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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191071
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】作業車用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20221220BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20221220BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099697
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】陣内 篤史
(72)【発明者】
【氏名】北村 颯太
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃市
(72)【発明者】
【氏名】谷内 裕
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA14
3J063AB13
3J063AC11
3J063BA11
3J063CA05
3J063CB02
3J063CD41
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD32
3J063XD47
3J063XD62
3J063XD72
3J063XE38
3J063XF12
(57)【要約】
【課題】ギヤミッションから入力された動力を左右の車輪に伝達する差動機構が備えられた作業車用動力伝達装置において、差動機構のリングギヤが潤滑油に入り込むことに起因する差動機構の伝動ロスの増加を抑制しつつ車輪を高速駆動することが可能な作業車用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】ギヤミッションが収容されるミッションケースに差動機構22が収容されている。差動機構22におけるリングギヤ95の下部95aを覆うギヤカバー100が備えられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースと、
前記ミッションケースに収容され、動力源からの動力が入力されるギヤミッションと、
前記ミッションケースに収容され、前記ギヤミッションの出力が入力され、入力された動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、が備えられ、
前記差動機構におけるリングギヤの下部を覆うギヤカバーが備えられている作業車用動力伝達装置。
【請求項2】
前記ギヤカバーは、前記下部における両側面のうちの歯を備える表側面に対向して前記表側面を覆う表カバー部と、前記表カバー部の下端部から前記下部の下方に延びて前記下部を下方から覆う下カバー部と、を備えている請求項1に記載の作業車用動力伝達装置。
【請求項3】
前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向下手側に位置する部位において、前記表カバー部の下端部に、潤滑油の流出が可能な貫通孔が備えられている請求項2に記載の作業車用動力伝達装置。
【請求項4】
前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向上手側に位置する端部を前記ミッションケースに固定する上手側固定部と、前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向下手側に位置する端部を前記ミッションケースに固定する下手側固定部と、が備えられている請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車用動力伝達装置。
【請求項5】
前記ギヤカバーは、前記下部における両側面のうちの歯を備える表側面に対向して前記表側面を覆う表カバー部と、前記表カバー部の下端部から前記下部の下方に延びて前記下部を下方から覆う下カバー部と、前記下カバー部における前記表カバー部側とは反対側の端部から立ち上がり、前記下部における両側面のうちの歯を備えない裏側面に対向して前記裏側面を覆う裏カバー部とを備えている請求項1に記載の作業車用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車用動力伝達装置には、ミッションケースと、ミッションケースに収容され、動力源からの動力が入力されるギヤミッションと、ミッションケースに収容され、ギヤミッションの出力が入力され、入力された動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、が備えられたものがある。
【0003】
