(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191501
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からヘルパーT細胞を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20221220BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221220BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221220BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221220BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20221220BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20221220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61K35/15 Z
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171680
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2019506036の分割
【原出願日】2018-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2017049244
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第75回日本癌学会学術総会 電子抄録 掲載アドレス http://www.myschedule.jp/jca2016/search/detail_program/id:2030 掲載日 平成28年9月23日 第75回日本癌学会学術総会 開催日 平成28年10月6日~8日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】上田 格弘
(72)【発明者】
【氏名】植村 靖史
(72)【発明者】
【氏名】福田 恭子
(57)【要約】
【課題】多能性幹細胞からCD4陽性ヘルパーT細胞を効率よく製造すること。
【解決手段】ヘルパーT細胞の製造方法であって、下記の工程を含む方法;
(i)多能性幹細胞から誘導され、かつ、CD4遺伝子またはその遺伝子産物が導入されたT
細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培養する工程、および
(ii)(i)で得られた細胞からCD40L高発現T細胞を選別する工程。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルパーT細胞の製造方法であって、下記の工程を含む方法;
(i)多能性幹細胞から誘導され、かつ、CD4遺伝子またはその遺伝子産物が導入されたT
細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培養する工程、および
(ii)(i)で得られた細胞からCD40L高発現T細胞を選別する工程。
【請求項2】
IL-2の濃度が10~500 IU/mLであり、IL-15の濃度が1~50 ng/mLである、請求項1に記載
の方法。
【請求項3】
前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、次の(1)及び(2)の工程を含む方法により
行われた、請求項1または2に記載の方法;
(1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3LおよびIL-7の存
在下で培養する工程。
【請求項4】
前記工程(1)が多能性幹細胞をC3H10T1/2と共培養した後、VEGF、FLT3Lおよ
びSCFの存在下でC3H10T1/2と共培養する工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(2)が、前記CD34陽性造血前駆細胞をストローマ細胞と共培養する工程である
、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、下記(3)の工程をさらに含む方法により行わ
れた、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法;
(3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核
球と共培養する工程。
【請求項7】
前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、前記工程(2)で得られた細胞をマイトジェン
と接触させる工程および/または前記工程(3)で得られた細胞をマイトジェンと接触さ
せる工程をさらに含む方法により行われた、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記CD4遺伝子の導入はレトロウイルスベクターを用いて行われた、請求項1~7のいず
れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記多能性幹細胞は再構成された所望のTCR配列を有する多能性幹細胞である、請求項
1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞は所望の抗原を認識するリンパ球から誘導されたヒトiPS細胞である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記所望の抗原を認識するリンパ球がBCR/ABLを認識するリンパ球である、請求項10に
記載の方法。
【請求項12】
in vitroで、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法で製造されたCD4陽性かつCD4
0L高発現T細胞を含むヘルパーT細胞と単離された樹状細胞とを抗原の存在下で接触させる
工程を含む、樹状細胞を活性化する方法。
【請求項13】
多能性幹細胞から誘導されたヘルパーT細胞であって、CD4陽性かつCD40L高発現T細胞を含
むヘルパーT細胞。
【請求項14】
請求項13に記載のヘルパーT細胞を含む医薬。
【請求項15】
樹状細胞をさらに含む、請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
抗原をさらに含む、請求項14または15に記載の医薬。
【請求項17】
前記抗原が、BCR/ABLの断片である、請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
がん治療剤である、請求項14~17のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多能性幹細胞からヘルパーT細胞を製造する方法、および多能性幹細胞から製
造されたヘルパーT細胞を含む医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍に対する免疫監視機能は、主に直接的に腫瘍を傷害するCD8陽性T細胞からなる細胞
傷害性T細胞(CTL)と、主にCD4陽性T細胞からなるCTLの機能を増強するヘルパーT細胞(Th
細胞)によって成り立っている。一方で、樹状細胞(DC)は他の免疫細胞の動態を調整する
司令塔的な役割を持つ。Th細胞はDCの活性化を介してCTLを活性化して抗腫瘍効果を発揮
することができると考えられている。
【0003】
人工多能性幹(iPS)細胞などの多能性幹細胞から腫瘍抗原特異的Th細胞の誘導が可能
となれば、これを生体内に投与して強い抗腫瘍免疫応答を惹起するような新規細胞免疫療
法の開発につながると考えられ、これまでに抗原特異的なCD8陽性CTLからiPS細胞(iPSC
)を作り、再びCD8陽性CTLに分化誘導する方法が報告されている(非特許文献1および特
許文献1)。この方法ではCD8陽性CTLのT細胞受容体(TCR)が一貫して受け継がれるため
、iPS細胞から誘導されたCD8陽性CTLも由来となった細胞と同じ抗原特異性を示す。
【0004】
T細胞共受容体(CD8陽性CTLにおいてはCD8分子、CD4陽性Th細胞においてはCD4分子)は、
TCRが抗原を認識した際に細胞内に入力するシグナルを効果的に増強し、その結果、T細胞
の抗原特異的な免疫反応が効果的に誘導される。しかし、非特許文献1に記載の方法では
CD8分子を発現した細胞の誘導は可能であるが、CD4分子を発現した細胞の作製は難しい。
従って、CD4陽性Th細胞由来のiPS細胞から誘導した細胞ではCD4分子を欠くため十分なヘ
ルパー機能を発揮できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多能性幹細胞からCD4陽性Th細胞を効率よく製造することにある。さ
らなる本発明の目的は、当該方法で得られたCD4陽性Th細胞を用いて抗癌剤などの医薬を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、多能性幹細胞から誘導されたT細胞にCD4遺伝
子を導入し、得られたCD4陽性T細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液で培養するとCD40L発
現が上昇する細胞集団を見出した。さらに、CD40L陽性の細胞集団を選別・分離したとこ
ろ、効率よく樹状細胞を活性化するTh細胞が得られることを見出し、本発明を完成するに
至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1]ヘルパーT細胞の製造方法であって、下記の工程を含む方法;
(i)多能性幹細胞から誘導され、かつ、CD4遺伝子またはその遺伝子産物が導入されたT
細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培養する工程、および
(ii)(i)で得られた細胞からCD40L高発現T細胞を選別する工程。
[2]IL-2の濃度が10~500 IU/mLであり、IL-15の濃度が1~50 ng/mLである、[1]に
記載の方法。
[3]前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、次の(1)及び(2)の工程を含む方法
により行われた、[1]または[2]に記載の方法;
(1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3L(Flt3 Ligand)お
よびIL-7の存在下で培養する工程。
[4]前記工程(1)が多能性幹細胞をC3H10T1/2と共培養した後、VEGF、FLT3
LおよびSCFの存在下でC3H10T1/2と共培養する工程である、[3]に記載の方法。
[5]前記工程(2)が、前記CD34陽性造血前駆細胞をストローマ細胞と共培養する工程
である、[3]または[4]に記載の方法。
[6]前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、下記(3)の工程をさらに含む方法によ
り行われた、[3]~[5]のいずれかに記載の方法;
(3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核
球と共培養する工程。
[7]前記多能性幹細胞からのT細胞の誘導は、前記工程(2)で得られた細胞をマイト
