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特開2022-191410全身においてタンパク質を発現させるためのプラットフォームとしての遺伝子工学操作された造血幹細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191410
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】全身においてタンパク質を発現させるためのプラットフォームとしての遺伝子工学操作された造血幹細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20221220BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20221220BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20221220BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N5/078
A61K35/28
A61K35/15
A61P31/12
A61P37/06
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022165339
(22)【出願日】2022-10-14
(62)【分割の表示】P 2020538655の分割
【原出願日】2019-01-11
(31)【優先権主張番号】18305026.9
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アメンドーラ,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】パヴァーニ,ジュリア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】処置されるべき疾患を軽減するのに十分に高いレベルでの、関心対象のあらゆる治療用タンパク質又は治療用リボ核酸の高い転写を可能とする、新規で安全な治療プラットフォームを提供する。
【解決手段】造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子に、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含み、該導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれている、遺伝子的に改変された造血幹細胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子に、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含む、遺伝子的に改変された造血幹細胞(該導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれ、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’領域、3’非翻訳領域(3’UTR)及び/又はイントロンに含まれている)。
【請求項2】
治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’領域及び/又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、請求項1記載の造血幹細胞。
【請求項3】
治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)及び/又は近位プロモーター及び/又は第2イントロン(IVS2)に含まれ、好ましくは、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)又は近位プロモーター又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、請求項1又は2記載の造血幹細胞。
【請求項4】
前記造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子が、εグロビン遺伝子、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、ζグロビン遺伝子、偽ζグロビン遺伝子、μグロビン遺伝子、偽α1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、特に、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、より特定すると、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の造血幹細胞。
【請求項5】
前記造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子が、α1グロビン遺伝子及び/又はα2グロビン遺伝子であり、特にα1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子であり;治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(UTR)に又はイントロンに含まれ、特に5'非翻訳領域(UTR)に又は第2イントロン(IVS2)に含まれ;及び/又は、
前記造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子が、βグロビン遺伝子であり、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、請求項1~4のいずれか一項記載の造血幹細胞。
【請求項6】
コードされている治療用タンパク質が、サイトカイン、特にインターフェロン、より特定するとインターフェロン-α、インターフェロン-β、又はインターフェロン-pi;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディーズを含む);血管新生抑制因子;補充療法用の酵素、例えばアデノシンデアミナーゼ、αグルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ、及びβ-グルコシダーゼ;インターロイキン;インシュリン;顆粒球コロニー刺激因子;顆粒球単球コロニー刺激因子;ヒト多分化能性顆粒球コロニー刺激因子;マクロファージコロニー刺激因子;血液凝固因子、例えば第VIII因子、第IX因子、又は組織プラスミノーゲン活性化因子;膜貫通タンパク質、例えば神経成長因子受容体(NGFR);ライソゾーム酵素、例えばα-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、ライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)及びガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS);改変されていない細胞によって分泌され最終的に取り込まれるように工学操作され得る任意のタンパク質、及びその組合せからなる群より選択され、好ましくは、血液凝固因子、より好ましくは第VIII因子;又はライソゾーム酵素、特にライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)又はガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)である、請求項1~5のいずれか一項記載の造血幹細胞。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の遺伝子的に改変された造血幹細胞を起源とする血液細胞。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項記載の少なくとも1つの遺伝子的に改変された造血幹細胞及び/又は請求項7記載の少なくとも1つの血液細胞を薬学的に許容される媒体に含む、医薬組成物。
【請求項9】
(i)(a)該造血幹細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸、又は(2)選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼを与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子に位置する);
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程a)で与えられると、該幹細胞にさらに、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼを与える工程;及び
(c)該幹細胞にさらに、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子を与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;並びに
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
(該標的部位は好ましくは、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'領域に及び/又はイントロンに、特に前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に及び/又は近位プロモーターに及び/又はイントロンに、好ましくは前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に位置し、特に、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれている)
を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の造血幹細胞のエクスビボ又はインビトロでの調製法、特にエクスビボ又はインビトロでの調製法。
【請求項10】
該方法が、(i)(a)該造血幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子に位置する);
(b)該幹細胞に、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに与える工程;及び
(c)該幹細胞に、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子をさらに与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;並びに
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼが、クリスパー(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)である、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
1つ以上のガイド核酸が、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’領域及び/又はイントロン、特に5'非翻訳領域(5'UTR)及び/又は近位プロモーター及び/又はイントロン、好ましくは5'非翻訳領域(5'UTR)及び/又は近位プロモーター及び/又は第2イントロン(IVS2)内の、特に造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5'UTR)又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、標的部位を認識する、ガイドRNAである、請求項9~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
医薬品としての使用のための、請求項1~6のいずれか一項記載の造血幹細胞、請求項7記載の血液細胞、又は請求項8記載の医薬組成物。
【請求項14】
自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって、それを必要とする個体において引き起こされる疾患
の処置に使用するための、請求項1~6のいずれか一項記載の造血幹細胞、請求項7記載の血液細胞、又は請求項8記載の医薬組成物。
【請求項15】
それを必要とする個体における、免疫寛容を誘導するために使用するための、請求項1~6のいずれか一項記載の造血幹細胞、請求項7記載の血液細胞、又は請求項8記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ゲノム工学による治療処置の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、遺伝子的に改変された造血幹細胞及び医薬品としてのその使用に関する。
【0003】
発明の背景
様々な医学の分野における多くの異常、疾患、及び病的容態は、治療用タンパク質の全身注射によって処置することができる。このような治療用タンパク質は実際に、それを必要とする個体における、不十分な又は機能していない内因性タンパク質を補うことができるか、腫瘍若しくはウイルスの表面上の標的タンパク質に結合することができるか、又は毒素などの化学物質に結合することができる。
【0004】
このような障害は、関心対象のタンパク質の頻回投与によって対処することができる可能性があるが、より最近の方法は、このような疾患の処置のための治療用分子をコードしている核酸の送達を可能とする。治療用タンパク質をコードしている核酸の送達、すなわち遺伝子療法は実際に、治療用タンパク質それ自体の投与を必要とする従来の治療法を上回る有意な利点を提供する可能性を有する。有意な利点の中でも、遺伝子療法は、患者の細胞内における治療用タンパク質の長期かつ調節された発現を可能とする。一定レベルのタンパク質発現(より良好な薬物動態)により、処置のより高い有効性及びより少ない副作用が得られ、投与可能なタンパク質組成物にさもなくば含有されている可能性のある毒性不純物及び感染性不純物を避けられる。
【0005】
核酸は通常、ベクターを使用して送達され、その中の大半のベクターは改変されて、元来の疾患を引き起こす遺伝子が除去され、該遺伝子が、治療用分子(群)をコードしている核酸によって置換されているウイルスベクターである。
【0006】
しかしながら、この技術は多くのリスクも呈し、その中には、目的ではない細胞の標的化(ウイルスは1種類の細胞に対して特異的であることは稀であるため);新規な治療用遺伝子が細胞のDNAにランダムに挿入される場合、挿入突然変異誘発及び遺伝子トランス活性化の可能性;該ウイルスのタンパク質に対する望ましくない免疫応答(これにより、感染細胞の炎症及び破壊が起こり得る);及び、場合によっては、ウイルスは、一旦個体の生体内に導入されると、疾患を引き起こすその元来の能力をなんとかして回復しようとする、がある。
【0007】
この技術はさらに、多くの欠点も呈する。例えば、アデノ随伴ウイルス及びアデノウイルスが、関心対象の導入遺伝子の送達に使用される場合、頑強なエピソームでの複製がないことにより、有糸分裂の活発な組織における発現の持続は制限される場合がある。さらに、導入遺伝子の組込みにより、複製によりもたらされる損失は避けられるが、導入遺伝子に融合させた外来性プロモーターの最終的なサイレンシングは防げない。時間と共に、このようなサイレンシングにより、大半のランダムな挿入事象において、導入遺伝子発現は低下する。さらに、導入遺伝子の組込みが、あらゆる標的細胞に起こることは稀であり、これにより、所望の治療効果を達成するのに十分に高い関心対象の導入遺伝子の発現レベルを達成することは困難となり得る。
【0008】
近年、部位特異的ヌクレアーゼを用いたゲノムDNA切断を使用して、選択された遺伝子座への挿入に片寄らせる、導入遺伝子の組込みのための新規な戦略が開発されている。1つのアプローチは、導入遺伝子のその同族遺伝子座への組込み、例えば、野生型導入遺伝子の内因性遺伝子座への挿入による、突然変異遺伝子の修復に関わる。あるいは、導入遺伝子は、永久的で安全で非常に高いレベルの導入遺伝子の発現などの、その有益な特性のために特に選択された非同族遺伝子座に挿入されてもよい。例示的には、Sharma et al.(Blood, 2015; 126(15), 1777-1784)は、肝臓へのインビボでのアデノ随伴ウイルスによる送達により、ジンクフィンガーヌクレアーゼアプローチを使用することによる、アルブミン遺伝子内への第VIII因子導入遺伝子の組込みを成し遂げた。
【0009】
より安全でより制御された処置を可能とするために、細胞にエクスビボ又はインビトロで、関心対象の治療用ペプチドをコードしている核酸を感染させ得る。その後、これらの細胞を、それを必要とする個体に投与し、遺伝子送達システムの役割を果たすことができる(例えば、特許出願の国際公開公報第1999056785号参照)。
【0010】
興味深いが、ゲノム編集は依然として、アデノ随伴ウイルスキャプシドに対する抗体の存在、及び肝障害の既往歴(これにより、かなりの割合の患者に対する処置が除外される)(Boutin S. et al., Hum. Gene Ther., 2010; 21(6): 704-712);インビボにおける合成ヌクレアーゼの長期発現(これにより、有害な目的としないゲノム切断が起こり得、形質導入された肝細胞に対する免疫応答がトリガーされる可能性がある)などの、様々な制約によって抑制されている。
【0011】
さらに、典型的なゲノム編集アプローチは疾患遺伝子座それ自体を標的化するものであるが、修正された対立遺伝子の数が少ないために、疾患表現型を軽減するには不十分なタンパク質レベルとなる場合がある。このような限界を克服するために、関心対象の治療用分子(群)をコードしている核酸を、高い転写活性が賦与されかつ揺らいでいる内因性遺伝子活性の観点から「安全である」ゲノム遺伝子座に組み込むことができる(Sadelain et al., Nat. Rev. Cancer, 2011 Dec 1;12(1):51-8)。
