(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190959
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】マグネシウム合金板、マグネシウム合金プレス加工品、及びマグネシウム合金板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/02 20060101AFI20221220BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20221220BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20221220BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C22C23/02
C22F1/06
C22C1/02 503L
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 623
C22F1/00 604
C22F1/00 685A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099505
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】内原 武志
(72)【発明者】
【氏名】宮永 倫正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】加古 博紀
(57)【要約】
【課題】プレス加工性に優れるマグネシウム合金板を提供する。
【解決手段】7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金からなる組成と、マグネシウムの酸化物と、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物とを含む組織とを備え、前記マグネシウムの酸化物の最大径が20μm以上の前記マグネシウムの酸化物の平均個数が1cm
2あたり5.0個未満であり、前記金属間化合物の平均粒径が2μm以上5μm未満の前記金属間化合物の平均個数が400μm
2あたり5.0個未満であり、かつ、前記金属間化合物の平均粒径が5μm以上の前記金属間化合物の平均個数が400μm
2あたり1.0個未満である、マグネシウム合金板。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金からなる組成と、
マグネシウムの酸化物と、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物とを含む組織とを備え、
前記マグネシウムの酸化物の最大径が20μm以上の前記マグネシウムの酸化物の平均個数が1cm2あたり5.0個未満であり、
前記金属間化合物の平均粒径が2μm以上5μm未満の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であり、かつ、前記金属間化合物の平均粒径が5μm以上の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり1.0個未満である、
マグネシウム合金板。
【請求項2】
前記マグネシウム合金の平均結晶粒径が10.0μm以下である請求項1に記載のマグネシウム合金板。
【請求項3】
0.2%耐力が240MPa以上であること、及び引張強度が338MPa以上であることの少なくとも一方を満たす請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金板。
【請求項4】
伸びが7.0%以上である請求項3に記載のマグネシウム合金板。
【請求項5】
0.2%耐力が248MPa以上であり、かつ、伸びが8.0%以上である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金板。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金板からなるマグネシウム合金プレス加工品。
【請求項7】
7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金の溶湯を作製する工程と、
前記溶湯を鋳造して鋳造材を作製する工程と、
前記鋳造材を溶体化処理する工程と、
前記溶体化処理した鋳造材を圧延して圧延材を作製する工程とを備え、
前記溶湯を作製する工程は、
溶解炉にて、前記マグネシウムと前記アルミニウムとを溶解して第一の溶湯を作製する第一の工程と、
前記第一の溶湯を前記溶解炉から前記溶解炉の下流側に配置された添加炉に移送する第二の工程と、
前記添加炉にて、前記第一の溶湯に前記ストロンチウムを添加して前記溶湯を作製する第三の工程とを備える、
マグネシウム合金板の製造方法。
【請求項8】
前記添加炉において、前記溶湯に含まれる前記ストロンチウムの濃度をX、前記溶湯が雰囲気と接触する表面積をMs、前記溶湯の体積をMvとしたとき、
前記表面積と前記体積との比であるMs/Mvが、-0.0035×X+0.0053以下を満たす請求項7に記載のマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項9】
前記第一の工程、及び前記第三の工程の少なくとも一方の工程において、
前記第一の溶湯、及び前記溶湯の少なくとも一方に、核生成物質を導入する工程を含む請求項7又は請求項8に記載のマグネシウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネシウム合金板、マグネシウム合金プレス加工品、及びマグネシウム合金板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、アルミニウムとストロンチウムとを含むマグネシウム合金板を開示する。特許文献3は、マグネシウム圧延材などのマグネシウム合金材を製造するマグネシウム合金材の製造方法を開示する。特許文献3に記載された製造方法は、溶解工程と、移送工程と、鋳造工程と、圧延工程とを備える。溶解工程はマグネシウム合金を溶解炉で溶解して溶湯とする。移送工程は溶解炉から溶湯を湯だめに移送する。鋳造工程は、湯だめから注湯口を介して可動鋳型に溶湯を供給して凝固させ、鋳造材を連続的に製造する。圧延工程は、鋳造材に圧延ロールにて圧延加工を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-308703号公報
【特許文献2】国際公開第2018/235591号
【特許文献3】国際公開第2006/003899号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレス加工性に優れるマグネシウム合金が求められている。
【0005】
マグネシウム合金は軽量である。中でも、アルミニウムを多く含むマグネシウム合金は、高強度で、耐食性に優れる。アルミニウムを多く含むマグネシウム合金としては、代表的にはASTM規格のAZ91合金が挙げられる。マグネシウム合金からなるマグネシウム合金板は、軽量化が要求されている携帯機器の筐体や自動車用部品などの素材として期待されている。
【0006】
しかしながら、アルミニウムを多く含むマグネシウム合金板は加工性に劣る。このようなマグネシウム合金板は、プレス加工により筐体などの目的の形状に成形した際に、割れが発生し易い。
【0007】
本開示は、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板を提供することを目的の一つとする。本開示は、上記マグネシウム合金板からなるマグネシウム合金プレス加工品を提供することを別の目的の一つとする。本開示は、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板を製造できるマグネシウム合金板の製造方法を提供することを更に別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のマグネシウム合金板は、7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金からなる組成と、マグネシウムの酸化物と、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物とを含む組織とを備え、前記マグネシウムの酸化物の最大径が20μm以上の前記マグネシウムの酸化物の平均個数が1cm2あたり5.0個未満であり、前記金属間化合物の平均粒径が2μm以上5μm未満の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であり、かつ、前記金属間化合物の平均粒径が5μm以上の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり1.0個未満である。
【0009】
本開示のマグネシウム合金プレス加工品は、本開示のマグネシウム合金板からなる。
【0010】
