(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191174
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系樹脂フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
C08J5/18 CEV
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092522
(22)【出願日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021099453
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 利采
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA24X
4F071AA25
4F071AA31X
4F071AE04
4F071AF08Y
4F071AF09Y
4F071AF20Y
4F071AF30Y
4F071AH04
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】本発明は、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立できる塩化ビニリデン系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】170℃で60分加熱した際の塩酸(HCl)ガスの発生量がフィルム1gあたり3500ppm以下であり、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が30~95質量%である、塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
170℃で60分加熱した際の塩酸(HCl)ガスの発生量がフィルム1gあたり3500ppm以下であり、
塩化ビニリデン系樹脂の含有量が30~95質量%である、塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項2】
可塑剤の含有量が7質量%以下である、請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項3】
塩化ビニリデン系樹脂以外に、少なくとも1種類の樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記樹脂が塩化ビニル系樹脂である、請求項3に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体である、請求項3に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項6】
ASTM D3985-17に準拠して、フィルムを温度23℃・相対湿度65%RHの条件下で測定した酸素透過度が、300~850cm3/m2・day・MPaである、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項7】
ASTM F1249-20に準拠して、フィルムを温度38℃・相対湿度90%RHの条件下で測定した透湿度が、4~18g/m2・dayである、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項8】
温度23℃・相対湿度50%RHの条件下で、測定したフィルムのMD方向の引張弾性率が250~600MPaである、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項9】
HAZE値を下式で規格化した値が0~40である、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
((HAZE測定値)/(フィルムの厚み(μm))×10=HAZE値(規格化)
【請求項10】
ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から下記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の、塩化ビニリデン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
【請求項11】
ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から下記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の塩化ビニリデン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂を原料として含む、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
【請求項12】
塩化ビニリデン系樹脂Aに対し、塩化ビニリデン系樹脂A以外の樹脂Bを混練して樹脂組成物を得る工程と、
前工程で得られた樹脂組成物を押出成形する工程を含む、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルムからなるラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂は、一般に、塩化ビニリデン単量体と他の単量体(共単量体)との共重合体である。塩化ビニリデン系樹脂は、酸素ガスバリア性に特徴を持つ樹脂である。そのため、従来から、塩化ビニリデン系樹脂単独あるいはこれに他の熱可塑性樹脂などを積層させたフィルムやシートなどの成形物が、ハム、ソーセージあるいは各種食肉などの包装材料として広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-395690号公報
【特許文献2】特開2007-119583号公報
【特許文献3】特開2008-74955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塩化ビニリデン系樹脂の粉体レジンは、熱安定性が悪く、高温で溶融及び押出成形を行う過程で、樹脂が容易に分解し、熱劣化する傾向にある。また、溶融及び押出成形で使用するスクリューに一部の樹脂が滞留する場合があり、その過程で塩化ビニリデン樹脂がさらに熱劣化してしまう傾向にある。
このような熱劣化を抑制するため、塩化ビニリデン系樹脂中の塩化ビニリデン組成を小さくすることが考えられるが、ある組成に到達すると、塩化ビニリデン由来の結晶化速度が低下し、インフレーション成形性が著しく低下する傾向にある。さらに、塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂等の塩化ビニリデン系樹脂以外を用いることで熱劣化を抑制し得るフィルムを作製することもできるが、フィルムのガスバリア性や引張弾性率が十分でない。結果として塩化ビニリデン系樹脂フィルムが重用されている。
【0005】
このように、従来のフィルムにおいて、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とは二律背反の関係にある。
【0006】
