IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤンマー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-作業車両制御方法 図1
  • 特開-作業車両制御方法 図2
  • 特開-作業車両制御方法 図3
  • 特開-作業車両制御方法 図4
  • 特開-作業車両制御方法 図5
  • 特開-作業車両制御方法 図6
  • 特開-作業車両制御方法 図7
  • 特開-作業車両制御方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191390
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】作業車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20221220BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G05D1/02 H
A01B69/00 303A
A01B69/00 303F
G05D1/02 N
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164525
(22)【出願日】2022-10-13
(62)【分割の表示】P 2020159456の分割
【原出願日】2017-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 敏史
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
(57)【要約】
【課題】オペレータが自動走行の意思を有するか否か確認可能な作業車両制御方法を提供する。
【解決手段】作業車両制御方法は、作業車両を自律走行させることが可能な作業車両制御方法であって、作業車両の自律走行中に、作業車両が備える操作具の操作に関する条件を含むモード移行条件を満たすと、作業車両の自律走行を中断させる処理を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両を自律走行させることが可能な作業車両制御方法であって、
前記作業車両の自律走行中に、前記作業車両が備える操作具の操作に関する条件を含むモード移行条件を満たすと、前記作業車両の自律走行を中断させる処理を有する、
作業車両制御方法。
【請求項2】
前記操作具は、前後進切換レバーである、
請求項1に記載の作業車両制御方法。
【請求項3】
前記操作具の操作に関する条件は、前記前後進切換レバーが中立位置から前進位置又は後進位置に操作されることを含む、
請求項2に記載の作業車両制御方法。
【請求項4】
前記モード移行条件を満たして前記作業車両の自律走行を中断させた後に、前記操作具の操作に関する別条件を含む手動走行モード移行条件を満たすと、前記作業車両を手動走行させる処理を更に有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の作業車両制御方法。
【請求項5】
前記操作具は、ブレーキペダル、クラッチペダル、パーキングブレーキ、ステアリングハンドルの少なくとも1つである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の作業車両制御方法。
【請求項6】
前記作業車両の自律走行が可能な作業経路が特定されることを含む自律走行開始条件を満たすと、前記作業車両の自律走行を開始させる処理を更に有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の作業車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、走行経路に沿って作業車両を自律走行させることが可能な作業車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業車両を手動走行させる走行モードと、作業車両を自律走行(自動走行)させる走行モードと、を切換可能な作業車両が知られている。特許文献1は、この種の作業車両を開示する。
【0003】
特許文献1では、作業車両を手動走行させる走行モードから、作業車両を自律走行させる走行モードに移行させるための条件として、前後進切換手段が中立であることが必要であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-182453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、走行モードの切換時において前後進切換手段が中立であることが必要である場合、走行モードを切り換える度に作業車両を停止させる必要がある。従って、作業車両を手動走行させる走行モードから、作業車両を自律走行させる走行モードへスムーズに移行することができなかった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、作業車両を手動走行させる走行モードから、作業車両を自律走行させる走行モードへスムーズに移行する制御が可能であって、オペレータが自動走行の意思を有するか否か確認可能な作業車両制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に係る作業車両制御方法は、作業車両を自律走行させることが可能な作業車両制御方法であって、前記作業車両の自律走行中に、前記作業車両が備える操作具の操作に関する条件を含むモード移行条件を満たすと、前記作業車両の自律走行を中断させる処理を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置を備えるトラクタの全体的な構成を示す側面図。
図2】トラクタの平面図。
図3】無線通信端末を示す図。
図4】トラクタ及び無線通信端末の制御系の主要な構成を示すブロック図。
図5】走行モード種類及び走行モードの移行条件を示す説明図。
図6】自律走行が開始可能な作業経路を特定する処理を示すフローチャート。
図7】自律走行が開始可能な作業経路の候補を示す図。
図8】自律走行が開始可能な作業経路か否かを判断する条件を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下では、図面の各図において同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明を省略することがある。また、同一の符号に対応する部材等の名称が、簡略的に言い換えられたり、上位概念又は下位概念の名称で言い換えられたりすることがある。
【0010】
自律走行システムは、作業領域及び非作業領域内で1台又は複数台の作業車両を自律的に走行させて、作業の全部又は一部を実行させるものである。本実施形態では、作業車両としてトラクタを例に説明するが、作業車両としては、トラクタの他、田植機、コンバイン、土木・建設作業装置、除雪車等、乗用型作業機に加え、歩行型作業機も含まれる。本明細書において自律走行とは、トラクタが備える制御部(ECU)によりトラクタが備える走行に関する構成が制御されて予め定められた経路に沿ってトラクタが走行することを意味し、自律作業とは、トラクタが備える制御部によりトラクタが備える作業に関する構成が制御されて、予め定められた経路に沿ってトラクタが作業を行うことを意味する。なお、自律走行、自律作業時には、トラクタに人が乗っている場合と、トラクタに人が乗っていない場合が含まれる。これに対して、手動走行・手動作業とは、トラクタが備える各構成がユーザにより操作され、走行・作業が行われることを意味する。
