(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191375
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221220BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20221220BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20221220BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221220BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221220BHJP
C07K 7/04 20060101ALI20221220BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20221220BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P35/00 ZNA
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A61K31/4745
A61K47/65
A61K47/68
C07K16/28
C07K7/04
C07K14/00
C07K7/06
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163719
(22)【出願日】2022-10-12
(62)【分割の表示】P 2018556670の分割
【原出願日】2017-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2016240442
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017097067
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017183149
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 知美
(72)【発明者】
【氏名】石井 千晶
(72)【発明者】
【氏名】和田 悌司
(72)【発明者】
【氏名】石田 さおり
(72)【発明者】
【氏名】鎌井 泰樹
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与である、優れた抗腫瘍効果と安全性を有する医薬組成物及び治療方法を提供する。
【解決手段】下式(式中、Aは抗体との結合位置を示す)で示される薬物リンカーと抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、組み合わされて投与されることを特徴とする、医薬組成物及び治療方法、並びに、該抗体-薬物コンジュゲートを含有する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物及び治療方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、組み合わされて投与されることを特徴とするがんの治療のための医薬組成物であって、
該抗体-薬物コンジュゲートは、式
【化1】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートであり、
抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる、抗HER2抗体であり、
免疫チェックポイント阻害剤が、ニボルマブ、ペムブロリズマブ及びclone RMP1-14からなる群より選択される抗PD-1抗体;アテゾリズマブ、デュルバルマブ及びアベルマブ及びclone 10F.9G2からなる群より選択される抗PD-L1抗体;又はイピリムマブ、トレメリムマブ及びclone 9H10からなる群より選択される抗CTLA-4抗体であり、かつ、
がんが、肺癌、大腸癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、食道癌、肝臓癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、頭頸部癌、及び胆管癌からなる群より選択される少なくとも一つである、
医薬組成物。
【請求項2】
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
免疫チェックポイント阻害剤が、ニボルマブ、ペムブロリズマブ及びclone RMP1-14からなる群より選択される抗PD-1抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
免疫チェックポイント阻害剤が、ニボルマブである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
免疫チェックポイント阻害剤が、ペムブロリズマブである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
免疫チェックポイント阻害剤が、clone RMP1-14である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項10】
免疫チェックポイント阻害剤が、アテゾリズマブ、デュルバルマブ及びアベルマブ及びclone 10F.9G2からなる群より選択される抗PD-L1抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項11】
免疫チェックポイント阻害剤が、アテゾリズマブである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
免疫チェックポイント阻害剤が、デュルバルマブである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
免疫チェックポイント阻害剤が、アベルマブである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
免疫チェックポイント阻害剤が、clone 10F.9G2である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項15】
免疫チェックポイント阻害剤が、イピリムマブ、トレメリムマブ及びclone 9H10からなる群より選択される抗CTLA-4抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項16】
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
がんが大腸癌である、請求項1から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
がんが乳癌である、請求項1から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
がんが肺癌である、請求項1から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
がんが膀胱癌である、請求項1から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
がんが胃癌である、請求項1から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が、組み合わされて投与されることを特徴とする、医薬組成物及び治療方法、並びに、特定の抗体-薬物コンジュゲートを含有する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞表面に発現し、かつ細胞に内在化できる抗原に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体-薬物コンジュゲート(Antibody-Drug Conjugate; ADC)は、がん細胞に選択的に薬物を送達できることによって、がん細胞内に薬物を蓄積させ、がん細胞を死滅させることが期待できる(非特許文献1~5)。
【0003】
抗体-薬物コンジュゲートの一つとして、抗体とトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカンを構成要素とする抗体-薬物コンジュゲートが知られている(特許文献1~7)。このうち、特に優れた抗腫瘍効果と安全性を有する抗HER2抗体-薬物コンジュゲート(非特許文献6、7)については、現在、臨床試験が進行中である。
【0004】
免疫チェックポイント阻害剤は、免疫抑制系を阻害し、抗腫瘍免疫を活性化する薬剤である(非特許文献8~10)。免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-1抗体である、ニボルマブ(Nivolumab)(特許文献8)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)(特許文献9)、抗PD-L1抗体である、アテゾリズマブ(Atezolizumab)(特許文献10)、デュルバルマブ(Durvalumab)(特許文献11)、アベルマブ(Avelumab)(特許文献12)、抗CTLA-4抗体である、イピリムマブ(Ipilimumab)(特許文献13)、トレメリムマブ(Tremelimumab)(特許文献14)、等が知られている。
【0005】
抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が組み合わされて投与された事例としては、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine, T-DM1)と抗CTLA-4/PD-1抗体の併用に関する研究が知られている(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/057687号
【特許文献2】国際公開第2014/061277号
【特許文献3】国際公開第2015/098099号
【特許文献4】国際公開第2015/115091号
【特許文献5】国際公開第2015/146132号
【特許文献6】国際公開第2015/155976号
【特許文献7】国際公開第2015/155998号
【特許文献8】国際公開第2006/121168号
【特許文献9】国際公開第2008/156712号
【特許文献10】国際公開第2010/077634号
【特許文献11】国際公開第2011/066389号
【特許文献12】国際公開第2013/079174号
【特許文献13】国際公開第2001/014424号
【特許文献14】国際公開第2000/037504号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ducry, L., et al., Bioconjugate Chem. (2010) 21, 5-13.
【非特許文献2】Alley, S. C., et al., Current Opinion in Chemical Biology (2010) 14, 529-537.
【非特許文献3】Damle N. K. Expert Opin. Biol. Ther. (2004) 4, 1445-1452.
【非特許文献4】Senter P. D., et al., Nature Biotechnology (2012) 30, 631-637.
【非特許文献5】Howard A. et al., J Clin Oncol 29: 398-405.
【非特許文献6】Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research (2016) 22(20), 5097-5108.
【非特許文献7】Ogitani Y. et al., Cancer Science (2016) 107, 1039-1046.
【非特許文献8】Menon S. et al., Cancers (2016) 8, 106.
【非特許文献9】Pardoll DM., Nat Rev Cancer (2012) 12, 252-264.
【非特許文献10】Wolchok JD., Cell (2015) 162, 937.
【非特許文献11】Muller P. et al., Science Translational Medicine (2015) 7(315), 315ra188.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が組み合わせて投与されることにより、優れた抗腫瘍効果と安全性を有する医薬組成物及び治療方法を提供することが課題である。また、本発明は、特定の抗体-薬物コンジュゲートを含有する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物及び治療方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が組み合わされて投与されることにより、優れた抗腫瘍効果を示すことを見出した。また、該抗体-薬物コンジュゲートが、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、組み合わされて投与されることを特徴とする医薬組成物であって、
該抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0011】
【0012】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートである、医薬組成物。
[2]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[1]に記載の医薬組成物。
[3]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[2]に記載の医薬組成物。
[4]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[5]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[6]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[7]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[8]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[9]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、[1]から[8]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[10]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体である、[9]に記載の医薬組成物。
[11]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-L1抗体である、[9]に記載の医薬組成物。
[12]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA-4抗体である、[9]に記載の医薬組成物。
[13]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、[1]から[12]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[14]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とする、[1]から[12]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[15]
がんの治療のための、[1]から[14]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[16]
がんが、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[15]に記載の医薬組成物。
[17]
がんが大腸癌である、[16]に記載の医薬組成物。
[18]
がんが乳癌である、[16]に記載の医薬組成物。
[19]
抗体-薬物コンジュゲートが、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有する、[1]から[18]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[20]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[1]から[19]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[21]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[1]から[20]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[22]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、[21]に記載の医薬組成物。
[23]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[21]に記載の医薬組成物。
[24]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[1]から[23]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[25]
抗体-薬物コンジュゲートが、がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進することにより生じた免疫抑制性シグナルを、免疫チェックポイント阻害剤が解除することにより、該抗体-薬物コンジュゲートがより強い抗腫瘍効果を示すことを特徴とする、[1]から[24]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[26]
式
【0013】
【0014】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートを含有する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物。
[27]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[26]に記載の医薬組成物。
[28]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[26]又は[27]に記載の医薬組成物。
[29]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、請求項[28]に記載の医薬組成物。
[30]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[28]に記載の医薬組成物。
[31]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[26]から[30]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[32]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[26]から[31]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[33]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[32]に記載の医薬組成物。
