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特開2022-190933バスバー電線用導体、及びバスバー電線
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  • 特開-バスバー電線用導体、及びバスバー電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190933
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】バスバー電線用導体、及びバスバー電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20221220BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01B5/00
H01B7/00 302
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099476
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】白井 瑞木
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 毅
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
【Fターム(参考)】
5G307AA01
5G309BA11
(57)【要約】
【課題】平面方向の曲げに対してクラックが入ってしまう可能性を低減することを防止することができるバスバー電線用導体及びバスバー電線を提供する。
【解決手段】平型導体10は、断面形状が概略矩形状とされた導電性の板材により構成されたものであって、板材平面を含む板材の長手方向と直交する幅方向の一側に空隙11bを有する。バスバー電線は、このような平型導体10と、平型導体10を被覆する絶縁体である絶縁被覆とを備え、絶縁被覆は、平型導体10に形成される空隙11bに非充填状態となっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が概略矩形状とされた導電性の板材により構成されたバスバー電線用導体であって、
前記板材平面を含む前記板材の長手方向と直交する幅方向の一側に開口が形成されている
ことを特徴とするバスバー電線用導体。
【請求項2】
請求項1に記載のバスバー電線用導体と、
前記バスバー電線用導体を被覆する絶縁体である絶縁被覆と、を備え、
前記絶縁被覆は、前記バスバー電線用導体に形成される開口の少なくとも一部に非充填状態となっている
ことを特徴とするバスバー電線。
【請求項3】
前記バスバー電線用導体のうち前記開口が形成された部位において、前記一側が内側となるように前記板材平面に沿って曲げられている
ことを特徴とする請求項2に記載のバスバー電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー電線用導体、及びバスバー電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等への配索の際に省スペース化を図る観点から、断面矩形状(平型状)とされた平型導体を用いたバスバー電線が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-238927号公報
【特許文献2】特開2016-76316号公報
【特許文献3】特開2018-160317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1~3に記載のバスバー電線については、車両形状等に合わせた配索を行うために、平型導体の平面方向に曲げを行う必要がある。平面方向の曲げ時には、車所定の曲げRを有する曲げ治具が曲げ内側に接するように配置される。このため、特許文献1~3に記載のバスバー電線は、平面方向への曲げ時に平型導体の内側部分の金属が圧縮されてしまい、内側の板厚が増加する傾向にあり、これが原因となってクラックが発生してしまう。クラックが発生してしまうと電気的特性が予期せぬ変化をしてしまうことから、仕様を満たさなくなる等の問題が生じてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、平面方向の曲げに対してクラックが入ってしまう可能性を低減することができるバスバー電線用導体及びバスバー電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、断面形状が概略矩形状とされた導電性の板材により構成されたバスバー電線用導体であって、前記板材の平面方向の一側に開口が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、板材の平面方向の一側に開口が形成されているため、一側が内側となるように曲げられた場合、内側の圧縮によって開口を埋めるように作用し、板厚が増加することを抑制することとなる。従って、平面方向の曲げ時に曲げ内側の板厚増加を抑えて、クラックが入ってしまう可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るバスバー電線を示す第1の斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るバスバー電線を示す第2の斜視図である。
図3図2に示したバスバー電線の平型導体を示す斜視図である。
図4図2に示したバスバー電線の断面図である。
図5】本実施形態に係るバスバー電線の作用を説明するための上面図である。
図6】第1変形例に係る平型導体を示す構成図である。
図7】第2変形例に係る平型導体を示す構成図である。
