(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191593
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】樹脂被覆ワイヤおよび薬液注入装置
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
A61M25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099904
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴川 梨紗
(72)【発明者】
【氏名】浪間 聡志
(72)【発明者】
【氏名】竹本 博賢
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA26
4C267BB06
4C267BB16
4C267HH08
4C267HH16
(57)【要約】
【課題】薬液と共に気泡を患部に投与してしまうおそれを低減する。
【解決手段】薬液が収容されたカテーテルの薬液収容ルーメン内で前進することによってカテーテルの先端から薬液を押し出すことができる樹脂被覆ワイヤは、ワイヤと、ワイヤを被覆する樹脂製の被覆部とを備える。被覆部は、先端側被覆部と、基端側被覆部とを有する。先端側被覆部は、第1の樹脂材料により形成され、ワイヤの先端部である第1の部分を被覆する。基端側被覆部は、第2の樹脂材料により形成され、ワイヤにおける第1の部分に対して基端側に隣接する第2の部分を被覆する。第1の樹脂材料は、第2の樹脂材料より水に対する親和性が高い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が収容されたカテーテルの薬液収容ルーメン内で前進することによって前記カテーテルの先端から前記薬液を押し出すことができる樹脂被覆ワイヤであって、
ワイヤと、
前記ワイヤを被覆する樹脂製の被覆部と、
を備え、
前記被覆部は、
第1の樹脂材料により形成され、前記ワイヤの先端部である第1の部分を被覆する先端側被覆部と、
第2の樹脂材料により形成され、前記ワイヤにおける前記第1の部分に対して基端側に隣接する第2の部分を被覆する基端側被覆部と、
を有し、
前記第1の樹脂材料は、前記第2の樹脂材料より水に対する親和性が高い、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記ワイヤは、複数の細ワイヤを螺旋状に巻回して形成されたロープワイヤである、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記複数の細ワイヤのそれぞれは、複数の素線を螺旋状に巻回して形成された撚線ワイヤである、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記ワイヤの前記第2の部分における先端側の一部には、前記第1の樹脂材料が染み込んでいる、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記樹脂被覆ワイヤにおける最先端部は、先端側に凸な略半球形状である、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記樹脂被覆ワイヤは、
最先端部と、
前記最先端部に対して基端側に隣接し、先端に向かうにつれて外径が小さくなるテーパ形状を有する中間部と、
前記中間部に対して基端側に隣接し、外径が略一定である基端側部と、
を有する、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の樹脂被覆ワイヤであって、
前記樹脂被覆ワイヤのうち、前記ワイヤの前記第1の部分により構成された部分の剛性は、前記ワイヤの前記第2の部分により構成された部分の剛性より高い、
樹脂被覆ワイヤ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の樹脂被覆ワイヤと、
前記カテーテルと、
を備える、薬液注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、樹脂被覆ワイヤおよび薬液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体内に薬液を注入する薬液注入装置として、外側チューブの中空部に、先端に穿刺針が設けられた内側チューブが挿通されており、内側チューブの中空部を介して穿刺針から患者の体内に薬液を注入する薬液注入装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、他の種類の薬液注入装置として、薬液が収容されたカテーテルの薬液収容ルーメン内でワイヤを所定の距離だけ前進させることにより、カテーテルの先端から所定量の薬液を吐出させることが可能な薬液注入装置がある。この種類の薬液注入装置では、薬液の吐出量を精度良くコントロールすることができると共に、薬液のロスを低減することができる。