[34]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[32]又は[33]に記載の医薬組成物。
[35]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[32]又は[33]に記載の医薬組成物。
[36]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[26]から[35]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[37]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[26]から[35]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[38]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[26]から[35]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[39]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[26]から[38]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[40]
疾患が大腸癌である、[39]に記載の医薬組成物。
[41]
疾患が乳癌である、[39]に記載の医薬組成物。
[42]
式
【0015】
【0016】
で示される化合物を、腫瘍内で放出する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物。
[43]
化合物が、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[42]に記載の医薬組成物。
[44]
化合物が、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[42]又は[43]に記載の医薬組成物。
[45]
化合物が、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[42]から[44]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[46]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[42]から[45]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[47]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、組み合わされて投与されることを特徴とする治療方法であって、
該抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0017】
【0018】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートである、治療方法。
[48]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[47]に記載の治療方法。
[49]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[48]に記載の治療方法。
[50]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[48]又は[49]に記載の治療方法。
[51]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[48]又は[49]に記載の治療方法。
[52]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[47]から[51]のいずれか1項に記載の治療方法。
[53]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[47]から[51]のいずれか1項に記載の治療方法。
[54]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[47]から[51]のいずれか1項に記載の治療方法。
[55]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、[47]から[54]のいずれか1項に記載の治療方法。
[56]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体である、[55]に記載の治療方法。
[57]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-L1抗体である、[55]に記載の治療方法。
[58]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA-4抗体である、[55]に記載の治療方法。
[59]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、[47]から[58]のいずれか1項に記載の治療方法。
[60]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とする、[47]から[58]のいずれか1項に記載の治療方法。
[61]
がんの治療のための、[47]から[60]のいずれか1項に記載の治療方法。
[62]
がんが、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[61]に記載の治療方法。
[63]
がんが大腸癌である、[62]に記載の治療方法。
[64]
がんが乳癌である、[62]に記載の治療方法。
[65]
抗体-薬物コンジュゲートが、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有する、[47]から[64]のいずれか1項に記載の治療方法。
[66]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[47]から[65]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[67]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[47]から[66]のいずれか1項に記載の治療方法。
[68]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、[67]に記載の治療方法。
[69]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[67]に記載の治療方法。
[70]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[47]から[69]のいずれか1項に記載の治療方法。
[71]
抗体-薬物コンジュゲートが、がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進することにより生じた免疫抑制性シグナルを、免疫チェックポイント阻害剤が解除することにより、該抗体-薬物コンジュゲートがより強い抗腫瘍効果を示すことを特徴とする、[47]から[70]のいずれか1項に記載の治療方法。
[72]
式
【0019】
【0020】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートを投与する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患に対して用いることを特徴とする治療方法。
[73]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[72]に記載の治療方法。
[74]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[72]又は[73]に記載の治療方法。
[75]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、[74]に記載の治療方法。
[76]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[74]に記載の治療方法。
[77]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[72]から[76]のいずれか1項に記載の治療方法。
[78]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[72]から[77]のいずれか1項に記載の治療方法。
[79]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[78]に記載の治療方法。
[80]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[78]又は[79]に記載の治療方法。
[81]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[78]又は[79]に記載の治療方法。
[82]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[72]から[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[83]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[72]から[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[84]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[72]から[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[85]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[72]から[84]のいずれか1項に記載の治療方法。
[86]
疾患が大腸癌である、[85]に記載の治療方法。
[87]
疾患が乳癌である、[85]に記載の治療方法。
[88]
式
【0021】
【0022】
で示される化合物を、腫瘍内で放出する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患に対して用いることを特徴とする治療方法。
[89]
化合物が、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[88]に記載の治療方法。
[90]
化合物が、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[88]又は[89]に記載の治療方法。
[91]
化合物が、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[88]から[90]のいずれか1項に記載の治療方法。
[92]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[88]から[91]のいずれか1項に記載の治療方法。
[93]
免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わされて投与されることにより、疾患を治療するための
式
【0023】
【0024】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲート。
[94]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[93]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[95]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[94]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[96]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[94]又は[95]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[97]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[94]又は[95]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[98]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[93]から[97]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[99]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[93]から[97]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[100]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[93]から[97]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[101]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、[93]から[100]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[102]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体である、[101]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[103]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-L1抗体である、[101]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[104]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA-4抗体である、[101]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[105]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、[93]から[104]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[106]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とする、[93]から[104]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[107]
がんの治療のための、[93]から[106]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[108]
がんが、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[107]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[109]
がんが大腸癌である、[108]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[110]
がんが乳癌である、[108]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[111]
抗腫瘍免疫を活性化する作用を有する、[93]から[110]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[112]
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[93]から[111]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[113]
腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[93]から[112]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[114]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、[113]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[115]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[113]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[116]
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[93]から[115]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[117]
がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進することにより生じた免疫抑制性シグナルを、免疫チェックポイント阻害剤が解除することにより、該抗体-薬物コンジュゲートがより強い抗腫瘍効果を示すことを特徴とする、[93]から[116]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[118]
抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いるための
式
【0025】
【0026】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲート。
[119]
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[118]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[120]
腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[118]又は[119]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[121]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、請求項[120]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[122]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[120]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[123]
