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  • 特開-ラチェット型クラッチ 図1
  • 特開-ラチェット型クラッチ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190947
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ラチェット型クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20221220BHJP
   F16D 43/14 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16D41/12 A
F16D43/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099490
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】片山 修
【テーマコード(参考)】
3J068
【Fターム(参考)】
3J068AA02
3J068AA05
3J068BA12
3J068BB01
3J068CA04
3J068CB02
3J068DD04
3J068DD06
3J068GA03
3J068GA04
3J068GA19
(57)【要約】

【課題】 構成部品として組み込まれる装置全体の重量の増大および当該装置の配置スペースの増大を抑制することができるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを提供すること。
【解決手段】 ラチェット機構は、内輪5に設けられた歯部13と、外輪3に設けられ、歯部13と噛み合うことにより外輪3に対する内輪5の第1の回転方向への相対回転をロックし、第2の回転方向への相対回転を許容する複数の第1の爪部材15と、外輪3に設けられ、それぞれが第1の爪部材15と対をなし、歯部13と噛み合うことにより外輪3に対する内輪5の第2の回転方向への相対回転をロックし、第1の回転方向への相対回転を許容する第2の爪部材17とを備え、各第1の爪部材15は、外輪3の回転によって作用する遠心力によって回動し、遠心力が所定の大きさを上回ると、歯部13と非噛み合い状態となることを特徴とするラチェット型クラッチ1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の環状部材と、
前記第1の環状部材と同軸に且つ相対回転可能に配置された第2の環状部材と、
トルク伝達可能に前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを係合可能なラチェット機構とを有し、
前記ラチェット機構は、前記第1の環状部材に設けられた歯部と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第1の回転方向への相対回転をロックし、第2の回転方向への相対回転を許容する複数の第1の爪部材と、
前記第2の環状部材に設けられ、それぞれが前記第1の爪部材と対をなし、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の前記第2の回転方向への相対回転をロックし、前記第1の回転方向への相対回転を許容する複数の第2の爪部材とを備え、
前記第1の爪部材のそれぞれは、前記第2の環状部材の回転によって作用する遠心力によって回動し、前記遠心力が所定の大きさを上回ると、前記歯部と非噛み合い状態となることを特徴とするラチェット型クラッチ。
【請求項2】
前記第2の爪部材のそれぞれは、前記所定の大きさを上回る遠心力が作用しても、前記歯部と噛み合い可能であることを特徴とする請求項1に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項3】
前記第1の爪部材のそれぞれは、前記第2の環状部材に回動可能に保持され、前記第1の爪部材の回動中心である第1の回動中心部と、前記第1の回動中心部と一体に形成され前記歯部と噛み合う第1の爪部とを有し、
前記第1の爪部材は、重心が前記第1の爪部側に在ることを特徴とする請求項1または2に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項4】
前記第2の爪部材のそれぞれは、前記第2の環状部材に回動可能に保持され、前記第2の爪部材の回動中心である第2の回動中心部と、前記第2の回動中心部と一体に形成され前記歯部と噛み合う第2の爪部とを有し、
前記第2の爪部材は、重心が前記第2の回動中心部に在ることを特徴とする請求項3に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項5】
前記第1の爪部材は、前記第2の環状部材に保持された第1の弾性部材によって前記歯部との噛み合い方向に付勢されており、
前記第1の弾性部材の弾性力は、前記所定の大きさを上回る遠心力が作用すると、前記歯部との噛み合いが解除される大きさであることを特徴とする請求項3または4に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項6】
