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特開2022-191453自転車のクランクセットの歯付きクラウン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191453
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】自転車のクランクセットの歯付きクラウン
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/00 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B62M9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168642
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2018096071の分割
【原出願日】2018-05-18
(31)【優先権主張番号】102017000054982
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】592072182
【氏名又は名称】カンパニョーロ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】CAMPAGNOLO SOCIETA A RESPONSABILITA LIMITATA
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 由子
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】チビエロ・ミルコ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】構造耐力や構造強度を損なうことなく重量減少させた、自転車クランクセットの歯付クラウンの提供。
【解決手段】環状体101は、互いに平行かつ基準平面Rと直交する2つの主平面間の距離に等しい最大の軸方向厚さを有する。最大軸方向厚さは、環状体101の第1角度方向部位141,142に形成されている。環状体101の第1角度方向部位141は、軸方向外側表面に形成された第1軽量化凹所181,182を有し、第1角度方向部位141が、回転軸心Oを貫通し且つ基準平面Rに対して軸方向外側表面上で、基準平面Rから角度方向に時計回りで約21°以上、約27°以下の範囲内の第1角度で、約67°以上、約73°以下の範囲内の第2角度で、傾いた2つの境界平面K,L間で周方向に延在することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のクランクセット(110)の歯付きクラウン(100)であって、
回転軸心(O)周りに延在する環状体(101)と、
前記環状体(101)からそれぞれの径方向外方に沿って延びる複数の歯(111)と、
前記複数の歯(111)とは反対側で前記環状体(101)から延びる、自転車の右クランクアーム(30)とカップリングするための複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)と、
を備え、前記環状体(101)が、
-軸方向内側表面(120)、
-軸方向外側表面(140)、および
-前記回転軸心(O)が位置する基準平面(R)であって、前記右クランクアーム(30)が前記環状体(101)へと前記複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)で且つ前記軸方向外側表面(140)でカップリングされたときに当該右クランクアーム(30)の長手軸(P)が位置するように意図されている基準平面(R)、
を有し、前記環状体(101)は、互いに平行かつ前記基準平面(R)と直交する2つの主平面(P1,P2)間の距離に等しい最大の軸方向厚さを有しており、当該最大の軸方向厚さが、前記環状体(101)のうちの少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)に形成されている、歯付きクラウン(100)において、
前記環状体(101)のうちの前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、前記軸方向外側表面(140)に形成された第1の軽量化凹所(181,182)を有しており、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、前記回転軸心(O)を貫通し且つ前記基準平面(R)に対して前記軸方向外側表面(140)上において当該基準平面(R)から角度方向に約21°~約27°の極値を含む範囲内の第1の角度で、約67°~約73°の極値を含む範囲内の第2の角度で、それぞれ傾いた2つの境界平面(K,L)間で周方向に延在している(前記第1の角度および第2の角度は、前記基準平面(R)から時計回りに角度的に動く前記軸方向外側表面(140)で測定)ことを特徴とする、歯付きクラウン(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の歯付きクラウン(100)において、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、前記軸方向内側表面(120)には軽量化凹所を有していない、歯付きクラウン(100)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)のうちの第2の角度方向部位(142,141)が、前記軸方向外側表面(140)に形成された第2の軽量化凹所(182,181)を有しており、当該第2の角度方向部位(142,141)が、前記回転軸心(O)を基準として前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)とは直径方向の反対側にある、歯付きクラウン(100)。
【請求項4】
請求項3に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の角度方向部位(142,141)が、前記軸方向内側表面(120)には軽量化凹所を有していない、歯付きクラウン(100)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記歯(111)の数が、28~44の極値を含む範囲内である、歯付きクラウン(100)。
【請求項6】
請求項5に記載の歯付きクラウン(100)において、1番目の歯(150)が、前記基準平面(R)に実質的にまたがって又は前記基準平面(R)の近傍に配置されており、
13番目の歯(152)及び29番目の歯(154)は、前記第1の歯(150)から反
時計回りに円周方向に動いて、前記軸方向外側表面(140)において数えられて、前記13番目の歯(152)と前記29番目の歯(154)は、前記二つの境界平面(K,L)間に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)が、前記基準平面(R)を基準として両側に対称的に配置された2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)を含む、歯付きクラウン(100)。
