(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191162
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電子写真用ベルト、電子写真用画像形成装置、電子写真用ベルトの製造方法、及びワニス
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221220BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 552
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081087
(22)【出願日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021099786
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】浅香 明志
(72)【発明者】
【氏名】小林 遊磨
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大輝
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB01
2H033BB02
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB12
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BE00
2H033BE03
2H171FA19
2H171FA24
2H171FA26
2H171FA27
2H171FA30
2H171PA05
2H171PA08
2H171PA09
2H171QA02
2H171QA08
2H171QB03
2H171QB15
2H171QB33
2H171QC03
2H171QC37
2H171QC39
2H171QC40
2H171TA05
2H171TA12
2H171UA03
2H171UA06
2H171UA07
2H171UA12
2H171VA02
2H171VA06
2H171XA03
(57)【要約】
【課題】厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械強度を有する電子写真用ベルトを提供する。
【解決手段】エンドレス形状の電子写真用ベルトであって、基層を有し、該基層は、結着樹脂としてのポリイミドと、カーボンナノチューブと、を含むポリイミド膜を含み、該ポリイミドのイミド化率が80%以上であり、該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在しており、該基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレス形状の電子写真用ベルトであって、
基層を有し、
該基層は、結着樹脂としてのポリイミドと、カーボンナノチューブと、を含むポリイミド膜を含み、
該ポリイミドのイミド化率が80%以上であり、
該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在しており、
該基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である、ことを特徴とする電子写真用ベルト。
【請求項2】
前記基層の厚さ方向の熱伝導率が0.7W/m・K以上である、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブのラマン分光スペクトルのG/D比が10以上である、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項4】
該基層が、前記カーボンナノチューブの質量に対して、前記カーボンナノチューブの表面に存在する前記樹脂を5~20質量%含有している、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項5】
前記基層の厚さが40~150μmである、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項6】
前記基層の外周面上に、フッ素樹脂を含む表面層をさらに有する、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項7】
前記基層と前記表面層との間に、弾性層をさらに有する、請求項6に記載の電子写真用ベルト。
【請求項8】
前記電子写真用ベルトが、定着ベルトである、請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電子写真用ベルトを製造する方法であって、
(i)ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの前記樹脂を、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
(ii)前記工程(i)で得た、表面の少なくとも一部に前記樹脂を付着させた前記カーボンナノチューブを、ポリイミド前駆体を含む溶液に分散させて分散液を得る工程と、
(iii)該分散液の塗膜を形成する工程と、
(iv)該塗膜を加熱して、該ポリイミド前駆体をイミド化させて、前記基層を形成する工程と、
を有することを特徴とする電子写真用ベルトの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電子写真用ベルトを有する電子写真用画像形成装置。
【請求項11】
ポリイミド前駆体と、カーボンナノチューブと、溶媒と、を含有するワニスであって、
該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在している、ことを特徴とするワニス。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブのラマン分光スペクトルのG/D比が10以上である、請求項11に記載のワニス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真用ベルト、電子写真用画像形成装置、電子写真用ベルトの製造方法、及びワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用ベルトは、電子写真用画像形成装置における使用において、加熱や加圧、屈曲等の負荷を受ける。
例えば、定着ベルトとしての電子写真用ベルトは、例えば、ベルト(フィルム)加熱方式の定着装置においては、該定着ベルトに対向配置された加圧部材と共に定着ニップ部を形成する。そして、定着ニップ部において、定着ベルトは、当該定着ベルトに蓄えられた熱を被記録材上のトナーに伝える。加熱されたトナーは溶融し、被記録材に定着される。すなわち、定着ベルトは未定着トナーを被記録材に定着させる役割を担っている。
【0003】
より具体的な構成例を挙げる。エンドレス形状の定着ベルトは、その内側に発熱体としてのセラミックヒータあるいは圧接部材としての加圧パッドが設けられている。当該定着ベルトに対向する位置には、回転可能な加圧ローラや回転可能な加圧ベルトが配置される。当該定着ベルトは、その内部のセラミックヒータ又は加圧パッドによって、加圧ローラや加圧ベルトに付勢され、定着ニップ部が形成される。当該定着ニップ部には、未定着トナー画像を担持させた被記録材が導入され、定着ベルトの回転と共に搬送される。その過程で、定着ベルトからの熱が未定着トナーや被記録材に与えられると共に、定着ニップ部で未定着トナーに加わる圧力によって溶融したトナーが被記録材上に圧着されて、定着トナー画像が形成される。このように定着ベルトには、定着ニップ部において、繰り返し、高い圧力と高温とが加えられることとなる。
【0004】
従って、定着ベルトとして使用される電子写真用ベルトの基層には十分な耐熱性と高い機械的強度が要求される。高い機械的強度の例としては、例えば、繰り返しの屈曲によってもクラックが発生しないような強度を含む。そこで、電子写真用ベルトの基層には、優れた機械的強度を有する樹脂としてポリイミドが好ましく用いられる。
【0005】
一方で、ポリイミドは、金属やセラミックスに比べて熱伝導率が数桁低い。そのため、プリント速度の高速化やヒータへの熱供給に要する消費電力の低減(省エネ化)、定着装置の小型化といった要求を満たすために、定着ベルトの基層に対して熱伝導性の向上が求められている。
【0006】
最近では、導電性や熱伝導性等の新たな機能を付与したポリイミドからなる膜が着目されている。
特許文献1には、ポリイミド膜を基層とする定着ベルトの熱伝導性を高めることにより、消費電力の低減、定着速度の高速化、定着温度の低温化等を達成させるために、熱伝導性に優れた無機フィラーを含有させる方法が開示されている。
高熱伝導性粒子(フィラー)をポリイミド中に充填させることで高熱伝導化を図る場合、フィラーを単純に均一分散させるだけではその高い熱伝導率を反映した高熱伝導化は難しい。またフィラーの高充填化は、ポリイミドが本来有する優れた機械的強度の顕著な低下を招く。従って、少ないフィラー添加量で高い熱伝導性を付与することが求められる。
