(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191091
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電機子
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H02K3/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099733
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塚 秋乃
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603BB01
5H603BB06
5H603BB07
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB03
5H603CB18
5H603EE01
5H603EE02
(57)【要約】
【課題】第1導体及び第2導体の端部同士の溶接作業を容易に行うことができる電機子を提供する。
【解決手段】ステータは、中心線の延びる方向に貫通する複数のスリットが設けられた鉄心と、スリットに挿入されるようにして鉄心に組み付けられた状態で互いの端部同士が溶接される第1導体30A及び第2導体30Bと、を備える。第1導体30Aの第1端部40には第1嵌合部42が形成され、第2導体30Bの第2端部41には第1嵌合部42と嵌合可能な第2嵌合部44が形成されている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線の延びる方向に貫通する複数のスリットが設けられた鉄心と、
前記スリットに挿入されるようにして前記鉄心に組み付けられた状態で互いの端部同士が溶接される第1導体及び第2導体と、
を備えた電機子であって、
前記第1導体の端部には第1嵌合部が形成され、前記第2導体の端部には前記第1嵌合部と嵌合可能な第2嵌合部が形成されていることを特徴とする電機子。
【請求項2】
前記第1嵌合部及び前記第2嵌合部は、共に凹凸形状をなしており、嵌合する際に、溶接される前記第1導体及び前記第2導体の端部同士が互いに近づく方向へ相対移動可能となる一方で、溶接される前記第1導体及び前記第2導体の端部同士が互いに離れる方向へ相対移動不能となるラチェット構造を構成していることを特徴とする請求項1に記載の電機子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心と当該鉄心に組み付けられた導体とを有する電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電機子として、例えば特許文献1に示す回転電機のステータが知られている。こうしたステータ(電機子)は、円筒形状のステータコア(鉄心)と、ステータコアに装着されたコイルとを有している。ステータコアには、複数のスロット(スリット)が形成されている。スロット内には、コイルを構成する複数のセグメント導体(第1導体及び第2導体)が組み付けられる。コイルは、スロット内に組み付けられた状態の互いに異なるセグメント導体の端部同士を溶接することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなステータでは、互いに異なるセグメント導体の端部同士を溶接する際に、当該端部同士の接触状態を維持するべく楔を用いている。このため、互いに異なるセグメント導体の端部同士の溶接作業が繁雑になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する電機子は、中心線の延びる方向に貫通する複数のスリットが設けられた鉄心と、前記スリットに挿入されるようにして前記鉄心に組み付けられた状態で互いの端部同士が溶接される第1導体及び第2導体と、を備えた電機子であって、前記第1導体の端部には第1嵌合部が形成され、前記第2導体の端部には前記第1嵌合部と嵌合可能な第2嵌合部が形成されていることを要旨とする。
【0006】
この構成によれば、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させることで、第1導体及び第2導体の端部同士が接触した状態を維持できる。したがって、第1導体及び第2導体の端部同士の溶接作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】導体を鉄心のスリットに組み付けるときの状態を示す斜視図。
【
図6】(a)は第1導体の第1端部の側面図、(b)は(a)の正面図。
【
図7】(a)は第2導体の第2端部の平面図、(b)は(a)の正面図。
【
図8】第1導体の第1端部の第1嵌合部と第2導体の第2端部の第2嵌合部とを係合させるときの状態を示す正面図。
【
図10】第1導体の第1端部の第1嵌合部と第2導体の第2端部の第2嵌合部とを係合させたときの状態を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、電機子の一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態における電機子の一例としてのステータ20は、三相電動機の固定子であって略円筒状をなしている。ステータ20は、鉄心21と、コイル22とを備えている。鉄心21は、円環状の金属板が複数枚(例えば、数百枚)積層された積層構造をなしている。
【0009】
鉄心21には、その中心線Lが延びる方向に貫通するスリット23が複数(本実施形態では48本)設けられている。各スリット23は、鉄心21の内周面において開口するとともに鉄心21の径方向に延びている。つまり、各スリット23は、鉄心21の中心線Lが延びる方向の両側と鉄心21の中心側とが開口している。
【0010】
各スリット23は、鉄心21の中心線Lが延びる方向から見て鉄心21の径方向に延びる矩形状をなしており、鉄心21の周方向において等間隔で並ぶように配置されている。コイル22は、鉄心21の複数のスリット23に挿入されるようにして鉄心21に巻回された状態で組み付けられている。鉄心21には、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルに対応する三本のコイル22が設けられている。
