(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191021
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車載用発熱体カートリッジ、該発熱体カートリッジの前処理方法及び再生処理方法
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20221220BHJP
【FI】
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099624
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
(57)【要約】
【課題】入力エンタルピーよりも出力エンタルピーが高くなる発熱現象を利用した、水素吸蔵材料を用いた発熱システムを車両に搭載可能にする。
【解決手段】本発明の車載用発熱体カートリッジは、水素ガス充填容器と、水素吸蔵材料を含む発熱材料と、上記前記発熱材料を加熱する加熱部とを備え、上記発熱材料と上記加熱部とが、上記充填容器内に配置されており、上記発熱材料の前処理や再生処理に必要な装置を分離し、これらの処理を車外の別の装置上で実施することとしたため、車両に搭載可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス充填容器と、
水素吸蔵材料を含む発熱材料と、
上記発熱材料を加熱する加熱部と、を備え、
上記発熱材料と上記加熱部とが、上記充填容器内に配置されたことを特徴とする車載用発熱体カートリッジ。
【請求項2】
上記充填容器の形状が筒形であり、
その筒形の中心軸上に、上記加熱部を備えることを特徴とする請求項1に記載の車載用発熱体カートリッジ。
【請求項3】
上記充填容器が、内筒と外筒の2つの筒体で成る2重筒形構造であり、
上記内筒の外側に上記発熱材料が配置され、
上記内筒の内側に上記加熱部が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の車載用発熱体カートリッジ。
【請求項4】
上記充填容器が位置決めガイド部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載の車載用発熱体カートリッジ。
【請求項5】
さらに、上記充填容器内に上記発熱材料を支持する支持体を有し、
上記支持体が、上記充填容器の長手方向に延びる連通孔を有していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つの項に記載の車載用発熱体カートリッジ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの項に記載の車載用発熱体カートリッジを車両に取り付ける前に行う前処理方法であって、
上記水素ガス充填容器に水素ガスを充填する充填工程と、
上記発熱材料を加熱する前処理加熱工程と、
上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有し、
上記前処理加熱工程が、加熱温度を上記発熱材料が2つの相が共存する温度範囲で保持し、2つの相が共存した発熱材料を形成することを特徴とする車載用発熱体カートリッジの前処理方法。
【請求項7】
上記水素充填工程の充填圧が、大気圧よりも高いことを特徴とする請求項6に記載の前処理方法。
【請求項8】
さらに、上記水素充填工程前に上記充填容器内の酸素を除去する酸素除去工程を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の車載用発熱体カートリッジの前処理方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1つの項に記載の車載用発熱体カートリッジを再生する再生処理方法であって、
上記発熱材料を加熱する再生加熱工程と、
上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有し、
上記再生加熱工程が、上記発熱材料が液相を形成する温度まで加熱した後、上記発熱材料が2つの相が共存する温度範囲で保持して2つの相が共存した発熱材料を形成することを特徴とする車載用発熱体カートリッジの再生処理方法。
【請求項10】
さらに、上記再生加熱工程前に上記水素ガス充填容器に水素ガスを充填する充填工程を有し、
上記水素充填工程の充填圧が、大気圧よりも高いことを特徴とする請求項9に記載の車載用発熱体カートリッジの再生処理方法。