【0005】
しかしながら、上記のような構成の薬液注入装置では、カテーテルの薬液収容ルーメン内に収容された薬液に気泡が混入した場合に、薬液と共に気泡を患部に投与してしまうおそれがある、という課題がある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される樹脂被覆ワイヤは、薬液が収容されたカテーテルの薬液収容ルーメン内で前進することによって前記カテーテルの先端から前記薬液を押し出すことができる樹脂被覆ワイヤである。樹脂被覆ワイヤは、ワイヤと、前記ワイヤを被覆する樹脂製の被覆部とを備える。前記被覆部は、先端側被覆部と、基端側被覆部とを有する。先端側被覆部は、第1の樹脂材料により形成され、前記ワイヤの先端部である第1の部分を被覆する。基端側被覆部は、第2の樹脂材料により形成され、前記ワイヤにおける前記第1の部分に対して基端側に隣接する第2の部分を被覆する。前記第1の樹脂材料は、前記第2の樹脂材料より水に対する親和性が高い。
【0009】
このように、本樹脂被覆ワイヤでは、先端側被覆部を形成するための樹脂材料は、基端側被覆部を形成するための樹脂材料より水に対する親和性が高い。すなわち、基端側被覆部の表面では、水中の(薬液中の)気泡が広がるように付着しやすい一方、先端側被覆部の表面では、該気泡が広がりにくく付着しにくい。そのため、カテーテルの薬液収容ルーメン内に収容された薬液に気泡が混入した場合であっても、樹脂被覆ワイヤを前進させることにより、該気泡が先端側被覆部の位置から基端側被覆部の位置に相対的に移動して基端側被覆部に付着し、該気泡が先端側に流れることを抑制することができる。従って、本樹脂被覆ワイヤによれば、樹脂被覆ワイヤを用いてカテーテルの先端から薬液を押し出す際に、薬液と共に気泡を患部に投与してしまうおそれを低減することができる。
【0010】
(2)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記ワイヤは、複数の細ワイヤを螺旋状に巻回して形成されたロープワイヤである構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、樹脂被覆ワイヤの柔軟性を向上させることができ、カテーテルが屈曲していたとしてもカテーテルの薬液収容ルーメン内で樹脂被覆ワイヤを容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を向上させることができる。
【0011】
(3)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記複数の細ワイヤのそれぞれは、複数の素線を螺旋状に巻回して形成された撚線ワイヤである構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、樹脂被覆ワイヤの柔軟性を効果的に向上させることができ、カテーテルが屈曲していたとしてもカテーテルの薬液収容ルーメン内で樹脂被覆ワイヤをさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0012】
(4)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記ワイヤの前記第2の部分における先端側の一部には、前記第1の樹脂材料が染み込んでいる構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、例えば基端側被覆部と先端側被覆部との境界からのワイヤの内部への薬液の浸透による薬液のロスを効果的に低減することができる。また、本樹脂被覆ワイヤによれば、ワイヤの先端から基端側に向けて、ワイヤの剛性(ひいては、樹脂被覆ワイヤの剛性)の急激な変化を回避することができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を向上させることができる。
【0013】
(5)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記樹脂被覆ワイヤにおける最先端部は、先端側に凸な略半球形状である構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、カテーテルが屈曲していたとしてもカテーテルの薬液収容ルーメン内で樹脂被覆ワイヤをさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0014】
(6)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記樹脂被覆ワイヤは、最先端部と、前記最先端部に対して基端側に隣接し、先端に向かうにつれて外径が小さくなるテーパ形状を有する中間部と、前記中間部に対して基端側に隣接し、外径が略一定である基端側部と、を有する構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、テーパ形状を有する中間部の存在により、カテーテルが屈曲していたとしてもカテーテルの薬液収容ルーメン内で樹脂被覆ワイヤをさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0015】
