(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191578
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】遮断器音響診断装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20221221BHJP
H02B 3/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
H02B3/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099874
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩田 健
(72)【発明者】
【氏名】六戸 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】小山 光
(72)【発明者】
【氏名】土肥 宏太
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB13
2G064AB22
2G064CC29
2G064CC54
(57)【要約】
【課題】
音響を用いた診断で、精度良く遮断器の状態把握を可能とする。
【解決手段】
音響診断装置は、遮断器の正常動作時に、遮断器の各種イベントについて、マイクで収集され、遮断器とマイクとの相対距離から生じる音響信号の遅延を補正した音響信号の第1の特徴量を抽出し、補正された音響信号の第1の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する複数のイベントモデルを作成する。遮断器の診断時において、マイクから収集され、遮断器とマイクとの相対距離から生じる音響信号の遅延を補正した音響信号の第2の特徴量を抽出し、診断時の音響信号の第2の特徴量と、複数のイベントモデルの第1の特徴量との時刻ごとの類似度を計算し、類似度が最も高くなる時刻を各イベントの発生タイミングとして推定し、推定された複数の発生タイミングから、遮断器の診断を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断器からの音圧を電気的な信号に変換するマイクと、
前記マイクで電気信号に変換された音圧を一定周期でデジタル値に変換して音響信号とするA/D変換器と、を有する音響診断装置において、
前記音響診断装置は、さらに、中央処理装置と記憶装置とを有し、
前記中央処理装置は、
遮断器の正常動作時に、遮断器の各種イベントについて、前記マイクで収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の第1の特徴量を抽出し、
補正された音響信号の第1の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する複数のイベントモデルを作成し、
前記記憶装置は、前記複数のイベントモデルを格納し、
前記中央処理装置は、
遮断器の診断時において、前記マイクから収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の第2の特徴量を抽出し、
診断時の音響信号の第2の特徴量と、前記記憶装置に格納された前記複数のイベントモデルの第1の特徴量との時刻ごとの類似度を計算し、
類似度が最も高くなる時刻を各イベントの発生タイミングとして推定し、
推定された複数の発生タイミングから、遮断器の診断を行う、
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響診断装置において、
前記中央処理装置は、
遮断器に設けられた電気的なセンサから入力される信号と、前記マイクのデジタル値とを同期させ、前記電気的なセンサから入力される信号に対する前記マイクにより収集される音響信号の遅延を算出する、
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の音響診断装置において、
前記記憶装置に格納される前記複数のイベントモデルは、
遮断器の各種イベントを識別するベントIDに対し、前記マイクで収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の第1の特徴量を抽出して得られるイベントモデルとを対応して管理する、
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の音響診断装置において、
前記記憶装置に格納されるイベントモデルは、各イベントに対し、混合ガウスモデルで示される特徴量と、を対応して管理する
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の音響診断装置において、
前記中央処理装置によって抽出される音響信号の特徴量は、音響信号の特徴量ベクトルの平均値である
