IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-非特異的な核酸増幅を抑制する方法 図1
  • 特開-非特異的な核酸増幅を抑制する方法 図2
  • 特開-非特異的な核酸増幅を抑制する方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191442
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】非特異的な核酸増幅を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20221220BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221220BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALN20221220BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20221220BHJP
【FI】
C12N15/10 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167950
(22)【出願日】2022-10-19
(62)【分割の表示】P 2022529268の分割
【原出願日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020128552
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.Triton
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山越 奈々
(72)【発明者】
【氏名】寺内 謙太
(57)【要約】
【課題】 1ステップRT-PCR法で、非特異的な核酸増幅を抑えて、鋳型RNAからのDNA増幅を特異的に行う手段を提供すること。
【解決手段】 試料から1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法であって、以下の工程;(1)試料と、アニオン性ポリマーと、(i)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼまたは(ii)逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとを含む1ステップRT-PCR反応液を調製する工程、及び(2)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程、を包含し、前記1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上である核酸増幅方法を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法であって、以下の工程;
(1)試料と、アニオン性ポリマーと、(i)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼまたは(ii)逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとを含む1ステップRT-PCR反応液を調製する工程、及び
(2)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程、
を包含し、前記1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上である、核酸増幅方法。
【請求項2】
前記工程(1)で使用する試料が、精製工程を経ていない生体由来試料、環境試料又は細胞由来試料である、請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項3】
前記工程(1)で使用する試料が、唾液、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、うがい液、糞便、肺吸引物、脳脊髄液、涙液、培養細胞、培養上清、ふき取り検査試料、土壌試料、及び下水試料からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の核酸増幅方法。
【請求項4】
前記工程(1)で使用する試料が、水、生理食塩水、緩衝液、及びスプタザイム酵素液からなる群より選択される少なくとも1種に懸濁された懸濁液、又はそれらの遠心上清若しくは濃縮物である請求項1~3のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項5】
前記工程(1)で使用する試料がRNAウイルスを含み得る試料である、請求項1~4のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項6】
2以上のターゲット領域を1つの1ステップRT-PCR反応液で特異的に増幅させる、請求項1~5のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項7】
2以上のターゲット領域が、試料に含まれ得るRNAウイルスのゲノムRNAにおけるターゲット領域である、請求項6に記載の核酸増幅方法。
【請求項8】
RNAウイルスが、エンベロープを持つRNAウイルスである、請求項5~7のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項9】
エンベロープを持つRNAウイルスが、コロナウイルス科ウイルス、フラビウイルス科ウイルス;トガウイルス科ウイルス;オルトミクソウイルス科ウイルス;ラブドウイルス科ウイルス;ブニヤウイルス科ウイルス;パラミクソウイルス科ウイルス;及びフィロウイルス科ウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の核酸増幅方法。
【請求項10】
エンベロープを持つRNAウイルスが、SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス、及びSARS-nCOV-2コロナウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である請求項8又は9に記載の核酸増幅方法。
【請求項11】
RNAウイルスが、エンベロープを持たないRNAウイルスである、請求項5~7のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項12】
エンベロープを持たないRNAウイルスが、カリシウイルス科ウイルス、アストロウイルス科ウイルス;ピコルナウイルス科ウイルス;へペウイルス科ウイルス;及びレオウイルス科ウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の核酸増幅方法。
【請求項13】
アニオン性ポリマーが、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基、及びホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種のアニオン性官能基を有するモノマーを重合して得られるポリマーである、請求項1~12のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項14】
アニオン性ポリマーの平均分子量が1,000~5,000,000である、請求項1~13のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項15】
DNAポリメラーゼが、Taq、Tthおよびそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~14のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項16】
逆転写酵素の由来が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMRV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項17】
前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、ターゲット領域に対応する1以上のプライマー対をさらに含む、請求項1~16のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項18】
前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、ターゲット領域に対応するハイブリダイゼーションプローブをさらに含む、請求項1~17のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項19】
前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、ウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコール、ゼラチン、及び極性有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、請求項1~18のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項20】
ベタイン様4級アンモニウム塩が、ベタインまたはL-カルニチンである請求項19に記載の核酸増幅方法。
【請求項21】
前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が、0.0025~0.05%である、請求項1~20のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項22】
精製工程を経ていない試料からの1ステップRT-PCRによる核酸増幅において、1ステップRT-PCR反応液中にアニオン性ポリマーを共存させること特徴とする、非特異増幅を抑制する方法。
【請求項23】
1ステップRT-PCR反応液中において0.001%以上の量でアニオン性ポリマーを共存させる、請求項22に記載の非特異増幅抑制方法。
【請求項24】
