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特開2022-191532URLC10由来ペプチドを認識するヒトT細胞が発現するT細胞受容体
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  • 特開-URLC10由来ペプチドを認識するヒトT細胞が発現するT細胞受容体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191532
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】URLC10由来ペプチドを認識するヒトT細胞が発現するT細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221221BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 5/16 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20221221BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20221221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20221221BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20221221BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20221221BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/16
C12N5/0783
A61K48/00
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61K35/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019172706
(22)【出願日】2019-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】502240113
【氏名又は名称】オンコセラピー・サイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】朴 在賢
(72)【発明者】
【氏名】山下 祥子
(72)【発明者】
【氏名】引地 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】井手 陳之
(72)【発明者】
【氏名】柳樂 盛男
(72)【発明者】
【氏名】土肥 啓司
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065BB19
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA20
4C084ZB26
4C087AA10
4C087BB63
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA20
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、URLC10特異的なHLA-A24拘束性の細胞傷害活性を有するT細胞受容体(TCR)を提供することである。
【解決手段】本発明によって、URLC10特異的なHLA-A24拘束性の細胞傷害活性を有するT細胞受容体(TCR)が提供された。本発明のTCRをT細胞に導入することによって、がんの治療に有用な細胞傷害性T細胞(CTL)を作製することができる。あるいは、本発明のTCRは、URLC10のペプチドワクチンを接種した対象の免疫応答のモニタリングに利用することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1-2、5-8、14および16からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含むT細胞受容体α鎖。
【請求項2】
CASS-[X]n-F(Xは任意のアミノ酸でnが6-8/配列番号:38)を含む11-13アミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含むT細胞受容体β鎖。
【請求項3】
配列番号:3-4、9-13、および15からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含むT細胞受容体β鎖。
【請求項4】
請求項1に記載のいずれかのT細胞受容体α鎖と、請求項2または3に記載のいずれかのT細胞受容体β鎖の組み合わせからなるT細胞受容体。
【請求項5】
T細胞受容体α鎖とT細胞受容体β鎖のCDR3のアミノ酸配列が、以下のいずれかの組み合わせである請求項4に記載のT細胞受容体:
T細胞受容体α鎖のCDR3 T細胞受容体β鎖のCDR3
配列番号:1 配列番号:3、
配列番号:2 配列番号:3、
配列番号:14 配列番号:15、および
配列番号:16 配列番号:10。
【請求項6】
請求項1に記載のいずれかのT細胞受容体α鎖および、請求項3に記載のいずれかのT細胞受容体β鎖のいずれかをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項8】
T細胞受容体α鎖をコードするポリヌクレオチドと、T細胞受容体β鎖をコードするポリヌクレオチドの両方を含む請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項9】
T細胞受容体α鎖とT細胞受容体β鎖のCDR3のアミノ酸配列が、以下のいずれかの組み合わせである請求項8に記載の発現ベクター:
T細胞受容体α鎖のCDR3 T細胞受容体β鎖のCDR3
配列番号:1 配列番号:3、
配列番号:2 配列番号:3、
配列番号:14 配列番号:15、および
配列番号:16 配列番号:10。
【請求項10】
請求項8または9に記載の発現ベクターからなる、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞を誘導するための発現ベクター。
【請求項11】
請求項8~10いずれかに記載の発現ベクターを含む、細胞傷害性T細胞の誘導用組成物。
【請求項12】
がんの治療を必要とする対象から採取されたCD8+T細胞に請求項8~10いずれかに記載の発現ベクターを導入し、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞を回収する工程を含む、細胞傷害性T細胞の製造方法。
【請求項13】
請求項8~10いずれかに記載の発現ベクターで形質転換されたURLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞。
【請求項14】
URLC10の細胞傷害性T細胞の誘導処置を受けた対象から採取された末梢血リンパ球のT細胞受容体のCDR3のアミノ酸配列を決定する工程を含む、URLC10に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害性T細胞の誘導をモニタリングする方法であって、CDR3のアミノ酸配列が配列番号:1-16からなる群から選択される少なくとも一つのアミノ酸配列である方法。
【請求項15】
CDR3のアミノ酸配列のレパトア解析によって、CDR3のアミノ酸配列の検出頻度を決定する工程を含む請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関する。特に本発明は、がん細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に提示されるがん抗原由来ペプチドを認識するT細胞受容体(TCR)のアミノ酸配列および該TCRを利用したTCR遺伝子導入T細胞療法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する三大療法とは手術療法、放射線療法および化学療法であるが、近年、第四の治療法として免疫療法が注目されている。その代表例である免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体あるいは抗CTLA-4抗体)は、悪性黒色腫をはじめ非小細胞肺がんやホジキンリンパ腫等様々ながんに対する新しい治療薬として承認されている。しかしながら、その奏効率は20~30%程度と決して高くはない。そこで、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果が認められない多くの患者に対するさらなる免疫療法の開発が望まれる。
【0003】
がんに対する新たな免疫療法の一つとして、TCR遺伝子導入T細胞療法が挙げられる。これまでに、がん抗原NY-ESO-1を標的としたTCR遺伝子導入T細胞療法の多発性骨髄腫に対する治療効果が報告されている(非特許文献1)。しかし、TCR遺伝子導入T細胞投与の結果、T細胞がTCRを通じて正常細胞のMHCクラスI分子上に提示されたペプチドを認識したことが原因と考えられる重篤な有害事象が発生した例も報告されている(非特許文献2;非特許文献3)。がんにおいて発現の亢進が認められる一方で正常組織ではほとんど発現が認められない抗原を標的とし、その抗原に由来するペプチドを認識するTCRを同定すれば、重篤な有害事象を引き起こさないTCR遺伝子導入T細胞療法を開発することが可能になると期待される。
【0004】
URLC10(Up-regulated in lung cancer 10, 別名:lymphocyte antigen 6 complex, locus K (LY6K), GenBankアクセッション番号:NM_017527、またはアクセッション番号:BC117142)は、27,648遺伝子を対象としたcDNAマイクロアレイによるゲノムワイドな遺伝子発現プロファイルの結果から、非小細胞肺がんや食道扁平上皮がんにおいて発現が亢進している遺伝子として報告されている(非特許文献4)。非小細胞肺がん患者の88.2%(406症例中358症例)および食道がん患者の95.1%(265症例中252症例)において、がん組織でのURLC10の発現が認められた。一方、URLC10の発現が認められた正常臓器は精巣のみであった。つまりURLC10のような、がん細胞に特異的な分子は、治療標的に好適である。このような背景の下、URLC10特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導するペプチドが同定された(特許文献1)。同定されたURLC10ペプチドは、URLC10を標的とするがんワクチン療法に有用である。URLC10ペプチドは、細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導によって抗腫瘍効果をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2006/090810
