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  • 特開-青色光吸収用ハイドロゲル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190923
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】青色光吸収用ハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20221220BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20221220BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20221220BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20221220BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20221220BHJP
   C07D 249/20 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
G02C7/10
G02C7/04
G02B1/04
A61L27/16
A61L27/52
C07D249/20 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099461
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 佳子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 優貴
【テーマコード(参考)】
2H006
4C081
【Fターム(参考)】
2H006BB03
2H006BB06
2H006BE05
4C081AB22
4C081AB23
4C081BB02
4C081CA101
4C081DA02
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、黄色の着色剤を使用することなく、かつ青色光の波長域を吸収することができるモノマーの配合量が少なくとも、青色光を効率的に吸収することを可能にする眼用レンズに適用可能なハイドロゲルを提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、下記一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基を含む青色光吸収用ハイドロゲルなどにより解決される:U-L-Py (I)(式中、Uは、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位であり;Lは、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーであり;及びPyは、エチレン性不飽和重合性部位である。)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基を含む青色光吸収用ハイドロゲル。
U-L-Py (I)
(式中、
Uは、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位であり、
Lは、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーであり、及び
Pyは、エチレン性不飽和重合性部位である。)
【請求項2】
前記tert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)は、下記一般式(II)で示される構造からなる、請求項1に記載のハイドロゲル。
【化1】
(II)
(式中、
は、tert-ブチル基を表し、
は、水素原子、ハロゲン原子及び-CFから選択され、及び
は、前記リンカー(L)への結合点を表す。)
【請求項3】
前記リンカー(L)は、アミノ酸に由来するリンカーである、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和重合性部位(Py)は、アリル、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル及びスチレニルからなる群から選択される重合性官能基を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
下記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MAに由来する残基を含む青色光吸収用ハイドロゲル。
【化2】
(1)
【請求項6】
前記ハイドロゲルは、前記一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基又は前記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MAに由来する残基を、ハイドロゲルの100質量部あたり、0.1質量部~10質量部で含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のハイドロゲルからなり、コンタクトレンズ及び眼内レンズからなる群から選択される、眼用レンズ。
【請求項8】
前記眼用レンズは、380nm~500nmにおける青色光吸収率が5%以上である、請求項7に記載の眼用レンズ。
【請求項9】
下記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MA。
【化3】
(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色光を吸収するために用いられ得る青色光吸収用ハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼組織に悪影響を及ぼす光として、自然光からの紫外線だけでなく、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイ、LED照明に多く含まれる青色光が注目されている。そこで、青色光を吸収する材料を含有する青色光吸収用眼用レンズがこれまでに開発されている(例えば、特許文献1~4を参照)。
【0003】
青色光吸収用眼用レンズにおいては、青色光の保護色である黄色の着色剤を配合することが効果的な方法として用いられる。しかし、この方法によって得られる眼用レンズは、黄色に着色される。一方、眼用レンズのうち、コンタクトレンズにおいては、涙液中に含まれるタンパク質等の汚染物質が装用中に沈着することにより黄色に変色する。そこで、着色剤により黄色に着色されたコンタクトレンズは、第三者へ汚染物質が沈着したコンタクトレンズを想起させることになり、外観的に良好であるとはいえない。
