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  • 特開-動力伝達装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191582
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20221221BHJP
【FI】
F16H57/04 F
F16H57/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099879
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】小野田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】駒田 英明
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB12
3J063AC03
3J063BA03
3J063BA11
3J063CA10
3J063CB02
3J063CD65
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD23
3J063XD32
3J063XD56
3J063XD62
3J063XD72
3J063XF21
(57)【要約】
【課題】ステップドピニオン式遊星歯車機構およびストレーナを収容するケースを、鉛直方向で小型化することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】サンギヤS、サンギヤSに噛み合う第1ピニオンギヤP1、第1ピニオンギヤP1と一体に回転しかつ第1ピニオンギヤP1よりも小径に形成された第2ピニオンギヤP2、第1ピニオンギヤP1および第2ピニオンギヤP2を自転および公転可能に保持するキャリヤ、および第2ピニオンギヤP2に噛み合うリングギヤRによって構成された遊星歯車機構2と、遊星歯車機構2を収容するケース3と、ケース3に封入されたオイルに浸漬したストレーナ4からオイルを汲み上げるオイルポンプとを備えた車両の動力伝達装置において、車両が走行することによる第1ピニオンギヤP1の回転によって、オイルが掻き上げられる方向にストレーナ4が配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤ、前記サンギヤに噛み合う第1ピニオンギヤ、前記第1ピニオンギヤと一体に回転しかつ前記第1ピニオンギヤよりも小径に形成された第2ピニオンギヤ、前記第1ピニオンギヤおよび前記第2ピニオンギヤを自転および公転可能に保持するキャリヤ、および前記第2ピニオンギヤに噛み合うリングギヤによって構成されたステップドピニオン式遊星歯車機構と、前記ステップドピニオン式遊星歯車機構を収容するケースと、前記ケースに封入されたオイルに浸漬したストレーナから前記オイルを汲み上げるオイルポンプとを備えた車両の動力伝達装置において、
前記車両が走行することによる前記第1ピニオンギヤの回転によって、前記オイルが掻き上げられる方向に前記ストレーナが配置されている
ことを特徴とする車両の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の回転要素によって構成された遊星歯車機構を備えた動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動力源であるモータに連結されたサンギヤと、サンギヤに噛み合う大径の第1ピニオンギヤと、第1ピニオンギヤと一体に回転する第1ピニオンギヤよりも小径の第2ピニオンギヤと、第1ピニオンギヤおよび第2ピニオンギヤを自転および公転可能に保持するキャリヤと、第2ピニオンギヤに噛み合うリングギヤとによって構成されたステップドピニオン式遊星歯車機構を、ケースに収容した動力伝達装置が記載されている。このケースの鉛直方向における下端には、オイルを貯留するためのオイルパンが取り付けられていて、オイルポンプに連通したストレーナが、オイルパン内のオイルに浸漬している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-174584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された動力伝達装置は、ステップドピニオン式遊星歯車機構によってモータの回転を減速して出力するように構成されている。したがって、減速機としての機能を一軸で達成することができるため、半径方向に大型化することを抑制できる。