そこで、本発明は、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立できる塩化ビニリデン系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持という二律背反の関係を両立させることを念頭に置いて、鋭意検討した結果、170℃で60分加熱した際の塩酸ガスの発生量を特定範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
170℃で60分加熱した際の塩酸(HCl)ガスの発生量がフィルム1gあたり3500ppm以下であり、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が30~95質量%である、塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[2]
可塑剤の含有量が7質量%以下である、[1]に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[3]
塩化ビニリデン系樹脂以外に、少なくとも1種類の樹脂を含有する、[1]又は[2]に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[4]
前記樹脂が塩化ビニル系樹脂である、[3]に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[5]
前記樹脂が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体である、[3]に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[6]
ASTM D3985-17に準拠して、フィルムを温度23℃・相対湿度65%RHの条件下で測定した酸素透過度が、300~850cm3/m2・day・MPaである、[1]から[5]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[7]
ASTM F1249-20に準拠して、フィルムを温度38℃・相対湿度90%RHの条件下で測定した透湿度が、4~18g/m2・dayである、[1]から[6]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[8]
温度23℃・相対湿度50%RHの条件下で、測定したフィルムのMD方向の引張弾性率が250~600MPaである、[1]から[7]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
[9]
HAZE値を下式で規格化した値が0~40である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
((HAZE測定値)/(フィルムの厚み(μm))×10=HAZE値(規格化)
[10]
ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から下記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の、塩化ビニリデン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂を含む、[1]から[9]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
[11]
ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から下記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の塩化ビニリデン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂を原料として含む、[1]から[10]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
[12]
塩化ビニリデン系樹脂Aに対し、塩化ビニリデン系樹脂A以外の樹脂Bを混練して樹脂組成物を得る工程と、
前工程で得られた樹脂組成物を押出成形する工程を含む、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。
[13]
[1]から[11]のいずれかに記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルムからなるラップフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造工程の一例の概略図である。
【
図2】本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの利用形態の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0013】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、170℃で60分加熱した際の塩酸(HCl)ガスの発生量がフィルム1gあたり3500ppm以下であり、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が30~95質量%である。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、このように塩化ビニリデン系樹脂の含有量及び塩酸ガスの発生量を特定範囲に制御することにより、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立することができる。同様の観点から、170℃で60分加熱した際の塩酸ガスの発生量はフィルム1gあたり3000ppm以下であることが好ましく、2500ppm以下であることがより好ましい。170℃で60分加熱した際の塩酸ガスの発生量の下限は特に限定されないが、例えば、フィルム1gあたり500ppmである。また、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、50~93質量%であることが好ましく、65~92質量%であることがより好ましく、80~91質量%であることがさらに好ましい。
【0014】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、170℃で60分加熱した際の塩酸ガスの発生量を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン系樹脂以外の1種類以上の他の樹脂(例えば、相溶性の高い樹脂)を添加し、塩化ビニリデン系樹脂と溶融混練して押出成形することによりフィルムを得る方法が挙げられる。単純に塩化ビニリデン系樹脂中の塩化ビニリデン組成を減少させる方法が従来の方法であるが、この方法では、塩化ビニリデン系樹脂の減少に伴い成膜性が悪化する。一方、上述のように塩化ビニリデン系樹脂と他の樹脂を溶融混錬することで、成膜性を維持しつつ、樹脂組成物中に占める塩化ビニリデン組成が小さくなることによる、塩酸ガス発生量の低減効果を得ることを本発明者は見出した。その結果、得られるフィルムは、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立することができると考えられる。また、塩化ビニリデン系樹脂に他の樹脂を添加することで、得られる樹脂組成物中の塩化ビニリデン組成が低下しても、インフレーション成形が可能で、かつ塩化ビニリデン由来の結晶性の発現により、フィルムのガスバリア性も維持できると考えられる。
