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特開2022-191374血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子
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  • 特開-血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子 図1
  • 特開-血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191374
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221220BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221220BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C07K16/46
C07K16/18
A61P7/04
A61P43/00 111
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163711
(22)【出願日】2022-10-12
(62)【分割の表示】P 2021002057の分割
【原出願日】2011-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2010257022
(32)【優先日】2010-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 全次郎
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】添田 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】武藤 厚
(72)【発明者】
【氏名】北澤 剛久
(72)【発明者】
【氏名】西田 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】今井 千史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 司
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 一隆
(57)【要約】
【課題】血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子の提供。
【解決手段】血液凝固第IX因子/活性化血液凝固第IX因子及び血液凝固第X因子の双方に特異的に結合し、血液凝固第VIII因子の補因子機能、すなわち活性化血液凝固第IX因子による血液凝固第X因子活性化を促進する機能を代替する機能を有する種々の二重特異性抗体を作製し、これらの抗体の中から、見出した血液凝固第VIII因子の機能を代替する活性の高い多重特異性抗原結合分子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応を増強する補因子である血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子および該分子を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病Aは、先天性の血液凝固第VIII因子(F.VIII)の機能低下または欠損による出血異常症である。血友病A患者の出血に対しては、F.VIII製剤が通常投与される(on-demand投与)。また、近年は、出血イベントを防ぐために、予防的に、F.VIII製剤が投与される(予防投与、非特許文献1及び2)。F.VIII製剤の血中半減期は、約12~16時間程度である。それ故、継続的な予防のためには、週に3回、F.VIII製剤が、患者に投与される(非特許文献3及び4)。また、on-demand投与においては、再出血を防ぐため、F.VIII製剤を、必要に応じ、一定間隔で追加投与する。また、F.VIII製剤の投与は静脈内に実施される。従って、F.VIII製剤と比べて投与の負担が少ない薬剤が、強く求められていた。
【0003】
時折、F.VIIIに対する抗体(インヒビター)が、血友病患者に発生する。インヒビターは、F.VIII製剤の効果を打ち消す。インヒビターが発生した患者(インヒビター患者)の出血に対しては、バイパス製剤が投与される。それらの作用機序は、F.VIIIの機能、すなわち活性化血液凝固第IX因子(F.IXa)による血液凝固第X因子(F.X)の活性化を触媒する機能に非依存である。そのため、バイパス製剤が、出血を十分止められないケースがある。従って、インヒビターの存在に左右されず、且つF.VIIIの機能を代替する薬剤が、強く求められていた。
【0004】
最近、その解決手段として、F.VIIIの機能を代替する抗体及びその使用が開示された(特許文献1、2及び3)。該抗体は、抗F.VIII自己抗体を有する後天性血友病、およびフォンビルブランド因子(vWF)の機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病にも有効と考えられるが、必ずしもF.VIIIの機能を代替する活性は十分ではなかった。そこでより高い止血効果を示す薬剤として、該抗体よりもさらにF.VIIIの機能を代替する活性が高い抗体が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2005/035754
【特許文献2】WO 2005/035756
【特許文献3】WO 2006/109592
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Blood 58, 1-13 (1981)
【非特許文献2】Nature 312, 330-337(1984)
【非特許文献3】Nature 312, 337-342(1984)
【非特許文献4】Biochim.Biophys.Acta 871, 268-278(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酵素反応を増強する補因子であるF.VIIIの機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、F.IX/F.IXa及びF.Xの双方に特異的に結合し、F.VIIIの補因子機能、すなわちF.IXaによるF.X活性化を促進する機能を代替する機能(F.Xa産生促進機能)を有する種々の二重特異性抗体の中から、公知のものよりも優れたF.Xa産生促進活性を有する二重特異性抗体を見出すことに成功した。
【0009】
さらに、F.VIIIの機能を代替する活性を有する二重特異性抗体のF.Xa産生促進活性の向上に重要な当該抗体のアミノ酸配列の位置を見出すことに成功し、当該アミノ酸を置換することにより、F.VIII機能を代替する活性がさらに上昇した二重特異性抗体を取得することに成功した。また、F.VIIIの機能を代替する活性が高いだけでなく、F.Xase阻害作用が低いという、両方の性質を満たすことが非常に困難である二重特異性抗体を取得することに成功した。
【0010】
即ち本発明は、酵素反応を増強する補因子であるF.VIIIの機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子および該分子を有効成分として含む医薬組成物に関し、より具体的には以下に関する。
〔1〕 血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一の抗原結合部位、および血液凝固第X因子を認識する第二の抗原結合部位を含む、血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子であって、該血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能が、配列番号:165と166からなるH鎖および配列番号:167からなる共通L鎖を有する二重特異性抗体(hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ)と比較して高い活性化血液凝固第X因子(F.Xa)産生促進活性に起因する機能である、多重特異性抗原結合分子。
〔2〕 血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一の抗原結合部位を含む第一のポリペプチドおよび血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第三の抗原結合部位を含む第三のポリペプチド、並びに、血液凝固第X因子を認識する第二の抗原結合部位を含む第二のポリペプチドおよび血液凝固第X因子を認識する第四の抗原結合部位を含む第四のポリペプチドを含む、〔1〕に記載の多重特異性抗原結合分子。
〔3〕 第一のポリペプチドと第三のポリペプチドがそれぞれ血液凝固第IX因子または活性化血液凝固第IX因子に対する抗体のH鎖またはL鎖の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドと第四のポリペプチドがそれぞれ血液凝固第X因子に対する抗体のH鎖またはL鎖の抗原結合部位を含む、〔2〕に記載の多重特異性抗原結合分子。
〔4〕 第一のポリペプチドの抗原結合部位が下記(a1)~(a11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドの抗原結合部位が下記(b1)~(b11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を有する〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:75、76、77(Q1のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a2) 配列番号:78、79、80(Q31のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a3) 配列番号:81、82、83(Q64のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a4) 配列番号:84、85、86(Q85のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a5) 配列番号:87、88、89(Q153のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a6) 配列番号:90、91、92(Q354のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a7) 配列番号:93、94、95(Q360のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a8) 配列番号:96、97、98(Q405のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a9) 配列番号:99、100、101(Q458のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a10) 配列番号:102、103、104(Q460のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a11) 配列番号:105、106、107(Q499のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b1) 配列番号:108、109、110(J232のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b2) 配列番号:111、112、113(J259のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b3) 配列番号:114、115、116(J268のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b4) 配列番号:117、118、119(J300のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b5) 配列番号:120、121、122(J321のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b6) 配列番号:123、124、125(J326のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b7) 配列番号:126、127、128(J327のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b8) 配列番号:129、130、131(J339のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b9) 配列番号:132、133、134(J344のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b10) 配列番号:135、136、137(J346のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b11) 配列番号:174、175、176(J142のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
〔5〕 第一のポリペプチドの抗原結合部位が下記(a1)~(a11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドの抗原結合部位が下記(b1)~(b11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を有する〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:35(Q1のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a2) 配列番号:36(Q31のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a3) 配列番号:37(Q1のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a4) 配列番号:38(Q85のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a5) 配列番号:39(Q153のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a6) 配列番号:40(Q354のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a7) 配列番号:41(Q360のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a8) 配列番号:42(Q405のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a9)配列番号:43(Q458のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a10) 配列番号:44(Q460のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a11) 配列番号:45(Q499のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b1) 配列番号:46(J232のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b2) 配列番号:47(J259のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b3) 配列番号:48(J268のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b4) 配列番号:49(J300のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b5) 配列番号:50(J321のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b6) 配列番号:51(J326のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b7) 配列番号:52(J327のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b8) 配列番号:53(J339のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b9) 配列番号:54(J344のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b10) 配列番号:55(J346のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b11) 配列番号:172(J142のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
〔6〕 第三のポリペプチドと第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位が下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるL鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含む、〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:138、139、140(L2のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c2) 配列番号:141、142、143(L45のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c3) 配列番号:144、145、146(L248のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c4) 配列番号:147、148、149(L324のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c5) 配列番号:150、151、152(L334のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c6) 配列番号:153、154、155(L377のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c7) 配列番号:156、157、158(L404のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c8) 配列番号:159、160、161(L406のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c9) 配列番号:137、138、139(L408のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c10) 配列番号:177、178、179(L180のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
