(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191663
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/14 20060101AFI20221221BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20221221BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D45/00 368F
F01N3/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100018
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 和樹
【テーマコード(参考)】
3G091
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA04
3G091AA17
3G091AA23
3G091AA24
3G091AB03
3G091BA11
3G091EA01
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3G301PA01Z
3G301PB03Z
3G301PD02A
3G384AA01
3G384BA09
3G384DA43
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3G384EB01
3G384EB02
3G384EB05
3G384EB07
3G384FA01Z
3G384FA04Z
3G384FA14Z
3G384FA37Z
(57)【要約】
【課題】排気エミッションの悪化を抑制した内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】機関本体、前記機関本体に接続された排気通路の上流側及び下流側にそれぞれ設けられていると共に酸素吸蔵能力を有した上流側触媒及び下流側触媒、及び前記排気通路の前記下流側触媒よりも下流側に設けられ排気の空燃比を検出する下流側センサ、を有した内燃機関に適用され、前記内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比と理論空燃比よりも大きいリーン空燃比とに交互に切り替わるように制御する内燃機関の制御装置において、前記下流側センサの検出空燃比に基づいて、前記下流側触媒がHC被毒し得るHC被毒条件が成立したか否かを判定する判定部と、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させるように前記内燃機関を制御する制御部と、を備えた内燃機関の制御装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体、前記機関本体に接続された排気通路の上流側及び下流側にそれぞれ設けられていると共に酸素吸蔵能力を有した上流側触媒及び下流側触媒、及び前記排気通路の前記下流側触媒よりも下流側に設けられ排気の空燃比を検出する下流側センサ、を有した内燃機関に適用され、前記内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比と理論空燃比よりも大きいリーン空燃比とに交互に切り替わるように制御する内燃機関の制御装置において、
前記下流側センサの検出空燃比に基づいて、前記下流側触媒がHC被毒し得るHC被毒条件が成立したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させるように前記内燃機関を制御する制御部と、を備えた内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する前記リーン空燃比の排気の空燃比が更にリーン側となるように前記内燃機関の空燃比を制御することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させる、請求項1の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する前記リーン空燃比の排気の流入時間を長くなるように前記内燃機関の空燃比を制御することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させる、請求項1又は2の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記内燃機関が有する複数の気筒のうち少なくとも一つに対して燃料カットを実行することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させる、請求項1乃至3の何れかの内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記下流側センサの検出空燃比が、前記下流側触媒がHC被毒し得る被毒上限値以下の場合に、判定カウンタをカウントアップするカウンタ算出部を備え、
前記判定部は、前記判定カウンタが閾値以上となった場合に、前記HC被毒条件が成立したと判定する、請求項1乃至4の何れかの内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が、前記被毒上限値よりも大きく且つ理論空燃比よりも大きいリーン空燃比の場合、前記判定カウンタのカウントダウン及びリセットの一方を実行する、請求項5の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記カウンタ算出部は、前記制御部による前記下流側触媒に流入する酸素量を増大する処理が停止した場合には、前記判定カウンタのカウントダウン及びリセットの一方を実行する、請求項5又は6の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が小さいほど、及び前記下流側触媒に流入する排気の流量が多いほど、の少なくとも一方の場合に、前記判定カウンタのカウントアップ量を増大する、請求項5乃至7の何れかの内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が大きいほど、及び前記2触媒に流入する排気の流量が少ないほど、の少なくとも一方の場合に、前記判定カウンタのカウントダウン量を増大する、請求項5乃至8の何れかの内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気通路の上流側及び下流側にそれぞれに、酸素吸蔵能力を有した上流側触媒及び下流側触媒が設けられた内燃機関が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の排気の空燃比は、リッチ空燃比とリーン空燃比に交互に切り替えられる。