(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191016
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221220BHJP
F16H 61/14 20060101ALI20221220BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20221220BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/14 601E
F16H61/14 601F
F16H61/68
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099619
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】今村 友一
【テーマコード(参考)】
3J053
3J552
【Fターム(参考)】
3J053CA02
3J053CB05
3J053DA08
3J053DA13
3J053DA24
3J552MA01
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA20
3J552RA08
3J552RB15
3J552SA01
3J552SB10
3J552UA02
3J552UA07
3J552VA02W
3J552VA32W
3J552VA42Z
3J552VA43W
3J552VA74Z
3J552VC01W
3J552VD03W
(57)【要約】
【課題】ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる車両用駆動装置の制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置は、キックダウン変速を実施して変速機の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合(ステップS1でYES)、ロックアップクラッチを解放状態に切り替えた状態で(ステップS2)、変速クラッチの切り替えを伴う変速段の変更を行う(ステップS2からステップS6)。制御装置は、キックダウン変速を実施して変速機の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、キックダウン変速の実施中は、エンジンの目標回転速度である目標エンジン回転速度を、トルクコンバータと変速クラッチとを接続するタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度よりも高く設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、
前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、
前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態と動力を遮断する遮断状態とを切り替え可能な変速クラッチと、
前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、
を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
ドライバの加速要求に応じて前記変速段をダウンシフトするキックダウン変速を実施する制御部を備え、
前記制御部は、
前記キックダウン変速を実施して前記変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、
前記ロックアップクラッチを解放状態に切り替えた状態で、前記変速クラッチの切り替えを伴う前記変速段の変更を行うことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記キックダウン変速を実施して前記変速段を前記所定の変速段にダウンシフトする場合、
前記キックダウン変速の実施中は、前記エンジンの目標回転速度である目標エンジン回転速度を、前記トルクコンバータと前記変速クラッチとを接続するタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度よりも高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記所定の変速段は、車両の発進に用いる発進用変速段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンと変速機との間にロックアップクラッチを内蔵した流体継手と変速クラッチとを介設し、発進時にはロックアップクラッチを断し、発進後にはロックアップクラッチを接し、変速時には変速クラッチを断接する制御を行う制御部を設けた動力伝達装置であって、上記制御部は、変速時に一旦断した変速クラッチを完接するまではロックアップクラッチ接の押圧力を弱め、変速クラッチを完接した後にロックアップクラッチ接の押圧力を元の状態まで高める制御を行うものが開示されている。