(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190974
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】工作用の回転機器
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20221220BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20221220BHJP
B23Q 1/01 20060101ALI20221220BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20221220BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20221220BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B23Q11/00 E
B23Q11/12 A
B23Q1/01 T
F16C33/78 Z
F16J15/3204 201
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099536
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恭司
【テーマコード(参考)】
3C048
3J006
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3C048BC02
3C048CC04
3C048DD12
3C048EE00
3J006AE15
3J006AE41
3J006AE46
3J006AE50
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA20
3J216AA01
3J216AA14
3J216AB23
3J216AB33
3J216AB42
3J216BA05
3J216BA07
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA06
3J216CB06
3J216CB13
3J216CC25
3J216CC33
3J216DA14
3J216EA06
(57)【要約】
【課題】シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、適切に両立できる工作用の回転機器を提供する。
【解決手段】テーブル42と筐体2との間の隙間を塞ぐように、環状隙間100を隔てて、内部と外部との間を仕切るように、環状内シール材81および環状外シール材82が配置されている。環状隙間100にエアを供給する第1給気通路60と、環状内シール材81を隔てて、環状隙間100の内側に位置する環状内隙間101にエアを供給する第2給気通路70とを備える。環状隙間100に対して、環状内隙間101の方が、所定の微差圧でエア圧が高くなるように調整する微差圧調整機構を更に備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作用の回転機器であって、
テーブルを有するスピンドルと、
前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、
前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて、径方向または軸方向において内部と外部との間を仕切るように配置された、環状内シール材および環状外シール材からなる一対の環状シール材と、
前記環状隙間にエアを供給する第1給気通路と、
を備え、
前記環状内シール材を隔てて、前記環状隙間の内側に位置する環状内隙間にエアを供給する第2給気通路と、
前記環状隙間に対して、前記環状内隙間の方が、所定の微差圧でエア圧が高くなるように調整する微差圧調整機構と、
を更に備えた、工作用の回転機器。
【請求項2】
請求項1に記載の工作用の回転機器において、
前記第2給気通路は、前記第1給気通路よりも、流路を流れるエアの圧力損失が小さくなる構造に形成されていて、
前記微差圧調整機構が、前記第1給気通路および前記第2給気通路の構造を用いて構成されている、工作用の回転機器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の工作用の回転機器において、