試料から2以上のターゲット領域を1つの反応液で特異的に増幅させる1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法あって、該反応液中にアニオン性ポリマーを共存させることを特徴とする、核酸増幅方法。
【請求項25】
精製工程を経ていない試料からの1ステップRT-PCRによる核酸増幅において非特異増幅を抑制するために用いられる、アニオン性ポリマーを含有する試薬。
【請求項26】
1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上の量となるように調整して用いられる、請求項25に記載の試薬。
【請求項27】
アニオン性ポリマーを含有する、請求項1~24のいずれかに記載の1ステップRT-PCR反応による核酸増幅方法に用いるための試薬。
【請求項28】
請求項25~27のいずれかに記載の試薬を含有する、1ステップRT-PCR反応による核酸増幅方法に用いるためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を増幅する方法に関する。例えば、本発明はリボ核酸(RNA)鋳型からの核酸の増幅のために有用な組成物及び方法、具体的には、アニオン性ポリマーを用いて逆転写反応から核酸増幅を行うための組成物及び方法に関する。より具体的には、アニオン性ポリマー存在下でのリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による核酸増幅に関する。本発明の方法は、例えば、咽頭ぬぐい液、唾液試料、喀痰試料、糞便試料、血液試料、環境拭き取り試料等におけるRNAウイルス由来のRNAや、生体試料等における生体由来RNAを特異的に検出することが可能にする。本発明は、生命科学研究、臨床診断や食品衛生検査、環境検査等にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床検査といった医療分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等においても、広く用いられている。代表的な核酸増幅法は、PCR(Polymerase Chain Reaction)である。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。アニーリングと伸長を同温度で、2ステップで行う場合もある。
【0003】
RNAを分析する場合、このPCRの前段として、鋳型RNAをcDNAに変換する逆転写(Reverse Transcription;RT)を実施する。これをRT-PCRという。このRT-PCRは、(1)RT、PCRを非連続に実施する2ステップRT-PCR、(2)RT、PCRを連続して実施する1ステップRT-PCRの2つに大別される。RT-PCRのうち、遺伝子検査やウイルス検査では、処理能力の高さや、反応途中での反応容器の開閉によるコンタミネーションを回避するため、1ステップRT-PCRが好まれる。
【0004】
1ステップRT-PCRの検出感度には、逆転写酵素の逆転写効率およびDNAポリメラーゼのDNA合成効率が大きく関係する。これまで、逆転写酵素の逆転写効率およびDNAポリメラーゼのDNA合成効率の向上させるため、酵素活性を改善したアミノ酸変異体や(特許文献1)、さまざまな添加剤等の利用が検討されてきた(特許文献2)。逆転写酵素とDNAポリメラーゼを含む二酵素系での1ステップRT-PCRにおいては、逆転写酵素自体がPCRを阻害することも知られており、逆転写酵素による阻害を低減する方法として核酸ポリマーを添加する方法も知られている(特許文献3)。
【0005】
逆転写酵素の逆転写効率およびDNAポリメラーゼのDNA合成効率に加えて、検出感度に影響を与えるのが非特異的な遺伝子増幅である。非特異的な遺伝子増幅とは、PCRにおいて標的としている遺伝子以外の核酸配列が増幅することを指す。PCRは、色素やタンパク質、糖類などの夾雑物の影響を受けやすく、夾雑物が反応を阻害したり非特異的な核酸増幅を生じさせることが知られている。そこで通常、試料から核酸増幅する場合は、事前に核酸を精製することが必要とされている。しかし核酸の精製は操作が煩雑で、時間を要し、操作中にコンタミネーションを生じる危険性がある。また試料中の目的核酸含量が少ない場合には、回収することができない場合もあった。これらのことから、未精製の試料を用いる場合であっても非特異反応を抑制し、標的核酸を簡便かつ効率的に増幅する方法が求められている。
【0006】
また、複数の核酸増幅産物を同時に検出したい場合、試薬や機材、時間等を節約したい場合、鋳型サンプル量が限定される場合などに、多数のプライマーセットを用いて2以上のターゲット領域を1つの反応液中で同時に増幅させるPCR法、いわゆるマルチプレックスPCR法が行われる場合がある。しかし、マルチプレックスPCRでもまた、プライマーダイマーや非特異反応が発生しやすくなり、標的核酸を高感度に増幅することが難しい場合があった。そのため、マルチプレックスPCRを行う場合であっても非特異反応を抑制し、標的核酸を簡便かつ効率的に増幅する方法の開発が求められている。
【0007】
さらに、1ステップRT-PCRでは、同一の反応容器中ですべての反応を実施するため、非特異的な増幅が起こることで、本来起こるべき標的遺伝子増幅に必要となるデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)などの基質が枯渇することとなる。これにより、標的となる遺伝子が充分量増幅できなくなるため、検出感度の低下を招いてしまう。
【0008】
1ステップRT-PCRの非特異増幅を低減させる方法は、数多く報告されている。例えば、増幅条件(アニール温度を高める、サイクル数の減少、酵素量の減量、酵素の種類変更、dNTP濃度の減少、Mg濃度やMn濃度の減少、鋳型DNA濃度の減少など)の至適化、プライマーのデザイン変更、抗体やアプタマーを利用したホット・スタート法の利用、特異性が高まるとされる修飾オリゴヌクレオチド(PNAやLNAなど)の利用などが知られている。
【0009】
しかしながら、かかる方法は、非特異増幅の抑制に有効な場合があるものの、効果が十分でなかったり、特異的な増幅までも抑制してしまったりすることが多い。さらに、RT-PCR条件の検討や、プライマー設計の検討などが必要なため、手間がかかる場合も多い。そこで、1ステップRT-PCRにおいて非特異増幅を抑制することができる簡便な更なる手法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2018096961A号パンフレット
【特許文献2】特開2018-000138号公報
【特許文献3】特許第4777497号公報
【特許文献4】特開2012-24039号公報
【特許文献5】特開2017-023110号公報
【特許文献6】特開2016-182112号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, Nov.2005,p.5452-5456
【非特許文献2】J Virol Methods. 2004 Sep 1;120(1):33-40.
【非特許文献3】Published Online January 29,2020,https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30251-8
【非特許文献4】世界保健機関(WHO)ホームページ(Diagnostic detection of Wuhan coronavirus 2019 by real-timeRT-PCR)
【非特許文献5】国立感染症研究所ホームページ「病原体検出マニュアル2019-nCoV 」(https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200217.pdf)
【非特許文献6】J.Animal Science And Biotechnology,第5巻、2014年、第45頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来技術に鑑みてなされたものであり、鋳型RNAから1ステップRT-PCRで核酸増幅する場合に、簡便な手法でありながら、例えば、未精製試料からの核酸増幅やマルチプレックスPCRでの核酸増幅であっても、非特異的な核酸増幅を効果的に抑制でき、高感度な標的核酸の特異的検出を可能にする、更なる有用な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、アニオン性ポリマーを用いることで、1ステップRT-PCRにおいて非特異的な核酸増幅を抑えることができ、高感度に標的核酸の特異的検出が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
代表的な本願発明は、以下の通りである。
[項1] 試料から1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法であって、以下の工程;
(1)試料と、アニオン性ポリマーと、(i)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼまたは(ii)逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとを含む1ステップRT-PCR反応液を調製する工程、及び
(2)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程、
を包含し、前記1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上である、核酸増幅方法。
[項2] 前記工程(1)で使用する試料が、精製工程を経ていない生体由来試料、環境試料又は細胞由来試料である、項1に記載の核酸増幅方法。
[項3] 前記工程(1)で使用する試料が、唾液、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、うがい液、糞便、肺吸引物、脳脊髄液、うがい液、涙液、培養細胞、培養上清、ふき取り検査試料、土壌試料、及び下水試料からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の核酸増幅方法。
