IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図1
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図2
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図3
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図4
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図5
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図6
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図7
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図8
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図9
  • -無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191111
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/00 20120101AFI20221220BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20221220BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099790
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】713013777
【氏名又は名称】新村 稔
(71)【出願人】
【識別番号】511285440
【氏名又は名称】株式会社セイコーウェーブ
(72)【発明者】
【氏名】新村 稔
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無塗装耐候性鋼橋さびレベルの判定手段を提供する。
【解決手段】判定手段は、一定のパターン光を投影する非接触式光3次元計測装置を使い、表面の凸凹具合の3次元座標を取得し、数値処理をすることでその凸凹具合の標準偏差を得、その標準偏差値が200以下であるとき、補修不要(見守り対象)(評点3、評点4ないし評点5)であり、標準偏差値が200を超えるとき、補修対象(評点2ないし評点1)であると判定する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐候性鋼橋の腐食評点を判定する際、3次元計測装置を使い、表面の凸凹具合の3次元座標を取得し、数値処理をすることでその凸凹具合の標準偏差を得、その標準偏差値と評点を紐づけることを特徴とする判定手段。
【請求項2】
前記請求項1記載の判定手段において、3次元計測装置が、光を使った非接触式の3次元計測装置であることを特徴とする判定手段。
【請求項3】
前記請求項2記載の判定手段において、光を使った非接触式の3次元計測装置が、一定のパターン光を投影することを特徴とする判定手段。
【請求項4】
耐候性鋼橋の腐食評点を判定する際、一定のパターン光を投影する非接触式光3次元計測装置を使い、表面の凸凹具合の3次元座標を取得し、数値処理をすることでその凸凹具合の標準偏差を得、その標準偏差値が200以下であるとき、評点3、評点4ないし評点5であり、標準偏差値が200を超えるとき、評点2ないし評点1であると判定することを特徴とする判定手段。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装を施さない無塗装耐候性鋼橋のさびレベル(以下、「評点」)の判定手段に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの社会インフラ構造物は長年の供用を前提としており、その安全性・利便性を確保するためには、適切な維持管理が欠かせない。2012年12月2日に発生した笹子トンネル天井板崩落事故の後、国土交通省は、すべての点検対象橋梁72万橋に対して、5年に1度の「近接目視」点検を義務づけた。
耐候性鋼は、Cu、Cr、Ni等の元素を含有し、無塗装の状態でも表面に緻密で密着性の高いさび層を形成し、赤さびの形成と内部への侵入を防ぐ特性を有し、この鋼材を利用した耐候性鋼橋は、飛来塩分が少なく、帯水性も少ない地域での建設であれば、建設後100年の寿命があるものとして、積極的に導入された。
【0003】
しかし、本来は海岸線より一定の離岸距離以内の領域では設置が推奨されないにもかかわらず、設置されてしまったり、あるいは、排水処理が適切でなく、帯水する部位が発生したり、あるいは道路にまかれる融雪剤などの影響が出てしまうなどの要因で、赤さびが進展してしまうケースが多々見られる。