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rapoport AP et al., Nat Med 2015, 21(8):914-21
【非特許文献2】Morgan RA et al., J Immunother 2013, 36(2):133-51
【非特許文献3】Linette GP et al., Blood 2013, 122(6):863-71
【非特許文献4】Ishikawa N et al., Cancer Res 2007, 67(24):11601-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、URLC10特異的な細胞傷害作用を付与することができる、TCRの同定を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
URLC10は、そのがん特異的な高発現のために、がんの免疫療法のための標的抗原として優れた特性を備える。実際、この分子からCTL誘導性ペプチドとして同定されたURLC10ペプチドは、CTLの誘導を介するがん免疫療法を可能とすることが明らかにされている。本発明者らは、これらペプチドによって誘導されたCTLが有するTCRを単離することができれば、ペプチドによるCTLの誘導に代わる、TCR遺伝子導入T細胞療法を実現することができると考えた。そして、実際に、URLC10特異的な細胞傷害作用を有するTCRの同定に成功し本発明に至った。すなわち本発明は、以下の各態様に関する。
〔1〕配列番号:1-2、5-8、14および16からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含むT細胞受容体α鎖。
〔2〕CASS-[X]n-F(Xは任意のアミノ酸でnが6-8/配列番号:38)を含む11-13アミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含むT細胞受容体β鎖。
〔3〕配列番号:3-4、9-13、および15からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるCDR3、またはそれと機能的に等価なCDR3を含む〔2〕に記載のT細胞受容体β鎖。
〔4〕〔1〕に記載のいずれかのT細胞受容体α鎖と、〔2〕または〔3〕に記載のいずれかのT細胞受容体β鎖の組み合わせからなるT細胞受容体。
〔5〕T細胞受容体α鎖とT細胞受容体β鎖のCDR3のアミノ酸配列が、以下のいずれかの組み合わせである〔4〕に記載のT細胞受容体:
T細胞受容体α鎖のCDR3 T細胞受容体β鎖のCDR3
配列番号:1 配列番号:3、
配列番号:2 配列番号:3、
配列番号:14 配列番号:15、および
配列番号:16 配列番号:10。
〔6〕〔1〕に記載のいずれかのT細胞受容体α鎖および、〔2〕または〔3〕に記載のいずれかのT細胞受容体β鎖のいずれかをコードするポリヌクレオチド。
〔7〕〔6〕に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔8〕T細胞受容体α鎖をコードするポリヌクレオチドと、T細胞受容体β鎖をコードするポリヌクレオチドの両方を含む〔7〕に記載の発現ベクター。
〔9〕T細胞受容体α鎖とT細胞受容体β鎖のCDR3のアミノ酸配列が、以下のいずれかの組み合わせである〔8〕に記載の発現ベクター:
T細胞受容体α鎖のCDR3 T細胞受容体β鎖のCDR3
配列番号:1 配列番号:3、
配列番号:2 配列番号:3、
配列番号:14 配列番号:15、および
配列番号:16 配列番号:10。
〔10〕〔8〕または〔9〕に記載の発現ベクターからなる、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞を誘導するための発現ベクター。
〔11〕〔8〕~〔10〕いずれかに記載の発現ベクターを含む、細胞傷害性T細胞の誘導用組成物。
〔12〕がんの治療を必要とする対象から採取されたCD8+(CD8陽性)T細胞に〔8〕~〔10〕いずれかに記載の発現ベクターを導入し、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞を回収する工程を含む、細胞傷害性T細胞の製造方法。
〔13〕〔8〕~〔10〕いずれかに記載の発現ベクターで形質転換されたURLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞。
〔14〕URLC10の細胞傷害性T細胞の誘導処置を受けた対象から採取された末梢血リンパ球のT細胞受容体のCDR3のアミノ酸配列を決定する工程を含む、URLC10に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害性T細胞の誘導をモニタリングする方法であって、CDR3のアミノ酸配列が配列番号:1-16からなる群から選択される少なくとも一つのアミノ酸配列である方法。
〔15〕CDR3のアミノ酸配列のレパトア解析によって、CDR3のアミノ酸配列の検出頻度を決定する工程を含む〔14〕に記載の方法。
【0009】
あるいは本発明は、本発明のT細胞受容体α鎖および、T細胞受容体β鎖のいずれかをコードするポリヌクレオチドの、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞の製造における使用に関する。加えて本発明は、本発明のT細胞受容体α鎖および、T細胞受容体β鎖のいずれかをコードするポリヌクレオチドの、URLC10発現細胞に対するHLA-A24拘束性の細胞傷害作用を有する細胞傷害性T細胞誘導用組成物の製造における使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のTCRは、URLC10に特異的な細胞傷害作用を持つと考えられるT細胞から取得された。したがって、本発明のTCRをT細胞に導入することによって、URLC10に特異的な細胞傷害作用を付与することができる。URLC10は、がんに特異的に過剰発現している腫瘍抗原であることから、本発明のTCRを導入したT細胞には、がん特異的な細胞傷害作用を期待できる。
【0011】
あるいは、本発明のTCRは、URLC10に特異的な細胞傷害作用を持つT細胞の指標となる。すなわち、URLC10のワクチンを投与された対象において、本発明のTCRの頻度を解析し、その割合が高まる場合に、有効なT細胞がワクチンの接種によって誘導されていることを知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、培養(インビトロ刺激)後のPBMCについて実施したテトラマーアッセイの結果(a)および(b)で構成される。HLA-A*24:02上に提示されたURLC10由来ペプチドを認識するURLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞集団が検出された。URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞集団は、フローサイトメーターのソーティング機能を利用して回収されたのち、TCRレパトア解析用検体として用いられた。
【0013】
図2図2は、URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞集団のTCRレパトア解析の結果を示すパイチャート(a)および(b)で構成される。パイチャートは、TCRレパトア解析によって検出されたTCRクロノタイプの検出頻度を表している。パイチャートにおける専有面積が広ければ、高頻度で検出されたことを意味する。検出頻度が1%以上のTCRクロノタイプをURLC10由来ペプチドを認識するTCRとして同定した。検出頻度が1%未満のTCRクロノタイプはまとめて同一色で示した(図中*)。
【0014】
図3図3は、培養(インビトロ刺激)後のPBMCから限界希釈法によって樹立されたCTLクローンのIFN-γ産生を示す折れ線グラフ(a)-(c)で構成される。URLC10由来ペプチドをパルスした標的細胞に対するCTLクローンのIFN-γ産生が認められた一方で、ペプチドをパルスしていない標的細胞に対するCTLクローンの有意なIFN-γ産生は認められなかった。このことから、CTLクローンがHLA-A*24:02上に提示されたURLC10由来ペプチドを認識したことが確認された。R/S比は、応答細胞(Responder cells)であるCTLクローンの細胞数とそれを刺激する標的細胞(Stimulator cells)の細胞数の比を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という単語は、他に特記されない限り「少なくとも1つの」を意味する。
物質(例えば、ペプチド、抗体、ポリヌクレオチド等)に関して用いる「単離された」および「精製された」という用語は、該物質がそうでなければ天然源中に含まれ得る少なくとも1種の物質を実質的に含まないことを示す。したがって、単離または精製されたペプチドは、そのペプチドが由来する細胞もしくは組織源からの他の細胞材料、例えば糖質、脂質、および他の混入タンパク質を実質的に含まないペプチドを指す。またはペプチドが化学合成される場合には、単離または精製されたペプチドは前駆体物質もしくは他の化学物質を実質的に含まないペプチドを指す。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、それが単離された細胞または組換え産生された細胞の細胞成分から、ペプチドが分離されたペプチドの調整物を含む。したがって、細胞材料を実質的に含まないペプチドは、約30%、20%、10%、または5%、3%、2%または1%(乾燥重量ベース)未満の他の細胞材料を含有する、ペプチドの調製物を包含する。ペプチドを組換え産生する場合、単離または精製されたペプチドは、培養培地も実質的に含まず、培養培地を実質的に含まないペプチドは、培養培地をペプチド調製物の容量の約20%、10%、または5%、3%、2%または1%(乾燥重量ベース)未満で含有する、ペプチドの調製物を包含する。ペプチドを化学合成によって生成する場合、単離または精製されたペプチドは、前駆体物質および他の化学物質を実質的に含まず、前駆体物質および他の化学物質を実質的に含まないペプチドは、前駆体物質および他の化学物質をペプチド調製物の容量の約30%、20%、10%、5%、3%、2%または1%(乾燥重量ベース)未満で含有する、ペプチドの調製物を包含する。特定のペプチド調製物が単離または精製されたペプチドであることは、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色等の後の単一バンドの出現によって確認することができる。好ましい態様では、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは単離または精製されている。