【0012】
通常の造血では、健康な個体において1日あたり2.4×1011個の赤血球が生じているので、成熟赤血球のグロビン合成能(約7.2g/日)の一部を、赤血球の通常の機能及び恒常性を妨げることなく、分泌タンパク質の産生に向け直すことが提案されている。
【0013】
多数の赤血球が発現されていること及びグロビンプロモーターの強力な転写能から、少数の赤芽球の修正でさえ(7%未満;A. H. Chang et al., Molecular Therapy. 16, 1745-1752 (2008); M. Sadelain et al., Molecular Therapy. 17, 1994-1999 (2009); A. H. Chang Nat Biotechnol. 24(8):1017-21 (2006))、治療閾値を上回る強力な第IX因子導入遺伝子発現レベルが得られ、血友病Bにとって臨床利点がもたらされる。さらに、赤血球系に限定された第IX因子発現はまた、タンパク質によるチャレンジ後でさえも、処置マウスにおいて第IX因子に対する免疫寛容を誘導することができた。
【0014】
この考えによると、免疫寛容化はまた、赤血球系によるアデノシンデアミナーゼ、α-L-イズロニダーゼ及び抗体の発現についても報告されている(C. A. Montiel-Equihua, A. J. Thrasher, Curr. gene Ther. 2012 Feb 1; 12(1):57-65及びD. Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2009 and 2013; Huang N.J. Nat Commun. 8(1):423. (2017))。
【0015】
これらのアプローチは、潜在的な臨床への適用可能性を有しているが、それらは全て、治療用導入遺伝子の送達及び組込みのための、ウイルスベクターの使用を伴うという同じ欠点に直面している:
i)組込み部位における遺伝子不活化及び異常/キメラ転写物の生成を主に伴う、挿入突然変異誘発のリスク(A. Moiani et al., J. Clin. Invest. 122, 1653-1666 (2012))、並びに強力なエンハンサー/プロモーター配列が存在する場合には隣接遺伝子の転写トランス活性化のリスク(P. W. Hargrove et al., Molecular Therapy, 16, 525-533 (2008));及び
ii)送達ベクターの制約(例えばサイズの限界)及び異なるクロマチン環境への組込み(この結果、予測不可能な発現パターンが生じる)に因り、生理学的に複雑な内因性プロモーターの調節を部分的にしか再現できないという、人工プロモーターの限界(W. Akthar et al., Cell, 154, 914-927 (2013))。
【0016】
したがって、処置されるべき疾患を軽減するのに十分に高いレベルでの、関心対象のあらゆる治療用タンパク質又は治療用リボ核酸の高い転写を可能とする、新規で安全な治療プラットフォームを設計する必要がある。
【0017】
発明の要約
本発明の第一の目的は、造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子に、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含む、遺伝子的に改変された造血幹細胞に関し、該導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれている。
【0018】
特定の実施態様では、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’領域に、3’非翻訳領域に及び/又はイントロンに含まれている。より特定すると、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5'UTR)に及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に含まれ得、好ましくは前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5'UTR)に又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれ得る。
【0019】
別の特定の実施態様では、前記造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子は、εグロビン遺伝子、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、ζグロビン遺伝子、偽ζグロビン遺伝子、μグロビン遺伝子、偽α1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、特にγGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、より特定すると、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0020】
さらなる実施態様では、コードされる治療用タンパク質は、サイトカイン、特にインターフェロン、より特定するとインターフェロン-α、インターフェロン-β、又はインターフェロン-pi;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディーズを含む);血管新生抑制因子;補充療法用の酵素、例えばアデノシンデアミナーゼ、αグルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ(異名IDUA)、及びβ-グルコシダーゼ;インターロイキン;インシュリン;顆粒球コロニー刺激因子;顆粒球単球コロニー刺激因子;ヒト多分化能性顆粒球コロニー刺激因子;マクロファージコロニー刺激因子;血液凝固因子、例えば第VIII因子、第IX因子、又は組織プラスミノーゲン活性化因子;膜貫通タンパク質、例えば神経成長因子受容体(NGFR);ライソゾーム酵素、例えばα-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、ライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)及びガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS);改変されていない細胞によって分泌され最終的に取り込まれるように工学操作され得る任意のタンパク質(例えば、Lawlor MW, Hum Mol Genet. 22(8): 1525-1538. (2013); Puzzo F, Sci Transl Med. 29; 9(418) (2017); Bolhassani A. Peptides. 87:50-63., (2017))、及びその組合せからなる群より選択され、好ましくは、血液凝固因子、より好ましくは第VIII因子;又はライソゾーム酵素、特にライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)又はガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)である。
【0021】
本発明の別の目的は、造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子にフランキングしている遺伝子間領域に、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含んでいる、遺伝子的に改変された造血幹細胞に関し、該導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれている。
【0022】
この実施態様によると、少なくとも1つのグロビン遺伝子及びコードされている治療用タンパク質は、上記に定義された通りであってもよい。
【0023】
別の実施態様では、本明細書に記載の幹細胞は哺乳動物細胞、特にヒト細胞である。
【0024】
本発明の別の目的は、本明細書に記載のような遺伝子的に改変された造血幹細胞を起源とする血液細胞に関する。
【0025】
したがって、特定の実施態様では、前記の血液細胞は、巨核球、血小板、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、及び全てのそれらの前駆体からなる群より選択される。
【0026】
本発明のさらなる目的は、本明細書に記載のような少なくとも1つの遺伝子的に改変された造血幹細胞及び/又は本明細書に記載のような少なくとも1つの血液細胞を、薬学的に許容される媒体に含む、医薬組成物である。
【0027】
本発明の別の目的は、本明細書に記載のような造血幹細胞のインビボ、エクスビボ、又はインビトロでの調製法、特にエクスビボ又はインビトロでの調製法であり、該方法は、
(i)(a)該造血幹細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸、又は(2)選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼを与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子に位置する);
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程a)で与えられると、該幹細胞にさらに、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼを与える工程;及び
(c)該幹細胞にさらに、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子を与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む。
【0028】
特定の実施態様では、該標的部位は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'領域に、3'非翻訳領域(3’UTR)に、及び/又はイントロンに、好ましくは前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に、特に前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に位置する。
【0029】
別の実施態様では、該方法は、(i)(a)該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子に位置する);
(b)該幹細胞にさらに、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼを与える工程;及び
(c)該幹細胞にさらに、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子を与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む。
【0030】
特定の実施態様では、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼは、クリスパー(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)関連タンパク質(Cas)、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)である。
【0031】
特定の実施態様では、1つ以上のガイド核酸は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'領域、3’非翻訳領域(3’UTR)及び/又はイントロン、好ましくは5’非翻訳領域(5’UTR)及び/又は近位プロモーター及び/又は第2イントロン(IVS2)内の、特に該造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)又は近位プロモーター又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、好ましくは該造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)又は第2イントロン(IVS2)に含まれる、標的部位を認識するガイドRNAである。
【0032】
本発明の別の目的は、医薬品としてのその使用のための、本明細書に記載のような造血幹細胞、又は本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物に関する。
【0033】
本発明はまた、それを必要とする個体における、
-自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
-タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患
の処置に使用するための、本明細書に記載のような造血幹細胞、本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物に関する。
【0034】
特定の実施態様によると、タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患は、凝固障害、ライソゾーム蓄積症、ホルモン異常、及びα1アンチトリプシン欠乏症からなる群より選択され得る。
【0035】
特に、それを必要とする個体は、哺乳動物であり得、より特定するとヒトであってもよい。
【0036】
本発明の別の目的は、本明細書に記載のような造血幹細胞、本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物を非ヒト哺乳動物に投与する工程を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を産生する方法に関する。
【0037】
特定の実施態様では、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、ヒト導入遺伝子をコードしている。さらに、トランスジェニック動物は、対応する内因性遺伝子座をノックアウトされていてもよく、これにより、ヒトタンパク質を隔離して研究することができるインビボのシステムの開発が可能となる。
【0038】
本発明によるトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、関心対象のヒトタンパク質と相互作用し得るか又は改変させ得る、小型分子、大型生体分子、又はその他の物質を同定するスクリーニング目的のために使用され得る。他の態様では、トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、生産目的のために、例えば、関心対象の抗体又は他の生体分子を産生するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】K562赤白血病細胞株におけるガイドRNAの設計及び検証 HBA又はHBAのための様々なガイドRNAを発現しているプラスミドを、SpCas9を安定に発現しているK562細胞にトランスフェクトし、それらのDNA切断活性を、TIDEソフトウェア(Tracking of InDels by Decomposition - Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168); www.tide.calculator.nk)を用いて測定した。図1に、さらに定義されているような遺伝子の5'領域(特に、HBAの5’UTR及びHBBの近位プロモーター)、該遺伝子のイントロン1(IVS1すなわち介在配列1)又はイントロン2(IVS2)のいずれかにおいて独立して試験された各々のガイドRNAに関する活性が、インデル%、すなわち改変された対立遺伝子の比率として示されている。インデル%が100%に近づけば近づくほど、試験されたガイドRNAはより効率的である。横座標:試験されたガイドRNAによって標的化された領域:5'領域、IVS1又はIVS2;それぞれの棒グラフは、異なるガイドRNAを示す。縦座標:インデル%。
図2】導入遺伝子のHBA遺伝子座及びHBB遺伝子座への標的化組込みは、内因性プロモーターによる該導入遺伝子の調節を可能とする。この図は、導入遺伝子発現のための、HBA及びHBBのプロモーターのハイジャックを例示した。HBA遺伝子又はHBB遺伝子の様々なドメイン(5’領域(HBAの5’UTR、又はHBBの近位プロモーター)、IVS1又はIVS2)へのGFPの標的化組込みがなされた、K562のGFPによるFACS分析。K562細胞を、赤血球系統へと分化させた。グリコホリンA(GYPA)陽性(点線)又はグリコホリンA陰性(塗りつぶされたヒストグラム)のK562細胞のGFPの発現(横座標)が示されている。対照は、GFPの組込みが、関係のないゲノム位置(グロビン遺伝子ではない位置)にある細胞である。全てのパネルにおいて、未処置グリコホリンA陽性K562細胞が、基準として示されている(白抜きのヒストグラム)。縦座標:細胞数。
図3】HBAへのドナーDNAの標的化組込みは、様々な導入遺伝子の安定な発現を可能とする。この図は、HBAへのドナーDNAの標的化組込みが、様々な導入遺伝子の安定な発現を可能とすることを例示する。左パネル:ピューロマイシンにより選択された細胞を、抗神経成長因子受容体(NGFR)抗体(マウス抗ヒトCD271-APC抗体、ミルテニーバイオテク社)で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。ゲートは、NGFR陽性細胞を示す。縦座標:前方散乱光(FSC)。右パネル:HBA遺伝子の5'領域(特に5’UTR)にF8-ピューロマイシントラップの組み込まれた代表的なクローンのF8発現(横座標)(点線を有する染色されたヒストグラム)。K562の対照染色が示されている(白抜きのヒストグラム)。縦座標:細胞数。
