(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191258
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】コーティング剤、塗膜、及びラミネート包装材料
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20221220BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221220BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D7/63
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150580
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2022521418の分割
【原出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021058677
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】千東 尚久
(57)【要約】 (修正有)
【課題】塗膜の耐水性を向上させ、様々な用途に使用しても塗膜が剥離せずに、良好なガスバリア性を維持できるコーティング剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アミン変性ポリビニルアルコールと、以下の式(1)で示される化合物(A1)、及び以下の式(2)で示される化合物(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(A)とを含む、コーティング剤。
R
1~R
6のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれか、2又は3が水酸基である。R
11~R
18のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれか、2又は3が水酸基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性ポリビニルアルコールと、以下の式(1)で示される化合物(A1)、及び以下の式(2)で示される化合物(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(A)とを含む、コーティング剤。
【化1】
ただし、式(1)において、R
1~R
6は、それぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれであり、R
1~R
6のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれかであり、R
1~R
6のうち2つ又は3つが水酸基である。式(2)において、R
11~R
18は、それぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれであり、R
11~R
18のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれかであり、R
11~R
18のうち2つ又は3つが水酸基である。
【請求項2】
前記化合物(A)が、前記化合物(A1)である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記化合物(A)が、ジヒドロキシ安息香酸及びトリヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種の安息香酸類である、請求項2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記安息香酸類が、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、及び2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記化合物(A)の配合量は、コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、30質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング剤から形成される塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の塗膜を備えるラミネート包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤、ガスバリア層などとして使用される塗膜、及び塗膜を備えるラミネート包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体などのアミン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特許文献1に開示されるとおり高い酸素バリア性を有し、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂の中では接着性に優れ、アンカー剤を用いなくてもプラスチックフィルム上に塗布して造膜できることが知られている。そのため、ガスバリア層として、食品包装用途での採用が進んでいる。
また、従来、例えば特許文献2、3に開示されるように、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体を含有するガスバリア層に、高湿下での酸素バリア性を高めることを目的として、無機層状化合物が配合されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5669738号公報
【特許文献2】特許6592224号公報
【特許文献3】特開2018-149779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アミン変性ポリビニルアルコールは、基本骨格がポリビニルアルコールであることから耐水性が低い。そのため、アミン変性ポリビニルアルコールにより形成されたコーティング膜は、水分が付着したり、水分が大量に含まれる物品を包装したりすると、容易に剥離し、また膨潤して、包装材料としての機能を失うため、食品分野では、乾物や生菓子など水分をあまり含まず、かつボイル殺菌やレトルト滅菌を行わない分野に用途が限られている。
