(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191546
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】マルチウェルプレート、ウェルプレートキット、及び、タンパク質の結晶化方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221221BHJP
C07K 1/02 20060101ALI20221221BHJP
C07K 1/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C07K1/02
C07K1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099814
(22)【出願日】2021-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「レドックス環境応答能を持つ歯周病細菌由来の膜小胞」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB15
4B029CC01
4B029GA03
4B029GB06
4B029GB07
4B029GB10
4B029HA02
4B029HA05
4B029HA10
4H045AA20
4H045EA60
4H045GA40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】還元状態におけるタンパク質の結晶化条件の探索、及び、その結晶化を容易に実施できるマルチウェルプレートの提供。
【解決手段】複数のウェル11が内部に形成されたフレーム12を有するマルチウェルプレート10であって、隣接する一対の上記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部と、隣接する上記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが内部に形成されたフレームを有するマルチウェルプレートであって、
隣接する一対の前記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部と、
隣接する前記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレート。
【請求項2】
前記電極を有するウェルの断面積が、前記底部から、前記ウェルの開口部へと向かう深さ方向に沿って漸増する、請求項1に記載のマルチウェルプレート。
【請求項3】
タンパク質の結晶化用である、請求項1又は2に記載のマルチウェルプレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチウェルプレートと、前記ウェルを密封するためのシールとを備える、ウェルプレートキット。
【請求項5】
前記シール、及び、前記フレームからなる群より選択される少なくとも一方が透光性を有する、請求項4に記載のウェルプレートキット。
【請求項6】
複数のウェルが内部に形成されたフレーム、隣接する一対の前記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部、及び、隣接する前記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレートの一対のウェルの一方にタンパク質溶液を収容し、他方に試薬液を収容し、前記ウェルを密封することと、
前記電極の電位を負に調整することと、
前記一対のウェル間での蒸気拡散によって、前記タンパク質の結晶を形成することと、を含む、タンパク質の結晶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチウェルプレート、ウェルプレートキット、及び、タンパク質の結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の機能の発現の研究には、タンパク質の結晶構造の解析がますます重要になってきている。このようなタンパク質の結晶構造の解析には、良質なタンパク質結晶を得ることが不可欠であるものの、結晶化条件に関する情報が乏しいタンパク質では、その条件の探索だけでも非常に煩雑となることもあり、探索の自動化や、多様な条件を短時間のうちに試行できる方法や装置の開発が進められている。
【0003】
従来から、タンパク質の結晶化方法は複数知られているが、少ない量のタンパク質から多数の結晶化条件を試行できる点で、蒸気拡散法が多く用いられている。蒸気拡散法に用いる器具としては、操作が簡単で、自動化にも親和性が高いマルチウェルプレートが用いられる場合がある。
【0004】
このようなウェルプレートとして、特許文献1には、「複数のウェルが内部に形成されたフレームを有するマルチウェルプレートであって、それぞれのウェルが、相対的に大きい容積を有する第一のウェル、および相対的に小さい容積を有し、前記第一のウェルの少なくとも一部の上方に位置するように配置される第二のウェル、を有してなることを特徴とするマルチウェルプレート。」が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、「結晶化の実験を行う際に使用するためのキットにおいて、それぞれ結晶化溶液を受け入れるために上端が開口している複数のくぼみを有する事前充填された結晶化プレートと、前記くぼみの中の前記結晶化溶液を一時的に気密密封して、前記事前充填された結晶化プレートを利用前に安全に移送し取り扱うことができるようにするための、前記各くぼみにその上端から或る距離だけ下方に窪ませた個別のシールを含んでいる第1 水準のシールと、前記個別のシールが破られた後で蒸気拡散が起きるようにすることを目的に、前記くぼみの前記第1水準のシールの上方を密封できるようにするための、前記プレート上の前記第1水準のシールの上方の密封面を含んでいる第2 水準のシールと、を備えているキット。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006-514580号公報