図4】造血幹細胞/前駆細胞への標的の組込み効率に対する、ホモロジーアームの効果。初代造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)のHBA1及び2への、GFP-ピューロマイシントラップの標的化組込み。非相同末端結合(NHEJ、上のパネル)又は相同組換え修復(HDR、下のパネル)のいずれかによる、HBA1又は2の5'領域(特にHBA1又は2の5’UTR)への、プロモーターを含まないGFPカセットの挿入により、調節されたGFPの発現がもたらされる。GFP陽性細胞及び蛍光強度は、赤血球への分化と共に増加し、α-グロビン発現パターンを再現する。ドナーDNAトラップへのホモロジーアームの付加は、その標的組込み効率を劇的に向上させる。縦座標:自己蛍光チャネル(AF)。
図5】K562におけるHBAによる産生に対する、標的上の各ガイドRNAの活性の効果。HBAの指定された部位におけるゲノム編集後のK562細胞におけるウシヘモグロビン(HbF)発現(横座標)のヒストグラム。改変された対立遺伝子の比率(インデル%)が上に示されている。ウシヘモグロビンが2つのαサブユニットと2つのγサブユニットによって形成されるにつれて、その発現は、これらの細胞中のαグロビンレベルに正比例する。対照ガイドRNA(KO)は、HBA1及び2の第1エキソンに標的化し、遺伝子をノックアウトしHbFの発現に影響を及ぼす、フレームシフト突然変異を起こす。縦座標:細胞数。中央のパネルにおいて、同じ細胞におけるα-グロビン発現がウェスタンブロットによって分析されている。1レーンあたり30μgの総タンパク質がローディングされ;チューブリンがローディング対照として使用された。HBA遺伝子の特定の部位におけるゲノム編集効率が、レーンの下に、編集された対立遺伝子の比率(インデル)として示されている。下のパネルでは、動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に、HBA内の指定の部位に標的化するガイドRNAを用いてヌクレオフェクトし、赤血球系統へと分化させグロビン発現を活性化させた。改変された対立遺伝子の比率(インデル%)が、上に示されている。試験された各ガイドRNAについての、赤血球への分化終了時におけるHbFの発現(αグロビンの発現を反映する;横座標)。縦座標:前方散乱光(FSC)。
図6】造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)由来の赤芽球におけるHBA及びHBBの合成に対する、編集の効果。この図は、赤芽球におけるHBA又はHBBの合成に対する、HBA又はHBB遺伝子内の様々な特定の部位に標的化するガイドRNAの効果を例示する。動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に、HBA又はHBB遺伝子内の様々な特定の部位に標的化するガイドRNAを用いてヌクレオフェクトし、赤血球系統へと分化させ、グロビン発現を活性化させた。造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)由来の赤芽球を溶解し、ヘモグロビンサブユニット含量をクロマトグラフィーによって測定した。グラフは、α鎖とβ様鎖との間の比を示す。健康なドナー細胞におけるこの比は1に近く(破線及び切断していない試料)、一方、有意な逸脱は、サラセミア表現型を示す(αサラセミア赤芽球では1未満、βサラセミア赤芽球では1を超える)。対照として、HBA1/2及びHBBの第1エキソンをそれぞれ標的化し、鎖の発現を消失させる、HBA及びHBBノックアウト(KO)ガイドRNAを使用して、サラセミア細胞を生成した。横座標では、結果は、左から右へと、以下に対応する:HBAの5’UTRに標的化するガイドRNA(HBA5’UTR);HBAの第2イントロンに標的化するガイドRNA(HBA IVS2);HBAの第1エキソンに標的化するガイドRNA(HBA KO);HBBの5’UTRに標的化するガイドRNA(HBB5’UTR);HBBの第2イントロンに標的化するガイドRNA(HBB IVS2);HBBの第1エキソンに標的化するガイドRNA(HBB KO);対照としての関連性のないアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)遺伝子座に標的化するガイドRNA(AAVS1);ガイドRNAがなくヌクレオフェクションを行なわない対照細胞(NO CUT)。縦座標:α鎖とβ様鎖(β、γ、及びδグロビン)の間の比。この図では、「Ery culture」及び「CFC」は、液体培養液(赤血球分化培地中で14日間培養した造血幹細胞・前駆細胞(HSPC))又は赤色培養液(コロニー形成細胞(CFC)アッセイのために、半固形Methocult培地(H4435、ステムセルテクノロジーズ社)中で14日間培養した造血幹細胞・前駆細胞(HSPC))をそれぞれ用いて得られた結果を示す。
図7】HBAへの第VIII因子(FVIII)又は第IX因子(FIX)コード配列の標的化組込みは、これらの導入遺伝子の安定な発現を可能とする。この図は、K562細胞のHBAへのFVIII又はFIXのコード配列の標的化組込みが、内因性α-グロビンプロモーターの転写制御を活用することによる、機能的タンパク質の安定な発現及び分泌を可能とすることを示す。グラフは、様々なK562細胞クローンの上清中に分泌されたFVIII及びFIXの活性を示す。未処置細胞の上清は、対照(CTRL)として使用された。縦座標:10個の細胞あたり24時間あたりのタンパク質(ng/ml)として測定された活性レベル。横座標:左から右へと:第VIII因子で得られた結果(FVIII)、対照で得られた結果(CTRL)、及び第IX因子で得られた結果(FIX)。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明者らは、赤血球系統へと分化した場合、該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれた、造血幹細胞のゲノム内に含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子に、特にそのグロビン遺伝子の1つに含まれる少なくとも1つの導入遺伝子によってコードされる、1つ以上の治療用タンパク質(群)又は1つ以上の治療用リボ核酸(群)を産生することができる、遺伝子的に改変された造血幹細胞を作製した。本明細書に示されているように、該治療用タンパク質(群)は、高いレベルで発現され、これにより、治療レベルの治療用タンパク質又は治療用リボ核酸を得ることが可能となる。
【0041】
本明細書に記載のような遺伝子的に改変された造血幹細胞は有利には、関心対象の治療用タンパク質又は治療用リボ核酸の制御された高い発現を提供する。
【0042】
本発明によって提供され、本実施例に例示される別の重要な利点は、ヘモグロビン又は一本のグロビン鎖において、全体的なグロビン発現レベルに影響を及ぼさないことである。
【0043】
安全なグロビン遺伝子座への導入遺伝子の標的化組込みによって、本明細書に記載のようにエクスビボ又はインビトロで作製された造血幹細胞の使用は有利には、セミランダムな組込みベクターの使用に伴う挿入突然変異誘発及び発癌遺伝子トランス活性化のリスク、並びに遺伝子トランス活性化のリスクを最小限にする。なぜなら、外来性プロモーター/エンハンサー配列は全く、導入遺伝子の発現に必要とされず、ゲノムに挿入されないからである。
【0044】
さらに、本明細書に記載のような造血幹細胞(HSC)の、それを必要とする個体への投与は、該個体におけるこれらの幹細胞の機能を回復させることによって又はこれらの幹細胞に追加の機能を与えることによって、本文書に考察される関心対象の疾患の長期治療を可能とするだろう。
【0045】
この方法は、それを必要とする個体にとって非常に有利である。なぜなら、本明細書で考えられる疾患の現行の処置の大半は、治療用タンパク質の頻回注射からなり、これは、過酷で、費用が高く、長期にわたり治癒せず、高い比率の処置患者において抗タンパク質中和抗体が発生するからである。
【0046】
例えば、それを必要とする個体における、タンパク質の欠失によって又は異常で機能しないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患を考える場合、現行の処置の大半は、欠失しているタンパク質又は機能しないタンパク質の頻回注射からなる(「タンパク質補充療法」;例えば、血友病Aでは第VIII因子(FVIII)を週3回注射)。同様に、ライソゾーム蓄積症の患者は、通常は大用量の静脈内投与による、不適切に機能している酵素を補うための頻回注射を必要とする。このような処置は、単なる対症療法であり治癒するものではなく、したがって、患者は残りの人生においてこれらのタンパク質の反復投与を受けなければならず、注射されたタンパク質に対する中和抗体を発生する可能性もある。これらのタンパク質は、短い血清中半減期を有することが多いため患者はタンパク質の頻回注入に耐えなければならない。
【0047】
本明細書に記載のような造血幹細胞の投与に基づいた処置は、逆に、限られた数の反復投与、又は1回の治癒的処置でさえあり、以下の2つの主な利点を伴う:それは、患者及び患者の家族の生活の質を有意に向上させ、殆どの場合一生続くこれらの疾患の処置に関連した経済的費用及び国民保健制度の負担を低減させるだろう(例えば、組換え型FVIIIを用いての患者の一生涯の処置により、2500万~5000万米ドルの費用がかかる)。
【0048】
さらに、本明細書に記載のような造血幹細胞を起源とする成熟血液細胞の、それを必要とする個体への投与は、本明細書に記載のような導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する免疫寛容を誘導すること可能性がある。
【0049】
本文書の実施例にも例示されているように、本発明者らは、ヘモグロビン又は一本のグロビン鎖に関する全体的なグロビン発現レベルに影響を及ぼすことなく、導入遺伝子の高度かつ赤血球に特異的な発現を与える組込み部位を同定した。
【0050】
遺伝子的に改変された造血幹細胞
上記に示されているように、本発明は第一に、造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子に、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含んでいる、遺伝子的に改変された造血幹細胞に関し、該導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれている。
【0051】
造血幹細胞(HSC)は、自己再生することができ、許容条件下で造血系の全ての細胞型を生じるその能力によって特徴付けられる、多能性幹細胞である。造血幹細胞は全能性細胞ではない、すなわち、それらは完全な生物になることはできない。
【0052】
特定の実施態様では、本発明による造血幹細胞は、胚性幹細胞に由来し、特にヒト胚性幹細胞に由来し、したがって、胚性造血幹細胞である。
【0053】
胚性幹細胞(ESCs)は、胚の未分化な内部細胞塊に由来し、自己再生することのできる、幹細胞である。許容条件下で、これらの多能性幹細胞は、成体の体内の220を超える細胞型の中のいずれか1つに分化することができる。胚性幹細胞は全能性細胞ではない、すなわち、それらは完全な生物になることはできない。胚性幹細胞は、例えば、Young Chung et al.(Cell Stem Cell 2, 2008 February 7;2(2):113-7)に示される方法に従って得ることができる。
【0054】
別の特定の実施態様では、本発明による造血幹細胞は、人工多能性幹細胞、より特定するとヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である。したがって、特定の実施態様によると、本明細書に記載のような造血幹細胞は、造血系人工多能性幹細胞である。
【0055】
人工多能性幹細胞は、胚性幹細胞と類似した多能性幹細胞様の状態を示す、遺伝子の初期化された成体細胞である。それらは、ヒトの体内に存在することは知られていないが、胚性幹細胞と類似した品質を示す、人工的に作製された幹細胞である。このような細胞の作製は、Ying WANG et al.(https://doi.org/10.1101/050021)並びにLapillonne H. et al.(Haematologica. 2010; 95(10))及びJ. DIAS et al.(Stem Cells Dev. 2011; 20(9): 1639-1647)に議論されているように、当技術分野において周知である。
【0056】
「自己再生」は、分裂し、親細胞と同一な(例えば自己再生)特徴を有する少なくとも1つの娘細胞を生じる細胞の能力を指す。第二娘細胞は、特定の分化経路へと拘束され得る。例えば、自己再生する造血幹細胞は、分裂し、1つの娘幹細胞と、骨髄系経路又はリンパ系経路への分化に拘束された別の娘細胞を形成することができる。自己再生は、造血系の補充のための未分化幹細胞の連続的発生源を提供する。
【0057】
造血幹細胞を同定するのに有用なマーカー表現型は、当技術分野において一般的に公知であるものであるだろう。ヒト造血幹細胞の細胞マーカー表現型としては好ましくは、CD34+ CD38low/- Cd49f+ CD59+ CD90+ CD45RA- Thy1+ C-kit+ lin-(Notta F, Science. 333(6039):218-21 (2011))の任意の組合せが挙げられる。マウス造血幹細胞の細胞マーカー表現型は、例示的には、CD34low/- Sca-1+ C-kit+ 及びlin- CD150+ CD48- CD90.1.Thy1+/low Flk2/flt3-及びCD117 +(例えば、Frascoli et al.(J. Vis. Exp. 2012 Jul 8; (65). Pii:3736を参照)の任意の組合せであってもよい。
【0058】
本明細書に記載のような幹細胞は、好ましくは精製されている。同じことが、本明細書に定義されているような血液細胞にも当てはまる。
【0059】
造血幹細胞を精製するための多くの方法が、例えば欧州特許第1687411号に例示されているように、当技術分野において公知である。
【0060】
本明細書において使用する「精製された造血幹細胞」又は「精製された血液細胞」は、列挙された細胞が、精製された試料中の細胞の少なくとも50%;より好ましくは、精製された試料中の細胞の少なくとも51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上を占めることを意味する。
【0061】
細胞の選択及び/又は精製は、実質的に純粋な細胞集団を得るための陽性選択法及び陰性選択法の両方を含み得る。
【0062】
1つの態様では、フローサイトメトリーとも称される、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、様々な細胞集団を選別し分析することができる。造血幹細胞又は前駆細胞集団に特異的な細胞マーカーを有する細胞に、細胞マーカーに結合する抗体又は典型的には抗体混合物を用いてタグ化する。様々なマーカーに指向される各抗体を、検出可能な分子、特に、他の抗体に結合した他の蛍光色素と区別することができる蛍光色素にコンジュゲートさせる。流れている染色された細胞を、蛍光色素を励起する光源に通過させ、細胞からの発光スペクトルは、特定の標識された抗体の存在を検出する。様々な蛍光色素の同時検出によって、様々な細胞マーカーのセットを示す細胞を同定し、集団中の他の細胞から単離する。例えばであって限定するものではないが、側方散乱光(SSC)、前方散乱光(FSC)、及び生体色素染色(例えば、ヨウ化プロピジウムを用いた)をはじめとする、他のFACSパラメーターは、サイズ及び生存率に基づいた細胞の選択を可能とする。造血幹細胞及び前駆細胞のFACSによる選別及び分析は、とりわけ、Akashi, K. et al., Nature 404(6774):193-197(2000))に記載されている。
【0063】
別の態様では、免疫磁気標識を使用して、様々な細胞集団を選別することができる。この方法は、抗体又はレクチンを介して細胞に磁性小粒子を付着させることに基づく。混合細胞集団が磁場に置かれると、ビーズに付着した細胞は、磁石によって誘引され、したがって、標識されていない細胞から分離され得る。
【0064】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような改変された造血幹細胞は、哺乳動物細胞、特にヒト細胞である。
【0065】
特定の実施態様では、初回の造血幹細胞及び/又は血液細胞の集団は、自己であってもよい。
【0066】
「自己」は、同じ患者又は個体に由来すること又は起源とすることを指す。「自己移植」は、被験者自身の細胞又は臓器を収集し、再注入又は移植することを指す。自己細胞の排他的又は補助的使用は、宿主に戻す細胞の投与による多くの有害な作用、特に移植片対宿主反応を排除又は低減させることができる。
【0067】
この場合、造血幹細胞は、該個体から回収され、本明細書に記載のような方法に従ってエクスビボ又はインビトロで遺伝子的に改変され、同じ個体に投与される。
【0068】
特定の実施態様では、造血幹細胞及び/又は血液細胞の初回集団は、同種ドナーに由来し得るか、又は複数の同種ドナーに由来し得る。ドナーは、互いに関連していても関連していなくてもよく、移植の状況では、レシピエント(すなわち個体)に関連していても関連していなくてもよい。
【0069】
本明細書に記載のように改変される予定の幹細胞は、場合に応じて、治療を必要とする個体に対して外来性であってもよい。
【0070】
外来起源の本明細書に記載のような改変された幹細胞の投与の状況では、該幹細胞は、同系、同種、異種、又はその混合物であってもよい。
【0071】
「同系」は、特に抗原又は免疫反応に関して、遺伝子的に同一である同じ種に由来すること、同じ種を起源とすること、又は同じ種のメンバーであることを指す。これらは、主要組織適合遺伝子複合体の型の一致した同一な双子を含む。したがって、「同系移植」は、ドナーから、ドナーと遺伝子的に同一なレシピエントへの、細胞又は臓器の移植を指す。