ジェンと接触させる工程および/または前記工程(3)で得られた細胞をマイトジェンと
接触させる工程をさらに含む方法により行われた、[3]~[6]のいずれかに記載の方
法。
[8]前記CD4遺伝子の導入はレトロウイルスベクターを用いて行われた、[1]~[7
]のいずれかに記載の方法。
[9]前記多能性幹細胞は再構成された所望のTCR配列を有する多能性幹細胞である、
[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記多能性幹細胞は所望の抗原を認識するリンパ球から誘導されたヒトiPS細胞
である、[9]に記載の方法。
[11]前記所望の抗原を認識するリンパ球がBCR/ABLを認識するリンパ球である、[1
0]に記載の方法。
[12]in vitroで、[1]から[11]のいずれかに記載の方法で製造されたCD4陽性
かつCD40L高発現T細胞を含むヘルパーT細胞と単離された樹状細胞とを抗原の存在下で接
触させる工程を含む、樹状細胞を活性化する方法。
[13]多能性幹細胞から誘導されたヘルパーT細胞であって、CD4陽性かつCD40L高発現T
細胞を含むヘルパーT細胞。
[14][13]に記載のヘルパーT細胞を含む医薬。
[15]樹状細胞をさらに含む、[14]に記載の医薬。
[16]抗原をさらに含む、[14]または[15]に記載の医薬。
[17]前記抗原が、BCR/ABLの断片である、[16]に記載の医薬。
[18]がん治療剤である、[14]~[17]のいずれかに記載の医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子または遺伝子産物を導入
し、IL-2およびIL-15を含む培養液で培養したのち、CD40L高発現細胞を選別することで、
機能的なCD4陽性ヘルパーT細胞を製造することが可能である。さらに、本発明によれば、
当該CD4陽性ヘルパーT細胞を用いて樹状細胞を活性化することが可能である。従って、本
発明によれば、多能性幹細胞からCD4陽性ヘルパーT細胞を生産することが可能であり、ま
た、多能性幹細胞由来のCD4陽性ヘルパーT細胞を含む免疫機能を賦活するがん治療薬等の
医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】CD4
+Th1クローン由来iPSCからのT系列細胞の再分化についての実験スキームおよび実験結果を示す図。(A)CD4
+Thクローン由来iPSCからのT系列細胞の再分化のための培養プロトコル。(B)元のCD4
+Thクローン(SK)とフィトヘマグルチニン(PHA)-P刺激から14日後の再生T細胞(iPS-T細胞)における表示されている分子の代表的なフローサイトメトリープロファイル。(C)元のCD4
+Th1クローン(SK)およびiPS-T細胞のTCR遺伝子使用とV-(D)-J接合部領域の配列。(D)146種類の選択されたT細胞/ILC関連遺伝子の発現プロファイルの主成分分析。(E)ILCサブセットに関連する22種類の選択された遺伝子の発現の階層的クラスタリング(中間調画像)。(F)サイトカイン産生。プレートに結合した対照IgGまたは抗CD3モノクローナル抗体(10μg/ml)で元のCD4
+Th1クローン(SK)およびiPS-T細胞が24時間にわたって刺激された。培養上清中の表示されているサイトカインがELISAにより測定された。示されているデータは3つの培養物の平均値±SDであり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。
【
図2】iPS-T細胞におけるCD4導入の効果を示す図。(A)元のCD4
+Th1クローン(SK)、モック形質導入iPS-T細胞(モックiPS-T細胞)、およびCD4形質導入iPS-T細胞(CD4
+iPS-T細胞)におけるCD4とTCR-Vb22の発現の代表的なフローサイトメトリープロファイル。(B)抗原ペプチドに対するモックiPS-T細胞とCD4
+iPS-T細胞の増殖応答。b3a2ペプチド(10μM)の存在下でT細胞が自家PBMCと共培養された。[
3H]-チミジン取込みアッセイを用いて増殖が測定された。示されているデータは平均値であり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。(C)モックiPS-T細胞とCD4
+iPS-T細胞によるb3a2ペプチド特異的IFN-γ産生。モックiPS-T細胞およびCD4
+iPS-T細胞(1×10
5細胞)がb3a2ペプチド(10μM)で予備パルス処理された自家DC(5×10
4細胞)と共に24時間にわたって共培養された。(D)CD4
+iPS-T細胞によるHLA-DR拘束性IFN-γ産生。b3a2ペプチド(10μM)で予備パルス処理され、放射線照射された各HLA-DRを発現するL細胞形質移入体(4×10
4細胞)とCD4
+iPS-T細胞(5×10
4細胞)が共培養された。(C、D)培養上清(24時間)中のIFN-γがELISAにより測定された。示されているデータは3つの培養物の平均値±SDであり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。(E)全遺伝子発現プロファイルを示す二元クラスタリング(中間調画像)。モックiPS-T細胞とCD4
+iPS-T細胞をベヒクルまたはb3a2ペプチドで刺激した。THP-1発現性HLA-DR9を抗原提示細胞(APC)として使用した。
【
図3】TCR刺激に対する高い応答性を示すiPS-T細胞におけるCD40L
hi
gh集団の特定についての結果を示す図。(A、B)PHA-P刺激から13日後におけるiPS-T細胞のCD40L発現。モックiPS-T細胞またはCD4
+iPS-T細胞がPHA-Pで刺激され、各サイトカインの存在下で培養された。CD40L陽性細胞の頻度が各パネルの上の右隅に示されている。(C、D)それらの亜集団におけるCD40L、CD4、およびTCR-Vb22の発現が示されている。IL-2およびIL-15を含む培地で培養したときのCD40L
high集団およびCD40L
low集団がモックiPS-T細胞およびCD4
+iPS-T細胞からフローサイトメトリー選別によって分離され、PHA-P刺激によって増殖した。(E、F)プレートに結合した対照IgGまたは抗CD3モノクローナル抗体(10μg/ml)で刺激された様々な亜集団におけるCD40Lの表面発現。元のCD4
+Th1クローン(SK)が対照として使用された。相対蛍光強度(RFI)が各パネルの右上に示されている。(C~F)CD40L(赤色)およびアイソタイプ適合対照(灰色)が示されている。(G)プレートに結合した対照IgGまたは抗CD3モノクローナル抗体(10μg/ml)で刺激された表示されている集団によるサイトカイン産生。元のCD4
+Th1クローン(SK)が対照として使用された。(H、I)HLA-DR9遺伝子とBCR-ABL p210遺伝子を発現するTHP1細胞(5×10
4細胞)と共培養されたCD40L
highCD4
+iPS-T細胞(1×10
5細胞)によるサイトカイン産生。(G~I)培養上清中の表示されているサイトカイン(24時間)がビーズベースマルチプレックス免疫アッセイによって測定された。示されているデータは3つの培養物の平均値±SDであり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。
【
図4】CD40L
highCD4
+iPS-T細胞によるDC活性化についての結果を示す図。(A)DCにおける各分子の代表的なフローサイトメトリープロファイル。ベヒクルまたはb3a2ペプチドでパルス処理されたDCが5:1のDC/CD4
+iPS-T細胞比率で各CD4
+iPS-T細胞と共に24時間にわたって培養された。OK432(10μg/ml)成熟処理DCと培地対照DCが対照として使用された。各表面分子(赤色)とアイソタイプ適合対照(灰色)が示されている。(B)各CD4
+iPS-T細胞と共培養されたDCによるサイトカイン産生。培養上清中のサイトカインがビーズベースマルチプレックス免疫アッセイによって測定された。各CD4
+iPS-T細胞(1×10
4細胞)がb3a2ペプチド(10μM)で予備パルス処理された自家DC(2.5×10
4細胞)と24時間にわたって共培養された。元のCD4
+Th1クローン(SK)が対照として使用された。示されているデータは3つの培養物の平均値±SDであり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。
【
図5】CD40L
highCD4
+iPS-T細胞の細胞傷害性についての解析結果を示す図。(A)THP-1細胞に対するiPS-T細胞の細胞傷害活性。(B、C)2.5:1のエフェクター/ターゲット(E:T)比率でのiPS-T細胞のTHP-1細胞に対する細胞傷害性。(B)モックiPS-T細胞が、パーフォリンを阻害する10nMのコンカナマイシンA(CMA)で処理された。(C)受容体/リガンド相互作用を阻害する各抗体が添加された。(D)各CD4
+iPS-T細胞におけるTCR-Vb22、CD4、CD40L、DNAM-1、およびNKG2Dの代表的なフローサイトメトリープロファイル。(E)ベヒクルまたはb3a2ペプチド(5μM)を負荷されたHLA-DR9発現性THP-1細胞に対する各CD4
+iPS-T細胞の細胞傷害活性。(A~C、E)表示されているE:T比率で細胞傷害性が
51Cr放出アッセイにより4時間にわたって測定された。データは3回の独立した3組からなる実験を表している。
【
図6】CD40L
highCD4
+iPS-T細胞による白血病抗原特異的CTLの誘導についてのメカニズムと解析結果を示す図。(A)WT1特異的CTL感作のメカニズム。pWT1はWT1ペプチドであり、b3a2はb3a2ペプチドである。iPS-T細胞がDCによって提示されるb3a2ペプチドを認識すると、活性化されたiPS-T細胞がCD40Lの発現を上昇させる。CD40LによるCD40ライゲーションによってDC成熟が誘導される。DCによる共刺激分子の発現上昇とサイトカイン産生の増加によってWT1ペプチド特異的CTLの活性化が促進される。(B~D)CD8
+T細胞の増殖応答。各iPS-T細胞(5×10
3細胞)とDC(1×10
4細胞)をb3a2ペプチド(5μM)と共に、またはb3a2ペプチド無しで最初に5時間にわたって共培養してそれらのDCを成熟させ、その後でそれらのDCとiPS-T細胞を放射線照射し、WT1ペプチド(5μM)の存在下で自家CD8
+T細胞(5×10
4細胞)と共に培養した。増殖応答(7日目)が[
3H]-チミジンの取込みとして測定された。示されているデータは3つの培養物の平均値±SDであり、且つ、3回の独立した3組からなる実験を表している。(E)CD40L
highCD4
+iPS-T細胞順化DCで感作されたWT1/HLA-A24四量体陽性CD8
+T細胞の頻度。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞(5×10
3細胞)とb3a2ペプチド(5μM)で予備パルス処理されたDC(1×10
4細胞)を最初に5時間にわたって共培養してそれらのDCを成熟させ、その後それらのDCとCD4
+iPS-T細胞を放射線照射し、WT1ペプチド(5μM)の存在下で自家CD8
+T細胞(5×10
4細胞)と共に培養した。刺激後10日目における四量体染色が示されている。(F)WT1ペプチドで3回目の刺激の後のWT1/HLA-A24四量体陽性CD8
+T細胞の頻度。(E、F)3回の独立した実験の代表的なフローサイトメトリープロファイル。HIV-env/HLA-A24四量体が対照として使用された。(G)ベヒクルまたはWT1ペプチドが負荷されたK562-A24細胞に対する増殖したWT1特異的CD8
