(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191074
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
B62J 17/10 20200101AFI20221220BHJP
B62J 50/30 20200101ALI20221220BHJP
B62H 1/02 20060101ALI20221220BHJP
B62J 40/00 20200101ALI20221220BHJP
【FI】
B62J17/10
B62J50/30
B62H1/02 A
B62J40/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099700
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沢崎 和也
(72)【発明者】
【氏名】宮下 将
(72)【発明者】
【氏名】倉持 亮
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝行
(72)【発明者】
【氏名】奥出 勇一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 忍
(72)【発明者】
【氏名】米永 隼也
(72)【発明者】
【氏名】谷田 典雅
(72)【発明者】
【氏名】新村 裕幸
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、後輪に対する空力特性を向上すること。
【解決手段】前輪2と後輪3の間に位置するメインスタンド52には、補強プレート71が設けられ、補強プレート71は、メインスタンド52が格納位置のときに、車体前方からの外気を、後輪3の前方で左右に振り分け可能に、下方に突出する整流部73を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(2)と後輪(3)とパワーユニット(12)を支持する車体(10)と、前記前輪(2)と前記後輪(3)の間に位置するメインスタンド(52)とを備え、前記メインスタンド(52)に補強プレート(71)が設けられた鞍乗り型車両において、
前記後輪(3)の周囲に、前記パワーユニット(12)の吸気系の一部を構成するエアクリーナユニット(33)を備え、
前記補強プレート(71)は、前記メインスタンド(52)が格納位置のときに、車体前方からの外気を、前記後輪(3)の前方で左右に振り分け可能に、下方に突出する整流部(73)を有することを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記メインスタンド(52)が格納位置のときに、前記整流部(73)の前面(73F)は、車体平面視で前方凸形状の壁面であることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記前方凸形状の壁面は、車幅中央の位置を前端として、前方凸に湾曲する湾曲面であることを特徴とする請求項2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記メインスタンド(52)が格納位置のときに、前記整流部(73)は、前記パワーユニット(12)よりも下方に位置すると共に、車体前面視で、前記後輪(3)の左右幅よりも狭い範囲に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記エアクリーナユニット(33)は、前記パワーユニット(12)の下面よりも上方に配置されることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記メインスタンド(52)が起立位置のときに、前記整流部(73)の上面は、上方凸形状の面であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記補強プレート(71)は、前記メインスタンド(52)が格納位置のときに、前記整流部(73)よりも車体前方かつ車体下方に突出する整流部ガード部材(75)を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記整流部ガード部材(75)は、車体前面視で、前記整流部(73)および前記後輪(3)よりも車幅方向外側に位置することを特徴とする請求項7に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗り型車両には、前輪と後輪との間にメインスタンドが設けられることがあり、例えばスクータ型車両の多くにはメインスタンドが採用されている。この種の車両には、メインスタンドを補強プレートで補強したものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鞍乗り型車両は、空力特性を向上することが望まれる。
