(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191591
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】設備診断装置および設備診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20221221BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 T
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099898
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西納 修一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 祐市
(72)【発明者】
【氏名】田代 和幸
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA27
3C100AA56
3C100AA62
3C100BB13
3C100BB19
3C100BB27
3C223AA11
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
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3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF08
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF24
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF45
3C223FF46
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
3C223HH17
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】KPIを許容範囲内に収めながら製造設備の劣化の進行を抑制する。
【解決手段】 設備診断装置であって、所定の劣化抑制モードごとに、製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含む情報を格納する劣化抑制モード定義記憶部と、製造設備または該製造設備の部位について劣化抑制モードごとに予測される劣化度を用いて所定のKPIを計算し該KPIが所定の条件を充足するか判定するKPI計算部と、充足の判定結果から実行すべき劣化抑制モードを判断する劣化抑制判断部と、実行すべき劣化抑制モードに応じて製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する制御情報出力部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の劣化抑制モードごとに、製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含む情報を格納する劣化抑制モード定義記憶部と、
前記製造設備または該製造設備の部位について前記劣化抑制モードごとに予測される劣化度を用いて所定のKPIを計算し該KPIが所定の条件を充足するか判定するKPI計算部と、
前記充足の判定結果から実行すべき前記劣化抑制モードを判断する劣化抑制判断部と、
前記実行すべき前記劣化抑制モードに応じて前記製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する制御情報出力部と、
を備えることを特徴とする設備診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記KPI計算部で計算可能なKPIの一覧を格納するKPI定義表記憶部と、
前記KPI計算部で用いるKPIとして、前記KPI定義表記憶部に格納されたKPIのいずれかを受け付けるKPI入力部と、
を備えることを特徴とする設備診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記劣化抑制モードごとに前記KPIの計算の結果と前記充足の判定結果のいずれかまたは両方を出力し、実行する前記劣化抑制モードの選択入力を受け付ける劣化抑制モード確認部、
を備えることを特徴とする設備診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記KPI計算部で計算可能なKPIおよび該KPIの優先度の一覧を格納する優先度付きKPI定義表記憶部と、
前記KPI計算部は、前記優先度に従ってKPIの計算および前記所定の条件の充足の判定を行い充足する前記劣化抑制モードを特定する、
ことを特徴とする設備診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記KPI計算部による前記所定の条件の充足の判定の結果、いずれの前記劣化抑制モードも前記所定の条件を充足しない場合に所定のアラートを出力するアラート出力部、
を備えることを特徴とする設備診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記劣化抑制モード定義記憶部には、前記劣化抑制モードごとに、ラインを構成する前記製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含み、
前記制御情報出力部は、前記実行すべき前記劣化抑制モードに応じて前記ラインを構成する前記製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する、
ことを特徴とする設備診断装置。
【請求項7】
請求項1に記載の設備診断装置であって、
前記製造設備または該製造設備の部位について前記劣化抑制モードを採用した場合の劣化度を予測する劣化予測曲線を出力する劣化度予測部を備え、
前記KPI計算部は、前記劣化予測曲線を用いて前記KPIを計算する、
ことを特徴とする設備診断装置。
【請求項8】
情報処理装置を用いた設備診断方法であって、
前記情報処理装置は、プロセッサと、所定の劣化抑制モードごとに、製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含む情報を格納する劣化抑制モード定義記憶部と、を備え、
前記プロセッサは、
前記製造設備または該製造設備の部位について前記劣化抑制モードごとに予測される劣化度を用いて所定のKPIを計算し該KPIが所定の条件を充足するか判定するKPI計算ステップと、
前記充足の判定結果から実行すべき前記劣化抑制モードを判断する劣化抑制判断ステップと、
