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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191602
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】画像彫刻装置及び彫刻ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/44 20140101AFI20221221BHJP
   B42D 15/00 20060101ALI20221221BHJP
   B44B 1/06 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B42D25/44
B42D15/00 341E
B44B1/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099913
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】521264567
【氏名又は名称】セキセ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】星山 勇一
【テーマコード(参考)】
2C005
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HA03
2C005HA06
2C005HB02
2C005HB09
2C005HB20
2C005JB02
2C005JB03
2C005JB06
2C005LA22
2C005LA29
2C005LB10
(57)【要約】
【課 題】スタイラスを正確に駆動することで彫刻画像の精度向上を可能とする画像彫刻装置を提供する。
【解決手段】弾性支持されたフローティングベース63と、フローティングベース63に固定され積層したピエゾ素子87の変位による振動の出力部89を備えた振動アクチュエーターPAZ、PAYと、出力部89に連結されて振動が伝達されるスタイラスホルダー97と、スタイラスホルダー97に支持され伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラス57と、スタイラスホルダー97をフローティングベース63の固定部100に支持しつつ振動を許容する支持ばね99と、フローティングベース63に位置調節が可能に支持され被彫刻媒体に当接してスタイラス57を被彫刻媒体に対して位置決める押え体121とを備え、振動するスタイラス57と被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻することを特徴とする。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性支持されたフローティングベースと、
前記フローティングベースに固定され積層したピエゾ素子の変位による振動の出力部を備えた振動アクチュエーターと、
前記出力部に連結されて前記振動が伝達されるスタイラスホルダーと、
前記スタイラスホルダーに支持され前記伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラスと、
前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ振動を許容する支持ばねと、
前記フローティングベースに位置調節が可能に支持され前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決める押え体と、
を備え、前記振動するスタイラスと前記被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻する、
画像彫刻装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像彫刻装置であって、
前記フローティングベースは、Z軸方向に弾性支持され、
前記振動アクチュエーターは、振動をZ軸方向に出力するZ軸出力部を備えたZ軸振動アクチュエーター及び振動をY軸方向に出力するY軸出力部を備えたY軸振動アクチュエーターを含み、
前記スタイラスホルダーは、前記Z軸出力部及び前記Y軸出力部に連結されて前記Z軸方向の振動及び前記Y軸方向の振動が伝達され、
前記支持ばねは、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ前記Z軸方向の振動を許容するZ軸支持ばね部及び前記Y軸方向の振動を許容するY軸支持ばね部を含む、
画像彫刻装置。
【請求項3】
装置本体に対しZ軸駆動機構を介してZ軸方向に昇降可能に支持されたヘッドフレームと、
前記ヘッドフレームにZ軸方向に弾性支持されたフローティングベースと、
前記フローティングベースに固定され積層したピエゾ素子の変位による振動をZ軸方向に出力するZ軸出力部を備えたZ軸振動アクチュエーター及びY軸方向に出力するY軸出力部を備えたY軸振動アクチュエーターと、
前記Z軸出力部及びY軸出力部に連結され前記Z軸方向の振動及び前記Y軸方向の振動が伝達されるスタイラスホルダーと、
前記スタイラスホルダーに支持され前記伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラスと、
前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ前記Z軸方向の振動を許容するZ軸支持ばね部及び前記Y軸方向の振動を許容するY軸支持ばね部を含む支持ばねと、
前記フローティングベースに位置調節可能に支持され前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決める押え体と、
を備え、前記振動するスタイラスと前記被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻する、
彫刻ヘッド。
【請求項4】
請求項3記載の彫刻ヘッドであって、
前記支持ばねは、板ばねで一体に形成され、
前記Z軸支持ばね部は、前記スタイラスホルダーに結合され、
前記Y軸支持ばね部は、前記固定部に結合された、
彫刻ヘッド。
【請求項5】
請求項3又は4記載の彫刻ヘッドであって、
前記Z軸振動アクチュエーターは、Z軸方向に沿った平板状であり、
前記Y軸振動アクチュエーターは、Y軸方向に沿った平板状であり、
