(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191180
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20221220BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 127
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093789
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021099784
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】井上 公治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓一郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056EC04
2C056EC06
2C056EC12
2C056EC28
2C056EC31
2C056FA13
2C056FD20
2C056HA41
2H186AB01
2H186BA08
2H186DA09
2H186FB15
2H186FB22
2H186FB48
2H186FB54
(57)【要約】
【課題】先に付与されたインク滴中に後から付与されたインク適が埋没する現象を抑制し、鮮明で発色性の高い画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】記録媒体をコロナ放電処理するコロナ放電処理工程と、該記録媒体の該コロナ放電処理を施した面に、アニオン性顔料を含むインクを付与するインク付与工程と、を有し、前記コロナ放電処理の放電量は3400W・min/m
2以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体をコロナ放電処理するコロナ放電処理工程と、
前記記録媒体の前記コロナ放電処理を施した面に、アニオン性顔料を含むインクを付与するインク付与工程と、
を有し、
前記コロナ放電処理の放電量が3400W・min/m2以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記放電量は4200W・min/m2以上25000W・min/m2以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記放電量は5700W・min/m2以上25000W・min/m2以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記コロナ放電処理の出力および前記記録媒体の搬送速度を変更することで、前記コロナ放電処理の放電量を調整する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記記録媒体の搬送速度が、1.5m/min以上4m/min以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記コロナ放電処理の出力が、3000W以上5000W以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記インクは、アニオン性樹脂粒子を含む請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記インクは、水を含み、前記インク中の前記水の含有量が、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式では、色材を含む液体組成物(インク)を紙等の記録媒体上に直接または間接的に付与することで画像を形成している。この時、インクジェット記録ヘッドから付与されるインクの隣接ドットが付与される時間的間隔が短いと、先行して記録媒体に着弾したインク滴が記録媒体上に浸透、乾燥、固定される前に後行の隣接ドットが付与され、ビーディングやブリードなどの問題が生じることがある。また、多次色画像形成において先行して付与される1次色がベタ画像である場合に、先行して付与されたインクが記録媒体上で浸透、乾燥、固定されていなければ、後に付与されるインク滴が記録媒体上に先行して付与されたインク滴中に埋没し、得られる画像の発色性が低下することがある。これらの問題は、記録媒体に対するインクの浸透性が低いまたは非浸透性である場合により顕著になる。
ビーディングやブリードなどの問題を解決する従来技術としては、プラズマ処理手段によって記録媒体の表面を処理し、記録媒体の濡れ性やpH値、浸透性を変化させることで、インクドット真円度を向上させ、色材である顔料の移動を抑制させる方法やビーディングを抑制する方法が提案されている(特許文献1)。
その他、記録媒体の表面処理により鮮明な画像を得る方法として、コロナ処理手段によって記録媒体の表面を処理し、記録媒体の濡れ性を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-138384号公報
