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特開2022-19130二層構造からなるバカマツタケ菌床栽培用培地
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  • 特開-二層構造からなるバカマツタケ菌床栽培用培地 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019130
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】二層構造からなるバカマツタケ菌床栽培用培地
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20220120BHJP
【FI】
A01G18/20
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122765
(22)【出願日】2020-07-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】秋津 教雄
(72)【発明者】
【氏名】金城 裕行
(72)【発明者】
【氏名】山口 勇
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA06
2B011BA08
2B011BA13
2B011BA16
2B011PA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バカマツタケの菌床栽培を完全人工栽培下で実施することにおいて、子実体の発生可能性を高めるための新たな菌床栽培用培地を提供する。
【解決手段】種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたってバカマツタケの菌床栽培に用いる菌床栽培用培地であって、前記菌床栽培用培地は上層と下層とが直接接触した二層構造からなり、前記上層が菌床培地であり、前記菌床培地が培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものであり、前記基材が鉱物質を含むものであり、前記鉱物質中の主要構成要素が硬質の粒状鉱物質であり、前記菌床培地の主要構造が前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、前記空隙が互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、前記下層が水分供給材であり、前記水分供給材が水分及び栄養分を含むものであることを特徴とする、バカマツタケ菌床栽培用培地である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたってバカマツタケの菌床栽培に用いる菌床栽培用培地であって、
前記菌床栽培用培地は、上層と下層とが直接接触した二層構造からなり、
前記上層が、菌床培地であり、
前記菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものであり、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、
前記下層が、水分供給材であり、
前記水分供給材が、水分及び栄養分を含むものであることを特徴とする、
バカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項2】
前記菌床培地の空隙率が35~70%、圧縮空隙率が20~50%、かつ圧縮強度が0.1~2.0kPaである、請求項1に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項3】
前記培地構成物の構造が、単粒構造及び/又は団粒構造である、請求項1又は2に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項4】
前記菌床培地が、高圧蒸気滅菌後に解砕処理された菌床培地又はその解砕処理された菌床培地がさらに押圧処理された菌床培地である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地の菌床培地の上表面に種菌を接種する種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたって、前記バカマツタケ菌床栽培用培地でバカマツタケを栽培することを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。
【請求項6】
菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含み、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間である菌床培地に対し、
バカマツタケの種菌を接種した後、子実体発生段階までの期間にわたって菌床栽培をおこなう菌床栽培方法であって、
少なくとも原基形成段階及び/又は子実体発生段階にある前記菌床培地と、水分及び栄養分を含んだ水分供給材とを、直接接触させることを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層構造からなるバカマツタケ菌床栽培用培地及びそれを用いたバカマツタケの菌床栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこの菌床栽培の概略を説明すると、きのこの種菌を菌床培地に接種し、菌糸体の生長から原基の形成、子実体の発生までの段階を人工環境下において実施するものである。ここで、種菌とは、きのこの菌糸体を液体培地又は固体培地で培養して、取り扱いを容易にしたものである。菌根性きのこ(菌根菌)においては、液体培地における培養により作製した液体種菌を固体培地で培養し、これにより作製した固体種菌を種菌として用いることが一般である。
【0003】
食用の菌根性きのこの代表例であるホンシメジ、マツタケ及びバカマツタケのうち、ホンシメジについては、完全人工栽培下において、菌床栽培による商業生産に成功している。ここで、完全人工栽培とは、植物との共生処理をおこなうことなく、全栽培工程を屋内の人工環境下でおこなうものである。
【0004】