前記微差圧調整機構が、前記筐体の内部に連通するとともに当該筐体の内部のエア圧の調整が可能な調圧排気通路を用いて構成されていて、
前記調圧排気通路により、前記筐体の内部を大気圧よりも高く保持可能な、工作用の回転機器。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の工作用の回転機器において、
前記微差圧調整機構が、前記筐体の内部に連通するとともに流れるエアの圧力損失によって減圧する減圧排気通路を用いて構成されていて、
前記減圧排気通路により、前記筐体の内部を大気圧よりも高く保持可能な、工作用の回転機器。
【請求項5】
請求項3または4に記載の工作用の回転機器において、
前記筐体の内部に、前記スピンドルを回転させるモータを収容した収容室が設けられ、
前記第2給気通路が、前記収容室を通じて前記環状内隙間にエアを供給する、工作用の回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、加工対象物を支持する回転テーブルなどの工作用の回転機器に関し、その中でも特に、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とを両立する技術する。
【背景技術】
【0002】
工作時には、切粉や切削水が周辺に飛散するため、この種の回転機器は過酷な環境下で回転される。回転部位に異物が侵入すると、故障の原因となる。そのため、通常は、シール材で回転部位の周囲を封止し、異物の侵入を防止している。
【0003】
開示する技術に関連して、本発明者が先に提案した回転機器がある(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の回転機器では、円形のテーブルを有するスピンドルが備えられていて、そのスピンドルを回転可能に収容する筐体とテーブルとの間の隙間を塞ぐように、一対の環状シール材が所定の環状隙間を隔てて配置されている。
【0005】
そして、その環状隙間に、圧力差によってシール性が局所的に低下しないよう、周方向に互いに間隔を隔てた複数の位置からエアが供給されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術を従来の回転機器に適用することにより、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、適切に両立できるようになった。
【0008】
しかし、近年は、従来よりも更に高速で回転できる回転機器が求められている。そこで、本発明者は、回転の高速化について検討を進めているが、その検討過程において、高速化を進めた場合、発熱抑制の点に関して、特許文献1の技術に改善の余地があることが判明した。
【0009】
また、この種の回転機器の場合、機能的に優れていたとしても、安価でなければ実用化は難しい。
【0010】
そこで、開示する技術の主たる目的は、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、よりいっそう適切に両立でき、高速化に対応できる工作用の回転機器を、安価で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する技術は、工作用の回転機器に関する。当該回転機器は、テーブルを有するスピンドルと、前記テーブルを露出させた状態で、前記スピンドルを回転可能に収容する筐体と、前記テーブルと前記筐体との間の隙間を塞ぐように、所定の環状隙間を隔てて、径方向または軸方向において内部と外部との間を仕切るように配置された、環状内シール材および環状外シール材からなる一対の環状シール材と、前記環状隙間にエアを供給する第1給気通路と、を備える。
【0012】
そして、前記環状内シール材を隔てて、前記環状隙間の内側に位置する環状内隙間にエアを供給する第2給気通路と、前記環状隙間に対して、前記環状内隙間の方が、所定の微差圧でエア圧が高くなるように調整する微差圧調整機構と、を更に備える。
【0013】
好ましくは、前記第2給気通路は、前記第1給気通路よりも、流路を流れるエアの圧力損失が小さくなる構造に形成されていて、前記微差圧調整機構が、前記第1給気通路および前記第2給気通路の構造を用いて構成されている。
【0014】
好ましくは、前記微差圧調整機構が、前記筐体の内部に連通するとともに当該筐体の内部のエア圧の調整が可能な調圧排気通路を用いて構成されていて、前記調圧排気通路により、前記筐体の内部を大気圧よりも高く保持可能な工作用の回転機器である。
【0015】