【0005】
また、例えば、ポリビニルアルコールの耐水性を向上させる目的で、チタンキレート、ホウ酸、エピクロルヒドリン、アルデヒド類等の架橋剤を使用することが検討されている。しかし、アミン変性ポリビニルアルコールを含むコーティング剤においてこれら架橋剤を使用すると、コーティング剤がゲル化しやすく、また、十分な耐水性を付与することも難しい。
一方で、特許文献2、3に開示されるように、コーティング剤に無機層状化合物を含有させると、高湿下での酸素バリア性が高くなるものの、耐水性は十分に付与できず、さらには透明性も低下する。
【0006】
そこで、本発明は、アミン変性ポリビニルアルコールを含むコーティング剤から形成される塗膜の耐水性を向上させ、様々な用途に使用しても塗膜が剥離せずに、良好なガスバリア性を維持できるコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明らは、鋭意検討の結果、アミン変性ポリビニルアルコールを含有するコーティング剤に、特定の構造を有する化合物(A)を配合することで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[22]を提供する。
[1]アミン変性ポリビニルアルコールと、以下の式(1)で示される化合物(A1)、及び以下の式(2)で示される化合物(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(A)とを含む、コーティング剤。
【化1】
ただし、式(1)において、R
1~R
6は、それぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれであり、R
1~R
6のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれかであり、R
1~R
6のうち2つ又は3つが水酸基である。式(2)において、R
11~R
18は、それぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれであり、R
11~R
18のうち1つがカルボキシル基及びスルホ基のいずれかであり、R
11~R
18のうち2つ又は3つが水酸基である。
[2]前記化合物(A)が、前記化合物(A1)である、上記[1]に記載のコーティング剤。
[3]前記化合物(A)が、ジヒドロキシ安息香酸及びトリヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種の安息香酸類である、上記[2]に記載のコーティング剤。
[4]前記安息香酸類が、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、及び2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[3]に記載のコーティング剤。
[5]前記化合物(A)の配合量が、コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、30質量部以下である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[6]前記化合物(A)の配合量は、アミン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して、30質量部以下である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[7]前記アミン変性ポリビニルアルコールが、ビニルアミン残基及びビニルアルコール残基を含む、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体である上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[8]前記コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂が、前記アミン変性ポリビニルアルコールからなり、又は前記アミン変性ポリビニルアルコール及びアミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂からなる、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[9]ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固形分全量基準で50質量%以上である上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[10]アミン変性ポリビニルアルコールの含有量が、固形分全量基準で50質量%以上である上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[11]コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂のアミン変性量は、前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下である、上記[1]~[10]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[12]式(1)においては、R
1~R
6のうちの1つがカルボキシル基、R
1~R
6のうち2又は3つが水酸基であるとともに、残りの全てが水素原子である、上記[1]~[11]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[13]式(2)において、R
11~R
18のうちの1つがカルボキシル基であり、R
11~R
18のうち2つ又は3つが水酸基であるとともに、残りの全てが水素原子である上記[1]~[12]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[14]前記化合物(A)が、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、及びジヒドロキシナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[113]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[15]上記[1]~[14]のいずれか1項に記載のコーティング剤から形成される塗膜。
