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特開2022-190932往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法
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  • 特開-往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190932
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 13/00 20060101AFI20221220BHJP
   F04B 9/02 20060101ALI20221220BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F04B13/00 A
F04B9/02 C
F04B51/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099475
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 英明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正
(72)【発明者】
【氏名】原田 基至
【テーマコード(参考)】
3H075
3H145
【Fターム(参考)】
3H075AA15
3H075BB03
3H075CC10
3H075CC16
3H075CC18
3H075CC37
3H075CC40
3H075DA04
3H075DA14
3H075DB01
3H075DB29
3H075EE18
3H145AA03
3H145AA12
3H145BA41
3H145EA22
3H145EA41
3H145EA50
(57)【要約】
【課題】より容易かつ正確にウェアリングの摩耗量を評価することが可能な往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法を提供する。
【解決手段】往復動ポンプは、軸線を中心とする円柱状のピストン本体と、ピストン本体の外周面に設けられたウェアリングと、ピストン本体及びウェアリングを外周側から覆うことで圧縮室を形成するシリンダと、ピストン本体を軸線方向に往復動させる駆動部と、シリンダの内周面とピストン本体との間の径方向における離間距離を計測することでピストン本体の径方向における変位を取得する計測部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とする円柱状のピストン本体と、
該ピストン本体の外周面に設けられ、前記軸線を中心とする円環状をなすウェアリングと、
前記ピストン本体、及び前記ウェアリングを外周側から覆うことで前記ピストン本体との間に圧縮室を形成するシリンダと、
前記ピストン本体を前記軸線方向に往復動させる駆動部と、
前記シリンダの内周面と前記ピストン本体との間の径方向における離間距離を計測することで前記ピストン本体の径方向における変位を取得する計測部と、
を備える往復動ポンプ。
【請求項2】
前記計測部は、前記シリンダにおける前記液体の液面よりも上方に設けられている請求項1に記載の往復動ポンプ。
【請求項3】
前記計測部は、前記軸線方向に間隔をあけて一対設けられている請求項1又は2に記載の往復動ポンプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の往復動ポンプの摩耗検知方法であって、
前記計測部によって前記ピストン本体の径方向における変位を取得する計測ステップと、
経過時間と、該経過時間における前記変位の最大値を記録する記録ステップと、
前記変位の最大値と、予め定められた下限閾値の大小を判定する第一判定ステップと、
該第一判定ステップで前記変位の最大値が前記下限閾値よりも大きいと判定された場合に、前記ウェアリングの摩耗が進行していると判断して管理者に通報する通報ステップと、
を含む往復動ポンプの摩耗検知方法。
【請求項5】
前記通報ステップの後に、前記最大値の時間変化に基づいて前記ウェアリングの摩耗量を予測する予測ステップと、
該予測ステップで予測した前記摩耗量に基づいて、前記ウェアリングの交換時期を通知する交換時期通知ステップと、
をさらに含む請求項4に記載の往復動ポンプの摩耗検知方法。
【請求項6】
前記交換時期通知ステップの後に、前記変位の最大値と、予め定められた前記下限閾値よりも大きい値である上限閾値の大小を判定する第二判定ステップと、