図8】第3変形例に係る平型導体を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るバスバー電線を示す第1の斜視図であり、図2は、本発明の実施形態に係るバスバー電線を示す第2の斜視図である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係るバスバー電線1は、例えばワイヤーハーネスとして車両内に配索されるものであって、平型導体(バスバー電線用導体)10と、絶縁被覆20とを備えている。
【0011】
平型導体10は、例えばアルミニウム及び不可避不純物等の導電性の板材により構成されており、長手方向に直交する断面形状(後述の空隙11bを通る断面においては空隙11bの除く断面の形状)が概略矩形状(完全な矩形状のみならず角部がやや丸みを有した矩形状も含む)とされたものである。なお、本実施形態において平型導体10は一枚板によって構成されているが、これに限らず、平型導体10は厚み方向に複数枚積層されたものであってもよい。また、厚み方向よりも幅方向に長い矩形状であれば、幅方向に複数積層されて構成されていてもよい。
【0012】
絶縁被覆20は、平型導体10の外周に被覆される絶縁体によって構成されている。この絶縁被覆20は、例えばPP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)及びPVC(Poly Vinyl Cloride)等によって構成されている。
【0013】
さらに、本実施形態において平型導体10は、電源線として使用が可能となるように、所定の板厚と板幅とを有して所定以上の断面積(例えば15mm以上の断面積(平型導体10が一枚板でなく複数枚等で構成される場合には合計断面積))が確保されるようになっている。
【0014】
このような本実施形態に係るバスバー電線1(平型導体10)は、図2に示すように略直線状となるように製造され、車両配索時には車両形状に合致するように折り曲げられて図1に示す曲げ部2を備えるものとなる。この曲げ部2のうち一部の曲げ部2aは、平型導体10の平面方向(面内)に曲げられたものとなっている。
【0015】
図3は、図2に示したバスバー電線1の平型導体10を示す斜視図であり、図4は、図2に示したバスバー電線1の断面図である。なお、図3に示す平型導体10は、図1に示したように平面方向の一側に曲げられた特定曲げ部2a1付近を図示するものであり、図4については図3に示す符号11b部分を通過する断面を示している。
【0016】
図3に示すように、平型導体10は、特定曲げ部2a1に対応する箇所に櫛歯部11を有している。櫛歯部11は、平型導体10の平面方向の一側(以下、長手方向に直交する幅方向に2分割したときの一方を一側といい、他方を他側という)において形成され、凹凸形状となっている。詳細に説明すると、櫛歯部11は、一側に向かって延びる複数の板部11aを有し、複数の板部11aの両側(平型導体10の長手方向に沿う両側)となる位置が刳り貫かれたような空隙(開口)11bとなっている。本実施形態においては、平型導体10を平面視して空隙11bの重心が平型導体10の一側に位置している。
【0017】
本実施形態に係るバスバー電線1は、このような平型導体10に対してチューブ押出等によって絶縁被覆20が設けられており、図4に示すように絶縁被覆20は、平型導体10に形成される空隙11bに非充填状態となっている。なお、図4に示す例において空隙11bには絶縁被覆20が一切充填されていない状態となっている。しかし、空隙11bの少なくとも一部が非充填状態となっており後述する作用を得ることができれば、空隙11bには多少絶縁被覆20が充填されていてもよい。具体的に空隙11bは少なくとも全体の20%以上が非充填状態となっていればよく、好ましくは全体の50%以上が非充填状態となっていればよく、さらに好ましくは全体の80%以上が非充填状態となっていればよい。
【0018】
なお、図3においては特定曲げ部2a1付近のみを図示しているが、図1に示す他の曲げ部2aも同様であって、曲げ内側に図3に示した櫛歯部11が形成されている。
【0019】
次に、本実施形態に係るバスバー電線1の作用を説明する。図5は、本実施形態に係るバスバー電線1の作用を説明するための上面図である。なお、図5においては平型導体10及び曲げ治具BJを実線で示し、絶縁被覆20を破線で示している。
【0020】
図2に示す直線的なバスバー電線1に対して図1に示すような曲げ部2a(特定曲げ部2a1)を形成する場合、平面方向の一側(曲げ内側)に曲げ治具BJが配置される。作業者は、この曲げ治具BJに沿ってバスバー電線1を曲げることで、所定の曲げRを有した曲げ部2aを形成する。
【0021】
ここで、図5に示すように、バスバー電線1が平面方向に曲げられる場合、平型導体10の曲げ内側が圧縮状態となる。しかも、平型導体10を構成する金属は曲げ治具BJの存在によって内側には逃げられず、平型導体10の板厚が増加する傾向にある。そして、この板厚の増加が原因となってクラックが発生する可能性があった。
【0022】
しかし、本実施形態において平型導体10は平面方向の一側(曲げ内側)に櫛歯部11が形成されている。さらに、絶縁被覆20は櫛歯部11の空隙11bに少なくとも一部が非充填状態となっている。このため、平型導体10は、平面方向の曲げ時に櫛歯部11の空隙11bを埋めるように形状変化して、板厚の増加が抑えられることとなる。
【0023】
特に、板厚の増加が抑えられるだけでなく、空隙11bが埋まるようにして板部11a同士が接触することから、複数の板部11a同士を介して電流を流すことができ、これを利用して電気的特性の維持を図ることもできる。
【0024】
なお、図5に示す例では複数の板部11a(図3参照)が接触しているが、複数の板部11aが接触しないことを前提に電気的特性が確保されるように平型導体10の断面積等が決定されていてもよい。
【0025】