特許文献1には、栄養分を含有させたゲルを用いたマツタケ菌床栽培用培地が開示されている。
【0005】
特許文献2には、林地への接種を目的としたバカマツタケの種菌調製用の培地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表特許WO2009/093634号公報
【特許文献2】特開2019-122346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
菌根性きのこは、一般に木材腐朽菌に比べて硬質な培地への菌糸伸長力に劣るものである。さらに、バカマツタケの菌糸伸長力は、ホンシメジに比べると圧倒的に弱く、また、マツタケに比べても弱いため、菌糸の伸長方向に物理的障害があると菌糸伸長が抑制され、菌糸体の生育が不十分となることがあった。特許文献1に開示されている菌床培地の組成は、実施例によると、スギオガクズ乾燥物、圧ペントウモロコシ粉末及びオートミールを主体とするものに微量の栄養分を混合したものである。このような組成の菌床培地は、簡単に閉塞するものであるため、物理的障害があっても菌糸伸長できるマツタケには適用できてもバカマツタケには適用できないものであった。
【0008】
特許文献2に開示されている培地は、林地栽培用の種菌を調製するためのものであり、種菌接種時から子実体発生段階まで用いる菌床栽培用の培地ではない。また、林地に接種した時に種菌が雑菌に駆逐されないように、菌糸体破砕物と混合する担体は、無栄養とすることが必須のものであった。
【0009】
本発明は、バカマツタケの菌床栽培を完全人工栽培下で実施することにおいて、子実体の発生可能性を高めるための新たな菌床栽培用培地の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討する中で、バカマツタケの種菌接種前には物理的障害が問題とならない隙間構造を備えた菌床培地を用いたとしても、栽培の進行とともに、隙間構造が重力と菌糸体生長による構造変化の影響を受けて閉塞される方向となり、これによって菌糸伸長が抑制され、菌糸体の生育が不十分となることがあることを見出した。この対策として、菌床培地を構成する基材として硬質の粒状鉱物質を用いることによって、栽培が進行しても菌糸伸長に必要な一定の隙間構造を確保できることを見出した。
【0011】
また、バカマツタケは生育速度が遅いため、菌床培地に種菌を接種してから子実体が発生するまでに長期間を要するものである。栽培の長期化により菌床培地中の水分含量が低下し、これにより菌糸体が水分不足に陥り易いことを見出した。この対策として、散水により水分を供給しようとしたが、菌糸塊の形成段階においては培地表面を含めて培地全体に菌糸体が蔓延しており、しかも菌糸体は撥水性が強いため、上方向から散水しても表面撥水により培地中には水がほとんど到達しなかった。一方、培地下部から水分供給する目的で培地下部を水に浸漬させたときは、浸漬部分の菌糸体が窒息し、劣化することがあった。散水又は浸漬による水分供給作業を高頻度で実施することも考えられるが、バカマツタケの菌糸体は雑菌汚染に弱いため、例えば、密閉性の高い容器内で栽培しているときは、雑菌混入を防ぎながらこのような水分供給作業を実施することは煩雑で手間のかかるものであった。
【0012】
さらに、一般的なきのこの菌床培地の含水率は60~65質量%の範囲であるが、バカマツタケ用の菌床培地とするために基材として硬質の粒状鉱物質を用いて一定の隙間構造を確保した菌床培地では、含水率を上記のように60~65質量%の範囲に設定すると、水分過多によって生育に障害が出易いことを見出した。この対策として、菌床培地の含水率を下げると、より一層菌糸体が水分不足に陥り易くなる状況をもたらすことになった。
【0013】
そこで、水分供給に関し鋭意検討した結果、水分供給材を用いて菌床培地及び/又は菌糸体に水分を供給することにより、水分不足問題を解決することができることを見出した。しかしながら、この対策だけでは、子実体の発生可能性を高めるには不十分であった。
【0014】
さらに鋭意検討し試行錯誤する中で、栄養分の量をこれまでよりも多量に施用することに想到し、菌床培地中の栄養分含量を増量する試みを行った。しかしながら、例えば、水溶性栄養分を増量すると、浸透圧の上昇によって種菌接種後における菌糸体の初期生育に支障を来たした。
【0015】
そこで、菌糸体の栄養分要求量が高まる時期を鑑み、栽培期間の後半(特に原基形成段階及び子実体発生段階)に栄養分を効果的に供給することを着想し、菌床培地中の多糖類を増量する試みを行った。これは、多糖類が徐々に分解することにより、栽培期間の後半に栄養分として利用されることを期待したものである。しかし、多糖類の増量は、増粘や糊化等による菌床培地の物理性悪化を引き起こし、菌糸体の生育に支障を来たした。なお、バカマツタケの菌糸体は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを分解できない、或いは、分解が弱いために栄養分として利用することができないと言われているため、菌床培地中に大鋸屑が入っていたとしても栄養分としての効果は期待できない。
【0016】
さらなる検討において、水分供給材に栄養分を含有させたところ、意外にも、菌床培地の上表面に種菌を接種すれば菌糸体の初期生育には支障がなく、栽培期間の後半においては蔓延した菌糸体が水分供給材に含有された栄養分を利用することによって子実体の発生可能性が高まることを見出し、かかる知見に基づき本発明の完成に至ったものである。
【0017】
本発明は以下のとおりである。
[1]種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたってバカマツタケの菌床栽培に用いる菌床栽培用培地であって、
前記菌床栽培用培地は、上層と下層とが直接接触した二層構造からなり、
前記上層が、菌床培地であり、
前記菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものであり、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、
前記下層が、水分供給材であり、
前記水分供給材が、水分及び栄養分を含むものであることを特徴とする、
バカマツタケ菌床栽培用培地。