【0004】
また、青色光の波長域である380nm~500nmは、可視光域とも重なる。したがって、青色光の吸収能を向上させるための多量の黄色着色剤の使用は、コンタクトレンズの光学特性への悪影響をもたらし得る。
【0005】
一方、青色光ではなく、紫外線を吸収する化合物が知られている。また、このような紫外線吸収剤の眼用レンズへの適用が試みられている。例えば、紫外線吸収性部位、リンカー及びエチレン性不飽和重合性部位からなるモノマーを用いて合成されたハイドロゲルが知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2019-510265号公報
【特許文献2】特表2019-504619号公報
【特許文献3】特表2017-503905号公報
【特許文献4】特表2015-528048号公報
【特許文献5】国際公開WO2020/118361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5に記載のハイドロゲルを用いれば、ハイドロゲル材料の許容可能な特性を保持しながら、効果的な紫外線吸収能を有するハイドロゲルを提供することができる。しかし、紫外線の波長領域は380nm以下であり、青色光の波長領域である380nm~500nmとは相違する。そして、特許文献5に記載のハイドロゲルは、紫外線を効果的に吸収するものであり、青色光を効果的に吸収するものではない。
【0008】
また、特許文献5に記載されているHMB-Cys-MAのような紫外線吸収能を有するモノマーは、水との親和性が低いため、このようなモノマーを大量に配合する場合、所望の親水性を有する眼用レンズを得ることができず、適用範囲が限られ、汎用性に欠けるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、黄色の着色剤を使用することなく、かつ青色光の波長域を吸収することができるモノマーの配合が少量で、青色光を効率的に吸収することを可能にする、眼用レンズに適用可能なハイドロゲルを提供することを本発明が解決する課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ハイドロゲルへの適用が可能な青色光吸収作用を有する化合物の合成を試みた。その中で、特許文献5に記載の化合物を用いてハイドロゲルを作製したところ、青色光吸収作用を有するものもあれば、そうでないものもあった。そして、さらに鋭意検討を進め、試行錯誤を繰り返した結果、驚くべきことに、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位を有する化合物を用いて作製したハイドロゲルは優れた青色光吸収作用を示すことがわかった。このような知見を基にして、本発明者らは、本発明の課題を解決し得るものとして、青色光吸収用ハイドロゲルを創作することに成功した。本発明はこのような知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の各態様が提供される:
[1]下記一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基を含む青色光吸収用ハイドロゲル。
U-L-Py (I)
(式中、
Uは、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位であり、
Lは、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーであり、
Pyは、エチレン性不飽和重合性部位である。)
[2]前記tert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)は、下記一般式(II)で示される構造からなる、[1]に記載のハイドロゲル。
【化1】
(II)
(式中、
は、tert-ブチル基を表し、
は、水素原子、ハロゲン原子及び-CFから選択され、
は、前記リンカー(L)への結合点を表す。)
[3]前記リンカー(L)は、アミノ酸に由来するリンカーである、[1]又は[2]に記載のハイドロゲル。
[4]前記エチレン性不飽和重合性部位(Py)は、アリル、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル及びスチレニルからなる群から選択される重合性官能基を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
[5]下記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MAに由来する残基を含む青色光吸収用ハイドロゲル。
【化2】
(1)
[6]前記ハイドロゲルは、前記一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基又は前記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MAに由来する残基を、ハイドロゲルの100質量部あたり、0.1質量部~10質量部で含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載のハイドロゲルからなり、コンタクトレンズ及び眼内レンズからなる群から選択される、眼用レンズ。
[8]前記眼用レンズは、380nm~500nmにおける青色光吸収率が5%以上である、[7]に記載の眼用レンズ。
[9]下記式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MA。
【化3】
(1)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位を有する重合性青色光吸収剤を用いてハイドロゲルを調製することにより、該重合性青色光吸収剤の使用量の範囲を柔軟に設定しつつ、青色光吸収用ハイドロゲルを調製することができる。
【0013】
また、本発明によれば、黄色の着色剤を使用しなくともよいことから、得られるハイドロゲルは黄色に着色されることなく、光学特性への影響が低減されたものとすることができる。
【0014】
このように、本発明によれば、種々の特性を設定できる、汎用性の高い、青色光吸収用ハイドロゲルを得ることができ、さらにこのようなハイドロゲルはコンタクトレンズなどの眼用レンズに適用することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、後述する実施例に記載があるとおり、tBu-HBA-Lys-MAを含有するモノマー混合溶液、HMB-Cys-MAを含有するモノマー混合溶液、HBE-Glu-MAを含有するモノマー混合溶液及びHBA-Lys-MAを含有するモノマー混合溶液の紫外可視透過スペクトルを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0017】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、コンタクトレンズなどの眼用レンズを扱う業界における当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0018】