〔7〕 第三のポリペプチドと第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位が下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるL鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含む、〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:56(L2のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c2) 配列番号:57(L45のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c3) 配列番号:58(L248のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c4) 配列番号:59(L324のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c5) 配列番号:60(L334のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c6) 配列番号:61(L377のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c7) 配列番号:62(L404のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c8) 配列番号:63(L406のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c9) 配列番号:64(L408のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c10) 配列番号:173(L180のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
〔8〕 さらに第一および第二のポリペプチドが抗体のH鎖定常領域を含み、第三および第四のポリペプチドが抗体のL鎖定常領域を含む、〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子。
〔9〕 第一および第二のポリペプチドが抗体のH鎖定常領域を含み、第三および第四のポリペプチドが抗体のL鎖定常領域を含む〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子であって、さらに第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが共通L鎖である、〔3〕に記載の多重特異性抗原結合分子。
〔10〕 第一のポリペプチドが下記(d1)~(d6)のグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列または下記(d7)~(d9)のグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる抗体のH鎖定常領域を含み、第二のポリペプチドが上記第一のポリペプチドとは異なるグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる抗体のH鎖定常領域を含む、〔8〕または〔9〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(d1) 配列番号:65(G4k)に記載のH鎖定常領域、
(d2) 配列番号:66(z7)に記載のH鎖定常領域、
(d3) 配列番号:67(z55)に記載のH鎖定常領域、
(d4) 配列番号:68(z106)に記載のH鎖定常領域、
(d5) 配列番号:69(z118)に記載のH鎖定常領域、
(d6) 配列番号:70(z121)に記載のH鎖定常領域、
(d7) 配列番号:71(G4h)に記載のH鎖定常領域、
(d8) 配列番号:72(z107)に記載のH鎖定常領域、
(d9) 配列番号:73(z119)に記載のH鎖定常領域。
〔11〕 第三と第四のポリペプチドが下記(e)のアミノ酸配列からなる抗体のL鎖定常領域を含む、〔8〕または〔9〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(e) 配列番号:74(k)に記載のL鎖定常領域。
〔12〕 第一のポリペプチドが下記(a1)~(a14)から選ばれるいずれかの抗体H鎖を含み、第二のポリペプチドが下記(b1)~(b12)から選ばれるいずれかの抗体H鎖を含み、第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかの抗体L鎖を含む、〔8〕または〔9〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1(Q1-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a2) 配列番号:2(Q31-z7)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a3) 配列番号:3(Q64-z55)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a4) 配列番号:10(Q64-z7)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a5) 配列番号:11(Q85-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a6) 配列番号:12(Q153-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a7) 配列番号:13(Q354-z106)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a8) 配列番号:14(Q360-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a9) 配列番号:15(Q360-z118)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a10) 配列番号:16(Q405-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a11) 配列番号:17(Q458-z106)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a12) 配列番号:18(Q460-z121)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a13) 配列番号:19(Q499-z118)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a14) 配列番号:20(Q499-z121)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b1) 配列番号:4(J268-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b2) 配列番号:5(J321-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b3) 配列番号:6(J326-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b4) 配列番号:7(J344-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b5) 配列番号:21(J232-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b6) 配列番号:22(J259-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b7) 配列番号:23(J300-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b8) 配列番号:24(J327-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b9) 配列番号:25(J327-z119)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b10) 配列番号:26(J339-z119)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b11) 配列番号:27(J346-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b12) 配列番号:170(J142-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(c1) 配列番号:8(L2-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c2) 配列番号:9(L45-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c3) 配列番号:28(L248-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c4) 配列番号:29(L324-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c5) 配列番号:30(L334-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c6) 配列番号:31(L377-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c7) 配列番号:32(L404-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c8) 配列番号:33(L406-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c9) 配列番号:34(L408-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c10) 配列番号:171(L180-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖。
〔13〕 第一のポリペプチドが、〔12〕の(a1)~(a14)のいずれかに記載の抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドが、〔12〕の(b1)~(b12)のいずれかに記載の抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗原結合部位を含む、〔1〕に記載の多重特異性抗原結合分子。
〔14〕 第一のポリペプチドが、下記(e1)~(e3)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖を含み、第二のポリペプチドが下記(f1)~(f3)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖を含み、第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが下記(g1)~(g4)から選ばれるいずれかの抗体のL鎖を含む、〔8〕または〔9〕に記載の多重特異性抗原結合分子:
(e1) 〔12〕の(a1)~(a14)のいずれかの抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のH鎖、
(e2) (e1)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖におけるKabat ナンバリングによる34位、35位、49位、61位、62位、96位、98位、100位、100b位および102位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のH鎖、
(e3) (e1)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖におけるKabat ナンバリングによる34位のアミノ酸残基がイソロイシン、35位のアミノ酸残基がアスパラギン、グルタミンまたはセリン、49位のアミノ酸残基がセリン、61位のアミノ酸残基がアルギニン、62位のアミノ酸残基がグルタミン酸、96位のアミノ酸残基がセリンまたはスレオニン、98位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、100位のアミノ酸残基がフェニルアラニンまたはチロシン、100b位のアミノ酸残基がグリシン、あるいは、102位のアミノ酸残基がチロシンである抗体のH鎖、
(f1) 〔12〕の(b1)~(b12)のいずれかの抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のH鎖、
(f2) (f1)のいずれかの抗体H鎖におけるKabat ナンバリングによる35位、53位、73位、76位、96位、98位、100位および100a位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のH鎖、
(f3) (f1)のいずれかの抗体H鎖であって、Kabat ナンバリングによる35位のアミノ酸残基がアスパラギン酸、53位のアミノ酸残基がアルギニン、73位のアミノ酸残基がリジン、76位のアミノ酸残基がグリシン、96位のアミノ酸残基がリジン又はアルギニン、98位のアミノ酸残基がチロシン、100位のアミノ酸残基がチロシン、あるいは、100a位のアミノ酸残基がヒスチジンである抗体のH鎖、
(g1) 〔12〕の(a1)~(a14)のいずれかの抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のL鎖、
(g2) 〔12〕の(b1)~(b12)のいずれかの抗体のH鎖と(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のL鎖、
(g3) (g1)および(g2)のいずれかの抗体のL鎖におけるKabatナンバリングによる27位、30位、31位、32位、50位、52位、53位、54位、55位、92位、93位、94位および95位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のL鎖、
(g4) (g1)および(g2)のいずれかの抗体のL鎖であって、Kabatナンバリングによる27位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、30位のアミノ酸残基がグルタミン酸、31位のアミノ酸残基がアルギニン、32位のアミノ酸残基がグルタミン、50位のアミノ酸残基がアルギニンまたはグルタミン、52位のアミノ酸残基がセリン、53位のアミノ酸残基がアルギニン、54位のアミノ酸残基がリジン、55位のアミノ酸残基がグルタミン酸、92位のアミノ酸残基がセリン、93位のアミノ酸残基がセリン、94位のアミノ酸残基がプロリン、あるいは、95位のアミノ酸残基がプロリンである抗体のL鎖。
〔15〕 多重特異性抗原結合分子が多重特異性抗体である、〔1〕~〔14〕いずれかに記載の多重特異性抗原結合分子。
〔16〕 以下の(a)~(u)のいずれかに記載の二重特異性抗体:
(a) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J268-G4h/L45-k)、
(b) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J321-G4h/L45-k)、
(c) 第一のポリペプチドが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:8に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q31-z7/J326-z107/L2-k)、
(d) 第一のポリペプチドが配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z55/J344-z107/L45-k)、
(e) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J326-z107/L334-k)、
(f) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J344-z107/L406-k)、
(g) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J268-G4h/L406-k)、
(h) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J321-G4h/L334-k)、
(i) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(j) 第一のポリペプチドが配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:22に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:29に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q354-z106/J259-z107/L324-k)、
(k) 第一のポリペプチドが配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(l) 第一のポリペプチドが配列番号:15に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:23に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-z118/J300-z107/L334-k)、
(m) 第一のポリペプチドが配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q405-G4k/J232-G4h/L248-k)、
(n) 第一のポリペプチドが配列番号:17に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:34に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q458-z106/J346-z107/L408-k)、
(o) 第一のポリペプチドが配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q460-z121/J327-z119/L334-k)、
(p) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L334-k)、
(q) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L377-k)、
(r) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J346-z107/L248-k)、
(s) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:32に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J327-z119/L404-k)、
(t) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J339-z119/L377-k)、
(u) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:170に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:171に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)。
〔17〕 〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または〔16〕に記載の二重特異性抗体をコードする核酸。
〔18〕 〔17〕に記載の核酸が挿入されたベクター。
〔19〕 〔17〕に記載の核酸または〔18〕に記載のベクターを含む細胞。
〔20〕 〔19〕に記載の細胞を培養することにより、〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または〔16〕に記載の二重特異性抗体を製造する方法。
〔21〕 〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または〔16〕に記載の二重特異性抗体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔22〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である、〔21〕に記載の組成物。
