IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特開2022-191566導電性高分子分散液及びその製造方法、コーティング組成物、並びに導電性積層体及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191566
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液及びその製造方法、コーティング組成物、並びに導電性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20221221BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20221221BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20221221BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20221221BHJP
   C09D 181/00 20060101ALI20221221BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L101/02
C08L25/18
C08G61/12
C09D5/24
C09D181/00
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099854
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J032
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK42B
4F100AK80A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA12A
4F100CA303
4F100EH46A
4F100JA06A
4F100JG01A
4J002BC10X
4J002CE00W
4J002GF00
4J002GH00
4J002HA06
4J032BA04
4J032BB01
4J032BC03
4J032BC08
4J032BC12
4J032BC32
4J038DK001
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA20
(57)【要約】
【課題】水溶性有機溶剤と併存する場合にも分散安定性が優れる導電性高分子分散液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であって、前記重合工程において過硫酸水素塩化合物を酸化剤として用いる、導電性高分子分散液の製造方法;ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液であって、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の含有量が1質量%であるとき、23℃における粘度が20mPa・s以下である、導電性高分子分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であって、
前記重合工程において過硫酸水素塩化合物を酸化剤として用いる、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記過硫酸水素塩化合物が、過硫酸水素カリウムであるか、又は、過硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウム及び硫酸カリウムからなる複塩である、請求項1に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程において、前記水溶媒の重量を100質量部としたときに、前記チオフェン系化合物と前記ポリアニオンの固形分重量の和が2質量部以上となる条件で重合させる、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記チオフェン系化合物の重量を10質量部としたときに、前記過硫酸水素塩化合物の添加量が10質量部以上100質量部以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記ポリチオフェン系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程にて得られた導電性高分子分散液を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方に接触させるイオン交換工程を有する、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項7】
ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液であって、
前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の含有量が1質量%であるとき、23℃における粘度が20mPa・s以下である、導電性高分子分散液。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性高分子分散液と、水溶性有機溶剤とを含有するコーティング組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の導電性高分子分散液又は請求項8に記載のコーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
【請求項10】
基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、請求項7に記載の導電性高分子分散液又は請求項8に記載のコーティング組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子分散液及びその製造方法、コーティング組成物、並びに導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料又はその成分として、π共役系導電性高分子にポリアニオンがドープした導電性複合体を含む導電性高分子分散液を使用することがある。例えば、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は水に対して分散し難いが、これにポリスチレンスルホン酸がドープしてPEDOT-PSSを形成することにより、水に対する分散性が高まる。特許文献1には、導電性複合体を水に分散させた後、180日以上経過させることにより、導電性複合体の親水性を向上させたり、エポキシ化合物に対する反応性を向上させたりする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-31013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、導電性複合体にエポキシ化合物を反応させた後、有機溶剤に溶解した塗料とすることにより、疎水性のフィルム基材に対する濡れ性を高めている。一方、導電性複合体をエポキシ化合物との反応によって疎水化しない場合、導電性高分子分散液にアルコール等の水溶性有機溶剤を添加して、フィルム等の基材に対する濡れ性を高めることが通常行われる。しかし、水溶性有機溶剤を添加した塗料中における導電性複合体の分散安定性は必ずしも高くなく、水溶性有機溶剤の添加後に数十時間で分散性が低下することがある。分散性が低下した塗料を塗布して形成される導電層の導電性も低下する。このため、分散処理を行った導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を添加して塗料を得た後、その塗料中における導電性複合体の分散性を維持することが求められている。
