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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191537
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】断熱性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
G01N25/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019218495
(22)【出願日】2019-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】509328700
【氏名又は名称】株式会社新潟テクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】武藤 佳恭
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA09
2G040AB09
2G040BA14
2G040BA26
2G040BA27
2G040CA02
2G040CB05
2G040CB09
2G040DA02
2G040DA12
2G040DA15
2G040EA06
2G040EC01
2G040FA07
2G040FA09
2G040HA16
(57)【要約】
【課題】積層体に代表される試料がもつ室内の温度を維持する能力について、より適切に評価するための方法を提供すること。
【解決手段】本発明の評価方法は、板状の試料の断熱性を評価する方法であり、広い空間内に試料を置き、試料の表面に光を照射する前の、試料の温度と空間内の温度を測定し、その後、試料の表面に光を照射した後の、試料の温度と空間内の温度を測定する温度測定工程と、空間を、試料の表面側に位置する第1空間部と、試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ試料の表面に光が照射されて、試料が温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料から第2空間部側への熱流束q12[W/m]を算出する算出工程を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の試料の断熱性を評価する方法であって、
広い空間内に前記試料を置き、前記試料の表面に光を照射する前の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定し、その後、前記試料の表面に光を照射した後の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定する温度測定工程と、
前記空間を、前記試料の表面側に位置する第1空間部と、前記試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ前記試料の表面に光が照射されて、前記試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、前記試料から前記第2空間部側への熱流束q12[W/m]を以下の式により算出する算出工程を含む、評価方法。
12=I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}]
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【請求項2】
前記熱流束q12が正の場合に、完全断熱が可能であると評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
板状の試料の断熱性を評価する方法であって、
広い空間内に前記試料を置き、前記試料の表面に光を照射する前の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定し、その後、前記試料の表面に光を照射した後の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定する温度測定工程と、
前記空間を、前記試料の表面側に位置する第1空間部と、前記試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ前記試料の表面に光が照射されて、前記試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、前記試料から第1空間部側への熱流束q21[W/m]を以下の式により算出する算出工程を含む、評価方法。
21=-I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}]
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【請求項4】