〔23〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、〔22〕に記載の組成物。
〔24〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病Aである、〔23〕に記載の組成物。
〔25〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔23〕に記載の組成物。
〔26〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、後天性血友病である、〔23〕に記載の組成物。
〔27〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下によって発症および/または進展する疾患が、フォンビルブランド病である、〔23〕に記載の組成物。
〔28〕 〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子もしくは〔16〕に記載の二重特異性抗体、または、〔21〕~〔27〕のいずれか一項に記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法。
〔29〕 少なくとも〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子もしくは〔16〕に記載の二重特異性抗体、または〔21〕~〔27〕のいずれか一項に記載の組成物を含む、〔28〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット。
【0011】
また本発明は以下に関する。
〔30〕 〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子もしくは〔16〕に記載の二重特異性抗体、または、〔21〕~〔27〕のいずれか一項に記載の組成物の、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療剤の製造における使用。
〔31〕 出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療用の、〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子もしくは〔16〕に記載の二重特異性抗体、または、〔21〕~〔27〕のいずれか一項に記載の組成物。
【0012】
また本発明は、酵素反応を増強する補因子であるF.VIIIの機能を代替する機能を有する二重特異性抗体および該抗体を有効成分として含む医薬組成物に関し、より具体的には以下に関する。
〔32〕 血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一の抗原結合部位、および血液凝固第X因子を認識する第二の抗原結合部位を含む、血液凝固第VIII因子の機能を代替する機能を有する二重特異性抗体であって、以下の(a)~(u)のいずれかに記載の二重特異性抗体;
(a) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J268-G4h/L45-k)、
(b) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J321-G4h/L45-k)、
(c) 第一のポリペプチドが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:8に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q31-z7/J326-z107/L2-k)、
(d) 第一のポリペプチドが配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z55/J344-z107/L45-k)、
(e) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J326-z107/L334-k)、
(f) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J344-z107/L406-k)、
(g) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J268-G4h/L406-k)、
(h) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J321-G4h/L334-k)、
(i) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(j) 第一のポリペプチドが配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:22に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:29に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q354-z106/J259-z107/L324-k)、
(k) 第一のポリペプチドが配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(l) 第一のポリペプチドが配列番号:15に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:23に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-z118/J300-z107/L334-k)、
(m) 第一のポリペプチドが配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q405-G4k/J232-G4h/L248-k)、
(n) 第一のポリペプチドが配列番号:17に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:34に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q458-z106/J346-z107/L408-k)、
(o) 第一のポリペプチドが配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q460-z121/J327-z119/L334-k)、
(p) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L334-k)、
(q) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L377-k)、
(r) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J346-z107/L248-k)、
(s) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:32に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J327-z119/L404-k)、
(t) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J339-z119/L377-k)、
(u) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:170に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:171に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)。
〔33〕 〔32〕に記載の二重特異性抗体をコードする核酸。
〔34〕 〔33〕に記載の核酸が挿入されたベクター。
〔35〕 〔33〕に記載の核酸または〔34〕に記載のベクターを含む細胞。
〔36〕 〔35〕に記載の細胞を培養することにより、〔32〕に記載の二重特異性抗体を製造する方法。
〔37〕 〔32〕に記載の二重特異性抗体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔38〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である、〔37〕に記載の組成物。
〔39〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、〔38〕に記載の組成物。
〔40〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病Aである、〔39〕に記載の組成物。
〔41〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔39〕に記載の組成物。
〔42〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、後天性血友病である、〔39〕に記載の組成物。
〔43〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下によって発症および/または進展する疾患が、フォンビルブランド病である、〔39〕に記載の組成物。
〔44〕 〔32〕に記載の二重特異性抗体、または、〔37〕~〔43〕のいずれか一項に記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法。
〔45〕 〔32〕に記載の二重特異性抗体、または〔37〕~〔43〕のいずれか一項に記載の組成物を含む、〔44〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット。
〔46〕 〔32〕に記載の二重特異性抗体、または〔37〕~〔43〕のいずれか一項に記載の組成物の、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防/または治療剤の製造における使用。
〔47〕 出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療用の、〔32〕に記載の二重特異性抗体、または〔37〕~〔43〕のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、F.VIIIの機能を代替する活性の高い多重特異性抗原結合分子が提供された。また、酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、F.VIIIの機能を代替する活性が高く、かつ、F.Xase阻害作用が低い多重特異性抗原結合分子が提供された。 ヒト化抗体は一般に、血中での安定性が高く免疫原性も低いと考えられることから、本発明の多重特異性抗体は医薬品として極めて有望であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】F.Xase阻害作用を説明した図である。(a) F.VIIIaはF.IXaと複合体(F.Xase)を形成し、F.Xを活性化する。(b) 二重特異性抗体は、F.IXaおよびF.Xに結合し、F.Xを活性化する。(c) F.VIIIaおよび二重特異性抗体の両者が、競合せずにF.Xを活性化する。(d) 二重特異性抗体がF.IXaおよび/またはF.Xに結合することで、F.XaseとF.Xの複合体の形成を阻害する。(e) 二重特異性抗体がF.IXaおよび/またはF.Xに結合することで、F.Xaseの活性を阻害する。
図2】スクリーニングを説明した図である。ヒトF.IXaおよびヒトF.Xに対する抗体遺伝子を約200種類ずつ作製し、動物細胞発現ベクターに組み込んだ。抗F.IXa抗体と抗F.X抗体の組み合わせとして4万以上の二重特異性抗体を一過性発現した。F.Xa産生促進活性およびF.Xase阻害作用を評価し、F.Xa産生促進活性が高くF.Xase阻害作用が低い二重特異性抗体をスクリーニングした。さらに必要に応じてアミノ酸置換を施すことで、プロトタイプ抗体を作製した。
図3】hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ、Q1-G4k/J268-G4h/L45-k、Q1-G4k/J321-G4h/L45-k、Q31-z7/J326-z107/L2-k、Q64-z55/J344-z107/L45-kのF.Xa産生促進活性を示す図である。抗体溶液の濃度は300, 30, 3μg/mL (Human Factor IXa, Novact(登録商標) M, Human Factor Xと抗体溶液を混合した後の濃度は100, 10, 1μg/mL)、酵素反応時間は10分間、発色時間は50分間である。結果、これら抗体は、WO 2006/109592に記載のhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQと比較して、高いF.Xa産生促進活性を示した。
図4】hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ、プロトタイプ抗体、および、アミノ酸置換を導入した改変抗体のF.Xa産生促進活性を示す図である。抗体溶液の濃度は300, 30, 3μg/mL (Human Factor IXa, Novact(登録商標) M, Human Factor Xと抗体溶液を混合した後の濃度は100, 10, 1μg/mL)、酵素反応時間は2分間、発色時間は20分間である。結果、これら改変抗体はプロトタイプ抗体よりも高いF.Xa産生促進活性を示した。
図5】hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ、プロトタイプ抗体、および、アミノ酸置換を導入した改変抗体のF.Xase阻害作用を示す図である。hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ、Q1-G4k/J268-G4h/L45-k、Q31-z7/J326-z107/L2-k、Q1-G4k/J321-G4h/L45-k、Q64-z55/J344-z107/L45-k、Q85-G4k/J268-G4h/L406-k、Q85-G4k/J321-G4h/L334-k、Q64-z7/J344-z107/L406-k、Q64-z7/J326-z107/L334-k、Q153-G4k/J142-G4h/L180-k、Q405-G4k/J232-G4h/L248-k、Q360-G4k/J232-G4h/L406-k、Q153-G4k/J232-G4h/L406-k、Q458-z106/J346-z107/L408-k、Q360-z118/J300-z107/L334-k、Q499-z118/J327-z107/L377-k、Q499-z121/J327-z119/L404-k、Q499-z121/J339-z119/L377-k、Q499-z118/J346-z107/L248-k、Q354-z106/J259-z107/L324-k、Q460-z121/J327-z119/L334-k、及びQ499-z118/J327-z107/L334-kのF.VIIIa存在下におけるF.IXaによるF.X活性化に対する影響を示す図である。抗体のF.Xase阻害作用は、抗体添加反応液の吸光度から抗体無添加反応液の吸光度で減じた値で示した。抗体溶液の濃度は300, 30μg/mL (Human Factor IXa, F.VIIIa, Human Factor Xと抗体溶液を混合した後の濃度は100, 10μg/mL)、酵素反応時間は6分間、発色時間は14分間である。横軸のF.Xase阻害作用の値がプラスにいくほど、F.Xase阻害作用が弱い。結果、WO 2006/109592に記載のhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQは強いF.Xase阻害作用を示した。本発明の抗体全て、hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQと比較して、弱いF.Xase阻害作用を示した、もしくは阻害作用を示さなかった。
図6A】プロトタイプ抗体、および、アミノ酸置換を導入した改変抗体のアミノ酸配列を示した図である。Ref列に配列名が記載されていない場合はName列の可変領域配列を記載した。Kabatナンバリングで該当する番号にアミノ酸がない箇所は「-(ハイフン)」を表示した。Name列とRef列の可変領域を比較し、同じアミノ酸の箇所を「.(ドット)」として表示し、異なる箇所はName列の可変領域のアミノ酸を表示した。F.Xa産生促進活性向上に重要であることが明らかとなったアミノ酸は枠で囲って表示した。
図6B図6Aの続きの図である。
図6C図6Bの続きの図である。
図6D図6Cの続きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中に記載される多重特異性抗原結合分子とは、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異的に結合することができる第一の抗原結合部位と第二の抗原結合部位を含む。第一の抗原結合部位と第二の抗原結合部位は、それぞれ、F.IXおよび/またはF.IXaとF.Xに対して結合活性を有していれば特に限定されないが、例えば、抗体、Scaffold分子(抗体様分子)、ペプチド等の抗原との結合に必要な部位、または当該部位を含む断片をあげることができる。Scaffold分子とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり、少なくとも1つの標的抗原に結合することができる立体構造的に安定なポリペプチドであれば、どのようなポリペプチドであっても用いることができる。そのようなポリペプチドの例としては、例えば、抗体可変領域、フィブロネクチン(WO2002/032925)、Protein Aドメイン(WO1995/001937)、LDL受容体Aドメイン(WO2004/044011, WO2005/040229)、アンキリン(WO2002/020565)等のほか、Nygrenら(Current Opinion in Structural Biology, 7:463-469(1997)、Journal of Immunol Methods, 290:3-28(2004))、Binzら(Nature Biotech 23:1257-1266(2005))、Hosseら(Protein Science 15:14-27(2006))に記載の分子を挙げることができる。また、Curr Opin Mol Ther. 2010 Aug;12(4):487-95.やDrugs. 2008;68(7):901-12.に記されているように標的抗原に結合することができるペプチド分子を用いることもできる。
【0016】
本発明において、多重特異性抗原結合分子としては、少なくとも2種類の異なる抗原と結合することができる分子であれば特に限定されないが、例えば、抗体やScaffold分子およびこれらの断片等の上記抗原結合部位を含むポリペプチド、核酸分子やペプチドからなるアプタマー等が挙げられ、単一分子であっても良いしこれらの多量体であってもよい。好ましい多重特異性抗原結合分子としては、少なくとも2つの異なる抗原に対して特異的に結合することができる多重特異性抗体を挙げることができる。本発明のF.VIIIの機能を代替する活性を有する抗体においては、特に好ましい抗体として、2つの異なる抗原に対して特異的に結合することができる二重特異性抗体(bispecific antibody; BsAb)(二種特異性抗体と呼ばれる場合もある)を挙げることができる。
【0017】
本発明において「共通L鎖」とは、異なる2種以上のH鎖と会合し、それぞれの抗原に対して結合能を示し得るL鎖である。ここで、「異なるH鎖」とは、好ましくは異なる抗原に対する抗体のH鎖を指すが、それに限定されず、アミノ酸配列が互いに異なっているH鎖を意味する。共通L鎖は、例えばWO2006/109592に記載の方法に従って取得することができる。
【0018】
本発明における多重特異性抗原結合分子(好ましくは二重特異性抗体)は、2種以上の異なる抗原に対して特異性を有する抗体もしくは抗体断片からなる分子である。本発明の抗体は特に制限されないが、モノクローナルであることが好ましい。本発明で使用されるモノクローナル抗体としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、bispecific抗体など人為的に改変した遺伝子組換え型抗体も含まれる。