前記実行すべき前記劣化抑制モードに応じて前記製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する制御情報出力ステップと、
を実施することを特徴とする設備診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備診断装置および設備診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「部品の故障を予測し、部品の交換が可能な時期まで製造機械に故障が生じないように製造機械を制御するセル制御装置を提供する。」という技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載の技術では、故障を予測し、設備や装置の制御方法を変更して、設備や装置の劣化の進行を抑制して生産を続ける方法が記されている。しかしながら、劣化の進行を抑制するよう製造設備や製造装置の制御方法を変更した場合、製造に関するKPI(Key Performance Indicator)、例えば製造品質や生産性を意図せず低下させすぎてしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、KPIを許容範囲内に収めながら製造設備の劣化の進行を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の手段を採用する。本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、設備診断装置であって、所定の劣化抑制モードごとに、製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含む情報を格納する劣化抑制モード定義記憶部と、前記製造設備または該製造設備の部位について前記劣化抑制モードごとに予測される劣化度を用いて所定のKPIを計算し該KPIが所定の条件を充足するか判定するKPI計算部と、前記充足の判定結果から実行すべき劣化抑制モードを判断する劣化抑制判断部と、前記実行すべき劣化抑制モードに応じて前記製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する制御情報出力部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、KPIを許容範囲内に収めながら製造設備の劣化の進行を抑制する技術を提供することができる。
【0008】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図3】劣化抑制モード定義記憶部のデータ構造例を示す図である。
【
図4】設備診断装置のハードウェア構成の例を示す図である。
【
図5】劣化予測曲線およびKPI予測例を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図7】KPI定義表のデータ構造例を示す図である。
【
図9】第3の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図10】劣化抑制モード選択画面の例を示す図である。
【
図11】第4の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図12】優先度付きKPI定義表のデータ構造例を示す図である。
【
図13】第5の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図14】第6の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。
【
図15】ライン劣化抑制モード定義記憶部のデータ構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0011】
また、以下の実施形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0012】
さらに、以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0013】
同様に、以下の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0014】
また、実施形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。ただし、同一の部材であっても環境変更等により変更前の部材と称呼を共有すると混乱を生ぜしめるおそれが高い場合、別の異なる符号や名称を付すことがある。以下、本発明の各実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
一般的に、製造設備には様々な装置が含まれるが、工業製品の製造において用いられる装置として可動する腕を備えるロボット装置がある。また、そのようなロボット装置を複数備えて統合した動きを制御するためのライン装置も、製造装置に含まれるものとする。本発明に係る実施形態を通じて、基本的には、製造装置として2本の可動腕(以降において、各腕を便宜的に腕A、腕Bと呼ぶことがある)を有する双腕ロボット200を想定する。各腕はそれぞれ3軸の自由度を持ち、腕先端には物体を把持・移動させる工程を実行するためのグリッパが設けられている。
【0016】
本発明に係る実施形態においては、特に別段の記載がない限り、双腕ロボット200の腕Aの可動軸1を「腕A軸1(211a)」と表現し、腕Aの可動軸2を「腕A軸2(211b)」と表現するものとする。また、腕Bのグリッパを「腕Bグリッパ(211c)」と表現する。双腕ロボット200の各腕の軸およびグリッパは、モーターを備え、制御入力部201において受け付けた制御情報に基づいてモーターの回転が制御されることで動作を行う。
【0017】
なお、以下の実施形態においては、「入力部」、「出力部」は、一つ以上のインターフェースデバイスでよい。当該一つ以上のインターフェースデバイスは、下記のうちの少なくとも一つでよい。
・一つ以上のI/O(Input/Output)インターフェースデバイス。I/Oインターフェースデバイスは、I/Oデバイスと遠隔の表示用計算機とのうちの少なくとも一つに対するインターフェースデバイスである。表示用計算機に対するI/Oインターフェースデバイスは、通信インターフェースデバイスでよい。少なくとも一つのI/Oデバイスは、ユーザインターフェースデバイス、例えば、キーボード及びポインティングデバイスのような入力デバイスと、表示デバイスのような出力デバイスとのうちのいずれでもよい。