この種の作業車用動力伝達装置としては、たとえば特許文献1に示される動力伝達構造がある。特許文献1に示される動力伝達構造には、ギヤミッション(変速伝動装置、前後進切換え装置)、差動機構(後輪差動機構)が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-95058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業が能率よく進むように高速走行を行える作業車が要望されている。上記した作業車用動力伝達装置においては、ミッションケースの内部に潤滑油が貯留され、差動機構のリングギヤの下部が潤滑油に入り込むので、走行可能な速度を高速にした場合、潤滑油に入り込む状態のリングギヤが潤滑油を撹拌しつつ回転する速度が速くなってリングギヤに大きい駆動負荷が掛かるので差動機構における伝動ロスが増加する。
【0006】
本発明は、リングギヤが潤滑油に入り込むことに起因する差動機構の伝動ロスの増加を抑制しつつ車輪を高速駆動することが可能な作業車用動力伝達装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による作業車用動力伝達装置は、
ミッションケースと、前記ミッションケースに収容され、動力源からの動力が入力されるギヤミッションと、前記ミッションケースに収容され、前記ギヤミッションの出力が入力され、入力された動力を左右の車輪に伝達する差動機構と、が備えられ、前記差動機構におけるリングギヤの下部を覆うギヤカバーが備えられている。
【0008】
本構成によると、回転するリングギヤの下部によって行われる潤滑油の撹拌がミッションケース内における潤滑油貯留域に広がることがギヤカバーによって抑制されるので、リングギヤに掛かる駆動負荷の増加を抑制しつつリングギヤの回転速度を増速することができ、差動機構における伝動ロスの増加を抑制しつつ車輪を高速駆動することが可能になる。
【0009】
本発明においては、
前記ギヤカバーは、前記下部における両側面のうちの歯を備える表側面に対向して前記表側面を覆う表カバー部と、前記表カバー部の下端部から前記下部の下方に延びて前記下部を下方から覆う下カバー部と、を備えていると好適である。
【0010】
本構成によると、潤滑油貯留域のうちのリングギヤの表側面に対向する部位に向かってリングギヤの潤滑油撹拌が広がることが表カバー部によって抑制され、潤滑油貯留域のうちのリングギヤの下方に位置する部位に向かってリングギヤの潤滑油撹拌が広がることが下カバー部によって抑制されるので、リングギヤによる潤滑油撹拌の潤滑油貯留域への広がりを効果的に抑制でき、差動機構における伝動ロスの増加を抑制しつつ車輪をより高速で駆動することが可能である。
【0011】
本発明においては、
前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向下手側に位置する部位において、前記表カバー部の下端部に、潤滑油の流出が可能な貫通孔が備えられていると好適である。
【0012】
本構成によると、リングギヤの下部とギヤカバーとの間に位置する潤滑油がリングギヤの下部によって下部の回転方向下手側に向けて掻き操作され、掻き操作された潤滑油がギヤカバーの内部から貫通孔を通って外部に流出するので、リングギヤによる撹拌によって温度上昇する潤滑油がギヤカバーと下部との間に滞留することが貫通孔によって防止され、ギヤカバーと下部との間に位置する潤滑油の温度上昇を抑制できる。
【0013】
本発明においては、
前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向上手側に位置する端部を前記ミッションケースに固定する上手側固定部と、前記ギヤカバーのうちの前記下部の回転方向下手側に位置する端部を前記ミッションケースに固定する下手側固定部と、が備えられていると好適である。
【0014】
本構成によると、ギヤカバーのうちの下部の回転方向上手側に位置する端部が上手側固定部によってミッションケースに固定され、ギヤカバーのうちの下部の回転方向下手側に位置する端部が下手側固定部によってミッションケースに固定されるので、リングギヤが潤滑油を撹拌することによってギヤカバーに掛かる油圧に抗してギヤカバーをミッションケースにしっかり固定できる。
【0015】
本発明においては、
前記ギヤカバーは、前記下部における両側面のうちの歯を備える表側面に対して前記表側面を覆う表カバー部と、前記表カバー部の下端部から前記下部の下方に延びて前記下部を下方から覆う下カバー部と、前記下カバー部における前記表カバー部側とは反対側の端部から立ち上がり、前記下部における両側面のうちの歯を備えない裏側面に対向して前記裏側面を覆う裏カバー部とを備えていると好適である。
【0016】
本構成によると、潤滑油貯留域のうちのリングギヤの表側面に対向する部位に向かってリングギヤの潤滑油撹拌が広がることが表カバー部によって抑制され、潤滑油貯留域のうちのリングギヤの下方に位置する部位に向かってリングギヤの潤滑油撹拌が広がることが下カバー部によって抑制され、潤滑油貯留域のうちのリングギヤの裏側面に対向する部位に向かってリングギヤの潤滑油撹拌が広がることが裏カバー部によって抑制されるので、リングギヤによる潤滑油撹拌の潤滑油貯留域への広がりを効果的に抑制でき、差動機構における伝動ロスの増加を抑制しつつ車輪をより高速で駆動することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トラクタの全体を示す左側面図である。