前記第2の爪部材は、前記第2の環状部材に保持された第2の弾性部材によって前記歯部との噛み合い方向に付勢されており、
前記第2の弾性部材の弾性力は、前記所定の大きさを上回る遠心力が作用しても、前記歯部との噛み合いを維持可能な大きさであることを特徴とする請求項4または5に記載のラチェット型クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や産業機械等においてトルク伝達用の装置として用いられるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラチェット機構を用いたクラッチであって、外輪部材に対する内輪部材或いは内輪部材に対する外輪部材の回転方向に関し、一方向または反対方向の何れかの回転方向への回転のみをロックする状態と、一方向および反対方向の両方の回転方向への回転を同時にロックする状態と、一方向および反対方向の何れの回転方向への回転もロックしない状態とを切り替えることにより、トルク伝達方向を切り替えることができるものがある(例えば特許文献1、2を参照)。
【0003】
特許文献1、2に記載されたクラッチは、変位することによってラチェット機構の係合状態を変更可能な環状部材を、アクチュエータ等の外部装置を用いて変位させることにより内外輪間の回転伝達方向すなわちトルク伝達方向を切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-508582号公報
【特許文献2】特開2021-038755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両における電動制御の発達は著しく、車両に搭載される各種装置の構成部品も複雑化してきており、これに比例してこれら各種装置の重量および搭載スペースも増大してきている。特許文献1または2のクラッチのように、トルク伝達方向の切り替えをアクチュエータ等の外部装置で行うことは、クラッチを変速装置の構成部品として用いる場合には、変速装置全体の重量および車両への搭載スペースが増大してしまう虞がある。このことは、近年の厳しい軽量化および省スペースの要求の達成を困難にする虞がある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、構成部品として組み込まれる装置全体の重量の増大および当該装置の配置スペースの増大を抑制することができるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のラチェット型クラッチは、
第1の環状部材と、
前記第1の環状部材と同軸に且つ相対回転可能に配置された第2の環状部材と、
トルク伝達可能に前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを係合可能なラチェット機構とを有し、
前記ラチェット機構は、前記第1の環状部材に設けられた歯部と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第1の回転方向への相対回転をロックし、第2の回転方向への相対回転を許容する複数の第1の爪部材と、
前記第2の環状部材に設けられ、それぞれが前記第1の爪部材と対をなし、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の前記第2の回転方向への相対回転をロックし、前記第1の回転方向への相対回転を許容する複数の第2の爪部材とを備え、
前記第1の爪部材のそれぞれは、前記第2の環状部材の回転によって作用する遠心力によって回動し、前記遠心力が所定の大きさを上回ると、前記歯部と非噛み合い状態となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構成部品として組み込まれる装置全体の重量の増大および当該装置の配置スペースの増大を抑制することができるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの正面図であり、軸方向から見た状態を示している。
図2図2はトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチは、車両の変速装置の構成部品として用いられる例として説明する。また、以下の説明においては、トルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを「ラチェット型クラッチ」と略記する場合がある。
【0011】
まず、本実施形態におけるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチに係る方向について定義する。本実施形態において、「中心軸線C」とはラチェット型クラッチの中心軸線すなわち外輪および内輪の中心軸線のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、中心軸線Cに関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。また、軸方向について、図1および図2において、紙面手前方向を軸方向一方とし、紙面奥方向を軸方向他方とする。周方向について、図1および図2において、紙面に向かって時計回りに回転する方向を周方向一方とし、紙面に向かって反時計回りに回転する方向を周方向他方とする。