本開示のマグネシウム合金板の製造方法は、7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金の溶湯を作製する工程と、前記溶湯を鋳造して鋳造材を作製する工程と、前記鋳造材を溶体化処理する工程と、前記溶体化処理した鋳造材を圧延して圧延材を作製する工程とを備え、前記溶湯を作製する工程は、溶解炉にて、前記マグネシウムと前記アルミニウムとを溶解して第一の溶湯を作製する第一の工程と、前記第一の溶湯を前記溶解炉から前記溶解炉の下流側に配置された添加炉に移送する第二の工程と、前記添加炉にて、前記第一の溶湯に前記ストロンチウムを添加して前記溶湯を作製する第三の工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示のマグネシウム合金板はプレス加工性に優れる。本開示のマグネシウム合金プレス加工品はプレス加工による割れが少ない。本開示のマグネシウム合金板の製造方法はプレス加工性に優れるマグネシウム合金板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマグネシウム合金板の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るマグネシウム合金板の組織の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るマグネシウム合金プレス加工品の一例を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るマグネシウム合金板の製造方法に使用する連続鋳造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るマグネシウム合金板の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、試験例1で作製したマグネシウム合金板の素材となる鋳造材及び圧延材を説明する図である。
【
図7】
図7は、溶湯中のSrの濃度と、溶湯の表面積と体積との比と、最大径が20μm以上のMgOの平均個数との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図4に示す溶解炉の変形例を示す概略図である。
【
図9】
図9は、
図4に示す溶解炉の別の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、アルミニウムとストロンチウムとを含むマグネシウム合金板のプレス加工性の向上について鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0014】
ストロンチウムは、マグネシウム合金の伸びや強度を向上させる効果がある。ストロンチウムはマグネシウム合金の結晶粒を微細にする。その結果、マグネシウム合金板の伸びが向上する。また、ストロンチウムは、アルミニウムと反応して金属間化合物を形成する。マグネシウム合金中にアルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物が析出することで、マグネシウム合金板の強度が向上する。
【0015】
一般的に、マグネシウム合金板のプレス加工性を向上するためには、結晶粒が微細な結晶組織であること、プレス加工時に破壊の起点となる欠陥が少ないことが重要である。欠陥としては、非金属介在物、金属間化合物などが挙げられる。非金属介在物は、代表的にはマグネシウムの酸化物である。金属間化合物は、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物が挙げられる。アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物は、例えば、Al4Sr、Al2Srなどの形で存在する。マグネシウムの酸化物や金属間化合物が粗大な粒子であるほど、破壊の起点となり易い。
【0016】
本発明者らは、アルミニウムとストロンチウムとを含むマグネシウム合金板をプレス加工したときの割れの発生原因を調べた。プレス加工により割れが発生した部位と、割れが発生していない部位とを、光学顕微鏡を用いて断面観察した。その結果、割れが発生した部位では、最大径が20μm以上の粗大なマグネシウムの酸化物が多く含まれていた。また、プレス加工により割れが発生した部位を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果、割れが発生した部位では、平均粒径が2μm以上のアルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物が多く分布しており、その中には、平均粒径が5μm以上の粗大なものも多く観察された。マグネシウム合金の組織に含まれるマグネシウムの酸化物及び金属間化合物のそれぞれのサイズ及びそれぞれの個数が割れの発生原因になっていると考えられる。
【0017】
マグネシウム合金板にマグネシウムの酸化物が形成される理由としては、次の要因が考えられる。マグネシウムは酸化し易い金属である。溶解炉でマグネシウム合金を溶解して溶湯を作製するときは、マグネシウムの酸化を防ぐために、マグネシウム合金の溶湯の表面と大気中の酸素との接触を極力避ける必要がある。そこで、例えば、溶解炉内の雰囲気を酸素濃度が低い不活性ガス雰囲気としたり、溶湯の表面に六フッ化硫黄(SF6)ガスなどの防燃ガスを吹き付けて保護膜を形成したりすることが行われている。しかし、原料の投入時や除滓時など、溶解炉内に大気が流入することがある。溶湯表面で、流入した大気中の酸素と溶湯中のマグネシウムとが反応してマグネシウムの酸化物が形成され得る。特に、マグネシウム合金を連続的に溶解、鋳造する連続鋳造は、原料を随時投入しながら実施されるため、溶解炉内に大気が流入し易い。マグネシウムの酸化物がより形成され易い。マグネシウム合金を溶解する工程で溶湯中にマグネシウムの酸化物が巻き込まれる結果、マグネシウム合金板にマグネシウムの酸化物が混入することがある。
【0018】
更に、ストロンチウムを添加すると、マグネシウムが活性化され、マグネシウムの酸化物がより生じ易くなる。そのため、ストロンチウムを添加したマグネシウム合金板では、マグネシウムの酸化物の混入を回避することは難しい。ストロンチウムを多く含むマグネシウム合金板は、粗大なマグネシウムの酸化物を含み易い。
【0019】
本開示は、上記知見に基づいてなされたものである。
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0020】
[本開示の実施形態の説明]
(1)本開示の実施形態に係るマグネシウム合金板は、7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金からなる組成と、マグネシウムの酸化物と、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物とを含む組織とを備え、前記マグネシウムの酸化物の最大径が20μm以上の前記マグネシウムの酸化物の平均個数が1cm2あたり5.0個未満であり、前記金属間化合物の平均粒径が2μm以上5μm未満の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であり、かつ、前記金属間化合物の平均粒径が5μm以上の前記金属間化合物の平均個数が400μm2あたり1.0個未満である。
【0021】
本開示のマグネシウム合金板は、アルミニウムとストロンチウムとをそれぞれ特定の範囲で含むマグネシウム合金からなり、特定の組織を有することで、プレス加工性に優れる。
【0022】
マグネシウム合金は、アルミニウムを特定の範囲で含むことで、強度が高く、耐食性に優れる。ストロンチウムを特定の範囲で含むことで、マグネシウム合金の結晶粒を微細化することができる。微細な結晶組織が得られることから、マグネシウム合金板の伸びが向上する。このようなマグネシウム合金板は、延性に優れているため、プレス加工性が向上する。アルミニウムとストロンチウムとを含むことで、アルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物が析出する。マグネシウム合金の組織中に上記金属間化合物が微細に分散することにより、マグネシウム合金板の強度が向上する。アルミニウムの含有量が10.0質量%未満である、又は、ストロンチウムの含有量が0.5質量%以下であることで、上記金属間化合物が過剰に生成されたり、粗大化したりすることを抑制できる。
【0023】
マグネシウム合金の組織は、特定のサイズのマグネシウムの酸化物が少なく、かつ、特定のサイズのアルミニウムとストロンチウムとを含む金属間化合物が少ない。上記特定の組織を有するマグネシウム合金板はプレス加工によって割れが発生し難い。
【0024】
(2)本開示のマグネシウム合金板の一形態として、前記マグネシウム合金の平均結晶粒径が10.0μm以下でもよい。
【0025】
上記の形態は、微細な結晶組織を有することから、延性に優れる。このようなマグネシウム合金板はプレス加工性に優れる。
【0026】
(3)本開示のマグネシウム合金板の一形態として、0.2%耐力が240MPa以上であること、及び引張強度が338MPa以上であることの少なくとも一方を満たしてもよい。
【0027】
上記の形態は、高い強度を有する。
【0028】
(4)上記(3)に記載のマグネシウム合金板の一形態として、伸びが7.0%以上でもよい。
【0029】