【特許文献2】特開2019-130869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の方法によってビーディングやブリードの問題は改善するものの、後から付与されたインク滴が先に付与されたインク滴中に埋没し、画像の発色性が低下してしまう現象を抑制するには不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
記録媒体をコロナ放電処理するコロナ放電処理工程と、
該記録媒体の該コロナ放電処理を施した面に、アニオン性顔料を含むインクを付与するインク付与工程と、
を有し、
前記コロナ放電処理の放電量が3400W・min/m2以上であることを特徴とする、インクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、先に付与されたインク滴中に後から付与されたインク滴が埋没する現象を抑制し、鮮明で発色性の高い画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態におけるインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】コロナ放電処理の電力、処理速度、放電量の関係を示す図である。
【
図3】放電量が3400W・min/m
2以上となる処理速度とジェネレータ出力の関係を示す図である。
【
図4】
図1に示すインクジェット記録装置における、装置全体の制御システムを示すブロック図である。
【
図5】
図1に示すインクジェット記録装置におけるプリンタ制御部のブロック図である。
【
図6】コロナ放電処理及びプラズマ処理を施した記録媒体上に、インクを付与して画像形成した際の各画像の写真である。
【
図7】コロナ放電処理の放電量と画像の明度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、
記録媒体をコロナ放電処理するコロナ放電処理工程と、
該記録媒体の該コロナ放電処理を施した面に、アニオン性顔料を含むインクを付与するインク付与工程と、を有し、
前記コロナ放電処理の放電量が3400W・min/m2以上であることを特徴とする、インクジェット記録方法である。
【0009】
通常、コロナ放電処理によって記録媒体の表面の親水性が高まり、水と記録媒体との接触角は小さくなるため水は濡れ広がる。一方、アニオン性顔料を含むアニオン性顔料インクを用いる場合、コロナ放電処理で記録媒体の表面に生じたプロトンにより、インク中のアニオン性顔料が凝集、定着できることを本発明者らは見出した。特にコロナ放電処理の放電量が3400W・min/m
2以上においてその効果は顕著であり、またプラズマ処理よりもコロナ放電処理の方がその効果を得やすいことを本発明者らは見出した。また、コロナ放電処理の放電量は4200W・min/m
2以上25000W・min/m
2以下であることが好ましく、4520W・min/m
2以上25000W・min/m
2以下であることがより好ましく、5700W・min/m
2以上25000W・min/m
2以下であることがさらに好ましい。
記録媒体をコロナ放電処理することによってアニオン性顔料が凝集するのは、記録媒体の表面に発生したオキソニウムイオンH
3O
+が、アニオン性顔料の分散状態を破壊するためであると本発明者らは推測している。なお、プラズマ処理(
図6(d))の方が放電量は大きいにもかかわらずコロナ放電処理(
図6(c))を行った場合のようなインクの凝集作用が見られない理由についてメカニズムは不明であるが、プラズマ処理の方が最終的に発生するH
3O
+の数が少ないためであると考えられる。
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
以下に図面を参照して、本発明の実施形態に係るインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置100の概略構成の一例を示す模式図である。本装置ではロール状に形成された連続紙である記録媒体102を、巻き出しユニット101aから巻き出し、巻取りユニット101bで巻き取る。巻き出しユニット101aから巻き出された記録媒体102はコロナ放電処理ユニット103のコロナ電極部103dに対向する位置を通ることで、コロナ放電処理を施される。コロナ放電処理ユニット103のコロナ電極部103dと記録媒体102との間の距離(最短距離)は、0.01mm以上1mm以下であることが好ましい。その後インクジェット記録ヘッド104a~104dを通過し、各色のインクが付与される。インクジェット記録ヘッドは、104aはシアンインクを、104bはマゼンタインクを、104cはイエローインクを、104dはブラックインクを吐出する記録ヘッドである。
【0012】
<記録媒体>
本発明に用いられる記録媒体は、枚葉紙でも巻き取り紙でもよいが、生産性の観点から、ロール状の記録媒体が好ましい。
記録媒体としてはインク中の液体成分等を吸収することができる吸収性の記録媒体と、液体成分を吸収しない非吸収性の記録媒体が用いられる。
【0013】
非吸収性の記録媒体としては樹脂フィルムが挙げられる。例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。
