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特開2022-191047電子連動装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191047
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電子連動装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B61L 19/06 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B61L19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099664
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】森 崇
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智紀
(57)【要約】
【課題】鉄道において、多くの駅の連動機能を集約して処理できるようにする。
【解決手段】電子連動装置1は、信号機21及び転てつ機22を含む複数の現場機器2と接続される。電子連動装置1は、演算処理を行う連動処理部3と、インターフェース4とを備える。インターフェース4は、連動処理部3と現場機器2とを接続する。連動処理部3は、進路ごとの論理関数を有する。各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機22の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものである。連動処理部3は、複数の論理関数を並列に演算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号機及び転てつ機を含む複数の現場機器と接続される電子連動装置であって、
演算処理を行う連動処理部と、
前記連動処理部と現場機器とを接続するインターフェースとを備え、
前記連動処理部は、進路ごとの論理関数を有し、
進路ごとの前記各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであり、
前記連動処理部は、複数の前記論理関数を並列に演算することを特徴とする電子連動装置。
【請求項2】
進路ごとの前記論理関数において、転てつ機の鎖錠状態は、その転てつ機が鎖錠されている状態、及びその転てつ機が鎖錠されていない状態のいずれか一方を表す二値であり、
所定区間における列車在線の有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、
前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることを特徴とする請求項1に記載の電子連動装置。
【請求項3】
前記連動処理部は、転てつ機ごとの論理関数をさらに有し、
転てつ機ごとの前記各論理関数は、転てつ機の転換に関係する所定の進路設定の状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その転てつ機を転換する条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであることを特徴とする請求項1に記載の電子連動装置。
【請求項4】
転てつ機ごとの前記論理関数において、所定の進路設定の状態は、その進路設定がされた状態、及びその進路設定がされていない状態のいずれか一方を表す二値であり、
所定区間における列車在線の前記有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、
前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることを特徴とする請求項3に記載の電子連動装置。
【請求項5】
前記連動処理部は、CPU及びGPUを有し、
前記GPUは、複数のコアを有し、
前記GPUのコアの各々が、前記論理関数の各々を並列に演算することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電子連動装置。
【請求項6】
駅ごとに設けられたI/O端末を有し、
前記各I/O端末は、それが設けられた駅の現場機器が接続され、
前記インターフェースは、前記連動処理部と前記I/O端末との間のデータ通信を行うためのデータ通信機能を有することを特徴とするとする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の電子連動装置。
【請求項7】
前記所定区間における列車在線の有無は、その区間の軌道回路によって検知され、
前記軌道回路は、前記現場機器に含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の電子連動装置。
【請求項8】