該第二判定ステップで前記変位の最大値が前記上限閾値よりも大きいと判定された場合に前記ウェアリングの摩耗によって異常が発生している判断して管理者に通報する異常通報ステップと、
をさらに含む請求項5に記載の往復動ポンプの摩耗検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体水素を圧縮するための装置としてこれまで往復動ポンプが用いられている。この種のポンプは、一例として90Mpa程度まで液体水素を昇圧させることが可能とされている。具体的には往復動ポンプは、軸線方向に往復動するピストン本体と、このピストン本体の外周面に取り付けられたウェアリングと、ピストン本体を外側から覆うシリンダと、を主に備えている。ピストン本体がシリンダ内で往復動することによって液体水素が順次圧縮され、外部に取り出される。
【0003】
ウェアリングは、ピストン本体をシリンダ内で案内するために設けられる摺動部材である。したがって、経年使用によってウェアリングに摩耗を生じる場合がある。ウェアリングの摩耗が進行するとピストン本体とシリンダとが接触してしまう虞がある。このため、ウェアリングの摩耗の進行を管理できる技術に対する要請が高まっていた。
【0004】
この種の技術の一例として、下記特許文献1に記載された診断方法が提唱されている。この診断方法は、遠心ポンプの羽根車とケーシングとの間に設けられたウェアリングの摩耗量を評価するための技術である。この方法では、揚程、及び流量の計画値と実測値とを比較することで、ウェアリングの摩耗度合を診断することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-202144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように揚程、及び流量の計画値と実測値を得るためには、ポンプの吸い込み圧や吐出圧、モータの電圧や電流、効率など、多数のパラメータを常態的に取得して解析する必要がある。このため、上記特許文献1に記載された技術には依然として改良の余地がある。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、より容易かつ正確にウェアリングの摩耗量を評価することが可能な往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る往復動ポンプは、軸線を中心とする円柱状のピストン本体と、該ピストン本体の外周面に設けられ、前記軸線を中心とする円環状をなすウェアリングと、前記ピストン本体、及び前記ウェアリングを外周側から覆うことで前記ピストン本体との間に圧縮室を形成するシリンダと、前記ピストン本体を前記軸線方向に往復動させる駆動部と、前記シリンダを外側から覆うことで内側に液体が貯留される液貯留室を形成するケーシングと、前記シリンダに設けられ、前記液貯留室から前記圧縮室に向かう方向のみに前記液体を流通させることが可能な逆止弁と、前記圧縮室から外部に延びる排出配管と、該排出配管上に設けられ、前記圧縮室から前記外部に向かう方向のみに前記液体を流通させることが可能な吐出弁と、前記シリンダの内周面と前記ピストン本体との間の径方向における離間距離を計測することで前記ピストン本体の径方向における変位を取得する計測部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、より容易かつ正確にウェアリングの摩耗量を評価することが可能な往復動ポンプ、及び往復動ポンプの摩耗検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る往復動ポンプの縦断面図であって、ピストンが下死点に位置している状態を示す図である。
図2】本開示の実施形態に係る往復動ポンプの縦断面図であって、ピストンが上死点に位置している状態を示す図である。
図3】本開示の実施形態に係る往復動ポンプの摩耗検知方法を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施形態に係る往復動ポンプの変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る往復動ポンプ100、及び往復動ポンプの摩耗検知方法について、図1から図3を参照して説明する。
【0012】
(往復動ポンプの構成)
往復動ポンプ100は、一例として液体水素のような極低温の液体を高圧(90MPa程度)まで昇圧するための装置である。図1に示すように、往復動ポンプ100は、ピストン1と、シリンダ2と、駆動部3と、ケーシング4と、逆止弁5と、排出配管6と、吐出弁7と、計測部8と、を備えている。