前記熱流束q21が負の場合に、完全断熱が可能であると評価する、請求項3に記載の評価方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内と室外とを区画する透光性部材は、可視光を充分に透過させるとともに、冷暖房使用時の省エネルギー化などの観点から断熱性が高いことが好ましいとされている。透光性部材としては、断熱性を高める観点から、積層体が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、「断熱性」とは、室外の温度変化にかかわらず室内の温度変化を略一定に維持できる性能と解する。そして現在、この「断熱性」の指標として、JIS A5759:2008(以下、単に「JIS規格」ということもある)において規格される熱貫流率が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、このJIS規格では、熱貫流率U[W/m・K]は以下の(6)式で算出されるものである。
【数1】
・・・(6)
ここで、εは室外側表面の修正放射率、εは室内側表面放射率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-032775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(6)式から分かるように、JIS規格では、熱貫流率は、試料の室内側に位置する表面の放射率および試料の室外側に位置する表面の放射率の関数であり、室内側の表面の放射率および室外側の表面の放射率が高いほど熱貫流率も高くなり、断熱性に劣るものと評価される。
【0007】
しかしながら、本発明者らは、冬季に、放射率が高い試料を用いると、放射率が低い試料を用いる場合に比べて、室内の温度を維持できることを知見した。すなわち、このような試料では、熱貫流率に基づくJIS規格によって評価した場合、放射率が高い試料がもつ室内の温度を維持する能力について必ずしも適切に評価することができていなかった。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、積層体に代表される試料がもつ室内の温度を維持する能力について、より適切に評価するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、上記のJIS規格の方法では、日射による材料の温度の上昇による断熱性への影響や実際の使用環境における風の影響を考慮していないため、放射率が高い材料がもつ室内の温度を維持する能力について適切に評価することができていないことを見出すとともに、板状の試料の断熱性を評価する方法であって、広い空間内に前記試料を置き、試料の表面に光を照射する前の、試料の温度と前記空間内の温度を測定し、その後、試料の表面に光を照射した後の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定する温度測定工程と、空間を、試料の表面側に位置する第1空間部と、試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ前記試料の表面に光が照射されて、試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料から第2空間部側への熱流束q12[W/m]または試料から第1空間部側への熱流束q21[W/m]を所定の式により算出する算出工程を含む、評価方法によれば、日射による材料の温度の上昇及び風の影響による断熱性への影響を考慮して、試料がもつ室内の温度を維持する能力について、より適切に評価することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
[1]板状の試料の断熱性を評価する方法であって、
広い空間内に前記試料を置き、前記試料の表面に光を照射する前の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定し、その後、前記試料の表面に光を照射した後の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定する温度測定工程と、
前記空間を、前記試料の表面側に位置する第1空間部と、前記試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ前記試料の表面に光が照射されて、前記試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、前記試料から前記第2空間部側への熱流束q12[W/m]を以下の式により算出する算出工程を含む、評価方法。
12=I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}]
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0011】
[2]前記熱流束q12が正の場合に、完全断熱が可能であると評価する、請求項1に記載の評価方法。
【0012】