・一つ以上の通信インターフェースデバイス。一つ以上の通信インターフェースデバイスは、一つ以上の同種の通信インターフェースデバイス(例えば一つ以上のNIC(Network Interface Card))であってもよいし二つ以上の異種の通信インターフェースデバイス(例えばNICとHBA(Host Bus Adapter))であってもよい。
【0018】
また、以下の説明では、「メモリ」は、一つ以上の記憶デバイスの一例である一つ以上のメモリデバイスであり、典型的には主記憶デバイスでよい。メモリにおける少なくとも一つのメモリデバイスは、揮発性メモリデバイスであってもよいし不揮発性メモリデバイスであってもよい。
【0019】
また、以下の説明では、「記憶部」は、一つ以上の記憶デバイスの一例である一つ以上の永続記憶デバイスでよい。永続記憶デバイスは、典型的には、不揮発性の記憶デバイス(例えば補助記憶デバイス)でよく、具体的には、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、NVME(Non-Volatile Memory Express)ドライブ、又は、SCM(Storage Class Memory)でよい。
【0020】
また、以下の説明では、「記憶部」または「記憶装置」は、メモリと永続記憶装置のうちメモリかまたは両方であればよい。
【0021】
また、以下の説明では、「処理部」または「プロセッサ」は、一つ以上のプロセッサデバイスでよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、典型的には、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサデバイスでよいが、GPU(Graphics Processing Unit)のような他種のプロセッサデバイスでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、シングルコアでもよいしマルチコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、プロセッサコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、処理の一部又は全部を行うハードウェア記述言語によりゲートアレイの集合体である回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit))といった広義のプロセッサデバイスでもよい。
【0022】
また、以下の説明では、「yyy部」の表現にて機能を説明することがあるが、機能は、一つ以上のコンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで実現されてもよいし、一つ以上のハードウェア回路(例えばFPGA又はASIC)によって実現されてもよいし、それらの組合せによって実現されてもよい。プログラムがプロセッサによって実行されることで機能が実現される場合、定められた処理が、適宜に記憶装置及び/又はインターフェース装置等を用いながら行われるため、機能はプロセッサの少なくとも一部とされてもよい。機能を主語として説明された処理は、プロセッサあるいはそのプロセッサを有する装置が行う処理としてもよい。プログラムは、プログラムソースからインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布計算機又は計算機が読み取り可能な記録媒体(例えば非一時的な記録媒体)であってもよい。各機能の説明は一例であり、複数の機能が一つの機能にまとめられたり、一つの機能が複数の機能に分割されたりしてもよい。
【0023】
また、以下の説明では、「プログラム」や「処理部」を主語として処理を説明する場合があるが、プログラムを主語として説明された処理は、プロセッサあるいはそのプロセッサを有する装置が行う処理としてもよい。また、二つ以上のプログラムが一つのプログラムとして実現されてもよいし、一つのプログラムが二つ以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0024】
また、以下の説明では、「xxxテーブル」といった表現にて、入力に対して出力が得られる情報を説明することがあるが、当該情報は、どのような構造のテーブルでもよいし、入力に対する出力を発生するニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズムやランダムフォレストに代表されるような学習モデルでもよい。従って、「xxxテーブル」を「xxx情報」と言うことができる。また、以下の説明において、各テーブルの構成は一例であり、一つのテーブルは、二つ以上のテーブルに分割されてもよいし、二つ以上のテーブルの全部又は一部が一つのテーブルであってもよい。
【0025】
また、以下の説明では、「設備診断システム」は、一つ以上の物理的な計算機で構成されたシステムでもよいし、物理的な計算リソース群(例えば、クラウド基盤)上に実現されたシステム(例えば、クラウドコンピューティングシステム)でもよい。設備診断システムが表示用情報を「表示する」ことは、計算機が有する表示デバイスに表示用情報を表示することであってもよいし、計算機が表示用計算機に表示用情報を送信することであってもよい(後者の場合は表示用計算機によって表示用情報が表示される)。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。設備診断システム10は、診断する設備として、製造現場(エリア)に設けられた製造装置である双腕ロボット200と、設備診断装置100と、双腕ロボット200から診断に必要な情報を取得する装置データ取得部202と、が含まれる。
【0027】
設備診断装置100と、双腕ロボット200と、装置データ取得部202とは、図示しないネットワークあるいは通信線を介して互いに通信可能に接続されている。
【0028】
ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、VPN(Virtual Private Network)、インターネット等の一般公衆回線を一部または全部に用いた通信網、携帯電話通信網等、のいずれかまたはこれらの複合したネットワークである。なお、ネットワークは、Wi-Fi(登録商標)や5G(Generation)等の無線による通信網であってもよい。
【0029】
装置データ取得部202は、診断対象の設備の劣化を検知するために用いる情報を取得する。装置データ取得部202は、例えば電流センサ等であり、診断対象がモーターで制御される部位である場合には、該モーターの駆動電流を取得するために電源との接続線に取り付けられて使用される。あるいは、予め駆動電流が計測可能な装置が診断対象である場合には、装置データ取得部202は、計測された駆動電流を取得する。