【0005】
本発明者は、コーティング組成物(塗料)を調製する前の導電性高分子分散液を調製する段階で、低粘度の導電性高分子分散液が得られるように導電性複合体の合成を工夫することにより、導電性複合体の分散性を高めた導電性高分子分散液を得る方法、及び、水溶性有機溶剤を添加してコーティング組成物とした後でも導電性複合体の分散性の経時的な低下が抑制される導電性高分子分散液を製造する方法を鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、水溶性有機溶剤と併存する場合にも分散安定性が優れる導電性高分子分散液及びその製造方法を提供する。また、前記導電性高分子分散を含むコーティング組成物と、前記導電性高分子分散液又は前記コーティング組成物を用いた導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であって、前記重合工程において過硫酸水素塩化合物を酸化剤として用いる、導電性高分子分散液の製造方法。
[2] 前記過硫酸水素塩化合物が、過硫酸水素カリウムであるか、又は、過硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウム及び硫酸カリウムからなる複塩である、[1]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[3] 前記重合工程において、前記水溶媒の重量を100質量部としたときに、前記チオフェン系化合物と前記ポリアニオンの固形分重量の和が2質量部以上となる条件で重合させる、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[4] 前記重合工程において、前記チオフェン系化合物の重量を10質量部としたときに、前記過硫酸水素塩化合物の添加量が10質量部以上100質量部以下である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[5] 前記ポリチオフェン系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[6] 前記重合工程にて得られた導電性高分子分散液を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方に接触させるイオン交換工程を有する、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[7] ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液であって、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の含有量が1質量%であるとき、23℃における粘度が20mPa・s以下である、導電性高分子分散液。
[8] [7]に記載の導電性高分子分散液と、水溶性有機溶剤とを含有するコーティング組成物。
[9] [7]に記載の導電性高分子分散液又は[8]に記載のコーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
[10] 基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、[7]に記載の導電性高分子分散液又は[8]に記載のコーティング組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、高圧ホモジナイザー等を用いた高圧分散処理を施さずとも低粘度の導電性高分子分散液を製造することができる。
本発明の導電性高分子分散液は、従来品に比べて格段に低い粘度を呈する。また、水溶性有機溶剤と混合したコーティング組成物としたときの保存安定性に優れる。
本発明の導電性積層体にあっては、導電層の外観が優れる。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、上記の導電性積層体を容易に製造することができる。
【0009】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有し、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の含有量が1質量%であるとき、23℃における粘度が20mPa・s以下である、導電性高分子分散液である。
【0012】
[導電性複合体]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体は、ポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはポリチオフェン系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0013】
(ポリチオフェン系導電性高分子)
ポリチオフェン系導電性高分子の主鎖は、チオフェン系化合物が重合することによりπ共役系を構成している。
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
これらのポリチオフェン系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるポリチオフェン系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、ポリチオフェン系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、ポリチオフェン系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは2万以上100万以下であることが好ましく、5万以上80万以下であることがより好ましい。
重量平均分子量Mwが上記の好適な範囲であると、本態様の導電性高分子分散液および後述する第二態様の塗料における導電性複合体の分散安定性がより向上する。
重量平均分子量Mwは、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0016】