(7)上記樹脂被覆ワイヤにおいて、前記樹脂被覆ワイヤのうち、前記ワイヤの前記第1の部分により構成された部分の剛性は、前記ワイヤの前記第2の部分により構成された部分の剛性より高い構成としてもよい。本樹脂被覆ワイヤによれば、カテーテルの薬液収容ルーメン内で樹脂被覆ワイヤを前進させる際に、樹脂被覆ワイヤの先端側が薬液からの圧力によって変形したり後退したりするおそれを低減することができ、樹脂被覆ワイヤの操作性や樹脂被覆ワイヤによる薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0016】
(8)本明細書に開示される薬液注入装置は、上記樹脂被覆ワイヤと、カテーテルとを備える。そのため、本薬液注入装置によれば、薬液注入装置の操作性や薬液注入精度を向上させることができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、樹脂被覆ワイヤ、樹脂被覆ワイヤを備える薬液注入装置、薬液注入装置を備えるシステム、これらの装置またはシステムを製造する方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における薬液注入装置100の構成を概略的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A-1.薬液注入装置100の構成:
図1は、本実施形態における薬液注入装置100の構成を概略的に示す説明図である。
図1には、薬液注入装置100の縦断面(YZ断面)の構成が示されている。
図1において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。
図1では、薬液注入装置100の一部の構成について、図示を省略したり模式的に示したりしている。これらの点は、以降の図においても同様である。本明細書では、薬液注入装置100およびその構成部材について、先端側の端を「先端」といい、先端およびその近傍を「先端部」といい、基端側の端を「基端」といい、基端およびその近傍を「基端部」という。
【0020】
薬液注入装置100は、生体管腔内に挿入可能なカテーテルを利用して、患者の体内に薬液を注入するために用いられる医療用デバイスである。ここで、生体管腔とは、血管系、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺および生殖器官といった種々の管腔を含む。薬液注入装置100は、針カテーテル10と、樹脂被覆ワイヤ20と、コントローラ30とを備える。
【0021】
針カテーテル10は、例えば内視鏡のチャネルを介して患者の生体管腔内に挿入され、患者の体内の所望の位置まで薬液を運搬し、該位置に薬液を注入するために使用される部材である。針カテーテル10は、カテーテルシャフト12と、針部14とを備える。カテーテルシャフト12は、中心軸AXに沿って延びる長尺状部材である。より詳細には、カテーテルシャフト12は、先端と基端とのそれぞれに開口が形成され、内側に2つの開口を連通する内腔16が形成された略円筒状部材である。
図1では、カテーテルシャフト12の中心軸AXがZ軸方向に平行な直線状となった状態を示しているが、カテーテルシャフト12は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。針部14は、カテーテルシャフト12の先端部に取り付けられ、カテーテルシャフト12の内腔16に連通する内腔18が形成された中空状部材である。カテーテルシャフト12の内腔16と針部14の内腔18とは、薬液DSを収容する薬液収容ルーメンLとして機能する。薬液収容ルーメンLの横断面形状は、例えば、略一定の内径を有する略円形である。針部14の先端には、薬液注入箇所を穿刺するための針先が形成されている。針カテーテル10は、特許請求の範囲におけるカテーテルの一例である。
【0022】
カテーテルシャフト12は、抗血栓性、可撓性、生体適合性を有することが好ましく、例えば樹脂材料や金属材料により形成することができる。カテーテルシャフト12を形成するための樹脂材料としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等を採用することができる。また、カテーテルシャフト12を形成するための金属材料としては、例えば、SUS304等のステンレス鋼、NiTi合金、コバルトクロム合金等を採用することができる。なお、カテーテルシャフト12の肉厚部には、柔軟性、トルク伝達性、押し込み性、耐キンク性、血管追従性、病変通過性、および、操作性のうちの少なくとも一部を向上させるために、コイル体や編組体が埋設されていてもよい。また、カテーテルシャフト12は、同一または異なる材料により形成された複数の層から構成されていてもよい。また、針部14は、抗血栓性および生体適合性を有することが好ましく、例えば、SUS304等のステンレス鋼、NiTi合金、コバルトクロム合金等の金属材料により形成することができる。