「含有量」は、濃度と同義であり、溶液の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(w/w%)」を意味する。なお、成分の含有量は、市販品を用いる場合は、市販品に含まれる成分の量であることが好ましいが、市販品自体の量であってもよい。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
【0019】
本発明は、全般的に、眼上又は眼内で使用する眼用レンズに適用可能である青色光吸収用ハイドロゲルに関する。本発明の一態様のハイドロゲルは、ハイドロゲル材料の許容可能な特性を保持しながら、効果的な青色光吸収作用を有する。
【0020】
本発明の一態様の眼用レンズは、対象の眼上又は眼内に配置することを意図した眼科用デバイスである。眼用レンズとしては、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどが挙げられる。
【0021】
本発明の一側面によれば、一般式(I):
U-L-Py (I)
で示される重合性青色光吸収剤に由来する残基を含むハイドロゲルが提供される。
一般式(I)において、Uは、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位であり; Lは、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつPyは、エチレン性不飽和重合性部位である。
【0022】
眼用レンズに適用するための有利な特性を示すハイドロゲルであるために、一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤を含むモノマー混合物を重合する。重合性青色光吸収剤に由来する残基を含むハイドロゲルは、驚くべきことに、かつ有利に、含水性及び透明性が良好であり、及び青色光吸収作用が優れているといった特性を示す。重合性青色光吸収剤において、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)及びリンカー(L)の形態は、そのような特性を達成するために特徴的な役割を果たすと考えられる。
【0023】
ハイドロゲルは、親水性モノマーを含むモノマーの重合体(ポリマー)がベースとなる。ハイドロゲルは、ポリマーマトリックス内で水又は水を含有する溶液などの水性液体によって膨潤し、かつ水性液体を保持するものである。ハイドロゲルは、シリコーンハイドロゲルを構成する親水性ポリマー及びシリコーンポリマーなどの複数のポリマーの相互貫入ネットワークを含み得る。
【0024】
ハイドロゲルのネットワークポリマー成分は、「ハイドロゲルポリマー」ともよぶ。なお、モノマー(単量体)が重合してなるものがポリマー(高分子)であり、ポリマーにおける各モノマーに由来する構成単位を残基及び部位(部分)ともよぶ。
【0025】
ハイドロゲルポリマーは、有効量の一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤を少なくとも1種のコモノマーと重合することによって調製することができる。これにより、結果として、一般式(I)の重合性青色光吸収剤が、少なくとも1種のコモノマーと共に、ポリマー中の残基として共有結合的に組み込まれる。ハイドロゲルポリマー中の残基としてコモノマーと一般式(I)の重合性青色光吸収剤とを組み込むことにより、効果的な青色光吸収作用を有するハイドロゲルを調製することが可能になる。
【0026】
ハイドロゲルポリマーは、一般式(I)の重合性青色光吸収剤に由来する残基を含む。式(I)の重合性青色光吸収剤は、眼用レンズに青色光吸収作用を付与するために、単独で使用してもよいし、他の重合性青色光吸収剤と組み合わせて使用してもよい。
【0027】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)を含む。青色光吸収部位は、青色光を吸収することができ、本発明の一態様のハイドロゲルに青色光吸収作用を付与することができる。典型的に、青色光は、380nm~500nm、好ましくは380nm~420nmの波長で存在する。
【0028】
青色光吸収部位(U)は、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、アボベンゾン、ベンジリデン、アゾベンゼン、サリチラート、アントラニレート、クロロアニリン、シアノジフェニル、ベンズイミダゾール、オキサニリド、フェニルベンゾチアゾール及びベンゾチアゾールからなる群から選択され、好ましくはベンゾトリアゾール及びベンゾフェノンから選択される。すなわち、青色光吸収部位(U)は、ベンゾトリアゾール部位又はベンゾフェノン部位であることが好ましい。ベンゾトリアゾール部位は、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール部位であることが好ましい。
【0029】
青色光吸収部位(U)は、tert-ブチル基を有する。青色光吸収部位(U)がtert-ブチル基を有することにより、優れた青色光吸収作用を発揮する。
【0030】
tert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)は、一般式(II)で示されるヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール部分であることが好ましい。
【0031】
【化4】
(II)
【0032】
一般式(II)において、Rは、tert-ブチル基を表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子及び-CFから選択され、及びRは、親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)への結合点を表す。Rのハロゲン原子としては、ブロモ、クロロ、フルオロ、ヨードなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
一般式(II)の青色光吸収部位に連結される親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、後述するリンカーのいずれか1種から選択され得る。リンカー(L)がアミノ酸に由来する場合、青色光吸収部位の末端は、リンカー(L)のアミノ基又はカルボキシル基と共有結合する。そこで、リンカー(L)がアミノ酸に由来する場合は、青色光吸収部位におけるRは、C~Cのアルキレン基を有してもよいカルボキシル基又はアミノ基であることが好ましい。