好ましくは、前記微差圧調整機構が、前記筐体の内部に連通するとともに流れるエアの圧力損失によって減圧する減圧排気通路を用いて構成されていて、前記減圧排気通路により、前記筐体の内部を大気圧よりも高く保持可能な工作用の回転機器である。
【0016】
好ましくは、前記筐体の内部に、前記スピンドルを回転させるモータを収容した収容室が設けられ、前記第2給気通路が、前記収容室を通じて前記環状内隙間にエアを供給する。
【発明の効果】
【0017】
開示する技術によれば、安価で実現できる簡単な構造でありながら、シール部位での発熱抑制と異物侵入防止とが、よりいっそう適切に両立でき、工作用の回転機器の高速化に対応できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態のNC円テーブル(回転機器)を示す概略斜視図である。
【
図2】
図1における矢印X-X線での概略断面図である。
【
図3】環状シール材を径方向に配置したNC円テーブルの概略断面図である。
【
図4】環状シール材の動作を説明するための図である。
【
図5】他の実施形態のNC円テーブルの概略断面図である。
【
図6】他の実施形態のNC円テーブルの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、開示する技術の実施形態について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0020】
特に言及しない限り、説明で用いる「軸方向」は、回転軸Jが延びる方向を意味する。同様に、「周方向」は、回転軸Jを中心とする円周の方向を意味し、「径方向」は、回転軸Jを中心とする半径または直径の方向を意味する。「前」は工作時における使用側を意味し、「後」は工作時における不使用側を意味する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1、
図2に、開示する技術を適用したNC円テーブル1(回転機器の一例)を示す。NC円テーブル1は、大略、筐体2、ボックス3、スピンドル4、モータ5などで構成されている。NC円テーブル1は、工作時に用いられ、その前面のテーブル42が高速回転する。
【0022】
すなわち、テーブル42にチャック等を装着してワーク(加工対象物)を支持する。そうした状態で、スピンドル4が高速で回転駆動される。回転するワークに、冷却用のオイルや水を供給しながら、切削具等を押し当てることにより、加工が行われる。
【0023】
特に近年、工作時に、従来よりも高速回転が求められる場合がある。従って、そのような高速回転にも適切に対応できるようになれば、利便性に優れる。今回開示する技術は、そのような事情に基づくものである。
【0024】
筐体2は、本体部21、前蓋部22、後蓋部23などで構成されている。本体部21には、前後方向に貫通する円筒状の収容空間が形成されている。後蓋部23は、本体部21の後側に組み付けられており、その収容空間の後側の開口を塞いでいる。
【0025】
前蓋部22は、円筒状の部材からなる。前蓋部22は、本体部21の前側に形成されている円形の凹部に嵌め込まれている。前蓋部22は、本体部21の収容空間の前側を覆うように、本体部21の前側に組み付けられている。それにより、本体部21の収容空間の前後が塞がれて、筐体2の内部に、略密閉された収容室21aが形成されている。
【0026】
前蓋部22には、円形の開口部22aが形成されている。開口部22aの中心線と収容室21aの中心線とは、略一致している。収容室21aの前側には、環状のベアリング7が配置されている。ベアリング7は、互いに自在に回転する外輪部7aおよび内輪部7bを有している。ベアリング7は、その外輪部7aが、本体部21と前蓋部22との間に挟み込まれることにより、筐体2に組み付けられている。
【0027】
ボックス3は、箱形の容器からなり、筐体2の一方の側面に組み付けられている。ボックス3の内部には、NC円テーブル1の駆動および制御に用いられる各種ケーブルや電気機器が配設されている。ボックス3から導出されているケーブル(図示せず)を通じて、NC円テーブル1に電力が供給される。
【0028】
本実施形態のスピンドル4は、シャフト41およびテーブル42を有している。シャフト41は、多段円柱状の部材からなり、収容室21aに収容されている。シャフト41は、小径部41aと、小径部41aよりも外径が大きい大径部41bとを有している。
【0029】