特許文献1に記載の動力伝達装置によれば、ロックアップクラッチの耐久性を確保しつつ、変速クラッチの接ショックを減少できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達装置にあっては、変速時に、押圧力が弱められたロックアップクラッチを介して、トルクコンバータのイナーシャがエンジンに作用する。このため、特許文献1に記載の動力伝達装置にあっては、ドライバの加速要求に応じて変速機の変速段を低速側にダウンシフトするキックダウンを実施するとき、エンジン回転速度が速やかに上昇することができないため、キックダウン変速の開始から完了までの時間が長くなってしまい、キックダウン変速の応答性が良くないという問題があった。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、エンジンと、前記エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態と動力を遮断する遮断状態とを切り替え可能な変速クラッチと、前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、ドライバの加速要求に応じて前記変速段をダウンシフトするキックダウン変速を実施する制御部を備え、前記制御部は、前記キックダウン変速を実施して前記変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、前記ロックアップクラッチを解放状態に切り替えた状態で、前記変速クラッチの切り替えを伴う前記変速段の変更を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置によるキックダウン変速の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置によるキックダウン変速の実施時の車両状態の推移を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、比較例の車両用駆動装置の制御装置によるキックダウン変速の実施時の車両状態の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、エンジンと、エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、トルクコンバータと変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態と動力を遮断する遮断状態とを切り替え可能な変速クラッチと、変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、ドライバの加速要求に応じて変速段をダウンシフトするキックダウン変速を実施する制御部を備え、制御部は、キックダウン変速を実施して変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、ロックアップクラッチを解放状態に切り替えた状態で、変速クラッチの切り替えを伴う変速段の変更を行うことを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる。
【実施例0010】
以下、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、車両1は、内燃機関型のエンジン2と、このエンジン2に接続されたトルクコンバータ30と、変速機3と、駆動輪4と、制御装置10と、エンジンコントローラ20と、を含んで構成されている。エンジン2、変速機3およびトルクコンバータ30は、本発明における車両用駆動装置を構成している。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。エンジン2は、車両1の動力源である。
【0013】
変速機3は、エンジン2と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられている。変速機3は、変速機構31と、変速クラッチ32と、クラッチアクチュエータ33と、図示しないシフトアクチュエータと、を有している。変速機3は、制御装置10によってクラッチアクチュエータ33およびシフトアクチュエータが制御されることにより、変速機構31の変速段の変更操作と、変速クラッチ32の状態の切り替え操作とが自動で行われる自動変速機である。本実施例において、変速機3は、平行軸歯車式の有段手動変速機の構成を基に変速動作を自動化したAMT(Automated Manual Transmission)からなる。