前記Z軸振動アクチュエーター及びY軸振動アクチュエーターは、位置決めブラケットを介して前記フローティングベースに固定された、
彫刻ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に顔写真、指紋、サイン等の画像情報を、パスポート等の小冊子、又は卒業証書や表彰状等の単葉シート(紙)、カード等の被彫刻媒体に彫刻する際に、容易に高精度な画像を彫刻するものであり、特にピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターにより被彫刻媒体に彫刻を行わせる画像彫刻装置及び彫刻ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パスポート等の小冊子状の被彫刻媒体や、紙等からなるシート状やカード状等の被彫刻媒体に画像彫刻を施して偽造防止や美的付加価値の付与に用いられる画像彫刻装置が特許文献1、2として知られている。
【0003】
この画像彫刻装置は、画像データを電気信号に変換した画像信号に基づいて振動するスタイラスにより微細彫刻を行ない、写真や図形等の画像を被彫刻媒体上に生成するものである。
【0004】
かかる画像彫刻装置は、アクチュエーターとして永久磁石と電磁石とを用い、ベースに取り付けられた永久磁石に対し、ばねにより支持された可動子を振動させてスタイラスを駆動する構造となっている。
【0005】
かかる可動子の振動によりスタイラスを駆動して画像を彫刻する場合、可動子が画像信号に忠実に追従し、スタイラスを正確に駆動することが肝要である。
【0006】
しかし、可動子は、永久磁石に対し隙間内で中立位置に支持させる構造であるため、可動子がばねによりベースに支持されている。このため、振動時にばねが可動子を中立位置に戻すように付勢することになり、例え通電を止めても付勢力による振動が残ることにより彫刻画像の精度向上に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-289823号公報
【特許文献2】特許第5209345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、可動子を支持するばねの残存振動によりスタイラスを正確に駆動することに影響し、彫刻画像の精度向上に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、スタイラスをより正確に駆動することで彫刻画像の精度向上を可能とするために、弾性支持されたフローティングベースと、前記フローティングベースに固定され積層したピエゾ素子の変位による振動の出力部を備えた振動アクチュエーターと、前記出力部に連結されて前記振動が伝達されるスタイラスホルダーと、前記スタイラスホルダーに支持され前記伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラスと、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ振動を許容する支持ばねと、前記フローティングベースに位置調節が可能に支持され前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決める押え体とを備え、前記振動するスタイラスと前記被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の画像彫刻装置は、上記構成であるから振動アクチュエーターへの通電を画像信号に基づいて行わせ振動するスタイラスと被彫刻媒体の間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻することができる。
【0011】
前記振動アクチュエーターは、積層したピエゾ素子の変位により振動を出力するから振動出力にばねの影響が殆ど無く、画像信号に応じてスタイラスを正確に駆動することができ、彫刻画像の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例に係り、画像彫刻装置の正面右上方側から見た一部省略斜視図である。
図2図2は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面右上方側から見た一部省略斜視図である。
図3図3は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面左下方側から見た一部省略斜視図である。
図4図4は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面左下方側から見た吸引ダクト等をさらに省略した一部省略斜視図である。
図5図5は、実施例に係り、彫刻ヘッドの一部省略平面図である。
図6図6は、実施例に係り、彫刻ヘッドの一部省略右側面である。
図7図7は、実施例に係り、彫刻ヘッドの振動アクチュエーターとスタイラスとの結合を示す右側面から見た概略断面図である。
図8図8は、実施例に係り、彫刻ヘッドの振動アクチュエーターとスタイラスとの結合を示す正面から見た概略断面図である。
図9図9は、実施例に係り、ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターとスタイラスとの関係を示す斜視図である。
図10図10は、実施例に係り、スタイラスホルダー及びスタイラスと支持ばねとの関係の斜視図である。
図11図11は、実施例に係り、支持ばねの斜視図である。
図12図12は、実施例に係り、ピエゾ素子を用いた2個の振動アクチュエーターを含むダブルアクチュエーター方式による回路の概念図である。
図13図13は、実施例に係り、ダブルアクチュエーターによるスタイラスの振動と彫刻の方向とを示す概念図である。
図14図14は、参考例に係り、ソレノイドを用いた2個の振動アクチュエーターを含むダブルアクチュエーター方式による回路の概念図である。
図15図15は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターの取付ブラケットの一方を取り外して示す側面図である。
図16図16(A)は、参考例に係り、シングルアクチュエーター方式による彫刻画像の解像度の模式図であり、図16(B)は、参考例に係り、ダブルアクチュエーター方式による彫刻画像の解像度の模式図である。
図17図17(A)は、参考例に係り、シングルアクチュエーター方式による彫刻画像の模式図であり、図17(B)は、参考例に係り、ダブルアクチュエーター方式による彫刻画像の模式図である。