テーブル42は、開口部22aの内径よりも僅かに外径が小さい円板状部材からなり、シャフト41(大径部41b)の前面に組み付けられている。シャフト41とテーブル42とが組み付けられることにより、ベアリング7の内輪部7bが、シャフト41とテーブル42との間に挟み込まれている。それにより、スピンドル4は、ベアリング7を介して筐体2に軸支されており、回転軸Jを中心に回転自在となっている。
【0030】
上述したように、テーブル42は、スピンドル4のうち、チャック又は冶具等を介してワークが装着される部位であり、テーブル42の円形の前面は、開口部22aを通じて筐体2の前面に露出している。なお、スピンドル4は、本実施形態のように、複数のパーツを組み合わせて構成してもよいし、一体で構成してあってもよい。
【0031】
モータ5は、ロータ51とステータ52とを有し、収容室21aに収容されている。ロータ51は、環状の部材からなり、小径部41aに固定されている。ステータ52は、ロータ51よりも大きな環状の部材からなり、ロータ51と僅かなギャップを隔てて径方向に対向した状態で、本体部21に固定されている。
【0032】
ステータ52に所定の制御電流を供給することで、ロータ51との間に回転磁界が形成される。それによってスピンドル4が、直接駆動され、所定の高速回転(例えば、ロータ51の外周での周速が10m/s以上)で回転する(いわゆるダイレクトドライブ形式)。
【0033】
なお、スピンドルの回転速度が速くなるほど、モータの駆動時にモータで発生する熱量も増加する。従って、回転速度の高速化を進める場合、モータの発熱への対応も重要になる。
【0034】
(隙間のシール)
回転体であるテーブル42と、非回転体である筐体2との間には隙間が有る。NC円テーブル1の場合、その前面は、切粉や切削水に曝されるため、隙間を通じて収容室21aへのこれら異物の侵入を防ぐ必要がある。
【0035】
高接触圧のオイルシールやフェイスシールでシールすれば、異物の侵入は効果的に防ぐことができるが、接触圧が高いため、接触部位の摩擦によって発熱し易いという問題がある。高速回転では、発熱量が過剰になり、シール材の変形や劣化を招く。スピンドル4やテーブル42が熱膨張して、加工精度が悪化するおそれもある。回転速度が速くなるほど、その傾向は顕著になる。
【0036】
一方、低接触圧のシール材(例えば、バネ無しのオイルシールやVリングなど)でシールすれば、接触圧が低いため、接触部位の発熱が低減できる。しかし、その分、シール性が低下するため、異物が侵入し易くなる。すなわち、発熱抑制と異物侵入防止とが両立できない。
【0037】
そこで、本発明者は、先に、低接触圧のシール材とエア圧とを利用して、発熱抑制と異物侵入防止とが両立できるように鋭意工夫した(特許文献1参照)。このNC円テーブル1は、その工夫を前提としている。
【0038】
(環状シール材)
テーブル42と筐体2との間の隙間を塞ぐように、本実施形態における一対の環状シール材8,8(環状内シール材81、環状外シール材82ともいう)が、軸方向に、所定の環状隙間100を隔てて内部と外部との間を仕切るように配置されている。各環状シール材8は、前蓋部22の開口部22aの内周縁に形成されている段部30に圧入されている。
【0039】
これら環状シール材8は、いずれも低接触圧のシール材である(例えば、バネ無しのオイルシール)。各環状シール材8は、弾性変形可能なリップ8aと、段部30に装着される環状の基部8bと、を有している。
【0040】
各リップ8aは、傾斜している。隙間の外方に向かうほどリップ8aの内径が小さくなるように、各環状シール材8は配置されている。各環状シール材8は、テーブル42と筐体2との間の隙間に配置されている。リップ8aの先端部分が、テーブル42の外周面に接触している。なお、各リップ8aの接触圧を高めるには、例えば、バネ無しをバネ有りとすればよい。
【0041】
(第1給気通路)
環状隙間100と連通して、環状隙間100にエアを供給する第1給気通路60が、筐体2に形成されている。
【0042】
図2に示すように、本実施形態の第1給気通路60は、1つのメイン通路60a、1つの環状スペース60b、複数の連絡通路60cなどで構成されている。
【0043】
メイン通路60aは、筐体2に形成された細い孔からなり、本体部21にL状に屈曲する形状に形成されている。メイン通路60aの上流側の端部は、本体部21の外面に開口し、メイン通路60aの下流側の端部は、本体部21の、前蓋部22との接合面に開口している。
【0044】
メイン通路60aの上流側の端部には、流れるエアの流量調整が可能な第1絞り弁9が取り付けられている。第1絞り弁9には、コンプレッサ等、エアの供給源(図示せず)に接続されたエア供給管11が接続されている。それにより、工作時には、エア供給管11および第1絞り弁9を通じて、エアが所定の流量でメイン通路60aに導入される。メイン通路60aは、環状スペース60bと連通している。
