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特開2022-19114再結晶化方法、再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料、並びに食品および飼料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019114
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】再結晶化方法、再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料、並びに食品および飼料
(51)【国際特許分類】
   C08B 30/00 20060101AFI20220120BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20220120BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20220120BHJP
【FI】
C08B30/00
A23L33/21
A23K20/163
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122711
(22)【出願日】2020-07-17
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】香田 智則
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕子
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C090
【Fターム(参考)】
2B150AE34
2B150DC14
4B018MD10
4B018MD34
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF14
4C090AA04
4C090AA08
4C090BA13
4C090BD02
4C090BD23
4C090CA18
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】冷却することなく加熱のみの簡便な工程で低結晶性澱粉を再結晶化させる。
【解決手段】低結晶性澱粉を含む澱粉材料を加熱することで、当該低結晶性澱粉を再結晶化させる工程を含み、前記低結晶性澱粉は、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造されたものである再結晶化方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶性澱粉を含む澱粉材料を加熱することで、当該低結晶性澱粉を再結晶化させる工程を含み、
前記低結晶性澱粉は、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造されたものである
再結晶化方法。
【請求項2】
前記澱粉材料に脂肪酸を添加して加熱することで、前記低結晶性澱粉を再結晶化させる
請求項1の再結晶化方法。
【請求項3】
前記脂肪酸は、オレイン酸である
請求項2の再結晶化方法。
【請求項4】
前記脂肪酸は、前記澱粉材料100質量部に対して5~80質量部添加される
請求項2または請求項3の再結晶化方法。
【請求項5】
前記原料は、米である
請求項1から請求項4の何れかの再結晶化方法。
【請求項6】
前記低結晶性澱粉は、アミロースとアミロペクチンとを含有する
請求項1から請求項5の何れかの再結晶化方法。
【請求項7】
前記低結晶性澱粉は、当該低結晶性澱粉を100質量%としたときに前記アミロースを0~45質量%含む
請求項6の再結晶化方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の再結晶化方法により再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料。
【請求項9】
請求項8の再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料を含有する食品。
【請求項10】
請求項8の再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料を含有する飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉を再結晶化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、難消化性澱粉を含む食品が望まれている。難消化性澱粉は、消化器で吸収されにくいため、糖質や脂質の吸収を緩和することが知られている。例えば、特許文献1には、難消化性澱粉を含むベーカリー食品ミックスが開示されている。難消化性澱粉は、例えば、澱粉を加熱により糊化(α化)させた後、冷却して再結晶化することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-92474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の通り、再結晶化した澱粉(すなわち難消化性澱粉)を製造するには、澱粉を冷却(典型的には冷蔵や冷凍)する工程が必要になり、冷却工程を経る分だけ、時間と手間がかかるという問題があった。