(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191083
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】角度検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20221220BHJP
G01D 5/244 20060101ALI20221220BHJP
B25J 19/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
G01D5/244 B
B25J19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099722
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【テーマコード(参考)】
2F077
3C707
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077AA27
2F077AA46
2F077CC07
2F077NN02
2F077NN05
2F077NN17
2F077NN24
2F077QQ03
2F077QQ15
2F077TT42
2F077TT66
3C707BS15
3C707CY36
3C707KS21
3C707KV01
(57)【要約】
【課題】設計の自由度が高く、小型・軽量化が可能で、製作コストの低減を図ることができる、複列磁気エンコーダの原理による高分解能な角度検出装置を提供する。
【解決手段】角度検出装置4は、N極とS極が交互に並ぶ磁気トラックを有するエンコーダ部6と、磁気トラックに隙間を介して対向する磁気センサ部7とを備える。磁気トラックは、基準磁極幅Pおよび基準磁極対数nとしたとき、シート状のエンコーダ用磁性体1の長手方向に沿って、磁極幅がPである主トラック2と、磁極幅がPn/(n-1)である副トラック3とが隣接して互いに平行に設けられる。エンコーダ部6は、シート状のエンコーダ用磁性体1が基準長さL=2Pn以下の長さで回転体5の外周部または内周部に巻いて固定される。磁気センサ部7の演算部9で演算された絶対角度に、エンコーダ部6の直径に応じた補正係数を掛けて回転体の絶対角度を補正する補正計算部10を備えた。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極とS極が交互に並ぶ磁気トラックを有するエンコーダ部と、前記磁気トラックに隙間を介して対向する磁気センサ部とを備える角度検出装置であって、
前記磁気トラックは、基準磁極幅Pおよび基準磁極対数nとしたとき、シート状のエンコーダ用磁性体の長手方向に沿って、磁極幅がPである主トラックと、磁極幅がPn/(n-1)である副トラックとが隣接して互いに平行に設けられ、前記エンコーダ部は、前記シート状のエンコーダ用磁性体が基準長さL=2Pn以下の長さで回転体の外周部または内周部に巻いて固定され、
前記磁気センサ部は、前記主トラックおよび前記副トラックにそれぞれ対向して磁気信号を出力する2つの磁気検出素子と、これら磁気検出素子の磁気信号に基づいて前記回転体の絶対角度を演算する演算部とを備え、
演算された前記絶対角度に、前記エンコーダ部の直径に応じた補正係数を掛けて前記回転体の絶対角度を補正する補正計算部を備えた角度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の角度検出装置において、前記基準長さLの前記エンコーダ用磁性体が任意の長さで切断され、前記回転体の外周部または内周部に巻いた前記エンコーダ部の直径がSであるとき、前記補正計算部は、前記基準長さLを、直径Sに円周率πを掛けた値で除した値L/(πS)を前記補正係数とする角度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の角度検出装置において、前記主トラックおよび前記副トラックの長さL1が前記基準長さL以下である前記エンコーダ用磁性体が、前記長さL1より長い周長の前記回転体の外周部または内周部に巻いて固定された前記エンコーダ部を備え、