これららのさびが鋼材の内部にまで進展すると、鋼材の耐力を下げ、橋梁全体の安全性に関わる事態となる。社団法人日本鉄鋼連盟と社団法人日本橋梁建設協会は「耐候性鋼の橋梁への適用」(非特許文献1)を2003年6月に発表し、かかる進行性のさびの表面状態を5つに分類した評点とその対処方法を定義した。分類された5つの評点は、写真(外観性状)とさび厚で定義されている。その分類を図1に掲示した。
【0004】
図1の分類を使えば、腐食レベルの低いもの(評点5)と、もっとも腐食レベルの高いもの(評点1)の違いは一目瞭然である。しかし、処置の要否を判断する境目である評点3(処置不要)と評点2(経過観察要、たいていは補修することを要す)の違いを正確に判断することは困難であり、ほとんどの場合は、安全側に倒れて評点2と判断されてしまうことが多い。
図1にはさび厚の数値が目安として記載されているが、さびが層状になっている場合は、そのさび厚を正しく測定することは困難である。例えば、電磁膜厚センサーを使った場合、さびが鋼材に密着している場合はさび厚をほぼ正確に測定できるが、さびが層状に形成され、さび層の間に空気の層が存在する場合は、さび表面から最初の空気層までの厚みしか測定できない。
非特許文献2には、「セロファンテープ試験」が記述されているが、セロファンテープそのものの付着力が定義されておらず、使い方にもばらつきを生じるため、客観的な数字とはなりにくい。
特許文献1は、無塗装耐候性鋼橋のさびレベルの予測方法を提案しているが、現状のさびレベルを判断する手段ではない。
特許文献2は、無塗装耐候性鋼構造物の腐食診断方法を提案しているが、その提案内容は、さび厚の測定とイオン透過抵抗値を測定するものであるにもかかわらず、さび厚の測定方法には触れておらず、前記層状さびが存在する場合の課題については記載がない。したがって、図1の評点判定に適用できる客観的な測定手段ではない。
つまり、現在、無塗装耐候性鋼橋のさびレベル(評点)を正確に測定し判定する手段は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-39970
【特許文献2】特開2019―191042
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】社団法人日本鉄鋼連盟、社団法人日本橋梁建設協会:耐候性鋼の橋梁への適用、
【非特許文献2】独立行政法人土木研究所:鋼橋防食工の補修方法に関する共同研究報告、共同研究報告書、整理番号第414号、平成22年12月
【非特許文献3】土木学会構造工学論文集 Vol. 66A (2020年3月):非接触3次元画像計測技術を用いた耐候性鋼橋の腐食評価法の開発
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無塗装耐候性鋼橋に発生したさびを評価するための評点が、非特許文献1によって、5段階で定義されているが、従来、主観的な判断に陥りやすい写真撮影を含む目視判断が主に実施されており、評点判断の客観性が担保されていなかった。一方、客観的な測定・判断手段が存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は、光を使った非接触3次元計測手段を用い、無塗装耐候性鋼の評価対象部位を測定し、その3次元画像(3次元座標を持った点群)を数値解析することで、図1の評点分類に適用できる客観的な測定手段を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は次の(1)~(4)の手段で構成される。
(1) パターン投影方式、あるいは、光ビーム切断方式など、光を使う3次元計測装置を用い、評価対象表面の凸凹具合を精細に測定する手段。本発明で採用した計測装置は、縦横0.4ミリ前後、奥行き0.05ミリ前後の分解能を有し、一度の計測で、例えば縦横12cmx8cmの領域において、約6万点の3次元座標を生成することができる。ただし、3次元計測装置の分解能は縦横1ミリ以下、奥行き(高さ・深さ)方向で0.1ミリ以下であれば、結果に大きな影響を与えない。
(2) 生成された点群の座標(撮影装置のある1点からの距離として定義されていることが多い)から、一定の平面(リファレンス面)を生成するソフトウェア手段。一定の平面(リファレンス面)は、測定点群の存在する空間を主成分分析して得られる。主成分分析手法を用いると、最小2乗解を使う場合に比べ、計算時間を大幅に短縮できる効果がある。
(3) 前記(2)で生成された一定の平面と、測定された点群との直交距離を計算するソフトウェア手段。
(4) 前記直交距離の標準偏差を計算するソフトウェア手段。
【発明の効果】
【0010】
