(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191050
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】警告制御装置、警告制御システム及び警告制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20221220BHJP
B66C 13/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G08B21/02
B66C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099668
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恒川 裕史
【テーマコード(参考)】
5C086
【Fターム(参考)】
5C086AA22
5C086AA51
5C086BA19
5C086CA25
5C086CB36
5C086DA08
5C086FA02
5C086FA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】作業員の将来の移動位置を推測することで確実に危険を回避すると共に、作業員が危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にする、警告制御装置、警告制御システム及び警告制御プログラムを提供する。
【解決手段】警告制御システムにおいて、警告制御装置のCPU101は、監視エリア内の作業員の位置情報を受信する作業員位置受信部110と、クレーンのブームの先端の位置情報を受信するブーム位置受信部120と、ブームの先端から落下した吊り荷によって生じる災害の危険範囲を決定する決定部130と、作業員の複数地点の位置情報に基づいて当該作業員の移動位置を推測する推測部140と、推測部140による推測結果が危険範囲に入ると推測された場合に警告装置を用いて警告を行う警告部150と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視エリア内の作業員の位置情報を受信する作業員位置受信部と、
クレーンのブームの先端の位置情報を受信するブーム位置受信部と、
前記ブームの先端から落下した吊り荷によって生じる災害の危険範囲を決定する決定部と、
前記作業員の複数地点の位置情報に基づいて当該作業員の移動位置を推測する推測部と、
前記推測部による推測結果が、前記危険範囲に入ると推測された場合に、警告装置を用いて警告を行う警告部と、
を備える警告制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記ブーム位置受信部により受信したブームの先端の位置が移動する毎に、危険範囲を変更する請求項1に記載の警告制御装置。
【請求項3】
前記移動は、ブームの旋回移動である請求項2に記載の警告制御装置。
【請求項4】
前記移動は、ブームの起伏動である請求項2に記載の警告制御装置。
【請求項5】
前記決定部は、吊り荷の種別により前記危険範囲の大きさを変更する請求項1~4のいずれか1項に記載の警告制御装置。
【請求項6】
前記推測部は、複数の作業員の移動を教師データとして機械学習し、学習結果に基づいて移動位置を推測する請求項1~5のいずれか1項に記載の警告制御装置。
【請求項7】
前記推測部は、ベイズ推定により前記作業員の移動位置を推測する請求項6に記載の警告制御装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の警告制御装置と、
作業員の位置情報を検出する作業員位置検出装置と、
前記クレーンのブームの先端の位置情報を検出するブーム位置検出装置と、
警告を行う警告装置と、
を備える警告制御システム。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1~7のいずれか1項に記載の警告制御装置を構成する各部として機能させるための警告制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、警告制御装置、警告制御システム及び警告制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンのブームの先端の位置と作業員の位置とを取得し、両者の平均的な距離により警報を発生する警告システムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、移動する吊り荷と作業員との位置関係に基づいて危険状態であるか否かを判定し、警報を出力するシステムが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-5152号公報