図2】走行伝動装置を示す線図である。
図3】無段変速装置の変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部の出力軸の回転速度との関係を示す説明図である。
図4】後輪差動機構を示す概略図である。
図5】後輪差動機構の側面図である。
図6】後輪差動機構の平面図である。
図7図5のVII-VII断面矢視図である。
図8】ギヤカバーの斜視図である。
図9】別の実施形態を備えるギヤカバーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、トラクタ(「作業車」の一例)の走行車体に関し、図1に示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、紙面表側の方向を「車体左方」、紙面裏側の方向を「車体右方」とする。
【0019】
〔トラクタの全体〕
トラクタの走行車体は、エンジン1などによって構成された車体フレーム5、車体フレーム5の前部に駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の前車輪6、車体フレーム5の後部に駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の後車輪7を有している。
車体フレーム5は、エンジン1、エンジン1の後部に備えられたクラッチハウジング2、クラッチハウジング2に連結されたミッションケース3、および前部フレーム4などによって構成されている。左右一対の前車輪6は、車体上下向きの操向軸芯(図示せず)を揺動支点にして揺動操作されることによって操向される。走行車体の前部に、エンジン1を有する原動部8が形成されている。走行車体の後部に運転部9が形成されている。運転部9に、運転座席10、前車輪6を操向操作するステアリングホィール11、搭乗空間を覆うキャビン12が備えられている。車体フレーム5の後部に、ロータリ耕耘装置(図示せず)などの各種の作業装置を昇降操作可能に連結するリンク機構13、エンジン1からの動力を取り出し、取り出した動力を連結された作業装置に伝達する動力取出軸14が備えられている。
【0020】
〔動力伝達装置〕
エンジン1からの動力が図2に示される動力伝達装置15によって前車輪6および後車輪7に伝達されるように構成されている。動力伝達装置15に備えられるミッションケース3は、ミッションケース3の前後方向と走行車体の前後方向とが一致する状態で備えられる。
【0021】
図2に示されるように、動力伝達装置15は、ミッションケース3を備えている。ミッションケース3には、ギヤミッション15M、後輪差動機構22、および、前輪伝動装置26が収容されている。ギヤミッション15Mには、ミッションケース3の入力軸17に連結された主変速部18、主変速部18の出力が入力される段階分け伝動部19、段階分け伝動部19の出力が入力される前後進切換装置20、前後進切換装置20の出力を後輪差動機構22に伝達する後輪ギヤ連動機構21、および、前後進切換装置20の出力を前輪伝動装置26に伝達する前輪ギヤ連動機構25が備えられている。
【0022】
ミッションケース3は、ミッションケース3の前後方向に前ケース部3aと、中ケース部3bと、後ケース部3cとに分割されている。前ケース部3aに、主変速部18、段階分け伝動部19、および、前輪伝動装置26が収容されている。中ケース部3bに、後輪ギヤ連動機構21、および、前輪ギヤ連動機構25が収容されている。後ケース部3cに、前後進切換装置20、および、後輪差動機構22が収容されている。
【0023】
主変速部18には、遊星ギヤ装置18Aおよび無段変速装置18Bが備えられている。
遊星ギヤ装置18Aの前部に、入力軸17の動力を遊星ギヤ装置18Aに入力する第1ギヤ連動機構34が連結されている。無段変速装置18Bの後部に、入力軸17の動力を無段変速装置18Bに入力する第2ギヤ連動機構35が連結されている。無段変速装置18Bの前部に、無段変速装置18Bの出力を遊星ギヤ装置18Aに入力する第3ギヤ連動機構36が連結されている。前後進切換装置20の前部に、前後進切換装置20の出力を後輪差動機構22に伝達する後輪ギヤ連動機構21が連結されている。前輪伝動装置26の後部に、前後進切換装置20の出力を前輪伝動装置26に伝達する前輪ギヤ連動機構25が連結されている。
【0024】