そこで本発明では、より簡便な工程で澱粉を再結晶化させる再結晶化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の再結晶化方法は、低結晶性澱粉を含む澱粉材料を加熱することで、当該低結晶性澱粉を再結晶化させる工程を含み、前記低結晶性澱粉は、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造されたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、冷却することなく加熱のみの簡便な工程で低結晶性澱粉を再結晶化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】参考例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図2】実施例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図3】比較例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図4】参考例2に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図5】実施例2に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図6】比較例2に係る米粉の広角X線回折の結果である。
図7】低結晶性澱粉の再結晶化を模式的に表した図である。
図8】焼成前の生地と焼成後のクッキーとにおける広角X線回折の結果である。
図9】原料が相違する米粉における加熱前後の広角X線回折の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る再結晶化方法は、低結晶性澱粉を含む澱粉材料を再結晶化させる方法である。この方法により、低結晶性澱粉が再結晶化した澱粉を含む澱粉材料を製造することができる。低結晶性澱粉の「再結晶化」とは、非晶部の分子が分子運動により高次構造を変化させ結晶の構造に配列することである。再結晶化した澱粉はいわゆる難消化性澱粉(レジスタントスターチ)である。なお、本発明に係る再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料は、各種の食品に利用される。例えば、焼き菓子(例えばクッキー、スポンジケーキおよびスコーン等)、パン、麺、揚げ物の衣、餃子・焼売の皮、煎餅、および、お好み焼きなどに再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料が使用される。再結晶化させた澱粉は難消化性を示すため、上記の各種食品は、ダイエット用食品や、血糖値上昇抑制、整腸用の食品等として利用することができる。また、本発明に係る再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料は、家畜用あるいはペット用の飼料としても利用することができる。対象動物としては、ウシ、ブタ、ニワトリ、イヌ、ネコ等が挙げられる。飼料として利用する場合、上記澱粉材料に加えて、乾草類、野菜類、乳酸発行物、ぬか、油、タンパク質、アミノ酸、ミネラル、ビタミン類等、従来知られた飼料成分を適宜配合することができる。
【0009】
低結晶性澱粉(α化澱粉)は、結晶性澱粉(β化澱粉)と比較して、結晶化度が低い(すなわち非晶化度が高い)澱粉である。低結晶性澱粉の結晶化度は、例えば20%以下であり、好適には10%以下である。
【0010】
本発明に係る再結晶化方法に用いる、低結晶性澱粉を含む澱粉材料は、例えば澱粉を主成分とする穀物や雑穀、菽穀、擬穀類等の植物を原料として製造される。例えば、米、馬鈴薯、小麦、大豆、小豆、そば、芋類、豆類、または、トウモロコシ等の植物が原料として例示される。なお、これらの植物から製造された結晶性澱粉を原料としてもよい。例えば、キャッサバの根茎から製造したタピオカを原料としてもよい。なお、澱粉材料中の澱粉の含有量は、原料や製造方法に応じて適宜に変化し得る。
【0011】
本発明に係る再結晶化方法に用いる澱粉材料に含まれる低結晶性澱粉は、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造される。なお、「剪断条件」とは、単に圧縮して粉砕するというものではなく、物体内部にある面に沿って両側部分を互いにずれさせるような作用が働く条件をいう。
【0012】
例えば、特許第4767128号公報、特許第5503885号公報または特開2009-213472号公報で提案された臼式粉砕機を使用した製造方法により低結晶性澱粉を含む澱粉材料が製造される。具体的には、臼式粉砕機に投入した原料を80℃以上(例えば100~200℃)で加熱しながら剪断条件下に粉砕することで、穀粉が製造される。そして、当該穀粉(例えば米を原料とした場合は米粉)が、本発明における低結晶性澱粉を含む澱粉材料である。以上の通り、加熱と剪断とを同時に実行することで、低結晶性澱粉を含む澱粉材料が製造される。