図18図18は、参考例に係り、シングルアクチュエーター方式とダブルアクチュエーター方式とによる彫刻画像のドットイメージと彫刻イメージとの比較の模式図である。
図19図19は、参考例に係る加算回路及び減算回路の信号の振り分けイメージを示す図表である。
図20図20(A)は、参考例に係る信号図を説明する図表、図20(B)は、既提案に係る対応する彫刻図を説明する図表である。
図21図21は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果の三角波特性を示すグラフである。
図22図22は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果のバースト波特性を示すグラフである。
図23図23は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果のヒステリシス特性を示すグラフである。
図24図24は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果の共振特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の画像彫刻装置は、スタイラスを正確に駆動することで彫刻画像の精度向上を可能にするという目的を以下のように実現した。
【0014】
弾性支持されたフローティングベースと、前記フローティングベースに固定され積層したピエゾ素子の変位による振動の出力部を備えた振動アクチュエーターと、前記出力部に連結されて前記振動が伝達されるスタイラスホルダーと、前記スタイラスホルダーに支持され前記伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラスと、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ振動を許容する支持ばねと、前記フローティングベースに位置調節が可能に支持され前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決める押え体とを備え、前記振動するスタイラスと前記被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻することで実現した。
【0015】
前記振動アクチュエーターは、ピエゾ素子の変位による振動の出力部を備えればよく、ピエゾ素子の積層形態、積層するピエゾ素子の形態は自由に実現できる。
【0016】
前記振動アクチュエーターは、Z軸方向、X軸方向、Y軸方向の何れかへ振動を出力するシングルアクチュエーター方式、Z軸方向、X軸方向、Y軸方向の何れか2方向へ振動を出力するダブルアクチュエーター方式の何れの形態でも実現できる。
【0017】
前記スタイラスホルダーは、振動アクチュエーターの出力部にピアノ線で連結されるが、振動アクチュエーターが出力する振動の伝達ができればよく、その連結形態は自由に実現できる。
【0018】
前記支持ばねは、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ振動を許容するものであればよく、棒状ばね、板ばね等で実現することができる。
【0019】
前記押え体は、調節ダイヤルの螺合調節によりフローティングベースに固定され支持されるヘッドベースに対し位置調節可能に支持される。押え体は、スタイラスと共にフローティングベースに対し位置調節可能に支持することもできる。
【0020】
前記押え体は、超硬合金で形成され、前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決めるが、被彫刻媒体に当接してスタイラスの位置決めができるものであれば、材質は自由に実現できる。
【0021】
前記フローティングベースは、Z軸方向に弾性支持され、前記振動アクチュエーターは、振動をZ軸方向に出力するZ軸出力部を備えたZ軸振動アクチュエーター及び振動をY軸方向に出力するY軸出力部を備えたY軸振動アクチュエーターを含み、前記スタイラスホルダーは、前記Z軸出力部及び前記Y軸出力部に連結されて前記Z軸方向の振動及び前記Y軸方向の振動が伝達され、前記支持ばねは、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ前記Z軸方向の振動を許容するZ軸支持ばね部及び前記Y軸方向の振動を許容するY軸支持ばね部を含むことで実現することもできる。
【0022】
画像彫刻装置を実現する彫刻ヘッドは、装置本体に対しZ軸駆動機構を介してZ軸方向に昇降可能に支持されたヘッドフレームと、前記ヘッドフレームにZ軸方向に弾性支持されたフローティングベースと、前記フローティングベースに固定され積層したピエゾ素子の変位による振動をZ軸方向に出力するZ軸出力部を備えたZ軸振動アクチュエーター及びY軸方向に出力するY軸出力部を備えたY軸振動アクチュエーターと、前記Z軸出力部及びY軸出力部に連結され前記Z軸方向の振動及び前記Y軸方向の振動が伝達されるスタイラスホルダーと、前記スタイラスホルダーに支持され前記伝達される振動により被彫刻媒体を彫刻可能とするスタイラスと、前記スタイラスホルダーを前記フローティングベースの固定部に支持しつつ前記Z軸方向の振動を許容するZ軸支持ばね部及び前記Y軸方向の振動を許容するY軸支持ばね部を含む支持ばねと、前記フローティングベースに位置調節可能に支持され前記被彫刻媒体に当接して前記スタイラスを前記被彫刻媒体に対して位置決める押え体とを備え、前記振動するスタイラスと前記被彫刻媒体との間の画像信号に基づく相対動作により被彫刻媒体に彫刻することで実現できる。
【0023】
前記フローティングベースの弾性支持は、板ばね、コイルばねなどで実現できる。
【0024】
前記支持ばねは、板ばねで一体に形成され、前記Z軸支持ばね部は、前記スタイラスホルダーに結合され、前記Y軸支持ばね部は、前記固定部に結合されて実現できる。但し、Z軸支持ばね部とY軸支持ばね部とを別体に形成し、結合して一体的な支持ばねにすることもできる。
【0025】
前記Z軸振動アクチュエーターは、Z軸方向に沿った平板状であり、前記Y軸振動アクチュエーターは、Y軸方向に沿った平板状であり、前記Z軸振動アクチュエーター及びY軸振動アクチュエーターは、位置決めブラケットを介して前記フローティングベースに固定されて実現できる。
【0026】
前記位置決めブラケットは、前記フローティングベースに対してZ軸振動アクチュエーター及びY軸振動アクチュエーターを位置決め固定できるものであればその形態は自由である。