【0014】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ35を有する、いわゆるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータである。トルクコンバータ30は、エンジン2と変速クラッチ32との間の動力伝達経路に設けられ、流体を介して動力の伝達を行いクランク軸21から入力されるトルク(駆動力)をタービン軸36に出力する。このように、トルクコンバータ30は、エンジン2と変速機3との間に設けられている。
【0015】
タービン軸36には、変速クラッチ32が接続されている。つまり、タービン軸36は、トルクコンバータ30と変速クラッチ32とを接続している。トルクコンバータ30は、エンジン2のクランク軸21から入力されるトルク(駆動力)を、流体を介することにより回転差にて増幅してタービン軸36および変速クラッチ32に出力する。そして、トルクコンバータ30の出力は、タービン軸36を介して変速クラッチ32に伝達され、変速クラッチ32を介して変速機構31に伝達される。
【0016】
トルクコンバータ30の内部は、ロックアップクラッチ35を境にして図示しないアプライ室とリリース室とに区画されている。アプライ室又はリリース室には作動油が供給され、供給される作動油の油圧(作動油圧)によってロックアップクラッチ35の作動状態を切り替えるようになっている。
【0017】
ロックアップクラッチ35は、トルクコンバータ30内に設けられている。ロックアップクラッチ35は、エンジン2のクランク軸21とタービン軸36とが一体的に回転して動力伝達するように接続(以下、「直結」という)する締結状態と、クランク軸21とタービン軸36との直結を解除して流体(作動油)を介してクランク軸21とタービン軸36とが動力伝達をする解放状態と、の間で作動状態が切り替えられるようになっている。
【0018】
ロックアップクラッチ35は、アプライ室に作動油圧(以下、この作動油圧を「締結油圧」という)が供給されてリリース室から作動油が排出されることで、締結状態に切り替えられる。逆に、ロックアップクラッチ35は、リリース室に作動油圧(以下、この作動油圧を「解放油圧」という)が供給されてアプライ室から作動油が排出されることで、解放状態に切り替えられる。
【0019】
変速機構31は、変速クラッチ32と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられ、変速クラッチ32に接続された入力軸37と、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に接続された出力軸38と、を有する。変速機構31は、変速クラッチ32から入力軸37に入力される駆動力を変換および回転速度を変速して、出力軸38から出力する。このように、変速機構31は、トルクコンバータ30を介してエンジン2から伝達された回転を、変速段に応じた変速比で変速して出力する。
【0020】
変速機構31は、エンジン2から出力され、入力軸37に伝達されたエンジン2の回転を、後述する複数の変速段のうち選択されたいずれかの変速段に応じた変速比で変速して出力軸38に出力する。出力軸38に出力された回転や駆動力は、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に伝達される。
【0021】
変速機構31は、歯数比の異なる複数のギヤ対によって変速比の異なる複数の変速段を形成可能に構成されている。変速機構31は図示しない同期機構(シンクロメッシュ)を備えており、同期機構は、切換え先の変速段での同期を行う。変速機構31における変速段の変更は、図示しないシフトアクチュエータによって自動で行われるようになっている。詳細には、制御装置10が、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照することにより変速の要否を判断し、変速の指示をシフトアクチュエータに出力する。そして、変速指示を受けたシフトアクチュエータが動作して、変速が行われる。
【0022】
変速クラッチ32は、トルクコンバータ30と変速機構31との間の動力伝達経路に設けられており、トルクコンバータ30と変速機構31との間の動力伝達を締結状態または遮断状態に切り替える。変速クラッチ32は、タービン軸36と一体で回転するように連結されたクラッチホイールディスク32aと、変速機構31の入力軸37と一体で回転するように連結されたクラッチディスク32bと、を有する。
【0023】