【0013】
臼式粉砕機を使用した上記の製造方法によれば、水を加えずに容易に高度に澱粉が低結晶性化された澱粉材料が製造されるという利点がある。ただし、低結晶性澱粉を含む澱粉材料を製造する方法は、以上の例示に限定されない。例えば、相互に噛み合う2本のスクリュを具備する二軸押出機により原料を粉砕して低結晶性澱粉を含む澱粉材料を製造してもよい。
【0014】
低結晶性澱粉の結晶化度は、原料を粉砕する際の粉砕条件に応じて適宜に制御することが可能である。なお、澱粉の結晶化度は公知の任意の技術により算定される。例えば、低結晶性澱粉の結晶化度は、X線回折強度の結果に応じて特定される。具体的には、X線回折強度の結果から、澱粉の非晶部を表すピークと、澱粉の結晶部を表すピークとを抽出する。各ピークの抽出には、公知のピーク分離技術が任意に利用される。そして、非晶部を表すピークと結晶部を表すピークとの割合から結晶化度が特定される。例えば、結晶部を表すピークの面積A(複数のピークの面積の合計値)と、非晶部を表すピークの面積Bとを、以下の式(1)に代入することで、結晶化度を算出する。
結晶化度(%)=100×面積A/(面積A+面積B)・・・(1)
なお、原料を粉砕する際の粉砕方法や原料に応じて、式(1)に利用する回折角度の範囲は適宜に調整される。
【0015】
本発明における低結晶性澱粉は、アミロースとアミロペクチンとを含有する。アミロースは、アミロペクチンに比べて分子量が小さく、直鎖状の構造をもつ。一方、アミロペクチンは、アミロースに比べて分子量が大きく、分岐状の構造をもつ。低結晶性澱粉全体のアミロースとアミロペクチンの合計を100質量%としたときに、アミロースが0~45質量%の範囲で含有され、アミロペクチンが55~100質量%の範囲で含有されることが好ましい。アミロースとアミロペクチンとが上記の範囲で含有されると、効率的に再結晶化させることが可能である。以上の効果をより顕著にする観点からは、アミロースが0~30質量%の範囲で含有され、アミロペクチンが70~100質量%の範囲で含有されることが好ましい。ただし、アミロースおよびアミロペクチンが上記の範囲内で含有されることは、本発明において必須ではない。アミロースが0~45質量%の範囲外で含有され、アミロペクチンが55~100質量%の範囲外で含有される構成も本発明には包含される。
【0016】
本発明に係る再結晶化方法は、低結晶性澱粉を含む澱粉材料を加熱することで、当該澱粉材料中の低結晶性澱粉を再結晶化させる。澱粉材料を加熱する際の条件は以下の通りである。
温度:100℃~200℃、好適には150℃~180℃
時間:5分~30分、好適には10分~20分
なお、澱粉材料の加熱には、例えば、オーブン、ホットプレート、ヒーターおよび電気炉等の各種の加熱器具が使用される。
【0017】
本発明に係る再結晶化方法では、低結晶性澱粉を含む澱粉材料に脂肪酸を添加して加熱する方法が好適である。澱粉材料に脂肪酸を添加して加熱をすると、効率よく再結晶化させることが可能になる。再結晶化方法で使用される脂肪酸は、例えば不飽和脂肪酸である。例えば、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸またはα-リノレン酸が不飽和脂肪酸として例示される。あるいは、パルミチン酸等の飽和脂肪酸でもよい。オレイン酸を脂肪酸として添加する方法によれば、効率よく再結晶化させるという効果がより顕著になる。なお、複数種の脂肪酸を澱粉材料に添加してもよい。
【0018】
脂肪酸は、低結晶性澱粉を含む澱粉材料100質量部に対して5~80質量部添加することが好ましい。なお、澱粉材料に脂肪酸を添加することで各種の食品に使用される生地(例えばクッキー生地)を作製することができる。脂肪酸の添加量を上記の範囲内とすることで、加熱したときの低結晶性澱粉の再結晶化を効率的にさせながら、ベタツキが抑制された成形性が高い生地を作製することができる。なお、上記の効果をより顕著にする観点からは、脂肪酸は、好ましくは低結晶性澱粉を含む澱粉材料100質量部に対して20~70質量部添加され、さらに好ましくは30~60質量部添加される。
【0019】
ただし、澱粉材料に脂肪酸を添加することは本発明において必須ではない。なお、脂肪酸以外にも用途に応じて各種の材料が添加され得る。例えば、澱粉材料を食品の生地として使用する場合には、各種の調味料や食品添加物を澱粉材料に添加してもよい。
【実施例0020】
以下、実施例、比較例および参考例により本発明をさらに詳述する。ただし、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0021】
実施例1(低結晶性澱粉を含む米粉)
原料:秋田63号
アミロースの含有量:20質量%
製造方法:特許第4767128号公報で提案されたものと同等の臼式粉砕機を使用し、粉砕温度120℃、ギャップ10μm、回転数150rpmの条件で、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造した。
なお、アミロースの含有量は、低結晶性澱粉を100質量%としたときの含有量である。
【0022】
比較例1(低結晶性澱粉を含む米粉)