【0045】
環状スペース60bは、周方向に延びる環状の空間からなり、スピンドル4の周囲を巡るように、筐体2に設けられている。具体的には、前蓋部22の後面の外周縁部に凹みが形成されていて、前蓋部22が本体部21に組み付けられることにより、環状スペース60bが形成されている。環状スペース60bの両側には、気密性を確保するパッキン12が装着されている。
【0046】
各連絡通路60cは、前蓋部22に形成されている。各連絡通路60cは、細い孔からなり、略L状に屈曲する形状に形成されている。各連絡通路60cは、周方向における互いに間隔を隔てた複数箇所に形成されている。これら複数の連絡通路60cを介して、環状スペース60bと環状隙間100とが連通している。
【0047】
従って、エア供給管11から導入されるエアは、第1絞り弁9によって流量が調整された後、メイン通路60a、環状スペース60b、および複数の連絡通路60cの各々を介して、環状隙間100に供給される。その際、環状隙間100の周方向の特定箇所に、局所的なエアの圧力差が生じるのが抑制されるので、全周にわたってバランスよくシールできる。
【0048】
(第2給気通路)
環状隙間100の内側に位置する隙間(環状内隙間101)に、収容室21aを通じてエアを供給する第2給気通路70が、筐体2に形成されている。環状内隙間101は、環状内シール材81を隔てて環状隙間100の内側に位置している隙間である。換言すれば、環状隙間100と環状内隙間101とは、環状内シール材81によって内外に仕切られている。
【0049】
図2に示すように、本実施形態の第2給気通路70は、筐体2に形成された1つの縦孔で構成されている。具体的には、第2給気通路70は、本体部21を切削して収容室21aに貫通するように形成されており、第2給気通路70の上流側の端部は、本体部21の外面に開口し、第2給気通路70の下流側の端部は、本体部21の内面に開口している。
【0050】
第2給気通路70の上流側の端部には、第1給気通路60と同様の、第2絞り弁10が取り付けられている。第2絞り弁10もまた、エア供給管11に接続されている。それにより、工作時には、エア供給管11、第2絞り弁10、および、第2給気通路70を通じて、エアが所定の流量で収容室21aに導入される。
【0051】
収容室21aは、ベアリング7の隙間を介して、環状内隙間101と連通している。従って、エア供給管11から収容室21aに導入されるエアは、環状内隙間101にも流入する。
【0052】
(調圧排気通路、減圧排気通路)
筐体2には、収容室21aを、筐体2の外側の環境と連通させる排気通路90が設けられている。この実施形態では、後蓋部23に、その板面を貫通する排気通路90が形成されている。なお、排気通路90は、本体部21または前蓋部22に形成してもよい。排気通路90としては、筐体2の内部のエアを排気できる通路であればよい。
【0053】
排気通路90の下流側の端部、つまり後蓋部23の外面側には、圧力調整弁91が設けられている。圧力調整弁91は、収容室21aのエア圧が設定した所定の圧力(大気圧より高い圧力)に達すると、自動的に排気する。それにより、この実施形態の排気通路90は、収容室21aのエア圧の調整が可能に構成されている(調圧排気通路90A)。
【0054】
この調圧排気通路90Aにより、収容室21aを含めた筐体2の内部は、大気圧以上に保持可能になっている。従って、第2給気通路70からエアを供給することにより、筐体2の内部を大気圧よりも高いエア圧に保持できる。
【0055】
調圧排気通路90Aに代えて、減圧排気通路90Bを設けてもよい。減圧排気通路90Bは、流路を流れるエアの圧力損失が大きい構造の排気通路90である。例えば、排気通路90の距離を長くしたり、排気通路90の一部または全部の流路断面を小さくして流路を絞ったり、流路を屈曲させたりすることで、減圧排気通路90Bを形成することができる。
【0056】
図2に、二点鎖線でそのような減圧排気通路90Bの一例を示す。この減圧排気通路90Bは、本体部21に細長い屈曲した流路として形成されている。このような減圧排気通路90Bを設けることで、第2給気通路70からエアを供給することにより、筐体2の内部を、動的に、大気圧より高いエア圧に保持できる。
【0057】