【請求項8】
請求項7に記載の歯付きクラウン(100)において、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの第1の対のカップリング部(160a’,160b’)における第1のカップリング部(160a’)が、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141)に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項9】
請求項8に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)のうちの第2の角度方向部位(142,141)が、前記軸方向外側表面(140)に形成された第2の軽量化凹所(182,181)を有しており、前記第2の角度方向部位(142,141)は、前記回転軸心(O)を基準として前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)とは直径方向の反対側にあり、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの第2の対のカップリング部(160a’’,160b’’)における第1のカップリング部(160a’’)が、前記第2の角度方向部位(142)に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項10】
請求項9に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの前記第1の対のカップリング部(160a’,160b’)における第2のカップリング部(160b’)の箇所と前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの前記第2の対のカップリング部(160a’’,160b’’)における第2のカップリング部(160b’’)の箇所とにそれぞれ、前記軸方向外側表面(140)に形成された第3、第4の軽量化凹所(183,184)を有している、歯付きクラウン(100)。
【請求項11】
請求項10に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記第2のカップリング部(160b’,160b’’)の箇所にそれぞれ、前記軸方向内側表面(120)に形成された第5、第6の軽量化凹所(161,162)を有している、歯付きクラウン(100)。
【請求項12】
請求項11に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第5および第6の軽量化凹所(161,162)のそれぞれが、それぞれの前記カップリング部(160b’,160b’’)の径方向外側位置に配置された第1の凹部(161a,162a)、および当該第1の凹部(161a,162a)から前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの各対のカップリング部における前記第1のカップリング部(160a’,160a’’)に向かって延びる第2の凹部(161b,162b)を含む、歯付きクラウン(100)。
【請求項13】
請求項12に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の凹部(161b,162b)の径方向広がりが、前記第1の凹部(161a,162a)の径方向広がりよりも短い、歯付きクラウン(100)。
【請求項14】
請求項12または13に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の凹部(161b,162b)の軸方向深さが、前記第1の凹部(161a,162a)の軸方向深さよりも小さい、歯付きクラウン(100)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記軸方向外側表面(140)に形成された複数のへこみ部(172,174,176)を有しており、当該へこみ部(172,174,176)のそれぞれが、それぞれの周方向に連続する2つのカップリング部(160a’,160b’,160a’’,160b’’)間に配置されて、かつ、当該周方向に連続する2つのカップリング部(160a’,160b’,160a’’,160b’’)から角度方向に等距離のところにある径方向平面を基準として非対称に延在している、歯付きクラウン(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車のクランクセットの歯付きクラウン、および当該歯付きクラウンを備える、自転車のクランクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
既知のとおり、運転者によりペダル動作で供給されたトルクを自転車のボトムブラケットから後輪へと伝達させるために自転車は、そのボトムブラケットのシャフトに取り付けられたクランクセット、および自転車の後輪のハブに取り付けられたスプロケットアセンブリを装備している。上記クランクセットは、自転車の右クランクアームにカップリングされた歯付きクラウンを含み、当該歯付きクラウンには、上記スプロケットアセンブリのスプロケットにも係合した自転車のチェーンが係合されるように意図されている。
自転車、特には競走用自転車の分野では、部品の構造強度を損なうことなく当該部品を出来る限り軽量にすることが所望される。このような要望は、上記クランクセットの歯付きクラウンの設計においても考慮される。
【0003】
本明細書において及び添付の特許請求の範囲において「軸方向内」および「軸方向外」という用語は、歯付きクラウンの回転軸心(当該回転軸心は、自転車のボトムブラケットのシャフトの回転軸心と一致する)と平行な方向であって、自転車のフレーム側に向かう方向、自転車のフレームとは反対側に向かう方向をそれぞれ指すものとする。つまり、歯付きクラウンの軸方向内側表面とは自転車のフレーム側に面する表面であり、歯付きクラウンの軸方向外側表面とは右クランクアーム側に面する表面である。
【0004】
本明細書において及び添付の特許請求の範囲において「軽量化凹所」(lightening recess)という表現は、歯付きクラウンのうちの一部位であって、当該歯付きクラウンでの
隣接する部位から軸方向厚さが大幅に減少していることによって特徴付けられる部位を指すのに用いられる。他方で「厚肉部」(thickened portions)という表現は、歯付きクラウンのうちの一部位であって、当該歯付きクラウンでの隣接する部位から軸方向厚さが大幅に増加していることによって特徴付けられる部位を指すのに用いられる。
【0005】
特許文献1には、参照符号10が付された歯付きクラウンが開示されている。当該歯付きクラウンは、本明細書に添付した図1にも描かれている。歯付きクラウン10は、軸方向内側表面12及び軸方向外側表面14を有する環状体11を備えている。環状体11の径方向外側位置には、複数の歯が存在しており、環状体11の径方向内側位置には、右クランクアームとカップリングするための複数のカップリング部16が存在している。
【0006】