【特許文献2】特開2020-93890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術では、単にクレーンのブームの位置と作業員との距離が所定のしきい値以下になった場合に警告をするだけであり、作業員の移動位置を考慮に入れていない。
【0006】
また、特許文献2に記載された技術では、クレーンのブームが移動することを危険状態であるか否かの判定で考慮しているが、作業員が移動することを考慮に入れていない。
【0007】
そのため、クレーンのブームの先端と作業員との距離が近い場合には、危険範囲に入らない方向に移動する場合であっても警告が行われ、無用な作業の中断が行われるという問題があった。
【0008】
本発明は、作業員の将来の移動位置を推測することで確実に危険を回避すると共に、作業員が危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の態様の警告制御装置は、監視エリア内の作業員の位置情報を受信する作業員位置受信部と、クレーンのブームの先端の位置情報を受信するブーム位置受信部と、前記ブームの先端から落下した吊り荷によって生じる災害の危険範囲を決定する決定部と、前記作業員の複数地点の位置情報に基づいて当該作業員の移動位置を推測する推測部と、前記推測部による推測結果が、前記危険範囲に入ると推測された場合に、警告装置を用いて警告を行う警告部と、を備える。
【0010】
第1の態様によれば、作業員の将来の移動位置を推測することで確実に危険を回避すると共に、危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にすることができる。
【0011】
第2の態様の警告制御装置は、前記決定部は、前記ブーム位置受信部により受信したブームの先端の位置が移動する毎に、危険範囲を変更する。
【0012】
第2の態様によれば、危険範囲に応じて作業員へ警告を行うことが可能となる。
【0013】
第3の態様の警告制御装置は、前記移動は、ブームの旋回移動である。
【0014】
第3の態様によれば、ブームの旋回移動により危険範囲が移動することに対応して作業員へ警告を行うことが可能となる。
【0015】
第4の態様の警告制御装置は、前記移動は、ブームの起伏動である。
【0016】
第4の態様によれば、ブームの起伏動により危険範囲が移動することに対応して作業員へ警告を行うことが可能となる。
また、ブームの起伏動により、作業員の視覚に吊り荷が入るかによって、作業員の行動の変化を推測して、警告を行うことが可能となる。
【0017】
第5の態様の警告制御装置は、前記決定部は、吊り荷の種別により前記危険範囲の大きさを変更する。
【0018】
第5の態様によれば、吊り荷の種別により危険範囲を変動させることができ、様々な吊り荷に対して適切な警告を行うことが可能となる。
【0019】
第6の態様の警告制御装置は、前記推測部は、複数の作業員の移動を教師データとして機械学習し、学習結果に基づいて移動位置を推測する。
【0020】
第6の態様によれば、教師データを用いて機械学習することにより、作業員の移動の推測精度を向上させることが可能となる。
【0021】
第7の態様の警告制御装置は、前記推測部は、ベイズ推定により前記作業員の移動位置を推測する。
【0022】
第7の態様によれば、他の機械学習方法に比べ、少ない教師データで作業員の移動を推測することが可能となる。
【0023】
第8の態様の警告制御システムは、第1の態様~第7の態様の警告制御装置と、作業員の位置情報を検出する作業員位置検出装置と、前記クレーンのブームの先端の位置情報を検出するブーム位置検出装置と、警告を行う警告装置と、を備える。
【0024】
第8の態様によれば、作業員の将来の移動位置を推測することで確実に危険を回避すると共に、危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にすることができる、警告制御システムを提供することができる。
【0025】
第9の態様の警告制御プログラムは、コンピュータを、第1の態様~第7の態様のいずれか1つに記載の警告制御装置を構成する各部として機能させる。
【0026】
第9の態様によれば、作業員の将来の移動位置を推測することで確実に危険を回避すると共に、危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にすることができる、警告制御プログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、危険範囲に入らないと推測された場合には警告を行わないようにすることができ、無駄な作業の中断を防止することを可能にすることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る警告制御システムの概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