ポリイミド膜に新たな機能を付与するためのフィラーとして、電気的又は熱的特性が特に優れているカーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)を用いることが検討されており、該CNTを配合したポリイミド膜の開発が盛んに行われている。
【0007】
特許文献2には、定着ベルト用に好適な、高い熱伝導率を有するCNT含有ポリイミド膜が開示されている。
しかしながら、CNTは繊維状のカーボンであり、ファンデルワールス力によって凝集しやすく、ポリイミド膜中で凝集塊となって局在化する傾向がある。そのため、凝集塊となったCNTを含包するポリイミド膜においては、ポリイミドが本来有する高い機械的強度が著しく損なわれる場合がある。例えば、特許文献3の各実施例に示されているように、熱伝導率を高くするためにCNTの配合割合を高くすると、ポリイミド膜の機械的強度が著しく低下する。
【0008】
そこで、ポリイミド膜におけるCNTによる凝集塊の生成を抑制するために、CNTを界面活性剤や特定のポリマーと混合して分散させた溶液を調製する方法が検討されている。
特許文献3には、非イオン性界面活性剤及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)を含有するアミド系極性有機溶媒に、CNTを分散させることが開示されている。これにより得られた分散液と、ポリイミド前駆体とを混合し、温度350℃で60分間硬化して脱水イミド化反応を行うことで、CNTが均一に分散されたポリイミド膜が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-80580号公報
【特許文献2】特開2004-123867号公報
【特許文献3】特開2006-124613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの検討によれば、特許文献3に記載のポリイミド膜は、電子写真用ベルトの基層として用いる上では、機械強度と、厚み方向の熱伝導性との双方において未だ改善の余地があった。
【0011】
本開示の少なくとも一つの態様は、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械強度を有する電子写真用ベルトの提供に向けたものである。
また、本開示の少なくとも一つの態様は、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械強度を有する電子写真用ベルトの製造方法の提供に向けたものである。
また、本開示の少なくとも一つの態様は、厚さ方向に所定の熱伝導性を有すると共に、機械的強度に優れるポリイミド膜を与え得るワニスの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様によれば、エンドレス形状の電子写真用ベルトであって、基層を有し、該基層は、結着樹脂としてのポリイミドと、カーボンナノチューブと、を含むポリイミド膜を含み、該ポリイミドのイミド化率が80%以上であり、該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在しており、
該基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である、電子写真用ベルトが提供される。
本開示の他の態様によれば、上記の電子写真用ベルトの製造方法であって、(i)ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの前記樹脂を、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
(ii)前記工程(i)で得た、表面の少なくとも一部に前記樹脂を付着させた前記カーボンナノチューブを、ポリイミド前駆体を含む溶液に分散させて分散液を得る工程と、
(iii)該分散液の塗膜を形成する工程と、
(iv)該塗膜を加熱して、該ポリイミド前駆体をイミド化させて、該基層を形成する工程と、を有する電子写真用ベルトの製造方法が提供される。
本開示のさらに他の態様によれば、ポリイミド前駆体と、カーボンナノチューブと、溶媒と、を含有するワニスであって、該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在している、ワニスが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械強度を有する電子写真用ベルトを得ることができる。また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械強度を有する電子写真用ベルトの製造方法を得ることができる。また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、機械強度に優れたポリイミド膜を与え得るワニスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】電子写真用ベルトの一例を示す概略断面図である。
【
図3】電子写真用画像形成装置の一例を示す概略断面図である。
【
図4】パルスNMR法により得られたエネルギー減衰曲線を示す図である。
【
図5】CNTについてのラマン分光スペクトルを示す図である。
【
図6】CNTの表面に対する被覆用樹脂の吸着等温線を示す図である。
【
図7】焼成温度とイミド化率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
本開示を実施するための具体的な形態を以下に示す。
本開示の一態様に係る電子写真用ベルトは、基層を具備しているエンドレス形状の電子写真用ベルトである。該基層は、結着樹脂としてのポリイミドと、カーボンナノチューブと、を含むポリイミド膜からなる。該ポリイミドのイミド化率は80%以上であり、該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在している。また、該基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である。また、該基層の厚さ方向の熱伝導率は、好ましくは、0.4W/m・K以上、より好ましくは、0.7W/m・K以上である。
【0016】
以下、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を被覆用樹脂ともいう。また、表面の少なくとも一部に被覆用樹脂が存在しているカーボンナノチューブを表面被覆CNTともいう。
【0017】
検討に依れば、特許文献3の開示に従ってポリイミド膜を製造したところ、当該ポリイミド膜の機械的強度が著しく低くなる場合があった。そこで、さらに検討を重ねた結果、脱水イミド化反応を行うための焼成温度を350℃以上としたとき、得られる基層の機械的強度が低くなる場合があることがわかった。
【0018】
ポリイミド膜の製造において、ポリイミド膜に含まれるポリイミドのイミド化率と、ポリイミド膜の機械的強度とは相関性があり、ポリイミド膜に含まれるポリイミドのイミド化率が高いほど、高い機械的強度を有するポリイミド膜となる。そして、一般にポリイミド膜を製造する際の焼成温度は300℃以上であるが、高いイミド化率、特に、80%以上のイミド化率を有するポリイミド膜を製造するためには、さらに高い焼成温度、即ち350℃以上が必要となる。
【0019】
つまり、脱水イミド化反応を行うための焼成温度を350℃もしくはそれ以上とすることで、ポリイミド膜に含まれるポリイミドのイミド化率を80%以上に高めることができる。本来であれば、このことにより高い機械的強度を有するポリイミド膜が得られる筈である。しかしながら、特許文献3に記載の技術を用い、焼成温度を350℃以上としたときには、得られる基層の機械的強度が低くなる場合があった。この理由は、次のように考えられる。
【0020】
特許文献3に記載の方法では、CNTをポリイミド膜中に均一に分散させるために、ポリイミド前駆体と混合する前に、CNTを非イオン性界面活性剤及び/又はPVPを含有するアミド系極性有機溶媒に分散させる。これによりCNTの表面の少なくとも一部に、非イオン性界面活性剤及び/又はPVPが存在することとなる。これにより、その後、ポリイミド前駆体と混合し、脱水イミド化反応する過程においても、CNTが凝集することを抑制でき、CNTが均一に分散したポリイミド膜を得ることができる。
【0021】
しかしながら、イミド化率を高めるために焼成温度を350℃以上とした場合、CNTの表面に存在する非イオン性界面活性剤及び/又はPVPの少なくとも一部が、高熱により分解し、消失すると考えられる。そのため、CNTを分散させる効果が得られず、脱水イミド化反応の過程でCNTの凝集が生じ、その結果得られたポリイミド膜の機械的強度が低下したと考えられる。
【0022】
CNTをポリイミド膜中で均一に分散させるために従来用いられてきた低分子の有機化合物(界面活性剤等)又は樹脂についても上記と同様の現象が生じると考えられる。つまり、例えば、ヤシ油、パーム油、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アシル-N-メチルタウリン塩、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の低分子の化合物、また、ポリエステル系、ポリアクリル系又はポリエーテル系の樹脂、PVP又はPVA等のビニル系の樹脂は、いずれも高い焼成温度を経ることで分解、消失すると考えられる。