[16]基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された上記[15]に記載の塗膜とを有する積層体。
[17]さらにヒートシール層を備える上記[16]に記載の積層体。
[18]前記基材、前記塗膜、及び前記ヒートシール層がこの順に設けられた、上記[17]に記載の積層体。
[19]前記塗膜が形成された前記基材を、前記塗膜上に設けられたヒートシール層から剥離した際の剥離強度が、2N/15mm以上である、上記[16]~[18]のいずれか1項に記載の積層体。
[20]酸素透過度が、15.0cc/m
2・day・MPa以下である上記[16]~[19]のいずれか1項に記載の積層体。
[21]上記[15]に記載の塗膜を備えるラミネート包装材料。
[22]上記[16]~[20]のいずれか1項に記載の積層体を備える、ラミネート包装材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アミン変性ポリビニルアルコールを含むコーティング剤から形成される塗膜の耐水性を向上させ、様々な用途に使用しても塗膜が剥離せずに、良好なガスバリア性を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態を参照しつつ詳細に説明する。
<コーティング剤>
本発明のコーティング剤は、アミン変性ポリビニルアルコールと、化合物(A)を含有する。
【0010】
[アミン変性ポリビニルアルコール]
アミン変性ポリビニルアルコールは、アミノ基を有する変性ポリビニルアルコールである。コーティング剤は、アミン変性ポリビニルアルコールを含有することで、コーティング剤から形成される塗膜のガスバリア性を良好にし、かつプラスチックフィルムなどに対する密着性も向上させることができる。
アミン変性ポリビニルアルコールは、典型的には、ビニルアミン残基及びビニルアルコール残基を含む、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体であり、これらのブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0011】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体の製造方法は、特に限定されないが、N-ビニルアミドと、ビニルエステルとを共重合して、N-ビニルアミド単位とビニルエステル単位からなる共重合体を得て、得られた共重合体を加水分解することで得ることができる。N-ビニルアミド単位とビニルエステル単位は、例えば70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の割合で加水分解されるとよい。
N-ビニルアミドの具体例としては、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミドが挙げられ、中でも好ましくはN-ビニルホルムアミドが挙げられる。
ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ絡酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ネオデカン酸ビニルなどが挙げられ、これらの中では酢酸ビニルが好ましい。
【0012】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体において、ビニルアミン残基及びビニルアルコール残基のモル比(ビニルアミン残基/ビニルアルコール残基)は、特に限定されないが、例えば1/99以上50/50以下、好ましくは3/97以上40/60以下、より好ましくは5/95以上25/75以下である。ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体は、ビニルアミン残基の割合を高くすることで、プラスチックフィルムなどに対する密着性を向上させやすくなる。また、ビニルアルコール残基の量を多くすることで、良好なガスバリア性を発現しやすくなる。
【0013】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体は、典型的には、以下の構造を有する。
【化2】
ここで、全構成単位基準で、mは0モル%以上15モル%以下であり、nは50モル%以上99モル%以下であり、xは0モル%以上30モル%以下であり、yは1モル%以上50モル%以下である。
【0014】
アミン変性ポリビニルアルコールは、23℃における4質量%濃度の水溶液粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、20mPa・s以下が更に好ましい。また、2m・sPa以上が好ましく、3mPa・s以上が好ましく、4mPa・s以上がさらに好ましい。4質量%濃度の水溶液粘度は、JIS-Z-8803:2011法に準拠し,B型粘度計にて測定される。
【0015】
一実施形態においてアミン変性ポリビニルアルコールは、コーティング剤において主成分となるとよい。その場合、コーティング剤において、アミン変性ポリビニルアルコールの含有量は、固形分全量基準で、例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上である。アミン変性ポリビニルアルコールの含有量を上記下限値以上とすることで、コーティング剤から形成される塗膜に適切なガスバリア性を付与できる。また、プラスチック基材などへの密着性も良好になりやすくなる。なお、固形分全量とは、コーティング剤に含有される、液体媒体以外の全ての成分の合計量である。
また、アミン変性ポリビニルアルコールの含有量は、固形分全量基準で、好ましくは94質量%以下、より好ましくは92質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。アミン変性ポリビニルアルコールの含有量を上記上限値以下とすることで、後述する化合物(A)を所望の量でコーティング剤に含有させやすくなる。
【0016】