[2]前記菌床培地の空隙率が35~70%、圧縮空隙率が20~50%、かつ圧縮強度が0.1~2.0kPaである、上記[1]に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
[3]前記培地構成物の構造が、単粒構造及び/又は団粒構造である、上記[1]又は[2]に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
[4]前記菌床培地が、高圧蒸気滅菌後に解砕処理された菌床培地又はその解砕処理された菌床培地がさらに押圧処理された菌床培地である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
[5]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地の菌床培地の上表面に種菌を接種する種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたって、前記バカマツタケ菌床栽培用培地でバカマツタケを栽培することを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。
[6]菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含み、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間である菌床培地に対し、
バカマツタケの種菌を接種した後、子実体発生段階までの期間にわたって菌床栽培をおこなう菌床栽培方法であって、
少なくとも原基形成段階及び/又は子実体発生段階にある前記菌床培地と、水分及び栄養分を含んだ水分供給材とを、直接接触させることを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、これまで困難とされてきたバカマツタケの完全人工栽培において、その子実体の発生可能性を高めることができるため、生産性向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で得られたバカマツタケ子実体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
【0021】
本発明のバカマツタケ菌床栽培用培地(以下「本発明の培地」という)は、種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたってバカマツタケの菌床栽培に用いる菌床栽培用培地であって、前記菌床栽培用培地は上層と下層とが直接接触した二層構造からなり、前記上層が菌床培地であり、前記菌床培地が培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものであり、前記基材が鉱物質を含むものであり、前記鉱物質中の主要構成要素が硬質の粒状鉱物質であり、前記菌床培地の主要構造が前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、前記空隙が互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、前記下層が水分供給材であり、前記水分供給材が水分及び栄養分を含むものであることを特徴とするものである。
【0022】
(菌床栽培)
菌床栽培は、種菌接種時(A)に始まり、菌糸体増殖段階(B)、原基形成段階(C)を経て、子実体発生段階(D)に至るまで栽培するものである。本発明の培地は、種菌接種時(A)から子実体発生段階(D)に至るまでの期間にわたって培養基材としての役割を果たすものであり、とりわけ完全人工栽培に適用することができるものである。
【0023】
種菌接種時(A)では、バカマツタケの種菌を培地に接種する。種菌の接種方法に特に限定はなく、例えば、シイタケの菌床栽培などの種菌接種手段を用いて実施することもできる。
【0024】
菌糸体増殖段階(B)は、種菌の菌糸体が増殖する段階である。増殖が順調に進めば、菌糸が蔓延して菌糸体密度が高まり、その中に菌糸体が塊状になった菌糸塊が形成される。菌糸体増殖段階(B)の終点は、菌糸塊が2mmの大きさに達する前までである。
【0025】
原基形成段階(C)は、菌糸塊が2mmの大きさに達した時点から幼子実体が発生する前までの段階である。2mmの大きさの菌糸塊は、肉眼でも確認することができる。菌糸塊がさらに生育することにより原基が形成される。幼子実体は、原基が生育したものであり、その頭部にまだ開いていない傘様組織を備えたものである。この傘様組織を切断したときに、ヒダ様構造を確認することができれば、幼子実体である。よって、原基形成段階(C)の終点は、ヒダ様構造が確認される前までである。
【0026】
子実体発生段階(D)は、幼子実体が発生した時点から子実体が形成されるまでである。
【0027】
(二層構造)
本発明の培地は、上層と下層とが直接接触した二層構造からなるものである。上層と下層とは直接接触しているため、両層の間には、第三の層又は部材は存在しない。
【0028】
二層構造の形態として、上層と下層の断面形状が同じであり、両者がほとんどずれることなく直接接している形態が好ましいが、この形態に限定されることなく、例えば、下層の一部分の上に上層が直接載置していてもよい。なお、本発明において、二層構造には、凹形状を有する下層の窪み部分に上層が嵌まり込んでいる形態も含まれるものとする。
【0029】
(上層:菌床培地)
上層を構成するのは、菌床培地である。菌床培地は、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものである。好適には、基材、栄養分及び水分を主要構成要素とするものである。培地構成要素全体に占める基材、栄養分及び水分の3つを合計した含有割合は、例えば、90vol%以上であることが好ましく、より好ましくは95vol%以上であり、さらに好ましくは100vol%である。
【0030】
基材は、鉱物質を含むものであり、鉱物質中の主要構成要素を硬質の粒状鉱物質とするものである。硬質の粒状鉱物質は、硬くて崩れにくい粒状の鉱物質であり、その利点として、例えば、栽培が進行し、隙間構造が重力と菌糸体生長による構造変化の影響を受けて閉塞される方向になったとしても、閉塞を抑制し菌糸伸長に必要な一定の隙間構造を確保できることが挙げられる。硬質の粒状鉱物質の好例は、桐生砂、日向土、さつま土、軽石、バーミキュライト、パーライト等である。2種類以上の硬質の粒状鉱物質を混合して用いてもよい。なお、焼成などの特殊な処理を施していない通常の粒状の赤玉土や鹿沼土は、硬質の粒状鉱物質の範疇には入らない。