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用により改善される疾患の治療に用いるための[118]から[122]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[124]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[118]から[123]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[125]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[124]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[126]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[124]又は[125]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[127]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[124]又は[125]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[128]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[118]から[127]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[129]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[118]から[127]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[130]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[118]から[127]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[131]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[118]から[130]のいずれか1項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[132]
疾患が大腸癌である、[131]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[133]
疾患が乳癌である、[131]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[134]
腫瘍内で放出されることにより、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いるための
式
【0027】
【0028】
で示される化合物。
[135]
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[134]に記載の化合物。
[136]
腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[134]又は[135]に記載の化合物。
[137]
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[134]から[136]のいずれか1項に記載の化合物。
[138]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[134]から[137]のいずれか1項に記載の化合物。
[139]
免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わされて投与されることにより、疾患を治療するための医薬の製造のための
式
【0029】
【0030】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[140]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[139]に記載の使用。
[141]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[140]に記載の使用。
[142]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[140]又は[141]に記載の使用。
[143]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[140]又は[141]に記載の使用。
[144]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[139]から[143]のいずれか1項に記載の使用。
[145]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[139]から[143]のいずれか1項に記載の使用。
[146]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[139]から[143]のいずれか1項に記載の使用。
[147]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、[139]から[146]のいずれか1項に記載の使用。
[148]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体である、[147]に記載の使用。
[149]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-L1抗体である、[147]に記載の使用。
[150]
免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA-4抗体である、[147]に記載の使用。
[151]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、[139]から[150]のいずれか1項に記載の使用。
[152]
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とする、[139]から[150]のいずれか1項に記載の使用。
[153]
がんの治療のための、[139]から[152]のいずれか1項に記載の使用。
[154]
がんが、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[153]に記載の使用。
[155]
がんが大腸癌である、[154]に記載の使用。
[156]
がんが乳癌である、[154]に記載の使用。
[157]
抗体-薬物コンジュゲートが、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有する、[139]から[156]のいずれか1項に記載の使用。
[158]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[139]から[157]のいずれか1項に記載の使用。
[159]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[139]から[158]のいずれか1項に記載の使用。
[160]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、[159]に記載の使用。
[161]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[159]に記載の使用。
[162]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[139]から[161]のいずれか1項に記載の使用。
[163]
抗体-薬物コンジュゲートが、がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進することにより生じた免疫抑制性シグナルを、免疫チェックポイント阻害剤が解除することにより、該抗体-薬物コンジュゲートがより強い抗腫瘍効果を示すことを特徴とする、[139]から[162]のいずれか1項に記載の使用。
[164]
抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬の製造のための
式
【0031】
【0032】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[165]
抗体-薬物コンジュゲートが、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[164]に記載の使用。
[166]
抗体-薬物コンジュゲートが、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[164]又は[165]に記載の使用。
[167]
腫瘍が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している、請求項[166]に記載の使用。
[168]
腫瘍の一部が、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない、[166]に記載の使用。
[169]
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用により改善される疾患の治療に用いるための医薬の製造のための[164]から[168]のいずれか1項に記載の使用。
[170]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、又は抗B7-H3抗体である、[164]から[169]のいずれか1項に記載の使用。
[171]
抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が、抗HER2抗体である、[170]に記載の使用。
[172]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[170]又は[171]に記載の使用。
[173]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[170]又は[171]に記載の使用。
[174]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が2から8個の範囲である、[164]から[173]のいずれか1項に記載の使用。
[175]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[164]から[173]のいずれか1項に記載の使用。
[176]
抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[164]から[173]のいずれか1項に記載の使用。
[177]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[164]から[176]のいずれか1項に記載の使用。
[178]
疾患が大腸癌である、[177]に記載の使用。
[179]
疾患が乳癌である、[177]に記載の使用。
[180]
式
【0033】
【0034】
で示される化合物が腫瘍内で放出されることにより、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬の製造のための該化合物の使用。
[181]
化合物が、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[180]に記載の使用。
[182]
化合物が、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有する、[180]又は[181]に記載の使用。
[183]
化合物が、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する、[180]から[182]のいずれか1項に記載の使用。
[184]
疾患が、肺癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[180]から[183]のいずれか1項に記載の使用。
【0035】
に関する。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、特定の抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が組み合わされて投与されることにより、抗腫瘍効果と安全性面に優れる医薬組成物及び治療方法を提供することができる。また、本発明により、特定の抗体-薬物コンジュゲートを含有することを特徴とする、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用により改善される疾患の治療用の医薬組成物及び治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】ヒト化抗HER2抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【
図2】ヒト化抗HER2抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【
図3】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに対する、各薬剤の延命効果を示した図である。抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体(clone RMP1-14)それぞれの単剤投与群と併用群で延命効果の比較を行っている。
【
図4】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに対する、各薬剤の延命効果を示した図である。抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体(clone RMP1-14)それぞれの単剤投与群と併用群で延命効果の比較を行っている。
【
図5】抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及びコントロールマウスそれぞれにCT26.WT-hHER2細胞、あるいはCT26.WT-mock細胞を皮下移植(再移植)した場合における、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図6】抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及びコントロールマウスそれぞれにCT26.WT-hHER2細胞を皮下移植(再移植)した場合における、CT26.WT-hHER2細胞由来の抗原に対する免疫応答(IFNγ産生脾臓細胞数)を示した図である。
【
図7】抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及びコントロールマウスそれぞれにCT26.WT-hHER2細胞を皮下移植(再移植)した場合における、CT26.WT-mock細胞由来の抗原に対する免疫応答(IFNγ産生脾臓細胞数)を示した図である。
【
図8】抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及びコントロールマウスそれぞれにCT26.WT-mock細胞を皮下移植(再移植)した場合における、CT26.WT-hHER2細胞由来の抗原に対する免疫応答(IFNγ産生脾臓細胞数)を示した図である。
【
図9】抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及びコントロールマウスそれぞれにCT26.WT-mock細胞を皮下移植(再移植)した場合における、CT26.WT-mock細胞由来の抗原に対する免疫応答(IFNγ産生脾臓細胞数)を示した図である。
【
図10】骨髄由来樹状細胞を化合物(A)及びDMSOで処置した場合におけるCD86発現量をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図11】骨髄由来樹状細胞を化合物(A)及びDMSOで処置した場合におけるMHC class II発現量をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図12】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内リンパ球に占める樹状細胞の数をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図13】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内樹状細胞に占めるCD86陽性細胞の数をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図14】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内樹状細胞上のCD86の発現量をフローサイトメトリーにて測定し、MFIにて示した図である。
【
図15】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、がん細胞(ヒトHER2陽性細胞)上のMHC class Iの発現量をフローサイトメトリーにて測定し、MFIにて示した図である。
【
図16】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、がん細胞(ヒトHER2陽性細胞)上のPD-L1の発現量をフローサイトメトリーにて測定し、MFIにて示した図である。
【
図17】がん細胞を化合物(A)及びDMSOで処置した場合におけるMHC class I発現量をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図18】CT26.WT-hHER2細胞をヌードマウスに皮下移植したマウスモデルおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図19】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群、コントロール抗体-薬物コンジュゲート投与群、及びコントロール群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図20】EMT6-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体(clone RMP1-14)それぞれの単剤投与群と併用群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図21】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに対する、各薬剤の延命効果を示した図である。抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-L1抗体(clone 10F.9G2)それぞれの単剤投与群と併用群で延命効果の比較を行っている。
【
図22】EMT6-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに対する、各薬剤の延命効果を示した図である。抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-L1抗体(clone 10F.9G2)それぞれの単剤投与群と併用群で延命効果の比較を行っている。