ポリチオフェン系導電性高分子にドープしたポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がポリチオフェン系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0017】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、ポリチオフェン系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、ポリチオフェン系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ポリチオフェン系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0018】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量としては、0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子分散液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0019】
本態様の導電性高分子分散液の23℃における粘度は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.0質量%に調整した時に、20mPa・s以下であり、15mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以下がさらに好ましい。上記粘度の下限値は特に制限されず、目安として0.1mPa・s以上が挙げられる。
上記の好適な範囲であると、導電性高分子分散液をイオン交換樹脂に接触させることが容易であり、接触後のイオン交換樹脂を分離することも容易である。また、上記の低い粘度は、導電性高分子分散液中の導電性複合体の分散性が高いことと相関する。上記の低いい粘度の導電性高分子分散液は、高圧ホモジナイザー等の高圧分散処理をする必要がなく、基材に塗工して形成される導電層の導電性や透明性が優れる。
上記粘度の測定の際、前記導電性高分子分散液に含まれる分散媒はイオン交換水のみであることが好ましい。また、前記導電性複合体以外の添加剤を含まないことが好ましい。
上記粘度の測定は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して、23℃で測定された値である。
【0020】
≪コーティング組成物(塗料)≫
本発明の第二態様は、第一態様の導電性高分子分散液と、水溶性有機溶剤とを含む、コーティング組成物である。本態様のコーティング組成物において、前記導電性複合体は分散状態にある。
【0021】
本態様のコーティング組成物は、水と水溶性有機溶剤とを含む。水と水溶性有機溶剤の混合液を水系分散媒ということがある。
【0022】
水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
本態様のコーティング組成物の基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましく、アルコール系溶剤がより好ましい。
【0023】
水系分散媒の総質量に対する水溶性有機溶剤の含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。前記水溶性有機溶剤の含有量は、90質量%以下が好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様のコーティング組成物における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制しつつ、基材に対する濡れ性を向上させることができる。
【0024】
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。水の含有量は、導電性複合体の分散性を高める観点から、10質量%以上が好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様のコーティング組成物における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制しつつ、基材に対する濡れ性を向上させることができる。
【0025】
本態様のコーティング組成物の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上1質量%以下が特に好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様のコーティング組成物における導電性複合体の分散安定性の低下を抑制することができ、基材に塗工して良好な導電性の導電層を形成することができる。
【0026】
<バインダ成分>
本態様のコーティング組成物は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記ポリチオフェン系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0027】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様のコーティング組成物が含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0028】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、本態様のコーティング組成物を基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0029】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0030】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0031】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0032】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0033】
本態様のコーティング組成物におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、本態様のコーティング組成物を基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0034】
(その他の添加剤)
前記コーティング組成物及び前記導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0035】
本態様のコーティング組成物は、第一態様の導電性高分子分散液に、水、水溶性有機溶剤、バインダ成分、その他の添加剤等を適宜添加し、常法により混合して製造することができる。
【0036】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
本発明の第三態様は、水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であり、前記重合工程において過硫酸水素塩化合物を酸化剤として用いる。
【0037】