【0016】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、天然型アミノ酸ポリマーのほか、1個もしくは複数個の非天然型アミノ酸残基を含む非天然型アミノ酸ポリマーにも適用される。非天然型アミノ酸には、アミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体などが含まれる。
【0017】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンなど)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシドおよびメチオニンメチルスルホニウムなど)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、アミノ酸と同様の機能を有する化合物を指す。アミノ酸はL-アミノ酸またはD-アミノ酸のいずれであってもよいが、本発明のペプチドは、L-アミノ酸のポリマーであることが好ましい。
【0018】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、ヌクレオチドのポリマーを指す。
【0019】
本明細書で使用する「組成物」という用語は、特定量の特定成分を含む生成物、および特定量の特定成分の組み合わせから直接または間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図される。組成物が薬学的組成物である場合には、組成物という用語は、有効成分および不活性成分とを含む生成物、ならびに任意の2つもしくはそれ以上の成分の組み合わせ、複合体形成、もしくは凝集から、1つもしくは複数の成分の解離から、または1つもしくは複数の成分の他の種類の反応もしくは相互作用から直接または間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図される。したがって、本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物または細胞と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合することにより作製される任意の組成物を包含する。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」または「生理学的に許容される担体」という語句は、液体もしくは固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒および封入材料を含むがこれらに限定されない、薬学的または生理学的に許容される材料、組成物、物質、または媒体を意味する。
【0020】
特記しない限り、「がん」という用語は、URLC10遺伝子を過剰発現するがんを指す。URLC10遺伝子を過剰発現するがんの例としては、膀胱がん、子宮頸がん、胆管細胞がん、食道がん、胃がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、骨肉腫、膵がん、軟部組織腫瘍、および頭頸部悪性腫瘍(HNMT)などが含まれるが、これらに限定されない。また、例示的な態様において、「がん」は、URLC10とHLA-A24を発現するがんである。
【0021】
特記しない限り、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、特に別段の定めのない限り、非自己細胞(例えば、腫瘍/がん細胞、ウイルス感染細胞)を認識し、そのような細胞の死滅を誘導することができるTリンパ球の亜群を指す。
【0022】
特記しない限り、「HLA-A24」という用語は、HLA-A*24:01、HLA-A*24:02などのサブタイプを含むHLA-A24型を指す。
【0023】
対象または患者との関連において、本明細書で使用される「対象の(または患者の)HLA抗原はHLA-A24である」という表現は、対象または患者がMHC(主要組織適合複合体)クラスI分子としてのHLA-A24抗原遺伝子をホモ接合的またはヘテロ接合的に保有し、かつHLA-A24抗原が対象または患者の細胞においてHLA抗原として発現されることを指す。
【0024】
本発明の方法および組成物ががんの「治療」との関連において有用である限り、治療が臨床的利点、例えば対象におけるがんの大きさ、広がり、もしくは転移能の減少、がんの進行遅延、がんの臨床症状の緩和、生存期間の延長、術後再発の抑制等をもたらす場合に、治療は「有効である」とみなされる。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療によって、がんの形成が遅延されるもしくは妨げられるか、またはがんの臨床症状が妨げられるもしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍の種類を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定される。
【0025】
本発明の方法および組成物ががんの「予防」との関連において有用である限り、「予防」という用語は本明細書において、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の働きを含む。予防は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベル」で行われ得る。第一次の予防は疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防は、疾患の進行および症状の出現を予防することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした働きを包含する。あるいは、予防は、特定の障害の重症度を緩和すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0026】
本発明との関連において、がんの治療、がんの予防、または術後のがんの再発の予防は、それぞれが、がん細胞の増殖阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍退縮、ならびに転移の低減または阻害、がんの術後の再発抑制、および生存期間の延長などから選択される事象のいずれか、または複数を含む。がんの効果的な治療および予防のいずれか、または両方は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を緩和する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療および予防のいずれか、または両方を構成し、10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減もしくは症状が安定した状態を含む。
【0027】
本発明との関連において、「抗体」という用語は、指定のタンパク質またはそのペプチドと特異的に反応する免疫グロブリンおよびその断片を指す。抗体には、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合させた抗体、および抗体断片が含まれ得る。さらに、本明細書において「抗体」は広義で使用され、具体的にはインタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、2以上のインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含し、また所望の生物活性を示す限り、抗体断片を包含する。「抗体」は、いずれのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)の抗体であってもよい。
【0028】
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されている用語と同じ意味を有する。
【0029】
II.T細胞受容体
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成することができる1つまたは複数のポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する組成物、およびこれを使用する方法を提供する。そのようなTCRサブユニットは、URLC10ペプチドを提示するAPCに対するURLC10に対する特異性をCD8+T細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野において公知の方法を用いることにより、URLC10ペプチドによって誘導されるT細胞のTCRサブユニットとしてα鎖およびβ鎖の核酸を同定することができる(国際公開第2007/032255およびMorgan et al., J Immunol 2003, 171: 3288)。誘導体TCRは、URLC10ペプチドを提示するAPCに高い結合力で結合することができ、場合により効果的にサイトカインを媒介することができる。
【0030】
TCRサブユニットをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド(すなわち両方のTCRサブユニットをコードする単一ポリヌクレオチドまたは各々が別々のTCRサブユニットをコードする複数のポリヌクレオチド)を適切なベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み込むことができる。これらのベクターは当技術分野において周知である。ポリヌクレオチドまたはそれらを含むベクターは、CD8+T細胞、例えば患者由来のCD8+T細胞に有用に移入することができる。好都合には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の対象のT細胞)の速やかな改変を可能にし、優れたがん細胞殺傷特性を有する改変されたT細胞を迅速かつ容易に生産する、すぐに入手可能な組成物を提供する。
【0031】
例えば、HLA-A24拘束様式でURLC10ペプチド(RYCNLEGPPI/配列番号:36)によって刺激されたT細胞においては、それぞれ配列番号:1-2、5-8、14、および16のアミノ酸配列からなるCDR3を各々が有するTCR-αサブユニットが検出された。同様にHLA-A24拘束様式でURLC10ペプチド(RYCNLEGPPI/配列番号:36)によって刺激されたT細胞においては、例えば、それぞれ配列番号:3-4、9-13および15のアミノ酸配列からなるCDR3を各々が有するTCR-βサブユニットが検出された。