上記の形態は、伸びが高いことから、延性に優れる。このようなマグネシウム合金板はプレス加工性が向上する。
【0030】
(5)本開示のマグネシウム合金板の一形態として、0.2%耐力が248MPa以上であり、かつ、伸びが8.0%以上でもよい。
【0031】
上記の形態は、耐力と伸びの両方が高く、優れた機械的特性を有する。
【0032】
(6)本開示のマグネシウム合金プレス加工品は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のマグネシウム合金板からなる。
【0033】
本開示のマグネシウム合金プレス加工品はプレス加工による割れが少ない。本開示のマグネシウム合金プレス加工品は、上述した本開示のマグネシウム合金板を素材に使用しているから、プレス加工によって割れが発生し難い。
マグネシウム合金プレス加工品とは、マグネシウム合金板を曲げ、絞りなどによってプレス加工したものをいう。曲げとは、マグネシウム合金板を所定の形状に曲げる加工である。絞りとは、マグネシウム合金板を所定の容器形状に成形する加工である。
【0034】
(7)本開示のマグネシウム合金板の製造方法は、7質量%以上10質量%未満のアルミニウムと、0.01質量%以上0.5質量%以下のストロンチウムとを含み、残部がマグネシウム及び不可避不純物からなるマグネシウム合金の溶湯を作製する工程と、前記溶湯を鋳造して鋳造材を作製する工程と、前記鋳造材を溶体化処理する工程と、前記溶体化処理した鋳造材を圧延して圧延材を作製する工程とを備え、前記溶湯を作製する工程は、溶解炉にて、前記マグネシウムと前記アルミニウムとを溶解して第一の溶湯を作製する第一の工程と、前記第一の溶湯を前記溶解炉から前記溶解炉の下流側に配置された添加炉に移送する第二の工程と、前記添加炉にて、前記第一の溶湯に前記ストロンチウムを添加して前記溶湯を作製する第三の工程とを備える。
【0035】
本開示のマグネシウム合金板の製造方法は、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板を製造できる。上記製造方法は、マグネシウム合金の溶湯を作製する工程において、溶解炉でストロンチウムを添加するのではなく、溶解炉と別に設けた添加炉でストロンチウムを添加する。溶解炉で作製する第一溶湯はストロンチウムを含まないため、ストロンチウムを添加した溶湯に比べてマグネシウムの酸化物の生成が抑制される。また、添加炉でストロンチウムを添加してマグネシウム合金の溶湯とした後、添加炉から鋳造するまでの時間が短くなる。ストロンチウムを含むマグネシウム合金の溶湯が大気中の酸素と接触する機会が減るため、溶湯中にマグネシウムの酸化物が生じ難くなる。マグネシウム合金板に粗大なマグネシウムの酸化物が混入することを抑制できる。
【0036】
(8)本開示のマグネシウム合金板の製造方法の一形態として、前記添加炉において、前記溶湯に含まれる前記ストロンチウムの濃度をX、前記溶湯が雰囲気と接触する表面積をMs、前記溶湯の体積をMvとしたとき、前記表面積と前記体積との比であるMs/Mvが、-0.0035×X+0.0053以下を満たしてもよい。
【0037】
上記の形態は、マグネシウムの酸化物の発生を効果的に抑制できる。溶湯中のストロンチウムの濃度、即ち含有量が高いほど、マグネシウムの酸化物がより生じ易くなる。そのため、溶湯中のマグネシウムの酸化物が過剰に生成されたり、粗大化したりする傾向がある。一方で、溶湯の体積に対する溶湯の表面積が小さいほど、溶湯全体に対する雰囲気との接触面積が小さくなる。添加炉内に大気が流入したとしても、溶湯全体に対するマグネシウムの酸化物の量が減少する。溶湯の表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvが-0.0035×X+0.0053以下を満たすことで、マグネシウムの酸化物を低減できる。
【0038】
(9)本開示のマグネシウム合金板の製造方法の一形態として、前記第一の工程、及び前記第三の工程の少なくとも一方の工程において、前記第一の溶湯、及び前記溶湯の少なくとも一方に、核生成物質を導入する工程を含んでもよい。
【0039】
上記の形態は、微細な結晶組織が得られる。核生成物質は、マグネシウム合金の溶湯が凝固開始時に異質核生成の核となる物質である。溶湯中に核生成物質を含むことで、凝固時に核生成物質を起点として凝固核が生成する。溶湯中に核生成物質が分散していることで、結晶粒を微細化できる。
【0040】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のマグネシウム合金板、マグネシウム合金プレス加工品、及びマグネシウム合金板の製造方法の具体例を、図面を参照して説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0041】
<マグネシウム合金板>
図1、
図2を参照して、実施形態に係るマグネシウム合金板1を説明する。
図1に示すマグネシウム合金板1は、マグネシウム合金からなる板材である。本実施形態では、マグネシウム合金板1は圧延材である。マグネシウム合金板1の特徴の一つは、特定の組成と、
図2に示すような特定の組織10とを備える点にある。マグネシウム合金板1は、特定の組成と特定の組織とを有することで、プレス加工性に優れる。以下、詳細に説明する。
【0042】
(組成)
マグネシウム合金板1の組成は、アルミニウム(Al)と、ストロンチウム(Sr)とを含み、残部がマグネシウム(Mg)及び不可避不純物からなるマグネシウム合金からなる。マグネシウム合金は、更にZn(亜鉛)、Mn(マンガン)などの元素を含んでもよい。
【0043】
(Al)
Alは、主として、マグネシウム合金板1の耐食性を向上する。Alの含有量は7質量%以上10質量%未満である。
【0044】
Alの含有量が7質量%以上であることで、耐食性を高めることができる。Alの含有量が多いほど、耐食性を高め易い。Alの含有量は、耐食性を高める点で、例えば7.5質量%以上、更に8質量%以上が好ましい。Alは、Srと化合して、AlとSrとを含む金属間化合物を形成する。AlとSrとを含む金属間化合物は、代表的にはAl4Sr、Al2Srである。以下、「AlとSrとを含む金属間化合物」を「Al-Sr化合物」と記載する場合がある。マグネシウム合金板1中に、Al-Sr化合物が析出することで、マグネシウム合金板1の強度が向上する。
【0045】
Alの含有量が10質量%未満であることで、Al-Sr化合物が過剰に生成されたり、粗大化したりすることを抑制できる。Al-Sr化合物に起因するプレス加工時の割れの発生を低減できる。Alの含有量は、更に9.7質量%以下、9.5質量%以下が好ましい。Alの含有量は、例えば7.5質量%以上9.7質量%以下、更に8質量%以上9.5質量%以下が好ましい。
【0046】
(Sr)
Srは、主として、マグネシウム合金の結晶粒を微細化する。Srの含有量は0.01質量%以上0.5質量%以下である。
【0047】
Srの含有量が0.01質量%以上であることで、マグネシウム合金の結晶粒を微細化できる。微細な結晶組織が得られることから、マグネシウム合金板1の伸びが向上する。このようなマグネシウム合金板1は、延性に優れているため、プレス加工性が向上する。結晶組織の微細化に伴い、Mg-Al化合物が微細になるという効果も期待できる。Srの含有量が多いほど、結晶粒が微細になる。Srの含有量は、更に0.02質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上が好ましい。
【0048】
Srの含有量が0.5質量%以下であることで、Al-Sr化合物が過剰に生成されたり、粗大化したりすることを抑制できる。Al-Sr化合物に起因するプレス加工時の割れの発生を低減できる。Srの含有量は、更に0.48質量%以下、0.45質量%以下、0.4質量%以下が好ましい。Srの含有量は、例えば0.02質量%以上0.48質量%以下、更に0.05質量%以上0.45質量%以下、0.1質量%以上0.40質量%以下が好ましい。
【0049】
(Zn)
Znは、主として、耐食性の向上に寄与する。Znの含有量は、例えば0.1質量%以上0.75質量%以下である。Znの含有量が0.1質量%以上であることで、耐食性を高めることができる。Znの含有量が多いほど、耐食性を高め易い。Znの含有量は、更に0.15質量%以上、0.2質量%以上が好ましい。Znを過剰に含有すると、伸びが低下するなど機械的特性が低下するおそれがある。Znの含有量が0.75質量%以下であれば、機械的特性の低下を抑制できる。Znの含有量は、更に0.74質量%以下、0.73質量%以下が好ましい。Znの含有量は、例えば0.15質量%以上0.74質量%以下、更に0.2質量%以上0.73質量%以下が好ましい。
【0050】
(Mn)
Mnは、主として、耐食性の向上に寄与する。Mnの含有量は、例えば0.1質量%以上0.5質量%以下である。Mnは、Alと、不可避不純物として含まれる鉄(Fe)と化合して金属間化合物を形成する。この金属間化合物とMgとの電位差は、FeとMgとの電位差よりも小さい。MgとFeとの電位差に起因する腐食が抑制されることから、耐食性を改善できる。Mnの含有量は、更に0.15質量%以上、0.2質量%以上が好ましい。Mnを過剰に含有すると、かえって耐食性が低下するおそれがある。Mnの含有量が0.5質量%以下であれば、耐食性の低下を抑制し易い。Mnの含有量は、更に0.45質量%以下、0.4質量%以下が好ましい。Mnの含有量は、例えば0.15質量%以上0.45質量%以下、更に0.2質量%以上0.4質量%以下が好ましい。