本発明のコーティング剤では、ポリビニルアルコール系樹脂としてアミン変性ポリビニルアルコール単独で使用してもよいし、アミン変性ポリビニルアルコールに加えて、アミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂を含有させてもよい。アミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂は、後述するアミン変性量となるように、アミン変性ポリビニルアルコールに混合させるとよい。
そのため、好ましい別の一実施形態に係るコーティング剤は、ポリビニルアルコール系樹脂が主成分となるとよい。この場合、コーティング剤において、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量(すなわち、アミン変性ポリビニルアルコールとそれ以外のポリビニルアルコール系樹脂の合計含有量)は、固形分全量基準で、例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂の含有量を上記下限値以上とすることで、塗膜に適切なガスバリア性を付与しやすくなり、プラスチック基材などへの密着性も良好になりやすくなる。
また、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、固形分全量基準で、好ましくは94質量%以下、より好ましくは92質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。ポリビニルアルコール系樹脂の含有量を上記上限値以下とすることで、後述する化合物(A)を所望の量でコーティング剤に含有させやすくなる。
【0017】
コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂のアミン変性量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、例えば1質量部以上40質量部以下、好ましくは2質量部以上30質量部以下、より好ましくは3質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは6質量部以上18質量部以下である。アミン変性量を上記範囲内に調整することで、耐水性を高めつつ、ガスバリア性及びプラスチックフィルムなどに対する密着性などを向上させやすくなる。なお、アミン変性量とは、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対する、アミン基を有する構成単位(典型的には、ビニルアミン残基)の含有量を意味する。
【0018】
[化合物(A)]
化合物(A)は、以下の式(1)で示される化合物(A1)、及び以下の式(2)で示される化合物(A2)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【化3】
ただし、式(1)において、R
1~R
6はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基(-SO
3H)、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、ハロゲン原子等の置換基のいずれであり、R
1~R
6のうち1つがカルボキシル基又はスルホ基であり、R
1~R
6のうち2つ又は3つが水酸基である。式(2)において、R
11~R
18はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホ基、水酸基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、ハロゲン原子等の置換基のいずれであり、R
11~R
18のうち1つがカルボキシル基又はスルホ基であり、R
11~R
18のうち2つ又は3つが水酸基である。
【0019】
化合物(A)は、芳香族環に複数の水酸基と、1つのカルボキシル基又はスルホ基が結合される構造を有することで、アミン変性ポリビニルアルコールを適切に架橋させる。そのため、コーティング剤から形成される塗膜に架橋構造を導入し、耐水性を高めることができるので、水と接触する環境下で使用しても、塗膜が剥離せずに、良好なガスバリア性を維持できる。
また、架橋効果の高い一般的な架橋剤は、ケトン基などが発生して、黄変、褐変が生じることがあるが、化合物(A)は、架橋時の黄変、褐変などを抑制しやすくなるので、コーティング剤から形成される塗膜の外観を良好にしやすくなる。さらに、化合物(A)は、安全性が高く、構造によっては食品添加剤としても使用できるものであり、食品用途に好適に使用できる。なお、アミン変性ポリビニルアルコールと化合物(A)を含有するコーティング剤は、比較的ゲル化しにくく、取扱い性も良好である。
【0020】
R1~R6及びR11~R18におけるアルキル基は、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基である。
アルキル基は、直鎖でもよいが、分岐構造を有していてもよいし、環状構造を有してもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
R1~R6及びR11~R18におけるアリール基は、好ましくは炭素数6~9のアリール基である。アリール基は、フェニル基、ナフチル基でもよいし、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、メチルナフチル基などのアルキル置換アリール基であってもよい。
R1~R6及びR11~R18におけるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0021】
式(1)においては、R1~R6のうちの1つがカルボキシル基又はスルホ基、R1~R6のうち2又は3つが水酸基であるとともに、残りの全てが水素原子であることが好ましい。化合物(A1)の好適な具体例としては、ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、トリヒドロキシベンゼンスルホン酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸が挙げられる。また、式(1)において、R1~R6のうちの1つが、カルボキシル基であることがより好ましく、したがって、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸がより好ましい。
【0022】