【0023】
樹脂被覆ワイヤ20は、針カテーテル10の基端側から薬液収容ルーメンL内に挿入されており、薬液収容ルーメンL内で前進することによって薬液収容ルーメンL内に収容された薬液DSを先端側に押し出し、これにより針部14の先端から薬液DSを吐出させるための部材である。樹脂被覆ワイヤ20は、中心軸AXに沿って延びる長尺状部材である。
図1では、樹脂被覆ワイヤ20の中心軸AXがZ軸方向に平行な直線状となった状態を示しているが、樹脂被覆ワイヤ20は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。樹脂被覆ワイヤ20の外径(より詳細には、樹脂被覆ワイヤ20の後述する基端側部P3(
図2)の外径)は、針カテーテル10に形成された薬液収容ルーメンLの内径と略同一(クリアランス:100μm以下)である。樹脂被覆ワイヤ20の構成については、後に詳述する。
【0024】
コントローラ30は、例えばギア機構やローラ、吐出操作部等を備え、針カテーテル10の薬液収容ルーメンLに挿入された樹脂被覆ワイヤ20を所定距離だけ前進させることが可能な装置である。コントローラ30により樹脂被覆ワイヤ20が所定距離だけ先端側へ送り出されると、針カテーテル10の薬液収容ルーメンLに収容された薬液DSが樹脂被覆ワイヤ20により先端側に押し出され、前進した樹脂被覆ワイヤ20の体積分の薬液DSが針部14の先端から吐出される。このような操作を所定回数繰り返すことにより、患者の体内に所定量の薬液DSを注入することができる。
【0025】
A-2.樹脂被覆ワイヤ20の詳細構成:
次に、樹脂被覆ワイヤ20の詳細構成について説明する。
図2から
図4は、樹脂被覆ワイヤ20の詳細構成を示す説明図である。
図2には、樹脂被覆ワイヤ20における先端側の一部分の外観構成が示されており、
図3には、樹脂被覆ワイヤ20における先端側の一部分の縦断面(YZ断面)の構成が模式的に示されており、
図4には、
図3のIV-IVの位置における樹脂被覆ワイヤ20の横断面(XY断面)の構成が示されている。
【0026】
図2から
図4に示すように、樹脂被覆ワイヤ20は、ワイヤ24と、ワイヤ24を被覆する樹脂製の被覆部27とを有する。なお、本実施形態では、被覆部27は略透明であるため、
図2では被覆部27を破線で示している。
【0027】
ワイヤ24は、中心軸AXに沿って延びる長尺状部材である。
図4に示すように、本実施形態では、ワイヤ24は、複数の(7本の)細ワイヤ240を螺旋状に巻回して形成されたロープワイヤである。また、本実施形態では、ワイヤ24を構成する複数の細ワイヤ240のそれぞれは、複数の(7本の)素線242を螺旋状に巻回して形成された撚線ワイヤである。ワイヤ24は、抗血栓性、可撓性、生体適合性を有することが好ましく、例えば金属材料により形成することができる。ワイヤ24を形成するための金属材料としては、例えば、SUS304等のステンレス鋼、NiTi合金、コバルトクロム合金等を採用することができる。
【0028】
図2および
図3に示すように、ワイヤ24は、ストレート部21と、ワイヤ24の最先端に位置する溶接部23と、ストレート部21と溶接部23とを接続するテーパ部22とを有する。ストレート部21は、外径が略一定の部分である。ストレート部21の外径は、例えば0.5mm~2.0mm程度である。なお、本実施形態では、ストレート部21はワイヤ24の基端まで連続している。溶接部23は、所定の溶接方法(例えばYAGレーザ溶接)を用いた溶接によってワイヤ24を構成する細ワイヤ240や素線242の間が接合された部分であり、先端側に凸な略半球形状の部分である。テーパ部22は、先端に向かうにつれて外径が小さくなるテーパ形状を有する部分である。テーパ部22の基端の外径はストレート部21の外径と略同一であり、テーパ部22の先端の外径は、溶接部23の基端の外径と略同一である。ワイヤ24の各位置における横断面形状は、例えば略円形である。ワイヤ24の溶接部23およびテーパ部22は、特許請求の範囲における第1の部分の一例であり、ワイヤ24のストレート部21は、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。
【0029】
以下の説明では、樹脂被覆ワイヤ20を中心軸AXに沿って複数の部分に仮想的に分割し、ワイヤ24の溶接部23を含む部分を最先端部P1といい、ワイヤ24のテーパ部22を含む部分を中間部P2といい、ワイヤ24のストレート部21を含む部分を基端側部P3という。また、最先端部P1と中間部P2とを合わせて先端側部P4という。
【0030】
被覆部27は、ワイヤ24を被覆する樹脂製の被膜である。被覆部27の存在により、樹脂被覆ワイヤ20に高い摺動性が付与されると共に、ワイヤ24の内部(各細ワイヤ240や各素線242間の隙間)への薬液DSの浸透による薬液DSのロスが低減される。