【実施例0027】
[画像彫刻装置]
図1は、実施例に係り、画像彫刻装置の正面右上方側から見た一部省略斜視図である。なお、以下の説明において、図1のZ軸方向とは、スタイラスの彫刻振動方向、Y軸方向とは、彫刻の進行方向(行方向)に対して直交する方向(列方向)、X軸方向とは、彫刻の進行方向である。また、前後左右とは、画像彫刻装置をY軸方向の正面側から見た前後左右、上下とは、画像彫刻装置のZ軸方向を意味する。X軸、Y軸、Z軸の取り方は任意であり、X軸を上下、Y軸を前後、Z軸を左右等と装置の配置により適宜変更することができる。また、X軸方向を列方向、Y軸方向を行方向等と設定することもできる。
【0028】
図1のように、本画像彫刻装置1は、スタイラスが装着されている彫刻ヘッド3を備えている。スタイラスは、入力される画像信号に基づいて振動し、被彫刻媒体に画像を彫刻する彫刻針である。被彫刻媒体としては、合成紙等によるカード、運転免許証、卒業証書、パスポート等がある。以下の説明では、カードを用いる。
【0029】
前記画像彫刻装置1は、基台2上に、Z軸駆動部5、Y軸駆動部7、及びX軸駆動部9を備えている。
【0030】
前記Z軸駆動部5は、ステッピングモーター11、Z軸送りねじ13を備えている。ステッピングモーター11は、Z軸ベース15の後部に支持され、Z軸送りねじ13は、Z軸ベース15の前部に支持されている。Z軸ベース15は、ブラケット等を介してY軸テーブル17に固定されている。Z軸ステッピングモーター11及びZ軸送りねじ13には、タイミングプーリー19、21が備えられ、このタイミングプーリー19、21にタイミングベルト23が掛け回されている。
【0031】
前記Z軸送りねじ13には昇降ベース25が螺合している。昇降ベース25に前記彫刻ヘッド3の後部が固定されている。
【0032】
したがって、Z軸ステッピングモーター11の駆動によりタイミングプーリー19、タイミングベルト23、タイミングプーリー21を介してZ軸送りねじ13が回転し、昇降ベース25が昇降して彫刻ヘッド3がZ軸方向に移動する。
【0033】
前記Y軸駆動部7は、前記Y軸テーブル17等を備えている。
【0034】
前記Y軸テーブル17には、移動ブロック27がX軸方向で一対固定されている。但し、図1では、一対の内の一方のみが見えている。移動ブロック27は、例えばリニアブッシュが用いられ、X軸方向で一対平行に配置されたシャフト29に嵌合し、ガイドされるようになっている。シャフト29は、中壁31及び後壁33に固定して支持されている。中壁31及び後壁33は、基台2上に固定されている。
【0035】
前記中壁31及び後壁33には、一対のシャフト29間でやや下側にボールねじ34がY軸方向に沿って配置されている。Y軸送りボールねじ34は、中壁31の軸受け(図示せず。)及び後壁33の軸受け36に回転自在に支持されている。Y軸送りボールねじ34にはボールソケット(図示せず。)が嵌合し、ボールソケットは、一対の移動ブロック27間でY軸テーブル17下面に固定されている。
【0036】
前記Y軸送りボールねじ34は、後壁33を貫通して支持されている。後壁33には、タイミングプーリー35が支持され、Y軸送りボールねじ34に連動構成されている。後壁33の一側にはY軸ステッピングモーター37が配置され基台2上に固定されている。Y軸ステッピングモーター37には、タイミングプーリー39が備えられ、タイミングプーリー35、39にタイミングベルト41が掛け回されている。
【0037】
したがって、Y軸ステッピングモーター37の駆動によりタイミングプーリー35、タイミングベルト41、タイミングプーリー39を介してY軸送りボールねじ34が回転し、Y軸テーブル17下面のボールソケットがY軸送りボールねじ34に沿って移動してY軸テーブル17、Z軸ベース15、昇降ベース25を介して彫刻ヘッド3がY軸方向に移動する。
【0038】
前記Y軸テーブル17等の移動に際しては、一対の移動ブロック27が一対のシャフト29にガイドされる。
【0039】
前記X軸駆動部9は、基台2上に固定されたX軸ベース43を備えている。X軸ベース43上には、X軸テーブル45が配置されている。X軸テーブル45は、カードを支持するものであり、X軸方向に移動可能にガイドされている。X軸ベース43には、X軸テーブル45に連動連結された往復駆動機構47が備えられている。往復駆動機構47には、X軸ベース43の背後に配置されたタイミングプーリー49が連動連結されている。中壁31に隣接してX軸ベース43の背後にはX軸ステッピングモーター51が配置され基台2上に固定されている。X軸ステッピングモーター51には、タイミングプーリー53が備えられ、タイミングプーリー49、53にタイミングベルト55が掛け回されている。
【0040】
したがって、X軸ステッピングモーター51の駆動によりタイミングプーリー53、タイミングベルト55、タイミングプーリー49を介して往復駆動機構47が駆動され、X軸テーブル45がX軸方向に往復移動する。
【0041】
そして、彫刻ヘッド3のスタイラスが画像信号に基づいて振動制御され、Z軸ステッピングモーター11,Y軸ステッピングモーター37、X軸ステッピングモーター51の駆動により、スタイラスがカードとの間の画像信号に基づくX軸方向、Y軸方向、Z軸方向への相対動作によりX軸テーブル45上のカードに彫刻可能とする。画像信号は、写真画像等から読み取った画像のデジタル信号をアナログ信号に変換したものである。
【0042】
[彫刻ヘッド]
図2図8は彫刻ヘッドに係るものである。図2は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面右上方側から見た一部省略斜視図である。図3は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面左下方側から見た一部省略斜視図である。図4は、実施例に係り、彫刻ヘッドの正面左下方側から見た吸引ダクト等をさらに省略した一部省略斜視図である。図5は、実施例に係り、彫刻ヘッドの一部省略平面図である。図6は、実施例に係り、彫刻ヘッドの一部省略右側面である。図7は、実施例に係り、彫刻ヘッドの振動アクチュエーターとスタイラスとの結合を示す右側面から見た概略断面図である。図8は、実施例に係り、彫刻ヘッドの振動アクチュエーターとスタイラスとの結合を示す正面から見た概略断面図である。
【0043】
図1図2のように、前記画像彫刻装置1の彫刻ヘッド3は、スタイラス57を有している。