+T細胞の細胞傷害活性。表示されているエフェクター/ターゲット(E:T)比率で細胞傷害性が
51Cr放出アッセイにより4時間にわたって測定された。データは3回の独立した3組からなる実験を表している。
【
図7】CD40L
highCD4
+iPS-T細胞順化DCによって感作されたCTL(WT1特異的CTL)の抗白血病活性を示す図。(A)インビボ抗白血病作用(写真)。NSGマウスにK562-A24-Luc-WT1ミニ遺伝子細胞と生理食塩水またはWT1特異的CTLの混合物を皮下注入した。腫瘍担持量が生物発光イメージングにより毎週測定された。(B)0日目から42日目までの各群の平均腫瘍サイズが示されている。エラーバーは±SDを表している。*はスチューデントの独立t検定(両側型)による0.05未満のP値である。(C)処理マウスおよび対照マウスのカプランマイヤー生存曲線。*はログランク(マンテル・コックス)検定による0.05未満のP値である。(WT1-CTL処理、n=10;無処理、n=5)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のCD4陽性ヘルパーT細胞の製造方法は、(i)多能性幹細胞から誘導され、かつ
、CD4遺伝子または遺伝子産物が導入されたT細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培
養する工程、および(ii)(i)で得られた細胞からCD40L高発現T細胞を選別する工程を
含む。
【0013】
まず、多能性幹細胞から誘導され、かつ、CD4遺伝子または遺伝子産物が導入されたT細
胞について説明する。
【0014】
多能性幹細胞
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性
を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、少なくとも本発明で使用される造血前
駆細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、
例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞
、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞
、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。
【0015】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入するこ
とによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3
、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT
15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等
の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組
み合わせて用いてもよい。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/11
8820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119
、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2
009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/1
57593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626
、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、W
O2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangf
u D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell St
em Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu
D, et al. (2008), Nat. Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem
Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (
2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat. Cell Biol. 11:197
-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et
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et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-
100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Na
ture. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0016】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健
全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、
および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞
、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前
駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞
、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞
、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞な
どが例示される。
【0017】
CD4陽性T細胞を製造する目的に使用するためには、T細胞受容体(T cell re
ceptor、TCR)の遺伝子再編成が行われたリンパ球(好ましくは、T細胞)を体
細胞として用いてiPS細胞を製造することが好ましい。リンパ球を体細胞として用いる場
合、初期化の工程に先立ち当該リンパ球をインターロイキン-2(IL-2)の存在下に
て抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激、または、所望の抗原ペプチドで刺激し
て活性化することが好ましい。かかる刺激は、例えば、培地中に、IL-2、抗CD3抗
体及び抗CD28抗体を添加して前記リンパ球を一定期間培養することによって行うこと
ができる。抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであっ
てもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD2
8抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによっ
て刺激を与えてもよい。また、ヒトT細胞が認識する抗原ペプチドを培地中に添加するこ
とによって刺激を与えてもよい。抗原ペプチドとは、所望の抗原タンパク質を構成する少
なくとも9個以上のアミノ酸配列から成るペプチドである。このようなペプチドとして、
例えば、BCR/ABLキメラ遺伝子のp210のb3a2サブタイプ(単にb3a2ともいう)を構成する
9個以上のアミノ酸配列から成るペプチドが例示される。このように、抗原ペプチドを添
加した培地中でリンパ細胞を培養することで、当該抗原ペプチドを認識するリンパ細胞が
選択的に増殖させることが可能である。
【0018】
本発明において使用されるCD4陽性T細胞は、所望の抗原特異性を有することが好ましい
。従って、iPS細胞の元となるリンパ球は、所望の抗原特異性を有することが望ましく、
当該リンパ球は、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製により特異
的に単離されてもよい。この精製では、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺
伝子複合体)を4量体化させたもの(いわゆる「MHCテトラマー」)を用いて、ヒトの
組織より所望の抗原特異性を有するリンパ球を精製する方法も採用することができる。
【0019】
体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトであ
る。本発明の方法によって調製されたCD4陽性ヘルパーT細胞を輸血に使用する場合、輸血
される患者とヒト白血球型抗原(HLA)の型を適合させ易いという観点から、iPS細胞
の元となる体細胞は、CD4陽性ヘルパーT細胞を輸血される対象から単離されることが好ま
しい。
【0020】
多能性幹細胞からT細胞の誘導方法
多能性幹細胞からT細胞の誘導方法は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば
、次の(1)および(2)、好ましくは(1)から(3)の工程を含む方法が挙げられる
;
(工程1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(工程2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3LおよびIL
-7の存在下で培養する工程、および
(工程3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血
単核球と共培養する工程。
【0021】
T細胞とはTCRを細胞表面に有している細胞を意味し、さらにCD4およびCD8を細胞
表面に有していてもよい。従って、T細胞を誘導するという観点からは、上記(工程1)
および(工程2)を行えばよいが、T細胞の含有効率を上昇させるためにはさらに、上記
(工程3)を含むことが望ましい。
【0022】
(工程1)多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する工程
造血前駆細胞とは、リンパ球、好酸球、好中球、好塩基球、赤血球、巨核球等の血球系
細胞に分化可能な細胞であり、例えば、表面抗原であるCD34陽性、またはCD34およびCD43
が陽性であることによって認識できる。
【0023】
多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する方法として、多能性幹細胞をC3H10T1/2と共
培養した後、VEGF、FLT3LおよびSCFの存在下でC3H10T1/2と共培養すること
で得られるネット様構造物(ES-sac又はiPS-sacとも称する)から造血前駆細胞を調製
する方法が挙げられる。このとき、さらにビタミンC類を添加して培養してもよい。ここ
で、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの
)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。こ
の他にも、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法にしたがっ