そして、調圧排気通路90Aおよび減圧排気通路90Bのいずれの場合も、第2絞り弁10によるエアの流量の調整により、筐体2の内部のエア圧を調整できる。調圧排気通路90Aおよび減圧排気通路90Bのいずれの場合も、既存の構造から極めて簡単な変更で実施できるので、安価である。
【0058】
(環状シール材の径方向への配置)
一対の環状シール材8,8は、軸方向でなく、径方向に、環状隙間100を隔てて内部と外部との間を仕切るように配置してもよい。
【0059】
図3に、そのように一対の環状シール材8,8を配置したNC円テーブル(NC円テーブル1’)を示す。なお、基本的な構造は、
図2に示したNC円テーブル1と同じである。
【0060】
このNC円テーブル1’では、テーブル42が、前蓋部22の前方に張り出すフランジ部42aを有している。それにより、このNC円テーブル1’のテーブル42の前面は、上述したNC円テーブル1よりも大きく、かつ、そのサイズは自在に設計できる。
【0061】
フランジ部42aと前蓋部22の前面との間の隙間に、一対の環状シール材8,8が、径方向に環状隙間100を隔てて、内部と外部との間を仕切るように配置されている。これら環状シール材8には、例えば、Vリングが使用できる。
【0062】
Vリングもまた、バネ無しのオイルシールと同様、低接触圧のシール材である。すなわち、各環状シール材8(Vリング)は、弾性変形可能なリップ8aと、環状の基部8bと、を有している。各リップ8aは傾斜していて、各リップ8aの付け根部分の内径よりも先端部分の内径の方が大きくなるように、各環状シール材8は形成されている。
【0063】
基部8bは、フランジ部42aの後面に形成された円筒状の受面に装着されている。それにより、リップ8aの先端部分は、前蓋部22の前面に接触している。
【0064】
各連絡通路60cの下流側の端部は、屈曲して前方に延びている。その屈曲した端部が、環状隙間100の後面に接続されている。
【0065】
(微差圧調整機構)
これらNC円テーブル1,1’には、環状隙間100に対して、環状内隙間101の方が、所定の微差圧で、エア圧が高くなるように調整する、微差圧調整機構が設けられている。
【0066】
本実施形態では、第1給気通路60および第2給気通路70を用いて、微差圧調整機構が構成されている。すなわち、第1給気通路60は、上述したように、長く、そして、空気抵抗の大きい流路で形成されている。それに対し、第2給気通路70は、第1給気通路60に較べて短く、そして、空気抵抗の小さい流路で形成されている。従って、第2給気通路70は、第1給気通路60よりも、流路を流れるエアの圧力損失は、小さい。
【0067】
それにより、第1給気通路60よりも第2給気通路70の方が、動的に、エア圧を高く調整できる。その結果、環状隙間100と環状内隙間101との間に、簡単に、所定の微差圧を生じさせることが可能になる。既設の構造を利用するうえ、新たな構造も簡素であるため、安価で実施できる。従って、微差圧調整機構は、第1給気通路60および第2給気通路70の構造を用いて構成するのが好ましい。
【0068】
なお、ここでいう微差圧は、環状シール材8の種類や性能にもよるが、例えば、0.05MPa以下が好ましい。0.01MPa以下がより好ましい。一般的な環状シール材8を用いた場合であれば、この範囲において、適切な効果を得ることができる。
【0069】
微差圧調整機構はまた、上述した調圧排気通路90Aまたは減圧排気通路90Bを用いて構成するのが好ましい。すなわち、これら特定の排気通路90を設けることにより、収容室21a、環状内隙間101を含め、筐体2の内部のエア圧を、大気圧より大きい所定の圧力に調整することが可能になる。構造も簡素であるため、安価で実施できる。従って、微差圧調整機構は、これら特定の排気通路90を用いて構成するのが好ましい。
【0070】
なお、微差圧調整機構は、第1給気通路60および第2給気通路70の特定の構造、および/または、特定の排気通路90を用いなくても、環状隙間100および環状内隙間101の各々に供給するエア圧を個別に制御することによっても構成できる。
【0071】
但し、その場合、制御装置やエア流量の制御が可能な電磁弁などを設ける必要がある。従って、部品数や実施コストも多くなる。それに対し、本実施形態の微差圧調整機構によれば、部品数や実施コストも少なく、安価で実現できる。また、いったん適切な状態にエア圧を調整すれば、エアの供給源の圧力が安定している限り、エア圧が大きく変化する可能性は低い。従って、実用的に必要かつ十分な状態で機能させることができる。
【0072】
(環状シール材の動作)
環状シール材8の動作について、一対の環状シール材81,82を径方向へ配置した形態を例に説明する。なお、軸方向に配置した形態でも、その動作は同様である。