【0013】
(ピストンの構成)
ピストン1は、上下方向に延びる軸線Oを中心とする円柱状のピストン本体10と、このピストン本体10に取り付けられたウェアリング11、及びピストンリング12と、を有している。ピストン本体10の径方向における寸法は軸線O方向の全域にわたって一定である。ウェアリング11は、ピストン本体10の先端部に設けられている。ウェアリング11は、軸線Oを中心とする円環状をなし、樹脂材料で形成されている。
【0014】
ピストン本体10の下方の端部に1つのウェアリング11が設けられ、当該ウェアリング11から軸線O方向に間隔をあけてさらに1つのウェアリング11が設けられている。これら一対のウェアリング11の間には、軸線O方向に間隔をあけて配列された複数(一例として6つ)のピストンリング12が設けられている。ウェアリング11は、後述するシリンダ2の内周面に沿ってピストン本体10を案内するために設けられている。一方で、ピストンリング12は、シリンダ2の内周面との間で液密性と気密性を保つために設けられている。
【0015】
(シリンダの構成)
シリンダ2は、ピストン1を外周側から覆う有底円筒状をなしている。ピストン1は、シリンダ2の上方の開口部hから当該シリンダ2の内部に挿入されている。シリンダ2の内部におけるピストン1の先端部よりも下方の空間は圧縮室21とされている。シリンダ2の底部には、この圧縮室21への液体水素を導くための逆止弁5が設けられている。この逆止弁5は、シリンダ2の外部から圧縮室21内に向かう方向のみに液体水素を流入させることが可能とされている。言い換えると、圧縮室21の圧力が高まっても、逆止弁5を通じて液体水素がシリンダ2の外部に流出することがない。
【0016】
シリンダ2の側面であって、上記の圧縮室21の臨む部分には、排出配管6が接続されている。排出配管6は、圧縮室21で圧縮された液体水素をシリンダ2の外部に取り出すために設けられている。この排出配管6上には、吐出弁7が設けられている。吐出弁7は、圧縮室21内の圧力が所定の値以上になった場合に、当該圧縮室21から外部に向かう方向のみに液体水素を流通させることが可能とされている。
【0017】
(駆動部の構成)
上述のピストン1は、シリンダ2内で駆動部3によって駆動力を与えられることで軸線O方向に往復動する。駆動部3は、偏心軸部31と、回転体32と、リンク部33と、揺動軸部35と、クロスヘッド36と、ハウジング37と、を有している。
【0018】
偏心軸部31は、不図示の電動機によって、軸線Oに直交する水平方向に延びる回転軸X回りに回転駆動される。偏心軸部31は回転軸Xを中心とする円柱状をなしている。回転体32は、この偏心軸部31に一体に設けられ、回転軸Xとは異なる軸を中心とする円盤状をなしている。つまり、回転体32の中心に対して、偏心軸部31の回転軸Xは偏心した位置に設けられている。偏心軸部31が回転駆動されることで、回転体32は回転軸Xを中心として旋回する。
【0019】
リンク部33は、回転体32の旋回運動を軸線O方向の往復運動に変換してピストンに伝達するための部材である。リンク部33は、回転体32を外周側から覆う円環状の上部環状部33aと、接続部33bと、下部環状部33cと、を有している。上部環状部33aの内周面と回転体32の外周面との間には不図示の軸受装置が設けられている。下部環状部33cは、上部環状部33aと同様に円環状をなし、接続部33bによって上部環状部33aに一体に接続されている。この下部環状部33cの下端には、揺動軸部35が取り付けられている。揺動軸部35の下方の端部はピストン1の上方の端部に接続されている。揺動軸部35は、下部環状部33cに対して軸線Oと直交する水平方向に延びる揺動軸回りに揺動することが可能とされている。
【0020】
クロスヘッド36は、下部環状部33cを外側から覆う有底円筒状をなしている。クロスヘッド36の外周側にはハウジング37が設けられている。回転体32の旋回に伴ってリンク部33が往復動する際、ハウジング37の内周面に対してクロスヘッド36の外周面が摺動した状態となる。
【0021】
(ケーシングの構成)
ケーシング4は、上述のシリンダ2を外側から覆う容器である。ケーシング4は、有底筒状のケーシング本体41と、供給管42と、ガス排出管43と、を有している。供給管42は、外部の供給源から液体水素をケーシング本体41内(液貯留室44)に導くための配管である。供給管42はケーシング本体41の底面近傍に設けられている。ガス排出管43は、液貯留室44内で気化した成分(ガス成分)を外部に排出するために設けられている。ガス排出管43は、供給管42よりも上方に離間した位置に設けられている。また、液貯留室44内の液体水素の液面は、このガス排出管43よりも下方に位置するように調節される。なお、上述した排出配管6は、このケーシング4の外部にまで延びている。