る警告制御装置の概略ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る警告制御装置のROM又はストレージの機能構成の例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る警告制御システムの稼働シーンの一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る作業員の移動を説明するための説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る作業員の移動の一例を説明するための説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る作業員の移動と警告との関係について説明する説明図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る警告処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の変形例を説明するための説明図である。
【
図10】本発明の変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0030】
図1を用いて、本実施形態に係る警告制御システム10の一例を説明する。
図1は、本実施形態に係る警告制御システム10の概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る警告制御システム10は、警告制御装置20、作業員位置検出装置30、ブーム位置検出装置40及び警告装置50がネットワークNを介して接続されている。このネットワークNには、例えば、無線LAN(=Local Area Network)、インターネット等が適用される。ここで、
図1では、各装置が1台の場合を示しているが、これに限定されず、ネットワークNに複数台接続されてもよい。
【0031】
本実施形態では、作業員位置検出装置30は、作業ヤードを見渡せる位置に設けられた深度情報を持ったカメラやステレオカメラにより撮影された画像を認識することにより、予め定められた時間間隔で作業員の位置情報を検出する装置である。また、作業員位置検出装置30は、作業員の位置を検出できればカメラである必要はなく、例えば、各作業員に持たせたGPS(Global Positioning System)などを用いてもよい。
【0032】
また、作業員位置検出装置30は、常時作業員を検出しているが、カメラにより撮影された画像に写る全ての作業員の位置情報を検出する必要はなく、予め定められた監視エリアP内の作業員の位置情報を検出すれば足りる。そのため、作業員の位置情報は、監視エリアP内に作業員が入ったことを契機に検出が開始される。なお、カメラにより撮影された画像に写る範囲を監視エリアPとして、当該画像に写る全ての作業員の位置情報を検出するようにしてもよい。また、監視エリアPは、作業現場の状況に応じてユーザにより予め定められていることが望ましいが、カメラにより撮影された画像を画像認識することで、
図2に示す警告制御装置20のCPU101が定めるようにしてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、ブーム位置検出装置40は、クレーン60のブーム61の先端62に設けられたGPSや、クレーン60のブーム61の先端62が見渡せる位置に設けられたレーザー測量装置や、カメラにより撮影された画像、などからブーム61の先端62の位置情報を検出する装置である。また、ブーム位置検出装置40は、常時、
図4に示すブーム61の先端62の位置情報を検出しているが、これに限定されず、作業員位置検出装置30により監視エリアP内に作業員が入ったことが検出されたことを契機に、行われるようにしてもよい。
【0034】
また、本実施形態では、警告装置50は、例えば、警告音を発生させるスピーカなどである。なお、警告装置50は、スピーカに限定されず、光の点灯により警告を行うランプなどであってもよい。また、警告装置50は、作業ヤードなどに設置される場合の他、各作業員に持たせるようにしてもよい。
【0035】
本実施形態における警告制御システム10は、作業員位置検出装置30により検出された作業員の位置情報と、ブーム位置検出装置40により検出されたクレーン60のブーム61の先端62の位置情報と、に基づいて、警告制御装置20が作業員の移動位置を推測し、必要に応じて警告装置50を用いて警告を行うシステムである。
【0036】
図2は、警告制御装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2に示すように、警告制御装置20は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、ストレージ104、通信インタフェース105、入力部106および表示部107を有する。各構成は、バス108を介して相互に通信可能に接続されている。