【0023】
本開示においては、CNTをポリイミド膜中で均一に分散させるためのCNTの表面処理用の樹脂(以降、「被覆用樹脂」ともいう)としては、例えば、下記一般式(I)で示されるフェニルスルホニル構造を含む樹脂が挙げられる。
【化1】
【0024】
具体的には、例えば、ポリフェニルスルホン(以下、PPSU)、ポリスルホン(以下、PSU)、及びポリエーテルスルホン(以下、PESU)からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が挙げられる。PPSU、PSU、及びPESUは、一般的にそれぞれ下記一般式(II)(PPSU)、下記一般式(III)(PSU)、及び下記一般式(IV)(PESU)で表される。なお、各々の式中のnは1以上の整数を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【0025】
上記被覆用樹脂は、CNTへの吸着力に優れる。即ち、CNTの表面の少なくとも一部に上記被覆用樹脂を付着させて表面被覆CNTを得た後、表面被覆CNTとポリイミド前駆体とを混合したとき、上記被覆用樹脂はCNTの表面から離脱しにくい。これによりポリイミド前駆体と混合した後も、表面被覆CNTの分散性を維持することができる。
【0026】
また、一般式(I)で示されるフェニルスルホニル構造を含む樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックスに属する。スーパーエンジニアリングプラスチックスは、耐熱性が高いとされているポリアセタール(POM)又はポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックスよりもさらに高い耐熱性を有する。
具体的には、本開示において用いられる被覆用樹脂は、熱重量測定(TG)における1%質量減少時温度が350℃以上500℃以下であることが好ましい。
【0027】
本開示においては、上記被覆用樹脂と、CNTとを混合してCNTの表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を付着させる。そして、これにより得られた表面被覆CNTを、ポリイミド前駆体を含む溶液に分散させた後、イミド化を行う。
【0028】
ここで、ポリイミド膜のイミド化率を高めるために、例えば350℃以上の高い焼成温度でイミド化を行った場合においても、被覆用樹脂は高い耐熱性を有することから分解しない。そのため、CNTは高い分散状態を維持することができる。即ち、CNTの凝集と、それによるポリイミド膜の機械的強度の低下とを抑制しつつ、イミド化率を高くすることができ、ポリイミド膜が本来有する機械的強度を効果的に引き出すことができる。これにより、本開示では高機械強度と高熱伝導性とを兼備した電子写真用ベルトを得ることが可能となる。
【0029】
具体的には、本開示の一態様に係る電子写真用ベルトは、基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である。また、基層の厚さ方向の熱伝導率は、好ましくは0.4W/m・K以上、より好ましくは0.7W/m・K以上である。
【0030】
本開示の一態様に係る電子写真用ベルトが有する基層は、カーボンナノチューブの質量に対して、カーボンナノチューブの表面に存在する上記被覆用樹脂を5~20質量%含有していることが好ましい。
【0031】
上記被覆用樹脂としては、市販品を使用することが可能であり、PPSUとしては、「ウルトラゾーンP」(商品名;BASF社)、「レーデルPPSU」(商品名:Solvay社)等が挙げられる。また、PSUとしては、「ウルトラゾーンS」(商品名;BASF社)、「ユーデルPSU」(商品名;Solvay社)等が挙げられる。また、PESUとしては、「ウルトラゾーンE」(商品名;BASF社)、「ベラデルPESU」(商品名;Solvay社)、「スミカエクセルPES」(商品名;住友化学社)、「三井PES」(商品名;三井化学ファイン社)等が挙げられる。
【0032】
(CNT)
CNTとしては、ポリイミド膜が本来有する機械強度を維持させる(機械強度の低下を防ぐ)観点から、応力分散の効果が期待できる繊維径の小さいCNTが好ましい。また、電子写真用ベルトの基層の熱伝導性を向上させる観点から、熱伝導率が高いCNTが好ましい。
かかるCNTの例としては、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)(1枚)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)(2枚)、又はマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)(3枚以上)が挙げられる。
MWCNTのウォール数は、所望のウォールで製造できない伝統的なマルチウォールカーボンナノチューブでは10枚以上(未確認)とされている。本開示においては、MWCNTのウォール数に関して特に限定はない。
【0033】
さらに、CNTは、本開示の目的を阻害しない範囲において、炭素以外の元素、該元素は限定されるものではないが、例えば窒素、ホウ素、酸素、硫黄等を含んでいても良い。
CNTは、原子間結合の幾何学的特徴に応じて、アームチェアー(armchair)型、ジグザグ(zigzag)型、カイラル(chiral)型等の構造を取り得るが、本開示においては、いずれの構造を有するCNTでも用いることができる。
【0034】
CNTの製造方法は特に限定されないが、以下の製造法によって製造されたCNTを使用して構わない。
【0035】
(1)アーク放電法
大気圧よりやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下、炭素棒の間に20V,50A程度のアーク放電を行うと、陰極堆積物の中にMWCNTが得られる。また炭素棒中にニッケル/コバルト等の触媒を混ぜてアーク放電を行うと、容器の内側に、すすとして付着する物質の中にSWCNTが生成される。アーク放電法では欠陥が少なく品質の良いCNTが得られるとされている。
【0036】
(2)レーザ蒸発法
ニッケル/コバルト等の触媒を混ぜた炭素にYAGレーザの強いパルス光を照射するとSWCNTが得られる。比較的高い純度のSWCNTを得る事ができ、また条件変更によりチューブ径の制御が可能である。
【0037】
(3)気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)
炭素源となる炭素化合物を500~1000℃で触媒金属微粒子と接触させることによりCNTが得られる。触媒金属の種類及びその配置の仕方、炭素化合物の種類等に種々のバリエーションがあり、条件の変更によりMWCNTとSWCNTとのいずれも合成することができる。
また、触媒を基板上に配置することにより基板面に垂直に配向したCNTを得ることが可能である。この方法は、原料をガスとして供給できるために大量合成に最も向いている製造法とされている。
【0038】
CVD法には、以下の流動触媒法及びゼオライトに担持した触媒を用いる方法等がある。
流動触媒法は、上記気相成長法を、発展させた方法である。流動触媒法は、触媒微粒子をあらかじめ基板上に置く方法ではない。流動触媒法では、原料炭化水素(ベンゼンやトルエン等)に、触媒微粒子あるいはCVD条件下で触媒微粒子に転化する触媒前駆体を分散させる。そして、触媒微粒子又は触媒前駆体が分散した原料炭化水素を、水素と共に約1000℃に加熱した反応器に送って反応させ、MWCNTを得る。
流動触媒法に用いられる触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等が挙げられる。
後処理として、1200℃に加熱してCNTに付着しているタール分を飛ばし、さらにグラファイト化が不十分な部分を2000℃の高温で処理してグラファイト化する。
【0039】
また、ゼオライトに担持した触媒を用いる方法では、触媒粉末を、鉄/コバルトを多孔性珪酸塩の一種であるY型ゼオライト上に配置する。そして、この触媒粉末にアセチレンとアルゴンの混合ガスを600~900℃で接触させる。これにより不純物の少ないCNTが得られる。
触媒粉末への混合ガスの接触条件を変えることにより、SWCNTとMWCNTを作り分けることが可能である。また、ゼオライトの種類を変えることにより、生成するCNTの形状が変化する。
【0040】
上記の他に、炭素源としてカルビン類を用いる製造法、又は炭素前駆体ポリマーチューブを炭素化する製造法がある。
炭素源としてカルビン類を用いる製造法は、ポリ四フッ化エチレンをマグネシウムで還元してカルビン類を生成し、電子線等を照射してカルビン類からCNTを合成する製造法である。
【0041】
炭素前駆体ポリマーチューブを炭素化する製造法では、炭素前駆体ポリマー(ポリアクリロニトリル等)からなるシェルと、熱分解消失性ポリマー(ポリエチレン)からなるコアと、からなるコア/シェル粒子を、熱分解消失性ポリマーに分散させる。そして、これを溶融紡糸してコア/シェル粒子を棒状に引き伸ばした後、不融化/炭素化工程を経てCNTを得る。このように、炭素前駆体ポリマーチューブを炭素化する製造法は、ユニークな製造法である。