【0072】
「同種」は、同じ種に由来すること、同じ種を起源とすること、又は同じ種のメンバーであることを指し、ここでのメンバーは、遺伝子的に関連しているか、又は遺伝子的に関連していないが遺伝子的に類似している。「同種移植」は、レシピエントがドナーと同じ種である、ドナーからレシピエントへの細胞又は臓器の移植を指す。
【0073】
「異種」は、異なる種、例えばヒトとげっ歯類、ヒトとブタ、ヒトとチンパンジーなどに由来すること、起源とすること、又はそのメンバーであることを指す。「異種移植」は、レシピエントがドナーとは異なる種である、ドナーからレシピエントへの細胞又は臓器の移植を指す。
【0074】
内因性造血幹細胞を使用する本発明の他の実施態様は、個体の1つの解剖学的ニッチェから全身循環への、又は別の特定の解剖学的ニッチェへの、該幹細胞の動員を含む。このような動員は当技術分野において周知であり、例えば、骨髄などの区画からの幹細胞の外出を刺激することのできる因子の投与によって引き起こされ得る。
【0075】
適用可能である場合、幹細胞及び前駆細胞は、被験者へのサイトカイン又は薬物の事前投与によって、骨髄から末梢血中へと動員され得る(例えば、Domingues et al. (Int. J. Hematol. 2017 feb; 105(2): 141-152)参照)。動員を誘発することのできるサイトカイン及びケモカインとしては、例えばであって限定するものではないが、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン(Kiessinger, A. et al., Exp. Hematol. 23:609-612 (1995))、幹細胞因子(SCF)、AMD3100(AnorMed社、バンクーバー、カナダ)、インターロイキン-8(IL-8)、及びこれらの因子の変異体(例えばペグフィルグラスチム、ダルボポエチン)が挙げられる。
【0076】
本明細書に記載のような方法によって調製される細胞は、薬学的に許容される担体に再懸濁されてもよく、直接使用されてもよく、又は、FACSによる選別、磁気アフィニティによる分離、及びイムノアフィニティカラムなどの当業者に利用可能な様々な細胞精製技術による処理にかけられてもよい。
【0077】
本明細書においてすでに明記されているように、本明細書に記載のような造血幹細胞及び血液細胞は、そのグロビン遺伝子の少なくとも1つにおいて、特にその内因性グロビン遺伝子の少なくとも1つにおいて遺伝子的に改変されている。
【0078】
グロビン遺伝子は、造血幹細胞及び血液細胞のゲノム内にクラスターで構成され、これらのクラスターは、α様及びβ様ヒトグロビン遺伝子クラスターと呼ばれている。
【0079】
α様ヒトグロビン遺伝子クラスターは、ゼータ(ζ)、偽ゼータ(Ψζ)、ミュー(μ)、偽アルファ-1(Ψα1)、偽アルファ-2(Ψα2)、アルファ2(α2)、アルファ1(α1)、及びシータ(θ)グロビン遺伝子を含み、第16番染色体に位置する。
【0080】
β様ヒトグロビン遺伝子クラスターは、イプシロン(ε)、ガンマ-G(Gγ)、ガンマ-A(Aγ)、デルタ(δ)、及びベータ(β)グロビン遺伝子を含み、第11番染色体に位置する。
【0081】
したがって、本明細書に記載のような細胞のゲノムに含まれ、少なくとも1つの導入遺伝子を含んでいる、少なくとも1つのグロビン遺伝子は、α様ヒトグロビン遺伝子クラスターに及び/又はβ様ヒトグロビン遺伝子クラスターに、特にα様ヒトグロビン遺伝子クラスターに、又はβ様ヒトグロビン遺伝子クラスターにあり得る。
【0082】
本文書では、「細胞」という用語がこれ以上の指摘がなされることなく記述される場合、それは、本明細書に記載のような造血幹細胞及び血液細胞の両方に適用される。
【0083】
1つの実施態様によると、本明細書に記載のような少なくとも1つのグロビン遺伝子は、εグロビン遺伝子、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、ζグロビン遺伝子、偽ζグロビン遺伝子、μグロビン遺伝子、偽α-1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子、及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0084】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような少なくとも1つのグロビン遺伝子は、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子、及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、より特定するとβグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子、及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0085】
好ましい実施態様では、本明細書に記載のような少なくとも1つのグロビン遺伝子は、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0086】
各グロビン遺伝子のコード領域は、介在配列(IVS)すなわちイントロンと呼ばれるノンコーディングDNA配列によって2つの位置において中断されている。
【0087】
したがって、グロビン遺伝子は、その5’末端からその3'末端へと、
-近位プロモーター領域;
-5'非翻訳領域(5'UTR);
-少なくとも2つのエキソン、特に3つのエキソン;
-少なくとも1つのイントロン、特に2つのイントロン;及び/又は
-3’非翻訳領域(3’UTR)
から構成される。
【0088】
したがって、本明細書に記載のような細胞において、本明細書に記載のような細胞の少なくとも1つのグロビン遺伝子に含まれる関心対象の少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5'領域に、エキソンに、イントロンに、及び/又は3’UTRに、特に、該グロビン遺伝子の近位プロモーター領域に、5’UTRに、エキソンに、及び/又はイントロンに含まれ得る。
【0089】
好ましくは、本明細書に記載のような細胞の少なくとも1つのグロビン遺伝子に含まれる関心対象の少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5'領域に及び/又はイントロンに、特に該グロビン遺伝子の5’UTRに及び/又は近位プロモーターに及び/又はイントロンに、より特定すると該グロビン遺伝子の5’UTRに又は近位プロモーターに又はイントロン含まれる。
【0090】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような細胞の少なくとも1つのグロビン遺伝子に含まれる関心対象の少なくとも1つの導入遺伝子は、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の5'領域に及び/又は第2イントロン(IVS2)に含まれる。
【0091】
本発明による5'領域は、考えられるグロビン遺伝子の翻訳開始コドンの上流の領域である。それは、遺伝子の5’UTR配列及び近位プロモーターを含む。
【0092】
特に、本発明によるグロビン遺伝子の5'領域は、考えられるグロビン遺伝子の該翻訳開始コドンのすぐ上流の500ヌクレオチド配列、好ましくは考えられるグロビン遺伝子の該翻訳開始コドンのすぐ上流の400ヌクレオチド配列、より好ましくは300ヌクレオチド配列、より特定すると250ヌクレオチド配列に相当する。
【0093】
特定の実施態様では、本発明によるグロビン遺伝子の5'領域は、考えられるグロビン遺伝子の近位プロモーターに相当する。
【0094】
別の実施態様では、本発明によるグロビン遺伝子の5'領域は、考えられるグロビン遺伝子の5’UTR(5’非翻訳領域)に相当する。
【0095】
以下の全ての位置は、UCSCゲノムブラウザー上の2013年12月のヒトGRCh38/hg38アセンブリに基づく。
【0096】
特に、HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考える場合、5'領域は好ましくは、この遺伝子の5’UTRに相当する。この5’UTRは、第16番染色体:176,651-176,716;66ヌクレオチド;基準配列:NM_000558.4の位置に相当する。
【0097】
特に、HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考える場合、5'領域は好ましくは、この遺伝子の5’UTRに相当する。この5’UTRは、第16番染色体:172,847-172,912;66ヌクレオチド;基準配列:NM_000517.4の位置に相当する。
【0098】
HBB(ヘモグロビンサブユニットβ)ヒト遺伝子を考える場合、5'領域は好ましくは、この遺伝子の近位プロモーターに相当する。この近位プロモーターは、UCSCゲノムブラウザー上の2013年12月のヒトGRCh38/hg38アセンブリで第11番染色体:5,227,072-5,227,321の位置に相当する。
【0099】
より特定すると、本明細書に記載のような細胞の少なくとも1つのグロビン遺伝子に含まれる関心対象の少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5'領域に、第1イントロン(IVS1)に、及び/又は第2イントロン(IVS2)に、好ましくは該グロビン遺伝子の5'UTRに及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に、より好ましくは該グロビン遺伝子の5'UTRに及び/又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれ得る。
【0100】
HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考える場合、第1イントロン(IVS1)は、この遺伝子の第1エキソンから第2エキソンまでの間に含まれる117ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第16番染色体:176,812-176,928;117ヌクレオチド;基準配列:NM_000558.4の位置に相当する。
【0101】
HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考える場合、第1イントロン(IVS1)は、この遺伝子の第1エキソンから第2エキソンまでの間に含まれる117ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第16番染色体:173,008-173,008-173,124;117ヌクレオチド;基準配列:NM_000517.4の位置に相当する。
【0102】
HBB(ヘモグロビンサブユニットβ)ヒト遺伝子を考える場合、第1イントロン(IVS1)は、この遺伝子の第1エキソンから第2エキソンまでの間に含まれる130ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第11番染色体:5,226-800,5,226,929;130ヌクレオチド;基準配列:NM_000518.4の位置に相当する。
【0103】
HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考える場合、第2イントロン(IVS2)は、この遺伝子の第2エキソンから第3エキソンまでの間に含まれる149ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第16番染色体:177,134-177,282;149ヌクレオチド;基準配列:NM_000558.4の位置に相当する。
【0104】
HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考える場合、第2イントロン(IVS2)は、この遺伝子の第2エキソンから第3エキソンまでの間に含まれる142ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第16番染色体:173,330-173,471;142ヌクレオチド;基準配列:NM_000517.4の位置に相当する。
【0105】
HBB(ヘモグロビンサブユニットβ)ヒト遺伝子を考える場合、第2イントロン(IVS2)は、この遺伝子の第2エキソンから第3エキソンまでの間に含まれる850ヌクレオチドに相当し得る。この領域は、第11番染色体:5,225-727-5,226,576;850ヌクレオチド;基準配列:NM_000518.4の位置に相当する。
【0106】
本発明者らは実際に意外にも、添付された実施例に例示されているように、ゲノム編集がグロビン遺伝子の選択された位置において行なわれる場合に、本文書でさらに定義されている非常に良好なインデル比率、並びに、高い導入遺伝子(GFP)発現が得られることを決定した。
【0107】
したがって、特定の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのゲノムに含まれるそのグロビン遺伝子の少なくとも1つに、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含み、少なくとも1つのグロビン遺伝子は、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、より特定するとβグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、好ましくはα1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され;少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5‘領域に、第1イントロン(IVS1)に、及び/又は第2イントロン(IVS2)に、特に該グロビン遺伝子の5’UTRに及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に、好ましくは該グロビン遺伝子の5'UTRに又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれる。
【0108】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのゲノムに含まれるそのHBAグロビン遺伝子の少なくとも1つに、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含み、少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5‘領域に、第1イントロン(IVS1)に、及び/又は第2イントロン(IVS2)に、特に該グロビン遺伝子の5’UTRに及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に、好ましくは該グロビン遺伝子の5'UTRに又は第2イントロン(IVS2)に含まれている。
【0109】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのゲノムに含まれるそのHBBグロビン遺伝子の少なくとも1つに、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子を含み、少なくとも1つの導入遺伝子は、該グロビン遺伝子の5‘領域に、第1イントロン(IVS1)に、及び/又は第2イントロン(IVS2)に、特に該グロビン遺伝子の5’UTRに及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に、好ましくは該グロビン遺伝子の近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれる。
【0110】
特定の実施態様によると、本発明による細胞は、
-該造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子が、α1グロビン遺伝子及び/又はα2グロビン遺伝子であり、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の5'非翻訳領域(5’UTR)に又はイントロンに、特に5'非翻訳領域(5’UTR)に又は第2イントロン(IVS2)に含まれ;
-該造血幹細胞のゲノムに含まれる少なくとも1つのグロビン遺伝子が、βグロビン遺伝子であり、治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている少なくとも1つの導入遺伝子が、少なくとも1つの該グロビン遺伝子の近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれているようなものである。
【0111】
本発明はまた、本明細書に記載のような遺伝子的に改変された幹細胞を起源とする、好ましくは精製された、血液細胞又は赤血球系細胞に関する。
【0112】
改変された幹細胞は、特に、造血幹細胞及び胚性幹細胞からなる群より選択され、好ましくは、造血幹細胞である。好ましい実施態様では、本明細書に記載のような血液細胞は、造血系に由来する細胞である。
【0113】
造血幹細胞は、2種類の前駆細胞、すなわち骨髄系前駆細胞又はリンパ系前駆細胞へと分化することができる。骨髄系前駆細胞は、巨核球、血小板、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、及びマクロファージへと分化するであろうが、リンパ系前駆細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK)、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び形質細胞へと分化することができる。
【0114】