【0037】
CPU101は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU101は、ROM102又はストレージ104からプログラムを読み出し、RAM103を作業領域としてプログラムを実行する。CPU101は、ROM102又はストレージ104に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM102又はストレージ104には、プログラム又はデータが格納されている。
【0038】
ROM102は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM103は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ104は、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0039】
また、本実施形態では、ストレージ104には、
図4に示す吊り荷63の種別に関する情報がデータベースに記憶されている。そして、吊り荷63の種別に関する情報は、例えば、吊り荷63のサイズ、吊り荷63の重さ、吊り荷63の数、散らばりやすさなどである。
【0040】
また、吊り荷63の種別毎の危険範囲Qも予め定めておき、種別に関する情報と共にデータベースに記憶しておき、揚重作業の開始時などに吊り荷63の情報をデータベースから読み出すことで危険範囲Qが決定されるようにしている。かかる吊り荷63の情報の読み出しは、揚重作業の開始時などに、ユーザが入力部106を用いて入力することで読み出すようにしてもよいし、又、工程毎に吊り荷63の情報を含む作業内容を予め記憶しておき、CPU101が当日の作業内容から吊り荷63の情報を読み出すようにしてもよい。
【0041】
なお、吊り荷63の種別に関する情報は、事前にストレージ104に記憶される場合に限定されない。例えば、揚重作業の開始時などにカメラで吊り荷63を撮影して、撮影された画像を画像認識することで、吊り荷63の種別を判断し、判断された吊り荷63の種別から危険範囲Qを決定するようにしてもよい。
【0042】
また、ストレージ104には、複数の作業員の移動(移動速度と移動方向)を教師データとして機械学習した学習済みモデルが記憶されている。学習済みモデルは、例えば、観測された移動速度と移動方向(角度)のサンプル平均とサンプル標準偏差を用いた正規分布によるモデルとして構成される。あるいは、ニューラルネットワークを用いて構成されている。後者の教師データは、作業員が作業する様子を撮影した学習用カメラ画像あるいはカメラ画像から抽出した人体骨格位置情報(例えばhttps://www.next-system.com/visionpose)である。学習用カメラ画像は、作業員の移動を撮影可能なように、所定時間毎に連続して撮影された画像である。そして、作業員が移動する方向や速度を学習する。また、学習用カメラ画像は、1つのカメラの画像ではなく、複数のカメラで撮影した画像であることが望ましい。なお、かかる学習用カメラ画像は、作業員位置検出装置30の一例である作業者位置検出用のカメラの画像を用いてもよいし、教師データ用のカメラ(図示せず)の画像を用いてもよい。また、機械学習は、警告制御装置20が行ってもよいし、他の学習装置が行ってもよい。
【0043】
通信インタフェース105は、サーバ装置(図示せず)等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、無線LAN、インターネット等の規格が用いられる。
【0044】
入力部106は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0045】
表示部107は、例えば、液晶ディスプレイであり、CPU101の制御に基づき各種の情報を表示する。また、表示部107は、タッチパネル方式を採用して、入力部106として機能しても良い。
【0046】
警告制御装置20は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。警告制御装置20が実現する機能構成について説明する。
【0047】
図3は、警告制御装置20の機能構成の例を示すブロック図である。
【0048】
図3に示すように、警告制御装置20のCPU101は、機能構成として、作業員位置受信部110、ブーム位置受信部120、決定部130、推測部140、警告部150を備える。各機能構成は、CPU101がROM102又は記憶部(ストレージ)104に記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0049】