【0012】
なお、ラチェット型クラッチの回転方向について、外輪の回転と内輪の回転とは相対的なものである。例えば、内輪が時計回りに回転可能な場合、外輪も反時計回りに回転可能であり、また、内輪と外輪とが同方向に回転する場合であっても、外輪と内輪との回転速度が異なれば、外輪と内輪とは相対的にいずれかの方向に回転していると言える。
【0013】
図1は実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの正面図であり、軸方向一方から見た状態を示している。
図2はトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの部分拡大図である。
【0014】
本実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチ1は、環状の外輪3と、外輪3に対して径方向内方に離間し、外輪3の中心軸線Cと同軸に且つ外輪3と相対回転可能に配置された環状の内輪5と、外輪3と内輪5との間でトルク伝達を可能とするトルク伝達機構と、を有している。本実施形態におけるトルク伝達機構は、ラチェット機構である。
【0015】
外輪3は軸方向に所定の長さを有する円筒状の形状で、後述する複数の爪機構部が保持される。外輪3は、電動モータ等の駆動装置(図示省略)と連結された入力用の軸部材(図示省略)、または電動モータ等の駆動力が伝達される被駆動側装置に連結された出力用の軸部材(図示省略)の何れか一方に連結されている。
【0016】
図1図2に示すように、外輪3の内周部には、第1の爪部材15と、第1の爪部材15の周方向一方側に隣接し、第1の爪部材15と対をなす第2の爪部材17とが設けられている。第1の爪部材15と第2の爪部材17とで1つの爪機構部を構成している。すなわち、外輪3には、軸方向一方側から見て、周方向他方側から周方向一方側に向かって順に並んで対をなす第1の爪部材15と第2の爪部材17とを含む爪機構部が設けられている。外輪3にはこのような爪機構部が、周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0017】
内輪5は外輪3の径方向内方に配置されている。内輪5の外周部には、多数の歯部13が全周に亘って所定間隔に形成されている。各歯部13は径方向外方に突出し、中心軸線C方向に延在している。外輪3の内周面と内輪5の外周部すなわち歯部13とは、所定の空間を介して径方向に対向している。歯部13は、第1の爪部材15および第2の爪部材17が噛み合うラチェット歯を構成している。具体的には、図2に示すように、各歯部13の周方向一方側の側面は第1の爪部材15と噛み合う第1の噛み合い部13aを構成し、各歯部13の周方向他方側の側面は第2の爪部材17と噛み合う第2の噛み合い部13bを構成している。内輪5の内周面には、前述した出力用或いは入力用の図示しない軸部材の何れか他方が嵌合されている。
【0018】
第1の爪部材15は、外輪3の内周面に設けられた内向きに開口する凹部である第1保持部19に保持されている。第1の爪部材15は、中心軸線C方向に延在する円柱部21と、円柱部21から周方向他方に向かって延在する爪部23とを有している。第1の爪部材15は、円柱部21が第1保持部19に回動可能に保持されている。すなわち第1の爪部材15は、円柱部21を中心として爪部23が径方向に揺動可能に、第1保持部19に保持されている。第1の爪部材15は、回動中心は円柱部21であるが、重心は爪部23に位置している。すなわち第1の爪部材15の爪部23は、重心が爪部23に在るような質量を有している。第1の爪部材15の爪部23は、コイル状の、或いはそれ以外のタイプでも良いスプリング25によって径方向内方すなわち歯部13との噛み合い方向へ常に付勢されている。
【0019】
第1の爪部材15は、爪部23が径方向内方へ揺動すると、爪部23が内輪5の歯部13の第1の噛み合い部13aと噛み合い、これにより第1の爪部材15は歯部13と噛み合い状態になる。第1の爪部材15は歯部13と噛み合うことにより、外輪3に対する内輪5の時計方向すなわち周方向一方への相対回転をロックする。一方、外輪3に対して内輪5が反時計方向すなわち周方向他方へ相対回転する際は、第1の爪部材15の爪部23はスプリング25の付勢力に抗して内輪5の歯部13によって径方向外方へ押され、内輪5の当該回転を許容する。
【0020】
第2の爪部材17は、外輪3の内周面に設けられた内向きに開口する凹部である第2保持部27に保持されている。第2の爪部材17は、所定の周方向長さを有し、部分円筒状の外周面を有する中央部29と、中央部29から周方向一方側へ突出する爪部31と、中央部29から周方向他方側へ突出する突出部33とから構成されている。第2の爪部材17は、中央部29が第2保持部27に回動可能に保持されている。すなわち第2の爪部材17は、中央部29を中心として爪部31が径方向に揺動可能に、第2保持部27に保持されている。第2の爪部材17は、回動中心は中央部29であり、重心も中央部29に位置するように構成されている。第2保持部27には、第2の爪部材17の突出部33が径方向に揺動可能な逃げ部35が設けられている。第2の爪部材17の爪部31は、コイル状の、あるいはそれ以外のタイプでも良いスプリング37によって径方向内方すなわち内輪5の歯部13との噛み合い方向へ常に付勢されている。