【0031】
鉱物質中の硬質の粒状鉱物質の含有割合は、80vol%以上であることが好ましく、より好ましくは90vol%以上であり、さらに好ましくは95vol%以上であり、さらにより好ましくは100vol%である。また、水分を含む培地構成要素すべてを混合したものの総体積中の硬質の粒状鉱物質の含有割合は、20~60vol%であることが好ましい。上記含有割合の下限値は25vol%であることがより好ましく、30vol%であることがさらに好ましい。また、上記含有割合の上限値は55vol%であることがより好ましい。
【0032】
硬質の粒状鉱物質の粒径は、1~9.5mmの範囲であることが好ましい。ここでの粒径は、JIS Z8801-1:2019に規定された篩によって篩分けされたものである。具体的には、公称目開き1mmの篩で篩ったときのアンダーサイズのものを除外し、公称目開き9.5mmの篩で篩ったときのオーバーサイズのものを除外したものである。上記粒径の範囲の下限値は、1.18mmであることが好ましく、より好ましくは1.4mmであり、さらに好ましくは1.7mmであり、特に好ましくは2mmであり、特により好ましくは2.36mmである。上記粒径の範囲の上限値は、8mmであることが好ましく、より好ましくは6.7mmであり、さらに好ましくは5.6mmである。また、市販の硬質の粒状鉱物質において、粒の大きさが表示されているものを用いるときは、「細粒」又は「小粒」が好ましい。
【0033】
基材の好適な一形態は、隙間構造の形成と保水性の観点から、鉱物質の他に植物質を含むものである。植物質の例は、大鋸屑、稲ワラ、バーク等であり、特に大鋸屑が好ましい。植物質の含有割合は、例えば、水分を含む培地構成要素すべてを混合したものの総体積に対して10~40vol%であることが好ましい。上記含有割合の下限値は15vol%であることがより好ましい。また、上記含有割合の上限値は35vol%であることがより好ましい。なお、植物質と硬質の粒状鉱物質の合計の含有割合は、例えば、水分を含む培地構成要素すべてを混合したものの総体積に対して60~85vol%であることが好ましい。
【0034】
栄養分としては、バカマツタケが資化し得る炭素源及び窒素源の他、有機酸、ミネラル類、ビタミン類等が好例である。炭素源及び/又は窒素源の例は、トウモロコシ、フスマ、小麦粉、オカラ、米ヌカ、大豆粕、大麦(押麦)、ビール粕、グルコース、グリセリン、ショ糖、デキストリン、デンプン、ペプトン、脱脂乳、大豆粉、乾燥酵母、肉エキス、Yeast Extract、Malt Extract、カゼイン、アミノ酸類等である。有機酸の例は、クエン酸、酒石酸、乳酸等である。トウモロコシ、大麦(押麦)等については、粒状のものを用いても構わない。栄養分含量については、菌糸体生長に適した量とすることが好ましい。
【0035】
水分の含有割合(含水率)は、培地構成要素の保水量を考慮して適宜設定することが好ましく、例えば、水分を含む培地構成要素すべての総質量に対して概ね45~58質量%の範囲内とすることが好ましい。上記含有割合の下限値は47質量%であることがより好ましい。また、上記含有割合の上限値は56質量%であることがより好ましい。
【0036】
菌床培地の一例として、鉱物質、大鋸屑、米ヌカ、大麦(押麦)、グルコース、Yeast Extract、Malt Extract、クエン酸、ミネラル類及びビタミン類等を混合したものが挙げられる。
【0037】
培地構成要素から培地構成物が形成される。培地構成物として、例えば、基材と水分からは基材含水物が形成され、栄養分と水分からは栄養分含水物が形成され、基材と栄養分の混合物と水分からは基材・栄養分混合含水物が形成される。よって、基材、栄養分及び水分から形成される培地構成物のパターンとしては、(i)基材含水物及び栄養分含水物、(ii)基材・栄養分混合含水物、(iii)基材含水物及び基材・栄養分混合含水物、(iv)栄養分含水物及び基材・栄養分混合含水物、(v)基材含水物、栄養分含水物及び基材・栄養分混合含水物、の5パターンがある。ところで、前記のように、基材には鉱物質の他に植物質も含まれ、また、粉状の鉱物質の含有を排除するものではないため、基材含水物には多種多様な態様が存在する。また、栄養分含水物についても同様に多種多様な態様が存在する。そして、基材・栄養分混合含水物では、さらに多種多様な態様が存在することになる。なお、培地構成物には、基材、栄養分及び水分以外の培地構成要素から形成されたものも含まれ得る。
【0038】
菌床培地の主要構造は、培地構成物と空隙とからなる構造である。ここで、当該空隙は、互いに接触する複数の培地構成物間にできた隙間である。この主要構造により、菌床培地中には、さまざまな大きさ・形状の空隙が随所に存在し得る。
【0039】
菌床培地の好適な一形態は、空隙率が35~70%、圧縮空隙率が20~50%、かつ圧縮強度が0.1~2.0kPaのものである。
【0040】
(空隙率)
本発明において、空隙率とは、菌床栽培に供する形態とした本発明の培地において、菌床培地の総体積に対する隙間の体積割合をいう。菌床培地の空隙率は、35~70%の範囲であることが好ましい。空隙率が35%未満の場合は、菌糸体が十分に生長するまでに隙間構造が閉塞しやすくなるため、子実体の発生率が低下する傾向を示すことがある。空隙率の下限値は、好ましくは40%であり、さらに好ましくは45%である。空隙率が70%超であると、菌糸体密度が上がりにくくなるため、子実体の発生率が低下する傾向を示すことがある。空隙率の上限値は、好ましくは65%であり、さらに好ましくは60%である。
【0041】
空隙率の測定方法において、測定対象となる試験体(以下「試験体A」という)は、バカマツタケの菌床栽培に使用しようとする状態の菌床培地である。試験体Aは、例えば、菌床培地を高圧蒸気滅菌した後、水分含量を45~58質量%の範囲内に設定したものである。
【0042】
空隙率の測定方法は特に限定されないが、一好例は、次のとおりである。
直径9~10cmの円柱型容器に、所定重量の試験体Aを高さ3~5cm程度となるように入れて、その高さを測り体積を算出する(体積1)。なお、試験体Aを容器に入れるに際しては、試験体の物理性が変化しないように慎重に入れる。