[3]板状の試料の断熱性を評価する方法であって、
広い空間内に前記試料を置き、前記試料の表面に光を照射する前の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定し、その後、前記試料の表面に光を照射した後の、前記試料の温度と前記空間内の温度を測定する温度測定工程と、
前記空間を、前記試料の表面側に位置する第1空間部と、前記試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ前記試料の表面に光が照射されて、前記試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、前記試料から第1空間部側への熱流束q21[W/m]を以下の式により算出する算出工程を含む、評価方法。
21=-I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}]
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0013】
[4]前記熱流束q21が負の場合に、完全断熱が可能であると評価する、請求項3に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、日射や風が、試料がもつ室内の温度を維持する能力に影響を与える場合であってもそのような能力について、より適切に評価するための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】温度上昇測定装置の模式斜視図である。
図2】直射防止材を設けた場合の試料の斜視模式図である。
図3】他の態様の直射防止材を設けた場合の試料の斜視模式図である。
図4】試料Aの熱流束対室外温度と室内温度との温度差のプロットである。
図5】ガラスの熱流束対室外温度と室内温度との温度差のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
なお、本明細書において、光の「照射量」とは、光を発する装置(光源)から発生する光量をいい、「取得量」とは、その照射量のうち、照射された試料が取得する成分をいう。
【0018】
本発明の第1の態様の評価方法は、板状の試料の断熱性を評価する方法であって、板状の試料の断熱性を評価する方法であって、広い空間内に前記試料を置き、試料の表面に光を照射する前の、試料の温度と空間内の温度を測定し、その後、試料の表面に光を照射した後の、試料の温度と空間内の温度を測定する温度測定工程と、空間を、試料の表面側に位置する第1空間部と、試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ試料の表面に光が照射されて、試料が前記温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料から第2空間部側への熱流束q12[W/m]を以下の(1)式により算出する算出工程を含む、評価方法である。
12=I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(1)
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0019】
また、本発明の第2の態様の評価方法は、板状の試料の断熱性を評価する方法であって、広い空間内に試料を置き、試料の表面に光を照射する前の、試料の温度と空間内の温度を測定し、その後、試料の表面に光を照射した後の、試料の温度と空間内の温度を測定する温度測定工程と、空間を、試料の表面側に位置する第1空間部と、試料の裏面側に位置する第2空間部とに区分し、かつ試料の表面に光が照射されて、試料が温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料から第1空間部側への熱流束q21[W/m]を以下の(2)式により算出する算出工程を含む、評価方法である。
21=-I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(2)
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0020】
すなわち、このような評価方法では、測定工程において、板状の試料に対し光を照射し、その照射光のうち特定の量取得した場合の試料の温度平衡時の温度上昇を測定する。次いで、試料から第2空間部側への熱流束(q12)の有無やその程度を確認する場合、または試料から第1空間部側への熱流束(q21)の有無やその程度を確認する場合のいずれかに場合分けをする。具体的に、前者の場合には上記(1)式、後者の場合には上記(2)式を用いて、その温度上昇を考慮して熱流束を算出し、熱流束の値の大小や正負によって試料の断熱性を評価する。特に、試料から発する熱流束が存在する方向の逆の方向へ伝導熱が通り抜けできないものとして完全断熱を評価することもできる。このようにして、試料がもつ室内の温度を維持する能力について、より適切に評価することができる。