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自律走行システム99に備えられるトラクタ1の全体的な構成を示す側面図である。図2は、トラクタ1の平面図である。図3は、無線通信端末46を示す図である。図4は、トラクタ1及び無線通信端末46の制御系の主要な構成を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、自律走行システム99に備えられるトラクタ1は、無線通信端末46との間で無線通信を行うことにより操作される作業車両である。ユーザが無線通信端末46を操作して、当該トラクタ1の制御部(作業車両制御装置)4との間で信号のやり取りを適宜行うことにより、トラクタ1を自律走行・自律作業させることができる。
【0013】
初めに、自律走行システム99に備えられるトラクタ1について、主として図1及び図2を参照して説明する。
【0014】
トラクタ1は、圃場(走行領域)内を自律走行することが可能な走行機体(車体部)2を備える。走行機体2には、図1及び図2に示す作業機3が着脱可能に取り付けられている。この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機があり、これらの中から必要に応じて所望の作業機3を選択して走行機体2に装着することができる。走行機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
【0015】
トラクタ1の構成について、図1及び図2を参照してより詳細に説明する。トラクタ1の走行機体2は、図1に示すように、その前部が左右1対の前輪(車輪)7,7で支持され、その後部が左右1対の後輪8,8で支持されている。
【0016】
走行機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内には、トラクタ1の駆動源であるエンジン10及び燃料タンク(図略)が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成してもよい。また、駆動源としては、エンジンに加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用してもよい。
【0017】
ボンネット9の後方には、ユーザが搭乗するためのキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、ユーザが操向操作するためのステアリングハンドル(操向操作具)12と、ユーザが着座可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作具と、が主として設けられている。ただし、トラクタ1等の作業車両は、キャビン11付きのものに限るものではなく、キャビン11を備えないものであってもよい。
【0018】
上記の操作具としては、図2に示すモニタ装置14、スロットルレバー15、主変速レバー27、複数の油圧操作レバー16、PTOスイッチ17、PTO変速レバー18、副変速レバー19、前後進切換レバー25、パーキングブレーキ26、作業機昇降スイッチ28、ブレーキペダル61、クラッチペダル62、及びアクセルペダル63等を例として挙げることができる。これらの操作装置は、座席13の近傍、又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
【0019】
モニタ装置14は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバー15は、エンジン10の回転速度を設定するための操作具である。主変速レバー27は、トラクタ1の走行速度を無段階で変更するための操作具である。油圧操作レバー16は、図略の油圧外部取出バルブを切換操作するための操作具である。PTOスイッチ17は、トランスミッション22の後端から突出した図略のPTO軸(動力取出軸)への動力の伝達/遮断を切換操作するための操作具である。即ち、PTOスイッチ17がON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチ17がOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止される。PTO変速レバー18は、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うための操作具である。副変速レバー19は、トランスミッション22内の走行副変速ギア機構の変速比を切り換えるための操作具である。前後進切換レバー25は、前進位置、中立位置、後進位置の間で切換可能に構成されている。前後進切換レバー25が前進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が前進する。前後進切換レバー25が中立位置に位置する場合、トラクタ1は前進も後進も行わない。前後進切換レバー25が後進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が後進する。パーキングブレーキ(制動操作具)26は、ユーザが手で操作して制動力を発生させる操作具であり、例えばトラクタ1をしばらく停車させる場合等に用いられる。作業機昇降スイッチ28は、走行機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するための操作具である。ブレーキペダル(制動操作具)61は、ユーザが足で操作して制動力を発生させる操作具である。クラッチペダル62は、ユーザが足でクラッチの伝達/非伝達を切り換える操作具である。アクセルペダル63は、エンジン10の回転速度を上昇させる操作具である。なお、アクセルペダル63の代えて又は加えて、アクセルレバーが配置されていてもよい。
【0020】
図1に示すように、走行機体2の下部には、トラクタ1のシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、トランスミッション22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
【0021】
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。トランスミッション22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、トランスミッション22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、トランスミッション22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
【0022】
