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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191597
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】電力変換装置及び電力変換方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20221221BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221221BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099908
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 尊衛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】安東 正登
(72)【発明者】
【氏名】高山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】関 真希
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA26
5H770DA30
5H770DA41
5H770GA02
5H770GA11
5H770HA02Y
(57)【要約】
【課題】並列接続された複数の電力変換ユニットを備える電力変換装置においてスイッチング損失を低減する。
【解決手段】インダクタンス成分を介して並列接続された複数の電力変換ユニット10,20と、複数の電力変換ユニット10,20の各々が備えたスイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを変化させて出力を制御する制御部4と、を備えた電力変換装置1であって、制御部4は、第一の電力変換ユニット10が備えるスイッチング素子Q11~Q16のターンオンタイミングと、第二の電力変換ユニット20が備えるスイッチング素子Q21~Q26のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタンス成分を介して並列接続された複数の電力変換ユニットと、複数の前記電力変換ユニットの各々が備えたスイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを変化させて出力を制御する制御部と、を備えた電力変換装置であって、
前記制御部は、第一の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させる
電力変換装置。
【請求項2】
前記電力変換ユニットはそれぞれ第1入出力端子と第2入出力端子と、を備え、
各前記電力変換ユニットの第1入出力端子同士と、各前記電力変換ユニットの第2入出力端子同士とがそれぞれ接続されている
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、負荷電流の増加に伴って、第一の前記電力変換ユニット及び第二の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングを遅延させる時間を増加させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電力変換ユニットは、
コンデンサと、直列接続した第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子から構成される第1スイッチングレッグと、を備え、
前記コンデンサと前記第1スイッチングレッグとを並列に接続し、前記コンデンサの両端に前記第1入出力端子を接続し、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子との接続点と前記コンデンサの一端とを前記第2入出力端子に接続している
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力変換ユニットは、
コンデンサと、直列接続した第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子から構成される第1スイッチングレッグと、
直列接続した第3スイッチング素子及び第4スイッチング素子から構成される第2スイッチングレッグと、を備え、
前記コンデンサと前記第1スイッチングレッグと前記第2スイッチングレッグとを並列に接続し、前記コンデンサの両端を前記第1入出力端子に接続し、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子との接続点と、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子との接続点とを前記第2入出力端子に接続している
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力変換ユニットは、
コンデンサと、直列接続した第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子から構成される第1スイッチングレッグと、
直列接続した第3スイッチング素子及び第4スイッチング素子から構成される第2スイッチングレッグと、
直列接続した第5スイッチング素子及び第6スイッチング素子から構成される第3スイッチングレッグと、を備え、
前記コンデンサと前記第1スイッチングレッグと前記第2スイッチングレッグと前記第3スイッチングレッグとを並列に接続し、前記コンデンサの両端を前記第1入出力端子に接続し、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子との接続点と、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子との接続点と、前記第5スイッチング素子と前記第6スイッチング素子との接続点とを前記第2入出力端子に接続している
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
各前記電力変換ユニットは、前記インダクタンス成分の主成分として、前記第1入出力端子及び/又は前記第2入出力端子に接続されたインダクタを備える
請求項4~6のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
各前記電力変換ユニットは、前記インダクタンス成分の主成分としてのインダクタを介して並列接続されている
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、各前記電力変換ユニットの平均電流をバランスさせるように前記スイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを制御する
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項10】
3個以上の前記電力変換ユニットを備え、