それゆえ、それらをコードするポリヌクレオチドは、本発明の細胞傷害性T細胞誘導に好ましい可能性がある。同様に、それぞれこれら配列番号のアミノ酸配列からなるCDR3を各々が有するαサブユニットとβサブユニットとの間で形成されるTCRを発現するT細胞もまた、本発明の好ましい態様である。一般に、TCRの抗原特異性は、主にそれらのCDR3に依存している。したがって、αサブユニットおよびβサブユニットのCDR3をそれぞれ、上記の配列番号で置き換えることによって、公知のTCRからURLC10特異的TCRを再構築することもできる。別のサブユニットから移植されたCDR3を有するそのようなTCRは、キメラTCRと称され得る。特異的なCDRを移植するための方法は、当技術分野において周知である。
【0032】
本発明はさらに、両方のTCRサブユニットをコードするポリヌクレオチドまたはTCRサブユニットの各々をコードするポリヌクレオチドでの形質導入によって調製される細胞傷害T細胞を提供し、ここで、TCRサブユニットはURLC10ペプチドにHLA-A24拘束様式で結合することができる。形質導入されたT細胞は、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、インビトロで周知の培養方法によって増殖させることができる(例えばKawakami et al., J Immuno, 1989, 142; 3452-61)。上述したように調製したT細胞は、治療または予防を必要とする患者においてがんを治療するまたは予防する上で有用な免疫原性組成物を形成するために使用できる。
【0033】
一般的に、あるポリペプチド中の1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸の改変は該ポリペプチドの機能に影響を及ぼさず、場合によっては元のポリペプチドの所望の機能を増強することさえある。実際に、改変ポリペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個、または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、挿入および付加からなる群から選択される少なくとも一つの改変を含む)アミノ酸配列から構成されるポリペプチド)は、元のポリペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、一態様において、本発明のCDR3は、前記配列番号の中より選択されるアミノ酸配列に対して1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および付加からなる群から選択される改変を含むアミノ酸配列を有するCDR3であって、かつTCRにURLC10ペプチドに対するHLA-A24拘束性の結合特異性を付与するCDR3であり得る。本発明において、前記配列番号によって特定されるアミノ酸配列を改変することによって導かれ、かつ元のアミノ酸配列からなるCDR3と同様に、TCRにURLC10ペプチドに対するHLA-A24拘束性の結合特異性を付与するCDR3を、機能的に等価なCDR3という。
【0034】
当業者は、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向がある、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の置換を認識することができる。したがって、それらはしばしば「保存的置換」または「保存的改変」と称され、「保存的置換」または「保存的改変」によるタンパク質の改変は、元のタンパク質と類似の機能を有する改変タンパク質を生じ得る。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。機能的に類似しているアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められているアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins 1984を参照されたい)。
【0035】
このような保存的改変を含むCDR3もまた、本発明のCDR3に包含される。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、改変CDR3が元のCDR3の機能を保持する限り、非保存的な改変を含み得る。
【0036】
本発明において、元のCDR3が由来するTCRと同様の抗原認識特異性が、それを移植したTCRに付与されたとき、改変CDR3においてCDR3の元の機能が保持されたことを意味する。そのような特異的認識は任意の公知の方法によって確認することができ、好ましい方法には、例えば、HLA分子とTCRを取得した対象に投与されたペプチドを用いるテトラマーアッセイ(例えば、Altman et al. Science. 1996, 274, 94-6 ;McMichael et al. J Exp Med. 1998, 187, 1367-71)、ならびにELISPOTアッセイが含まれる。ELISPOTアッセイを行うことにより、細胞表面上にTCRを発現しているT細胞がTCRによって細胞を認識すること、およびシグナルが細胞内で伝達され、次にIFN-γなどのサイトカインがT細胞から放出されることを確認することができる。当技術分野で周知の方法を用いて、標的細胞に対するT細胞の細胞傷害活性を調べることができる。好ましい方法には、例えば、URLC10を発現するHLA陽性細胞を標的細胞として用いるクロム放出アッセイが含まれる。
【0037】
cDNA マイクロアレイ技術の最近の発展により、正常細胞と比べた、がん細胞における遺伝子発現の包括的プロファイルの作成が可能になった(Okabe, H. et al., Cancer Res., 2001, 61, 2129-37;Lin YM. et al., Oncogene, 2002, 21;4120-8;Hasegawa S. et al., Cancer Res 2002, 62:7012-7)。このアプローチにより、がん細胞の複雑な性質および発癌のメカニズムをより完全に理解することが可能になり、かつ、腫瘍において発現が亢進している遺伝子の同定が容易になる(Bienz M. et al., Cell 2000, 103, 311-20)。がんにおいて発現の亢進が認められた転写物のうちでは、URLC10(GenBankアクセッション番号:NM_017527、またはアクセッション番号:BC117142)が近年発見された。参考文献の内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0038】
URLC10遺伝子は、別名LY6K遺伝子とも呼ばれている。LY6K遺伝子は、膀胱がん、子宮頸がん、胆管細胞がん、食道がん、胃がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、骨肉腫、膵がん、軟部組織腫瘍、および頭頸部悪性腫瘍(HNMT)を含む多くの癌腫において発現の亢進が認められているので、本発明は、リンパ球抗原6複合体、K遺伝子座(lymphocyte antigen 6 complex)(LY6K)遺伝子の遺伝子産物、より詳細にはGenBankアクセッション番号NM_017527の遺伝子によってコードされるポリペプチドをさらなる分析のための標的とする。
【0039】
本発明は、URLC10由来ペプチドを認識するT細胞が発現するTCRに関する。TCRはα鎖およびβ鎖の二量体からなるタンパク分子である。ヒトT細胞はTCRを通じてMHCクラスI(別名:HLA, Human Leukocyte Antigen)分子上に提示されたペプチドを認識する。その結果、T細胞の増殖、分化、サイトカインの産生あるいは細胞傷害性物質(パーフォリンやグランザイム)の分泌等が誘導される。
TCR-α遺伝子とはVα遺伝子、Jα遺伝子およびCα遺伝子を含む。TCR-β遺伝子とはVβ遺伝子、Dβ遺伝子、Jβ遺伝子およびCβ遺伝子を含む。TCRのペプチドに対する特異性を決定する領域は相補性決定領域(CDR, Complementarity Determining Region)と呼ばれており、CDR1、CDR2およびCDR3が存在する。なかでもCDR3はペプチドと直接接触することから、そのアミノ酸配列はTCRの抗原認識特異性決定の上で非常に重要である。TCR-α鎖においてはV-J間、TCR-β鎖においてはV-DおよびD-J間がCDR3にあたり、塩基の挿入や欠失により多様性が生じる。
T細胞療法を目的として、がん細胞のHLA分子上に提示されたペプチドを認識し、細胞傷害性物質を分泌するようなT細胞を遺伝子改変によって調製する場合、本明細書に示されるURLC10に由来するペプチドを認識するT細胞から同定されたTCRのアミノ酸配列(特にCDR3におけるアミノ酸配列)は、非常に利用価値が高い。
【0040】
腫瘍抗原に由来する免疫原性を有するエピトープペプチドは腫瘍抗原に特異的なCTLを誘導し、がん患者において治療効果を生む。しかしペプチドの接種によって生体中で治療に有効な量のCTLを誘導するには、しばしば長い時間(数カ月)を要する。そのため、ワクチンによるがん治療は、適用可能な患者が制限される場合があった。腫瘍抗原特異的なTCRが同定できれば、TCR遺伝子導入T細胞療法を実現することができる。生体外でTCRを組み換えたT細胞は、治療に必要な量を培養によって容易に増殖させることができる。そのため、ペプチドワクチンに比べると、より早く、十分な治療効果を期待できる。また、ペプチドワクチンによって誘導されるCTLの数を予測することは通常は難しいので、期待される治療効果を予測することを困難にしている。しかしTCR遺伝子導入T細胞療法においては、治療効果を持つCTLの数が明らかなので、その治療効果も予測が容易である。
【0041】
本発明によって、個別化がん免疫療法(personalized cancer immunotherapy)が可能となる。幅広いがんで過剰発現している腫瘍抗原は、TCR遺伝子導入T細胞療法の標的として有用である。好適な腫瘍抗原を標的とするTCRが同定できれば、同じタイプのHLAを持つ他の患者において、個別化がん免疫療法を可能とする。たとえばURLC10は非小細胞肺がんや食道がんの多くで高発現している。したがって、URLC10特異的なTCR遺伝子導入T細胞は、養子免疫療法に有用である。現在のところ、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor ;CAR)T細胞療法や、TCR遺伝子導入T細胞療法は、一部の血液がんへの適用に限られている。しかし本発明のTCRにより、固形癌における養子免疫療法を可能とできる。