したがって、本明細書に記載のような「血液細胞」は、リンパ系前駆細胞、骨髄系前駆細胞、巨核球、血小板、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び形質細胞からなる群より選択され得る。
【0115】
造血幹細胞及びリンパ系前駆細胞及び骨髄系前駆細胞は導入遺伝子を発現しないであろうが、それらは、そうすることのできる細胞へと分化することができるので依然として有用である。
【0116】
好ましい実施態様では、本明細書に記載のような血液細胞は、巨核球、血小板、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び形質細胞からなる群より選択される。
【0117】
導入遺伝子
本明細書に記載のような細胞に含まれる導入遺伝子は、少なくとも1つのタンパク質及び/又は少なくとも1つのリボ核酸をコードし、特に少なくとも1つの治療用タンパク質及び/又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードし、特に少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている。
【0118】
本明細書に記載のような細胞内の関心対象の導入遺伝子は、該導入遺伝子を含むグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある。
【0119】
1つの実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのグロビン遺伝子の1つに、たった1つの導入遺伝子を含むことができ、該導入遺伝子は、本明細書に記載のようなたった1つの治療用タンパク質又はたった1つの治療用リボ核酸をコードしている。
【0120】
別の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのグロビン遺伝子の1つに、たった1つの導入遺伝子を含むことができ、該導入遺伝子は、本明細書に記載のような1個を超える治療用タンパク質又は1個を超える治療用リボ核酸、特に2個、3個、4個、5個、又は6個の治療用タンパク質又は治療用リボ核酸、好ましくは2個の治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしている。
【0121】
本明細書に記載のような導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質又は治療用リボ核酸が1つを超えて存在する場合、該治療用タンパク質又は治療用リボ核酸は、同一であっても又は互いに異なっていてもよい。
【0122】
さらに、本明細書に記載のような細胞に1つを超える導入遺伝子が存在する場合、該導入遺伝子は、独立して、同じグロビン遺伝子にあっても異なるグロビン遺伝子にあってもよく、同じグロビン遺伝子にある場合には、該グロビン遺伝子の同じ部分にあっても異なる部分にあってもよい。
【0123】
別の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、そのグロビン遺伝子の少なくとも1つに、1つを超える導入遺伝子、特に2個、3個、4個、5個、又は6個の導入遺伝子を含むことができる。
【0124】
この実施態様によると、異なる導入遺伝子は独立して、導入遺伝子毎に、同じ又は異なる治療用タンパク質(群)又は治療用リボ核酸をコードしていてもよい。
【0125】
また、この実施態様によると、異なる導入遺伝子は、独立して、本明細書に記載のような1つ、又は1つを超える治療用タンパク質(群)又は治療用リボ核酸をコードしていてもよい。
【0126】
特に、全ての導入遺伝子は、たった1つの治療用タンパク質又はたった1つの治療用リボ核酸をコードしていてもよい。あるいは、少なくとも1つの、特に全ての導入遺伝子が、1つを超える、特に2個、3個、4個、5個又は6個、より好ましくは2個の治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードしていてもよい。
【0127】
さらに、異なる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質又は治療用リボ核酸は、独立して、同一であっても異なっていてもよい。
【0128】
さらにこの実施態様によると、本明細書に記載のような細胞内の導入遺伝子は、独立して、同じグロビン遺伝子にあっても又は異なるグロビン遺伝子にあってもよく、同じグロビン遺伝子にある場合には、該ブロビン遺伝子の同じ部分にあっても異なる部分にあってもよい。
【0129】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような治療用タンパク質は、それを産生する細胞によって天然に分泌され得るか、又は分泌するように工学操作されている。
【0130】
例えば、治療用タンパク質は、少なくとも1つのシグナルペプチド(群)をその配列に付加することによって工学操作され得る。シグナルペプチドは、細胞によって認識され、産生されたタンパク質の細胞膜への移動及びその分泌を可能とする、ペプチドのN末端に存在する短い配列である。
【0131】
別の実施態様によると、本文書による治療用タンパク質は、他の細胞によるその取り込み、又は血液脳関門のその横断、又は血漿中若しくは内皮細胞上の他のタンパク質へのその結合を促進する短い配列を付加することによって工学操作され得る。
【0132】
本明細書に記載のような導入遺伝子は、あらゆる種類の治療用タンパク質又は治療用リボ核酸をコードし得る。
【0133】
例えば、本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質は、サイトカイン、特にインターフェロン;ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディーズを含む);血管新生抑制因子;又は、補充療法用のタンパク質、例えば酵素、特にαグルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、及び第VIII因子からなる群より選択され得る。
【0134】
特定の実施態様では、導入遺伝子は、それが挿入される遺伝子とは異なる。
【0135】
特定の実施態様によると、本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質は、増殖因子、増殖調節因子、免疫化又はワクチン接種に有用な抗体、抗原、及びそれらの誘導体からなる群より選択され得る。このような治療用タンパク質は特に、インターロイキン;インシュリン;顆粒球コロニー刺激因子;顆粒球単球コロニー刺激因子;ヒト多分化能性顆粒球コロニー刺激因子;マクロファージコロニー刺激因子;インターフェロン、例えばインターフェロン-α、インターフェロン-β、又はインターフェロン-pi;血液凝固因子、例えば第VIII因子、第IX因子、又は組織プラスミノーゲン活性化因子;又はその組合せからなる群より選択され得る。それは好ましくは、血液凝固因子から選択され、より特定すると第VIII因子である。
【0136】
したがって、特定の実施態様では、本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質は、サイトカイン、特にインターフェロン(インターフェロン-α、-β、又は-γ);ホルモン;ケモカイン;抗体(ナノボディーズを含む);血管新生抑制因子;補充療法用の酵素、例えばアデノシンデアミナーゼ、αグルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、及びβ-グルコシダーゼ;インターロイキン;インシュリン;顆粒球コロニー刺激因子;顆粒球単球コロニー刺激因子;ヒト多分化能性顆粒球コロニー刺激因子;マクロファージコロニー刺激因子;血液凝固因子、例えば第VIII因子、第IX因子、又は組織プラスミノーゲン活性化因子;膜貫通タンパク質、例えば神経成長因子受容体(NGFR);ライソゾーム酵素、例えばα-ガラクトシダーゼ(GLA)、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、ライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)及びガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS);疾患に罹患している細胞によって分泌され最終的に取り込まれるように工学操作され得る任意のタンパク質(Lawlor MW, Hum Mol Genet. 22(8): 1525-1538. (2013); Puzzo F, Sci Transl Med. 29;9(418) (2017); Bolhassani A. Peptides. 87:50-63., (2017)))、及びその組合せからなる群より選択され得る。
【0137】
本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質は特に、血液凝固因子、特に第VIII因子;又はライソゾーム酵素、例えばライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)又はガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)である。
【0138】
本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質は、より特定すると、血液凝固因子、特に第VIII因子である。
【0139】
例えば、本明細書に記載のような細胞のグロビン遺伝子に含まれる導入遺伝子によってコードされる治療用リボ核酸は、miRNA、shRNA、siRNA、ncRNA、及びsnRNAからなる群より選択され得る。
【0140】
タンパク質をコードしている導入遺伝子は、野生型形又はコドン最適化形であり得、後者は、関心対象の最適化されていないタンパク質が非常に長い場合には、より特に関心が持たれる。このような最適化された配列は有利には、より高い導入遺伝子の発現及びタンパク質の産生を可能とし得る。例示的には、ヒトFVIIIの最適化された導入遺伝子をコードしている導入遺伝子が、本文書の実施例において使用されている。
【0141】
コードされているタンパク質は、野生型形又はコドン最適化形の上記タンパク質のいずれかであり得、後者は、関心対象の最適化されていないタンパク質が非常に長い場合には、より特に関心が持たれる。このような最適化されたタンパク質は有利には、該タンパク質の半減期及び安定性の向上を可能にし得る。例示的には、ヒトFVIIIの最適化されたタンパク質をコードしている導入遺伝子が、本文書の実施例において使用されている。
【0142】
本明細書に記載のような導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質はまた、免疫寛容を誘導することのできるタンパク質でもあってもよい。赤血球系の発現は実際に、制御性T細胞の形成を誘導することによって、反応性T細胞の除去を誘導することができ、これは、II型糖尿病などの自己免疫疾患を処置するために(Pishesha et al. Proc. Natl. Acad. Sci .U.S.A. 2017 Apr. 25; 114(17):E3583)、又はポンペ病のための酸性αグルコシダーゼ(GAA)及びアスパラギナーゼなどの治療用タンパク質に対する免疫反応を回避するために(Lorentz et al. (Sci. Adv. 2015 Jul 17;1(6):e1500112); Cremel et al. (Int. J. Pharm. 2015 Aug 1 ; 49(1-2) :69-77)、治療的に使用することのできるアプローチである。
【0143】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような導入遺伝子は、15kbより小さい、より特定すると10kbより小さい、好ましくは8kbより小さいサイズを有する。
【0144】
本明細書に記載のような造血幹細胞の調製法
本明細書に記載のような改変された造血幹細胞の調製法は、インビボ、エクスビボ、又はインビトロであり、好ましくはエクスビボ又はインビトロである。
【0145】
本発明は特に、本明細書に記載のような造血幹細胞のエクスビボ又はインビトロでの調製法に関し、該方法は、
(i)(a)該幹細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸、又は(2)選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼを与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれるグロビンコード遺伝子に位置する);
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程a)で与えられると、該幹細胞にさらに、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼを与える工程;及び
(c)該幹細胞にさらに、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子を与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む。
【0146】
本明細書に記載のような標的部位は、上記に定義されているようなグロビン遺伝子のドメイン内に存在し得、該ドメインは、該グロビン遺伝子の5'領域、エキソンドメイン、イントロンドメイン、及び3’UTRドメインからなる群より選択され、特に該グロビン遺伝子の5'領域、エキソンドメイン、及びイントロンドメインからなる群より選択され、より特定すると該グロビン遺伝子の5'UTR、近位プロモーター、及びイントロンドメインからなる群より選択される。
【0147】
好ましい実施態様では、該標的部位は、前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5'領域に及び/又はイントロンに、好ましくは前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)に及び/又は近位プロモーターに及び/又は第2イントロン(IVS2)に位置し、特に前記の少なくとも1つのグロビン遺伝子の5’非翻訳領域に(5’UTR)に又は近位プロモーターに又は第2イントロン(IVS2)に含まれる。
【0148】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような方法の工程(i)(a)は、該幹細胞に、選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼを与えると定義される。
【0149】
別の実施態様では、本明細書に記載のような方法の工程(i)(a)は、該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸(すなわちgRNA)を与えると定義される。
【0150】
gRNAは、ワトソンクリック塩基対形成を介してDNA標的に結合する、80ヌクレオチドの定常領域と短い20ヌクレオチドの標的特異的配列(gRNA配列の5’にある)とを含む、標的特異的な短い一本鎖のRNA配列である。
【0151】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような方法の工程(i)(a)は、該幹細胞に、同じグロビン遺伝子ドメイン内の2つの異なる標的部位に結合する2つのガイド核酸(すなわちgRNA)を与えると定義される。
【0152】
上記に定義されているように、本明細書に記載のような方法の工程(i)(b)は、本明細書に記載のような該方法の工程(i)(a)が、該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸(すなわちgRNA)を与えると定義されている場合にのみ存在する。
【0153】
本明細書に記載のようなエンドヌクレアーゼは、標的部位特異性を欠失していると定義され、すなわち、該エンドヌクレアーゼは単独では、本明細書に記載の造血幹細胞のゲノム内の特定の標的部位を認識することができない。
【0154】
DNAを特定の標的部位において特異的に切断するために、このようなエンドヌクレアーゼは、選択された標的部位に結合するガイド核酸又はガイドペプチドと会合する必要がある。ガイドペプチドと会合した場合の、ガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼは本明細書に記述されている。
【0155】
ガイドペプチド又はガイド核酸(gRNA)によって標的部位に誘導される場合、本明細書に記載のようなエンドヌクレアーゼは、該標的部位に一本鎖切断又は二本鎖切断を導入することができる。
【0156】
特に、選択された標的部位に結合する単一のガイド核酸分子(gRNA)又は選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼが、本明細書に記載のような方法の工程(i)(a)に与えられている場合、ガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼのエンドヌクレアーゼ部分又は本明細書に定義されているような方法の工程(i)(b)のエンドヌクレアーゼは、標的部位において二本鎖切断を導入することができる。
【0157】
別の実施態様では、グロビン遺伝子のドメイン内の2つの異なる標的部位を認識することのできる2つのガイド核酸分子(gRNA)が工程(i)(a)に与えられている場合、標的部位特異性の欠けた1つ又は2つのエンドヌクレアーゼ(群)が、本明細書に記載のような方法の工程(i)(b)において与えられ得、1つ又は2つのエンドヌクレアーゼ(群)は2つの異なる標的部位において一本鎖切断を導入することができる。
【0158】