前記磁気トラックの両端部における、前記磁気センサ部の出力に対応する限界角度を記憶する限界角度記憶部と、前記磁気センサ部から出力される絶対角度が前記限界角度の範囲内にあるか否かを判定して限界角度を逸脱したか否かを示す識別信号を出力する検出範囲判定部と、を備える角度検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の角度検出装置において、前記回転体は、ロボット関節の回転部品である角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸等の回転角を検出する角度検出装置に関し、特に、ロボットの関節等を目標位置に位置決めするために360°以下の範囲の角度を高い分解能で検出する角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角を検出する磁気エンコーダ装置が種々提案されている。
特許文献1に開示されている磁気エンコーダ装置は、円筒状のベース部を焼結金属で形成し、このベース部の外周面、内周面および両端面を押圧するサイジングを施す。さらにベース部を金型内にインサートしてキャビティに熱可塑性樹脂および磁性粉を主成分とする樹脂材料を射出成形する。その後、成形部に円周方向に配列した複数の磁極を有し、磁極対数が互いに異なる2列の磁気エンコーダトラックを多極着磁により形成する。
【0003】
このように製作した磁気エンコーダを回転体に固定し、磁気エンコーダトラックに近接、対向して磁気センサを設ける。磁気センサは、2列の磁気エンコーダトラックのそれぞれに対向する2つの検出素子および演算部を備え、2つの検出素子で検出した磁気信号の位相差に基づき、回転体の絶対角度を高分解能で算出し、センサ出力として出力する。
【0004】
特許文献2に開示されている磁気式エンコーダは、N極とS極が交互に等ピッチで着磁されたテープ状磁気スケール部材を外周面に貼り付けた磁気記録回転体と、この磁気記録回転体に近接して配置した磁気情報検出手段から成る。前記磁気情報検出手段は、磁気記録回転体の回転方向に沿って間隔を介して配置された2つの磁気情報検出素子を備える。磁気スケール部材に形成された磁気情報を2つの磁気情報検出素子によって検出し、その検出出力からA相、B相、Z相の信号を生成する。これにより、高精度で且つ信頼性が高く、汎用性の高い磁気式エンコーダを比較的安価に実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-75466号公報
【特許文献2】特開2012-141259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示技術では、プレス加工した焼結芯金にプラスチックマグネットを一体成形した後、1回転当たりで決められた着磁極数になるように着磁が行われる。
複列磁気エンコーダを用いた高分解の角度検出装置を、利用できるスペースおよびコスト等の制約条件を満たしながら実現するには、磁気センサは必要な機能を1パッケージ化した量産品を使用する必要がある。
【0007】
このため、磁極幅および磁極対数など主要な仕様は予め決まっており個別仕様への対応は不可能である。例えば、磁極幅および磁極対数等の諸元が決まると、エンコーダ部の直径は、これらの諸元で決まるため、任意の直径で製作することができず、設計の自由度が制限される。また、成型完了品を1個ずつ個別に着磁するので、生産性の向上が困難である。さらに、成型品を回転体と一体で構成するのは困難で、別部品として着磁が終了したものを取り付ける必要があるため、回転体が大型化し、回転体の質量が増加する点も問題であった。
また、磁気エンコーダ装置を製作するには、芯金の金型と、プラスチックマグネットの射出成形用の金型を製作する必要があり、製作コストが高くなる課題がある。
【0008】
特許文献2の開示技術で用いるテープ状の磁気スケールは、軽量で成型金型等も不要なので、上記の課題には対応可能であるが、分解能の向上に関しては、何ら示されていない。また、円周に一部にわたって貼り付けられた磁気スケール部材の両端をZ相信号によって検出することができるが、磁気スケール部材の端部を検出した状態ではA相またはB相信号が出力されない。このため、例えば、角度検出信号を回転機器の制御等に使用する場合には、通常の制御方式は使用できないという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、設計の自由度が高く、小型・軽量化が可能で、製作コストの低減を図ることができる、複列磁気エンコーダの原理による高分解能な角度検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の角度検出装置4,4A,4Bは、N極とS極が交互に並ぶ磁気トラックを有するエンコーダ部6,6A,6Bと、前記磁気トラックに隙間δを介して対向する磁気センサ部7とを備える角度検出装置であって、