【
図23】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CD4抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図24】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CD8抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【
図25】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内生細胞に占めるCD8陽性T細胞の割合をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図26】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内CD8陽性T細胞に占めるGranzyme B陽性細胞の割合をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図27】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内生細胞に占めるGranzyme B陽性のCD8陽性T細胞の割合をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図28】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、腫瘍内生細胞に占めるCD4陽性T細胞の割合をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図29】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、摘出した腫瘍を抗CD8抗体で染色した画像を示した図である。
【
図30】CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群及びコントロール群について、摘出した腫瘍を抗CD8抗体で染色した画像を解析することにより、腫瘍内の単位面積当たりのCD8陽性細胞数を測定した図である。
【
図31】がん細胞を化合物(A)、DM1-SMe、DM4-SMe、MMAE及びDMSOで処置した場合における、MHC class I発現量をフローサイトメトリーにて測定した図である。
【
図32】EMT6-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CTLA-4抗体(clone 9H10)それぞれの単剤投与群と併用群について、腫瘍体積の推移を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これによって本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0039】
[抗体-薬物コンジュゲート]
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0040】
【0041】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲートである。
【0042】
本発明においては、抗体-薬物コンジュゲートのうち、リンカー及び薬物からなる部分構造を「薬物リンカー」と称する。この薬物リンカーは抗体の鎖間のジスルフィド結合部位(2箇所の重鎖-重鎖間、及び2箇所の重鎖-軽鎖間)において生じたチオール基(言い換えれば、システイン残基の硫黄原子)に結合している。
【0043】
本発明の薬物リンカーは、トポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカン(IUPAC名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン、(化学名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオンとして表すこともできる))を構成要素としている。エキサテカンは、式
【0044】
【0045】
で示される、抗腫瘍効果を有するカンプトテシン誘導体である。
【0046】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、次式で示すこともできる。
【0047】
【0048】
ここで、薬物リンカーは抗体とチオエーテル結合によって結合している。また、nはいわゆる平均薬物結合数(DAR; Drug-to-Antibody Ratio)と同義であり、1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す。
【0049】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有する。
【0050】
本発明において「抗腫瘍免疫を活性化」とは、T細胞及びB細胞からなる群より選択される少なくとも一つを活性化することにより、抗腫瘍効果の発揮を促進することを言う(Bracci L. et al., Cell Death Differ. (2014) 21, 15-25、Chen DS. Et al., Immunity (2013) 39, 1-10、Andersen MH. et al., Journal of Investigative Dermatology (2006) 126, 32-41)。
【0051】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが、T細胞及びB細胞からなる群より選択される少なくとも一つを活性化することにより、抗腫瘍効果の発揮を促進していることは、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートについて、免疫機能が正常なマウスにおける抗腫瘍効果と、T細胞及びB細胞の免疫機能が損なわれたマウス(ヌードマウス)における抗腫瘍効果を比較することにより確認することができる。
【0052】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する。
【0053】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用」は、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、生細胞に占めるCD45、CD3、CD8陽性細胞(CD8陽性T細胞)の割合をフローサイトメトリーを用いて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。また、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、摘出した腫瘍を抗CD8抗体で染色した画像を解析し、腫瘍内の単位面積当たりのCD8陽性細胞数を測定し、増加率を調べることによっても確認することができる。
【0054】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用」は、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、CD8陽性T細胞に占めるGranzymeB陽性細胞の割合をフローサイトメトリーを用いて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。また、生細胞に占めるGranzymeB陽性細胞の割合をフローサイトメトリーを用いて測定し、増加率を調べることによっても確認することができる。
【0055】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進させる作用を有する。この作用は、上述の「抗腫瘍免疫を活性化する作用」に寄与する。
【0056】
T細胞は、樹状細胞やがん細胞から腫瘍由来の抗原の提示を受け、活性化されることにより、免疫応答を及ぼし、抗腫瘍効果を発揮する。
【0057】
本発明において、「腫瘍に対する免疫記憶形成」とは、腫瘍由来の抗原の提示を受けT細胞からメモリーT細胞が生じることにより、同抗原に対する免疫応答の記憶が形成されることを言う。これにより、同抗原を有する腫瘍に対して持続的な抗腫瘍効果を発揮することができ、また、同抗原を有する腫瘍が再発した際に再び抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0058】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「腫瘍に対する免疫記憶形成を促進させる作用」は、例えば、抗体-薬物コンジュゲートを担癌マウスに投与し、腫瘍が完全に退縮したマウスに再び腫瘍を移植し、腫瘍増殖(再発)の抑制度を測定することにより、確認することができる。また、上記のマウスより脾臓を摘出し、腫瘍由来の抗原を添加し、免疫応答(例えばIFNγ産生脾臓細胞数)の増加率を測定することによっても確認することができる。
【0059】
なお、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、該抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している腫瘍のみならず、同一個体内の該抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない腫瘍に対しても免疫記憶形成を促進させる作用を有する。
【0060】
例えば、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗HER2抗体の場合、HER2を発現している腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用のみならず、同一個体内のHER2を発現していない腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用も有する。
【0061】
また、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有する。
これらの作用は、上述の「腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用」に寄与し、ひいては上述の「抗腫瘍免疫を活性化する作用」に寄与する。
【0062】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用」は、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、CD45陽性細胞(リンパ球細胞)に占めるCD11c, MHC class II, CD45陽性細胞(樹状細胞、DC)の割合をフローサイトメトリーを用いて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。
【0063】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「樹状細胞を活性化する作用」は、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、CD86(活性化マーカー)を発現している樹状細胞の割合をフローサイトメトリーを用いて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。また、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、フローサイトメトリーにて樹状細胞上のCD86の発現量(MFI(mean fluorescence intensity))を測定し、増加率を調べることにより、確認することもできる。
【0064】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用」は、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、がん細胞上のMHC class Iの発現量(MFI)をフローサイトメトリーにて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。
【0065】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進する作用を有することもある。これにより生じた免疫抑制性シグナルを、免疫チェックポイント阻害剤が解除することにより、該抗体-薬物コンジュゲートがより強い抗腫瘍効果を示すことができる。従って、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用することにより、より強い抗腫瘍効果が期待できる。
【0066】
本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「がん細胞上のPD-L1発現量の増加を促進する作用」は、例えば、例えば、担癌マウスにおける、抗体-薬物コンジュゲート投与群及びコントロール群について、がん細胞上のPD-L1の発現量(MFI)をフローサイトメトリーにて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。
【0067】
本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートは、がん細胞内に移行した後にリンカー部分が切断され、
【0068】
式
【0069】
【0070】
で表される化合物(以下、「化合物(A)」と称する。)を放出する。
【0071】
化合物(A)は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートの抗腫瘍活性の本体であると考えられ、トポイソメラーゼI阻害作用を有することが確認されている(Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research, 2016, Oct 15;22(20):5097-5108, Epub 2016 Mar 29)。
【0072】
化合物(A)は、樹状細胞を活性化する作用、及び、がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用を有する。
【0073】
化合物(A)が有する「樹状細胞を活性化する作用」は、例えば、骨髄由来樹状細胞を化合物(A)及びDMSOで処置した場合におけるCD86発現量をフローサイトメトリーにて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。
【0074】
化合物(A)が有する「がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用」は、例えば、がん細胞を化合物(A)及びDMSOで処置した場合におけるMHC class I発現量をフローサイトメトリーにて測定し、増加率を調べることにより、確認することができる。
【0075】
化合物(A)が有する「樹状細胞を活性化する作用」及び「がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用」は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「樹状細胞を活性化する作用」及び「がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用」と共通の作用である。また、前述の通り、化合物(A)は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートががん細胞に移行した後に、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートより放出される化合物である。
【0076】
従って、化合物(A)を腫瘍内で放出する医薬組成物は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートと同様に、
(1)腫瘍内の樹状細胞数の増加を促進する作用、
(2)樹状細胞を活性化する作用、及び、
(3)がん細胞上のMHC class I発現量の増加を促進する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有することが期待される。
【0077】
さらに、化合物(A)を腫瘍内で放出する医薬組成物は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートと同様に、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進させる作用を有することが期待される。
【0078】
また、前述の通り、化合物(A)は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートががん細胞に移行した後に、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートより生成する化合物である。
【0079】
従って、化合物(A)を腫瘍内で放出する医薬組成物は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートと同様に、
(1)腫瘍内CD8陽性T細胞の増加を促進する作用、及び、
(2)腫瘍内CD8陽性T細胞を活性化する作用、
からなる群より選択される少なくとも一つの作用を有することが期待され、
ひいては、「抗腫瘍免疫を活性化する作用」を有することが期待される。
【0080】
なお、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートは、バイスタンダー効果を有することも知られている(Ogitani Y. et al., Cancer Science (2016) 107, 1039-1046)。
このバイスタンダー効果は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートが、標的発現がん細胞に内在化した後、放出された化合物(A)が、標的を発現していない近傍のがん細胞に対しても抗腫瘍効果を及ぼすことにより発揮される。
本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートが有するバイスタンダー効果は、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用する場合においても、優れた抗腫瘍効果として発揮される。
[抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体]
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体は、いずれの種に由来してもよいが、好適には、ヒト、ラット、マウス、及びウサギに由来する抗体である。抗体がヒト以外の種に由来する場合は、周知の技術を用いて、キメラ化又はヒト化することが好ましい。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
【0081】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体は、好適にはがん細胞を標的にできる性質を有するものであり、がん細胞を認識できる特性、がん細胞に結合できる特性、がん細胞内に取り込まれて内在化する特性、及び/又はがん細胞に対する殺細胞活性等を備えているものが好ましい。
【0082】