また、式(2)においては、R11~R18のうちの1つがカルボキシル基又はスルホ基であり、R11~R18のうち2つ又は3つが水酸基であるとともに、残りの全てが水素原子であることが好ましく、これらの中でも、R11~R18のうち2つが水酸基であることがより好ましい。また、R11~R18の1つは、カルボキシル基であることがより好ましい。
【0023】
式(2)に示す化合物(A2)としては、ジヒドロキシナフタレンスルホン酸、ジヒドロキシナフトエ酸が挙げられ、中でもジヒドロキシナフトエ酸が好ましい。
また、化合物(A2)の具体的な化合物としては、1,4-ジヒドロキシ―2-ナフトエ酸、3,5-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3,7-ジヒドロキシナフトエ酸などが挙げられる。
また、ジヒドロキシナフトエ酸は、架橋性を向上させる観点から、同じ環に2つのヒドロキシ基と、1つのカルボン酸が存在する化合物が好ましく、その具体的な化合物としては、1,4-ジヒドロキシ―2-ナフトエ酸が挙げられる。
【0024】
化合物(A)は、式(1)で示す化合物(A1)であることが好ましく、中でも、ジヒドロキシ安息香酸及びトリヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種の安息香酸類であることがより好ましい。ジヒドロキシ安息香酸及びトリヒドロキシ安息香酸を使用することで、コーティング剤から形成される被膜の耐水性をより良好にしやすくなる。また、これら安息香酸類は、安全性が高く、食品用途にも好適に使用できる。さらに、塗膜の黄変又は褐変や、コーティング剤のゲル化も生じにくい傾向にある。
【0025】
ジヒドロキシ安息香酸及びトリヒドロキシ安息香酸は、水酸基及びカルボキシル基の位置によって耐水性などの性能が変化する。化合物(A)の好ましい具体例としては、耐水性などの観点から、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
上記の中でも、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、及び2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸が好ましく、中でも黄変及び褐変を抑制しつつ、耐水性を向上させる観点から、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸がより好ましく、特に3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸及び2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸が好ましい。
また、黄変及び褐変をより抑える観点からは、ジヒドロキシ安息香酸が好ましい。
化合物(A)は、1種単独で使用してもよいし、2種を併用してもよい。
【0026】
一実施形態に係るコーティング剤において化合物(A)の配合量は、アミン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましい。化合物(A)の配合量を30質量部以下とすることで、ゲル化や黄変及び褐変を発生しにくくしつつ、耐水性を良好にできる。これら観点から、化合物(A)の配合量は、アミン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して、より好ましくは28質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、よりさらに好ましくは20質量部以下である。
また、化合物(A)の配合量は、アミン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して、6質量部以上が好ましい。6質量部以上にすることで、耐水性を良好にしやすくなる。化合物(A)の配合量は、アミン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して、より好ましくは8質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。
【0027】
上記の通り、別の一実施形態において、コーティング剤は、ポリビニルアルコール系樹脂として、アミン変性ポリビニルアルコールに加えて、アミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂を含む。したがって、好ましい別の一実施形態に係るコーティング剤において、化合物(A)の配合量は、コーティング剤に含有されるポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、ゲル化や黄変及び褐変を発生しにくくしつつ、耐水性を良好にする観点から、30質量部以下であるとよく、より好ましくは28質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、よりさらに好ましくは20質量部以下である。また、化合物(A)の配合量は、耐水性を良好にしやすくなる観点から、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、6質量部以上が好ましく、より好ましくは8質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。
【0028】
[その他の成分]
本発明のコーティング剤は、上記化合物(A)以外の添加剤を含有してもよく、例えば、無機層状化合物を含有してもよい。無機層状化合物は、極薄の単位結晶層が重なって1つの層状粒子を形成している無機化合物である。
無機層状化合物の代表的なものとしては、フィロケイ酸塩鉱物等の含水ケイ酸塩が挙げられ、例えば、ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等のカオリナイト族粘土鉱物、アンチゴライト、クリソタイル等のアンチゴライト族粘土鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト等のバーミキュライト族粘土鉱物、白雲母、金雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等の雲母またはマイカ族粘土鉱物等が挙げられる。