そのような複数の歯は、同一の形状及び寸法を有する第1のグループの歯、ならびに同一の形状及び寸法を有するが上記第1のグループの歯の形状及び寸法とは異なる形状及び寸法である第2のグループの歯を含み、当該第2のグループの各歯は、上記第1のグループのうちの連続する2つの歯間に介在している。
環状体11はそれぞれのカップリング部16の箇所にて、当該環状体11の軸方向内側表面12ではそれぞれの軽量化凹所20を、当該環状体11の軸方向外側表面14ではそれぞれの厚肉部22を有している。
厚肉部22が、環状体11における最大の軸方向厚さを形成している。
【0007】
歯付きクラウン10の重量をさらに減少させるために、当該歯付きクラウン10の2つの両側表面のうちの一方の表面では、前述した2つのグループのうちの一方のグループの歯における径方向最内側領域に、アンダーカット部21が設けられている。図1では、当
該歯の軸方向内側表面において、アンダーカット部21が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第9062758号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、図1の歯付きクラウン10が、当該歯付きクラウン10のうちの右クランクアームにより伝達されるトルクによって最も応力を受ける領域にちょうど、前述した厚肉部22を有していることに気付いた。このような厚肉部22が設けられていると重量の大幅な悪化を招き、これは軽量化凹所20を設けても部分的にしか補償されず、アンダーカット部21を設けてもさらに小程度にしか補償されない。
【0010】
本出願人は、歯付きクラウンの、特には競走用自転車の歯付きクラウンの設計が、当該歯付きクラウンの軽量性の要件やペダル動作時に右クランクアームによって付加される応力に対する当該歯付きクラウンの構造耐力の要件だけでなく、チェーンによって付加される応力に対する当該歯付きクラウンの歯の構造耐力も十分に考慮して行われるのが適切であることを見出した。
【0011】
これに関連して、本出願人は、運転者により右クランクアームに付加される荷重のうちの、歯付きクラウンの回転にとって有用な成分(以降では、「右クランクアームに加えられる力のうちの有用成分」)がペダル動作中に最大となった状態のときにその歯付きクラウンが生じる軸方向変形を解析することにし、例えば上り坂の立ちこぎ、上り坂の座りこぎ、停止状態からの始動等のような特定の参照動作条件(「停止状態からの始動」は毎回発生する状態である)では、右クランクアームのステム部の長手軸が垂直となって上方に延びているときの基準位置に対して当該右クランクアームが所定の回転角度に到達したときに、当該右クランクアームに加えられる力のうちのそのような有用成分が最大となることを見出した。
【0012】
つまり、本出願人は、歯付きクラウンのうちの、右クランクアームが上記の所定の回転角度に配置されたときにチェーンによって最も応力を受ける部位での、当該歯付きクラウンの変形に特に注目した。そのような部位の一つは、自転車のチェーンとの上記歯付きクラウンの係合が始まる部位である。
【0013】
本出願人は、例えば「停止状態からの始動」という動作状態では、歯付きクラウンのうちの、右クランクアームに加えられる力のうちの有用成分が最大となったときにチェーンによって最も応力を受ける角度方向部位が、当該歯付きクラウンの軸方向外側表面上においてその右クランクアームに対して当該右クランクアームの長手軸から反時計回りに約100°~約160°、より好ましくは約107°~約159°の所定の角度で、角度方向に傾いた2つの平面間に形成されている角度方向部位であることを特定した。
【0014】
本出願人は、歯付きクラウンの上記環状体へと軽量化凹所を、当該歯付きクラウンのうちの、右クランクアームに付加される応力が最大となった上記の状態のときにチェーンによって最も応力を受ける前述した部位にも形成するということが、これが原因となって右クランクアームにより付加される応力及びチェーンによって付加される応力に対する当該歯付きクラウンの構造耐力を損なうことなく可能となることを見出した。これにより、所望の構造強度を維持しながら歯付きクラウンの重量を減少させることが可能となる。
【0015】
歯付きクラウンのうちの上記のような部位に軽量化凹所を設けるという構成は、特許文
献1ではそのような部位に厚肉領域を設けることが記載されていることから、特許文献1に照らして自明ではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の第1の態様において、本発明は、自転車のクランクセットの歯付きクラウンであって、
回転軸心周りに延在する環状体と、
前記環状体からそれぞれの径方向外方に沿って延びる複数の歯と、
前記複数の歯とは反対側で前記環状体から延びる、自転車の右クランクアームとカップリングするための複数のカップリング部と、
を備え、前記環状体が、
-軸方向内側表面、
-軸方向外側表面、および
-前記回転軸心が位置する基準平面であって、前記右クランクアームが前記環状体へと前記複数のカップリング部で且つ前記軸方向外側表面でカップリングされたときに当該右クランクアームの長手軸が位置するように意図されている基準平面、
を有し、前記環状体は、互いに平行かつ前記基準平面と直交する2つの主平面間の距離に等しい最大の軸方向厚さを有しており、当該最大の軸方向厚さが、前記環状体のうちの少なくとも1つの第1の角度方向部位に形成されている、歯付きクラウンにおいて、
前記環状体のうちの前記少なくとも1つの第1の角度方向部位が、前記軸方向外側表面に形成された第1の軽量化凹所を有しており、
前記少なくとも1つの第1の角度方向部位が、前記回転軸心を貫通し且つ前記基準平面に対して前記軸方向外側表面上において当該基準平面から角度方向に約21°~約27°の極値を含む範囲内の第1の角度で、約67°~約73°の極値を含む範囲内の第2の角度で、それぞれ傾いた2つの境界平面(delimiting planes)間で周方向に延在している
(該第1及び第2の角度は、基準平面Rから時計方向に角度的に動く、歯付クラウン100の軸方向外側表面上で測定した)ことを特徴とする、歯付きクラウンに関する。
【0017】
本出願人は驚くべきことに、前記環状体のうちのそのような角度方向部位に軽量化凹所を設けることが、前記歯付きクラウンの構造強度を損なわないことを見出した。むしろ、これにより、重量の大幅な減少を達成することができる。本出願人は、前記歯付きクラウンのうちの大きな応力を受ける領域において当該歯付きクラウンを軽量化できることを考慮すると、当該歯付きクラウンのうちのそれよりも応力が大きくならない他の領域においても軽量化することが可能であり、これによって重量のさらなる減少を達成できると判断した。
【0018】
好ましくは、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位が、前記歯付きクラウンの構造強度を損なわないように前記軸方向内側表面には軽量化凹所を有していない。
【0019】
本発明にかかる歯付きクラウンの好ましい実施形態では、前記環状体のうちの第2の角度方向部位が、前記軸方向外側表面に形成された第2の軽量化凹所を有している。好ましくは、当該第2の角度方向部位が、前記回転軸心を基準として前記少なくとも1つの第1の角度方向部位とは直径方向の反対側にある。
【0020】