【0022】
(計測部の構成)
計測部8は、シリンダ2の内周面と、ピストン本体10の外周面との間の離間距離(間隙)を計測するための変位センサである。計測部8は、シリンダ2の側面上で軸線O方向に間隔をあけて一対設けられている。下方に位置する下部計測部81は、図1に示す状態(つまり、ピストン1が上死点にある状態)において、ウェアリング11よりも上方に位置している。また、下部計測部81は、液貯留室44の液体水素の液面よりも上方に位置している。下部計測部81よりも上方に位置する上部計測部82は、下部計測部81に対して数10センチメートル程度上方に離間した位置に設けられている。より具体的には、上部計測部82は、シリンダ2とケーシング4の接合部付近に設けられることが望ましい。なお、上部計測部82は、ケーシング4のさらに上方(つまり、液貯留室44の外部)に設けられていてもよい。
【0023】
(往復動ポンプの摩耗検知方法)
次いで、図1から図3を参照して、往復動ポンプ100の動作、及びその摩耗検知方法について説明する。往復動ポンプ100を動作させるに当たっては、まず不図示の電動機によって偏心軸部31を回転軸X回りに回転駆動する。これにより、回転体32が一体となって回転軸X回りに旋回(公転)する。この旋回に伴って、リンク部33、及び揺動軸部35が軸線O方向に往復動する。この往復運動がピストン1に伝達され、当該ピストン1はシリンダ2内で軸線O方向に往復動する。
【0024】
上述したように、図1はピストン1が下死点にある状態を示している。つまり、圧縮室21の容積が最大となっている。一方で、図2はピストン1が上死点にある状態を示している。つまり、圧縮室21の容積が最小となっている。上死点から下死点に至るまでの間に、図1中の矢印で示すような液体水素の流れが生じる。具体的には、ピストン1が上方に移動する間に、逆止弁5を通じて液貯留室44内の液体水素が圧縮室21内に吸い上げられる。液貯留室44内の圧力は一定であることから、この圧縮室21への液体水素の吸い上げと同時に、供給管42を通じて液貯留室44に外部から新たな液体水素が供給される。
【0025】
ピストン1が下死点に至った後、下方に移動する際には、図2中の矢印で示すような液体水素の流れが生じる。まず、ピストン1が下方に移動することで圧縮室21の容積が縮小して、液体水素が圧縮される。この圧縮室21の圧力が所定の圧力以上となった時に、吐出弁7が開放される。これにより、圧縮室21内で昇圧された液体水素は排出配管6を通じて外部に導かれる。このような動作を繰り返すことで、液体水素の昇圧が行われる。
【0026】
ここで、往復動ポンプ100を長期にわたって運用した場合、ウェアリング11に摩耗を生じることがある。ウェアリング11が摩耗すると、ピストン1がシリンダ2に接触してしまい、往復動ポンプ100の安定的な動作に影響を及ぼす可能性がある。そこで、本実施形態に係る往復動ポンプ100では、上述した計測部8としてのギャップセンサによって、シリンダ2の内周面とピストン本体10との間の離間距離を常態的に計測する構成を採っている。
【0027】
ウェアリング11の摩耗が進行すると、ピストン本体10はシリンダ2内で軸線Oに対する径方向に変位することとなる。計測部8によって上記の離間距離を計測し続けることで、ピストン本体10の径方向への変位を取得することが可能となる。つまり、ウェアリング11の摩耗の進行状態を評価することが可能となる。
【0028】
具体的には、図3に示すように、本実施形態に係る往復動ポンプ100の摩耗検知方法は、計測ステップS1と、記録ステップS2と、第一判定ステップS3と、通報ステップS4と、予測ステップS5と、交換時期通知ステップS6と、第二判定ステップS7と、異常通報ステップS8と、を含む。
【0029】
計測ステップS1では、計測部8によって、ピストン本体10の径方向における変位を取得する。(なお、以下の説明では、ピストン本体10の径方向への変位を単に「変位」と呼ぶ。)記録ステップS2では、計測開始からの経過時間と、当該経過時間における変位の最大値を記録する。
【0030】
次いで、第一判定ステップS3では、変位の最大値と、予め定められた下限閾値の大小を判定する。第一判定ステップS3で変位の最大値が下限閾値よりも大きい(下限閾値以上)と判定された場合(ステップS3:Yes)、ウェアリング11の摩耗が進行していると判断して管理者にアラーム等を通じて通報する(通報ステップS4)。第一判定ステップS3で、変位の最大値が下限閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS3:No)、上記の計測ステップS1に戻る。