[項4] 前記工程(1)で使用する試料が、水、生理食塩水、緩衝液、及びスプタザイム酵素液からなる群より選択される少なくとも1種に懸濁された懸濁液、又はそれらの遠心上清若しくは濃縮物である項1~3のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項5] 前記工程(1)で使用する試料がRNAウイルスを含み得る試料である、項1~4のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項6] 2以上のターゲット領域を1つの1ステップRT-PCR反応液で特異的に増幅させる、項1~5のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項7] 2以上のターゲット領域が、試料に含まれ得るRNAウイルスのゲノムRNAにおけるターゲット領域である、項6に記載の核酸増幅方法。
[項8] RNAウイルスが、エンベロープを持つRNAウイルスである、項5~7のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項9] エンベロープを持つRNAウイルスが、コロナウイルス科ウイルス、フラビウイルス科ウイルス;トガウイルス科ウイルス;オルトミクソウイルス科ウイルス;ラブドウイルス科ウイルス;ブニヤウイルス科ウイルス;パラミクソウイルス科ウイルス;及びフィロウイルス科ウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である、項8に記載の核酸増幅方法。
[項10] エンベロープを持つRNAウイルスが、SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス、及びSARS-nCOV-2コロナウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である項8又は9に記載の核酸増幅方法。
[項11] RNAウイルスが、エンベロープを持たないRNAウイルスである、項5~7のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項12] エンベロープを持たないRNAウイルスが、カリシウイルス科ウイルス、アストロウイルス科ウイルス;ピコルナウイルス科ウイルス;へペウイルス科ウイルス;及びレオウイルス科ウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である、項11に記載の核酸増幅方法。
[項13] アニオン性ポリマーが、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基、及びホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種のアニオン性官能基を有するモノマーを重合して得られるポリマーである、項1~12のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項14] アニオン性ポリマーが、ポリイノシン酸、ポリシチジル酸、ポリグアニル酸、ポリアデニル酸、ポリデオキシイノシン酸、ポリデオキシシチジル酸、ポリデオキシグアニル酸、ポリデオキシアデニル酸、カラギーナン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸/スルホン酸共重合体、及びポリアクリル酸/マレイン酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~13のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項15] アニオン性ポリマーの平均分子量が1,000~5,000,000である、項1~14のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項16] DNAポリメラーゼが、Taq、Tthおよびそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~15のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項17] 逆転写酵素の由来が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMRV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする項1~16のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項18] 前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、ターゲット領域に対応する1以上のプライマー対をさらに含む、項1~17のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項19] 前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、ターゲット領域に対応するハイブリダイゼーションプローブをさらに含む、項1~18のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項20] 前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、ウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコール、ゼラチン、及び極性有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、項1~19のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項21] ベタイン様4級アンモニウム塩が、ベタインまたはL-カルニチンである項20に記載の核酸増幅方法。
[項22] 前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が、0.0025~0.05%である、項1~21のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項23] 精製工程を経ていない試料からの1ステップRT-PCRによる核酸増幅において、1ステップRT-PCR反応液中にアニオン性ポリマーを共存させること特徴とする、非特異増幅を抑制する方法。
[項24] 1ステップRT-PCR反応液中において0.001%以上の量でアニオン性ポリマーを共存させる、項23に記載の非特異増幅抑制方法。
[項25] 試料から2以上のターゲット領域を1つの反応液で特異的に増幅させる1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法あって、該反応液中にアニオン性ポリマーを共存させることを特徴とする、核酸増幅方法。
[項26] 精製工程を経ていない試料からの1ステップRT-PCRによる核酸増幅において非特異増幅を抑制するために用いられる、アニオン性ポリマーを含有する試薬。
[項27] 1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上の量となるように調整して用いられる、項26に記載の試薬。
[項28] アニオン性ポリマーを含有する、項1~25のいずれかに記載の1ステップRT-PCR反応による核酸増幅方法に用いるための試薬。
[項29] 項26~28のいずれかに記載の試薬を含有する、1ステップRT-PCR反応による核酸増幅方法に用いるためのキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、アニオン性ポリマーを反応液中に共存させることで1ステップRT-PCR反応における非特異的な核酸増幅を抑えることができ、それにより増幅を意図する標的核酸の特異的増幅産物の産生量を増加させることができるので、検出感度を向上させることが可能となり得る。
【0016】
例えば、本発明により、2019年に発生したSARS-nCOV-2を初めとしたRNAウイルスを含みうる試料においても、同様に優れた効果が奏され得る。また、本発明によれば、血液、糞便(排泄便、直腸便)、嘔吐物、尿、痰、リンパ液、血漿、射精液、肺吸引物、脳脊髄液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、うがい液、唾液、涙液を含む生体由来試料、環境拭き取り試料、培養細胞または培養上清を含む試料等の夾雑物を多く含む試料から核酸を事前に精製しない場合であっても、これらの試料中に含まれるコロナウイルス等のRNAウイルス等の高感度の検出も可能とする。本発明は、生命科学研究、臨床診断や食品衛生検査、環境検査等にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】唾液検体(3μL)によるRT-PCR阻害に対するアニオン性ポリマーの効果を示す図である。
図2】唾液検体(8μL)によるRT-PCR阻害に対するアニオン性ポリマーの効果を示す図である。
図3】唾液検体によるRT-PCR阻害に対してアニオン性ポリマーが感度に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
また、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。また本明細書において、単数形の表現は、他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0019】
本発明の一実施態様は、試料中に含まれるRNAを鋳型として、1ステップRT-PCR反応によって核酸増幅する方法において、アニオン性ポリマーを共存させながら1ステップRT-PCR反応を行うことにより、非特異的な核酸増幅を抑制しながら核酸増幅する方法である。ここで、非特異的な核酸増幅とは、鋳型RNAの標的配列以外の核酸配列が1ステップRT-PCRにて合成されることを意味する。
【0020】
一般にRNAを鋳型として核酸(例えば、遺伝子)を増幅する場合、先ず鋳型RNAをcDNAに変換する逆転写反応(RT反応ともいう)が行われ、それにより得られたcDNAをPCR反応により増幅する。1ステップRT-PCRとは、前記のようなRT反応及びPCR反応を連続又は並行して行うことにより鋳型RNAから核酸増幅する方法をいう。1ステップRT-PCRとしては、RT反応とPCR反応とを別々の2種類の酵素(逆転写酵素とDNAポリメラーゼ)を利用して連続して実施する二酵素系の1ステップRT-PCR反応や、RT反応とPCR反応とを単一酵素(Tth DNAポリメラーゼ等の逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼ)を利用して連続又は並行して実施する一酵素系の1ステップRT-PCR等が知られている。本発明は、いずれの1ステップRT-PCRにおいても実施可能である。