【0021】
[測定工程]
測定工程は、広い空間内に前記試料を置き、試料の表面に光を照射する前の、試料の温度と空間内の温度を測定し、その後、前記試料の表面に光を照射した後の、試料の温度と空間内の温度を測定する工程である。
【0022】
具体的に、測定工程においては、例えば、図1に示す温度上昇測定装置を用いて行う。図1に示すとおり、温度上昇測定装置1は、主として、光照射装置10と、試料温度計11と、送風装置12と、風量計13、空間温度計14とを備え、光照射装置10による光の照射による試料Sの温度上昇を測定するものである。また、その他、温度上昇装置1は、試料支持板15および直射防止材16(図1には図示せず。)を設けることができる。
【0023】
そして、光照射装置10および板状の試料Lは、例えば風速0.15m/s以下に制御された広い空間内(例えば室内など)に配置される。この空間は、光照射装置10の稼働による室温への温度上昇の影響をほぼ無視できる程度に十分に広いことを要し、例えば試料Lの体積に対して少なくとも1万倍以上、好ましくは10万倍以上、より好ましくは50万倍以上、特に好ましくは100万倍以上の体積を有しているものとする。
【0024】
なお、温度上昇測定装置1において、試料Lおよび試料支持板15は、当該広い空間を分断するものでなく、試料Lの表面L側(光照射装置10が配置されている側)の空間と、裏面L(表面と反対の面)側の空間は分断されておらず、図1の例で言えば、試料Lおよび試料支持板15の上部や、試料支持板15の外側では、一つの空間としてつながっている。ただし、以下においては、説明の便宜上、試料Lを境にして、「試料Lの表面L側の空間」および「試料Lの裏面L側の空間」と呼ぶことがあるが、両者の空間が物理的に分断されていることを意図したものではない。
【0025】
また、試料Lの表面L側の空間および裏面L側の空間の少なくともいずれかには、温度調整装置(図示せず)が配置されていてもよい。なお、温度調整装置は、任意の構成要素であり、例えばエアコンなどであってよい。表面L側の空間および裏面L側の空間を一定にできるのであれば必ずしも設ける必要はない。
【0026】
(試料)
試料Lは、その断熱性を評価する対象である。試料Lとしては板状であれば特に限定されず、断熱材の候補となり得るあらゆる材料が対象となる。試料Lとしては、例えば板状の基材の少なくとも片面に、その基材とは異なる材料からなる副材を形成してなるものが挙げられる。また、基材製造時に副材を添加し、副材が基材と同一形状内に収まり形成してなるもの、より具体的には、ガラスの端面に断熱フィルムを貼ったものや、断熱フィルムを2枚のガラスで挟んだもの、ガラス製造時に特殊金属粉末を添加したものも含む。
【0027】
なお、図1においては、試料Lが直立した例を示しているが、試料Lは必ずしも直立しておらず、後述する光照射装置から垂直に光を照射されている限りにおいてどのように設置されていてもよく、例えば、平置きされていてもよい。
【0028】
(光照射装置)
光照射装置10は、試料Lの一方の面(表面L)に対向して配置され、試料Lに向けて光を照射するための光源を有する装置である。
【0029】
具体的に、光照射装置10としては、略一定の光量を照射可能な光源を有する装置であれば特に限定されないが、例えばハロゲンライトや疑似太陽光ランプなどを用いることができる。
【0030】
光照射装置10の光照射量としては、特に限定されないが、例えば0~1200W/mの範囲で光を照射可能であることが好ましい。
【0031】
光照射装置10の光照射時間としては、例えば試料Lの温度が温度平衡になる(照射を続けてもそれ以上温度が上昇しない)時間であればよく、試料、照射する時間、試料が配置された空間内の温度、算出工程において仮定する試料が配置される環境の条件などによって選択することができ、例えば10分~数時間であってよい。
【0032】
(試料温度計)
試料温度計11は、試料Lの副材側に接触して、試料Lの温度を測定するものである。
【0033】
試料温度計11としては、試料Lの温度を測定できるものであれば特に限定されないが、例えばK型熱電対、白金系熱電対(R型熱電対、S型熱電対)などの各種熱電対や、サーミスタ式温度計、放射率を変更可能な放射温度計などを、測定対象により正確に測定できる温度計を適宜選択することができ、その中でも、接触式のK型熱電対を用いることが好ましい。
【0034】
試料温度計11の測定可能な温度としては、特に限定されないが、少なくとも-20℃~80℃の範囲で測定可能であることが好ましい。
【0035】
(送風装置)
送風装置12は、試料Lに対して送風して、その送風による試料Lの温度上昇への影響を考慮するために設けるものである。
【0036】
送風装置12としては、その送風量を制御可能なものであれば特に限定されないが、例えば各種ファン(例えば、PC冷却ファンなど)を用いることができ、発熱が少なく、風量が安定する物が好ましい。
【0037】