つまり、前記第2の角度方向部位は、前記第1の角度方向部位から180°で実質的にオフセットしている。自転車のチェーンは前記歯付きクラウンへと約180°の角度方向範囲にわたって係合することから、前記第2の軽量化凹所は前記環状体の前記軸方向外側表面において、前記歯付きクラウンのうちのペダル動作時に前記チェーンによって最も応力を受ける別の角度方向部位(当該別の角度方向部位は、応力が最大となる前述した位置に前記右クランクアームがあるときに、自転車のチェーンとの前記歯付きクラウンの係合
が終わる角度方向部位である)に形成されていることになる。
【0021】
好ましくは、前記第2の角度方向部位が、前記歯付きクラウンの構造強度を損なわないように前記軸方向内側表面には軽量化凹所を有していない。
【0022】
好ましくは、本発明にかかる歯付きクラウンの歯の数は、28~44の極値を含む範囲内である。
本発明の好ましい実施形態では、前記歯付きクラウンの歯の数が例えば32または34である。
【0023】
好ましくは、1番目の歯が、前記基準平面に実質的にまたがって(astride)(又は前
記基準平面の近傍に)配置されており、前記軸方向外側表面上において前記1番目の歯から周方向に反時計回りで数えて13番目の歯及び29番目の歯が、前記2つの境界平面間に配置されている。
【0024】
本発明にかかる歯付きクラウンの好ましい実施形態では、前記複数のカップリング部が、前記基準平面を基準として両側に対称的に配置された2対のカップリング部を含む。
好ましくは、前記カップリング部のそれぞれが、前記環状体からそれぞれの径方向内方に沿って延びている。
【0025】
好ましくは、前記2対のカップリング部のうちの第1の対のカップリング部における第1のカップリング部が、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位に配置されている。
より好ましくは、前記2対のカップリング部のうちの第2の対のカップリング部における第1のカップリング部が、前記第2の角度方向部位に配置されている。
【0026】
なおいっそう好ましくは、前記環状体は、前記2対のカップリング部のうちの前記第1の対のカップリング部における第2のカップリング部の箇所と前記2対のカップリング部のうちの前記第2の対のカップリング部における第2のカップリング部の箇所とにそれぞれ、前記軸方向外側面に形成された第3、第4の軽量化凹所を有している。
【0027】
つまり、本発明にかかる歯付きクラウンのこの実施形態では、このようにしてそれぞれのカップリング部が、前記軸方向外側表面に形成されたそれぞれの軽量化凹所を具備している。
【0028】
好ましくは、前記環状体は、前記2対のカップリング部のうちの前記第1の対のカップリング部における第2のカップリング部の箇所と前記2対のカップリング部のうちの前記第2の対のカップリング部における第2のカップリング部の箇所とにそれぞれ、前記軸方向内側表面に形成された第5、第6の軽量化凹所を有している。有利なことに、これらの軽量化凹所はフレームに面することになり、外からみた前記歯付きクラウンの美的外観が変わらない。
【0029】
好ましくは、前記第5および第6の軽量化凹所のそれぞれが、それぞれの前記カップリング部の径方向外側位置に配置された第1の凹部、および当該第1の凹部から前記2対のカップリング部のうちの各対のカップリング部における前記第1のカップリング部に向かって延びる第2の凹部を含む。
【0030】
より好ましくは、前記第2の凹部の径方向広がりは、前記第1の凹部の径方向広がりよりも短い。
なおいっそう好ましくは、前記第2の凹部の軸方向深さは、前記第1の凹部の軸方向深さよりも小さい。
【0031】
本発明にかかる歯付きクラウンの好ましい実施形態では、前記環状体が、前記軸方向外側表面に形成された複数のへこみ部を有している。
有利なことに、これらのへこみ部は、前記歯付きクラウンの前記軸方向外側表面に美的特徴を付与するようにも形成されている。
【0032】
好ましくは、前記へこみ部のそれぞれが、それぞれの周方向に連続する2つのカップリング部(consecutive coupling portions)間に配置されている。
より好ましくは、前記へこみ部のそれぞれが、前記周方向に連続する2つのカップリング部から角度方向に等距離のところにある径方向平面を基準として非対称に延在している。
【0033】
本発明の第2の態様において本発明は、右クランクアームと、前記右クランクアームとカップリングされた歯付きクラウンと、を備え、前記歯付きクラウンが、本発明の第1の態様に従って製作されたものである、自転車のクランクセットに関する。
有利なことに、自転車のこのようなクランクセットは、本発明の第1の態様に関して既述した全ての利点を実現することができる。
【0034】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら以下で行う、本発明を限定するものではない、あくまでも例示に過ぎない本発明の好適な実施形態についての、以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】自転車のクランクセットの、従来技術における歯付きクラウンを示す概略背面斜視図である。
図2】自転車のクランクセットの、本発明の第1の好適な実施形態における歯付きクラウンを示す概略正面図である。
図3図2の歯付きクラウンの概略背面斜視図である。
図4図2の歯付きクラウンの、図2の平面線IV-IVに沿った直径方向概略断面図である。
図5図2の歯付きクラウンの、図2の平面線V-Vに沿った他の直径方向概略断面図である。
図6図2の歯付きクラウンを備える、本発明にかかる自転車のクランクセットを示す概略背面図である。
図7a図6のクランクセットに左クランクアームがカップリングしたものを、ペダル動作時に取るある動作位置で示した概略正面図である。
図7b図6のクランクセットに左クランクアームがカップリングしたものを、ペダル動作時に取る異なる動作位置で示した概略正面図である。
図8】様々な参照動作条件(reference operating conditions)において運転者により右クランクアームに付加される荷重のうちの、歯付きクラウンの回転にとって有用な成分(すなわち、右クランクアームに加えられる力のうちの有用成分)についての、右クランクアームの回転角度に対する直交座標グラフ(Cartesian graph)である。
図9】「停止状態からの始動」という特定の動作条件における図8の有用成分についての、右クランクアームの回転角度に対する極座標グラフである(同図には、図2の歯付きクラウンの概略背面図も描かれている)。
図10】自転車のクランクセットの、本発明の第2の好適な実施形態における歯付きクラウンを示す概略背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
初めに図2図6図7a及び図7bを参照する。参照符号100は、自転車のクラン
クセットの、本発明にかかる歯付きクラウンの第1の好適な実施形態の全体を指す。自転車のそのようなクランクセット(図6)の全体には、参照符号110が付されている。
本発明を限定しない図2図6図7a及び図7bの例の歯付きクラウン100は、回転軸心O周りに延在する環状体101を備える。
歯付きクラウン100は、さらに、環状体101の径方向外側位置に配置された複数の歯111を備える(上記の図の例では、歯111の数は32である)。具体的に述べると、歯111は、環状体101からそれぞれの径方向外方に延びている。