【0031】
被覆部27の厚さは、例えば0.1mm~0.2mm程度である。そのため、樹脂被覆ワイヤ20の外形状はワイヤ24の外形状に略一致する。すなわち、樹脂被覆ワイヤ20の最先端部P1の外形状は、ワイヤ24の溶接部23の外形状と同様に、先端側に凸な略半球形状である。また、最先端部P1に対して基端側に隣接する中間部P2の外形状は、ワイヤ24のテーパ部22の外形状と同様に、先端に向かうにつれて外径が小さくなるテーパ形状である。また、中間部P2に対して基端側に隣接する基端側部P3の外形状は、ワイヤ24のストレート部21の外形状と同様に、外形が略一定のストレート形状である。
【0032】
被覆部27は、先端側被覆部25と、基端側被覆部26とを有する。先端側被覆部25は、ワイヤ24の溶接部23およびテーパ部22を被覆している。すなわち、先端側被覆部25は、樹脂被覆ワイヤ20の先端側部P4を構成している。また、基端側被覆部26は、ワイヤ24のストレート部21を被覆している。すなわち、基端側被覆部26は、樹脂被覆ワイヤ20の基端側部P3を構成している。
【0033】
先端側被覆部25と基端側被覆部26とは、互いに異なる種類の樹脂材料により形成されている。より具体的には、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料は、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料より、水に対する親和性が高い。そのような条件を満たす2つの樹脂材料の組合せとしては、例えば、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料がETFE、PTFEまたはPFAであり、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料がアクリルウレタン、ポリエチレンまたはポリアミドである組合せが挙げられる。なお、本実施形態の薬液注入装置100が対象とする薬液(以下、「対象薬液」という。)は、薬剤を生理食塩水に溶かしたものであるため、水分を多く含んでいる。そのため、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料は、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料より、対象薬液に対する親和性が高いこととなる。樹脂材料における水に対する親和性の高さは、接触角により表すことができ、接触角が小さいほど水に対する親和性が高いと言える。先端側被覆部25を形成するための樹脂材料は、特許請求の範囲における第1の樹脂材料の一例であり、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料は、特許請求の範囲における第2の樹脂材料の一例である。
【0034】
また、本実施形態では、
図3および
図4に示すように、ワイヤ24のストレート部21における先端側の一部分(以下、「先端側ストレート部28」という。)に、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料(例えば、アクリルウレタン、ポリエチレンまたはポリアミド)が染み込んでいる。すなわち、先端側ストレート部28においては、ワイヤ24を構成する各細ワイヤ240や各素線242間の隙間29に、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料が存在している。
【0035】
なお、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、先端側部P4に、ワイヤ24を構成する各細ワイヤ240や各素線242間が接合された溶接部23が存在している。また、先端側部P4において、先端側被覆部25を構成する樹脂材料がワイヤ24を構成する各細ワイヤ240や各素線242間に染み込むことにより、各細ワイヤ240や各素線242間が接着されている。そのため、樹脂被覆ワイヤ20の先端側部P4(ワイヤ24の溶接部23およびテーパ部22により構成された部分)の剛性は、基端側部P3(ワイヤ24のストレート部21により構成された部分)の剛性より高くなっている。
【0036】
A-3.樹脂被覆ワイヤ20の製造方法:
本実施形態の薬液注入装置100を構成する樹脂被覆ワイヤ20の製造方法は、例えば以下の通りである。はじめに、基端側被覆部26によって全体が被覆されたロープワイヤ(ワイヤ24の形成材料)を準備する。このロープワイヤは、最終的にワイヤ24のテーパ部22となる部分が予めテーパ形状に加工されたものである。
【0037】
次に、該ロープワイヤにおいて、最終的にワイヤ24のテーパ部22および溶接部23となる部分の基端側被覆部26を剥離する。これにより、基端側被覆部26は、ワイヤ24のストレート部21となる部分のみを被覆する状態となり、ワイヤ24のテーパ部22および溶接部23となる部分が露出する。