【0044】
図1図8のように、前記彫刻ヘッド3は、2台の振動アクチュエーターPAZ、PAYを備えている。2台の振動アクチュエーターPAZ、PAYは、一方PAZがZ軸方向に振動を取り出すようにセットされると共に、他方PAYがY軸方向に振動を取り出すようにセットされている。
【0045】
前記2台の振動アクチュエーターPAZ、PAYは、振動アクチュエーターPAZがZ軸振動アクチュエーターであり、Z軸方向に沿った平板状であり、振動アクチュエーターPAYがY軸振動アクチュエーターであり、Y軸方向に沿った平板状となっている。
【0046】
前記振動アクチュエーターPAZ、PAYは、位置決めブラケット59、61によりフローティングベース63に位置決め固定されている。
【0047】
前記位置決めブラケット59は、断面L字状のベース片部59aに断面L字状の一対の固定片部59bを備えている。位置決めブラケット59のベース片部59aは、フローティングベース63上にビスにより締結固定されている。振動アクチュエーターPAZは、Z軸方向に立設配置され、下辺部が固定片部59b上にZ軸方向及びY軸方向に位置決められ、ビスにより締結固定されている。
【0048】
前記位置決めブラケット61は、平板状のベース片部61aに対して断面L字状をなすように一対の固定片部61bを備えている。位置決めブラケット61のベース片部61aは、フローティングベース63下面にビスにより締結固定されている。振動アクチュエーターPAYは、Y軸方向に沿って配置され、一辺部が固定片部61bに突き当てられてY軸方向及びZ軸方向に位置決められ、ビスにより締結固定されている。
【0049】
前記フローティングベース63は、平板状であり、XY面に沿って水平に配置され、Z軸方向に弾性支持されている。この弾性支持は、例えば板ばね65a、65bを介してヘッドベース67に対して行われている。
【0050】
前記ヘッドベース67は、ベースフレーム69と左右の側壁71、73とを備えて彫刻ヘッド3の骨格を形成している。
【0051】
前記ベースフレーム69は、前記フローティングベース63の左右部及び後部に対向する形状に形成され、後部に後壁70が立設形成されている。ベースフレーム69の左右部に板ばね65a、65bが固定支持され、この板ばね65a、65bにフローティングベース63の左右部が弾性支持されている。
【0052】
前記左右の側壁71、73は、ベースフレーム69の左右両側に配置固定されている。側壁71、73の後部は、ベースフレーム69の後壁70よりも後方へ突出している。側壁71、73は、後部がヘッド支持軸75(図1)によりZ軸ベース15の前部側に回転自在に支持され、ヘッド支持軸75を中心に彫刻ヘッド3を上方へ回転移動させることができるようにしている。この彫刻ヘッド3の回転移動によりスタイラス57の調整、交換等を容易にしている。左右の側壁71、73には、ヘッド支持軸75を中心とした弧状の長孔77が備えられ、Z軸ベース15に対し締結ねじ79(図1)により彫刻ヘッド3の回転位置を固定できるようにしている。
【0053】
前記ヘッドベース67には、固定用のねじ軸81がブラケット83を介して軸支持されている。ヘッド支持軸75を中心とした彫刻ヘッド3の回転移動を彫刻位置に戻したとき、締結ねじ79を締め込むと共に、ねじ軸81をダイヤル操作により締め込んでねじ軸81の先端81aをZ軸ベース15側に突き当て、彫刻ヘッド3をZ軸ベース15に位置決め固定するこができる。
【0054】
前記ベースフレーム69には、吸引ダクト85が取り付けられている。吸引ダクト85の吸い込み口は、フローティングベース63の下側でスタイラス57に近接配置されている。
【0055】
図9は、実施例に係り、ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターとスタイラスとの関係を示す斜視図である。
【0056】
図9のように、前記振動アクチュエーターPAZ、PAYは、同一構造であり、積層したピエゾ素子87の変位により振動を出力する出力部89を備えている。振動アクチュエーターPAZ、PAYとしては、例えば有限会社メカノトランスフォーマ(東京都千代田区岩本町2丁目7番12号)製のピエゾアクチュエータ(MTKK10S300F120PS)を用いている。但し、振動アクチュエーターPAZ、PAYとしては、積層したピエゾ素子の変位により振動を出力することができるものであればよく、種々のものを採用することができる。
【0057】
前記振動アクチュエーターPAZ、PAYは、ピエゾ素子87が発生する変位量を変位拡大機構88により数倍から数十倍に拡大して出力部89から取り出せるようになっている。出力部89は、振動アクチュエーターPAZ、PAYの一辺部においてX軸方向の中央に配置されている。
【0058】
図7図9のように、前記出力部89の先端には、ピン支持ブロック91が取り付けられている。ピン支持ブロック91には、軸心部の挿入孔に線状の連結部材93の一端が挿入されている。連結部材93として例えばピアノ線が用いられている。ピン支持ブロック91の先端にはチャック95が締結され、ピン支持ブロック91へ挿入した連結部材93が固定されている。
【0059】
前記振動アクチュエーターPAZの連結部材93はZ軸方向に延設され、振動アクチュエーターPAYの連結部材93はY軸方向に延設されている。各連結部材93は、スタイラスホルダー97に連結されている。したがって、スタイラスホルダー97は、連結部材93を介して出力部89にZ軸方向とY軸方向とに連動構成されている。
【0060】
図10は、実施例に係り、スタイラスホルダー及びスタイラスと支持ばねとの関係の斜視図である。
【0061】
図9図10のスタイラスホルダー97は、超々ジュラルミンA7075等によりブロック状に製造されている。スタイラスホルダー97は、基本形状がY軸方向で対称形状に形成され、基本形状に対してY軸方向の振動アクチュエーターPAY側の面の上下中央に大きな凹部97aが形成され、振動アクチュエーターPAY側に対し反対側の面の上部寄りに凹部97bが形成されている。スタイラスホルダー97は、背面下方側から下面にかけて取付ブロック部97cを備えている。
【0062】
前記スタイラス57は、前記スタイラスホルダー97の下面の取付孔に支持されている。前記Z軸方向の連結部材93は、下端部がスタイラスホルダー97の上面中央部の取付孔に挿入され、振動伝達可能に結合されている。前記Y軸方向の連結部材93は、Y軸方向端部がスタイラスホルダー97の側面下部の取付孔に挿入され、振動伝達可能に結合されている。