上記とは別に、上記所定重量と同じ重量の試験体Aを上記円柱型容器に入れる。そこに、試験体Aの高さを十分に上回る所定量の水を静かに注ぎ入れ、水面の高さを計り体積を算出する。この体積から注入した水の体積を差し引きし、試験体Aの正味体積を算出する(体積2)。
空隙率を、「空隙率(%)=(体積1-体積2)/体積1×100」の式から求める。
【0043】
(圧縮空隙率)
菌糸体密度が高まると、重力による影響の他に、水分や栄養分の減少等によって、菌床培地の体積が減少する。この体積減少に伴って空隙も減少する。圧縮空隙率は、菌床培地を相当な力で圧縮したときに、それでも残存する空隙の割合を測定するものであるため、上記の栽培に伴う空隙の減少度合いとは必ずしも相関するものではないが、栽培後半においても空隙を確保し得るかの指標となるものである。
【0044】
菌床培地の圧縮空隙率は、20~50%であることが好ましい。圧縮空隙率が20%以上であることによって、栽培後半においても菌糸伸長のための空隙を確保することができ、子実体発生を促進することが可能となる。圧縮空隙率の下限値は、好ましくは25%であり、さらに好ましくは30%である。圧縮空隙率の上限値は、好ましくは45%であり、さらに好ましくは40%である。なお、圧縮空隙率の値が空隙率の値よりも低値を示すのが通例である。
【0045】
圧縮空隙率の測定方法において、測定対象となる試験体(以下「試験体B」という)は、試験体Aを10kPaの圧力で2時間圧縮したものである。前記試験体Aを用いた空隙率の測定方法において、試験体Aの代わりに試験体Bを用いて、圧縮空隙率を求める。
【0046】
(圧縮強度)
空隙率と圧縮空隙率が上記所定の範囲内に入っていたとしても、菌糸体が菌床培地から十分に栄養分を摂取するためには、培地構成物の表面だけでなく、培地構成物間に存在する栄養分にも接触することが望ましい。しかし、バカマツタケは、菌糸伸長力が弱いため、硬質・堅固な培地構成物からなる菌床培地では十分に生育できない。圧縮強度は、培地構成物間の結合の強さを評価することを目的としたものである。
【0047】
菌床培地の圧縮強度は、0.1~2.0kPaであることが好ましい。ここで、圧縮強度は、下記測定方法によって測定されたものである。上記圧縮強度値以下であれば、圧縮抵抗が低い、すなわち培地構成物間の結合が弱い、と考えることができる。また、脆いとも考えることができる。これにより、空隙だけでなく、培地構成物間にも菌糸伸長ができるようになる。圧縮強度の上限値は、好ましくは1.75kPaであり、より好ましくは1.5kPaである。圧縮強度の下限値は、好ましくは0.3kPaであり、より好ましくは0.5kPa、さらに好ましくは1kPaである。
【0048】
圧縮強度の測定方法は以下のとおりである。
圧縮強度測定装置としてStable Micro Systems社製の「TEXTURE ANALYSER TA.XT.plus」を用い、プローブとしてStable Micro Systems社製の「1/2”Cyl.Delrin(P/0.5)」(円柱型プローブ。プローブの底面積:1.27cm2)を用いる。なお、これらと同等の性能を有するものを用いてもよい。
円柱型容器(直径11~12cm)に、試験体Aを高さ3~5cm程度となるように入れる。なお、試験体Aを容器に入れるに際しては、試験体の物理性が変化しないように慎重に入れる。
試験体Aの上に直径10cmの硬質な円板を載置する。次に、この円板の中心にプローブを載置し、鉛直下向きに1.0mm/秒の一定速度で押し下げる。1.0g応力(1.25Paに相当)が計測された時点の試験体A底面からの高さを基準高さHとする。引き続いて上記一定速度で円板をプローブで押し下げ、試験体A底面からの高さが0.9Hとなった時点までの最大応力から圧縮強度を算出する。
【0049】
菌床培地の調製にあたっては、上記所定の空隙率、圧縮空隙率及び圧縮強度を備えるように実施することが好ましい。これら3つの要件を兼ね備えることによって、菌糸伸長と菌糸体密度の向上が可能となり、子実体の発生可能性をより高めることができる。
【0050】
(単粒構造・団粒構造)
菌床培地の別の好適な一形態は、培地構成物の構造として、単粒構造及び/又は団粒構造を有するものである。好ましくは、単粒構造と団粒構造を併せ持った構造であり、その中でも団粒構造を主とする構造が好ましい。団粒構造を主とする構造では、菌糸伸長と菌糸体密度の向上を期待できる。
【0051】
単粒構造の培地構成物の例は、単体の基材、単体の栄養分等である。単体の基材の例は、単体の植物質、単体の鉱物質等である。
【0052】
団粒構造の培地構成物の例は、単体の基材同士が結合して集合体となったもの、単体の栄養分同士が結合して集合体となったもの、単体の基材と単体の栄養分とが結合して集合体となったもの、基材の集合体と単体の栄養分とが結合して集合体となったもの、単体の基材と栄養分の集合体とが結合して集合体となったもの等が挙げられる。集合体の形状は、例えば、粒状、塊状等である。基材として植物質と鉱物質とを含む場合、上記集合体には多様な組み合わせが存在する。団粒構造の培地構成物の好例は、植物質、鉱物質及びデンプンを含むものである。高圧蒸気滅菌によってデンプンの糊化作用が発揮されると、団粒構造が形成されやすくなる。デンプンの含有割合については、少なすぎるとデンプンによる糊化作用が十分に発揮されず、また、多すぎるとカチカチに固めてしまうことがあるため、適宜設定することが好ましいが、例えば、水分を含む培地構成要素すべてを混合したものの総体積に対して2~30vol%とすることが好ましい。
【0053】
(解砕処理)
菌床培地のさらに別の好適な一形態は、菌床培地が高圧蒸気滅菌後に解砕処理されたもの又はその解砕処理されたものがさらに押圧処理されたものである。ここでの解砕処理は、外力を作用させて解きほぐす操作をいうものであり、外力としては、公知の機械装置、スプーンやスパチュラ等の器具を用いた人手等の適切な手段を用いればよい。また、押圧処理は、外力によって押し付ける操作をいうものであり、菌床培地の上面から押圧処理を行うときは、菌床培地表面の凹凸を少なくする観点から、板等を用いて上面全体に対して均等に押圧することが好ましい。押圧には、公知の機械装置、人手等の適切な手段を用いればよい。菌床培地の組成にもよるが、高圧蒸気滅菌後の菌床培地が全体に固く締まっている場合は、例えば、一旦解砕処理を行うことによって適度な大きさとなるように砕くことが好ましい。また、上記解砕処理したものに対しさらに押圧処理を行ってもよい。これとは別の好適な一形態は、菌床培地の原料を適当なグループに分け、グループごとに高圧蒸気滅菌した後、無菌環境下で全てのグループを混合したものである。