【0042】
ある態様において、本発明は、免疫学的に活性なTCR、またはその一部を提示した組み換えTリンパ球 (engineered T lymphocyte)を提供する。Tリンパ球は、たとえばCD8+細胞傷害性T細胞である。本発明の組み換えT細胞は、MHCと結合したエピトープペプチドを提示した抗原提示細胞を認識する。あるいは組み換えTリンパ球は、CD8+Tリンパ球、CD4+ヘルパーリンパ球、NK細胞、NKT細胞、B細胞、樹状細胞等であることができる。ある態様において、TCRのアミノ酸配列に基づいて、それをコードする核酸やベクターをデザインすることができる。たとえば標的抗原特異的なTCRあるいはその一部を提示した組み換えTリンパ球は、次の工程によって得ることができる;
(i) 標的抗原特異的なTCRをコードする核酸配列をベクターにクローニングし、
(ii) 当該ベクターを宿主Tリンパ球(たとえばCD8+細胞傷害性T細胞)に導入し、および
(iii) 当該TCRを、組み換えTリンパ球上に発現、および提示可能な条件下で培養する。本発明において、TCRの一部は、例えばTCRのα鎖、およびβ鎖のいずれか、あるいは両方であることができる。あるいは本発明のある態様においては、TCRの一部は、TCRのα鎖、およびβ鎖のいずれか、または両方の、1つ、2つ、あるいは3つの相補性決定領域(complementarity determining regiions; CDRs)を含むこともできる。好ましい態様においては、TCRの一部とは、TCRのα鎖、およびβ鎖の、いずれかまたは両方のCDR3を含む。本発明において同定された、好ましいCDR3のアミノ酸配列は、次のとおりである;
配列番号:1-2、5-8、14および16からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるヒトT細胞受容体α鎖のCDR3、および
配列番号:3-4、9-13および15からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるヒトT細胞受容体β鎖のCDR3。
本発明の、ある態様において、T細胞受容体α鎖とT細胞受容体β鎖のCDR3のアミノ酸配列は、たとえば以下のように組み合わせることができる;
T細胞受容体α鎖のCDR3 T細胞受容体β鎖のCDR3
配列番号:1 配列番号:3、
配列番号:2 配列番号:3、
配列番号:14 配列番号:15、および
配列番号:16 配列番号:10。
【0043】
URLC10ペプチドで誘導されたT細胞受容体β鎖のうち、V領域のTRBV9では、共通した配列が多く同定された。TRBV9(配列番号:4、9、12、13、および15)はアミノ酸配列11-13個で特定され、CASS-[X]n-F(Xは任意のアミノ酸でnが6-8/配列番号:38)という配列が共通している。
【0044】
本発明は、ある態様において、エピトープペプチドを結合したMHCが提示された抗原提示細胞を認識するTCRを含む組み換えTリンパ球(たとえばCD8+T細胞)の構築方法を提供する。TCRの抗原結合領域は、たとえば上記のCDR3をα鎖とβ鎖に含むことができる。TCRには、さらに付加的に、膜貫通ドメイン(transmembrane domain)やシグナリングドメインを含むこともできる。膜貫通ドメインは、ある態様において、T細胞の膜透過ドメインであることができる。T細胞の膜透過ドメインとしては、たとえばCD28の膜貫通ドメインを挙げることができる。一方、TCRを構成するシグナリングドメインには、1または複数の、免疫受容活性化チロシンモチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif; ITAMs)を含むことができる。免疫受容活性化チロシンモチーフとしては、CD3 ζ鎖(zeta chain)のようなT細胞受容体シグナリングドメインを挙げることができる。更にTCRは、刺激一つまたは複数の刺激ドメインを含むこともできる。刺激ドメインは、たとえば、T細胞を刺激する二次的なシグナルを与える。本発明において、組み換えTリンパ球は、CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、あるいは樹状細胞であることができる。
一方、TCRをコードする核酸あるいは、それを含むベクターを導入するための宿主Tリンパ球は、健常者ドナーや、がんの治療を必要とする対象から採取することができる。がんの治療を必要とする対象から採取したTリンパ球に本発明のTCRを発現させることにより、対象のT細胞にURLC10に特異的な細胞傷害作用を人為的に付与することができる。
【0045】
ある態様において、本発明は、活性なTCRを発現する組み換えT細胞を提供する。組み換え細胞を得る方法は公知である。たとえば、組み換えT細胞は、活性なTCRをコードする核酸によって得ることができる。ある態様において、活性なTCRをコードする核酸、あるいは核酸配列が提供される。TCRをコードする核酸は、通常は合成された核酸である。また核酸は、DNA、RNA、PNA(peptide nucleic acid)、あるいはそれらのハイブリッド分子を含むことができる。
【0046】
ある態様において、活性なTCRを発現する本発明の組み換えT細胞は、必要に応じてその細胞傷害活性や増殖活性などの性状を評価することができる。これらの性状を評価する手法は公知である。細胞傷害作用を評価する手法には、例えば、HLA分子とTCRを取得した対象に投与されたペプチドを用いるテトラマーアッセイ(例えば、Altman et al. Science. 1996, 274, 94-6 ;McMichael et al. J Exp Med. 1998,187, 1367-71)、ELISPOTアッセイあるいは、URLC10を発現するHLA陽性細胞を標的細胞として用いるクロム放出アッセイ等が含まれる。一方、細胞の増殖については、MTTアッセイなどの手法を応用して評価することができる。評価の結果、細胞傷害作用の大きな細胞、あるいはさらに増殖性に優れる細胞などの、より実用上望ましい性状を備えた細胞を選択することができる。
【0047】
本発明のある態様において、免疫学的に活性なTCRをコードする核酸は、たとえば次のような手法で決定することができる。たとえば、多くのTCRについて、それらをコードする核酸の塩基配列情報が既に決定され、データベースとして利用できるようになっている。それらをアセンブルすることによって、抗原結合部位の3つのCDRの位置を明らかにすることができる。TCRの抗原結合部位に含まれるCDRのうち、CDR1とCDR2は、HLAを認識しているとされているので、本発明の場合、HLA-A24拘束性のTCRをコードする核酸を利用すればよい。そして、残るCDR3を本発明において同定された上記アミノ酸配列情報をコードする塩基配列情報に置換することによって、組み換えTリンパ球の誘導に必要なTCRをコードする核酸とすることができる。
【0048】
あるいは、CDR3のみならずCDR1とCDR2を含むTCRの抗原結合部位の全塩基配列情報に基づくTCRのレパトア解析も既に行われている。このような解析を通じて蓄積される抗原結合部位の配列情報の中から、目的とするCDR3の配列情報に一致するものを選択し、そのCDR1とCDR2の配列情報を得ることもできる。こうして選択されたCDR1、CDR2、およびCDR3の配列情報を、他のTCRの抗原結合部位に移植することによって、目的とする抗原特異性を移植することもできる。
【0049】
あるいは、本発明の別の態様において、免疫学的に活性なTCRをコードする核酸を、実際にURLC10ペプチドをワクチンとして接種されたヒトのリンパ球から得ることもできる。本発明において明らかにされたように、本発明によって提供されるTCRのCDR3は、これらのペプチドを接種された対象において、目的とするCTLの応答に伴って、優勢なポピュレーションを占めるようになる。したがって、このような対象から回収されるCTLから、本発明によって提供されるTCRのCDR3を含むTCRをコードする核酸を得ることは容易である。具体的には、ワクチンを接種された対象のCTL応答を確認し、URLC10ペプチド特異的でHLA-A24拘束性の作用を有するCTLが確認された対象からリンパ球を回収すれば、そのmRNAからTCRをコードする核酸のcDNAライブラリーを構築することができる。cDNAライブラリーからCDR3のアミノ酸配列として本発明において見出されたCDR3に相当するアミノ酸配列をコードしているものをクローニングすれば、目的とするTCRをコードする核酸を単離することができる。あるいは、対象からURLC10ペプチド特異的な細胞傷害作用を有するCTLを回収し、クローン化した後に、目的とするTCRをコードする核酸を単離することもできる。TCRをコードする核酸は、通常、分泌シグナルを含む。分泌シグナルは、もともとTCRのmRNAに含まれたものであることもできるし、それを他の分泌シグナルに置き換えることもできる。
【0050】
ある態様において、本発明におけるTCRをコードする核酸は、一つあるいは複数の制御配列を含むことができる。具体的には、プロモーターや転写要素(transcriptional element)、あるいは発現誘導を可能とする配列などを挙げることができる。核酸は、細胞における発現を可能とする適当なベクターで細胞に導入することができる。
【0051】
ある態様において、本発明の免疫学的に活性なTCR、あるいはその一部をコードする核酸を含む組み換えベクターが提供される。当業者には多くのベクターが知られていて、必要とされる機能に応じて適切なものを選択することができる。たとえば、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、等のベクターが知られており、遺伝子組み換えのために広く利用されている。ベクターの構築は、当業者には周知である(Sambrock and Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y. (1989))。あるいはポリヌクレオチドやベクターをリポソームに封入して目的の細胞へ送達することも知られている。クローニングベクターを利用して目的のDNAを単離することもできる。目的の核酸配列は発現ベクターに組み込んで、細胞に導入することにより、所望のポリペプチドを発現させることができる。代表的なクローニングベクターには、たとえば、pBluescript SK、pGEM、pUC9、pBR322、あるいはpGBT9などが知られている。一方、発現ベクターには、pTRE、pCAL-n-EK、pESP-I、あるいはpOPI3CATなどが含まれる。
【0052】