市販品:アルファ化米(フライスター株式会社製)
製造方法:水を加え高温で糊化させた後の粉砕による。
【0023】
実施例1および比較例1に係る米粉を加熱した。加熱の条件は以下の通りである。
加熱器具:ガスオーブン(オザキ株式会社製:OZ100BOEC)
温度:180℃
時間:15分
【0024】
実施例1および比較例1の米粉について、加熱前と加熱後における広角X線回折の結果から澱粉の結晶構造を観測した。広角X線回折の条件は以下の通りである。
装置:UltimaIV(株式会社リガク製)
X線源:Cu-Kα線
波長:1.54Å
管電圧:40kV
管電流:40mA
スキャン範囲:2θ=5°~35°
スキャンスピード:10°/min
【0025】
ここで、参考例1として結晶性澱粉を含む米粉についても同様の条件で広角X線回折を行った。参考例1については以下の通りである。
参考例1(結晶性澱粉を含む米粉)
原料:秋田63号
アミロースの含有量:20質量%
製造方法:一般的な気流粉砕による。
なお、アミロースの含有量は、澱粉を100質量%としたときの含有量である。
【0026】
図1は、参考例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。図1に示される通り、参考例1では、加熱の前後において回折像はほぼ変化がなく、結晶構造に変化がないことが把握できる。なお、参考例1では、加熱の前後において、回折角(2θ)が15°、17°および18°の付近にそれぞれピークを示す。これらのピークは、結晶化している澱粉に特有のピークである。なお、結晶化を表すピークは、回折角(2θ)が15°、17°および18°の付近のピークには限定されない。原料の種類に応じて、結晶化を表すピークの位置は異なり得る。
【0027】
図2は、実施例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。図2に示される通り、実施例1では、加熱の前後において回折像が大きく変化することが把握できる。具体的には、回折角(2θ)が15°、17°および18°の付近にそれぞれピーク(すなわち結晶構造を表すピークと略同じピーク)が出現した。これらのピークは、加熱前の実施例1では観測されないピークである。すなわち、実施例1に係る米粉の低結晶性澱粉が再結晶化したことが明らかになった。
【0028】
図3は、比較例1に係る米粉の広角X線回折の結果である。図3に示される通り、比較例1では、加熱の前後において回折像はほぼ変化がなく、結晶化している澱粉に特有のピークも出現していないことが把握できる。すなわち、比較例1では、結晶構造が加熱により変化せず、再結晶化していないことが明らかになった。なお、比較例1では、加熱前に回折角(2θ)が13°および20°の付近にピークが観測されたが、実施例1では、加熱前にこれらのピークは観測されない。
【0029】
ここで、澱粉を再結晶化させる手法としては、澱粉材料を加熱後に糊化し、冷却することで再結晶化(いわゆる老化)させる手法が従来(以下「従来例」という)知られている。しかし、従来例によれば、加熱後に冷却する工程を行わなければならず、時間および手間がかかる。それに対して、本発明に係る再結晶化方法によれば、冷却することなく加熱のみの簡便な工程で澱粉材料中の低結晶性澱粉を再結晶化させることができる。一方で、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕する製造方法以外で製造された澱粉材料の低結晶性澱粉(比較例1の低結晶性澱粉)は、加熱のみでは、再結晶化することはない。
【0030】
実施例2および比較例2について説明する。実施例2は、実施例1の米粉に脂肪酸を添加したものであり、比較例2は、比較例1の米粉に脂肪酸を添加したものである。脂肪酸はオレイン酸を使用した。実施例2および比較例2に係る脂肪酸を添加した米粉を加熱した。そして、実施例2および比較例2について加熱前と加熱後とにおいて広角X線回折を行った。
【0031】
なお、参考例1の米粉に脂肪酸を添加した参考例2についても広角X線回折を行った。図4は、参考例2の広角X線回折の結果である。図4に示される通り、参考例2では、参考例1と同様に、加熱の前後において結晶構造に変化がなく、回折角(2θ)が15°、17°および18°の付近にそれぞれピークを示す。すなわち、参考例2においても参考例1と同様に、加熱の前後において、結晶化している澱粉に特有のピークが観測される。なお、実際には、脂肪酸を添加することで15°、17°および18°の付近からピークの位置が多少ずれる場合もある。
【0032】
図5は、実施例2に係る米粉の広角X線回折の結果である。図5に示される通り、実施例2では、加熱の前後において回折像が大きく変化することが把握できる。具体的には、実施例1と同様に、回折角(2θ)が15°、17°および18°の付近にそれぞれピークが出現した。ただし、実施例2では、実施例1と比較して、加熱後の回折像の変化がさらに大きい。加熱後の実施例2では、加熱後の参考例2とほぼ同じ回折像が観測されたことからも、実施例1よりも再結晶化の度合いが大きいことが確認できる。以上の説明から理解される通り、脂肪酸が添加された実施例2では、効率的に再結晶化したことが明らかになった。
【0033】