図2に示されるように、動力伝達装置15においては、エンジン1の出力軸1aの動力が主クラッチ16を介してミッションケース3の入力軸17に伝達される。入力軸17の動力が主変速部18に入力され、主変速部18の出力が段階分け伝動部19に入力され、段階分け伝動部19の出力が前後進切換装置20に入力される。前後進切換装置20の出力が後輪ギヤ連動機構21を介して後輪差動機構22の入力軸22aに伝達される。後輪差動機構22の出力を後車輪7に伝達する動力伝達系に、操向ブレーキ23および減速機構24が設けられている。減速機構24は、遊星歯車機構によって構成されている。後輪差動機構22の入力軸22aの動力が前輪ギヤ連動機構25によって前輪伝動装置26に伝達され、前輪伝動装置26から回転軸27を介して前輪差動機構28に伝達される。前輪ギヤ連動機構25に、駐車ブレーキ29が設けられている。
【0025】
図2に示される30は、作業変速装置である。作業変速装置30においては、入力軸17の動力が回転軸31および後回転軸32を介して入力され、入力された動力が変速されて動力取出軸14に伝達される。
【0026】
〔主変速部〕
主変速部18は、図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aおよび無段変速装置18Bを備えている。遊星ギヤ装置18Aは、ミッションケース3の前後方向に並ぶ二つの遊星ギヤ装置部50,60を備えている。二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50と入力軸17とが第1ギヤ連動機構34を介して連結されている。無段変速装置18Bは、静油圧式の無段変速装置によって構成され、可変容量型の油圧ポンプP、および油圧モータMを備えている。無段変速装置18Bのポンプ軸と入力軸17とが第2ギヤ連動機構35および回転軸31を介して連結されている。無段変速装置18Bのモータ軸と二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50とが第3ギヤ連動機構36を介して連結されている。
【0027】
主変速部18においては、エンジン1からの動力が無段変速装置18Bによって変速され、変速された動力と、エンジン1から第3ギヤ連動機構36を介して伝達される動力とが遊星ギヤ装置18Aに入力されて二つの遊星ギヤ装置部50,60によって合成され、合成動力が同芯状に重なる第1出力軸37a、第2出力軸37b、第3出力軸37cから出力される。
【0028】
〔段階分け伝動部〕
段階分け伝動部19は、図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aの出力が入力される四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4、四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が設けられた出力軸38を備えている。
【0029】
段階分け伝動部19においては、無段変速装置18Bおよび四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が適切に操作されることにより、遊星ギヤ装置18Aからの合成動力が4段階の速度レンジに段階分けされて出力軸38から出力される。
【0030】
図3は、無段変速装置18Bの変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部19の出力軸38の回転速度Vとの関係を示す説明図である。図3の縦軸は、出力軸38の回転速度Vを示す。図3の横軸は、無段変速装置18Bの変速状態を示し、「N」は、中立状態を示し、「-MAX」は、逆回転方向における最高速の変速状態を示す。「+MAX」は、正回転方向における最高速の変速状態を示す。
【0031】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第1クラッチCL1が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第1出力軸37aの動力が1速ギヤ連動機構39aおよび第1クラッチCL1によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが零速度[0]から1速レンジの最高速[V1]まで無段階に増速する。
【0032】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第2クラッチCL2が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が2速ギヤ連動機構39bおよび第2クラッチCL2によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジより高速の2速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが2速レンジの最低速[V1]から2速レンジの最高速[V2]まで無段階に増速する。