信号機及び転てつ機を含む複数の現場機器に接続されるコンピュータに電子連動装置の演算処理を行わせるコンピュータプログラムであって、
進路ごとの論理関数を有し、
進路ごとの前記各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであり、
該コンピュータプログラムは、複数の前記論理関数を並列にコンピュータに演算させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
進路ごとの前記論理関数において、転てつ機の鎖錠状態は、その転てつ機が鎖錠されている状態、及びその転てつ機が鎖錠されていない状態のいずれか一方を表す二値であり、
所定区間における列車在線の有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、
前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることを特徴とする請求項8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
転てつ機ごとの論理関数をさらに有し、
転てつ機ごとの前記各論理関数は、転てつ機の転換に関係する所定の進路設定の状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その転てつ機を転換する条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであることを特徴とする請求項8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
転てつ機ごとの前記論理関数において、所定の進路設定の状態は、その進路設定がされた状態、及びその進路設定がされていない状態のいずれか一方を表す二値であり、
所定区間における列車在線の前記有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、
前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記コンピュータは、CPU及びGPUを有し、
前記GPUは、複数のコアを有し、
該電子連動装置用コンピュータプログラムは、前記GPUのコアの各々に前記論理関数の各々を並列に演算させることを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道における電子連動装置、及びコンピュータに電子連動装置の演算処理を行わせるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道に関する技術上の基準を定める省令(国土交通省令)に「衝突及び脱線のおそれのある線路の交差又は分岐その他の箇所には、衝突の防止その他列車等の運転の安全を確保することができるよう、進路に支障を及ぼすおそれのある信号相互間及び信号とその進路内の転てつ機相互間その他これに類する相互間を連鎖させる装置を設けなければならない。」と規定されている(第五十六条参照)。その装置が鉄道における連動装置である。連動装置によって、進路の設定→転てつ機の転換→進路の確保→進路の保持→信号機の現示が矛盾無く行われる。日本産業規格によれば、連動装置とは、信号機、転てつ機などの相互の連鎖を行う装置の総称である(非特許文献1の番号5001参照)。連動装置には、継電連動装置や電子連動装置などがある。継電連動装置は、リレー群を用いて連鎖を電気的に行う連動装置である。電子連動装置は、マイクロコンピュータなどを用いて連鎖を行う連動装置である(非特許文献1参照)。
【0003】
連動装置が行う連鎖について、図2に例示する連動図表を参照して説明する。連動図表とは、連動装置の連鎖などの内容を、鉄道信号用文字記号、図記号などを用いて表した図表である(非特許文献1の番号1009参照)。連動図表は、どのような場合に信号機を現示できるか、進路はいつまで確保するかを定義したものであり、連動図といわれる配線略図(図2の上側)と、連動表といわれる動作定義表(図2の下側)から構成される。
【0004】
この例では、連動図には、線路配線と、下り場内信号機「1R」「2R」と、下り出発信号機「3R」「4R」と、転てつ機「11」「51」が記載されている。場内信号機は、停車場に進入する列車に対する信号機である(非特許文献1の番号2011参照)。出発信号機は、停車場から進出する列車に対する信号機である(非特許文献1の番号2012参照)。なお、場内信号機、出発信号機、転てつ機が設けられた駅は、停車場の定義に含まれる。
【0005】
一般的に、装置の常時の状態を定位といい、それ以外(反対)の状態を反位という(非特許文献1の番号1008参照)。転てつ機では、常時開通させておく方向を定位といい、それ以外の開通方向を反位という。連動図の矢羽根が向いている方向を転てつ機の定位、向いていない方向を反位、信号てこで進路設定していない状態を定位、進路設定している状態を反位と定義する。また、操作にかかわらず状態が変わらないように機械的に防護されている状態を鎖錠という。また、連動図表上で丸囲みの文字は、当該装置の反位を示す。