図4に示すように、トラクタ1は、走行機体2の動作(前進、後進、停止及び旋回等)、走行モード(手動走行モード及び自律走行モード等)、並びに作業機3の動作(昇降、駆動及び停止等)を制御したり、経路に関する処理を行ったりするための制御部4を備える。従って、制御部4は、前後進を制御する前後進制御部4aと、走行モード制御部4bと、経路処理部4cと、を含んで構成されていることとなる。制御部4は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O等を備えて構成されており、CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。制御部4には、トラクタ1が備える各構成(例えば、エンジン10等)を制御するためのコントローラ、及び、他の無線通信機器と無線通信可能な無線通信部40等がそれぞれ電気的に接続されている。
【0023】
上記のコントローラとして、トラクタ1は少なくとも、図略のエンジンコントローラ、車速コントローラ、操向コントローラ及び昇降コントローラを備える。それぞれのコントローラは、制御部4からの電気信号に応じて、トラクタ1の各構成を制御することができる。
【0024】
エンジンコントローラは、エンジン10の回転速度等を制御するものである。具体的には、エンジン10には、当該エンジン10の回転速度を変更させる図略のアクチュエータを備えたガバナ装置41が設けられている。エンジンコントローラは、ガバナ装置41を制御することで、エンジン10の回転速度を制御することができる。また、エンジン10には、エンジン10の燃焼室内に噴射(供給)するための燃料の噴射時期・噴射量を調整する燃料噴射装置45が付設されている。エンジンコントローラは、燃料噴射装置45を制御することで、例えばエンジン10への燃料の供給を停止させ、エンジン10の駆動を停止させることができる。
【0025】
車速コントローラは、トラクタ1の車速を制御するものである。具体的には、トランスミッション22には、例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置である変速装置42が設けられている。車速コントローラは、変速装置42の斜板の角度を図略のアクチュエータによって変更することで、トランスミッション22の変速比を変更し、所望の車速を実現することができる。
【0026】
操向コントローラは、ステアリングハンドル12の回動角度を制御するものである。具体的には、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリングシャフト)の中途部には、操向アクチュエータ43が設けられている。この構成で、予め定められた経路をトラクタ1が走行する場合、制御部4は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を計算し、得られた回動角度となるように操向コントローラに制御信号を出力する。操向コントローラは、制御部4から入力された制御信号に基づいて操向アクチュエータ43を駆動し、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。
【0027】
昇降コントローラは、作業機3の昇降を制御するものである。具体的には、トラクタ1は、作業機3を走行機体2に連結している3点リンク機構の近傍に、油圧シリンダ等からなる昇降アクチュエータ44を備えている。この構成で、昇降コントローラは、制御部4から入力された制御信号に基づいて昇降アクチュエータ44を駆動して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、所望の高さで作業機3により農作業を行うことができる。この制御により、作業機3を、退避高さ(農作業を行わない高さ)及び作業高さ(農作業を行う高さ)等の所望の高さで支持することができる。
【0028】
なお、上述した図略の複数のコントローラは、制御部4から入力される信号に基づいてエンジン10等の各部を制御していることから、制御部4が実質的に各部を制御していると把握することができる。
【0029】
上述のような制御部4を備えるトラクタ1は、ユーザがキャビン11内に搭乗して各種操作をすることにより、当該制御部4によりトラクタ1の各部(走行機体2、作業機3等)を制御して、圃場内を走行しながら農作業を行うことができるように構成されている。また、トラクタ1は、ユーザがトラクタ1に搭乗している状態において、無線通信端末46により出力される所定の制御信号に基づいて自律走行及び自律作業をさせることが可能となっている。なお、トラクタ1は、ユーザがトラクタ1に搭乗していない状態であっても自律走行させる機能を有している。
【0030】
具体的には、図4等に示すように、トラクタ1は、自律走行・自律作業を可能とするための各種の構成を備えている。例えば、トラクタ1は、測位システムに基づいて自ら(走行機体2)の位置情報を取得するために必要な測位用アンテナ6等を備える。このような構成により、トラクタ1は、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得して、圃場上を自律走行することが可能となっている。
【0031】
次に、自律走行を可能とするためにトラクタ1が備える構成について、より詳細に説明する。具体的には、本実施形態のトラクタ1は、図4等に示すように、測位用アンテナ6、無線通信用アンテナ48、前方カメラ56、後方カメラ57、記憶部55、車速センサ53、及び舵角センサ52等を備える。また、これらに加えて、トラクタ1には、走行機体2の姿勢(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を特定することが可能な慣性計測ユニット(IMU)が備えられている。
【0032】
測位用アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。図1に示すように、測位用アンテナ6は、トラクタ1のキャビン11のルーフ92の上面に取り付けられている。測位用アンテナ6で受信された測位信号は、図4に示す位置検出部としての位置情報取得部49に入力される。位置情報取得部49は、トラクタ1の走行機体2(厳密には、測位用アンテナ6)の位置情報を、例えば緯度・経度情報として算出し、取得する。当該位置情報取得部49で取得された位置情報は、制御部4に入力されて、自律走行に利用される。
【0033】
なお、本実施形態ではGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムが用いられているが、これに限るものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。例えば、相対測位方式(DGPS)、又は静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS)を使用することが考えられる。
【0034】
無線通信用アンテナ48は、ユーザが操作する無線通信端末46からの信号を受信したり、無線通信端末46への信号を送信したりするものである。図1に示すように、無線通信用アンテナ48は、トラクタ1のキャビン11が備えるルーフ92の上面に取り付けられている。無線通信用アンテナ48で受信した無線通信端末46からの信号は、図4に示す無線通信部40で信号処理された後、制御部4に入力される。また、制御部4等から無線通信端末46に送信する信号は、無線通信部40で信号処理された後、無線通信用アンテナ48から送信されて無線通信端末46で受信される。
【0035】