【0019】
また、本発明の多重特異性抗原結合分子となる抗体のL鎖は、異なるものであっても良いが、共通のL鎖を有していることが好ましい。
【0020】
本発明における多重特異性抗原結合分子は、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体であることが好ましい。(例えば、Borrebaeck CAK and Larrick JW, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
【0021】
さらに、本発明における抗体には、wholeの抗体だけでなく抗体断片や低分子化抗体、並びに抗体修飾物が含まれてよい。
例えば抗体断片や低分子化抗体としては、ダイアボディ(diabody;Db)、線状抗体、一本鎖抗体(以下、scFvとも記載する)分子などが含まれる。ここで、「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。
【0022】
「Fv」断片は1つのH鎖可変領域(VH)およびL鎖可変領域(VL)が非共有結合により強く連結されたダイマー(VH-VLダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region; CDR)が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0023】
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、L鎖の定常領域およびH鎖の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域からの1またはそれ以上のシステインを含むH鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数残基を付加的に有する点でFab断片と異なっている。Fab'-SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示すものである。F(ab')断片は、F(ab')2ペプシン消化物のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。
【0024】
ダイアボディは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の低分子化抗体を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中でL鎖可変領域(VL)及びH鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、2~12残基が好ましく、さらに3~10残基が好ましく、特には5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0025】
一本鎖抗体またはscFv抗体断片には、抗体のVHおよびVL領域が含まれ、これらの領域は単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVHおよびVL領域の間にポリペプチドリンカーを含んでおり、これによりscFvは、抗原結合のために必要な構造を形成することができる(scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg and Moore ed (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994)を参照)。本発明におけるリンカーは、その両端に連結された抗体可変領域の発現を阻害するものでなければ特に限定されない。
【0026】
IgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。
【0027】
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681、WO2006/106905、Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202.)。
【0028】
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待され、本発明の抗体は、共通のL鎖を有することを特徴とするものである。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能となる。
【0029】
また、Fab’を化学的に架橋することによっても二重特異性抗体を作製し得る。例えば一方の抗体から調製したFab’をo-PDM(ortho-phenylenedi-maleimide)にてマレイミド化し、これともう一方の抗体から調製したFab’を反応させることにより、異なる抗体由来Fab’同士を架橋させ二重特異性 F(ab’)2を作製することが出来る(Keler T et al. Cancer Research 1997, 57: 4008-4014)。またFab’-チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体とFab’-チオール(SH)等の抗体断片を化学的に結合する方法も知られている(Brennan M et al. Science 1985, 229: 81-83)。
【0030】
化学架橋の代わりにFos, Junなどに由来するロイシンジッパーを用いることも出来る。Fos, Junはホモダイマーも形成するが、ヘテロダイマーを優先的に形成することを利用する。Fosロイシンジッパーを付加したFab’とJunのそれを付加したもう一方のFab’を発現調製する。温和な条件で還元した単量体Fab’-Fos, Fab’-Junを混合し反応させることによって二重特異性 F(ab’)2が形成できる(Kostelny SA et al. J of Immunology, 1992, 148: 1547-53)。この方法はFab’には限定されず、scFv, Fvなどにおいても応用可能である。
【0031】
また、IgG-scFv(Protein Eng Des Sel. 2010 Apr;23(4):221-8)やBiTEなどのsc(Fv)2(Drug Discov Today. 2005 Sep 15;10(18):1237-44.)、DVD-Ig(Nat Biotechnol. 2007 Nov;25(11):1290-7. Epub 2007 Oct 14.、MAbs. 2009 Jul;1(4):339-47. Epub 2009 Jul 10.)などの他(IDrugs 2010, 13:698-700)、two-in-one抗体(Science. 2009 Mar 20;323(5921):1610-4.、Immunotherapy. 2009 Sep;1(5):749-51.)、Tri-FabやタンデムscFv、ダイアボディなどの二重特異性抗体も知られている(MAbs. 2009 November ; 1(6): 539-547.)。さらにscFv-Fc、scaffold-Fcなどの分子形を用いても、ヘテロな組合せのFcを優先的に分泌させることで(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681、WO2006/106905、Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202.)、二重特異性抗体を効率的に作製し得る。
【0032】
ダイアボディにおいても二重特異性抗体を作製し得る。二重特異性ダイアボディは二つのcross-over scFv断片のヘテロダイマーである。つまり二種の抗体A,B由来のVHとVLを5残基前後の比較的短いリンカーで結ぶことによって作製されたVH (A)-VL (B), VH (B)-VL (A)を用いてヘテロダイマーを構成することによって出来る(Holliger P et al. Proc of the National Academy of Sciences of the USA 1993, 90: 6444-6448)。
【0033】
この際、二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶ(一本鎖ダイアボディ:Kipriyanov SM et al. J of Molecular Biology. 1999, 293: 41-56)、適当なアミノ酸置換(knobs-into-holes: Zhu Z et al. Protein Science. 1997, 6: 781-788、VH/VL interface engineering: Igawa T et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 8:667-77.)を行うことによって目的の構成を促進させることも出来る。
【0034】
二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶことによって作製できるsc(Fv)2も二重特異性抗体となり得る(Mallender WD et al. J of Biological Chemistry, 1994, 269: 199-206)。
【0035】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体には、これらの抗体修飾物も包含される。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0036】
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体などを含み、その由来は限定されない。またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
【0037】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0038】
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0039】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576、Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856、国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
【0040】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、F.IXおよび/または F.IXa、およびF.Xを認識し、補因子のF.VIIIの機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子であって、これまでにF.VIIIの機能を代替する機能を有する二重特異性抗体として公知となっているhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ(WO2006/109592に記載)と比較して、高いF.Xa産生促進活性を有することを特徴とする。また、本発明の抗体は、通常、抗F.IXa抗体における可変領域と、抗F.X抗体における可変領域とを含む構造を有する。
【0041】
即ち本発明は、F.IXおよび/またはF.IXaを認識する第一の抗原結合部位、およびF.Xを認識する第二の抗原結合部位を含む、F.VIIIの機能を代替する機能を有する多重特異性抗原結合分子であって、該F.VIIIの機能を代替する機能が、配列番号:165と166からなるH鎖および配列番号:167からなる共通L鎖を有する二重特異性抗体(hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ)と比較して高いF.Xa産生促進活性に起因する機能である、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0042】
本発明における多重特異性抗原結合分子は、F.IXおよび/またはF.IXaを認識する抗原結合部位を含む第一のポリペプチドおよび第三のポリペプチド、ならびにF.Xを認識する抗原結合部位を含む第二のポリペプチドおよび第四のポリペプチドを含む。第一のポリペプチドと第三のポリペプチド、ならびに第二のポリペプチドと第四のポリペプチドには、抗体のH鎖の抗原結合部位、と抗体のL鎖の抗原結合部位が含まれる。
【0043】
例えば本発明における多重特異性抗原結合分子は、第一のポリペプチドと第三のポリペプチドがそれぞれF.IXまたはF.IXaに対する抗体のH鎖またはL鎖の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドと第四のポリペプチドがそれぞれF.Xに対する抗体のH鎖またはL鎖の抗原結合部位を含む。
このとき、第一のポリペプチドと第三のポリペプチド、ならびに第二のポリペプチドと第四のポリペプチドに含まれる抗体のL鎖の抗原結合部位は、共通のL鎖であってもよい。
【0044】
本発明における抗体のL鎖の抗原結合部位を含むポリペプチドは、好ましくは、F.IX、F.IXaおよび/またはF.Xに結合する抗体のL鎖の全部または一部の配列を含むものである。
【0045】
本発明の抗体の第一のポリペプチドの抗原結合部位の好ましい態様として具体的には、後述の実施例に記載の
Q1のH鎖のCDR1、2、3の各配列(配列番号:75、76、77)、
Q31のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:78、79、80)、
Q64のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:81、82、83)、
Q85のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:84、85、86)、
Q153のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:87、88、89)、
Q354のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:90、91、92)、
Q360のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:93、94、95)、
Q405のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:96、97、98)、
Q458のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:99、100、101)、
Q460のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:102、103、104)、
Q499のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:105、106、107)、
のアミノ酸配列からなる抗原結合部位、またはこれらと機能的に同等の抗原結合部位を挙げることができる。
【0046】
また、第二のポリペプチドの抗原結合部位は、好ましい態様として具体的には、後述の実施例に記載の
J232のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:108、109、110)、
J259のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:111、112、113)、
J268のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:114、115、116)、
J300のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:117、118、119)、
J321のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:120、121、122)、
J326のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:123、124、125)、
J327のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:126、127、128)、
J339のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:129、130、131)、
J344のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:132、133、134)、
J346のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:135、136、137)、
J142のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:174、175、176)、
に記載のアミノ酸配列からなる抗原結合部位、またはこれらと機能的に同等の抗原結合部位を挙げることができる。
【0047】
即ち本発明は、第一のポリペプチドの抗原結合部位が下記(a1)~(a11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドの抗原結合部位が下記(b1)~(b11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を有する多重特異性抗原結合分子を提供する:
(a1) 配列番号:75、76、77(Q1のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a2) 配列番号:78、79、80(Q31のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a3) 配列番号:81、82、83(Q64のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a4) 配列番号:84、85、86(Q85のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a5) 配列番号:87、88、89(Q153のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a6) 配列番号:90、91、92(Q354のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a7) 配列番号:93、94、95(Q360のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a8) 配列番号:96、97、98(Q405のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a9) 配列番号:99、100、101(Q458のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a10) 配列番号:102、103、104(Q460のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a11) 配列番号:105、106、107(Q499のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b1) 配列番号:108、109、110(J232のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b2) 配列番号:111、112、113(J259のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b3) 配列番号:114、115、116(J268のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b4) 配列番号:117、118、119(J300のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b5) 配列番号:120、121、122(J321のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b6) 配列番号:123、124、125(J326のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b7) 配列番号:126、127、128(J327のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b8) 配列番号:129、130、131(J339のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b9) 配列番号:132、133、134(J344のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b10) 配列番号:135、136、137(J346のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b11) 配列番号:174、175、176(J142のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