て、多能性幹細胞をVEGFの存在下でC3H10T1/2上で培養することで得られるネット様構造
物から造血前駆細胞を調製することができる。 また、多能性幹細胞からの造血前駆細胞
の製造方法として、胚様体の形成とサイトカインの添加による方法(Chadwick et al. Bl
ood 2003, 102: 906-15、Vijayaragavan et al. Cell Stem Cell 2009, 4: 248-62、Saek
i et al. Stem Cells 2009, 27: 59-67)または異種由来のストローマ細胞との共培養法
(Niwa A et al. J Cell Physiol. 2009 Nov;221(2):367-77.)、サイトカインの添加と
コーティング剤(マトリゲルまたはラミニン断片)の組み合わせによる方法(WO2011/115
308)等が例示される。
【0024】
(工程2)造血前駆細胞をFLT3LおよびIL-7の存在下で培養する工程
工程2において用いる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培
地を基礎培地へFLT3LおよびIL-7を添加して調製することができる。基礎培地に
は、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle
's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's M
edium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium
(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が
含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は
、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-
メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須
アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝
剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。本工程2において、好
ましい基礎培地は、血清、L-グルタミン、トランスフェリン、セレンを添加したαMEM培
地である。
【0025】
工程2において用いる培養液中におけるIL-7の濃度は、通常0.1 ng/mlから50 ng/mlで
あり、例えば、0.1 ng/ml、0.2 ng/ml、0.3 ng/ml、0.4 ng/ml、0.5 ng/ml、0.6 ng/ml、
0.7 ng/ml、0.8 ng/ml、0.9 ng/ml、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、10
ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/mlまたは50 ng/mlである。好ましくは、1 ng/mlであ
る。
【0026】
工程2において用いる培養液中におけるFLT3Lの濃度は、通常1 ng/mlから100 ng/
mlであり、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml
、8ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/mlまたは100 ng/mlである。好ましくは
、10 ng/mlである。
【0027】
工程2に用いる培養液へ、ビタミンC類、SCF、TPO(トロンボポエチン)からな
る添加物をさらに添加して調製してもよい。
ビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘
導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。L-アスコルビン酸
の誘導体として、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、
ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビルおよ
びアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンC
であり、例えば、リン酸-Lアスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgが挙げら
れる。ビタミンC類は、培養期間中、4日毎、3日毎、2日毎、または毎日、別途添加する
ことが好ましく、より好ましくは毎日である。当該ビタミンC類は、培養液において、通
常5ng/mlから500ng/mlに相当する量を添加する。好ましくは、5ng/ml、10ng/ml、25ng/ml
、50ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、または500ng/mlに相当する量で
ある。
造血前駆細胞の製造に用いるSCFの培養液中における濃度は、10 ng/mlから100 ng/mlで
あり、例えば、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/
ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml、150 ng/ml、200 ng/ml、または500 ng/mlである。
造血前駆細胞の製造に用いるTPOの培養液中における濃度は、10 ng/mlから100 ng/m
lであり、例えば、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70
ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml、150 ng/ml、200 ng/ml、または500 ng/mlであ
る。
【0028】
工程2において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよく、接着培養の場合
、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい
。共培養するフィーダー細胞として、ストローマ細胞が好ましく、具体的には骨髄間質細
胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好
ましくは、Delta-like 1(Dll1)を恒常的に発現するOP9-DL1細胞であってもよい(Holme
s R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。フィーダー細胞
としてOP9細胞を用いる場合、別途用意したDll1またはDll1とFc等の融合タンパク質を適
宜培養液に添加することによっても行い得る。Dll1には、NCBIのアクセッション番号とし
て、ヒトの場合、NM_005618、マウスの場合、NM_007865に記載されたヌクレオチド配列を
有する遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらと高い配列同一性(例えば90
%以上)を有し、同等の機能を有する天然に存在する変異体が包含される。当該フィーダ
ー細胞は培養中適宜交換することが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフ
ィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、5日毎、
4日毎、3日毎、または2日毎にて行い得る。
【0029】
工程2において、浮遊培養によって培養が行われる場合、細胞を培養容器へ非接着の状
態で凝集体(スフェアとも言う)を形成させて培養することが望ましく、このような培養
は、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、
細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工
的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)、
非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)またはリン脂質類似構造物(例え
ば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする水溶性ポリマー(
Lipidure))によるコーティング処理した培養容器を使用することによって行うことがで
きる。工程2を浮遊培養で行う場合、Huijskens MJ et al, J Leukoc Biol. 96: 1165-11
75, 2014を参照して行うことができる。
【0030】
工程2において、接着培養が行われる場合、細胞外基質をコーティング処理された培養
容器を用いて培養することによって行うことができる。コーティング処理は、細胞外基質
を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。ここ
で、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人
工物(組換え体)であってもよい。例えば、ポリリジン、ポリオルニチン、コラーゲン、
プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラ
スチン、フィブリリン、ラミニンといった物質およびこれらの断片が挙げられる。これら
の細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細
胞からの調製物であってもよい。
【0031】
工程2における、造血前駆細胞を培養する際の培養温度条件は、特に限定されないが、
例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については
、当業者であれば細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数
は特に限定されないが、例えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上
、18日以上、20日以上、21日以上であり、好ましくは14日である。
【0032】
工程2にて得られた細胞を、マイトジェンで刺激してもよい。マイトジェンとは、T細
胞の細胞分裂を促進する物質を意味し、このような物質として、例えば、pokeweed mitog
en、抗CD3抗体、抗CD28抗体、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA (ConA)
、スーパー抗原、フォールボールエステル(例えば、ホルボール-12-ミリスタート-13-ア
セタート(PMA))が挙げられる。
【0033】
(工程3)IL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核球と共培養する工程
工程3は、上述の工程2で得られた細胞を単離し、末梢血単核球と共培養する工程であ
る。
【0034】
工程3で用いる末梢血単核球は、工程1で用いた多能性幹細胞とアロジェニック(同種
)であることが望ましく、従って、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、当該末梢血単核球も