それに対して、ステップドピニオン式遊星歯車機構は、各回転要素が所定の回転軸を中心として自転し、また公転するため、ケースの幅方向(すなわち水平方向)の中央に配置される。したがって、車両が登降坂を走行した場合や旋回走行した場合であっても、ケース内のオイルにストレーナ吸い口が浸漬される必要があることにより、通常、ストレーナは、ケースの幅方向の中央部に配置することになる。そのため、ステップドピニオン式遊星歯車機構を用いた動力伝達装置は、ステップドピニオン式遊星歯車機構の鉛直方向における下側にストレーナを配置することになり、動力伝達装置が鉛直方向に大型化する可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ステップドピニオン式遊星歯車機構およびストレーナを収容するケースを、鉛直方向で小型化することができる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、サンギヤ、前記サンギヤに噛み合う第1ピニオンギヤ、前記第1ピニオンギヤと一体に回転しかつ前記第1ピニオンギヤよりも小径に形成された第2ピニオンギヤ、前記第1ピニオンギヤおよび前記第2ピニオンギヤを自転および公転可能に保持するキャリヤ、および前記第2ピニオンギヤに噛み合うリングギヤによって構成されたステップドピニオン式遊星歯車機構と、前記ステップドピニオン式遊星歯車機構を収容するケースと、前記ケースに封入されたオイルに浸漬したストレーナから前記オイルを汲み上げるオイルポンプとを備えた車両の動力伝達装置において、前記車両が走行することによる前記第1ピニオンギヤの回転によって、前記オイルが掻き上げられる方向に前記ストレーナが配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、車両が走行することによってステップドピニオン式遊星歯車機構における第1ピニオンギヤが自転および公転し、その第1ピニオンギヤが公転および自転することによりオイルを掻き上げ、その掻き上げられたオイルの飛散方向にストレーナが設けられている。そのため、ステップドピニオン式遊星歯車機構を収容するケースの下端部にオイルを貯留するためのオイルパンを設けることや、ステップドピニオン式遊星歯車機構の下方側にストレーナを設けることなく、オイルポンプによってオイルを汲み上げることができる。その結果、動力伝達装置を鉛直方向で小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明の実施形態における動力伝達装置の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施形態における動力伝達装置の一例を説明するための模式図を図1に示してある。図1に示す動力伝達装置1は、図示しないエンジンやモータなどの駆動力源と駆動輪との間に設けられた減速機として機能する遊星歯車機構2を備えている。この遊星歯車機構2は、サンギヤS、サンギヤSに噛み合う第1ピニオンギヤP1、第1ピニオンギヤP1と一体に回転しかつ第1ピニオンギヤP1よりも小径の第2ピニオンギヤP2、第1ピニオンギヤP1および第2ピニオンギヤP2を自転およびサンギヤSの回転中心軸線を中心として公転できるように保持しかつ出力軸(不図示)に連結された図示しないキャリヤと、サンギヤSと同心円上に配置されかつ第2ピニオンギヤP2と噛み合うリングギヤRとによって構成されたステップドピニオン式の遊星歯車機構である。
【0010】
上記の第1ピニオンギヤP1および第2ピニオンギヤP2は、その公転方向に所定の間隔を空けてそれぞれ三つ設けられていて、第1ピニオンギヤP1の一部が、リングギヤRの外周縁よりも外側に突出するように構成されている。
【0011】
リングギヤRは、図示しないボルトなどによって遊星歯車機構2を収容するケース3に固定されている。
【0012】
なお、駆動力源としてエンジンを採用した場合には、エンジンの回転方向は一方向に限られているため、上記の遊星歯車機構2の出力側に回転方向を選択的に反転させることができる前後進切替機構などを設けていてもよい。また、車両に要求される減速比を得るために、遊星歯車機構2の出力側に他の減速機(ギヤ対を含む)を設けていてもよい。
【0013】
上記のケース3には、遊星歯車機構2や他の歯車などを潤滑するためや、それらの部材を冷却するためのオイルが封入されている。その油面は、所定の第1ピニオンギヤP1が、サンギヤSの回転中心軸を中心として1回転(公転)する間に、第1ピニオンギヤP1の少なくとも一部が浸漬するように構成されている。すなわち、第1ピニオンギヤP1がオイルに浸漬することによって、第1ピニオンギヤP1の公転や自転によってオイルが掻き上げられるように構成されている。