これらの無機層状化合物は、1種単独で、または2種以上が組み合わせられて用いられる。これらの無機層状化合物の中でも、モンモリロナイト等のスメクタイト族粘土鉱物、水膨潤性雲母等のマイカ族粘土鉱物が好ましい。
コーティング剤における無機層状化合物の含有量は、固形分全量基準で、例えば5質量%以上35質量%以下、好ましくは8質量以上30質量%以下である。
【0029】
コーティング剤は、本発明の効果を損なわない限り、化合物(A)以外の添加剤として、無機層状化合物以外を含有してもよい。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、無機層状化合物以外のフィラー、消泡剤、シランカップリング剤、界面活性剤等の添加剤が挙げられる。
また、コーティング剤を構成する樹脂成分は、アミン変性ポリビニルアルコール単独であってもよいが、本発明の効果を損なわない限り、アミン変性ポリビニルアルコール以外の樹脂成分を含有してもよく、例えば、アミン変性ポリビニルアルコール以外の水酸基含有樹脂を含んでもよい。具体的には、アミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。
アミン変性ポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール系樹脂としては特に限定されないが、未変性ポリビニルアルコールが挙げられる。未変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルエステルをケン化したものであり、ビニルアルコール残基、又はビニルアルコール残基及びビニルエステル残基からなるとよい。
【0030】
[液体媒体]
本発明のコーティング剤は、水、有機溶剤などの液体媒体を含み、液体媒体により希釈されるとよい。上記したコーティング剤を構成する各成分は、液体媒体に溶解又は分散されるとよい。
液体媒体に使用される有機溶剤としては、例えば、1価アルコール、グリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶剤としては、エタノール及びイソプロパノールが好ましい。エタノール及びイソプロパノールを使用することで、アミン変性ポリビニルアルコールや化合物(A)の乾燥が早くなり、また、安全性が高く食品用途に好適に使用できる。
【0031】
コーティング剤は、液体媒体として水を使用する水系コーティング剤であることが好ましい。液体媒体として水を使用すると、アミン変性ポリビニルアルコールなどを液体媒体に溶解させやすく、また、安全性が高く食品用途にも好適に使用できる。
水系コーティング剤において、液体媒体として水を単独で使用してもよいが、コーティング剤の乾燥時間、コーティング剤の安定性、コーティング剤への各成分の溶解性などの観点から、水と有機溶剤を併用して混合媒体としてよい。この際に併用される有機溶剤は、特に限定されないが、1価アルコールが好ましく、中でもエタノールがより好ましい。混合媒体における水と有機溶剤の質量比(水/有機溶剤)は、特に限定されないが、例えば、30/70以上95/5以下、好ましくは50/50以上90/10以下である。
また、コーティング剤における固形分濃度は、造膜性、取扱い性、各成分の溶解性などの観点から、例えば、0.5質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上12質量%以下、より好ましくは2質量%以上8質量%以下である。
【0032】
本発明のコーティング剤は、一般的なコーティング剤の製造方法で製造することができ、例えば、アミン変性ポリビニルアルコール、化合物(A)、及びその他必要に応じて配合されるその他成分を液体媒体に加えて混合することで製造できる。
【0033】
<塗膜>
本発明の塗膜は、上記したコーティング剤より形成されるものである。本発明の塗膜は、例えば、コーティング剤を基材に塗布して、必要に応じて適宜乾燥することで形成できる。塗膜において、コーティング剤に含まれるアミン変性ポリビニルアルコールは、化合物(A)と反応して架橋されているとよい。化合物(A)とアミン変性ポリビニルアルコールは、基材に塗布する前にコーティング剤において既に反応していてもよいし、塗布後に反応してもよい。本発明の塗膜は、酸素透過率が低く、ガスバリア層として好適に使用できる。
【0034】
コーティング剤の基材への塗布方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。塗布方法としては、例えば、グラビア法、ロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法、ディッピング法、スプレーコート法、カーテンコート法、スピンコート法、フレキソコート法、スクリーンコート法、刷毛等を用いるコート法等が挙げられる。
また、基材のコーティング剤が塗布される面は、基材と塗膜との接着性を高めるために、コロナ処理、オゾン処理、電子線処理、アンカーコート剤の塗布等の表面処理が施されていてもよい。
【0035】
塗布したコーティング剤の乾燥に特に限定は無く、公知の手段を使用することができる。乾燥は、コーティング剤に含有される液体媒体が揮発するように行うとよい。乾燥としては、例えば、加熱による乾燥、減圧等の非加熱手段による乾燥、およびこれらの組合せによる乾燥が挙げられる。加熱による乾燥温度は、例えば30~150℃、好ましくは40~100℃であり、また、その乾燥時間は、例えば1秒~24時間、より好ましくは10秒~60分である。
コーティング剤から形成される塗膜の塗布量は、乾燥後の固形分全量として、例えば0.5~5.0g/m3、好ましくは1.0~2.0g/m3である。塗布量を上記範囲内とすると、塗膜の厚みを必要以上に大きくすることなく、ガスバリア性などを良好にできる。
【0036】
基材は、特に限定されないが、樹脂フィルムであることが好ましい。樹脂フィルムに使用される樹脂は、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリ-4-メチルペンテン-1、環状オレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、メタキシレンジアミン-アジピン酸縮重合体、ポリメチルメタクリルイミド等のアミド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セロファンなどのセルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂など等が挙げられる。