ここで、図5に示すように、バスバー電線1は曲げ治具BJを利用して曲げ半径Rとなるように曲げられる。このとき、バスバー電線1の曲げ中心CLから曲げ治具BJの中心までの距離bについては、2.44mm以上であることが好ましい。本件発明者らが鋭意研究した結果、板部11aの長さや厚み、空隙11bの長さ等を様々な値に変化させて計測した結果、曲げ中心CLから曲げ治具BJの中心までの距離bが2.44mm以上とすると、例えば櫛歯部11を有しない場合にR15においてクラックが入っていたものがR5であってもクラックが入らなくなり、クラックの低減効果が飛躍的に向上することがわかった。このため、距離bについては、2.44mm以上であることが好ましいといえる。
【0026】
また、板部11aは、薄いことが好ましく、例えば平型導体10の長手方向に沿った厚みが7.5mm以下であること好ましい。板部11aが薄くなることにより曲げ時の圧縮によって平型導体10の板厚が増加し難くなるためである。
【0027】
また、空隙11bの距離(板部11a間の距離)は長いことが好ましく、例えば1.0mm以上であることが好ましい。空隙11bの距離が長くなることにより曲げ時の圧縮によって平型導体10の板厚が増加し難くなるためである。
【0028】
このようにして、本実施形態に係る平型導体10によれば、板材の幅方向の一側に空隙11bが形成されているため、一側が内側となるように曲げられた場合、内側の圧縮によって空隙11bを埋めるように作用し、板厚が増加することを抑制することとなる。従って、平面方向の曲げ時に曲げ内側の板厚増加を抑えて、クラックが入ってしまう可能性を低減することができる。
【0029】
また、本実施形態に係るバスバー電線1によれば、絶縁被覆20は空隙11bの少なくとも一部に非充填状態となっているため、絶縁被覆20によって空隙11bが完全に埋まってしまい、平面方向の曲げ時に空隙11bを埋める作用を極端に発揮し難くなってしまう事態を防止することができる。
【0030】
さらに、バスバー電線1は、空隙11bが形成された部位において、一側が内側となるように板材平面に沿って曲げられているため、所定の曲げRを実現しつつもクラックの発生を抑えたバスバー電線1を提供することができる。
【0031】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0032】
図6図8は、第1~第3変形例に係る平型導体10を示す構成図である。図6に示すように、第1変形例に係る平型導体10は、同一幅で長手方向に延びる本体部10aの一側から突出するように櫛歯部11を備えている。
【0033】
ここで、突出する櫛歯部11を備えない場合には、曲げ治具BJ(図5参照)を使用した曲げ中心CL1は図6の一点鎖線に示すラインとなる。すなわち、本体部10aの幅中心線となる。これに対して突出する櫛歯部11を備える部分については、曲げ治具BJを使用した曲げ中心CL2は図6の二点鎖線に示すラインとなる。すなわち、突出する櫛歯部11が形成された部分においては曲げ中心CL2が本体部10aの幅中心線からズレることとなる。この結果、特定曲げ部2a1において図5を参照して説明した作用と同様の作用を得ることができ、クラック発生の可能性を低減させることができる。
【0034】
また、曲げ部2a(特定曲げ部2a1)には櫛歯部11が形成される場合に限らず、図7に示すように、平型導体10を厚み方向に貫通する貫通孔(開口)12が形成されていてもよい。この構成については、貫通孔12の重心が平型導体10の一側に位置しており、平型導体10の平面方向の一側への曲げ時に貫通孔12を埋めるように形状変化することとなり、クラック発生の可能性を低減させることができる。
【0035】
さらに、平面視して空隙11bが矩形状となる櫛歯部11に限らず、図8に示すように平面視して空隙(開口)13bが三角形状となるV字切欠部13となっている。この構成についても、空隙13bの重心が平型導体10の一側に位置しており、平型導体10の平面方向の一側への曲げ時に空隙13bを埋めるように形状変化してクラック発生の可能性を低減させることができる。加えて、図8に示すV字切欠部13のように、各空隙13bが他側に1つの頂点Vを有する形状とすれば、一側への曲げ時に空隙13bが埋まり易い形状とでき、空隙13bを埋めたうえでの電気的特性を実現し易いくすることができる。
【0036】
なお、櫛歯部11、貫通孔12及びV字切欠部13を比較すると、貫通孔12よりも櫛歯部11及びV字切欠部13を採用することが好ましい。ここで、櫛歯部11及びV字切欠部13については一側に開放された形状であるが、貫通孔12については一側に開放されていない。このため、曲げ時には一側端面が圧縮されて板厚の増加が発生し易くなる。しかし、櫛歯部11及びV字切欠部13のように一側に開放された形状であると、板厚が増加し難い。よって、貫通孔12よりも櫛歯部11及びV字切欠部13を採用することが好ましい。
【0037】
さらに、櫛歯部11及びV字切欠部13を比較すると、V字切欠部13よりも櫛歯部11を採用することが好ましい。V字切欠部13は、一側の先端が尖った形状となっており、曲げ治具BJを利用した曲げ時に変形を生じる可能性があり、変形時には当初想定したクラック防止効果を得られなくなる可能性があるためである。一方、櫛歯部11であると一側の先端が平面であるため、曲げ治具BJによって形状が変化し難い。よって、V字切欠部13よりも櫛歯部11を採用することが好ましい。
【0038】
また、上記において空隙11b,13bや貫通孔12は、平型導体10の厚み方向に貫通するものであるが、特に貫通するものに限らない。例えば、厚み方向に貫通しておらず底を有する窪みであってもよい。なお、窪みよりも貫通する構成である方が空隙11b,13b等を埋める作用を得易く、好ましいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1 :バスバー電線
10 :平型導体(バスバー電線用導体)
11b,13b:空隙(開口)
12 :貫通孔(開口)
20 :絶縁被覆
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8