このため、リーン空燃比の排気が上流側触媒に流入した場合、上流側触媒の酸素吸蔵能により酸素が吸蔵され、下流側触媒には、上流側触媒に流入した排気の空燃比よりもリッチ側の空燃比の排気が流入する。このように、下流側触媒には、十分な酸素量を有したリーン空燃比の排気が流入する機会が少ない。これにより、排気中の炭化水素が下流側触媒に付着するHC被毒が進行するおそれがある。下流側触媒でのHC被毒が進行すると、排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、排気エミッションの悪化を抑制した内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、機関本体、前記機関本体に接続された排気通路の上流側及び下流側にそれぞれ設けられていると共に酸素吸蔵能力を有した上流側触媒及び下流側触媒、及び前記排気通路の前記下流側触媒よりも下流側に設けられ排気の空燃比を検出する下流側センサ、を有した内燃機関に適用され、前記内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さいリッチ空燃比と理論空燃比よりも大きいリーン空燃比とに交互に切り替わるように制御する内燃機関の制御装置において、前記下流側センサの検出空燃比に基づいて、前記下流側触媒がHC被毒し得るHC被毒条件が成立したか否かを判定する判定部と、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させるように前記内燃機関を制御する制御部と、を備えた内燃機関の制御装置によって達成できる。
【0007】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する前記リーン空燃比の排気の空燃比が更にリーン側となるように前記内燃機関の空燃比を制御することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させてもよい。
【0008】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記下流側触媒に流入する前記リーン空燃比の排気の流入時間を長くなるように前記内燃機関の空燃比を制御することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させてもよい。
【0009】
前記制御部は、前記判定部により肯定判定がなされた場合には、前記内燃機関が有する複数の気筒のうち少なくとも一つに対して燃料カットを実行することにより、前記下流側触媒に流入する酸素量を増大させてもよい。
【0010】
前記下流側センサの検出空燃比が、前記下流側触媒がHC被毒し得る被毒上限値以下の場合に、判定カウンタをカウントアップするカウンタ算出部を備え、前記判定部は、前記判定カウンタが閾値以上となった場合に、前記HC被毒条件が成立したと判定してもよい。
【0011】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が、前記被毒上限値よりも大きく且つ理論空燃比よりも大きいリーン空燃比の場合、前記判定カウンタのカウントダウン及びリセットの一方を実行してもよい。
【0012】
前記カウンタ算出部は、前記制御部による前記下流側触媒に流入する酸素量を増大する処理が停止した場合には、前記判定カウンタのカウントダウン及びリセットの一方を実行してもよい。
【0013】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が小さいほど、及び前記下流側触媒に流入する排気の流量が多いほど、の少なくとも一方の場合に、前記判定カウンタのカウントアップ量を増大してもよい。
【0014】
前記カウンタ算出部は、前記下流側センサの検出空燃比が大きいほど、及び前記2触媒に流入する排気の流量が少ないほど、の少なくとも一方の場合に、前記判定カウンタのカウントダウン量を増大してもよい。
【発明の効果】
【0015】
排気エミッションの悪化を抑制した内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、下流側触媒がHC被毒する比較例を示したタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、本実施例での被毒抑制制御の一例を示したタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本実施例の被毒抑制制御の一例を示したフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施例の被毒抑制処理の一例を示したタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、本実施例の被毒抑制処理の一例を示したフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1変形例の被毒抑制処理を示したタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、第1変形例の被毒抑制処理を示したフローチャートである。
【
図9】
図9は、第2変形例の被毒抑制処理を示したタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、第2変形例の被毒抑制処理を示したフローチャートである。
【
図11】
図11Aは、第1変形例の判定カウンタのカウントアップ量の算出制御を示したフローチャートであり、
図11Bは、検出空燃比AFcとカウントアップ量との関係を規定したマップである。
【
図12】
図12Aは、第2変形例の判定カウンタのカウントアップ量の算出制御を示したフローチャートであり、
図12Bは、排気流量Frとカウントアップ量との関係を規定したマップである。
【
図13】
図13Aは、第1変形例の判定カウンタのカウントダウン量の算出制御を示したフローチャートであり、
図13Bは、検出空燃比AFcとカウントダウン量との関係を規定したマップである。
【
図14】
図14Aは、第2変形例の判定カウンタのカウントダウン量の算出制御を示したフローチャートであり、
図14Bは、排気流量Frとカウントダウン量との関係を規定したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[内燃機関の概略構成]