【0048】
また、第三と第四のポリペプチドの抗原結合部位の好ましい態様として具体的には、後述の実施例に記載の
L2のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:138、139、140)、
L45のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:141、142、143)、
L248のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:144、145、146)、
L324のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:147、148、149)、
L334のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:150、151、152)、
L377のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:153、154、155)、
L404のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:156、157、158)、
L406のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:159、160、161)、
L408のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:162、163、164)、
L180のL鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:177、178、179)、
に記載のアミノ酸配列からなる抗原結合部位、またはこれらと機能的に同等の抗原結合部位を挙げることができる。
【0049】
即ち本発明は、第三のポリペプチドと第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位が下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるL鎖CDRを含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(c1) 配列番号:138、139、140(L2のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c2) 配列番号:141、142、143(L45のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c3) 配列番号:144、145、146(L248のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c4) 配列番号:147、148、149(L324のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c5) 配列番号:150、151、152(L334のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c6) 配列番号:153、154、155(L377のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c7) 配列番号:156、157、158(L404のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c8) 配列番号:159、160、161(L406のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c9) 配列番号:137、138、139(L408のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c10) 配列番号:177、178、179(L180のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
【0050】
本発明に記載のQ1、Q31、Q64、Q85、Q153、Q354、Q360、Q405、Q458、Q460、Q499のH鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、以下の配列番号で示される。
Q1:配列番号:35
Q31:配列番号:36
Q64:配列番号:37
Q85:配列番号:38
Q153:配列番号:39
Q354:配列番号:40
Q360:配列番号:41
Q405:配列番号:42
Q458:配列番号:43
Q460:配列番号:44
Q499:配列番号:45
【0051】
本発明に記載のJ232、J259、J268、J300、J321、J326、J327、J339、J344、J346、J142のH鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、以下の配列番号で示される。
J232:配列番号:46
J259:配列番号:47
J268:配列番号:48
J300:配列番号:49
J321:配列番号:50
J326:配列番号:51
J327:配列番号:52
J339:配列番号:53
J344:配列番号:54
J346:配列番号:55
J142:配列番号:172
【0052】
即ち本発明は、第一のポリペプチドの抗原結合部位が下記(a1)~(a11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドの抗原結合部位が下記(b1)~(b11)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるH鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を有する多重特異性抗原結合分子を提供する:
(a1) 配列番号:35(Q1のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a2) 配列番号:36(Q31のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a3) 配列番号:37(Q1のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a4) 配列番号:38(Q85のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a5) 配列番号:39(Q153のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a6) 配列番号:40(Q354のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a7) 配列番号:41(Q360のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a8) 配列番号:42(Q405のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a9)配列番号:43(Q458のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a10) 配列番号:44(Q460のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(a11) 配列番号:45(Q499のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b1) 配列番号:46(J232のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b2) 配列番号:47(J259のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b3) 配列番号:48(J268のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b4) 配列番号:49(J300のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b5) 配列番号:50(J321のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b6) 配列番号:51(J326のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b7) 配列番号:52(J327のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b8) 配列番号:53(J339のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b9) 配列番号:54(J344のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b10) 配列番号:55(J346のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(b11) 配列番号:172(J142のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
【0053】
また、本発明記載のL2、L45、L248、L324、L334、L377、L404、L406、L408、L180のL鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、以下の配列番号で示される。
L2 :配列番号:56
L45 :配列番号:57
L248:配列番号:58
L324:配列番号:59
L334:配列番号:60
L377:配列番号:61
L404:配列番号:62
L406:配列番号:63
L408:配列番号:64
L180:配列番号:173
【0054】
即ち本発明は、第三のポリペプチドと第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位が下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるL鎖可変領域を含む抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(c1) 配列番号:56(L2のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c2) 配列番号:57(L45のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c3) 配列番号:58(L248のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c4) 配列番号:59(L324のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c5) 配列番号:60(L334のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c6) 配列番号:61(L377のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c7) 配列番号:62(L404のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c8) 配列番号:63(L406のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c9) 配列番号:64(L408のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位、
(c10) 配列番号:173(L180のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗原結合部位。
【0055】
なお、各配列のCDR1~3およびFR1~4のアミノ酸配列は図3A~Dに記載のとおりである。
【0056】
本発明で開示されている可変領域を用いて全長抗体を作製する場合、定常領域は特に限定されず、当業者に公知の定常領域を用いることが可能であり、例えば、Sequences of proteins of immunological interest, (1991), U.S. Department of Health and Human Services. Public Health Service National Institutes of Healthや、An efficient route to human bispecific IgG, (1998). Nature Biotechnology vol. 16, 677-681、等に記載されている定常領域を用いることができる。本発明の抗体定常領域の好ましい例として、IgG抗体の定常領域を挙げることができる。IgG抗体の定常領域を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのサブクラスのIgG定常領域を用いることが可能である。また、これらのサブクラスのIgGの定常領域に対して、定常領域部分にアミノ酸変異を導入しても良い。導入するアミノ酸変異は、例えば、Fcγレセプターへの結合を増大あるいは低減させたもの(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Mar 14;103(11):4005-10.、MAbs. 2009 Nov;1(6):572-9.)、FcRnへの結合を増大あるいは低減させたもの(J Biol Chem. 2001 Mar 2;276(9):6591-604、Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69.、J Biol Chem. 2006 Aug 18;281(33):23514-24.)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。二重特異性抗体を作製するために2種類のH鎖をヘテロ会合化させる必要がある。CH3ドメインを介して2種類のH鎖をヘテロ会合化させるために、knobs-into-hole技術(J Immunol Methods. 2001 Feb 1;248(1-2):7-15、J Biol Chem. 2010 Jul 2;285(27):20850-9.)、静電反発技術(WO2006/106905)、SEEDbody技術(Protein Eng Des Sel. 2010 Apr;23(4):195-202.)などを使用することが可能である。さらに、本発明の抗体は糖鎖が改変また欠損されていてもよい。糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。糖鎖が欠損したIgG抗体を作製する方法として、EUナンバリング297番目のアスパラギンに変異を導入する方法(J Clin Pharmacol. 2010 May;50(5):494-506.)、IgGを大腸菌で産生させる方法(J Immunol Methods. 2002 May 1;263(1-2):133-47.、J Biol Chem. 2010 Jul 2;285(27):20850-9.)等が知られている。また、IgGのC末端のリジン欠損に伴うヘテロジェにティーやIgG2のヒンジ領域のジスルフィド結合の掛け違いに伴うヘテロジェニティーをアミノ酸の欠損・置換を導入することで低減させることも可能である(WO2009/041613))。
【0057】
例えば本発明は、第一および第二のポリペプチドが抗体のH鎖定常領域を含み、第三および第四のポリペプチドが抗体のL鎖定常領域を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0058】
また本発明は、第一のポリペプチドが下記(d1)~(d6)のグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列または下記(d7)~(d9)のグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる抗体のH鎖定常領域を含み、第二のポリペプチドが上記第一のポリペプチドとは異なるグループから選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる抗体のH鎖定常領域を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(d1) 配列番号:65(G4k)に記載のH鎖定常領域、
(d2) 配列番号:66(z7)に記載のH鎖定常領域、
(d3) 配列番号:67(z55)に記載のH鎖定常領域、
(d4) 配列番号:68(z106)に記載のH鎖定常領域、
(d5) 配列番号:69(z118)に記載のH鎖定常領域、
(d6) 配列番号:70(z121)に記載のH鎖定常領域、
(d7) 配列番号:71(G4h)に記載のH鎖定常領域、
(d8) 配列番号:72(z107)に記載のH鎖定常領域、
(d9) 配列番号:73(z119)に記載のH鎖定常領域。
【0059】
さらに本発明は、第三と第四のポリペプチドが下記(e)のアミノ酸配列からなる抗体のL鎖定常領域を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(e) 配列番号:74(k)に記載のL鎖定常領域。
【0060】
本発明において「F.VIIIの機能を代替する」とは、F.IXおよび/またはF.IXa、および、F.Xを認識し、F.Xの活性化を促進する(F.Xa産生を促進する)ことを意味する。
【0061】
本発明における「F.Xa産生促進活性」は、本発明の多重特異性抗原結合分子が、例えば、F.XIa(F.IX活性化酵素)、F.IX、F.X、F合成基質S-2222(F.Xaの合成基質)、リン脂質から成る測定系で評価することによって確認することができる。本測定系は血友病A症例における疾患の重症度および臨床症状と相関性を示す(Rosen S, Andersson M, Blomba¨ck M et al. Clinical applications of a chromogenic substrate method for determination of FVIII activity. Thromb Haemost 1985; 54: 811-23)。即ち、本測定系にて、より高いF.Xa産生促進活性を示す被検物質は、血友病Aにおける出血症状に対して、より優れた止血効果を示すことが期待される。その結果を以って、F.VIIIの機能を代替する活性を有する多重特異性抗原結合分子として、hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQより高い活性を有する分子であれば、優れた血液凝固促進活性を得ることが可能であり、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療用の医薬成分として優れた効果を得ることができる。当該医薬成分としての優れた効果を得るためには、例えば〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性が、hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ以上であることが好ましく、特に、Q153-G4k/J142-G4h/L180-kと同等あるいはそれ以上であることがより好ましい。なお、ここでいうF.Xa産生促進活性とは、抗体溶液の20分間の吸光度変化値から、溶媒20分間の吸光度変化値を引いた値である。