【0006】
連動表の番号欄には、操作できる要素が記載される。この例では、信号機の操作をする「信号てこ」と、転てつ機の操作をする「転てつてこ」が記載されている。連動表の鎖錠欄と、信号制御またはてっ査鎖錠欄は、番号欄の動作が実現できるかを表す。
【0007】
例えば、「1R」の進路設定をする場合、転てつ機「51」、「11」が定位鎖錠されており、線路の区間「51T」、「11T」、「1RT」、「BT」に他の列車がいないとき、列車を安全に進入させることができるため、「1R」の信号機に進行を指示する現示を点灯することができる。このような連鎖により、「1R」の進路設定がされる。なお、「BT」は、直接この進路上にないが、側面衝突の可能性があるため、連動表に挿入されている。
【0008】
同様に、「2R」の進路設定をする場合、転てつ機「51」が定位鎖錠、「11」が反位鎖錠されており(丸数字11)、線路の区間「51T」、「11T」、「BT」、「2RT」に他の列車がいないとき、「2R」の信号機に進行を指示する現示を点灯することができる。このような連鎖により、「2R」の進路設定がされる。
【0009】
「1R」の進路設定と同時に「2R」の進路設定をしようとした場合、「11」が反位鎖錠されていないため、「2R」の信号機は停止現示のままとなる。すなわち、「2R」の進路設定をすることができない。このような連鎖により、矛盾した操作が無効にされる。
【0010】
転てつ機「11」を転換したい場合、「11T」に列車がいないこと、かつ「1R」、「2R」により進路設定されていないとき、転てつ機「11」を転換することができる。連動表の「11」の鎖錠欄に「1R」、「2R」は記載されていないが、これは、「1R」、「2R」の鎖錠欄に転てつ機「11」が記載されているので、記載が省略されているからである。
【0011】
同様に、転てつ機「51」を転換したい場合、「51T」に列車がいないこと、かつ「1R」、「2R」により進路設定されていないとき、転てつ機「51」を転換することができる。連動表の「51」の鎖錠欄に「1R」、「2R」は記載されていないが、これは、「1R」、「2R」の鎖錠欄に転てつ機「51」が記載されているので、記載が省略されているからである。
【0012】
連動表の進路鎖錠欄と、接近鎖錠または保留鎖錠欄は、進路に関係する転てつ機を転換できないようにする鎖錠を表す。進路鎖錠とは、列車が信号機の進行を指示する現示によって、その進路に進入したとき、関係転てつ機を転換できないようにする鎖錠である(非特許文献1の番号5023参照)。接近鎖錠は、信号機にいったん進行を指示する信号を現示していて、その信号機の外方一定区間に列車が進入したとき、又は列車が信号機の外方一定区間に進入していて、その信号機に進行を指示する信号を現示させたとき、列車がその信号機の内方に進入するか、又はその信号機に停止信号を現示させてから相当時分経過するまでは、進路の転てつ機を転換できないようにする鎖錠である(非特許文献1の番号5025参照)。保留鎖錠は、信号機にいったん進行を指示する現示をさせた後は、列車がその信号機の進路に進入するか、又はその信号機に停止信号現示をさせてから所定時分を経過するまでは、進路内の転てつ機を転換できないようにする鎖錠である(非特許文献1の番号5026参照)。
【0013】
従来の電子連動装置は、連動図表に表された連鎖を大きく分けて2つの方式で実現してきた。一つは、連動図の方に着目し、連動図に表された出発点から到着点までの線路要素をチェックし、当該進路に影響のある要素を見出していく方式である。この方式は、出発点から到着点まで通り道を確保していくため「シュプール方式」と呼ばれる。もう一つは、連動表の方を重点的に着目し、連動表に表された連鎖をリレーロジックに変換し、それをデータ化したものを解釈し、実行する「結線データ方式」である。
【0014】
例えば、図2の例において、「1R」の進路は、出発点が「下1T」であり、到達点が「1RT」である。「シュプール方式」では、電子連動装置は、列車の進んでいく順序である「51T」、「11T」、「1RT」、「BT」の各要素を当該列車が占有できるかどうかを順次確認することにより、連動装置の機能を実現する。
【0015】
「結線データ方式」では、リレーロジックを電子連動の汎用ソフトウェアであるインタプリタで逐次解釈することにより、連動装置の機能を実現する。つまり、この方式は、継電連動装置のソフトウェアによる模倣(エミュレーション)である。
【0016】
これら2つの方式は、いずれもシングルスレッドによって連動装置の機能を実現する処理を行っている(順次確認または逐次解釈)。このため、このような処理を一台の計算要素で行う場合、計算量が増えると、処理周期が計算量に比例して長くなる。処理周期が長くなり過ぎると、処理のリアルタイム性が確保できない。各駅別に連動装置を設置する場合は、計算量が少なく、大駅においてもあまり問題となっていない。しかし、今後、大規模線区全体の駅や、複数会社の駅の連動機能を集約する場合、問題となるおそれがある。
【0017】