しかし、空力特性向上のための部品を別途設けると、部品点数が増大するだけでなく、部品の取付スペースを確保する必要や、取付構造の複雑化を招いてしまう。
ところで、発明者等が検討したところ、後輪の側方にエアクリーナユニットが配置された構成の場合、後輪に対する空力特性を向上させたときに、エアクリーナユニットに対し、後方から流入する外気が増加することが判った。後方から流入する外気が増加することによって、エアクリーナユニットの吸気量の増加を期待できる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、後輪に対する空力特性を向上することを目的とする。また、本発明の必須の課題ではないが、上記空力特性の向上によって、エアクリーナユニットの吸気量を増大し易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前輪と後輪とパワーユニットを支持する車体と、前記前輪と前記後輪の間に位置するメインスタンドとを備え、前記メインスタンドに補強プレートが設けられた鞍乗り型車両において、前記後輪の周囲に、前記パワーユニットの吸気系の一部を構成するエアクリーナユニットを備え、前記補強プレートは、前記メインスタンドが格納位置のときに、車体前方からの外気を、前記後輪の前方で左右に振り分け可能に、下方に突出する整流部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
メインスタンドの補強プレートを利用して、車体前方からの外気を、後輪の前方で左右に振り分ける整流部を設けるので、簡易な構成で、後輪に対する空力特性を向上することができる。したがって、燃費向上やCO2削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【
図2】メインスタンドを周辺構成と共に車体左側から見た図である。
【
図3】メインスタンドを周辺構成と共に車体前方から見た図である。
【
図6】格納位置のメインスタンドの断面を周辺構成と共に車体左側から見た図である。
【
図7】走行時におけるエアクリーナユニット周囲の外気の流れのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1の左側面図である。
自動二輪車1は、車体フレーム10と、前輪2を操舵自在に支持するフロントフォーク11と、車体フレーム10の後部に支持されるユニットスイング式のパワーユニット12と、後輪3と、乗員が跨るようにして着座するシート13とを備えるスクータ型の鞍乗り型車両である。自動二輪車1は、車体フレーム10等の車体を覆う車体カバー14を備える。
【0011】
車体フレーム10は、車体フレーム10の前端部に設けられるヘッドパイプ15と、ヘッドパイプ15から下方に延びるダウンフレーム16と、ダウンフレーム16から後方に延びるロアフレーム17と、ロアフレーム17から後上方に延びるシートフレーム18とを備える。車体フレーム10は、本発明の「前輪と後輪3とパワーユニット12を支持する車体」を構成する。
【0012】
フロントフォーク11は、ヘッドパイプ15に支持され、ヘッドパイプ15を中心に左右に操舵自在に設けられる。前輪2は、フロントフォーク11の下端部に支持される。操舵用のハンドル20は、フロントフォーク11の上端部に取り付けられる。
【0013】
パワーユニット12は、シートフレーム18に上下に揺動自在に支持され、シートフレーム18下方を車両前後方向に延びる。
パワーユニット12は、内燃機関であるエンジン31と、エンジン31の駆動力を後輪軸3Aに伝達する伝動装置32とを備える。エンジン31は、空冷式の単気筒4サイクルエンジンである。伝動装置32は、エンジン31の後部側方(本構成では左側方)から後輪3の側方(左側方)に渡って延出する伝動ケース内に、ベルト式無段変速機構からなる伝動機構を収容した構成である。
なお、エンジン31は、単気筒4サイクルエンジンでなくてもよいし、伝動機構は、ベルト式無段変速機構でなくてもよい。エンジン31および伝動機構には広く流通する構成を適用可能である。
【0014】
伝動装置32の上方、かつ後輪3の側方(本実施形態では左側方)には、パワーユニット12の吸気系の一部を構成するエアクリーナユニット33が配置される。エアクリーナユニット33は、伝動装置32よりも上方に配置されるので、後輪軸3Aよりも上方に位置する。