【0031】
さらに、通報ステップS4を実行した後、予測ステップS5では、変位の最大値の時間変化に基づいて、ウェアリング11の将来的な摩耗量を予測する。つまり、変位の最大値の時間変化から摩耗量と時間の関係を表すグラフを作成する。続く交換時期通知ステップS6では、この予測ステップS5で得られた予測に基づいて、ウェアリング11の交換時期を通知する。つまり、ウェアリング11が耐用限界を超える前に交換すべき旨を通知する。なお、ウェアリング11の交換時期を判定するために、摩耗傾向を機械学習させた判定ツールを用いてもよい。
【0032】
交換時期通知ステップS6を経てもなおウェアリング11の摩耗が進行している場合(つまり、ウェアリング11を交換しなかった場合)、後続の第二判定ステップS7を実行する。第二判定ステップS7では、変位の最大値と、下限閾値よりも大きい値である上限閾値の大小を判定する。第二判定ステップS7で変位の最大値が上限閾値よりも大きい(上限閾値以上)と判定された場合(ステップS7:Yes)、ウェアリング11の摩耗が進行しきっていると判断して管理者にアラーム等を通じて異常を通報する(異常通報ステップS8)。これを受け、管理者は往復動ポンプ100の運転を停止させる等の緊急手段を講じることが望ましい。第二判定ステップS7で、変位の最大値が上限閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS7:No)、上記の計測ステップS1に戻る。以上の各ステップが往復動ポンプ100の運転中に常態的に繰り返して行われる。
【0033】
(作用効果)
以上、説明したように、上記構成によれば、計測部8によってピストン本体10の径方向における変位を取得することのみによって、ウェアリング11の摩耗の進行を検知することができる。つまり、従来のようにポンプの揚程や効率の計画値と実測値からウェアリング11の摩耗を推定する方法よりも簡易かつ安価な構成によってウェアリング11の摩耗を管理することが可能となる。
【0034】
さらに、上記構成によれば、例えば液体水素を用いる場合に、計測部8が当該液体水素の液面よりも上方に位置していることから、極低温による計測精度への影響を回避することができる。また、計測部として極低温に耐えうる程度の耐久性を要しないことから、製造コストやメンテナンスコストを削減することができる。
【0035】
また、上記構成によれば、計測部8が軸線O方向に間隔をあけて一対設けられていることから、ピストン本体10の径方向における変位に加えて、軸線Oに対するピストン本体10の傾きをも検知することができる。これにより、ウェアリング11の摩耗の進行状態をさらに精緻に知ることが可能となる。
【0036】
さらに、上記方法によれば、ピストン本体10の変位の最大値が下限閾値よりも大きいと判定された場合に、ウェアリング11の摩耗が進行していると判断して管理者に通報することができる。これにより、ウェアリング11が摩耗しきって異常が発生する前にその予兆を検知することができる。
【0037】
加えて、上記方法によれば、予測ステップS5で、ピストン本体10の変位の最大値の時間変化に基づいてウェアリング11の摩耗量が予測される。この予測に基づいて、ウェアリング11を交換すべき時期を通知することができる。これにより、ウェアリング11が摩耗しきって異常が発生する前により積極的なメンテナンスを行うことが可能となる。
【0038】
また、上記方法によれば、ウェアリング11が摩耗しきって異常が発生した場合には、異常通報ステップS8で管理者にその旨が通報されるため、装置を停止させる等の緊急手段を直ちに講じることができる。これにより、装置をより長期にわたって安定的に維持することが可能となる。
【0039】
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成や方法に種々の改修や変更を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、往復動ポンプ100の作動流体として液体水素を用いた例について説明した。しかしながら、作動流体は液体水素に限られず、他の液体を用いることも可能である。
また、上記実施形態では往復動ポンプ100がケーシング4を備えている例について説明した。しかしながら、図4に示すように、ケーシング4を備えない構成を採ることも可能である。
【0040】
<付記>