【0034】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、一般式(II)の青色光吸収部位を踏襲して、下記一般式(IIa)のように表すことができる。
【0035】
【化5】
(IIa)
【0036】
一般式(IIa)において、Rは、tert-ブチル基を示し;Rは、水素原子、ハロゲン原子及び-CFから選択され;Lは、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーであり;かつPyは、エチレン性不飽和重合性部位である。
【0037】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)を介して、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位とエチレン性不飽和重合性部位とが結合する構造をなすモノマーである。
【0038】
一般式(I)におけるリンカー(L)が「非ポリアルキレングリコールリンカー」であることは、ポリアルキレングリコール(C~Cポリアルキレングリコールなどのポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール)に由来する、又はそれから構成される部分を含まないことを意味する。例えば、非ポリアルキレングリコールリンカーは、-(CO)n-、-(CH(CH)CHO)n-、又は-(CHCH(CH)O)n-の構造(nは、2~10の範囲の整数である。)を有する部分を含まない。
【0039】
親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、青色光吸収部位(U)とエチレン性不飽和重合性部位(Py)との間に配置され、青色光吸収部位及びエチレン性不飽和重合性部位にそれぞれ共有結合している。
【0040】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤におけるリンカー(L)は、親水性であることを特徴とする。親水性リンカーの存在は、水性環境における、重合性青色光吸収剤及び重合性青色光吸収剤を含むポリマー材料の親和性を改善することを補助し得る。例えば、一般的に使用される紫外線吸収剤は疎水性であるが、分子内に親水性の非ポリアルキレングリコールリンカーを導入することで、得られるハイドロゲルにも親水性を付与することとなるため、ハイドロゲルに紫外線吸収剤を組み込んだ場合であっても、光学特性や含水率などのハイドロゲルとしての特性が、著しく変化することを抑制することができる。また、重合性紫外線吸収剤が親水性であることにより、ハイドロゲルを形成するための他の成分との親和性を向上させることにも作用する。
【0041】
非ポリアルキレングリコールリンカーの親水性は、非ポリアルキレングリコールリンカーを含む重合性青色光吸収剤の水又は水を含む溶液(例えば、水性モノマー溶液)などの水性液体への溶解性を評価することによって決定することができる。例えば、一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、2-[3-(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(HMB)及び2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート(これらは親水性リンカーを持たず、一般的に疎水性と考えられる)などの市販の紫外線吸収剤と比較して、より多くの量を水性液体に溶解できることが確認された。水性液体に式(I)の紫外線吸収剤をより多量に溶かすことができるということは、紫外線吸収剤のリンカー部位が親水性であることを示すものであり、分子の親水性にも影響を与え得ることを示すことを意味するものである。
【0042】
親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、少なくとも4個、好ましくは少なくとも5個、少なくとも6個、又は少なくとも7個の炭素原子を含む。リンカー(L)が少なくとも4個の炭素原子を含むことにより、リンカーと青色光吸収部位との間の有害な干渉を最小限に抑えると考えられる。リンカーが少なくとも4個の炭素原子を含むことにより、青色光吸収部位の青色光吸収作用を優れたものにすることが確認された。
【0043】
親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)は、親水性を付与しつつ、少なくとも4個の炭素原子を含むために、荷電部分がアミノ酸に由来することが好ましく、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びリジンであることがより好ましい。
【0044】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、青色光吸収部位(U)及び親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)に加えて、エチレン性不飽和重合性部位(Py)を含む。エチレン性不飽和重合性部位は、適切な重合条件下において、重合性青色光吸収剤と他のモノマーとが共有結合によりポリマーを形成するように作用する。重合条件は特に限定されないが、例えば、フリーラジカル重合が挙げられる。
【0045】
エチレン性不飽和重合性部位は、フリーラジカル重合を介して反応を受けるのに適した任意の部位から選択され得る。この目的のために、エチレン性不飽和重合性部位(Py)は、アリル、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル及びスチレニルからなる群から選択される重合性官能基を含むことが好ましい。
【0046】
エチレン性不飽和重合性部位(Py)が、重合性アクリロイル基である場合は、アクリレート基又はアクリルアミド基であり得る。同様に、重合性メタクリロイル基である場合、メタクリレート基、又はメタクリルアミド基であり得る。
【0047】
一般式(I)で示される重合性青色光吸収剤は、上記したtert-ブチル基を有する青色光吸収部位(U)、少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)及びエチレン性不飽和重合性部位(Py)からなるものであれば特に限定されない。重合性青色光吸収剤の非限定的な具体例として、式(1)で示されるtBu-HBA-Lys-MAである。
【0048】
【化6】
(1)
【0049】