【0037】
歯付きクラウン100は、さらに、右クランクアーム30(図6)とカップリングするための4つのカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’を備える。これらのカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’は、前記複数の歯111とは反対側で環状体101から延びており、すなわち、環状体101から径方向内方に延びている。本発明を限定しない図示の例では、カップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’が、環状体101から回転軸心Oに向かって径方向に延びている。
【0038】
図6を参照する。右クランクアーム30は、長手軸Pに沿って延びるステム部32を有している。ステム部32には、右クランクアーム30を自転車のボトムブラケットのシャフトにカップリングするための孔32aが形成されている。
右クランクアーム30の前記孔32aからは、歯付きクラウン100のカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’とカップリングするための4つのカップリングエレメント34が径方向外方に延びている。
【0039】
歯付きクラウン100の環状体101は、軸方向内側表面120および軸方向外側表面140を有している。
右クランクアーム30は、環状体101の軸方向外側表面140に対して(前記4つのカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’で)カップリングするように意図されている。
【0040】
環状体101には、回転軸心Oが位置する基準平面Rが規定される。
右クランクアーム30が歯付きクラウン100にカップリングされると、この右クランクアーム30の長手軸Pもその基準平面Rに位置するようになる。
【0041】
基準平面Rを基準として一方の側には一対の第1のカップリング部160a’,160b’が配置されており、基準平面Rを基準として反対側には一対の第2のカップリング部160a’’,160b’’が、前記一対の第1のカップリング部160a’,160b’に対して対称的に配置されている。
第2のカップリング部160a’’,160b’’は、回転軸心Oを基準として第1のカップリング部160a’,160b’とは直径方向の反対側にある。
【0042】
図4及び図5を参照する。環状体101は、互いに平行かついずれも基準平面Rと(したがって、回転軸心Oと)直交する2つの主平面間の距離に等しい最大の軸方向厚さを有している。
環状体101の前記最大の軸方向厚さは、環状体101のうちの第1の角度方向部位141に形成されており、好ましくは、環状体101のうちの第2の角度方向部位142にも形成されている。第2の角度方向部位142は、回転軸心Oを基準として第1の角度方向部位141とは直径方向の反対側にあり、つまり、第1の角度方向部位141から180°実質的にオフセットしている。
【0043】
環状体101のうちの第1の角度方向部位141及び第2の角度方向部位142はそれ
ぞれ、第1の軽量化凹所181、第2の軽量化凹所182を有している。第1の軽量化凹所181及び第2の軽量化凹所182は、いずれも軸方向外側表面140に形成されており、かつ、好ましくは互いに同一である。
ただし、環状体101の第1の角度方向部位141及び第2の角度方向部位142は、軸方向内側表面120には軽量化凹所を有していない。
【0044】
第1の角度方向部位141および第2の角度方向部位142は、回転軸心Oを貫通し且つ基準平面Rに対して約21°~約27°の極値を含む範囲内の第1の角度で、約67°~約73°の極値を含む範囲内の第2の角度で、それぞれ傾いた2つの境界平面K,L間で周方向に延在している。
【0045】
これらの第1の角度及び第2の角度は、軸方向外側表面140上において基準平面Rから角度方向に時計回りで測定された角度である(図2)。
例えば、図2図6図7a及び図7に示す実施形態では、前記第1の角度が約25°に等しいものとされ得て、かつ、前記第2の角度が約70°に等しい角度とされ得る。
つまり、2つの境界平面K,Lは、当該2つの境界平面K,L間に、約40°~約52°の極値を含む範囲内の角度αを形成している。
第1の角度方向部位141はカップリング部160a’の箇所に配置されており、第2の角度方向部位142はカップリング部160a’’の箇所に配置されている。
【0046】
図2図6図7a及び図7bの例では、歯付きクラウン100のうちの1番目の歯150が基準平面Rに実質的にまたがって配置されており、軸方向外側表面140上において1番目の歯150から周方向に反時計回りで数えて13番目の歯152及び29番目の歯154が、前記2つの境界平面K,L間においてそれぞれ、前述した第1の角度方向部位141内、前述した第2の角度方向部位142内に配置されている。
【0047】
環状体101は、カップリング部160b’ の箇所とカップリング部160b’’の
箇所とにそれぞれ、第3の軽量化凹所183、第4の軽量化凹所184を有している。第3の軽量化凹所183及び第4の軽量化凹所184は、いずれも軸方向外側表面140に形成されており、かつ、好ましくは互いに同一である。
好ましくは、これらの軽量化凹所183,184は、軽量化凹所181,182と実質的に同一である。
【0048】
環状体101の軸方向内側表面120には、第5の軽量化凹所161が、カップリング部160b’の箇所および環状体101のうちの当該カップリング部160b’とカップリング部160a’との間に配置された部位に形成されている。
環状体101の軸方向内側表面120には、さらに、第6の軽量化凹所162が、カップリング部160b’’の箇所および環状体101のうちの当該カップリング部160b’’とカップリング部160a’’との間に配置された部位に形成されている。
【0049】
具体的に述べると、これら第5および第6の軽量化凹所161,162のそれぞれが、それぞれのカップリング部160b’,160b’’ の径方向外側位置に配置された第
1の凹部161a,162a、および当該第1の凹部161a,162aから各対のカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’における他方のカップリング部160a’,160a’’に向かって延びる第2の凹部161b,162bを含む。
【0050】
本発明を限定しない図示の例では、第2の凹部161b,162bの径方向広がりが、第1の凹部161a,162aの径方向広がりよりも短い。
さらに、第2の凹部161b,162bの軸方向深さが、第1の凹部161a,162
aの軸方向深さよりも小さい。
好ましくは、軽量化凹所181,182,183,184は旋削法(turning process)
により得られて、より好ましくは、軽量化凹所161,162も旋削法により得られる。
【0051】
本発明を限定しない図示の例では、クラウン100が、さらに、環状体101の軸方向外側表面140に形成された複数のへこみ部(depression)172,174,176を備えている。
好ましくは、これらのへこみ部172,174,176は鍛造法(forging process)に