モノマーであるチオフェン系化合物と、ポリアニオンとを任意の含有比で含む水溶液(反応液)を調製し、過硫酸水素塩化合物の作用により前記チオフェン系化合物を重合させることにより、ポリチオフェン系導電性高分子を形成する。前記反応液において、ポリチオフェン系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、ポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。形成された導電性複合体に含まれる、ポリチオフェン系導電性高分子:ポリアニオンの含有比(質量基準)は、前記反応液中に重合開始直前に含まれていた前記チオフェン系化合物の含有量と、前記ポリアニオンの含有量の比率と同じである。つまり、前記反応液中に配合したモノマーとポリアニオンの含有比が、形成した導電性複合体におけるポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンの含有比に反映される。
【0038】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記チオフェン系化合物:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:2)~(1:5)が好ましく、(1:2)~(1:4.5)がより好ましく、(1:3)~(1:4)がさらに好ましい。
上記範囲であると、前述した第一態様の導電性高分子分散液を容易に形成することができる。
【0039】
重合工程において、前記水溶媒の重量を100質量部としたときに、前記チオフェン系化合物と前記ポリアニオンの固形分重量の和が、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは3.5質量部以上となる条件で重合させることが望ましい。上記和の上限値の目安は例えば7質量部が挙げられる。
上記好適な範囲で重合させると、得られる導電性高分子の導電性が良好となるメリットがある。
【0040】
前記酸化剤である過硫酸水素塩化合物は、例えば、一般式:MHSO(MはNa,K等の任意のアルカリ金属を表す。)を含む化合物であり、複塩であってもよい。
前記過硫酸水素塩化合物は、過硫酸水素カリウム(別名:一過硫酸カリウム、ペルオキシ一硫酸カリウム)であるか、又は、過硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウム及び硫酸カリウムからなる複塩(化学式:2KHSO・KHSO・KSO)であることが好ましい。上記の好適な化合物であると、低粘度で高分散の導電性高分子分散液をより容易に形成することができる。
【0041】
前記反応液において、前記チオフェン系化合物の重量を10質量部としたときに、前記過硫酸水素塩化合物の合計の添加量は、10質量部以上100質量部以下が好ましく、20質量部以上80質量部以下がより好ましく、30質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。上記の好適な範囲であると、低粘度で高分散の導電性高分子分散液をより容易に形成することができる。
【0042】
前記反応液には触媒を添加してもよい。触媒は、前記チオフェン系化合物の重合を促進させるものであれば特に制限されず、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。なかでも、室温における重合が安定に進むことから、鉄を含む触媒を使用することが好ましい。
【0043】
前記反応液に添加する触媒の含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.001質量%以上2質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が安定に進み、導電性の良い導電性複合体を容易に得ることができる。
【0044】
前記反応液に含有させるポリアニオンの説明は、第一態様のポリアニオンの説明と同様であるので重複する説明は省略する。
【0045】
前記反応液に含有させるチオフェン系化合物の具体例としては、第一態様のポリチオフェン系導電性高分子のモノマー単位を構成する化合物が挙げられる。
【0046】
以上の方法により、第一態様の導電性高分子分散液が得られる。重合反応後に形成される導電性複合体の分散性が優れるので、高圧ホモジナイザー等を用いた高圧分散処理や、微細粒子の小径化を図るための高出力の分散装置を用いた分散処理は不要である。
【0047】
導電性高分子分散液の使用前に、前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を除去してもよい。除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0048】
≪導電性積層体≫
本発明の第三態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、第一態様の導電性高分子分散液又は第二態様のコーティング組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
【0049】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0050】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
【0051】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0052】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0053】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0054】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0055】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0056】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0057】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第四態様は、基材の少なくとも一部の面に、第一態様の導電性高分子分散液又は第二態様のコーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第三態様の導電性積層体を製造することができる。
【0058】
導電性高分子分散液又はコーティング組成物を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0059】
導電性高分子分散液又はコーティング組成物の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0060】
基材上に塗工した導電性高分子分散液又はコーティング組成物からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
【実施例0061】
[ポリアニオンの準備]
原料としてシグマアルドリッチ社製の重量平均分子量70,000~200,000のポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)水溶液(濃度25~30%)もしくは重量平均分子量800,000の粉体を用いた。