【0033】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第3クラッチCL3が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第2出力軸37bの動力が3速ギヤ連動機構39cおよび第3クラッチCL3によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が2速レンジより高速側の3速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが[-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが3速レンジの最低速[V2]から3速レンジの最高速[V3]まで無段階に増速する。
【0034】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第4クラッチCL4が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が4速ギヤ連動機構39dおよび第4クラッチCL4によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が3速レンジより高速側の4速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが4速レンジの最低速[V3]から4速レンジの最高速[V4]まで無段階に増速する。
【0035】
〔前後進切換装置〕
前後進切換装置20は、図2に示されるように、段階分け伝動部19の出力軸38に連結された入力軸40、入力軸40に設けられた前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLR、前進クラッチCLFに前進ギヤ機構41fを介して連結され、後進クラッチCLRに後進ギヤ機構41rを介して連結された出力軸42を備えている。図2に示されるように、後進ギヤ機構41rには、後進クラッチCLRの出力回転部材の歯部に噛み合う逆転ギヤ46が備えられている。逆転ギヤ46は、後輪差動機構22の入力軸22aに相対回転可能に支持されている。
【0036】
前後進切換装置20においては、前進クラッチCLFが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が前進クラッチCLFおよび前進ギヤ機構41fによって前進動力に変換して出力軸42から出力される。後進クラッチCLRが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が後進クラッチCLRおよび後進ギヤ機構41rによって後進動力に変換して出力軸42から出力される。
出力軸42から出力される前進動力および後進動力が後輪ギヤ連動機構21に伝達され、後輪ギヤ連動機構21によって後輪差動機構22の入力軸22aに伝達される。
【0037】
〔前輪伝動装置〕
前輪伝動装置26は、図2に示されるように、後輪差動機構22の入力軸22aに前輪ギヤ連動機構25を介して連結された入力軸43、入力軸43に設けられた等速クラッチCLTおよび増速クラッチCLH、等速クラッチCLTに等速ギヤ機構44aを介して連結され、かつ増速クラッチCLHに増速ギヤ機構44bを介して連結された出力軸45を備えている。
【0038】
前輪伝動装置26においては、等速クラッチCLTが入り状態にされると、後輪差動機構22の入力軸22aから入力軸43に伝達される動力が等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構44aを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度と左右一対の後車輪7の平均周速度とがほぼ等しい状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる前後輪等速度の四輪駆動状態が現出される。増速クラッチCLHが入り状態にされると、後輪差動機構22の入力軸22aから入力軸43に伝達される動力が増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構44bを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度が左右一対の後車輪7の平均周速度よりも速い状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる、前輪増速の四輪駆動状態が現出される。
【0039】
〔遊星ギヤ装置〕
遊星ギヤ装置18Aは、図2に示されるように、ミッションケース3の前後方向に並ぶ二つの遊星ギヤ装置部50,60を備えている。遊星ギヤ装置18Aは、複合遊星ギヤ装置に構成されている。以下において、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50を第1遊星ギヤ装置部50と称し、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの後の遊星ギヤ装置部60を第2遊星ギヤ装置部60と称して説明する。
【0040】
〔第1遊星ギヤ装置部〕