より得られる。これらのへこみ部172,174,176の深さは、数mm、例えば0.2mmである。好ましくは、へこみ部172,174,176の深さは、前述した軽量化凹所181,182,183,184,161,162の深さよりも小さい。
【0052】
へこみ部172は、カップリング部160a’,160b’’間に配置されて、かつ、基準平面Rにまたがって非対称に延在している。具体的に述べると、へこみ部172の径方向幅は、カップリング部160a’からカップリング部160b’’へと反時計回りに進むにつれて基準平面Rを越えたところまでは増加し、そこからカップリング部160b’’が近付くにつれて徐々に減少する。
好ましくは、へこみ部172の、カップリング部160a’の箇所での径方向幅は、カップリング部160b’’ の箇所での径方向幅よりも大きい。
【0053】
へこみ部174及びへこみ部176はそれぞれ、カップリング部160a’’,160b’’間、カップリング部160a’,160b’間に配置されている。好ましくは、これらのへこみ部174,176同士は、実質的に同一の形状を有し、基準平面Rを基準として対称的に配置されており、かつ、互いに逆さまである(図2)。
【0054】
へこみ部174は、周方向に連続する2つのカップリング部160a’’,160b’’から角度方向に等距離のところにある径方向平面を基準として非対称であり、へこみ部176は、周方向に連続する2つのカップリング部160a’,160b’から角度方向に等距離のところにある径方向平面を基準として非対称である。具体的に述べると、へこみ部174の径方向幅は、カップリング部160b’’からカップリング部160a’’へと反時計回りに進むにつれて増加し、へこみ部176の径方向幅は、カップリング部160b’からカップリング部160a’へと反時計回りに進むにつれて増加する。
【0055】
図2図4及び図5に示すようにへこみ部172,174,176は、軸方向外側表面140に美的かつ特有の価値を付与するように立体的に形成されている。
環状体101の軸方向外側表面140には、さらに、凹所170が形成されている。凹所170は、回転軸心Oを基準としてへこみ部172とは直径方向の反対側で、基準平面Rにまたがって対称的に延在している。凹所170は、右クランクアーム30のステム部32の一部を収容するように構成されている。
【0056】
凹所170は、歯付きクラウン100のうちの1番目の歯150の箇所に配置されており、へこみ部172は、歯付きクラウン100のうちの、軸方向外側表面140上において1番目の歯150から周方向に反時計回りで数えて17番目の歯156の箇所に配置されている。
好ましくは、凹所170は、旋削法により得られる。
好ましくは、へこみ部172,174,176の深さは、前述した軽量化凹所181,182,183,184,161,162の深さよりも小さい。
【0057】
本出願人は、第1の角度方向部位141が、クラウン100のうちの、特定の参照動作状態において(特には、停止状態からの始動という動作状態において)最も応力を受ける
部位であることを特定した。
【0058】
図7a及び図7bには、クランクアーム角度θが描かれている。クランクアーム角度θは、右クランクアーム30のステム部32が鉛直方向上方に向いているときの位置(θ=0°)とペダル動作時に右クランクアーム30が取る位置との間の回転角度(図7a及び図7bでは回転方向が時計回りである)として定義される。
【0059】
自転車のチェーン(図示せず)は歯付きクラウン100へと約180°の角度方向範囲にわたって係合することから、右クランクアーム30が図7aの動作位置にある(クランクアーム角度θが135°に等しい)ときには、クラウン100のうちの第1の角度方向部位141にある歯111が前記チェーンと係合し始めて、クラウン100のうちの第2の角度方向部位142にある歯111が前記チェーンから脱離し始める。
右クランクアーム30が図7bの動作位置にある(クランクアーム角度θが315°に等しい)ときには、クラウン100のうちの第2の角度方向部位142にある歯111が前記チェーンと係合し始めて、クラウン100のうちの第1の角度方向部位141にある歯111が前記チェーンから脱離し始める。
【0060】
図7a及び図7bには、さらに、右クランクアーム30と接続されて且つ当該右クランクアーム30から180°の角度でオフセットしている左クランクアーム130も描かれている。
図7aを参照する。ペダル動作時には右クランクアーム30に、運転者により当該右クランクアーム30に加えられる力のうちの有用成分PE(当該有用成分は、右クランクアーム30のステム部32の長手軸Pと直交に向いているので、ペダル動作時に仕事を行ってパワーを生成する成分である)と軸成分PP(右クランクアーム30のステム部32の長手軸Pと平行に向いているので、ペダル動作時に仕事を行わず動力を生成しない成分である)とで構成される合力PRが働く。
【0061】
本出願人は、下記の5つの参照動作状態:
-「上り坂の立ちこぎ」(ギヤ比:52/12);
-「上り坂の立ちこぎ」(ギヤ比:52/25);
-「上り坂の座りこぎ」(ギヤ比:39/25);
-「上り坂の座りこぎ」(ギヤ比:52/19);および
-「停止状態からの始動」;
において右クランクアーム30に加えられる力のうちの有用成分PEを、様々なクランクアーム角度θに対して調べるために実験的試験を実施した。
【0062】
図8は、本出願人が得た結果を示した直交座標グラフである。5つの曲線は、これら5つの参照動作状態に対応している。
本出願人は、「停止状態からの始動」という動作状態を、当該動作状態が毎回発生する状態であることから好適な参照状態として検討したところ、右クランクアーム30がクランクアーム角度θ=約135°に到達したときに、当該右クランクアーム30に加えられる力のうちの有用成分PEが最大になることを確認した。
【0063】
図9は、「停止状態からの始動」という動作状態における図8の有用成分PEの、クランクアーム角度θに対する極座標グラフ(polar diagram)である。
図9には、さらに、歯付きクラウン100の概略背面図も描かれている(13番目の歯152が、クランクアーム角度θ=135°の箇所に向けられている)。
本出願人は、歯付きクラウン100が生じる軸方向変形を、前述した有用成分PEの計測最大値に等しい軸方向荷重を当該歯付きクラウン100の全ての歯111に適用することによって解析した。
【0064】
本出願人は、図2図6図7a及び図7bの本発明にかかる歯付きクラウン100の軸方向内側表面120に軽量化凹所を形成するために、軸方向内側表面に様々な軽量化凹所が施された様々な歯付きクラウン同士の比較試験を実施した。
【0065】
これにより本出願人は、前述した歯付きクラウン100が、運転者により右クランクアームに最も負荷がかけられたときにチェーンによって最も応力を受ける歯111の箇所で、軸方向内側表面に軽量化凹所を持たない仮想的な歯付きクラウンの変形と実質的に変わらないような側方変形があるような軸方向内側表面に、軽量化凹所のための幾何形状及び位置を備えていることを確認した。
【0066】
図10に、本発明にかかる歯付きクラウン100の第2の好適な実施形態を示す。第1の実施形態に関して既述した構成/構成要素と構造的に又は機能的に等価な構成/構成要素については、参照符号が同じままである。