樹脂フィルムの市販品としては、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート)、太閤FE2001(フタムラ化学株式会社製、コロナ処理ポリエチレンテレフタレート)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)、PET(50) PAT1 8LK(リンテック株式会社製、PET)等が挙げられる。
【0014】
吸収性の記録媒体としてはアート紙や上質紙などが挙げられる。
吸収性の記録媒体の市販品としては、55PW8K(リンテック株式会社製、上質紙)やアートE PW 8K(リンテック株式会社製、コート紙)等が挙げられる。
【0015】
<記録媒体の搬送構成>
記録媒体のY方向長さは330mmであり、巻き出しユニット101aおよび巻取りユニット101bの回転速度により搬送速度が制御される。なお巻き出しユニット101aおよび巻取りユニット101bは図示されない駆動モータ及び制御手段に接続されており、回転速度を制御する構成となっている。記録媒体の搬送速度は、1.5m/min以上4m/min以下であることが好ましい。
【0016】
<コロナ放電処理ユニット>
コロナ放電処理ユニット103のコロナ電極部103dのY方向長さは350mmであり、図示されないジェネレータに接続されコロナ放電処理に使用する電力が供給される。
記録媒体102は、コロナ放電処理ユニットのアイドラローラ103a、103cおよび接地された電極対向ローラ103bに懸架される。記録媒体102がコロナ電極部103dと電極対向ローラ103bの間を通過する際にコロナ放電を生じさせ、記録媒体102の表面をコロナ放電処理する。コロナ放電処理の放電量Q[W・min/m2]は、ジェネレータの電力E[W]、電極幅D[m]、記録媒体102の搬送速度V[m/min]から、式(1)の関係にて制御可能である。
Q=E/(D×V) 式(1)
【0017】
図2は、ジェネレータ出力と記録媒体搬送速度に対するコロナ放電処理の放電量の関係を示している。目標とする値以上の放電量を実現するためには、ジェネレータ出力を高めるか処理速度を下げることが有効である。
【0018】
図3は、
図2において放電量3400W・min/m
2を実現するために必要なジェネレータ出力と処理速度の関係である。
図3中の矢印で示す領域の条件でコロナ放電処理を行うことで、放電量3400W・min/m
2以上のコロナ放電処理が可能である。
【0019】
このように、コロナ放電処理の出力と記録媒体の搬送速度を変更することで、コロナ放電処理の放電量を調整することができる。なお、コロナ放電処理の出力(ジェネレータによる供給電力)は、3000W以上5000W以下であることが好ましい。
【0020】
<インク付与装置>
本実施形態ではインクを付与するインク付与装置として、インクジェット記録ヘッドを用いる。インクジェット記録ヘッドとしては、例えば電気-熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する形態、電気-機械変換体によってインクを吐出する形態、静電気を利用してインクを吐出する形態等が挙げられる。本実施形態では、公知のインクジェット記録ヘッドを用いることができる。中でも特に高速で高密度の印刷を行う観点からは電気-熱変換体を利用したものが好適に用いられる。記録媒体への画像の記録は画像信号を受け、各位置に必要なインク量を付与することによって行われる。
【0021】
本実施形態ではインクジェット記録ヘッドはY方向に延設されたフルラインの記録ヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体の画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。インクジェット記録ヘッドはその下面(記録媒体102側)にノズルが開口したインク吐出面を有しており、インク吐出面は微小な隙間(数ミリ程度)を空けて記録媒体102の表面と対向している。
【0022】
記録媒体へのインク付与量は画像データの濃度値やインク厚み等で表現することができるが、本実施形態では各インクドット(インク滴)の質量に付与個数を掛け、印字面積で割った平均値をインク付与量(g/m2)とした。尚、画像領域における最大インク付与量とは、インク中の液体成分を除去する観点より、記録媒体の情報として用いられる領域内において、少なくとも5mm2の面積において付与されているインク付与量を示す。
【0023】
インクジェット記録ヘッド(104a~104d)は、記録媒体上に各色のカラーインクを付与するために、インクジェット記録ヘッドを複数有していてもよい。例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを用いてそれぞれの色画像を形成する場合、インク付与装置は上記4種類のインクを記録媒体上にそれぞれ吐出する4つのインクジェット記録ヘッドを有することになり、これらはX方向に並ぶように配置される。
【0024】
<インク>
以下、本実施形態に適用されるインクを構成する、色材、樹脂、水性媒体、添加剤などの各成分について詳細に説明する。
【0025】
(色材)
色材としては、アニオン性の顔料を用いる。インク中の色材の含有量は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