【0030】
設備診断装置100は、診断対象の設備から得た計測情報を取得して必要なKPIを満たすように劣化抑制モードを選択し、診断対象の設備の制御情報を出力する。
【0031】
より具体的には、設備診断装置100は、診断対象の設備、すなわち双腕ロボット200から装置データ取得部202を介して計測された制御対象部位の情報を取得する。そして、設備診断装置100は、所定のアルゴリズムにより計測された制御対象部位の情報から劣化度を測定して劣化部位を特定し、劣化部位に応じた劣化抑制モードの候補を一又は複数特定する。
【0032】
また、設備診断装置100は、劣化部位の劣化度と劣化抑制モードの組み合わせに応じて劣化曲線を予測し、劣化曲線ごとにKPIの変化を予測する。設備診断装置100は、予測されるKPIの変化が所定の閾値を充足する場合に、当該閾値を充足する劣化抑制モードを診断対象の設備の制御モードとして出力する。
【0033】
設備診断装置100には、処理部として、劣化検知部101と、劣化度予測部103と、KPI計算部104と、劣化抑制判断部105と、制御情報出力部110と、が含まれる。また、設備診断装置100には、記憶部として、劣化抑制モード定義記憶部102が含まれる。
【0034】
劣化検知部101は、双腕ロボット200から設備特徴量を得て、双腕ロボット200の各部位の劣化度を推定し、劣化部位とその劣化度を劣化抑制判断部105へ入力する。
【0035】
図2は、劣化検知方法の例を示す図である。劣化検知部101は、双腕ロボット200の各可動軸に対応したモーターの駆動電流を装置データ取得部202たる電流センサによって設備特徴量として計測し、回転周波数に対する高調波帯の電力からモーターの劣化度を測定する。
【0036】
なお、劣化検知部101は、モーター以外の部材の設備特徴量を取得する場合には、その特徴量に応じて予め設定された特徴量を取得するものであってもよい。例えば、フィルターの目詰まりが劣化につながる設備の場合には、劣化検知部101は、フィルターの画像やフィルター前後の流速、圧力を設備特徴量として取得するものであってもよい。また、モーターの設備特徴量を取得する場合であっても、劣化検知部101は、電流センサの値ではなく、例えばマイクを用いて音、あるいは振動センサを用いて振動量を特徴量として取得するものであってもよい。
【0037】
劣化度予測部103は、劣化抑制モード候補の一つに対して劣化予測曲線を予測する。具体的には、劣化度予測部103は、劣化抑制モードを用いた場合に進行する劣化度に近似する関数を特定する。例えば、劣化度予測部103は、劣化度を所定の一次関数f_m(t)=K_m・N・t+b(mは劣化抑制モード、tは時間、K_mは製造単位あたりの劣化度を示す係数、Nは単位時間当たりの標準製造量、bはt=0における劣化度)により近似する関数として特定する。
【0038】
KPI計算部104は、劣化予測曲線、すなわち製造設備または該製造設備の部位について前記劣化抑制モードごとに予測される劣化度、を入力として、KPI計算と充足判定を実行する。具体的には、KPI計算部104は、劣化度予測部103により特定された関数を受け付けると、所定のKPIを時間経過に応じて所定のアルゴリズムにより算出する。例えば、劣化度と停止確率が比例関係にあるという知見に基づき、KPI計算部104は、劣化予測曲線の傾きに正の定数を乗算し、正規化することで停止確率を求めることが考えられる。なお、KPIの定義、計算方法はこれに限らない。例えば、劣化度と対象設備の製造品質が負の比例関係にあるという知見に基づき、劣化予測曲線に負の定数を乗算し正規化することで製造品質をKPIとして計算することも考えられる。
【0039】
また、KPI計算部104は、KPIが所定の条件を充足するか判定する充足判定として例えば、KPIが閾値以下であれば当該劣化抑制モードはKPIの要件となる所定の条件を充足し、そうでなければ充足しないと判定する。
【0040】
劣化抑制判断部105は、充足判定結果から実行すべき劣化抑制モードを判断する。具体的には、劣化抑制判断部105は、KPI計算部104から、各劣化抑制モード候補のKPI計算結果と充足判定結果を入力として受け取り、劣化抑制モード候補から充足判定結果が充足であるものを実行すべき劣化抑制モードとして決定し、制御情報出力部110に出力する。
【0041】
制御情報出力部110は、実行すべき劣化抑制モードに応じて製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力する。具体的には、制御情報出力部110は、劣化抑制判断部105から出力された劣化抑制モードを受け取り、該劣化抑制モードに対応した制御情報を双腕ロボット200の制御入力部201に出力する。例えば、制御情報出力部110は、劣化抑制モードに応じて、制御部位ごとに負荷を制御する指示を出力する。
【0042】
図3は、劣化抑制モード定義記憶部のデータ構造例を示す図である。劣化抑制モード定義記憶部102は、所定の劣化抑制モードごとに、製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含む情報を格納する。具体的には、劣化抑制モード定義記憶部102には、劣化部位102bに対応付けられた劣化抑制モード102aおよびその動作方法定義102cが含まれる。動作方法定義102cには、双腕ロボット200の腕の制御部位ごとの動作モードが含まれており、例えば腕Aのグリッパを示すグリッパ102d、腕Aの可動軸1を示す軸1(102e)、腕Aの可動軸2を示す軸2(102f)、腕Aの可動軸3を示す軸3(102g)、が含まれる。なお、腕B全体を示す腕B(102h)が含まれるものであってもよい。
【0043】
各劣化抑制モードでは、「通常稼働」が通常モードでの動作方法を示し、通常稼働よりも負荷の高い「高負荷」、通常稼働よりも負荷の低い「中負荷」、「低負荷」、「超低負荷」の動作方法のいずれかが設定されうる。なお、負荷が高いと劣化速度が早く、負荷が低いと劣化速度が遅いものとする。製造設備の部位に応じて具体的な動作に違いがあるため、負荷の高さの違いは、具体的にはそれぞれの部位ごとに予め定められた制御に現れる。例えば、反復運動を行う部位であれば、その頻度等により負荷が定められる。
【0044】
図3の例では、モード1は劣化した腕A軸1にかかる負荷を中程度として劣化を抑制するモードである。具体的には、軸1を使用する動作について、実行頻度を低下させるなどの方法が考えられる。モード2は腕A軸1の稼働率を超低頻度とし、代わりに腕A軸2と腕A軸3の負荷を上昇させることで補うモードである。モード3は腕A軸1に加えて腕A軸3も劣化状態にある場合に対応しており、両方の軸の負荷を低減し、負荷低減による腕Aの稼働率低下を腕Bの稼働率を上げて補うモードである。