【0015】
なお、本実施形態において、塩酸ガスの発生量は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン系樹脂(以下「塩化ビニリデン系樹脂A」とも記す)以外に、少なくとも1種類の樹脂(以下「樹脂B」とも記す)を含有することが好ましい。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、塩化ビニリデン系樹脂A以外の樹脂Bとしては、何種類でも基材の樹脂として含有してもよい。
【0017】
<塩化ビニリデン系樹脂A>
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂Aとは、塩化ビニリデンを含むものであれば特に限定されず、塩化ビニリデン単量体と、該塩化ビニリデン単量体と重合可能な単量体とを含む塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0018】
塩化ビニリデン単量体の含有量は、塩化ビニリデン系樹脂Aの総量に対して、モノマー単位で、好ましくは30~95mol%であり、より好ましくは50~95mol%であり、さらに好ましくは72~93mol%である。塩化ビニリデン単量体の含有量をモノマー単位で30mol%以上とすることで、塩化ビニリデン由来の結晶性を樹脂に付与し、成形性を向上させる傾向にある。一方、塩化ビニリデン単量体の含有量をモノマー単位で95mol%以下とすることで、樹脂に含まれる塩素原子数を減少させ、塩酸ガス発生量を低下させつつ、バリア性と柔軟性とのバランスが適度なフィルムを得ることができる傾向にある。
【0019】
塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このなかでも、塩化ビニルがより好ましい。塩化ビニリデン系樹脂Aを重合する際に用いる各種モノマーに、バイオマス原料を用いてもよい。
【0020】
<樹脂B>
樹脂Bとして、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル、ウレタン、スチレン-ブタジエンースチレンブロック共重合体、アクリル系ブロック共重合体、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-スチレン共重合体等が挙げられる。塩化ビニリデン系樹脂Aへの相溶性の高さの観点から、塩化ビニル系樹脂が好ましく、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体がより好ましい。樹脂Bはバイオマス原料を用いてもよい。
【0021】
樹脂Bとして、柔軟性や内部可塑化効果の高い塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル等を用いることで、塩化ビニリデン系樹脂Aと混練する際に、樹脂が混ぜやすく、添加する可塑剤量を減らすことができる。これにより、成形したフィルムを高温下で保管した際の、溶出(以下「ブリード」とも記す)量を減少させることができる傾向にある。
【0022】
本実施形態において、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とは、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体であり、酢酸ビニルをモノマー単位で好ましくは1~60mol%含み、より好ましくは2~25mol%含む。酢酸ビニルを1mol%以上含むことで、酢酸ビニル由来の極性を樹脂に付与し塩化ビニリデン系樹脂Aへの相溶性を高めることができ、塩化ビニリデン系樹脂Aとの混練がしやすくなる。一方で、酢酸ビニルをモノマー単位で60mol%以下とすることで、塩化ビニル由来の密着性の高いフィルムを得ることができる傾向にある。
【0023】
また、塩化ビニリデン系樹脂Aに樹脂Bを添加すると、樹脂Bが結晶核となり、塩化ビニリデンの結晶化を促進すると推察される。そのため、混練して得られる樹脂組成物中の塩化ビニリデンの組成が小さくなっても、フィルムの結晶性が維持され、ガスバリア性が維持されると考えられる。
【0024】
塩化ビニリデン系樹脂Aと樹脂Bとの粘度差は小さい方が好ましい。粘度の異なる樹脂を混練する際、フィッシュアイと呼ばれる未溶解樹脂が残存することが知られているが、フィッシュアイが存在するとインフレーション成型時にパンクの起点となることが知られている。樹脂同士の粘度を近づけて溶融混練することで、樹脂同士の相溶性が高くなり、フィッシュアイの発生を抑制し、インフレーション成型性を向上させる傾向にある。
【0025】
塩化ビニリデン系樹脂Aと樹脂Bとの相溶性を向上させるため、適切な粘度となる分子量分布幅を持つ樹脂を選択する、粘度が高い方の樹脂に予め可塑剤を添加して粘度差を低減する、相溶化剤を添加する、等してもよい。例えば、基材に添加する可塑剤をあらかじめ樹脂Bに添加し、樹脂A及び残りの可塑剤は別途混錬しそれぞれ熟成したのち、樹脂Aと樹脂Bとを混錬することで相溶性を向上させる方法が挙げられる。このとき、樹脂Bに事前に添加する可塑剤量の上限は、樹脂への可塑剤の含侵量の観点から、樹脂Bと同質量までとすることが好ましく、樹脂Bの質量を上回った場合の残りの可塑剤は、樹脂Aへ混錬することが好ましい。
【0026】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する基材の樹脂組成物全体に対する樹脂Bの割合は、好ましくは0.5~50質量%であり、より好ましくは2.5~30質量%である。樹脂Bの割合を0.5質量%以上とすることで、樹脂組成物からなるフィルム中の塩化ビニリデン含有量を減らす、すなわちフィルム中の塩素原子割合を低減することができる傾向にある。一方で、樹脂Bの割合を50質量%以下とすることで、インフレーション時の成形性が向上する傾向にある。
【0027】
なお、フィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、試料0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、乾燥し、重量測定して得ることができる。
【0028】
溶融混練や押出成形時に、樹脂に熱が加わった際の、塩化ビニリデン樹脂中の塩素原子-炭素原子間の結合と、塩化ビニル樹脂中の塩素原子-炭素原子間の結合では、前者の方が結合が切れてラジカルを形成しやすく、その結果塩酸ガスが生成しやすい。そのため、フィルムを形成する基材として、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体と、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体に塩化ビニル樹脂を混練した樹脂組成物とを比較した際に、樹脂に含まれる塩素原子量の総量が同一であるとき、後者の塩化ビニル樹脂ブロックの割合が大きい樹脂組成物の方が、溶融及び押出成形時に発生する塩酸ガス量が少なく、さらに塩酸ガス発生速度が遅い傾向にある。これによって、樹脂が熱劣化しにくく、押出機を腐食させにくくなると考えられる。
【0029】