【0042】
CNTは、熱伝導性に優れる点から、気相成長法(CVD法)によって製造されたマルチウォールカーボンナノチューブであることが好ましい。CVD法によって製造されたマルチウォールカーボンナノチューブが熱伝導性に優れる理由としては、CNTの表面の欠陥が少ないことが挙げられる。
【0043】
CNTの表面は、ベンゼン環がすべて隣り合うように結合したシート構造(グラフェン構造)を有し、理論的はSP2炭素から構成される。しかし、製造法によってSP2炭素だけでなく、一部分にSP3炭素を有する場合がある。SP3炭素には水素、酸素、窒素等の原子が結合している。このようなSP3炭素を有する部分が欠陥と呼ばれている。
熱はCNT上では前記グラフェン構造を伝導するため、欠陥が多いCNTは、伝熱性に劣る。
【0044】
CNTにおける欠陥の多少を評価する方法としては、ラマン分光スペクトルにおけるG/D比を測定する方法が挙げられる。
G/D比のGは、ラマン分光スペクトルの1590cm-1付近のピーク強度であり、グラフェン構造(SP2炭素で構成されるシート構造)に由来のピーク強度である。また、G/D比のDは、1350cm-1付近のピーク強度であり、欠陥由来のピーク強度である。G/D比が大きい(Dの強度に対するGの強度が大きい)ほど、CNTにおける欠陥が少ないことを意味する。
CNTのラマン分光スペクトルのG/D比は、10以上であることが好ましく、15以上であることがさらに好ましい。上記G/D比が10以上のCNTの使用は、本開示に係るポリイミド膜の厚さ方向の熱伝導率をより高く、具体的には例えば、0.7W/m・K以上とするうえで特に有効である。
【0045】
(表面被覆CNT)
表面被覆CNTを製造する方法としては特に限定されないが、予め被覆用樹脂を溶媒に溶解させ、そこにCNTを投入しても構わない。また、溶媒にCNTを投入攪拌し、そこに被覆用樹脂を加えても構わない。いずれにしても、被覆用樹脂が溶解する溶媒を用意する必要がある。
前記溶媒としては、被覆用樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定はないが、被覆用樹脂を容易に溶解することからアミド系溶媒が好適に使用できる。アミド系溶媒としてはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N-メチルピロリドン(MPD)、テトラメチルウレア(TMU)又はヘキサメチルホスホリックアミド(HMPA)等が挙げられる。
【0046】
表面被覆CNTは、耐熱性が非常に高い。具体的には、表面被覆CNTの熱重量測定(TG)における1%質量減少時温度は350℃以上であることが好ましい。
また、表面被覆CNTの熱重量測定(TG)における1%質量減少時温度は、400℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。
表面被覆CNTが、上述したような高い耐熱性を有することで、高イミド化率のポリイミド膜を製造するために、焼成温度を例えば350℃以上とした場合においても、分解やガス化が生じない。
【0047】
(ワニス)
次に、本開示の一態様に係るワニスについて説明する。本開示に係るワニスは、本開示の一態様に係る、厚さ方向に所定の熱伝導性を有し、かつ、高い機械的強度を有するポリイミド膜を形成することができるものである。当該ワニスは、ポリイミド前駆体と、前記の表面被覆CNTと、溶媒とを含有する。
【0048】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体としては、以下のような一般的な製造法で得られるポリアミック酸又はポリアミック酸溶液を用いることができる。
まず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、溶媒中で不活性ガス雰囲気下、常温常圧で反応させる製造法が挙げられる。
例えば、ピロメリット酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを溶媒中で攪拌することにより、直ちにポリアミック酸を得ることができる。
ジアミンの種類等に応じて、反応溶媒として、上述したようなアミド系溶媒、又は、THF(テトラヒドロフラン)、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)のような溶媒を使用でき、ポリアミック酸溶液として得てもよい。
【0049】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンについて以下に述べる。
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ヘキサヒドロ-4,8-エタノ-1H,3H-ベンゾ[1,2-c:4,5-c’]ジフラン1,3,5,7-テトロン等が挙げられる。
また、芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物等が挙げられる。
特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性からテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物は一種である必要はなく、複数種の混合物であっても構わない。
【0050】
また、ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-ヒドロキシ-4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジアミン、ジ(p-アミノシクロヘキシル)メタン、1,4-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式構造を含むジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3-メチルヘプタメチレンジアミン、4,4-ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11-ジアミノドデカン、1,2-ビス-3-アミノプロポキシエタン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、3-メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘプタメチレンジアミン、3-メチルへプタメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,17-ジアミノエイコサデカン、1,10-ジアミノ-1,10-ジメチルデカン、1,12-ジアミノオクタデカン等の脂肪族ジアミン等を挙げることができる。
特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性から、ジアミンとしては芳香族ジアミンが好ましい。
ジアミンは一種である必要はなく、複数種の混合物であっても構わない。
【0051】
ポリアミック酸又はポリアミック酸溶液は市販品を購入して使用することもできる。
具体的には、「Uイミド」シリーズ(商品名;ユニチカ社)、「ユピア」シリーズ及び「U-ワニス」シリーズ(いずれも商品名;宇部興産社)、「HCI」シリーズ(商品名;日立化成社)、「エクリオス」シリーズ(商品名;三井化学社製)及び「Pyre-M.L」シリーズ(商品名;I.S.T社)等が使用できる。
【0052】
本開示に係るワニスの製造法は特に限定がなく、例えば、予め表面被覆CNT又は表面被覆CNTの分散液を製造した後に、ポリイミド前駆体を含む溶媒中に投入し、攪拌装置で混合することによって、ワニスを得ることができる。
ワニス中の表面被覆CNTの配合量に特に限定はないが、ポリアミック酸の量に対して、表面被覆CNTの配合量が1体積%以上50体積%以下であることが好ましい。さらに好ましい配合量は10体積%以上30体積%以下である。ワニス中のポリアミック酸の量に対する表面被覆CNTの配合量が10体積%以上であれば、基層の熱伝導性を高くすることができ、30体積%以下であれば、基層の機械的強度を高くすることができる。
【0053】
(ポリイミド膜)
本開示に係るワニスを用いて、本開示に係る電子写真用ベルトの基層として用いるポリイミド膜が製造できる。製造法は限定しないが、ワニスが適度な粘度となるように、溶媒の沸点以下の温度で加熱保持し、一部蒸発させる工程と、イミド化反応を起こすために300℃以上に加熱して保持する工程とを含む製造法が好ましい。例えば、芯体上に高さ0.5mm程度の土手を金属板で作り、ワニスを流し込む。ワニスをバーコーターで塗工し、ホットプレート上に乗せ、200℃で1時間保持して溶媒を蒸発させる。次いでマッフル炉中で、350℃で1時間保持することによってポリイミド膜が得られる。
【0054】
(ポリイミド)
本開示に係る電子写真用ベルトの基層として製造されたポリイミド膜が含有するポリイミドは、イミド化率が80%以上である。
ポリイミドは、例えば、上述したポリアミック酸と溶媒とを含む前駆体溶液を加熱により脱水環化(イミド化)することによって得ることができる。
【0055】
