(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191185
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】含フッ素ポリマーおよび界面活性剤
(51)【国際特許分類】
C08F 220/22 20060101AFI20221220BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20221220BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20221220BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20221220BHJP
C08L 33/16 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08F220/22
C08F220/10
C09K3/18 102
C11D7/22
C08L33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094107
(22)【出願日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2021099508
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519437777
【氏名又は名称】ユニケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】田中 藤丸
【テーマコード(参考)】
4H003
4H020
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA01
4H003EB30
4H003ED02
4H003FA06
4H020AA06
4H020AB06
4H020BA13
4H020BA24
4J002BG081
4J002FD311
4J002GD00
4J002GK02
4J002GK04
4J002HA03
4J002HA04
4J002HA05
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA02P
4J100BA08Q
4J100BA09Q
4J100BA34P
4J100BB12P
4J100BB18P
4J100CA04
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100JA01
4J100JA15
4J100JA20
4J100JA21
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来のフッ素系界面活性剤が有する機能を維持しつつ、環境負荷が少ない新たな含フッ素ポリマーないしフッ素系界面活性剤を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明として、例えば、繰り返し単位が「CF
2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとが共重合してなる含フッ素ポリマーやそれを含む界面活性剤を挙げることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位が「CF2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとが共重合してなる、含フッ素ポリマー。
【請求項2】
フッ素を含まない(メタ)アクリルモノマーの少なくとも1種が、1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数。)の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の含フッ素ポリマー。
【請求項3】
前記パーフルオロポリエーテル鎖が、次の一般式(1)で表される構造である、請求項1に記載の含フッ素ポリマー。
【化1】
【請求項4】
フッ素を含まない(メタ)アクリルモノマーの少なくとも1種が、1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数。)の繰り返し単位を含む、請求項3に記載の含フッ素ポリマー。
【請求項5】
繰り返し単位が「CF2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとを共重合する工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーを含む、界面活性剤。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーおよび溶媒からなる、組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の界面活性剤および溶媒からなる、組成物。
【請求項9】
前記溶媒が、水および/または有機溶剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記溶媒が、水および/または有機溶剤である、請求項8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマーないしそれを含む界面活性剤の技術分野に属する。本発明は、分子中に「CF2O」のみを繰り返し単位として含むパーフルオロポリエーテル鎖を含むポリマーおよび界面活性剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素系界面活性剤は、これまでその高機能、特に表面張力の低下能を活かして、半導体や電子分野をはじめとする製造業で必要欠くべからざるものとされてきた。
【0003】
しかしながら、近年の含フッ素化合物の化学的安定性に起因する体内蓄積性や環境中での難分解性から、各国での規制が始まり、既にPFOA(パーフルオロオクタン酸)関連化合物はその対象となっており、その代替化合物として使用されているパーフルオロへキシル基含有化合物も、規制論議の対象となりつつあり、さらなる代替化合物が望まれている。
【0004】
特許文献1には、「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を含む表面処理剤について開示されている。しかし、当該パーフルオロポリエーテル鎖は、「CF2O」の繰り返し単位が2~7である単鎖であって、これでは十分な表面張力低下能を得ることは困難である。
【0005】
特許文献2には、熱処理によって分解する含フッ素熱分解性ポリマーが開示されている。しかし、分解箇所はフッ素鎖の連結部分であって、フッ素鎖そのものを分解するものではないため、フッ素化合物の環境懸念への対応が十分とは言い難い。
【0006】
非特許文献1には、環境懸念物質とされるパーフルオロアルキル基の熱分解開始温度が少なくとも200℃以上であることが記載されている。
【0007】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、ハードディスクの潤滑剤等に使用される高耐熱性物質であり、非特許文献2には、金属フッ化物や金属酸化物の存在下においてのみ160℃程度から熱分解が始まることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2012-509937号公報