【特許文献2】特表2006-525864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タンパク質の結晶構造の解析においては、結晶内の環境を生体内の環境と大きく異ならない様に調整し、タンパク質の活性を維持することが重要と考えられている。タンパク質の中には、酸化によって活性を速やかに失うようなものも知られており、このようなタンパク質の良質な結晶を得るためには還元状態での結晶化条件の探索が不可欠だった。
【0008】
従来、上記のような還元状態の結晶化条件の探索には、嫌気グローブボックス内に必要な器具、及び、装置を載置して実験を行う必要があり、装置が大掛かりで、かつ、作業効率も悪く、多数の条件を迅速に試行するには、改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、還元状態におけるタンパク質の結晶化条件の探索、及び、その結晶化を容易に実施できるマルチウェルプレートを提供することを課題とする。
また、本発明は、ウェルプレートキット、及び、タンパク質の結晶化方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0011】
[1] 複数のウェルが内部に形成されたフレームを有するマルチウェルプレートであって、隣接する一対の上記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部と、隣接する上記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレート。
[2] 上記電極を有するウェルの断面積が、上記底部から、上記ウェルの開口部へと向かう深さ方向に沿って漸増する、[1]に記載のマルチウェルプレート。
[3] タンパク質の結晶化用である、[1]又は[2]に記載のマルチウェルプレート。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のマルチウェルプレートと、上記ウェルを密封するためのシールとを備える、ウェルプレートキット。
[5] 上記シール、及び、上記フレームからなる群より選択される少なくとも一方が透光性を有する、[4]に記載のウェルプレートキット。
[6] 複数のウェルが内部に形成されたフレーム、隣接する一対の上記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部、及び、隣接する上記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレートの一対のウェルの一方にタンパク質溶液を収容し、他方に試薬液を収容し、上記ウェルを密封することと、
上記電極の電位を負に調整することと、上記一対のウェル間での蒸気拡散によって、上記タンパク質の結晶を形成することと、を含む、タンパク質の結晶化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、還元状態におけるタンパク質の結晶化条件の探索、及び、その結晶化を容易に実施できるマルチウェルプレートが提供できる。また、本発明によれば、タンパク質の結晶化方法も提供できる。
【0013】
本発明のマルチウェルプレートは、蒸気拡散が可能な一対のウェルの一方の底部に電極を有する点に特徴点の一つがある。このように構成されたマルチウェルプレートでは、電極を有するウェルにタンパク質溶液を収容し、他方のウェルに試薬液(典型的には高濃度の塩溶液)を収容し、電極に負の電位を印加することで、タンパク質を還元状態としながら蒸気拡散法による結晶化実験が実施できる。
【0014】
また、上記電極を有するウェルの断面積が、上記底部から、上記ウェルの開口部へと向かう深さ方向に沿って漸増する場合、収容されたタンパク質溶液が底部へと集まりやすく、電極と接触しやすい点で好ましい。タンパク質の結晶化条件の探索や結晶化の実験において、使用できるタンパク質溶液の量には制限がある場合が多い。そのような、少ない量のタンパク質溶液であっても、上記構成によって、確実に電極に接触させることができ、より優れた本発明の効果が得られる。
【0015】
本発明のウェルプレートキットは、上記マルチウェルプレートと、上記ウェルプレートが有するウェルを密封するためのシールとを備える。このように構成されたマルチウェルプレートによれば、従来、嫌気グローブボックス内で行われていた還元状態のタンパク質の結晶化条件の探索、及び、結晶化を、より簡易な装置、及び、より操作のしやすい環境で行うことができる。
【0016】
また、シール、及び/又は、フレームが透光性を有する場合、結晶化の進捗を観察できる点で好ましい。
【0017】
本発明のタンパク質結晶化方法は、複数のウェルが内部に形成されたフレーム、隣接する一対の上記ウェル間での蒸気拡散を可能にするための連通部、及び、隣接する上記一対のウェルの一方の底部に電極と、を有する、マルチウェルプレートの一対のウェルの一方にタンパク質溶液を収容し、他方に試薬液を収容し、ウェルを密封することと、電極の電位を負に調整することと、一対のウェル間での蒸気拡散によって、タンパク質の結晶を形成することと、を含む。
【0018】
上記方法によれば、タンパク質溶液に対して常に負の電位を印加しながら結晶化条件の探索、及び、結晶化をより簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチウェルプレートの平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るマルチウェルプレートのA-A′部分の拡大図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るマルチウェルプレートのA-A′部分の底面である。