前述のように、塩素原子含有量の低い樹脂を作製するためには、塩化ビニリデン系樹脂Aに対して、樹脂Bを添加し、溶融混練することで、樹脂中の塩素原子含有量を下げつつ、塩化ビニリデン系樹脂単体を加工する時とそん色ない押出成形性を維持できる。従来のように、単純に、塩化ビニリデン系樹脂の塩化ビニリデン組成を低下させるだけでは、一定の組成に到達した所で、塩化ビニリデン由来の結晶化速度が遅くなり、インフレーション成形時に、バブルの拡大が止まらず、パンクが発生してしまう傾向にある。
【0030】
本実施形態においてフィルムの成形方法は、特に限定されないが、例えば、押出成形、延伸成形その他の慣用の成形方法が挙げられる。さらに、得られるフィルムをガスバリア層として配置して、共押出法やラミネート法により、多層フィルムを形成することもできる。
【0031】
[可塑剤]
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、可塑剤を含有してもよい。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、可塑剤の含有量は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは0.1~6.8質量%であり、さらに好ましくは0.1~6.6質量%である。可塑剤の含有量が前記範囲であることより、フィルムを高温下で保管した際のブリード量を減少させることができる傾向にある。
【0032】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、アセチル化脂肪酸グリセライド、グリセリン脂肪酸エステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。特に、クエン酸エステル、二塩基酸エステル又はアセチル化脂肪酸グリセライドが汎用性の観点から好ましい。これら可塑剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。またこれら可塑剤は、バイオマス原料を用いてもよい。
【0033】
なお、フィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。本実施形態において、例えばクエン酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5℃~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0034】
(クエン酸エステル)
クエン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(以下「ATBC」とも記す)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0035】
これらのなかでも、アセチルクエン酸トリブチルが好ましい。このようなクエン酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。また、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0036】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジブチル(以下「DBS」とも記す)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルが挙げられる。
【0037】
これらのなかでも、脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、セバシン酸ジブチルがより好ましい。このような二塩基酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。また、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0038】
(アセチル化脂肪酸グリセライド)
アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に限定されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0039】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。このなかでも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。このような、アセチル化脂肪酸グリセライドを用いることにより、埃がより付着しにくくなる傾向にある。また、裂けトラブルが抑制され、かつ、カット性もより向上する傾向にある。
【0040】
可塑剤は、フィルムの製造過程のどの工程で添加してもよい。可塑剤は、例えば、重合機にモノマー等を投入するときに同時に投入すること、重合終了後のスラリーに投入すること、又は、残留モノマー除去後に塩化ビニリデン系共重合体にドライブレンドすることができる。
【0041】
[その他の添加剤]
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、必要に応じて各種添加剤を含有することも可能である。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、上記可塑剤以外の安定剤、滑剤、核剤、染料又は顔料等の着色剤、抗菌剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)等のポリマー等が挙げられる。
【0042】
安定剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ステアリン酸オクチル等のエポキシ化合物をはじめとする塩素捕捉剤、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、チオジプロピオン酸アルキルエステル等の抗酸化剤、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤、各種光安定剤が挙げられる。安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。バイオマス原料を用いてもよい。
【0043】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。滑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。バイオマス原料を用いてもよい。
【0044】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。核剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0045】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0046】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。抗菌剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0047】
添加剤についても可塑剤と同様にフィルム製造の各工程で添加することができるが、無機物粉体の添加剤については、残留モノマー除去後に塩化ビニリデン系共重合体にドライブレンドすることが好ましい。