【0073】
最初に、第1給気通路60のみからエアを供給した場合(従来と同じ形態)での、環状シール材の動作について説明する。
図4の上図(z)に、その環状シール材81,82の動作を概略的に示す。
【0074】
矢印で示すように、各環状シール材81,82は、所定の押付力Fで筐体2に接触している。そして、破線の矢印で示すように、第1給気通路60を通じて環状隙間100にエアを供給すると、各環状シール材81,82は加圧される。
【0075】
それにより、環状外シール材82には、矢印で示すように、押付力Fに抗して、リップ8aを押し上げる方向(環状隙間100を開く方向)にエア圧P1が作用する。環状内シール材81には、矢印で示すように、押付力Fとともに、リップ8aを押し付ける方向(環状隙間100を閉じる方向)にエア圧P1が作用する。
【0076】
従って、環状シール材81,82の接触圧が低く、多少の隙間が生じ得る状態であっても、環状隙間100へのエアの供給により、密封性を確保できる。更に、エア圧が一定以上になると、環状外シール材82が押し上げられてエアが吹き出すので、より異物の侵入を防止することができる。従って、テーブル42と前蓋部22(筐体2)との間の隙間からの異物の侵入を安定して防止できる。
【0077】
各環状シール材81,82の接触圧は低くてもよいので、接触部位での発熱も効果的に低減できる。従って、発熱も抑制できる。電力消費も低減できるし、シール材の劣化も抑制でき、耐久性も向上する。
【0078】
しかしこの場合、回転速度の高速化を進めると、発熱抑制の点で、改良の余地があることが判明した。すなわち、環状内シール材81には、押付力Fとともに、リップ8aを押し付ける方向に、環状隙間100のエア圧P1が作用するので、環状隙間100のエア圧P1が高くなると、それに伴って、前蓋部22に対するリップ8aの先端部分の接触圧も大きくなる。
【0079】
環状シール材81,82は低接触圧のシール材であるので、通常の回転速度であれば、環状隙間100のエア圧が多少大きくなっても、摩擦によって発生する熱量は少ない。そのため、放熱とのバランスにより、発熱が問題となるおそれは認められなかった。ところが、回転速度を更に速めていくと、そのようなエア圧でも発熱し、その発熱の抑制が必要になることが判明した。
【0080】
特に、環状シール材81,82を径方向へ配置した場合に、その必要性が高くなることも判明した。すなわち、環状シール材81,82を径方向へ配置した場合、回転時における各環状シール材8のリップ8aは、遠心力の作用によって開き易くなる。そして、径方向の外側に位置している環状外シール材82は、径方向の内側に位置している環状内シール材81よりも開き易い。
【0081】
回転速度が速くなるほど、その影響は大きくなるので、回転速度を高速化すると、環状外シール材82が開き過ぎるおそれがある。環状外シール材82が開き過ぎないようにするためには、環状シール材81,82の押付力Fを、従来よりも強くする必要性が生じる。そうすると、環状内シール材81の接触圧が高くなる。
【0082】
そこで、本実施形態のNC円テーブル1,1’では、第2給気通路70を設けて、環状内隙間101をエア圧で加圧するとともに、微差圧調整機構を設けて、環状隙間100に対して、環状内隙間101の方が、所定の微差圧でエア圧が高くなるように調整している。
【0083】
具体的には、
図4の上図(z)に示した、第1給気通路60を通じた環状隙間100へのエアの供給に加え、
図4の下図の(a)に破線で示すように、第2給気通路70を通じて環状内隙間101にエアを供給する。それにより、環状内シール材81は加圧されるが、環状外シール材82は加圧されない。
【0084】
環状内シール材81には、矢印で示すように、そのリップ8aを押し上げる方向にエア圧P2が作用する。その結果、環状内シール材81のリップ8aは、環状内シール材81の押付力Fおよび環状隙間100のエア圧P1が合わさった力で押し付けられるとともに、環状内隙間101のエア圧P2で押し上げられる状態になる。
【0085】
すなわち、押し付ける力から押し上げる力を減算した差分の力が、リップ8aの実際の接触圧となる(F+P1-P2)。そして、微差圧調整機構により、環状隙間100のエア圧P1に対して、環状内隙間101のエア圧P2の方が、所定の微差圧で高く調整されるので(P2>P1)、環状内シール材81のリップ8aそれ自体の押付力Fを低減できる。
【0086】
そして、