ヒト末梢血単核球であることが望ましい。また、当該末梢血単核球は、自己増殖を防止す
る措置を取ることが望ましく、このような措置として、放射線照射やマイトマイシン処理
が例示される。
【0035】
工程3において用いる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培
地を基礎培地へIL-7およびIL-15を添加して調製することができる。基礎培地に
は、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle
's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's M
edium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium
(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が
含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は
、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-
メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須
アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝
剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。工程2において、好ま
しい基礎培地は、血清、L-グルタミン、を添加したRPMI 1640培地である。
【0036】
工程3において用いる培養液中におけるIL-7の濃度は、1 ng/mlから100 ng/mlであ
り、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/
ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/mlである。好ましくは、10 ng/ml
である。
【0037】
工程3において用いる培養液中におけるIL-15の濃度は、1 ng/mlから100 ng/mlで
あり、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 n
g/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/mlである。好ましくは、10 ng
~20 ng /mlである。
【0038】
T細胞の細胞分裂を促進する目的で、培養液へマイトジェンをさらに添加して調製して
もよい。マイトジェンは、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0039】
本工程3における、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程
度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば細胞数な
どをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されないが、例
えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、21
日以上であり、好ましくは14日である。
【0040】
CD4遺伝子または遺伝子産物を導入する方法
CD4遺伝子または遺伝子産物を多能性幹細胞から誘導されたT細胞に導入する方法は特に
限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。本発明において、遺伝子産
物とは、RNAまたはタンパク質が例示される。CD4遺伝子はヒトの遺伝子が好ましく、
例えば、GenBank Accession No. AAH25782のアミノ酸配列(配列番号3)またはそれと8
0%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一なアミノ酸配列を有し
、T細胞に導入されたときに樹状細胞を活性化可能なタンパク質をコードする遺伝子が例
示される。
【0041】
遺伝子(DNA)の形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体な
どのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法に
よって多能性幹細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイ
ルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス
ベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとし
ては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)な
どが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクター
には、CD4遺伝子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配
列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さら
に、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性
遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキ
シン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAG
などのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモ
ーター、 LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma v
irus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes sim
plex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよ
びTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)
が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、tetRおよびVP16AD
との融合タンパク質またはreverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時
に発現させることが望ましい。ここで、TREプロモーターを有しreverse tetR (rtetR)お
よびVP16ADとの融合タンパク質を発現させることが可能なベクターを薬剤応答性誘導ベク
ターと称する。また、上記ベクターには、多能性細胞の染色体へプロモーターとそれに結
合するCD4遺伝子からなる発現カセットを取り込み、さらに必要に応じて切除するために
、この発現カセットの前後にトランスポゾン配列を有していでもよい。トランスポゾン配
列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。他の態様として、発現カセットを
除去する目的のため、発現カセットの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0042】
薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合、CD4遺伝子の導入は、多能性幹細胞において導
入してもよく、この場合、対応する薬剤を培地中へ添加することでCD4遺伝子を発現する
ことができる。従って、当該薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合、対応する薬剤を培地
中へ添加することをもって、CD4遺伝子の導入と言い換えることができる。対応する薬剤
としては、ドキシサイクリンなどが例示される。LoxP配列を有するベクターを用いる場合
、所望の期間経過後、Creを細胞内に導入することで発現を停止する方法などが例示され
る。
【0043】
RNAの形態で導入する場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイ
クロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
タンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(
例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなど
の手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
【0044】
このような遺伝子産物の形態で導入する場合、遺伝子産物の半減期が短いことから、当
該導入を複数回にわたって行ってもよい、導入回数は、CD4遺伝子の発現が必要な期間か
ら半減期を参照し、適宜算出することができる。導入回数として、3回、4回、5回、6
回またはそれ以上が例示される。
【0045】
CD4陽性T細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培養する工程
この工程において用いられる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いら
れる培地を基礎培地へIL-2およびIL-15を添加して調製することができる。基礎培地には
、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's
Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medi
um (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(
ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含
有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、
例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メ
ルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須ア
ミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤
、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。本工程において、好まし
い基礎培地は、血清、L-グルタミン、トランスフェリン、セレンを添加したαMEM培地で
ある。
【0046】
培養液中におけるIL-2の濃度は、通常10 IU/mlから500 IU/mlであり、例えば、10 IU/m
l、20 IU/ml、30 IU/ml、40 IU/ml、50 IU/ml、60 IU/ml、70 IU/ml、80 IU/ml、90 IU/m
l、100 IU/ml、150 IU/ml、200 IU/ml、250 IU/ml、300 IU/ml、350 IU/ml、400 IU/ml、
450 IU/mlまたは500 IU/mlである。好ましくは、100 IU/mlである。