【請求項11】
さらに、上記再生加熱工程前に、車載用発熱体カートリッジから上記加熱部を取り外す取り外し工程と、上記再生加熱工程の後、上記加熱部を車載用発熱体カートリッジに取り付ける取り付け工程と、を有し、
上記再生加熱工程が、車載用発熱体カートリッジをその外部から加熱して行う処理であることを特徴とする請求項9又は10に記載の車載用発熱体カートリッジの再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用発熱体カートリッジ、該発熱体カートリッジの前処理方法及び再生処理方法に係り、更に詳細には、水素吸蔵材料が発する過剰熱を利用した車載用発熱体カートリッジ、該発熱体カートリッジの前処理方法及び再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車(EV)の温調座席には、半導体セラミックを用いた自己温度制御機能を有するPTCヒータ(positive temperature coefficient heater)などが用いられている。
【0003】
上記PTCヒータは、温度がキュリー温度を超えると抵抗値が急激に増加するので、低温時には大電流が流れて発熱量が大きくなり、発熱に伴う温度上昇により抵抗値が増大し、電流を制限するので無駄な発熱を抑えて省エネルギー化できる。
【0004】
しかしながら、PTCヒータはエネルギーとして電気を使用するので電気自動車に使用すると航続距離が大幅に減少してしまう。
【0005】
また、過剰熱、すなわち入力エンタルピーよりも出力エンタルピーが高くなる発熱現象を利用した、水素吸蔵材料を用いた発熱システムが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
この発熱システムを電気自動車の温調座席に用いれば、入力エンタルピーよりも出力エンタルピーを高くできるので航続距離の減少を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発熱システムにあっては、水素ガスや窒素ガスを供給・調圧する装置を備えており、複雑大型化した発熱システムであるので車載用としては不向きである。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過剰熱が得られる発熱現象を利用した車載用発熱体カートリッジ、該発熱体カートリッジの前処理方法及び再生処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、上記前処理方法及び再生処理方法に必要な装置を分離して、上記発熱材料の前処理や再生処理を車外の別の装置上で実施することとし、上記過剰熱が得られる発熱現象に必要な発熱材料と、上記発熱現象を起こさせる加熱部とを、水素ガス充填容器に組みこんだカートリッジ式とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の車載用発熱体カートリッジは、水素ガス充填容器と、
水素吸蔵材料を含む発熱材料と、上記前記発熱材料を加熱する加熱部と、を備える。
そして、上記発熱材料と上記加熱部とが、上記充填容器内に配置されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車載用発熱体カートリッジの前処理方法は、車載用発熱体カートリッジを車両に取り付ける前に行う前処理方法である。
そして、上記水素ガス充填容器に水素ガスを充填する充填工程と、上記発熱材料を加熱する前処理加熱工程と、上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有し、上記前処理加熱工程が、加熱温度を上記発熱材料が2つの相が共存する温度範囲で保持し、2つの相が共存した発熱材料を形成することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の車載用発熱体カートリッジを再生する再生処理方法は、使用した車載用発熱体カートリッジの発熱材料を再生する再生方法である。