【0011】
図2及び
図3に示すように、各コイル22は、断面視で矩形状をなしており、金属(本実施形態ではアルミニウム)によって形成されている。各コイル22の表面には、図示しない絶縁性の被覆層が設けられている。この被覆層により、スリット23内で鉄心21の径方向において隣接するコイル22同士の間と、各コイル22と鉄心21(スリット23の内面)との間とが絶縁されている。
【0012】
次に、上述のように構成されたステータ20の製造方法を説明する。
図2及び
図4に示すように、ステータ20を製造する場合には、まず、複数のスリット23が設けられた鉄心21を用意するとともに、コイル22を構成する複数の導体30を形成する。導体30は、金属製(本実施形態ではアルミニウム製)であり、断面視で矩形状をなしている。
【0013】
導体30は、平行に延びる2本の直線部31と、これらの直線部31の一端部同士を繋ぐように湾曲して延びる湾曲部32とを有した略U字状をなしている。各導体30における両端部以外の表面には、上記した図示しない絶縁性の被覆層が設けられている。すなわち、各導体30の両端部には、上記した図示しない絶縁性の被覆層が設けられていない。
【0014】
引き続き、
図5に示すように、複数の導体30を順次にスリット23に挿入するようにして鉄心21に組み付ける。すなわち、導体30の直線部31を鉄心21における対応するスリット23にそれぞれ差し込む。この場合、各導体30の一対の直線部31を2つのスリット23に跨がるようにして挿入する。このようにして全ての導体30を鉄心21に組み付ける。なお、
図5は、導体30を鉄心21に2つ差し込んだ状態を示している。
【0015】
引き続き、スリット23における鉄心21の内周面側の開口から直方体状の鉄製のプレス部材(図示略)をスリット23内に挿入し、スリット23内における全ての導体30を当該プレス部材によって一度に加圧(プレス)する。すると、
図3に示すように、鉄製のプレス部材(図示略)よりも軟らかいアルミニウム製の導体30がスリット23の内面に合わせて潰れるように塑性変形される。
【0016】
この各導体30の塑性変形により、各導体30とスリット23の内面との隙間が埋められる。このため、鉄心21のスリット23内での各導体30(コイル22)の占積率が効果的に向上される。
【0017】
その後、複数の導体30によって一本のコイル22が形成されるように、複数の導体30の端部同士をそれぞれ互いに近づくように曲げてからレーザー溶接によって接合する。これにより、鉄心21にコイル22が組み付けられる。すなわち、鉄心21にコイル22が組み付けられたステータ20が製造される。
【0018】
次に、上述したステータ20の製造方法において接合される複数の導体30の端部の構成について詳述する。ここでは、
図5に示した鉄心21のスリット23内で互いに隣接する2つの導体30の端部の構成について説明する。そして、これら2つの導体30は、一方を第1導体30Aとするとともに他方を第2導体30Bとして説明する。
【0019】
図5に示すように、導体30の両端部のうちの一方は第1端部40とされるとともに他方は第2端部41とされている。すなわち、第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの両端部のうちの一方は第1端部40とされるとともに他方は第2端部41とされている。第1導体30Aと第2導体30Bとの端部同士が接合される場合、本実施形態では第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが接合される。
【0020】
図5、
図6(a)、及び
図6(b)に示すように、第1導体30Aの第1端部40における鉄心21の内周側の面には、凹凸形状をなす第1嵌合部42が形成されている。すなわち、第1嵌合部42は、直線部31の幅方向Xから見てぎざぎざになっている。つまり、第1嵌合部42は、直線部31の幅方向Xに延びるとともに直線部31の長手方向Yに並ぶ複数の第1段差面43を有している。各第1段差面43は、直線部31の長手方向Yに延びる直線と直交している。
【0021】
図5、
図7(a)、及び
図7(b)に示すように、第2導体30Bの第2端部41における鉄心21の外周側の面には、第1嵌合部42と嵌合可能な凹凸形状をなす第2嵌合部44が形成されている。すなわち、第2嵌合部44は、直線部31の長手方向Yから見てぎざぎざになっている。つまり、第2嵌合部44は、直線部31の長手方向Yに延びるとともに直線部31の幅方向Xに並ぶ複数の第2段差面45を有している。各第2段差面45は、直線部31の幅方向Xに延びる直線と直交している。
【0022】
図8及び
図9に示すように、第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、嵌合する際に、溶接される第1導体30Aの第1端部40及び第2導体30Bの第2端部41が互いに近づく方向(
図8及び
図9の矢印で示す方向)へ相対移動可能となる一方で、溶接される第1導体30Aの第1端部40及び第2導体30Bの第2端部41が互いに離れる方向(
図8及び
図9の矢印で示す方向と反対の方向)へ相対移動不能となるラチェット構造を構成している。
【0023】
次に、第1導体30A及び第2導体30Bがスリット23に挿入されるようにして鉄心21に組み付けられた状態で第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とをレーザー溶接によって接合するときの作用について説明する。
【0024】
図8及び
図9に示すように、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とをレーザー溶接によって接合する場合には、まず、次のようにする。すなわち、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが互いに近づくように、第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの直線部31を曲げる。
【0025】