図4の下図の(b)に示すように、環状隙間100のエア圧が押付力よりも高くなると(P1>F)、環状外シール材82のリップ8aが開く。それにより、環状隙間100のエアが外部に放出される。
【0087】
このとき、環状内シール材81のリップ8aは開かないように、環状隙間100のエア圧P1および環状内隙間101のエア圧P2を設定するのが好ましい。具体的には、環状内シール材81のリップ8aを押し付ける力(F+P1)よりも環状内隙間101のエア圧P2の方が小さくなるように設定する(F+P1>P2)。
【0088】
なお、このときも、環状内隙間101のエア圧P2の方が、環状隙間100のエア圧P1よりも所定の微差圧で高く保持されている(P2>P1)。そうすれば、環状外シール材82のリップ8aが開くときに、環状内シール材81のリップ8aは開かないようにできるので、密封性を確実に確保できる。
【0089】
エアが放出されることにより、環状隙間100のエア圧P1が低下する場合がある。その場合、環状内シール材81のリップ8aを押し付ける力(F+P1)よりも、環状内隙間101のエア圧P2の方が大きくなることにより、
図4の下図の(c)に示すように、環状内シール材81のリップ8aが開く。それにより、環状内隙間101のエアが環状隙間100に補充される。環状隙間100のエア圧P1は適正な状態に復帰する。
【0090】
このように、開示する技術を適用したNC円テーブル1,1’によれば、環状内シール材81の接触圧を効果的に低減できる。その結果、回転速度の高速化を進めた場合でも、リップ8aのシール部位の発熱を抑制できる。リップ8aの摩耗を抑制できる。接触抵抗の抑制に伴い、消費電力も低減できる。
【0091】
環状内シール材81の内外の双方からシール部位にエアが流れるので、リップ8aを効果的に冷却できる。エアの放出によって環状隙間100のエア圧が低下しても、速やかに補充できる。
【0092】
環状内隙間101に、収容室21aを通じてエアを供給すれば、ベアリング7やモータ5も冷却できる。モータ5の発熱も抑制できる。筐体2の内部に溜まる高温のエアを排出できる。
【0093】
<他の実施形態>
上述した実施形態のNC円テーブル1,1’では、第2給気通路70が筐体2の本体部21に形成されている場合について説明した。しかし、第2給気通路70は、仕様に応じて適宜変更できる。
【0094】
そのようなNC円テーブル(NC円テーブル1AおよびNC円テーブル1B)を例示する。なお、これらNC円テーブル1AおよびNC円テーブル1Bも、基本的な構造は、上述したNC円テーブル1,1’と同じである。従って、異なる構成について説明し、同じ構成については同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0095】
NC円テーブル1Aを、
図5に示す。このNC円テーブル1Aでは、第1給気通路60と同様に、1つの第2メイン通路201、1つの第2環状スペース202、複数の第2連絡通路203などで、第2給気通路70が構成されている。
【0096】
これら通路201,202,203は、本体部21および前蓋部22の双方に形成されている。それにより、収容室21aをバイパスして、環状内隙間101の近傍にエアを供給するように構成されている。
【0097】
NC円テーブル1Bを、
図6に示す。このNC円テーブル1Bでは、第2給気通路70は、第1給気通路60から分岐させることによって構成されている。
【0098】
具体的には、
図6に拡大して示すように、第1給気通路60の各連絡通路60cの下流側の端部に、環状隙間100と環状内隙間101の双方に向かう2方向に分岐した分岐流路210が形成されている。そして、環状内隙間101に向かう分岐流路210によって、第2給気通路70が構成されている。
【0099】
この場合、環状隙間100と環状内隙間101の双方に、エアを適切な状態で分配しながら流すために、環状隙間100および環状内隙間101への流入部位の各々に、流路断面を小さくした絞り口211を設けるのが好ましい。
【0100】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0101】
例えば、環状シール材には、低接触圧のシール材が好ましいが、通常の接触圧のシール材であってもよい。第1給気通路および第2給気通路のエア圧の調整により、各環状シール材の実際の接触圧を調整できる。
【符号の説明】
【0102】
1,1’,1A,1B NC円テーブル(回転機器)
2 筐体
60 第1給気通路
70 第2給気通路
81 環状内シール材
82 環状外シール材
100 環状隙間
101 環状内隙間