送風装置12の位置としては、第1空間部側、かつ光照射装置10の光を遮らない位置(光照射装置10の光軸上以外)に配置され、かつ試料Sの表面Sに対して平行方向や例えば45°など、一定の角度に固定し、試料Sの表面Sにて一定の空気の流れが生じるように送風することが好ましい。
【0038】
送風装置12の風量としては、特に限定されないが、後述する風量計13における測定値すなわち、試料Lの表面Lを近傍における測定値が、現実的な気象データで有り得る風速、例えば0(送風装置を稼働しない場合)~30m/sの範囲となるように送風できるものを用いることが好ましいが、測定への影響を考慮して発熱の少ないものを用い、発熱の少ない0~3m/sや0~10m/sの範囲となるように送風できるものを用いても良い。
【0039】
なお、後述する算出工程において、無風条件における熱流束を算出するならば、送風装置12及び風量計13を用いなくてよい。
【0040】
(風量計)
風量計13は、試料Lに対して送風装置12から送風される風量を測定するものである。
【0041】
風量計13の位置としては、試料Lの表面Lの側に、光照射装置10の光を遮らない位置に、その風量計13が送風装置12とともに、光照射装置10の光源を挟むように風下に配置されていればよい。風量計13は、試料Lに対する風速の影響を考慮することを目的として用いているため、より正確に試料L近傍の風量を測定する観点から、風量計13は、試料Lの近傍に配置することが好ましい。
【0042】
(試料支持体)
必須の構成要素ではないが、試料支持体15は、測定対象たる試料Lを支持し、試料Lを直立させて、試料Lの面(表面L)を、光照射装置10による光の照射を垂直又は略垂直に受けることが可能な状態とするものである。
【0043】
試料支持体としては、試料Lを直立(試料Lの面をその配置面と垂直に)させることができるものであれば特に限定されず、例えば試料Lの面両端を挟持して支持する支持板などを用いることができる。
【0044】
(直射防止材)
図2は、直射防止材を設けた場合の試料の斜視模式図である。直射防止材16は、試料Lが例えば光透過性を有している場合に、試料温度計11に対応する位置に設置して、光照射装置10からの光が試料温度計11に直接照射することを防止し、直接光が照射されることによる温度上昇を排除するものである。なお、図1の模式図では、試料温度計11を副材が配置される裏面Lに配置する場合について示しているが、副材が表面Lに配置される場合、試料温度計11も表面Lに配置される。この場合、直射防止材16は、表面側の試料温度計11に被せるようにして配置すればよい。
【0045】
直射防止材16は、透光性を有しない非透光頂面161と、試料Lに接着可能な支持部162からなる台状の部材であり、支持部162と試料Lとが接着して、非透光頂面161が試料Lの面と略平行になるよう配置されている。これにより、光照射装置10からの光が直接試料温度計11に照射されることを防止することができる。なお、直射防止材としては、光照射装置10から照射される光の光路(の全部)を遮らないように配置すればよく、図2のように台状部材以外に、例えば透光性を有しない板状材料を天井から吊るしたり、底面から支持棒などを用いて直立させたりすることもできる。
【0046】
また、図3は他の態様の直射防止材を設けた場合の試料の斜視模式図である。直射防止材17は、透光性を有しない2枚の非透光板171、172からなる切妻屋根状の部材である。反射防止材17がこのような形状であり、且つ非透光板171、172を、反射の大きい材料とすることで、直射防止材17に照射された光が反射されて、試料Lに取得されるため、図2の台状の直射防止材16と比較して、光取得における損失を減らすことができる。なお、図3においては、直射防止材17が2枚の非透光板171、172からなる例を示しているが、直射防止材17は1枚の非透光板を曲げて切妻屋根状の部材としてもよい。
【0047】
非透光頂面161としては、特に限定されないが、例えば黒体塗料を塗布した材料や、アルミニウムなど高い反射率を有する材料など、各種材料が挙げられる。
【0048】
そして、このような温度上昇測定装置1を用い、光照射装置10の光照射量および風量計13の風速を制御しながら、試料Lの表面Lに光を照射して、例えば数分以上経過するか、または温度平衡状態とした際の、光取得量および風速の組み合わせ条件(後述する算出工程において、その条件に置かれた場合の試料Lの断熱性の評価を行う)ごとの試料Lの温度を測定する(光照射後の試料の温度)。そして、この際(光照射後)に、試料Lを配置した広い空間の温度(光照射後の空間の温度)も測定する。この測定には、空間温度計14を用いる。この温度計は、光照射装置10から光が照射されず、かつ試料Lから50cm程度以内の位置に配置されており、上述した温度計11と同じ高さの空間の温度を測定する。そして、光照射後の試料の温度と、光照射後の空間の温度の差(光照射後の試料Lの温度-光照射後の空間の温度)をΔTとして算出する。
【0049】