前方カメラ56はトラクタ1の前方を撮影するものである。後方カメラ57はトラクタ1の後方を撮影するものである。前方カメラ56及び後方カメラ57はトラクタ1のルーフ92に取り付けられている。前方カメラ56及び後方カメラ57で撮影された動画データは、無線通信部40により、無線通信用アンテナ48から無線通信端末46に送信される。動画データを受信した無線通信端末46は、その内容をディスプレイ37に表示する。
【0036】
上記の車速センサ53は、トラクタ1の車速を検出するものであり、例えば前輪7,7の間の車軸に設けられる。車速センサ53で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、トラクタ1の車速は車速センサ53で検出せずに、測位用アンテナ6に基づいて所定距離におけるトラクタ1の移動時間に基づいて算出してもよい。舵角センサ52は、前輪7,7の舵角を検出するセンサである。本実施形態において、舵角センサ52は前輪7,7に設けられた図示しないキングピンに備えられている。舵角センサ52で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、舵角センサ52をステアリングハンドル12に備える構成としてもよい。
【0037】
記憶部55は、トラクタ1を自律走行させる走行経路や自律作業させる作業経路を記憶したり、自律走行中のトラクタ1(厳密には、測位用アンテナ6)の位置の推移(走行軌跡)を記憶したりするメモリである。その他にも、記憶部55は、トラクタ1を自律走行・自律作業させるために必要な様々な情報を記憶している。
【0038】
無線通信端末46は、図3に示すように、タッチパネル39を備えるタブレット型のパーソナルコンピュータとして構成される。ユーザは、無線通信端末46のディスプレイ37に表示された情報(例えば、前方カメラ56や、後方カメラ57や、車速センサ53等からの情報)を参照して確認することができる。また、ユーザは、上記のタッチパネル39、又はディスプレイ37の近傍に配置されたハードウェアキー38等を操作して、トラクタ1の制御部4に、トラクタ1を制御するための制御信号(例えば、一時停止信号等)を送信することができる。なお、無線通信端末46はタブレット型のパーソナルコンピュータに限るものではなく、これに代えて、例えばノート型のパーソナルコンピュータで構成することも可能である。また、トラクタ1にユーザが搭乗した状態でトラクタ1に自律走行・自律作業を行わせる場合は、トラクタ1側(例えばモニタ装置14)に無線通信端末46と同じ機能を持たせてもよい。
【0039】
このように構成されたトラクタ1は、無線通信端末46を用いるユーザの指示に基づいて、圃場上の走行経路Pに沿って走行しつつ、作業経路P1に沿って作業機3による農作業を行うことができる。
【0040】
具体的には、ユーザは、無線通信端末46を用いて各種設定を行うことにより、農作業を行う直線状又は折れ線状の作業経路P1と、当該作業経路P1の端同士を繋ぐ円弧状の旋回路(トラクタ1が旋回を行う非作業経路)P2と、を交互に繋いだ一連の経路としての走行経路(パス)Pを生成することができる(図7を参照)。そして、このようにして生成した走行経路(作業経路P1及び非作業経路P2)Pの情報を、トラクタ1の制御部4に電気的に接続された記憶部55に入力(転送)して所定の操作をすることにより、当該制御部4によりトラクタ1を制御して、当該トラクタ1を走行経路Pに沿って自律走行させながら、作業経路P1に沿って作業機3により自律作業させることができる。
【0041】
以下では、図3から図5までを参照して、無線通信端末46の構成についてより詳細に説明する。
【0042】
図3及び図4に示すように、本実施形態の無線通信端末46は、ディスプレイ37、ハードウェアキー38、及びタッチパネル39の他、制御系の主要な構成として、表示制御部31、記憶部32、圃場取得部33、作業領域取得部34、及び走行経路取得部35等を備える。
【0043】
具体的には、無線通信端末46は上述のとおりコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。また、前記ROMには、トラクタ1に自律走行・自律作業を行わせるための適宜のプログラムが記憶されている。このソフトウェアとハードウェアの協働により、無線通信端末46を、表示制御部31、記憶部32、圃場取得部33、作業領域取得部34、走行経路取得部35等として動作させることができる。
【0044】
表示制御部31は、ディスプレイ37に表示する表示用データを作成し、表示内容を適宜に制御する。例えば、表示制御部31は、トラクタ1を走行経路Pに沿って自律走行させながら作業経路P1に沿って自律作業させている間は、所定の監視画面、指示画面等をディスプレイ37に表示させる。
【0045】
記憶部32は、ユーザが無線通信端末46のタッチパネル39を操作することにより入力したトラクタ1に関する情報や圃場に関する情報等を記憶するとともに、作成された走行経路P(作業経路P1及び非作業経路P2)の情報等を記憶するメモリである。
【0046】
圃場取得部33は、トラクタ1が自律走行・自律作業を行う対象となる圃場(走行領域)の位置及び形状を記憶する。圃場の位置及び形状は、例えばユーザがトラクタ1に搭乗して圃場の外周に沿って1回り周回するように運転し、そのときの測位用アンテナ6の位置情報の推移を記録することで、取得することができる。圃場取得部33が取得した圃場の位置及び形状は、圃場情報として記憶部32に記憶される。
【0047】
作業領域取得部34は、トラクタ1が自律走行を行う対象の圃場内に配置される、農作業を行う作業領域の位置を設定するものである。具体的に説明すると、本実施形態の無線通信端末46においては、所定の操作をすることにより、枕地の幅と、非耕作地の幅と、を設定可能に構成されている。そして、枕地及び非耕作地からなる非作業領域が、上記の設定内容と、圃場取得部33で取得された圃場の位置及び形状と、に基づいて定められるとともに、圃場の領域から非作業領域を除いた領域が作業領域として定められる。
【0048】
走行経路取得部35は、圃場内においてトラクタ1が自律的に農作業を行う作業経路P1と、この作業経路P1の端同士を結ぶ非作業経路(旋回路)P2と、を交互に繋いだ走行経路Pを生成し、取得する。走行経路Pの生成に必要な情報をユーザがタッチパネル39等により入力すると、走行経路取得部35は、その情報に基づいて自動的に走行経路P(作業経路P1及び非作業経路P2)を作成する。この走行経路Pは、直線状又は折れ線状の作業経路P1が作業領域に含まれ、非作業経路(旋回路)P2が枕地等の非作業領域に含まれるように生成される。走行経路取得部35が生成した走行経路Pは、記憶部32に記憶される。
【0049】
ユーザは、無線通信端末46を適宜操作して、走行経路取得部35で生成された走行経路Pの情報をトラクタ1の記憶部55に入力(転送)する。その後、ユーザはトラクタ1に搭乗して運転することで、トラクタ1を走行経路Pの開始位置に配置する。続いて、ユーザがトラクタ1から降車して無線通信端末46を操作し、自律走行・自律作業の開始を指示する。これにより、トラクタ1が当該走行経路Pに沿って走行しながら作業経路P1に沿って農作業を行うように、制御部4がトラクタ1の走行及び農作業を制御する。
【0050】