式(1)の化合物において、tert-ブチル基を有する青色光吸収部位はtBu-HBA(3-(3-(2H-Benzo[d][1,2,3]triazol-2-yl)-5-(tert-butyl)-4-hydroxyphenyl)propanoic acid)に由来し;少なくとも4個の炭素原子からなる親水性の非ポリアルキレングリコールリンカー(L)はリジンに由来し;エチレン性不飽和重合性部位(Py)はマレイン酸に由来する。すなわち、式(1)の化合物は、tBu-HBAとLysとMAとが共有結合してなる構造を有する。
【0050】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、特許文献5に記載の方法に準じて、合成することができる。例えば、特許文献5に記載の「EXAMPLES」における項目「Synthesis of polymerisable UV absorber with hydroxyphenyl-benzotriazole moiety and an alternative anionic linker:HBA-Lys-MA」に記載の方法に準じて、HBAの代わりにtBu-HBA(3-(3-(2H-Benzo[d][1,2,3]triazol-2-yl)-5-(tert-butyl)-4-hydroxyphenyl)propanoic acid)を用いることにより、式(1)のtBu-HBA-Lys-MAを合成することができる。
【0051】
本発明の一態様のハイドロゲルでは、一般式(I)の重合性青色光吸収剤は、ハイドロゲルのポリマー成分に共有結合により組み込まれている。これにより、重合性青色光吸収剤がハイドロゲル材料から溶出することを防ぐことができる。重合性青色光吸収剤が溶出した場合、毒性の問題が生じたり、青色光吸収作用の損失が損なわれたりすることも考えられるため、安定性の向上は、ハイドロゲルを眼用レンズ、特に、眼内レンズ(IOL)のような埋め込み型の眼用レンズに適用する際には重要となる。
【0052】
本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルにおいては、一般式(I)の重合性青色光吸収剤からなる群から選ばれる1種を単独で、又は、2種以上を組合せて用いることができる。本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルにおける一般式(I)の重合性青色光吸収剤の好ましい配合量は特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルが透明性及び青色光吸収作用を有するためには、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の全量に対して、好ましくは0.01重量%~10重量%であり、より好ましくは0.1重量%~7重量%である。一般式(I)の重合性青色光吸収剤の配合量が0.01重量%未満の場合、得られるハイドロゲルにおいて、青色光の吸収性が発現されにくくなる。一般式(I)の重合性青色光吸収剤の配合量が10重量%を超過する場合、得られるハイドロゲルに白濁や強度の低下が生じやすくなるため好ましくない。
【0053】
本発明の一態様のハイドロゲルは、一般式(I)の重合性青色光吸収剤と、該重合性青色光吸収剤と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとの共重合体であることが好ましい。すなわち、本発明の一態様のハイドロゲルについて、ハイドロゲルポリマーは、一般式(I)の重合性青色光吸収剤に由来する残基と、エチレン性不飽和モノマーに由来する残基とから構成される。このようなエチレン性不飽和モノマーには以下ものが挙げられるが、これらに限定されない:
(a)アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド及びメタクリルアミドなどのアクリロイル及びメタクリロイルモノマー、並びにそれらのエステル及びアミドの誘導体;
(b)シリコーン置換アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;
(c)フッ素化アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;及び
(d)ビニルピロリドン、ビニルシラン、ビニルスルホン、ビニルアルコール又はエステルなどのビニル又はビニリデンの化合物。
【0054】
以下では、一般式(I)の重合性青色光吸収剤と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーの具体例について、その特性及び/又は機能ごとに挙げる。
【0055】
また、一般式(I)の重合性青色光吸収剤とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とを併用してもよい。これらを併用することにより、青色光の吸収性はさらに向上し得る。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミノフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのうち、本発明においては、共重合性官能基を分子内に有する2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールが好ましく用いられる。本発明の青色光吸収用ハイドロゲルにおいて、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、例えば、一般式(I)の重合性青色光吸収剤との相溶性の観点から、好ましくは0.1重量%~5重量%であり、より好ましくは0.1重量%~3重量%である。
【0056】
本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルにおいては、一般式(I)の重合性青色光吸収剤と共重合可能なモノマーとして、親水性モノマーを用いることが好ましい。親水性モノマーは、親水性に寄与する部分及び重合性官能基を有し、ハイドロゲル材料、特に、コンタクトレンズなどの眼用レンズ材料として通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセロールメタクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマー、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニルホルムアミドなどのビニル系モノマーなどが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。親水性モノマーの配合量は特に限定されないが、例えば、得られるハイドロゲルに好ましい含水率を付与するために、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の全量に対して、好ましくは85重量%~99.9重量%であり、より好ましくは90重量%~99.5重量%である。一般式(I)の重合性青色光吸収剤及び親水性モノマーの種類や配合量をコントロールすることにより、所望の柔軟性や含水率を有するハイドロゲルを得ることが可能となる。