図1に示すように、エアクリーナユニット33の下面33Mと、伝動装置32の上面32Mとの間には隙間Sがあり、この隙間Sは後輪3の側方(左側方)で後方に開放する。この隙間Sは、エアクリーナユニット33の前部に設けられた吸気口33Aの近傍を通っている。
【0015】
エアクリーナユニット33は、前部に設けられた吸気口33Aから外気を吸い込み、吸い込んだ外気をエアフィルターで清浄化し、エンジン31に供給する。吸気口33Aは、エアクリーナユニット33の前部における車幅方向外側の面に設けられる。車幅方向は、自動二輪車1の左右方向と一致する。
なお、吸気口33Aの位置は適宜に変更してもよく、例えば、エアクリーナユニット33の前部の下面、又は、エアクリーナユニット33の前部の車幅方向内側の面に設けるようにしてもよいし、エアクリーナユニット33の後部等に設けるようにしてもよい。
【0016】
シート13の前下方、且つ、ヘッドパイプ15の後方には、シート13に着座した乗員が足を載せるステップフロア24が設けられる。車体カバー14の前部は、車体フレーム10の前部を前方から覆うフロントカバー40と、フロントカバー40の上方でハンドル20を前方から覆うアッパーカバー41と、車体フレーム10の前部を後方から覆うインナーカバー42と、前輪2を上方から覆うフロントフェンダー43とを備える。
フロントカバー40は、前輪2およびフロントフェンダー43の上方に位置する。このフロントカバー40の下部に、ヘッドライト等の灯火器44が設けられる。フロントフェンダー43は、フロントフォーク11に取り付けられる。
【0017】
車体カバー14の後部は、シートフレーム18の左右を覆うリアカバー46と、後輪3を後上方から覆うリアフェンダー47とを備える。リアカバー46と後輪3の間には、後輪3を前上方から覆うリアインナーフェンダー48が配置される。リアインナーフェンダー48は、車体側面視でエアクリーナユニット33と重なる位置に設けられ、パワーユニット12と一体的に上下に揺動する。
【0018】
前輪2と後輪3との間の前後中央の下部には、サイドスタンド51が設けられる。サイドスタンド51と後輪3との間には、メインスタンド52が設けられる。
サイドスタンド51は、左右一方側(本構成では左側)にオフセットした位置に設けられ、起立位置と格納位置とに移動可能な片足タイプのスタンドに形成されている。このサイドスタンド51は、ステップフロア24の左下方に位置するようにロアフレーム17に支持される。サイドスタンド51を起立位置にすることによって、車体を左右一方側(左側)に傾斜させた状態でサイドスタンド51が路面に起立し、車体を自立状態(駐車状態)にすることができる。なお、
図1には、サイドスタンド51が格納位置の場合を示している。
【0019】
図2は、メインスタンド52を周辺構成と共に車体左側から見た図である。
図3は、メインスタンド52を周辺構成と共に車体前方から見た図である。
メインスタンド52は、起立位置と格納位置とに移動可能な両足タイプのスタンドに形成され、パワーユニット12の下方に位置する。
図2および
図3では、起立位置のメインスタンド52を、符号52(A)で示し、格納位置のメインスタンド52を、符号52(B)で示している。
メインスタンド52を符号52(A)で示す起立位置にすることによって、車体を左右に傾斜させずに駐車可能になる。メインスタンド52は、センタースタンド、および両足スタンドと称される場合もある。
【0020】
図2中、符号60は、メインスタンド52を車体側に支持する支持軸である。支持軸60は、車幅方向に延びる軸であり、メインスタンド52は、支持軸60を基準にして起立位置と格納位置とに回動する。
支持軸60は、エンジン31のクランクケースの底面31Xの後下方に位置する。メインスタンド52が起立位置に向けて回動した場合、メインスタンド52の一部(後述する補強プレート71の一部)がクランクケースの底面31Xに当接することによって、メインスタンド52が起立位置で停止する。
【0021】
図2に示すように、メインスタンド52は、起立位置および格納位置のいずれにおいても、後輪3中心に位置する後輪軸3Aの高さX1、および、伝動装置32よりも低い位置にあり、かつ、後輪軸3Aの前後位置Y1よりも前方に位置する。メインスタンド52は、エンジン31のクランクケースの後下方に位置する支持軸60を基準に前後に回動するので、格納位置では、支持軸60から後方に延出する。このため、格納位置において、メインスタンド52の前部は、クランクケースと後輪3との間に延在し、メインスタンド52の後部は、車体側面視で後輪3の前部左右に重なる。なお、
図2では、伝動装置32およびエアクリーナユニット33を二点鎖線で示している。
図3に示すように、メインスタンド52は、車体前面視で、車幅中心C1を基準にして左右対称の形状を有しており、メインスタンド52の左右中央部分が、後輪3の前面に重なる。