次に、トラクタ1の走行モードを切り換える処理について図5から図8を参照して説明する。図5は、走行モード種類及び走行モードの移行条件を示す説明図である。図6は、自律走行が開始可能な作業経路を特定する処理を示すフローチャートである。図7は、自律走行が可能な作業経路の候補を示す図である。図8は、自律走行が可能な作業経路か否かを判断する条件を説明する図である。
【0051】
ユーザは、無線通信端末46のタッチパネル39を操作することにより、トラクタ1を手動走行モードから自動走行モードに切り換えたり、自動走行モードから手動走行モードに切り換えたりすることができる。なお、無線通信端末46ではなく、トラクタ1のモニタ装置14又は専用の操作具を操作することで、トラクタ1の手動走行モードと自動走行モードを切換可能であってもよい。ただし、ユーザが、手動走行モードと自動走行モードの切換えを指示した場合に無条件で切換えが行われる訳ではなく、他の条件を満たした後に切換えが行われる。
【0052】
具体的には、本実施形態のトラクタ1は、図5に示すように、手動走行実施モード、自律走行準備モード、第1自律走行実施モード、第2自律走行実施モード、手動走行準備モードと、が設定されている。この5つの走行モードのうち、手動走行実施モード及び自律走行準備モードでは、トラクタ1は手動走行を行う。また、第1自律走行実施モード、及び、第2自律走行実施モードでは、トラクタ1は自律走行を行う。また、手動走行準備モードでは、トラクタ1は、手動走行及び自律走行を行わず停止している。従って、手動走行実施モード及び自律走行準備モードを合わせて手動走行モードと称することがある。また、第1自律走行実施モード、及び、第2自律走行実施モードを合わせて自動走行モードと称することがある。
【0053】
なお、走行モードの分類方法は一例であり、図5に示す走行モードの何れかが省略されていてもよい。また、図5に示す5つ以外の走行モードが含まれていてもよい。例えば、自律走行準備モードから第1自律走行実施モードに移行するためには、複数の条件を満たす必要があるが、その一部を満たした状態を別の走行モードとして扱ってもよい。
【0054】
手動走行実施モードは、トラクタ1に手動走行を行わせるための走行モードである。自律走行準備モードは、手動走行実施モードから自律走行モードに移行する前に経由する走行モードである。自律走行準備モードでは、自律走行に切り換わる前であるため、トラクタ1は手動走行を行う。
【0055】
第1自律走行実施モード及び第2自律走行実施モードは、トラクタ1に自律走行を行わせるための走行モードである。自律走行準備モードから移行する場合は初めに第1自律走行実施モードとなる。第1自律走行実施モードにおいて、一定期間内に所定の処理(詳細は後述)が行われないと手動走行準備モード等を介して手動走行実施モードに移行する。つまり、第1自律走行実施モードは、期間限定の(仮の)自律走行モードであると言うことができる。これに対し、第2自律走行実施モードでは、手動走行実施モードに移行する指示、又は、明らかに手動走行を希望する操作等が行われない限り、走行モードが維持される。従って、第2自律走行実施モードは、正式な(本来の)自律走行モードであると言うことができる。手動走行準備モードは、自律走行モードから手動走行実施モードに移行する場合に経由する可能性がある走行モードである。手動走行準備モードでは、上述のように、トラクタ1は、手動走行及び自律走行を行わず停止している。
【0056】
次に、各走行モードの移行条件について詳細に説明する。各走行モードに関する制御は、制御部4の走行モード制御部4bによって行われる。
【0057】
初めに、手動走行実施モードから自律走行準備モードに移行するための条件である、第1モード移行条件について説明する。図3に示すように、第1モード移行条件には複数の条件項目が設定されているが、これらはand条件であり、複数の条件項目の全てが満たされた場合に、自律走行準備モードに移行する。具体的な条件項目としては、(a)エンジン回転速度が所定以上(例えばアイドリング速度以上)であること、(b)機器(センサ、アクチュエータ等)に異常が発生していないこと、が設定されている。
【0058】
条件(a)に関し、制御部4は、エンジン10に取り付けられておりクランク軸の回転に応じてパルスを出力するセンサ等の検出結果に基づいてエンジン回転速度を取得し、所定以上であるか否かを判定する。また、条件(b)に関し、制御部4は、トラクタ1に取り付けられた各種のセンサ等の検出結果に基づいて機器の異常を判定する。なお、機器の異常は、全ての機器の異常を判定してもよいが、自律走行を行う際に必要となる機器(位置情報取得部49、舵角センサ52等)についてのみ異常を判定してもよい。
【0059】
次に、自律走行準備モードから手動走行実施モードに移行するための条件である、第2モード移行条件について説明する。図3に示すように、上記の第1モード移行条件を満たさない場合、走行モードが手動走行実施モードに移行する。つまり、第1モード移行条件を満たして自律走行準備モードに移行した後、事後的に第1モード移行条件を満たさなくなった場合、手動走行実施モードに戻る。なお、第2モード移行条件は、第3モード移行条件よりも優先的に扱われる。つまり、仮に第2モード移行条件と第3モード移行条件の両方を満たす場合、第2モード移行条件の方が有効となり、手動走行実施モードに移行する。
【0060】
次に、自律走行準備モードから第1自律走行実施モードに移行するための条件である、第3モード移行条件について説明する。図3に示すように、第3モード移行条件には複数の条件項目が設定されているが、これらはand条件であり、複数の条件項目の全てが満たされた場合に、第1自律走行実施モードに移行する。具体的な条件項目としては、(a)前後進切換レバー25が前進位置又は中立位置に位置すること、(b)ブレーキペダル61、クラッチペダル62、及びパーキングブレーキ26が何れも操作されていないこと、(c)変速位置が所定よりも低速側であること、(d)舵角が所定角度以内であること、(e)自律走行が可能な経路を特定済みであること、(f)自律走行開始の指示があること、が設定されている。
【0061】
条件(a)~(c)に関し、制御部4は、各操作具(前後進切換レバー25、ブレーキペダル61、クラッチペダル62、パーキングブレーキ26、主変速レバー27、及び副変速レバー19)の操作状態を、各操作具に設けたセンサ又は各操作具が出力する電気信号等に基づいて取得して判定する。ここで、従来では、前後進切換レバー25が中立位置である場合にのみ、自律走行モードに移行可能であったため、トラクタ1を停止させないと手動走行モードから自動走行モードに移行できなかった。これに対し、本実施形態では、前後進切換レバー25が中立位置だけでなく、前進位置である場合においても、自律走行モード(第1自律走行実施モード)への移行条件を満たすこととなる(言い換えれば前後進切換レバー25が後進位置にある場合は自律走行モードへの移行条件を満たさない)。従って、トラクタ1を停止させることなく、手動走行モードから自律走行モードに移行することができる。なお、この場合、前後進切換レバー25が前進位置に位置している状態で自律走行モードに移行するため、その後に手動走行モードに移行した場合にユーザの意図なくトラクタ1が走行する可能性がある。従って、本実施形態のトラクタ1では、ユーザの意図なくトラクタ1が走行することを防止するために、様々な処理を行う。
【0062】
条件(d)に関し、制御部4は、舵角センサ52の検出結果に基づいて舵角を取得し、所定角度以内であるか判定する。
【0063】