【0057】
本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルにおいては、得られるハイドロゲル眼用レンズに強度、形状安定性及び柔軟性を付与することを目的として、疎水性モノマーを構成成分に用いることができる。疎水性モノマーは、親水性に寄与する部分を有さず、又は該部分を有していたとしても分子全体として疎水性を呈する程度に有し、かつ重合性官能基を有し、ハイドロゲル材料、特に、コンタクトレンズなどの眼用レンズ材料として通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。疎水性モノマーは、所望の物性に合わせ、単独で1種又は2種以上を適宜配合できる。疎水性モノマーの配合量は特に限定されず、所望の物性に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の全量に対して、好ましくは0重量%~30重量%であり、より好ましくは0重量%~20重量%である。疎水性モノマーの配合量が30重量%を超える場合、得られるハイドロゲルポリマーの強度、形状安定性、柔軟性などが低下する可能性がある。
【0058】
本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルにおいては、得られるハイドロゲルに耐熱性や機械的特性を付与することを目的として、架橋性モノマーを構成成分として用いることができる。架橋性モノマーとしては、少なくとも2個の重合性官能基を有し、ハイドロゲル材料、特に、コンタクトレンズなどの眼用レンズ材料として通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエリチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系架橋性化合物;アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、ジアリルエーテル、N,N-ジアリルメラミン、ジビニルベンゼン等のビニル系架橋性化合物などが挙げられる。架橋性モノマーは、所望の物性に合わせ、単独で1種又は2種以上を適宜配合できる。架橋性モノマーの配合量は特に限定されず、ハイドロゲルに付与したい特性に合わせて適宜設定すればよいが、例えば、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の全量に対して、好ましくは0.01重量%~10重量%であり、より好ましくは0.05重量%~3重量%である。架橋性モノマーの配合量が10重量%を超える場合、得られるハイドロゲルの柔軟性が低下する可能性がある。
【0059】
本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルは、当業者により知られている工程を組み合わせることで製造することができ、その製造方法は特に限定されない。本発明の一態様の青色光吸収用ハイドロゲルの非限定的な製造方法として、例えば、下記工程を含む方法などが挙げられる:
構成成分である一般式(I)の青色光吸収剤、親水性モノマー、所望により、疎水性モノマー、架橋性モノマーなどのその他のモノマーを量り込んだ後に、重合開始剤を添加し、撹拌及び溶解することによりモノマー混合液を得る工程;得られたモノマー混合液を所望の成形型に入れ、共重合反応により共重合体を得る工程;共重合体を冷却及び成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、成形した共重合体を水和膨潤させてハイドロゲルを得る工程。
【0060】
重合開始剤は特に限定されず、例えば、熱重合開始剤及び光重合開始剤などが挙げられ、具体的には、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ系重合開始剤などを単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合開始剤の添加量としては、モノマーの共重合反応を促進する十分量であれば特に限定されず、例えば、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の全量に対して、10ppm~7,000ppmが好ましい。
【0061】
共重合体を得る工程は、モノマー混合液を金属、ガラス、プラスチックなどの成形型に入れ、密閉し、恒温槽などで段階的又は連続的に25℃~120℃の範囲で昇温し、5時間~120時間で重合を完了させることにより実施できる。ラジカル重合の誘導には、紫外線、電子線、ガンマ線などを用いてもよい。また、モノマー混合液に水や有機溶媒を添加することで溶液重合を適用してもよい。
【0062】
ハイドロゲルを得る工程は、重合終了後、成形型を室温に冷却し、次いで重合体を成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、水和膨潤させることにより、ハイドロゲルを得る。使用する液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液などが挙げられる。膨潤液を60℃~100℃に加温し、一定時間浸漬させ膨潤状態とする。また、膨潤処理時に重合体に含まれる未重合モノマーを除去することが好ましい。
【0063】
本発明の一態様のハイドロゲルは、約40%(w/w)~約80%(w/w)のポリマーを含むことができる。すなわち、ポリマー(固体)成分は、約40重量%~約80重量%のハイドロゲルを形成することができる。ハイドロゲルの残りは、典型的には、ハイドロゲルのポリマー成分を水和する液体成分(例えば、水)から形成される。例えば、HEMAハイドロゲルは、約42重量%の固体成分を含むことができ、その残部は水などの液体成分である。
【0064】
必要に応じて、当業界で知られている他の添加剤又は成分をモノマーの混合物に含めることができる。そのような添加剤又は他の成分は、例えば、希釈剤、安定剤、染料、顔料、抗菌化合物、離型剤などを含み得る。
【0065】
一般式(I)の重合性青色光吸収剤を用いて形成されたポリマー成分を有するハイドロゲルは、コンタクトレンズ及び眼内レンズなどの眼用レンズの製造に適した親水性及び光学特性を有することができる。ハイドロゲルの特性は、ハイドロゲル材料を用いて製造される眼用レンズにも付与される。ハイドロゲルは青色光吸収作用を有していることから、当該ハイドロゲルを用いて形成されたコンタクトレンズや眼内レンズもまた、青色光吸収作用を有する。
【0066】