本明細書に記載のような方法の工程(i)(a)、(i)(b)及び(i)(c)は独立して、同時に又は互いに別々に実現され得る。好ましい実施態様では、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸、又は工程(i)(a)の選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼ、工程(i)(b)の標的部位特異性の欠けた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼ、及び工程(i)(c)の導入遺伝子は、該幹細胞に同時に与えられる。
【0159】
細胞内にタンパク質及び核酸分子をインビトロで、エクスビボで、又はインビボで導入する方法は、当技術分野において周知である。核酸(通常ベクター内に存在する)又はタンパク質を細胞内に導入するための伝統的な方法としては、マイクロインジェクション、電気穿孔法、及び超音波遺伝子導入法が挙げられる。マグネトフェクション、オプトインジェクション、オプトポレーション、光トランスフェクション及びレーザーフェクションなどの物理的、機械的、及び生化学的アプローチに基づいた他の技術も記述され得る(Stewart MP et al., Nature, 2016参照)。
【0160】
特定の実施態様では、工程(i)(b)の標的部位特異性の欠けたエンドヌクレアーゼは、RNA誘導型エンドヌクレアーゼである。特に、このRNA誘導型エンドヌクレアーゼは、gRNAにより指令されることにより、標的部位において一本鎖又は二本鎖の切断を導入することができる。
【0161】
本明細書に記載のようなRNA誘導型エンドヌクレアーゼは特に、クリスパー(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)関連タンパク質(Cas)、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)、又はラクノスピラ属(Lachnospiraceae)、アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)、プレボテラ属(Prevotella)、及びフランシセラ1属(Francisella1)のCRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cpf1)であってもよい。
【0162】
ゲノム編集のためのCRISPR-Casシステムは、標的化のためにタンパク質-DNAの相互作用を使用する他のシステムではなく、工学操作されたRNAと標的DNA部位との間の単純な塩基対形成の法則を使用した特定のシステムである。
【0163】
CRISPR-Cas RNA誘導型ヌクレアーゼは、侵入プラスミド及びウイルスに対して防御するために細菌において進化した適応免疫系に由来する。
【0164】
第一の実施態様によると、それは、侵入する短い核酸配列がCRISPR遺伝子座に取り込まれる機序からなる。それらは、その後、転写及びプロセシングされてCRISPR RNA(crRNA)となり、これはトランス活性化crRNA(tracrRNA)と一緒に、CRISPR関連(Cas)タンパク質と複合体を形成し、核酸間のワトソンクリック塩基対形成を通した、CasヌクレアーゼによるDNA切断特異性を指示する。crRNAは、「プロトスペーサー」配列として知られる可変配列を有する。プロトスペーサーのコードされているcrRNA部分は、Cas9に、相補的標的DNA配列が「プロトスペーサー隣接モチーフ」(PAM)として知られる短い配列に隣接している場合、該相補的標的DNA配列を切断するように指示する。CRISPR遺伝子座に取り込まれたプロトスペーサー配列は切断されない。なぜなら、それらはPAM配列の隣に存在していないからである(Mali et al. (Nat. Methods, 2013 Oct;10(10):957-63);及びWright et al. (2016 Jan. 14;164(1-2):29-44 Cell参照)。
【0165】
この第一の実施態様によると、本明細書に記載のようなガイドRNA(gRNA)は、単一のRNA(よってこれはsgRNAと呼ばれる)に相当するか、又はcrRNAとtracrRNAとの融合物に相当するかのいずれかである。本文書に使用されるガイドRNAすなわちgRNAという用語は、特定の形態が具体的に示されていない場合、これらの2つの形態を示す。
【0166】
この実施態様に記載の及びcrRNAとtracrRNAとの融合物に相当するgRNAにおける、ヌクレオチド1~32は天然crRNAであり、一方、ヌクレオチド37~100は天然tracrRNAであり、ヌクレオチド33~36は、2つのgRNA片の間のGAAAリンカーに相当する(Jinek et al. (2012) Science 337:816-821及びCong et al. (2013) Science; 339(6121): 819-823参照)。
【0167】
このようなgRNAは有利には、CRISPR-Cas9システムにおいて使用される。
【0168】
gRNAは人工であり、天然には存在しない。
【0169】
本明細書に記載のような好ましいgRNAは、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、及び配列番号63からなる群より選択された核酸配列を含むgRNAの中から選択され得る。
【0170】
本明細書に記載のような特に好ましいgRNAは、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、及び配列番号63からなる群より選択された核酸配列を含む、より好ましくは配列番号11、配列番号31及び配列番号37からなる群より選択された核酸配列を含むgRNAの中から選択され得る。
【0171】
本明細書に記載のような好ましいgRNAは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、及び配列番号64からなる群より選択された核酸配列からなるgRNAの中から選択され得る。
【0172】
本明細書に記載のような特に好ましいgRNAは、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、及び配列番号64からなる群より選択された核酸配列からなる、より好ましくは配列番号12、配列番号32及び配列番号38からなる群より選択された核酸配列を含む、gRNAの中から選択され得る。
【0173】
異なるPAMを有する、異なるCas又はCas9ヌクレアーゼと共に使用され得る、他のgRNAは、本発明による方法において設計され使用され得る。
【0174】
前記の20ヌクレオチドの核酸配列は、gRNA配列の5’末端における最初の20ヌクレオチドに相当し、今回の第一の実施態様では、PAM配列、好ましくはPAM配列NGGの直前にあり、すなわち、配列番号1~8の配列は、gRNA配列のヌクレオチド1~20を示し、PAMシグナルはヌクレオチド21~23である。
【0175】
PAM配列におけるNは、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、又はグアニン(G)であってもよい。
【0176】
実施例に例示されているように、HBA1/2遺伝子及びHBB遺伝子の5’領域(5’UTR又は近位プロモーター)又はイントロン(IVS1又はIVS2)のいずれかに標的化する多くの設計されたgRNAの中で、本発明者らは、Cas9により誘導される二本鎖切断(DSB)によりポジティブな二本鎖DNAの組込み事象が起こらない場合に、ノックアウト対立遺伝子が生じる可能性を最小限にするための特定のgRNAを選択した。
【0177】
別の実施態様によると、機序は、トランス活性化型crRNA(tracrRNA)が全く使用されない以外は、上記の第一の実施態様の機序に類似している。実際に、この実施態様では、CRISPR RNA(crRNA)はCRISPR関連(Cas)タンパク質と複合体を形成し、核酸間のワトソンクリック塩基対形成を通した、CasヌクレアーゼによるDNA切断特異性を指示する。この実施態様によると、Casタンパク質は有利にはCpf1である。実際に、Cpf1とCas9との間の重要な相違は、例えば、Cpf1が、tracrRNAを必要としない単一RNA誘導型ヌクレアーゼであることである。
【0178】
Cpf1酵素は、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)菌から単離されている。Cpf1タンパク質は、Cas9のそれぞれのヌクレアーゼドメインと遠縁であると予測されるRuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含有している。しかしながら、Cpf1は、Cas9のRuvC様ドメイン内に存在する第二のエンドヌクレアーゼドメインであるHNHを欠失しているという点でCas9とは異なる。Cpf1は、ガイドの5’側にあるTリッチPAMであるTTTNを認識し、この点が、ガイドの3’側にあるNGG PAMを使用するCas9とは異なる。
【0179】
PAM配列のTTTNにおける、Nは、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、又はグアニン(G)であってもよい。
【0180】
本実施態様によると、本明細書に記載のようなガイドRNA(gRNA)は単独のcrRNAに相当し、tracrRNAと融合している必要はない。このようなgRNAは有利には、CRISPR-Cpf1システムに使用される。
【0181】
特定の実施態様によると、本明細書で定義されている方法の工程(i)(a)の選択された標的部位に結合するガイドペプチドを含むエンドヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼである。
【0182】
TALEN技術は、特異的なDNA結合ドメインに融合させた、非特異的なDNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)を含む。特異的なDNA結合ドメインは、宿主植物細胞内の遺伝子の転写を変化させるためにキサントモナス属(Xanthomonas)の細菌によって分泌されるタンパク質である、転写活性化因子様エフェクター(TALE)に由来する高度に保存されている反復配列から構成されている。DNA切断ドメイン又は切断ハーフドメインは、例えば、様々な制限エンドヌクレアーゼ及び/又はFokIのホーミングエンドヌクレアーゼ(例えば、FokI IIS型の制限エンドヌクレアーゼ)から得ることができる(Wright et al. (Biochem. J. 2014 Aug. 15;462(1):15-24)参照)。
【0183】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技術は、DNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)へのジンクフィンガーDNA結合ドメインの融合によって作製された、人工制限酵素の使用からなる。ジンクフィンガードメインは、所望のDNA配列に特異的に標的化し、これにより、会合したヌクレアーゼが、複雑なゲノム内にある特有の配列を標的化することが可能となる。
【0184】
ジンクフィンガーDNA結合ドメインは、2フィンガーモジュールの一本の鎖を含み、各々が、特有のヘキサマー(6bp)DNA配列を認識する。2フィンガーモジュールは互いに縫合して、ジンクフィンガータンパク質を形成する。TALEN技術と同様に、DNA切断ドメインは、FokIのヌクレアーゼドメインを含む(Carroll D, Genetics, 2011 Aug; 188(4): 773-782; Urnov F.D. Nat Rev Genet. (9):636-46, (2010))。
【0185】
本明細書に記載のような方法の工程(i)(c)の導入遺伝子に関して、該導入遺伝子は好ましくは、プロモーターの制御下にはなく、及び/又は、提供される導入遺伝子は、幹細胞のゲノム内に挿入されないであろうプロモーターの制御下にある。
【0186】
実際に、以前に示されているように、本明細書に記載のような及び以前に定義されているような方法から得ることのできる、遺伝子的に改変された造血幹細胞は、グロビン遺伝子に含まれる少なくとも1つの導入遺伝子が、該導入遺伝子が挿入される該グロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にあるようなものである。
【0187】
本明細書に記載のような幹細胞のグロビン遺伝子の内因性プロモーターの使用は有利には、上記のような細胞内における導入遺伝子の高度かつ組織特異的な転写を可能とする。
【0188】
本明細書に記載のような方法の工程(ii)において、工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する。
【0189】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような造血幹細胞のエクスビボ又はインビトロでの調製法は、
(i)(a)該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれるグロビンコード遺伝子に位置する);
(b)該幹細胞に、標的部位特異性を欠いた少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに与える工程;及び
(c)該幹細胞に、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子をさらに与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む。
【0190】
以前に記載されているように、少なくとも1つのグロビン遺伝子は好ましくは、εグロビン遺伝子、γGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、ζグロビン遺伝子、偽ζグロビン遺伝子、μグロビン遺伝子、偽α1グロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、特にγGグロビン遺伝子、γAグロビン遺伝子、δグロビン遺伝子、βグロビン遺伝子、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択され、より特定すると、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0191】
特定の実施態様では、本発明は、請求項1~5のいずれか一項記載の造血幹細胞のインビボ、エクスビボ、又はインビトロでの調製法、特にエクスビボ又はインビトロでの調製法に関し、該方法は、
(i)(a)該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子の5’領域及び/又は第2イントロン(IVS2)に位置する);
(b)該幹細胞に、少なくとも1つのクリスパー(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)をさらに与える工程;及び
(c)該幹細胞に、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子をさらに与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含む。
【0192】
特定の実施態様では、本発明は、請求項1~5のいずれか一項記載の造血幹細胞のインビボ、エクスビボ、又はインビトロでの調製法、特にエクスビボ又はインビトロでの調製法に関し、該方法は、
(i)(a)該幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を与える工程(該標的部位は、該造血幹細胞のゲノムに含まれる内因性グロビンコード遺伝子の5’領域及び/又は第2イントロン(IVS2)に位置する);
(b)該幹細胞に、少なくとも1つのクリスパー(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)をさらに与える工程;及び
(c)該幹細胞に、少なくとも1つの治療用タンパク質又は少なくとも1つの治療用リボ核酸をコードしている導入遺伝子をさらに与える工程
による部位特異的遺伝子工学操作システムを、該幹細胞に与える工程;及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を培養して、該導入遺伝子を、該造血幹細胞のゲノム内の選択された該標的部位に導入する工程
を含み、
選択された標的部位に結合する前記の少なくとも1つのガイド核酸は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、及び配列番号64からなる群より選択された核酸配列からなる、好ましくは配列番号12、配列番号32及び配列番号38からなる群より選択された核酸配列を含む、gRNAからなる群より選択される。
【0193】
医薬組成物
本明細書の何処か他の箇所ですでに記載されているように、本発明はまた、本明細書に記載のような少なくとも1つの遺伝子的に改変された造血幹細胞、及び/又は本明細書に記載のような少なくとも1つの血液細胞(又は赤血球系細胞)を薬学的に許容される媒体中に含む、医薬組成物に関する。
【0194】
本明細書に記載のような薬学的に許容される媒体は特に、哺乳動物個体への投与に適している。
【0195】
「薬学的に許容される媒体」は、医薬組成物を製剤化する際の当業者には公知の標準的な薬学的に許容される媒体のいずれか、例えば、食塩水、リン酸緩衝化食塩水(PBS)、水性エタノール、又はグルコース、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコールの溶液、油(例えば植物油、動物油、合成油など)、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ゼラチン、又はポリソルベート80などを含む。
【0196】