【0021】
1ステップRT-PCRは、好ましくは同一の反応容器中ですべての反応を実施する。このように同一の反応容器中で1ステップRT-PCRを実施する場合、非特異的な核酸増幅が起こると、本来起こるべき標的核酸増幅に必要となるデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)といった基質等が枯渇し、標的核酸が充分量増幅できなくなり、検出感度の低下を招いてしまうおそれがある。従って、1ステップRT-PCR反応において非特異的な核酸増幅を抑制できる本発明の方法は、そのような標的核酸の検出感度の低下を抑制することができる。そのため本発明の核酸増幅方法は、非特異増幅抑制方法ということもできるし、例えば、特異的な核酸増幅産物の産生量を増大させる方法、標的核酸の特異的増幅を向上させる方法等ということもできる。
【0022】
鋳型RNAとしては、生体から採取した組織、体液又は分泌物(例えば、ウイルス等の病原性微生物を含み得る、生体組織、体液又は分泌物)等の生体試料、環境試料、細胞(例えば、培養細胞等)に由来するRNAであり得、例えば、生体試料、環境試料又は細胞から抽出されたRNAであってもよいし、抽出処理後に更に精製されたRNA(例えば、エタノール沈殿、カラム精製等の当該分野で公知の任意の精製手段により処理された精製RNA)等であってもよいし、そのようなRNA精製工程を経ていないRNA含有試料であってもよく、任意のRNAであり得る。
【0023】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、精製工程を経ていない生体由来試料、環境試料又は細胞由来試料から1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法である。ここで精製とは、各種試料に含まれ得る組織、細胞壁、その他の夾雑物質と、試料中の標的核酸RNAとを分離することを指し、フェノールあるいはフェノール・クロロホルム等を用いて、核酸を分離したり、イオン交換樹脂、ガラスフィルターあるいはタンパク凝集作用を有する試薬によって核酸を分離したりすることをいう。従って、本発明において「精製工程を経ていない試料」とは、各種試料(例えば、生体由来試料)そのもの、あるいは液体の試料を水などの溶媒を用いて希釈したもの、固体の試料を水などの溶媒に添加し熱をかけて破砕させたものなどが挙げられる。例えば、臓器や細胞など、増幅対象となる核酸が試料の組織内、細胞内、エンベロープやキャプシド等の外殻内に存在する場合、前記核酸を抽出するためにこれらの組織、細胞、外殻等を破壊する行為(物理的な処理による破壊、界面活性剤などを使用した破壊などの抽出行為)は、本発明でいう精製に該当しない。また、前記方法で得られた試料又は各種試料そのものを、水や緩衝液などで希釈する行為も本発明でいう精製には該当しない。
【0024】
一つの形態として、組織からRNAを抽出する場合、組織の部位は特に制限されず、いかなる組織であってもよい。組織からRNAを抽出する方法は、通常、セルストレーナーやトリプシン処理等による細胞の単離工程を含むが、その方法は特に制限されない。
別の形態として、細胞やエンベロープ若しくはキャプシド等の外殻からRNAを抽出する場合、特に制限されず、いかなる種類の細胞等であってもよい。例えば、細胞の個数は、セルソーターにより適宜調整することができる。例えば、少数(例えば1~100個、好ましくは1~10個、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個)の細胞から抽出されたRNAを使用することもできる。細胞等からRNAを抽出する方法は、通常、細胞溶解剤等を含む細胞溶解用組成物又は前処理用組成物(例えば、ウイルス等からRNAを抽出するための前処理用組成物)を用いて、細胞等を溶解する工程を含む。細胞溶解剤等としては、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤などが挙げられる。界面活性剤には、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム)、カチオン性界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム)、ノニオン性界面活性剤(例えば、オクチルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、及び両イオン性界面活性剤(例えば、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸)が含まれる。カオトロピック剤としては、例えば、尿素、過塩素酸リチウム塩などのリチウム塩が挙げられる。細胞溶解剤は、通常、水(好ましくはヌクレアーゼフリー水)に溶解され、水溶液の形態で使用される。細胞溶解用組成物は、プロテアーゼ(例えば、プロテアーゼK)、RNase阻害剤、これら2種以上の組合せを含んでいてもよい。
細胞溶解用組成物又は前処理用組成物は、上記アニオン性ポリマーを含んでいても含んでいなくてもよい。上記アニオン性ポリマーを含む細胞溶解用組成物又は前処理用組成物を用いて細胞から抽出したRNAを鋳型RNAとして使用する場合、1ステップRT-PCR反応に用いるための組成物には、別途上記アニオン性ポリマーを添加しなくてもよいというメリットがある。
【0025】
別の形態として、生体試料からRNAを抽出する場合、生体試料としては例えば糞便(排泄便、直腸便)、尿、嘔吐物、唾液、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、うがい液、肺吸引物、脳脊髄液、涙液、鼻水、血液(全血)、血漿、血清などが挙げられるが、限定されるものではなく、生体に由来するもの全般に用いることが可能であり、目的に応じて適宜選択され得る。好ましい実施形態では、生体試料として、唾液、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、うがい液、糞便、肺吸引物、脳脊髄液、うがい液、涙液、培養細胞、培養上清等の生体試料を使用する。標的とする鋳型RNAとして、生体由来のRNAであってもよいし、生体試料中に含まれる微生物またはウイルス等に由来するRNAであってもよい。また、前記試料は精製工程を経ずに、直接検出に供してもよいし、夾雑物の反応への影響を低減し、より安定した検査結果を得るために、水、生理食塩水または緩衝液に前記試料を懸濁した試料であってもよい。前記緩衝液としては、特に限定されるものではないが、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、HEPES緩衝液、トリシン緩衝液などが挙げられる。また、粘性の強い生体試料(例えば、粘性の強い喀痰を含む試料)の場合は、特に限定されないが、スプタザイム酵素液で処理した試料であってもよい。
【0026】
更なる別の形態としては、本発明は、拭き取り検査試料等の環境試料におけるRNAからの核酸増幅を行うために実施され得る。例えば、本発明は、上記のようなふき取り検査試料、土壌試料、下水試料等からの標的RNAの検出に使用され得るが、特に限定されず、環境に由来する任意の試料を用いることができる。ウイルスや細菌による汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握には、ふき取り検査が有用である。本発明において、拭き取り検査とは、特に限定されるものでないが、例えば綿棒等で該当区画や設備等を拭き取り、水や緩衝液に溶出し、ポリエチレングリコール(PEG)沈澱などで濃縮した試料である。具体的な拭き取り検査の要領としては、「ふきとり検体のノロウイルス検査法の改良」(http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/382/dj3824.html)などが例示されるが、特に限定はされるものではなく、これに準ずる方法が広く含まれる。拭き取り箇所の例としては、まな板や包丁、ふきん、食器などの調理器具類、冷蔵庫の取手やトイレ、浴室のドアノブ、洗面所、厨房、トイレ、浴室などの蛇口、調理者の手や指、浴室、トイレ、洗面、手すり、居室などの施設などが挙げられる。また、拭き取り検査ではないが、環境検査として、下水試料の濃縮試料にも適用できる。
【0027】
本発明において、1ステップRT-PCR反応液に添加される鋳型RNAの濃度は、例えば1~10000pg/μL、好ましくは10~1000pg/μL、より好ましくは1~100pg/μLであるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の対象となるRNAウイルスは、脂質二重膜に由来するエンベロープを持たないRNAウイルスであっても、エンベロープを持つRNAウイルスであっても良い。特定の好ましい実施形態では、本発明はエンベロープを持つRNAウイルスからの核酸増幅において非特異増幅を抑制する効果に優れている。
【0029】
具体的には、エンベロープを持たないRNAウイルス(「非エンベロープRNAウイルス」等ともいう)としては、アストロウイルス科ウイルス(例えば、アストロウイルス);カリシウイルス科ウイルス(例えば、サポウイルス、ノロウイルス);ピコルナウイルス科ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス);へペウイルス科ウイルス(例えば、E型肝炎ウイルス);レオウイルス科ウイルス(例えば、ロタウイルス)などが挙げられ、限定されるものではないが、好ましくはカリシウイルス科ウイルス及びレオウイルス科ウイルスの検出に有用であり、より好ましくはノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスの検出に有用であり、更に好ましくはノロウイルス、ロタウイルスの検出に有用であり、特にノロウイルスの検出に有用である。
【0030】