まず、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)の粉体もしくは水溶液にイオン交換水を加えて固形分濃度15wt%の均一な水溶液に調整し、pHが1未満になるまで陽イオン交換樹脂を加えた。その後、ステンレスメッシュフィルターで陽イオン交換樹脂を濾別し、イオン交換水で固形分濃度を10wt%に調整して、ポリスチレンスルホン酸水溶液(PSS水溶液)を得た。
なお、PSSの重量平均分子量は、高速液体ゲル濾過クロマトグラフィーシステムを用い、プルランを標準物質として測定されたものである。
【0062】
[チオフェン系化合物の準備]
市販の3,4-エチレンジオキシチオフェン(東京化成工業社製)を購入し、反応に使用する前に減圧蒸留により精製した。
【0063】
[実施例1]
137gの固形分濃度10wt%の重量平均分子量200,000のポリ(4-スチレンスルホン酸)水溶液に、360gの希釈用のイオン交換水と、1.0gの硫酸第二鉄(東京化成工業社製)を加え、流量毎分1Lの窒素で10分間バブリングし、窒素雰囲気下で撹拌して25℃に保った。この水溶液に、蒸留精製した3.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンを加えた。続けて酸化剤として、15.3gの過硫酸水素塩化合物であるオキソン(過硫酸水素カリウムと硫酸カリウムと硫酸水素カリウムの三重塩、化学式2KHSO5・KHSO4・K2SO4、富士フイルム和光純薬社製)を加え、窒素雰囲気下、25℃で30分間撹拌して反応させ、PEDOT-PSSを合成した。この反応において、水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は3.6質量部だった。
この反応液に60gの陽イオン交換樹脂と60gの陰イオン交換樹脂を加え、5分間撹拌した後に2時間静置した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別することで、水分散媒と、固形分濃度2.7wt%のPEDOT-PSSとを含む導電性高分子分散液を得た。
【0064】
[実施例2]
137gの固形分濃度10wt%の重量平均分子量800,000のポリ(4-スチレンスルホン酸)水溶液を用い、希釈用のイオン交換水を565gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。反応時の水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は2.5質量部であり、導電性高分子分散液の固形分濃度は2.1wt%だった。
【0065】
[実施例3]
81gの固形分濃度10wt%の重量平均分子量200,000のポリ(4-スチレンスルホン酸)水溶液を用い、希釈用のイオン交換水を159gに変更し、さらに反応温度を10℃とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。反応時の水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は5.0質量部であり、導電性高分子分散液の固形分濃度は3.6wt%だった。
【0066】
[実施例4]
81gの固形分濃度10wt%の重量平均分子量70,000のポリ(4-スチレンスルホン酸)水溶液を用い、希釈用のイオン交換水を307gに変更し、酸化剤として7.7gのオキソンと3.0gの過硫酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。反応時の水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は3.1質量部であり、導電性高分子分散液の固形分濃度は2.2wt%だった。
【0067】
[実施例5]
希釈用のイオン交換水を1440gに変更し、反応時間を90分とし、イオン交換樹脂の濾別後に減圧濃縮の工程を加えた以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。反応時の水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は1.1質量部であり、導電性高分子分散液の固形分濃度は2.0wt%だった。
【0068】
[比較例1]
酸化剤として3.0gの過硫酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。反応時の水溶媒の重量を100質量部としたときのチオフェン化合物とポリアニオンの固形分重量の和は3.6質量部であり、導電性高分子分散液の固形分濃度は2.6wt%だった。
【0069】
[比較例2]
比較例1で得た導電性高分子分散液を、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、低粘度化した導電性高分子分散液を得た。
【0070】
[比較例3]
酸化剤として3.0gの過硫酸ナトリウムを用いた以外は実施例2と同様に反応を行ったが、反応液が高粘度化し、ゲル状態となった。イオン交換工程が実施できず、導電性高分子分散液を得ることはできなかった。
【0071】
<粘度の評価>
実施例1~5および比較例1~2で得られた導電性高分子分散液の23℃における粘度を、振動式粘度計を用いて測定した。さらに、イオン交換水を添加して固形分濃度を1wt%に調整したときの粘度についても同様に測定した。結果を表1に示す。
上記の粘度は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して23℃で測定した値である。
【0072】
【表1】
【0073】
<導電性の評価>
実施例1~5および比較例1~2で得られた導電性高分子分散液を、それぞれ固形分濃度が1wt%になるようにイオン交換水で調整した。この導電性高分子分散液50gに、0.01gのアセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、サーフィノール420)と50gのメタノールを加え、充分に混合してコーティング組成物(塗料)を得た。この塗料を、wet膜厚16μmのバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗布し、乾燥温度100℃で1分間加熱乾燥することで導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。また、導電性フィルムの外観を目視で評価した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
<分散安定性の評価>
実施例1~5および比較例1~2で得られた導電性高分子分散液を、それぞれ固形分濃度が1wt%になるようにイオン交換水で調整した。この導電性高分子分散液50gに、50gの2-プロパノールを加えて混合し、コーティング組成物(塗料)を得た。40℃で10日間保管した後の塗料の状態を観察したところ、実施例1~5の塗料は保管後にも変化がなく、分散安定性が高かった。一方、比較例1~2の塗料はゲル状に固化しており、分散安定性が低かった。