【0045】
図4は、設備診断装置のハードウェア構成の例を示す図である。設備診断装置100は、プロセッサ(例えば、CPU、あるいはGPU)901と、RAM(Random Access Memory)等のメモリ902と、ハードディスク装置(HDD)やSSDなどの外部記憶装置903と、CDやDVDなどの可搬性を有する記憶媒体904に対して情報を読む読取装置905と、キーボードやマウス、バーコードリーダ、タッチパネルなどの入力装置906と、ディスプレイなどの出力装置907と、LANやインターネットなどの通信ネットワークを介して他のコンピュータと通信する通信装置908とを備えた一般的なコンピュータ900、あるいはこのコンピュータ900を複数備えたネットワークシステムで実現できる。なお、読取装置905は、可搬性を有する記憶媒体904の読取だけでなく、書き込みも可能なものであっても良いことは言うまでもない。
【0046】
例えば、処理部である劣化検知部101と、劣化度予測部103と、KPI計算部104と、劣化抑制判断部105と、制御情報出力部110とは、外部記憶装置903に記憶されている所定のプログラムをメモリ902にロードしてプロセッサ901で実行することで実現可能であり、入力部は、プロセッサ901が入力装置906を利用することで実現可能であり、出力部は、プロセッサ901が出力装置907あるいは通信装置908を利用することで実現可能であり、通信部は、プロセッサ901が通信装置908を利用することで実現可能であり、記憶部である劣化抑制モード定義記憶部102は、プロセッサ901がメモリ902または外部記憶装置903を利用することにより実現可能である。
【0047】
この所定のプログラムは、読取装置905を介して可搬性を有する記憶媒体904から、あるいは、通信装置908を介してネットワークから、外部記憶装置903にダウンロードされ、それから、メモリ902上にロードされてプロセッサ901により実行されるようにしてもよい。また、読取装置905を介して可搬性を有する記憶媒体904から、あるいは、通信装置908を介してネットワークから、メモリ902上に直接ロードされ、プロセッサ901により実行されるようにしてもよい。
【0048】
図5は、劣化予測曲線およびKPI予測例を示す図である。劣化予測曲線300は、横軸に日時を設けて、縦軸に劣化を診断する対象の設備あるいはその部位の劣化度をプロットする曲線である。劣化予測曲線300は、劣化を診断する対象の設備あるいはその部位により予め類似した曲線を描くものであるため、曲線の係数パラメーターを決定することで、劣化を診断する対象の設備あるいはその部位ごとの劣化度を予測するのに用いることができる。なお、劣化曲線関数の例は、前述したように直線のように一次関数であってもよいし、より複雑な高次の関数であってもよい。あるいは、劣化曲線関数に限られず、各時点での劣化度の数値を並べた配列を出力するものであってもよい。
【0049】
そして、劣化予測曲線300は、劣化抑制モード1~劣化抑制モード3に応じて、異なる劣化度が予測されるものであるため、それぞれについて推定される。すなわち、各曲線の傾きの差異は各モードによって腕A軸2の劣化の進行が異なることを示す。
【0050】
KPI予測例301は、KPIとして、設備停止確率を用いる例である。例えば、劣化度と停止確率が比例関係にあるという知見に基づき、劣化予測曲線300の傾きに正の定数を乗算し、正規化することで停止確率を求めることが考えられる。KPI予測例301は、劣化予測曲線300の例に対して、上記のKPI計算を行った結果の例である。なお、KPIは、設備停止確率のみならず、例えば、タクトタイムや不良率であってもよい。
【0051】
充足判定の例では、KPIが閾値以下であれば充足、そうでなければ非充足と判定する方法が考えられる。KPI予測例301では、停止確率の閾値の例が示されている。劣化度が閾値を超える劣化抑制モード1および劣化抑制モード3はKPIである停止確率が所定の期間内に閾値を超えることとなるためKPIを満たさず、劣化抑制モード2のみがKPIを満たすと判定される。続いて、設備診断装置100が行う診断処理の流れを示す。
【0052】
ステップ1:劣化検知部101は、双腕ロボット200から設備特徴量を得て、双腕ロボット200の各部位の劣化度を推定し、劣化部位と劣化度を劣化抑制判断部105へ入力する。例えば、劣化検知部101は、
図2に示すように双腕ロボット200の各軸に対応したモーターの駆動電流を電流センサによって設備特徴量として計測し、回転周波数に対する高調波帯の電力から劣化度を測定する。
【0053】
ステップ2:劣化抑制判断部105は、ステップ1で劣化検知部101が出力した劣化部位およびその劣化度を入力として受け取り、劣化抑制モード定義記憶部102を参照して、劣化部位に対応した劣化抑制モードを劣化抑制モード候補として取得する。劣化抑制モード候補は複数存在する場合もあるが、ここでは該当する劣化抑制モードをすべて取得する。
【0054】
ステップ3:劣化抑制判断部105は、ステップ1で劣化検知部101より入力された劣化部位および劣化度と、ステップ2で劣化抑制モード定義記憶部102より取得した劣化抑制モード候補とを、劣化度予測部103に入力する。劣化度予測部103は、入力情報を用いて劣化予測曲線300を算出し、劣化予測曲線300を示す関数あるいは配列をKPI計算部104へ入力する。
【0055】
ステップ4:KPI計算部104は、劣化度予測部103が出力した劣化予測曲線300を入力として得て、KPI計算と充足判定を実行しKPI計算結果と充足判定結果(充足する劣化抑制モードの指定)を劣化抑制判断部105へ出力する。
【0056】
なお、KPI計算結果の出力方法は、KPI予測例301のようなグラフに限定されず、各時点でのKPI計算結果の数値を並べた配列を出力するものであってもよい。
【0057】
ステップ5:劣化抑制判断部105は、KPI計算部104から各劣化抑制モード候補のKPI計算結果と充足判定結果を入力として受け取り、劣化抑制モード候補から充足判定結果が充足であるものを劣化抑制モードとして採用することを決定し、採用した劣化抑制モードを特定する情報を制御情報出力部110に出力する。
【0058】
ステップ6:制御情報出力部110は、劣化抑制判断部105から劣化抑制モードを特定する情報を受け取り、該劣化抑制モードに対応した制御情報を双腕ロボット200の制御入力部201に出力する。例えば、
図3に示した劣化抑制モードである「モード2」を劣化抑制モードとして受け取ると、制御情報出力部110は、腕A軸1の負荷を下げ、腕A軸2および腕A軸3の負荷を上げた制御プログラムを制御情報として制御入力部201へ出力する。
【0059】