前記磁気トラックは、基準磁極幅Pおよび基準磁極対数nとしたとき、シート状のエンコーダ用磁性体1の長手方向に沿って、磁極幅がPである主トラック2と、磁極幅がPn/(n-1)である副トラック3とが隣接して互いに平行に設けられ、前記エンコーダ部6,6A,6Bは、前記シート状のエンコーダ用磁性体1が基準長さL=2Pn以下の長さで回転体5,5A,5Bの外周部または内周部に巻いて固定され、
前記磁気センサ部7は、前記主トラック2および前記副トラック3にそれぞれ対向して磁気信号を出力する2つの磁気検出素子8と、これら磁気検出素子8の磁気信号に基づいて前記回転体5,5A,5Bの絶対角度を演算する演算部9とを備え、
演算された前記絶対角度に、前記エンコーダ部6,6A,6Bの直径に応じた補正係数を掛けて前記回転体5,5A,5Bの絶対角度を補正する補正計算部10を備えた。
【0011】
この構成によると、シート状のエンコーダ用磁性体1を回転体5,5A,5Bの外周部または内周部に巻き付けて固定し、角度検出装置4,4A,4Bのエンコーダ部6,6A,6Bとして使用するため、エンコーダ部の直径が変わっても金型を製作する必要がなく、任意の直径のエンコーダ部6,6A,6Bを容易に製作することができる。演算部9は、2つの磁気検出素子8の磁気信号に基づいて、回転体5,5A,5Bの絶対角度を高分解能で演算し得る。補正計算部10は、演算された絶対角度に、エンコーダ部6,6A,6Bの直径に応じた補正係数を掛けることで、エンコーダ部の直径がL/πでない場合でも円周長Lを有する回転体5,5A,5Bの絶対角度を高分解能で正確に検出することができる。また既存の回転部品11A,11B,11Cを前記回転体として利用すれば、別部材のエンコーダを追加する必要がなく、角度検出装置の構造の簡素化と小型・軽量化が可能になる。
【0012】
前記基準長さLの前記エンコーダ用磁性体1が任意の長さで切断され、前記回転体5,5A,5Bの外周部または内周部に巻いた前記エンコーダ部6,6A,6Bの直径がSであるとき、前記補正計算部10は、前記基準長さLを、直径Sに円周率πを掛けた値で除した値L/(πS)を前記補正係数としてもよい。
エンコーダ部6,6A,6Bの直径がL/πに等しくない直径Sである場合、磁気センサ部7から出力されるセンサ出力は実際の角度とは異なるが、センサ出力にL/(πS)を補正係数として掛ければ正確な角度が得られる。
【0013】
前記主トラック2および前記副トラック3の長さL1が前記基準長さL以下である前記エンコーダ用磁性体1が、前記長さL1より長い周長の前記回転体5,5A,5Bの外周部または内周部に巻いて固定された前記エンコーダ部6,6A,6Bを備え、
前記磁気トラックの両端部における、前記磁気センサ部7の出力に対応する限界角度を記憶する限界角度記憶部12と、前記磁気センサ部7から出力される絶対角度が前記限界角度の範囲内にあるか否かを判定して限界角度を逸脱したか否かを示す識別信号を出力する検出範囲判定部13と、を備えてもよい。
【0014】
この構成によると、限界角度を逸脱したことを示す識別信号が出力されたときに、回転を停止すれば、絶対角度を示す通常のセンサ信号が出力されるので、通常の制御方法で検出不能領域を回避する動作を行うことができる。
【0015】
前記回転体5,5A,5Bは、ロボット関節の回転部品11A,11B,11Cであってもよい。ロボット関節の絶対角度を検出する場合、必要な角度検出範囲は360°未満である場合が多い。その場合には、エンコーダ用磁性体1の継ぎ目を角度検出が不要な位置に配置すれば、前記継ぎ目の影響を回避でき、角度検出装置が成立する。また既存のロボット関節の回転部品11A,11B,11Cを回転体として、前記回転部品11A,11B,11Cに直接エンコーダ用磁性体1を巻いて固定すれば、別部材のエンコーダを付ける必要がなく、ロボット関節の小型・軽量化が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の角度検出装置は、N極とS極が交互に並ぶ磁気トラックを有するエンコーダ部と、前記磁気トラックに隙間を介して対向する磁気センサ部とを備える角度検出装置であって、前記磁気トラックは、基準磁極幅Pおよび基準磁極対数nとしたとき、シート状のエンコーダ用磁性体の長手方向に沿って、磁極幅がPである主トラックと、磁極幅がPn/(n-1)である副トラックとが隣接して互いに平行に設けられ、前記エンコーダ部は、前記シート状のエンコーダ用磁性体が基準長さL=2Pn以下の長さで回転体の外周部または内周部に巻いて固定され、前記磁気センサ部は、前記主トラックおよび前記副トラックにそれぞれ対向して磁気信号を出力する2つの磁気検出素子と、これら磁気検出素子の磁気信号に基づいて前記回転体の絶対角度を演算する演算部とを備え、演算された前記絶対角度に、前記エンコーダ部の直径に応じた補正係数を掛けて前記回転体の絶対角度を補正する補正計算部を備えた。