抗体のがん細胞への結合性は、フローサイトメトリーを用いて確認できる。がん細胞内への抗体の取り込みは、(1)治療抗体に結合する二次抗体(蛍光標識)を用いて細胞内に取り込まれた抗体を蛍光顕微鏡で可視化するアッセイ(Cell Death and Differentiation (2008) 15, 751-761)、(2)治療抗体に結合する二次抗体(蛍光標識)を用いて細胞内に取り込まれた蛍光量を測定するアッセイ(Molecular Biology of the Cell Vol. 15, 5268-5282, December 2004)、又は(3)治療抗体に結合するイムノトキシンを用いて、細胞内に取り込まれると毒素が放出されて細胞増殖が抑制されるというMab-ZAPアッセイ(Bio Techniques 28:162-165, January 2000)を用いて確認できる。イムノトキシンとしては、ジフテテリア毒素の触媒領域とプロテインGとのリコンビナント複合蛋白質も使用可能である。
【0083】
抗体の抗腫瘍活性は、in vitroでは、細胞の増殖の抑制活性を測定することで確認できる。例えば、抗体の標的蛋白質を過剰発現しているがん細胞株を培養し、培養系に種々の濃度で抗体を添加し、フォーカス形成、コロニー形成及びスフェロイド増殖に対する抑制活性を測定することができる。in vivoでは、例えば、標的蛋白質を高発現しているがん細胞株を移植したヌードマウスに抗体を投与し、がん細胞の変化を測定することによって、抗腫瘍活性を確認できる。
【0084】
抗体自体が抗腫瘍効果を有することは、好ましいが、抗体-薬物コンジュゲートは抗腫瘍効果を発揮する化合物を結合させてあるので、抗体自体の抗腫瘍効果は必須ではない。抗腫瘍性化合物の細胞障害性をがん細胞において特異的・選択的に発揮させる目的からは、抗体が内在化してがん細胞内に移行する性質のあることが重要であり、好ましい。
【0085】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体は、公知の手段によって取得することができる。例えば、この分野で通常実施される方法を用いて、抗原となるポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原の由来はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来する抗原を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
【0086】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature (1975) 256, p.495-497;Kennet, R. ed., Monoclonal Antibodies, p.365-367, Plenum Press, N.Y.(1980))に従って、抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0087】
なお、抗原は抗原蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、抗原遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現した抗原を精製すればよい。上記の遺伝子操作による抗原発現細胞、或は抗原を発現している細胞株、を動物に免疫する方法を用いることによっても抗体を取得できる。
【0088】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体であることが好ましく、又はヒト由来の抗体の遺伝子配列のみを有する抗体、すなわちヒト抗体であることが好ましい。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0089】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 6851-6855,(1984))。
【0090】
ヒト化抗体としては、異種抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986) 321, p.522-525)、CDR移植法によって、異種抗体のCDRの配列に加えて、異種抗体の一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第90/07861号)、遺伝子変換突然変異誘発(gene conversion mutagenesis)ストラテジーを用いてヒト化した抗体(米国特許第5821337号)を挙げることができる。
【0091】
ヒト抗体としては、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いて作成した抗体(Tomizuka, K. et al., Nature Genetics(1997) 16, p.133-143;Kuroiwa, Y. et. al., Nucl. Acids Res.(1998) 26, p.3447-3448;Yoshida, H. et. al., Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10, p.69-73(Kitagawa, Y., Matsuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers, 1999;Tomizuka, K. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2000) 97, p.722-727等を参照。)を挙げることができる。或いは、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイにより取得した抗体(Wormstone, I. M. et. al, Investigative Ophthalmology & Visual Science. (2002)43 (7), p.2301-2308;Carmen, S. et. al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002), 1(2), p.189-203;Siriwardena, D. et. al., Ophthalmology(2002) 109(3), p.427-431等参照。)も挙げることができる。
【0092】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される抗体には、抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明に係る抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖への化学部分の結合を有する化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合型糖鎖の付加、N末端又はC末端のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化等)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによってN末にメチオニン残基が付加されたもの等が含まれる。また、本発明に係る抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾体の意味に含まれる。この様な本発明に係る抗体の修飾体は、抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0093】
また、本発明に係る抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、国際公開第99/54342号、国際公開第00/61739号、国際公開第02/31140号等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明に係る抗体には当該糖鎖修飾が調節された抗体も含まれる。
【0094】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体では、その重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A, 705: 129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リシンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry, 360: 75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用等)には影響を及ぼさない。したがって、本発明に係る抗体には、当該修飾を受けた抗体及び当該抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2のアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等も包含される。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に係る抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に係る抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれか二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明に係る抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明に係る抗体は、好ましくは2本の重鎖の双方でカルボキシル末端のひとつのアミノ酸残基が欠失しているものを挙げることができる。
【0095】
本発明に係る抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。
【0096】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用できる抗体は、特に制限はないが、例えば、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、抗B7-H3抗体、抗CD3抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD56抗体、抗CD98抗体、抗DR5抗体、抗EGFR抗体、抗EPHA2抗体、抗FGFR2抗体、抗FGFR4抗体、抗FOLR1抗体、抗VEGF抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD70抗体、抗PSMA抗体、抗CEA抗体、及び抗Mesothelin抗体を挙げることができ、好適には、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗TROP2抗体、及び抗B7-H3抗体を挙げることができ、より好適には、抗HER2抗体を挙げることができる。
【0097】
本発明において、「抗HER2抗体」とは、HER2(Human Epidermal Growth FactorReceptor Type 2; ErbB-2)に特異的に結合し、好ましくは、HER2と結合することによってHER2発現細胞に内在化する活性を有する抗体を示す。
【0098】
抗HER2抗体としては、例えば、トラスツズマブ(Trastuzumab)(米国特許第5821337号)、及び、ペルツズマブ(Pertuzumab)(国際公開第01/00245号)を挙げることができ、好適にはトラスツズマブを挙げることができる。
【0099】
本発明において、「トラスツズマブ」は、HERCEPTIN(登録商標)、huMAb4D5-8、rhuMAb4D5-8と呼ばれることもあり、配列番号1(
図1)においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2(
図2)においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなるヒト化抗HER2抗体である。
【0100】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される、好適な抗HER2抗体は、
(1)配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体、又は、
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である。
【0101】
本発明において、「抗HER3抗体」とは、HER3(Human Epidermal Growth FactorReceptor Type 3; ErbB-3)に特異的に結合し、好ましくは、HER3と結合することによってHER3発現細胞に内在化する活性を有する抗体を示す。
【0102】
抗HER3抗体としては、例えば、パトリツマブ(Patritumab; U3-1287)、U1-59(国際公開第2007/077028号)、MM-121(Seribantumab)、国際公開2008/100624号記載の抗ERBB3抗体、RG-7116(Lumretuzumab)、及びLJM-716(Elgemtumab)を挙げることができ、好適には、パトリツマブ、及びU1-59を挙げることができる。
【0103】
本発明において、「抗TROP2抗体」とは、TROP2(TACSTD2:Tumor-associated calcium signal transducer 2; EGP-1)に特異的に結合し、好ましくは、TROP2と結合することによってTROP2発現細胞に内在化する活性を有する抗体を示す。
【0104】
抗TROP2抗体としては、例えば、hTINA1-H1L1(国際公開第2015/098099号)を挙げることができる。
【0105】
本発明において、「抗B7-H3抗体」とは、B7-H3に特異的に結合し、好ましくは、B7-H3と結合することによってB7-H3発現細胞に内在化する活性を有する抗体を示す。
【0106】
抗B7-H3抗体としては、例えば、M30-H1-L4(国際公開第2014/057687号)を挙げることができる。
[抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される薬物リンカー中間体]
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される薬物リンカー中間体は、次式で示される。
【0107】
【0108】
上記の薬物リンカー中間体は、N-[6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル-L-フェニルアラニル-N-[(2-{[(1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル]アミノ}-2-オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド、という化学名で表すことができ、国際公開第2014/057687号、国際公開第2015/098099号、国際公開第2015/115091号、国際公開第2015/155998号等の記載を参考に製造することができる。
【0109】
[抗体と薬物リンカー中間体のコンジュゲーション]
本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートは、前述の薬物リンカー中間体と、チオール基(又はスルフヒドリル基とも言う)を有する抗体を反応させることによって製造することができる。
【0110】
スルフヒドリル基を有する抗体は、当業者周知の方法で得ることができる(Hermanson, G. T, Bioconjugate Techniques, pp.56-136, pp.456-493, Academic Press(1996))。例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)等の還元剤を、抗体内鎖間ジスルフィド1個当たりに対して0.3乃至3モル当量用い、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含む緩衝液中で、抗体と反応させることで、抗体内鎖間ジスルフィドが部分的若しくは完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗体を得ることができる。
【0111】
さらに、スルフヒドリル基を有する抗体1個あたり、2乃至20モル当量の薬物リンカー中間体を使用して、抗体1個当たり2個乃至8個の薬物が結合した抗体―薬物コンジュゲートを製造することができる。
【0112】
製造した抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数は、例えば、280nm及び370nmの二波長における抗体-薬物コンジュゲートとそのコンジュゲーション前駆体のUV吸光度を測定することにより算出する方法(UV法)や、抗体-薬物コンジュゲートを還元剤で処理し得られた各フラグメントをHPLC測定により定量し算出する方法(HPLC法)により行うことができる。
【0113】
抗体と薬物リンカー中間体のコンジュゲーション、及び抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数の算出は、国際公開第2014/057687号、国際公開第2015/098099号、国際公開第2015/115091号、国際公開第2015/155998号等の記載を参考に実施することができる。
【0114】
本発明において、「抗HER2抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗HER2抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。
【0115】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から8であり、更により好適には7から8であり、更により好適には7.5から8であり、更により好適には約8である。
【0116】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、国際公開第2015/115091号等の記載を参考に製造することができる。
【0117】
本発明において、「抗HER3抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗HER3抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。
【0118】
本発明において使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から8であり、更により好適には7から8であり、更により好適には7.5から8であり、更により好適には約8である。
【0119】
本発明において使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、国際公開第2015/155998号等の記載を参考に製造することができる。
【0120】
本発明において、「抗TROP2抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗TROP2抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。
【0121】
本発明において使用される抗TROP2抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から5であり、更により好適には3.5から4.5であり、更により好適には約4である。
【0122】