【0051】
マグネシウム合金板1の組成は、例えば、グロー放電発光分析装置を用いて測定できる。
【0052】
(組織)
マグネシウム合金板1の組織10(
図2)は、マグネシウムの酸化物11と、Al-Sr化合物12とを含む。マグネシウムの酸化物は、代表的にはMgOである。マグネシウムの酸化物は、MgO以外にも、MgO
2やマグネシウム複合酸化物が含まれる。マグネシウム複合酸化物は、Mg以外の金属元素を含む酸化物であり、例えば、MgAl
2O
4などが挙げられる。以下、「マグネシウムの酸化物」を「Mg酸化物」と記載する場合がある。
【0053】
(Mg酸化物)
Mg酸化物11は、例えば、製造過程で、マグネシウム合金の溶湯と大気中の酸素(O)とが接触することによって形成されたものである。組織10において、Mg酸化物11の最大径Daが20μm以上のMg酸化物11の平均個数は1cm2あたり5.0個未満である。このような粗大なMg酸化物11が多いと、プレス加工時の割れの起点となり易い。最大径Daが20μm以上のMg酸化物11の平均個数が1cm2あたり5.0個未満であることで、プレス加工によって割れが発生し難い。上記粗大なMg酸化物11の平均個数が少ないほど、割れの発生をより低減できる。上記粗大なMg酸化物11の平均個数は1cm2あたり、更に4.5個以下、4.0個以下が好ましい。上記粗大なMg酸化物11の平均個数はゼロ(0)でもよい。
【0054】
(Mg酸化物の平均個数の測定方法)
Mg酸化物の平均個数の測定は、マグネシウム合金板1の任意の部位の断面を観察することにより行う。観察する断面は、例えばマグネシウム合金板1の厚さ方向に沿った断面とする。断面の観察には、光学顕微鏡を用いる。1つの断面のうち、1cm2の領域を観察する。断面積が1cm2未満の場合は断面全体を観察する。観察した断面の画像を画像処理して、Mg酸化物の粒子を全て抽出する。各Mg酸化物の粒子の外接円を求める。この外接円の直径を各Mg酸化物の最大径Daとする。断面1cm2あたり、最大径Daが20μm以上のMg酸化物の個数を求める。断面積が1cm2未満の場合は、その個数を1cm2あたりに換算する。そして、異なる複数の断面について、同じようにして最大径Daが20μm以上のMg酸化物の個数を求める。それぞれの断面1cm2あたりにおける最大径Daが20μm以上のMg酸化物の個数の平均をMg酸化物の平均個数とする。観察する断面の数は、例えば10以上とする。観察する複数の断面のそれぞれの面積を合計した総面積は、例えば3.0cm2以上とする。
【0055】
(Al-Sr化合物)
Al-Sr化合物12は、マグネシウム合金に含まれるAlとSrとが化合して形成されたものである。組織10において、Al-Sr化合物12の平均粒径Dbが2μm以上のAl-Sr化合物12の平均個数は次の要件を満たす。平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物12の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であり、かつ、平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物12の平均個数が400μm2あたり1.0個未満である。平均粒径Dbが2μm以上のAl-Sr化合物12は、プレス加工時の割れの起点となり得る。平均粒径Dbが2μm以上5μm未満の中サイズのAl-Sr化合物12が多く存在したり、平均粒径Dbが5μm以上の粗大なAl-Sr化合物12が存在したりすると、割れの起点となり易い。上記中サイズのAl-Sr化合物12の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であることで、プレス加工によって割れが発生し難い。上記中サイズのAl-Sr化合物12の平均個数が少ないほど、割れの発生をより低減できる。上記中サイズのAl-Sr化合物12の平均個数は400μm2あたり、更に4.8個以下、4.5個以下が好ましい。上記粗大なAl-Sr化合物12の平均個数が400μm2あたり1.0個未満であることで、プレス加工によって割れが発生し難い。上記粗大なAl-Sr化合物12の平均個数が少ないほど、割れの発生をより低減できる。上記粗大なAl-Sr化合物12の平均個数は400μm2あたり、更に0.8個以下、0.7個以下が好ましい。上記中サイズのAl-Sr化合物12の平均個数、及び上記粗大なAl-Sr化合物12の平均個数は、ゼロ(0)でもよい。
【0056】
(Al-Sr化合物の平均個数の測定方法)
Al-Sr化合物の平均個数の測定は、マグネシウム合金板1の任意の部位の断面を観察することにより行う。観察する断面は、例えばマグネシウム合金板1の厚さ方向に沿った断面とする。断面の観察には、SEMを用いる。1つの断面のうち、400μm2の領域を観察する。400μm2の領域は、具体的には、20μm四方の領域である。観察した断面の画像を画像処理して、Al-Sr化合物の粒子を全て抽出する。各Al-Sr化合物の粒子の面積を求める。この面積に等しい円の直径を各Al-Sr化合物の平均粒径Dbとする。断面400μm2あたり、平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の個数を求める。断面400μm2あたり、平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の個数を求める。そして、異なる複数の断面について、同じようにして、平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の個数と、平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の個数を求める。それぞれの断面400μm2あたりにおける平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の個数の平均をそのサイズのAl-Sr化合物の平均個数とする。また、それぞれの断面400μm2あたりにおける平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の個数の平均をそのサイズのAl-Sr化合物の平均個数とする。観察する断面の数は、例えば10以上とする。
【0057】
(平均結晶粒径)
マグネシウム合金板1を構成するマグネシウム合金の平均結晶粒径Dcは、例えば10.0μm以下である。このようなマグネシウム合金板1は、微細な結晶組織を有することで、プレス加工性に優れる。平均結晶粒径Dcが小さいほど、0.2%耐力や引張強度といった強度や伸びが向上し、プレス加工性が向上する。平均結晶粒径Dcは、更に8.0μm以下、7.0μm以下が好ましい。平均結晶粒径Dcの下限は特に限定されないが、例えば3.0μm以上である。ここでいう平均結晶粒径は、圧延後の平均結晶粒径である。
【0058】
(平均結晶粒径の測定方法)
平均結晶粒径Dcの測定は、例えばライン法を利用できる。ライン法を利用する場合、マグネシウム合金板1の任意の部位の断面を光学顕微鏡で観察する。断面は、例えばマグネシウム合金板1の厚さ方向に沿った断面とする。観察した断面の画像に所定の長さの測定用直線を引き、測定用直線によって切断される結晶粒の個数を求める。測定用直線の長さは、この直線によって切断される結晶粒が100個以上となる長さとする。測定用直線の長さを結晶粒の個数で除した値を1つの断面での平均結晶粒径Dcとする。そして、異なる複数の断面について、同じようにして平均結晶粒径Dcを測定する。それぞれの断面における平均結晶粒径Dcの平均を最終的な測定結果とする。平均結晶粒径Dcを測定する断面の数は、例えば10以上とする。
【0059】
(機械的特性)
マグネシウム合金板1は、以下の機械的特性を有することが挙げられる。
【0060】
(0.2%耐力)
0.2%耐力は、例えば240MPa以上である。0.2%耐力が240MPa以上であるマグネシウム合金板1は、高い耐力を有することから、塑性変形し難い。0.2%耐力は高いほど好ましい。0.2%耐力は、248MPa以上、250MPa以上が好ましい。0.2%耐力の上限は特に設けないが、例えば300MPa以下である。
【0061】
(引張強度)
引張強度は、例えば338MPa以上である。引張強度が338Pa以上であるマグネシウム合金板1は、高い強度を有することから、破断し難い。引張強度は高いほど好ましい。引張強度は、340MPa以上、345MPa以上が好ましい。引張強度の上限は特に設けないが、例えば400MPa以下である。
【0062】
0.2%耐力が240MPa以上であること、及び引張強度が338MPa以上であることの両方を満たす場合は、強度に優れて好ましい。
【0063】
(伸び)
伸びは、例えば7.0%以上である。伸びが7.0%以上あるマグネシウム合金板1は、延性に優れる。伸びは高いほど好ましい。伸びは、8.0%以上、8.5%以上が好ましい。伸びの上限は特に設けないが、例えば15%以下である。ここでいう伸びは、破断伸びのことである。
【0064】