本発明者らが得た知見として、含水率、光学的透明性及び色などの眼用レンズの適用に有益なハイドロゲルの特性は、ハイドロゲルポリマー中の一般式(I)の重合性青色光吸収剤の存在の結果として許容できないほど変化しないことが見出されている。すなわち、本発明の一態様のハイドロゲル、例えば、式(1)のtBu-HBA-Lys-MAを用いて形成されたハイドロゲルは、含水率、光学的透明性及び色について、面積、直径及び厚さが同一である場合は、tBu-HBA-Lys-MAを含有しないポリマー成分を有するベースハイドロゲルと遜色がなく、少なくとも許容可能な変動範囲内にある。
【0067】
本発明の一態様のハイドロゲルは、眼用レンズとして適用する場合は、厚さが50μm~150μmであることが好ましい。本発明の一態様のハイドロゲルは、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の総量 100質量部に対して、一般式(I)の重合性青色光吸収剤を1.0質量部~2.0質量部で含むモノマー混合物を共重合反応に供して得られ、かつ中心部の厚さが90μmである場合に、視感透過率が99%以上であり、かつ波長が380nm~420nmである青色光の吸収率が8%以上、好ましくは10%以上であり、及び/又は波長が380nm~500nmである青色光の吸収率が4%以上、好ましくは5%以上であり得る。視感透過率及び青色光吸収率は、後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0068】
本発明の別の側面によれば、上記厚さを有する、本発明の一態様のハイドロゲルから構成される眼用レンズが提供される。本発明の一態様の眼用レンズは、白色の紙の上に載置した場合に、黄色を呈する外観を確認できないことが好ましい。また、本発明の一態様の眼用レンズは、含水率が10%(w/w)以上であることが好ましく、20%(w/w)~70%(w/w)であることがさらに好ましい。
【0069】
本発明の一態様の眼用レンズは、コンタクトレンズであり得る。コンタクトレンズは、親水性レンズであり、一般式(I)の重合性青色光吸収剤と共重合するモノマー又はそれらの組み合わせに応じて、ソフトコンタクトレンズ又はハードコンタクトレンズ(すなわち、硬質ガス透過性(RGP))であり得る。
【0070】
コンタクトレンズには、視力障害を矯正するためのレンズ、眼の障害を治療するために使用されるいわゆる「包帯レンズ」、見かけの眼の色を変えるなどの目的で使用される美容レンズを含み得る。また、本発明の一態様として、眼内レンズ(IOL)でもあり得る。
【0071】
以下、本発明の実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0072】
例1.2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体の青色光吸収作用の評価(1)
2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体である、tBu-HBA-Lys-MA、HMB-Cys-MA、HBE-Glu-MA及びHBA-Lys-MAを構成成分として含むモノマー混合溶液を調製し、モノマー混合溶液の青色光吸収作用を評価した。
【0073】
(評価方法)
[紫外可視透過スペクトル]
紫外-可視分光光度計(「UV-3150」;株式会社島津製作所)を用いて、モノマー混合溶液の紫外可視透過スペクトル(波長域:300nm-500nm、間隔:1nm)を測定した。
【0074】
(tBu-HBA-Lys-MAの合成)
国際公開WO2020/118361(国際出願番号:PCT/AU2019/051356;特許文献5)における「EXAMPLES」における項目「Synthesis of polymerisable UV absorber with hydroxyphenyl-benzotriazole moiety and an alternative anionic linker:HBA-Lys-MA」に記載の方法に準じて、HBAの代わりに下記式(A)に示すtBu-HBA(3-(3-(2H-Benzo[d][1,2,3]triazol-2-yl)-5-(tert-butyl)-4-hydroxyphenyl)propanoic acid)を用いて、下記式(1)のtBu-HBA-Lys-MAを合成した。
【0075】
【化7】
(A)
【0076】
【化8】
(1)
【0077】
(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体の合成)
国際公開WO2020/118361に記載の方法に従って、下記式(2)~(4)のHMB-Cys-MA、HBE-Glu-MA及びHBA-Lys-MAを合成した。
【0078】
【化9】
(2)
【0079】
【化10】
(3)
【0080】
【化11】
(4)
【0081】
(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体含有モノマー溶液の調製)
基材モノマーであるHEMAに対して、0.2mMのtBu-HBA-Lys-MA(0.01質量%)、HMB-Cys-MA(0.01質量%)、HBE-Glu-MA(0.008質量%)又はHBA-Lys-MA(0.009質量%)を添加し、十分に窒素置換しながら約1時間撹拌して混合した。
【0082】
(評価結果)
各モノマー混合溶液の紫外可視透過スペクトルを測定した結果を図1に示す。
【0083】
図1に示すとおり、tBu-HBA-Lys-MAを含有するモノマー混合溶液は、HMB-Cys-MA、HBE-Glu-MA又はHBA-Lys-MAを含有するモノマー混合溶液と比べて、青色光にあたる380nm~500nmの波長域の光透過率が小さかった。
【0084】
特に、青色光の中でも強いエネルギーをもつ短波長側の380nm~420nmの青色光吸収率(=100-[光透過率])を比較すると、HMB-Cys-MA、HBE-Glu-MA又はHBA-Lys-MAを含有するモノマー溶液は5.2%~8.8%であったのに対して、tBu-HBA-Lys-MAを含有するモノマー溶液は19.8%であり、これらの間に2倍以上の差異が認められた。
【0085】
以上の結果より、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体の中でも、tBu-HBA-Lys-MAは、優れた青色光吸収作用を有することがわかった。また、このことから、tBu-HBA-Lys-MAにおけるリンカー(Lys)は、tBu-HBA-Lys-MAが有する青色光吸収作用にほとんど影響を与えないことが示唆された。
【0086】
例2.tBu-HBA-Lys-MAを有するハイドロゲルの青色光吸収作用の評価
共重合体成分として、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体であるtBu-HBA-Lys-MA残基及び/又はHMB残基を含むハイドロゲルを作製し、該ハイドロゲルの透明性及び青色光吸収作用を評価した。