【0047】
培養液中におけるIL-15の濃度は、通常1 ng/mlから50 ng/mlであり、例えば、1 ng/ml
、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8ng/ml、9 ng/ml、10 ng/m
l、20 ng/ml、25 ng/mlまたは50 ng/mlである。好ましくは、5 ng/mlである。
【0048】
この工程においては、CD4陽性T細胞を接着培養または浮遊培養してもよいが、浮遊培養
が好ましい。
【0049】
CD4陽性T細胞を培養する際の培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~
約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば
細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されな
いが、例えば、少なくとも1日間以上、2日以上、3日以上、5日以下程度である。
【0050】
CD40L高発現T細胞を選別する工程
CD4陽性T細胞をIL-2およびIL-15を含む培養液中で培養して得られたT細胞について、CD
40Lの発現量に基づいて選別(sorting)を行い、CD40L高発現T細胞(CD40Lhigh
CD4+iPS-T細胞)を得る。ここでCD40L高発現T細胞とはCD40Lを所定のレベル以
上発現するT細胞を意味し、例えば、抗CD40L抗体で検出し得るレベル以上の発現レベルで
CD40Lを発現するT細胞、又は陰性コントロール細胞(例えば、Fluorescence Minus One (
FMO) Control)における発現レベルよりも高いレベル、陰性コントロール細胞での発現レ
ベルに幅があるときはその上限よりも高いレベルでCD40Lを発現するT細胞が挙げられ、抗
CD40L抗体を用いて選別(精製)することができる。
CD40L陽性細胞の精製は、当業者に周知の方法で行うことができ、特に限定されないが
、CD40L抗体を担持した磁気ビーズやCD40L抗体を用いたフローサイトメトリーにより行う
ことができる。
なお、得られたCD40L高発現T細胞を、マイトジェン等で刺激してもよい。マイトジェン
としては、例えば、pokeweed mitogen、抗CD3抗体、抗CD28抗体、フィトヘマグルチニン
(PHA)が挙げられる。
【0051】
樹状細胞を活性化する方法
上述した方法で製造されたCD4陽性ヘルパーT細胞をin vitroで抗原の存在下で樹状細胞
と接触させることにより、樹状細胞を活性化することができる。
【0052】
樹状細胞とは、抗原を取り込み、MHC分子と結合して当該抗原を提示することができる
機能を有する細胞である。本発明の方法で製造されたCD4陽性ヘルパーT細胞と接触させる
ことで活性化できることから、未熟樹状細胞であってもよい。
【0053】
樹状細胞を活性化するとは、抗原に特異的なT細胞を活性化できる機能を獲得すること
を意味し、より好ましくは、抗原に特異的なCD8陽性T細胞を活性化できる機能を獲得する
ことである。当該活性化は、CD83、またはCD86の発現を確認することによっても行い得る
。さらに、樹状細胞を活性化するとは、未熟樹状細胞を成熟樹状細胞へと成熟させると言
い換えることもできる。
【0054】
使用される樹状細胞は、ドナーから血液成分分離装置および密度勾配遠心分離法にて単
離された樹状細胞であり、CD4陽性ヘルパーT細胞と同一のMHC分子を所有していることが
好ましい。
【0055】
樹状細胞の活性化において用いる抗原は、本発明の方法で製造されたCD4陽性ヘルパーT
細胞によって特異的に認識されるタンパク質の少なくとも連続する9アミノ酸配列を有す
るペプチドである。このような抗原として、例えば、CD4陽性T細胞がb3a2ペプチドを特異
的に認識するTCRを保有する場合、当該b3a2ペプチドを抗原として用いる。
【0056】
b3a2ペプチドとは、b3a2型のBCR/ABLキメラ遺伝子によってコードされるタンパク質の
一部であり、HLA-クラスII分子のペプチド収容溝に収まる少なくとも連続する9アミノ酸
配列を有するペプチドである。b3a2型のBCR/ABLキメラ遺伝子とは、BCRのM-BCR部位より
のB3エクソンと、ABLよりのA2エクソンを含むBCRとABLの融合遺伝子を意味する。
【0057】
樹状細胞を活性化するために用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を用いる
ことができる。当該基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM
)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、
Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fis
cher's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地など
が包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用しても
よい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン
、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、
アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物
質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含
有し得る。
樹状細胞の活性に要する時間は特に限定されないが、数時間でよく、例えば、2時間、
3時間、4時間、5時間、6時間、12時間、24時間などが例示される。好ましくは、5時
間である。
【0058】
医薬
本発明は、上述の方法によって製造されたCD4陽性ヘルパーT細胞(多能性幹細胞から誘
導されたヘルパーT細胞であって、CD4陽性かつCD40L高発現T細胞からなるヘルパーT細胞
)、および/または上述の方法によって活性化された樹状細胞、さらには抗原ペプチドを
含むがん治療剤などの医薬を提供する。
【0059】
医薬がCD4陽性ヘルパーT細胞を含むがん治療剤である場合、治療対象となるがんは、が
ん細胞において、CD4陽性T細胞に特異的に認識される抗原を発現するがん細胞であること
が望ましい。例えば、CD4陽性ヘルパーT細胞がb3a2を特異的に認識するTCRを保有する場
合、治療対象は、b3a2を発現するがん細胞であり、BCR/ABLキメラ遺伝子を有する染色体
(フィラデルフィア染色体)を原因とする白血病である。
【0060】
CD4陽性ヘルパーT細胞により活性化された樹状細胞は、当該CD4陽性ヘルパーT細胞によ
って認識される抗原以外であっても、提示することによって当該抗原を認識するリンパ球
(例えば、CD8陽性T細胞)を活性化することが可能である。従って、樹状細胞を含むがん
治療剤の対象となるがんは特に限定されない。
【0061】
樹状細胞を含む治療剤である場合、活性化された樹状細胞をそのまま治療剤としてもよ
いが、がん治療に関しては、樹状細胞に腫瘍抗原を提示させるために、がん細胞のcell l
ysate (細胞溶解物) と混合、ペプチドで接触、または腫瘍抗原遺伝子を導入する方法な
どにより抗原を提示させた樹状細胞をがん治療剤として用いてもよい。
【0062】
当該がん治療剤の患者への投与方法としては、例えば、製造されたCD4陽性ヘルパーT細
胞、および/または上述の方法によって活性化された樹状細胞を生理食塩水等に懸濁させ
、患者の筋組織に直接移植する方法、または、樹状細胞を生理食塩水等に懸濁させ、静脈
注射する方法などが挙げられる。
【実施例0063】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例に限
定されないものとする。
【0064】
材料と方法
ペプチド、サイトカイン、および化合物
HLA-DR9(DRB1*09:01)拘束性b3a2タイプBCR-ABL接合部
ペプチド(ATGFKQSSKALQRPVAS:配列番号1)
HLA-A24(A*24:02)拘束性改変型Wilms tumor(ウィルムス
腫瘍)1(WT1)235~243エピトープペプチド(CYTWNQMNL:配列番号2)
HLA-DR53(DRB4*01:03)拘束性グルタミン酸デカルボキシラーゼ6
5(GAD65)113~131ペプチド(DVMNILLQYVVKSFDRSTK:配列番
号4)
改変型WT1235~243ペプチドでは天然型WT1235~243ペプチドのアミノ酸位置2の
MにYが置換された(CYTWNQMNL:配列番号2)
組換えヒト(rh)型IL-2、rh型IL-4、およびrh型顆粒球マクロファージ
コロニー刺激因子(GM-CSF)(プライミューン)
rh型IL-7、rh型IL-15、およびrh型FMS様チロシンキナーゼ3リガン
ド(FLT3L)(Peprotec)
rh型塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびフィトヘマグルチニン-P(PH
A-P)(和光純薬工業)
rh型血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびrh型幹細胞因子(SCF)(R&D
systems)
ペニシリン殺滅ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus py
ogenes)(OK432)(中外製薬)
【0065】
細胞
末梢血単核細胞(PBMC)は健康なドナーから単離されたものを用いた(Eur J Immu
nol 38:1012-1023., 2008)。ヒト単球由来樹状細胞(DC)をJ Immunol 183:201-208.,
2009の記載に従って誘導した。ヒトCML細胞株K562、ヒト骨髄性白血病細胞株T
HP-1、およびヒト肺ガン細胞株PC9を商業的に入手可能なものを用いた。HLAク
ラスII遺伝子が形質移入されたマウスL線維芽細胞を使用した(Hum Immunol 59:549-5
60.1998)。健康な成人から単離された細胞を使用するために全てのドナーからインフォ
ームドコンセントを得た。ヘルシンキ宣言に従い、且つ、適切な各施設の倫理委員会の承
認を得て全研究を実施した。
【0066】
HLAクラスII拘束性抗原特異的CD4
+
T細胞クローンに由来するiPSCの作製
Cell Stem Cell 12:114-126.2013の記載に従ってpSeV[KOSM302L](産業
技術総合研究所(AIST)の中西博士より入手)を使用するセンダイウイルスシステム
によるリプログラミング因子の形質導入によってHLA-DR9拘束性b3a2特異的C
D4+Th1クローン(SK)(Ueda N, Cell Mol Immunol.2016)およびHLA-DR5
3拘束性GAD65113~131ペプチド特異的CD4+Thクローン(SA32.5)(Hum
Immunol 59:549-560.1998)をiPSCに再プログラム化した。なお、これらのiPSC
クローンは残留性導入遺伝子に関して陰性であり、免疫不全マウスにおける多能性関連分
子の発現とテラトーマ形成を特徴とする多能性を示し、且つ、正常な核型を有することが
確認された(図は示さず)。
【0067】
iPSCからのT細胞分化
iPSCをCell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013に記載の方法によってT細胞に分化