【0022】
図4は、メインスタンド52の斜視図である。
図5は、メインスタンド52を後側から見た図である。また、
図6は、格納位置のメインスタンド52の断面を周辺構成と共に車体左側から見た図である。
図4および
図5に示すように、メインスタンド52は、支持軸60に挿通される円筒状の挿通部材53と、挿通部材53から車幅方向に間隔を空けて下方に延出する左右の足部54と、挿通部材53から離れた位置で左右の足部54を架橋する円筒状の架橋部材55とを備える。これら部材53~55は、例えば金属製の円筒パイプを用いて製作され、溶接等で互いに接合される。なお、架橋部材55は、車体背面視で上方凸に湾曲している。架橋部材55の形状は特に限定されず、例えば、架橋部材55を、車体背面視で車体幅方向に直線状としてもよい。
【0023】
一方の足部54には、車幅方向外側(左側)に延出するレバー部材56が接合される。レバー部材56は、メインスタンド52が格納状態のときに、
図3に示すように、車体前面視で車幅方向外側にて上方に向けて湾曲する形状に形成されている。このレバー部材56の車幅方向外側の端部には、ユーザー(乗員など)が足で踏み込み操作可能なステップ部56Aが設けられる。ユーザーがステップ部56Aを操作することによってメインスタンド52を起立位置にすることができる。レバー部材56は、例えば金属製の円筒パイプで形成され、ステップ部56Aは、例えば金属製の板材で形成される。
【0024】
メインスタンド52は、当該メインスタンド52を補強する補強プレート71を備えている。補強プレート71は、左右の足部54間を架橋する平板状の補強プレート本体72と、補強プレート本体72の幅方向中央に設けられた整流部73と、補強プレート本体72の左右両端に設けられたガード部材75(整流部ガード部材)とを備えている。本実施形態では、補強プレート71を、一枚の金属製の板材を折り曲げ成形することによって製作している。但し、補強プレート71を複数枚の板材等から製作してもよい。
【0025】
補強プレート本体72は、挿通部材53の近傍にて足部54間を架橋する板状の第1プレート部72Aと、第1プレート部72Aの下縁(挿通部材53の反対側の縁部)につながる板状の第2プレート部72Bとを備えている。
第1プレート部72Aおよび第2プレート部72Bは、左右の足部54の前面に溶接等で接合される。このため、第1プレート部72Aおよび第2プレート部72Bは、メインスタンド52が起立位置の場合に、足部54および架橋部材55の前方に位置し、メインスタンド52が格納位置の場合に、足部54および架橋部材55の下方に位置する。
【0026】
第1プレート部72Aは、メインスタンド52が起立位置の場合に、車幅方向中央にて前下がりに傾斜する傾斜壁となり(
図4等を参照)、メインスタンド52が格納位置の場合に後下がりに傾斜する傾斜壁となる(
図2等を参照)。自動二輪車1の走行時に、第1プレート部72Aが後下がりに傾斜する傾斜壁となるので、車体前方からの外気からなる走行風を、後輪3前方にて後下方に向けてスムーズに案内できる。
【0027】
第1プレート部72Aは、メインスタンド52が起立位置の場合に、エンジン31のクランクケースの底面31X(
図1および
図2)に当接することによって、メインスタンド52を起立位置で停止させるストッパーとして機能する。
図3に示すように、第1プレート部72Aは、車体前面視で、後輪3の前面と重なる位置にあり、本実施形態では、第1プレート部72Aの幅は後輪3の幅と略同じに製作されている。
【0028】
図4に示すように、第2プレート部72Bは、第1プレート部72Aの下縁から屈曲する板状部材であり、第1プレート部72Aよりも車幅方向外側に張り出す。第2プレート部72Bは、メインスタンド52が起立位置の場合に、後輪3の前方で垂直の壁となり、メインスタンド52が格納位置の場合に、後輪3の前方で水平の壁となる。自動二輪車1の走行時には、第2プレート部72Bが水平の壁となるので、車体前方からの走行風の流れを妨げない。
図5に示すように、第2プレート部72Bは、メインスタンド52の前後方向において架橋部材55に重なる位置に設けられる。従って、メインスタンド52が起立位置のときは架橋部材55が車体前方から第2プレート部72Bで覆われ、メインスタンド52が格納位置のときは架橋部材55が車体下方から第2プレート部72Bで覆われる。
【0029】
図6に示すように、整流部73は、メインスタンド52が格納位置のときに、後輪3の前方で下方に突出する壁となる。この整流部73は、
図3に示すように、車体前面視で、車幅方向中央、かつ、メインスタンド52の左右の足部54の間に位置する。また、整流部73は、