本明細書に記載のような医薬組成物はさらに、1つ以上の緩衝液(例えば中性の緩衝化食塩水又はリン酸緩衝化食塩水);糖質(例えばグルコース、マンノース、ショ糖、又はデキストラン);マンニトール:タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えばグリシン;抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールなど);静菌剤;キレート剤、例えばEDTA又はグルタチオン;製剤を、レシピエントの血液に対して等張、低張、又は弱高張とする溶質;懸濁化剤;増粘剤及び/又は保存剤を含むことが多いだろう。
【0197】
勿論、担体の種類は典型的には、投与様式に応じて変更されるだろう。
【0198】
1つの実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、それを必要とする個体における処置される予定の障害/疾患に伴う容態を処置するのに効果的である治療用化合物と組み合わせて組成物中に使用され得る。例えば、本明細書に記載のような細胞は、日和見感染又は個体においてすでに進行している感染を防御するための抗細菌化合物、抗真菌化合物、又は抗ウイルス化合物と共に投与され得る。例示的には、血小板を、本明細書に記載のような組成物で本明細書に記載のような細胞と一緒に、血小板数を安全なレベルにまで回復するための一時的な措置として投与することができる。
【0199】
1つの実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、上記に定義されているような、しかし本明細書に記載のように改変されていない他の造血幹細胞又は血液細胞と組み合わせて、本明細書に記載のような組成物中に使用され得る。
【0200】
1つの実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、投与された細胞の治療効果を増強する他の薬剤及び化合物と組み合わせて、本明細書に記載のような組成物中に使用され得る。
【0201】
別の実施態様では、本明細書に記載のような細胞は、本明細書に記載のような造血幹細胞又は前駆細胞の分化を増大させる治療用化合物と共に、本明細書に記載のような組成物で投与され得る。これらの治療用化合物は、内因性である造血幹細胞及び/又は前駆細胞、並びに/あるいは、治療の一部として個体に投与される造血幹細胞及び/又は前駆細胞の分化及び動員を誘導する効果を有する。
【0202】
医薬品としての使用のための遺伝子的に改変された細胞
本発明の別の目的は、医薬品としてのその使用のための、本明細書に記載のような造血幹細胞、又は本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物である。
【0203】
本明細書に記載のような細胞は、任意の適切な経路、例えば静脈内、心内、髄腔内、筋肉内、関節内、又は骨髄内への注射によって、治療利点をもたらすに十分な量で被験者に投与される。
【0204】
治療効果を達成するのに必要とされる細胞の量は、具体的な目的のために従来の手順に従って経験的に決定されるだろう。
【0205】
一般的には、治療目的のための細胞の投与のために、細胞は薬理学的に有効な用量で投与される。
【0206】
「薬理学的有効量」又は「薬理学的に有効な用量」によって、所望の生理学的効果を生じるに十分な量、又は、特に、障害若しくは疾患の1つ以上の症状若しくは徴候を低減若しくは排除することを含む、障害若しくは疾患の容態の処置のために、所望の結果を達成することのできる量を意味する。
【0207】
例示的には、好中球減少症を患う患者への細胞の投与は、基礎容態が根絶又は寛解されている場合だけでなく、患者が、疾患に伴う症状の重症度又は期間の減少を報告している場合でさえも、治療利点を提供する。治療利点はまた、改善が実現するかどうかに関係なく、基礎疾患又は基礎障害の進行の停止又は緩徐化も含む。
【0208】
細胞は、当技術分野において周知である方法によって投与される。1つの実施態様では、投与は静脈内注入による。別の方法では、投与は骨髄内注射による。
【0209】
注入される細胞数は、性別、年齢、体重、疾患又は障害の種類、障害のステージ、細胞集団中の所望の細胞の比率(例えば細胞集団の純度)、及び治療利点を生じるのに必要とされる細胞数などの要因が考慮されるだろう。
【0210】
一般的には、注入される細胞数は、1×10から5×10個の細胞/kg(体重)、特に1×10から10×10個の細胞/kg、好ましくは5×10個の細胞から約5×10個の細胞/kgであってもよい。
【0211】
本明細書に記載のような医薬組成物は、以前に記載されているように、それを必要とする個体への本明細書に記載のような細胞の投与のために使用され得る。
【0212】
細胞の投与は、単回投与又は連続投与を通し得る。連続投与が含まれる場合、異なる細胞数及び/又は異なる細胞集団が各投与のために使用されてもよい。
【0213】
例示的には、初回投与は、即座の治療利点並びにより長期間の効果をもたらす、本明細書に記載のような細胞又は細胞集団(赤血球及び/又は骨髄系共通前駆細胞(CMP)及び/又は造血幹細胞(HSC)+顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)+好中球)であってもよいが、2回目の投与は、長期間の効果を与え初回投与の治療効果を延ばす本明細書に記載のような細胞(例えばCMP及び/又はHSC)を含む。
【0214】
本明細書に記載のような幹細胞、血液細胞又は医薬組成物は、それを必要とする個体における、
-自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
-タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患
の処置に使用され得る。
【0215】
したがって、本発明のさらなる目的は、それを必要とする個体における、
-自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
-タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患
の処置に使用するための、本明細書に記載のような遺伝子的に改変された造血幹細胞、又は本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物である。
【0216】
また、それを必要とする個体への、本明細書に記載のような造血幹細胞、本発明の血液細胞、及び/又は本明細書に記載のような医薬組成物の投与を含む、
それを必要とする個体における、
-自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
-タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患
の処置法も記述され得る。
【0217】
本発明はまた、それを必要とする個体における、
-自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患;及び/又は
-タンパク質の欠失又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患
の処置用の医薬品の製造のための、本明細書に記載のような造血幹細胞、本発明の血液細胞、及び/又は本明細書に記載のような医薬組成物の使用に関する。
【0218】
特定の実施態様では、本明細書に記載のような幹細胞、血液細胞、又は医薬組成物は、それを必要とする個体における、分泌タンパク質の欠失によって又は異常な機能していないタンパク質の存在によって引き起こされる疾患の処置に使用され得る。
【0219】
このような疾患は、例えば、凝固障害、ライソゾーム蓄積症、ホルモン異常、及びα1アンチトリプシン欠乏症からなる群より選択され得る。
【0220】
ライソゾーム蓄積症は、例えば、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ欠損症-遺伝子名:GBA)、ファブリー病(αガラクトシダーゼ欠損症-GLA)、ハンター病(イズロン酸-2-スルファターゼ欠損症-IDS)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ欠損症-IDUA)、及びニーマン・ピック病(スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1欠損症-SMPD1)から選択され得る。
【0221】
別の実施態様では、本明細書に記載のような幹細胞、血液細胞、又は医薬組成物は、自己免疫疾患、ウイルス感染症及び腫瘍からなる群より選択された疾患の処置に使用され得る。
【0222】
実際に、本発明の1つの実施態様によると、本発明の治療用タンパク質は、細菌毒のような標的タンパク質、又は疾患を直接引き起こすタンパク質(例えば黄斑変性症における血管内皮増殖因子)の中和のために、並びに、その残存及び複製が宿主を危険にさらす細胞(例えば癌細胞、並びに、自己免疫疾患における特定の免疫細胞)の高度に選択的な死滅のために使用され得る、治療用抗体であってもよい。
【0223】
本発明はさらに、それを必要とする個体に免疫寛容を誘導するために使用するための、本明細書に記載のような遺伝子的に改変された造血幹細胞、又は本明細書に記載のような血液細胞、又は本明細書に記載のような医薬組成物に関する。
【0224】
本発明は、本明細書の実施例によってさらに例示されるが、いずれにしてもそれらに限定されない。
【0225】
実施例
実施例1:K562赤白血病細胞株におけるgRNAの設計及び検証
以前に示されているように、本発明者らは、HBA1/2遺伝子又はHBB遺伝子の5’領域(5’UTR又は近位プロモーター)又はイントロンの1つ(IVS1又はIVS2)に標的化するいくつかのgRNAを設計した。
【0226】
gRNA候補をコードするプラスミドを、SpCas9を恒常的に発現している安定なK562細胞クローン(K562-Cas9)にヌクレオフェクトした。
【0227】
本実施例に使用されるgRNA候補は、以下の配列を有するものである:
【0228】
HBAでは、左から右に:配列番号4、6、8、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36及び38;HBBでは、左から右に:配列番号40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62及び64。
【0229】
より特定すると、K562(ATCC(登録商標)CCL-243)を、2mMのグルタミンを含有し、10%ウシ胎児血清(FBS、バイオウィッタカー社、ロンザ社)、HEPES(10mM、ライフテクノロジーズ社)、ピルビン酸ナトリウム(1mM、ライフテクノロジーズ社)、並びにペニシリン及びストレプトマイシン(各々100U/ml、ライフテクノロジーズ社)の補充された、RPMI1640培地(ギブコ社)中で維持した。K562-Cas9の安定なクローンを、spCas9とブラストサイジン耐性カセットとを発現しているレンチウイルスベクター(アドジーン社、52962番)での感染により作製し、選択し、サブクローニングした。
【0230】
2.5×10個のK562-Cas9細胞に、SF細胞株4D-Nucleofectorキットと共にNucleofector Amaxa4D(ロンザ社)を使用して、20μLの容量中の200ngのgRNA含有ベクター(アドジーン社、53188番)を用いてトランスフェクトした。
【0231】
ヌクレオフェクションから48時間後、細胞をペレット化し、DNAを、MagNA Pure 96 DNA and Viral NA Small Volume Kit(ロシュ社)を使用して抽出した。50ngのゲノムDNAを、KAPA2G Fast ReadyMix(カパ・バイオシステム社)を使用して、各gRNAの切断部位にスパンする領域を増幅した。サンガーシークエンス後、挿入及び欠失(インデル)の比率を、ソフトウェアTIDE(Tracking of InDels by Decomposition - Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168))によって計算した。
【0232】
インデルは、ヌクレアーゼ活性によって生じる、非相同末端結合(NHEJ)によるDNA末端のDNA修復によって引き起こされる、ゲノム内の塩基の挿入又は欠失である。それは、Brinkman et al.(Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168))においてよく定義されている。したがって、インデルの結果が100%に近づけば近づくほど、試験されたgRNAはより効率的である。
【0233】
HBAの標的遺伝子座の5’領域、特に5’UTR、IVS1及びIVS2について最高の成績を示すgRNA(それぞれ、5’領域については配列番号12の配列を有するgRNA、IVS1については配列番号32の配列を有するgRNA、及びIVS2については配列番号38の配列を有するgRNA)を、導入遺伝子を含有しているドナーDNA(dDNA)の組込み及び発現についてさらに試験した。ドナーDNAとして、成功裡に標的化されると内因性α/βグロビンプロモーターの制御下にあると予想される、プロモーターを含まないGFPと、ドナーDNA含有細胞を強化するためのピューロマイシン発現カセットとをコードしている、インテグラ―ゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)を作製した。
【0234】
ドナーDNAの組込みを試験するために、K562-Cas9細胞をまず、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)を用いて形質導入し、24時間後、選択されたgRNAコードプラスミドを用いてトランスフェクトした。ピューロマイシンによる選択後、高い比率のGFP陽性細胞が、試験された全てのgRNA及びdDNAについて観察されたが(データは示されていない)、一方、ランダムなカセットの組込み時にはGFPの有意な発現は全く検出されなかった(示されていない)。
【0235】
本発明者らはその後、K562の赤血球系への分化を誘導して、HBA及びHBBの転写をアップレギュレートし、GFP発現の同時増加を観察し、これにより、レポーターが実際に、内因性グロビンプロモーターの転写調節下にあったことが確認された(データは示されていない)。最後に、gRNA/dDNAの全ての組合せについての正しい組込みが、1つのGFP陽性細胞クローンに関するPCR及びサンガーシークエンスによって検証された(データは示されていない)。
【0236】
要約すると、本発明者らは、いくつかの効果的なgRNAを同定し、dDNAカセットを設計することにより、内因性赤血球系α-グロビン及びβ-グロビンプロモーターの制御下で、正確かつ機能的な導入遺伝子の標的化組込みを成し遂げた。
【0237】
実施例2:HBA及びHBBの遺伝子座への導入遺伝子の標的化組込みにより、内因性プロモーターによる該導入遺伝子の調節が可能となる
本発明者らは、グロビン遺伝子座に挿入された導入遺伝子が、対応するグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にあることを確認した。
【0238】
したがって、それらのHBA遺伝子又はHBB遺伝子の様々なドメインにGFP遺伝子を挿入するためにトランスフェクトされたK562細胞は、本明細書で後に示されているプロトコールに基づいたヘミンを用いての誘導時に、赤血球系への分化を受けた。該分化により、HBA又はHBBの転写物がアップレギュレートされ、分化していない細胞(グリコホリン陰性)と分化した細胞(グリコホリン陽性)のGFP発現をモニタリングし、比較した。
【0239】
5×10個のK562-Cas9細胞を、プロモーターを含まないGFPと恒常的に発現されているピューロマイシン耐性遺伝子とを含有しているインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターを用いて形質導入した。
【0240】
トラップを、HBA又はHBBの5’領域(HBAについては5'UTR、HBBについては近位プロモーター)又はイントロンに組み込まれると発現されるように設計した。形質導入の翌日、細胞を洗浄し、2.5×10個の形質導入された細胞を、SF細胞株4D-Nucleofectorキットと共にNucleofector Amaxa4D(ロンザ社)を使用して、200ngのgRNA含有ベクターを用いてトランスフェクトした。
【0241】
2週間後、細胞を、ピューロマイシン(5μg/ml)で選択することにより、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターの組込みについて強化し、GFP陽性細胞を、MoFlocell選別機(ベックマンコールター社)を使用して選別した。gRNA/インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターの各組合せについてのGFP陽性細胞を、培地にヘミンを添加することによって(50μM)、4日間かけて分化させた。K562の分化は均質ではないので、分化状態を決定するために、細胞を抗グリコホリンA(GPA又はGYPA)抗体(PECy7マウス抗ヒトCD235a抗体、クローンGA-R2、BDバイオサイエンス社)で染色し、GFP発現をフローサイトメトリーによって分析した。
【0242】
得られた結果(図2参照)は、標的化された細胞の赤血球系への誘導時においてGFPの発現の増加を示すが、対照細胞(AAVS1遺伝子座(gRNA AAVS1)に又はランダム(gRNA Luc)に組み込まれたインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター)においては示さない。
【0243】
これらの結果は、レポーター導入遺伝子が実際に、内因性グロビンプロモーターの転写調節下にあるという事実を例証する。
【0244】
実施例3:HBAへのドナーDNAの標的化組込みにより、様々な導入遺伝子の安定な発現が可能となる
本発明者らは、様々な導入遺伝子を、本発明による対応するグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある、グロビン遺伝子座内に成功裡に挿入することができることを確認した。