ある態様において、ベクターは、TCR(あるいはその一部)をコードする核酸配列と作動可能に連結された調節配列を含むことができる。調節配列(調節単位)は当業者には公知で、たとえば、プロモーター、スプライスカセット、転写開始コドン、ベクターへの挿入用の挿入サイトなどを挙げることができる。ある態様において、真核細胞や原核細胞での発現を可能とするように、核酸が発現調節配列と作動可能に連結される。
ベクターとしてウイルスベクターを用いる場合には、レンチウイルスベクターやアデノウイルスベクターを用いることができる。
本発明において、核酸やベクターは、免疫学的に活性なTCRを細胞に発現させるために利用される。この場合、核酸やベクターは免疫学的に活性なTCRをコードするDNA配列を含み、細胞に導入することによって免疫学的に活性なTCRを発現する。
【0053】
本発明は、免疫学的に活性なTCRをコードする核酸配列を含む、プラスミド、コスミド、バクテリオファージ、ウイルスなどの通常遺伝子工学分野で用いられるベクターを得る方法に関する。ある態様において、ベクターは、発現ベクターや遺伝子導入用ベクター、あるいは遺伝子標的化ベクターであることができる。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、あるいは牛パピローマウイルスなどに由来するウイルス性のベクターは、発現ポリヌクレオチドやベクターを細胞集団への導入に有用である。ウイルスベクターの多くは、細胞への導入後、その遺伝情報を宿主細胞のゲノムに組み込む。そのため、細胞の増殖に伴って目的の遺伝情報が安定して細胞集団中に維持される。組み換えベクターの構築方法は当業者によく知られている。ベクターは、宿主細胞の種類に応じて周知の方法で遺伝子導入することができる。
【0054】
ある態様において、本発明によって、免疫学的に活性なTCRをコードする核酸によって、形質転換された、あるいは遺伝子導入した宿主細胞が提供される。宿主細胞は、上記のようなベクターや核酸分子の少なくとも一つ、場合によっては複数を宿主細胞に導入することによって得ることができる。宿主細胞は、導入された核酸分子やベクターによって、免疫学的に活性なTCRやその一部を発現することができる。宿主細胞に導入された核酸分子やベクターは、ゲノムに組み込まれて、あるいは核外において維持することができる。
【0055】
ある態様において、本発明は、核酸分子やベクターを導入した上記の宿主細胞を培養する方法を提供する。たとえば、本発明は、導入されたコンストラクト(免疫学的に活性なTCRやその一部をコードする核酸を含む)を発現可能な条件下で宿主細胞を培養する工程を含む。特定の態様において、培養された細胞は、宿主細胞を得た対象や、あるいは宿主細胞が由来する対象とは別の第2の対象に提供される。発現用のコンストラクトを保持した細胞を培養する方法は周知である。
【0056】
本発明において、組み換え用のリンパ球の由来は任意である。たとえば、治療の対象となる患者や、健常なドナーから回収したリンパ球を宿主細胞として利用することができる。複数の異なるソースから回収したリンパ球を混合して宿主細胞とすることもできる。リンパ球を回収するためのソースとしては、具体的には、末梢血の単核球細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、腹水、胸水、脾臓組織などを示すことができる。あるいは、感染病巣や腫瘍組織からリンパ球を回収することもできる。必要な種類のリンパ球(たとえば細胞傷害性T細胞)を選択的に回収する手法は公知である。具体的には、特定の細胞マーカーを指標として、目的の細胞をセルソーティングによって回収する方法が一般的である。回収されたリンパ球は、続いて培養することができる。
【0057】
本発明によって得られる組み換えリンパ球は、一般的な送達システムにより投与することができる。一般的には、薬学的に許容される担体に分散された組成物として組み換えリンパ球を投与することができる。あるいは核酸分子やベクターを投与する場合には、免疫学的に活性なTCRをコードする遺伝情報を対象のゲノムに組み込むこともできる。
【0058】
ある態様において、本発明の方法、あるいは組成物は、がんの予防、治療、あるいは症状の改善に利用することができる。たとえば、本発明によるがんの予防、治療、あるいは症状の改善のための方法は、それを必要とする対象に有効量の組成物を投与する工程を含む。ここで、本発明の方法に用いられる組成物は、たとえば、組み換えリンパ球免疫学的に活性なTCRをコードする核酸、それを含むベクターなどを有効成分として含む。組み換えリンパ球等の細胞を投与する場合、治療部位に局所的に投与することもできる。
【0059】
本発明のがんの治療あるいは予防のための組成物、あるいは方法は、単独で、あるいは他のがんの治療あるいは予防のための治療や予防のための組成物あるいは方法と組み合わせることができる。具体的には、化学療法や免疫学的治療方法のための組成物あるいは方法と合わせて、本発明の組成物あるいは方法を利用することができる。あるいは、放射線療法、陽子線治療、温熱治療などの理化学的治療方法を併用することもできる。
【0060】
本発明によって提供されるTCRは、URLC10を発現する細胞を特異的に認識する。したがって、URLC10を発現している任意のがんを、治療あるいは予防の対象とすることができる。具体的には、URLC10は、たとえば、膀胱がん、子宮頸がん、胆管細胞がん、食道がん、胃がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、骨肉腫、膵がん、軟部組織腫瘍、および頭頸部悪性腫瘍(HNMT)などにおいて高発現していることが知られている。したがって、本発明のTCRを発現するT細胞は、これらのがんの治療または予防に有用である。
【0061】
本発明のTCRによるがんの治療や予防に先立って、予め対象とするがんにおけるURLC10の発現を確認することができる。すなわち本発明は、以下の工程を含む、がんの治療および予防の、いずれかまたは両方のための方法を提供する:
(1) 治療あるいは予防の対象からがん組織を採取する工程;
(2) 採取されたがん組織におけるURLC10の発現を検出する工程;および
(3) 正常組織と比較してURLC10の発現レベルが高いがんを有する対象を選択して本発明の組成物を投与する工程。
【0062】
別の態様において、本発明は、治療あるいは予防の対象から採取されたがん組織におけるURLC10の発現を検出し、正常組織と比較してURLC10の発現レベルが高いがんを有する対象を選択して投与するための、組成物に関する。あるいは本発明は、治療あるいは予防の対象から採取されたがん組織におけるURLC10の発現を検出し、正常組織と比較してURLC10の発現レベルが高いがんを有する対象を選択して投与するための組成物の製造におけるTCRの使用を提供する。更に本発明は、治療あるいは予防の対象から採取されたがん組織におけるURLC10の発現を検出し、正常組織と比較してURLC10の発現レベルが高いがんを有する対象を選択して投与する工程を含む、がんの治療および予防の、いずれかまたは両方におけるTCRの使用を提供する。
【0063】
あるいは、対象から回収したT細胞に本発明のTCRを導入後、それを対象に投与することでがんの治療効果を期待することもできる。すなわち本発明は、
(1) 治療あるいは予防の対象から採取されたがん組織におけるURLC10の発現を検出し、正常組織と比較してURLC10の発現レベルが高いがんを有する対象を選択する工程、
(2) 選択された対象からT細胞を回収する工程、
(3) 回収したT細胞に本発明のTCRをコードする核酸を導入する工程、および
(4) 本発明のTCRをコードする核酸を導入したT細胞を対象に投与する工程、を含むがんの治療方法に関する。
【0064】
別の態様において、本発明は、本発明のTCRをコードする核酸の、上記工程を含むがんの治療における使用に関する。また本発明は、本発明のTCRをコードする核酸の、上記工程を含むがんの治療のための組成物の製造における使用に関する。あるいは本発明は、本発明のTCRをコードする核酸を含む、上記工程を含むがんの治療のための組成物に関する。
【0065】
本発明の、ある態様において、対象に投与される組み換えT細胞の数、投与のスケジュール、投与方法は、対象の状態や、治療を目的とするがんの種類や状態に応じて当業者は適宜選択することができる。あるいは、投与対象の臨床症状を観察して、投与量やスケジュールを調節することもできる。たとえば、組み換えT細胞の投与スケジュールとして次のような例が知られている:
2 x 108 cells, 1 x 109 cellsまたは5 x 109 cellsの静脈内投与1回(Clin Cancer Res. 2015,21(10):2268-77);
5.3 x 109 cellsを2回に分けて投与または2.4 x 109 cellsを1回投与(Blood. 2013,122:863-71);
中央値5.5 x 1010 cells(範囲0.9-13 x 1010 cells)を1回投与(Clin Cancer Res. 2015,21(5):1019-27.);あるいは
平均2.4 x 109 cellsを1回投与(非特許文献1)。
【0066】
III.ペプチドによって媒介されるCTL応答のモニタリング
TCR-α遺伝子およびTCR-β遺伝子のディープcDNA配列解析を通して、当該遺伝子の特定のペアが、特定のURLC10ペプチド(RYCNLEGPPI)を認識するT細胞から検出された。それゆえ、そのような遺伝子のペアがURLC10ペプチド接種後に対象において検出される場合、それは、対象におけるペプチド特異的CTL応答が誘導されたことを意味する。したがって、URLC10ペプチドによって刺激されたT細胞集団における遺伝子の特定のペアの増加は、刺激後の対象におけるCTL応答をモニタリングまたは検出するための代用マーカーとして有用であり得る。本発明に関連して、「ペプチド特異的CTL応答」とは、αサブユニットおよびβサブユニットのペアの間に形成されるTCRが、本発明のペプチドとHLA分子との間に形成される複合体を特異的に認識することを意味するように理解される。上記で論じたように、本発明の特異的配列で定義されるペプチドのCTL細胞誘導能は、アミノ酸改変後でさえも維持され得る。それゆえ、特異的ペプチドによる刺激に加えて、T細胞が変異ペプチドから誘導される場合でさえも、そのTCRがもとのペプチドによって形成される、そのような複合体を特異的に認識する限り、その抗原特異性は「ペプチド特異的」とみなされる。
【0067】
例えば、以下のアミノ酸配列からなるCDR3を有するTCR-αサブユニットおよびTCR-βサブユニットが、HLA-A24拘束様式で、特定のURLC10ペプチドによって刺激されたT細胞集団において増加した(図2)。