エンベロープを持つRNAウイルス(「エンベロープRNAウイルス」ともいう)としては、フラビウイルス科ウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、豚熱ウイルス);トガウイルス科ウイルス(例えば、風疹ウイルス、チクングニアウイルス);コロナウイルス科ウイルス(例えば、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、SARS-nCOV-2コロナウイルス);オルトミクソウイルス科ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス);ラブドウイルス科ウイルス(例えば、狂犬病ウイルス);ブニヤウイルス科ウイルス(例えば、クリミヤ・コンゴ熱ウイルス、ハンタウイルス);パラミクソウイルス科ウイルス(例えば、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス);フィロウイルス科ウイルス(例えば、エボラウイルス)、などが挙げられるが、特に限定されるものではない。より一層確実に高い本発明の効果が得られ易いという観点から、好ましくは、コロナウイルス科ウイルスの検出に有用であり、より好ましくはSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、SARS-nCOV-2コロナウイルスの検出に有用であり、なかでもSARS-nCOV-2コロナウイルス(SARS-CoV-2とも呼ばれる)の検出に有用である。
【0031】
コロナウイルス科ウイルスは、風邪を含む呼吸器感染症引き起こす原因ウイルスであり、風邪の流行期において約10~35%程度はコロナウイルスが原因と言われている。変異型ウイルスが発生することも知られており、稀にSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)コロナウイルス(SARS-nCOV-2)など致死性の重篤な呼吸器疾患を齎すものが発生することが知られている。したがって、コロナウイルスを簡便、迅速、高感度に検出することは、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等で重要であることは言うまでもなく、本発明はこれらのコロナウイルスの高感度な検出に特に有用である。
【0032】
従来、コロナウイルスの病原体検査では、電子顕微鏡法、ELISAによる免疫学的抗原検出法、または核酸増幅技術を利用したウイルス遺伝子の検出法が開発されてきた。これらの検査法の中でも、高感度にコロナウイルスを検出可能な核酸増幅技術は、汎く使われており、これに関連したいくつかの技術が開発されてきた(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献4)。
【0033】
なかでも、2019年に中国湖北省武漢市にて発生が確認された変異型コロナウイルスSARS-nCOV-2においては、ウイルスゲノムRNAの解析が完了次第、核酸増幅技術を用いた検査方法が樹立された(例えば、非特許文献3、非特許文献4)。日本においても、国立感染症研究所の「病原体検出マニュアル2019-nCoV 」にてSARS-nCOV-2の検出するための方法が記載されている(非特許文献5)。これらの手法において、試料中に含まれるコロナウイルスの検出には、試料からのウイルスRNAの抽出および精製工程を伴う。ウイルスRNAの抽出および精製工程、なかでも精製工程は煩雑であり、多くの作業時間を要していた。近年、インフルエンザウイルスの検出において、咽頭ぬぐい液試料を水溶性有機溶媒と界面活性剤が含まれる前処理液と混合したウイルス抽出液を試料とする方法が知られている(特許文献5、特許文献6)。また、K.Kangらは、高病原性北米産豚生殖器呼吸器症候群ウイルスRNAを豚血清サンプルから直接RT-PCRにより検出できることを報告している(非特許文献6)。これらの手法では、RNAの抽出および精製工程を省略することで、試料中に含まれるRT-PCRの反応阻害物質が反応液中に持ち込まれることになる。RT-PCRの反応阻害物質は試料の種類によって大きく異なる。例えば、唾液試料中では多糖類や消化酵素であるRNaseなどのPCR反応阻害物質が多量に持ち込まれる。加えて、ウイルスの不活化およびRNAの抽出条件はウイルス種によって大きく異なっていることも知られているが、先行技術文献においては、コロナウイルスに対する効果については全く言及がなされていない(特許文献5、特許文献6)。現在、コロナウイルス、特にSARS-nCOV-2を含む咽頭・鼻腔ぬぐい液や唾液、喀痰、糞便試料などの生体試料やふき取り環境試料から、RNAの精製工程なく、1ステップRT-PCRによって迅速に検出できる方法の開発が望まれている。本発明は、これらの方法において、未精製試料からの核酸増幅であっても非特異反応を抑制して高感度な検出を可能にすることができるので、特に有益である。
【0034】
本発明において、アニオン性ポリマーとは、アニオン性モノマーを主とする重合によって形成されたポリマーである。例えば、本発明に用いるアニオン性ポリマーは、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基、及びホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種のアニオン性官能基を有するモノマーを主として重合して得られるポリマーであり、好ましくは、スルホン酸基をモノマーとして重合して得られるポリマーである。また、RNAやDNAをはじめとする核酸分子もアニオン性ポリマーである。試料中に含まれる標的とは異なる核酸分子は、反応液中の逆転写酵素またはDNAポリメラーゼと結合し、非特異的な核酸増幅を引き起こしうる。理論に束縛されることは望まないが、本発明においては、逆転写酵素またはDNAポリメラーゼと結合しうるアニオン性ポリマーを反応液系に添加することで、標的と異なる核酸分子との結合と競合させ、結果的に非特異的な核酸増幅を抑える効果を奏することが期待される。
【0035】
前記アニオン性ポリマーとして、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、代表的なものとして、核酸ポリマー(ポリイノシン酸、ポリシチジル酸、ポリグアニル酸、ポリアデニル酸、ポリデオキシイノシン酸、ポリデオキシシチジル酸、ポリデオキシグアニル酸、ポリデオキシアデニル酸)、多糖類(カラギーナン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸/スルホン酸共重合体、ポリアクリル酸/マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0036】
前記アニオン性ポリマーは、塩の形態であってもよい。例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩)等であってもよく、水和物塩であってもよい。好ましくは、アルカリ金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩、カリウム塩であり、更に好ましくはナトリウム塩であり得る。
【0037】
前記アニオン性ポリマーの平均分子量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。なお、本明細書において平均分子量は重量平均分子量をいう。アニオン性ポリマーの平均分子量は、構成単位であるモノマーの分子量および重合度によるところがあるが、例えば1,000以上、好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上、更により好ましくは50,000以上であって良い。また、アニオン性ポリマーの平均分子量の上限値も本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、5,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは5,000,000以下であり得る。
【0038】
1ステップRT-PCR反応液中における前記アニオン性ポリマー濃度(所謂、反応液中における終濃度)は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、確実に高い本発明の効果が奏され得るという観点から、0.001%(v/v%)以上であることが好ましい。より高い非特異反応抑制効果が期待できるという観点から、1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度は、0.002%以上が好ましく、0.0025%以上がより好ましく、0.005%以上が更に好ましく、0.008%以上が更により好ましく、例えば、0.01%以上、0.02%以上、0.04%以上であってもよい。1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマー濃度の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、0.1%以下であり、好ましくは0.05%以下であり得る。なお、試料を事前に精製又は前処理する場合に、その精製又は前処理を実施する反応液にアニオン性ポリマーを配合し、その反応液を1ステップRT-PCR反応液に添加して核酸増幅を行う場合は、最終的に1ステップRT-PCR反応液に持ち込まれることとなるアニオン性ポリマーの濃度が上記範囲内となる・BR>謔、に調整することが好ましい。
【0039】
本発明の一つの実施形態は、試料から1ステップRT-PCRで核酸増幅する方法であって、以下の工程;
(1)試料と、アニオン性ポリマーと、(i)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼまたは(ii)逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとを含む1ステップRT-PCR反応液を調製する工程、及び
(2)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程、
を包含し、前記1ステップRT-PCR反応液中におけるアニオン性ポリマーの濃度が0.001%以上であることを特徴とする核酸増幅方法である。
上記の核酸増幅方法により、非特異的な核酸増幅を抑えて試料中の鋳型RNAを高い特異性で効率よく増幅することが可能になり得る。