このため、設計の自由度が高く、小型・軽量化が可能で、製作コストの低減を図ることができる、複列磁気エンコーダの原理による高分解能な角度検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る角度検出装置の構成例を示す図である。
【
図2】同角度検出装置のエンコーダ用磁性体の構造を示す斜視図である。
【
図4A】同角度検出装置の制御系のブロック図である。
【
図4B】
図4Aの制御系の一部を部分的に変更したブロック図である。
【
図5】同角度検出装置の磁気センサ部の検出信号の位相と両検出信号の位相差を示す図である。
【
図6】エンコーダ部の直径がL/πとは異なる場合の角度検出装置の構成例を示す図である。
【
図7】同角度検出装置の補正計算部のブロック図である。
【
図8】エンコーダ部の継ぎ目に隙間が空く角度検出装置の構成例を示す図である。
【
図9】同角度検出装置の制御系のブロック図である。
【
図10】いずれかの角度検出装置をロボット関節に適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る角度検出装置を
図1ないし
図5と共に説明する。
図1および
図3に示すように、角度検出装置4は、磁気トラックを有するエンコーダ部6と、磁気トラックに隙間δを介して対向する磁気センサ部7とを備える。エンコーダ部6は、
図2に示すように、N極とS極が交互に並ぶ磁気トラックを有する。磁気トラックは、基準磁極幅Pおよび基準磁極対数nとしたとき、シート状のエンコーダ用磁性体1の長手方向に沿って、磁極幅(周方向の幅)がPである主トラック2と、磁極幅がPn/(n-1)である副トラック3とが隣接して互いに平行に設けられている。
図1に示すように、エンコーダ部6は、前記シート状のエンコーダ用磁性体1が基準長さL以下の長さで回転体5の円筒状の外周部5aに巻いて固定されている。
【0019】
図2に示すエンコーダ用磁性体1は、例えば、磁性粉を混練したゴム材料をシート状に加硫し、必要な長さに切断した後、N極とS極を基準磁極幅P、基準磁極対数nで決まる所定の磁極幅で長手方向に交互に着磁し、主トラック2および副トラック3を有する磁気トラックを形成して作製される。または、生産設備または素材の入手性等の条件に適した長さで着磁まで完了したシートを、用途に応じて必要な長さに切断してもよい。また、L=2Pnを基準長さとする。
【0020】
例えば、基準磁極幅Pが2mm、基準磁極対数nが32極対のとき、主トラック2の着磁幅(着磁ピッチ)p2(=P)は2mm、副トラック3の着磁幅p3(=Pn/(n-1))は2.0645mmで、磁気センサの標準的な精度で360°の絶対角度を検出する場合には、主トラック2の着磁極対数(磁極対数)n2(=n)を32極対(N極とS極を合わせて64極)、副トラック3の着磁極対数n3(=n-1)を31極対(N極とS極を合わせて62極)とする。このときの磁気トラックの長さが基準長さLであり、L=2Pn=128mmである。
【0021】
ここでは、エンコーダ用磁性体1の主トラック2を着磁幅2mm、32極対、副トラック3を着磁幅2.0645mm、31極対としたが、エンコーダ用磁性体の磁極の仕様は、使用する磁気センサに応じて適宜選択することができる。
【0022】
図1に示す角度検出装置4は、回転体5の外周部5aにエンコーダ用磁性体1を接着または両面テープ等で固定したエンコーダ部6と、磁気センサ部7とを備える。回転体5の中央には孔5bが形成されており、前記孔5bに図示しない回転軸が回転体5に対し相対回転不能に挿入される。なお、回転軸は回転体5と一体に設けてもよい。前記一体とは、回転軸と回転体5とが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部または全体として成形されたことを意味する。
【0023】