【0063】
前記スタイラスホルダー97は、取付ブロック部97cに支持ばね99の先端が支持されている。支持ばね99は、前記スタイラスホルダー97を固定部100に弾性支持して振動を許容しつつ振動方向にガイドするものである。
【0064】
図11は、実施例に係り、支持ばねの斜視図である。
【0065】
図9図11のように、支持ばね99は、Z軸支持ばね部101及びY軸支持ばね部103を備えている。Z軸支持ばね部101及びY軸支持ばね部103は、板ばねで一体に形成されている。Z軸支持ばね部101は、ベースとなる矩形の連結プレート105の上下に湾曲弾性部107を介して結合されている。Y軸支持ばね部103は、連結プレート105の左右に湾曲弾性部109を介して結合されている。Z軸支持ばね部101及びY軸支持ばね部103は、同数の取付孔101a、103aと、同数の長孔101b、103bが形成されている。Z軸支持ばね部101及びY軸支持ばね部103は形状が同一であり、ベースの連結プレート105に対し90°位置がずれて配置されている。
【0066】
前記Z軸支持ばね部101は、先端がスタイラスホルダー97の取付ブロック部97cの上下面に座板111を介してビス113により締結固定されている。前記Y軸支持ばね部103は、先端が固定部100の左右面に座板117を介してビス119により締結固定されている。固定部100は、前記フローティングベース63に固定されている。
【0067】
こうして、前記Z軸支持ばね部101はZ軸方向に板の面が向くように配置され、Y軸支持ばね部103はY軸方向に板の面が向くように配置されている。
【0068】
前記Z軸支持ばね部101及びY軸支持ばね部103は、前記スタイラスホルダー97と固定部100との間に直列に配置されている。Z軸支持ばね部101は、前記スタイラスホルダー97のZ軸方向の振動を許容しつつ振動方向にガイドし、Y軸支持ばね部103は、スタイラスホルダー97のY軸方向の振動を許容しつつ振動方向にガイドする機能を奏する。
【0069】
図2図4図6図8のように、前記のように支持されたスタイラス57に隣接して押え足121が配置されている。押え足121は、スタイラス57をカードに対して位置決める押え体を構成する。押え足121は、X軸テーブル45上に支持されたカードに対してスタイラス57のZ軸方向の位置を決めるときにカード面に当接させるものである。押え足121は、例えば超硬合金などにより形成されている。
【0070】
前記押え足121は、基部が押え足ブロック123に支持され、この基部が押え足ブロック123に対してZ軸方向に位置調節可能となっている。押え足ブロック123には、調節ねじが内蔵され、この調節ねじに押え足121の基部が連動構成されている。押え足ブロック123内の調節ねじは、ヘッドベース67側に支持された調整摘み125に連動構成されている。
【0071】
したがって、調整摘み125の回転調節により調節ねじを介して押え足121の上下位置を微調節することができる。
【0072】
なお、押え足ブロック123にY軸方向の貫通孔が形成され、Y軸方向の連結部材93が貫通配置されている。
【0073】
カードへの彫刻に際して、X軸テーブル25上に支持させたカードに対し調整摘み125の回転調節により押え足121を当接させる。この当接によりカードから押え足121が反力を受け、フローティングベース63が板ばね65a、65bの弾性力に抗してZ軸方向上方へ若干退避する。次にZ軸ステッピングモーター11の駆動によりタイミングプーリー19、タイミングベルト23、タイミングプーリー21を介してZ軸送りねじ13が回転し、昇降ベース25が下降する。この昇降ベース25に連動して彫刻ヘッド3全体が下降する。この彫刻ヘッド3の下降はフローティングベース63の退避量分だけ行われ、スタイラス57がカードに対して彫刻位置に位置決められる。
【0074】
次いで、後述する通電の切り換えを画像信号に基づいて行わせることで積層したピエゾ素子87の変位により振動を出力する出力部89から連結部材93を介してスタイラスホルダー97に振動が伝達される。スタイラスホルダー97の振動によりスタイラス57が、カードとの間の前記画像信号に基づくX軸,Y軸,Z軸方向への相対動作により前記カードに彫刻することになる。
【0075】
図12は、実施例に係り、ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターを含む回路の概念図である。
【0076】
前記2台の振動アクチュエーターPAZ、PAYは、前記のように一方がZ軸方向に振動を取り出すようにセットされると共に、他方がZ軸方向に対し直交する例えばY軸方向に振動を取り出すようにセットされている。
【0077】
前記振動アクチュエーターPAZ、PAYは、駆動回路127に接続されている。駆動回路127は、概念的に示したものであり、画像信号129と振動アクチュエーターPAZ、PAYとの関係を示している。画像信号129は、一対の増幅器131a、131bに入力される構成となっている。一対の増幅器131a、131bは、それぞれ加算回路133及び減算回路135に接続されている。加算回路133は、増幅器137aを介して振動アクチュエーターPAZに接続されている。減算回路135は、増幅器137bを介して振動アクチュエーターPAYに接続されている。
【0078】
そして、前記一方及び他方の振動アクチュエーターPAZ、PAYへの通電のON、OFF切り換えを画像信号に基づいて行わせる。前記一方の振動アクチュエーターPAZの出力部89からの振動出力に連動してZ軸方向に振動するスタイラス57が、カードとの間の前記画像信号に基づくX軸,Y軸,Z軸方向への相対動作によりカードに彫刻する。この彫刻動作に対し、振動アクチュエーターPAYが、前記画像信号に基づく出力部89の振動によりスタイラスホルダー97にY軸方向の振動を付加する。
【0079】
この振動アクチュエーターPAZ、PAYのダブルアクチュエーター方式により高精細な彫刻を行わせることができる。
【0080】
図13は、ダブルアクチュエーターによるスタイラスの振動と彫刻の方向とを示す概念図である。
【0081】
図13のように、スタイラス57に振動アクチュエーターPAZ、PAYからZ軸方向の振動及びY軸方向の振動が伝達される。このスタイラス57がX軸テーブル45に支持されたカードCに対してX軸テーブル45のX軸方向への移動により相対的にX軸方向に移動するスタイラス57を画像信号の加算信号レベルに応じてZ軸方向に振動させる。また、画像信号の互の減算信号の極性に応じてスタイラス57を、カードCに沿って彫刻ラインの基準位置に対して交差方向であるY軸方向に振動させ、このY軸方向振動位置においてZ軸方向の振幅に対応した幅で彫刻が行われる。