以上の設備診断装置100のステップ1~6の処理によれば、設備停止確率や製造品質という各種のKPIの予測に基づいて劣化抑制モードを動的に判断し、意図しないKPIの悪化を防ぎつつ双腕ロボット200の劣化を抑制して製造を行うことができるようになる。
【0060】
以上が、第1の実施形態に係る設備診断システム10の例である。第1の実施形態に係る設備診断システム10によれば、KPIを許容範囲内に収めながら製造設備の劣化の進行を抑制することができる。
【0061】
[第2実施形態]
図6は、第2の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。第2の実施形態に係る設備診断システム10は、基本的に第1の実施形態に係る設備診断システム10と同様であるが、相違する点がある。以下に、相違点を中心に説明を行う。
【0062】
図6に示すように、設備診断装置100は、第1の実施形態に係る設備診断装置100に加えて、KPI定義表108と、KPI入力部109と、を備える。
【0063】
図7は、KPI定義表108のデータ構造例を示す図である。KPI定義表108は、KPI計算部104で計算可能なKPIの一覧を格納する。KPI定義表108には、KPI108aに対応付けて、充足判定方法108bが関連付けて格納される。KPI定義表108は、メモリ902あるいは外部記憶装置903に格納される。すなわち、KPI定義表108は、KPI定義表記憶部であるとも表現できる。
【0064】
例えば、KPI定義表108では、KPI「設備停止確率」については、充足判定方法として「設備停止確率<=(小なりイコール)0.01%」が関連付けられる。同様に、KPI「タクトタイム」については、充足判定方法として「タクトタイム<=(小なりイコール)1分」が関連付けられ、KPI「不良率」については、充足判定方法として「不良率<=(小なりイコール)0.0001%」が関連付けられる。また、その他のKPIについても同様に充足判定方法が対応付けて格納される。
【0065】
KPI入力部109は、劣化抑制モードの判断に用いるKPIの選択入力を受け付ける。具体的には、KPI入力部109は、入力装置906を介して、KPIの選択入力を受け付けて、KPI計算部104に受け渡す。
【0066】
図8は、KPI入力画面の例を示す図である。KPI入力画面109gには、KPI定義表108の内容がKPIの選択肢として示され、用いるKPIの入力を受け付ける入力領域109hが含まれる。利用者は、劣化抑制モードの判断に用いるKPIを入力領域109hに選択入力することができる。
【0067】
そして、第2の実施形態に係る設備診断装置100では、第1の実施形態に係る設備診断装置100が行う診断処理のステップ1~6に関して、ステップ1以前にKPI入力部109によるKPI入力画面109gの表示および用いるKPIの入力の受け付けが行われる(ステップ0)。さらに、ステップ4では、KPI計算部104は、劣化度予測部103が出力した劣化予測曲線300を入力として得て、ステップ0にて受け付けたKPIおよび充足判定方法を用いてKPI計算と充足判定を実行しKPI計算結果と充足判定結果(充足する劣化抑制モードの指定)を劣化抑制判断部105へ出力する。
【0068】
以上が、第2の実施形態に係る設備診断システム10である。第2の実施形態に係る設備診断システム10によれば、利用者が望むKPIを用いて劣化抑制モードを利用可能となる。
【0069】
[第3実施形態]
図9は、第3の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。第3の実施形態に係る設備診断システム10は、基本的に第1の実施形態に係る設備診断システム10と同様であるが、相違する点がある。以下に、相違点を中心に説明を行う。
【0070】
図9に示すように、設備診断装置100は、第1の実施形態に係る設備診断装置100に加えて、KPI定義表108と、劣化抑制モード確認部111と、を備える。
【0071】
KPI定義表108については、第2の実施形態に係るKPI定義表108と同様であるため、説明は割愛する。
【0072】
劣化抑制モード確認部111は、劣化抑制モードごとにKPI計算結果と充足判定結果のいずれかまたは両方を出力し、実行する劣化抑制モードを利用者に選択入力させる。
【0073】
図10は、劣化抑制モード選択画面の例を示す図である。劣化抑制モード選択画面111gには、選択可能な劣化抑制モードおよび該モードを採用した場合のKPIごとの充足/非充足(
図10の例では、充足は「OK」、非充足は「NG」)が示され、実行する劣化抑制モードの入力を受け付ける入力領域111hが含まれる。利用者は、実行する劣化抑制モードを入力領域111hに選択入力することができる。
【0074】
そして、第3の実施形態に係る設備診断装置100では、第1の実施形態に係る設備診断装置100が行う診断処理のステップ1~6に関して、ステップ4では、KPI計算部104は、劣化度予測部103が出力した劣化予測曲線300を入力として得て、予め設定されたKPI定義表108にあるKPIおよび充足判定方法のそれぞれについてKPI計算と充足判定を実行する。そして、劣化抑制モード確認部111は、少なくともいずれかのKPIを充足させることが可能な劣化抑制モードについてKPI計算結果とKPIごとの充足判定結果(KPIの充足/非充足)を劣化抑制モード選択画面111gに表示させる。そして、劣化抑制モード確認部111は、入力領域111hにおいて受け付けた実行する劣化抑制モードを受け付けると、劣化抑制モード確認部111に実行する劣化抑制モードと、KPI計算結果と、充足判定結果とを受け渡す。
【0075】
そして、ステップ5においては、劣化抑制判断部105は、劣化抑制モード確認部111から実行する劣化抑制モードのKPI計算結果と充足判定結果を入力として受け取り、劣化抑制モードを特定する情報を制御情報出力部110に出力する。
【0076】
以上が、第3の実施形態に係る設備診断システム10である。第3の実施形態に係る設備診断システム10によれば、実行前にKPIの充足結果を確認することができるため、利用者が意図しない劣化抑制モードを実行してしまうことを回避できる。
【0077】
[第4実施形態]
図11は、第4の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。第4の実施形態に係る設備診断システム10は、KPIを充足する劣化抑制モードが存在しないもしくは複数存在する場合に、次善もしくは最善の劣化抑制モードを選択可能とするものである。第4の実施形態に係る設備診断システム10は、基本的に第1の実施形態に係る設備診断システム10と同様であるが、相違する点がある。以下に、相違点を中心に説明を行う。
【0078】