本開示では、ポリイミドにCNTを配合するため、高い引張強度と靭性をもつポリイミドが好ましい。ポリイミド自身の強度が十分でないと、CNTの配合により必然的に靭性が低下して引張強度(破断応力)も低下するため、実用に供することができなくなる恐れがある。また、定着ベルトの基層として用いる場合においては、ヒータから与えられる熱による変形を防ぐためにより高い耐熱性(ガラス転移温度)を有することが必要とされる。
以上のことから最も好ましいのは、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸を用いて成形加工されるポリイミドである。
【0056】
(電子写真用ベルト)
図1は、本開示に係る電子写真用ベルトの一例を示す概略断面図である。電子写真用ベルト1は、上記で説明したポリイミド膜からなる基層1aと、基層1aの外周面上に、少なくともフッ素樹脂を含む離型層としての表面層1cとを有している。
基層1aの厚さは40~150μmであることが好ましい。
【0057】
表面層1cはフッ素樹脂を含み、フッ素樹脂が有する低い表面エネルギーによってトナーの付着を防止する役割を果たす。フッ素樹脂を含む表面層1cとしては、フッ素樹脂をチューブ状に成形したものが用いられる。また、フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が用いられる。フッ素樹脂としては、上記例示列挙した材料中、成形性やトナー離型性の観点からPFAが好ましい。
【0058】
表面層1cの厚さは、50μm以下が好ましい。表面層1cの下層に弾性層1bを有する場合、弾性層1bの弾性を維持し、電子写真用ベルト1としての表面硬度が高くなりすぎることを抑制できるからである。
【0059】
フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、接着性を向上させることができる。
【0060】
さらに、基層1aと表面層1cとの中間層としてシリコーンゴムからなる弾性層1bを付加的に設けてもよい。弾性層1bは、例えば、トナー定着時にトナー画像と記録材の凹凸に対して均一な圧力を与えるために定着部材に担持させる弾性層として機能する。かかる機能を発現させる上で、弾性層1bの材料としては、加工が容易である、高い寸法精度で加工できる、加熱硬化時に反応副生成物が発生しない等の理由から、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いるのが好ましい。また、後述するフィラーの種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、弾性を調整することができる。
【0061】
一般に、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムには、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンと、架橋触媒として白金化合物とが含まれている。ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、白金化合物の触媒作用により、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のアルケニル基との反応によって架橋構造を形成する。
【0062】
弾性層1bは、電子写真用ベルト1の熱伝導性の向上、補強、耐熱性の向上等のためにフィラーを含んでいてもよい。
特に、電子写真用ベルトの熱伝導性を向上させることを目的として、フィラーは高熱伝導性であることが好ましい。具体的には、高熱伝導性フィラーの材料としては、無機物、特に金属、金属化合物等を挙げることができる。
【0063】
高熱伝導性フィラーの材料の具体例としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
高熱伝導性フィラーの平均粒径は、取り扱い及び分散性の観点から1μm以上50μm以下が好ましい。また、高熱伝導性フィラーの形状としては、球状、粉砕状、板状、ウィスカ状等が挙げられるが、分散性の観点から球状であることが好ましい。
【0064】
電子写真用ベルトの表面硬度への寄与、及び定着ベルトとして用いたときの定着時の未定着トナーへの熱伝導の効率から、弾性層1bの厚さは100μm以上500μm以下が好ましく、200μm以上400μm以下がより好ましい。
【0065】
本開示に係る電子写真用ベルトを製造する方法としては、以下の(i)~(iv)の工程を有する電子写真用ベルトの製造方法が挙げられる。
(i)ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を、カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に付着させる工程。
(ii)上記工程(i)で得た、表面の少なくとも一部に樹脂を付着させたカーボンナノチューブを、ポリイミド前駆体を含む溶液に分散させて分散液を得る工程。
(iii)該分散液の塗膜を形成する工程。
(iv)該塗膜を加熱して、該ポリイミド前駆体をイミド化させて、前記基層を形成する工程。
【0066】
上記の工程(iv)におけるイミド化のための焼成温度は、少なくとも250℃以上400℃以下であり、好ましくは300℃以上400℃以下、さらに好ましくは350℃以上400℃以下である。
【0067】
なお、電子写真用ベルトの製造方法は、上記工程(iii)の後、上記工程(iv)の前に、塗膜を例えば50~250℃に加熱して溶媒を除去し、塗膜を硬化させる工程をさらに有していてもよい。
【0068】
(定着装置)
本開示の一態様に係る電子写真用ベルトを定着ベルトとして用いた定着装置の例を以下に説明する。
図2は、本開示に係る電子写真用ベルトを定着ベルトとして用いた定着装置100の一例を示す概略断面図である。
定着装置100は、弾性層を備えた円筒状の定着ベルト(エンドレスベルト)としての電子写真用ベルト1、及び定着ベルトとの間で定着ニップ部14を形成する加圧部材としての加圧ローラ6を備えている。また、定着装置100は、加熱体としての定着ヒータ2、及び耐熱性を有するフィルムガイド兼ヒータホルダ4を備えている。
【0069】
定着ヒータ2は、フィルムガイド兼ヒータホルダ4の下面に該フィルムガイド兼ヒータホルダ4の長手に沿って固定されており、電子写真用ベルト1とその加熱面が摺動可能な構成とされている。そして、電子写真用ベルト1はこのフィルムガイド兼ヒータホルダ4に若干の自由度を持って外嵌されている。フィルムガイド兼ヒータホルダ4は、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で形成されており、定着ヒータ2を保持すると共に電子写真用ベルト1を記録材Pと分離させるための形状にする役割を果たしている。
【0070】
加圧ローラ6は、例えば、ステンレス製の芯金上に、厚さ約3mmのシリコーンゴム層、さらに厚さ約40μmのPFA樹脂チューブが順に積層された多層構造とされている。
この加圧ローラ6の芯金の両端部が装置フレーム13の不図示の奥側と手前側の側板間に回転可能に軸受保持されている。
【0071】
この加圧ローラ6の
図2における上側に、定着ヒータ2、フィルムガイド兼ヒータホルダ4、定着ベルトステイ5、電子写真用ベルト1を備えた定着ユニットが設置される。この定着ユニットは、定着ヒータ2側を下向きにして加圧ローラ6に平行に設置されている。
【0072】
定着ベルトステイ5の両端部は不図示の加圧機構によりその一端側が例えば156.8N(16kgf)、総圧313.6N(32kgf)の力で加圧ローラ6に付勢されている。その結果、定着ヒータ2の下面(加熱面)を、電子写真用ベルト1を介して加圧ローラ6の弾性層に抗して所定の押圧力をもって圧接させ、記録材P上のトナーtの定着に必要な所定幅の定着ニップ部14が形成されている。
【0073】
温度検知手段としてのサーミスタ3(ヒータ温度センサ)は、熱源である定着ヒータ2の裏面(加熱面とは反対側の面)に設置され、定着ヒータ2の温度を検知する機能を担っている。
【0074】
加圧ローラ6は矢印の方向に所定の周速度で回転駆動される。これと圧接された関係にある電子写真用ベルト1は加圧ローラ6によって従動し所定の速度で回転する。このとき、電子写真用ベルト1の内面が定着ヒータ2の下面に密着して摺動しながらフィルムガイド兼ヒータホルダ4の外回りを矢印の方向に従動回転する状態になる。
【0075】
電子写真用ベルト1の内面には半固形状潤滑剤が塗布され、フィルムガイド兼ヒータホルダ4と電子写真用ベルト1の内面との摺動性を確保している。
【0076】
サーミスタ3は、定着ヒータ2の裏面に接触するよう配置され、A/Dコンバータ9を介して制御手段としての制御回路部(CPU)10に接続されている。この制御回路部(CPU)10はそれぞれのサーミスタ3からの出力を所定の周期でサンプリングしており、このように得られた温度情報を温度制御に反映させる構成となっている。つまり、制御回路部(CPU)10は、サーミスタ3の出力をもとに、定着ヒータ2の温調制御内容を決定する。これにより、制御回路部(CPU)10は、電力供給部であるヒータ駆動回路部11による、定着ヒータ2の温度が目標温度(設定温度)となるための定着ヒータ2への通電を制御する役割を果たしている。また、制御回路部(CPU)10は、定着ベルト寿命見積もりシーケンスの制御をする役割も果たしており、加圧ローラ6の駆動モータとA/Dコンバータ9を介して接続されている。