前記制御部は、並列接続する前記電力変換ユニットを2つのグループに分け、一方のグループの前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、他方のグループの前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項11】
3個の前記電力変換ユニットを備え、
前記制御部は、第一の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、さらに第三の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングを順次繰り返し遅延させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項12】
3個以上の前記電力変換ユニットを備え、
前記制御部は、一部の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、他の一部の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、さらに他の一部の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングを順次繰り返し遅延させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項13】
インダクタンス成分を介して並列接続された複数の電力変換ユニットと、複数の前記電力変換ユニットの各々が備えたスイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを変化させて出力を制御する制御部と、を備えた電力変換装置による電力変換方法であって、
前記制御部により、第一の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の前記電力変換ユニットが備える前記スイッチング素子のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させる
電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入出力間で電力を変換する電力変換装置及び電力変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界のエネルギー使用量を削減するため、モータを駆動するインバータや、インバータに電力を供給するコンバータ、電気自動車の充放電装置など、半導体のスイッチング素子を用いた電力変換装置に高効率化が求められている。これらの電力変換装置では、スイッチング素子を備えた複数の電力変換ユニットが並列に接続して構成されることがある。
【0003】
電力変換装置を高効率化するためには、スイッチング素子で損失するエネルギーを削減する必要がある。スイッチング素子における損失としては、スイッチング素子に電流が流れることにより発生する導通損失と、スイッチング素子をオン状態とオフ状態の間で切り替える際に発生するスイッチング損失がある。
【0004】
特許文献1に、一対のスイッチング素子の並列接続体を用いて電力変換装置を構成する場合におけるスイッチング損失を低減できる制御装置が開示されている。この特許文献1には、制御装置によって「一方のスイッチング素子の駆動電圧がミラー電圧となる際に、他方のスイッチング素子のオン動作又はオフ動作が開始されるとともに、他方のスイッチング素子がターンオン又はターンオフされるように、第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子のスイッチング動作に遅延時間を発生させる」ことが記載されている。これにより、一方のスイッチング素子のミラー電圧での通電状態で、他方のスイッチング素子がスイッチング動作されることとなるため、他方のスイッチング素子のオン動作又はオフ動作に伴うスイッチング損失の発生を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-24312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示された技術は、スイッチング素子を並列接続した場合に適用する技術である。しかし、この技術を用いても、並列接続されたスイッチング素子でスイッチングされる合計の電流を低減できないため、スイッチング損失の低減効果が不十分な場合がある。また、特許文献1では、並列接続された複数の電力変換ユニットから構成される電力変換装置においてスイッチング損失を低減することには言及されていない。
【0007】
上記の状況から、並列接続された複数の電力変換ユニットを備える電力変換装置においてスイッチング損失を低減する電力変換手法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の電力変換装置は、インダクタンス成分を介して並列接続された複数の電力変換ユニットと、複数の電力変換ユニットの各々が備えたスイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを変化させて出力を制御する制御部と、を備えた電力変換装置であって、上記制御部は、第一の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一態様の電力変換装置によれば、並列接続された複数の電力変換ユニットを備える電力変換装置においてスイッチング損失を低減し、高い効率を得ることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の例を示す回路構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の動作例を説明する波形図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の動作例(モードA1~A4)を説明する回路図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の動作例(モードA5~A8)を説明する回路図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の動作例(モードA9~A12)を説明する回路図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の他の動作例を説明する波形図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の他の動作例(モードB1~B3n)を説明する回路図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の他の動作例(モードB4~B7)を説明する回路図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の他の動作例(モードB8~B10)を説明する回路図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の他の動作例(モードB11~B12)を説明する回路図である。
図11】本発明の第1の実施形態に係るスイッチング素子の遅延時間を変化させたときのスイッチング損失と導通損失の変化の様子を表わす図である。