0.2%耐力が248MPa以上であり、かつ、伸びが8.0%以上であるマグネシウム合金板1は、耐力と伸びの両方が高く、優れた機械的特性を有する。
【0065】
〈測定方法〉
0.2%耐力、引張強度、及び伸びは、JIS Z 2241:2011「金属材料引張試験方法」に準拠して、引張試験を行って測定する。測定は室温で行う。室温は20℃±15℃である。試験片は、JIS 13B号の板状片とし、マグネシウム合金板1の任意の箇所から採取する。なお、マグネシウム合金板1の周縁及びその近傍の領域を除いて試験片をとると、適正な測定が行い易い。試験片は、例えば、マグネシウム合金板1の周縁から5mm以上離れた内側の領域からとる。
【0066】
<マグネシウム合金プレス加工品>
図3を参照して、実施形態に係るマグネシウム合金プレス加工品2を説明する。以下、「マグネシウム合金プレス加工品」を単に「プレス加工品」と記載する場合がある。プレス加工品2は、上述した実施形態に係るマグネシウム合金板1からなる。プレス加工品2は、マグネシウム合金板1をプレス加工機を用いてプレス加工したものである。プレス加工品2は、用途などに応じて、種々の大きさ、種々の形状を採用できる。本実施形態では、プレス加工品2は、上側が開口する矩形の箱形状である。
図3に示すプレス加工品2は、底板部20と側板部21との間に角部25が形成されている。
【0067】
プレス加工品2は、上述したマグネシウム合金板1を素材に使用しているから、プレス加工によって割れが発生し難い。プレス加工品2はプレス加工による割れが少ない。
【0068】
<マグネシウム合金板の製造方法>
上述したマグネシウム合金板1は、実施形態に係るマグネシウム合金板の製造方法によって製造できる。以下、実施形態のマグネシウム合金板の製造方法を説明する。実施形態のマグネシウム合金板の製造方法は、
図5に示すように、溶解工程S1と、鋳造工程S2と、溶体化工程S3と、圧延工程S4とを備える。以下、詳細に説明する。
【0069】
まず、
図4を参照して、実施形態のマグネシウム合金板の製造方法に利用する連続鋳造装置4の一例を説明する。連続鋳造装置4は、溶解炉41と、移送管42と、添加炉43と、タンディッシュ44と、鋳型5とを備える。溶解炉41及び添加炉43は、AlとSrとを含むマグネシウム合金の溶湯3を作製するためのものである。溶解炉41では、MgとAlとを溶解して第一の溶湯31を作製する。添加炉43では、第一の溶湯31にSr101を添加して溶湯3を作製する。溶解炉41と添加炉43との間は移送管42を介してつながっている。移送管42は、溶解炉41から第一の溶湯31を添加炉43に移送する。添加炉43は、溶解炉41の下流側に配置されている。具体的には、溶解炉41とタンディッシュ44との間に設けられている。添加炉43は、溶湯3を出湯口43gからタンディッシュ44に供給する。タンディッシュ44は、溶湯3を注湯口44tから鋳型5に注入する。鋳型5は、溶湯3を鋳造して鋳造材6を作製する。
【0070】
実施形態のマグネシウム合金板の製造方法の特徴の1つは、溶解工程S1において、溶解炉41でSrを添加するのではなく、溶解炉41の下流側に配置された添加炉43でSr101を添加する点にある。Sr101を添加した後、溶湯3が大気中の酸素と接触する機会を減らすことができるので、Mg酸化物の発生を抑制できる。
【0071】
(溶解工程)
溶解工程S1は、マグネシウム合金の溶湯3を作製する工程である。マグネシウム合金の溶湯3は、7質量%以上10質量%未満のAlと、0.01質量%以上0.5質量%以下のSrとを含む。溶湯3の組成は、上述したマグネシウム合金板の組成になるように調整したものである。実施形態の製造方法では、溶解工程S1は、
図5に示すように、第一の工程S11と、第二の工程S12と、第三の工程S13とを備える。
第一の工程S11は、溶解炉41にて、MgとAlとを溶解して第一の溶湯31を作製する工程である。
第二の工程S12は、第一の溶湯31を溶解炉41から添加炉43に移送する工程である。
第三の工程S13は、添加炉43にて、第一の溶湯31にSr101を添加して溶湯3を作製する工程である。
【0072】
〈第一の工程〉
第一の工程S11で作製する第一の溶湯31は、MgとAlとを含む溶湯であって、Srを含まない。溶解炉41に投入する原料100は、例えば、Mg、Al、MgとAlとを含むマグネシウム合金などが挙げられる。MgとAlとを含むマグネシウム合金としては、例えばAZ91合金などが挙げられる。その他、必要に応じて、Zn、Mnなどを加えてもよい。原料100の形態は、インゴットでもペレットでも粉末でもよい。第一の溶湯31の組成は、第三の工程S13でSr101を添加したときに、溶湯3の組成が所定の組成になるように調整する。
【0073】
第一の溶湯31の作製は、Mg酸化物の生成を抑制するため、溶解炉41内の雰囲気を酸素濃度が低い不活性ガス雰囲気としたり、第一の溶湯31の表面にSF6ガスなどの防燃ガスを吹き付けて保護膜を形成したりすることが好ましい。これにより、第一の溶湯31の表面が、溶解炉41内に流入した大気中の酸素と接触することを回避できる。不活性ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、窒素(N)などを用いることができる。不活性ガス雰囲気とする場合、雰囲気中の酸素濃度は、例えば0.5体積%以下とすることが好ましい。本実施形態では、溶解炉41内に不活性ガスを導入すると共に、SF6ガスを第一の溶湯31の表面に吹き付けて保護膜を形成している。
【0074】
溶解炉41では、原料100の投入時だけでなく、除滓時にも、溶解炉41内に大気が流入する頻度が多い。溶解炉41で作製する第一の溶湯31はSrを含まないため、Srを含む溶湯3に比べてMg酸化物の発生はある程度抑えられる。
【0075】
〈第二の工程〉
溶解炉41から添加炉43への第一の溶湯31の移送は移送管42を介して行う。移送管42には、第一の溶湯31を圧送するポンプ42pが設けられている。移送管42内を第一の溶湯31で満たすことで、第一の溶湯31と大気中の酸素との接触を回避できる。本実施形態では、移送管42は溶解炉41と添加炉43との間でサイホンを形成するように設けられている。
【0076】
〈第三の工程〉
添加炉43において、第一の溶湯31にSr101を添加することで、溶湯3を所定の組成にする。Sr101を添加すると、Mgが活性化され、Mg酸化物が生成され易くなる。そこで、添加炉43内の雰囲気は、例えば、酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。本実施形態では、添加炉43内に不活性ガスを導入して、添加炉43内の雰囲気が、酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス雰囲気に制御されている。
【0077】
添加炉43は、溶湯3をタンディッシュ44に供給する出湯口43gを有する。本実施形態では、出湯口43gが添加炉43の底部に設けられている。溶湯3中のMg酸化物は軽いため、溶湯3の表面に浮き上がる。出湯口43gが添加炉43の底部にあると、Mg酸化物が少ない溶湯3をタンディッシュ44に供給できる。
【0078】
Sr101の添加後は、Mg酸化物の生成を抑制するため、溶湯3と大気中の酸素との接触を低減することが望まれる。本実施形態では、添加炉43を下流側に配置して、添加炉43からタンディッシュ44に直接供給するように構成されている。そのため、Sr101を添加した後、溶湯3を鋳造するまでの時間が短い。即ち、溶湯3が大気中の酸素と接触する機会が少ない。
【0079】
{溶湯の表面積/溶湯の体積}
添加炉43において、Mg酸化物の生成を抑制するため、溶湯3の表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvを特定の範囲とすることが好ましい。溶湯3の表面積Msは、添加炉43内で溶湯3が雰囲気と接触する表面の面積である。溶湯3に含まれるSrの濃度、即ち含有量が多いほど、Mg酸化物がより生成され易い。そのため、Mg酸化物が過剰に生成されたり、粗大化したりするおそれがある。上記比Ms/Mvが小さいほど、溶湯3全体に対して雰囲気との接触面積が小さくなる。添加炉43内に大気が流入してMg酸化物が生成されたとしても、溶湯3全体に対するMg酸化物の量が減少する。溶湯3中のSrの濃度をX質量%として、上記比Ms/Mvが-0.0035×X+0.0053以下を満たすことで、溶湯3中のMg酸化物を低減できる。
【0080】
上記比Ms/Mvは、例えば0.005mm-1以下、更に0.003mm-1以下である。例えばSrの濃度Xが0.1質量%の場合、上記比Ms/Mvを0.005mm-1以下とすれば、最大径Daが20μm以上のMg酸化物の平均個数を5.0個/cm2未満とすることが可能である。Srの濃度Xが0.5質量%の場合、上記比Ms/Mvを0.003mm-1以下とすれば、最大径Daが20μm以上のMg酸化物の平均個数を5.0個/cm2未満とすることが可能である。つまり、Srの濃度Xが0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲であれば、上記比Ms/Mvを0.003mm-1以下とすることで、Mg酸化物を確実に低減できる。Srの濃度Xが0.1質量%以下であれば、上記比Ms/Mvを0.005mm-1以下まで許容できる。
【0081】