図1は、内燃機関1の概略構成図である。内燃機関1は、例えば車両に搭載されているが、これに限定されず、車両以外の船舶等に搭載されていてもよい。内燃機関1は、機関本体10、吸気通路20、及び排気通路30を有する。機関本体10は、複数の気筒を有した多気筒機関であり、各気筒内には、燃焼室11、ピストン12、点火プラグ16等が設けられている。また、機関本体10の内部には、コンロッド13、及びクランクシャフト14が配置されている。ピストン12はコンロッド13によりクランクシャフト14に連結されている。機関本体10には、回転数センサ15が設けられ、気筒毎に筒内噴射弁17が設けられている。回転数センサ15は、クランクシャフト14の回転数を検出することにより、機関本体10の回転数を検出する。筒内噴射弁17は、燃焼室11内に燃料を直接噴射する。尚、筒内噴射弁17の代わりに、機関本体10の吸気ポートに向けて燃料を噴射するポート噴射弁が設けられていてもよいし、筒内噴射弁17に加えてポート噴射弁が設けられていてもよい。点火プラグ16は、燃焼室11内での混合気に点火する。機関本体10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気通路20及び排気通路30が接続されている。吸気バルブ18a及び排気バルブ18bは、それぞれ機関本体10の吸気ポート及び排気ポートを開閉する。
【0018】
吸気通路20には、上流側から下流側に順に、エアクリーナ21、エアフローメータ22、スロットルバルブ23が設けられている。エアクリーナ21は外部から流入する空気から粉塵などを除去する。エアフローメータ22は吸入空気量を取得する。スロットルバルブ23は例えば不図示のアクチュエータなどにより駆動され、吸入空気量を調節する。スロットルバルブ23の開度が大きくなると吸入空気量は多くなり、開度が小さくなると吸入空気量は少なくなる。
【0019】
吸気バルブ18aが開くことで、空気は吸気通路20から燃焼室11へと導入される。筒内噴射弁17から噴射された燃料と空気との混合気は、ピストン12で圧縮され、点火プラグ16により点火される。混合気への点火によりピストン12は燃焼室11内を上下に往復運動し、クランクシャフト14が回転する。燃焼後の排気は排気通路30から排出される。
【0020】
排気通路30には上流側から下流側に順に、上流側センサ31a、上流側触媒32a、中流側センサ31b、下流側触媒32b、及び下流側センサ31cが設けられている。上流側センサ31a、中流側センサ31b、及び下流側センサ31cは、排気通路30を流れる排気の空燃比を検出する空燃比センサであるが、これに限定されず、これらのうちの少なくとも一つが排気の酸素濃度を検出することにより排気の空燃比を検出することができる酸素濃度センサであってもよい。上流側センサ31aは、機関本体10から排出され上流側触媒32aに流入する排気の空燃比を検出する。中流側センサ31bは、上流側触媒32aから排出され下流側触媒32bに流入する排気の空燃比を検出する。下流側センサ31cは、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比を検出する。
【0021】
上流側触媒32a及び下流側触媒32bは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒金属を含み、酸素吸蔵能力を有する三元触媒である。三元触媒は、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有することにより、酸素吸蔵量に応じてNOx及びHCの浄化作用を有する。すなわち、三元触媒に流入する排気の空燃比がリーン空燃比である場合、三元触媒の酸素吸蔵量が少ないときには三元触媒により排気中の酸素が吸蔵され、これに伴って排気中のNOxが還元浄化される。三元触媒での酸素吸蔵量が多くなると、三元触媒から流出する排気中の酸素及びNOxの濃度が上昇する。三元触媒に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比である場合、三元触媒での酸素吸蔵量が多いときには三元触媒に吸蔵されている酸素が放出され、排気中のHCは酸化浄化される。三元触媒での酸素吸蔵量が少なくなると、三元触媒から流出する排気中のHCの濃度が上昇する。本実施例での三元触媒によれば、三元触媒に流入する排気の空燃比及び酸素吸蔵量に応じて排気中のNOx及びHCの浄化特性が変化する。尚、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有していれば、上流側触媒32a及び下流側触媒32bの少なくとも一方は、三元触媒とは異なる触媒であってもよい。
【0022】
[ECUの概略構成]
ECU(Electric Control Unit)100は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びフラッシュメモリ等の記憶装置等を備え、ROMや記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより各種制御を行う。ECU100は、運転者により操作されるアクセルペダルやブレーキペダルの操作量や機関本体10の回転数や負荷等に基づいて、点火プラグ16や筒内噴射弁17、及びスロットルバルブ23を制御する。ECU100には、回転数センサ15が検出する回転数やエアフローメータ22が検出する吸入空気量、その他、上流側センサ31a、中流側センサ31b、及び下流側センサ31cがそれぞれ検出する検出空燃比AFa、AFb、及びAFcが入力される。
【0023】
ECU100は、詳しくは後述するが、機関本体10から排出される排気の空燃比を、理論空燃比STよりも小さいリッチ空燃比と理論空燃比STよりも大きいリーン空燃比とに交互に切り替わるように制御する。具体的には、ECU100は、以下のようにして機関本体10から排出される排気の空燃比を制御する。
【0024】
ECU100は、上流側センサ31aの検出空燃比AFaが目標空燃比TAFとなるように、機関本体10から排出される排気の空燃比を制御する。具体的にはECU100は、上流側センサ31aの検出空燃比が目標空燃比TAFとなるように、上流側センサ31aの検出空燃比AFaに基づいて筒内噴射弁17からの燃料噴射量やスロットルバルブ23の開度をフィードバック制御することにより、機関本体10から排出される排気の空燃比を目標空燃比TAFに制御する。また、ECU100は、中流側センサ31bの検出空燃比AFbが理論空燃比STよりも大きいリーン判定空燃比LDとなった場合に、目標空燃比TAFを理論空燃比STよりも小さいリッチ目標空燃比TRに設定する。ECU100は、中流側センサ31bの検出空燃比AFbが理論空燃比よりも小さいリッチ判定空燃比RDとなった場合に、目標空燃比TAFを理論空燃比よりも大きいリーン目標空燃比TLに設定する。これにより、中流側センサ31bの検出空燃比AFbは、リーン判定空燃比LDとリッチ判定空燃比RDの間で周期的に変動する。ECU100は、内燃機関1の制御装置の一例である。また、ECU100は、上述したCPU、RAM、ROM、及び記憶装置等により、後述する判定部、制御部、及びカウンタ算出部が機能的に実現される。