【0048】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、上述した方法により、フィルム物性を維持しつつ、塩酸ガス発生量を少なくすることができる。
本発明者が鋭意検討した結果、例えば、塩化ビニリデン系樹脂Aに樹脂Bを添加することで、塩酸ガス発生量低減とフィルム物性を両立できることが判明した。さらに、塩化ビニリデン系樹脂Aと樹脂Bとの粘度差を低減することで、フィッシュアイの抑制に成功した。樹脂間の粘度差を低減する方法としては、前述したように、例えば、適切な粘度となる分子量分布の樹脂を選択する、粘度が高い樹脂に予め可塑剤を添加する、相溶化剤を添加する、等の方法が挙げられる。
加えて、後述するが、上記の方法のほかにも、例えば、各種樹脂をコンパウンドする際の各種樹脂の混練温度を適度な温度に設定することや、スクリュー回転速度を適切な速度に設定すること、混練効率の良い構造のスクリューを選択する、等の方法により樹脂間の粘度差を低減することができる。
【0049】
(塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法は、塩化ビニリデン系樹脂Aに対し、塩化ビニリデン系樹脂A以外の樹脂Bを混練して樹脂組成物を得る工程と、前工程で得られた樹脂組成物を押出成形する工程を含む。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法の具体例としては、特に制限されないが、一例として、下記に具体的な製造方法を説明する。
【0050】
まず、混練機により、塩化ビニリデン系樹脂Aと、樹脂Bと、必要に応じて、各種添加剤、可塑剤、相溶化剤などとを混練して塩化ビニリデン系樹脂組成物を得る。相溶化剤として、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、スチレン・ブタジエンラバー(SBR)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、メタクリル酸メチル、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、アクリル系ブロック共重合体などが挙げられる。混練機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた樹脂組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0051】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法において、得られた樹脂組成物をフィルムに成形する方法としては、主として、押出成形法が挙げられる。中でも、インフレーション法又はTダイ法によりフィルムを作製することができる。例えば、インフレーション法は、スクリュー押出機のサーキュラーダイから押出し、管状押出物を室温以下の冷却バスを通した後、2組のピンチローラー間に空気を入れて膨らませたバブルを形成させフィルムを作る方法である。Tダイ法は、Tダイより押出冷却してフィルムを作る方法である。
【0052】
図1は、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムとして、単層フィルムを製造する場合の製造装置の一例を模式的に示す概略図である。
図1を用いて本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの具体的な製造方法の一例を以下説明する。まず、上記塩化ビニリデン系樹脂組成物は、押出機1に取り付けられたホッパー2から投入され、スクリュー3で加熱混練された溶融物となりサーキュラーダイ4のスリット部より筒状に押し出されて筒状パリソン5となる。筒状パリソン5は、冷却水7の満たされた冷却槽6に接触させ、パリソン内冷媒8を注入することにより、内外から冷却され固化し、ピンチロール20及び21に導かれる。次いで、筒状パリソン5は、温水槽9を通って余熱された後にインフレーション法によりピンチロール22及び23とピンチロール24及び25と間に空気を入れて膨らまされて筒状フィルムとなる。このとき、空気の導入量及び22及び23とピンチロール24及び25との回転速度比により筒の周方向及び縦方向の延伸率が決定される。得られたフィルムは平坦2枚重ねに折り畳まれ、巻取りボビン30又は31に巻き取られる。
【0053】
押出機1でスクリュー3により加熱混練する際の条件は、特に制限されないが、170~190℃で加熱混練することが好ましい。特に、加熱混練時の温度が前記範囲内であると、混練する樹脂同士の粘度が接近できる傾向にある。樹脂同士の粘度を接近させた状態で加熱混練することで、フィッシュアイの発生を抑制し、成形性を向上させることができる。
【0054】
上記のようにして巻き取られた塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、スリットされて、一時的に1日~3日間原反の状態で保管される。
【0055】
スリット原反は、保管後、特に制限されないが、例えば紙管等に巻き返され、
図2に示すように、巻回体16として、フィルム切断刃15を備える化粧箱14に収納される。
図2に例示するように、ラップフィルム(単層フィルム)17は、使用時に引き出されて使用される。
【0056】
また、得られた単層フィルムには、必要に応じてコロナ放電処理等の後加工をすることもできる。この様にして得られた単層フィルムは、ガスバリア性、油性食品による非抽出性、力学物性、高周波シール性に優れており、ハム、ソーセージ、チーズ、惣菜、その他食品等のバリア性を必要とする包装材料として利用することができる。また、得られた単層フィルムは、その表面にアルミ箔、紙及び他種の合成樹脂フィルム等とラミネート加工することもでき、高ガスバリア性を生かして、例えば、医薬品、レトルト食品、電子レンジ食品、冷凍食品、アメ菓子、畜肉・水産加工食品、味付煮付加工食品等の食品類の包装材として利用することができる。
特に、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、ラップフィルムとして用いることが好ましい。
【0057】
(塩酸ガス発生量)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、170℃で60分加熱した際のフィルム1gあたり塩酸ガス発生量は、3500ppm以下である。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、このように塩酸ガス発生量が前述の範囲以下であることにより、熱劣化しにくく、ガスバリア性と引張弾性率とを高く維持することができる。
【0058】
(塩酸ガス発生速度比)