各実施形態に記載の往復動ポンプ100、及び往復動ポンプ100の摩耗検知方法は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係る往復動ポンプ100は、軸線Oを中心とする円柱状のピストン本体10と、該ピストン本体10の外周面に設けられ、前記軸線Oを中心とする円環状をなすウェアリング11と、前記ピストン本体10、及び前記ウェアリング11を外周側から覆うことで前記ピストン本体10との間に圧縮室21を形成するシリンダ2と、前記ピストン本体10を前記軸線O方向に往復動させる駆動部3と、前記シリンダ2の内周面と前記ピストン本体10との間の径方向における離間距離を計測することで前記ピストン本体10の径方向における変位を取得する計測部8と、を備える。
【0042】
上記構成によれば、計測部8によってピストン本体10の径方向における変位を取得することのみによって、ウェアリング11の摩耗の進行を検知することができる。つまり、より簡易かつ安価な構成によってウェアリング11の摩耗を管理することが可能となる。
【0043】
(2)第2の態様に係る往復動ポンプ100では、前記計測部8は、前記シリンダ2における前記液体の液面よりも上方に設けられている。
【0044】
上記構成によれば、例えば液体水素を用いる場合に、計測部8が当該液体水素の液面よりも上方に位置していることから、極低温による計測精度への影響を回避することができる。
【0045】
(3)第3の態様に係る往復動ポンプ100では、前記計測部8は、前記軸線O方向に間隔をあけて一対設けられている。
【0046】
上記構成によれば、計測部8が軸線O方向に間隔をあけて一対設けられていることから、軸線Oに対するピストン本体10の傾きをも検知することができる。これにより、ウェアリング11の摩耗の進行状態をさらに精緻に知ることが可能となる。
【0047】
(4)第4の態様に係る往復動ポンプの摩耗検知方法は、上記いずれか一の態様に係る往復動ポンプ100の摩耗検知方法であって、前記計測部8によって前記ピストン本体10の径方向における変位を取得する計測ステップS1と、経過時間と、該経過時間における前記変位の最大値を記録する記録ステップS2と、前記変位の最大値と、予め定められた下限閾値の大小を判定する第一判定ステップS3と、該第一判定ステップS3で前記変位の最大値が前記下限閾値よりも大きいと判定された場合に、前記ウェアリング11の摩耗が進行していると判断して管理者に通報する通報ステップS4と、を含む。
【0048】
上記方法によれば、ピストン本体10の変位の最大値が下限閾値よりも大きいと判定された場合に、ウェアリング11の摩耗が進行していると判断して管理者に通報することができる。これにより、ウェアリング11が摩耗しきって異常が発生する前にその予兆を検知することができる。
【0049】
(5)第5の態様に係る往復動ポンプ100の摩耗検知方法は、前記通報ステップS4の後に、前記最大値の時間変化に基づいて前記ウェアリング11の摩耗量を予測する予測ステップS5と、該予測ステップS5で予測した前記摩耗量に基づいて、前記ウェアリング11の交換時期を通知する交換時期通知ステップS6と、をさらに含む。
【0050】
上記方法によれば、予測ステップS5で、ピストン本体10の変位の最大値の時間変化に基づいてウェアリング11の摩耗量が予測される。この予測に基づいて、ウェアリング11を交換すべき時期を通知することができる。
【0051】
(6)第6の態様に係る往復動ポンプ100の摩耗検知方法は、前記交換時期通知ステップS6の後に、前記変位の最大値と、予め定められた前記下限閾値よりも大きい値である上限閾値の大小を判定する第二判定ステップS7と、該第二判定ステップS7で前記変位の最大値が前記上限閾値よりも大きいと判定された場合に前記ウェアリング11の摩耗によって異常が発生している判断して管理者に通報する異常通報ステップS8と、をさらに含む。
【0052】
上記方法によれば、ウェアリング11が摩耗しきって異常が発生した場合には、管理者にその旨が通報されるため、装置を停止させる等の緊急手段を直ちに講じることができる。
【符号の説明】
【0053】
100 往復動ポンプ
1 ピストン
2 シリンダ
3 駆動部
4 ケーシング
5 逆止弁
6 排出配管
7 吐出弁
8 計測部
10 ピストン本体
11 ウェアリング
12 ピストンリング
21 圧縮室
31 偏心軸部
32 回転体
33 リンク部
33a 上部環状部
33b 接続部
33c 下部環状部
35 揺動軸部
36 クロスヘッダ
37 ハウジング
41 ケーシング本体
42 供給管
43 ガス排出管
44 液貯留室
81 下部計測部
82 上部計測部
h 開口部
O 軸線
X 回転軸
図1
図2
図3
図4