【0025】
[下流側触媒のHC被毒]
図2は、下流側触媒32bがHC被毒する比較例を示したタイミングチャートである。
図2には、中流側センサ31b及び下流側センサ31cそれぞれの検出空燃比AFb及びAFc、上流側触媒32a及び下流側触媒32bのそれぞれからのHC、NOxの合計排出量の推移を示している。
【0026】
上述したようにECU100は、機関本体10から排出される排気の空燃比を、リッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切り替わるように制御する。これにより、検出空燃比AFb及びAFcもそれぞれ、リッチ空燃比(時刻t0~時刻t1)からリーン空燃比(時刻t1~時刻t2)に切り替わり、その後もリッチ空燃比とリーン空燃比に交互に切り替わる。ここで、上流側触媒32aにリーン空燃比の排気が流入すると、上流側触媒32aにおいて酸素が吸蔵され、上流側触媒32aから排出されて下流側触媒32bに流入する排気の空燃比は、上流側触媒32aに流入した排気の空燃比よりもリッチ側のリーン空燃比となる。一方、上流側触媒32aにリッチ空燃比の排気が流入すると、上流側触媒32aにおいて吸蔵されていた酸素が放出され、上流側触媒32aから排出されて下流側触媒32bに流入する排気の空燃比は、上流側触媒32aに流入した排気の空燃比よりもリーン側のリッチ空燃比となる。
【0027】
このように、下流側触媒32bには空燃比の大きいリーン空燃比の排気が流入する機会は少ないが、継続的にリッチ空燃比の排気が流入するため、このような内燃機関1の運転が継続されると、下流側触媒32bの表面が炭化水素に覆われて下流側触媒32bのHC被毒が進行する場合がある。下流側触媒32bのHC被毒が進行すると、下流側触媒32bと排気の接触が阻害されるため、上流側触媒32aから排出されたHC、NOxを下流側触媒32bにて十分に浄化することができずに、下流側触媒32bからのHC、NOxの合計排出量が増大する(時刻t3)。このように、排気エミッションが悪化する。
【0028】
[本実施例での被毒抑制制御]
図3は、本実施例での被毒抑制制御の一例を示したタイミングチャートである。
図3には、検出空燃比AFb及びAFc、上流側触媒32a及び下流側触媒32bのそれぞれからのHC、NOxの合計排出量に加え、判定カウンタの値の推移を示している。判定カウンタは、検出空燃比AFcが被毒上限値PU以下の場合に所定のカウントアップ量だけカウントアップされるカウンタである。所定のカウントアップ量とは、例えば「1」であるがこれに限定されない。被毒上限値PUは、検出空燃比AFcが被毒上限値PU以下の場合に下流側触媒32bのHC被毒が進行する上限値である。被毒上限値PUは、本実施例では理論空燃比ST、具体的には14.6に設定されているが、これに限定されず、例えば被毒上限値PUは、14.65以下の値であってもよい。
【0029】
検出空燃比AFcが被毒上限値PU以下の場合に(時刻t10~t11)、判定カウンタがカウントアップされ、検出空燃比AFcが被毒上限値PUより大きい場合に(時刻t11~t12)、判定カウンタは維持される。検出空燃比AFcがリッチ空燃比とリーン空燃比に交互に切り替わることにより、判定カウンタは段階的に増大する。判定カウンタが閾値α以上になると(時刻t13)、被毒抑制処理が実行される。閾値αは、下流側触媒32bがHC被毒し得るHC被毒条件が成立しているものとみなすことができる下限値である。被毒抑制処理は、判定カウンタが閾値α以上になる前よりも下流側触媒32bに流入する酸素量を増大させるように内燃機関1を制御することにより、下流側触媒32bのHC被毒の進行を抑制する処理である。下流側触媒32bに流入する酸素量が多いと、下流側触媒32bの表面に付着した炭化水素の酸化が促進され、COやCO2,H2Oとなって除去することができるからである。尚、被毒抑制処理の具体的な制御方法については後述する。
【0030】
被毒抑制処理が実行されると、下流側触媒32bに流入する排気の空燃比に相当する検出空燃比AFbは、時刻t13以前のリーン空燃比よりも更にリーン側の値となり、同様に下流側触媒32bから流出する排気の空燃比に相当する検出空燃比AFcも、時刻t13以前のリーン空燃比よりも更にリーン側の値となる。このように下流側触媒32bに流入する酸素量が増大する。その後に被毒抑制処理が停止すると(時刻t14)、判定カウンタは「0」にリセットされる。時刻t14以降も、同様に判定カウンタが増大し、判定カウンタが閾値α以上になると再び被毒抑制処理が実行され、その後に被毒抑制処理が停止され判定カウンタが「0」にリセットされる。
【0031】
このようにして繰り返し被毒抑制処理が実行されることにより、下流側触媒32bのHC被毒の進行を抑制することができ、下流側触媒32bの浄化性能を維持することができる。従って、下流側触媒32bから排出されるHC、NOxの合計排出量を抑制することができる。尚、
図3には被毒回復下限値LLを示しているが後述する。
【0032】
図4は、本実施例の被毒抑制制御の一例を示したフローチャートである。この被毒抑制制御は、内燃機関1の運転中は繰り返し実行される。ECU100は、検出空燃比AFcが被毒上限値PU以下であるか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1でYesの場合、ECU100は判定カウンタを、所定のカウントアップ量だけカウントアップする(ステップS2)。例えば本実施例では、カウントアップ量は「1」であるがこれに限定されない。ステップS1及びS2の処理は、カウンタ算出部が実行する処理の一例である。
【0033】