従来から、連動装置は、各駅の機器室に設置されている。技術動向に目を向けると、高速な計算装置の実用化、高速大容量通信の発展など、計算資源が必ずしも現地になくてもよい時代になり、連動装置は、各駅の機器室に装置を設置することなく機能を果たすことができる技術要素がそろってきた。超高齢化社会の到来や人口減少に伴い、各鉄道会社の各駅に連動装置を設置するよりも、集中的な保守を行うことができるように装置を集約することが、保守の継続性の視点からも有利である。
【0018】
近年、複数の駅の連動論理処理を行う電子連動装置が提案されている(特許文献1参照)。この電子連動装置は、処理周期内で複数の駅の連動論理の処理を駅ごとに順次処理をしている(特許文献1の明細書段落0009及び図2(B)参照)。このため、駅の数が多くなると、駅の要求処理量が増えるので、電子連動装置の処理能力が不足する(同文献の段落0028参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2021-62852号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】JIS E 3013:2001「鉄道信号保安用語」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記問題を解決するものであり、多くの駅の連動機能を集約して処理できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の電子連動装置は、信号機及び転てつ機を含む複数の現場機器と接続されるものであって、演算処理を行う連動処理部と、前記連動処理部と現場機器とを接続するインターフェースとを備え、前記連動処理部は、進路ごとの論理関数を有し、進路ごとの前記各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであり、前記連動処理部は、複数の前記論理関数を並列に演算することを特徴とする。
【0023】
この電子連動装置において、進路ごとの前記論理関数において、転てつ機の鎖錠状態は、その転てつ機が鎖錠されている状態、及びその転てつ機が鎖錠されていない状態のいずれか一方を表す二値であり、所定区間における列車在線の有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることが好ましい。
【0024】
この電子連動装置において、前記連動処理部は、転てつ機ごとの論理関数をさらに有し、転てつ機ごとの前記各論理関数は、転てつ機の転換に関係する所定の進路設定の状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その転てつ機を転換する条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであることが好ましい。
【0025】
この電子連動装置において、転てつ機ごとの前記論理関数において、所定の進路設定の状態は、その進路設定がされた状態、及びその進路設定がされていない状態のいずれか一方を表す二値であり、所定区間における列車在線の前記有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることが好ましい。
【0026】
この電子連動装置において、前記連動処理部は、CPU及びGPUを有し、前記GPUは、複数のコアを有し、前記GPUのコアの各々が、前記論理関数の各々を並列に演算することが好ましい。
【0027】
この電子連動装置において、駅ごとに設けられたI/O端末を有し、前記各I/O端末は、それが設けられた駅の現場機器が接続され、前記インターフェースは、前記連動処理部と前記I/O端末との間のデータ通信を行うためのデータ通信機能を有することが好ましい。
【0028】
この電子連動装置において、前記所定区間における列車在線の有無は、その区間の軌道回路によって検知され、前記軌道回路は、前記現場機器に含まれることが好ましい。
【0029】
本発明のコンピュータプログラムは、信号機及び転てつ機を含む複数の現場機器に接続されるコンピュータに電子連動装置の演算処理を行わせるコンピュータプログラムであって、進路ごとの論理関数を有し、進路ごとの前記各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであり、該コンピュータプログラムは、複数の前記論理関数を並列にコンピュータに演算させることを特徴とする。
【0030】
このコンピュータプログラムにおいて、進路ごとの前記論理関数において、転てつ機の鎖錠状態は、その転てつ機が鎖錠されている状態、及びその転てつ機が鎖錠されていない状態のいずれか一方を表す二値であり、所定区間における列車在線の有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることが好ましい。
【0031】