【0062】
本発明の好ましい態様としては、F.IXおよび/またはF.IXa、並びにF.Xを認識し、F.VIIIの機能を代替する機能を有する多重特異性抗体である。
【0063】
本発明の上記多重特異性抗体は、好ましくは、抗F.IX/F.IXa抗体のH鎖CDRまたはこれと機能的に同等なCDRと、抗F.X抗体のH鎖CDRまたはこれと機能的に同等なCDRとを含む抗体である。
【0064】
また本発明の抗体は、抗F.IX/IXa抗体における、
配列番号:75、76、77(Q1のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:78、79、80(Q31のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:81、82、83(Q64のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:84、85、86(Q85のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:87、88、89(Q153のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:90、91、92(Q354のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:93、94、95(Q360のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:96、97、98(Q405のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:99、100、101(Q458のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:102、103、104(Q460のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:105、106、107(Q499のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位と、抗F.X抗体における
配列番号:108、109、110(J232のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:111、112、113(J259のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:114、115、116(J268のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:117、118、119(J300のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:120、121、122(J321のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:123、124、125(J326のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:126、127、128(J327のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:129、130、131(J339のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:132、133、134(J344のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:135、136、137(J346のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
または配列番号:174、175、176(J142のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、
からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位とを含む抗体であることが好ましい。
【0065】
なお、本発明において、抗原結合部位が機能的に同等であるとは、当該抗原結合部位を含む多重特異性抗原結合分子の有するF.VIIIの機能を代替する活性が同等であることを意味する。
【0066】
本発明において、「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要はなく、活性が増強されていてもよいし、又、上記の測定系でhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高い活性あるいは、好ましくは〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性がQ153-G4k/J142-G4h/L180-kと同等あるいはそれ以上の活性を有する限り、活性が減少していてもよい。
【0067】
上述の抗体は、上述段落番号[0061]の測定系でhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高い活性、好ましくは〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性がQ153-G4k/J142-G4h/L180-kと同等あるいはそれ以上の活性を有する限り、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。アミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いてアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、目的のF.VIIIの機能を代替する活性を有する多重特異性ポリペプチド多量体と機能的に同等な変異体を調製することができる。
【0068】
このように、可変領域において、1もしくは複数のアミノ酸が変異しており、上述段落番号[0061]の測定系でhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高い活性、好ましくは〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性がQ153-G4k/J142-G4h/L180-kと同等あるいはそれ以上の活性を有する抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
【0069】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このような変異体は、本発明の可変領域(例えばCDR配列、FR配列、可変領域全体)のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップを導入した後、元となった重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。アミノ酸配列の同一性は、後述の方法により決定することができる。
【0070】
また、可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、上述段落番号[0061]の測定系でhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高い活性、好ましくは〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性がQ153-G4k/J142-G4h/L180-kと同等あるいはそれ以上の活性を有する可変領域のアミノ酸配列は、該可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6 M尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6 M尿素、0.4% SDS、0.1 x SSC、42℃の条件を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0071】
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
【0072】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information)の BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0073】
また本発明は、上記抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体も提供する。
【0074】
ある抗体が他の抗体と重複するエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。抗原に結合した該抗体の量は、重複するエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、重複するエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
【0075】
例えば、F.IX、F.IXaまたはF.Xを固相化したビーズに蛍光標識した該抗体と、非標識の該抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された該抗体を蛍光微量測定技術によって検出する。
【0076】
ここでいう「重複するエピトープに結合する抗体」とは、標識該抗体に対して、非標識の該抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC50の通常、100倍、好ましくは80倍、さらに好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。
【0077】
上述の抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体の抗原結合部位を有する多重特異性抗原結合分子は、優れたF.VIII機能を代替する活性を得ることが可能である。また、上述の抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体の抗原結合部位は、より優れたF.VIII機能を代替する活性を得るために1もしくは複数のアミノ酸を改変することが可能である。抗原結合部位のアミノ酸を改変後、上述の測定系でhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高い活性、好ましくは〔実施例2〕に記載された条件で測定した場合のF.Xa産生促進活性がQ153-G4k/J142-G4h/L180-k同等あるいはそれ以上の活性を有する多重特異性抗原結合分子を選択することにより、より優れたF.VIII機能を代替する活性を得ることができる。本発明の優れたF.VIII機能を代替する活性を得るためには、特に、以下のアミノ酸改変が好ましい。
(1) F.IXおよび/またはF.IXaを認識する抗体H鎖におけるKabatナンバリングによる34位、35位、49位、61位、62位、96位、98位、100位、100b位および102位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換される。
(2) F.Xを認識する抗体H鎖におけるKabatナンバリングによる35位、53位、73位、76位、96位、98位、100位および100a位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換される。
(3) 抗体L鎖におけるKabat ナンバリングによる27位、30位、31位、32位、50位、52位、53位、54位、55位、92位、93位、94位および95位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換される。
【0078】
また、本発明において、より優れたF.VIII機能を代替する活性を得るための好ましい抗体のアミノ酸としては、以下の(4)~(6)を挙げることができる。これらのアミノ酸は、抗体H鎖が予めそのようなアミノ酸を有していてもよいし、アミノ酸を改変することによってそのような配列を有する抗体H鎖としてもよい。
(4) F.IXおよび/またはF.IXaを認識する抗体H鎖が、Kabatナンバリングによる34位のアミノ酸残基がイソロイシン、35位のアミノ酸残基がアスパラギン、グルタミンまたはセリン、49位のアミノ酸残基がセリン、61位のアミノ酸残基がアルギニン、62位のアミノ酸残基がグルタミン酸、96位のアミノ酸残基がセリンまたはスレオニン、98位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、100位のアミノ酸残基がフェニルアラニンまたはチロシン、100b位のアミノ酸残基がグリシン、あるいは、102位のアミノ酸残基がチロシンである抗体のH鎖、
(5) F.Xを認識する抗体H鎖におけるKabatナンバリングによる35位のアミノ酸残基がアスパラギン酸、53位のアミノ酸残基がアルギニン、73位のアミノ酸残基がリジン、76位のアミノ酸残基がグリシン、96位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、98位のアミノ酸残基がチロシン、100位のアミノ酸残基がチロシン、あるいは、100a位のアミノ酸残基がヒスチジンである抗体のH鎖、
(6) 抗体L鎖におけるKabatナンバリングによるKabatナンバリングによる27位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、30位のアミノ酸残基がグルタミン酸、31位のアミノ酸残基がアルギニン、32位のアミノ酸残基がグルタミン、50位のアミノ酸残基がアルギニンまたはグルタミン、52位のアミノ酸残基がセリン、53位のアミノ酸残基がアルギニン、54位のアミノ酸残基がリジン、55位のアミノ酸残基がグルタミン酸、92位のアミノ酸残基がセリン、93位のアミノ酸残基がセリン、94位のアミノ酸残基がプロリン、あるいは、95位のアミノ酸残基がプロリンである抗体のL鎖。
【0079】
上記の(1)~(6)の抗体のアミノ酸残基のうち、特に優れたF.VIII様活性を得るための好ましい位置のアミノ酸残基としては、以下の(1)~(3)を挙げることができる。
(1) F.IXおよび/またはF.IXaを認識する抗体H鎖におけるKabatナンバリングによる34位、35位、61位、98位、100位および100b位のアミノ酸残基、中でも61位および100位のアミノ酸残基
(2) F.Xを認識する抗体H鎖におけるKabatナンバリングによる35位、53位、73位、96位、98位、100位および100a位のアミノ酸残基
(3) 抗体L鎖におけるKabatナンバリングによるKabatナンバリングによる27位、30位、31位、32位、50位、52位、53位、93位、94位および95位のアミノ酸残基、中でも27位、30位、31位、50位、53位、94位および95位のアミノ酸残基
【0080】
即ち本発明は、第一のポリペプチドが下記(a1)~(a14)から選ばれるいずれかの抗体H鎖と下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかの抗体L鎖からなり、第二のポリペプチドが下記(b1)~(b12)から選ばれるいずれかの抗体H鎖と下記(c1)~(c10)から選ばれるいずれかの抗体L鎖からなる、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(a1) 配列番号:1(Q1-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a2) 配列番号:2(Q31-z7)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a3) 配列番号:3(Q64-z55)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a4) 配列番号:10(Q64-z7)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a5) 配列番号:11(Q85-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a6) 配列番号:12(Q153-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a7) 配列番号:13(Q354-z106)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a8) 配列番号:14(Q360-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a9) 配列番号:15(Q360-z118)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a10) 配列番号:16(Q405-G4k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a11) 配列番号:17(Q458-z106)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a12) 配列番号:18(Q460-z121)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a13) 配列番号:19(Q499-z118)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(a14) 配列番号:20(Q499-z121)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b1) 配列番号:4(J268-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b2) 配列番号:5(J321-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b3) 配列番号:6(J326-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b4) 配列番号:7(J344-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b5) 配列番号:21(J232-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b6) 配列番号:22(J259-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b7) 配列番号:23(J300-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b8) 配列番号:24(J327-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b9) 配列番号:25(J327-z119)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b10) 配列番号:26(J339-z119)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b11) 配列番号:27(J346-z107)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(b12) 配列番号:170(J142-G4h)に記載のアミノ酸配列からなる抗体H鎖、