変速クラッチ32は、乾式単板クラッチであって、クラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aに押し付けることでクラッチディスク32bとクラッチホイールディスク32aが一体的に回転して動力伝達する締結状態と、クラッチディスク32bがクラッチホイールディスク32aから分離されることでクラッチホイールディスク32aとクラッチディスク32bとの間の動力伝達を遮断する遮断状態と、に切り替えられるようになっている。つまり、変速クラッチ32は、締結状態ではタービン軸36と入力軸37との間で動力を伝達し、遮断状態ではタービン軸36と入力軸37との間の動力伝達を遮断する。
【0024】
変速クラッチ32に対する締結状態と遮断状態とを切り替える操作(以下、「クラッチ操作」という)は、クラッチアクチュエータ33によって自動で行われるようになっている。このように、クラッチアクチュエータ33によるクラッチ操作と、図示しないシフトアクチュエータによる変速段の変更操作と、により、変速機3の変速段の変更が行われる。
【0025】
クラッチアクチュエータ33は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10からの指令に基づき、変速クラッチ32のクラッチ操作を行うようになっている。具体的には、クラッチアクチュエータ33は、いずれも図示しないレリーズベアリングをレリーズフォーク等にて入力軸37の軸方向に移動させ、レリーズベアリングにてクラッチホイールディスク32aのダイヤフラムスプリングを弾性変形させて変速クラッチ32を遮断状態とする。また、クラッチアクチュエータ33は、レリーズベアリングを遮断状態の位置から遮断状態にする時と反対の方向に移動させ、ダイヤフラムスプリングを弾性変形から解放させて変速クラッチ32を締結状態とする。
【0026】
制御装置10及びエンジンコントローラ20は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0027】
これらコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、これらコンピュータユニットを制御装置10及びエンジンコントローラ20として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらコンピュータユニットは、本実施例における制御装置10及びエンジンコントローラ20として機能する。
【0028】
制御装置10には、上述した図示しないシフトアクチュエータ、クラッチアクチュエータ33及び油圧制御装置40等の各種装置、クランク角センサ50、タービン回転速度センサ51、クラッチ回転速度センサ52、クラッチ位置検出センサ53、ロックアップ油圧センサ54、車速センサ55及びアクセルセンサ56等の各種センサ類が接続されている。
【0029】
油圧制御装置40は、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35やクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧を制御する。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきロックアップクラッチ35に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、ロックアップクラッチ35を締結状態又は解放状態に切り替える。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、変速クラッチ32を締結状態又は遮断状態に切り替える。
【0030】
クランク角センサ50は、クランク軸21の回転角(以下、「クランク角」という)を検出する。制御装置10は、クランク角センサ50から入力されたクランク角を示す情報に基づきエンジン2の回転速度(クランク軸21の回転速度)であるエンジン回転速度を算出する。
【0031】
タービン回転速度センサ51は、タービン軸36の回転速度(以下、「タービン回転速度」という)を検出する。クラッチ回転速度センサ52は、クラッチディスク32b及び入力軸37の回転速度(以下、「クラッチ回転速度」という)を検出する。
【0032】
クラッチ位置検出センサ53は、変速クラッチ32におけるレリーズベアリングの位置あるいはレリーズベアリングの移動状態に関連して移動するレリーズフォーク等の部品の位置(以下、「クラッチ位置」という)を検出する。クラッチ位置は、変速クラッチ32の状態(遮断状態/半クラッチ状態/締結状態)を示すものでもあり、変速クラッチ32の伝達するトルクの大きさを示すものとも考えられる。ロックアップ油圧センサ54は、ロックアップクラッチ35に供給される作動油圧を検出する。本実施例では、アプライ室に作用する締結油圧を検出することを想定しているが、リリース室に作用する解放油圧を基準にアプライ室に作用する油圧を推定あるいは検出してもよいし、ロックアップ油圧センサ54を設けなくてもよい。車速センサ55は、車両1の速度である車速を検出する。アクセルセンサ56は、運転者による図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出する。したがって、アクセルセンサ56は、ドライバの加速要求を検出する。なお、アクセルセンサ56は、アクセルペダルの踏込み量に連動して変化するスロットル弁の動きを検出してもよい。