配列番号:1-2、5-8、14および16からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるT細胞受容体α鎖のCDR3、および
配列番号:3-4、9-13および15からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列で特定されるT細胞受容体β鎖のCDR3。
それゆえ、対象のT細胞集団におけるそれらの蓄積は、URLC10ペプチドによって媒介されるT細胞応答が、ペプチドを接種した対象において成功裡に誘導されたことを意味する。上記アミノ酸配列からなるCDR3の存在は、抗体に基づく解析によって検出することができる。本出願の代替的な態様において、TCR-αサブユニットおよびTCR-βサブユニットの特定のペアはまた、それらをコードするポリヌクレオチドを検出することによっても評価することができる。例えば、上記アミノ酸配列からなるCDR3の各々(表1および2の配列番号:1-16)をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号:17-32のヌクレオチド配列によって代表される。
したがって、URLC10特異的TCRのαサブユニットおよびβサブユニットをコードするmRNAから合成されるcDNAの各々は、それぞれ上記配列番号のヌクレオチド配列を含み得る。そのようなポリヌクレオチドは、PCRに基づく解析によって検出することができる。
【0068】
好ましい態様において、本発明は、ペプチドで免疫された対象におけるペプチド特異的T細胞応答をモニタリングする、評価する、または評定するための方法であって、
(a)該ペプチドを投与された対象から得られた試料を提供する段階であって、該試料がT細胞を含む、段階;
(b)該試料における、MHCクラスI分子と該ペプチドまたはその断片との複合体に結合するTCRを発現するT細胞の存在を検出する段階;および
(c)該T細胞の存在が(b)において検出される場合に、該ペプチドに特異的なT細胞応答の誘導が示される段階
を含む方法を提供する。例えば、上記配列番号のアミノ酸配列からなるCDR3を含むαサブユニットおよびβサブユニットの、いずれか、または両方を検出することによって、HLA-A24拘束様式でのURLC10に特異的なT細胞の誘導を検出することができる。
【0069】
本発明において、対象から得られる任意の生物学的試料を、その試料にT細胞が含まれる限り、CTL応答をモニタリングするために使用することができる。例えば、本発明のために、血液または血液由来試料を、生物学的試料として使用することができる。本発明において、血液由来試料は、T細胞を含む細胞集団を含む。T細胞を含む細胞集団を得るための方法は、当業者に周知である。あるいは、いくつかの態様において、T細胞が浸潤した組織またはリンパ節もまた、生物学的試料として有用である。解析に先立ち、細胞傷害性T細胞をあらかじめ増殖させることもできる。また、対象から採取された末梢血単核球(PMBC)は、いくつかの異なった細胞種を含む。免疫学的に活性なTCRを備えた細胞傷害性T細胞を解析するには、予め目的の細胞を増やしておくのが有利である。増殖後の細胞傷害性T細胞を集めて、TCRのレパトア解析の試料とすることもできる。
【0070】
本発明のいくつかの態様において、TCRサブユニットの評定における抗体に基づく解析のために、T細胞を含む細胞集団を固定することができる。抗体は、固定された細胞と接触した後、固定された細胞のαサブユニットおよびβサブユニットのCDR3を認識し、抗体が単一細胞上のTCRの両サブユニットに結合する場合、特定のサブユニットペアと共に形成されるTCR-抗体複合体を検出することができる。あるいは、ヌクレオチド配列に基づく解析において、単一細胞におけるTCRサブユニットをコードするポリヌクレオチドから合成されたアンプリコンの蓄積は、サブユニットの特定のペアが存在していることを意味する。あるいは、ワクチン接種されるペプチドの各々についてのTCRサブユニットをコードするポリヌクレオチドの特定のペアを、Fang H, et al., Oncoimmunology 2015, 3: e968467に示されているようなディープcDNA配列解析によってモニタリングすることができる。
【0071】
本局面において、T細胞上のTCRの構造多様性は、主にそれらのCDR3に依存していることが周知である。その結果、それによる抗原特異性もまた、CDR3に依存している。それゆえ、単一細胞上のαサブユニットおよびβサブユニットの特定のペアの存在を、CDR3の検出を通してモニタリングすることができる。
【0072】
本発明のいくつかの態様において、CTL応答をモニタリングするかまたは評定するために、TCR-αサブユニットおよびTCR-βサブユニットのいずれか、または両方を、ワクチン接種後に少なくとも1回または複数回、検出することができる。ペアがモニタリングを通して時間依存的に増加する場合、それは、対象におけるペプチド媒介性CTL応答が十分に誘導されていることを意味する。あるいは、特定のペアが少なくとも1回検出される場合、それは、対象におけるCTL応答が生じたことを示す。
あるいは、ワクチン接種前の対象におけるTCRのレパートリーを取得し、接種後のレパートリーと比較して、本発明のTCRの増加を確認することもできる。接種前のレパートリーに本発明のTCRが検出されない場合には、ワクチン接種後にその出現や増加が見られた場合に、対象におけるワクチンへの応答を検出することができる。ワクチン接種後の対象のTCRは、接種後の、任意のタイミングで解析することができる。
【0073】
ある態様において、本発明のモニタリング方法は、予めURLC10ペプチドを対象に投与する工程を含むことができる。すなわち本発明は、
(1) URLC10ペプチドを対象に投与する工程
(2) ペプチド投与後の対象から少なくとも一度T細胞を回収する工程、および
(3) T細胞のTCRに占める本発明のTCRの頻度を決定する工程。
そして、本発明のTCRの頻度が高まった場合に、対象におけるペプチド媒介性CTL応答が十分に誘導されていることを知ることができる。頻度を複数回決定して、経時的な変化を追うことにより、TCRの頻度の高まりを知ることができる。あるいは、少なくとも1度の頻度の決定後、一定の頻度を占めることがわかれば、予め接種したペプチドに対する免疫応答が誘導されたことを知ることができる。一定の頻度とは、たとえば解析したTCRの全レパートリーに占める割合が通常1%、あるいは2%もしくは3%以上を例示することができる。
【0074】
本発明において、URLC10ペプチドは、単独で投与することもできるし、がんワクチンとして有効な他のペプチドと組み合わせて投与することもできる。たとえばURLC10ペプチド(RYCNLEGPPI/配列番号:36)に加え、DEPDC1ペプチド(EYYELFVNI/配列番号:37)を含む、いわゆるカクテルワクチンを投与することもできる。
【0075】
ある態様において、本発明のTCRの頻度の評価のために、TCRのレパトア解析が有用である。レパトア解析においては、通常、ある細胞集団におけるTCRのCDR3を構成するアミノ酸配列を網羅的に解析する。CDR3は、主としてTCRの抗原認識特異性を決定する領域であることはすでに述べた。したがってその構造を解析することにより、細胞集団を構成するTCRが、どのような割合で構成されているのかを評価することができる。多数のTCRのCDR3を網羅的に解析して、各CDR3の検出頻度を比較することで、TCRのレパトア解析が実施される。
【0076】
T細胞受容体(TCR)はV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子およびC遺伝子からなる。
V遺伝子やJ遺伝子の再構成さらにはV-D-J遺伝子間(CDR3)にランダムに発生する塩基の挿入や欠失により、TCRには10の18乗にもおよぶ多様性が生じると考えられている。したがってヒト体内には様々なTCRを発現するT細胞が存在する。
あるT細胞集団におけるTCRの多様性(どのようなTCRがどれくらいの頻度で検出されるか)を調べることをTCRレパトア解析と呼ぶ。
TCRレパトア解析を行う場合、様々なTCR遺伝子をPCR法によって偏りなく増幅するために、T細胞集団に由来するRNAから5’末端にアダプターが付加されたcDNAを合成する。アダプター特異的なフォワードプライマーとTCR-αもしくはTCR-β特異的なリバースプライマーを用いて得られた大量のDNAフラグメント(シーケンスライブラリー)の塩基配列決定には次世代シーケンサーが利用される。
次世代シーケンサーは数百万ものDNAフラグメントの塩基配列を並列的に決定する能力を備える機器である。TCRレパトア解析では、TCRを構成するV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子およびC遺伝子にまたがって長い塩基配列を決定する必要がある。そこで、次世代シーケンサーの中でもロングリード解析(およそ300bpの塩基配列の決定)に長けているMiSeq(Illumina)が用いられることが多い。
試料中に含まれるTCRをコードするmRNAの塩基配列を網羅的に解析し、試料を構成しているT細胞集団に占める各CDR3の検出頻度を容易に知ることができる。CDR3の塩基配列を決定するために有用なプライマーの塩基配列の例を以下に示す。
フォワードプライマー(TCR-α, TCR-β共通のアダプター配列、配列番号:33):
5'-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGTATCAACGCAGAGTGGCCAT-3'
リバースプライマー(TCR-α用、配列番号:34):
5'-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGDBDHHCAGGGTCAGGGTTCTGGATA-3'
リバースプライマー(TCR-β用、配列番号:35):
5'-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGDVHDVTCTGATGGCTCAAACACAGC-3'
【実施例0077】
材料および方法
細胞
食道がん患者に対し、週1回のURLC10由来ペプチドを含むペプチドカクテルワクチン投与を合計5回以上行い、投与を受けたHLA-A*24:02陽性食道がん患者3名(症例A、BおよびC)の血液から、末梢血単核球(PBMC)を採取した。
ヒトBリンパ芽球様細胞株であるTISI細胞は、International Histocompatibility Working Groupから購入した。
【0078】
ペプチド
HLA-A*24:02拘束性URLC10由来ペプチド(RYCNLEGPPI:WO2006/090810)を使用した。凍結乾燥ペプチドをジメチルスルホキシドで溶解し(最終濃度:20mg/ml)、使用するまで-80℃で保存した。
【0079】