【0021】
このように、本実施形態においては、対をなす第1の爪部材15と第2の爪部材17との形状がそれぞれ異なっている。また、第1の爪部材15は重心と回転中心が異なる位置であるのに対して、第2の爪部材17は重心と回転中心が同じ位置である。
【0022】
第2の爪部材17は、爪部31が径方向内方へ揺動すると、爪部31が内輪5の歯部13の第2の噛み合い部13bと噛み合い、これにより第2の爪部材17は歯部13と噛み合い状態になる。第2の爪部材17は歯部13と噛み合うことにより、外輪3に対する内輪5の反時計方向すなわち周方向他方への相対回転をロックする。一方、外輪3に対して内輪5が時計方向すなわち周方向一方へ相対回転する際は、第2の爪部材17はスプリング37の付勢力に抗して内輪5の歯部13によって径方向外方へ押され、内輪5の当該回転を許容する。
【0023】
このように、外輪3に保持された第1の爪部材15および第2の爪部材17と、スプリング25、37と、内輪5に形成された複数の歯部13とで、ラチェット機構が構成されている。
【0024】
本実施形態のラチェット型クラッチ1は、外輪3の回転速度が所定の速度を上回ると、第1の爪部材15と内輪5の歯部13との噛み合いが解除されるように構成されている。すなわち外輪3の回転速度が所定の速度を上回ると、第1の爪部材15が、後述の如く遠心力によりスプリング25に抗して回転し、爪部23が歯部13よりも径方向外方に位置するようになっている。以下、ラチェット機構の構成について、第1の爪部材15および第2の爪部材17の作動と共に、さらに詳細に説明する。
【0025】
本実施形態のラチェット型クラッチ1において、第1の爪部材15および第2の爪部材17は以下のように作動する。
外輪3に駆動力が伝達され、外輪3が周方向一方または周方向他方へ回転を始めると、外輪3の回転による遠心力が第1の爪部材15および第2の爪部材17に作用する。遠心力が作用すると、第1の爪部材15は、重心が爪部23にあるため、円柱部21を中心として爪部23が径方向外方に向かう方向に回動すなわち揺動しようとする。すると、第1の爪部材15を付勢しているスプリング25は、爪部23によって径方向外方すなわち圧縮する方向に押圧される。外輪3の回転が速くなり、作用する遠心力が大きくなると、スプリング25は、回動する第1の爪部材15の爪部23によって圧縮されてゆく。そして外輪3の回転速度が所定の回転速度よりも速くなり、第1の爪部材15に作用する遠心力が所定の大きさF1よりも大きくなると、スプリング25は爪部23によって大きく圧縮され、爪部23は全体が歯部13よりも径方向外方に位置することとなる。すなわちこの状態において、第1の爪部材15と歯部13とは非噛み合い状態となる。ここで所定の大きさF1の遠心力が発生する外輪3の所定の回転速度をR1とする。
【0026】
一方、第2の爪部材17は、外輪3の回転による遠心力が作用しても、重心は中央部29にあり、且つ爪部31の質量は第1の爪部材15の爪部23よりも小さいため、爪部31が径方向外方へ揺動しようとする力は、第1の爪部材15の爪部23よりも小さい。そして第2の爪部材17を付勢しているスプリング37は、第2の爪部材17に所定の大きさF1よりも大きい遠心力が作用しても大きく圧縮することはなく、第2の爪部材17と歯部13との噛み合い状態を維持する。
【0027】
このように、第1の爪部材15の重心の位置およびスプリング25の弾性力は、外輪3の回転速度が所定速度R1を上回り、F1よりも大きい遠心力が第1の爪部材15に作用すると、スプリング25が爪部23によって圧縮され、爪部23が歯部13よりも径方向外方まで変位するように構成されている。一方、第2の爪部材17の重心の位置およびスプリング37の弾性力は、外輪3の回転速度が所定速度R1を上回り、F1よりも大きい遠心力が第2の爪部材17に作用しても、第2の爪部材17と歯部13との噛み合い状態を維持するように構成されている。
【0028】
なお、第1の爪部材15の重心の位置、第2の爪部材17の重心の位置、スプリング25の弾性力、スプリング37の弾性力、所定の大きさF1の遠心力、さらに所定の大きさF1の遠心力が発生する際の外輪3の所定の回転速度R1は、伝達するトルクの大きさ、車速等を考慮し、適宜設計される。
【0029】
次に、本実施形態に係るラチェット型クラッチ1の作動について説明する。
まず、内輪5を入力側とし、内輪5が時計方向すなわち周方向一方へ回転する場合について説明する。
【0030】
ラチェット型クラッチ1が停止状態においては、図1に示すように、第1の爪部材15および第2の爪部材17は、それぞれスプリング23およびスプリング37の付勢力によって歯部13と噛み合っている状態である。この状態から内輪5に駆動力が伝達され、内輪5が周方向一方へ回転を始めると、外輪3は内輪5と一体に周方向一方へ回転する。外輪3の回転速度がR1となるまでは外輪3は内輪5と一体に回転し、内輪5から外輪3へトルク伝達がなされる。外輪3の回転速度がR1を上回ると、第1の爪部材15に作用する遠心力が所定の大きさF1を上回り、第1の爪部材15と歯部13との噛み合いが解除される。一方、第2の爪部材17は、歯部13との噛み合いを維持している。この状態において、駆動側の内輪5の回転速度がさらに上昇しても、内輪5は被駆動側の外輪3対して空転状態となる。すなわち内輪5から外輪3へトルク伝達はなされない。