本発明において使用される抗TROP2抗体-薬物コンジュゲートは、国際公開第2015/098099号等の記載を参考に製造することができる。
【0123】
本発明において、「抗B7-H3抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗B7-H3抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。
【0124】
本発明において使用される抗B7-H3抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から5であり、更により好適には3.5から4.5であり、更により好適には約4である。
【0125】
本発明において使用される抗B7-H3抗体-薬物コンジュゲートは、国際公開第2014/057687号等の記載を参考に製造することができる。
【0126】
[免疫チェックポイント阻害剤]
本発明において「免疫チェックポイント阻害剤」とは、免疫抑制系を阻害し、腫瘍免疫を活性化する薬剤を示す。
【0127】
本発明において使用される免疫チェックポイント阻害剤は、特に制限はないが、好適には、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、及び抗CTLA-4抗体を挙げることができ、より好適には、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体を挙げることができる。
【0128】
本発明において「抗PD-1抗体」とは、PD-1(Programmed cell death-1; CD279; PDCD1)に特異的に結合することにより、PD-1と、その結合相手である、PD-L1やPD-L2との相互作用から生じるシグナル伝達を低減、阻害、及び/又は干渉する作用を有する抗体を示す。本発明において使用される抗PD-1抗体としては、臨床での有効性と安全性が確認されていれば特に制限はないが、好適には、ニボルマブ(Nivolumab)(国際公開第2006/121168号等)、及び、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)(国際公開第2008/156712号等)を挙げることができる。また、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートとの併用効果を前臨床研究において確認する目的で、市販の研究用抗PD-1抗体(例:clone RMP1-14)等を用いることもできる。
【0129】
本発明において「抗PD-L1抗体」とは、PD-L1(Programmed cell death ligand 1; CD274; B7-H1)に特異的に結合することにより、PD-L1と、その結合相手である、PD-1やB7.1(CD80)との相互作用から生じるシグナル伝達を低減、阻害、及び/又は干渉する作用を有する抗体を示す。本発明において使用される抗PD-L1抗体としては、臨床での有効性と安全性が確認されていれば特に制限はないが、好適には、アテゾリズマブ(Atezolizumab)(国際公開第2010/077634号等)、デュルバルマブ(Durvalumab)(国際公開第2011/066389号等)、及び、アベルマブ(Avelumab)(国際公開第2013/079174号等)を挙げることができる。また、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートとの併用効果を前臨床研究において確認する目的で、市販の研究用抗PD-L1抗体(例:clone 10F.9G2)等を用いることもできる。
【0130】
本発明において「抗CTLA-4抗体」とは、CTLA-4(Cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4; CD152)に特異的に結合することにより、CTLA-4と、その結合相手である、B7.1(CD80)やB7.2(CD86)との相互作用から生じるシグナル伝達を低減、阻害、及び/又は干渉する作用を有する抗体を示す。本発明において使用される抗CTLA-4抗体としては、臨床での有効性と安全性が確認されていれば特に制限はないが、好適には、イピリムマブ(Ipilimumab)(国際公開第2001/014424号等)、及びトレメリムマブ(Tremelimumab)(国際公開第2000/037504号等)を挙げることができる。また、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートとの併用効果を前臨床研究において確認する目的で、市販の研究用抗CTLA-4抗体(例:clone 9H10)等を用いることもできる。
【0131】
[医薬]
以下、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートと免疫チェックポイント阻害剤が組み合わされて投与されることを特徴とする医薬組成物及び治療方法、並びに、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートを含有する、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療に用いることを特徴とする医薬組成物及び治療方法について説明する。
【0132】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とするものであってもよいし、抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、単一の製剤に有効成分として含有され、投与されることを特徴とするものであってもよい。また、抗腫瘍免疫を活性化する作用により改善される疾患の治療用に、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートが単一の製剤に有効成分として含有され、投与されるものであってもよい。
【0133】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、がんの治療のために使用することができ、好適には、肺癌(非小細胞肺癌を含む)、尿路上皮癌、大腸癌(結腸直腸癌と呼ぶこともあり、結腸癌及び直腸癌を含む)、前立腺癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、胃癌(胃腺癌と呼ぶこともある)、胃食道接合部腺癌、胃腸間質腫瘍、子宮頸癌、食道癌、扁平上皮癌、腹膜癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、陰茎癌、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、神経上皮組織性腫瘍、神経鞘性腫瘍、頭頸部癌、皮膚癌、咽頭癌、胆のう癌、胆管癌、中皮腫、ページェット病、及び肉腫からなる群より選択される少なくとも一つの疾患の治療のために使用することができる。
【0134】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、がんの主要な治療法である薬物療法のための薬剤として選択して使用することができ、その結果として、がん細胞の成長を遅らせ、増殖を抑え、さらにはがん細胞を破壊することができる。これらの作用によって、がん患者において、がんによる症状からの解放や、QOLの改善を達成でき、がん患者の生命を保って治療効果が達成される。がん細胞の破壊には至らない場合であっても、がん細胞の増殖の抑制やコントロールによってがん患者においてより高いQOLを達成しつつより長期の生存を達成させることができる。
【0135】
このような薬物療法においての薬物単独での使用の他、本発明の医薬組成物及び治療方法は、アジュバント療法において他の療法と組み合わせる薬剤としても使用でき、外科手術や、放射線療法、ホルモン療法等と組み合わせることができる。さらにはネオアジュバント療法における薬物療法の薬剤として使用することもできる。
【0136】
以上のような治療的使用の他、本発明の医薬組成物及び治療方法は、微細な転移がん細胞の増殖を押さえ、さらには破壊するといった予防効果も期待することができる。例えば、転移過程で体液中にあるがん細胞を抑制し破壊する効果や、いずれかの組織に着床した直後の微細ながん細胞に対する抑制、破壊等の効果が期待できる。したがって、特に外科的な癌の除去後においての癌転移の抑制、予防効果が期待できる。
【0137】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、患者に対しては全身療法として適用する他、癌組織に局所的に適用して治療効果を期待することができる。
【0138】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、哺乳動物に対して好適に使用することができるが、より好適にはヒトに対して使用することができる。
【0139】
本発明の医薬組成物は、1種以上の薬学的に適合性の成分を含む薬学的組成物として投与され得る。本発明の医薬組成物において使用される物質としては、投与量や投与濃度において、この分野において通常使用される製剤添加物その他から適宜選択して適用することができる。例えば、上記薬学的組成物は、代表的には、1種以上の薬学的キャリア(例えば、滅菌した液体)を含む。ここで液体には、例えば、水及び油(石油、動物起源、植物起源、又は合成起源の油)が含まれる。油は、例えば、ラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であってよい。水は、上記薬学的組成物が静脈内投与される場合に、より代表的なキャリアである。食塩水溶液、並びにデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液もまた、液体キャリアとして、特に、注射用溶液のために使用され得る。適切な薬学的賦形剤は、この分野で公知のものから適宜選択することができる。上記組成物はまた、所望であれば、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝化剤を含み得る。適切な薬学的キャリアの例は、E. W. Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。その処方は、投与の態様に対応する。
【0140】
種々の送達システムが公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る。導入経路としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、及び皮下の経路を挙げることができるが、これらに限定されることはない。投与は、例えば、注入又はボーラス注射によるものであり得る。特定の好ましい実施形態において、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲート及び免疫チェックポイント阻害剤の投与は、注入によるものである。非経口的投与は、好ましい投与経路である。
【0141】
代表的実施形態において、上記医薬組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した薬学的組成物として、常習的手順に従って処方される。代表的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌の等張性の水性緩衝液中の溶液である。必要である場合、上記薬学的組成物はまた、可溶化剤及び注射部位での疼痛を和らげるための局所麻酔剤(例えば、リグノカイン)を含み得る。一般に、上記成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプル又はサシェ等に密封してシールされた容器中の乾燥凍結乾燥粉末又は無水の濃縮物として、別個に、又は単位剤形中で一緒に混合して、のいずれかで供給される。上記薬学的組成物が注入によって投与される形態の場合、それは、例えば、滅菌の製薬グレードの水又は食塩水を含む注入ボトルで投薬され得る。上記薬学的組成物が注射によって投与される場合、注射用滅菌水又は食塩水のアンプルは、例えば、上記成分が投与前に混合され得るように、提供され得る。
【0142】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲート及び免疫チェックポイント阻害剤以外の癌治療剤を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物及び治療方法は、他の癌治療剤と併用して投与することもでき、これによって抗腫瘍効果を増強させることができる。この様な目的で使用される他の癌治療剤は、本発明の医薬組成物と同時に、別々に、或は連続して個体に投与されてもよいし、それぞれの投与間隔を変えて投与されてもよい。この様な癌治療剤として、5-フルオロウラシル(5-FU)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、パクリタキセル(Paclitaxel)、カルボプラチン(Carboplatin)、シスプラチン(Cisplatin)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、カペシタビン(Capecitabine)、イリノテカン(Irinotecan)(CPT-11)、ドセタキセル(Docetaxel)、ペメトレキセド(Pemetrexed)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ビンブラスチン(Vinblastin)、ビノレルビン(Vinorelbine)、エベロリムス(Everolims)、タネスピマイシン(Tanespimycin)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、ラパチニブ(Lapatinib)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine)(T-DM1)又は国際公開第2003/038043号に記載の薬剤、更にLH-RHアナログ(リュープロレリン(Leuprorelin)、ゴセレリン(Goserelin)等)、エストラムスチン・フォスフェイト(Estramustine Phosphate)、エストロジェン拮抗薬(タモキシフェン(Tamoxifen)、ラロキシフェン(Raloxifene)等)、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール(Anastrozole)、レトロゾール(Letrozole)、エキセメスタン(Exemestane)等)等を挙げることができるが、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば限定されることはない。
【0143】
この様な医薬組成物は、選択された組成と必要な純度を持つ製剤として、凍結乾燥製剤或は液状製剤として製剤化することができる。凍結乾燥製剤として製剤化する際には、この分野において使用される適当な製剤添加物が含まれる製剤であってもよい。また液剤においても同様にして、この分野において使用される各種の製剤添加物を含む液状製剤として製剤化することができる。
【0144】
医薬組成物の組成及び濃度は投与方法によっても変化するが、本発明の医薬組成物に含まれる抗体-薬物コンジュゲート及び免疫チェックポイント阻害剤は、抗原に対する親和性、すなわち、抗原に対する解離定数(Kd値)の点において、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、少量の投与量であっても薬効を発揮させことができる。したがって、抗体-薬物コンジュゲート及び免疫チェックポイント阻害剤の投与量は、抗原との親和性の状況に基づいて設定することもできる。本発明に係る抗体-薬物コンジュゲート及び免疫チェックポイント阻害剤をヒトに対して投与する際には、例えば、約0.001~100mg/kgを1回或は1~180日間に1回の間隔で複数回投与すればよい。
【0145】
本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートの場合、例えば投与方法として、0.8mg/kg~8mg/kgを3週に1度投与する方法を挙げることができる。投与量は、例えば、0.8mg/kg、1.6mg/kg、3.2mg/kg、5.4mg/kg、6.4mg/kg、7.4mg/kg、8mg/kgを挙げることができる。また、投与は3週に1度(q3w)であればよいが、1週に1度(q1w)、2週に1度(q2w)、または4週に1度(q4w)であってもよい。
【実施例0146】
以下に示す例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。
【0147】
[製造例1:抗体-薬物コンジュゲートの調製]
国際公開第2015/115091号に記載の製造方法に従って、ヒト化抗HER2抗体(トラスツズマブ)を用いて、式
【0148】
【0149】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗体-薬物コンジュゲート(以下、「抗体-薬物コンジュゲート(1)」と称する)を製造した。
【0150】
[製造例2:化合物(A)の調製]
国際公開第2014/057687号に記載の製造方法に従って、式
【0151】
【0152】
で示される化合物(化合物(A))を製造した。
【0153】
[評価例1:延命試験]
マウス:6週齢の雌性BALB/cマウス(BALB/c AnNCrlCrlj)(日本チャールス・リバー社)を実験に供した。
測定、計算式:腫瘍の長径および短径を電子式デジタルキャリパー(CD15-CX、株式会社ミツトヨ)で1週間に2回測定し、腫瘍体積(mm3)を計算した。計算式は以下に示すとおり。
腫瘍体積(mm3)=0.5×長径(mm)×[短径(mm)]2
腫瘍体積が3000 mm3を超えた個体については動物実験倫理の観点から安楽殺を行った。
【0154】
抗体-薬物コンジュゲート(1)(Drug-to-Antibody Ratio: 7.6)は専用溶媒(10 mM Histidine,10% Trehalose,0.02% Polysorbate 20, pH 5.5)によって希釈して使用した。抗PD-1抗体(clone RMP1-14)はBio X Cell社から購入し、DPBS(SIGMA-ALDRICH社)で希釈して使用した。投与の際は10 mL/kgの用量を尾静脈内投与した。
【0155】
American Type Culture Collection社より購入したマウス大腸がん細胞株CT26.WT(CRL2638)にレトロウイルスベクターを用いてヒトHER2遺伝子を導入したCT26.WT-hHER2細胞を用いた。この細胞は細胞膜上にヒトHER2蛋白を発現している。CT26.WT-hHER2細胞を生理食塩水に懸濁し、5.0×106 cellsをBALB/cマウスの右腋窩部に皮下移植し、6日後に無作為に群分けを実施した(Day 0)。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDays 0および7に計2回尾静脈内投与した。抗PD-1抗体は2.5 mg/kgの用量でDays 0、3、7、10および14に計5回尾静脈内投与した。また抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗PD-1抗体の併用投与群およびコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は6匹とし、Day 43まで腫瘍体積を測定した。
【0156】
結果を
図3に示す。腫瘍体積3000mm