アニオン性の顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。
【0026】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。
【0027】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、好適には、後述するような樹脂、さらに好適には水溶性樹脂を用いることができる。顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で(顔料/樹脂分散剤)、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0028】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、直接又は他の原子団(-R-)を介して顔料の粒子表面に結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合のカウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン;アンモニウム;有機アンモニウム;などを挙げることができる。また、他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基としてもよい。
【0029】
また、必要に応じて顔料と共に染料を用いてもよい。
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、アントラピリドンなどの染料を挙げることができる。
【0030】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定にする、すなわち上述の樹脂分散剤やその補助として、(ii)記録される画像の各種特性を向上させる、などの理由でインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に水溶性樹脂として溶解した状態であってもよく、水性媒体中に樹脂粒子として分散した状態であってもよい。樹脂粒子は色材を内包するものである必要はない。また、樹脂は、アニオン性樹脂粒子であることが好ましい。
【0032】
本発明において樹脂が水溶性であることとは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しないものであることとする。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、のように設定することができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0033】
樹脂の酸価は、水溶性樹脂の場合100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、樹脂粒子の場合5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂の重量平均分子量は、水溶性樹脂の場合3,000以上15,000以下であることが好ましく、樹脂粒子の場合1,000以上2,000,000以下であることが好ましい。樹脂粒子の動的光散乱法(測定条件は上記と同様)により測定される体積平均粒子径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0034】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン樹脂が好ましい。
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
なお、本発明において(メタ)アクリル酸はアクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0035】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0036】
ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0037】
(水性媒体)
インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。水性インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。
【0038】
(その他添加剤)
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤など種々の添加剤を含有してもよい。
【0039】
<制御システム>
本実施形態におけるインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置は、各装置を制御する制御システムを有する。
図4は
図1に示す転写型インクジェット記録装置における、装置全体の制御システムを示すブロック図である。
【0040】
図4において、401は外部プリントサーバー等の記録データ生成部、402は操作パネル等の操作制御部、403は記録プロセスを実施するためのプリンタ制御部、404は記録媒体を搬送するための記録媒体搬送制御部、405は印刷をするためのインクジェットデバイスである。