【
図4】本発明の実施形態に係るマルチウェルプレートのB-B′断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチウェルプレートの平面図であり、
図2は、A-A′部分の拡大図であり、
図3は、A-A′部分の底面図であり、
図4はB-B′断面図である。
【0022】
マルチウェルプレート10には、試料を収容するためのウェル11の配列を有する。マルチウェルプレート10は通常、フレーム12内で互いに垂直な行と列のマトリクスで配置される。
マルチウェルプレート10のウェル11は、8×12の96ウェルのマトリクスで配置されているが、ウェルの配置は上記に制限されない。
上記外にも、例えば、4×6(24ウェル)、16×24(384ウェル)、及び、32×48(1536ウェル)の配置等が挙げられる。
【0023】
マルチウェルプレート10のそれぞれのウェル11は、隣り合う2つのウェル11が対を成しており、平面視で左側方がタンパク質ウェル13、右側方がリザーバウェル14となっている。
なお、マルチウェルプレート10においては平面視で左右の隣り合うウェル11が対になっているが、本発明のマルチウェルプレートとしては上記に制限されず、平面視で上下のウェル11が対を成していてもよい。
【0024】
タンパク質ウェル13は、底部から開口へと向かう厚み方向に沿って断面積が漸増するテーパー状の側壁を有しており、底部には電極セット18が配置されている。
なお、タンパク質ウェル13は底部から開口へと向かう厚み方向に沿って、断面積が漸増する部分と、断面積が略同一な部分とを有しているが、本発明のマルチウェルプレート10が有するタンパク質ウェル13の側壁の形態としては上記に制限されず、側壁の全体がテーパーを有する、つまり、底部から開口へと向かう厚み方向の全体にわたって厚みが増大する形態(例えば、すり鉢状の形態)であってもよい。
【0025】
このように開口から底部へと向かって順次、断面積が絞られていく形態のタンパク質ウェル13によれば、タンパク質溶液43の量が少ない場合であっても、ピペッティングされたタンパク質溶液43が、電極セット18と接触しやすい。
【0026】
リザーバウェル14は、垂直な側壁と底により区画されているが、リザーバウェル14の形状としては上記に制限されない。
【0027】
なお、タンパク質ウェル13の底部とリザーバウェル14の底部とは断面視でマルチウェルプレート10の厚み方向に関して略同一の高さに形成されているが、上記に制限されず、タンパク質ウェル13の底部が、リザーバウェル14の底部より高い(断面視で上方)位置に配置されていてもよい。
【0028】
電極セット18は、3つの電極15~17からなり、それぞれ、検体に電位を印加するための作用電極15、対電極16、及び、参照電極17からなる。
これらの各電極は、マルチウェルプレート10の厚み方向に沿って設けられた図示しない貫通孔を介して、マルチウェルプレート10裏面のコネクタ33~35とそれぞれ接続されている。なお、
図3における領域30は、タンパク質ウェル13の位置に、領域31は、リザーバウェル14の位置に対応している。
各コネクタは、典型的には個別にポテンシオスタットに接続され、各ウェル11毎に定められた条件に従って作用電極15の電位を制御する。
【0029】
なお、マルチウェルプレート10が有する電極セット18は3個の電極15~17を有しているが、本発明のマルチウェルプレート10が有する電極セット18は上記に制限されず、2個以上の電極から形成されていればよく、4個以上の電極から形成されていてもよい。電極の数は、一般に10個以下が好ましい。
【0030】
タンパク質ウェル13とリザーバウェル14とは、ウェル11の深さ方向の中途に設けられ、タンパク質ウェル13とリザーバウェル14との間での蒸気拡散を可能にするための連通部19が設けられている。連通部19の形状、及び、位置は特に制限されず、タンパク質溶液43と試薬液44とが互いに混合せず、かつ、上記のやり取りが可能であればよい。
【0031】
次に、マルチウェルプレート10の使用方法について説明する。
まず、試薬液44がリザーバウェル14に収容される。典型的には、試薬液44は高濃度の塩溶液である。次に、タンパク質溶液43が13タンパク質ウェルに収容される。次に、マルチウェルプレート10の上部がシールされる。
【0032】
次に、作用電極15の電位が制御され、タンパク質溶液43に負の電位が印加される。印加される電位は0V未満であれば特に制限されないが、例えば、銀/塩化銀電極を基準として、電位窓の下限値を超える電位であって、0V未満であることが好ましい。
作用電極15の電位を、電位窓の下限値を超える電位に制御することによって、カソード反応で水素が発生するのが抑制され、タンパク質が還元状態に保持されやすく、より優れた本発明の効果が得られる。
【0033】
このようにすると、蒸気拡散過程によって、タンパク質溶液43は試薬液44と相互作用してタンパク質結晶が得られる。この際も、作用電極15の電位を負に維持することによって、還元状態でタンパク質の結晶化を行い、結晶化したタンパク質も還元状態に維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のマルチウェルプレートによれば、還元状態におけるタンパク質の結晶化条件の探索を、グローブボックスを使用しなくても行うことができる。本発明のマルチウェルプレートによれば、多くの結晶化条件を同時並行的に試行できるため、特に、生体由来のタンパク質の機能研究のための優れた実験器具となる。
【符号の説明】
【0035】
10 :マルチウェルプレート
11 :ウェル
12 :フレーム
13 :タンパク質ウェル
14 :リザーバウェル
15 :作用電極
16 :対電極
17 :参照電極
18 :電極セット
19 :連通部
33、34、35 :コネクタ
43 :タンパク質溶液
44 :試薬液