本発明を使うことで、無塗装耐候性鋼橋のさびレベル(評点)判定を、データに基づいた、客観的な判定に変えることが可能となる。また、本発明の手段は、属人性を有しないため、だれが計測と判定を実施しても、また、いつ実施してもその判定のばらつきを最小限に抑制することができる。つまり、判定のばらつきは、計測装置のばらつきの範囲に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】さび外観評価区分と処置の目安
図2】三次元計測装置の計測原理の説明
図3】さびが発生した耐候性鋼橋表面の3次元計測モデル(全体正面)
図4】さびが発生した耐候性鋼橋表面の3次元計測モデル(部分拡大、メッシュ)
図5】上記3次元計測モデルを主成分分析して得られたリファレンス面との距離画像
図6】リファレンス面と実測3次元計測モデルの直交距離、1ミリ格子(部分)
図7】リファレンス面と実測3次元計測モデルの直交距離、1ミリ格子(全体)
図8】上記直交距離の標準偏差を求める数式
図9】さび厚実測値と3次元計測・解析による標準偏差値との相関図
図10】本発明の構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して説明を省略している。
【実施例0013】
図2に本発明で採用した3次元計測装置の原理を示す。3次元計測装置は、イメージセンサー1とパターン光を投影するプロジェクタ2と、イメージセンサーに焦点を結像させる対物レンズ3から構成される。Xは後述するリファレンス面、(x、y、z)は計測対象物(この場合、耐候性鋼の表面に発生したさび)のXを基準とした座標、(A、B、a+c)は同じくXを基準としたとき、イメージセンサーに結像される画像の座標である。AとBの座標は、イメージセンサーに結像するピクセル位置から求められる。これらの関係を用い、5の式によって、さびの高さzを求めることができる。
【0014】
図3は、表面にさびの発生した耐候性鋼の一部分(この場合、横12cm、縦8cm)を本発明で採用した3次元計測装置で3次元計測して生成された3次元計測モデル(全体)を、パソコン画面に正面表示したときのスクリーンショットである。
生成されたさびの高さによって、陰影がついているのが分かるが、写真撮影でもほぼ同様の画像を得ることは可能である。ただし、写真画像では高さ方向の情報は入っていない。
【0015】
図4は、メッシュが1本ずつ確認できるまで図3を拡大した3次元計測モデルである。
【0016】
図5は、上記3次元計測モデルを主成分分析して得られたリファレンス面との距離を、各座標点においてカラー画像化したものである。
【0017】
図6は、リファレンス面と3次元計測モデルとの直交距離を、リファレンス面と平行な面方向において1ミリ格子に区切って数値化し、CSV形式でファイルに出力し、そのファイルをマイクロソフトの表計算ソフトウェアであるエクセルに取り込み、その一部分を切り取った画像である。横軸、縦軸とも1ミリ単位で表示されている。各格子に格納されている数字は、リファレンス面との直交距離を示し、マイナス数値はリファレンス面よりもイメージセンサーから見て遠くにある場合、プラス数値はリファレンス面よりイメージセンサーに近い場合を示している。
【0018】
図7図6の全体をエクセルの色付け機能を使って処理した全体像である。この図は図3と相似なイメージになる。本発明の構成とは直接関係しない。
【0019】
図8の式は、標準偏差を計算するときに利用した数式であるが、ルート内の分母の式がN―1でもNでも構わない。結果に大きな違いがないからである。ここでsは標準偏差値、Nは標本数(3次元点群数)、xiは格子の中の値、xバーは平均値である。
【0020】
図9は、非特許文献3記載の、さび膜厚実測値と3次元計測・解析による標準偏差値との相関図である。評点は目視によって付与された。ここでさび膜厚は、電磁膜厚計を利用したが、層状剥離のない部位でその膜厚を測定した。
この図によれば、標準偏差値200以下に、評点5、評点4、評点3が集中し、200より上に評点2、評点1が分布していることが読み取れる。すなわち、耐候性鋼橋の腐食を3次元計測し、その凸凹を数値処理して標準偏差値を得、その値が200以下であるかそれを超えているか、という一点で、補修の要否を判定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明を耐候性鋼橋の保守メンテナンス現場で活用することで、従来あいまいであった評点の判定がより客観的になるとともに、だれが実施しても一定の誤差範囲内に収まることで、判定の信頼性が向上し、かつその数値を経年劣化の進展度合いを判断することに利用することも可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 3次元計測装置を構成するイメージセンサー
2 3次元計測装置を構成する、パターン光投射用プロジェクタ
3 3次元計測装置を構成するイメージセンサー用対物レンズ
4 形状計測対象物
5 対象物の高さzを求める計算式

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10