【特許文献2】特開2016-017172号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Environ. Sci. Technol. Lett. 7 343-350 (2020)
【非特許文献2】Macromolecules 25 6791-6799 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、従来のフッ素系界面活性剤では、環境や人体への影響が懸念されうる。
本発明は、従来のフッ素系界面活性剤が有する機能を維持しつつ、環境負荷が少ない新たな含フッ素ポリマーないしフッ素系界面活性剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を行い、「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖が、パーフルオロアルキル鎖や他のパーフルオロポリエーテル鎖に比べて、はるかに低温で分解し、この特異的性質により、環境下で分解されやすく環境負荷の少ないものとなることを見出し、それに工夫を重ねた結果、本発明を完成するに到った。
本発明として、例えば、以下の態様を挙げることができる。
[1]繰り返し単位が「CF2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとが共重合してなる、含フッ素ポリマー。
[2]フッ素を含まない(メタ)アクリルモノマーの少なくとも1種が、1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数。)の繰り返し単位を含む、上記[1]に記載の含フッ素ポリマー。
[3]前記パーフルオロポリエーテル鎖が、次の一般式(1)で表される構造である、上記[1]に記載の含フッ素ポリマー。
【0012】
【0013】
[4]フッ素を含まない(メタ)アクリルモノマーの少なくとも1種が、1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数。)の繰り返し単位を含む、上記[3]に記載の含フッ素ポリマー。
[5]繰り返し単位が「CF2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとを共重合する工程を含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
[6]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーを含む、界面活性剤。
[7]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーおよび溶媒からなる、組成物。
[8]上記[6]に記載の界面活性剤および溶媒からなる、組成物。
[9]前記溶媒が、水および/または有機溶剤である、上記[7]に記載の組成物。
[10]前記溶媒が、水および/または有機溶剤である、上記[8]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るパーフルオロポリエーテル鎖は、従来のパーフルオロポリエーテル鎖に比べて、はるかに低温で分解される。それ故、本発明の含フッ素ポリマーないしフッ素系界面活性剤は、従来のフッ素系界面活性剤が有する機能を維持しつつ、環境負荷が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】TG-DTA分析結果を表す。各曲線は、TG曲線、DTG曲線、またはDTA曲線を、それぞれ示す。縦軸は、各線種に対応して、それぞれ重量変化(mg)、微分重量変化(減少)(mg/分)、温度差(μV)を示し、横軸は温度(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
1 本発明の含フッ素ポリマー
本発明の含フッ素ポリマー(以下、「本発明ポリマー」という。)は、繰り返し単位が「CF2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、フッ素を含まない1種以上の(メタ)アクリルモノマーとが共重合してなることを特徴とする。
本発明に係るパーフルオロポリエーテル鎖における「CF2O」の繰り返し単位数としては、例えば、2~10の範囲内が適当であり、3~8の範囲内が好ましく、3~7の範囲内がより好ましい。当該パーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーが混合物の場合、これらの数値は、平均値(数平均、重量もしくは質量平均、またはz平均等)であってもよい。
ここで、「(メタ)アクリルモノマー」との表現は、メタクリルモノマーまたはアクリルモノマーを意味する。その他、「(メタ)アクリレート」なども同様である。
【0017】
本発明ポリマーは、単独では界面活性剤としての機能を発現し難い、「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を、常法により(メタ)アクリルモノマー化し、次いでかかる(メタ)アクリルモノマーと他の非フッ素系モノマーとを常法により共重合することにより、製造することができる。本発明者は、このように、「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を(メタ)アクリルモノマー化した化合物と非フッ素系モノマーとを共重合することにより、単鎖パーフルオロポリエーテル鎖の欠点を補うことができることを見出した。
【0018】
「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、下記の化合物を挙げることができる。
CF3O(CF2O)3CF2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)3CF2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)4CF2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)4CF2CH2C(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)5CF2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)5CF2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)6CF2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)6CF2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)7CF2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)7CF2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)3CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)3CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)4CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)4CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)5CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)5CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)6CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)6CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