【0033】
制御装置10は、クラッチ位置検出センサ53によって検出されたクラッチ位置に基づき、クラッチ位置とクラッチ伝達トルク(以下、「クラッチトルク」ともいう)との関係を定義した図示しないマップを参照することにより、変速クラッチ32を制御、具体的には変速クラッチ32のクラッチ操作が行われるようクラッチアクチュエータ33を制御するクラッチ制御部101としての機能を有する。本実施例の制御装置10は、本発明における制御部を構成する。
【0034】
制御装置10は、車両1の発進後の走行中の通常の変速を行う場合、変速クラッチ32を締結状態から遮断状態に切り替えた後、変速機構31における変速段を変更し、その後、変速クラッチ32を遮断状態から締結状態に切り替えるように、クラッチアクチュエータ33及びシフトアクチュエータを制御することによって、クラッチ操作及びシフト操作を自動で行うようになっている。通常の変速とは、例えば、緩い加速のための4速段から5速段へのアップシフト、または緩い減速のための4速段から3速段へのダウンシフトである。制御装置10は、このような通常の変速を実施する場合、ロックアップクラッチ35を締結状態に維持するようになっている。
【0035】
ここで、制御装置10は、ドライバの加速要求に応じて変速機3の変速段をダウンシフトするキックダウン変速を実施する。詳しくは、ドライバの加速要求が大きく、アクセルペダルの踏込み量が所定値を超える場合、制御装置10は、キックダウン変速を行う。キックダウン変速は、変速機3の変速段を低速側の変速段にダウンシフトして減速比を大きくし、エンジン回転速度を上昇させて駆動力を増大し、車両1を大きく加速させる変速である。
【0036】
キックダウン変速を行う場合、制御装置10は、変速機3において、まず変速クラッチ32を解放状態に切り替える。次いで、制御装置10は、現在の変速段から低速側の変速段へ変更(ダウンシフト)を行う。詳細には、制御装置10は現在成立している変速段を解除して変速機3を中立状態にし、その後、制御装置10は、ダウンシフト先の変速段を成立させるべくシフトアクチュエータを制御する。この時、変速機構31の同期機構が働いて、入力軸37の回転(クラッチディスク32bの回転)がダウンシフト先の変速段および車速に応じた回転速度となるように同期(シンクロ)を完了させる。その後、制御装置10は、変速クラッチ32を締結状態に切り替えるように、クラッチアクチュエータ33を制御する。そして、これらの変速機3における制御と同時に、エンジン回転速度を上昇させる制御が行われる。
【0037】
したがって、キックダウン変速を速やかに完了させるためには、ダウンシフト先の変速段での同期を速やかに完了する必要がある。そして、この同期後に行われる変速クラッチ32の締結を速やかに完了するためには、変速クラッチ32の締結動作が開始できるエンジン回転速度(以下、同期回転速度という)までエンジン回転速度を速やかに上昇させる必要がある。エンジン回転速度を速やかに上昇させるためには、キックダウン変速の実施中にトルクコンバータ30のイナーシャ(慣性質量)をエンジン2に作用させないようにすることが好ましい。キックダウン変速の実施中にロックアップクラッチ35が締結状態に維持されている場合、トルクコンバータ30のイナーシャ(慣性質量)がエンジン2に作用してしまうので、エンジン回転速度を同期回転速度まで速やかに上昇させることができない。つまり、ロックアップクラッチ35が締結状態に維持されている場合、クランク軸21には、タービン軸36とクラッチホイールディスク32aが直結されているので、それらのイナーシャ(慣性質量)がクランク軸21の回転数の上昇を抑制することとなり、キックダウン変速の実施中にエンジン回転速度を同期回転速度まで速やかに上昇させることができない。
【0038】
本実施例では、キックダウン中にタービン回転速度を素早く引き上げる手段として、ロックアップクラッチ35を解放しエンジン回転速度を先に吹き上げているが、エンジン回転速度でなく、タービン回転に着目すると、以下の様になる。ダウンシフト先の変速段での同期後に行われる変速クラッチ32の締結を速やかに完了するためには、変速クラッチ32の締結動作が開始されてから完了するタービン回転速度までタービン回転速度を速やかに上昇させる必要がある。クラッチディスク32bの回転力を利用してタービン回転速度を速やかに上昇させるためには、キックダウン変速の実施中にエンジン2のイナーシャ(慣性質量)をトルクコンバータ30に作用させないようにすることが好ましい。キックダウン変速の実施中にロックアップクラッチ35が締結状態に維持されている場合、エンジン2のイナーシャ(慣性質量)がトルクコンバータ30に作用してしまうので、タービン回転速度を同期回転速度まで速やかに上昇させることができない。つまり、ロックアップクラッチ35が締結状態に維持されている場合、タービン軸36には、クランク軸21が直結されているので、それらのイナーシャ(慣性質量)がタービン軸36の回転数の上昇を抑制することとなり、キックダウン変速の実施中にタービン回転速度を同期回転速度まで速やかに上昇させることができない。