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の音響診断装置において、
前記中央処理装置によって抽出される音響信号の特徴量は、音響信号の特徴量ベクトルの分布の中央値である
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項7】
請求項1に記載の音響診断装置において、
前記記憶装置は、遮断器の特定のイベント間の間隔の最大値、最小値を閾値として管理する診断用パラメータを格納し、
前記中央処理装置は、
前記推定された複数の発生タイミングと、前記診断用パラメータとに基づいて、遮断器の診断を行う
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項8】
遮断器からの音圧を電気的な信号に変換するマイクと、
前記マイクで電気信号に変換された音圧を一定周期でデジタル値に変換して音響信号とするA/D変換器と、を有する音響診断装置において、
遮断器の正常動作時に、遮断器の各種イベントについて、前記マイクで収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の特徴量を抽出する第1の特徴量抽出処理部と、
補正された音響信号の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する複数のイベントモデルを作成するモデル作成部と、
前記複数のイベントモデルを格納するイベントモデル格納部と、
遮断器の診断時において、前記マイクから収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の特徴量を抽出する第2の特徴量抽出処理部と、
診断時の音響信号の特徴量と、前記イベントモデル格納部に格納された前記複数のイベントモデルの特徴量との時刻ごとの類似度を計算し、類似度が最も高くなる時刻を各イベントの発生タイミングとして推定するイベントタイミング推定する類似度計算処理部と、
推定された複数の発生タイミングに基づいて遮断器の診断を行う診断処理部と、を有する
ことを特徴とする音響診断装置。
【請求項9】
遮断器からの音圧を電気的な信号に変換するマイクと、前記マイクで電気信号に変換された音圧を一定周期でデジタル値に変換して音響信号とするA/D変換器と、を有する音響診断装置の音響診断方法において、
前記音響診断装置の中央処理装置は、遮断器の正常動作時に、遮断器の各種イベントについて、前記マイクで収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の特徴量を抽出し、
補正された音響信号の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する複数のイベントモデルを作成し、
前記音響診断装置の記憶装置は、前記中央処理装置により作成された前記複数のイベントモデルを格納し、
前記中央処理装置は、遮断器の診断時において、前記マイクから収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の特徴量を抽出し、
診断時の音響信号の特徴量と、前記記憶装置に格納された前記複数のイベントモデルの特徴量との時刻ごとの類似度を計算し、類似度が最も高くなる時刻を各イベントの発生タイミングとして推定するイベントタイミング推定し、
推定された複数の発生タイミングに基づいて、遮断器の診断を行う、ことを有する
ことを特徴とする音響診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断器の音響診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遮断器の状態を遠隔からモニタリングすることで、作業員を派遣せずにメンテンスを行うニーズが高まっている。このニーズに対応するため、遮断器の動作状況を把握するための各種のセンサを遮断器に取り付け、正常状態との差異から状態判断する方法が提案されている。こうした診断では、遮断器内部に電流センサを設置したり、遮断器の筐体に加速度センサを取り付けることで、状態のモニタリングを行うことが試みられている。
【0003】
新設の遮断器では、こうしたモニタリング目的のセンサを設計段階から取り付けることが可能であるが、既存の遮断器に後付けでセンサを取り付けるには、センサ自体のコストや、取り付けに伴う加工のコスト増加が生じるばかりか、センサの種類によっては、遮断器の筐体への取り付けが困難な場合もある。特に、遮断器の内部にセンサを取り付ける必要がある場合には、取り付けの不可能な場合もある。そのため、非接触で測定可能な音響を使った計測が有効と考えられる。
【0004】