なお、温度測定工程において、試料が取得した光取得量(J/m)は、日射計を用いて測定する。具体的には、温度測定工程の前に、予め同条件(同じ空間内、照射量、照射時間、室温)で、図1の試料Lの代わりに、日射計を、高さおよび距離も含め試料Lと同じ位置に置き、その日射計が測定した日射量(W/m)に、照射時間を積算して算出することができる。また、光照射装置10が全方向に(日射計の指示値の影響がない程度に)ほぼ等しく照射可能な装置である場合などには、温度測定工程の際に、日射計を、試料Lと同じ高さで、かつ、その日射計と光照射装置10の距離が、試料Lと光照射装置10の距離と等しくなるように配置し、その日射計により測定した日射量(W/m)に、照射時間を積算して算出することもできる。なお、上述したいずれの算出方法でも、日射計の指示値である日射量が、照射時間とともに変化するような場合には、定期的(例えば、1秒に1回、1分に1回など)に日射量を記録して、その測定間隔だけ時間を積算し、総和することで光取得量をより正確に算出することができる。
【0050】
なお、日射計を用いて予め日射量を算出する場合、その日射量と、温度測定工程における光取得量とを、誤差が無視できる程度に一致(再現)させる必要がある。両者に誤差が生じ得る要因としては、光照射装置10から試料Lまでの距離と光照射装置10から日射計までの距離との誤差、温度計の誤差・再現性、日射計の誤差・再現性などが挙げられる。また、光照射装置10として、例えばハロゲンライトを用いる場合、その電源電圧により、光照射装置10の照射量が変化し、日射計によって測定した日射量が大きく変動し得る。家庭用電源では、±5V程度の変化が見られるが、安定器などを用いて例えば±0.1V以下の変動に抑制することが好ましい。
【0051】
[算出工程]
算出工程では、試料Lの表面Lに、上述の温度測定工程で送風装置12において生じさせた風と同様の風が生じている場合の熱流束q12、q21を算出する。具体的に、算出工程では、空間を、試料Lの表面L側に位置する第1空間部と、試料Lの裏面L側に位置する第2空間部とに区分し、かつ試料Lの表面Lに光が照射されて、試料が温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料Lから第2空間部側への熱流束q12[W/m]を以下の(1)式により算出する。
12=I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(1)
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0052】
なお、より詳細に、εおよびεは、それぞれ試料Lの表面Lを構成する材料および裏面Lを構成する材料の放射率であって、それぞれの垂直放射率をJIS A5759:2008 表15に規定する係数によって換算した数値である(以下、このようにして換算した放射率を、「補正放射率」ということもある)。なお、試料Lが単一の素材から構成される場合には、ε=εとして、単一の素材の放射率を用いて求めればよい。また、試料Lが3枚以上の積層体から構成される場合には、1空間部、第2空間部の最表面の放射率をそれぞれε、εとする。また、ステファン=ボルツマン定数σは、5.67×10-8[W/(m・k)]である。
【0053】
また、Sabは日射吸収率であって、JIS A5759:2008に規定される方法によって測定された日射透過率と日射反射率の和を1から引いた数値である。
【0054】
そして、このようにして算出された熱流束q12が正の場合、第2空間部の温度が第1空間部の温度よりも高い(第1空間部の温度が第2空間部の温度よりも低い)にもかかわらず、第2空間部から第1空間部に熱が流れない。すなわち、このような場合、光照射による試料Lの温度上昇を測定した際の風速条件と同じ風速条件において、試料Lがその際の照射量と同じ量の光を取得し、かつ第1空間部の温度T、第2空間部の温度Tの条件において、完全断熱が達成できると判断することができる。すなわち、熱流束q12が0または正であれば、この値の大小や、第1空間部と第2空間部との間の温度差には関係なく、第2空間部の伝導熱は第1空間部へ移動しない。つまり、このような場合に試料Lを用いて完全断熱を達成可能と判断することができる。
【0055】
このことについてより具体的な例を挙げて説明する。第1空間部が外気、第2空間部が室内である場合、試料Lを用いて外気と室内を区分した場合において、熱流束q12が0または正であれば、室内の伝導熱は外気へ移動しないことを意味している。
【0056】
また、他の態様において、算出工程では、空間を、試料Lの表面L側に位置する第1空間部と、試料の裏面L側に位置する第2空間部とに区分し、かつ試料Lの表面Lに光が照射されて、試料Lが温度測定工程の光照射時と同じ量の光を取得した場合における、試料Lから第1空間部側への熱流束q21[W/m]を以下の(2)式により算出する。
21=-I×Sab×ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(2)
ここで、I[W/m]は試料の光取得量、Sabは日射吸収率、εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0057】