【0041】
図5は
図1のインクジェット記録装置における
図4のプリンタ制御部のブロック図である。
501はプリンタ全体を制御するCPU、502はCPU501の制御プログラムを格納するためのROM、503はプログラムを実行するためのRAMである。504はネットワークコントローラ、シリアルIFコントローラ、記録ヘッドデータ生成用コントローラ、モーターコントローラ等を内蔵した特定用途向けの集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)である。509は記録ヘッド制御部であり、インクジェットデバイス405の最終吐出データ生成、駆動電圧生成等を行う。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
図6は、コロナ放電処理またはプラズマ処理を施した記録媒体上に画像を形成した際の、画像の写真である。記録媒体にはPETメディアを用いた。インクはアニオン性顔料及び水を含んだ水性顔料インクであり、シアンインクを9ng/m
2ベタ印字した上にイエローインクを1ドット5スペースで印字した。
【0044】
コロナ放電処理にはコロナマスターPS-1M(信光電気計装株式会社製、コロナ放電電力300W、処理幅200mm)を用いた。処理速度1.8m/min、処理スキャン数6回により放電量8333W・min/m2の処理と、処理速度7.2m/min、処理スキャン数6回により放電量2083W・min/m2の処理を行った。
【0045】
プラズマ処理にはAP-T02-L150(積水化学工業(株)製、プラズマ発生電力355.5W、処理幅30mm)を用い、プラズマ発生部に酸素と窒素の混合気体(酸素3%)を流し、処理速度0.11m/min、処理スキャン数1回により放電量110000W・min/m2の処理を行った。
【0046】
未処理の記録媒体を用いた場合、先行してベタ画像を形成したシアンインクに後行のイエローインク滴が埋没し、さらにシアンインクの乾燥による移流でイエロードットが細長く伸びている(
図6(a))。
【0047】
次に記録媒体にコロナ処理を施した場合、コロナ放電量8333W・min/m
2においてはシアンインクが凝集することで後行のイエローインクが埋没しにくく、またシアンインク中の移流が抑えられることでイエロードットの真円度が高くなった(
図6(c))。放電量2083W・min/m
2(
図6(b))においては多少の効果は見られるものの6図(c)ほどではなく、先行のインクの凝集作用の程度はコロナ放電量に依存することが分かった。一方、記録媒体にプラズマ処理を施した場合(
図6(d))、放電量が110000W・min/m
2であるにも関わらず先行のシアンインクの凝集効果は見られず、後行のイエローインクは埋没し、シアンインクの移流によってドットは細長く伸びる結果となった。
【0048】
また上記したこれらの傾向は画像の明度にも表れる。
図7は、シアンインク6.8ng/m
2をベタ印字した画像にコロナ放電処理をした際の、放電量とシアン画像の明度を示している。放電量を大きくすると明度が下がり、放電量5400W・min/m
2以上で飽和した。
図6(a)の結果と合わせて考えると、
図6(c)の8333W・min/m
2では先行のインクが十分凝集し後行のインクの埋没問題が解決し、また明度も十分下がり切っている。
図6(b)の2083W・min/m
2では先行のインクの凝集が不十分であり、また明度も下がり切っていない。これらの結果より、
図7の明度の変化から、後行のインクの埋没問題を解決しかつ明度を十分下げることができるコロナ放電量を求めることができると考えられる。
図7に示す明度は放電量に対して指数関数で変化しており、式(2)で近似することができた。
L=(46-36)×exp(-Q/τ)+36 式(2)
Lは明度、Qはコロナ放電処理の放電量、τ(=1129W・min/m
2)は減衰係数である。この関係より放電量をτにすれば明度は初期から63%減少し、同様に放電量を2τにすると明度が86%減少、また同様に放電量を3τにすると明度が95%減少することになる。放電量がほぼ2τと同程度であった
図6(b)では先行のインクの凝集効果が不十分であったが、3τ=3386W・min/m
2以上にすることで後行のインクの埋没問題を解決しかつ明度を十分下げることができることが分かった。より好ましくは4τ=4520W・min/m
2以上にすることでより確実に先行のインクの凝集効果を得ることができる。
【0049】
以上より、インクの凝集作用を発現させるためには、コロナ処理を用いかつ放電量を3400W・min/m2以上にすることが有効であることが分かった。一方でコロナ放電により記録媒体の表面がダメージを受ける懸念があるため、コロナ放電処理後の記録媒体の表面の評価を行った。
【0050】
記録媒体にはPET(50) PAT1 8LK(リンテック株式会社製、PET)とアートE PW 8E(リンテック株式会社製、)を用い、放電量25000W・min/m2まで評価した。処理前後の様子を比較したが、記録媒体の色や透明度に変化はなく、また表面形状(Sa)についても変化は認められなかった。すなわち、放電量25000W・min/m2まではコロナ放電により記録媒体の表面がダメージを受けていないことが判明した。