図2に示すように、車体側面視で、エンジン31のクランクケースの底面31Xよりも下方に位置する。したがって、自動二輪車1の走行時に、パワーユニット12の下方を後輪3に向かって流れる走行風を、整流部73の前面73Fによって後輪3の左右に向けて案内できる。
【0030】
詳述すると、整流部73は、
図4に示すように、メインスタンド52が起立位置の場合に、第2プレート部72Bの下縁につながる板状部分を上方凸形状に湾曲することによって製作されている。
図5に示すように、整流部73の最下面は、上方凸形状の円弧α(U字状の曲線と言うこともできる)に沿った面に形成され、整流部73と第2プレート部72Bの境界βも、上記円弧αに沿った形状とされる。
【0031】
本構成では、
図5に示す車体背面視において、整流部73と第2プレート部72Bの境界βは、架橋部材55の下面と重なっており、整流部73が第2プレート部72Bよりも下方に張り出す。ここで、整流部73が、メインスタンド52の側面視で屈曲した形状であり、かつ、メインスタンド52の幅方向でも屈曲した形状(湾曲した形状とも言う)であるので、整流部73を設けない場合と比べ、補強プレート71の曲げ剛性を高めることができる。したがって、補強プレート71によるメインスタンド52の補強効果を効果的に高めることができる。
【0032】
また、メインスタンド52が起立位置の場合、整流部73の上面は、上方凸形状の面となる。このため、上方からの雨水等が整流部73に溜まり難くなる。
また、メインスタンド52が格納位置の場合、整流部73の前面73F(
図6参照)は、車体平面視で前方凸形状の壁面となる。これにより、車体前方からの走行風を、後輪3の前方で左右にスムーズに振り分けることができる。
図3に示すように、この整流部73の幅は、後輪3の幅よりも小さいので、整流部73による空気抵抗の増大を抑制しつつ、後輪3の前面に直接当たる走行風を低減することが可能である。
【0033】
また、整流部73の前面73Fは、車体平面視で、車幅方向中央が最も前方に位置し、車幅方向外側に行くに従って徐々に後方となる前方凸のU字状の湾曲面となる。これにより、車体前方からの走行風を、後輪3の左右に均等かつスムーズに振り分け易くなる。
なお、整流部73の幅や下方への突出量等は、適宜に変更してもよい。また、整流部73の前面73Fを、前方凸の円弧に沿った湾曲面(=前方凸のU字状の湾曲面)に形成する場合を説明したが、その円弧に沿った多角形形状の面に形成してもよい。
【0034】
ここで、メインスタンド52よりも上方、かつ、後輪3の前方には、パワーユニット12、車体カバー14およびリアインナーフェンダー48などが位置する。このため、メインスタンド52よりも上方では、車体前方からの走行風が後輪3の前面に直接当たらないか、直接当たる量は僅かである。
従って、本構成では、メインスタンド52に、後輪3に向かう外気を整流する整流部73を設けることで、後輪3に向かう外気を十分に整流することができる。この結果、後輪3に対する適切な空力特性を得やすくなる。
【0035】
例えば、整流部73によって、後輪3の前面に直接当たる走行風によってできる乱流を抑制でき、空気抵抗の低減に有利となり、燃費向上やCO2削減に寄与する。
このように、パワーユニット12の下方を後輪3に向かって流れる外気を整流するので、この外気が、メインスタンド52よりも上方の空間の外気の流れに影響する事態を抑制する効果も得られる。一例を挙げると、パワーユニット12の後上方には、エアクリーナユニット33が位置するので、整流部73によって、エアクリーナユニット33周囲の外気の流れに、パワーユニット12下方の走行風が影響する事態を抑制し易くなる。
【0036】
発明者等がシミュレーション等によって検討したところ、整流部73を設けることによって、エアクリーナユニット33に対し、後方からの外気の流れを増加させる効果が得られることが判った。
図7は、走行時におけるエアクリーナユニット33周囲の外気の流れのシミュレーション結果を示す図である。
図7中の符号Aは、整流部73を設けない場合の外気の流れを、エアクリーナユニット33の斜め下方から示した図である。また、
図7中の符号Bは、整流部73を設けた場合の外気の流れを、エアクリーナユニット33の斜め下方から示した図である。
【0037】
図7の符号AおよびBに示すように、エアクリーナユニット33の吸気口33Aには、車両前方からの外気W1と、エアクリーナユニット33後方からの外気W2とが流入する。外気W1は、エアクリーナユニット33前方に流入した走行風の一部である。また、外気W2は、エアクリーナユニット33の下面33Mと、伝動装置32の上面32Mとの間に存在する隙間Sを通って吸気口33Aに流入した外気を含んでいる。
【0038】