【0014】
図1に示す動力伝達装置1は、内部に封入されたオイルを図示しないオイルポンプによって汲み上げて遊星歯車機構2や他の歯車などに供給するように構成されていて、オイルポンプに連通した油路の端部に設けられたストレーナ4がオイルに浸漬されている。具体的には、上述したように第1ピニオンギヤP1によってオイルが掻き上げられて飛散する方向にストレーナ4が設けられている。言い換えると、鉛直方向における遊星歯車機構2の下端部とほぼ同一の高さであって、水平方向に並んでストレーナ4が配置されている。
【0015】
さらに、図1に示す動力伝達装置1には、ケース3の下方部分を、遊星歯車機構2が設けられている領域(以下、第1領域と記す)Aと、ストレーナ4が設けられている領域(以下、第2領域と記す)Bとを隔てるための仕切板5が設けられている。
【0016】
この仕切板5は、第1ピニオンギヤP1によって掻き上げられて第1領域Aから第2領域Bに飛散したオイルが、第1領域A側に逆流することを抑制するためのものである。言い換えると、第2領域Bのオイル量が低下することを抑制するためのものである。そのため、第2領域Bに貯留されたオイルにストレーナ4が浸漬されている状態を維持できるように、仕切板5の高さは、図1に破線で示すストレーナ4の吸い口上端部よりも高い位置まで形成されている。
【0017】
また、車両が登降坂を走行している場合には、ケース3の下面に対して油面が傾く。同様に、車両が旋回走行している場合には、オイルに作用する遠心力によって水平方向に対して油面が傾く。すなわち、ストレーナ4が設けられている位置での鉛直方向におけるケース3の下面からの油面高さが、仕切板5が設けられている位置での鉛直方向におけるケース3の下面から油面高さよりも低くなる場合がある。そのため、図1に示す例では、車両の登降坂性能の限界値まで車両が傾いた状態での鉛直方向において、仕切板5の上端部の高さがストレーナ4の吸い口の高さよりも高くなるように構成されている。なお、図1には、登降坂性能の限界値まで車両が傾いた状態での水平方向を一点鎖線で示してある。
【0018】
さらに、第1ピニオンギヤP1の公転や自転によってオイルを円滑に掻き上げることができるように、仕切板5は、サンギヤSの半径方向における第1ピニオンギヤP1の最外周部の移動軌跡に対してオフセットした形状に形成されている。すなわち、サンギヤSの回転中心軸を中心として円弧状に形成されている。
【0019】
上述したように第1ピニオンギヤP1が公転および自転することによりオイルを掻き上げ、その掻き上げられたオイルの飛散方向にストレーナ4を設けることにより、ケース3の下端部にオイルを貯留するためのオイルパンを設けることや、遊星歯車機構2の下方側にストレーナ4を設けることなく、オイルポンプによってオイルを汲み上げることができる。その結果、動力伝達装置1を鉛直方向で小型化することができる。
【0020】
また、遊星歯車機構2が設けられた側の第1領域Aとストレーナ4が設けられた側の第2領域Bとを仕切板5によって隔てることにより、第2領域Bに飛散したオイルが、第1領域Aに逆流することを抑制できる。そのため、第2領域B内の油面高さが低くなることを抑制できる。特に、仕切板5の上端部をストレーナ4の吸い口よりも高く形成することにより、第2領域B内の油面高さがストレーナ4の吸い口よりも低くなることを抑制できる。その結果、ストレーナ4がオイルを吸引するときに、空気を同時に吸引することを抑制できる。
【0021】
さらに、登降坂性能の限界値まで車両が傾いた状態での鉛直方向における仕切板5の上端部がストレーナ4の吸い口よりも高くなるように仕切板5を形成することによって、車両が傾斜した場合であっても、第2領域B内の油面高さがストレーナ4の吸い口よりも低くなることを抑制できる。その結果、ストレーナ4がオイルを吸引するときに、空気を同時に吸引することを抑制できる。
【0022】
またさらに、サンギヤSの半径方向における第1ピニオンギヤP1の最外周部の移動軌跡に対してオフセットした形状に仕切板5を形成することにより、第1ピニオンギヤP1と仕切板5との間に余剰なオイルが貯留することを防止することができ、その結果、オイルの攪拌損失を低減することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 動力伝達装置
2 遊星歯車機構
3 ケース
4 ストレーナ
5 仕切板
A 第1領域
B 第2領域
P1,P2 ピニオンギヤ
R リングギヤ
S サンギヤ
図1