細胞培養(インビトロ刺激)
PBMC中のペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を増殖させる目的で、PBMCをペプチドおよびサイトカイン(IL-2)で刺激した。AIM-V培地(Invitrogen)およびRPMI1640培地(Invitrogen)を等量混合後、調製量に対して10%の非働化済みウシ胎児血清(Invitrogen)および1%のMEM non-essential amino acids(Invitrogen) を添加し、培地として使用した。URLC10由来ペプチドを含むペプチドカクテルワクチンの投与を受けた食道がん患者(HLA-A*24:02陽性)から採取したPBMCを48ウェルプレート(Corning)へ播き、URLC10由来ペプチドを添加した(ペプチド最終濃度:10μg/ml)。翌日、IL-2(Novartis)を添加した(IL-2最終濃度:120IU/ml)。2~3日おきに培地の半量(上清)を取り除き、IL-2を含む同量の培地を添加し、培地交換を行った(IL-2最終濃度:120IU/ml)。培養開始から7日後に、培地の半量(上清)を除去したのち、ペプチドを含む同量の培地を添加した(ペプチド最終濃度:10μg/ml)。14日目以降、PBMCをテトラマーアッセイおよび限界希釈法に用いた。
【0080】
テトラマーアッセイ
培養(インビトロ刺激)後のPBMCからHLA-ペプチド複合体を認識するT細胞を検出するために、テトラマーアッセイを実施した。株式会社医学生物学研究所で合成されたPE標識URLC10テトラマーおよびPE標識HIVテトラマー(陰性コントロール)を使用した。PBMCをテトラマーで染色したのち、さらにFITC標識抗CD8抗体、APC標識抗CD3抗体およびPE-Cy7標識抗CD4抗体(すべてBD Biosciences)で染色した。最後に0.1mg/mlのDAPI(BD Biosciences)溶液で染色し、フローサイトメーター(SH800 cell sorter, Sony)による解析を実施した。DAPI陰性CD3陽性CD4陰性細胞集団におけるテトラマー陽性CD8陽性T細胞を回収し、TCRレパトア解析の検体とした。
【0081】
CTLクローンの樹立(限界希釈法)
96穴丸底マイクロプレート(Corning)において、1個/ウェルとなるように培養(インビトロ刺激)後の細胞を播種した。マイトマイシンCで処理した2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株(各1 x 104個)、抗CD3抗体(最終濃度:30ng/ml)およびIL-2(最終濃度:150IU/ml)とともに、細胞を培養した(培養液量150μl/ウェル)。培地には非働化済みAB型血清(MP Biomedicals)を含むAIM-V培地を用いた(5%ABS/AIM-V培地)。10日後、600IU/mlのIL-2を含む5%ABS/AIM-V培地50μlを該培養物に添加した(Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004, 10(24):8577-86;Suda T et al., Cancer Sci 2006, 97(5):411-9;Watanabe T et al., Cancer Sci 2005, 96(8):498-506)。14日目以降、ELISPOTアッセイにおいてURLC10由来ペプチド特異的なIFN-γ産生を示したCTLを後述の方法を利用して増殖させた。
【0082】
CTL増殖手順
Riddellら(Walter EA et al., N Engl J Med 1995, 333(16): 1038-44;Riddell SR et al., Nat Med 1996, 2(2):216-23)によって報告されている方法と類似の方法を利用して、CTLを増殖させた。組織培養用フラスコ(Falcon)において、マイトマイシンCで処理した2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株(各5 x 106個)、抗CD3抗体(BD biosciences, 最終濃度:40ng/ml)およびIL-2(最終濃度:144IU/ml)とともにCTLを5%ABS/AIM-V培地中で培養した(培養液量25ml/フラスコ)。2~3日おきに、72IU/mlの IL-2を含む5%ABS/AIM-V培地による培地交換を行った(IL-2最終濃度:36IU/ml)(Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004, 10(24):8577-86;Suda T et al., Cancer Sci 2006, 97(5):411-9;Watanabe T et al., Cancer Sci 2005, 96(8):498-506;Tanaka H et al., Br J Cancer 2001, 84(1):94-9;Umano Y et al., Br J Cancer 2001, 84(8):1052-7)。
【0083】
IFN-γ産生の確認
CTLクローンのペプチド特異的IFN-γ産生を確認するために、IFN-γ ELISPOTアッセイおよびIFN-γ ELISAを実施した。ペプチドをパルスしたTISI細胞を標的細胞として調製した。IFN-γ ELISPOTアッセイおよびIFN-γ ELISAは、アッセイキット製造業者の推奨する手順に従って実施した。
【0084】
TCR解析
RNeasy micro kit(QIAGEN)を用いて、テトラマー陽性CD8陽性T細胞からRNAを抽出した。SMARTScribe Reverse Transcriptase (Clontech)によって5’末端にアダプターが付加されたcDNAを合成した。Choudhury ら(Choudhury NJ et al., Eur Urol Focus 2016, 2(4):445-52)によって報告されている方法と類似の方法を利用して、TCR-α鎖およびTCR-β鎖のシーケンスライブラリーを調製した。MiSeq (Illumina)で 300bp ペアエンドシーケンスを実施した。得られたシーケンスリードを、TCRのデータベースであるIMGT/GENE-DB(Giudicelli V et al., Nucleic Acids Res 2005, 33(Database issue):D256-61)に登録されたTCR-α遺伝子およびTCR-β遺伝子の塩基配列へマップした。
また、ペプチド特異的CTLクローンからRNeasy micro kitを用いてRNAを抽出後、cDNAを合成した。サンガーシーケンス解析によりTCR-α鎖およびTCR-β鎖の塩基配列を解読した。
【0085】
結果
URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞の検出と回収
「材料および方法」に記載したテトラマーアッセイのプロトコールに従って、培養(インビトロ刺激)後のPBMCからURLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞を検出し、回収した(図1)。
【0086】
URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞のTCRレパトア解析
URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞の網羅的なTCR解析(TCRレパトア解析)を実施した。TCRクロノタイプの検出頻度をパイチャートで表した(図2)。検出頻度が1%未満のTCRクロノタイプをまとめて同一色で示した(図中*)。
症例B(図2-a)のTCR-αにおいて、検出頻度が1%以上であったTCRクロノタイプ(配列番号:1および配列番号:2)をURLC10由来ペプチドを認識するTCRとして同定した。またTCR-βにおいて、検出頻度が1%以上であったTCRクロノタイプ(配列番号:3および配列番号:4)をURLC10由来ペプチドを認識するTCRとして同定した。症例C(図2-b)のTCR-αにおいて、検出頻度が1%以上であったTCRクロノタイプ(配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8)をURLC10由来ペプチを認識するTCRとして同定した。またTCR-βにおいて、検出頻度が1%以上であったTCRクロノタイプ(配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12および配列番号:13)をURLC10由来ペプチドを認識するTCRとして同定した。
【0087】
URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞から検出されたTCR(検出頻度1%以上)
URLC10テトラマー陽性CD8陽性T細胞から1%以上の頻度で検出されたURLC10由来ペプチドを認識するTCRのCDR3アミノ酸配列を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
URLC10由来ペプチド特異的CTLクローンの樹立
限界希釈法によって、URLC10由来ペプチドを認識するCTLクローンを樹立した。ELISAによるIFN-γ測定の結果、CTLクローン#1、#2および#3はペプチド特異的なIFN-γ産生を示した(図3)。このことから、CTLクローン#1、#2および#3がHLA-A*24:02上に提示されたURLC10由来ペプチドを認識したことが確認された。
【0090】
URLC10由来ペプチド特異的CTLクローンが発現するTCRの同定
サンガーシーケンス解析によって、URLC10由来ペプチド特異的CTLクローンが発現するTCRのCDR3アミノ酸配列を同定した。その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によって、T細胞にURLC10に特異的な細胞傷害作用を付与するTCRが見出された。本発明のTCRによって、URLC10に特異的なCTLを得ることができ、TCR遺伝子導入T細胞療法を可能とする。
あるいは、本発明のTCRは、CTL誘導性のペプチドを投与した対象における治療効果のモニタリング指標としても有用である。本発明のTCRを備えたCTLは、実際に標的細胞に対する細胞傷害活性を備えた細胞である。したがって、TCRレパトア解析などを通じて、本発明のTCRを備えたCTLの割合が高まれば、対象において目的とするCTL応答が誘導されていることを意味し、ペプチドによる治療効果を達成できている可能性を知ることができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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