上記比Ms/Mvを小さくするには、溶湯3の表面積Msが小さくなるようにすればよい。例えば、添加炉43の形状を底が深い形状、即ち縦長の形状とすることが挙げられる。或いは、添加炉43の形状が上方に向かって内部空間が狭くなる先細り形状でもよい。このような形状の添加炉43を用いることで、溶湯3の表面積Msを小さくし、Mg酸化物の生成を抑制できる。
【0082】
{核生成物質}
上記第一の工程S11、及び上記第三の工程S13のうち少なくとも一方の工程において、第一の溶湯31、及び溶湯3の少なくとも一方に、核生成物質102を導入してもよい。核生成物質102は、溶湯3が凝固を開始する起点となる物質である。溶湯3中に核生成物質102を含むことで、凝固時にマグネシウム合金の結晶粒が微細になり、微細な結晶組織が得られる。
【0083】
核生成物質は、溶湯中に溶けず、かつ、溶湯中で分散し易い物質がよい。また、核生成物質はMgと格子定数が近いものが好ましい。Mgと格子定数が近いとは、Mgの格子定数と核生成物質の格子定数との比が、例えば0.75以上1.25以下の範囲内であることをいう。格子定数はa軸の格子定数とする。即ち、Mgの格子定数と核生成物質の格子定数との比は、(Mgのa軸の格子定数)/(核生成物質のa軸の格子定数)により求める。核生成物質としては、例えばMgO、炭化アルミニウム(Al4C3)、窒化アルミニウム(AlN)などが挙げられる。Mgのa軸の格子定数は3.2×10-10mである。MgOのa軸の格子定数は4.21×10-10mである。Al4C3のa軸の格子定数は3.3×10-10mである。AlNのa軸の格子定数は3.1×10-10mである。核生成物質の平均粒径は、例えば5μm以下、更に3μm以下が好ましい。核生成物質の含有量は、例えば10質量ppm以下、更に6質量ppm以下が好ましい。核生成物質の平均粒径が5μm以下であり、かつ、含有量が10質量ppm以下であれば、核生成物質は微細であり、かつ、極微量である。そのため、マグネシウム合金中に核生成物質が存在しても、マグネシウム合金板の特性に影響を与えることはほぼない。核生成物質の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0084】
核生成物質の導入方法としては、核生成物質の粉末を溶湯に直接添加してもよい。その他、溶湯中の元素と反応して核生成物質となる原料の粉末を溶湯に添加してもよい。核生成物質となる上記原料としては、例えば、カーボン(C)を用いることができる。カーボンの粉末を溶湯に添加した場合、溶湯中のAlと結合してAl4C3になる。Al4C3は核生成物質として機能する。或いは、溶湯中の元素と反応して核生成物質を形成するガスを溶湯に吹き込んで、溶湯中の元素との反応物として導入してもよい。核生成物質を形成する上記ガスとしては、例えば二酸化炭素(CO2)、N2などを用いることができる。CO2ガスを溶湯に吹き込んだ場合、溶湯中のMgがCO2の酸素と結合してMgOになり、CO2は酸素を奪われてカーボンになる。このカーボンは、溶湯中のAlと結合してAl4C3になる。Al4C3は核生成物質として機能する。N2ガスを溶湯に吹き込んだ場合、溶湯中のAlとNとが結合してAlNになる。AlNは核生成物質として機能する。溶湯にガスを吹き込んだ場合、ガスによって溶湯が攪拌され、核生成物質が溶湯中に微細に分散させるという効果も期待できる。
【0085】
(鋳造工程)
鋳造工程S2は、溶湯3を鋳造して鋳造材6を作製する工程である。本実施形態では、溶解工程S1で作製した溶湯3は、添加炉43の出湯口43gを介してタンディッシュ44に供給される。タンディッシュ44の注湯口44tから溶湯3を鋳型5に注入して、溶湯3を鋳造する。鋳造は連続鋳造が好ましい。連続鋳造には、双ロール鋳造、双ベルト鋳造、ベルトアンドホイール鋳造など種々の方法がある。本実施形態では、双ロール鋳造を利用する。双ロール鋳造は、鋳型5である一対のロール50間に溶湯3を供給し、ロール50で溶湯3を冷却して凝固させる。一対のロール50の各々は
図4に矢印で示す方向に回転される。双ロール鋳造は急冷凝固が可能である。そのため、双ロール鋳造により作製された鋳造材6は、引け巣、ポア、偏析などの内部欠陥が少ない。また、結晶粒が小さくなる上、Mg酸化物やAl-Sr化合物なども小さくなる。鋳造時の冷却速度は、例えば200℃/秒以上とすることが好ましい。冷却速度が大きいほど、内部欠陥の低減、結晶粒の微細化、Mg酸化物やAl-Sr化合物などの微細化を図ることができる。冷却速度は、更に300℃/秒以上、400℃/秒以上、500℃/秒以上が好ましい。
【0086】
また、双ロール鋳造を利用すれば、一様な厚さを有する平板状の鋳造材6を連続的に製造できる。例えば、長さが50m以上の鋳造材6を製造することも可能である。このような長尺な鋳造材6はコイル状に巻き取られる。鋳造材6の厚さは適宜選択できる。鋳造材6の厚さは、例えば2mm以上10mm以下である。
【0087】
(溶体化工程)
溶体化工程は、鋳造材を溶体化処理する工程である。溶体化処理は、鋳造材中に含まれる添加元素を固溶させ、AlやSrなどの濃度のバラツキを均一化する。溶体化処理の条件は、加熱温度を380℃以上420℃以下、保持時間を60分以上600分以下とするとよい。
【0088】
(圧延工程)
圧延工程は、溶体化処理した鋳造材を圧延して圧延材を作製する。得られた圧延材は、マグネシウム合金板である。溶体化処理した鋳造材を圧延することで、上述したポアなどの内部欠陥が少ない緻密な組織とすることができる。圧延により加工歪が導入されることで、再結晶化により結晶粒が微細化する。例えば、圧延後の平均結晶粒径Dcを10μm以下とすることが可能である。また、圧延によるせん断によって、粗大なMg酸化物やAl-Sr化合物が小さく分断される。圧延材の厚さは適宜選択できる。圧延材の厚さは、例えば0.5mm以上5mm以下である。
【0089】
圧延は温間圧延が好ましい。温間圧延の条件は、例えば、素材温度を200℃以上350℃以下とするとよい。素材温度を200℃以上とすることで、圧延し易くなり、圧延中の割れを抑制できる。素材温度を350℃以下とすることで、加工歪が除去され難く、再結晶化が起こり易い。圧延は、圧延材が所定の厚さになるまで、複数パス行ってもよい。1パスあたりの圧下率は、例えば10%以上50%以下とする。1パスあたりの圧下率(%)は、[(圧延前の厚さ-圧延後の厚さ)/圧延前の厚さ]×100で表される。総圧下率は、例えば70%以上95%以下、更に75%以上93%以下とすることが好ましい。総圧下率(%)は、[(初期厚さ-最終厚さ)/初期の厚さ]×100で表される。総圧下率が大きいほど、加工歪が大きくなる。そのため、微細な結晶組織が得られ易い。総圧下率が大き過ぎると、集合組織が発達して延性が低下する。そのため、所定の厚さまで圧延を継続できなくなるおそれがある。
【0090】
(その他)
圧延した後、必要に応じて、圧延材に熱処理、レベラー加工、研磨加工、表面処理などを実施してもよい。熱処理は、圧延材の歪を除去する。レベラー加工は、圧延材の反りを矯正する。研磨加工は、圧延材の表面に付着している圧延油を除去する。表面処理は、例えば、圧延材の表面を化成処理して、その表面に化成皮膜を形成する。
【0091】
[試験例1]
種々の条件でマグネシウム合金板の試料を作製した。作製した各試料を評価した。
【0092】
(試料の作製)
各試料のマグネシウム合金板は、上述した製造方法によって作製する。ここでは、
図4に示す連続鋳造装置4を使用する。この連続鋳造装置4は、上述した溶解炉41と添加炉43とを備える。表1に示す組成のマグネシウム合金の溶湯3を作製した。表1に示す各元素の含有量は質量%である。原料として、AZ91合金のインゴットを用意した。AZ91合金の組成は、9.0質量%のAlと、0.6質量%のZnと、0.2質量%のMnとを含み、残部がMg及び不可避不純物からなる。溶解炉41にて、AZ91合金を溶解して第一の溶湯31を作製した。試料No.1-10,1-11,1-12は、Alの含有量を調整するため、必要に応じて、第一の溶湯31にAl又はMgを添加した。添加炉43にて、第一の溶湯31にSrを添加してマグネシウム合金の溶湯3を作製した。試料No.1-1は、Srを添加していない。
【0093】
添加炉43における溶湯3の表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvが0.003mm-1となるように、添加炉43内の溶湯3の量を調整した。添加炉43内の雰囲気は酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス雰囲気とした。また、溶解炉41にて、第一の溶湯31に核生成物質102を導入した。具体的には、核生成物質102として、AlNの粉末を添加した。AlNの粉末の平均粒径は1μm以下である。AlNの粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)として算出した値である。AlNの粉末の添加量は5質量ppmである。試料No.1-7,1-9は、核生成物質を導入していない。表1中、「核生成物質(有/無)」は、有の場合、核生成物質を導入していることを示す。無の場合、核生成物質を導入していないことを示す。
【0094】