ここで、前記工程(1)では、逆転写反応とそれに続く核酸増幅反応を行えればよく、(i)逆転写酵素とDNAポリメラーゼの両者を含む2酵素反応系であっても、(ii)逆転写活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼを含む1酵素反応系であっても、1ステップRT-PCR反応を行うことが可能である。前記工程(1)の前に、試料からRNAを精製する工程、試料を酸性またはアルカリ性溶液、有機溶媒、界面活性剤等を含む処理液と混合し前処理を行う工程、前記混合液を熱処理する工程などを実施しても良いし、実施しなくてもよい。アニオン性ポリマーは、1ステップRT-PCR反応を実施する反応液中に含まれていればよい。アニオン性ポリマーは、1ステップRT-PCR反応液中に含まれていても良いし、事前に試料を精製または前処理する場合に、その精製または前処理を実施した処理液中にアニオン性ポリマーを配合し、処理液を1ステップRT-PCR反応液に添加する際に、反応系に持ち込まれても良い。
【0040】
前記工程(1)および(2)は、同一容器で行われることが好ましい。すなわち、工程(1)および(2)の間においては、混合液の全部または一部を別容器へ移し替えないことが好ましい。更には、工程(2)においては、反応容器を密閉後、反応容器の蓋の開閉を行わないことが好ましい。
【0041】
前記工程(2)におけるRT-PCRサイクルは、1.逆転写反応、2.PCRの2ステップから成る。各ステップの前後に、ホット・スタート酵素を活性化させるための熱処理工程を含んでもよい。1の逆転写反応の温度は、耐熱性DNAポリメラーゼの逆転写活性と、プライマー及びプローブのTm値によって決定され、少なくとも25℃以上であればよい。より好ましくは37℃以上である。2のPCRでは、[1]熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、[2]鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、[3]DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、の3ステップを含んでいればよく、[2]と[3]を同一の温度で実施して、2ステップとしてもよい。迅速なRT-PCRを実施するためには、前記RT-PCR反応に使用するサーマルサイクラーは、前記[2]と[3]のステップの伸長時間を合わせて60秒以下、好ましくは45秒以下、より好ましくは30秒以下の測定プログラムを設定することが望ましい。なお、本明細書において「PCRの伸長時間」とは、サーマルサイクラーでの設定温度を指す。
【0042】
前記混合液に添加される1ステップRT-PCR溶液は、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む。逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである、Tth DNAポリメラーゼやTaq DNAポリメラーゼなどを使用することが好ましい。より好ましくは、二種の酵素の使用、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの少なくとも2種類の酵素の使用である。
【0043】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素の由来としては、RNAをDNAに変換できれば特に限定されないが、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus)-RT、AMV-RT(Avian Myeloblastosis Virus)、HIV-RT、RAV2-RT、EIAV-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼ)やその変異体が例示される。特に好ましい例としては、MMLV-RT、AMV-RT、またはそれらの変異体が挙げられる。
【0044】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるDNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth,Bst,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEPVENTやこれらの変異体が挙げられるが、特に限定されない。より好ましくは、Taq、Tth又はこれらの変異体の使用である。特に好ましくはTth又はその変異体の使用である。さらに、非特異的反応抑制の効果を高めるため、抗DNAポリメラーゼ抗体との併用、あるいは化学修飾により熱不安定ブロック基のDNAポリメラーゼへ導入することで、逆転写反応の間、DNAポリメラーゼの酵素活性を抑制され、ホット・スタートPCRへの適用ができることが好ましい。
【0045】
本明細書において、DNAポリメラーゼの変異体とは、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列に対して、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、なかでも好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にDNAを増幅する活性、及び必要に応じてRNAをcDNAに変換する活性を有するものをいう。ここで、アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、当該分野で公知の任意の手段で行うことができる。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、一例として、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出することが可能である。また、本発明に用いられ得る変異体は、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加(以下、これらを纏めて「変異」ともいう)したアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にRNAをcDNAに変換する活性及びDNAを増幅する活性を有するものであってもよい。ここで1又は数個とは、例えば、1~80個、好ましくは1~40個、よりこのましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、更により好ましくは1~3個であり得るが、特に限定されない。
【0046】
本発明に用いられる1ステップRT-PCR反応液には、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの他、緩衝剤、適当な塩として、マグネシウム塩又はマンガン塩、デオキシヌクレオチド三リン酸、検出対象のウイルスRNAの検出対象領域に対応するプライマー対を含み、さらに必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
本発明で使用される緩衝剤としては、特に限定されないが、トリス(Tris),トリシン(Tricine),ビスートリシン(Bis-Tricine),ビシン(Bicine)などが挙げられる。硫酸、塩酸、酢酸、リン酸などでpHを6~9、より好ましくはpH7~8に調整されたものである。また、添加する緩衝剤の濃度としては、10~200mM,より好ましくは20~150mMで使用される。この際、反応に適当なイオン条件とするために、塩溶液が加えられる。塩溶液としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0048】
本発明で使用されるdNTPとしては、dATP,dCTP,dGTP,dTTPがそれぞれ0.1~0.5mM、最も一般的には0.2mM程度加えられる。dTTPの代わり及び/又は一部としてdUTPを使用することによって、クロスコンタミネーションに対する予防処置をとってもよい。マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マンガン塩としては、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンなどが例示され、1~10mM程度加えられることが好ましい。
【0049】
さらに1ステップRT-PCR反応液に含まれる添加剤としては、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、ウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコール、ゼラチン、及び極性有機溶媒よりなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0050】
前記ベタイン様4級アンモニウム塩としては、ベタイン(トリメチルグリシン)、L-カルニチンなどが挙げられるが、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩であれば、特に限定されるものではない。ベタイン様4級アンモニウム塩が有する構造は分子内に安定な正、負の両電荷を持つ化合物で、界面活性剤のような性質を示し、ウイルス構造の不安定化を引き起こすものと考えられる。さらに、DNAポリメラーゼの核酸増幅を促進することが知られる。好ましい前記ベタイン様4級アンモニウム塩濃度は0.1M~2Mであり、より好ましくは0.2M~1.2Mである。
【0051】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるウシ血清アルブミンとしては、好ましくは少なくとも0.5mg/ml以上、より好ましくは少なくとも1mg/ml以上である。夾雑物の多い試料では、ウシ血清アルブミンの濃度が好ましくは2mg/ml以上、さらに好ましくは3mg/mg以上で、良好な検出が可能となる。
【0052】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるゼラチンは、ウシや豚などの動物の皮膚や骨、腱、あるいは魚の鱗や皮に由来し、PCR酵素の安定化に寄与すると考えられている。使用濃度としては、PCR増幅を安定化する一方で、蛍光検出を妨げない程度が好ましい。好ましくは1~5%、さらに好ましくは1~2%である。特にゼラチンの由来については限定されるものではないが、ウシや豚由来よりも魚由来のものの方が、ゼリー強度が低く、反応液のハンドリングがよい点で好ましい。