【0082】
ここで、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターによる彫刻画像では、背景の白から髪の毛の濃い色に移るときに両者の境目で髪の毛に背景の白の残影が残り、髪の毛の濃い色が本来の色ではなく画像がぼけた。同様に髪の毛の濃い色から顔の薄い色に移るとき両者の境目で顔に髪の毛の濃い色の残影が残り、顔の薄い色が本来の色ではなく画像がぼけた。
【0083】
これに対し、ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターPAZ、PAYによる彫刻画像では、背景の白から髪の毛の濃い色に移るときに両者の境目で髪の毛に背景の白の残影はほとんど残らず、同様に髪の毛の濃い色から顔の薄い色に移るとき両者の境目で顔に髪の毛の濃い色の残影はほとんど残らなかった。
【0084】
つまり、実施例のピエゾ素子を用いた彫刻画像では、ソレノイドを用いた彫刻画像に比較して高精細な彫刻による画像を得ることができた。
【0085】
加えてダブルの振動アクチュエーターPAZ、PAYによる画像彫刻は、シングルの振動アクチュエーターによる画像彫刻に比較して高精細となった。この比較については、ソレノイドを用いたダブルの振動アクチュエーターによる画像彫刻の場合で説明する。
【0086】
図14は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターを含む回路の概念図である。図15は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターを取付ブラケットの一方を取り外して示す側面図である。図16(A)は、参考例に係り、シングルアクチュエーター方式による彫刻画像の解像度の模式図であり、図16(B)は、参考例に係り、ダブルアクチュエーター方式による彫刻画像の解像度の模式図である。図17(A)は、参考例に係るシングルアクチュエーター方式による彫刻画像の模式図であり、図17(B)は、参考例に係るダブルアクチュエーター方式による彫刻画像の模式図である。図18は、参考例に係り、シングルアクチュエーター方式とダブルアクチュエーター方式とによる彫刻画像のドットイメージと彫刻イメージとの比較の模式図である。図19は、参考例に係る加算回路及び減算回路の信号の振り分けイメージを示す図表である。図20(A)は、参考例に係る信号図を説明する図表、図20(B)は、既提案に係る対応する彫刻図を説明する図表である。
【0087】
図14のソレノイドを用いたダブルの振動アクチュエーターの参考例は、図12のピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターPAZ、PAYに代えてソレノイドを用いた振動アクチュエーターSAZ、SAYとし、図12と同様に振動アクチュエーターを2台備える構成としたものである。図14において図12と対応する構成部分には同符号を付し、重複した説明は省略する。
【0088】
図14の2台の振動アクチュエーターSAZ、SAYの配置は、図12の実施例の振動アクチュエーターPAZ、PAYに対応している。2台の振動アクチュエーターSAZ、SAYは、一方SAZがZ軸方向に振動を取り出すようにセットされると共に、他方SAYがZ軸方向に対し直交するY軸方向に振動を取り出すようにセットされている。
【0089】
前記振動アクチュエーターSAZ、SAYに対し、連結部材93を介して連動構成されたスタイラスホルダー97は、Z軸及びY軸方向への振動を許容する棒状の支持ばね139a、139bの先端に支持されている。
【0090】
前記振動アクチュエーターSAZ、SAYは、駆動回路127に接続されている。つまり、振動アクチュエーターSAZ、SAYのコイル141が増幅器137a、137bに接続されている。
【0091】
図15のように、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターSAZ、SAYは、固定側の永久磁石143及びヨーク145と前記コイル141とを含むと共に可動子147を含んでいる。可動子147は、前記ヨーク145に4個のばね149により支持され前記コイル141への通電を正逆切り換えることにより前記ヨーク145に対し振動する。可動子147は、アーム部151を一体に備え、図14のように振動アクチュエーターSAZ、SAYそれぞれのアーム部151にピン支持ブロック153を介して連結部材93が結合されている。
【0092】
そして、前記一方及び他方の振動アクチュエーターSAZ、SAYのコイル141への通電の切り換えを画像信号に基づいて行わせる。前記一方の振動アクチュエーターSAZの可動子147のシーソー運動の振動に連動してZ軸方向に振動するスタイラス57が、カードとの間の前記画像信号に基づくX軸,Y軸,Z軸方向への相対動作によりカードに彫刻する。この彫刻動作に対し、他方の振動アクチュエーターSAYが、前記画像信号に基づく可動子147のシーソー運動の振動によりスタイラスホルダー97にY軸方向の振動を付加する。
【0093】
この振動アクチュエーターSAZ、SAYのダブルアクチュエーター方式により振動アクチュエーターSAZのZ軸方向への振動のみによる彫刻に比較して高精細な彫刻を行わせることができる。
【0094】
前記振動アクチュエーターSAZのみによるシングルアクチュエーター方式の彫刻画像の解像度は、図16(A)であり、前記振動アクチュエーターSAYを追加したダブルアクチュエーター方式での彫刻画像の解像度は、図16(B)となった。つまり、Y軸方向の解像度がdからd1へと倍になった。
【0095】
前記シングルアクチュエーター方式で「World」の文字を彫刻すると、図17(A)のようになる。前記ダブルアクチュエーター方式で「World」の文字を彫刻すると、図17(B)のようになり、ダブルアクチュエーター方式では、高精細な彫刻画像を得ることができた。
【0096】
同様に、「鷙」の文字をダブルアクチュエーター(ダブルソレノイド)とシングルアクチュエーター(シングルソレノイド)とで彫刻し、ドットイメージ及び彫刻イメージを比較すると、図18のようにダブルアクチュエーターでは、高精細なイメージを得ることができた。
【0097】
前記ダブルアクチュエーター方式で解像度が倍になるメカニズムは以下の通りである。