3を越えた時点をエンドポイントとした際のカプランマイヤー曲線を記載した。縦軸は生存率(%)、横軸は初回投与日からの日数を示している。コントロール群はDay 17から減数し、Day 24までに全例が安楽殺対象となった。これに対し、抗体-薬物コンジュゲート(1)群はDay 28から減数し、Day 43までに3例生存した。抗PD-1抗体群はDay 21から減数し、Day 43 までに2例が生存した。さらに、これら2剤の併用群はDay 43まで全例が生存した。またこの試験の全群においてマウスの体重減少は観察されなかった。以上より、両薬剤の単剤投与による抗腫瘍効果が確認され、2剤の併用によりその効果は飛躍的に増強されることが確認された。
【0157】
[評価例2:延命試験]
評価例1と同様に試験を実施した。なお、抗PD-1抗体は、5 mg/kgの用量でDays 0、3、7および10に計4回尾静脈内投与し、各群のマウス匹数は20 匹、Day 38まで腫瘍体積を測定した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-1抗体群の薬効の比較、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体群と両剤併用群の薬効の比較をカプランマイヤー法・ログランク検定(多群の比較)を用いて実施した。推定腫瘍体積が3000mm
3を超えた日(安楽殺した日)をイベント発生日(死亡日)とした。多重性調整済みのP値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
結果を
図4に示す。コントロール群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0001)。また、コントロール群と比較して、抗PD-1抗体群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0010)。さらに、抗体-薬物コンジュゲート(1)群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0006)。また、抗PD-1抗体群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P<0.0001)。
【0158】
[評価例3:再移植試験]
評価例1と同様に、CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに抗体-薬物コンジュゲート(1)を投与した。なお、移植後5日目に無作為群分けを実施した。これらのマウスのうち、腫瘍が完全に消失したマウスを選別した(以下、「抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス」と称する。)。また、コントロールとして無処置のマウスを用いた(以下、「コントロールマウス」と称する。)。
次に、抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウス、及び、コントロールマウスそれぞれの左腋窩部に5.0×10
6 cellsのCT26.WT-hHER2細胞、あるいはCT26.WT-mock細胞を皮下移植し(再移植、Day 0)、Day 17まで腫瘍体積を測定した。なお、各群のマウス匹数は9匹とした。
結果を
図5に示す。縦軸に腫瘍体積(mm
3)、横軸は再移植後からの日数を示している。コントロールマウスにCT26.WT-hHER2細胞、あるいはCT26.WT-mock細胞を再移植した場合は、それぞれ腫瘍の増殖が認められた。一方、抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウスにCT26.WT-hHER2細胞、あるいはCT26.WT-mock細胞を再移植した場合は、いずれも腫瘍の増殖がほとんど認められず、拒絶されることが認められた。以上より、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与により、腫瘍に対する免疫記憶が形成されることが確認された。
【0159】
[評価例4:ELISPOT解析]
Murine IFNγ Single-Color Enzymatic ELISPOT Assayを用いて実施した。評価例3で使用したマウスより脾臓を摘出し、脾臓細胞をCTL test mediumを用いて1.0 x 10
6 cells/mLに調製した。また、CT26.WT-hHER2細胞、及びCT26.WT-mock細胞のそれぞれを、10 μg/mLのマイトマイシンCで2時間処置し、洗浄後、細胞を回収してCTL test mediumを用いて1.0 x 10
6 cells/mLに調製し、抗原とした。脾臓細胞と抗原を各100μL/wellで抗IFNγ抗体コート済みPVDF-membraneプレートに添加し、24時間、37℃で共培養したのち、IFNγ産生脾臓細胞数を測定した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群との比較は、ウィルコクソンの順位和検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
結果を
図6から9に示す。CT26.WT-hHER2細胞を再移植した抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウスの脾臓細胞は、コントロールマウスの脾臓細胞と比較して、CT26.WT-hHER2細胞由来の抗原によって、有意に多いIFNγ産生脾臓細胞数が確認された(P=0.0012、
図6)。また、CT26.WT-mock細胞由来の抗原によっても、有意に多いIFNγ産生脾臓細胞数が確認された(P=0.0008、
図7)。
さらに、CT26.WT-mock細胞を再移植した場合においても、抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウスの脾臓細胞は、コントロールマウスの脾臓細胞と比較して、CT26.WT-hHER2細胞由来の抗原によって、有意に多いIFNγ産生脾臓細胞数が確認された(P=0.0116、
図8)。また、CT26.WT-mock細胞由来の抗原によっても、有意に多いIFNγ産生脾臓細胞数が確認された(P=0.0052、
図9)。
以上の結果から、抗体-薬物コンジュゲート(1)処置治癒マウスにおいて、ヒトHER2以外のCT26.WT細胞由来の抗原を認識するT細胞が誘導されていることが示唆された。
【0160】
評価例3及び4の結果から、抗体-薬物コンジュゲート(1)が、腫瘍に対する免疫記憶形成を促進する作用を有することが示された。また、その作用はHER2を発現している腫瘍のみならず、HER2を発現していない由来を同じくする腫瘍に対しても認められた。
【0161】
従って、本発明において使用される抗体-薬物コンジュゲートは、該抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現している腫瘍のみならず、同一個体内の該抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体に対する抗原を発現していない腫瘍に対しても免疫記憶形成を促進する作用を有することが示された。
【0162】
[評価例5:in vitro樹状細胞への作用評価]
BALB/cマウスを安楽殺後、大腿骨より骨髄細胞を分取し、10% FBS, 55 μM 2-メルカプトエタノール, 100 U/mLペニシリン, 100 U/mLストレプトマイシン, 1 mMピルビン酸ナトリウム, 1 × non-essential amino acid, 2 mM L-グルタミン, 10 ng/mLマウス GM-CSF含有RPMI 1640培地で11日間培養し、骨髄由来樹状細胞を誘導した。誘導した樹状細胞の培養液に、化合物(A)を0.0625 μM, 0.125 μM, 0.25 μM, 0.5 μM, 1 μMで添加した。また、コントロールとしてDMSOを化合物(A)と同量で添加した。24時間後にPacific Blue labeled anti-mouse CD45 Antibody (103126, BioLegend), PE labeled anti-mouse CD86 (B7-2) (553692, Becton Dickinson), APC labeled anti-mouse CD11c (550261, Becton Dickinson), FITC labeled anti-mouse MHC Class II (I-A/I-E) (11-5321-85, Thermo Fisher Scientific)を用いて染色し、FACS Canto IIにて解析を実施した。なお、死細胞はThermo Fisher Scientific社より購入したLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kitで染色し、解析から除外した。
【0163】
CD11c陽性細胞について、CD86及びMHC class IIの発現量をフローサイトメトリーにて測定した結果を
図10及び
図11に示す。コントロールであるDMSOと比較して、化合物(A)の処置によって、樹状細胞の成熟・活性化マーカーであるCD86及びMHC class IIの発現量がともに増加することが確認された。
【0164】
評価例5の結果から、化合物(A)が、樹状細胞を活性化する作用を有することが示された。
【0165】
[評価例6:腫瘍内樹状細胞解析]
評価例1と同様にCT26.WT-hHER2をマウスに移植後、8日後に無作為に群分けを実施した(Day 0)。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDays 0に尾静脈内投与した。コントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は7匹とし、Day 8にマウスを安楽殺後、腫瘍を摘出した。Miltenyi Biotec社より購入したTumor Dissociation Kit, mouseを用いて、腫瘍より単細胞懸濁液を調製し、評価例5と同様に染色、解析した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群との比較は、スチューデントのt検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0166】
結果を
図12から14に示す。
腫瘍内のCD45陽性細胞(リンパ球細胞)に占めるCD11c、MHC class II, CD45陽性細胞(樹状細胞、DC)が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図12)。
また、CD86(活性化マーカー)を発現している樹状細胞が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図13)。
さらに、MFI(mean fluorescence intensity)にて測定した樹状細胞上のCD86の発現量も、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図14)。
以上の結果より、担癌マウスに抗体-薬物コンジュゲート(1)を投与することにより、腫瘍内リンパ球に占める樹状細胞の数の増加、腫瘍内樹状細胞に占めるCD86陽性細胞の増加、樹状細胞上のCD86の発現量の増加が確認された。
【0167】
なお、評価例5の結果から、抗体-薬物コンジュゲート(1)から遊離される薬物である化合物(A)自体が、樹状細胞を活性化する作用を有することが示されている。化合物(A)が有する「樹状細胞を活性化する作用」は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートが有する「樹状細胞を活性化する作用」と共通の作用である。また、化合物(A)は、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートが癌細胞に移行した後に、本発明で使用される抗体-薬物コンジュゲートより生成する化合物である。従って、抗体部分が抗HER2抗体以外の抗体-薬物コンジュゲートであっても、同様な作用を有すると考えられる。
【0168】
[評価例7:腫瘍内がん細胞解析]
評価例6と同様に細胞懸濁液を調製後、PE labeled anti-human Her2/neu (340552, Becton Dickinson), APC labeled anti-mouse CD274 (B7-H1, PD-L1) (124312, BioLegend), FITC labeled anti-mouse H-2Dd (110606, BioLegend)で染色を実施し、がん細胞上のMHC class Iの発現量、及び、PD-L1の発現量をフローサイトメトリーにて測定した。なお、死細胞はThermo Fisher Scientific社より購入したLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kitで染色し、解析から除外した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群との比較は、スチューデントのt検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0169】
結果を
図15及び16に示す。
がん細胞(ヒトHER2陽性細胞)上のMHC class Iの発現量が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与により有意に増加することが確認された(
図15)。MHC class IはT細胞が、がん細胞を認識する際に必要な分子である。従って、抗体-薬物コンジュゲート(1)はがん細胞上のMHC class Iの発現量の増加を促進することにより、抗腫瘍免疫を活性化していることが示唆された。
また、がん細胞上のPD-L1の発現量も、抗体-薬物コンジュゲート(1)により有意に増加することが確認された(
図16)。PD-L1はT細胞上のPD-1に作用して、免疫抑制性のシグナルを入れることで知られている。従って、抗体-薬物コンジュゲート(1)はがん細胞上のPD-L1の発現量の増加を促進することで、抗腫瘍免疫を抑制していることが示唆され、PD-1抗体と併用することでその抑制性シグナルが解除され、より強い抗腫瘍効果を示すと考えられる。
【0170】
[評価例8:in vitroがん細胞解析]
CT26.WT-hHER2細胞の培養液に、化合物(A)を0.0625 μM, 0.125 μM, 0.25 μM, 0.5 μM, 1 μMで添加した。また、コントロールとしてDMSOを化合物(A)と同量で添加した。24時間後にPE labeled anti-human Her2/neu (340552, Becton Dickinson), FITC labeled anti-mouse H-2Dd (110606, BioLegend)で染色を実施し、がん細胞上のMHC class Iの発現量をフローサイトメトリーにて測定した。なお、死細胞はThermo Fisher Scientific社より購入したLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kitで染色し、解析から除外した。MHC class Iのmean fluorescence intensity(MFI)を算出し、染色した細胞におけるMFIからIsotype controlで処理した細胞におけるMFIを引いた値をadjusted MFIとした。コントロール群と化合物(A)群との比較は、ダネットの検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
結果を
図17に示す。
CT26.WT-hHER2細胞上のMHC class Iの発現量が化合物(A)によって有意に増加することが確認された(
図17)。従って、化合物(A)は、がん細胞上のMHC class Iの発現量の増加を促進することにより、抗腫瘍免疫を活性化していることが示唆された。
【0171】
[評価例9:ヌードマウスを用いた抗腫瘍試験]
マウス:6週齢の雌性BALB/c-nuマウス(CAnN.Cg-Foxn1[nu]/CrlCrlj〔Foxn1nu/Foxn1nu〕)(日本チャールス・リバー社)を実験に供した。
測定、計算式:腫瘍の長径および短径を電子式デジタルキャリパー(CD15-CX、株式会社ミツトヨ)で1週間に2回測定し、腫瘍体積(mm3)を計算した。計算式は以下に示すとおり。
腫瘍体積(mm3)=0.5×長径(mm)×[短径(mm)]2
腫瘍体積が3000 mm3を超えた個体については動物実験倫理の観点から安楽殺を行った。
【0172】
抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mL/kgの用量で尾静脈内投与した。
CT26.WT-hHER2細胞を生理食塩水に懸濁し、5.0×106 cellsをBALB/c-nuマウスの右腋窩部に皮下移植し、3日後に無作為に群分けを実施した(Day 0)。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDays 0および7に計2回尾静脈内投与した。コントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は12匹とし、Day 13まで腫瘍体積を測定した。
【0173】
結果を
図18に示す。縦軸は腫瘍体積(mm
3)、横軸は初回投与日からの日数を示している。BALB/cマウスにおいて認められた抗体-薬物コンジュゲート(1)投与による抗腫瘍効果はBALB/c-nuにおいて認められなかった。BALB/c-nuにおいて、T細胞及びB細胞の数が減少し、その機能も損なわれていることから、抗体-薬物コンジュゲート(1)の抗腫瘍効果にはこれらの細胞が重要な役割を担っていることが考えられた。
【0174】
[評価例10:抗腫瘍試験]
抗体-薬物コンジュゲート(1)投与群、コントロール抗体-薬物コンジュゲート投与群、及びコントロール群について、評価例1と同様の方法で、CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、腫瘍体積の推移を測定した。
マウス、ヒト由来の分子以外に結合するヒトIgG1抗体を用いたコントロール抗体-薬物コンジュゲート(Drug-to-Antibody Ratio: 7.8)は専用溶媒によって希釈して使用した。なお、群分けは移植5日後に実施した(Day 0)。コントロール抗体-薬物コンジュゲートおよび抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDays 0および7に計2回尾静脈内投与した。各群のマウス匹数は10匹とし、Day 10まで腫瘍体積を測定した。コントロール抗体-薬物コンジュゲート群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群の薬効の比較をウィルコクソンの順位和検定を用いて実施した。P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0175】
結果を
図19に示す。縦軸に腫瘍体積(mm
3)、横軸は初回投与日からの日数を示している。Day 10の時点において、コントロール抗体-薬物コンジュゲート群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0003)。以上より、抗体-薬物コンジュゲート(1)の抗腫瘍効果は、ターゲット依存的であることが確認された。
【0176】
[評価例11:抗腫瘍試験]
抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体(clone RMP1-14)それぞれの単剤投与群と併用群について、評価例1と同様の方法で、EMT6-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、腫瘍体積の推移を測定した。なお、EMT6-hHER2細胞は、American Type Culture Collection社より購入したマウス乳がん細胞株EMT6(CRL-2755)にレンチウイルスベクターを用いてヒトHER2遺伝子を導入することにより作成した。この細胞は細胞膜上にヒトHER2蛋白を発現している。EMT6-hHER2細胞を生理食塩水に懸濁し、1.0×106 cellsを5週齢のBALB/cマウスの右腋窩部に皮下移植し、移植4日後に無作為に群分けを実施した(Day 0)。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDay 0に1回尾静脈内投与した。抗PD-1抗体(clone RMP1-14)はD-PBS(-)(WAKO)で調製し、5.0 mg/kgの用量でDays 0、3、7および10に計4回尾静脈内投与した。また抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗PD-1抗体の併用投与群およびコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は11匹とし、Day 17まで腫瘍体積を測定した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-1抗体群の薬効の比較、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-1抗体群と両剤併用群の薬効の比較をダネットの検定(多群の比較)を用いて実施した。多重性調整済みのP値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0177】
結果を
図20に示す。縦軸に腫瘍体積(mm
3)、横軸は初回投与日からの日数を示している。Day 17の時点において、コントロール群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P<0.0001)。また、コントロール群と比較して、抗PD-1抗体群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P<0.0001)。さらに、抗体-薬物コンジュゲート(1)群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0136)。また、抗PD-1抗体群と比較して、併用群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0372)。またこの試験の全群においてマウスの体重減少は観察されなかった。以上より、両薬剤の単剤投与による抗腫瘍効果が確認され、2剤の併用によりその効果は飛躍的に増強されることが確認された。
【0178】
[評価例12:延命試験]
抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-L1抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、評価例1と同様の方法で、CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに対する延命効果を測定した。抗PD-L1抗体(clone 10F.9G2)はBio X Cell社から購入し、InVivoPure pH6.5 Dilution Buffer(Bio X Cell社)で希釈して使用した。移植6日後に無作為に群分けを実施し(Day 0)、抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDay 0および7に計2回尾静脈内投与した。抗PD-L1抗体は5 mg/kgの用量でDay 0および3に計2回尾静脈内投与した。また、抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗PD-L1抗体の併用投与群およびコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は15匹とし、Day 38まで腫瘍体積を測定した。推定腫瘍体積が3000 mm3を超えた日(安楽殺した日)をイベント発生日(死亡日)とし、コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-L1抗体群の生存時間の比較、抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-L1抗体群と両剤併用群の生存時間の比較をカプランマイヤー法・ログランク検定(多群の比較)を用いて実施した。多重性調整済みのP値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0179】
結果を
図21に示す。コントロール群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0069)。また、コントロール群と比較して、抗PD-L1抗体群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0037)。さらに、抗体-薬物コンジュゲート(1)群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0059)。また、抗PD-L1抗体群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0091)。また、この試験の全群においてマウスの体重減少は観察されなかった。以上より、両薬剤の単剤投与による抗腫瘍効果が確認され、2剤の併用によりその効果が増強されることが確認された。
【0180】
[評価例13:延命試験]
評価例11と同様の方法でEMT6-hHER2細胞をマウスに皮下移植し、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗PD-L1抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、評価例12と同様に延命効果を測定した。移植5日後に無作為に群分けを実施し(Day 0)、抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDay 0に1回尾静脈内投与した。抗PD-L1抗体は5 mg/kgの用量でDay 0および3に計2回尾静脈内投与した。また、抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗PD-L1抗体の併用投与群およびコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は6匹とし、Day 60まで腫瘍体積を測定した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-L1抗体群の生存時間の比較、抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗PD-L1抗体群と両剤併用群の生存時間の比較をカプランマイヤー法・ログランク検定(多群の比較)を用いて実施した。多重性調整済みのP値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0181】
結果を
図22に示す。コントロール群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0006)。また、コントロール群と比較して、抗PD-L1抗体群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0227)。さらに、抗体-薬物コンジュゲート(1)群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0039)。また、この試験の全群においてマウスの体重減少は観察されなかった。以上より、両薬剤の単剤投与による抗腫瘍効果が確認され、2剤の併用によりその効果が増強されることが確認された。
【0182】
[評価例14:in vivo CD4/8 depletion試験]
抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CD4抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、並びに、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CD8抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、評価例1と同様の方法で、CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、腫瘍体積の推移を測定した。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kg、depletion抗体である抗CD4抗体(Bio X Cell社、clone GK1.5) 及び抗CD8抗体(Bio X Cell社、clone 53.6.7)は投与直前にD-PBS(-)を用いて1 mg/mLに調製し、それぞれマウス対し200 μg/headでday0及び7に尾静脈内投与した。またコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。なお、群分けは移植後5日目(Day 0)に実施し、Day 11まで腫瘍体積を測定した。
【0183】
結果を
図23及び24に示す。Day 11における抗体-薬物コンジュゲート(1)群の腫瘍体積は651 mm
3、抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗CD4抗体併用群は561 mm
3であり、抗体-薬物コンジュゲート(1)の抗腫瘍効果にはCD4陽性細胞が寄与していないことが考えられた(
図23)。Day 11における抗体-薬物コンジュゲート(1)群の腫瘍体積は651 mm
3、抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗CD8抗体併用群は2247 mm
3であり、抗体-薬物コンジュゲート(1)の抗腫瘍効果にはCD8陽性細胞が寄与していることが考えられた(
図24)。なお、抗CD4抗体群、抗CD8抗体群について、一部個体が腫瘍体積3000mm
3を越えたため、試験途中で安楽殺を実施した。そのため、腫瘍の増殖曲線が安楽殺を実施した時点で途切れている。評価例9における免疫不全ヌードマウスを用いた腫瘍モデルにおいて、抗体-薬物コンジュゲート(1)の薬効の一部にT細胞又はB細胞が関与していることが示されており、さらに今回の結果を踏まえ、抗体-薬物コンジュゲート(1)の抗腫瘍効果にはCD8陽性T細胞が寄与していることが示唆された。
【0184】
[評価例15:腫瘍内T細胞解析]
CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに、抗体-薬物コンジュゲート(1)を投与した場合における、腫瘍内生細胞に占めるCD8陽性T細胞の割合、腫瘍内CD8陽性T細胞に占めるGranzyme B陽性細胞の割合、腫瘍内生細胞に占めるGranzyme B陽性のCD8陽性T細胞の割合、及び、腫瘍内生細胞に占めるCD4陽性T細胞の割合を、フローサイトメトリーにて測定した。評価例6と同様の方法で細胞懸濁液を調製後、Pacific Blue labeled anti-mouse CD45 antibody (103126, BioLegend), PE labeled anti-mouse CD3e antibody (553064, Becton Dickinson), PerCP/Cy5.5 labeled anti-mouse CD4 antibody (100434, BioLegend), PE-Cy 7 labeled anti-mouse CD8a antibody (552877, Becton Dickinson), Alexa FluorR 647 labeled anti-human/mouse Granzyme B antibody (515405, BioLegend)で染色を実施し、フローサイトメトリーにて測定した。なお、死細胞はThermo Fisher Scientific社より購入したLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kitで染色し、解析から除外した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群との比較は、スチューデントのt検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0185】
結果を
図25から28に示す。生細胞に占めるCD45、CD3、CD8陽性細胞(CD8陽性T細胞)の割合が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図25)。CD8陽性T細胞に占める、Granzyme B陽性細胞の割合が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図26)。生細胞に占めるGranzyme B陽性のCD8陽性T細胞の割合が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって有意に増加することが確認された(
図27)。生細胞に占めるCD45、CD3、CD4陽性細胞(CD4陽性T細胞)の割合が、抗体-薬物コンジュゲート(1)投与によって増加傾向ではあったが、その差は有意ではなかった(
図28)。
従って、抗体-薬物コンジュゲート(1)は腫瘍内CD8陽性T細胞を増加させ、またその活性化を促進することにより、抗腫瘍免疫を活性化していることが示唆された。
【0186】
[評価例16:CD8 IHC解析]
CT26.WT-hHER2細胞を皮下移植されたマウスに、抗体-薬物コンジュゲート(1)を投与した場合における、腫瘍内の単位面積当たりのCD8陽性細胞数をIHCにて測定した。評価例6と同様の方法で、コントロールおよび抗体-薬物コンジュゲート(1)を投与し、投与8日後に、マウスを安楽殺した。なお、各群のマウス匹数は5匹とし、その中央値である3匹の腫瘍を摘出、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液に浸潤し、パラフィンブロックを作製した。抗CD8抗体(クローン:4SM16)で染色し、NanoZoomer 2.0-HT(浜松ホトニクス)を用いて標本画像を取り込み、画像解析ソフトTissue Studio3.0(Definiens)にて組織全領域を対象に解析を実施した。
【0187】
結果を
図29及び30に示す。抗体-薬物コンジュゲート(1)によって、腫瘍内の単位面積当たりのCD8陽性細胞数が増加する傾向にあることが確認された。
[評価例17:in vitroがん細胞解析]
がん細胞を各種化合物で処置した場合における、MHC class Iの発現量を測定した。評価例8と同様の方法で、化合物(A)、DM1-SMe、DM4-SMe(J. Med. Chem. (2014),57,16,6949-6964)およびMMAE(Molecular Cancer Therapeutics (2011), 10, 9, 1728-1739)を20 nM, 100 nM, 500 nMで添加しがん細胞上のMHC class Iの発現量をフローサイトメトリーにて測定した。なお、実験はTriplicateで実施した。コントロール群と各濃度の薬剤群との比較は、ダネットの検定にて行い、P値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした(***: P<0.001, **: P<0.01)。
【0188】
結果を
図31に示す。検討した濃度(20 nM, 100 nM, 500 nM)の中では、評価した薬剤全てがコントロール群と比べて有意にCT26.WT-hHER2細胞上のMHC class I発現を上昇させることが確認された。その中でも、化合物(A)がCT26.WT-hHER2細胞上の最大のMHC class I発現上昇作用を示すことが確認された。
【0189】
[評価例18:抗腫瘍試験]
抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CTLA-4抗体それぞれの単剤投与群と併用群について、評価例11と同様の方法で、EMT6-hHER2細胞を皮下移植されたマウスにおける、腫瘍体積の推移を測定した。抗CTLA-4抗体(clone 9H10)はBio X Cell社から購入し、D-PBS(-)で希釈して使用した。なお、群分けは移植後5日目に実施した(Day 0)。抗体-薬物コンジュゲート(1)は10 mg/kgの用量でDay 0に1回尾静脈内投与した。抗CTLA-4抗体は5.0 mg/kgの用量でDays 0、3および7の計3回尾静脈内投与した。また抗体-薬物コンジュゲート(1)と抗CTLA-4抗体の併用投与群およびコントロール群として抗体-薬物コンジュゲート(1)の専用溶媒を投与する群を設定した。各群のマウス匹数は10匹とし、Day 14まで腫瘍体積を測定した。コントロール群と抗体-薬物コンジュゲート(1)群及び抗CTLA-4抗体群の薬効の比較、抗体-薬物コンジュゲート(1)及び抗CTLA-4抗体群と両剤併用群の薬効の比較をダネットの検定(多群の比較)を用いて実施した。多重性調整済みのP値は小数点以下4桁で記載し、P<0.05(両側検定)を有意とした。
【0190】
結果を
図32に示す。縦軸に腫瘍体積(mm
3)、横軸は初回投与日からの日数を示している。Day 14の時点において、コントロール群と比較して、抗体-薬物コンジュゲート(1)群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0011)。また、コントロール群と比較して、抗CTLA-4抗体群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0006)。さらに、抗体-薬物コンジュゲート(1)群と比較して、併用群は、有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0115)。また、抗CTLA-4抗体群と比較して、併用群は有意に優れた抗腫瘍効果を示した(P=0.0309)。以上より、両薬剤の単剤投与による抗腫瘍効果が確認され、2剤の併用によりその効果は飛躍的に増強されることが確認された。
【0191】
以上の実験結果から、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートは、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされて投与されることにより、飛躍的に優れた抗腫瘍効果を示すことが見出された。また、本発明に係る抗体-薬物コンジュゲートは、抗腫瘍免疫を活性化する作用を有することが示された。これにより、抗腫瘍効果と安全性面に優れる医薬組成物及び治療方法を提供することができる。
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
免疫チェックポイント阻害剤が、アテゾリズマブ、デュルバルマブ及びアベルマブ及びclone 10F.9G2からなる群より選択される抗PD-L1抗体である、請求項1-6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
抗体-薬物コンジュゲートと、免疫チェックポイント阻害剤が、それぞれ別異の製剤に有効成分として含有され、同時に又は異なる時間に投与されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか1項に記載の医薬組成物。