条件(e)に関し、制御部4は、図6に示す処理を行って、自律走行が可能な作業経路が存在するか否かを判定する。初めに、制御部4(経路処理部4c)は、無線通信端末46と通信を行い、トラクタ1の現在位置に近い複数本(例えば5本)の作業経路P1を取得する(S101)。図7には、この処理で取得される作業経路P1を太線で示している。なお、手動走行モードと自律走行モードの切換えを適切に行うために、非作業経路P2(旋回経路)ではなく、作業経路P1(直線経路)のみを取得する(自律走行が可能な経路の候補とする)。
【0064】
次に、制御部4は、取得した作業経路P1について、以下の条件を全て満たす作業経路P1を抽出する(S102)。条件(1)は、作業経路P1とトラクタ1の距離(図8の距離L1)が所定以内であることである。図8に示す例では、トラクタ1の測位用アンテナ6の位置を基準としているが、別の位置(例えばトラクタ1の前端部の中心位置や作業機3の後端部の中心位置)を基準としてもよい。条件(2)は、作業経路P1の向きとトラクタ1の向きの差(図8の角度θ)所定以内であることである。作業経路P1及びトラクタ1は、ともに向きを有しているので、それらの向きを考慮して、角度θを算出する。条件(3)は、トラクタ1が作業領域にいる場合において、非作業領域(枕地)までの距離(図8に示す距離L2)が所定以内であることである。条件(4)は、トラクタ1が非作業領域にいる場合において、作業領域までの距離(図8に示す距離L3)が所定以内であることである。各条件の閾値(所定値)は任意であるが、条件(1)の閾値<条件(4)の閾値<条件(3)の閾値であることが好ましい。例えば、条件(1)の閾値は10cmであり、条件(2)の閾値は10°であり、条件(3)の閾値は10mであり、条件(4)の閾値は10mである。なお、それぞれの閾値は、これらの値±50%であってもよい。5つ目の条件は、条件(1)から条件(4)を所定時間継続して満たすことである。
【0065】
制御部4は、ステップS101で取得した全ての作業経路P1について条件(1)から条件(5)の判定を行う。なお、条件(3)及び条件(4)は、作業経路P1とは関係ない条件であるため、全ての作業経路P1毎に行わなくてもよい(特定の作業経路P1に対して1回だけ判定すればよい)。次に、制御部4は、上記の条件を満たす作業経路P1が抽出されたか否かを判定する(S103)。制御部4は、上記の条件を満たす作業経路P1が抽出されなかった場合、自律走行が可能なP1が存在しない旨を記憶する(S104)。この場合、第3モード移行条件を満たさなくなるため、第1自律走行実施モードに移行しない。
【0066】
一方、制御部4は、上記の条件を満たす作業経路P1が抽出された場合、作業経路P1が複数抽出されたか否かを判定する(S105)。制御部4は、作業経路P1が複数抽出されなかった場合(即ち、1つしか抽出されなかった場合)、抽出された作業経路P1を自律走行が可能な経路として記憶する(S106)。制御部4は、作業経路P1が複数抽出された場合、複数の作業経路P1のうち、走行経路Pの開始位置に最も近い作業経路P1を自律走行が可能な経路として記憶する(S107)。なお、開始位置に最も近い作業経路P1ではなく、例えば、トラクタ1との距離L1、及び、トラクタ1との向きの差の角度θの少なくとも一方の小ささに基づいて選択してもよい。
【0067】
第3モード移行条件の条件(f)に関し、制御部4は、無線通信端末46のタッチパネル39又はモニタ装置14へユーザが行った操作に基づいて、自律走行への切換えを指示しているか否かを判定する。
【0068】
手動走行モードから自動走行モードに移行するためには、第1モード移行条件と第3モード移行条件とを満たす必要があるため、これらを合わせたものが自律走行開始条件に相当する。
【0069】
次に、第1自律走行実施モードから第2自律走行実施モードに移行するための条件である、第4モード移行条件について説明する。具体的な条件項目としては、(a)前後進切換レバー25が中立位置に位置することが設定されている。つまり、本実施形態では、前後進切換レバー25が前進位置に位置していても自律走行モードに移行可能であるため、自律走行モードに移行した後に前後進切換レバー25を中立位置に変更することを待って、正式な自律走行モードである第2自律走行実施モードに移行させている。これにより、トラクタ1を停止させることなく自律走行に切換可能であるとともに、前後進切換レバー25が前進位置の状態で手動走行に切り換えられることを防止できる。なお、自律走行準備モードから第1自律走行実施モードに移行する際において、前後進切換レバー25が中立位置に位置している場合は、第1自律走行実施モードから即座に第2自律走行実施モードに移行する。なお、第1自律走行実施モード及び第2自律走行実施モードでは前後進切換レバー25の位置によらずに、トラクタ1の走行を制御しており、第4モード移行条件が成立しても、即ち、前後進切換レバー25が中立位置とされてもトラクタ1は停止せず、予め定められた経路に沿って自律走行を継続する。
【0070】
次に、第1自律走行実施モードから手動走行実施モードに移行するための条件である、第5モード移行条件について説明する。具体的な条件項目としては、(a)前後進切換レバー25が後進位置に位置することが設定されている。第1自律走行実施モードに移行した時点では、前後進切換レバー25は前進位置か中立位置に位置しているため、ユーザが前後進切換レバー25を操作しなければ条件(a)は満たされない。従って、条件(a)が満たされる場合、手動走行に戻したいというユーザの意思は明確であるため、手動走行実施モードに移行させる(自律走行モードを終了する)。
【0071】
次に、第1自律走行実施モードから手動走行準備モードに移行するための条件である、第6モード移行条件について説明する。図3に示すように、第6モード移行条件には複数の条件項目が設定されているが、これらはor条件であり、少なくとも1つの条件項目が満たされた場合に、手動走行準備モードに移行する。具体的な条件項目としては、(a)第1モード移行条件を満たさないこと、(b)ブレーキペダル61、クラッチペダル62、パーキングブレーキ26、ステアリングハンドル12の何れかが操作されたこと、(c)前後進切換レバー25が所定時間続けて前進位置であること、(d)経路までの距離、経路との向きの差が所定以上であること、(e)手動走行開始の指示があること、が設定されている。なお、第6モード移行条件は、第4及び第5モード移行条件よりも優先的に扱われる。つまり、仮に第4又は第5モード移行条件を満たす場合であっても、第6モード移行条件を満たせば、手動走行準備モードに移行する。
【0072】
条件(a)~(c)の判定方法については、上記と同様であるため説明を省略する。なお、条件(c)は、前後進切換レバー25が前進位置の状態で自律走行モードが継続することを防止するための条件項目である。条件(c)の所定時間は、例えば5秒であるが、3秒以上30秒以下の何れかの値であってもよい。また、第5モード移行条件において、前後進切換レバー25が操作された場合は、手動走行に戻したいというユーザの意思は明確であるため、手動走行モードに移行させたが、その他の操作具(ブレーキペダル61、クラッチペダル62、パーキングブレーキ26、ステアリングハンドル12)が操作されただけでは、手動走行に戻したいというユーザの意思は明確ではない。そのため、手動走行準備モードに移行させる。
【0073】