【0077】
定着ヒータ2は、アルミナの基板と、この上に、銀・パラジウム合金を含んだ導電ペーストをスクリーン印刷法によって均一な10μm程度の厚さの膜状に塗布された抵抗発熱体を有している。さらに、この上に、耐圧ガラスによるガラスコートが施された、セラミックヒータとされている。
【0078】
(電子写真用画像形成装置)
本開示に係る電子写真用ベルトを有する上記定着装置を備える電子写真用画像形成装置の例を以下に説明する。
図3は、本開示に係る電子写真用画像形成装置の一例を示す概略断面図である。
【0079】
像担持体としての感光ドラム101は、矢印の反時計方向に所定のプロセス速度(周速度)で回転駆動される。感光ドラム101はその回転過程で帯電ローラ等の帯電装置102により所定極性に帯電処理される。
【0080】
次いで、その帯電処理面にレーザ光学系110から出力されるレーザ光103により、入力された画像情報に基づき露光処理される。レーザ光学系110は不図示の画像読み取り装置等の画像信号発生装置からの目的画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調(オン/オフ)したレーザ光103を出力して感光ドラム101面を走査露光するものである。その結果、この走査露光により感光ドラム101面には画像情報に対応した静電潜像が形成される。ミラー109はレーザ光学系110から出力されたレーザ光103を感光ドラム101の露光位置に偏向させる。
【0081】
そして、感光ドラム101上に形成された静電潜像は、現像装置104のうちのイエロー現像器104Yによりイエロートナーにて可視像化される。このイエロートナー像は感光ドラム101と中間転写ドラム105との接触部である1次転写部T1において中間転写ドラム105面に転写される。なお、感光ドラム101面上に残留するトナーはクリーナ107によりクリーニングされる。
【0082】
上記のような帯電・露光・現像・一次転写・清掃のプロセスサイクルが、マゼンタトナー像(現像器104Mが作動)、シアントナー像(現像器104Cが作動)、ブラックトナー像(現像器104Kが作動)を形成すべく、同様に繰り返される。このようにして中間転写ドラム105上に順次重ねて形成された各色のトナー像は、転写ローラ106との接触部である二次転写部T2において、記録材P上に一括して二次転写される。中間転写ドラム105上に残留するトナーはトナークリーナ108によりクリーニングされる。
【0083】
なお、このトナークリーナ108は、中間転写ドラム105に対し接離可能とされており、中間転写ドラム105をクリーニングする時に限り中間転写ドラム105に接触した状態となるように構成されている。また、転写ローラ106も、中間転写ドラム105に対し接離可能とされており、二次転写時に限り中間転写ドラム105に接触した状態となるように構成されている。
【0084】
二次転写部T2を通過した記録材は、画像加熱装置としての定着装置100に導入され、その上に担持した未定着トナー像の定着処理(画像加熱処理)を受ける。そして、定着処理を受けた記録材は、機外に排出されて、一連の画像形成動作が終了する。
【実施例0085】
以下に本開示に係る実施例を説明するが、本開示は以下の実施例に係る記載に限定されるものではない。
以下の実施例に示されるように、予め表面被覆CNTを製造し、その後にポリイミド前駆体と混合してワニスを調製した。
【0086】
[被覆用樹脂]
被覆用樹脂としては、以下に記載した市販品を使用した。また、比較例においてCNTの表面に付着させるために使用した樹脂(以下、比較樹脂)としては、以下の市販品を使用した。
・被覆用樹脂1(PPSU):ウルトラゾーンP3010(商品名、BASF社製)
・被覆用樹脂2(PSU):ウルトラゾーンS3010(商品名、BASF社製)
・被覆用樹脂3(PESU):ウルトラゾーンE1010(商品名、BASF社製)
・比較樹脂1(PVP):ルビスコールK30(商品名、BASF社製)
・比較樹脂2(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン):Tween20(商品名、東京化成社製)
【0087】
[CNT]
実施例及び比較例で使用したCNTを以下に示す。
・CNT1:VGCF-H(商品名、昭和電工社製)
・CNT2:VGCF(商品名、昭和電工社製)
・CNT3:L-60100(商品名、NTP社製)
・CNT4:L-1020(商品名、NTP社製)
【0088】
[ポリアミック酸]
実施例及び比較例で使用したポリアミック酸(以下、PAAともいう)溶液を以下に示す。
・PAA1:U-ワニスS301
(商品名、宇部興産社製、ポリアミック酸含有量:18質量%)
・PAA2:UイミドAH
(商品名、ユニチカ社製、ポリアミック酸含有量:18質量%)
・PAA3:JIV-1002
(商品名、JFEケミカル社製、ポリアミック酸含有量:18質量%)
【0089】
以下、上記の各材料についての各物性の評価について説明する。
(被覆用樹脂及び比較樹脂の耐熱性)
被覆用樹脂1~被覆用樹脂3の耐熱性と、比較樹脂1又は比較樹脂2の耐熱性とを比較するために、熱重量測定(TG)における1%質量減少時温度を表1に示す。
【0090】
(被覆用樹脂及び比較樹脂のCNTへの吸着力)
被覆用樹脂又は比較樹脂のCNTへの吸着力と、ポリアミック酸(以下、PAA)のCNTへの吸着力とを以下の2つの手法により比較した。
1)ハンセン溶解度パラメーターを用いた手法
2)パルスNMRを用いた手法
【0091】
1)ハンセン溶解度パラメーターを用いた手法
ハンセン溶解度パラメーター(以下、HSPと称す)は、物質同士の相互作用の予測に用いられる値で、分散体を扱う分野では既知の指標である。HSPの理論については、例えば「石炭科学会議発表論文集,55,P86~P89(2018)」に記載されている。
HSPは以下の3つのパラメーター(単位:MPa0.5)で構成されている。
・δd:分子間の分散力によるエネルギー
・δp:分子間の双極子相互作用によるエネルギー
・δh:分子間の水素結合によるエネルギー
これら3つのパラメーターは3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができる。そして2つの物質のHSPをハンセン空間内に置いたとき、2点間の距離(以下、Raと称す)が近ければ近いほど互いに相互作用しやすいことを示している。
即ち、CNT及び被覆用樹脂のHSPをそれぞれハンセン空間内に置いた時の2点間の距離をRa(CNT-被覆用樹脂)、CNT及びPAAのHSPをそれぞれハンセン空間内に置いた時の2点間の距離をRa(CNT-PAA)とする。このとき、Ra(CNT-被覆用樹脂)がRa(CNT-PAA)よりも小さい場合に、被覆用樹脂の方がPAAと比べてCNTと強い相互作用を有することとなる。従って、表面被覆CNTとPAAとを混合したときに、CNTの表面に存在する被覆用樹脂がPAAと置き換わってCNTの表面から被覆用樹脂が離脱することを抑制することができる。
【0092】
表1にCNT1に対する被覆用樹脂1~被覆用樹脂3、比較樹脂1又は比較樹脂2のRa(CNT-被覆用樹脂)を示す。なお、CNT1に対するPAA1のRa(CNT-PAA)は16.1である。
【0093】
【0094】
表1によれば、被覆用樹脂1~被覆用樹脂3は、Ra(CNT-被覆用樹脂)がRa(CNT-PAA)(16.1)よりも小さい。そのため、被覆用樹脂1~被覆用樹脂3を用いて得た表面被覆CNTと、PAA1とを混合したときでも、CNT1の表面における被覆用樹脂1~被覆用樹脂3の吸着が保持されると考えられる。また、比較樹脂1は耐熱性が低いが、比較樹脂1のRa(CNT-被覆用樹脂)は、Ra(CNT-PAA)(16.1)よりも小さい。そのため、比較樹脂1を表面に吸着させたCNT1と、PAA1とを混合したときでも、CNT1の表面における比較樹脂1の吸着が保持されると考えられる。一方、比較樹脂2は耐熱性が高いが、比較樹脂2のRa(CNT-被覆用樹脂)は、Ra(CNT-PAA)(16.1)より大きい。そのため、比較樹脂2を表面に吸着させたCNT1と、PAA1とを混合したときに、CNT1の表面から比較樹脂2が脱離する可能性が高いと考えられる。
【0095】
2)パルスNMRを用いた手法
溶液中の吸着力を比較する手法として、パルスNMRを用いた手法があり、溶媒運動(観測原子核は1H)の緩和情報を得ることができる。手法の概要又は操作法は「日本画像学会誌、55(2)、P160~P165(2016)」に記載の方法を参照することができる。
【0096】
緩和とは一旦吸収されたエネルギーが減衰していく過程のことを指す。例えば、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)を用いた場合を考える。このとき、CNT表面と接触していない自由な状態のNMPがCNT表面に接触したときに、NMPの励起した核スピンはCNTの核スピンとのエネルギー交換により緩和する。CNTの表面に被覆用樹脂が存在しないとき、溶媒であるNMP分子は、高頻度でCNT表面に接触するため、NMPの緩和時間が著しく短い。一方、同じ条件で測定したとき、CNTの表面に被覆用樹脂が存在している場合は、CNTの表面の被覆用樹脂が多いほど、溶媒であるNMPがCNTの表面と接触する頻度が小さくなり、NMPの緩和時間が長くなる。