図7中の領域Zで示すように、整流部73を設けない場合に比べて、整流部73を設けた場合の方が、外気W2が増加しており、つまり、エアクリーナユニット33に対し、後方からの吸気量が増加した。したがって、整流部73を設けた場合の方が吸気効率の向上に有利となる。
【0039】
なお、
図7中の符号W3は、メインスタンド52よりも上方かつ車体側方を、外気W1,W2よりも高速で後方へ流れる走行風である。また、符号W4Aは、パワーユニット12の下方を外気W1,W2よりも高速で後方へ流れる走行風であり、符号W4Bは、整流部73によって、後輪3の左右を外気W1,W2よりも高速で後方へ流れる走行風である。
外気W3,W4A及びW4Bについては、実線で示す外気W1,W2と識別しやすくするため、一点鎖線で示している。また、外気W1,W2,W3,W4A及びW4B以外の外気の流れ(主に後輪3の後部周囲の外気の流れ」)については、破線で示している。破線で示す外気は、外気W3,W4A及びW4Bよりも低速の流れである。なお、外気W2の流れは
図6にも示している。
【0040】
次に、補強プレート71に設けられた左右のガード部材75について説明する。
図4および
図5に示すように、左右のガード部材75は、補強プレート本体72の第2プレート部72Bの左右両端に位置する部分を折り曲げることによって製作される。左右のガード部材75は、車幅中心C1を通る面を基準にして対称形状である。
【0041】
各ガード部材75は、
図6に示すように、メインスタンド52が格納位置のときに、車体側面視で、整流部73よりも車体前方かつ車体下方に突出する形状に形成される。これにより、自動二輪車1の走行時に、路面の突起物等が整流部73に接触する前に、ガード部材75に突起物等が接触する。したがって、整流部73の変形および損傷を回避できる。
【0042】
図6に示すように。各ガード部材75は、メインスタンド52が格納位置のときに前面となる面75Fが、整流部73よりも前方にて後下がりに傾斜する傾斜面に形成される。また、各ガード部材75は、メインスタンド52が格納位置のときに背面となる面75Rが、整流部73よりも後方に離れた面に形成される。
このように、各ガード部材75が整流部73よりも前後方向に大型に形成されるので、路面の突起物等が前後方向から、整流部73に接触する事態を効果的に防止できる。
【0043】
また、前面となる面75Fが後下がりに傾斜するので、自動二輪車1の走行時に、上記面75Fに接触した接触部材を自動二輪車1が容易に乗り越え易くなる。
このようにして、各ガード部材75は、整流部73をガードする整流部ガード部材として機能する。また、ガード部材75は、スキッドプレート、アンダーガード、およびアンダープロテクターということも可能である。
【0044】
図3に示したように、各ガード部材75は、車体前面視で、整流部73および後輪3よりも車幅方向外側に位置する。これにより、各ガード部材75が整流部73による整流効果を阻害せず、また、車体前方から後輪3に向かって流れる走行風の流れに影響する事態も抑制できる。
また、各ガード部材75は、
図4に示すように、メインスタンド52の基端部から先端部(起立位置での下端部に相当)に向かって、車幅方向外側に傾斜する傾斜形状に形成されている。このため、メインスタンド52が格納位置のときは、各ガード部材75が、車体後方に向けて車幅方向外側に傾斜する傾斜板となる。このため、路面の突起物が、各ガード部材75のいずれかに接触し易くなると共に、車体前方等から各ガード部材75に向かって飛来する飛来物等を車幅方向外側に排除し易くなる。
【0045】
なお、各ガード部材75は小型であり、かつ、車体前後方向に対する左右方向の傾斜角度は鋭角(45°未満)である。したがって、各ガード部材75によって空気抵抗が増大する事態は十分に回避される。十分なガード効果を有する範囲で、各ガード部材75の形状、サイズ、位置および数は適宜に変更してもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の自動二輪車1は、メインスタンド52に補強プレート71が設けられると共に、後輪3の側方にエアクリーナユニット33を備える。そして、補強プレート71は、メインスタンド52が格納位置のときに、車体前方からの外気を、後輪3の前方で左右に振り分け可能に、下方に突出する整流部73を有している。この構成によれば、メインスタンド52の補強プレート71を利用して、車体前方からの外気を、後輪3の前方で左右に振り分ける整流部73を設けるので、空力特性向上のために、部品点数が増大したり、部品の取付スペースを確保する必要や取付構造の複雑化を招いたりする事態を回避できる。したがって、簡易な構成で、後輪3に対する空力特性を向上することができ、燃費向上やCO2削減に寄与する。