条件(d)において、経路との距離とは、作業経路P1とトラクタ1の距離である。また、経路との向きの差とは、作業経路P1とトラクタ1がなす角度である。これらの値が予め定められた値を超えた場合、条件(d)を満たすこととなる。
【0074】
条件(e)において、制御部4は、無線通信端末46のタッチパネル39又はモニタ装置14へユーザが行った操作に基づいて、手動走行への切換えを指示しているか否かを判定する。
【0075】
次に、第1自律走行実施モードから手動走行実施モードに移行するための条件である、第7モード移行条件について説明する。具体的な条件項目としては、(a)前後進切換レバー25が前進位置又は後進位置に位置することが設定されている。第2自律走行実施モードに移行した時点では、前後進切換レバー25は中立位置に位置しているため、ユーザが前後進切換レバー25を操作しなければ条件(a)は満たされない。従って、条件(a)が満たされる場合、手動走行に戻したいというユーザの意思は明確であるため、手動走行実施モードに移行させる。
【0076】
次に、第2自律走行実施モードから手動走行準備モードに移行するための条件について説明する。この条件は、第1自律走行実施モードから手動走行準備モードに移行するための条件と同じである。なお、第2自律走行実施モードでは、前後進切換レバー25を前進位置に位置させた時点で手動走行実施モードに移行するため、第6モード移行条件の条件(c)が満たされることはない。また、第1自律走行実施モードと同様に、第6モード移行条件は、第7モード移行条件よりも優先的に扱われる。
【0077】
次に、手動走行準備モードから手動走行実施モードに移行するための条件である、第8モード移行条件について説明する。図3に示すように、第8モード移行条件には複数の条件項目が設定されているが、これらはand条件であり、複数の条件項目の全てが満たされた場合に、手動走行実施モードに移行する。具体的な条件項目としては、(a)前後進切換レバー25が中立位置に位置すること、(b)車速が所定以下であることが設定されている。条件(a)を設けることにより、前後進切換レバー25が前進位置に位置している状態で手動走行に切り換えられることを防止できる。また、制御部4は、条件(b)について、車速センサ53の検出結果に基づいて判定している。
【0078】
このように、手動走行準備モードに移行した後は、第1自律走行実施モード又は第2自律走行実施モードに直接移行することができない。従って、第1自律走行実施モード又は第2自律走行実施モードにおいて、第6モード移行条件が満たされた場合、自律走行モードが終了し、その後に手動走行モードに移行する。
【0079】
本実施形態では、前後進切換レバー25を前進位置に位置させた状態で、手動走行から自律走行に切換可能であるため、トラクタ1を停止させずに自律走行への切換えを行うことができる。また、前後進切換レバー25を前進位置に位置させた状態で手動走行に切り換えられることを防止するために、第4モード移行条件の条件(a)、第8モード移行条件の条件(a)等を設けている。これにより、手動走行に切り換えられた場合においても、ユーザの意図に反してトラクタ1が走行することを防止できる。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ1の制御部4は、前後進制御部4aと、走行モード制御部4bと、を備える。前後進制御部4aは、トラクタ1の前後進を制御する。走行モード制御部4bは、トラクタ1が備える操作具(例えば、ブレーキペダル61、アクセルペダル63、副変速レバー19、及び主変速レバー27等)の操作に応じてトラクタ1の前後進が行われる手動走行モード、及び、操作具の操作に依らずにトラクタ1の前後進を制御する自律走行モードを少なくとも含む複数の走行モードから1の走行モードを実行する。走行モード制御部4bは、自律走行開始条件(第1モード移行条件と第3モード移行条件)を満たすことで、自律走行モードを実行する。トラクタ1が備える前後進切換レバー25は、少なくとも、前進位置、中立位置、及び後進位置の間で切換可能である。前後進切換レバー25が前進位置である場合において自律走行開始条件を満たすことが可能である。
【0081】
これにより、前後進切換レバー25が前進位置に位置していても自律走行開始条件を満たすので、トラクタ1を停止させることなく手動走行から自律走行に移行することができる。従って、手動走行から自律走行への切換をスムーズに行うことができる。
【0082】
また、本実施形態のトラクタ1の制御部4において、走行モード制御部4bは、前後進切換レバー25が前進位置に位置している状態で自律走行モードを実行した場合において、自律走行モードの実行後、所定時間の経過前に前後進切換レバー25が中立位置に変更されないときは、自律走行モードを終了する(手動走行準備モードを経由して手動走行実施モードに移行する)。
【0083】
これにより、前後進切換レバー25が前進位置に位置している状態で自律走行モードが継続することを防止できるので、再び手動走行へ戻す場合において、作業者の意図と関係なくトラクタ1が移動することを防止できる。
【0084】
また、本実施形態のトラクタ1の制御部4において、所定時間の経過前に前後進切換レバー25が中立位置に変更された場合は、前後進切換レバー25が中立位置から中立位置以外の位置に変更されたときに手動走行モードを実行する。所定時間の経過前に前後進切換レバー25が中立位置に変更されない場合は、(手動走行準備モードに移行し、この手動走行準備モードにおいては)前後進切換レバー25が中立位置に変更された後に手動走行モードを実行する。
【0085】
これにより、前後進切換レバー25が中立位置から他の位置に変更された場合は、手動走行に変更する意思が明確なため手動走行に移行することができる。これに対し、前後進切換レバー25が所定時間内に中立位置に変更されていない場合は、手動走行に変更すると、作業者の意図と関係なくトラクタ1が移動する可能性があるため、前後進切換レバー25を中立位置に変更した後に手動走行モードに移行する。
【0086】
また、本実施形態のトラクタ1の制御部4において、走行モード制御部4bは、所定時間中に所定時間の経過後にトラクタ1が備えるステアリングハンドル12、ブレーキペダル61、及びパーキングブレーキ26の少なくとも何れかが操作された場合は、(手動走行準備モードに移行し、この手動走行準備モードにおいては)前後進切換レバー25が中立位置に変更された後に手動走行モードを実行する。
【0087】
これにより、前後進切換レバー25の操作は手動走行への切換えの意思が明確であるが、ステアリングハンドル12、ブレーキペダル61、及びパーキングブレーキ26の操作では手動走行への切換えの意思が明確ではないため、前後進切換レバー25が中立位置に変更された後に手動走行モードに移行することで、作業者の意図を考慮したモード切換が実現される。
【0088】
また、本実施形態のトラクタ1の制御部4は、トラクタ1の位置情報を取得する位置情報取得部49から、当該トラクタ1の位置情報を取得可能である。トラクタ1は、複数の作業経路と複数の非作業経路を含む走行経路を生成又は取得する処理を行う経路処理部4cを備える。自律走行開始条件には、トラクタ1の現在位置情報と走行経路に基づいて、トラクタ1の自律走行が可能な作業経路が特定されたことが含まれる。
【0089】
これにより、自律走行が可能な経路が存在する場合にのみ自律走行モードに移行されるため、合理的な処理が行われることとなる。