図12】本発明の第1の実施形態に係るインダクタに流れる電流の変化に対して遅延時間を変化させる様子を表わす図である。
図13】本発明の第2の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。
図14】本発明の第3の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。
図15】本発明の第4の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
<第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置について図1図4を参照して説明する。
【0013】
[電力変換装置の回路構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の回路構成図である。図示する電力変換装置1は、直流電源2と負荷3(例えばモータ)との間に接続され、直流電源2から電力を入力し、負荷3に直流及び交流の電力を供給する。また、負荷3から電力を入力し、直流電源2に電力を回生することも可能である。
【0014】
この電力変換装置1は、電力変換ユニット10と、電力変換ユニット20と、インダクタL11~L13,L21~L23,L1~L3と、負荷電流を検出する電流センサ5~7と、電力変換ユニット10,20が備えるスイッチング素子のオン/オフを制御して負荷電流を制御する制御部4とを備えている。
【0015】
電力変換ユニット10は、コンデンサC1と、スイッチングレッグS11(第1スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS12(第2スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS13(第3スイッチングレッグの例)と、端子T11~T15を備える。スイッチングレッグS11は、直列接続したスイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12から構成される。スイッチングレッグS12は、直列接続したスイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14から構成される。スイッチングレッグS13は、直列接続したスイッチング素子Q15とスイッチング素子Q16から構成される。コンデンサC1とスイッチングレッグS11とスイッチングレッグS12とスイッチングレッグS13は、並列に接続されている。電力変換ユニット10,20を構成するスイッチング素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor)などである。
【0016】
コンデンサC1の一端は端子T11に接続され、コンデンサC1の他端は端子T12に接続されている。端子T11は直流電源2の一方の電極に接続され、端子T12は直流電源2の他方の電極に接続されている。また、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12の接続点に端子T13が接続され、スイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14の接続点に端子T14が接続され、スイッチング素子Q15とスイッチング素子Q16の接続点に端子T15が接続されている。この端子T11,T12を入出力端子11とし、端子T13~T15を入出力端子13としている。スイッチング素子Q11~Q16には、それぞれダイオードD11~D16が逆並列接続されている。
【0017】
電力変換ユニット20は、コンデンサC2と、スイッチングレッグS21(第1スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS22(第2スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS23(第3スイッチングレッグの例)と、端子T21~T25を備える。スイッチングレッグS21は、直列接続したスイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22から構成される。スイッチングレッグS22は、直列接続したスイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24から構成される。スイッチングレッグS23は、直列接続したスイッチング素子Q25とスイッチング素子Q26から構成される。コンデンサC2とスイッチングレッグS21とスイッチングレッグS22とスイッチングレッグS23は、並列に接続されている。
【0018】
コンデンサC2の一端は端子T21に接続され、コンデンサC2の他端は端子T22に接続されている。また、スイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22の接続点に端子T23が接続され、スイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24の接続点に端子T24が接続され、スイッチング素子Q25とスイッチング素子Q26の接続点に端子T25が接続されている。この端子T21,T22を入出力端子21とし、端子T23~T25を入出力端子23としている。スイッチング素子Q21~Q26には、それぞれダイオードD21~D26が逆並列接続されている。
【0019】
電力変換ユニット10と電力変換ユニット20は並列接続されている。具体的には、電力変換ユニット10の入出力端子11(T11,T12)と電力変換ユニット20の入出力端子21(T21,T22)が接続されている。また、電力変換ユニット10の入出力端子13(T13~T15)と電力変換ユニット20の入出力端子23(T23~T25)が、相ごとにインダクタL11~L13及びインダクタL21~L23を介して接続されている。
【0020】
図1に示すように、電力変換ユニット10と電力変換ユニット20の負荷3側は、インダクタンス成分の主成分としてのインダクタ(インダクタL11~L13,L21~L23)を介して並列接続されている。なお、インダクタL11~L13,L21~L23のインダクタンスを、電力変換ユニット10と電力変換ユニット20とを接続する配線のインダクタンスで代用する場合は、インダクタL11~L13,L21~L23を省略してもよい。
【0021】
インダクタL11とインダクタL21の接続点にインダクタL1の一端が接続され、インダクタL12とインダクタL22の接続点にインダクタL2の一端が接続され、インダクタL13とインダクタL23の接続点にインダクタL3の一端が接続され、インダクタL1~L3の電流が負荷3に供給される。なお、負荷3が、モータなど十分な大きさのインダクタンスを有する場合や、電流源とみなせる特性の場合は、インダクタL1~L3は省略してもよい。
【0022】