【0053】
さらには、当該技術分野でRT-PCRを促進することが知られる物質と組み合わせて使用することもできる。本発明において有用な促進物質とは、例えば、グリセロール、ポリオール、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP),塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、トリトンX-100(TritonX-100)、トリトンX-114(TritonX-114)、ツイーン20(Tween20),ノニデットP40、Briji58などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに反応阻害を低減するように、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)のようなキレート剤を含んでいてもよい。
【0054】
さらに1ステップRT-PCR反応液に含まれる添加剤としては極性有機溶媒を含んでいてもよい。極性とは分子内に存在する電子的な偏りを指し、分子内の正電荷と負電荷の重心が一致しない分子を極性分子という。極性分子により構成された溶媒を極性溶媒という。極性溶媒の中でも、有機化合物により構成された極性有機溶媒を用いることにより、核酸やタンパク質のような生体分子の高次構造を不安定化することができる。この性質を利用することで、1ステップRT-PCR反応中または、前処理工程において、ウイルスの構造タンパク質の疎水結合などを弱め、キャプシド構造を不安定化させることも可能である。ウイルスに対する極性有機溶媒によるキャプシド構造の不安定化効果は、ウイルスの種類によっても異なることが知られている。これはウイルスが保有するキャプシドタンパク質やエンベロープの性質の違いにより、疎水性結合などの強さが異なるからであると考えられる。
【0055】
前記極性有機溶媒として、具体的にはエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、ピリジン等が挙げられるがこれに限られるものではない。好ましくは、メタノール、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド、アセトンである。また、これら極性有機溶媒を2つ以上含む混合溶液であっても良い。該極性有機溶媒のキャプシドタンパク質の変性剤としての下限の濃度としては、極性有機溶媒や他の添加剤の種類にもよるが、キャプシドタンパク質が変性される濃度であれば特に限定されるものではなく、また、ウイルスの種類によりキャプシドタンパク質が異なるため、極性溶媒の実効濃度は各ウイルス毎に異なっているが、通常は検体量に対する極性溶媒の実効濃度が10%以上100%未満、より好ましくは30%以上90%以下、さらに好ましくは50%以上85%以下である。
【0056】
前記極性有機溶媒は、1種以上の界面活性剤、還元剤、キレート剤、金属塩と組み合わせて用いてもよい。
【0057】
前記極性有機溶媒は、通常はPCRの阻害剤としても知られる。そのため、前記極性有機溶媒の中でも、タンパク質の変性に必要な濃度とPCRへの持込み許容濃度の相違が小さいものを選択することで、極性有機溶媒、試料、1ステップRT-PCR反応液と順次添加することで、キャプシドタンパク質の変性から1ステップRT-PCR反応まで同一容器で、途中で容器を開閉することなく簡便に検出操作が進められる。このような極性有機溶媒の例として、特に好ましくはジメチルスルホキシドが挙げられる。例えば、ジメチルスルホキシド1μLと試料1μLを混合し、1ステップRT-PCR液48μLを加えた場合、反応液中に持ち込まれるジメチルスルホキシドの濃度は2%である。2%のジメチルスルホキシドはRT-PCR液の持ち込まれても許容される濃度である。
【0058】
本発明の方法において、前記工程(1)において1ステップRT-PCR反応液が、ターゲット領域に対応する1以上のプライマー対をさらに含むことが好ましい。本発明に用いられるプライマー対としては、例えば、検出対象が試料中に含まれるRNAウイルスである場合に、そのRNAウイルスのゲノムRNAにおけるターゲット領域に対応するプライマー対であり、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種一対のプライマーが挙げられる。また、別の態様として、上記プライマーが2対以上含まれる、いわゆるマルチプレックスPCRも挙げられる。2以上のターゲット領域を1つの1ステップRT-PCR反応液で特異的に増幅させるマルチプレックスPCRでは、プライマー対を複数共存させて核酸増幅反応を行うことになるため、プライマーダイマーや非特異増幅が発生し易い。本発明は、後述の試験例の結果に示されるように、このような2以上のターゲット領域を増幅するマルチプレックスPCRを1ステップRT-PCRで行う場合にも、非特異反応を抑えて特異的に標的核酸を増幅でき、高感度な検出を可能にできる。本明細書において「ターゲット領域」とは、プライマー対によって増幅される目的の核酸配列領域であり、例えば、試料に含まれるウイルスRNAのゲノムRNAにおける増幅を意図する領域であり得る。一つの好ましい例として、試料に含まれるウイルスRNAのゲノムRNAにおける2個所以上の領域を、2以上のターゲット領域としてマルチプレックスPCRを行うことが可能であり得る。本発明の方法では、対象となるターゲットの数に特に制限はないが、2箇所以上とすることができ、例えば3個所、4個所とすることもできる。ターゲット数の上限は特に制限されないが、例えば、10箇所以下とすることができる。好ましくは、2つのターゲット領域を1つの1ステップRT-PCR反応液で特異的に増幅させるマルチプレックスPCRである。
【0059】
さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重プライマーを含んでもよい。本発明でエンベロープRNAウイルスの1種であるコロナウイルス(SARS-nCOV-2)を検出する場合、プライマー対の例としては、国立感染症研究所が発表している「病原体検出マニュアル2019-nCoV」に記載の配列(配列番号1、2、4、5)、アメリカ疾病予防管理センターが発表する「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time RT-pCR PanelPrimers and Probes」(配列番号7、8、10、11、13、14)が挙げられ、本発明においても好適に使用することができるが、これに限るものではない。前記記載のプライマー配列では、配列番号1および2、配列番号4および5、配列番号7および8、配列番号10および11、配列番号13および14によりSARS-nCOV-2のヌクレオキャプシドタンパク質(N)領域を検出する。SARS-nCOV-2をはじめとするコロナウイルスの検出においては、ヌクレオキャプシド(N)領域、エンベロープタンパク質(E)領域、スパイクタンパク質(S)領域、RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)領域、Open Reading Frame(ORF)領域等の遺伝子を検出の対象とすることができるが、特にこれに限るものではない。使用するプライマーの濃度としては、RT-PCR反応液全体に対して、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であることが好ましい。より好ましくは、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上2μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.5μM以上2μM以下である。
【0060】
本発明は、別の態様としては、さらに、少なくとも1種類の標識されたハイブリダイゼーションプローブまたは2本鎖DNA結合蛍光化合物を含む検出方法である。これによって、増幅産物の分析を通常の電気泳動ではなく、蛍光シグナルのモニタリングで監視することができ、解析労力が低減される。さらには、反応容器を開放する必要がなく、コンタミネーションのリスク低減が可能である。ウイルスのサブタイプに対応する、それぞれのハイブリダイゼーションプローブを異なる蛍光色素で標識することによって、ウイルスのサブタイプを識別することも可能である。
【0061】
2本鎖DNA結合蛍光化合物としては、例えば、SYBR(登録商標) Green I,SYBR(登録商標) Gold、SYTO-9、SYTP-13、SYTO-82(Life Technologies),EvaGreen(登録商標;Biotium)、LCGreen(Idaho),LightCycler(登録商標) 480 ResoLight(Roche Applied Science)などが挙げられる。
【0062】
本発明において用いられるハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、TaqMan加水分解プローブ(米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報)、モレキュラービーコン(米国特許第5,118,801号公報)、FRETハイブリダイゼーションプローブ(国際公開第97/46707号パンフレット,国際公開第97/46712号パンフレット,国際公開第97/46714号パンフレット)などが挙げられる。エンベロープRNAウイルスの1種であるコロナウイルスコロナウイルス(SARS-nCOV-2)検出用のプローブの塩基配列としては、アメリカ疾病予防管理センターが発表する「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time RT-pCR PanelPrimers and Probes」(配列番号9、12、15)および国立感染症研究所が発表している「病原体検出マニュアル2019-nCoV 」に記載の配列(配列番号3、6)が挙げられ、本発明においても好適に使用することができるが、これに限るものではない。前記記載のプローブ配列ではSARS-nCOV-2のN領域を検出する。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重配列を含んでもよい。SARS-nCOV-2をはじめとするコロナウイルスの検出においては、N領域、E領域、S領域、RdRp領域、ORF領域等の遺伝子を検出の対象とすることができるが、特にこれに限るものではない。蛍光標識プローブの濃度としては、0.01μM以上1.0μM以下であることが好ましい。より好ましくは、0.013μM以上0.75μM以下であり、更に好ましくは、0.02μM以上0.5μM以下である。