このコンピュータプログラムにおいて、転てつ機ごとの論理関数をさらに有し、転てつ機ごとの前記各論理関数は、転てつ機の転換に関係する所定の進路設定の状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その転てつ機を転換する条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものであることが好ましい。
【0032】
このコンピュータプログラムにおいて、転てつ機ごとの前記論理関数において、所定の進路設定の状態は、その進路設定がされた状態、及びその進路設定がされていない状態のいずれか一方を表す二値であり、所定区間における列車在線の前記有無は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値であり、前記論理関数は、複数の前記二値の組み合わせ論理であることが好ましい。
【0033】
このコンピュータプログラムにおいて、前記コンピュータは、CPU及びGPUを有し、前記GPUは、複数のコアを有し、該電子連動装置用コンピュータプログラムは、前記GPUのコアの各々に前記論理関数の各々を並列に演算させることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の電子連動装置及びコンピュータプログラムによれば、進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力する論理関数を進路ごとに有し、その複数の論理関数を並列に演算するので、処理対象の進路数が多くなっても演算時間の増加が抑えられる。このため、多くの駅の連動機能を集約して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態に係る電子連動装置のブロック構成図。
図2】連動図表の例。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態に係る電子連動装置について図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、電子連動装置1は、信号機21及び転てつ機22を含む複数の現場機器2と接続される。本実施形態では、軌道回路23が現場機器2に含まれる。電子連動装置1は、それら複数の現場機器2の相互の連鎖を行う装置である。連鎖とは、二つ以上の信号機、転てつ機などの相互間で、その取扱いについて一定の順序及び制限をつけることである(非特許文献1の番号5006参照)。
【0037】
電子連動装置1は、連動処理部3と、インターフェース4とを備える。連動処理部3は、演算処理を行う。連動処理部3は、コンピュータを用いて構成される。インターフェース4は、連動処理部3と現場機器2とを接続する。
【0038】
電子連動装置1は、駅20ごとに設けられたI/O端末5を有する。各I/O端末5は、それが設けられた駅20の現場機器2が接続される。インターフェース4は、連動処理部3とI/O端末5との間のデータ通信を行うためのデータ通信機能を有する。複数の駅20の連動機能を集約する場合、一つの連動処理部3が複数のI/O端末5を介して現場機器2と接続される。
【0039】
本実施形態では、連動処理部3は、CPU6及びGPU7を有する。GPU7は、複数のコアを有する。GPU(Graphics Processing Unit)は、CPU(Central Processing Unit)を補助するマイクロプロセッサの一種であり、画像処理を高速に実行する機能を有する。GPUは、CPUのような汎用的な処理には不向きであるが、内部に多数のコア(演算器)を有し、比較的単純な計算を多数のデータに並列に繰り返し適用することに向いている。この特徴を活かして、GPUコンピューティングでは、画像処理以外の処理をGPUに高速に実行させる。本実施形態では、連動処理部3は、GPU7で論理関数を並列に演算する。連動処理部3は、CPU6及びGPU7のほかに、メモリを有する。
【0040】
上記のように構成された電子連動装置1の動作原理について説明する。図2は、連動図表のモデル(例)を示す。その連動図表を構成する連動表において、番号欄の動作が成立するかどうかは、鎖錠欄の情報と、信号制御またはてっ査鎖錠欄の情報に依存する。その依存関係は、真理値表で表すことができる。
【0041】
【表1】
【0042】
表1は、図2の連動表に基づいた進路「1R」の真理値表である。ここで、鎖錠転てつ機の欄において、1は鎖錠されていることを、0は鎖錠されていないことを示す。列車非在線の欄において、1は当該区間に列車が在線していないことを、0は在線または不定を示す。
【0043】
真理値表に表される論理は、AND(論理積)、OR(論理和)、NOT(否定)を組み合わせた論理式で表すことができる。したがって、連動表において、番号欄の動作が成立するかは、鎖錠欄の情報と、信号制御またはてっ査鎖錠欄の情報に基づいて、組み合わせ論理で決定される。
【0044】
真理値表に基づく論理式は、論理関数で表現できる。表1の真理値表より、進路「1R」(信号機「1R」の進行を指示する現示によって進入できる進路)の論理関数は、極小値表現(minterm expression: 全ての変数によるAND項による表現)を用いると数式1のように表現できる。