以上より、インクの凝集効果を発現し、かつコロナ放電による記録媒体のダメージを回避するため、好ましくは放電量を4520W・min/m2以上25000W・min/m2以下にするとよい。
【0051】
(実施例1)
本実施例1では
図1に示すインクジェット記録装置を用いた。記録媒体102はPET(50) PAT1 8LK(リンテック株式会社製、PET)を用いた。コロナ放電処理ユニット103は図示されないジェネレータに接続され、最大5000Wの電力を供給することができる。本実施例ではジェネレータによる供給電力を3000Wとし、記録媒体102の搬送速度を2.5m/minとして印刷を行った。この時のコロナ放電量は3430W・min/m
2で先行のインクを凝集させるのに十分な放電量であり、後行のインクの埋没問題がなくまた高発色な画像を得ることができた。
【0052】
(実施例2)
本実施例は基本的に実施例1と同様の条件であり、記録媒体102の搬送速度とコロナ放電処理ユニット103に接続されたジェネレータの供給電力条件のみが異なる。本実施例ではジェネレータによる供給電力を3000W、記録媒体102の搬送速度を2.5m/minとして印刷ジョブ1を行った後に、印刷の生産性を向上させるために記録媒体102の搬送速度を4m/minに変更し印刷ジョブ2を実行した。この際コロナ放電処理の放電量条件を満たすために、ジェネレータによる供給電力を5000Wに変更した。これによりコロナ放電処理による放電量は3570W・min/m2となり、十分な先行のインクの凝集に必要なコロナ放電量条件である3400W・min/m2以上を維持しつつ、印刷生産性を上げることができた。
【0053】
(実施例3)
本実施例3の条件は実施例1と同様であり、ジェネレータによる供給電力を3000Wとし、記録媒体102の搬送速度を1.5m/minとして印刷を行った。この時のコロナ放電量は5710W・min/m2であり、実施例1よりもより先行のインクを凝集させるのに十分な放電量であり、後行のインクの埋没問題がなくまた高発色な画像を得ることができた。
【0054】
(実施例4)
本実施例は基本的に実施例3と同様の条件であり、記録媒体102の搬送速度とコロナ放電処理ユニット103に接続されたジェネレータの供給電力条件のみが異なる。本実施例ではジェネレータによる供給電力を3000W、記録媒体102の搬送速度を1.5m/minとして印刷ジョブ1を行った後に、印刷の生産性を向上させるために記録媒体102の搬送速度を2.5m/minに変更し印刷ジョブ2を実行した。この際コロナ放電処理の放電量条件を満たすために、ジェネレータによる供給電力を5000Wに変更した。これによりコロナ放電処理による放電量は5710W・min/m2となり、実施例3と同様に十分な先行のインクの凝集に必要なコロナ放電量条件である5710W・min/m2以上を維持しつつ、印刷生産性を上げることができた。
【0055】
(比較例1)
本比較例の条件は実施例1と同様であるが、コロナ放電処理は行わず、記録媒体102の搬送速度を1.5m/minとして印刷を行った。コロナ放電処理がない場合先行のインクの凝集作用が働かないため、低発色な画像となってしまった。
【0056】
(比較例2)
本比較例は実施例1の条件に対して、コロナ放電処理ユニット103をプラズマ処理ユニットに変更した点以外は実施例1と同様に印刷を行った。プラズマ処理では放電量110000W・min/m2での処理を行ったが、先行のインクの凝集作用が不十分で、低発色な画像となってしまった。
【0057】
なお、本実施形態の開示は、以下の方法を含む。
(方法1)記録媒体をコロナ放電処理するコロナ放電処理工程と、
前記記録媒体の前記コロナ放電処理を施した面に、アニオン性顔料を含むインクを付与するインク付与工程と、
を有し、
前記コロナ放電処理の放電量が3400W・min/m2以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
(方法2)前記放電量は4200W・min/m2以上25000W・min/m2以下である方法1に記載のインクジェット記録方法。
(方法3)前記放電量は5700W・min/m2以上25000W・min/m2以下である方法1又は2に記載のインクジェット記録方法。
(方法4)前記コロナ放電処理の出力および前記記録媒体の搬送速度を変更することで、前記コロナ放電処理の放電量を調整する方法1~3のいずれか1の方法に記載のインクジェット記録方法。
(方法5)前記記録媒体の搬送速度が、1.5m/min以上4m/min以下である方法1~4のいずれか1の方法に記載のインクジェット記録方法。
(方法6)前記コロナ放電処理の出力が、3000W以上5000W以下である方法1~5のいずれか1の方法に記載のインクジェット記録方法。
(方法7)前記インクは、アニオン性樹脂粒子を含む方法1~6のいずれか1の方法に記載のインクジェット記録方法。
(方法8)前記インクは、水を含み、前記インク中の前記水の含有量が、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下である方法1~7のいずれか1の方法に記載のインクジェット記録方法。