制御部4は、スイッチング素子Q11~Q16,Q21~Q26のオン/オフを制御し、電流センサ5~7で検出する負荷電流を制御する。そして、制御部4は、電流センサ5~7を用いて検出した負荷電流に基づいて、スイッチング素子Q11~Q16,Q21~Q26のオン/オフを制御する。電力変換ユニット10,20は、スイッチング素子Q11~Q16ごとに、ゲート信号を供給する駆動回路(図示略)を備える。制御部4は、スイッチング素子Q11~Q16ごとに対応する駆動回路に駆動指令を出力し、スイッチング素子Q11~Q16のスイッチング動作(オン/オフ)を制御する。
【0023】
制御部4は、例えばマイクロコンピュータ等から構成されるコントローラである。制御部4は、電流センサ5~7が検出した各相の電流をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル(A/D)変換回路4a、プロセッサ4b、及びメモリ4c等を備える。プロセッサ4bは、例えばCPU(Central Processing Unit)等の処理装置である。処理装置として、CPUの代わりに、MPU(Micro-Processing Unit)を用いてもよい。メモリ4cは、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコード(制御プログラム)が格納された半導体メモリ等の記憶装置である。制御部4は、図示しないネットワークインターフェースを備え、例えば制御対象システムのECU(Electronic Control Unit)から負荷電流の目標値を受信する。プロセッサ4bは、メモリ4cから制御プログラムを読み出して実行し、A/D変換回路4aから入力される電流センサ5~7の電流検出値と上記目標値に基づいて、各スイッチング素子Q11~Q16に対応する駆動回路に駆動指令を出力する。
【0024】
[電力変換装置の動作例]
次に、電力変換装置1の動作について図2図3図5を参照して説明する。
図2は、電力変換装置1の動作例を説明する波形図である。
図3は、電力変換装置1の動作例(モードA1~A4)を説明する回路図である。
図4は、電力変換装置1の動作例(モードA5~A8)を説明する回路図である。
図5は、電力変換装置1の動作例(モードA9~A12)を説明する回路図である。
【0025】
図2において、横軸に時間、縦軸に電力変換装置1の各部の電圧又は電流の状態を示している。Vg11,Vg12,Vg21,Vg22は、それぞれスイッチング素子Q11,Q12,Q21,Q22のゲート信号を表している。Highはスイッチング素子のオン状態、Lowがオフ状態を表している。I1はインダクタL1に流れる電流を表しており、負荷電流が負荷3へ流れる向きを正とする。I11,I21は、それぞれインダクタL11,L21に流れる電流を表しており、電流が電力変換ユニット10,20から出力する向きを正とする。Tpは、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21、及びスイッチング素子Q12とスイッチング素子Q22のうち、一方をターンオンしてから他方をターンオンするまでの時間(遅延時間)を表している。モードA1~A12の期間は、図3図5で説明する各モードに対応している。
【0026】
図3の(A1)~(A4)、図4の(A5)~(A8)、及び図5の(A9)~(A12)は、それぞれ図2に示すモードA1~A12における回路動作を示している。なお、図3図5では、図が煩雑になることを防ぐため母線の一相のみを記載し、他の相(電力変換ユニット10のスイッチング素子Q13~Q16と電力変換ユニット20のスイッチング素子Q23~Q26)は省略している。以下、モードA1~A12の各モードにおける回路動作を説明する。なお、本明細書では、インダクタL1や負荷3のインダクタンスが十分大きく、インダクタL1の電流I1が一定と見なせる場合を想定して説明する。また、コンデンサC1とコンデンサC2にかかる電圧は直流電源2の電圧と等しくなるが、この電圧を「直流リンク電圧」と呼称する。
【0027】
(モードA1)
電力変換ユニット10では、スイッチング素子Q11がオフ状態、スイッチング素子Q12がオン状態であり、インダクタL11の電流はダイオードD12を流れている。また、電力変換ユニット20では、スイッチング素子Q21がオフ状態、スイッチング素子Q22がオン状態であり、インダクタL21の電流はダイオードD22を流れている。図2に示すように、本モードでは、インダクタL11の電流I11は、インダクタL21の電流I21よりも小さくなっており、電流I11と電流I21の合計が、インダクタL1の電流I1となる。
【0028】
(モードA2)
スイッチング素子Q12,Q22をターンオフするとモードA2の状態になる。これらスイッチング素子Q12,Q22には電流は流れていなかったため、電流経路はモードA1と同様である。
【0029】
(モードA3)
スイッチング素子Q11をターンオンするとモードA3の状態になる。ダイオードD12を流れていたインダクタL11の電流がスイッチング素子Q11を流れる。このときのスイッチング素子Q11の切り替え時に流れるスイッチング電流は、インダクタL11の電流I11である。このインダクタL11の電流I11は、図2に示すように、インダクタL21の電流I21より小さいため、スイッチング素子Q11はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL11とインダクタL21には直流リンク電圧が印加され、インダクタL11の電流I11は増加していき、インダクタL21の電流I21は減少していく。そして、これらの電流I11とI21の大小関係は逆転し、電流I21は電流I11より小さくなる。
【0030】
(モードA4)
スイッチング素子Q11のターンオンから遅延時間Tp後にスイッチング素子Q21をターンオンすると、モードA4の状態になる。ダイオードD22を流れていたインダクタL21の電流がスイッチング素子Q21を流れる。このときのスイッチング電流はインダクタL21の電流I21であり、図2に示すように、インダクタL11の電流I11より小さくなっているため、スイッチング素子Q21はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL11とインダクタL21に直流リンク電圧が印加されなくなり、それぞれの電流I11と電流I21が維持される。なお、このとき電流経路上の電圧降下により、電流I11と電流I21の差が徐々に小さくなっていく場合がある。
【0031】
(モードA5)
スイッチング素子Q11,Q21をターンオフするとモードA5の状態になる。スイッチング素子Q11に流れていたインダクタL11の電流はダイオードD12に転流し、スイッチング素子Q21に流れていたインダクタL21の電流はダイオードD22に転流する。引き続き、インダクタL11,L21の電流I11,I21は維持される。
【0032】
(モードA6)
スイッチング素子Q12をターンオンするとモードA6の状態になる。インダクタL11の電流はダイオードD12に流れているため、電流経路はモードA5と同様である。
【0033】
(モードA7)
スイッチング素子Q22をターンオンするとモードA7の状態になる。インダクタL21の電流はダイオードD22に流れているため、電流経路はモードA6と同様である。
【0034】
(モードA8)
スイッチング素子Q12,Q22をターンオフするとモードA8の状態になる。これらスイッチング素子Q12,Q22には電流は流れていなかったため、電流経路はモードA7と同様である。