【0038】
次に、該ロープワイヤの最先端部に対し、軸方向から例えばYAGレーザ溶接により溶接を行うことにより、溶接部23を形成する。これにより、ストレート部21とテーパ部22と溶接部23とを有するワイヤ24が形成される。
【0039】
次に、ロープワイヤにおける基端側被覆部26が剥離された部分に、先端側被覆部25の形成材料(接着剤)を塗布する。これにより、ワイヤ24のテーパ部22および溶接部23を被覆する先端側被覆部25が形成される。また、ワイヤ24のストレート部21のうち、先端側ストレート部28に、先端側被覆部25の形成材料が染みこみ、ワイヤ24を構成する各細ワイヤ240や各素線242間が接着される。以上の工程により、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20を製造することができる。
【0040】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の薬液注入装置100は、薬液DSが収容された針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で前進することによって針カテーテル10の先端から薬液DSを押し出すことができる樹脂被覆ワイヤ20を備える。樹脂被覆ワイヤ20は、ワイヤ24と、ワイヤを被覆する樹脂製の被覆部27とを備える。被覆部27は、先端側被覆部25と、基端側被覆部26とを有する。先端側被覆部25は、ワイヤ24の先端部(溶接部23およびテーパ部22)を被覆する。基端側被覆部26は、ワイヤ24における先端部(溶接部23およびテーパ部22)に対して基端側に隣接する部分(ストレート部21)を被覆する。先端側被覆部25を形成するための樹脂材料は、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料より水に対する親和性が高い。
【0041】
このように、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料は、基端側被覆部26を形成するための樹脂材料より水に対する親和性が高い。すなわち、基端側被覆部26の表面では、水中の(薬液DS中の)気泡が広がるように付着しやすい一方、先端側被覆部25の表面では、該気泡が広がりにくく付着しにくい。そのため、針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内に収容された薬液DSに気泡が混入した場合であっても、樹脂被覆ワイヤ20を前進させることにより、該気泡が先端側被覆部25の位置から基端側被覆部26の位置に相対的に移動して基端側被覆部26に付着し、該気泡が先端側に流れることを抑制することができる。従って、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、樹脂被覆ワイヤ20を用いて針カテーテル10の先端から薬液DSを押し出す際に、薬液DSと共に気泡を患部に投与してしまうおそれを低減することができる。
【0042】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、ワイヤ24は、複数の細ワイヤ240を螺旋状に巻回して形成されたロープワイヤである。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、樹脂被覆ワイヤ20の柔軟性を向上させることができ、針カテーテル10が屈曲していたとしても針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で樹脂被覆ワイヤ20を容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、ワイヤ24を構成する複数の細ワイヤ240のそれぞれは、複数の素線242を螺旋状に巻回して形成された撚線ワイヤである。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、樹脂被覆ワイヤ20の柔軟性を効果的に向上させることができ、針カテーテル10が屈曲していたとしても針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で樹脂被覆ワイヤ20をさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、ワイヤ24のストレート部21における先端側の一部分である先端側ストレート部28に、先端側被覆部25を形成するための樹脂材料が染み込んでいる。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、例えば基端側被覆部26と先端側被覆部25との境界からのワイヤ24の内部への薬液DSの浸透による薬液DSのロスを効果的に低減することができる。