樹脂フィルムにおいて、上記樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上の樹脂を混合して使用してもよい。また、樹脂フィルムは、多層フィルムであってもよく、例えば各層が異なる種類の樹脂によって形成された多層フィルムであってもよい。また、樹脂フィルムとしては、無延伸であってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムとしては、延伸プロピレン系樹脂フィルム(OPPフィルム)、延伸PETフィルム、延伸アミド系樹脂フィルムなどが好ましい具体例として挙げられる。
【0037】
樹脂フィルムとしては、上記の中では、オレフィン系樹脂フィルム、エステル系樹脂フィルム、アミド系樹脂フィルムが好ましい。
基材の厚さは、特に限定されないが、例えば1~500μm、好ましくは5~200μmである。
また、基材は、熱可塑性樹脂層として、使用される熱可塑性樹脂の種類を適宜選択することで、熱融着により他の部材に接着するヒートシール層として使用してもよい。そのような場合には、基材を構成する樹脂は、オレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0038】
<積層体>
本発明は、基材と、その基材の少なくとも一方の面に形成された上記塗膜とを有する積層体も提供する。塗膜は、上記の通りコーティング剤から形成されたものである。塗膜は、アンカーコート層や印刷層などの他の層を介して基材の表面に積層されてもよいし、基材の表面に直接形成されてもよい。積層体において、塗膜は、基材の片面のみに設けられてもよいが、基材の両面に設けられてもよい。また、上記積層体上に樹脂フィルムや印刷層が更に積層されていてもよい。
このような基材と塗膜を有する積層体は、塗膜がガスバリア性に優れることから、ガスバリアフィルムとして使用できる。
【0039】
また、積層体は、上記した基材とは別の層としてヒートシール層を備えることが好ましい。ヒートシール層は、熱融着により他の層に接着できる層であり、熱可塑性樹脂層であることが好ましい。ヒートシール層に使用される熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、上記基材に使用できる樹脂として列挙されたものが使用できるが、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン系樹脂がより好ましい。基材と別の層であるヒートシール層の厚みは、特に限定されないが、例えば10~500μm、好ましくは20~200μmである。ヒートシール層の厚みを上記範囲内とすることで、積層体の厚みを必要以上に大きくすることなく、ヒートシール層に適切なヒートシール性を付与できる。
【0040】
ヒートシール層は、基材の塗膜が形成された面とは反対側に設けられてもよいが、基材の塗膜が形成された面側に設けられることが好ましい。すなわち、積層体は、基材、塗膜、及びヒートシール層がこの順に設けられた層構成を有することが好ましい。積層体は、このような層構成を有することで、塗膜を基材及びヒートシール層により両側から保護しつつ、ヒートシール層を介して、他のフィルムなどに加熱により接着することが可能になる。
ヒートシール層と塗膜の間には接着剤層があってもよく、ヒートシール層は、接着剤層を介して基材の塗膜が形成された面などに接着されるとよい。接着剤層は、ドライラミネート用接着剤などの公知の接着剤から形成されるとよい。ヒートシール層は、接着性向上の観点から、基材に貼り合わされる側の面が、コロナ処理、オゾン処理、電子線処理、アンカーコート剤の塗布等の表面処理が施されていてもよい。
【0041】
上記した積層体は、ガスバリア性を良好にする観点から、酸素透過度が、15cc/m2・day・MPa以下であることが好ましく、12cc/m2・day・MPa以下であることがより好ましく、10cc/m2・day・MPa以下であることがさらに好ましい。酸素透過度は、低ければ低いほうがよく、0cc/m2・day・MPa以上であればよい。
なお、酸素透過度は、JIS-K-7126-2(等圧法)に従って、23℃、0%RHの雰囲気下で測定した値である。
【0042】
上記積層体がヒートシール層を有し、かつそのヒートシール層が基材の塗膜が形成された面側に設けられる場合、基材や接着剤層などに対する塗膜の密着性が高くなり、ラミネート強度も高くなる。そのような場合のラミネート強度は、具体的には2N/15mm以上であることが好ましく、4N/15mm以上であることがより好ましい。ラミネート強度は、高ければ高いほどよく、その上限は特に限定されないが、例えば、30N/15mm以下である。なお、ラミネード強度は、塗膜が形成された基材を、塗膜上に設けられたヒートシール層から剥離した際の剥離強度である。剥離強度の測定は、実施例記載の条件で行うとよい。
【0043】
<ラミネート包装材料>
本発明において、ラミネート包装材料は、上記した塗膜を備える包装材料である。ラミネート包装材料は、上記で詳細に説明した、塗膜と基材を有する積層体により構成されるとよい。
ラミネート包装材料は、フィルムなどの部材に積層されて使用される包装材料であることが好ましく、そのような観点から、ラミネート包装材料は、ヒートシール層を有することが好ましい。したがって、ラミネート包装材料は、基材と、塗膜と、ヒートシール層とを備える積層体であることが好ましい。また、塗膜上に、印刷層を有してもよい。
【0044】
ラミネート包装材料は、様々な物品の包装用途に使用可能であるが、食品用途に使用することが好ましい。本発明のラミネート包装材料(積層体)は、上記のとおり、酸素透過率が低く、ガスバリア性が良好であるので、食品用途に使用することで、包装される食品の鮮度を長期にわたって良好に維持できる。また、塗膜が上記の通り耐水性が良好であるから、ラミネート包装材料は、水分が付着しやすい用途、ボイル殺菌行う用途、水分が大量に含まれる食品の包装用などにも好適に使用することができる。
【0045】
ラミネート包装材料は、特に限定されないが、例えば、袋状やパウチ状にして使用されてもよい。また、ラミネート包装材料は、2枚用意し、または1枚を折り返して、ヒートシール層同士を重ね合わせて、ヒートシール層同士を加熱融着させて使用されてもよいし、別の部材に重ね合わせて加熱融着されて使用されてもよい。ラミネート包装材料は、ヒートシール層同士を加熱融着させ、また、ヒートシール層を他の部材に加熱融着させて、パウチ状ないし袋状などにするとよい。