CNT1/被覆用樹脂1/溶媒:NMPの混合液の場合と、CNT1/PAA1/溶媒:NMPの混合液の場合のパルスNMRにおけるNMPのエネルギー減衰曲線を
図4に示す。曲線の勾配が急なほど、即ち、時間経過でパルス信号強度が大きく減少する程、吸着していなことを示す。
【0097】
図4より、CNT1の表面でPAA1は安定に吸着しておらず、CNT1の表面がむき出し状態になるためにNMPの減衰時間が短いと考えられる。一方、被覆用樹脂1はCNT1の表面に強く吸着し、CNT1の表面を覆っていることからNMPの減衰時間が長いと考えられる。
【0098】
(CNTの熱伝導性)
CNTの熱伝導性を評価するために、ラマン分光スペクトルのG/D比を求めた。既に述べたように、G/D比の値が大きいほど欠陥が少なく、熱伝導率が高いCNTである。
G/D比は、ラマン分光スペクトルにおいて、グラフェン構造に起因する1590cm-1のバンド(Gバンド)のピーク高さと、グラフェン構造の欠陥に起因する1350cm-1のバンド(Dバンド)のピーク高さの比として算出した。ラマン分光測定には、3D顕微レーザーラマン分光装置(商品名:Nanofinder30;東京インスツルメンツ社製)を用いた。測定条件は、励起レーザ光源532nm、波数範囲900~2000、回折格子1200/mm、露光時間30sとした。
【0099】
一例として、CNT1とCNT4のラマンスペクトラムを
図5に示す。また、CNT1~CNT4の繊維径、繊維長及びG/D比を表2に示す。
【0100】
【0101】
図5及び表2に示す通り、CNT1又はCNT2はG/D比が大きく、特にCNT1はG/D比が15以上であり、欠陥が非常に少ないCNTであることから、熱伝導性向上の観点で好適である。
【0102】
[ポリアミック酸の焼成温度に対するイミド化率]
イミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum3 FT-IR(パーキンエルマー製)を用いて、試料の赤外線吸収スペクトルを測定することによって算出した。測定は、ゲルマニウムクリスタルでの1回反射ATR法にて行った。
具体的には、1515cm-1付近のベンゼン環吸収帯に由来する吸光度「B」を基準としたときの、1710cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮振動の吸光度「A」との比「A/B」を測定した。完全にイミド化されたときの吸光度比「A/B」が1.7であるとして、「イミド化率=(A/B)×100/1.7」により算出した。
【0103】
PAA1~3の焼成温度に対するイミド化率を
図7に示す。
図7に示すように焼成温度が200℃~300℃付近でイミド化が急速に進み、350℃付近でイミド化率が飽和し始めてイミド化率が80%以上となり、400℃付近で飽和するものと推測される。
【0104】
(CNTの表面への被覆用樹脂の吸着評価)
被覆用樹脂がCNTの表面に吸着したことを確認するために、一例として、CNT1と被覆用樹脂1との組合せにおける吸着等温線を作成した。吸着等温線がラングミュア吸着等温式に準じた曲線であれば、1層目の被覆用樹脂の吸着(単分子吸着)が起こっている根拠となる。また、吸着等温線がラングミュア吸着等温式から多分子吸着等温式に変わる点を同定することにより、CNTの表面が被覆用樹脂によって覆われて吸着が完了した状態(吸着飽和)を確認にすることができる。
【0105】
まず、容器にCNT1を1g、被覆用樹脂1の5質量%NMP溶液を任意量投入し、追加の溶媒(NMP/メチルアルコール=3/1.2)を加えて全体量を66.66gの混合溶液にした。該混合溶液にガラスビーズ(φ1mm)を30g投入し、ペイントシェーカー(東洋精機製作所社)で2時間振とうした後、ガラスビーズを除き、分散液を得た。
該分散液を遠心分離(12000回転、2.5時間)で固液分離し、上澄み液を分取した。該上澄み液中の被覆用樹脂1の量をHPLC分析から算出すると共に、固体側の被覆用樹脂1の量を算出し、CNT1の単位重量(1g)当たりの被覆用樹脂1の量を求めて、CNT1と被覆用樹脂1における吸着等温線を作成した(
図6参照)。
【0106】
作成した吸着等温線は屈曲した曲線であり、例えば、「農業土木学会誌第68巻第4号、P351~P361」に記載されているラングミュアの吸着等温式と多分子吸着等温式の2つの式でフィッティングできた。
【0107】
上記吸着等温線により、CNT1に対して被覆用樹脂1が、NMP/メチルアルコール混合溶媒中で強く吸着することが確認できた。さらに、CNT1が被覆用樹脂1で1層覆われて、吸着が概ね完了した点が確認できた。吸着が概ね完了した時点におけるCNT1の単位重量(1g)に対する被覆用樹脂1の量を見積もった結果、0.082g/g-CNTであった。
【0108】
[実施例1]
(表面被覆CNT1の製造)
容器にCNT1を1g、被覆用樹脂1の5質量%NMP溶液を1.8g投入し、追加の溶媒(NMP/メチルアルコール=3/1.2)を加えて全体量を66.66gの混合溶液とした。該混合溶液にガラスビーズ(φ1mm)を30g投入し、ペイントシェーカー(東洋精機製作所社)で2時間振とうした後、ガラスビーズを除き、分散液を得た。該分散液を遠心分離(12000回転、2.5時間)で固液分離し、上澄み液を除去して、表面被覆CNT1を含む沈降物を得た。
次いで、上澄み液の高速液体クロマトグラフィー分析(以下、HPLC分析と称す)で上澄み液中の被覆用樹脂1の量を算出した。始めに投入した被覆用樹脂1の量から差し引いた値を用いて表面被覆CNT1の被覆量(CNTの単位重量(1g)当たりの被覆用樹脂1の量(g))を求めたところ、0.082g/g-CNTであった。
次いで、該沈降物を200℃のホットプレート上で1時間加熱し、NMPを完全に除去して表面被覆CNT1を得た。表面被覆CNT1の熱重量測定(TG)を行い、質量減少曲線を得た(
図8参照)。
図8から1%質量減少時温度を求めたところ542℃であった(表3参照)。
【0109】
[実施例2~実施例8]
実施例1に記載の方法に準拠して、表3に記載したCNTと被覆用樹脂の組合せで表面被覆CNT2~表面被覆CNT8を製造した。また、実施例1の記載の方法に準拠して、CNTの単位質量(1g)当たりの被覆用樹脂の量、及び1%質量減少時温度を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0110】
[比較例1~2]
実施例1に記載の方法に準拠して、表3に記載したCNTと比較樹脂1又は比較樹脂2の組合せで、比較表面被覆CNT1及び比較表面被覆CNT2を製造した。
また、実施例1の記載の方法に準拠して比較表面被覆CNT1及び比較表面被覆CNT2について、CNTの単位質量(1g)当たりの被覆用樹脂の量を求めた。さらに、比較表面被覆CNT1及び比較表面被覆CNT2について熱重量測定(TG)を行い、質量減少曲線を得た(
図8参照)。
図8から1%質量減少時温度を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0111】
【0112】
表3の表面被覆CNT1における被覆量0.082g/g-CNTは、概ね一層目の吸着が完了した時点における被覆用樹脂1の量である。また、表面被覆CNT1と比べて、CNTの表面に吸着している被覆用樹脂1の量が少ない場合が表面被覆CNT2であり、多い場合(多層吸着の場合)が表面被覆CNT3である。いずれの場合においても、1%質量減少時温度は350℃より高い温度であった。一方、比較表面被覆CNT1及び比較表面被覆CNT2では、1%質量減少時温度は350℃を下回っていた。
上記実施例及び比較例で得られた、表面に樹脂を付着させたCNTを使用して、表4に記載した組合せでワニスを調製した。以下に調製方法を示す。
【0113】
[実施例9]
(ワニス1の製造)
実施例1で得た表面被覆CNT1を含む沈降物を使用して、ワニス1を得る方法を下記に示す。
PAA1(固形分濃度:18質量%)7.5gと、表面被覆CNT1を含む沈降物(固形分濃度:25%)1.24gを容器に投入した。次に、容器を自転公転混錬機(製品名:練太郎、シンキー社製)で15分混錬し、15分脱気してワニス1を得た。
【0114】
[実施例10~実施例17]
PAAと表面被覆CNTとの組合せを、表4に記載した通りとした以外は、実施例9に記載の方法と同様にしてワニス2~9を調製した。
【0115】
[比較例3及び比較例4]
PAAと比較表面被覆CNTとの組合せを表4に記載の通りとした以外は実施例9に記載の方法と同様にして比較ワニス1及び比較ワニス2を調製した。
【0116】
[比較例5]
樹脂で被覆していないCNT1を用いた以外は実施例9と同様にして比較ワニス3を調製した。
【0117】
【0118】
上記実施例で得られたワニスを使用して、下記に記載の方法でポリイミド膜を作製した。
[実施例18]
実施例1で得られた表面被覆CNT配合ワニス1を使用して、ポリイミド膜1を得る方法を下記に示す。なお、ワニス1の量を増やす場合には、バッチ数を増やすか、又は処方変更無しにスケールアップした。
