。評価結果は、第9列に記載した。
【0070】
「〇」は塗膜を爪で引っ掻いても、水酸化カルシウム粉が塗膜から脱落しなかった事を示している。水酸化カルシウム粉が脱落したか否かは、目視で確認した(以下、同様)。「△」は塗膜を指で擦っても水酸化カルシウム粉は脱落しないが、抓めて引っ掻くと脱落した事を示している。「×」は塗膜を指で擦るだけで、水酸化カルシウム粉が脱落した事を示している。
【0071】
<撥水性材料への接着性>
実施例1~12のPVB塗料および比較例の漆喰塗料をガラスコップへ塗布して、撥水性材料(具体的にはガラス)への接着性を評価した。評価結果は、第10列に記載した。
【0072】
「〇」は、PVB塗料等をガラスに塗布して形成した塗膜を、指で擦っても剥がれなかった事を示している。「△」は、PVB塗料等をガラスに塗布して形成した塗膜を、指で擦ると剥がれた事を示している。「×」は、PVB塗料等をガラスに塗料を塗布してもはじかれて、均一な塗膜が形成されなかった事を示している。
【0073】
<付着水のpH>
実施例1~12のPVB塗料および比較例の漆喰塗料から形成した塗膜にほぼ中性の水(例えば、水道水)を滴下し、塗膜に付着した水(すなわち、付着水)のpH値をペーハー試験紙によって測定した。測定結果は、第11列に記載した。
【0074】
<塗膜の透明度>
実施例1~12のPVB塗料および比較例の漆喰塗料を塗布して形成した塗膜の透明度を目視により評価し、その結果を第12列に記載した。
【0075】
「〇」は、塗膜を通して素地(すなわち、下地)が明瞭に見えた事(すなわち、透明である事)を示している。「△」は、素地は見えたが不明瞭であった事(すなわち、半透明である事)を示している。「×」は、素地が見えなかった事(すなわち、不透明である事)を示している。
【0076】
(2-2)評価結果
<塗布の容易性>
表1の第8列が示すよう、比較例の漆喰塗料は刷毛およびローラーではコンクリートブロックに塗布できたが、スプレーでは塗布できなかった。これに対して、実施例1~4、6~12のPVB塗料は、刷毛、ローラー、およびスプレーの何れでも容易に塗布できた。但し実施例5が示すように、PVB塗料における水酸化カルシウムの重量比が高くなると、スプレーによる塗布は困難であった。これは、水酸化カルシウム粉の添加量(表1の第4列の「粉末の重量比」参照)の増加によりPVB塗料の流動性が低下し、スプレーからの噴出が困難になった為と考えられる。
【0077】
これらの結果は、本発明のPVB塗料は、漆喰塗料と同程またはそれ以上に塗布が容易である事を示している。
【0078】
<粉末の塗膜定着度>
表1の第9列が示すよう、比較例の漆喰塗料で形成した塗膜を指で擦っても水酸化カルシウム粉は脱落しなかったが、抓めて引っ掻くと水酸化カルシウム粉は脱落した。これに対して、実施例1~5、7~12のPVB塗膜を抓めて引っ掻いても、水酸化カルシウム粉は脱落しなかった。
【0079】
但し、実施例6が示すように、PVB溶液におけるPVBの重量比(表1の第7列の「PVBの重量比」参照)が低い場合には、PVB塗膜を指で擦っても水酸化カルシウム粉は脱落しなかったが、抓めて引っ掻くと水酸化カルシウム粉が脱落した。これは、PVB溶液におけるPVBの重量比が低くなると、水酸化カルシウム粉を塗膜に固定する基質18(
図14参照)が減少するためと考えられる。
【0080】
これらの結果は、本発明のPVB塗料は、漆喰塗料と同程またはそれ以上に水酸化カルシウム粉を塗膜に固定できる事を示している。
【0081】
<撥水性材料への接着性>
表1の第10列が示すよう、比較例の漆喰塗料をガラス(撥水性の素地)に塗るとはじかれて、均一な塗膜は得られなかった。これに対して、実施例1~5、7~12のPVB塗料をガラスに塗布すると均一な塗膜が形成され、形成された塗膜を指で擦ってもガラスから剥がれなかった。
【0082】
但し、実施例6が示すように、PVB溶液におけるPVBの重量比(表1の第7列の「PVBの重量比」参照)が低い場合には、ガラスに形成された塗膜を指で擦ると剥がれた。これは、PVB溶液におけるPVBの重量比が低くなると、塗膜を素地に接着する基質18(
図14参照)が減少するためと考えられる。
【0083】
これらの結果は、本発明のPVB塗料は、漆喰塗料とは異なり撥水性の素地へ塗装可能である事を示している。なお、表1には示されていないが、PVB塗料は金属やプラスティック等の他の撥水性素地にも塗布可能である。
【0084】
<付着水のpH>
表1の第11列が示すよう、比較例の漆喰塗料から形成した塗膜に付着した水のpH値は、12~13(強アルカリ性)であった。同様に、実施例1~12のPVB塗膜のpH値は、11~13(強アルカリ性)であった。この結果は、本発明のPVB塗料は、漆喰塗料と同程度の抗菌性および抗ウイルス性を有することを示している。
【0085】
<塗膜の透明度>
表1の第12列が示すよう、比較例の漆喰塗料から形成した塗膜は不透明である。これに対して実施例2~12が示すように、PVB塗膜は水酸化カルシウム粉24の平均粒径が1μmより大きい場合には不透明で、平均粒径が1.0μmでは半透明になり、平均粒径が0.6μm以下では透明になる。これらの結果は、本発明によれば、水酸化カルシウム粉24による抗菌性および抗ウイルス性を備えた透明な塗膜が得られることを示している。
【0086】
なお、実施例1のPVB塗膜は、水酸化カルシウム粉24の平均粒径が4μmと大きくても半透明であった。その理由としては、実施例1ではPVB塗料における水酸化カルシウム粉24の重量比が2wt%と低くその結果、水酸化カルシウム粉24が著しく疎な塗膜14が形成された為と考えられる。
【0087】
以上のように実施例1~12は、本発明のPVB塗料は、漆喰塗料から得られる塗膜と同程度またはそれ以上の性能(例えば、塗布容易性)を有する塗膜を、撥水性の素地に形成できる事を示している。実施例11~12は更に、本発明によれば、抗菌性および抗ウイルス性を有する透明塗膜を形成できることを示している。
【0088】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、実施の形態1~2および実施例1~12は、例示であって制限的なものではない。
【0089】
例えば、実施の形態1~2および実施例1~12では、PVB塗料に添加する粉末はホタテ貝殻焼成パウダーである。しかしPVB塗料に添加する粉末は、ホタテ貝殻焼成パウダー以外の水酸化カルシウム粉であっても良い。例えば、PVB塗料に添加する粉末は、消石灰であっても良い。
【0090】
実施の形態1~2および実施例1~12では、PVB溶液の溶質は純粋なPVBである。しかし、PVB溶液の溶質はPVB以外の物質を含んでも良い。PVB溶液の溶質は例えば、少量のポリビニルアルコールや柔軟剤を含んでも良い。
【0091】
実施の形態1~2および実施例1~12では、PVB溶液の溶媒は純粋なアルコールである。しかし、PVB溶液の溶媒は、アルコール以外の液体を含んでも良い。PVB溶液の溶媒は例えば、アセトンを含んでも良い。