【0035】
(モードA9)
スイッチング素子Q21をターンオンするとモードA9の状態になる。ダイオードD22を流れていたインダクタL21の電流がスイッチング素子Q21を流れる。このときのスイッチング電流はインダクタL21の電流I21であり、図2に示すように、インダクタL11の電流I11より小さいため、スイッチング素子Q21はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL21とインダクタL11には直流リンク電圧が印加され、インダクタL21の電流I21は増加していき、インダクタL11の電流I11は減少していく。そして、これらの電流I21とI11の大小関係は逆転し、電流I11は電流I21より小さくなる。
【0036】
(モードA10)
スイッチング素子Q21のターンオンから遅延時間Tp後にスイッチング素子Q11をターンオンすると、モードA10の状態になる。ダイオードD12を流れていたインダクタL11の電流がスイッチング素子Q11を流れる。このときのスイッチング電流はインダクタL11の電流I11であり、図2に示すように、インダクタL21の電流I21より小さくなっているため、スイッチング素子Q11はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL21とインダクタL11に直流リンク電圧が印加されなくなり、それぞれの電流I21と電流I11が維持される。なお、このとき電流経路上の電圧降下により、電流I21と電流I11の差が徐々に小さくなっていく場合がある。
【0037】
(モードA11)
スイッチング素子Q11,Q21をターンオフするとモードA11の状態になる。スイッチング素子Q11に流れていたインダクタL11の電流はダイオードD12に転流し、スイッチング素子Q21に流れていたインダクタL21の電流はダイオードD22に転流する。引き続き、インダクタL11,L21の電流I11,I21は維持される。
【0038】
(モードA12)
スイッチング素子Q22をターンオンするとモードA12の状態になる。インダクタL21の電流はダイオードD22に流れているため、電流経路はモードA11と同様である。
【0039】
その後、スイッチング素子Q12をターンオンするとモードA1の状態に戻る。インダクタL11の電流はダイオードD12に流れているため、電流経路はモードA12と同様である。以降、これらのモードA1~A12を繰り返す。
【0040】
このように、スイッチング素子Q11のターンオンタイミングとスイッチング素子Q21のターンオンタイミングとの間に遅延時間Tpを設けることで、スイッチング素子Q11のターンオン時のスイッチング電流と、スイッチング素子Q21のターンオン時のスイッチング電流を両方ともインダクタL1の電流の半分より小さい値にできる。したがって、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21のターンオン時のスイッチング電流の合計を、インダクタL1の電流すなわち負荷電流よりも小さくすることが可能である。これにより、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21の両方のターンオン時のスイッチング損失を低減できる。
【0041】
なお、ターンオフタイミングについては遅延時間を設けていないため、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21のターンオフ時のスイッチング電流の合計は、インダクタL1の電流すなわち負荷電流と同等である。
【0042】
[電力変換装置の他の動作例]
次に、スイッチング動作の過程でインダクタL11又はL21の電流がゼロになるような、負荷電流が比較的小さい条件における電力変換装置1の動作について図6図7図10を用いて説明する。
図6は、電力変換装置1の他の動作例を説明する波形図である。
図7は、電力変換装置1の他の動作例(モードB1~B3n)を説明する回路図である。
図8は、電力変換装置1の他の動作例(モードB4~B7)を説明する回路図である。
図9は、電力変換装置1の他の動作例(モードB8~B10)を説明する回路図である。
図10は、電力変換装置1の他の動作例(モードB11~B12)を説明する回路図である。
【0043】
図6において、横軸に時間、縦軸に電力変換装置1の各部の電圧又は電流の状態を示している。各記号の意味は図2と同様である。モードB1~B12,B3n,B9nの期間は、図7図10で説明する各モードに対応している。
【0044】
図7の(B1)~(B3n)、図8の(B4)~(B7)、図9の(B8)~(B10)、及び図10の(B11)~(B12)は、それぞれ図6に示すモードB1~B12,B3n,B9nにおける回路動作を示している。なお、図の表記方法は図3図5と同様である。
【0045】
(モードB1)
電力変換ユニット10のスイッチング素子Q11,Q12の状態、電力変換ユニット20のスイッチング素子Q21,Q22の状態、電流経路、及びインダクタL11の電流I11がインダクタL21の電流I21よりも小さくなっている点は、図3のモードA1と同様である。
【0046】
(モードB2)
スイッチング素子Q12,Q22をターンオフするとモードB2の状態になる。これらスイッチング素子Q12,Q22には電流は流れていなかったため、電流経路はモードB1と同様である。
【0047】
(モードB3)
スイッチング素子Q11をターンオンするとモードB3の状態になる。ダイオードD12を流れていたインダクタL11の電流がスイッチング素子Q11を流れる。このときのスイッチング電流はインダクタL11の電流I11であり、図6に示すように、インダクタL21の電流I21より小さいため、スイッチング素子Q11はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL11とインダクタL21には直流リンク電圧が印加され、インダクタL11の電流I11は増加していき、インダクタL21の電流I21は減少していく。そして、これらの電流I11とI21の大小関係は逆転し、電流I21は電流I11より小さくなる。
【0048】
(モードB3n)
インダクタL21の電流I21が減少しゼロに達すると、モードB3nの状態になる。スイッチング素子Q22はオフ状態であるから、インダクタL21の電流は逆向きには流れず、インダクタL21の電流I21はゼロを維持する。したがって、インダクタL11の電流I11は、インダクタL1の電流I1と等しい状態が維持される。
【0049】
(モードB4)
スイッチング素子Q11のターンオンから遅延時間Tp後にスイッチング素子Q21をターンオンすると、モードB4の状態になる。モードB3nではインダクタL21の電流I21はゼロであったから、スイッチング素子Q21はゼロ電流でターンオンしている。その後、インダクタL11に流れる電流の経路上の電圧降下により、インダクタL21に電流が徐々に流れ始める場合がある。
【0050】
(モードB5)
スイッチング素子Q11,Q21をターンオフするとモードB5の状態になる。スイッチング素子Q11に流れていたインダクタL11の電流はダイオードD12に転流し、スイッチング素子Q21に流れていたインダクタL21の電流はダイオードD22に転流する。引き続き、インダクタL11,L21の電流I11,I21は維持される。