次に、ECU100は判定カウンタが閾値α以上であるか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3でNoの場合には、下流側触媒32bがHC被毒し得るHC被毒条件が成立していないものとみなして、本制御を終了する。ステップS3でYesの場合には、下流側触媒32bがHC被毒し得るHC被毒条件が成立しているものとみなして、ECU100は被毒抑制処理を開始する(ステップS4)。ECU100は、被毒抑制処理を所定期間実行した後に被毒抑制処理を停止し(ステップS5)、判定カウンタを初期値である「0」にリセットする(ステップS6)。このようにして下流側触媒32bのHC被毒の進行を抑制することができる。ステップS3は、判定部が実行する処理の一例である。ステップS4及びS5は、制御部が実行する処理の一例である。ステップS6の処理は、カウンタ算出部が実行する処理の一例である。
【0034】
ステップS1でNoの場合、ECU100は検出空燃比AFcが被毒回復下限値LL以上であるか否かを判定する(ステップS7)。被毒回復下限値LLは、検出空燃比AFcが被毒回復下限値LL以上の場合に、下流側触媒32bのHC被毒を回復可能な下限値であり、被毒回復下限値LLは例えば15.0であるがこれに限定されない。ステップS7でNoの場合には、本制御は終了する。ステップS7でYesの場合には、ECU100は判定カウンタを所定のカウントダウン量だけカウントダウンする(ステップS8)。例えば本実施例では、カウントダウン量は「1」であるがこれに限定されない。ステップS7及びS8は、カウンタ算出部が実行する処理の一例である。尚、検出空燃比AFcが被毒上限値PUよりも大きく被毒回復下限値LL未満の場合には、下流側触媒32bのHC被毒は進行しないが回復もしないため、判定カウンタは現状の値に維持される。ステップS7及びS8は、判定部が実行する処理の一例である。
【0035】
このように、判定カウンタの値は下流側触媒32bのHC被毒の進行度合いに相当するため、判定カウンタの値に基づいて被毒抑制処理が実行することにより、必要な場合にのみ被毒抑制処理を実行することができる。これにより、不必要な場合に被毒抑制処理が繰り返し実行されて内燃機関1の運転の安定性が損なわれることを回避できる。
【0036】
また、下流側触媒32bに流入する排気の空燃比に相当する検出空燃比AFbを用いるのではなく、下流側触媒32bから排出された排気の空燃比に相当する検出空燃比AFcに基づいて、判定カウンタをカウントアップ又はカウントダウンする。例えば、下流側触媒32bに流入する排気の空燃比が比較的小さいリッチ空燃比(強リッチ空燃比)であった場合に、下流側触媒32bに十分な酸素が吸蔵されていた場合には、下流側触媒32bから排出された排気の空燃比は比較的大きいリッチ空燃比(弱リッチ空燃比)となるが、下流側触媒32bに十分な酸素が吸蔵されていなかった場合には、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比は中程度のリッチ空燃比(中リッチ空燃比)となる。また、下流側触媒32bに流入する排気の空燃比が比較的大きいリーン空燃比(強リーン空燃比)であった場合に、下流側触媒32bが十分な酸素吸蔵能力を有していた場合には、下流側触媒32bから排出された排気の空燃比は比較的小さいリーン空燃比(弱リーン空燃比)となるが、下流側触媒32bが十分な酸素吸蔵能力を有していなかった場合には、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比は中程度のリーン空燃比(中リーン空燃比)となる。このように、下流側触媒32bに流入する排気の空燃比が同じであっても、下流側触媒32bの酸素吸蔵量や酸素吸蔵能力に応じて、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比は変動する。ここで、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比がリッチ空燃比であれば、そのリッチ空燃比の排気が下流側触媒32bを通過したことを意味し、上述したように下流側触媒32bのHC被毒の進行度合いは、下流側触媒32bから排出された排気のリッチ空燃比のリッチ度合いに依存する。また、下流側触媒32bから排出される排気の空燃比がリーン空燃比であれば、そのリーン空燃比の排気が下流側触媒32bを通過したことを意味し、下流側触媒32bのHC被毒の解消度合いは、下流側触媒32bから排出された排気のリーン空燃比のリーン度合いに依存する。従って、下流側触媒32bから排出された排気の空燃比に相当する検出空燃比AFcに基づいて、判定カウンタをカウントアップ又はカウントダウンすることにより、精度よく下流側触媒32bのHC被毒の進行度合いを把握することができる。
【0037】
ステップS6では判定カウンタを「0」にリセットしたが、これに限定されず、例えば所定値だけ判定カウンタをカウントダウンしてもよい。例えばこの場合、ステップS8のカウントダウン量よりもステップS6のカウントダウン量を増大させてもよい。また、ステップS8では、判定カウンタをカウントダウンしたが、これに限定されず、判定カウンタを「0」にリセットしてもよい。この場合、被毒抑制処理によるHC被毒の抑制と同程度となるように、被毒回復下限値LLを高い値に設定することが望ましい。
【0038】
[本実施例の被毒抑制処理]
次に本実施例の被毒抑制処理について具体的に説明する。本実施例の被毒抑制処理では、下流側触媒32bに流入するリーン空燃比の排気の空燃比が更にリーン側となるように内燃機関1の空燃比が制御される。
図5は、本実施例の被毒抑制処理の一例を示したタイミングチャートである。
図5は、目標空燃比TAF、検出空燃比AFb及びAFcの推移を示している。最初に、被毒抑制処理について説明する前に、被毒抑制処理が実行される前の目標空燃比TAFの切替について説明する。
【0039】
検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDにまで低下すると(時刻t21)、目標空燃比TAFが所定のリッチ目標空燃比TRから所定のリーン目標空燃比TLに切り替えられる。これにより、上流側触媒32aに流入する排気中の酸素が上流側触媒32aに吸蔵されることにより排気中のNOxが還元浄化される。上流側触媒32aでは浄化しきれなかった排気中のNOxは、下流側触媒32bにより同様に浄化される。これにより、検出空燃比AFb及びAFcはリッチ側から理論空燃比STに向かって上昇する。上流側触媒32aの酸素吸蔵量が多くなると、上流側触媒32aから排出される排気の酸素濃度が上昇して検出空燃比AFbはリーン側に上昇し、これに伴って下流側触媒32bから排出される排気の酸素濃度も僅かに上昇して、検出空燃比AFcも僅かにリーン側に上昇する。
【0040】