作製したマグネシウム合金の溶湯を双ロール鋳造法により連続鋳造して、鋳造材を作製した。鋳造材の長さは50m以上である。連続鋳造により得られた鋳造材の両端部分や両縁部分など、加工条件が不安定な部分は除去した。鋳造材の両端部分は、
図6に示すように、鋳造材6の長手方向の先頭部分211及び末端部分212を含む。鋳造材6の長手方向は鋳造方向に相当する。鋳造材6の場合、先頭部分211は鋳造開始時に形成される端部である。末端部分212は鋳造終了時に形成される端部である。鋳造材の両縁部分は、
図6に示す鋳造材6の幅方向における両側の縁部213である。鋳造材の幅は約400mmである。鋳造材の板厚は3mm以上10mm以下とした。表1中、「鋳造板厚」は鋳造材の板厚のことである。鋳造材をコイル状に巻き取った。鋳造時の冷却速度を測定した。ロールに注湯する前の溶湯の温度と、ロールから出てきた直後の鋳造材の温度との温度差とを測定すると共に、ロールに注湯してから鋳造材が出てくるまでの時間を測定した。冷却速度は、上記温度差を上記時間で割ることで算出した。試料No.1-17は、連続鋳造ではなく、金型鋳造とした。金型鋳造は、マグネシウム合金の溶湯を鋳型に流し込み、鋳型で溶湯を冷却して凝固させる。金型鋳造での冷却速度は、熱電対により鋳型内の溶湯の温度を測定し、溶湯が凝固するまでの時間から算出した。
【0095】
連続鋳造した鋳造材をコイル状に巻き取った状態で加熱炉に入れ、溶体化処理した。金型鋳造した鋳造材は、そのまま加熱炉に入れ、溶体化処理した。溶体化処理は、380℃以上420℃以下で5時間保持した。
【0096】
(溶体化後の平均結晶粒径の評価)
溶体化後の平均結晶粒径Dcを測定した。平均結晶粒径Dcの測定は、上述したライン法で行う。溶体化処理した鋳造材の任意の部位の断面において、平均結晶粒径Dcを測定した。上述した測定用直線の長さは、この直線によって切断される結晶粒が100個となる長さとした。平均結晶粒径Dcを測定する断面の数は10とした。表1中、「溶体化後平均結晶粒径」は溶体化処理した鋳造材での平均結晶粒径Dcのことである。
【0097】
溶体化処理した鋳造材に対して複数パスの圧延を行って、圧延材からなるマグネシウム合金板を作製した。圧延は板厚が0.8mmとなるまで実施した。圧延材の両端部分や両縁部分は除去した。圧延材の両端部分は、
図6に示すように、圧延材8の長手方向の先頭部分211及び末端部分212を含む。圧延材8の長手方向は圧延方向に相当する。圧延材8の場合、先頭部分211は圧延開示時に形成される端部である。末端部分212は圧延終了時に形成される端部である。圧延材の両縁部分は、
図6に示す圧延材8の幅方向における両側の縁部213である。圧延材の幅は約350mmである。1パスあたりの圧下率は10%以上50%以下とした。素材温度は200℃以上350℃以下とした。表1に、各試料の圧延後の板厚と総圧下率とを示す。
【0098】
圧延材の組成をグロー放電発光分析装置を用いて測定した。Alの含有量及びSrの含有量は表1に示すとおりであった。
【0099】
(圧延後の平均結晶粒径の評価)
圧延材に300℃で30分間の熱処理を行って、歪を除去した。熱処理した圧延材の平均結晶粒径Dcを測定した。平均結晶粒径Dcの測定は、上述したライン法で行う。圧延材の任意の部位の断面において、平均結晶粒径Dcを測定した。測定用直線の長さは、この直線によって切断される結晶粒が100個となる長さとした。平均結晶粒径Dcを測定する断面の数は10とした。表1中、「圧延後平均結晶粒径」は熱処理した圧延材での平均結晶粒径Dcのことである。
【0100】
(Mg酸化物量の評価)
圧延材の任意の部位の断面を観察することにより、最大径Daが20μm以上のMg酸化物の平均個数を測定した。最大径Daが20μm以上Mg酸化物の平均個数の測定は、上述したMg酸化物の平均個数の測定方法で行う。観察する断面の数は10とした。表1中、「MgO平均個数(≧20μm)」は最大径Daが20μm以上のMg酸化物の1cm2あたりの平均個数のことである。
【0101】
(Al-Sr化合物量の評価)
圧延材の任意の部位の断面を観察することにより、平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の平均個数と、平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の平均個数とを測定した。それぞれのAl-Sr化合物の平均個数は、上述したAl-Sr化合物の平均個数の測定方法で行う。観察する断面の数は10とした。表1中、「Al-Sr平均個数(<5μm)」は平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の400μm2あたりの平均個数のことである。「Al-Sr平均個数(≧5μm)」は平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の400μm2あたりの平均個数のことである。
【0102】
(機械的特性の評価)
圧延材について、0.2%耐力、引張強度、及び伸びを測定した。0.2%耐力、引張強度、及び伸びは、上述したように、JIS Z 2241:2011「金属材料引張試験方法」に準拠して、引張試験を行って測定した。機械的特性の測定結果は表2に示す。
【0103】
(プレス加工性の評価)
圧延材からプレス加工用の板片を20枚採取した。板片のサイズは、長さ200mm、幅300mmとした。上記板片をプレス加工機を用いてプレス加工した。ここでは、
図3に示すような矩形の箱形状のプレス加工品を作製した。プレス加工品における角部の外側の曲げ半径は1.0mmである。20枚の全ての板片についてプレス加工を実施した。プレス加工の条件は、上記板片の温度を250℃、金型温度を250℃とした。プレス加工品の外観をスコープで拡大して、割れの有無を調べた。割れは、長さが0.5mm以上で、かつ深さが10μm以上のものとする。20枚全てで割れが発見されなかった場合、プレス加工性の評価をAとする。20枚の板片のうち、1枚でも割れが1つ以上発生した場合、プレス加工性の評価をBとする。
【0104】
【0105】
【0106】
試料No.1-2から1-8、試料No.1-11から1-16は、特定の組成と、特定の組織とを備える。特定の組成とは、7質量%以上10質量%未満Alと、0.01質量%以上0.5質量%以下のSrとを含むマグネシウム合金からなる。特定の組織とは、最大径Daが20μm以上のMgOの平均個数が1cm2あたり5.0個未満である。更に、平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の平均個数が400μm2あたり5.0個未満であり、かつ、平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の平均個数が400μm2あたり1.0個未満である。
【0107】
表1に示すように、試料No.1-2から1-8、試料No.1-11から1-16は、いずれもプレス加工性に優れる。これらの試料は、圧延後の平均結晶粒径Dcが7.5μm以下であり、Srを含まない試料No.1-1に比べて、圧延後の平均結晶粒径Dcが小さい。また、試料No.1-2から1-6,1-8の比較から、Srを多く含むほど、溶体化後の平均結晶粒径Dcと圧延後の平均結晶粒径Dcが共に小さくなることが分かる。試料No.1-2から1-6,1-8のうち、Srを0.02質量%以上含む試料は、圧延後の平均結晶粒径Dcが7.0μm以下である。Srを0.05質量%以上含む試料は、圧延後の平均結晶粒径Dcが6.5μm以下である。また、表2に示す機械的特性の評価結果から、圧延後の平均結晶粒径Dcが小さくなるほど、0.2%耐力や引張強度、伸びといった機械的特性が向上することが分かる。試料No.1-2から1-8、試料No.1-11から1-16はいずれも、0.2%耐力が240MPa以上及び引張強度が338MPa以上の両方を満たしており、強度に優れる。更に、これらの試料は、伸びが7.0%以上であり、延性にも優れる。試料No.1-2から1-6,1-8のうち、Srを0.05質量%以上含む試料は、0.2%耐力が248MPa以上、かつ、伸びが8.0%以上であり、優れた機械的特性を有する。
【0108】
表1に示す試料No.1-6と1-7との比較、試料No.1-8と1-9との比較から、核生成物質を導入することによって、平均結晶粒径Dcが小さくなることが分かる。更に、核生成物質を導入することによって、平均粒径Dbが2μm以上5μm未満のAl-Sr化合物の平均個数、及び平均粒径Dbが5μm以上のAl-Sr化合物の平均個数がそれぞれ減少することが分かる。
【0109】
試料No.1-18の結果から、Srを過剰に含むと、平均結晶粒径Dcが小さくなるが、Al-Sr化合物の平均個数が増える。そして、プレス加工性が劣ることが分かる。試料No.1-10の結果から、Alを過剰に含むと、Al-Sr化合物の平均個数が増えることによって、プレス加工性が劣ることが分かる。
【0110】
試料No.1-8と1-11と1-12との比較から、Alを多く含むほど、0.2%耐力や引張強度といった強度特性が向上するが、伸びは低下することが分かる。試料No.1-13から1-16の比較から、圧延時の総圧下率が大きいほど、圧延後の平均結晶粒径Dcが小さくなることが分かる。試料No.1-17の結果から、冷却速度が著しく低い場合は、平均結晶粒径Dcが粗大化すると共に、Al-Sr化合物の平均個数も増加する。