図11に示すように、第4の実施形態に係る設備診断装置100は、第1の実施形態に係る設備診断装置100が備えるKPI計算部104に代えて、優先度参照KPI計算部116を備えるものとなっている。また、第4の実施形態に係る設備診断装置100は、優先度付きKPI定義表115を備える。
【0079】
図12は、優先度付きKPI定義表のデータ構造例を示す図である。優先度付きKPI定義表115には、KPI115aに対応付けて、充足判定方法115bと、優先度115cと、が関連付けて格納される。優先度付きKPI定義表115は、メモリ902あるいは外部記憶装置903に格納される。
【0080】
例えば、優先度付きKPI定義表115では、KPI「設備停止確率」については、充足判定方法として「設備停止確率<=(小なりイコール)0.01%」が、また優先度として「1」が関連付けられる。同様に、KPI「タクトタイム」については、充足判定方法として「タクトタイム<=(小なりイコール)1分」が、また優先度として「2」が関連付けられる。KPI「不良率」については、充足判定方法として「不良率<=(小なりイコール)0.0001%」が、また優先度として「3」が関連付けられる。また、その他のKPIについても同様に充足判定方法および優先度が対応付けて格納される。
【0081】
そして、第4の実施形態に係る設備診断装置100では、第1の実施形態に係る設備診断装置100が行う診断処理のステップ1~6に関して、ステップ4では、優先度参照KPI計算部116は、劣化度予測部103が出力した劣化予測曲線300を入力として得て、予め設定された優先度付きKPI定義表115にある優先度の高い順にKPIおよび充足判定方法のそれぞれについてKPI計算と充足判定を実行する。
【0082】
ここで、充足判定結果が「充足」となる劣化抑制モード候補がただ一つとなった場合、優先度参照KPI計算部116は、当該劣化抑制モードを劣化抑制判断部105へ出力し、ステップ5へと制御を移行する。
【0083】
一方で、充足判定結果が充足となった劣化抑制モード候補が複数存在する場合は、以下の(a)の処理を、充足判定結果が充足となった劣化抑制モード候補が存在しない場合は、以下の(b)の処理を、それぞれ実行する。
【0084】
(a)充足判定結果が充足となった劣化抑制モード候補が複数存在する場合には、優先度参照KPI計算部116は、充足となった劣化抑制モード候補について、異なるKPIにおける充足度についても高いモードを優先して採用する。具体的には、優先度参照KPI計算部116は、再び優先度付きKPI定義表115を参照し、次に優先度の高いKPIを用いて、第1の実施形態に係るステップ4と同様の計算を行ってKPI計算結果と充足判定結果を得て充足する劣化抑制モードを絞り込む。充足する劣化抑制モード候補がなくなるまで、優先度参照KPI計算部116はこれを異なるKPIについて繰り返す。
【0085】
優先度参照KPI計算部116は、そのひとつ前まで残っていた劣化抑制モード候補を劣化抑制判断部105へ出力する。もしくは、すべてのKPIについて充足する劣化抑制モード候補が得られた場合は、優先度参照KPI計算部116は、それらを劣化抑制判断部105へ出力する。
【0086】
(b)充足判定結果が充足となった劣化抑制モード候補が存在しない場合、優先度参照KPI計算部116は、再び優先度付きKPI定義表115を参照し、次に優先度の高いKPIを用いて、第1の実施形態に係るステップ4と同様の計算を行ってKPI計算結果と充足判定結果を得る。優先度参照KPI計算部116は、充足判定結果が充足となる劣化抑制モード候補が得られるまでこれを繰り返し、劣化抑制判断部105へ出力する。
【0087】
以上が、第4の実施形態に係る設備診断システム10である。なお、優先度参照KPI計算部116が行う処理は、第1の実施形態に係るKPI計算部104が、優先度に従ってKPIの計算および所定の条件の充足の判定を行うことにより実現することもできる。第4の実施形態に係る設備診断システム10によれば、KPIを充足する劣化抑制モードが存在しない場合、もしくはKPIを充足する劣化抑制モードが複数存在する場合に、次善もしくは最善の劣化抑制モードを選択可能となる。
【0088】
[第5実施形態]
図13は、第5の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。第5の実施形態に係る設備診断システム10は、KPIを充足する劣化抑制モードが存在しない場合に、システム外にアラートを出力可能とするものである。第5の実施形態に係る設備診断システム10は、基本的に第1の実施形態に係る設備診断システム10と同様であるが、相違する点がある。以下に、相違点を中心に説明を行う。
【0089】
図13に示すように、第5の実施形態に係る設備診断装置100は、第1の実施形態に係る設備診断装置100に加えて、アラート出力部107を備えるものとなっている。
【0090】
アラート出力部107は、外部の図示しない監視装置等に所定のエラーメッセージやエラー情報等を含むアラートを出力する。劣化抑制判断部105は、事前定義されたKPIについて所定の閾値を満たす劣化抑制モードが存在しない場合に、アラート出力部107にアラートを出力させる。言い換えると、劣化抑制判断部105は、KPI計算部104による所定の条件の充足の判定の結果、いずれの劣化抑制モードも所定の条件を充足しない場合に所定のアラートを出力するものである。
【0091】
以上が、第5の実施形態に係る設備診断システム10である。第5の実施形態に係る設備診断システム10によれば、KPIを充足する劣化抑制モードが存在しない場合に、アラートを出力することが可能となる。
【0092】
[第6実施形態]
図14は、第6の実施形態に係る設備診断システムの構成例を示す図である。第6の実施形態に係る設備診断システム10は、診断対象となる設備が単体装置である場合の劣化抑制モードの制御に限定されず、複数の製造装置(複数の双腕ロボット)により構成されるライン400全体の劣化抑制モードに拡張するものである。
【0093】
ライン400は、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)と、を含む。双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)とは、それぞれ自装置を制御するための制御を受け付ける制御入力部311X,311Y,311Zを備える。
【0094】
また、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)とは、それぞれが第一の実施形態に係る双腕ロボット200と同様に、3軸可動な二本の腕を備える。なお、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)とは、共同で一つの製品を組み立てているものとする。
【0095】