(c1) 配列番号:8(L2-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c2) 配列番号:9(L45-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c3) 配列番号:28(L248-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c4) 配列番号:29(L324-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c5) 配列番号:30(L334-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c6) 配列番号:31(L377-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c7) 配列番号:32(L404-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c8) 配列番号:33(L406-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c9) 配列番号:34(L408-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖、
(c10) 配列番号:171(L180-k)に記載のアミノ酸配列からなる抗体L鎖。
【0081】
さらに本発明は、第一のポリペプチドが、上記(a1)~(a14)のいずれかに記載の抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドが、上記(b1)~(b12)のいずれかに記載の抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗原結合部位を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0082】
さらに本発明は、第一のポリペプチドが、下記(e1)~(e3)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖を含み、第二のポリペプチドが下記(f1)~(f3)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖を含み、第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが下記(g1)~(g4)から選ばれるいずれかの抗体のL鎖を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する:
(e1) 上記(a1)~(a14)のいずれかの抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかに記載の抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のH鎖、
(e2) 上記(e1)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖におけるKabat ナンバリングによる34位、35位、49位、61位、62位、96位、98位、100位、100b位および102位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のH鎖、
(e3) 上記(e1)から選ばれるいずれかの抗体のH鎖におけるKabat ナンバリングによる34位のアミノ酸残基がイソロイシン、35位のアミノ酸残基がアスパラギン、グルタミンまたはセリン、49位のアミノ酸残基がセリン、61位のアミノ酸残基がアルギニン、62位のアミノ酸残基がグルタミン酸、96位のアミノ酸残基がセリンまたはスレオニン、98位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、100位のアミノ酸残基がフェニルアラニンまたはチロシン、100b位のアミノ酸残基がグリシン、あるいは、102位のアミノ酸残基がチロシンである抗体のH鎖、
(f1) 上記(b1)~(b12)のいずれかの抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のH鎖、
(f2) 上記(f1)のいずれかの抗体H鎖におけるKabat ナンバリングによる35位、53位、73位、76位、96位、98位、100位および100a位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のH鎖、
(f3) 上記(f1)のいずれかの抗体H鎖であって、Kabat ナンバリングによる35位のアミノ酸残基がアスパラギン酸、53位のアミノ酸残基がアルギニン、73位のアミノ酸残基がリジン、76位のアミノ酸残基がグリシン、96位のアミノ酸残基がリジン又はアルギニン、98位のアミノ酸残基がチロシン、100位のアミノ酸残基がチロシン、あるいは、100a位のアミノ酸残基がヒスチジンである抗体のH鎖、
(g1) 上記(a1)~(a14)のいずれかの抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のL鎖、
(g2) 上記(b1)~(b12)のいずれかの抗体のH鎖と上記(c1)~(c10)のいずれかの抗体のL鎖からなる抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体のL鎖、
(g3) 上記(g1)および(g2)のいずれかの抗体のL鎖におけるKabatナンバリングによる27位、30位、31位、32位、50位、52位、53位、54位、55位、92位、93位、94位および95位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されている抗体のL鎖、
(g4) 上記(g1)および(g2)のいずれかの抗体のL鎖であって、Kabatナンバリングによる27位のアミノ酸残基がリジンまたはアルギニン、30位のアミノ酸残基がグルタミン酸、31位のアミノ酸残基がアルギニン、32位のアミノ酸残基がグルタミン、50位のアミノ酸残基がアルギニンまたはグルタミン、52位のアミノ酸残基がセリン、53位のアミノ酸残基がアルギニン、54位のアミノ酸残基がリジン、55位のアミノ酸残基がグルタミン酸、92位のアミノ酸残基がセリン、93位のアミノ酸残基がセリン、94位のアミノ酸残基がプロリン、あるいは、95位のアミノ酸残基がプロリンである抗体のL鎖。
【0083】
また、本発明の抗体(クローン)については、脱アミド化、メチオニン酸化などの回避や抗体の構造安定化を目的にアミノ酸残基を置換してもよい。
【0084】
本発明の多重特異性抗原結合分子を得る方法は特に制限されず、どのような方法で取得されてもよい。例えば、二重特異性抗体の製造方法の一例としては、WO2006/109592やWO2005/035756、WO2006/106905、WO2007/114325に記載の方法に従って二重特異性抗体を作製後、目的の補因子機能代替活性を有する抗体を選択して取得することができる。
【0085】
例えば本発明においては、以下の(a)~(u)いずれかに記載の二重特異性抗体が提供される:
(a) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J268-G4h/L45-k)、
(b) 第一のポリペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q1-G4k/J321-G4h/L45-k)、
(c) 第一のポリペプチドが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:8に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q31-z7/J326-z107/L2-k)、
(d) 第一のポリペプチドが配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:9に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z55/J344-z107/L45-k)、
(e) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J326-z107/L334-k)、
(f) 第一のポリペプチドが配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q64-z7/J344-z107/L406-k)、
(g) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J268-G4h/L406-k)、
(h) 第一のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q85-G4k/J321-G4h/L334-k)、
(i) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(j) 第一のポリペプチドが配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:22に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:29に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q354-z106/J259-z107/L324-k)、
(k) 第一のポリペプチドが配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:33に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-G4k/J232-G4h/L406-k)、
(l) 第一のポリペプチドが配列番号:15に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:23に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q360-z118/J300-z107/L334-k)、
(m) 第一のポリペプチドが配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:21に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q405-G4k/J232-G4h/L248-k)、
(n) 第一のポリペプチドが配列番号:17に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:34に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q458-z106/J346-z107/L408-k)、
(o) 第一のポリペプチドが配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q460-z121/J327-z119/L334-k)、
(p) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:30に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L334-k)、
(q) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J327-z107/L377-k)、
(r) 第一のポリペプチドが配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:27に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:28に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z118/J346-z107/L248-k)、
(s) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:32に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J327-z119/L404-k)、
(t) 第一のポリペプチドが配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:31に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J339-z119/L377-k)、
(u) 第一のポリペプチドが配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:170に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:171に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)。
【0086】
本発明の抗体は、後述する抗体を産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の抗体を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明の抗体はこのような抗体も包含する。
【0087】
本発明の二重特異性抗体は当業者に公知の方法により製造することが可能である。
例えば、得られた抗F.IX/F.IXa抗体あるいは抗F.X抗体の配列を基に、当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて抗体を作製することが可能である。具体的には、抗F.IX/F.IXa抗体あるいは抗F.X抗体の配列を基に抗体をコードするポリヌクレオチドを構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0088】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明の抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア製)、「QIAexpress system」(キアゲン製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0089】
また、発現プラスミドのベクターには、抗体分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0090】
大腸菌以外にも、例えば、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロゲン社製)や、pEF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0091】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、発現プラスミドのベクターが細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0092】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pSV2-dhfr(「Molecular Cloning 2nd edition」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989))など)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0093】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0094】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムが挙げられる。例えば、Protein Aを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0095】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムなどが挙げられる。
【0096】
本発明における抗体の1つの態様としては、補因子F.VIIIを代替する機能を有することから、本発明の抗体は、該補因子の活性(機能)低下に起因する疾病に対して、有効な薬剤となることが期待される。上記疾病として、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患等を挙げることができる。特に、F.VIII/F.VIIIaの機能低下や欠損によって出血異常症を引き起こす、血友病に対する優れた治療効果が考えられる。なかでも血友病のうち、先天性のF.VIII/F.VIIIa機能低下または欠損による出血異常症を引き起こす、血友病Aに対する優れた治療剤となることが期待される。
【0097】
本発明では、本発明に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む(医薬)組成物を提供する。例えば、本発明の抗体がF.IXもしくはF.IXa、およびF.Xの両方を認識し、F.VIIIの機能を代替する抗体は、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療のための医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
【0098】
本発明において、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患とは、好ましくはF.VIIIおよび/または活性化血液凝固第VIII因子(F.VIIIa)の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である。このような疾患としては、例えば上記の血友病A、F.VIII/F.VIIIaに対するインヒビターが出現している疾患、後天性血友病、フォンビルブランド病等を挙げることができるが、これら疾患に特に制限されない。
【0099】
治療または予防目的で使用される本発明の抗体を有効成分として含む医薬組成物は、必要に応じて、それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、ヒスチジン、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、HCO-50)等と併用してもよい。また、製剤中にヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)を混合することによって、より大きな液量を皮下投与することも可能である(Expert Opin Drug Deliv. 2007 Jul;4(4):427-40.)。
【0100】
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0101】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、疾患の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、一般に大人では、1日当たり、0.1~2000 mgを1~数回に分けて投与することができる。より好ましくは0.2~1000 mg/日、更により好ましくは0.5~500 mg/日、更により好ましくは1~300 mg/日、更により好ましくは3~100 mg/日、最も好ましくは5~50 mg/日である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0102】
また本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子あるいは核酸を提供する。また、本発明の抗体をコードする遺伝子あるいは核酸を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクター、ポックスウィルスベクター、アデノウィルス関連ベクター、HVJベクター等の各種ウィルスベクターとして形成するか(Adolph『ウィルスゲノム法』, CRC Press, Florid (1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入または筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、点鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウィルス感染を利用して血液細胞及び骨髄由来細胞等に投与して、該細胞を患者に再導入することにより本発明の抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。遺伝子治療では、本発明の抗体をコードする任意の遺伝子を使用することが可能であり、例えば、前述のQ1、Q31、Q64、Q85、Q153、Q354、Q360、Q405、Q458、Q460、Q499、J232、J259、J268、J300、J321、J326、J327、J339、J344、J346、J142、L2、L45、L248、L324、L334、L377、L404、L406、L408、L180のCDRをコードする塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。