このとき、第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの直線部31を、第1導体30Aの第1端部40の第1嵌合部42と第2導体30Bの第2端部41の第2嵌合部44とが係合するように、曲げる。すると、第1嵌合部42と第2嵌合部44とが徐々に噛み合いながら嵌合する。このとき、第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、互いに近づく方向(
図8及び
図9の矢印で示す方向)へ相対移動可能となる一方で、互いに離れる方向(
図8及び
図9の矢印で示す方向と反対の方向)へ相対移動不能となるラチェット構造を形成している。
【0026】
このため、第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの直線部31のスプリングバックによって第1嵌合部42及び第2嵌合部44が互いに離れる方向(
図8及び
図9の矢印で示す方向と反対の方向)へ相対移動することが規制される。したがって、第1嵌合部42と第2嵌合部44とが円滑に噛み合いながら凹凸嵌合する。このとき、第1嵌合部42の複数の第1段差面43と第2嵌合部44の複数の第2段差面45とは、それぞれ接触する。
【0027】
そして、
図10及び
図11に示すように、第1嵌合部42及び第2嵌合部44が完全に噛み合って凹凸嵌合した状態では、この状態が維持されるとともに第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの直線部31同士のなす角度Bが直角になる。このとき、第1嵌合部42と第2嵌合部44との凹凸嵌合により、第1嵌合部42と第2嵌合部44との間にレーザーが通過可能な直線状の隙間ができないようにされつつ第1嵌合部42及び第2嵌合部44の位置決めがなされる。
【0028】
その後、
図10のC方向からレーザーを第1嵌合部42と第2嵌合部44との凹凸嵌合部分に照射することで、第1嵌合部42と第2嵌合部44とが精度よくレーザー溶接される。すなわち、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とがレーザー溶接によって接合される。このとき、第1嵌合部42と第2嵌合部44との間には、レーザーが通過可能な隙間が存在しないので、レーザーが第1嵌合部42と第2嵌合部44との間を抜けて意図しない位置に照射されることはない。
【0029】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)ステータ20は、中心線Lの延びる方向に貫通する複数のスリット23が設けられた鉄心21と、スリット23に挿入されるようにして鉄心21に組み付けられた状態で互いの端部同士が溶接される第1導体30A及び第2導体30Bとを備える。第1導体30Aの第1端部40には第1嵌合部42が形成され、第2導体30Bの第2端部41には第1嵌合部42と嵌合可能な第2嵌合部44が形成されている。
【0030】
この構成によれば、第1嵌合部42と第2嵌合部44とを嵌合させることで、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが接触した状態を維持できる。したがって、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41との溶接作業を容易に行うことができる。
【0031】
(2)ステータ20において、第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、共に凹凸形状をなしており、嵌合する際に、溶接される第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが互いに近づく方向へ相対移動可能となる一方で、溶接される第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが互いに離れる方向へ相対移動不能となるラチェット構造を構成している。
【0032】
この構成によれば、第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とを互いに近づくように曲げて第1嵌合部42と第2嵌合部44とを嵌合させる。この際に、スプリングバックによって第1嵌合部42と第2嵌合部44との嵌合状態が解除されて第1導体30Aの第1端部40と第2導体30Bの第2端部41とが離れることを抑制できる。
【0033】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0034】
・第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、必ずしも凹凸形状をなしている必要はない。
・第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、必ずしも上述したラチェット構造を構成している必要はない。
【0035】
・第1嵌合部42及び第2嵌合部44のうちの一方を一つの凸部によって構成するとともに他方を上記凸部と嵌合可能な一つの凹部によって構成してもよい。
・第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、互いに嵌合した際に、これらが対向する方向において離れる方向へ相対移動することを抑制するべく互いに係合する係合部をそれぞれ備えていてもよい。
【0036】
・第1嵌合部42及び第2嵌合部44が完全に噛み合って凹凸嵌合した状態において、第1導体30A及び第2導体30Bのそれぞれの直線部31同士のなす角度Bは、鈍角であってもよいし、鋭角であってもよい。この場合、第1嵌合部42及び第2嵌合部44は、互いに噛み合って嵌合するように、それぞれの向きが角度Bに応じて変更される。
【0037】
・上記実施形態にかかる電機子は、三相電動機に限らず、単相電動機にも適用可能である。また上記実施形態にかかる電機子は、ブラシ式の電動機の回転子(ロータ)にも適用することができる。その他、発電機の電機子にも、上記実施形態にかかる電機子は適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
20…電機子の一例としてのステータ
21…鉄心
22…コイル
23…スリット
30…導体
30A…第1導体
30B…第2導体
31…直線部
32…湾曲部
40…第1端部
41…第2端部
42…第1嵌合部
43…第1段差面
44…第2嵌合部
45…第2段差面
B…角度
L…中心線
X…幅方向
Y…長手方向