作業員位置受信部110は、作業員の位置情報を作業員位置検出装置30から受信する。
【0050】
ブーム位置受信部120は、クレーン60のブーム61の先端62の位置情報をブーム位置検出装置40から受信する。
【0051】
決定部130は、ブーム61の先端62から落下した吊り荷63によって生じる災害の危険範囲Qを決定する。ここで、危険範囲Qは、吊り荷63が落下した場合に、作業員に災害が発生する可能性の高い範囲である。例えば、
図4に示すように、吊り荷63の下方側の予め定められた範囲が危険範囲Qである。
【0052】
また、決定部130は、吊り荷63の種別により危険範囲Qの大きさを変更するようにすることが望ましい。すなわち、吊り荷63の種別によって危険範囲Qを大きくしたり、危険範囲Qを小さくしたりする。例えば、吊り荷63の大きさが、予め定められた大きさよりも大きい場合は、予め定められた広い範囲の危険範囲Q(例えば、ブーム61の先端62から地面に垂直に下ろした点を中心とした半径10メートルの範囲)が選択され、吊り荷63の大きさが予め定められた大きさよりも小さい場合は、予め定められた狭い範囲の危険範囲Q(例えば、ブーム61の先端62から地面に垂直に下ろした点を中心とした半径5メートルの範囲)が選択されるようにしている。このように吊り荷63の種別によって危険範囲Qを予め定めておき、ストレージ104に記憶しておく。
【0053】
なお、危険範囲Qは、データベースに記憶された吊り荷63の種別毎に予め定められた危険範囲Qから選択される場合に限定されず、吊り荷63の種別と危険範囲Qとを機械学習した学習済みモデルに、吊り荷63の種別を入力することにより危険範囲Qを決定するようにしてもよい。
【0054】
また、危険範囲Qは、ブーム61の先端62から地面に垂直に下ろした点を中心とした円の範囲に限定されず、作業現場の状況や地形などの、周囲の環境から定めてもよい。例えば、ブーム61の先端62から地面に垂直に下ろした点の左側を右側より広く危険範囲Qとして決定するようにしてもよい。
【0055】
ここで、吊り荷63の種別は、上述したように、揚重作業の開始時に、ユーザが入力部106を用いて入力するようにしてもよいし、工程毎に吊り荷63の情報を含む作業内容を予め記憶しておき、CPU101が当日の作業内容から吊り荷63の情報を読み出すようにしてもよい。なお、上述したように、吊り荷63を撮影したカメラの画像を機械学習した学習済みモデルに、吊り荷63を撮影したカメラの画像を入力することで、吊り荷63の種別を判別するようにしてもよい。
【0056】
また、決定部130は、ブーム位置受信部120により受信したブーム61の先端62の位置が移動する毎に、危険範囲Qを変更する。
【0057】
ここで、かかるブーム61の先端62の位置の移動は、ブーム61の旋回移動が含まれる。すなわち、ブーム61が旋回移動すると吊り荷63も移動し、それに伴い危険範囲Qも変更される。
【0058】
また、かかるブーム61の先端62の位置の移動は、ブーム61の起伏動が含まれる。すなわち、ブーム61が起伏動すると、吊り荷63も上下動し、それに伴い危険範囲Qも変更される。そのため、ブーム61の高さと吊り荷63の種別とによって、危険範囲Qを予め定めておき、ブーム61の起伏動の度に、予め定められた危険範囲Qから選択される。一般に、ブーム61を起こすと危険範囲Qが広くなり、ブーム61を伏せると危険範囲Qが狭くなる。なお、吊り荷63の種別によっては、ブーム61を起こすと危険範囲Qが狭くなり、ブーム61を伏せると危険範囲Qが広くなることを排除するものではない。また、ブーム61の起伏動には、ブーム61が起伏動しない吊り荷63の上下動が含まれる。すなわち、ブーム61の先端62の位置の高さは変わらないが、ワイヤロープ64を巻き上げることなどによる吊り荷63の上下動が含まれる。この場合は、ブーム61の高さと吊りの種別とによって危険範囲Qが定まるのではなく、吊り荷63の高さと吊り荷63の種別とによって危険範囲Qが定まる。
【0059】
推測部140は、作業員の複数地点の位置情報に基づいて当該作業員の移動位置を推測する。
推測部140は、ストレージ104に記憶されている学習済みモデルを用いて作業員の移動位置を推測する。推測部140は、作業員の位置情報を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルの出力として、作業員の位置情報の推測結果を得る。
【0060】
ここで、
図5、
図6を用いて、推測部140による作業員の移動位置の推測について説明する。
【0061】
時間ステップを短く区切れば、その間は一定速度で直線的に移動しているとみなせるので、当該時間ステップの間に人が進む位置は、それまでの速度ベクトルから概略推定できる。ある時点での速度をvとし、時間間隔をΔt、時間間隔の間の加速度をαとすると、次の時間ステップで人が進む距離は、
【数1】
である。
また、方向の変化分をθとすると、