【0111】
[試験例2]
種々の条件でマグネシウム合金板の試料を作製した。作製した各試料を評価した。ここでは、主として、添加炉の有無によるマグネシウム合金板の組織への影響を調べた。
【0112】
試験例2では、試験例1と同じように、連続鋳造装置を使用した。表3に示す組成のマグネシウム合金の溶湯を作製した。作製したマグネシウム合金の溶湯を双ロール鋳造法により連続鋳造して鋳造材を作製した。鋳造材を溶体化処理した。溶体化処理の条件は試験例1と同じとした。溶体化処理した鋳造材に複数パスの圧延を行って、圧延材からなるマグネシウム合金板を作製した。1パスあたりの圧下率は10%以上50%以下とした。素材温度は200℃以上350℃以下とした。圧延材に300℃で30分間の熱処理を行って、歪を除去した。
【0113】
添加炉における溶湯の表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvが0.003mm-1となるように、添加炉内の溶湯の量を調整した。添加炉内の雰囲気は酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス雰囲気とした。また、溶解炉にて、第一の溶湯に核生成物質となるAlNの粉末を添加した。AlNの粉末の平均粒径は1μm以下である。AlNの粉末の添加量は5質量ppmである。
【0114】
Srを添加しない試料No.2-1,2-2は、添加炉を使用していない。試料No.2-4,2-9,2-12及び2-14は、溶解炉でSrを原料と一緒に添加した。つまり、添加炉を使用しなかった。表3中、「添加炉(有/無)」は、有の場合、添加炉でSrを添加したことを示す。無の場合、添加炉を使用していないことを示す。
【0115】
試験例1と同様に各種評価を行った。その結果を表3、表4に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
試料No.2-3から2-16は、特定の組成を備えている。試料No.2-3から2-16のうち、添加炉を使用しなかった試料No.2-4,2-9,2-12及び2-14はいずれも、特定の組織を備えておらず、プレス加工性が劣っていた。これらの試料は、最大径Daが20μm以上のMgOの平均個数が1cm2あたり5.0個以上であった。試料No.2-3から2-16のうち、添加炉を使用した試料はいずれも、特定の組成と、特定の組織とを備えており、プレス加工性に優れる。これらの結果から、溶解炉よりも下流側に配置された添加炉でSrを添加することによって、MgOの生成を十分に抑制できることが分かる。また、試料No.2-3から2-16のうち、特定の組成と、特定の組織とを備える試料はいずれも、0.2%耐力が240MPa以上及び引張強度が338MPa以上の少なくとも一方を満たしており、高い強度を有する。更に、これらの試料は、伸びが7.0%以上であり、高い伸びを有する。特定の組成と、特定の組織とを備える試料は、試料No.2-3から2-16のうち、試料No.2-4,2-9,2-12及び2-14を除く試料である。具体的には、試料No.2-3,2-5,2-6,2-7,2-8,2-10,2-11,2-13,2-15及び2-16である。これらの試料のうち、Srを0.05質量%以上含む試料であって、圧延時の総圧下率が80%以上のものは、0.2%耐力が248MPa以上、かつ、伸びが8.0%以上であり、優れた機械的特性を有する。
【0119】
試料No.2-3から2-17の比較から、Srを多く含むほど、平均結晶粒径Dcが小さくなると共に、機械的特性が向上することが分かる。試料No.2-5と2-6との比較、試料No.2-13と2-15と2-16との比較から、圧延時の総圧下率が大きいほど、圧延後の平均結晶粒径Dcが小さくなることが分かる。
【0120】
試料No.2-17の結果から、Srを過剰に含むと、平均結晶粒径Dcが小さくなるとはいうものの、Al-Sr化合物の平均個数が増える。そして、プレス加工性が劣ることが分かる。試料No.2-18の結果から、Alを過剰に含むと、Al-Sr化合物の平均個数が増えることによって、プレス加工性が劣ることが分かる。
【0121】
[試験例3]
添加炉における溶湯の表面積と体積との比を変更して、マグネシウム合金板の試料を作製した。溶湯の表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvの値は、添加炉内の溶湯の表面の高さを変える、即ち添加炉内に貯める溶湯の量を変えることによって変更した。溶湯中のSrの濃度Xは0質量%から0.6質量%の間で変更した。ここでは、核生成物質を使用せずにマグネシウム合金の溶湯を作製した。マグネシウム合金板の製造条件は、試験例1の試料No.9と同じとした。そして、作製したマグネシウム合金板について、最大径Daが20μm以上のMgOの平均個数を測定した。その結果を
図7のグラフに示す。
図7の横軸は比Ms/Mvを表す。
図7の縦軸は最大径Daが20μm以上のMgOの平均個数を表す。黒丸のグラフはSrの濃度が0質量%のときのグラフである。黒三角のグラフはSrの濃度が0.02質量%のときのグラフである。白丸のグラフはSrの濃度が0.1質量%のときのグラフである。白三角のグラフはSrの濃度が0.5質量%のときのグラフである。X印のグラフはSrの濃度が0.6質量%のときのグラフである。
【0122】
図7のグラフから、溶湯中のSrの濃度Xが0.5質量%以下の範囲において、最大径Daが20μm以上のMgOの平均個数5個/cm
2未満となる、表面積Msと体積Mvとの比Ms/Mvを求めた。その結果、Ms/Mvが[-0.0035×X+0.0053]以下となるように設定すればよいことが分かった。
【0123】
[付記]
上述した実施形態のマグネシウム合金板の製造方法では、
図4に示す連続鋳造装置4を利用してマグネシウム合金の鋳造を行うことを説明した。この連続鋳造装置4は、マグネシウム合金の溶湯3を作製するために炉として、溶解炉41及び添加炉43とを備える。この連続鋳造装置4では、溶解炉41の下流側に配置された添加炉43でSr101を添加する。これにより、Sr101を添加した後、溶湯3が大気中の酸素と接触する機会を減らすというものである。
【0124】
以下では、
図8、
図9を参照して、溶解炉41において、溶解炉41内への大気の流入を抑制するための構成を説明する。
図8、
図9は、溶解炉41に設けられた開口部41iの近傍を拡大して示している。開口部41iには、蓋41aが設けられている。開口部41iは、例えば、原料投入口や除滓口などである。本例では、開口部41iは原料投入口である。
【0125】
図8に示す溶解炉41の例では、エアカーテン装置41b備える。エアカーテン装置41bは、蓋41aが開いたときに、開口部41iを覆うように不活性ガスを噴射する。エアカーテン装置41bから噴射された不活性ガスによって、開口部41iから溶解炉41内に大気が流入することを遮断する。
【0126】
図9に示す溶解炉41の例では、溶解炉41の外側に開口部41iを囲うようにガスパージ室7が設けられている。ガスパージ室7は、蓋7aと、ガスノズル7bとを有する。ガスノズル7bはガスパージ室7内に不活性ガスを導入する。ガスノズル7bから不活性ガスを導入することによって、ガスパージ室7内の酸素濃度を低減できる。ガスパージ室7内の酸素濃度は、例えば0.1体積%以下とすることが好ましい。ガスパージ室7を使用して原料100を溶解炉41へ投入する手順を説明する。まず、蓋41aは閉じた状態で、蓋7aを開いて、ガスパージ室7内に原料100をセットする。蓋7aを閉じて、ガスノズル7bから不活性ガスをガスパージ室7内に導入する。ガスパージ室7内の酸素濃度が所定の値になるまで待機する。酸素濃度が所定の値まで下がった後、蓋41aを開いて、原料100を溶解炉41に投入する。原料100の投入時、蓋7aは閉じた状態である。原料100の投入は、例えば、ガスパージ室7内にベルトコンベアなど設置しておき、原料100をその上に載せておく。そして、ベルトコンベアを遠隔操作することで、原料100を開口部41iから投入することができる。
【0127】
上述した
図8、
図9に示す各構成を備える溶解炉41は、蓋41aを開いても、溶解炉41内への大気の流入を効果的に抑制できる。そのため、原料100の投入時に、原料100と一緒にSr101を添加しても、溶解炉41でのMg酸化物の発生を抑えることができる。上述した溶解炉41を用いれば、
図4に示す添加炉43を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 マグネシウム合金板
10 組織
11 Mg酸化物、12 Al-Sr化合物
2 マグネシウム合金プレス加工品
20 底板部、21 側板部、25 角部
3 溶湯、31 第一の溶湯
4 連続鋳造装置
41 溶解炉
41a 蓋、41i 開口部
41b エアカーテン装置
42 移送管、42p ポンプ
43 添加炉、43g 出湯口
44 タンディッシュ、44t 注湯口
5 鋳型、50 ロール
6 鋳造材
7 ガスパージ室、7a 蓋、7b ガスノズル
8 圧延材
100 原料
101 Sr、102 核生成物質
211 先頭部分、212 末端部分、213 縁部
S1 溶解工程、S2 鋳造工程、S3 溶体化工程、S4 圧延工程
S11 第一の工程、S12 第二の工程、S13 第三の工程