図4(A)に示すように、磁気センサ部7は、主トラック2および副トラック3に回転体5の径方向外側からそれぞれ対向して磁気信号を出力する2つの磁気検出素子8と、これら磁気検出素子8で検出した磁気信号の位相差に基づいて回転体5の絶対角度を高分解能で算出し、センサ出力として出力する演算部9とを備える。
【0024】
図2に示すように、基準長さLの磁気トラックを全長に渡って設けた長さLのエンコーダ用磁性体1を、
図1のように回転体5の外周部5aに1周巻いて、直径L/πのエンコーダ部6を製作した場合には、
図4(A)および
図5に示すように、演算部9は、主トラック2から得られる信号(
図5(A))と副トラック3から得られる信号(
図5(B))との位相差(
図5(C))が1回転で1極対分になることを利用して、絶対角度を標準的な精度で検出することができる。
【0025】
なお、
図2に示す基準長さLの磁気トラックを設けたエンコーダ用磁性体1を、磁気トラックの長さが基準長さLよりも短くなるように切断して
図1に示す回転体5に巻いた場合、エンコーダ部6の長手方向一端部と他端部との継ぎ目Tに隙間(周方向隙間)があっても、エンコーダ部6の直径がL/πであれば、エンコーダ用磁性体1が固定されている範囲で磁気センサの標準的な精度で絶対角度を検出することができる。
【0026】
図5(A)は主トラック2に対応する検出信号の波形、
図5(B)は副トラック3に対応する検出信号の波形である。
図5(C)は、
図5(A),(B)の検出信号に基づき、演算部9(
図4A)により求められる位相差の出力信号の波形を示す。演算部9(
図4A)は、求められた前記位相差を、予め設定された計算パラメータに従って絶対角度へ換算する処理を行う。前記計算パラメータは、例えば、
図4(A)に示す磁気センサ部7に設けられる不揮発性メモリ等の記憶手段Mrに記憶されている。この記憶手段Mrには、前記計算パラメータの他、磁気トラックの基準磁極幅P、基準磁極対数n、各トラック2,3の着磁極対数、信号出力の方法等、装置の動作に必要な情報が書換え可能に記憶されている。
【0027】
この角度検出装置4は、演算部9の後段に補正計算部10を備えている。補正計算部10は、演算部9から出力される絶対角度に、エンコーダ部6の直径に応じた補正係数を掛けて回転体5の絶対角度を補正する。
基準長さLのエンコーダ用磁性体1が任意の長さで切断され、回転体5の外周部5a(
図1)に巻いたエンコーダ部6の直径がSであるとき、補正計算部10は、基準長さLを、直径Sに円周率πを掛けた値で除した値L/(πS)を補正係数とする。
【0028】
エンコーダ部6の直径がL/πに等しくない場合、磁気センサから出力されるセンサ出力は実際の角度とは異なるが、センサ出力に補正係数を掛ければ正確な角度が得られる。前記のようにエンコーダ部6の直径をSとすると、演算部9から出力される絶対角度に補正係数L/(πS)を掛ければよい。この補正計算部10は、補正係数を記憶する保管機能および演算機能を含み、前記記憶された補正係数を用いて前記演算機能に従って補正計算を実行する。この例では、磁気センサ部7内において、演算部9の後段に補正計算部10を設けたが、演算部9内に補正計算部10を設けてもよい。また、
図4(B)に示すように、磁気センサ部7の近傍に専用の回路として補正計算部10を設けてもよく、図示しないが上位の制御部に補正計算部を含めてもよい。
【0029】
<作用効果>
以上説明した角度検出装置4によれば、
図1に示すシート状のエンコーダ用磁性体1を回転体5の外周部5aに巻き付けて固定し、角度検出装置4のエンコーダ部6として使用するため、エンコーダ部6の直径が変わっても金型を製作する必要がなく、任意の直径のエンコーダ部6を容易に製作することができる。演算部9は、2つの磁気検出素子8の磁気信号に基づいて、回転体5の絶対角度を高分解能で演算し得る。補正計算部10は、演算された絶対角度に、エンコーダ部6の直径に応じた補正係数を掛けることで、エンコーダ部6の直径がL/πでない場合でも回転体5の絶対角度を高分解能で正確に検出することができる。また既存の回転部品を前記回転体5として利用すれば、別部材のエンコーダを追加する必要がなく、角度検出装置4の構造の簡素化と小型・軽量化が可能になる。
【0030】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0031】
[第2の実施形態]
図6は、エンコーダ部の直径がL/πとは異なる場合の角度検出装置4Aの構成例を示す図である。
図7は同角度検出装置の補正計算部10のブロック図である。