CF3O(CF2O)7CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
CF3O(CF2O)7CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
C2F5O(CF2O)3CF2CH2 OC(O)CH=CH2
C3F7O(CF2O)4CF2CH2 OC(O)C(CH3)=CH2
C2F5O(CF2O)5CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2
C3F7O(CF2O)6CF2CONHCH2CH2OC(O)C(CH3)=CH2
本発明においては、上記化合物を単独または2種以上を混合して用いることもできる。
【0019】
特に、本発明ポリマーの中、上記パーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマーとノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマーとを共重合して得られるポリマーが優れた界面活性能を示しうることから好ましい。本発明において「ノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマー」とは、繰り返し単位として1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数である)を含むものを指す。
【0020】
上記ノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ( プロピレングリコール・ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・ブチレングリコール) モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(テトラエチレングリコール・ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリテトラエチレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(トリメチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリトリメチレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(ブチレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る非フッ素(メタ)アクリルモノマーの分子量としては、160~2000の範囲内が適当であり、好ましくは200~1000の範囲内である。
【0022】
また、本発明ポリマーは、繰り返し単位として1種以上のCpH2pO(式中、pは2~4の整数である)を含むノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマー以外の非フッ素重合性単量体をさらに加えて共重合したポリマーであってもよい。
【0023】
上記のようなノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマー以外の非フッ素重合性単量体としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等が挙げられる。
【0024】
本発明ポリマーは、常法により製造することができ特に制限されないが、本発明ポリマーの製造方法としては、例えば、「CF2O」のみを繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を含む(メタ)アクリルモノマー、および非フッ素系モノマー(ノ二オン系非フッ素(メタ)アクリルモノマー、それ以外の非フッ素重合性単量体等)を有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を使用して重合させる方法等が挙げられる。
【0025】
本発明ポリマーの製造方法で用いる有機溶媒としては、例えば、エステル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類、エーテル類、炭化水素類が好ましく、具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を例示することができる。さらに必要に応じてラウリルメルカプタン、チオグリセロール、2-メルカプトエタノ-ル、エチルチオグリコ- ル酸、オクチルチオグリコ-ル酸等の連鎖移動剤を使用することができる。
【0026】
2 本発明の界面活性剤、組成物、用途
本発明ポリマーは、界面活性作用を有する。それ故、本発明ポリマーは、界面活性剤として用いることができ、本発明の一態様として、本発明ポリマーを含む界面活性剤(以下、「本発明界面活性剤」という。)を挙げることができる。本発明界面活性剤は、本発明ポリマーからなるものでも、また例えば、他の界面活性剤やその他の成分(例、添加剤)を含むものでもよい。
【0027】
また、本発明界面活性剤は、溶媒との組成物であってもよい。かかる溶媒としては、本発明ポリマーや用途などによって異なるが、例えば、水;ないし、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどの有機溶剤を挙げることができる。この中、水、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0028】
当該組成物中における本発明ポリマーの含有量は、本発明ポリマーや溶媒の種類などによって異なり、本発明ポリマー、溶媒、用途などに応じて適宜選定されるが、0.01~20重量%の範囲内が適当であり、0.1~10重量%の範囲内が好ましく、0.2~5重量%の範囲内がより好ましい。
【0029】
本発明ポリマーないし本発明界面活性剤は、従来のフッ素系界面活性剤と同様に用いることができる。本発明ポリマーないし本発明界面活性剤、あるいは溶媒との組成物の具体的な用途としては、例えば、撥水剤、撥油剤、紙や布などの防汚剤、泡消火剤、めっき液、航空機作動油、グリース、フロアワックス、洗浄剤、水ガラス、レンズ曇り止め、塗料のレベリング剤、エッチング剤の製造、半導体レジストの製造、写真用乳剤など業務用写真フィルムの製造を挙げることができる。
【実施例0030】