【0245】
5×10個のK562-Cas9細胞に、プロモーターを含まない切断短縮された神経成長因子受容体(DNGFR)又はコドン最適化された第VIII因子(F8)及び恒常的に発現されているピューロマイシン耐性遺伝子を含有している、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)を用いて形質導入した。トラップを、標的組込み時に発現されるように設計した。形質導入の翌日、細胞を洗浄し、2.5×10個の形質導入された細胞に、SF細胞株4D-Nucleofectorキットと共にNucleofector Amaxa4D(ロンザ社)を使用して、200ngのHBA 5’UTR gRNA含有ベクターを用いてトランスフェクトした。
【0246】
2週間後、細胞を、ピューロマイシン(5μg/ml)で選択することにより、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターの組込みについて強化した。
【0247】
得られた結果を図3に示す。
【0248】
左パネル:ピューロマイシンで選択された細胞を、抗NGFR抗体(マウス抗ヒトCD271(アロフィコシアニン)抗体、ミルテニーバイオテック社)で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0249】
右パネル:HBAにF8-ピューロマイシントラップを組み込んだ、ピューロマイシンにより選択された細胞の代表的なクローン。
【0250】
細胞を、Cytofix/Cytoperm(商標)(BDバイオサイエンス社)を使用して固定及び透過性処理し、F8の発現をフローサイトメトリーによってモニタリングした(マウス抗ヒトFVIII GMA-8015、Green Mountain社及びヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体、アレキサフルオル488、インビトロジェン社)。
【0251】
本発明者らは、本発明による方法が、関心対象の細胞のグロビン遺伝子における、様々な導入遺伝子の安定な発現の誘導を可能とすることを実証した。
【0252】
実施例4:造血幹細胞/前駆細胞(HSPC)への標的組込み効率に対するホモロジーアームの効果
ドナーDNAトラップに対するホモロジーアームの付加の効果を観察した。
【0253】
動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を解凍し、刺激前培地中で48時間培養した(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;300ng/mlの組換えヒト幹細胞因子、300ng/mlのFlt3-L、100ng/mlの組換えヒトトロンボポエチン、及び20ng/mLのIL-3、CellGenix社)。
【0254】
gRNA 5’UTRのための特異的なcrRNA及び足場のtracrRNA(Integrated DNA Technologies社)を、製造業者の説明書に従ってアニーリングさせ、リボヌクレオタンパク質複合体を、30pmolのspCas9を用いて形成した(1:1.5の比)。1つの条件あたり2×10個の細胞に、P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(ロンザ社)を使用してリボヌクレオタンパク質複合体を用いてヌクレオフェクトし、5’UTRgRNA標的部位のためのホモロジーアーム(導入遺伝子のそれぞれの側に250bp)を含む又は含まないGFP-ピューロマイシンベクタートラップを用いて形質導入した。
【0255】
トラップは、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(ホモロジーアームなし、感染効率は100、上のパネル)又はAAV6ベクター(ホモロジーアーム、感染効率は15000、下のパネル)として提供された。形質導入後、細胞を洗浄し、ステムレゲニン1(0.75μM、ステムセルテクノロジーズ社)及びZ-VAD全カスパーゼ阻害剤(120μM、InvivoGen社)の存在下でさらに48時間かけて刺激前培地中に放置し、赤血球系分化培地(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;20ng/mlの幹細胞因子、1μ/mLのエリスロポエチン、5ng/mlのIL3、2μMのデキサメタゾン、及び1μMのβ-エストラジオール)中で14日間培養した。
【0256】
GFPの発現を、赤血球系の分化に沿ってフローサイトメトリーによってモニタリングした。
【0257】
得られた結果を図4に示す。
【0258】
標的の組込み効率は、アデノ随伴ウイルスによって送達されるドナーDNAトラップへのホモロジーアームの付加と共に劇的に増加することを認めることができる。
【0259】
実施例5:K562におけるHBAによる産生に対する、各gRNAの標的上の活性の効果
Cas9/gRNAにより誘導されるDNA二本鎖切断が、ドナーDNAの組込みがない場合、HBAの発現に影響を及ぼし得るかどうかを評価するために、本発明者らは、Cas9-K562にgRNA候補をトランスフェクトし、本発明者らは、ウェスタンブロットによりHBAの発現を、又はFACSによりHbF(ウシヘモグロビン、2本のHBA鎖と2本のHBG鎖から構成される)の発現をモニタリングした。
【0260】
まず、2.5×10個のK562-Cas9細胞に、SF細胞株4D-Nucleofectorキットと共にNucleofector Amaxa4D(ロンザ社)を使用して、200ngのgRNA含有ベクターを用いてトランスフェクトした。ゲノム編集効率は、PCR産物に対するTIDE分析によって測定された。
【0261】
ヌクレオフェクションから1週間後、細胞を、Cytofix/Cytoperm(商標)(BDバイオサイエンス社)を使用して固定及び透過性処理し、HbFの発現をフローサイトメトリーによってモニタリングした(アロフィコシアニン・マウス抗ヒトウシヘモグロビン抗体、クローン2D12、BDバイオサイエンス社)。
【0262】
得られた結果を図5の上の部分に示す。
【0263】
HBA遺伝子の特定の部位におけるゲノム編集効率を、編集された対立遺伝子(インデル)の比率として各ヒストグラムの上に示す。
【0264】
さらに、100万個のヌクレオフェクトされた細胞を、Complete(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ社)の補充された、RIPA緩衝液(50mMのトリス-HCl、pH7.4、150mMのNaCl、1%トリトンx-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)に溶解した。
【0265】
細胞溶解液を、ビシンコニン酸タンパク質アッセイ(サーモフィッシャー社)によって定量した。試料を、1×還元剤及びサンプルローディング色素(インビトロジェン社)の存在下で、90℃で5分間かけて変性させた。30μgの全タンパク質を、1×モルホリノエタンスルホン酸(インビトロジェン社)中、Boltビス・トリス4~12%プラスゲル(インビトロジェン社)を使用して200Vで泳動させ;タンパク質を、IBlot2システム(インビトロジェン社)によってニトロセルロース膜に転写した。オデッセイトリス緩衝食塩水の遮断緩衝液(ライカー社)を用いて2時間かけて遮断した後、膜を、αグロビン(ヤギ抗ヘモグロビンα抗体D-16、サンタクルーズ社)及びβ-チューブリン(ウサギポリクローナル抗体、ライカ―社)に対する一次抗体と共にインキュベートし、トリス緩衝食塩水-0.1%Tween20で洗浄した。部位特異的な二次抗体を1:10000で使用した(ロバ抗ヤギIRDye800及びマウス抗ウサギIRDye680、ライカー社)。データは、オデッセイ近赤外蛍光イメージングシステムを用いて取得し、Image Studio Liteを用いて分析した。
【0266】
得られた結果を図5の中央部に示す。
【0267】
HBA遺伝子の特定の部位におけるゲノム編集効率を、編集された対立遺伝子(インデル)の比率としてレーンの下に示す。
【0268】
本発明者らは、高いレベルのgRNAにより誘導されたゲノム二本鎖切断(インデル比率)を得たが、HBB又はHbFの発現に対する作用は全く観察されず、このことは、Cas9により誘導された二本鎖切断は、α-グロビン鎖の内因性発現に影響を及ぼさない/減少させないことを示す。
【0269】
この実施例では、使用されるgRNAは以下である:
-5’UTRについては、配列番号12の配列を有するgRNA;
-KOについては、配列番号14の配列を有するgRNA;
-IVS1については、配列番号32の配列を有するgRNA;
-IVS2については、配列番号38の配列を有するgRNA。
UTは、(トランスフェクトされていない)対照細胞である。
【0270】
さらに、動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を解凍し、刺激前培地中で48時間培養した(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;300ng/mlの組換えヒト幹細胞因子、300ng/mlのFlt3-L、100ng/mlの組換えヒトトロンボポエチン、及び20ng/mLのIL-3、CellGenix社)。特異的なcrRNA及び足場のtracrRNA(Integrated DNA Technologies社)を、製造業者の説明書に従ってアニーリングさせ、リボヌクレオタンパク質複合体を、30pmolのspCas9を用いて形成した(1:1.5の比)。1つの条件あたり2×10個の細胞に、P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(ロンザ社)を使用してリボヌクレオタンパク質複合体を用いてヌクレオフェクトし、赤血球系分化培地(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;20ng/mlの幹細胞因子、1μ/mLのエリスロポエチン、5ng/mlのIL3、2μMのデキサメタゾン、及び1μMのβ-エストラジオール)中で14日間培養した。細胞を、Cytofix/Cytoperm(商標)(BDバイオサイエンス社)を使用して固定及び透過性処理し、HbFの発現をフローサイトメトリーによってモニタリングした(アロフィコシアニン・マウス抗ヒトウシヘモグロビン抗体、クローン2D12)。
【0271】
得られた結果を図5の下の部分に示す。
【0272】
HBA遺伝子の特定の部位におけるゲノム編集効率を、編集された対立遺伝子(インデル)の比率としてグラフの上に示す。
【0273】
ここでも、本発明者らは、高いレベルのgRNAにより誘導されたゲノム二本鎖切断(インデル比率)を得たが、HBB又はHbFの発現に対する作用は全く検出されず、このことは、本発明者らのHBA gRNA候補によって誘導された二本鎖切断が、ヒト造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)由来の赤血球系細胞におけるα-グロビン鎖の内因性発現に影響を及ぼさない/減少させないことを示す。
【0274】
実施例6:本発明の標的化組込み部位は、造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)由来の赤芽球におけるHBA又はHBBの合成に重度の影響を及ぼさない
動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を、HBA遺伝子又はHBB遺伝子内の様々な特定の部位(5’UTR、第2イントロン(IVS2)、又は第1エキソン(KO))に標的化するgRNAを用いてヌクレオフェクトし、赤血球系統へと分化させることにより、グロビンの発現を活性化した。
【0275】
HBB内の第1エキソンに標的化するために使用されるgRNA(HBB KO)は、部分配列CTTGCCCCACAGGGCAGTAA(配列番号65)及び完全配列CTTGCCCCACAGGGCAGTAACGG(配列番号66)を有する。
【0276】
AAVS1遺伝子を標的化するために使用されるgRNA(AAVS1)は、部分配列gtcccctccaccccacagtg(配列番号67)及び完全配列gtcccctccaccccacagtgGGG(配列番号68)を有する。
【0277】
HBA1/2内の第1エキソンに標的化するために使用されるgRNA(HBA KO)は、部分配列GTCGGCAGGAGACAGCACCA(配列番号13)及び完全配列GTCGGCAGGAGACAGCACCATGG(配列番号14)を有する、HBA16.1と命名されたものである。
【0278】
特に、動員された末梢血造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を解凍し、刺激前培地中で48時間培養した(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;300ng/mlの組換えヒト幹細胞因子、300ng/mlのFlt3-L、100ng/mlの組換えヒトトロンボポエチン、及び20ng/mLのIL-3、CellGenix社)。特異的なcrRNA及び足場のtracrRNA(Integrated DNA Technologies社)を、製造業者の説明書に従ってアニーリングさせ、リボヌクレオタンパク質複合体を、30pmolのspCas9を用いて形成した(1:1.5の比)。
【0279】
1つの条件あたり2×10個の細胞に、P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(ロンザ社)を使用してCas9リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体を用いてヌクレオフェクトし、赤血球系分化培地(StemSpan、ステムセルテクノロジーズ社;20ng/mlの幹細胞因子、1μ/mLのエリスロポエチン、5ng/mlのIL3、2μMのデキサメタゾン、及び1μMのβ-エストラジオール)中で14日間、又は半固形Methocult培地(H4435、ステムセルテクノロジーズ社)中で14日間、コロニー形成細胞(CFC)アッセイのために培養した。
【0280】
その後、分化した造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に由来する赤芽球を水に溶解し、ヘモグロビンサブユニット含量をクロマトグラフィーによって測定した。
【0281】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を、NexeraX2 SIL-30ACクロマトグラフ(島津製作所、京都、日本)を使用して実施し、液クロ解析ソフトウェアを用いて分析した。
【0282】
グロビン鎖を、250×4.6mm、3.6μmのエアリスワイドポアカラム(フェノメネクス社)を使用して分離した。試料を、220nmでの吸光度をモニタリングしながら、溶液A(水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸、95:5:0.1)及び溶液B(水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸、5:95:0.1)の勾配混合物を用いて溶出した。
【0283】
得られた結果を図6に示す。
【0284】
リボヌクレオタンパク質のヌクレオフェクションを使用して、本発明者らは、本発明において考えられているHBA及びHBBの特定の領域の編集が、液体培養液及び赤色コロニーの両方におけるヘモグロビンサブユニットのHPLCによる定量によって評価したところ、造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に由来する赤芽球におけるHBA又はHBBの合成を有意に変化させないことを実証した。その代わりに、これらの遺伝子のコード配列を標的化した場合(HBA KO対照及びHBB KO対照)、大きな変化が観察された。
【0285】
実施例7:HBAへのドナーDNAの標的化組込みは、FVIII又はFIX導入遺伝子の安定な発現を可能とする
様々な導入遺伝子をHBA遺伝子に組み込み、内因性α-グロビンプロモーターの転写制御を活用した機能的な凝固因子が分泌された。
【0286】
実験的には、K562-Cas9細胞に、プロモーターを含まない第IX因子又はコドンの最適化された第VIII因子(F8)の導入遺伝子を含有しているインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターを用いて形質導入した。これらのインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターは、標的の組込み時に発現されるように設計された。
【0287】
24時間後、細胞に、gRNA発現プラスミドを用いてトランスフェクトし、HBA遺伝子座の5’UTRに二本鎖切断を起こした。FVIII又はFIXカセットが単一対立遺伝子の標的上に組み込まれた単一細胞クローンを選択し、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイによって、細胞上清中に分泌されたFVIII及びFIXの活性を測定した。
【0288】
類似の測定が、対照(CTRL)である、形質導入されていない細胞の上清を用いて行なわれた。
【0289】
得られた結果を図7に示す。
【0290】
本発明は、関心対象の細胞のグロビン遺伝子に標的化組込みされると、様々な導入遺伝子(今回の場合、FVIII及びFIX)の安定な発現を可能とする。
【0291】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022191410000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-10-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【外国語明細書】