【0045】
【数1】
【0046】
同様に、進路「2R」(信号機「2R」の進行を指示する現示によって進入できる進路)の論理関数は、数式2のように表現できる。
【0047】
【数2】
【0048】
進路数が3以上であっても、同様であり、進路の真理値表を作って、その真理値表から論理関数を作ることができる。
【0049】
また、連動表に基づいて、転てつ機「11」の転換ができるかの真理値表を同様に作り、その真理値表から転てつ機(転てつてこ)「11」の論理関数を作ることができる。また、連動表に基づいて、転てつ機「51」の転換ができるかの真理値表を作り、その真理値表から転てつ機(転てつてこ)「51」の論理関数を作ることができる。
【0050】
これらの論理関数の演算は、時間的な前後関係に依存しないので、例えば、連動表の順番通りにF1R(x,…x)、F2R(x,…x)と演算しても、その逆にF2R(x,…x)、F1R(x,…x)と計算しても、同時並行に演算しても、演算の結果は同じである。このため、数式1、数式2等の論理関数は、並列に演算(並列処理)することができる。
【0051】
数式1に示されるように、論理関数F1Rの演算は、電子連動装置1に入力された状態(x,x,x,x,x,x,x,x,x)と、連動表に基づく真理値表における進路設定「1R」の条件(1,0,1,0,1,1,1,1,0/1)との比較である。したがって、論理関数F1Rの演算は、論理変数x1R=(x,x,x,x,x,x,x,x,x)と、論理変数y1R=(1,0,1,0,1,1,1,1,0/1)を入力変数とする関数f(x1R,y1R)の演算となる。関数f(x,y)は、論理変数x,yが合致しているかどうかを判定する関数である。
【0052】
同様に、数式2に示されるように、論理関数F2Rの演算は、電子連動装置1に入力された状態(x,x,x,x,x,x,x,x,x)と、進路設定「2R」の条件(1,0,0,1,1,1,1,0/1,1)との比較である。したがって、論理関数F2Rの演算は、論理変数x2R=(x,x,x,x,x,x,x,x,x)と、論理変数y2R=(1,0,0,1,1,1,1,0/1,1)を入力変数とする関数f(x2R,y2R)の演算である。転てつ機(転てつてこ)の論理関数の演算についても同様に関数f(x,y)の演算である。この関数f(x,y)は、進路、転てつ機(転てつてこ)にかかわらず同一の関数である。
【0053】
さらに、並列処理とは関連がないが、ブール代数の吸収則を適用することにより、論理関数を簡略化し、演算量を減らすことができる。例えば、数式1は、数式3と等価に表現できる。
【0054】
【数3】
【0055】
すなわち、並列処理のリソースが確保できる限りにおいて、進路数が増えたとしても、処理時間は、演算対象の進路のうち、吸収則を適用した後の最大の変数数に依存することとなる。
【0056】
前述したように、連動表に基づく真理値表に表される論理は、どのような進路であっても同一の関数fで表される。これは、図2で例示される連動表に限定されず、任意の連動表に基づく真理値表に表される論理は、どのような進路であっても同一の関数で表されるので、同一の関数を並列処理することに長けるGPUにおいて期待の性能を得ることができる。
【0057】
本願の発明者は、上述した考察を行い、以下のように動作する電子連動装置1を発明するに至った。
【0058】
連動処理部3は、進路(「1R」、「2R」)ごとの論理関数(F1R(x,…x)、F2R(x,…x))を有する。なお括弧内は、図2の場合を例示する。
【0059】
進路(「1R」、「2R」)ごとの各論理関数(F1R、F2R)は、進路(「1R」、「2R」)に関係する所定の転てつ機22(「51」、「51の反位」、「11」、「11の反位」)の鎖錠状態(x,x,x,x)、及び所定区間(「51T」、「11T」、「BT」、「1RT」、「2RT」)における列車在線の有無(x,x,x,x,x)が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものである。
【0060】
進路ごとの論理関数(F1R、F2R)において、転てつ機22(「51」、「51の反位」、「11」、「11の反位」)の鎖錠状態(x,x,x,x)は、その転てつ機22が鎖錠されている状態、及びその転てつ機22が鎖錠されていない状態のいずれか一方を表す二値(1又は0)である。
【0061】
本実施形態では、転てつ機22の鎖錠状態(x,x,x,x)において、その転てつ機22が鎖錠されている状態が1、その転てつ機22が鎖錠されていない状態が0である。
【0062】
進路ごとの論理関数(F1R、F2R)において、所定区間(「51T」、「11T」、「BT」、「1RT」、「2RT」)における列車在線の有無(x,x,x,x,x)は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値(1又は0)である。
【0063】
本実施形態では、列車在線の有無(x,x,x,x,x)において、その区間に列車が在線していない状態が1、その区間に列車が在線している状態又は不定が0である。