この第2の好適な実施形態では、歯付きクラウン100の歯111の数が34である。
図10の歯付きクラウン100は、図2図6図7a及び図7bの歯付きクラウン100と、実質的に第5の軽量化凹所261、第6の軽量化凹所262および歯111の数のみが異なる。
【0067】
具体的に述べると、第5および第6の軽量化凹所261,262のそれぞれは、それぞれのカップリング部160b’,160b’’ の径方向外側位置に配置された第1の凹
部261a,262a、および当該第1の凹部261a,262aから各対のカップリング部160a’,160a’’,160b’,160b’’における他方のカップリング部160a’,160a’’に向かって延びる第2の凹部261b,262bを含む。
第1の凹部261a,262aは、図2図6図7a及び図7bの歯付きクラウン100の第1の凹部161a,162aと実質的に同様である。
ただし、第2の凹部261b,262bは、第3の凹部261c,262cを有している。
【0068】
本発明を限定しない図示の例では、第3の凹部261c,262cの径方向広がりが、第2の凹部261b,262bの径方向広がりよりも短い。
さらに、第3の凹部261c,262cの軸方向深さは、第2の凹部261b,262bの軸方向深さよりも大きい。好ましくは、第3の凹部261c,262cの軸方向深さは、第1の凹部261a,262aの軸方向深さよりも小さい。
【0069】
図10の実施形態においても、第1の角度方向部位141および第2の角度方向部位142は、回転軸心Oを貫通し且つ基準平面Rに対して歯付きクラウン100の前記軸方向外側表面上において当該基準平面Rから角度方向に時計回りで約21°~約27°の極値を含む範囲内の第1の角度で、約67°~約73°の極値を含む範囲内の第2の角度で、それぞれ傾いた2つの境界平面K,L間で周方向に延在している(該角度は、基準平面Rから時計方向に角度的に動く、歯付クラウン100の軸方向外側表面上で測定した)。例えば、この実施形態では、前記第1の角度が約23°に等しい(例えば、22.9°に等しい)ものとされ得るか又は約24°に等しいものとされ得て、かつ、前記第2の角度が約70°に等しいものとされ得る。
【0070】
当然ながら、当業者であれば、その時々の要件や偶発的な要件を満足するために、本発明に様々な変更や変形を施すことが可能であり、これら変更や変形の全ては添付の特許請求の範囲により定まる保護範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10 歯付クラウン
11 環状体
12 軸方向内側表面
14 軸方向外側表面
16 カップリング部
20 軽量化凹所
21 アンダーカット部
22 厚肉部
30 右クランクアーム
32a 孔
34 カップリングエレメント
100 歯付きクラウン
101 環状体
110 クランクセット
111 歯
120 軸方向内側表面
130 左クランクアーム
140 軸方向外側表面
141 第1の角度方向部位
142 第1の角度方向部位
150 1番目の歯
152 13番目の歯
154 29番目の歯
156 17番目(反時計まわり)の歯
160a’ カップリング部
160a’’ カップリング部
160b’ カップリング部
160b’’ カップリング部
161 軽量化凹所
161a 第1の凹部
161b 第2の凹部
162 軽量化凹所
162a 第1の凹部
162b 第2の凹部
170 凹所
172 へこみ部
174 へこみ部
176 へこみ部
181 軽量化凹所
182 軽量化凹所
183 軽量化凹所
184 軽量化凹所
261 凹所
261a 第1の凹所
261b 第2の凹所
261c 第3の凹所
262 凹所
262a 第1の凹所
262b 第2の凹所
262c 第3の凹所
K 境界平面
L 境界平面
O 回転軸心
P 長手軸
P1 主平面
P2 主平面
PE 有用成分
PP 軸成分
PR 合力
R 基準平面
IV 平面線
V 平面線
α 角度
θ クランクアーム角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-10-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のクランクセット(110)の歯付きクラウン(100)であって、
回転軸心(O)周りに延在する環状体(101)と、
前記環状体(101)からそれぞれの径方向外方に沿って延びる複数の歯(111)と、
前記複数の歯(111)とは反対側で前記環状体(101)から延びる、自転車の右クランクアーム(30)とカップリングするための複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)と、
を備え、前記環状体(101)が、
-軸方向内側表面(120)、
-軸方向外側表面(140)、および
-前記回転軸心(O)が位置する基準平面(R)であって、前記右クランクアーム(30)が前記環状体(101)へと前記複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)で且つ前記軸方向外側表面(140)でカップリングされたときに当該右クランクアーム(30)の長手軸(P)が位置するように意図されている基準平面(R)、
を有し、前記環状体(101)は、互いに平行かつ前記基準平面(R)と直交する2つの主平面(P1,P2)間の距離に等しい最大の軸方向厚さを有しており、当該最大の軸方向厚さが、前記環状体(101)のうちの少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)に形成されている、歯付きクラウン(100)において、
前記環状体(101)のうちの前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、旋削法により得られ、かつ前記軸方向外側表面(140)に形成された第1の軽量化凹所(181,182)を有しており、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、前記回転軸心(O)を貫通し且つ前記基準平面(R)に対して前記軸方向外側表面(140)上において当該基準平面(R)から角度方向に約21°~約27°の極値を含む範囲内の第1の角度で、約67°~約73°の極値を含む範囲内の第2の角度で、それぞれ傾いた2つの境界平面(K,L)間で周方向に延在している(前記第1の角度および第2の角度は、前記基準平面(R)から時計回りに角度的に動く前記軸方向外側表面(140)で測定)ことを特徴とする、歯付きクラウン(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の歯付きクラウン(100)において、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)が、前記軸方向内側表面(120)には軽量化凹所を有していない、歯付きクラウン(100)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)のうちの第2の角度方向部位(142,141)が、旋削法により得られ、かつ前記軸方向外側表面(140)に形成された第2の軽量化凹所(182,181)を有しており、当該第2の角度方向部位(142,141)が、前記回転軸心(O)を基準として前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)とは直径方向の反対側にある、歯付きクラウン(100)。