【実施例0046】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
ポリビニルアルコール系樹脂としてのビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(セキスイ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「Ultiloc(登録商標)5003」、アミン変性量12質量部)100質量部に、化合物(A)として2,3-ジヒドロキシ安息香酸(試薬一級)25質量部を加え、かつ水とエタノールの混合溶媒(水/エタノール(質量比)=2/1)により希釈して、5質量%溶液に調整して、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を溶液状態での塗布量20g/m2程度になるように設定したワイヤーバーにより、一方の面をコロナ処理した二軸延伸ポリアミドフィルム(東洋紡株式会社製、「ハーデンN1102」)のコロナ処理面に、乾燥後の塗布量が1.0g/m2となるように塗布して、80℃で2分間、オーブンにて乾燥して塗膜を形成した。
その後、ドライラミネート用接着剤(製品名:三井化学株式会社製、主剤:タケラックA-616 硬化剤:タケネートA65)を、基材の塗膜形成面に塗布した。塗膜形成面に接着剤が塗布された基材を、一方の面をコロナ処理したLLDPEフィルム(厚み:70μm、東洋紡株式会社「リックス L4102」)のコロナ処理面に、接着剤を介して貼り合わせて、ラミネート包装材料を得た。得られたラミネート包装材料は、40℃の環境下で72時間放置して養生した。その後、作成したラミネートフィルムを一定の大きさに切り取り、熱融着可能なLLDPE面を重ね合わせ、一辺を開口部として残りの三辺をヒートシールして試験用パウチを作成した。
【0048】
[実施例2~12、16、比較例1~3]
化合物(A)の種類、及び添加量を表1~4に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様に実施した。なお、各実施例、比較例における化合物(A)は、試薬一級を使用した。
【0049】
[実施例13~15、17]
ポリビニルアルコール系樹脂として、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体単体の代わりに、表3、4に記載のアミン変性量となるように、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(「Ultiloc(登録商標)5003」)に、ポリビニルアルコール系樹脂(セキスイ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「SELVOL103」)を混合したものを使用し、かつ、化合物(A)の種類、及び添加量を表3、4に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0050】
各実施例及び比較例は、以下の通り評価した。
[酸素透過度]
各実施例、比較例で得たラミネート包装材料について、JIS-K-7126-2(等圧法)に従って、酸素透過度測定装置(商品名「OXTRAN」、MOCON社製)を用いて、23℃、0%RHの雰囲気下、酸素透過度(cc/(m2・day・MPa))を測定した。
【0051】
[ラミネート強度]
各実施例、比較例で得たラミネート包装材料について、JIS―K-7127に準拠した方法に従って、ラミネート強度を測定した。具体的には、ラミネート包装材料を15mm幅の短冊状にカットし、室温環境下(23℃)、引張試験機「テンシロン」により、塗膜が形成されたポリアミドフィルム(基材)を、LLDPEフィルム(ヒートシール層)から、200mm/分の速度でT型で剥離させて、ラミネート強度(N/15mm)を測定した。
【0052】
[耐水性評価]
各実施例、比較例で得たラミネート包装材料を、十分に水を含浸させた2枚の紙ワイパー(商品名「キムタオル」、日本製紙クレシア社製)の間に挟み込んだ状態で、さらにA4サイズのクリアファイルの間に挟み込み、常温(20℃)下で放置した。1時間後及び8時間経過後のラミネート包装材料のシワの状態、及び剥離状態を観察して以下の評価基準で評価した。
A:シワ及び剥離が発生しない。
AB:シワ又は剥離が僅かに発生したが実用上問題無いと判断できるレベルだった。
B:シワ又は剥離の少なくともいずれが比較的多く発生した。
C:大きなシワが入り、あるいは、LLDPEフィルムとポリアミドフィルムが完全に剥離し、実用上全く使用できないレベルであった。
【0053】
[黄変性]
各実施例、比較例で得た試験用パウチを、ブランクと比較して、目視観察により黄変性を評価した。その後、常温で4週間放置し、その放置後の外観も観察し、変化があった場合には、表1~3において放置後の評価も示す。なお、化合物(A)を配合しない以外は、実施例1と同様に作製した試験用パウチをブランクとした。
A:ブランクと同様の外観であった。
B:ブランクより少し多く黄変が発生するが、外観上問題のないレベルであった。
C:ブランクより明らかに多く黄変又は褐変が発生し、外観上、実用的に使用できないレベルであった。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【表4】
※比較例1~3では、8時間経過後の耐水性評価は未実施である。
※表1~4における添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対する化合物(A)の質量部である。
【0058】
以上の表1~4に示すとおり、各実施例では、芳香族環に結合される、カルボキシル基を1つと、水酸基を2つ又は3つ有する化合物(A)を配合することで、アミン変性ポリビニルアルコールが適切に架橋され、塗膜の耐水性が良好となった。また、ラミネート強度が高くて基材などに対する密着性が良好であるとともに、酸素透過率が低くガスバリア性も良好であった。
それに対して、各比較例では、上記特定の構造を有する化合物(A)を配合しなかったため、アミン変性ポリビニルアルコールが適切に架橋されず、耐水性が良好とならなかった。