特許文献1には、交流遮断器のオンオフ切替のときに交流遮断器が発する音を検知するように構築された音検知器と、音検知器で検知された音と予め定めた判定基準情報とに基づいて、音を発した交流遮断器が異常であるか否かを診断する診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、音の情報の比較を行うことで正常と異常の判断を行っており、遮断器の動作の重要なイベントのタイミング、例えば、遮断器のオンとオフ動作による接点の動き出しや、接点が離合するタイミング、接点の動作が終了するタイミングなどの重要なイベントのタイミング、を考慮しているわけではない。そのため、徐々に動作が行われる場合や、イベントのタイミングが変わっている様子を正確に把握することができない。
【0007】
また、遮断器の動作は十数msで完了するため、その十数ms内といった非常に短い時間で遮断器のイベントのタイミングの抽出が必要となる。しかし、音響信号の速度は音速で伝搬するため、音響信号を収集するマイクと遮断器との距離による遅延(ディレイ)が無視できなくなる。
【0008】
本発明の目的は、音響を用いた診断で、精度良く遮断器の状態把握を可能とする音響診断装置及び方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の診断装置は、遮断器からの音圧を電気的な信号に変換するマイクと、前記マイクで電気信号に変換された音圧を一定周期でデジタル値に変換して音響信号とするA/D変換器と、を有する。前記音響診断装置は、さらに、中央処理装置と記憶装置とを有する。前記中央処理装置は、遮断器の正常動作時に、遮断器の各種イベントについて、前記マイクで収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の第1の特徴量を抽出し、補正された音響信号の第1の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する複数のイベントモデルを作成する。前記記憶装置は、前記複数のイベントモデルを格納する。前記中央処理装置は、遮断器の診断時において、前記マイクから収集され、遮断器と前記マイクとの相対距離から生じる前記音響信号の遅延を補正した音響信号の第2の特徴量を抽出し、診断時の音響信号の第2の特徴量と、前記記憶装置に格納された前記複数のイベントモデルの第1の特徴量との時刻ごとの類似度を計算し、類似度が最も高くなる時刻を各イベントの発生タイミングとして推定し、推定された複数の発生タイミングから、遮断器の診断を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、音響を用いた診断で、精度良く遮断器の状態を診断する音響診断装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】音響診断装置の構成を示すブロック図の一例を示す図である。
【
図3】モデル生成処理と診断処理の一例を説明する図である。
【
図5】イベントタイミングの推定の一例を説明する図である。
【
図6】各イベントモデルの格納データの一例を示す図である。
【
図7】類似度の計算に混合ガウスモデルを用いたイベントモデルの格納データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、遮断器の状態を音響信号から診断する音響診断装置において、あらかじめ電気的なセンサを用いた真値と、遮断器と音響信号を収集するマイクの位置から、音響の遅延(ディレイ)を補正した特徴量からイベントモデルを作成する。音響信号の特徴量は、遅延を補正することで、電気的なセンサを用いた真値と同期したタイミングとなる。遮断器の診断時には、音響信号を収集するマイクと遮断器の距離情報とより、音響信号の遅延を考慮して、遮断器の開閉動作時の各種タイミングを正確に推定し、推定したタイミングに基づいて遮断器の動作状態の診断を行う。
【0013】
例えば、一実施形態では、音響診断装置は、遮断器との距離が既知のマイクで音響信号の遅延を補正し、遅延が補正された音響信号と、電流センサや、遮断器のストロークを直接測定するレーザ変位計による計測値とを同期的に収集する。ここで、音響信号以外のセンサから診断時に用いる真値を推定する。一方、遮断器とマイクの距離から音響信号のディレイを計算して補正し、補正した音響信号の特徴量を決定し、遮断器の各種イベントタイミングを推定する複数のイベントモデルを作成しておく。各イベントモデルは、遮断器の正常動作時に、音響信号以外のセンサの真値と同じタイミングで対比するための音響信号の特徴量に関するデータである。診断時にはマイクの位置情報と遮断器の位置情報とより、音響信号の伝達のディレイを補正し、補正した音響信号の特徴量と、各イベントモデルとの類似度を計算する。類似度が最大となった特徴量のタイミングを、各イベントのタイミングと推定する。推定された各イベントの間隔等から診断パラメータを用いて、遮断器の状態を診断する。遮断器は、複数の重要な動作が所定のタイミングで行われているかを診断することで、正常に動作しているか否かを判断することができ、このタイミングを診断のための情報としている点も、特徴の一つである。