また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、ワイヤ24の先端から基端側に向けて、ワイヤ24の剛性(ひいては、樹脂被覆ワイヤ20の剛性)の急激な変化を回避することができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、樹脂被覆ワイヤ20の最先端部P1が、先端側に凸な略半球形状である。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、針カテーテル10が屈曲していたとしても針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で樹脂被覆ワイヤ20をさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20は、最先端部P1と、最先端部P1に対して基端側に隣接し、先端に向かうにつれて外径が小さくなるテーパ形状を有する中間部P2と、中間部P2に対して基端側に隣接し、外径が略一定である基端側部P3とを有する。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、テーパ形状を有する中間部P2の存在により、針カテーテル10が屈曲していたとしても針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で樹脂被覆ワイヤ20をさらに容易に前進させることができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20では、先端側部P4(ワイヤ24の溶接部23およびテーパ部22により構成された部分)の剛性は、基端側部P3(ワイヤ24のストレート部21により構成された部分)の剛性より高い。そのため、本実施形態の樹脂被覆ワイヤ20によれば、針カテーテル10の薬液収容ルーメンL内で樹脂被覆ワイヤ20を前進させる際に、樹脂被覆ワイヤ20の先端側が薬液DSからの圧力によって変形したり後退したりするおそれを低減することができ、樹脂被覆ワイヤ20の操作性や樹脂被覆ワイヤ20による薬液注入精度を効果的に向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態の薬液注入装置100は、上述した構成の樹脂被覆ワイヤ20と、針カテーテル10とを備える。そのため、本実施形態の薬液注入装置100によれば、薬液注入装置100の操作性や薬液注入精度を向上させることができる。
【0049】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
上記実施形態における薬液注入装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、ワイヤ24が、溶接部23とテーパ部22とストレート部21とから構成されているが、ストレート部21の基端側に他の部分が存在してもよい。また、ワイヤ24が溶接部23および/またはテーパ部22を有さなくてもよい。
【0051】
上記実施形態では、ワイヤ24を構成する複数の細ワイヤ240のそれぞれは、複数の素線242を螺旋状に巻回して形成された撚線ワイヤであるが、ワイヤ24を構成する複数の細ワイヤ240のそれぞれが、1本の素線から構成されていてもよい。また、上記実施形態では、ワイヤ24は、複数の細ワイヤ240を螺旋状に巻回して形成されたロープワイヤであるが、ワイヤ24が1本の素線から構成されていてもよい。
【0052】
上記実施形態では、被覆部27の先端側被覆部25がワイヤ24の溶接部23およびテーパ部22を被覆し、基端側被覆部26がワイヤ24のストレート部21を被覆しているが、被覆部27の構成はこれに限られない。例えば、先端側被覆部25が溶接部23およびテーパ部22における先端側の一部を被覆し、基端側被覆部26がテーパ部22における基端側の一部およびストレート部21を被覆するとしてもよい。あるいは、先端側被覆部25が溶接部23、テーパ部22およびストレート部21における先端側の一部を被覆し、基端側被覆部26がストレート部21における基端側の一部を被覆するとしてもよい。
【0053】
上記実施形態における薬液注入装置100を構成する各部材の形成材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。また、上記実施形態における薬液注入装置100を構成する樹脂被覆ワイヤ20の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0054】
10:針カテーテル 12:カテーテルシャフト 14:針部 16:内腔 18:内腔 20:樹脂被覆ワイヤ 21:ストレート部 22:テーパ部 23:溶接部 24:ワイヤ 25:先端側被覆部 26:基端側被覆部 27:被覆部 28:先端側ストレート部 29:隙間 30:コントローラ 100:薬液注入装置 240:細ワイヤ 242:素線 AX:中心軸 DS:薬液 L:薬液収容ルーメン P1:最先端部 P2:中間部 P3:基端側部 P4:先端側部