そして、上記発熱材料を加熱する再生加熱工程と、上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有し、上記再生加熱工程が、上記発熱材料が液相を形成する温度まで加熱した後、上記発熱材料が2つの相が共存する温度範囲で保持して2つの相が共存した発熱材料を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記前処理方法及び再生処理方法に必要な装置を分離することとしたため、車両に搭載可能な、過剰熱が得られる発熱現象を利用した車載用発熱体カートリッジ、該発熱体カートリッジの前処理方法及び再生処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車載用発熱体カートリッジの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<車載用発熱体カートリッジ>
本発明の車載用発熱体カートリッジについて詳細に説明する。
上記車載用発熱体カートリッジの断面図を
図1に示す。
この車載用発熱体カートリッジは、水素ガス充填容器内に、水素吸蔵材料を含む発熱材料と上記発熱材料を加熱する加熱部とを備える。
【0017】
上記車載用発熱体カートリッジは、水素ガス充填容器内に水素ガスを供給して、上記発熱材料に水素を吸蔵させ、この発熱材料を加熱することで水素を放出する。この水素放出反応自体は吸熱反応であるが、上記発熱材料が水素を放出するときにパルス的な発熱が発生するので、このパルス的な発熱により、発熱材料を加熱した熱量を上回る熱量の過剰熱が得られる。
【0018】
そして、上記発熱材料中に2つの相が共存すると、一方の相と他方の相とでエネルギー的にバランスが取れる平衡点が異なり、水素の吸脱蔵スピードが異なるので、一方の相が水素を放出して他方の相が水素を吸蔵する。この状態が一方の相の平衡点まで続き、一方の相の平衡点で一方の相からの水素放出が止まる。
【0019】
この一方の相の平衡点は、他方の相の平衡点からずれているので、今度は、他方の相が水素を放出して一方の相が水素を吸蔵し、上記一方の相の平衡点を通り過ぎて他方の相の平衡点まで他方の相からの水素の放出が続く。
【0020】
上記のように、一方の相からの水素放出、一方の相の平衡点、他方の相からの水素放出、他方の相の平衡点のサイクルが繰り返され、上記発熱材料の水素吸蔵機能が低下するまで上記パルス的な発熱を継続して得ることができる。
【0021】
なお、上記のように水素の放出反応は吸熱反応であるので、加熱部による加熱を停止すすることで、上記発熱材料からの発熱を停止させることができ、再度、発熱材料を加熱することで発熱材料からの発熱を再開させることができる。
【0022】
上記発熱材料としては、所望の条件下で2つの固相が共存する合金を使用することができる。上記2つの固相が共存する合金は、一方の相を形成する金属水素化物と他方の相を形成する金属水素化物との生成エンタルピーの差が大きな合金を使用することが好ましい。
【0023】
このような生成エンタルピーの差が大きな2つの固相が共存する合金としては、例えば、ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)が30:70~40:60mol%のNi-Zr合金、アルミニウム(Al):ニッケル(Ni)が75:25~65:35mol%のAl-Ni合金や、アルミニウム(Al):カルシウム(Ca)が80:20~70:3mol%のAl-Ca合金を挙げることができる。
Ni-Zr合金、Al-Ni合金、及び、Al-Ca合金の状態図を
図2~
図4に示す。
【0024】
図2から、例えば、Ni:Zr=65:35mol%の合金の場合、1070℃未満でNi
10Zr
7相とNi
21Zr
8相との複数の固相が形成されることが分かる。
【0025】
上記発熱材料から水素を放出させる加熱部は、発熱材料を効率よく加熱できれば、水素ガス充填容器内のどこに配置されていてもよく、1箇所に配置されていても複数個所に配置されていてもよいが、少なくとの1つの加熱部が発熱材料の中心に配置されていることが好ましい。発熱材料の中心から加熱することで加熱部からの熱が外部に逃げることなく上記発熱材料に伝えることができる。
【0026】
また、上記水素充填容器の形状は、車載用発熱体カートリッジを使用する箇所に合わせてどのような形状であってもよいが、細長い筒形であるとその長手方向に広い範囲を温めることができる。さらに、水素充填容器の形状が円筒形であり、その円筒形の中心軸上に上記加熱部があることで発熱材料を満遍なく加熱できる。
【0027】
上記加熱部としては、発熱材料が水素を放出する温度まで加熱が可能であれば使用できるが、後述する前処理や再生処理をも上記加熱部で行う場合は、発熱材料が液相になる温度まで加熱できる必要がある。このような加熱部としては、例えば、電熱線などを用いた通電式加熱器を使用することができる。