そして、このようにして算出された熱流束q21が負の場合、第1空間部の温度が第2空間部の温度よりも高い(第2空間部の温度が第1空間部の温度よりも低い)にもかかわらず、第1空間部から第2空間部に熱が流れない。すなわち、このような場合、光照射による試料Lの温度上昇を測定した際の風速条件と同じ風速条件において、試料Lがその際の照射量と同じ量の光を取得し、かつ第1空間部の温度T、第2空間部の温度Tの条件において、完全断熱が達成できると判断することができる。すなわち、熱流束q21が0または負であれば、この値の大小や、第1空間部と第2空間部との間の温度差には関係なく、第1空間部の伝導熱は第2空間部へ移動しない。つまり、このような場合に試料Lを用いて完全断熱を達成可能と判断することができる。
【0058】
このことについてより具体的な例を挙げて説明する。第1空間部が外気、第2空間部が室内である場合、試料Lを用いて外気と室内を区分した場合において、熱流束q21が0または負であれば、外気の伝導熱は室内へ移動しないことを意味している。
【0059】
以上の(1)式および(2)式の算出方法について、具体的に説明する。
【0060】
試料Lが、特定の照射量(I)の光を取得した場合、その取得した光は、透過光、反射光および吸収光の3つの成分に分けられる。このうち、吸収の成分は試料の光取得量をI、日射吸収率をSabとしてI×Sabと表される。そして、I×Sabで表されるエネルギーは、試料Lから第1空間への熱流束(上記(1)式にて求められる熱流束)、および試料Lから第2空間への熱流束(上記(2)式にて求められる熱流束)に分けられる。具体的に、I×Sabで表されるエネルギーのうち、それぞれの方向についての熱流束は、熱放射の量に比例して分けられる。
【0061】
ここで、ある1つの空間内(気温T)での物体(温度T)の同空間内への熱放射はステファン=ボルツマンの基本式(下記(3)式)で表される。
ε×σ×(T -T )・・・(3)
(ここで、εは放射率、Tは物体の温度、Tは空間の温度である。)
【0062】
このステファン=ボルツマンの基本式より、試料Lから第2空間部側への熱放射の割合、および試料Lから第1空間部側への熱放射の割合は、それぞれ下記(4)式および(5)で表される。
ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(4)
ε×σ×(ΔT -T )/[{ε×σ×(ΔT -T )}+{ε×σ×(ΔT -T )}] ・・・(5)
εは試料表面の放射率、εは試料裏面の放射率、σ[W/(m・k)]はステファン=ボルツマン定数、ΔTは、前記温度測定工程における、光照射後の試料の温度から、光照射後の前記空間の温度を差し引いたときの温度差[K]と第1空間部の温度[K]の和、T[K]は第1空間部の温度、T[K]は第2空間部の温度である。
【0063】
I×Sabに、それぞれ、上記(4)式および(5)式で表される割合をそれぞれ掛けることで、試料Lから第2空間部側への熱流束q12[W/m]、および試料Lから第1空間部側への熱流束q21[W/m]を算出する上記(1)式および(2)式が導かれる。
【0064】
なお、放射率εは、より詳しくは、波長範囲5.5~25.2μmの反射率は、その範囲の波長の電磁波を照射したときの反射率を用い、波長範囲25.2~50μmの反射率は、25.2μmの波長の電磁波を照射したときの反射率を用い、(1-反射率)の式から算出する。
【0065】
算出工程において、熱流束を算出するための系は、試料Lによって第1空間部と第2空間部の2つの空間に区分(分断)されている。そして、試料Lが吸収した熱は、各要素の絶対温度の4乗の差と、試料Lの第1空間部側の表面(L)の素材と、第2空間側の裏面(L)の素材が持つそれぞれの放射率に比例して、各方向に分配されて放射される。試料Lが吸収した熱量は、(光取得量I×日射吸収率Sab)であり、このときエネルギー保存則から、|q21|+|q12|に等しい。上記(3)式を用いて算出した、試料Lから第1空間部側への熱放射率をq、試料Lから第2空間部側への熱放射率をqとすると、試料Lから第1空間部への熱流束q21は、q21=-光取得量I×日射吸収率Sab×q/(q+q)と分配される。また、試料Lから第2空間部への熱流束q12は、q12=光取得量I×日射吸収率Sab×q/(q+q)と分配される。
【実施例0066】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0067】
(断熱性の確認)
6面全て厚さ5mmのガラス(日射吸収率9.7%、放射率0.842)で出来た同じケースを2つ用意した。一方には、その表面6面全てにフィルム(日射吸収率44.5%、放射率0.887)を貼付して用いた(以下、同じガラスに同じフィルムを貼付して得られた試料を「試料A」と呼ぶ。)。もう一方は、何も貼付することなく、そのままガラスのケースを用いた。
【0068】