PAA1(U-ワニスS301、固形分濃度18質量%)1kgと、ワニス1(固形分濃度25質量%)180gとを攪拌容器に投入し、プラネタリーミキサーにて60分間分散させて膜形成用ワニス1を得た。この配合比率は、PAA1の固形分、即ちポリアミック酸に対して、表面被覆CNTの配合量が13.2体積%となるように算出したものである。
得られた膜形成用ワニス1を、外径30mm、長さ500mmの円筒状アルミニウム製芯体の表面にリングコート法を用いて塗布した。この円筒状芯体には、表面に予めセラミックスコーティングを施すことで、ベルト成形後の脱型がしやすいようにした。
乾燥工程として、芯体を60rpmで回転させながら表面を近赤外線ヒータにて120℃になるように保ちながら30分間加熱した。さらに、150℃で20分間、200℃で30分間加熱することでNMPをほぼ完全に揮発させて、塗布膜を固化させた。
続いて、イミド化工程として、熱風循環炉内に静置して250℃で30分間、及び350℃で30分間加熱することでイミド化を進行させ、ポリイミド被膜を形成させた。室温程度まで冷却させた後、芯体から被膜を脱型し、85μmの厚さを有するエンドレス形状のポリイミド膜1を得た。
【0119】
[実施例19~実施例27、比較例6~比較例10]
焼成条件及び用いるワニスの種類を表5に記載の通りに変更した以外は、実施例18に記載の方法に準拠してポリイミド膜2~ポリイミド膜10及び比較ポリイミド膜1~比較ポリイミド膜5を得た。得られたポリイミド膜2~ポリイミド膜10及び比較ポリイミド膜1~比較ポリイミド膜5の膜厚を表5に示す。
【0120】
【0121】
<ポリイミド膜の評価>
(イミド化及び被覆用樹脂の存在の確認)
上記で作製した各ポリイミド膜から切り取ったサンプル片について、赤外線吸収スペクトルの測定を行った。
その結果、いずれのポリイミド膜においても、イミド化反応により生成される吸収が1715cm-1付近に現れ、ポリアミック酸がポリイミドに変換していることが確認された。
また、ポリイミド膜1~8、比較ポリイミド膜5及び6では、S-C結合に起因する吸収が1480cm-1付近に現れ、被覆用樹脂が含まれていることが確認された。一方、比較ポリイミド膜1~4、及び7では、S-C結合に起因する吸収が1480cm-1付近に現れなかった。
【0122】
(イミド化率)
上記で作製した各ポリイミド膜におけるイミド化率を、先に記載の方法により求めた。
得られた結果を表6に示す。
【0123】
(引張強度)
上記で作製した各ポリイミド膜の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度を測定した。
引張強度は、日本産業規格(JIS)K 7161:2014に基づき、精密万能試験機(商品名:オートグラフAG-X、島津製作所社製)を用いて、引張速度5mm/min、つかみ具間距離40mm、23℃にて測定した。得られた結果を表6に示す。
なお、いずれのポリイミド膜においても、周方向の引張強度と、周方向に直交する方向の引張強度とで同じ値が得られたため、表6には合わせて「引張強度」として1つの項目で示す。
【0124】
(熱伝導率)
上記で作製した各ポリイミド膜について、周期加熱法(温度波熱分析法)熱拡散率測定装置(商品名:FTC-1、アドバンス理工社製)を用い、25℃における熱拡散率を測定した。得られた熱拡散率と、別途測定した密度と比熱とを乗算することによって熱伝導率(厚み方向)を算出した。
得られた結果を表6に示す。
【0125】
(総合評価)
上記で作製した各ポリイミド膜について、イミド化率、引張強度、及び熱伝導率の評価結果を基に、以下の基準により総合評価を行った。
具体的には、熱伝導率が0.4W/m・K以上の高い熱伝導率を有し、かつ、周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がいずれも200MPa以上であるポリイミド膜をランク「A」とした。なかでも、熱伝導率が、0.7W/m・K以上のポリイミド膜についてはランク「A+」とした。
一方、熱伝導率が0.4W/m・K以上であるものの、周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がいずれも200MPa未満であるポリイミド膜をランク「B」とした。
結果を表6に示す。
【0126】
【0127】
表5及び6に示すように、焼成温度を350℃以上として作製したポリイミド膜のイミド化率は全て80%を超えた。
しかしながら、表面に樹脂を付着させていないCNT1を含有する比較ポリイミド膜5の引張強度は198MPa、熱伝導率は0.69W/m・Kであった。比較ポリイミド膜5中のポリイミドのイミド化率は80%と高いにも関わらず、引張強度が低い理由は、ポリイミド膜中においてCNTが凝集塊を形成したためであると考えられる。
一方、表面被覆CNTを含有するポリイミド膜1~10は、比較ポリイミド膜5よりも引張強度が向上し、表面被覆の効果が認められた。すなわち、ポリイミド膜1~10においては、膜中のCNTの表面が樹脂で被覆されていることによりCNT間の斥力が生まれ、凝集の抑制効果が発揮されたと考えられる。つまり、被覆用樹脂のCNT表面吸着が、ワニス中や焼成中でも維持されるほど強いことが実証されたと考えられる。
【0128】
一方、PVPやモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンで表面を処理したCNTを含むワニスを用い、焼成温度350℃以上として作製した比較ポリイミド膜1~3では、引張強度及び熱伝導率のいずれも、比較ポリイミド膜5より劣っていた。これは、以下の2つの理由の何れかにより、ポリイミド膜作製の過程で、CNTの表面被覆状態が維持されなくなり、CNTが凝集したことによるものと考えられる。
理由1:樹脂あるいは界面活性剤が、ワニス中でポリアミック酸と置き換わってCNT表面から脱着した。
理由2:樹脂あるいは界面活性剤が、高い焼成温度により、分解又はガス化して脱着した。
【0129】
実施例18~27に係るポリイミド膜の外周面上にシリコーンゴムからなる弾性層と、さらにその外周面上にフッ素樹脂からなる表面層を形成することで定着ベルトを作製した。この定着ベルトを、
図2に示す構成を有する定着装置に用いて試験を行ったところ、良好な省エネ性と定着画像が得られ、60万枚通紙後も問題なく機能した。
一方、比較例6~10に係るポリイミド膜を使用して同様に作製した定着ベルトを用いた場合では、通紙枚数が60万枚にいたる前に、屈曲疲労によりポリイミド膜に亀裂が生じた。
【0130】
本発明の実施形態に係る開示は、以下の構成および方法を含む。
(構成1)
エンドレス形状の電子写真用ベルトであって、
基層を有し、
該基層は、結着樹脂としてのポリイミドと、カーボンナノチューブと、を含むポリイミド膜を含み、
該ポリイミドのイミド化率が80%以上であり、
該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在しており、
該基層の周方向及び周方向に直交する方向の引張強度がそれぞれ200MPa以上である、電子写真用ベルト。
(構成2)
前記基層の厚さ方向の熱伝導率が0.7W/m・K以上である、構成1に記載の電子写真用ベルト。
(構成3)
前記カーボンナノチューブのラマン分光スペクトルのG/D比が10以上である、構成1又は2に記載の電子写真用ベルト。
(構成4)
該基層が、前記カーボンナノチューブの質量に対して、前記カーボンナノチューブの表面に存在する前記樹脂を5~20質量%含有している、構成1~3のいずれかに記載の電子写真用ベルト。
(構成5)
前記基層の厚さが40~150μmである、構成1~4のいずれかに記載の電子写真用ベルト。
(構成6)
前記基層の外周面上に、フッ素樹脂を含む表面層をさらに有する、構成1~5のいずれかに記載の電子写真用ベルト。
(構成7)
前記基層と前記表面層との間に、弾性層をさらに有する、構成6に記載の電子写真用ベルト。
(構成8)
前記電子写真用ベルトが、定着ベルトである、構成1~7のいずれかに記載の電子写真用ベルト。
(方法1)
構成1~8のいずれかに記載の電子写真用ベルトを製造する方法であって、
(i)ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの前記樹脂を、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
(ii)前記工程(i)で得た、表面の少なくとも一部に前記樹脂を付着させた前記カーボンナノチューブを、ポリイミド前駆体を含む溶液に分散させて分散液を得る工程と、
(iii)該分散液の塗膜を形成する工程と、
(iv)該塗膜を加熱して、該ポリイミド前駆体をイミド化させて、前記基層を形成する工程と、
を有することを特徴とする電子写真用ベルトの製造方法。
(構成9)
構成1~8のいずれかに記載の電子写真用ベルトを有する電子写真用画像形成装置。
(構成10)
ポリイミド前駆体と、カーボンナノチューブと、溶媒と、を含有するワニスであって、
該カーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部にポリフェニルスルホン、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂が存在している、ことを特徴とするワニス。
(構成11)
前記カーボンナノチューブのラマン分光スペクトルのG/D比が10以上である、構成10に記載のワニス。