スクリューに滞留した塩化ビニリデン系樹脂は溶融後30分程度で急激に塩酸ガスを発生させる。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、170℃で60分加熱した際の、30分~60分における塩酸ガス発生速度は、フィルム1gあたり好ましくは30~120ppm/分である。塩酸ガス発生速度がフィルム1gあたり120ppm/分以下であることでフィルムが熱劣化しにくくなり、30ppm/分以上であることでガスバリア性と引張弾性率とが高いフィルムを得ることができる傾向にある。同様の観点から、塩酸ガス発生速度は、フィルム1gあたり40~100ppm/分であることがより好ましく、40~80ppm/分であることがさらに好ましい。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、塩酸ガス発生速度を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン系樹脂以外の1種類以上の他の樹脂(例えば、相溶性の高い樹脂)を添加し、塩化ビニリデン系樹脂と溶融混練して押出成形することによりフィルムを得る方法が挙げられる。このように塩化ビニリデン系樹脂と他の樹脂とを溶融混練することで、樹脂組成物中に占める塩化ビニリデン組成が小さくなるため、塩酸ガス発生速度を低減することができると推定される。その結果、得られるフィルムは、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立することができると考えられる。また、塩化ビニリデン系樹脂と他の樹脂との粘度を近づけて溶融混練することでフィッシュアイの発現が抑制され、得られる樹脂組成物中の塩化ビニリデン組成が低下しても、インフレーション成形が可能で、かつ塩化ビニリデン由来の結晶性の発現により、フィルムのガスバリア性も維持できると考えられる。
なお、本実施形態において、塩酸ガス発生速度は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0059】
(酸素透過度)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、ASTM D3985-17に準拠して、フィルムを温度23℃・相対湿度65%RHの条件下で測定した酸素透過度は、300~850cm3/m2・day・MPaであることが好ましく、550~750cm3/m2・day・MPaであることがより好ましく、550~700cm3/m2・day・MPaであることがさらに好ましい。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、酸素透過度が前述の範囲にあることで、優れた酸素バリア性を有する傾向にある。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、酸素透過度を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、厚みの調整、延伸倍率の制御、塩化ビニリデン系樹脂量や可塑剤量の調整などが挙げられる。
なお、本実施形態において、酸素透過度は具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0060】
(透湿度)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、ASTM F1249-20に準拠して、フィルムを温度38℃・相対湿度90%RHの条件下で測定した透湿度は、4~18g/m2・dayであることが好ましく、7~16g/m2・dayであることがより好ましく、7~15g/m2・dayであることがさらに好ましい。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透湿度が前述の範囲であることにより、優れた水蒸気バリア性を有する傾向にある。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、透湿度を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、厚みの調整、延伸倍率の制御、塩化ビニリデン系樹脂量や可塑剤量の調整などが挙げられる。
なお、本実施形態において、透湿度は具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0061】
(引張弾性率)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、温度23℃・相対湿度50%RHの条件下で、測定したフィルムのMD方向の引張弾性率は、好ましくは250~600MPaであり、より好ましくは350~500MPaであり、さらに好ましくは350~470MPaである。MD方向の引張弾性率が250MPa以上であることにより、切断刃でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延びを抑制でき、切断刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上する傾向にある。一方、MD方向の引張弾性率が600MPa以下であることにより、フィルムが軟らかく、切断刃の形状に沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生するのを抑制できる傾向にある。その結果、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際、切断端面からフィルムが裂けるトラブルが発生するのを抑制できる傾向にある。
【0062】
本実施形態において、23℃・相対湿度50%RHの条件下でのフィルムのMD方向の引張弾性率は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、及び延伸速度等によって調整できる。特に限定されないが、例えば、MD方向の引張弾性率は、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある。なお、本実施形態において、MD方向の引張弾性率は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0063】
(厚み)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚みは、好ましくは6~20μmであり、より好ましくは9~12μmである。本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する傾向にある。
【0064】
より具体的には、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、厚みが6μm以上であることにより、フィルムのTD方向及びMD方向における引裂強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からフィルムが裂けるトラブルがより抑制される傾向にある。
【0065】
一方、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、厚みが20μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、厚みが20μm以下であることにより、フィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。
なお、本実施形態において、フィルムの厚みは後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
(HAZE値)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、後述する実施例に記載の方法にて測定されるHAZE値を、下記式により規格化した値(以下、HAZE値(規格化)とも言う)は0~40が好ましく、0~30がより好ましい。