させた。具体的には、iPSC塊をC3H10T1/2フィーダー細胞上に移し、rh型
VEGFを含むEB(胚様体)培地中で培養した。7日目にrh型SCFとrh型FLT
3Lを添加した。14日目に造血前駆細胞を回収し、OP9-DL1細胞上に移し、rh
型IL-7とrh型FLT3Lが存在するOP9培地中で共培養した。35日目に同種P
BMCを抗原提示細胞(APC)として使用してrh型IL-7(10ng/ml)とrh型I
L-15(10ng/ml)の存在下で、T細胞をPHA-Pによって14日間隔で刺激した。
【0068】
フローサイトメトリーと機能アッセイに使用された抗体
HLA-A*24:02/WT1235~243四量体がWT1ペプチド特異的細胞傷害性T
リンパ球(CTL)の検出のために使用され、HLA-A*24:02/HIVEnv58
4~592四量体が陰性対照として使用された。FACSCaliburフローサイトメータ
ーとFACSAria IIフローサイトメーター(BD Biosciences)を
使用して染色済みの細胞試料を分析し、FlowJoソフトウェアプログラム(Tree
Star、アシュランド、オレゴン州、米国)を使用してデータを処理した。アイソタ
イプ対照の平均蛍光強度(MFI)に対する特定のマーカーのMFIの比率として相対蛍
光強度(RFI)を算出した。
【0069】
形質移入体
HLA-DR9(DRB1*09:01)をコードするcDNAがこれまでに記載され
ている(Ueda N, Cell Mol Immunol.2016)。BCR-ABL p210をコードするc
DNAをAddgene(ケンブリッジ、マサチューセッツ州、米国)から購入した。B
CR-ABL p210、HLA-A24(A*24:02)、HLA-DRA、または
HLA-DR9をコードするcDNA、またはHLA-A24拘束性改変型WT1235~2
43エピトープをコードするミニ遺伝子をレンチウイルスベクターCSII-EF-MCS
(理研バイオリソースセンター、筑波、日本)に挿入した。レンチウイルス形質導入をZh
ang, R., Cancer Immunol Res 2015の記載にしたがって実施した。HLA-A*24:0
2を発現させるためのレンチウイルスベクター、および改変型WT1235~243エピトープ
をコードするミニ遺伝子を発現させるためのレンチウイルスベクターをルシフェラーゼ遺
伝子発現性K562株(K562-Luc)に形質導入した(K562-Luc-A24
-WT1ミニ遺伝子細胞)。HLA-DRA*01:01とHLA-DRB1*09:0
1および/またはBCR-ABL p200を発現させるためのレンチウイルスベクター
をTHP-1株に形質導入した(THP-1-DR9細胞、THP1-DR9-BCRA
BL細胞)。
【0070】
T細胞の機能アッセイ
[3H]-チミジン取込みアッセイによって細胞増殖を評価した。51Cr放出アッセイ
を用いて細胞傷害活性を測定した。培養上清中のサイトカインレベルを酵素結合免疫吸着
アッセイ(ELISA;hIFN-γ:eBiosciences)またはビーズベース
マルチプレックス免疫アッセイ(BDサイトメトリック・ビーズアレイ;BD Bios
ciences)で評価した。
【0071】
T細胞クローンのT細胞抗原受容体(TCR)遺伝子再構成の分析
T細胞またはiPS-T細胞の再構成されたTCR-α鎖とTCR-β鎖のVセグメン
ト、Dセグメント、およびJセグメントをJ Immunol 170:947-960.2003の記載に従って特
定した。使用した遺伝子セグメント命名法はImMunoGeneTics(IMGT)
慣用法に従っている。それらのVセグメント、Dセグメント、およびJセグメントは、得
られた配列をオンラインツール(IMGT/V-QUEST)でIMGTデータベース(
http://www.imgt.org/)に対して比較することにより特定された。
【0072】
リアルタイムPCR
RNeasy Microキット(Qiagen、バレンシア、カリフォルニア州)を
使用してiPSCから全RNAを抽出した。6merのランダムプライマーと共にハイキ
ャパシティーcDNAリバーストランスクリプションキット(Applied Bios
ystems、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)を使用してcDNAを合成
し、続いてExTaq HS(Takara、滋賀、日本)を使用してRT-PCRを行
い、TaqManアレイ・ヒューマンステムセル・プルリポテンシーカード(Appli
ed Biosystems)を使用して定量的PCRを行った。個々のPCR反応を1
8S rRNAに対して標準化した。
【0073】
RNAシーケンシング
IlluminaシーケンシングHV用SMARTerウルトラローインプットRNA
キット(Clontech、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)を使用してc
DNAを合成し、その後でローインプットライブラリー・プレップキット(Clonte
ch)を使用してIlluminaライブラリーを調製した。101サイクル・シングル
リードモードでHiSeq 2500を使用してそれらのライブラリーをシーケンシング
した。CASAVA 1.8.2パイプライン中のBCL2FASTQコンバージョンソ
フトウェア 1.8.4を使用して全ての配列リードをFASTQフォーマットで抽出し
た。2012年12月10日にダウンロードされたhg19基準ゲノムに対してTopH
at v2.0.8bを使用してそれらの配列リードをマップし、RPKMforGen
esを使用してそれらの配列リードを定量した。そのデータはNCBIジーンエクスプレ
ッションオムニバスに預託されている(http://www.ncbi.nlm.ni
h.gov/geo/、受託番号GSE94332)。CD161とc-Kitの発現に
基づいてiPS-T細胞の亜集団を獲得し、それらの亜集団の遺伝子発現プロファイルを
NK細胞、ILC1、ILC2、ILC3、αβ‐T細胞、およびγδ‐T細胞に対して
比較した。NK細胞、ILC1、ILC2、ILC3、αβ‐T細胞、およびγδ‐T細
胞は健康なドナーのPBMCから分離された。パスウェイ解析のために平均発現レベルの
倍率変化を計算することによって差次的に発現する遺伝子を明らかにした(|log2F
C|≧1)。データ解析ソフトRバージョン3.2.2のorg.Hs.eg.db 3
.2.3を使用して超幾何分布検定を実施し、アノテーションパッケージGO.db 3
.2.2と併せてGOstats 2.36.0(ジーンオントロジー解析)を使用し、
およびアノテーションパッケージKEGG.db 3.2.2と併せてKEGGprof
ile 1.12.0(KEGGパスウェイ解析)を使用した。
【0074】
CTL感作アッセイと細胞傷害性アッセイ
b3a2特異的T細胞クローン(SK)の樹立に使用したドナーと同じドナーからCD
8+T細胞およびDCを得た。アロ反応性応答を回避するためにそれらの細胞を使用して
抗原特異的CTLを誘導した。CD8+T細胞単離キット(Miltenyi Biot
ec)を使用することにより負の磁気細胞選別を介してPBMCからCD8+T細胞を単
離した。96ウェル丸底プレート中、b3a2ペプチドの存在、非存在下でDCを3時間
にわたって培養し、その後、元のCD4+Th1クローン(SK)または再分化させたS
Kをその培養物に添加し、5時間にわたって培養した。30Gyでの放射線照射の後にW
T1235~243ペプチドと共にCD8+T細胞を添加した。7日目に1μCiの[3H]-チ
ミジンをそれらの培養物に添加し、16時間の培養の後に[3H]-チミジン取込みアッ
セイを用いることによりCD8+T細胞の増殖応答を評価した。10日目に同じ様に実験
をもう一度実施した。HLA-A*2402/WT1235~243四量体で染色することによ
りWT1ペプチド特異的CTLの頻度を決定した。35Gyの放射線を照射した自家PB
MCの存在下でWT1235~243ペプチドで得られたCD8+T細胞を再刺激した。後にそ
れらの細胞を細胞傷害性アッセイとインビボ実験に使用した。
【0075】
インビボ実験
全てのインビボ動物実験は京都大学の動物実験委員会により承認された。6週齢のメス
のNOD-SCID IL2Rγcnull(NSG)マウスをチャールズリバー(横浜、日
本)から購入し、K562-Luc-A24-WT1ミニ遺伝子細胞(1.0×105細
胞)と生理食塩水またはWT1特異的CTL(1.0×106細胞)のどちらかとの混合
物を毛刈りした左の脛に皮下(s.c.)接種した。腫瘍成長と生存についてそれらのマ
ウスをモニターした。腫瘍成長を4週間にわたって生物発光イメージングにより毎週モニ
ターし、且つ、マウスが死ぬか、または腫瘍の直径が25mmを超えたときに殺処理され
るまで外側キャリパー測定により腫瘍成長を毎週モニターした。
【0076】
インビボ生物発光イメージング
腫瘍担持マウスに2%吸入イソフルラン麻酔下で200μlのD-ルシフェリン(15
mg/ml、VivoGloルシフェリン;Promega、マジソン、ウィスコンシン
州、米国)を注入し、Living Imageソフトウェア 3.2とIVIS Lu
mina II(Xenogen、アラメダ、カリフォルニア州、米国)を使用して生物
発光画像を得た。
【0077】
統計分析
STATAバージョン13.0(StataCorp LP、カレッジステーション、
テキサス州、米国)を全ての統計分析に使用した。複数の実験群を比較するためにボンフ
ェローニのポストホック検定と共に一元配置分散分析を用いて有意性を評価した。2つの
実験群を比較するためには独立t検定(両側型)を用いた。カプランマイヤー生存曲線の
統計分析のためにログランク(マンテル・コックス)検定を用いてP値を算出した。0.
05未満のP値を統計学的に有意と考え、図の中で星印によって示している。
【0078】
結果
CD4
+
Th1クローン由来iPSCから分化したT系列細胞の自然リンパ球(ILC)
様特性
T細胞再生プロトコル(
図1A)を使用してCD4
+Th1クローン(SK)由来iP
SCからCD3
+CD45
+CD5
dim+CD7
+CD8α
dim+CD8β
-の細胞を得た(
図1
B左のパネル)。それらの細胞は細胞処理期間を通してCD4を発現せず、CD56、C
D161、NKG2D、c-Kit、NKp30、NKp44、NKp46、およびDN
AM-1を含む幾つかのILCマーカーを不均一に発現した(
図1B、右のパネル)。そ
れらのILCマーカーの不均一な発現にもかかわらず、それらの細胞は元のCD4
+Th
1クローン(SK)と同じTCRを一様に発現した(
図1C)。CD161とc-Kit
の発現に基づいてiPS-T細胞を4つの亜集団に分け、それらの亜集団の全RNA発現
を末梢血から単離されたNK細胞、タイプ1ILC(ILC1)、タイプ2ILC(IL
C2)、タイプ3ILC(ILC3)、αβ‐T細胞、およびγδ‐T細胞と比較した。
その結果、iPS-T細胞は末梢αβ‐T細胞よりもILC1、NK細胞、およびγδ‐
T細胞と一致する遺伝的特性を有した(図は示さず)。T細胞およびiPS-T細胞にお
けるILC機能に関連する遺伝子の発現はNK細胞またはILC1における発現と同様で
あった(
図1D)。ジーンオントロジー解析とKEGGパスウェイ解析によりiPS-T
細胞、NK細胞、およびILC1における「NK細胞関連細胞傷害性」関連遺伝子の濃縮
が明らかになった(図は示さず)。全ての亜集団のiPS-T細胞がαβ‐T細胞と比較
して、T細胞分化の必須転写因子であるBCL11Bを相対的に低レベルで発現したが、
ILCのための転写因子であるID2とPLZFを相対的に高レベルで発現した(図は示