【0064】
所定区間(「51T」、「11T」、「BT」、「1RT」、「2RT」)における列車在線の有無(x,x,x,x,x)は、その区間の軌道回路23によって検知される。
【0065】
論理関数(F1R(x,…x)、F2R(x,…x))は、複数の二値(x,…x)の組み合わせ論理である。
【0066】
連動処理部3は、複数の論理関数(F1R(x,…x)、F2R(x,…x))を並列に演算する。
【0067】
転てつ機22の転換についても、進路と同様に処理される。連動処理部3は、転てつ機22(「11」、「51」)ごとの論理関数(F11、F51)をさらに有する。
【0068】
転てつ機22(「11」、「51」)ごとの各論理関数(F11、F51)は、転てつ機22(「11」、「51」)の転換に関係する所定の進路設定(「1R」、「2R」)の状態、及び所定区間(「11T」、「51T」)における列車在線の有無が入力され、その転てつ機22(「11」、「51」)を転換する条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものである。
【0069】
転てつ機ごとの論理関数(F11、F51)において、所定の進路設定(「1R」、「2R」)の状態は、その進路設定がされた状態、及びその進路設定がされていない状態のいずれか一方を表す二値(1又は0)である。
【0070】
転てつ機ごとの論理関数(F11、F51)において、所定区間(「11T」、「51T」)における列車在線の有無(x,x)は、その区間に列車が在線していない状態、及びその区間に列車が在線している状態又は不定のいずれか一方を表す二値である。
【0071】
論理関数(F11、F51)は、複数の二値の組み合わせ論理である。
【0072】
連動処理部3は、複数の論理関数(F1R、F2R、F11、F51)を並列に演算する。
【0073】
連動処理部3において、GPU7のコアの各々が、論理関数(F1R、F2R、F11、F51)の各々を並列に演算する。
【0074】
電子連動装置1が複数の駅20の現場機器2と接続された場合、処理対象の進路や転てつ機の数が多くなる。電子連動装置1は、それら各進路、各転てつ機の論理関数の各々を並列に演算する。
【0075】
なお、連動表における進路鎖錠欄と、接近鎖錠または保留鎖錠欄に記載されている連鎖については、本実施形態では、電子連動装置1は、従来の電子連動装置と同様に処理する。
【0076】
以上、本実施形態に係る電子連動装置1によれば、連動処理部3は、進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力する論理関数を進路ごとに有し、複数の論理関数を並列に演算するので、処理対象の進路数が多くなっても演算時間の増加が抑えられる。このため、この電子連動装置1を用いて多くの駅の連動機能を集約して処理することができる。
【0077】
連動処理部3は、CPU6及びGPU7を有し、GPU7は、複数のコアを有し、そのコアの各々が、論理関数の各々を並列に演算するので、複数の進路の論理関数を高速に演算でき、処理対象の進路数が増えても演算時間の増加が抑えられる。
【0078】
インターフェース4は、連動処理部3とI/O端末5との間のデータ通信を行うためのデータ通信機能を有するので、連動処理部3は、ネットワークを経由して複数の駅20の現場機器2と接続されて、それらの駅20の連動機能を集約して処理することができる。
【0079】
連動処理部3は、コンピュータを用いて構成されることから、連動処理部3による上述した連動機能は、コンピュータにコンピュータプログラムを実行させることによって実現される。
【0080】
そのコンピュータプログラムは、信号機21及び転てつ機22を含む複数の現場機器2に接続されるコンピュータに電子連動装置の演算処理を行わせるものであり、進路ごとの論理関数を有する。進路ごとの各論理関数は、進路に関係する所定の転てつ機22の鎖錠状態、及び所定区間における列車在線の有無が入力され、その進路設定の条件が満たされているか否かの論理演算結果を出力するものである。このコンピュータプログラムは、複数の論理関数を並列にコンピュータに演算させる。
【0081】
そのコンピュータは、CPU6及びGPU7を有する。GPU7は、複数のコアを有する。このコンピュータプログラムは、そのGPU7の各々のコアに前記の論理関数の各々を並列に演算させる。
【0082】
なお、このコンピュータプログラムを実行するコンピュータは、電子連動装置専用のコンピュータに限定されない。
【0083】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、所定区間における列車在線の有無は、その区間の軌道回路23による検知に限られず、例えば、無線による列車検知、または軌道に設けられたループコイルによる検知等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 電子連動装置
3 連動処理部
4 インターフェース
5 I/O端末
6 CPU
7 GPU
図1
図2