以下に実施例等を掲げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
[合成例1]「CF2O」を繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を含むモノマーAの合成
原料として、CF3O(CF2O)4CF2CO2CH3(Anles社製)を用いて、特許文献1に記載の方法に準じて、CF3O(CF2O)4CF2CONHCH2CH2OH(化合物1)を調製した。
【0032】
次に、冷却管・温度計・滴下ロートを付属した500mL容4ツ口フラスコに、100gの化合物1と21gのトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)、200mLのテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)とを入れ、撹拌下、室温で18gのアクリル酸クロリド(東京化成工業社製)を滴下した。滴下後、室温で1時間撹拌後、トリエチルアミン塩酸塩をろ別し、テトラヒドロフランを留去することにより、97gのCF3O(CF2O)4CF2CONHCH2CH2OC(O)CH=CH2(化合物2)を得た。
【0033】
[合成例2]「CF2O」を繰り返し単位とするパーフルオロポリエーテル鎖を含むモノマーBの合成
冷却管・温度計を付属した1L容4ツ口フラスコに、100gのCF3O(CF2O)mCF2CO2CH3(Anles社製、式中、mは3~10の整数。)、400mLのテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)を入れ、撹拌下、25℃から35℃の温度で、10gの水素化ホウ素ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)を少量ずつ添加した。添加後、50℃で5時間撹拌後、アセトンを添加して、過剰の水素化ホウ素ナトリウムを消費させた。テトラヒドロフランを溜去し、残分にジエチルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)と水を加えて撹拌、分液によりジエチルエーテル画分を分取し、無水硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)で乾燥、ジエチルエーテルを留去することにより、85gのCF3O(CF2O)mCF2CH2OH(化合物3、式中、mは3~10の整数。)を調製した。
【0034】
次に、冷却管・温度計・滴下ロートを付属した300mL容4ツ口フラスコに、50gの化合物2と10gのトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)とを入れ、撹拌下、室温で9gのメタクリル酸クロリド(東京化成工業社製)を滴下した。滴下後、室温で1時間撹拌後、トリエチルアミン塩酸塩をろ別し、テトラヒドロフランを留去することにより、97gのCF3O(CF2O)mCF2CH2OC(O)C(CH3)=CH2(化合物4、式中、mは3~10の整数。)を得た。
【0035】
[実施例1]
冷却管・温度計・滴下ロートを付属した500mL容4ツ口フラスコに、合成例で得た化合物2を30g、および70gのブレンマーAME400(日油株式会社製)、4gのαチオグリセロール(富士フイルム和光純薬社製)、100gの酢酸エチル(富士フイルム和光純薬社製)を入れ、45℃に加熱撹拌下、4gのアゾイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)を加えた。70℃で4時間撹拌後、酢酸エチルを留去し、本発明ポリマー1を得た。
なお、ブレンマーAME400の構造は、以下の通りである。
【0036】
【0037】
[実施例2]
化合物2を20g、ブレンマーAME400を80gとした以外は、実施例1と同様に、本発明ポリマー2を得た。
【0038】
[実施例3]
ブレンマーAME400の代わりに、ブレンマーAE200(日油株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、本発明ポリマー3を得た。
なお、ブレンマーAE200の構造は、以下の通りである。
【0039】
【0040】
[実施例4]
化合物2を20g、ブレンマーAE200を80gとした以外は、実施例3と同様に行い、本発明ポリマー4を得た。
【0041】
[実施例5]
化合物2の代わりに化合物4を、ブレンマーAME400の代わりにブレンマーPE350(日油株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、本発明ポリマー5を得た。
なお、ブレンマーPE350の構造は、以下の通りである。
【0042】
【0043】
[実施例6]
ブレンマーPE350の代わりにブレンマーPP1000(日油株式会社製)を用いた以外は、実施例5と同様に行い、本発明ポリマー6を得た。
なお、ブレンマーPP1000の構造は、以下の通りである。
【0044】
【0045】
[実施例7~12]
実施例1の本発明ポリマー1、実施例2の本発明ポリマー2、実施例3の本発明ポリマー3、実施例4の本発明ポリマー4、実施例5の本発明ポリマー5または実施例6の本発明ポリマー6を、水に、それぞれ0.1重量%になるように希釈し、それぞれ実施例7~12として本発明に係る界面活性剤を調製した。
そして、希釈液(本発明に係る界面活性剤)の表面張力を、協和界面科学株式会社製表面張力計CBVP-A3を用いて測定した。
【0046】
[試験例1]
市販のパーフルオロブチル基を含むノニオン系ポリマー型フッ素系界面活性剤であるFC4430(スリーエムジャパン株式会社製)を実施例3、4と同様に、希釈溶液を調製し、比較例として表面張力を測定した。
【0047】
実施例7~12と比較例の結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1より、本発明に係る界面活性剤は、既存のフッ素系界面活性剤より優れた表面張力低下能を示していることが明らかである。
【0050】
[試験例2]
CF
3O(CF
2O)
mCF
2CO
2CH
3(式中、mは3~10の整数。)の熱分解温度を調べるため、熱重量および示差熱分析(TG-DTA分析)を行った。測定は、セイコーインスツル株式会社製熱重量分析装置TG/DTA7200を用い、25℃~250℃まで、4℃/分の昇温条件で行った。mの平均値(数平均)が5.5の混合試料を用いた場合の測定結果を
図1に示す。
【0051】
図1のDTG曲線より、ピーク(T
p)の94℃にて分解反応が最大加速を示し、115℃付近(T
f)にて概ね分解が完了していることが分かる。これは、「CF
2O」のみからなるパーフルオロポリエーテル鎖が、従来のパーフルオロアルキル基やパーフルオロポリエーテル鎖よりはるかに低温で分解することを示している。本発明ポリマーは、当該低温分解性のパーフルオロポリエーテル鎖を有するモノマーを、共重合の成分として含有したものである。
【0052】
以上の結果より、本発明ポリマーは、環境負荷の少ないフッ素系界面活性剤であることが明らかである。
本発明ポリマーないし本発明界面活性剤は、表面張力を大きく低下すると共に、従来の同様な含フッ素ポリマーに比べて環境負荷が小さいことなどから、例えば、撥水剤、撥油剤、紙や布などの防汚剤原料、泡消火剤成分として有用である。