図5に示す斜線で示した領域が移動する可能性の高いエリアとなる。
【0062】
具体的には、単位時間Δtを1秒とし、
図6に示す地点Aから単位時間に地点Bへ1m進んだとする。地点Aから地点Bへの平均速度はv=1m/sとなる。次の単位時間に地点Cまで進んだとして、地点Bからの距離が1.1mだとすると、初速をvとして、平均加速度αは以下の通り0.2m/s
2となる。
【数2】
このように、単位時間ごとにαとθがデータとして得られる。
【0063】
ベイズの定理(ベイズ推定)を使うと、αとθがデータとして得られた時のそれぞれの平均と標準偏差の確率(事後確率)は、以下のように表される。
【数3】
【0064】
ここから事後確率P(μ
α,σ
α,μ
θ,σ
θ |α,θ)が最も高くなるμ
α,σ
α,μ
θ,σ
θを探すが、その場合分母のP(α,θ)は探索には無関係なので、次の式のように分子を考える。
【数4】
【0065】
得られるデータをα
i,θ
iとすると、尤度関数P(α,θ|μ
α,σ
α,μ
θ,σ
θ)は、以下の通りである。なお、関数f は、所与の平均と分散の確率分布である値が得られる確率(例えば、第1項の場合は平均μ
α、分散σ
α
2の正規分布でα
iが得られる確率)である。
【数5】
【0066】
そして、例えば、非超過確率95%の安全率を見て、α、θを設定する。かかるα、θから作業員の移動位置が推測される。
【0067】
ここで、ベイズの定理(ベイズ推定)により作業員の移動位置を推測することとしたのは、他の機械学習方法に比べ、少ない教師データで作業員の移動を推測することが可能であるためである。すなわち、作業現場は同じ状況となることが少なく、事前に教師データを十分に集めることが困難であるため、少ない教師データの段階で作業員の移動を推測する必要がある。
【0068】
警告部150は、推測部140による推測結果が、作業員が危険範囲Qに入ると推測された場合に、警告装置50を用いて警告を行う。すなわち、警告部150は、推測部140による推測結果と、決定部130による危険範囲Qとを照合することにより、危険範囲Q内に作業員が侵入するか否かを判定する。
【0069】
図7は、本実施形態における作業員Nの移動と警告との関係について説明する説明図である。
図7は、作業員N1がSの矢印の方向に沿って移動してきた場合は、本警告制御システム10による警告が行われるが、作業員N2がTの矢印の方向に沿って移動してきた場合は、本警告制御システム10による警告が行われない。すなわち、Sの矢印の方向に沿って移動してきた作業員N1とTの矢印の方向に沿って移動してきた作業員N2との現在の位置情報は同じであり、ブーム61の先端62の位置からの距離も、危険範囲Qとの距離も同じである。しかし、Sの矢印の方向にそのまま移動すると危険範囲Qに入る可能性が高いが、Tの矢印の方向にそのまま移動しても危険範囲Qに入る可能性は低い。上述した警告制御システム10を用いることにより、
図7に示す作業員N1には警告を行うが、作業員N2には警告を行わないようにすることで、作業員N2の作業を中断させないようにすることができる。
【0070】
次に、警告制御システム10の作用について説明する。
【0071】
図8は、警告制御システム10による警告処理の流れを示すフローチャートである。例えば、警告制御装置20のCPU101がROM102又はストレージ104からプログラムを読み出して、RAM103に展開して実行することにより、警告処理が行なわれる。
【0072】
まず、ステップS100において、作業員位置検出装置30により、監視エリアPに作業員を検知したか否かが判定される。すなわち、作業員位置検出装置30により、作業員が監視エリアPに居ることを検知したか否かが判定される。作業員が監視エリアPに居ることが検知されない場合は、処理を終了する。一方、作業員が監視エリアPに居ると判定された場合は、次のステップS101に進む。
【0073】
ステップS101において、作業員位置検出装置30により、上述したステップS100において、監視エリアP内に居ることが検知された作業員の位置情報が検出され、作業員位置検出装置30から警告制御装置20に送信される。そして、次のステップS102に進む。
【0074】
ステップS102において、警告制御装置20のCPU101(作業員位置受信部110)により作業員の位置情報が受信される。そして、次のステップS103に進む。
【0075】
ステップS103において、ブーム位置検出装置40により、ブーム61の先端62の位置情報が検出され、ブーム位置検出装置40から警告制御装置20に送信される。そして、次のステップS104に進む。なお、ブーム位置検出装置40は、ブーム61の先端62の位置情報を常に検出しているため、ブーム61の先端62の位置情報の警告制御装置20への送信は、
図8に示すステップS102の次のステップである必要はない。
【0076】