【0054】
(保水力)
菌床培地のさらにまた別の好適な一形態は、保水力が50~300g/100g乾燥菌床培地を示すものである。当該保水力を有することにより、菌糸体への適度な水分供給作用も期待できる。保水力の下限値は、75g/100g乾燥菌床培地であることが好ましく、より好ましくは100g/100g乾燥菌床培地である。保水力の上限値は、250g/100g乾燥菌床培地であることが好ましく、より好ましくは200g/100g乾燥菌床培地である。
【0055】
保水力の測定方法は以下のとおりである。
菌床培地を透水円筒(高さ:5.1cm、内径:5.0cmの鋼製筒)に満たし入れる。ただし、透水円筒に入った状態が、バカマツタケの菌床栽培に使用しようとする状態と同じになるようにする。なお、透水円筒の下部にはろ紙を設置し、上部には蓋をする。透水円筒とろ紙が分離しないように、ろ紙を透水円筒に固定する。
上記透水円筒を水の入った容器に入れて24時間放置する。この間に、下部のろ紙を介して菌床培地に水を吸収させる。24時間放置後の状態を最大保水状態とする。なお、上記透水円筒を上記容器に入れた時の水の深さは、上記透水円筒が1cm程度浸かる深さとすることが好ましい。
保水力は、上記最大保水状態における菌床培地の重量から乾燥状態の菌床培地の重量を差し引き、これを乾燥状態の菌床培地の重量で除し、これを乾燥状態の菌床培地100gに換算することによって算出する。ここで、乾燥状態の菌床培地は、100℃で乾燥させたものである。
【0056】
(下層:水分供給材)
下層を構成するのは、水分供給材である。
水分供給材は、水分及び栄養分を含有したものであり、長期栽培において菌床培地に含まれる水分及び栄養分が不足した場合の水分及び栄養分の供給源として機能することを目的としたものである。つまり、水分供給材は、特に子実体の発生可能性を高めるために有用なものである。水分供給材の量は、この目的を達成できるように、菌床培地の量とのバランスを考慮して設計することが好ましい。例えば、菌床培地と水分供給材の質量比として、5:1~1:5の範囲が好ましく、より好ましくは3:1~1:3の範囲である。
【0057】
水分供給材に含有される栄養分は、菌床培地の栄養分を補って長期栽培を可能とすることができる種類及び量であることが好ましい。栄養分の好例は、菌床培地に含有される栄養分と同様の栄養分で構成されたものであるが、好ましい一態様は、水分供給材の特性を活かして、水溶性栄養分を主要構成要素とするものである。水溶性栄養分の例として、水溶性の炭素源及び/又は窒素源、有機酸、ミネラル類、ビタミン類等を挙げることができる。水溶性の炭素源及び/又は窒素源の例は、可溶性デンプン、グルコース、グリセリン、ショ糖、デキストリン、ペプトン、脱脂乳、肉エキス、Yeast Extract、Malt Extract、アミノ酸類等である。有機酸の例は、クエン酸、酒石酸、乳酸等である。ミネラル類の例は、アルカリ金属の塩類、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等である。水分供給材に含有される栄養分の量は、菌床培地に含有される栄養分の量に対して、エネルギー比として、0.1~5の範囲を例示することができる。エネルギー比の算出には、例えば、七訂日本食品標準成分表に記載のエネルギー値を用いてもよい。上記エネルギー比の下限値は、0.2であることが好ましく、より好ましくは0.3であり、さらにより好ましくは0.5である。上記エネルギー比の上限値は、4であることが好ましく、より好ましくは3であり、さらにより好ましくは2.5であり、特に好ましくは2である。また、上記エネルギー比は1であっても構わない。
【0058】
水分供給材の形状は、例えば、固体状、半固体状、ゲル状等である。ゲル状の形状の形成には、水性ゲル化材を用いることが好ましい。水性ゲル化材は、水に溶解又は膨潤することによりゲル化するものであり、具体例として、寒天、グアーガム、アルギン酸ソーダ、ジェランガム、ペクチン、コンニャク、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、キサンタンガム、カラギーナン、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸塩、ケイ酸ナトリウムマグネシウム、含水ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0059】
水分供給材が、例えば寒天のような加熱で溶解、冷却で固化できるようなものである場合の製造例は、粉末寒天、栄養分及び水を混合し、常法によりこれを適度に加熱することにより粉末寒天を溶解させた後、冷却すればよい。当該加熱においては、滅菌処理を兼ねて、高圧蒸気滅菌を用いてもよい。
【0060】
水分供給材の別の一例は、水分及び栄養分を含有した多孔質材である。多孔質材としては、スポンジ等が挙げられる。
【0061】
(上層と下層の直接接触の利点)
上層である菌床培地と下層である水分供給材とが直接接触していることの利点は、(a)水分供給材から菌床培地に水分と栄養分を円滑に供給できること、また、(b)菌糸体が水分供給材と接触している状態のときは、菌糸体が水分供給材から水分と栄養分を直接摂取できること等である。上記(b)が実現され得るのは、菌糸体生長段階(B)において生育した菌糸体が水分供給材と接触するようになったとき、原基形成段階(C)、及び子実体発生段階(D)、である。
【0062】
(滅菌)
菌床培地と水分供給材は、バカマツタケの菌糸体を雑菌汚染から防ぐ観点から、滅菌されたものを用いることが好ましい。滅菌方法は、特に限定されることはなく、常法による高圧蒸気滅菌が好例である。滅菌を伴う本発明の培地の調製方法として、例えば、菌床培地と水分供給材を個別に滅菌した後、無菌的環境下で水分供給材の上に菌床培地を載置する方法、水分供給材の上に菌床培地を載置したものを滅菌する方法等が挙げられる。前者の方法において、水分供給材の上に菌床培地を載置するに当たり、無菌的環境下で菌床培地に解砕処理を施してもよい。
【0063】
(菌床栽培方法)