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例0014】
図1を参照して、実施例1の音響診断装置の構成について説明する。
図1に示すように、音響診断装置(10)は、遮断器からの音圧を電気的な信号に変換するマイク(101)と、マイクからの電気信号(音圧)をデジタルデータ列に変換するA/D変換(102)の他、一般的な情報処理装置と同様、主記憶装置(103)と、補助記憶装置(104)と、中央処理装置(105)と、入力装置(106)と、結果出力装置(107)とを有する。
【0015】
補助記憶装置(104)には、電気的なセンサとマイク位置による音響信号の遅延(ディレイ)を考慮した各イベントモデル(144)、マイクと遮断器との相対距離を求める情報、例えばマイクの位置情報(142)、各イベントのタイミングから診断を行う診断用パラメータ(146)、診断ソフト(130)、診断履歴(150)とを格納する。
【0016】
遮断器のイベントは、例えば、遮断器のオンとオフ動作による接点の動き出しや、接点が離合するタイミング、接点の動作が終了するタイミングなどの重要な動作を行うタイミングである。遮断器の動作は、十数msで完了し、その十数ms内といった非常に短い時間で行われる。そのため、遮断器とマイクとの距離による音響信号の遅延を把握し、補正する必要がある。
【0017】
各イベントモデル(144)は、遮断器が正常な状態で、補正した音響信号の特徴量に関するデータをイベント毎に管理する。例えば、遮断器の各種イベントにおける音響信号の特徴量ベクトルの平均値や、特徴量ベクトルの分布の中央値やその付近に存在する実際に観測された特徴量である。特徴量ベクトルが単純な分布ではない場合は、たとえば混合ガウスモデルを用いて、イベントモデルに対する尤度とすることもできる。
【0018】
現在の測定用のマイクの位置情報(142)は、遮断器とマイクとの相対距離を示す情報である。遮断器の設置位置が座標位置として予め分かっている場合は、マイクの座標位置情報であっても良い。
【0019】
診断用パラメータ(146)は、遮断器の状態を診断するためのデータであって、例えば、遮断器のイベント間の間隔の最小値、最大値といった閾値として与えられても良い。この場合、音響信号の特徴量から推定されたイベントのタイミングがイベント間隔の最小値から最大値の範囲内であれば、正常動作と判断できる。本実施例では、複数の重要な動作が所定のタイミングで行われているかを診断することで、正常に動作しているか否かを判断することができる点に着目した点が特徴の一つである。尚、診断用パラメータについては、
図8を用いて後述する。
【0020】
主記憶装置(103)は、全体制御処理(111)、ディレイ計算処理(112)、特徴量抽出処理(113)、類似度計算処理(114)、状態診断処理(115)を行う診断ソフト(130)が補助記憶装置(104)から読み出され、格納される。主記憶装置(103)には、診断ソフト(130)が必要とするワークエリアとして、音響波形格納領域(121)、ディレイ計算ワーク領域(122)、特徴量格納領域(123)、モデル格納領域(124)、類似度格納領域(125)、イベントタイミング推定結果(126)、診断用パラメータ格納領域(127)、診断結果格納領域(128)がある。
【0021】
中央処理装置(105)は主記憶装置上のプログラムの実行し、入力装置(106)はマイク位置などのパラメータを入力し、結果出力装置(107)は結果を出力する。
【0022】
ディレイ計算処理(112)は、遮断器の各種イベントについて、電流センサ、振動センサ、レーザ変位計等の電気的センサと、マイクの音響信号とのタイミングの差を遅延(ディレイ)量として計算する。
【0023】
特徴量抽出処理(113)は、遅延が補正された音響信号に基づいて、遮断器の各種イベントに関する、音響信号の特徴量の平均値や、特徴量の分布の中央付近に存在する特徴量を抽出する処理である。特徴量の抽出処理は、
図4を用いて後述する。
【0024】
類似度計算処理(114)は、診断時に測定された音響信号の特徴量と、イベントモデル(144)との特徴量との時間ごとの類似度を計算する。具体的には、測定された音響信号の特徴量と、イベントモデル(144)との特徴量との類似度が最大値から、各イベントの発生時刻を求め、イベントタイミング推定結果(126)として格納する。類似度計算処理によるイベントタイミングの推定処理については、
図5を用いて後述する。
【0025】
状態診断処理(115)は、類似度計算処理(114)で推定された各イベントタイミングから、診断用パラメータに基づいて遮断器の状態を診断する。
【0026】
音響波形格納領域(121)は、マイク(101)から収集された音響信号を格納する領域である。
【0027】
ディレイ計算ワーク領域(122)は、ディレイ計算処理(112)がマイク(101)による音響信号の遅延を計算するためのワーク領域である。
【0028】