【0047】
また、メインスタンド52の補強プレート71を利用して後輪3に対する空力性能を向上するので、
図7に示したように、エアクリーナユニット33後方からの外気W2を増加させる効果を期待できる。したがって、エアクリーナユニット33の吸気量を増大する効果を期待できる。
なお、エアクリーナユニット33を
図1に示す位置に配置する場合を説明したが、エアクリーナユニット33の位置を変更してもよい。例えば、補強プレート71を利用して後輪3に対する空力性能を向上することによって、従来と比べ、後輪3の側方を含む後輪3周囲の外気の流れが変化する。この後輪3周囲の外気の流れを利用して、エアクリーナユニット33の吸気量を増大する効果が得られる範囲で、エアクリーナユニット33の位置を変更してもよい。したがって、エアクリーナユニット33を、後輪3の側方以外も含む後輪3周囲に変更してもよく、例えば、後輪3の左右、前方、又は上方に配置してもよい。
【0048】
補強プレート71を利用して後輪3に対する空力特性を得ることだけを目的とする場合には、エアクリーナユニット33の位置は任意でよい。
また、本実施形態では、メインスタンド52が格納位置のときに、整流部73の前面73Fは、車体平面視で前方凸形状の壁面であるので、車体前方から後輪3に向かう外気を、後輪3の左右にスムーズに振り分けることができる。この場合、整流部73を車幅方向に直線状に延びる平面形状にする場合と比べて、補強プレート71の曲げ剛性を高め易くなる、と言う効果も得られる。
【0049】
しかも、整流部73の前面73Fは、車幅中央の位置を前端として、前方凸に湾曲する湾曲面に形成されるので、車体前方から後輪3に向かう外気を、後輪3の左右に均等に振り分け易くなる。整流部73を湾曲形状にするので、補強プレート71の曲げ剛性を効果的に高めることもでき、補強プレート71に必要な剛性や、メインスタンド52に必要な剛性を容易に得ることができる。
【0050】
また、メインスタンド52が起立位置のときに、整流部73の上面(上記前面73Fに相当する面)が上方凸形状の面となるので、上方からの雨水等が整流部73に溜まり難くなる。この湾曲形状は、
図5に示したように、メインスタンド52の架橋部材55に沿った形状であるので、補強プレート71によって架橋部材55を覆い易くなるしたがって、架橋部材55の外観への露出を抑えたり、走行時に車両下方からの飛散物が架橋部材55等に接触する事態を避けたりすることが可能になる。
【0051】
また、メインスタンド52が格納位置のときに、
図1~
図3に示したように、整流部73は、パワーユニット12よりも下方に位置すると共に、車体前面視で、後輪3の左右幅よりも狭い範囲に位置する。この構成によれば、整流部73による空気抵抗の増大を抑えつつ、パワーユニット12の下方を後輪3に向かって流れる外気を、後輪3の左右に案内できる。
【0052】
さらに、エアクリーナユニット33は、パワーユニット12の下面よりも上方に配置される。この場合、パワーユニット12よりも下方の走行風は、整流部73によって後輪3に直接当たらないので、その走行風が、後輪3に直接当たることでエアクリーナユニット33の吸気に影響を与える事態を抑制できる。
【0053】
また、補強プレート71は、メインスタンド52が格納位置のときに、整流部73よりも車体前方かつ車体下方に突出する整流部ガード部材として機能するガード部材75を有する。このガード部材75によって、路面の突起物等が整流部73に接触する事態を抑制でき、整流部73の変形や損傷を回避し易くなる。
【0054】
さらに、ガード部材75は、
図3に示したように、車体前面視で、整流部73および後輪3よりも車幅方向外側に位置する。この構成によれば、ガード部材75が、整流部73の整流を阻害せず、かつ、後輪3に直接当たる走行風の流れに影響する事態を抑制し易くなる。
【0055】
なお、上述の実施形態は本発明の一態様を示すものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、整流部73の形状を変形してもよい。
図8は、整流部73の変形例を示す図である。
図8では、メインスタンド52が格納位置のときに、整流部73を、車体側面視で、車体前方側が開口するU字形状になるように形成した点が異なる。この構成によれば、
図6に示した整流部73に比べて、整流部73の曲げ剛性を高めることができ、補強プレート71およびメインスタンド52の剛性を高めやすくなる。
【0056】
また、本発明を、
図1に示す自動二輪車1に適用する場合を説明したが、これに限定されず、本発明を、スクータ型以外の自動二輪車、三輪タイプや四輪タイプも含む鞍乗り型車両に適用してもよい。