次に、本実施形態に係るバカマツタケの菌床栽培方法(以下、単に「菌床栽培方法」ということがある。)について説明する。以下の二方法は、とりわけ完全人工栽培に適した方法である。
【0064】
第一実施形態に係る菌床栽培方法は、本発明の培地の菌床培地の上表面に種菌を接種する種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたって、本発明の培地でバカマツタケを栽培する方法である。種菌を菌床培地の上表面に接種するのは、種菌が水分供給材と直接接触するとその生育が阻害される傾向を示すからである。
【0065】
第二実施形態に係る菌床栽培方法は、菌床培地にバカマツタケの種菌を接種した後、子実体発生段階までの期間にわたって菌床栽培をおこなう菌床栽培方法であって、少なくとも原基形成段階及び/又は子実体発生段階にある菌床培地と、水分及び栄養分を含んだ水分供給材とを、直接接触させる方法である。ここで、種菌接種に使用する菌床培地は、本発明の培地において上層に用いる菌床培地と同じである。すなわち、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含み、当該基材が鉱物質を含むものであり、当該鉱物質中の主要構成要素が硬質の粒状鉱物質であり、当該菌床培地の主要構造が培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、当該空隙が互いに接触する複数の培地構成物間にできた隙間である、という特徴を有する菌床培地である。なお、種菌接種に使用する菌床培地の好適な一態様は、高圧蒸気滅菌後に解砕処理された菌床培地又はその解砕処理された菌床培地がさらに押圧処理された菌床培地である。また、種菌接種時には、菌床培地と水分供給材とは直接接触していないので、種菌は菌床培地の上表面に接種してもよいし、菌床培地と混合することにより接種してもよい。
【0066】
第二実施形態に係る菌床栽培方法において、菌床培地と水分供給材とを直接接触させる方法については、特に制限はない。例えば、菌床培地と水分供給材とが同じ断面形状であり両者をほとんどずれなく直接接触させる方法、水分供給材の一部分の上に菌床培地を直接載置する方法、菌床培地を凹形状の水分供給材の窪みに嵌め込み直接接触させる方法、菌床培地の上面の一部に水分供給材を直接載置する方法、菌床培地の側面に水分供給材を直接接触させる方法等が挙げられる。なお、原基形成段階及び子実体発生段階では、菌床培地全体に菌糸体が蔓延しているのが通例である。よって、「菌床培地と水分供給材とを直接接触させる」における菌床培地の範囲には、菌床培地そのものだけでなく、表面に菌糸体を備えた菌床培地も含まれるものとする。ところで、原基形成段階又は子実体発生段階にまで生長した菌糸体であれば、種菌段階の菌糸体とは異なり、これを水分供給材と直接接触させても生育が阻害されることはまずない。
【0067】
第一実施形態及び第二実施形態は、バカマツタケの菌床栽培方法において、水分及び栄養分を含有した水分供給材から菌床培地及び/又は菌糸体に水分及び栄養分を供給するという点において、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有するものである。
【0068】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、菌床培地の解砕処理、押圧操作、二層化、バカマツタケの種菌接種、栽培等は、特に断らない限り、無菌的環境下で実施した。
【実施例0069】
(菌床培地A1)
基本組成(日向土600g、桐生砂1000g、大麦(押麦)200g)100質量部に対して、コナラ大鋸屑を20質量部、栄養剤(グルコース:20g/L、Yeast Extract:2g/L、Malt Extract:2g/L、クエン酸:0.2g/L、酒石酸NH4:0.5g/L、KH2PO4:0.2g/L、CaCl2・2H2O:50mg/L、FeCl3・6H2O:100mg/L、ZnSO4・7H2O:0.1mg/L、MnSO4・4H2O:0.1mg/L、CuSO4・5H2O:0.1mg/L、CoSO4・7H2O:0.01mg/L、NiSO4・H2O:0.1mg/L、チアミン塩酸塩:5mg/L、ニコチン酸:0.05mg/L、ビオチン:0.15mg/L、葉酸:0.015mg/L、硫酸アデニン:0.015mg/L)を120質量部混合した。なお、日向土と桐生砂は、主として小粒として市販されているものを用い、粒径が2.36mm~8mmの範囲内に入るように篩分けしたものである。次に、高圧蒸気滅菌(121℃、60分間)した後、水分含量を50質量%に設定し、スパチュラを用いた人手によって解砕処理を行った。解砕の程度は、解砕処理物を培養器に入れたときに、培地構成物間に肉眼視で隙間が確認できる程度とした。隙間を取り囲む培地構成物として、1~5個程度の粒状物によって形成された塊も確認することができた。この解砕処理物を菌床培地A1とした。
【0070】
(菌床培地A2)
培養器に入れた菌床培地A1に対し、その上面全体に木製の平板を当てて鉛直下方向に人手で押圧し、実施例1よりも空隙率が低くなるように調製したものを菌床培地A2とした。
【0071】
(菌床培地B)
コナラ大鋸屑1.5L、大麦(押麦)1L、及び栄養剤(1Lの水に、クエン酸0.5g、リン酸1カリウム0.1g、硫酸マグネシウム0.2g、アセチルアセトン5μL、塩化第二鉄50mg、硫酸マンガン0.03mg、硫酸銅1.5mg、硫酸コバルト0.3mg、硫酸ニッケル0.1mg、硫酸亜鉛1.0mgを添加したもの)1Lを混合した。なお、この混合物の組成は、ホンシメジ用菌床培地の組成であり、硬質の粒状鉱物質は用いないものである。次に、高圧蒸気滅菌(121℃、60分間)した後、水分含量を63質量%に設定し、スパチュラを用いた人手によって解砕処理を行った。この解砕処理物を菌床培地Bとした。
【0072】
(空隙率等の測定)
菌床培地A1、菌床培地A2及び菌床培地Bを試験体Aとし、前記方法により空隙率、圧縮空隙率及び圧縮強度を求めた。また、各菌床培地の保水力を前記測定方法により求めた。結果を表1に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
(水分供給材A)
純水100質量部に対し、粉末寒天1.5質量部、グルコース2質量部及びYeast Extract 0.2質量部を混合した後、高圧蒸気滅菌(121℃、60分間)した。これを水分供給材Aとした。