【0090】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0091】
上記実施形態で説明した様々な条件の条件項目は一例であり、少なくとも1つの条件項目が追加、削除、又は変更されていてもよい。例えば、本実施形態では、ユーザがトラクタ1に搭乗した状態で手動走行から自律走行に切り換えられることが前提となっているため、ユーザがトラクタ1に搭乗していることを第1モード移行条件の条件項目に含めてもよい。なお、ユーザがトラクタ1に搭乗していることは、例えば座席13に設けた荷重センサ等によって検出できる。
【0092】
また、上記実施形態では、第6モード移行条件に、第1モード移行条件を満たさないことが含まれており、手動走行実施モードから自律走行準備モードへの移行条件と、第1又は第2自律走行実施モードから手動走行準備モードへの移行条件とが、一部共通する条件となっているが、両者は異なる条件であってもよい。即ち、手動走行実施モードから自律走行準備モードへの移行条件は自律走行を許可する条件(自律走行許可条件)である一方、第1又は第2自律走行実施モードから手動走行準備モードへの移行条件は自律走行を禁止する条件(自律走行禁止条件)であってよい。その場合、例えば、上述したようにトラクタ1が荷重センサを備える場合、自律走行許可条件には荷重センサがONであることが含まれる一方、自律走行禁止条件には荷重センサがONであることが含まれないこととしてもよい。荷重センサはトラクタ1の振動等によりユーザの体が浮き、一時的に荷重センサがOFFとなり得るためである。ただし、荷重センサがOFFの期間が所定時間(例えば5秒)続いた場合には、トラクタ1からユーザが降車したと判断し、手動走行準備モードに移行することとしてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、前後進切換レバー25が前進位置に位置している状態で第1自律走行実施モードへの移行した場合において、所定時間の経過後に前後進切換レバー25を中立位置に変更させたときは、手動走行準備モードを経由して手動走行モードへ移行する。これに代えて、所定時間の経過後に前後進切換レバー25を中立位置に変更させた場合に、自律走行モードを維持する構成であってもよい。また、第1自律走行実施モード又は第2自律走行実施モードでは、何らかの異常(例えばユーザの非搭乗の検出)があった場合において、当該異常が早期に解消したときは、第1自律走行実施モード又は第2自律走行実施モードに戻す構成であってもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、第1自律走行実施モード又は第2自律走行実施モードから手動走行準備モードに移行した場合、第8モード移行条件の成立に伴って手動走行実施モードに移行することとしたが、特定の条件下では、手動走行準備モードにおいて第9モード移行条件の成立に伴って第2自律走行実施モードに移行することとしてもよい。ここで特定の条件下とは、第2自律走行実施モードにおいて、第6モード移行条件の内、上記(c)の条件(ブレーキペダル61、クラッチペダル62、パーキングブレーキ26、ステアリングハンドル12の何れかが操作されたこと)が成立したことにより手動走行準備モードに移行したことである。また、第9モード移行条件とは、前後進切換レバー25が中立位置であって、かつ、無線通信端末46のタッチパネル39の操作に基づいて自律走行の再開が指示されることである。
【0095】
上記実施形態では、前後進切換操作具として、レバー形状の前後進切換レバー25を例に挙げて説明したが、異なる形状(スライドスイッチ形状等)の前後進切換操作具を用いることもできる。また、前後進切換レバー25は、前進位置、後進位置、及び中立位置の3つに切換可能であるが、更に別の位置に切換可能であってもよい。また、前後進切換レバー25は、前後進の切換えを指示する操作具であるが、変速と前後進の切換えの両方を指示可能な操作具であってもよい。この場合、前進位置が複数存在することとなるが、低速側の前進位置に位置している場合のみにおいて自律走行モードに切換可能であってもよいし、全ての前進位置に位置している場合において自律走行モードに切換可能であってもよい。
【0096】
上記実施形態では、無線通信端末46の走行経路取得部35が走行経路の生成を行い、制御部4の経路処理部4cがその一部又は全部の経路を取得する構成であるが、経路処理部4cが走行経路の生成を行ってもよい。また、無線通信端末46ではなく、トラクタ1が備えるモニタ装置14が走行経路の生成を行ってもよい。
【0097】
<発明の付記>
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両制御装置が提供される。即ち、作業車両制御装置は、前後進制御部と、走行モード制御部と、を備える。前記前後進制御部は、前記作業車両の前後進を制御する。前記走行モード制御部は、前記作業車両が備える操作具の操作に応じて前記作業車両の前後進が行われる手動走行モード、及び、前記操作具の操作に依らずに前記作業車両の前後進を制御する自律走行モードを少なくとも含む複数の走行モードから1の走行モードを実行する。前記走行モード制御部は、自律走行開始条件を満たすことで、前記自律走行モードを実行する。前記作業車両が備える前記前後進切換操作具は、少なくとも、前進位置、中立位置、及び後進位置の間で切換可能である。前記前後進切換操作具が前進位置である場合において前記自律走行開始条件を満たすことが可能である。前記走行モード制御部は、前記前後進切換操作具が前進位置に位置している状態で前記自律走行モードを実行した場合において、前記自律走行モードの実行後、所定時間の経過前に前記前後進切換操作具が中立位置に変更されないときは、前記自律走行モードが終了する旨の警告を発する。
【0098】
これにより、前後進切換操作具が前進位置に位置していても自律走行開始条件を満たすので、作業車両を停止させることなく手動走行から自律走行に移行することができる。加えて、オペレータの意思によって自律走行へ移行したことを確認することができる。従って、手動走行から自律走行への切換をスムーズに行うことができ、安全性を高めることができる。
【0099】
前記の作業車両制御装置においては、前記走行モード制御部は、前記所定期間の経過前に前記前後進切換操作具が中立位置に変更されたときは、前記自律走行モードを継続する。
【0100】
これにより、前後進切換操作具が中立位置に位置している状態で自律走行モードを継続することができるので、作業者の意図と関係なく作業車両が移動することを防止できる。
【0101】
前記走行モード制御部は、前記所定期間の経過前に前記前後進切換操作具が中立位置に変更されないときは、前記自律走行モードを終了する。
【0102】
これにより、前後進切換操作具が前進位置に位置している状態で自律走行モードが継続することを防止できるので、再び手動走行へ戻す場合において、作業者の意図と関係なく作業車両が移動することを防止できる。
【符号の説明】
【0103】
1 トラクタ(作業車両)
4 制御部(作業車両制御装置)
4a 前後進制御部
4b 走行モード制御部
4c 経路処理部
25 前後進切換レバー(前後進切換操作具)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8