【0051】
(モードB6)
スイッチング素子Q12をターンオンするとモードB6の状態になる。インダクタL11の電流はダイオードD12に流れているため、電流経路はモードB5と同様である。
【0052】
(モードB7)
スイッチング素子Q22をターンオンするとモードB7の状態になる。インダクタL21の電流はダイオードD22に流れているため、電流経路はモードB6と同様である。
【0053】
(モードB8)
スイッチング素子Q12,Q22をターンオフするとモードB8の状態になる。これらスイッチング素子Q12,Q22には電流は流れていなかったため、電流経路はモードB7と同様である。
【0054】
(モードB9)
スイッチング素子Q21をターンオンするとモードB9の状態になる。ダイオードD22を流れていたインダクタL21の電流がスイッチング素子Q21を流れる。このときのスイッチング電流はインダクタL21の電流I21であり、図6に示すように、インダクタL11の電流I11より小さいため、スイッチング素子Q21はインダクタL1の電流I1の半分よりも小さい電流でターンオンしている。インダクタL21とインダクタL11には直流リンク電圧が印加され、インダクタL21の電流I21は増加していき、インダクタL11の電流I11は減少していく。そして、これらの電流I21とI11の大小関係は逆転し、電流I11は電流I21より小さくなる。
【0055】
(モードB9n)
インダクタL11の電流I11が減少しゼロに達すると、モードB9nの状態になる。スイッチング素子Q12はオフ状態であるから、インダクタL11の電流は逆向きには流れず、インダクタL11の電流I11はゼロを維持する。したがって、インダクタL21の電流I21は、インダクタL1の電流I1と等しい状態が維持される。
【0056】
(モードB10)
スイッチング素子Q21のターンオンから遅延時間Tp後にスイッチング素子Q11をターンオンすると、モードB10の状態になる。モードB9nではインダクタL11の電流I11はゼロであったから、スイッチング素子Q11はゼロ電流でターンオンしている。その後、インダクタL21に流れる電流の経路上の電圧降下により、インダクタL11に電流が徐々に流れ始める場合がある。
【0057】
(モードB11)
スイッチング素子Q11,Q21をターンオフするとモードB11の状態になる。スイッチング素子Q11に流れていたインダクタL11の電流はダイオードD12に転流し、スイッチング素子Q21に流れていたインダクタL21の電流はダイオードD22に転流する。引き続き、インダクタL11,L21の電流I11,I21は維持される。
【0058】
(モードB12)
スイッチング素子Q22をターンオンするとモードB12の状態になる。インダクタL21の電流はダイオードD22に流れているため、電流経路はモードB11と同様である。
【0059】
その後、スイッチング素子Q12をターンオンするとモードB1の状態に戻る。インダクタL11の電流はダイオードD12に流れているため、電流経路はモードB12と同様である。以降、これらのモードB1~B12を繰り返す。
【0060】
このように、スイッチング素子Q11のターンオンタイミングとスイッチング素子Q21のターンオンタイミングとの間に遅延時間Tpを設けることで、負荷電流が比較的小さい場合でも、図2図6に示した場合と同様の効果が得られる。すなわち、負荷電流が比較的小さい場合でも、スイッチング素子Q11のターンオン時のスイッチング電流と、スイッチング素子Q21のターンオン時のスイッチング電流を両方ともインダクタL1の電流の半分より小さい値にできる。
【0061】
特に、負荷電流が比較的小さい場合には、一方のスイッチング素子はゼロ電流でターンオンすることが可能である。したがって、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21のターンオン時のスイッチング電流の合計を、インダクタL1の電流すなわち負荷電流よりも小さくすることが可能である。これにより、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q21の両方のターンオン時のスイッチング損失を低減できる。
【0062】
本実施形態に係る電力変換装置1のポイントを別の言葉で言い換えると、電力変換装置1は、並列接続した電力変換ユニット10,20が備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを電力変換ユニット10,20間でずらす。電力変換ユニット10,20間でスイッチング素子のターンオンタイミングをずらすことで、あえてスイッチング素子のスイッチング電流をアンバランスさせている。このとき、スイッチング素子のスイッチング電流を適切なタイミングでアンバランスさせることで、電力変換ユニット10,20が備えるスイッチング素子のスイッチング損失を低減することができる。
【0063】
[遅延時間の決定方法]
次に、遅延時間Tpの決め方について図11及び図12を用いて説明する。
図11は、遅延時間Tpを変化させたときのスイッチング損失Wsと導通損失Wcの変化の様子を示している。
図12は、インダクタL1に流れる電流I1の変化に対して遅延時間Tpを変化させる様子を示している。
【0064】
前述のように、電力変換ユニット10,20が備えるスイッチング素子のターンオンタイミングの遅延時間Tpを設けることでスイッチング損失Wsが低減される。一方、各電力変換ユニット10,20の電流は、スイッチング周期ごとに増加と減少を繰り返す。このため、図11に示すように、遅延時間Tpを大きくするとスイッチング損失Wsは低減されるが、各電力変換ユニット10,20に流れる電流の実効値が大きくなり、導通損失Wcは増加する。したがって、スイッチング損失Wsと導通損失Wcとの合計値が小さくなるように遅延時間Tpを決めればよい。
【0065】
ここで、電流の実効値とは、図2に示した電流波形の各部(瞬時値)を二乗して平均した値の平方根で求められる。したがって、遅延時間Tpを設けたことによるスイッチング周期ごとの電流の増減変化幅が等しい場合は、負荷電流すなわちインダクタL1の電流I1が大きくて各電力変換ユニット10,20の平均電流が大きいほど、電流実効値の増加は小さくなる。言い換えれば、電流実効値の増加を一定以内に抑える場合、負荷電流が大きいほど、遅延時間Tpを大きくしてスイッチング損失の低減量を大きくすることができる。したがって、図12に示すように、負荷電流すなわちインダクタL1の電流I1の増加に伴って、電力変換ユニット10,20が備えるスイッチング素子のターンオンタイミングの遅延時間Tpを大きくすればよい。図12には、負荷電流と遅延時間Tpとの関係がおおよそ線形である例が示されている。
【0066】
なお、損失低減の観点から、電力変換ユニット10の平均電流と電力変換ユニット20の平均電流をバランス(均衡又は調和)させて同程度に維持することが望ましい。そのために、制御部4は、各電力変換ユニット20,30の平均電流をバランスさせるように各スイッチング素子のターンオン及びターンオフのタイミングを制御する。例えば、電力変換ユニット10の電流としてインダクタL11の電流と、電力変換ユニット20の電流としてインダクタL21の電流を検出し、電流が小さい方の電力変換ユニットはターンオン時の遅延時間Tpを短くするなど、スイッチング素子がオン状態となる期間が短くなるようにすればよい。