【0075】
(水分供給材B)
純水100質量部に対し、ジェランガム0.2質量部、グルコース2質量部及びYeast Extract 0.2質量部を混合した後、高圧蒸気滅菌(121℃、60分間)した。これを水分供給材Bとした。
【0076】
[バカマツタケの菌床栽培]
(実施例1)
菌床培地A1を水分供給材Aの上に直接載置(菌床培地A1の100質量部に対し水分供給材Aは200質量部)した後、菌床培地A1の上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培した。
【0077】
(実施例2)
菌床培地A2をその押圧された状態が維持されるようにしながら水分供給材Aの上に直接載置(菌床培地A2の100質量部に対し水分供給材Aは200質量部)した後、菌床培地A2の上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培した。
【0078】
(実施例3)
菌床培地A1を水分供給材Bの上に直接載置(菌床培地A1の100質量部に対し水分供給材Bは200質量部)した後、菌床培地A1の上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培した。
【0079】
(実施例4)
菌床培地A1の上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培した。2mm程度の菌糸塊が形成されたことを確認した後、菌糸体が全体に蔓延した菌床培地A1を水分供給材Aの上に直接載置(栽培に供する前の菌床培地A1の100質量部に対し水分供給材Aは100質量部)して栽培を続けた。
【0080】
(比較例1)
菌床培地Bの上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培したが、栽培が進むにつれて菌糸伸長の度合いが低下し、菌糸体密度が向上しなかった。比較例1では、子実体は得られなかった。
【0081】
(比較例2)
菌床培地Bを水分供給材Aの上に直接載置(菌床培地Bの100質量部に対し水分供給材Aは200質量部)した後、菌床培地Bの上表面にバカマツタケの固体種菌を接種した。その後、室内環境下において15~24℃の範囲内で栽培したが、栽培が進むにつれて菌糸伸長の度合いが低下し、菌糸体密度が向上しなかった。比較例2では、子実体は得られなかった。
【0082】
(子実体)
バカマツタケの子実体が得られたときの大略は、実施例1~3の系では、菌床栽培用培地にバカマツタケの固体種菌の接種後2.5ヶ月間程度栽培することによって原基が形成され、さらに2週間程度栽培することによって子実体が発生した。実施例4の系では、原基が形成された後、その約2週間後に子実体が発生した。
【0083】
実施例1では、栽培個数50個のうち、6個で子実体が発生した(発生率12%)。
実施例2では、栽培個数40個のうち、4個で子実体が発生した(発生率10%)。
実施例3では、栽培個数40個のうち、3個で子実体が発生した(発生率8%)。
実施例4では、栽培個数32個のうち、2個で子実体が発生した(発生率6%)。
【0084】
発生した子実体はいずれもマツタケと同様の香りを発しており、その香り成分をガスクロマトグラフ質量分析法で同定したところ、マツタケ類に特有のケイ皮酸メチルが含有されていることを確認した。さらに、これらの子実体をITS-5.8SrDNA塩基配列分子系統解析したところ、バカマツタケと同定された。
【0085】
図1に、実施例1で得られた子実体の代表例の写真を示した。この子実体は、重量が30g、子実体長(軸方向の長さ)が9.5cmであった。
図1
【手続補正書】
【提出日】2020-12-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたってバカマツタケの菌床栽培に用いる菌床栽培用培地であって、
前記菌床栽培用培地は、上層と下層とが直接接触した二層構造からなり、
前記上層が、菌床培地であり、
前記菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含むものであり、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、
前記菌床培地の空隙率が35~70%であり、
前記下層が、水分供給材であり、
前記水分供給材が、水分及び栄養分を含むものであることを特徴とする、
バカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項2】
前記菌床培地の圧縮空隙率が20~50%、かつ圧縮強度が0.1~2.0kPaである、請求項1に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項3】
前記培地構成物の構造が、単粒構造及び/又は団粒構造である、請求項1又は2に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項4】
前記菌床培地が、高圧蒸気滅菌後に解砕処理された菌床培地又はその解砕処理された菌床培地がさらに押圧処理された菌床培地である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のバカマツタケ菌床栽培用培地の菌床培地の上表面に種菌を接種する種菌接種時から子実体発生段階までの期間にわたって、前記バカマツタケ菌床栽培用培地でバカマツタケを栽培することを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。
【請求項6】
菌床培地が、培地構成要素として基材、栄養分及び水分を含み、
前記基材が、鉱物質を含むものであり、
前記鉱物質中の主要構成要素が、硬質の粒状鉱物質であり、
前記菌床培地の主要構造が、前記培地構成要素から形成された培地構成物と空隙とからなる構造であり、
前記空隙が、互いに接触する複数の前記培地構成物間にできた隙間であり、
空隙率が35~70%である菌床培地に対し、
バカマツタケの種菌を接種した後、子実体発生段階までの期間にわたって菌床栽培をおこなう菌床栽培方法であって、
少なくとも原基形成段階及び/又は子実体発生段階にある前記菌床培地と、水分及び栄養分を含んだ水分供給材とを、直接接触させることを特徴とする、
バカマツタケの菌床栽培方法。