((HAZE測定値)/(フィルムの厚み(μm))×10=HAZE値(規格化)
HAZE値(規格化)が前述の範囲にあることによって、樹脂Aと樹脂Bの相溶性がよいフィルムが得られる。
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、HAZE値(規格化)を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン系樹脂以外の1種類以上の相溶性の高い他の樹脂を添加し、塩化ビニリデン系樹脂と溶融混練して押出成形することによりフィルムを得る方法が挙げられる。このように塩化ビニリデン系樹脂と相溶性の高い他の樹脂とを溶融混練することで、HAZE値(規格化)を前記範囲内に制御できると推定される。
【0067】
(樹脂フィルムの放射性炭素濃度)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から下記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル系樹脂又は可塑剤を含むことが好ましい。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
樹脂フィルムの当該δ14Cが前述の範囲にあることで、植物由来の、塩化ビニリデン系樹脂組成物からなるフィルムを提供することができる。
なお、本実施形態において、14C/12Cの同位体比は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0068】
(樹脂の放射性炭素濃度)
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、ASTM D6866-18に規定されるAMS法を用いて求められる14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比から上記式(2)を用いて求められるδ14Cが、-1000‰超100‰以下である、植物由来の塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル系樹脂を原料として含むことが好ましい。
原料の樹脂のδ14Cが前述の範囲にあることで、植物由来の、塩化ビニリデン系樹脂組成物からなるフィルムを提供することができる。
なお、本実施形態において、14C/12Cの同位体比は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
樹脂Bとしてポリ塩化ビニル樹脂(250SB、INOVYN社)3.0質量部にアセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株)、以下「ATBC」ともいう)2.3質量部を加え、ヘンシェルミキサーにて5分間混練した。混練後、24時間以上熟成して組成物1を得た。
重量平均分子量90,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン繰り返し単位が88mol%、塩化ビニル繰り返し単位が12mol%、以下、樹脂Aともいう)89.3質量部、ジアセチルモノラウリルグリセリド(リケマール PL004、理研ビタミン(株))2.8質量部、エポキシ化大豆油(ニューサイザー510R、日本油脂(株))2.6質量部を、ヘンシェルミキサーにて5分間混練した。混練後、24時間以上熟成して組成物2を得た。
上記熟成した組成物1及び2を、組成物1が5.3質量部、組成物2が94.7質量部との配合割合となるようにして、再度ヘンシェルミキサーで混練し、組成物3を得た。
【0071】
得られた組成物3を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイから溶融押出してソックを形成した。この際、環状ダイのスリット出口における溶融樹脂温度は170℃になるように押出機の加熱条件を調節し、環状に10kg/時間の押出速度で押出した。
【0072】
これをソック液と冷水槽とで冷却した後、パリソンを開口してバブルを形成し、インフレーション延伸を行った。この際、MD方向は平均延伸速度0.12倍/秒で4.1倍に延伸し、TD方向は平均延伸速度3.5倍/秒で5.8倍に延伸して、筒状フィルム(バブル)を形成した。
【0073】
得られた筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んだ後、ピンチロールと巻き取りロールの速度比の制御によって、MD方向にフィルムを10%緩和させ、折幅280mmの2枚重ねのフィルムを巻取速度18m/分にて巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径92mmの紙管に巻き直した。その後、17℃で24時間保管したのち、外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルムの巻回体を得た。得られたラップフィルムの巻回体を用いて以下のとおり各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2~8、比較例1~4]
表1に示すとおり、基材組成、添加剤、フィルムの厚みを変更した以外は、実施例1と同様に、ラップフィルムの巻回体の作製を行った。この際、実施例1と同様に基材に添加する可塑剤のうち、ATBCをあらかじめ樹脂Bに添加し、実施例1と同様の方法で熟成した。樹脂A及び残りの可塑剤は別途混錬し熟成したのち、樹脂Aと樹脂Bとを混錬した。このとき、樹脂Bに事前に添加するATBCの上限は、樹脂への可塑剤の含侵量の観点から、樹脂Bと同質量までとし、樹脂Bの質量を上回った残りの可塑剤は、樹脂Aへ混錬した。得られたラップフィルムの巻回体を用いて以下のとおり各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0075】
[各評価]
実施例及び比較例で得られたフィルムについて、塩酸ガス発生量、塩酸ガス発生速度比、酸素透過度、透湿度、MD方向の引張弾性率、厚み、HAZE値、放射性炭素濃度を以下の方法によって求めた。結果を表1に示す。
【0076】
<塩酸ガス発生量>
溶融・押出成形で使用するスクリューに滞留した樹脂が排出されるまでの時間と、実際の押出温度とを考慮して、フィルムを170℃で60分間加熱した際の塩酸ガス発生量を以下のとおり測定した。加熱装置には水分気化装置(京都電子工業製 ADP-611)を用い、測定はイオンメーター(東亜ディーケーケー社製 HM-42Xイオン強度計)を使用した。
水分気化装置の加熱炉を170℃に加熱し、サンプル1gを乗せたガラスボートをセットした。発生した塩酸ガスをキャリアーガス(窒素、200mL/min)で送り出し、測定溶液(純水にイオン強度調整剤ISA-CLをpH5~6になるように加えたもの)に通して捕集した。測定溶液中の塩素イオン濃度の増加量をイオンメーターにて1分毎に検出し、記録した。この際、電極は塩化物イオン複合電極を使用した。
なお、塩酸ガス発生量が少ないほど、フィルムの熱劣化の抑制効果が向上すると評価した。
【0077】
<塩酸ガス発生速度比>