第1遊星ギヤ装置部50は、図2に示されるように、第1太陽ギヤ51と、第1太陽ギヤ51と噛合う第1遊星ギヤ52と、第1遊星ギヤ52と噛合う第1内歯ギヤ53と、第1遊星ギヤ52を回転可能に支持し、かつ、第1太陽ギヤ51の周りを公転する第1遊星ギヤ52と共に第1太陽ギヤ51の軸芯を回転中心にして回転する第1キャリヤ54と、を備えている。
【0041】
〔第2遊星ギヤ装置部〕
第2遊星ギヤ装置部60は、図2に示されるように、第2太陽ギヤ61と、第2太陽ギヤ61と噛合う第2遊星ギヤ62と、第2遊星ギヤ62と噛合う第2内歯ギヤ63と、第2遊星ギヤ62を回転可能に支持し、かつ、第2太陽ギヤ61の周りを公転する第2太陽ギヤ61と共に第2太陽ギヤ61の軸芯を回転中心にして回転する第2キャリヤ64と、を備えている。
【0042】
第1遊星ギヤ装置部50に、第1遊星ギヤ52に噛み合う伝動ギヤ(図示せず)が備えられ、第1遊星ギヤ装置部50と第2遊星ギヤ装置部60とにわたり、伝動ギヤと第2遊星ギヤ62とを連動連結する連結部材(図示せず)が設けられている。第1遊星ギヤ装置部50の第1キャリヤ54と、第2遊星ギヤ装置部60の第2キャリヤ64とは、一体回転可能に連結されている。
【0043】
〔第2速ギヤ連動機構〕
図2に示されるように、第2速ギヤ連動機構39bには、第3出力軸37cに設けられた出力伝動ギヤ82と、出力伝動ギヤ82に噛み合った状態で第2クラッチCL2の入力部材に設けられた入力ギヤ82aと、が備えられている。
【0044】
〔第2ギヤ連動機構〕
第2に示されるように、第2ギヤ連動機構35には、出力伝動ギヤ82よりも後側において回転軸31に連結され、入力軸17から回転軸31に伝達された動力を回転軸31から取り出して油圧ポンプPに伝達するポンプ用伝動ギヤ86が備えられている。
【0045】
〔第1ギヤ連動機構〕
第1ギヤ連動機構34には、図2に示されるように、入力軸17に設けられた第1伝動ギヤ70と、第1内歯ギヤ53に連結された第2伝動ギヤ71と、第1伝動ギヤ70に噛み合う第1中継ギヤ72と、第2伝動ギヤ71に噛み合う第2中継ギヤ73と、が備えられている。第1中継ギヤ72と第2中継ギヤ73とは、カウンタ軸74によって連結された状態でカウンタ軸74に支持されている。
【0046】
〔後輪ギヤ連動機構〕
図2に示されるように、後輪ギヤ連動機構21には、前後進切換装置20の出力ギヤ20aに噛み合い、出力ギヤ20aの動力を後輪差動機構22の入力軸22aに伝達する伝動ギヤ91が備えられている。伝動ギヤ91は、入力軸22aに支持されている。
【0047】
〔前輪ギヤ連動機構〕
図2に示されるように、前輪ギヤ連動機構25には、後輪差動機構22の入力軸22aに設けられた第1伝動ギヤ77と、第1伝動ギヤ77に噛み合う第2伝動ギヤ78と、が備えられている。第2伝動ギヤ78および第1伝動ギヤ77は、第2伝動ギヤ78の支軸78aが第1伝動ギヤ77の支軸である入力軸22aよりも下側に位置する状態で備えられている。
【0048】
前輪ギヤ連動機構25においては、前後進切換装置20における出力ギヤ20aの動力が伝動ギヤ91および入力軸22aを介して第1伝動ギヤ77に伝達され、第1伝動ギヤ77の動力が第2伝動ギヤ78および支軸78aを介して前輪伝動装置26の入力軸43に伝達されることにより、前後進切換装置20の出力を前輪伝動装置26に伝達する。
【0049】
〔後輪差動機構〕
図2に示されるように、後輪差動機構22は、ミッションケース3のうちの後ケース部3cに収容されている。図4に示されるように、後輪差動機構22には、後輪差動機構22の前部に位置する入力軸22a、後輪差動機構22の後部に位置するデファレンシャルケース93が備えられている。入力軸22aにドライブピニオン94が設けられている。ドライブピニオン94に噛み合うリングギヤ95がデファレンシャルケース93の横側部に設けられている。デファレンシャルケース93の内部に、一対のデファレンシャルピニオン96、一対のデファレンシャルピニオン96に噛み合うと共に左の後車輪7に動力を伝達する左サイドギヤ97、一対のデファレンシャルピニオン96に噛み合うと共に右の後車輪7に動力を伝達する右サイドギヤ98が設けられている。デファレンシャルケース93の横側部に、デフロック装置99が設けられている。
【0050】
後輪差動機構22は、左右の後車輪7に前進動力を伝達するとき、リングギヤ95の下部9aが図5に矢印で示される回転方向Rに回転するように構成されている。
【0051】
ミッションケース3の内部空間にギヤミッション15Mおよび後輪差動機構22等の潤滑を図る潤滑油を貯留するように構成されている。潤滑油の貯留は、図5に示されるように、貯留される潤滑油の油面Sの位置と、後輪差動機構22におけるリングギヤ95の回転軸芯Xとリングギヤ95の下端の間の位置と、が同じになる状態で行うのが好適である。後輪差動機構22は、リングギヤ95の下部95aがミッションケース3の内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で設けられる。
【0052】
図5,6,7に示されるように、後輪差動機構22に、リングギヤ95の下部95aを覆うギヤカバー100が備えられている。回転するリングギヤ95の下部95aによって行われる潤滑油の撹拌がミッションケース内における潤滑油貯留域に広がることがギヤカバー100によって抑制される。