【0039】
そこで、本実施例において、制御装置10は、キックダウン変速を実施して変速機3の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、ロックアップクラッチ35を解放状態に切り替えた状態で、変速クラッチ32の切り替えを伴う変速段の変更を行う。ここでいう所定の変速段とは、車両の発進に用いる様な比較的大きな減速比に設定されている低速段である。なお、変速機構31の変速段を減速比順に分けると、発進を含む低速走行用の変速段である低速段(発進用変速段ともいう)、中速段(低速段と高速段の中間の変速段)、高速走行用の変速段である高速段に変速段を分けることができる。
【0040】
所定の変速段は、例えば、最も変速比が大きく低速側の変速段である1速段を含み、発進用変速段には、1速段の次に変速比が大きい2速段を車両の発進に用いることがあるため(路面が低摩擦の場合等に用いられる)、1速段に加えて2速段も含まれる。
【0041】
発進用変速段を用いて車両1を発進させる場合、制御装置10は、ロックアップクラッチ35を解放状態に制御し、ロックアップクラッチ35におけるトルク増幅により大きな駆動力を発生させる。また、発進用変速段ではない中高速用の変速段では、制御装置10は、ロックアップクラッチ35を締結状態に制御し、ロックアップクラッチ35における滑りによる燃費の悪化を防止する。
【0042】
また、本実施例において、制御装置10は、キックダウン変速を実施して変速機3の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、キックダウン変速の実施中は、エンジン2の目標回転速度である目標エンジン回転速度を、トルクコンバータ30と変速クラッチ32とを接続するタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度よりも高く設定する。
【0043】
次に、
図2を参照して本実施例に係る制御装置10のキックダウン変速の動作について説明する。
【0044】
制御装置10は、ステップS1で、キックダウン変速の要求の有無を判断する。ここでは、アクセルペダルの踏み込み量に基づくドライバの加速要求が所定値より大きい場合等のとき、制御装置10は、キックダウン変速の要求が有ると判断する。なお、キックダウン変速の要求有無の判断には、アクセルペダルの踏み込み量以外に、運転者によるブレーキ操作の有無やシフトレバー等によるシフトダウン操作を参照することができる。ブレーキ操作やシフトダウン操作を勘案して、キックダウン変速の要求を判断することができる。
【0045】
制御装置10は、キックダウン変速の要求が有る場合、キックダウン変速を行う。キックダウン変速は、以下のステップS2からステップS10からなる。
【0046】
制御装置10は、ステップS2で、ロックアップクラッチ35の解放指示と、変速クラッチ32の解放指示とを行う。解放指示を受け、ロックアップクラッチ35と変速クラッチ32の解放が開始される。
【0047】
次いで、制御装置10は、ステップS3で、変速クラッチトルク≦0[Nm]となるまで判別を繰り返す(条件の成立を待つ)。制御装置10は、変速クラッチトルク≦0[Nm]となった場合に、ステップS4でギヤシフトを開始する。このギヤシフトは、現在の変速段よりも低速側の変速段へのダウンシフトである。つまり、ステップS3は、変速クラッチ32が完全に断となったことを確認するステップであって、駆動力が伝達される状態にある時に変速機構31のギヤ抜き(現在成立している変速段を解除して変速機3を中立状態にする)を抑制してショックの発生を防止する。
【0048】
制御装置10は、ステップS5で、ステップS4で開始されたギヤシフトが完了し、かつ、エンジン回転速度の上昇に伴い増加するタービン回転速度がタービン回転速度≧目標回転速度の関係となるまで判別を繰り返す(条件の成立を待つ)。つまり、ステップS5は、変速クラッチ32を締結する準備ができているかを判別し、変速クラッチ32の締結開始の頃合いを見はからっている。
【0049】
制御装置10は、ステップS5の判別がYESとなるとステップS6に進み、ステップS6で、変速クラッチ32の締結指示を行う。これにより、変速クラッチ32は締結が開始する。
【0050】