ステップS104において、警告制御装置20のCPU101(ブーム位置受信部120)によりブーム61の先端62の位置情報が受信される。そして、次のステップS105に進む。
【0077】
ステップS105において、警告制御装置20のCPU101(決定部130)により、危険範囲Qが決定される。ここで、吊り荷63の種別を元に危険範囲Qが決定される場合は、
図8に示すフローチャートのいずれかのステップにおいて吊り荷63の種別に関する情報を取得しておく。そして、次のステップS106に進む。
【0078】
ステップS106において、警告制御装置20のCPU101(推測部140)により、作業員の移動位置が推測される。そして、次のステップS107に進む。
【0079】
ステップS107において、警告制御装置20のCPU101(警告部150)により、上述したステップS106において推測部140により推測された結果が、作業員が危険範囲Qに入ると推測されたか否かが判定される。作業員が危険範囲Qに入ると推測されない場合は処理を終了する。一方、作業員が危険範囲Qに入ると推測された場合は、次のステップS108に進む。
【0080】
ステップS108において、警告制御装置20のCPU101(警告部150)により、警告装置50を用いて警告が行われる。そして、処理を終了する。
【0081】
なお、上記実施形態でCPU101がソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した処理を、CPU101以外の各種のプロセッサが実行しても良い。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、各処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0082】
また、上記実施形態では、各処理のプログラムがROM102又はストレージ104に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としても良い。
【0083】
(変形例)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0084】
例えば、ブーム61の起伏動やワイヤロープ64の長さに伴う吊り荷63の高さが変わると作業員の行動が変わることを考慮に入れて作業員の移動を推測するようにしてもよい。
【0085】
まず、作業員が吊り荷63に気づくと吊り荷63から遠ざかる方向に向きを変える傾向がある。これは本件で言えばθの平均値が吊り荷63から遠ざかる方向にずれるということと同義である。ただし、上述した実施形態のθの方向の定義は「反時計回りが正」と言うような定義で、吊り荷63から遠ざかるか否かには関係がない。そのため、まず、正・負の方向を、吊り荷63を基準に見直す必要がある。
【0086】
図9に示すように、作業員の移動の速度ベクトルをA、吊り荷63を中心とした円の法線ベクトルをBとすると、吊り荷63から遠ざかる方向と言うのは、
図9に示した速度ベクトルAから法線ベクトルBへの回転方向になる。回転方向は、以下の式で表される。
【数6】
この回転方向と同じ方向をθの方向と改めて定義しなおす。つまり、回転方向が正なら反時計回りを正、回転方向が負なら時計回りを正とする。
【0087】
次に吊り荷63の高さによりθの平均値が変わるという効果を考えると、ある高さHを境にして人の動きが吊り荷63を考慮した動きに変わる、すなわちθの平均値が変わると考える。これをベイズの図式表現を使うと、
図10のように表せる。ここで、斜線付きの円は観測値、斜線無しの円は非観測値、四角は添え字iによる反復を表しており、複数の観測値が得られることを表している。なお、h
iは吊り荷63の高さである。これを式で表すと、以下のとおりである。吊り荷63の高さh
iによってθの分布が変わることを表している。
【数7】
【0088】
ここで、Φは、所与の平均と分散を持つ正規分布である。改めてベイズ推定の式を書き直すと、以下のようになる。
【数8】
この際、尤度関数は、数式7を反映した関数gを用いて以下の通りとなる。
【数9】
【0089】
このように、推測部140は、吊り荷63の高さと作業員の移動方向との関係を推測する。そして、警告部150により、推測部140による推測結果が危険範囲Qに入ると推測された場合に、警告装置50を用いた警告が行われる。
【符号の説明】
【0090】
10 警告制御システム
20 警告制御装置
30 作業員位置検出装置
40 ブーム位置検出装置
60 クレーン
61 ブーム
62 先端
63 吊り荷
64 ワイヤロープ
100 警告制御装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ストレージ
105 通信インタフェース
106 入力部
107 表示部
108 バス
110 作業員位置受信部
120 ブーム位置受信部
130 決定部
140 推測部
150 警告部
P 監視エリア
Q 危険範囲