【0053】
〔ギヤカバー〕
ギヤカバー100には、図5,6,7,8に示されるように、リングギヤ95の下部95aにおける両側面のうちの歯を備える表側面95fに対向して表側面95fを覆う表カバー部101と、表カバー部101の下端部から下部95aの下方に延びて下部95aを下方から覆う下カバー部102と、を備えている。ミッションケース内における潤滑油貯留域のうちの表側面95fに対向する部位に向かってリングギヤ95による潤滑油撹拌が広がることが表カバー部101によって抑制され、ミッションケース内における潤滑油貯留域のうちのリングギヤ95の下方に位置する部位に向かってリングギヤ95による潤滑油撹拌が広がることが下カバー部102によって抑制される。
【0054】
図5,6,8に示されるように、ギヤカバー100のうちの下部95aの回転方向上手側に位置する端部に、下カバー部102から立ち上がる上手側縦カバー部104が設けられている。上手側縦カバー部104と、表カバー部101のうちの下部95aの回転方向上手側に位置する端部とは、接続されている。ギヤカバー100のうちの下部95aの回転方向下手側に位置する端部に、下カバー部102から立ち上がる下手側縦カバー部105が設けられている。下手側縦カバー部105と、表カバー部101のうちの下部95aの回転方向下側に位置する端部とは、接続されている。
【0055】
図5,7,8に示されるように、ギヤカバー100のうちの下部95aの回転方向下手側に位置する端部において、表カバー部101の下端部に、潤滑油の流出が可能な貫通孔106が備えられている。リングギヤ95の下部95aとギヤカバー100との間に位置する潤滑油が下部95aによって下部95aの回転方向下手側に向けて掻き操作され、掻き操作された潤滑油がギヤカバー100の内部から貫通孔106を通って外部に流出し、リングギヤ95による撹拌によって温度上昇する潤滑油がギヤカバー100と下部95aとの間に滞留することが貫通孔106によって防止される。
【0056】
ギヤカバー100には、図8に示されるように、ギヤカバー100のうちの下部95aの回転方向上手側に位置する端部に設けられた上手側固定部107と、ギヤカバー100のうちの下部95aの回転方向下手側に位置する端部に設けられた下手側固定部108と、が備えられている。ギヤカバー100は、図5,6,7に示されるように、上手側固定部107がミッションケース3に備えられた第1支持部109に連結ボルト110によって連結され、下手側固定部108がミッションケース3に備えられた第2支持部111に連結ボルト112によって連結されることにより、ミッションケース3に脱着可能に固定される。
【0057】
〔別実施形態〕
(1)図9は、別の実施形態を備えるギヤカバー100Aの縦断面図である。図9に示されるように、別の実施形態を備えたギヤカバー100Aには、表カバー部101および下カバー部102が備えられる他、下カバー部102における表カバー部側とは反対側の端部から立ち上がり、下部95aにおける両側面のうちの歯を備えない裏側面95rに対向して裏側面95rを覆う裏カバー部103が備えられている。ミッションケース内における潤滑油貯留域のうちの裏側面95rに対向する部位に向かってリングギヤ95による潤滑油撹拌が広がることが裏カバー部103によって抑制される。
【0058】
(2)上記した実施形態では、上手側縦カバー部104および下手側縦カバー部105を備える例を示したが、上手側縦カバー部104および下手側縦カバー部105を備えないものであってもよい。
【0059】
(3)上記した実施形態では、貫通孔106を備えた例を示したが、貫通孔106を備えないものであってもよい。
【0060】
(4)上記した実施形態では、後輪差動機構22にギヤカバー100を備える例を示したが、前輪差動機構がミッションケース3に収容され、前輪差動機構にギヤカバーが備えられるものであってもよい。
【0061】
(5)上記した実施形態では、ギヤミッション15Mの動力を入力する動力源としてエンジン1が備えられている例を示したが、動力源としては、エンジンに替えて電動モータを採用すること、あるいは、エンジンおよび電動モータの両方を採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、トラクタの他、コンバイン、多目的作業車など、各種の作業車に用いられる作業車用動力伝達装置に適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 動力源(エンジン)
3 ミッションケース
15M ギヤミッション
22 差動機構(後輪差動機構)
95 リングギヤ
95a 下部
95f 表側面
95r 裏側面
100 ギヤカバー
101 表カバー
102 下カバー部
103 裏カバー部
106 貫通孔
107 上手側固定部
108 下手側固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9