【0103】
また本発明は、本発明の抗体もしくは組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療するための方法を提供する。抗体もしくは組成物の投与は、例えば、前記の方法により実施することができる。
【0104】
さらに本発明は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
また本発明は、本発明の多重特異性抗原結合分子もしくは二重特異性抗体、または組成物の、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療剤の製造における使用に関する。
また本発明は、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療用の、本発明の多重特異性抗原結合分子もしくは二重特異性抗体、または組成物に関する。
【0105】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0107】
〔実施例1〕F.Xa産生促進活性を有する二重特異性抗体の作製
WO 2006/109592では、F.VIIIの機能を代替する活性を有する二重特異性抗体として、hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQを取得した。しかし、本抗体は、F.IXaがF.VIIIaを補因子としてF.Xを活性化する反応を阻害する作用がある可能性が考えられた。
図1に記載のように、F.IX/F.IXaまたはF.Xに結合する抗体は、F.IXaとF.VIIIaの複合体(Factor Xase(F.Xase))形成を阻害、或いは、F.Xase活性(F.Xの活性化)を阻害する可能性がある。以下、F.Xase形成阻害及び/或いはF.Xase活性阻害作用を、F.Xase阻害作用と記載する。F.Xase阻害作用は、F.VIIIaを補因子とする凝固反応の阻害であり、患者に残っているF.VIIIの機能、或いは、投与したF.VIII製剤の機能を抑制する可能性がある。そのため、二重特異性抗体の目的であるF.Xa産生促進活性が高いことが望ましいが、さらにF.Xase阻害作用も低いことが望ましい。特に、F.VIIIの機能を維持している患者やF.VIII製剤による治療を受けている患者の場合は、F.Xa産生促進活性と、F.Xase阻害作用は、可能な限り分離されていることがより望ましい。
【0108】
しかし、F.Xase阻害作用は、抗原(F.IXaおよび/またはF.X)に結合するという抗体の基本的な性質によるものであり、一方、F.Xa産生促進活性を有する(F.VIIIの機能を代替する)二重特異性抗体においても、抗原(F.IXaおよびF.X)に結合する必要がある。そのため、F.Xase阻害作用を持たずにF.Xa産生促進活性を有する(F.VIIIの機能を代替する)二重特異性抗体の取得は、非常に困難であると予想される。同様に、二重特異性抗体にアミノ酸置換を導入することより、F.Xase阻害作用を低減させつつ、目的であるF.Xa産生促進活性を上昇させることは、非常に困難であると予想される。
【0109】
本発明者らは、当業者公知の方法、つまり抗原(ヒトF.IXaまたはヒトF.X)を免疫した動物の抗体産生細胞から抗体遺伝子を取得し、必要に応じてアミノ酸置換を導入することで、ヒトF.IXaおよびヒトF.Xに対する抗体遺伝子を約200種類ずつ作製した。各抗体遺伝子を、動物細胞発現ベクターに組み込んだ。
【0110】
抗ヒトF.IXa抗体H鎖発現ベクター、抗ヒトF.X抗体H鎖発現ベクターおよび共通抗体L鎖発現ベクターがHEK293H細胞等哺乳類細胞へ同時にトランスフェクションされることで、抗F.IXa抗体と抗F.X抗体の組み合わせとして4万以上の二重特異性抗体を一過性発現した。尚、比較対照として、WO 2006/109592に記載の二重特異性抗体であるhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQ(配列番号:165/166/167)を調製した。
WO 2006/106905或いはWO 1996/027011に記載された変異が各H鎖のCH3ドメインに導入されているため、二重特異性抗体が主として発現していると考えられた。細胞の培養上清中の抗体を、Protein Aを用いて当業者公知の方法により精製した。
本発明者らは、これらの抗体のF.Xa産生促進活性を以下の方法で測定した。反応はすべて室温で行われた。
【0111】
0.1%牛血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水(以下、TBSBと称す)で希釈した抗体溶液5μLを、27 ng/mLのHuman Factor IXa beta (Enzyme Research Laboratories) 2.5μL及び6 IU/mLのNovact(登録商標) M (化学及血清療法研究所) 2.5μLと混合した後、384穴plate中にて室温で30分インキュベーションした。
【0112】
この混合液中の酵素反応は、24.7μg/mLのHuman Factor X (Enzyme Research Laboratories) 5μLを添加して開始させ、10分後、0.5 M EDTA 5μLを添加して停止させた。発色反応は、発色基質溶液5μLを添加することによって、開始させた。50分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化をSpectraMax 340PC384 (Molecular Devices) を用いて測定した。F.Xa産生促進活性は、抗体添加反応液の吸光度から抗体無添加反応液の吸光度を引いた値で示した。
Human Factor IXa、Novact(登録商標) M及びHuman Factor Xの溶媒はTBCP(93.75μM リン脂質溶液 (SYSMEX CO.), 7.5 mM CaCl2, 1.5 mM MgCl2を含むTBSB)であった。発色基質溶液であるS-2222TM(CHROMOGENIX)は、精製水で1.47 mg/mLに溶解し、本アッセイに用いた。
【0113】
本発明者らは、抗体のF.Xase阻害作用を評価するために、F.VIIIa存在下におけるF.IXaによるF.X活性化に対する影響を以下の方法で測定した。反応はすべて室温で行われた。
0.1%牛血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水(以下、TBSBと称す)で希釈した抗体溶液5μLを、80.9 ng/mLのHuman Factor IXa beta (Enzyme Research Laboratories) 2.5μLと混合した後、384穴plate中にて室温で30分インキュベーションした。
さらに1.8 IU/mLのF.VIIIa(作製方法は後述) 2.5μLを添加し、30秒後、この混合液中の酵素反応は、24.7μg/mLのHuman Factor X (Enzyme Research Laboratories) 5μLを添加して開始させた。6分後、0.5 M EDTA 5μLを添加して停止させた。発色反応は、発色基質溶液5μLを添加することによって、開始させた。14分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化をSpectraMax 340PC384 (Molecular Devices) を用いて測定した。抗体のF.Xase阻害作用は、抗体添加反応液の吸光度から抗体無添加反応液の吸光度で減じた値で示した。
【0114】
なお、F.VIIIaは、5.4IU/mLのコージネイト(登録商標)FS(バイエル薬品株式会社)と1.11μg/mLのHuman alpha Thrombin(Enzyme Research Laboratories)を1:1の容量比で混合し、室温で1分間インキュベーション後、混合液の半容量の7.5U/mLのHirudin(Merck KgaA)を添加することにより調製した。調製した溶液を1.8 IU/mLのFVIIIaとし、Hirudinを添加してから1分後にアッセイに用いた。
Human Factor IXa、Human Factor X、コージネイト(登録商標)FS、Human alpha Thrombin、Hirudinの溶媒はTBCP(93.75μM リン脂質溶液 (SYSMEX CO.)、7.5 mM CaCl2、 1.5 mM MgCl2を含むTBSB)であった。発色基質溶液であるS-2222TM(CHROMOGENIX)は、精製水で1.47 mg/mLに溶解し、本アッセイに用いた。
【0115】
各二重特異性抗体のF.Xa産生促進活性を図3図4に、各二重特異性抗体のF.Xase阻害作用を図5に記した。F.Xa産生促進活性を上昇させる様々なアミノ酸置換を見出したが、予想されたとおりF.Xa産生促進活性を上昇させるアミノ酸置換のほとんどが、F.Xase阻害作用も上昇させてしまい、F.Xase阻害作用を抑制すると共にF.Xa産生促進活性を上昇させることは非常に困難であった。
【0116】
そういう状況下で、本願発明者らはF.Xa産生促進活性が高くF.Xase阻害作用が低い二重特異性抗体として、Q1-G4k/J268-G4h/L45-k、Q1-G4k/J321-G4h/L45-k、Q31-z7/J326-z107/L2-k、Q64-z55/J344-z107/L45-kを得た。尚、抗ヒトF.IXa抗体H鎖として、Q1-G4k(配列番号:1)、Q31-z7(配列番号:2)、Q64-z55(配列番号:3)、プロトタイプ抗ヒトF.X抗体H鎖として、J268-G4h(配列番号:4)、J321-G4h(配列番号:5)、J326-z107(配列番号:6)、J344-z107(配列番号:7)、プロトタイプ共通抗体L鎖として、L2-k(配列番号:8)、L45-k(配列番号:9)を取得した。配列名のハイフン前は可変領域を示しており、ハイフン後は定常領域を示している。各二重特異性抗体名は、トランスフェクションする各鎖の配列名を並べることにより、示される。
【0117】
hA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQに近いF.Xa産生促進活性を有していた二重特異性抗体のほとんどは、予想されたように高いF.Xase阻害作用を有していたが、これら二重特異性抗体(Q1-G4k/J268-G4h/L45-k、Q1-G4k/J321-G4h/L45-k、Q31-z7/J326-z107/L2-k、Q64-z55/J344-z107/L45-k)は、WO 2006/109592に記載されたhA69-KQ/hB26-PF/hAL-AQよりも高いF.Xa産生促進活性を有し、低いF.Xase阻害作用を有していることが見出された。本発明者らは、これらの4つの抗体をプロトタイプ抗体として、さらにF.Xa産生促進活性を上昇させ、F.Xase阻害作用を減弱させる検討を行った。F.Xa産生促進活性を上昇させ、F.Xase阻害作用を減弱させる二重特異性抗体のスクリーニングについて図2に示した。
【0118】
〔実施例2〕改変抗体の作製
本発明者らは、変異導入のためのPCR等の、当業者公知の方法により、プロトタイプ抗体の各鎖に対して実施例1で見出されたF.Xa産生促進活性およびF.Xase阻害作用に影響を与える様々なアミノ酸変異を組み合わせて導入し、改変した鎖の組み合わせを大規模に評価することで、4つのプロトタイプ抗体のF.Xa産生促進活性をさらに上昇させ、F.Xase阻害作用を減弱させるアミノ酸置換のスクリーニングを行った。
アミノ酸置換が導入された各改変二重特異性抗体は、プロトタイプ抗体と同様の方法で一過性に発現され、精製された。これらの抗体のF.Xa産生促進活性を以下の方法で測定した。反応はすべて室温で行われた。
【0119】
0.1%牛血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水(以下、TBSBと称す)で希釈した抗体溶液5μLを、27 ng/mLのHuman Factor IXa beta (Enzyme Research Laboratories) 2.5μL及び6 IU/mLのNovact(登録商標) M (化学及血清療法研究所) 2.5μLと混合した後、384穴plate中にて室温で30分インキュベーションした。
【0120】
この混合液中の酵素反応は、24.7μg/mLのHuman Factor X (Enzyme Research Laboratories) 5μLを添加して開始させ、2分後、0.5 M EDTA 5μLを添加して停止させた。発色反応は、発色基質溶液5μLを添加することによって、開始させた。20分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化はSpectraMax 340PC384 (Molecular Devices) を用いて測定した。F.Xa産生促進活性は、抗体添加反応液の吸光度から抗体無添加反応液の吸光度を引いた値で示した。
【0121】
Human Factor IXa、Novact(登録商標) M及びHuman Factor Xの溶媒はTBCP (93.75μM リン脂質溶液 (SYSMEX CO.)), 7.5 mM CaCl2, 1.5 mM MgCl2を含むTBSB)であった。発色基質溶液であるS-2222TM(CHROMOGENIX)は、精製水で1.47 mg/mLに溶解し用いた。
既に記載した方法で、抗体のF.Xase阻害作用も評価した。
【0122】
各改変二重特異性抗体のF.Xa産生促進活性を図4に、各二重特異性抗体のF.Xase阻害作用を図5に記した。
本願発明者らはF.Xa産生促進活性が高くF.Xase阻害作用が低い二重特異性抗体として、Q85-G4k/J268-G4h/L406-k、Q85-G4k/J321-G4h/L334-k、Q64-z7/J344-z107/L406-k、Q64-z7/J326-z107/L334-kを得た。尚、抗ヒトF.IXa抗体H鎖として、Q64-z7(配列番号:10)、Q85-G4k(配列番号:11)、F.Xa産生促進活性が上昇した共通抗体L鎖として、L334-k(配列番号:30)、L406-k(配列番号:33)を見出した。Q85-G4k/J268-G4h/L406-k、Q85-G4k/J321-G4h/L334-k、Q64-z7/J344-z107/L406-k、Q64-z7/J326-z107/L334-kは、F.Xase阻害作用がわずかに上昇しているものの、F.Xa産生促進活性は大きく上昇した。これらの改変抗体は、F.Xase阻害作用の上昇に比べてF.Xa産生促進活性が非常に大きいことから、プロトタイプ抗体よりもF.Xa産生促進活性とF.Xase阻害作用をさらに分離することができた。このように、F.Xase阻害作用を抑制すると共にF.Xa産生促進活性を上昇させる組み合わせを見出した。
【0123】
二重特異性抗体によりF.VIIIの機能を代替するためには、見出されたプロトタイプ抗体のF.Xa産生促進活性はより高いことが好ましい一方で、F.VIII の機能を維持している患者やF.VIII製剤による治療を受けている患者に対しても臨床で用いるためには、F.Xase阻害作用はより低いことがより好ましいと考えられた。そのため、さらに改変を行い、F.Xase阻害作用を上昇させずに、F.Xa産生促進活性をさらに上昇させた二重特異性抗体の作製を行った。
【0124】
その結果、F.Xa産生促進活性が高くF.Xase阻害作用が低い二重特異性抗体として、Q153-G4k/J232-G4h/L406-k、Q354-z106/J259-z107/L324-k、Q360-G4k/J232-G4h/L406-k、Q360-z118/J300-z107/L334-k、Q405-G4k/J232-G4h/L248-k、Q458-z106/J346-z107/L408-k、Q460-z121/J327-z119/L334-k、Q499-z118/J327-z107/L334-k、Q499-z118/J327-z107/L377-k、Q499-z118/J346-z107/L248-k、Q499-z121/J327-z119/L404-k、Q499-z121/J339-z119/L377-k、Q153-G4k/J142-G4h/L180-kを得た。尚、抗ヒトF.IXa抗体H鎖として、Q153-G4k(配列番号:12)、Q354-z106(配列番号:13)、Q360-G4k(配列番号:14)、Q360-z118(配列番号:15)、Q405-G4k(配列番号:16)、Q458-z106(配列番号:17)、Q460-z121(配列番号:18)、Q499-z118(配列番号:19)、Q499-z121(配列番号:20)、F.Xa産生促進活性が上昇した抗ヒトF.X抗体H鎖として、J232-G4h(配列番号:21)、J259-z107(配列番号:22)、J300-z107(配列番号:23)、J327-z107(配列番号:24)、J327-z119(配列番号:25)、J339-z119(配列番号:26)、J346-z107(配列番号:27)、J142-G4h(配列番号:170)、共通抗体L鎖としてL248-k(配列番号:28)、L324-k(配列番号:29)、L377-k(配列番号:31)、L404-k(配列番号:32)、L408-k(配列番号:34)、L180-k(配列番号:171)を見出した。
【0125】
これらの抗体は、F.Xa産生促進活性が極めて高い一方で、F.Xase阻害作用は抑制されていることから、F.VIIIの機能を維持している患者やF.VIII製剤による治療を受けている患者に対しても極めて有用な性質を有していると考えられる。抗体は一般に半減期が長く、皮下投与が可能であることから、これらの二重特異性抗体は、血友病Aにおける既存のFVIII製剤の静脈内投与による定期補充療法と比較して、高い価値を血友病A患者に届けることが可能であると考えられる。
【0126】
実施例1および実施例2で使用した各鎖の可変領域の配列比較を図6A~Dに示した。二重特異性抗体のF.Xa産生促進活性を向上させるためには、例えば以下のアミノ酸が重要であることが明らかとなった。抗ヒトF.IXa抗体H鎖における34位のイソロイシン、35位のアスパラギン又はグルタミン又はセリン、49位のセリン、61位のアルギニン、62位のグルタミン酸、96位のセリン又はスレオニン、98位のリジン又はアルギニン、99位のセリン又はグルタミン酸、100位のフェニルアラニン又はチロシン、100b位のグリシン、102位のチロシンなど。抗ヒトF.X抗体H鎖における35位のアスパラギン酸、53位のアルギニン、73位のリジン、76位のグリシン、96位のリジン又はアルギニン、98位のチロシン、100位のチロシン、100a位のヒスチジンなど。共通抗体L鎖における27位のリジン又はアルギニン、30位のグルタミン酸、31位のアルギニン、32位のグルタミン、50位のアルギニン又はグルタミン、52位のセリン、53位のアルギニン、54位のリジン、55位のグルタミン酸、92位のセリン、93位のセリン、94位のプロリン、95位のプロリンなど(可変領域のアミノ酸番号はKabatナンバリング(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)による)。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明により酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、F.VIIIの機能を代替する活性の高い多重特異性抗原結合分子が提供された。また、酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、F.VIIIの機能を代替する活性が高く、かつ、F.Xase阻害作用が低い多重特異性抗原結合分子が提供された。
ヒト化抗体は一般に、血中での安定性が高く免疫原性も低いと考えられることから、本発明の多重特異性抗体は医薬品として極めて有望であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
【配列表】
2022191374000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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