ライン400には、ライン制御部401が含まれ、ライン制御部401は、設備診断装置100から制御情報を受け付けると、双腕ロボットの各々の制御入力部に対して制御指示を行う。第6の実施形態に係る設備診断システム10は、基本的に第1の実施形態に係る設備診断システム10と同様であるが、相違する点がある。以下に、相違点を中心に説明を行う。
【0096】
図14に示すように、第6の実施形態に係る設備診断装置100は、第1の実施形態に係る設備診断装置100における劣化抑制モード定義記憶部102に代えて、ライン劣化抑制モード定義記憶部122を備えるものとなっている。また、装置データ取得部202は、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)と、の制御対象部位の情報を取得する。
【0097】
図15は、ライン劣化抑制モード定義記憶部のデータ構造例を示す図である。ライン劣化抑制モード定義記憶部122は、基本的には第1の実施形態に係る劣化抑制モード定義記憶部102と同様である。ただし、診断対象の設備がライン400であるため、劣化部位122bごとに、劣化抑制モード122aと、ライン400に含まれる複数の双腕ロボットごとの動作方法定義(ロボットX動作方法定義122c、ロボットY動作方法定義122j、ロボットZ動作方法定義122k)と、を有する。すなわち、ライン劣化抑制モード定義記憶部122は、所定の劣化抑制モードごとに、ライン400を構成する製造設備または該製造設備の部位の劣化抑制のための動作制御方法を含んでいるといえる。
【0098】
各々の双腕ロボットの動作方法定義には、双腕ロボット200の腕の制御部位ごとの動作モードが含まれており、例えば双腕ロボットXの腕Aのグリッパを示すグリッパ122d、双腕ロボットXの腕Aの可動軸1を示す軸1(122e)、双腕ロボットXの腕Aの可動軸2を示す軸2(122f)、双腕ロボットXの腕Aの可動軸3を示す軸3(122g)、が含まれる。なお、双腕ロボットXの腕B全体を示す腕B(122h)が含まれるものであってもよい。あるいは、双腕ロボットY全体、あるいは双腕ロボットZ全体を示す動作モードが含まれるものであってもよい。
【0099】
ここで、劣化抑制モード122aが「モード3」は、双腕ロボットX(310X)の腕A軸1に加えて双腕ロボットX(310X)の腕B軸1も劣化状態にある場合に対応している劣化抑制モードである。具体的には、「モード3」は、双腕ロボットX(310X)自体の利用を取りやめて、これによるライン400全体の稼働率低下を、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)と、の稼働率を上げることにより補う劣化抑制モードである。続いて、設備診断装置100が行う診断処理の流れのうち、第一の実施形態とは相違する処理を中心に示す。
【0100】
ステップ1:劣化検知部101は、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)と、の制御対象部位から設備特徴量を得て、双腕ロボットX(310X)と、双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)と、の制御対象部位の劣化度を推定し、劣化部位と劣化度を劣化抑制判断部105へ入力する。
【0101】
ステップ2:劣化抑制判断部105は、ステップ1で劣化検知部101が出力した劣化部位およびその劣化度を入力として受け取り、ライン劣化抑制モード定義記憶部122を参照して、劣化部位に対応した劣化抑制モードを劣化抑制モード候補として取得する。劣化抑制モード候補は複数存在する場合もあるが、ここでは該当する劣化抑制モードをすべて取得する。
【0102】
ステップ3:劣化抑制判断部105は、ステップ1で劣化検知部101より入力された劣化部位および劣化度と、ステップ2でライン劣化抑制モード定義記憶部122より取得した劣化抑制モード候補とを、劣化度予測部103に入力する。劣化度予測部103は、入力情報を用いて劣化予測曲線300を算出し、劣化予測曲線300を示す関数あるいは配列をKPI計算部104へ入力する。
【0103】
ステップ6:制御情報出力部110は、劣化抑制判断部105から劣化抑制モードを特定する情報を受け取り、該劣化抑制モードに対応した制御情報をライン400のライン制御部401に出力する。例えば、
図15に示した劣化抑制モードである「モード3」を劣化抑制モードとして受け取ると、制御情報出力部110は、双腕ロボットX(310X)を停止させ、代替として双腕ロボットY(310Y)と、双腕ロボットZ(310Z)との負荷を上げた制御プログラムを制御情報としてライン制御部401へ出力する。すなわち、制御情報出力部110は、実行すべき劣化抑制モードに応じて、ラインを構成する製造設備または該製造設備の部位の制御情報を出力するといえる。
【0104】
以上の設備診断装置100のステップ1~6の処理によれば、ライン400の設備停止確率や製造品質という各種のKPIの予測に基づいて劣化抑制モードを動的に判断し、特定の双腕ロボットの作業を同一ラインの他の双腕ロボットで代替することで補う劣化抑制モードを採用して製造を行うことができるようになる。ライン停止確率がKPIとなっている場合には、このような劣化抑制モードを採用することで、装置単体を最悪の場合停止してでも、ライン400全体での製造を継続することが可能となる。
【0105】
以上が、第6の実施形態に係る設備診断システム10の例である。第6の実施形態に係る設備診断システム10によれば、KPIを許容範囲内に収めながらライン製造設備の劣化の進行を抑制することができる。
【0106】
なお、本発明は、上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、実施形態の構成の一部について、削除をすることも可能である。
【0107】
また、上記の各部、各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各部、各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0108】
なお、上述した実施形態にかかる制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。以上、本発明について、実施形態を中心に説明した。
【符号の説明】
【0109】
10:設備診断システム、100:設備診断装置、101:劣化検知部、102:劣化抑制モード定義記憶部、103:劣化度予測部、104:KPI計算部、105:劣化抑制判断部、110:制御情報出力部、200:双腕ロボット、201:制御入力部、202:装置データ取得部、211a:腕A軸1、211b:腕A軸2、211c:腕Bグリッパ。