スクリューに滞留した樹脂が溶融後30~60分の間で急激に塩酸ガスを発生することを考慮して、以下のとおり塩酸ガス発生速度比を算出した。前述の塩酸ガス発生量の測定結果の内、30~60分の間に発生した塩酸ガス量から、塩酸ガス発生速度を算出し、下記の式(i)から、比較例1のフィルム(従来のフィルムに相当)の塩酸ガス発生速度に対する、測定対象の各フィルムの塩酸ガス発生速度の比を算出した。
塩酸ガス発生速度比=測定対象のフィルムの塩酸ガス発生速度/比較例1のフィルムの塩酸ガス発生速度×100・・・(i)
[評価基準]
○:85以下
△:85超100以下
×:100超
なお、塩酸ガス発生速度比が小さいほど、フィルムの熱劣化の抑制効果が向上すると評価した。
【0078】
<酸素透過度(酸素バリア性)>
ASTM D3985-17に準拠して、酸素透過率測定装置(MOCON社製:OX-TRAN 2/21SH)を使用して、23℃、相対湿度65%RHの条件で、酸素透過度を測定した。得られた測定値を、フィルムの厚みで掛け算して、厚み1μm当りの酸素透過度(小数点以下は四捨五入する)を得た。
【0079】
<透湿度(水蒸気バリア性)>
ASTM F1249-20に準拠して、水蒸気測定装置(MOCON社製:PERMATRAN―W 3/34G)を使用し、温度38℃・相対湿度90%RHの条件下で透湿度を測定した。得られた測定値を、フィルムの厚みで掛け算して、厚み1μm当りの水蒸気透過度(小数点以下は四捨五入する)を得た。
【0080】
<MD方向の引張弾性率>
ラップフィルムの引張弾性率測定はオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用し、23℃、50%RHの雰囲気中にて評価した。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件で2%伸長時の荷重を測定し、測定サンプルの断面積で割り返してから、50倍にして引張弾性率を測定した。測定の際には、試験機の軸に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付けた。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締めた。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、圧延が起きてはならない。試験中につかみ具の圧力による割れ、圧延が認められたサンプルは除外し、5回測定を行い、その平均値を測定結果とした。
また、測定結果は有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入して、塩化ビニリデン系樹脂フィルムのMD方向の引張弾性率を算出した。
【0081】
<フィルムの厚み>
ダイアルゲージ(テクロック社製)を利用し、23℃、50%RHの雰囲気中でフィルムの厚みの測定を行った。
【0082】
<相溶性の指標>
相溶性の指標として、本実施形態ではHAZE値を用いた。測定にはHAZEメーター(日本電色工業社製 NDH8000)を用いた。JIS K7136に基づき、フィルムのHAZE値を測定した。求めたHAZE値を、下記式のとおり、フィルムの厚み(μm)で割り、10をかけたものをHAZE値(規格化)として相溶性の指標とした。
((HAZE測定値)/(フィルムの厚み(μm))×10=HAZE値(規格化)
測定は5回行い、その平均値を測定結果とした。HAZE値(規格化)が小さいほど、樹脂Aと樹脂Bとの相溶性に優れる。
【0083】
<樹脂フィルムのδ14Cの算出方法>
ASTM D6866-18記載の方法に準拠して、フィルムの14C/12C同位体比を測定し、δ14Cを算出した。
具体的には、タンデム加速器をベースとした加速器質量分析(14C-AMS)(NEC社製)を使用し、塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおける14C/12C同位体比の測定(AMS法)を行った。当該測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HOxII、SRM-4990C)を標準物質とした。バックグラウンド試料(グラファイト粉末、和光純薬、特級)における放射性炭素濃度測定も同条件で実施した。
また、測定前の化学処理工程として、各サンプルを燃焼させて得たCO2を真空ラインで精製した。精製したCO2を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成した。グラファイトを内径1mmのカソードにハンドプレス機で詰め、それをホイールにはめ込み、測定装置に装着した。
上記のようにAMS法を用いて求めた14C/12Cの同位体比とシュウ酸標準物質(HOxII)の14C/12Cの同位体比とから下記式(2)を用いてδ14Cを求めた。
δ14C(‰)=[{As-Ar}/Ar]×1000・・・(2)
(式(2)中、Asは、サンプルの14C/12Cの同位体比であり、Arは、シュウ酸標準物質の14C/12Cの同位体比である。)
【0084】
<樹脂のδ14Cの算出方法>
ASTM D6866-18記載の方法に準拠して、樹脂の14C/12C同位体比を測定し、植物由来の塩化ビニリデン系樹脂のδ14Cを算出した。
具体的には、樹脂フィルムをアセトンに浸漬させ、樹脂フィルム中の可塑剤を抽出した。可塑剤を抽出した樹脂フィルムについて、上記<樹脂フィルムのδ14Cの算出方法>で示した方法と同じように、タンデム加速器をベースとした加速器質量分析(14C-AMS)(NEC社製)を使用し、塩化ビニリデン系樹脂における14C/12C同位体比の測定(AMS法)を行った。
【0085】
【0086】
実施例1~8のフィルムはいずれも、塩酸ガス発生量が3500ppm以下で、比較例1~3のフィルムと比較して、塩酸ガスの発生を抑制することができた。
実施例2~8のフィルムはいずれも、酸素透過度が300~850cm3/m2・day・MPa、透湿度が4~18g/m2・day、引張弾性率が250~600MPa、フィルムのHAZE値(規格化)が0~40であり、比較例2及び3の従来のフィルムと同等のフィルム物性であることを確認した。HAZE値(規格化)より、塩化ビニリデン系樹脂Aに対し、添加した樹脂Bの内、塩化ビニル樹脂及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体は特に相溶性が高いと考えられる。
実施例1及び3のフィルムと比較例1のフィルムとを比較すると、塩化ビニル樹脂や塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を添加した実施例1及び3の方が、塩酸ガス発生量が少ないことに加え、塩酸ガス発生速度が低下していることから、本実施形態の手法で作製したフィルムは従来のフィルムと比較して、熱劣化しにくいフィルムであることが分かった。
本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、溶融及び押出成形時の熱劣化の抑制とフィルム物性(ガスバリア性や引張弾性率)の維持とを両立できるため、例えば、ラップフィルム等に有効に利用可能である。
1…押出機、2…ホッパー、3…スクリュー、4…サーキュラーダイ、5…筒状パリソン、6…冷却槽、7…冷却水、8…パリソン内冷媒、9…温水槽、20、21、22、23、24、25…ピンチロール、30、31…巻取りボビン、14…化粧箱、15…フィルム切断刃、16…巻回体、17…ラップフィルム。