次いで、制御装置10は、ステップS7で、タービン回転速度=同期回転速度となるまで判別を繰り返す。なお、同期回転速度は、変速先の変速段の変速比と車速等から演算される入力軸37の回転速度であって、クラッチディスク32bの回転速度である。つまり、タービン回転速度とクラッチディスク32bの回転速度が同じになり、変速クラッチ32の締結が完了したことを判別し、ロックアップクラッチ35の締結開始の頃合いを見はからっている。
【0051】
制御装置10は、ステップS7でタービン回転速度=同期回転速度になるとステップS8に進み、ステップS8で、ロックアップクラッチ35の締結指示を行う。これにより、ロックアップクラッチ35が締結を開始する。
【0052】
制御装置10は、ステップS9で、タービン回転速度=エンジン回転速度となるまで判別を繰り返す。
【0053】
制御装置10は、ステップS9でタービン回転速度=エンジン回転速度になった場合、ステップS10で、ロックアップクラッチ35の締結が完了したと判定する。
【0054】
制御装置10は、ステップS11で、キックダウン変速の動作が完了したと判定し、今回の動作を終了する。
【0055】
次に、
図2のキックダウン変速の動作を行った場合(
図3参照)と、ロックアップクラッチ35を締結状態に維持したままキックダウン変速の動作を行う場合の比較例(
図4参照)とについて、車両状態の推移について説明する。
【0056】
図3は、
図2に示す本実施例のキックダウン変速の動作を行った場合の車両状態の推移を示すタイミングチャートであり、初期状態では、ロックアップクラッチ35および変速クラッチ32は締結状態にされており、中速段あるいは高速段にて一定の車速で走行している。
【0057】
図3において、時刻t1で、キックダウン変速の要求(例えば、アクセルペダルが大きく踏込まれた)があり、キックダウン変速が開始される。この時刻t1では、ロックアップクラッチ35の解放指示と、変速クラッチ32の解放指示とが行われる。
【0058】
その後、時刻t2で、ロックアップクラッチ35の解放が完了する。ロックアップクラッチ35の解放が完了すると、エンジン2に対するタービン軸36以降の動力伝達経路のイナーシャ(慣性質量)の作用が減少するため、エンジン回転速度が速やかに上昇を開始する。
【0059】
その後、時刻t3で、変速クラッチ32の解放が完了する。変速クラッチ32の解放が完了すると、タービン軸36は入力軸37から分離されて流体(作動油)を介してクランク軸21の回転が伝わりタービン回転速度が上昇を開始する。また、変速クラッチ32の解放後は、変速段の変更(ダウンシフト)が行われるため、車速に対する切り替え後の変速段に応じた回転速度まで、クラッチ回転速度が上昇する。
図3に示すように、タービン回転の加速度よりもクラッチ回転の加速度を大きくして、変速機構31におけるダウンシフトを短時間で完了させる。また、クラッチ回転の加速度よりもタービン回転の加速度を比較的緩やかにして、エンジン回転速度の制御を容易にしている。そして、
図3に示すように、キックダウン変速の時に、タービン回転速度よりもクラッチ回転速度が上回る瞬間が存在するようにしてもよく、この様に設定すれば、クラッチディスク32bの回転力を利用してタービン軸36の回転速度を上昇させることができる。
【0060】
その後、時刻t4で、エンジン回転速度が最大値(目標エンジン回転速度)まで到達し、変速クラッチ32の締結(タービン軸36とクラッチディスク32bの同期)が開始される。この時、エンジン回転速度は目標エンジン回転速度に維持される様に制御され、クラッチディスク32bの回転速度に比較してタービン軸36の回転速度が大きく低下してクラッチディスク32bの回転速度とタービン軸36の回転速度が近づいていく。
【0061】
この状態をタービン回転速度に着目すると、時刻t4で、タービン回転速度が目標タービン回転速度に到達し、変速クラッチ32の締結(タービン軸36とクラッチディスク32bの同期)が開始される。この後、タービン回転速度はクラッチディスク32bによって回転速度が大きく低下するので、時刻t4でタービン回転速度が最大値となる。
【0062】
その後、時刻t5で、変速クラッチ32の同期が完了する。変速クラッチ32の同期が完了すると、タービン回転速度とクラッチ回転速度が等しくなる。また、この時刻t5では、変速クラッチ32の締結(タービン軸36とクラッチディスク32bの同期)が完了したことに応じて、ロックアップクラッチ35の締結指示が行われる。そして、タービン回転速度およびクラッチ回転速度は、トルクコンバータ30を介して伝達されたエンジン2の動力により、エンジン回転速度と等しくなるように上昇する。つまり、変速クラッチ32が締結された時刻t5以降に、車速の上昇が本格的に始まる。この時、エンジン回転速度は変速クラッチ32を締結する時よりもやや高めに制御される。
【0063】
その後、時刻t6で、ロックアップクラッチ35の締結が完了し、キックダウン変速を構成する一連の動作の全てが完了する。その後は、アクセル操作に応じてエンジン回転速度が制御される。
図3に示す例では、エンジン回転速度が上昇し車両の加速が継続されている。