【請求項4】
請求項3に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の角度方向部位(142,141)が、前記軸方向内側表面(120)には軽量化凹所を有していない、歯付きクラウン(100)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記歯(111)の数が、28~44の極値を含む範囲内である、歯付きクラウン(100)。
【請求項6】
請求項5に記載の歯付きクラウン(100)において、1番目の歯(150)が、前記基準平面(R)に実質的にまたがって又は前記基準平面(R)の近傍に配置されており、13番目の歯(152)及び29番目の歯(154)は、前記第1の歯(150)から反時計回りに円周方向に動いて、前記軸方向外側表面(140)において数えられて、前記13番目の歯(152)と前記29番目の歯(154)は、前記二つの境界平面(K,L)間に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記複数のカップリング部(160a’,160a’’,160b’,160b’’)が、前記基準平面(R)を基準として両側に対称的に配置された2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)を含む、歯付きクラウン(100)。
【請求項8】
請求項7に記載の歯付きクラウン(100)において、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの第1の対のカップリング部(160a’,160b’)における第1のカップリング部(160a’)が、前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141)に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項9】
請求項8に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)のうちの第2の角度方向部位(142,141)が、旋削法により得られ、かつ前記軸方向外側表面(140)に形成された第2の軽量化凹所(182,181)を有しており、前記第2の角度方向部位(142,141)は、前記回転軸心(O)を基準として前記少なくとも1つの第1の角度方向部位(141,142)とは直径方向の反対側にあり、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの第2の対のカップリング部(160a’’,160b’’)における第1のカップリング部(160a’’)が、前記第2の角度方向部位(142)に配置されている、歯付きクラウン(100)。
【請求項10】
請求項9に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの前記第1の対のカップリング部(160a’,160b’)における第2のカップリング部(160b’)の箇所と前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの前記第2の対のカップリング部(160a’’,160b’’)における第2のカップリング部(160b’’)の箇所とにそれぞれ、旋削法により得られ、かつ前記軸方向外側表面(140)に形成された第3、第4の軽量化凹所(183,184)を有している、歯付きクラウン(100)。
【請求項11】
請求項10に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記第2のカップリング部(160b’,160b’’)の箇所にそれぞれ、旋削法により得られ、かつ前記軸方向内側表面(120)に形成された第5、第6の軽量化凹所(161,162,261,262)を有している、歯付きクラウン(100)。
【請求項12】
請求項11に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第5および第6の軽量化凹所(161,162,261,262)のそれぞれが、それぞれの前記カップリング部(160b’,160b’’)の径方向外側位置に配置された第1の凹部(161a,162a,261a,262a)、および当該第1の凹部(161a,162a, 261a,262a)から前記2対のカップリング部(160a’,160b’;160a’’,160b’’)のうちの各対のカップリング部における前記第1のカップリング部(160a’,160a’’)に向かって延びる第2の凹部(161b,162b,261b,262b)を含む、歯付きクラウン(100)。
【請求項13】
請求項12に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の凹部(161b,162b,261b,262b)の径方向広がりが、前記第1の凹部(161a,162a,261a,262a)の径方向広がりよりも短い、歯付きクラウン(100)。
【請求項14】
請求項12または13に記載の歯付きクラウン(100)において、前記第2の凹部(161b,162b,261b,262b)の軸方向深さが、前記第1の凹部(161a,162a,261a,262a)の軸方向深さよりも小さい、歯付きクラウン(100)。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載の歯付クラウン(100)において、前記第2の凹部(261b,262b)が第3の凹部(261c,262c)を有する、歯付きクラウン(100)。
【請求項16】
請求項15に記載の歯付クラウン(100)において、前記第3の凹部(261c,262c)が前記第2の凹部(261b,262b)の径方向広がりよりも短い径方向広がりを有する、歯付きクラウン(100)。
【請求項17】
請求項15または16に記載の歯付クラウン(100)において、前記第3の凹部(261c,262c)が前記第2の凹部(261b,262b)の軸方向深さよりも大きい軸方向深さを有する、歯付きクラウン(100)。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか一項に記載の歯付クラウン(100)において、前記第3の凹部(261c,262c)が前記第1の凹部(261a,262a)の軸方向深さよりも小さい軸方向深さを有する、歯付きクラウン(100)。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の歯付きクラウン(100)において、前記環状体(101)が、前記軸方向外側表面(140)に形成された複数のへこみ部(172,174,176)を有しており、当該へこみ部(172,174,176)のそれぞれが、それぞれの周方向に連続する2つのカップリング部(160a’,160b’,160a’’,160b’’)間に配置されて、かつ、当該周方向に連続する2つのカップリング部(160a’,160b’,160a’’,160b’’)から角度方向に等距離のところにある径方向平面を基準として非対称に延在している、歯付きクラウン(100)。