【0063】
本発明において、非特異的な核酸の増幅が抑制されているか否かを判定する方法としては、限定されるものではないが、RT-PCR後の増幅産物を電気泳動に供し、鋳型RNAの塩基数から推定されるバンドと比較することで確認できる。電気泳動では泳動バンドの強弱により、非特異的な核酸増幅量の多寡を定性的に判断できる。別の様態としては、2本鎖DNA結合蛍光化合物を含む検出方法である。本手法における融解曲線解析を行うことで、増幅産物のTm値の違いから、標的核酸の増幅と非特異的な核酸増幅を区別することができる。融解曲線におけるピークの高さを比較することで、非特異的な核酸増幅量の多寡の判断を行うことができる。また、更に別の形態としてはハイブリダイゼーションプローブ(例えば、TaqMan加水分解プローブ)による検出方法においても確認できる。TaqMan加水分解プローブ検出系では、核酸増幅量に応じて蛍光強度が向上し、閾値の蛍光強度に達したPCRの反応サイクル数をCt値と呼ぶ。非特異的な核酸増幅の増加は、到達蛍光強度の低下を引き起こす。よって、到達蛍光強度の比較により非特異的な核酸増幅量の多寡を判断することができる。
【0064】
本発明の別の一態様は、試料中の鋳型RNAから非特異的な核酸増幅を抑えて1ステップRT-PCRによって核酸を増幅するための組成物である。特定の好ましい特定の態様では、前述のアニオン性ポリマーおよび逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ(あるいは逆転写活性を有するDNAポリメラーゼ)を含有することを特徴とする1ステップRT-PCRに用いるための組成物である。本発明は、これらの組成物を含む、非特異的な核酸増幅が抑制された1ステップRT-PCRに用いるためのキットの態様でも提供され得る。
【0065】
一つの実施態様において、本発明は、精製工程を経ていない試料からの1ステップRT-PCRによる核酸増幅において非特異増幅を抑制するために用いられる、アニオン性ポリマーを含有する試薬であり得る。更に別の実施形態において、本発明は、試料から2以上のターゲット領域を1つの反応液で特異的に増幅させる1ステップRT-PCRで核酸増幅において非特異増幅を抑制するために用いられる、アニオン性ポリマーを含有する試薬であり得る。これらの試薬において用いられるアニオン性ポリマーの種類や使用量等の使用方法、一緒に用いられ得る他の添加剤等は、上記核酸増幅方法において詳述したものと同様であり得る。
【0066】
さらに本発明は、前述のような試薬を含有する、1ステップRT-PCR反応による核酸増幅方法に用いるためのキットに関する。例えば、本発明のキットは、アニオン性ポリマーと、(i)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼまたは(ii)逆転写活性を有するDNAポリメラーゼと、必要に応じて使用され得る他の成分とを、同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。本発明のキットを使用することにより、非特異反応が抑えられた核酸増幅反応を行うことが可能となり、高感度な標的核酸の検出が可能になり得る。
【実施例0067】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
試験例1.唾液検体によるRT-PCR阻害に対するアニオン性ポリマーの効果(マルチプレックスPCRにおける効果):
(1)反応液の調製
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1ステップRT-PCRにて、唾液検体存在下(精製していない生体由来夾雑物質の存在下)における反応液中の不活化SARS-nCOV-2コロナウイルスRNAを検出した。検出試薬として、前処理液以外は、SARS-CoV-2 Detection Kit -N1 set-および-N2 set-(東洋紡)を用いた。なお、本試薬の添付品である検出のためのプライマー・プローブは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)発行「2019-Novel Coronavirus(2019-nCoV) Real-time RT-PCR Panel Primers and Probes」(Effective: 24 Jan 2020)に記載されているN1およびN2セットの配列であり、記載の濃度で使用した。N1のプローブは蛍光標識としてCy5、消光基としてBHQ3(Black hole quencher)を修飾したものを使用し、N2のプローブは蛍光標識としてROX、消光基としてBHQ2を修飾したものを使用した。
RT-PCR反応液(40μL)
反応液:30μL
酵素液:5μL
プライマー・プローブ液:5μL
(2)不活化ウイルスおよび唾液の添加と前処理
前処理液(10μL)
10コピー/μL 不活化SARS-nCOV-2(Zeptometrix):1μL
唾液: 0μL、3μLまたは8μL
ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA):1μL(1ステップRT-PCR反応液を添加後の反応液中での最終濃度が0%~0.04%となる濃度で添加)
RNAse free water:10μLとなるように調整
混合液10μLをサーマルサイクラーにて95℃5分間の熱処理を行った。
(3)反応液の添加
前工程にて熱処理後の混合液10μLに、(1)にて調製したRT-PCR反応液40μLを添加して、50μL反応系にてRT-PCRを実施した。
(4)RT-PCR反応条件
BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。
42℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒 (熱変性)
95℃ 1秒-50℃ 3秒-55℃ 10秒 50サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
測定結果は、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアにて、到達蛍光強度を算出した。この結果を図1(唾液を3μL添加したもの)及び図2(唾液を8μL添加したもの)に示す。この結果、唾液を添加すると、PVSAが存在しない条件ではN1およびN2ともに到達蛍光強度が低下するが、PVSA添加濃度の増加に伴い、到達蛍光強度の上昇が確認され、非特異増幅が低減されていることが示唆された。
【0069】
試験例2.唾液検体によるRT-PCR阻害に対してアニオン性ポリマーが感度に与える影響
(1)反応液の調製
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1ステップRT-PCRにて、唾液検体存在下(精製していない生体由来夾雑物質の存在下)における反応液中の不活化SARS-nCOV-2ウイルスRNAを検出した。検出試薬として、前処理液以外は、SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-(東洋紡)を用いた。なお、本試薬の添付品である検出のためのプライマー・プローブは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)発行「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time RT-PCR Panel Primers and Probes」(Effective: 24 Jan 2020)に記載されているN2セットの配列であり、記載の濃度で使用した。N2のプローブは蛍光標識としてROX、消光基としてBHQ2を修飾したものを使用した。
RT-PCR反応液(40μL)
反応液:30μL
酵素液:5μL
プライマー・プローブ液:5μL
(2)不活化ウイルスおよび唾液の添加と前処理
前処理液(10μL)
10コピー/μL または 2.5コピー/μL 不活化SARS-nCOV-2(Zeptometrix):1μL
唾液: 0μL、3μL
ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA):1μL(1ステップRT-PCR反応液を添加後の反応液中での最終濃度が0.008%となる濃度で添加)
RNAse free water:10μLとなるように調整
混合液10μLをサーマルサイクラーにて95℃5分間の熱処理を行った。
(3)反応液の添加
前工程にて熱処理後の混合液10μLに、(1)にて調製したRT-PCR反応液40μLを添加して、50μL反応系にてRT-PCRを実施した。
(4)RT-PCR反応条件
BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。
42℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒 (熱変性)
95℃ 1秒-50℃ 3秒-55℃ 10秒 50サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
測定結果は、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアにて、閾値を100としてCt値および到達蛍光強度を算出した。この結果を以下の表1及び図3に示す。この結果に示されるように、唾液を添加すると、PVSAが存在しない条件では到達蛍光強度が低下し、2.5コピー/μLの検出が確認できない結果となった。反面、PVSA存在下では、到達蛍光強度の上昇し、2.5コピー/μLまでの検出をすべて確認し、感度が向上していることが示された。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、分子生物学研究、さらに臨床検査や食品衛生管理などを目的とした検査において、好適に用いられる。
図1
図2
図3
【配列表】
2022191442000001.xml