【0064】
図4は、ロックアップクラッチ35を締結状態に維持したまま変速段の変更を行う場合の比較例の車両状態の推移を示すタイミングチャートであり、初期状態では、ロックアップクラッチ35および変速クラッチ32は締結状態にされている。
【0065】
図4において、時刻t11で、キックダウン変速の要求があり、変速クラッチ32の解放指示が行われる。
【0066】
その後、時刻t12で、変速クラッチ32の解放が完了する。
【0067】
その後、時刻t13で、エンジン回転速度が最大値(目標エンジン回転速度)まで到達し、変速クラッチ32の同期が開始される。
【0068】
その後、時刻t14で、変速クラッチ32の同期が完了する。
【0069】
このように、
図4の比較例では、時刻t11で、キックダウン変速の要求があったときに、ロックアップクラッチ35を締結状態に維持しているため、エンジン回転速度が速やかに上昇することができない。そのため、時刻t13でエンジン回転速度が最大値(目標エンジン回転速度)に到達するタイミングが遅くなってしまい、変速クラッチ32の同期を完了するタイミングが遅くなってしまう。このため、キックダウン変速の開始から完了までに要する時間が長くなってしまう。したがって、
図4の比較例では、キックダウン変速の応答性が劣ってしまう。
【0070】
以上のように、本実施例において、制御装置10は、キックダウン変速を実施して変速機3の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、ロックアップクラッチ35を解放状態に切り替えた状態で、変速クラッチ32の切り替えを伴う変速段の変更を行う。
【0071】
この構成により、変速クラッチ32の切り替えを伴う変速段の変更中は、ロックアップクラッチ35が解放状態に切り替えられた状態となり、トルクコンバータ30のタービン軸側のイナーシャトルクがエンジン2に作用しなくなるので、変速後の変速段に応じた目標回転速度まで速やかにエンジン回転速度を上昇させることができる。
【0072】
また、あらかじめエンジン回転速度を上昇させておくと、変速クラッチ32の解放後にタービン回転速度を上昇させる際に、エンジン2のイナーシャトルクがトルクコンバータ30に作用しなくなるため、変速後の変速段に応じた目標タービン回転速度まで速やかにタービン回転速度を上昇させることができる。つまり、ロックアップクラッチの解放により、変速クラッチ開放前にエンジン回転速度を速やかに上昇させたため、変速時間を短縮できただけでなく、エンジン回転を上昇させたことで変速クラッチ解放後にタービン回転をすぐに上昇させることができるので(エンジンのイナーシャが作用しないため)変速時間の短縮することができる。
【0073】
このため、変速に要する時間を短縮することができ、変速中のトルクの断絶時間を短縮できる。
【0074】
また、エンジン回転速度の上昇に伴うトルクコンバータ30の増幅作用を利用して、力強い加速が可能となる。
【0075】
この結果、ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる。
【0076】
また、本実施例において、制御装置10は、キックダウン変速を実施して変速機3の変速段を所定の変速段にダウンシフトする場合、キックダウン変速の実施中は、エンジン2の目標回転速度である目標エンジン回転速度を、トルクコンバータ30と変速クラッチ32とを接続するタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度よりも高く設定する。
【0077】
この構成により、キックダウン変速の実施中は、トルクコンバータ30の作動流体を介してエンジン2の回転がタービン軸に伝達され、エンジン回転速度に近づくようにタービン回転速度が上昇するので、タービン回転速度の上昇を早めることができ、変速に要する時間を短縮することができる。
【0078】
また、本実施例において、所定の変速段は、車両の発進に用いる発進用変速段である。
【0079】
この構成により、ドライバの加速要求が大きいために1速段等の発進用変速段へのキックダウン変速が実施される場合、ロックアップクラッチ35を解放状態に切り替えた状態で、変速クラッチ32の切り替えを伴う変速段の変更が行われるので、ドライバの期待する加速を実現でき、ドライバの加速要求に対するキックダウン変速の応答性を向上させることができる。
【0080】
また、ドライバの加速要求が大きくなく、発進用変速段ではない変速段へのキックダウン変速を実施する場合は、ロックアップクラッチ35を締結状態に維持したまま、変速クラッチ32の切り替えを伴う変速段の変更が行われるので、トルクコンバータ30の作動流体の滑りによる燃費の悪化を抑制することができる。
【0081】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。