【0028】
発熱材料の再生処理には、発熱材料が液相を形成する温度まで加熱する必要があり、加熱部を脱着式にすることで、加熱部を取り外した状態で再生処理を行うことができ、再生処理による加熱部の破損を防止することができる。
【0029】
加熱部が脱着式の車載用発熱体カートリッジとしては、水素ガス充填容器が、内筒と外筒の2つの筒体で成る2重筒形構造であり、上記内筒の外側に上記発熱材料が配置され、上記内筒の内側に上記加熱部が配置されている構造を挙げることができる。
【0030】
このような構造であると、水素ガス充填容器内の発熱材料と加熱部とが内筒によって隔てられているので、加熱部を容易に取り外すことができる。
【0031】
また、上記水素充填容器内に、該充填容器の長手方向に延びる連通孔を有する支持体を備えることが好ましい。
発熱材料が連通孔を有する支持体によって支持されていることで、水素ガスが上記連通孔を通り発熱材料と接触し易くなるので、発熱材料と水素ガスとの反応場が増加し発熱量を増加させることができる。
【0032】
また、前処理においては、発熱材料に水素を吸蔵させ易くなるので前処理時間を短縮することができる。さらに、再生処理において発熱材料が液相になっても発熱材料中に連通孔を形成でき、発熱材料が密実にならず発熱材料と水素ガスとの接触面積の減少を抑制できる。
【0033】
上記支持体としては、水素ガスを透過し、液相の発熱材料を透過しない多孔質支持体を使用することができ、例えば、セラミック製支持体を挙げることができる。
【0034】
車載用発熱体カートリッジは、車両に取り付ける位置を決める位置決めガイドを有していることが好ましい。位置決めガイドとしては、水素ガス充填容器に設けた溝部や平面部を挙げることができ、これにより車載用発熱体カートリッジを確実に車両に取り付けることができる。
【0035】
車載用発熱体カートリッジは、シート内の他、インパネ内、ダッシュパネル内、フロア内、ルーフ内など、車両内部に装着することができる。
【0036】
また、車載用発熱体カートリッジは、発熱材料がNi-Zr合金である場合、発熱材料を約580℃に加熱すると過剰熱により表面温度が600℃程度になるので、車載用発熱体カートリッジを取り付ける箇所、又は車載用発熱体カートリッジの周囲に断熱材を設けることが好ましい。
【0037】
上記断熱材熱伝導率は、0.001~0.003[W/m・K]であることが好ましく、このような断熱材としては、例えば、シリカ粒子充填真空断熱材を挙げることができる。
【0038】
<前処理方法>
本発明の前処理方法は、上記車載用発熱体カートリッジを車両に取り付ける前に、車外の別の装置を用いて実施する処理であり、上記発熱材料から過剰熱を発生させることを可能にする処理である。
【0039】
上記前処理方法は、水素ガス充填容器に水素ガスを充填する充填工程と、前処理加熱工程と、上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有する。
【0040】
上記充填工程は、水素ガス充填容器に水素ガスを充填し、該水素ガス充填容器内の発熱材料に水素を吸蔵させて金属水素化物を形成する処理である。
【0041】
水素ガス充填容器に充填する水素ガスの圧力は、大気圧よりも高いことが好ましい。充填容器が耐えられれば水素ガスの圧力が高くなるほど拡散係数が大きくなるので、前処理に要する時間を短縮することができる。
【0042】
上記前処理加熱工程は、発熱材料を2つの固相が共存した所望の組成にする処理であり、発熱材料を2つの相が共存する温度範囲に加熱し、その温度を保持する。
【0043】
発熱材料を2つの固相が共存する温度範囲は、発熱材料を構成する合金によって異なるが、その平衡状態図から知ることができる。例えばNi-Zr合金の場合は1000℃程度である。
【0044】
また、上記温度範囲での保持時間は、発熱材料の種類や水素ガスの圧力などにもよるが、10~20時間程度である。
【0045】
前処理加熱工程により2つの固相が共存した所望の組成の発熱材料を形成したら、室温まで放冷する。
【0046】
また、前処理方法は、上記充填工程前に酸素除去工程を有することが好ましい。
水素ガス充填容器内の酸素を除去することで発熱材料の酸化が防止され、所望の組成の2つの固相が共存した発熱材料を形成できる。
【0047】
酸素除去工程の具体的な処理としては、まず、水素ガス充填容器内のガスを窒素ガスなどの不活性ガスで置換し、真空引きを行うことで実施できる。
【0048】