【0057】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0058】
(構成1)前輪と後輪とパワーユニットを支持する車体と、前記前輪と前記後輪の間に位置するメインスタンドとを備え、前記メインスタンドに補強プレートが設けられた鞍乗り型車両において、前記後輪の周囲に、前記パワーユニットの吸気系の一部を構成するエアクリーナユニットを備え、前記補強プレートは、前記メインスタンドが格納位置のときに、車体前方からの外気を、前記後輪の前方で左右に振り分け可能に、下方に突出する整流部を有することを特徴とする鞍乗り型車両。
この構成によれば、簡易な構成で、後輪に対する空力特性を向上することができる。したがって、燃費向上やCO2削減に寄与する。また、メインスタンドよりも上方に、車体前方から後輪に接触した外気が影響する事態を抑制できるので、メインスタンドよりも上方にエアクリーナユニットを配置したい場合、エアクリーナユニット後方からの外気を増加させる効果を期待できる。したがって、エアクリーナユニットの吸気量を増大し易くなる。
【0059】
(構成2)前記メインスタンドが格納位置のときに、前記整流部の前面は、車体平面視で前方凸形状の壁面であることを特徴とする構成1に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、車体前方から後輪に向かう外気を、後輪の左右にスムーズに振り分けることができると共に、補強プレートの曲げ剛性を高め易くなる。
【0060】
(構成3)前記前方凸形状の壁面は、車幅中央の位置を前端として、前方凸に湾曲する湾曲面であることを特徴とする構成2に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、車体前方から後輪に向かう外気を、後輪の左右に均等かつスムーズに振り分け易くなると共に、補強プレートの曲げ剛性をより高め易くなる。
【0061】
(構成4)前記メインスタンドが格納位置のときに、前記整流部は、前記パワーユニットよりも下方に位置すると共に、車体前面視で、前記後輪の左右幅よりも狭い範囲に位置することを特徴とする構成1から3のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、整流部による空気抵抗の増大を抑えつつ、パワーユニットの下方を後輪に向かって流れる外気を、後輪の左右に案内できる。
【0062】
(構成5)前記エアクリーナユニットは、前記パワーユニットの下面よりも上方に配置されることを特徴とする構成4に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、パワーユニットよりも下方の走行風は、整流部によって後輪に直接当たらないので、その走行風が、後輪に直接当たることでエアクリーナユニットの吸気に影響を与える事態を抑制できる。これにより、エアクリーナユニット後方からの外気を増加させる効果を期待でき、エアクリーナユニットの吸気量を増大し易くなる。
【0063】
(構成6)前記メインスタンドが起立位置のときに、前記整流部の上面は、上方凸形状の面であることを特徴とする構成1から5のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、上方からの雨水等が整流部に溜まり難くなる。
【0064】
(構成7)前記補強プレートは、前記メインスタンドが格納位置のときに、前記整流部よりも車体前方かつ車体下方に突出する整流部ガード部材を有することを特徴とする構成1から6のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、路面の突起物等が整流部に接触する事態を抑制できる。
【0065】
(構成8)前記整流部ガード部材は、車体前面視で、前記整流部および前記後輪よりも車幅方向外側に位置することを特徴とする構成7に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、整流部ガード部材が、整流部の整流を阻害せず、かつ、後輪に直接当たる走行風の流れに影響する事態を抑制し易くなる。
【符号の説明】
【0066】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 前輪
3 後輪
3A 後輪軸
10 車体フレーム(車体)
12 パワーユニット
33 エアクリーナユニット
33A 吸気口
51 サイドスタンド
52 メインスタンド
53 挿通部材
54 足部
55 架橋部材
71 補強プレート
72 補強プレート本体
72A 第1プレート部
72B 第2プレート部
73 整流部
73F 整流部の前面
75 ガード部材(清流部ガード部材)