これらのケースについて、第1空間部をケースの外側、第2空間部をケースの内側とした。環境条件は、自然太陽光の下(平均2.06MJ/mの日射量)、外気温17℃、風速0.58m/sであった。ガラスケースの内側には、100W電球を1つ設置し、ケースの外側より13K高い温度(30℃)になるまで一度加熱し消灯する。ここから1℃下がり(29℃、外気温より12K高い温度)に下がったら再点灯させ、これを繰り返し、ガラスケース内が29~30℃の範囲で60分維持し、その消費電力を記録した。この結果、フィルムを貼付しなかったケースを用いた場合、消費電力が44.6Whであり、これに対しフィルムを貼付したケース(試料Aを6面配置して構成したケース)を用いた場合、消費電力が実験開始時に17℃から30℃へケース内温度を上げるときに消費した2.2Whのみであり、以降、消費電力は0であった。このように試料Aは、ガラスに比べて、室内の温度を維持する能力が優れることが分かった。
【0069】
(比較例)
試料Aについて、熱貫流率をJIS A5759:2008にしたがい測定したところ、第1空間部側の表面(ガラス)の補正放射率eが0.842、第2空間部側の裏面(フィルム貼付側)の補正放射率eが0.882であり、熱貫流率Uは6.1[W/(m・K)]と算出された。すなわち、JIS A5759:2008によれば、この試料Aは、ガラス(熱貫流率:6.0[W/(m・K)])よりも熱貫流率が高く、ガラスより断熱性に劣るものと判断された。
【0070】
(実施例)
図1に示す装置を用いて、試料Aおよびガラスについて、略無風(下記表1において、「≒0」と示す)または風速0.5m/s、1m/s、2m/sもしくは3m/sそれぞれの条件において、139W/m、278W/m、556W/mまたは833W/mの光照射量を取得したときの、試料Aおよびガラスと測定室温度との温度差(T)を算出した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
試料A(5mmの板ガラスに日射吸収率44.5%、放射率0.887のフィルムを貼付)を用いて、閉空間内で第1空間部および第2空間部を分断し、第2空間部の温度20℃、第1空間部の風速0.15m/s、光照射取得量555W/mの場合において、第1空間部の温度を変化させた場合の、(1)式を用いて算出した表面側から裏面側への熱流束、および(2)式を用いて算出した裏面側から表面側への熱流束対第1空間部温度と第2空間部温度との温度差のプロットを図4に示す。また、試料Aに代えてガラスを用いた場合の、(1)式を用いて算出した表面側から裏面側への熱流束および(2)式を用いて算出した裏面側から表面側への熱流束対第1空間部温度と第2空間部温度との温度差のプロットを図4に示す。
【0073】
図4および図5の横軸は第1空間部の温度と、第2空間部の温度差(第1空間部の温度-第2空間部の温度)である。また、図4および図5の縦軸(熱流束)が正である場合、熱流束が試料から第2空間へ向いていることを示し、縦軸(熱流束)が負である場合、熱流束が試料から第1空間へ向いていることを示す。熱力学第二法則にしたがえば、熱流束が正の場合に対応する温度差を、第1空間部と第2空間部とが有している場合、第2空間部から第1空間部へ伝導熱が移動しないことを意味する。一方、熱流束が負の場合に対応する温度差を、第1空間部と第2空間部とが有している場合第1空間部から第2空間部へ伝導熱が移動しないことを意味する。
【0074】
次に、図4および図5の縦軸(熱流束)が0となるときの横軸(温度差)、つまり、試料Aから第2空間部への熱流束が始まる横軸(温度差)の位置(以下、「起点」ということもある。)に注目すると、試料Aの起点の方が、ガラスの起点より左側、つまりガラスよりも第1空間部と第2空間部との温度差がより大きいときでも熱流束が発生していることが分かる。例えば、第1空間部を屋外、第2空間部を室内とし、室内を暖房して室温が20℃の場合に、試料Aの起点(熱流束が0になるときの、第1空間部と第2空間部との温度差)は-20.9Kであるから、外気温-0.9℃以上で完全断熱が起こる。これに対し、ガラスの起点(熱流束が0になるときの、第1空間部と第2空間部との温度差)は11.8Kであるから、外気温8.2℃以上のときに完全断熱が起こる。よって試料Aはガラスのみと比較して、外気温が9.1K低い条件でも完全断熱が起きるといえ、試料Aの断熱性はガラスより優れると評価できる。
【0075】
以上のとおり、JIS A5759:2008の規格に基づく評価方法では、試料Aは、ガラスに比べて断熱性が劣っているとの評価結果であったのに対し、本発明に係る評価方法によれば、試料Aは、ガラスに比べて断熱性が優れているとの評価結果が得られた。そして、本発明に係る評価方法の結果は、実際に断熱性を確認した結果と一致する。
【符号の説明】
【0076】
1 温度上昇測定装置
10 光照射装置
11 試料温度計
12 送風装置
13 風量計
14 空間温度計
15 試料支持体
16,17 直射防止材
161 非透光頂面
162 支持部
171,172 非透光板
L 試料
(試料の)表面
(試料の)裏面
図1
図2
図3
図4
図5