<再生処理方法>
本発明の再生処理方法は、水素吸蔵機能が低下した発熱材料に、再度水素吸蔵機能を発現させ、過剰熱を得られるようにする処理であり、車載用発熱体カートリッジを車両から取り外し、車外の別の装置を用いて実施する処理である。
【0049】
上記再生処理方法は、発熱材料を加熱する再生加熱工程と、上記発熱材料を室温まで冷却する冷却工程と、を有する。
【0050】
上記再生加熱工程は、上記発熱材料が液相となる温度まで加熱し、発熱材料を均一な単一相にした後、2つの固相が共存する温度範囲まで冷却し、その温度を保持して再度2つの相が共存した発熱材料を形成する。
【0051】
発熱材料が液相となる温度や2つの固相が共存する温度範囲は、平衡状態図から知ることができる。また、2つの固相が共存する温度範囲での保持時間は、発熱材料の種類や水素ガスの圧力などにもよるが、15~25時間程度である。
【0052】
このとき、発熱材料を加熱部側に寄せることで加熱部からの熱が発熱材料に効率よく伝わるので、少ないエネルギーで水素を放出させて過剰熱を得ることができる。
【0053】
そして、再生処理加熱工程により、2つの固相が共存した所望の組成の発熱材料を形成したら、室温まで放冷する。
【0054】
上記再生処理方法は、必要に応じて再生加熱工程前に上記水素ガス充填容器に水素ガスを充填する充填工程を有することができる。
水素ガスの圧力が低下している場合に、再度水素ガス充填容器に水素ガスを充填することで所望の組成の2つの固相が共存した発熱材料を形成できる。
【0055】
また、上記再生処理方法は、再生処理加熱工程前に車載用発熱体カートリッジから上記加熱部を取り外し、再生処理加熱工程を実施して2つの固相が共存した所望の組成の発熱材料を形成した後、加熱部を車載用発熱体カートリッジに取り付けることが好ましい。
【0056】
再生処理加熱工程は、発熱材料が液相となる温度まで加熱するので、加熱部を車載用発熱体カートリッジに装着したまま再生処理加熱工程を行うと加熱部が破損する可能性があるが、加熱部を取り外して再生処理加熱工程を行うことで、加熱部の破損を防止できる。
【0057】
なお、加熱部が、発熱材料が液相となる温度まで加熱できる場合は、車外の別の装置を用いずに車載用発熱体カートリッジに備える加熱部によって再生処理を行ってもよい。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0059】
直径が30mm、長さが150mmの外筒の中に直径が10mmの内筒を有する2重筒形構造の水素ガス充填容器の内筒と外筒の間に、長手方向に連通孔を有するセラミック製支持体を挿入し、これにZr2Ni粉末を固めたペレットを充填して支持体に保持させた。
【0060】
(前処理)
車載用発熱体カートリッジに250mL/minで10分間窒素ガスを流した後、1.0×102Paまで真空引きをした。
その後、水素ガスを3.30mL/minで流し、水素分圧が6.0×104Paになるまで水素ガスを充填した。
【0061】
水素ガスを充填した車載用発熱体カートリッジを電気炉内で1000℃に加熱し、15時間保持して2つの固相が共存したNi-Zr合金を形成させ、室温まで冷却した後、内筒の内壁に棒状の通電式ヒータが接触するように挿入して車載用発熱体カートリッジを作製した。
【0062】
前処理を行った車載用発熱体カートリッジから発熱材料(Ni-Zr合金)を取り出しX線回折装置で分析を行い、Ni-Zr合金が2つの固相を形成していることを確認した。
図5にNi-Zr合金の回折スペクトルを示す。
【0063】
(発熱利用)
通電式ヒータの温度を580℃に設定しZr-Ni合金を加熱し、過剰熱を発生させた。
車載用発熱体カートリッジの表面温度は600℃であり、過剰熱を得られることが確認された。
【0064】
(再生処理)
過剰熱の発生が終了した車載用発熱体カートリッジから棒状の通電式ヒータを取り外し、電気炉内で1300℃に加熱してNi-Zr合金の液相を形成させた後、1000℃に降温して20時間保持した。
【0065】
再生処理を行った車載用発熱体カートリッジから発熱材料(Ni-Zr合金)を取り出しX線回折装置で分析を行った。再生処理後のNi-Zr合金の回折スペクトルは、前処理後のNi-Zr合金の回折スペクトルと同じであり、2つの固相を形成していることが確認された。
【0066】
再生処理後の車載用発熱体カートリッジに棒状の通電式ヒータを取り付け、加熱したところ、過剰熱が発生しており、本発明の再生処理により、発熱材料を再生できることが確認された。