基準長さLのエンコーダ用磁性体を回転体に巻いたエンコーダ部の直径がL/πとは異なる場合、磁気センサ部から出力されるセンサ出力は実際の角度とは異なる。その場合、角度検出装置4Aに補正計算部10を設けてセンサ出力に補正係数を掛ければ、正確な絶対角度が得られる。
【0032】
図6は、基準長さLの磁気トラックを全長に渡って設けた長さLのエンコーダ用磁性体1を長さL/2に切断し、回転体5Aの外周部5Aaに周方向に1周巻いて、直径L/(2π)で360°の絶対角度を検出可能なエンコーダ部6Aとした角度検出装置4Aを示す。
エンコーダ部6Aの外周の長さは、基準長さLの1/2になるため、磁気センサ部7から出力される絶対角度の検出出力は、実際の角度の1/2になる。そのため、
図7に示す補正計算部10を設けて、センサ出力に補正係数「2」を掛ければ、実際の絶対角度が得られる。
【0033】
[第3の実施形態]
図8に、エンコーダ用磁性体1を回転体5Bの外周部5Baの一部に巻き、エンコーダ部6Bの長手方向一端部と他端部との間に大きな隙間が存在する角度検出装置4Bを示す。エンコーダ部6Bの直径SがL/πではない(S≠L/π)場合でも、前述の
図7の補正計算部10によってセンサ出力の補正計算を行えば、実際の絶対角度を検出できる。
【0034】
例えば、ロボット関節等の絶対角度を検出する場合には、必要な角度検出範囲は1回転(360°)未満であることが多く、エンコーダ用磁性体の継ぎ目または隙間が生じる場合がある。その場合には、エンコーダ用磁性体の継ぎ目または隙間を、角度検出が不要な位置に配置すれば、継ぎ目または隙間の影響を回避しつつ絶対角度を検出し得る。
図10に示すロボット関節は、小型・軽量であることが要求されるが、エンコーダ用磁性体1(
図2)を必要な長さに切断してから、既存のロボット関節の環状部品のような回転部品11A,11B,11Cを回転体とし、各回転部品11A,11B,11Cの外周部に直接エンコーダ用磁性体1を巻いて角度検出装置4Bとすれば、別部材のエンコーダを取り付ける必要がなく、ロボット関節の小型化および軽量化が可能になる。
【0035】
図8の例のように、磁気トラックが回転体5Bの外周部5Baよりも短い場合には、磁気センサ部7に対向する位置に磁気トラックが存在せず、回転体5Bの現在の位置を検出できない事態を避けるために、磁気トラックの両端を検出する必要がある。本実施形態の角度検出装置4Bは、電源を投入するだけで絶対角度を検出できるので、
図9に示すように、磁気トラックの両端で磁気センサ部から出力される角度(限界角度)を記憶する限界角度記憶部12を備える。さらに限界角度記憶部12の内容とセンサ出力とを比較して、磁気センサ部が限界角度の範囲内にあるか否かを判定して識別信号を出力する検出範囲判定部13を設ける。
【0036】
つまり
図8の角度検出装置4Bは、主トラックおよび副トラックの長さL1が前記基準長さL以下であるエンコーダ用磁性体1が、長さL1より長い周長の回転体5Bの外周部5Baに巻いて固定されたエンコーダ部6Bを備える。この場合において、角度検出装置4Bは、磁気トラックの両端部における、磁気センサ部7の出力に対応する限界角度を記憶する
図9の限界角度記憶部12と、磁気センサ部7から出力される絶対角度が限界角度の範囲内にあるか否かを判定して限界角度を逸脱したか否かを示す識別信号を出力する検出範囲判定部13とを備える。
【0037】
この構成によれば、限界角度を逸脱したことを示す識別信号が出力されたときに回転を停止すれば、絶対角度を示す通常のセンサ信号が出力されているので、通常の制御方法で検出不能領域を回避する動作を行うことができる。また限界角度記憶部12において、磁気トラックの両端部から1~数磁極対の余裕を見て限界角度を設定すれば、動作の確実性を増すことができる。
【0038】
シート状のエンコーダ用磁性体を、円筒状の回転体の内周部に巻いて固定してもよい。
各角度検出装置は、ロボット関節以外に、例えば、車輪用軸受、操舵装置、精密位置決め装置、工作機械、産業機械等に用いることが可能である。
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1…エンコーダ用磁性体、2…主トラック、3…副トラック、4,4A,4B…角度検出装置、5,5A,5B…回転体、6,6A,6B…エンコーダ部、7…磁気センサ部、8…磁気検出素子、9…演算部、10…補正計算部、11A,11B,11C…回転部品、12…限界角度記憶部、13…検出範囲判定部