図6は、比較例2に係る米粉の広角X線回折の結果である。図6に示される通り、比較例2では、加熱の前後において回折像に大きな変化がなく、結晶化している澱粉に特有のピークも出現していないことが把握できる。すなわち、比較例2では、比較例1と同様に、結晶構造が加熱により変化せず、再結晶化していないことが明らかになった。
【0034】
図7は、本発明における澱粉材料(すなわち原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造されたもの)中の低結晶性澱粉を模式的に表した図である。具体的には、アミロペクチンの二重螺旋構造が図示されている。図7に例示される通り、加熱前の澱粉材料中のアミロペクチンは二重螺旋が開いた状態になっている。したがって、脂肪酸が澱粉材料に添加されると、アミロペクチンの二重螺旋の中に入り込み、脂肪酸とアミロペクチンとが複合化する。そして、脂肪酸が二重螺旋に入り込んだ状態で加熱すると、脂肪酸が二重螺旋から追い出される。その結果、二重螺旋が閉じて、アミロペクチンが効率的に再結晶化すると考えられる。
【0035】
<クッキーの作製>
原料の品種が相違する5種類の米粉1~5からクッキーを作製した。米粉1~5の原料は以下の通りである。米粉1~5は、原料となる米を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造された。
米粉1 A6系統の米(アミロースの含有量:45質量%)
米粉2 あきたさらり(アミロースの含有量:30質量%)
米粉3 秋田63号(アミロースの含有量:20質量%)
米粉4 ミルキークイーン:(アミロースの含有量:8質量%)
米粉5 ヒメノモチ(アミロースの含有量:0質量%)
アミロースの含有量は、澱粉を100質量%としたときの含有量である。
【0036】
クッキーの材料は以下の通りである。
米粉1~5 50g
オレイン酸 30g
砂糖 20g
【0037】
上記の材料を低速で2分間にわたり混練した後に、中速で4分間にわたり混練することで生地を作製した。そして、直径45mmで厚さが6mmとなるように型抜きを行った。その後、型抜き後の生地を180℃で15分間にわたりオーブンで焼成することでクッキーを作製した。
【0038】
図8は、米粉1~5について、焼成前の生地と焼成後のクッキーとにおける広角X線回折の結果である。図8に示される通り、全ての米粉1~5について、焼成後には焼成前には観測できなかった結晶化に特有のピーク(15°、17°および18°の付近のピーク)が出現することが把握できる。すなわち、全ての米粉1~5において米粉中の低結晶性澱粉が再結晶化された。なお、脂肪酸を添加して加熱することで低結晶性澱粉を再結晶化させた場合、従来例(加熱および冷却)により再結晶化させた場合よりも、再結晶化の度合いが顕著になる。
【0039】
なお、米粉1~5について、脂肪酸を添加せずに、加熱前と加熱後とで広角X線回折を行った。図9は、米粉1~5における加熱前後の広角X線回折の結果である。図9に例示される通り、全ての米粉1~5において、加熱後に結晶化に特有のピーク(15°、17°および18°の付近のピーク)が出現する。すなわち、原料の米の種類にかかわらず、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造された米粉については、加熱により再結晶化することが観測できた。
【0040】
以上の説明から理解される通り、本発明に係る再結晶化方法により澱粉材料中の低結晶性澱粉が再結晶化する。したがって、冷却することなく加熱のみの簡便な工程で澱粉材料中の低結晶性澱粉を再結晶化させることが可能である。
【0041】
なお、実施例では、米粉を澱粉材料として例示したが、他の種類の原料に係る澱粉材料においても、加熱しながら剪断条件下で粉砕されたものであれば、加熱により再結晶化する。なお、澱粉材料中の低結晶性澱粉が再結晶化したか否かの判断は、広角X線回折において結晶化に特有のピークが加熱後に出現した否かで判断することが可能である。澱粉の結晶化に特有のピークは原料に応じて異なる。
【0042】
本発明は、再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料、およびその製造方法としても観念できる。具体的には、低結晶性澱粉を再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料を製造する方法であって、低結晶性澱粉を含む澱粉材料を加熱することで、当該低結晶性澱粉を再結晶化させる工程を含み、その低結晶性澱粉は、原料を加熱しながら剪断条件下で粉砕することで製造されたものである、再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料の製造方法である。すなわち、難消化性澱粉の製造方法とも換言できる。また、本発明に係る再結晶化方法により再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料、および、当該再結晶化させた澱粉を含む澱粉材料を含有する食品(例えば実施例に係るクッキー)および飼料としても観念できる。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9