【0098】
前記振動アクチュエーターSAZのみによるシングルアクチュエーター方式を用いると、1ドット内でのY軸方向(列方向)でのスタイラス57の位置が変わらずにX軸方向(行方向)一定の直線上にて画像信号に応じ彫刻を行う。つまり、スタイラス57は、一定の直線上で深さを変化させながら彫刻することになる。このため、1ドット毎の画像データに濃淡の偏りがあってもドットの列方向中央位置で二値化の濃淡を表現することになる。このため、写真から生成した画像信号において1ドット内で濃淡の中央値が列方向にずれてもシングルアクチュエーター方式のスタイラス57は、ドットの列方向中央位置でその濃淡を表現しなければならず、列方向の解像度は一定以上にはならない。
【0099】
これに対し、前記振動アクチュエーターSAZ、SAYによるダブルアクチュエーター方式を用いるとY軸方向の振動が付加されるから列方向の解像度を向上させることができる。
【0100】
図19図20により、一例として黒カード彫刻の例を説明する。
【0101】
図19は、1ドットにおける列方向での信号の振り分けと彫刻との関係を示す。図19のa、bに0~1を当てた。画像データでは、256の諧調値などにすることができる。信号の欄は、彫刻最小単位の色の状態(黒~灰~白)を示す。最小単位を1ドット内で上下2段のa、bに分割し処理する。
【0102】
a:信号1ドットの上段を指す。aの「白黒度合い」を数値で示す。0は、真黒、1は、真っ白を意味する。
【0103】
b:信号1ドットの下段を指す。bの「白黒度合い」を数値で示す。0は、真黒、2は、真っ白を意味する。
【0104】
a+b:彫刻1ドットの「彫刻深さ」を数値で示す。0は、彫刻なし、2 は、最深を意味する。深さに対しては振動アクチュエーターPAZが動作する。
【0105】
a-b:彫刻1ドットの「偏移位置」を数値で示す。0は、中心、+1は、最上位置、-1は、最下位置を意味する。偏移に対してはて振動アクチュエーターPAYが動作する。
【0106】
したがって、図20(A)の信号に対し、図20(B)のような彫刻が1ドット毎に行われる。例えば、信号が1ドットの上段及び下段共に真黒(0,0)であるとき(図20(A)の上段1列目)、彫刻及び偏移ともになし(0,0)である(図20(B)の上段1列目)。信号が1ドットの上段が真白、下段が真黒(1,0)であるとき(図20(A)の上段2列目)、彫刻深さは1、偏移は1となり(1,1)である。つまり、1ドットの上段が深さ1で彫刻される。以下、図20の上段3列目、及び下段1~3列目の対応関係も同様である。
【0107】
このようにして、1ドット内の画像データの濃淡の偏りを見込んで加算回路133及び減算回路135を機能させ、信号の振り分けにより振動アクチュエーターSAZ、SAYを動作させることで、1ドット内でのスタイラス57の位置、彫刻深さを制御し、列方向の解像度を向上させることができる。
【0108】
なお、スタイラス57が1ドット内で位置を列方向に変化させて彫刻すると、列方向でドットの範囲が隣のドット領域に及ぶ恐れがある。この場合は、そのままでも彫刻画像に問題はないが、スタイラス57の1ドット内での位置変更制御をキャンセルして列方向でドットの範囲が隣のドット領域に及ばないようにすることもできる。
【0109】
以上により、ダブルアクチュエーター方式では、より高精細な彫刻画像を得ることができる。
【0110】
一方、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターSAZ、SAYは、振動を出力する可動子147がばね149によりヨーク145に支持されているため、コイル141への通電の切り換え時にばねの残存振動や共振によりスタイラスを正確に駆動することに限界があり、彫刻画像の精度向上に影響がった。
【0111】
図21は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果の三角波特性を示すグラフである。図22は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果のバースト波特性を示すグラフである。図23は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果のヒステリシス特性を示すグラフである。図24は、参考例に係り、ソレノイドを用いた振動アクチュエーター単体での振動評価結果の共振特性を示すグラフである。
【0112】
図21図24の何れのグラフにおいても上下三段の波形は、各上段から画像データを電気信号に変換した駆動用の画像信号、駆動信号を増幅して変換した電圧信号、電圧信号により駆動されたソレノイドの実働波形である。
【0113】
図21のように、振動アクチュエーターSAZ、SAYの振動出力の振幅は、55μmである。図22のように、振動アクチュエーターSAZ、SAYへの駆動信号がなくなっても振動アクチュエーターSAZ、SAYの実働波形は、ばね149による残存波形を含むことになる。また、図23のようにヒステリシスによって本来同一であるべき動作位置が信号の増減方向によって相違を生じΔαの差が出る。さらに図24のように、振動アクチュエーターSAZ、SAYにばね67による共振を生じている。
【0114】
この図21図24での説明のように、ソレノイドを用いた振動アクチュエーターSAZ、SAYでは可動子147を支持するばね149の影響によりスタイラス57を正確に駆動することに限界があった。
【0115】
これに対しピエゾ素子を用いた振動アクチュエーターPAZ、PAYは、可動部を支持する大型のばねを用いないのでスタイラス57を正確に駆動することができ、ダブルの振動アクチュエーターPAZ、PAYによる駆動と相俟って画像彫刻を高精細にすることができる。
【符号の説明】
【0116】
符号
1 画像彫刻装置
3 彫刻ヘッド
57 スタイラス
59、61 位置決めブラケット
63 フローティングベース
87 ピエゾ素子
89 出力部
93 連結部材
97 スタイラスホルダー
99 支持ばね
100 固定部
101 Z軸支持ばね部
103 Y軸支持ばね部
121 押え足(押え体)
C カード(被彫刻媒体)
PAZ ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーター(Z軸振動アクチュエーター)
PAY ピエゾ素子を用いた振動アクチュエーター(Y軸振動アクチュエーター)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24