さず)。各亜集団はタイプ1、タイプ2、およびタイプ3のILCの関連遺伝子の統合的
発現を示した。全ての亜集団が共通してNCAM1、NCR1、NCR2、ICOS、お
よびIL12RBなどのILC1関連遺伝子を発現したが、NK細胞を除く全てのILC
で発現するIL7RAとIL1Rを低レベルで発現した(
図1E)。TCR非依存性NK
細胞様細胞傷害性が細胞傷害性がiPS-T細胞において観察された(図は示さず)。そ
れらのiPS-T細胞は元のCD4
+Th1クローン(SK)と同様に高レベルのIFN
-γを産生し、比較的に低レベルのIL-4を産生し、且つ、IL-17を産生しなかっ
た(
図1F)。さらに、iPS-T細胞は2回のフィトヘマグルチニン(PHA)-P刺
激によって数千倍まで増殖し得る(図は示さず)。これらのデータはCD4
+Th1クロ
ーンから生成されたiPS-T細胞がそれらの細胞のTCR発現にもかかわらずグループ
1ILC様特性を有していることを示唆している。
【0079】
CD4導入はiPSC由来T細胞におけるb3a2特異的応答を拡大する
HLAクラスII/ペプチド複合体によるT細胞活性化の間にHLAクラスIIへのC
D4の結合がTCRシグナル伝達を30~300倍に促進し、このことによってCD4が
Th細胞の完全活性化に重要であると考えられる。我々のiPS-T細胞は元のCD4
+
Th1クローン(SK)のときからHLAクラスII拘束性TCRを発現したので、iP
S-T細胞におけるCD4遺伝子の形質導入によってペプチド刺激によるヘルパーT細胞
応答が増加するという仮説を立てた。それ故、我々はT細胞をPHA刺激して増殖が最大とな
った時点でレトロウイルスベクター pDON-AI2(タカラバイオ)によってCD4遺伝子を
形質導入した(
図2A)。
【0080】
CD4形質導入iPS-T細胞(CD4
+iPS-T細胞)は抗原依存性増殖応答とH
LA-DR9拘束性サイトカイン産生を示した(
図2B~D)。CD4
+iPS-T細胞
のその抗原特異性とHLAクラスII拘束は元のCD4
+Th1クローン(SK)と一致
した(図は示さず)。対照的に、CD4が形質導入されていないiPS-T細胞(モック
iPS-T細胞)は増殖とIFN-γ産生の減少を示した(
図2B、C)。CD4導入の
効果はHLA-DR53拘束性GAD65
113~
131ペプチド特異的CD4
+Thクローン
(SA32.5)に由来するiPS-T細胞においても確認された(図は示さず)。次に
b3a2ペプチドまたはベヒクルが負荷されたTHP-1-DR9細胞で刺激されたモッ
クiPS-T細胞とCD4
+iPS-T細胞の全遺伝子発現プロファイルを分析した。b
3a2ペプチドによって刺激されたCD4
+iPS-T細胞の遺伝子発現プロファイルが
、b3a2ペプチドによって刺激されておらず、且つ/またはCD4が形質導入されてい
ない細胞の遺伝子発現プロファイルと区別された(
図2E)。b3a2刺激モックiPS
-T細胞と比較してb3a2刺激CD4
+iPS-T細胞において細胞増殖のカテゴリー
が著しく発現上昇することがジーンオントロジー解析により明らかになった(図は示さず
)。これらのデータは、b3a2ペプチド特異的応答およびHLAクラスII拘束性応答
を発現する拡大された能力がCD4遺伝子導入によってiPS-T細胞に与えられること
を示している。
【0081】
効率的にTヘルパー(Th)機能を発揮するCD40L
high
集団の特定
活性化CD4
+Th細胞上でのCD40L発現はDCの成熟に重要であり、成熟したD
Cは抗原特異的CD8
+T細胞の効果的な活性化と生存度の上昇のための共刺激シグナル
を提供する。我々はリガンド(IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、
IL-21)特異的受容体とペアになるIL-2受容体サブユニットγ(共通γ鎖)で刺
激されることによりiPS-T細胞がCD40Lを発現する可能性があるという仮説を立
て、共通γ鎖サイトカインの幾つかの組合せでiPS-T細胞を培養した結果、IL-2
(添加濃度100 IU/ml)とIL-15(添加濃度5ng/ml)の条件がCD40L発現を増加
させることを発見した(
図3A、B)。
【0082】
IL-2/15誘導性のCD40L
high集団とCD40L
low集団を分離し、フィトヘ
マグルチニン(PHA)-P刺激によって増殖させた。モックiPS-T細胞とCD4
+
iPS-T細胞に由来するCD40L
high集団とCD40L
low集団の各々がIL-2と
IL-15の存在下でTCR-Vb22を発現し、且つ、それらの集団のCD40L発現
レベルを維持した(
図3C、D)。抗CD3抗体で刺激されるとCD40L
highiPS-
T細胞だけがCD40Lの発現を上昇させた(
図3E、F)。CD40L
highCD4
+i
PS-T細胞はCD40L
lowCD4
+iPS-T細胞が産生するレベルよりも高いレベル
のIFN-γとTNF-αを産生したが、それらの2集団のIL-2、IL-4、IL-
6、IL-10、およびIL-17産生は低レベルであった(
図3G)。
【0083】
b3a2ペプチド負荷DCで刺激されるとIFN-γとTNF-αの産生がCD4とC
D40Lの共発現によって相乗的に増加し、追加的なTh1に偏ったサイトカインプロフ
ァイルが示された(図は示さず)。さらに、BCR-ABL p210タンパク質を発現
するTHP-1-DR9細胞とCD40L
highCD4
+iPS-T細胞を共培養すると、
それらのiPS-T細胞はIFN-γとTNF-αを産生し、自然界でプロセッシングを
受けたBCR-ABL p210エピトープに応答するそれらの細胞の能力が示唆された
(
図3H、I)。また、CD40L
highCD4
+iPS-T細胞はCD3発現、CD5
dim
発現、CD7発現、およびCD8α発現に影響せずに反復性の刺激に対して増殖する能力
を有している(図は示さず)。CD40L発現に関連する同様の発見がHLA-DR53
拘束性GAD65
113~
131ペプチド特異的CD4
+Thクローン(SA32.5)に由来
するiPS-T細胞においても得られた(図は示さず)。まとめると、TCR刺激によっ
てCD40L発現を増加させることが可能であり、且つ、抗原ペプチド刺激に応答する優
れた能力を有するCD4
+iPS-T細胞集団が特定された。
【0084】
次にDC成熟を誘導するCD4
+iPS-T細胞の細胞性アジュバント機能を分析した
。b3a2ペプチドで予備パルス処理された未成熟DCとCD40L
highCD4
+iPS
-T細胞を共培養すると、このiPS-T細胞はOK432誘導性成熟と同等の完全成熟
をDCに誘導した(
図4A)。対照的に、CD40L
lowCD4
+iPS-T細胞によるD
C成熟は機能しなかった(
図4A)。さらに、CD40L
lowモックiPS-T細胞は、
おそらくはCD4の不在に起因するHLAクラスII/ペプチド複合体認識不全によって
DC成熟の誘導に失敗した(
図4A)。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞は、NK
細胞、Th細胞、およびCTLの活性化と遊走にとって重要な可溶性因子であるIL-1
2p70、CXCL9、およびCXCL11の産生も増加させた(
図4B)。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞はDC成熟の誘導に優れた能力を有することがこれらのデー
タによって示されている。
【0085】
CD40L
high
CD4
+
のiPSC由来T細胞はTCR非依存性細胞傷害性を減少させた
CD4
+Th1クローン(SK)由来iPS-T細胞は抗原非依存性細胞傷害性をTH
P-1株に対して示した(
図5A)。THP-1株に対するその細胞傷害性はパーフォリ
ンとDNAM-1に部分的に依存した(
図5B、5C)。IL-2/IL-15によって
順化されたCD40L
highCD4
+iPS-T細胞はCD40L
lowCD4
+iPS-T細
胞と比較して低下したDNAM-1とNKG2Dの発現を示した(
図5D)。そのDNA
M-1とNKG2Dの発現低下と一致して、CD40L
highCD4
+iPS-T細胞はT
HP-1-DR9細胞に対してb3a2特異的細胞傷害性を維持する一方でNK細胞様細
胞傷害性を低下させた(
図5E)。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞はDNAM-
1発現を減少させることにより抗原非依存性細胞傷害性を低下させたことがこれらのデー
タによって示されている。
【0086】
CD40L
high
CD4
+
のiPSC由来T細胞は白血病抗原特異的CTLの一次増殖を効
率的に誘導する
CD4
+Th細胞はDC活性化を介したHLAクラスI拘束性CD8
+CTLの感作を支
援する。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞が白血病抗原特異的CTL応答を誘導す
る能力を有するかを決定するため、溶媒のみまたはb3a2ペプチドが負荷されたDCを
CD40L
highCD4
+iPS-T細胞と共に培養し、これらの順化されたDCにWT1
2
35~
243ペプチドを負荷し、放射線照射し、その後でCD8
+T細胞と共に培養した(
図6
A)。7日間の培養の後にCD8
+T細胞の増殖を評価した。CD40L
highCD4
+iP
S-T細胞/b3a2ペプチド順化DC共培養物がAPCとして使用されたとき、WT1
235~
243ペプチドで刺激されると顕著に向上したCD8
+T細胞の増殖が観察された(図
6B)。対照的に、CD40L
lowCD4
+iPS-T細胞/b3a2順化DC共培養物も
CD40L
lowモックiPS-T細胞/b3a2順化DC共培養物もCD8
+T細胞の増殖
を誘導しなかった(
図6C、D)。CD40L
highCD4
+iPS-T細胞/b3a2ペ
プチド順化DC共培養物によって刺激されたそれらのCTLはWT1四量体陽性T細胞を
高頻度で含んでいた(
図6E)。WT1ペプチド特異的CTLが3回のWT1ペプチドに
よる反復刺激によってさらに増殖した(
図6F)。それらの増殖したWT1特異的CTL
は細胞傷害活性をWT1ペプチド負荷HLA-A24発現性K562細胞に対して示した
が、溶媒のみ負荷細胞に対しては示さなかった(
図6G)。これらのデータは細胞性アジ
ュバント特性を発揮するCD40L
highCD4
+iPS-T細胞のb3a2ペプチドによ
る活性化によってDC活性化を介して白血病抗原特異的CTL応答を増加させることがで
きることを示しており、このことは元のCD4
+Th1クローン(SK)のTヘルパー機
能と一致する(図は示さず)。
【0087】
CD40L
high
CD4
+
のiPSC由来T細胞とDCの相互作用によって刺激されたWT
1特異的CTLは抗白血病作用をインビボで発揮する
感作済みのWT1ペプチド特異的CTLが抗白血病作用をインビボで発揮するか調べる
ため、WT1ペプチド特異的CTLを伴って、または伴わずにWT1エピトープ発現性K
562細胞をNSGマウスに皮下注入した。腫瘍成長を生物発光イメージングと外側キャ
リパー測定によって毎週モニターした。WT1ペプチド特異的CTLの存在下では腫瘍成
長が著しく抑制され(
図7A、B)、マウスの生存が著しく延長した(
図7C)。CD4
0L
highCD4
+iPS-T細胞とDCの相互作用によって刺激された白血病抗原特異的
CTLは効果的な抗白血病作用を発揮することができる。
多能性幹細胞から誘導されたヘルパーT細胞であって、CD4陽性かつCD40L高発現T細胞を含むヘルパーT細胞、樹状細胞、抗原および細胞傷害性T細胞を含む、医薬。