特徴量格納領域(123)は、特徴量抽出処理(113)によって抽出された音響信号の特徴量を格納する領域である。
【0029】
モデル格納領域(124)は、遮断器の各種イベントにおける音響信号の特徴量をイベントモデルとして格納する格納領域である。イベントモデルの例として、
図6、
図7を用いて後述する。
【0030】
類似度格納領域(125)は、類似度計算処理(114)による計算結果を格納する領域である。
【0031】
イベントタイミング推定結果(126)は、類似度計算処理(114)によるイベントタイミング推定結果を格納する領域である
診断用パラメータ格納領域(127)は、状態診断処理(115)が用いる診断用パラメータを格納する領域である。
【0032】
診断結果格納領域(128)は、状態診断処理(115)による遮断器の診断結果を格納する領域である。
【0033】
図2は、実施例1のモデル生成時の測定の一例を示す図である。
【0034】
まず、音響診断装置は、電流センサ、振動センサ、レーザ変位計等の電気的センサ等の音響信号以外のセンサ(211、212、213)の真値と、マイク(101)の音響信号とを同期させて、音響信号の遅延を補正する。補正された音響信号の特徴量を、正常時の遮断器の各種イベントにおけるイベントモデル(144)を生成する。
【0035】
遮断器(201)のオンとオフ動作のタイミングを正確に求めるため、遮断器(201)に電流センサ、振動センサ、レーザ変位計等の電気的なセンサ(211、212、213)が設置されている。ロガー(220)は、マイク(101)によって収集される遮断器(201)の動作時の音響信号と、センサ(211、212、213)の信号とをA/D変換する機能を備え、電気的なセンサ(211、212、213)とマイク(101)の信号を同期させてデジタル信号に変換する。遮断器(201)とマイク(101)の距離(2142)を用いて、各イベントモデル(144)を生成するためのモデル生成用計算機(230)が接続される。モデル生成用計算機(230)によって、
図3のモデル生成処理(3001)を行い、各イベントモデル(144)を作成する。尚、モデル生成用計算機(230)は、主として
図1のディレイ計算処理(112)、特徴量抽出処理(113)の処理が対応し、マイク(101)で収集した音響信号の遅延を補正し、遮断器(201)の各種イベントの正常時の音響信号の特徴量を各イベントモデルとして作成する。
【0036】
図3は、モデル生成用計算機(230)によって実行されるモデル生成処理(3001)と診断ソフト(130)による診断処理(3002)とを説明する図である。
【0037】
まず、遮断器のオンとオフ動作による接点の動き出しや、接点が離合するタイミング、接点の動作が終了するタイミングなどの重要なイベントのタイミングにおける、各種の遮断器の音響信号の特徴量をイベントモデルとして生成するモデル生成処理(3001)について説明する。イベントモデル生成処理(3001)は、主として、
図1のディレイ計算処理(112)と、特徴量抽出処理(113)によって処理される。
【0038】
センサ信号1(3101)、センサ信号2(3102)、センサ信号3(3103)は、
図2に示した電気的なセンサ(211、212、213)に対応し、遮断器の各種イベントにより発生する遮断器の振動や動作等を遅延なく検知する。一方、マイク(101)から収集した音響信号は、遮断器(201)とマイクとの距離によって遅延が生じる。この遅延を、ディレイ計算処理(3112)によって、音速を用いて電気的センサ(3101、3102、3103)とのディレイ量を求め、音響信号と電気的センサの信号のタイミングを同期させる。
【0039】
マイク(101)により収集した音響信号は、音響センサ情報(音響波形(121))(3121)として格納される。格納された音響信号は、特徴量抽出処理(3113)により、特徴量が抽出される。音響信号のディレイを考慮し、電気的センサ(3101、3102、3103)と同期したタイミングで、正常時の音響信号の特徴量からイベントモデルを生成することができる。例えば、正常時において、遮断器のオンとオフ動作による、接点の動き出しや、接点が離合するタイミング、接点の動作が終了するタイミングなどの重要なイベントのタイミングで、マイクから収集される音響信号がどのような特徴量となっているかをイベントモデルとして格納する。
図3では、マイクによって収集した音響信号から特徴量を抽出して、ディレイ計算処理(3112)で音響信号の遅延をモデル生成(3114)に入力し、電気的センサ(3101、3102、3103)と同期した音響信号の特徴量から各イベントのモデル(144)を生成しているが、ディレイ計算処理3112を行った後、ディレイを特徴量抽出処理(3113)に入力し、遅延が補正された音響信号から特徴量を求めても良い。
【0040】
イベントモデル作成は、遮断器(201)の各種イベント毎に、イベントモデルを作成する。そのため、各種イベントは、イベントを識別するイベントIDが付与され、イベントID毎にイベントモデルが生成される。イベントモデルは、後述する