【0031】
この状態から、外輪3の回転速度が所定の回転速度R1まで下がると、第1の爪部材15に作用する遠心力は所定の大きさF1まで小さくなり、第1の爪部材15はスプリング25の付勢力によって再び歯部13と噛み合い状態となる。すなわち内輪5から外輪3へトルク伝達がなされる。
【0032】
次に、内輪5を入力側とし、内輪5が反時計方向すなわち周方向他方へ回転する場合について説明する。
この場合、外輪3の回転速度がR1となるまでは外輪3は内輪5と一体に周方向他方へ回転し、内輪5から外輪3へトルク伝達がなされる。外輪3の回転速度がR1を上回ると、第1の爪部材15に作用する遠心力が所定の大きさF1を上回り、第1の爪部材15と歯部13との噛み合いが解除される。一方、第2の爪部材17は、歯部13との噛み合いを維持している。この状態において、駆動側の内輪5の回転速度がさらに上昇すると、内輪5から外輪3へ引き続きトルク伝達がなされる。一方、外輪3の回転速度が内輪5の回転速度よりも速い場合は、外輪3は内輪5に対して空転し、内輪5から外輪3へトルク伝達はなされない。
【0033】
外輪3の回転速度が所定の回転速度R1まで下がると、第1の爪部材15に作用する遠心力は所定の大きさF1まで小さくなり、第1の爪部材15はスプリング25の付勢力によって再び歯部13と噛み合い状態となる。すなわち内輪5から外輪3へトルク伝達がなされる。
【0034】
次に、外輪3を入力側とし、外輪3が反時計方向すなわち周方向他方へ回転する場合について説明する。
この場合、外輪3の回転速度がR1となるまでは内輪5は外輪3と一体に周方向他方へ回転し、外輪3から内輪5へトルク伝達がなされる。外輪3の回転速度がR1を上回ると、第1の爪部材15に作用する遠心力が所定の大きさF1を上回り、第1の爪部材15と歯部13との噛み合いが解除される。一方、第2の爪部材17は、歯部13との噛み合いを維持している。この状態において、駆動側の外輪3の回転速度がさらに上昇しても、外輪3は被駆動側の内輪5対して空転状態となる。すなわち外輪3から内輪5へトルク伝達はなされない。
【0035】
外輪3の回転速度が所定の回転速度R1まで下がると、第1の爪部材15に作用する遠心力は所定の大きさF1まで小さくなり、第1の爪部材15はスプリング25の付勢力によって再び歯部13と噛み合い状態となる。すなわち外輪3から内輪5へトルク伝達がなされる。
【0036】
次に、外輪3を入力側とし、外輪3が時計方向すなわち周方向一方へ回転する場合について説明する。
この場合、外輪3の回転速度がR1となるまでは内輪5は外輪3と一体に周方向一方へ回転し、外輪3から内輪5へトルク伝達がなされる。外輪3の回転速度がR1を上回ると、第1の爪部材15に作用する遠心力が所定の大きさF1を上回り、第1の爪部材15と歯部13との噛み合いが解除される。一方、第2の爪部材17は、歯部13との噛み合いを維持している。この状態において、駆動側の外輪3の回転速度がさらに上昇すると、外輪3から内輪5へ引き続きトルク伝達がなされる。一方、内輪5の回転速度が外輪3の回転速度よりも速い場合は、内輪5は外輪3に対して空転し、外輪3から内輪5へトルク伝達はなされない。
【0037】
外輪3の回転速度が所定の回転速度R1まで下がると、第1の爪部材15に作用する遠心力は所定の大きさF1まで小さくなり、第1の爪部材15はスプリング25の付勢力によって再び歯部13と噛み合い状態となる。すなわち外輪3から内輪5へトルク伝達がなされる。
【0038】
このように、本実施形態によれば、第1の爪部材15に作用する遠心力によって、言い換えると第1の爪部材15が設けられている外輪3の回転速度によって、第1の爪部材15と歯部13との噛み合いと噛み合いの解除とを制御することができる。したがって第1の爪部材15と歯部13との噛み合いと噛み合いの解除とを切り替えるための装置を別に設ける必要がない。したがって本実施形態によれば、ラチェット型クラッチ1が構成部品として組み込まれる装置全体の重量の増大および当該装置の配置スペースの増大を抑制することができる。本実施形態のようにラチェット型クラッチ1が構成部品として組み込まれる装置が車両の変速装置であれば、変速装置全体の重量の増大および車両への搭載スペースの増大を抑制することができる。さらに、入力側となる内輪5または外輪3の回転方向を制御することにより、上述したように、トルク伝達方向を切り替えることができる。
【0039】
なお、本発明のラチェット型クラッチ1は、上記実施形態に限定されず、変形が可能である。例えば、爪機構部を内輪側に設け、爪機構部と噛み合う歯部を外輪の内周面に設ける構成としても良い。また、伝達するトルク容量により爪機構部の数は適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 ラチェット型クラッチ
3 外輪
5 内輪
13 歯部
15 第1の爪部材
17 第2の爪部材
19 第1保持部
23 爪部
25 スプリング
27 第2保持部
31 爪部
37 スプリング
図1
図2