検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDにまで上昇すると(時刻t22)、目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLからリッチ目標空燃比TRに切り替えられる。これにより、上流側触媒32aに流入する排気中のHCが上流側触媒32aに吸蔵された酸素により酸化浄化される。上流側触媒32aでは浄化しきれなかった排気中のHCは、下流側触媒32bにより同様に浄化される。これにより、検出空燃比AFb及びAFcはリーン側から理論空燃比STに向かって低下する。上流側触媒32aの酸素吸蔵量がゼロに近づくと、上流側触媒32aから排出される排気の酸素濃度が低下して検出空燃比AFbはリッチ側に低下し、これに伴って下流側触媒32bから排出される排気の酸素濃度も僅かに低下して、検出空燃比AFcも僅かにリッチ側に低下する。このようにして、目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TL又はリッチ目標空燃比TRに交互に切り替えられる。
【0041】
例えば時刻t23で判定カウンタが閾値α以上になると、被毒抑制処理が実行される。具体的には、判定カウンタが閾値α以上になると、リーン判定空燃比LDが更にリーン側の強リーン判定空燃比LDaに切り替えられる。これにより、下流側触媒32bには、リーン判定空燃比LDよりもリーン側の空燃比である排気を供給することができ、下流側触媒32bに流入する酸素量が増大している。また、時刻t24で目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLに切り替えられてから、時刻t25で検出空燃比AFbが強リーン判定空燃比LDaに到達するまでの間、目標空燃比TAFはリーン目標空燃比TLに維持される。即ち、時刻t24~t25の期間では、時刻t21~t22よりも長い期間にわたって目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLに設定される。このため、本実施例の被毒抑制処理により、下流側触媒32bに流入するリーン空燃比の排気の流入時間についても長くなっており、これによっても下流側触媒32bに流入する酸素量が増大している。以上により、下流側触媒32bに付着したHCを多くの酸素によって酸化除去することができ、下流側触媒32bのHC被毒を抑制することができる。尚、時刻t25で検出空燃比AFbが強リーン判定空燃比LDaに到達すると、強リーン判定空燃比LDaは元のリーン判定空燃比LDに切り替えられて被毒抑制処理は停止する。
【0042】
図6は、本実施例の被毒抑制処理の一例を示したフローチャートである。被毒処理では、ECU100はリーン判定空燃比LDを強リーン判定空燃比LDaに切り替える(ステップS4-1)。次にECU100は、検出空燃比AFbが強リーン判定空燃比LDa以上になったか否かを判定する(ステップS4-2)。ステップS4-2でNoの場合には、再度ステップS4-1が実行される。即ち、被毒抑制処理の第1例は継続される。ステップS4-2でYesの場合には、ECU100は強リーン判定空燃比LDaを元のリーン判定空燃比LDに切り替える(ステップS5-1)。これにより被毒抑制処理が停止する。
【0043】
上記の被毒抑制処理では、判定カウンタが閾値α以上となった後に検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDに到達してから、次回に検出空燃比AFbが強リーン判定空燃比LDaに到達するまでの間に実行されるが、これに限定されない。例えば、判定カウンタが閾値α以上となった後に検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDに到達してから、2回目又は2回目以降の所定回数目に検出空燃比AFbが強リーン判定空燃比LDaに到達するまでの間、被毒抑制処理を実行してもよい。
【0044】
[第1変形例の被毒抑制処理]
次に第1変形例の被毒抑制処理について説明する。第1変形例の被毒抑制処理では、下流側触媒32bに流入するリーン空燃比の排気の流入時間が長くなるように、内燃機関1の空燃比が制御される。
図7は、第1変形例の被毒抑制処理を示したタイミングチャートである。
図7は、目標空燃比TAF、検出空燃比AFb及びAFcの推移を示している時刻t31で検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDとなると、目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLに切り替えられ、時刻t32で検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDとなると、目標空燃比TAFがリッチ目標空燃比TRに切り替えられる。その後に、例えば時刻t33で判定カウンタが閾値α以上となると、時刻t34で目標空燃比TAFの制御中心が理論空燃比STから理論空燃比STよりもリッチ側のリッチ側制御中心TCaに切り替えられる。即ち、目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TL又はリッチ目標空燃比TRに交互に切り替えられる状態から、リッチ側制御中心TCaを中心とする弱リーン目標空燃比TLa又は強リッチ目標空燃比TRaに切り替えられる。尚、リッチ側制御中心TCaは、理論空燃比STよりも小さいがリッチ目標空燃比TRよりも大きい値に設定されている。弱リーン目標空燃比TLaと強リッチ目標空燃比TRaの差分は、リーン目標空燃比TLとリッチ目標空燃比TRとの差分と同じ値に設定されている。
【0045】
時刻t34で目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLから強リッチ目標空燃比TRaに切り替えられると、時刻t35で早期に検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDからリッチ判定空燃比RDにまで低下する。強リッチ目標空燃比TRaはリッチ目標空燃比TRよりも更に小さいリッチ側の値であるため、検出空燃比AFbが短期間でリッチ側に低下するからである。時刻t35で検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDにまで低下すると、目標空燃比TAFは強リッチ目標空燃比TRaから弱リーン目標空燃比TLaに切り替えられる。ここで、弱リーン目標空燃比TLaはリーン目標空燃比TLよりも小さいリッチ側の値であるため、検出空燃比AFbが時刻t35からリーン判定空燃比LDに到達する時刻t36までに時間を要する。このため、長期間にわたって検出空燃比AFbをリーン空燃比に維持することができ、下流側触媒32bに流入する酸素量を増大させることができる。これにより、下流側触媒32bのHC被毒を抑制することができる。尚、時刻t36で検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDに到達すると、目標空燃比TAFの制御中心がリッチ側制御中心TCaから元の理論空燃比STに切り替えられて被毒抑制処理は停止する。