図6のようにイベントモデル対応表として管理される。
【0041】
図4は、
図3に示した特徴量抽出処理(3113)を説明する図である。
【0042】
音響波形(401)を周波数分析(410)し、短時間スペクトルの時系列として、スペクトログラム(402)を生成する。この際、短時間スペクトルを計算する際の窓のストライドは、1msよりも短い時間とする。得られた短時間スペクトルを必要な周波数範囲を取り出し、複数フレームをスタッキングして、特徴量ベクトル(403)として特徴量を抽出する。遅延を補正した音響信号から特徴量を作成する場合、スペクトログラム402の時間を、ディレイ計算処理(112)によって計算した遅延分シフトさせることで、補正した音響信号から特徴量を求める。あるいは、特徴量ベクトル(403)からイベントモデルを作成する際に、ディレイ計算処理(112)によって計算した遅延分をシフトさせてイベントモデルを作成しても良い。
【0043】
図3の診断処理(3002)について説明する。診断処理(3002)は、主として、
図1のディレイ計算処理(112)、特徴量抽出処理(113)、類似度計算処理(114)と状態診断処理(115)によって処理される。マイク(101)で収集された音響信号は、音響センサ情報(音響波形(121))として格納され、特徴量抽出処理(113)により、特徴量が抽出される。特徴量の抽出手順は、モデル生成処理(3001)の時と同じ手順で行う。
【0044】
診断時のマイクの位置(142)から、音響信号のディレイをディレイ計算処理(112)により計算する。類似度計算処理(114)では、各イベントモデル(144)に格納されたモデルを用いて、各イベントモデルと診断時の音響信号の特徴量とを比較して類似度を計算する。診断時にマイク(101)によって収集された音響信号は、マイク(101)と遮断器(201)との相対位置により、音響信号のディレイを計算するディレイ計算処理(112)を行い、類似度計算処理(114)に入力される。類似度計算処理(114)では、診断時の音響信号から抽出された特徴量に、ディレイ計算処理(112)のディレイ分をシフトして、各イベントモデル(144)の特徴量と比較する。この比較は、
図4に示したように、時間毎に行われる。イベント毎に類似度の最大値から、各イベントの発生時刻を求め、ディレイを補正してイベントタイミング推定結果とする。
【0045】
遮断器は、重要な動作のタイミングが所定のタイミングで行われているかを診断することで、正常に動作しているか否かを判断することができる。
【0046】
図5は、イベントタイミングの推定を説明する図である。
【0047】
図5では、時間を横軸にとり、
図3の類似度計算処理114により計算された類似度を縦軸に示している。類似度は、イベントモデルと診断対象の遮断器の音響信号とを比較し、類似している場合には、その値が大きくなる。遮断器のイベント1、イベント2、イベント3について、イベント毎のイベントモデルと、診断対象の診断機の音響信号の特徴量とを比較することで、類似度が最大のタイミングを各イベントの発生時刻を把握することができる。
【0048】
例えば、イベント1の発生時刻を時刻511、イベント2の発生時刻を時刻512、イベント3の発生時刻を時刻513と推定できる。
【0049】
このように、音響信号の遅延を考慮し、電気的センサ(3101、3102、3103)と同期させ、正常時におけるイベントモデルと診断時の音響信号の特徴量とを比較し、その類似度を計算することで、各イベントの発生タイミングを正確に推定することができる。遮断器は、重要な動作のタイミングが所定のタイミングで行われているかを診断することで、正常に動作しているか否かを判断することができる。そのため、診断処理(115)では、特定のイベント間の間隔や、イベントがトリガ信号から各イベントまでの時間間隔に対して、
図8に示されるように、診断パラメータとして、遮断器の特定のイベント間の間隔の最大値、最小値の範囲の閾値(804)が与えられ、その範囲内に入っているか否かで判定を行う。最大値、最小値の片側にしか制限がない場合は、たとえば最大値に+∞、最小値に-∞を設定することで制約なしを表現する。
【0050】
図6にイベントごとの特徴量のイベントモデルの表現(イベントモデル対応表)の1実施例を示す。
図6に示すように、各イベントを識別するイベントIDと各イベントモデルとを対応して管理する。
図6に示したイベントモデルは、イベントに対応する特徴量が安定している場合に実施可能で、単純な特徴量の代表値1個で表現している。これは、例えばモデル作成時の分布の中央値や、平均値を用いて計算することができる。類似度は、コサイン距離やユークリッド距離で計算することができる。
あらかじめ測定データから抽出した特徴量と、測定した際の装置の状態との関係を、特徴量空間上に適切に配置された参照点と、参照点に対して特徴点の近傍のデータに対応する状態を数値化したモデルパラメータとを用意しても良い。