【0087】
(評価方法)
[視感透過率]
紫外-可視分光光度計(「V-750」;日本分光株式会社製)を用いて、少なくとも3個のハイドロゲルの光透過率(%)(波長域:380nm-780nm;間隔:5nm)を測定し、ISO18369-3の試験方法に基づいて、各波長の測定光透過率から視感透過率(%)を算出した。
【0088】
[青色光吸収率]
紫外-可視分光光度計(「V-750」;日本分光株式会社製)を用いて、少なくとも3個のハイドロゲルの光透過率(%)(波長域:380nm-500nm、380nm-420nm;間隔:5nm)を測定し、測定された値から光吸収率を算出し(=100-[光透過率])、さらに得られた光吸収率の平均値を算出して、青色光吸収率(%)とした。
【0089】
[視感透過率及び青色光吸収率の厚み補正]
ハイドロゲルの厚みによる影響を考慮し、コンタクトレンズとして一般的な中心部の厚みである0.09mmを基準にして、下記計算式(X)により補正し、評価した。
【0090】
【数1】
測定波長における光透過率;%T
ハイドロゲルの中心部厚み;t
厚み補正後の光透過率;%Tc
【0091】
(tBu-HBA-Lys-MA/HMB含有ハイドロゲルの合成)
基材モノマー混合物(2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) 96.5質量%、メタクリル酸メチル(MMA) 3.3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA) 0.2質量%) 100質量部に対して、表1に示す割合のtBu-HBA-Lys-MA及び/又は2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタアクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(HMB)並びに重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 0.2質量部を添加し、十分に窒素置換しながら約1時間撹拌して混合した。
【0092】
得られたモノマー混合液を、コンタクトレンズ用の成形型に入れた後、50℃~100℃の範囲で25時間かけて昇温する共重合反応に供した。反応後の成形型を室温まで冷却し、成形型内の共重合体を成形型から取り出した。得られた共重合体を、約80℃の蒸留水中に約4時間浸漬する水和膨潤処理に供して、無色透明なハイドロゲルを得た。
【0093】
(評価結果)
各ハイドロゲルの視感透過率、青色光吸収率及び中心部厚みを測定した結果を表1に示す。
【0094】
表1に示すとおり、tBu-HBA-Lys-MA部分を有するハイドロゲルは良好な透明性を確保しつつも、青色光吸収作用を有し、しかも驚くべきことに、この青色光吸収作用はtBu-HBA-Lys-MAの量依存的に増加した。
【0095】
また、tBu-HBA-Lys-MA部分を有するハイドロゲルの青色光吸収作用は、併存するHMB部分にそれほど影響を受けなかった。
【0096】
【表1】
【0097】
以上の結果より、tBu-HBA-Lys-MA残基を有するハイドロゲルは、透明性及び青色光吸収作用を有し、青色光(ブルーライト)による眼組織への影響を低減するコンタクトレンズなどとして有用であることがわかった。
【0098】
例3.2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体の青色光吸収作用の評価(2)
tBu-HBA-Lys-MAと同じく、分子内にtBu-HBA部分を有し、かつ2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体であるtBu-HBA-PEGMAを構成成分として含むモノマー混合溶液を調製し、該モノマー混合溶液の青色光吸収作用を評価した。
【0099】
(tBu-HBA-PEGMAの合成)
国際公開WO2020/118361に記載の方法に従って、下記式(5)のtBu-HBA-PEGMAを合成した。また、得られたtBu-HBA-PEGMAから、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、PEG鎖長の異なる(nが3~6である)、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA及びtBu-HBA-PEGMAを分取及び単離した。
【0100】
【化12】
(5)
【0101】
(tBu-HBA-PEGMA含有モノマー混合溶液の調製)
tBu-HBA-Lys-MA等に代えて、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA及びtBu-HBA-PEGMAを用いたこと以外は、例1と同様にして、モノマー混合溶液を調製した。
【0102】
(評価結果)
例1と同様にして、tBu-HBA-Lys-MA、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA、tBu-HBA-PEGMA又はtBu-HBA-PEGMAを含有するモノマー混合溶液の紫外可視透過スペクトルを測定した。
【0103】
測定したスペクトルから、380nm~420nmの波長域の青色光吸収率を比較したところ、tBu-HBA-Lys-MA含有モノマー混合溶液(19.8%)とtBu-HBA-PEGMA含有モノマー混合溶液(17.1%~20.6%)との間に、大きな差異は認められなかった。
【0104】
一方、国際公開WO2020/118361に記載があるとおり、tBu-HBA-PEGMA部分を有するハイドロゲルは、不透明であり、コンタクトレンズとしては不適なものであった。同様に、国際公開WO2020/118361に記載があるとおり、分子内にHBA及び重合性基を有し、かつリンカーの無いHMBを用いた場合も、得られるハイドロゲルは不透明であり、コンタクトレンズとしては不適なものである。
【0105】
以上の結果より、tBu基を有する紫外線吸収部位、非PEGリンカー及び重合性部位を有する2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体を青色光吸収用モノマーとして用いることにより、得られるハイドロゲルは、透明性及び青色光吸収作用を有し、青色光(ブルーライト)による眼組織への影響を低減するコンタクトレンズなどとして有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、工業的な製造及び市販による提供を介して、コンピューターディスプレイ、スマートフォン、ビデオゲーム機などのLEDディスプレイ及びLED照明から発せられる青色光を抑制乃至遮断することができることから、青色光による眼組織などの人体組織への悪影響を防ぐことができ、もって生物個体に対する健康及び福祉に資することができる。


図1