【0067】
一般に、電力変換ユニット20,30の平均電流は、時間の経過とともに電流経路上の電圧降下などによって自然にバランスするが、自然にバランスしない場合がある。このように、制御部4が各電力変換ユニット20,30の平均電流をバランスさせるよう制御することで、電力変換ユニット20,30の平均電流が自然にバランスしない場合に、能動的にバランスさせることが可能となる。
【0068】
上記の説明では、電力変換ユニット10のスイッチング素子Q11,Q12と、電力変換ユニット20のスイッチング素子Q21,Q22の動作について説明したが、電力変換ユニット10の他のスイッチング素子Q13~Q16と、電力変換ユニット20の他のスイッチング素子Q23~Q26についても同様に制御すればよい。また、インダクタL1の電流の極性が正の場合について説明したが、負の場合についても同様に制御すればよい。
【0069】
上記の遅延時間Tpの決定方法は、後述する第2~第4の実施形態の電力変換装置に対しても適用することができる。同様に、並列に接続された複数の電力変換ユニットの平均電流をバランスさせる技術思想は、後述する第2~第4の実施形態の電力変換装置に対しても適用することができる。
【0070】
なお、上記の第1の実施形態では、本発明の電力変換装置を三相インバータに適用した例を説明したが、本発明の電力変換装置は三相コンバータにも適用できることは勿論である。
【0071】
以上のとおり、第1の実施形態に係る電力変換装置(例えば電力変換装置1)は、インダクタンス成分(例えばインダクタL11~L13,L11~L13、又は配線)を介して並列接続された複数の電力変換ユニット(電力変換ユニット10,20)と、複数の電力変換ユニットの各々が備えたスイッチング素子(スイッチング素子Q11~16,Q21~26)のターンオン及びターンオフのタイミングを変化させる制御部(制御部4)と、を備える。上記制御部は、第一の電力変換ユニット(電力変換ユニット10)が備えるスイッチング素子(スイッチング素子Q11~16)のターンオンタイミングと、第二の電力変換ユニット(電力変換ユニット10)が備えるスイッチング素子(スイッチング素子Q21~26)のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させるように構成される。
【0072】
上記構成を備える第1の実施形態に係る電力変換装置では、第一の電力変換ユニットが備えたスイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の電力変換ユニットが備えたスイッチング素子のターンオンタイミングとの間に遅延時間(Tp)を設けて交互に遅延させる。これにより、ターンオフ時のスイッチング電流の合計を増加させずに、ターンオン時のスイッチング電流の合計を低減させて、電力変換装置のスイッチング損失を低減させることができる。すなわち、本実施形態に係る電力変換装置は、並列接続された複数(図1では2個)の電力変換ユニットを備える構成においてスイッチング損失を低減して高い効率を得ることができる。
【0073】
[変形例]
ところで、上述した電力変換装置1の電力変換ユニット20,30が備えるスイッチング素子のターンオンタイミングの遅延時間Tpは、相対的なものである。したがって、一方の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを固定した状態で、他方の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを交互に遅延/前倒しする構成としてもよい。この構成により、電力変換装置1を図2及び図6に示した動作を実施させた場合と同様の効果が得られる。
【0074】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、第1の実施形態に係る電力変換装置1に対して、電力変換ユニット内にインダクタを備える構成とした例である。
【0075】
図13は、第2の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。図示する電力変換ユニット30は、コンデンサC3と、スイッチングレッグS31(第1スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS32(第2スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS33(第3スイッチングレッグの例)と、端子T31~T35を備える。スイッチングレッグS31は、直列接続したスイッチング素子Q31とスイッチング素子Q32から構成される。スイッチングレッグS32は、直列接続したスイッチング素子Q33とスイッチング素子Q34から構成される。スイッチングレッグS33は、直列接続したスイッチング素子Q35とスイッチング素子Q36から構成される。コンデンサC3とスイッチングレッグS31とスイッチングレッグS32とスイッチングレッグS33は、並列に接続されている。
【0076】
コンデンサC3の一端は端子T31に接続され、コンデンサC3の他端は端子T32に接続されている。また、スイッチング素子Q31とスイッチング素子Q32の接続点にインダクタL31を介して端子T33が接続されている。同様に、スイッチング素子Q33とスイッチング素子Q34の接続点にインダクタL32を介して端子T34が接続され、スイッチング素子Q35とスイッチング素子Q36の接続点にインダクタL33を介して端子T35が接続されている。この端子T31,T32を入出力端子31とし、端子T33~T35を入出力端子33としている。スイッチング素子Q31~Q36には、それぞれダイオードD31~D36が逆並列接続されている。
【0077】
このように電力変換ユニット30は、電力変換ユニット10,20と比べ、自ユニット内に相ごとにインダクタL31~L33を備えている。なお、インダクタL31~L33は、負荷3側ではなく、直流電源2側に接続してもよい。この場合、端子T31及び/又は端子T32にインダクタを接続することで、コンデンサを有する回路の共振を防止できる。すなわち、電力変換ユニット30は、インダクタンス成分の主成分として、第1入出力端子(入出力端子31)に接続されたインダクタ、及び/又は第2入出力端子(入出力端子33)に接続されたインダクタ(インダクタL31~L33)を備える構成としてもよい。
【0078】
電力変換装置1において、電力変換ユニット10,20の代わりにそれぞれ電力変換ユニット30を用いることで、電力変換ユニット外のインダクタL11~L13,L21~L23を省略することが可能である。これにより、電力変換装置1に電力変換ユニット10,20等を組み込む際、インダクタL11~L13,L21~L23の取り付け及び配線処理の手間を省くことができる。それゆえ、作業時間の短縮、及び電力変換装置1の一定の品質保持が可能となる。
【0079】
<第3の実施形態>