【0046】
図8は、第1変形例の被毒抑制処理を示したフローチャートである。被毒処理の第1変形例では、ECU100は目標空燃比TAFの制御中心を理論空燃比STからリッチ側制御中心TCaに切り替える(ステップS4-1a)。次にECU100は、検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LD以上になったか否かを判定する(ステップS4-2a)。ステップS4-2aでNoの場合には、再度ステップS4-1aが実行される。即ち、被毒抑制処理は継続される。ステップS4-2aでYesの場合には、ECU100は目標空燃比TAFの制御中心をリッチ側制御中心TCaから元の理論空燃比STに切り替える(ステップS5-1a)。これにより被毒抑制処理が停止する。
【0047】
第1変形例の被毒抑制処理においても、判定カウンタが閾値α以上となった後に目標空燃比TAFの制御中心がリッチ側制御中心TCaに切り替えられてから、2回目又は2回目以降の所定回数目に検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDに到達するまでの間、被毒抑制処理を実行してもよい。
【0048】
第1変形例の被毒抑制処理においては、目標空燃比TAFの制御中心をリッチ側制御中心TCaに切り替えたが、これに限定されず、例えば、目標空燃比TAFのリーン目標空燃比TLのみを弱リーン目標空燃比TLaに切り替え、リッチ目標空燃比TRについてはリッチ目標空燃比TRをそのまま用いてもよい。この場合も、検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDとなってからリーン判定空燃比LDに到達するまで時間を要し、その間に多くの酸素量を下流側触媒32bに流通させることができ、下流側触媒32bのHC被毒の進行を抑制できる。
【0049】
上述した本実施例の被毒抑制処理と第1変形例の被毒抑制処理とを同時に実施してもよい。即ち、リーン判定空燃比LDを強リーン判定空燃比LDaに切り替え、且つ目標空燃比TAFの制御中心を理論空燃比STからリッチ側制御中心TCaに切り替えてもよい。これにより、より多くの酸素量を下流側触媒32bに流入させることができ下流側触媒32bのHC被毒を抑制できる。
【0050】
[第2変形例の被毒抑制処理]
次に第2変形例の被毒抑制処理について説明する。第2変形例の被毒抑制処理では、内燃機関1が有する複数の気筒のうち一つに対して燃料カットを実行する。
図9は、第2変形例の被毒抑制処理を示したタイミングチャートである。
図9は、目標空燃比TAF、検出空燃比AFb及びAFcの推移に加え、1気筒燃料カット制御の実行フラグの状態を示している。1気筒燃料カット制御は、上述したように内燃機関1の複数の気筒のうちの一つに対して燃料噴射を停止する燃料カット制御を行うことである。
【0051】
図9に示すように、時刻t41で検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDとなると、目標空燃比TAFがリーン目標空燃比TLに切り替えられ、時刻t42で検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDとなると、目標空燃比TAFがリッチ目標空燃比TRに切り替えられる。その後に、例えば時刻t43で判定カウンタが閾値α以上となると、検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LDとなって目標空燃比TAFがリッチ目標空燃比TRに切り替えられた時刻t44で、1燃料カット制御が実行される。尚、燃料カットの対象となっていない気筒に対しては、これまで通りの燃料噴射及び空燃比の制御が継続される。これにより、燃料カットの対象となっている気筒から、多くの酸素量が下流側触媒32bに供給される。また、内燃機関1の排気の空燃比のリッチ側への進行速度が低下し、これに伴って下流側触媒32bに流入する排気の空燃比を示す検出空燃比AFbのリッチ側への進行速度が低下する。これによっても、長期間にわたってリーン空燃比の排気が下流側触媒32bに流入し、下流側触媒32bに流入する酸素量を増大させることができる。以上のようにして、下流側触媒32bのHC被毒を抑制することができる。その後に時刻t45で検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDとなると、燃料カットがなされていた気筒での燃料噴射が再開されて1気筒燃料カット制御は停止する。
【0052】
図10は、第2変形例の被毒抑制処理を示したフローチャートである。被毒処理の第2変形例では、ECU100は検出空燃比AFbがリーン判定空燃比LD以上となったか否かを判定する(ステップS4-0b)。ステップS4-0bでNoの場合には、本制御は終了する。ステップS4―0bでYesの場合、ECU100は1気筒燃料カット処理を実行する(ステップS4-1b)。次にECU100は、検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RD以下になったか否かを判定する(ステップS4-2b)。ステップS4-2bでNoの場合には、再度ステップS4-1bが実行される。即ち、被毒抑制処理は継続される。ステップS4-2bでYesの場合には、ECU100は燃料カットの対象であった気筒の燃料噴射を再開する(ステップS5-1b)。これにより被毒抑制処理が停止する。
【0053】
第2変形例の被毒抑制処理においても、判定カウンタが閾値α以上となった後に1気筒燃料カット処理が開始されてから、2回目又は2回目以降の所定回数目に検出空燃比AFbがリッチ判定空燃比RDに到達するまでの間、1気筒燃料カット処理を継続してもよい。また、第2変形例の被毒抑制処理では、1気筒のみを燃料カットの対象としたが、これに限定されず、内燃機関1の運転状態が安定する範囲内で2気筒以上を燃料カットの対象としてもよい。これにより、下流側触媒32bに流入する酸素量をより増大させることができる。また、上述した本実施例の被毒抑制処理と、第2及び第3変形例の被毒抑制処理の少なくとも一方とを同時に実施してもよい。
【0054】
[第1変形例のカウントアップ量の算出制御]
第1変形例の判定カウンタのカウントアップ量の算出制御について説明する。