第3の実施形態は、第1の実施形態に係る電力変換装置1に対して、回路の部品数を削減し、単相の電力変換装置を実現した例である。
【0080】
図14は、第3の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。図示する電力変換ユニット40は、コンデンサC4と、スイッチングレッグS41(第1スイッチングレッグの例)と、スイッチングレッグS42(第2スイッチングレッグの例)と、端子T41~T44を備える。スイッチングレッグS41は、直列接続したスイッチング素子Q41とスイッチング素子Q42から構成される。スイッチングレッグS42は、直列接続したスイッチング素子Q43とスイッチング素子Q44から構成される。コンデンサC4とスイッチングレッグS41とスイッチングレッグS42は、並列に接続されている。
【0081】
コンデンサC4の一端は端子T41に接続され、コンデンサC4の他端は端子T42に接続されている。また、スイッチング素子Q41とスイッチング素子Q42の接続点に端子T43が接続され、スイッチング素子Q43とスイッチング素子Q44の接続点に端子T44が接続されている。この端子T41,T42を入出力端子41とし、端子T43,44を入出力端子43としている。スイッチング素子Q41~Q44には、それぞれダイオードD41~D44が逆並列接続されている。
【0082】
このように電力変換ユニット40は、2つのスイッチングレッグS41,S42を備えており、電力変換ユニット10,20,30に比べ、スイッチング素子及びスイッチングレッグの数を削減している。電力変換装置1において、電力変換ユニット10,20の代わりにそれぞれ電力変換ユニット40を用いることで、部品数を削減しつつ、単相インバータや単相コンバータを実現できる。
【0083】
<第4の実施形態>
第4の実施形態は、第1の実施形態に係る電力変換装置1に対して、回路の部品数を削減し、昇圧又は降圧の電力変換装置を実現した例である。
【0084】
図15は、第4の実施形態に係る電力変換ユニットの例を示す回路構成図である。図示する電力変換ユニット50は、コンデンサC5と、スイッチング素子Q51及びスイッチング素子Q52を直列接続したスイッチングレッグS51と、端子T51~T54を備える。コンデンサC5とスイッチングレッグS51は、並列に接続されている。
【0085】
コンデンサC5の一端は端子T51に接続され、コンデンサC5の他端は端子T52に接続されている。また、スイッチング素子Q51とスイッチング素子Q52の接続点に端子T53が接続され、コンデンサC5の両端のうち他端に端子T54が接続されている。この端子T51,T52を入出力端子51とし、端子T53,54を入出力端子53としている。スイッチング素子Q51,52には、それぞれダイオードD51,D52が逆並列接続されている。
【0086】
このように電力変換ユニット50は、電力変換ユニット10,20,30,40に比べ、スイッチングレッグS51を備えており、スイッチング素子及びスイッチングレッグの数を削減している。電力変換装置1において、電力変換ユニット10,20の代わりにそれぞれ電力変換ユニット50を用いることで、部品数を削減しつつ、昇圧コンバータや降圧コンバータを実現できる。
【0087】
なお、本明細書では、2つの電力変換ユニットを並列接続した電力変換装置の構成について説明したが、並列接続する電力変換ユニットの数は3つ以上でもよい。その場合、一例として制御部4は、並列接続する電力変換ユニットを2つのグループに分け、一方のグループの電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、他方のグループの電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングとを交互に繰り返し遅延させるようにすればよい。
【0088】
あるいは、各電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを順次繰り返し遅延させるようにしてもよい。例えば、電力変換ユニットが3個の場合、制御部4は、第一の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、第二の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、さらに第三の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを順次繰り返し遅延させるようにする。
【0089】
また、例えば、電力変換ユニットの並列数が3個以上の場合、制御部4は、一部の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、他の一部の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングと、さらに他の一部の電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを順次繰り返し遅延させるようにする。
【0090】
このように、電力変換ユニットの並列数が3個又は3個以上の奇数の場合に、電力変換ユニットが備えるスイッチング素子のターンオンタイミングを、1台ずつ又はグループごとに遅延させる。これにより、電力変換ユニットが奇数台の場合においても、同様のスイッチング損失を低減する効果が得られる。
【0091】
以上、説明したように、本発明を適用することで、スイッチング損失を低減し効率を向上させた三相インバータや三相コンバータ、単相インバータや単相コンバータ、昇圧コンバータや降圧コンバータなどの電力変換装置を実現できる。
【0092】
なお、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために電力変換装置の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0093】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
【0094】
また、上述した実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成要素が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…電力変換装置、 10,20,30,40,50…電力変換ユニット、 2…直流電源、 3…負荷、 4…制御部、 5~7…電流センサ、 11,21,31,41,51…入出力端子(第1入出力端子)、 13,23,33,43,53…入出力端子(第2入出力端子)、 T11~T15,T21~T25,T31~T35,T41~T44,T51~T54…端子、 C1~C5…コンデンサ、 L1~L3,L11~L13,L21~L23,L31~L33…インダクタ、 S11~S13,S21~S23,S31~S33,S41~S42,S51…スイッチングレッグ、 Q11~Q16,Q21~Q26,Q31~Q36,Q41~Q44,Q51~Q52…スイッチング素子、 D11~Q16,D21~Q26,D31~D36,D41~D44,D51~D52…ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15