図11Aは、第1変形例の判定カウンタのカウントアップ量の算出制御を示したフローチャートである。本算出制御は、例えばステップS2の処理が実行される際に実行される。
【0055】
最初にECU100は、検出空燃比AFcを取得する(ステップS11)。次にECU100は、取得した検出空燃比AFcに基づいて判定カウンタのカウントアップ量を算出する(ステップS12)。
図11Bは、検出空燃比AFcとカウントアップ量との関係を規定したマップである。縦軸は検出空燃比AFcを示し、横軸はカウントアップ量を示している。このマップは予めECU100の記憶装置等に記憶されている。このマップでは、検出空燃比AFcが理論空燃比STである被毒上限値PUから低下するほど、即ち、検出空燃比AFcが被毒上限値PUからリッチ側となるほど、カウントアップ量は「1」から増大するように規定されている。下流側触媒32bに流入する排気の空燃比が被毒上限値PUからリッチ側であるほど、下流側触媒32bのHC被毒の進行速度は速くなりやすいからである。このように、実際の下流側触媒32bのHC被毒の進行速度にあわせて判定カウンタのカウントアップ量を算出できるため、適切なタイミングで被毒抑制処理を実行することができる。
【0056】
[第2変形例のカウントアップ量の算出制御]
図12Aは、第2変形例の判定カウンタのカウントアップ量の算出制御を示したフローチャートである。ECU100は、エアフローメータ22により検出された吸入空気量に基づいて、下流側触媒32bに流入する排気流量Frを算出する(ステップS11a)。具体的には、ECU100は吸入空気量に基づき、下流側触媒32bに流入する排気流量Frは算出する。尚、下流側触媒32bよりも上流側から排気を取り出すEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置が設けられている場合には、ECU100は吸入空気量に加えてEGR率に基づいて排気流量Frを算出する。
【0057】
次にECU100は、算出した排気流量Frに基づいてカウントアップ量を算出する(ステップS12a)。
図12Bは、排気流量Frとカウントアップ量との関係を規定したマップである。縦軸は排気流量Frを示し、横軸はカウントアップ量を示している。このマップは予めECU100の記憶装置等に記憶されている。このマップでは、排気流量Frが所定値から増大するほど、カウントアップ量は「1」から増大するように規定されている。下流側触媒32bへの排気流量Frが大きいほど、下流側触媒32bに流入するリッチ空燃比の排気の流量も多くなり、下流側触媒32bのHC被毒の進行速度は速くなりやすいからである。このように、実際の下流側触媒32bのHC被毒の進行速度にあわせて判定カウンタのカウントアップ量を算出できるため、適切なタイミングで被毒抑制処理を実行することができる。尚、検出空燃比AFcと排気流量Frの双方に基づいてカウントアップ量を算出してもよい。
【0058】
[第1変形例のカウントダウン量の算出制御]
第1変形例の判定カウンタのカウントダウン量の算出制御について説明する。
図13Aは、第1変形例の判定カウンタのカウントダウン量の算出制御を示したフローチャートである。本算出制御は、例えばステップS7の処理が実行される際に実行される。ECU100は、検出空燃比AFcを取得する(ステップS11b)。
【0059】
次にECU100は、取得した検出空燃比AFcに基づいて判定カウンタのカウントダウン量を算出する(ステップS12b)。
図13Bは、検出空燃比AFcとカウントダウン量との関係を規定したマップである。縦軸は検出空燃比AFcを示し、横軸はカウントダウン量を示している。このマップは予めECU100の記憶装置等に記憶されている。このマップでは、検出空燃比AFcが被毒回復下限値LLから増大するほど、即ち、検出空燃比AFcが被毒回復下限値LLからリッチ側となるほど、カウントダウン量は「1」から増大するように規定されている。下流側触媒32bに流入する排気の空燃比が被毒回復下限値LLからリーン側であるほど、下流側触媒32bのHC被毒を解消度合いが大きくなりやすいからである。このように、実際の下流側触媒32bのHC被毒の解消度合いにあわせて判定カウンタのカウントダウン量を算出できるため、必要な場合にのみ被毒抑制処理を実行することができる。
【0060】
[第2変形例のカウントダウン量の算出制御]
図14Aは、第2変形例の判定カウンタのカウントダウン量の算出制御を示したフローチャートである。ECU100は、ステップS11aと同様に、下流側触媒32bに流入する排気流量Frを算出する(ステップS11c)。次にECU100は、算出した排気流量Frに基づいてカウントダウン量を算出する(ステップS12c)。
図14Bは、排気流量Frとカウントダウン量との関係を規定したマップである。縦軸は排気流量Frを示し、横軸はカウントアップ量を示している。このマップは予めECU100の記憶装置等に記憶されている。このマップでは、排気流量Frが所定値から増大するほど、カウントダウン量は「1」から増大するように規定されている。下流側触媒32bへの排気流量Frが大きいほど、下流側触媒32bに流入するリーン空燃比の排気の流量も多くなり、下流側触媒32bのHC被毒の解消度合いが大きくなりやすいからである。このように、実際の下流側触媒32bのHC被毒の解消度合いにあわせて判定カウンタのカウントダウン量を算出できるため、必要な場合にのみ被毒抑制処理を実行することができる。尚、検出空燃比AFcと排気流量Frの双方に基づいてカウントダウン量を算出してもよい。
【0061】
尚、
図11B、
図12B、
図13B、
図14Bのマップでは、カウントアップ量やカウントダウン量は直線状に規定されているが、これに限定されず、二次曲線状や折線状に規定されていてもよい。また、カウントアップ量やカウントダウン量の算出は、上記のようなマップに限定されず、演算式により算出してもよい。例えば、カウントアップ量の初期値「1」に、検出空燃比AFcが被毒上限値PUから低下するほど又は排気流量Frが増大するほど増大する係数K(>1)を乗算して、最終的なカウントアップ量を算出してもよい。カウントダウン量の初期値「1」に、検出空燃比AFcが被毒回復下限値LLから増大するほど又は排気流量Frが増大するほど増大する係数K(>1)を乗算して、最終的なカウントダウン量を算出してもよい。
【0062】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 内燃機関
10 機関本体
17 筒内噴射弁
20 吸気通路
30 排気通路
31a 上流側センサ
31b 中流側センサ
31c 下流側センサ
32a 上流側触媒
32b 下流側触媒
100 ECU(制御装置、判定部、制御部)