IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ピストンリング 図1
  • 特開-ピストンリング 図2
  • 特開-ピストンリング 図3
  • 特開-ピストンリング 図4
  • 特開-ピストンリング 図5
  • 特開-ピストンリング 図6
  • 特開-ピストンリング 図7
  • 特開-ピストンリング 図8
  • 特開-ピストンリング 図9
  • 特開-ピストンリング 図10
  • 特開-ピストンリング 図11
  • 特開-ピストンリング 図12
  • 特開-ピストンリング 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191665
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/06 20060101AFI20221221BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16J9/06 B
F02F5/00 C
F02F5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100021
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇士
(72)【発明者】
【氏名】恒石 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内山 稔
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 譲
(72)【発明者】
【氏名】和田 裕一郎
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA14
3J044CB24
3J044CB31
3J044DA09
(57)【要約】
【課題】合口部が要因となるガス通路が生じることを確実に回避もしくは抑制できるピストンリングを提供する。
【解決手段】合口部で開いている環状をなし、ボアの内部で軸線方向に往復動するピストンの外周部に形成されたリング溝の内部に配置され、外周部が前記ボアの内周面に押し付けられて摺動するピストンリングであって、リング溝の内部に軸線方向で互いに密着した状態で重ねて配置される複数の第1リング片5,6を備え、各第1リング片5,6は、端面同士が周方向に離隔して所定寸法のリングギャップをもって対向している合口部9,10を有するとともに、各第1リング片5,6の合口部9,10は、周方向に互いにずれて配置されており、さらに、各第1リング片5,6の合口部9,10を、各第1リング片5,6の半径方向に対して閉塞する閉塞部材8が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合口部で開いている環状をなし、ボアの内部で軸線方向に往復動するピストンの外周部に形成されたリング溝の内部に配置され、外周部が前記ボアの内周面に押し付けられて摺動するピストンリングにおいて、
前記リング溝の内部に前記軸線方向で互いに密着した状態で重ねて配置される複数の第1リング片を備え、
前記各第1リング片は、端面同士が周方向に離隔して所定寸法のリングギャップをもって対向している合口部を有するとともに、
前記各第1リング片の前記合口部は、前記周方向に互いにずれて配置されており、
さらに、前記各第1リング片の前記合口部を、前記各第1リング片の半径方向に対して閉塞する閉塞部材が設けられている
ことを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンリングにおいて、
前記閉塞部材は、前記リング溝内で前記各第1リング片の内周側に配置されて前記各第1リング片の内周面に接触することにより、前記各第1リング片の前記合口部の内周側の開口端を閉じている第2リングによって構成され、
前記第2リングは、前記周方向に開いている合口部を有するとともに、
前記第2リングの前記合口部は、少なくとも、前記各第1リング片のうち前記ピストンの上下方向で最も上側に位置する第1リング片における前記合口部に対して前記周方向にずれて位置している
ことを特徴とするピストンリング。
【請求項3】
請求項2に記載のピストンリングにおいて、
前記第2リングは、前記各第1リング片の重ね合わせ方向と同方向に互いに密着させて重ね合わせた複数の第2リング片によって構成されていることを特徴とするピストンリング。
【請求項4】
請求項3に記載のピストンリングにおいて、
前記各第2リング片は、前記周方向に開いている合口部を有するとともに、
前記第2リング片の前記合口部同士は、前記周方向に互いにずれるとともに、
前記第2リング片の前記合口部は、前記各第1リング片における前記合口部に対して前記周方向にずれて位置している
ことを特徴とするピストンリング。
【請求項5】
請求項1に記載のピストンリングにおいて、
前記第1リング片のうち前記軸線方向で最も上側の第1リング片における前記合口部は、前記周方向に所定のリングギャップをもって離隔している一対の第1端面を有し、
前記第1端面同士の間隔である前記リングギャップは、前記第1リング片の半径方向での内側で次第に小さくなっており、
前記閉塞部材は、前記第1端面同士の間に、前記各第1端面に密着した状態を維持して前記第1リング片の半径方向に移動可能に前記第1リング片の外周側から詰め込まれている第1プラグ片によって構成されている
ことを特徴とするピストンリング。
【請求項6】
請求項5に記載のピストンリングにおいて、
前記第1プラグ片を前記第1リング片における前記合口部の内部で、前記第1リング片の半径方向で内側に弾性的に押圧する第1押圧部材を更に備えていることを特徴とするピストンリング。
【請求項7】
請求項5または6に記載のピストンリングにおいて、
前記第1リング片より下側に位置する他の第1リング片における前記合口部は、前記周方向に所定のリングギャップをもって離隔している一対の第2端面を有し、
前記第2端面同士の間隔である前記リングギャップは、前記他の第1リング片の半径方向での外側で次第に小さくなっており、
前記閉塞部材は、前記第2端面同士の間に、前記各第2端面に密着した状態を維持して前記他の第1リング片の半径方向に移動可能に前記他の第1リング片の内周側から詰め込まれている第2プラグ片を更に備えている
ことを特徴とするピストンリング。
【請求項8】
請求項7に記載のピストンリングにおいて、
前記他の第1プラグ片を前記他の第1リング片における前記合口部の内部で、前記第1リング片の半径方向で外側に弾性的に押圧する第2押圧部材を更に備えていることを特徴とするピストンリング。
【請求項9】
請求項1に記載のピストンリングにおいて、
前記閉塞部材は、前記各第1リング片の内周面に、各第1リング片における前記合口部を閉じるように密着させられかつ前記合口部毎に設けられた内周側湾曲部材によって構成され、
前記内周側湾曲部材は、前記合口部を挟んだ両側の部分のうちのいずれか一方の部分で前記第1リング片に接合されている
ことを特徴とするピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに取り付けられるピストンリングに関し、特に主としてブローバイガスをシールするピストンリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングは、完全な環状ではなく、一部分が切り開かれていて、弾性的に外径が増減するように構成されている。その切り開かれている部分を合口(もしくは合口部)と称している。合口部は、ピストンリングを幅方向(軸線方向に測った寸法を幅と称す)に貫通している部分であるから、ブローバイガスの通路となってしまうことがあり、従来ブローバイガスの漏洩を阻止し、あるいは可及的に減じるための種々の工夫がなされ、発明として提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ピストンリングを幅方向に重ねた上側リングと下側リングとで構成するとともに、それらのリングの合口部を周方向にずらして配置したピストンリングが記載されている。その上側リングにおける合口部は、単純に幅方向に切り開いた形状もしくは幅方向に対して例えば45°傾斜させて切り開いたスリット状になっている。これに対して下側リングにおける合口部は、合口部で互いに対向する端部の一方の内周部を、半分の厚さ(半径方向に測った寸法を厚さと称す)に切除するとともに、他方の端部の外周部を、半分の厚さに切除して、厚さ方向に互いに重なる段付き形状になっている。あるいは、上側リングにおける傾斜した合口部とは反対方向に傾斜した合口部となっている。
【0004】
また、特許文献2には、外周リングと内周リングとによって構成されたピストンリングが記載されている。外周リングの合口部は、幅方向で段の付いた構造とされ、これに対して内周リングの合口部は、直角合口、斜め合口、段付き合口など適宜のものでよい、とされている。そして、これら外周リングと内周リングとの合口部は、周方向に互いにずれて配置されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、合口部を構成している互いに対向する端面を、幅方向(上下方向)で上側の間隔が次第に増大する傾斜面とし、それらの傾斜面に接触する傾斜面を有する三角形状の合口ピースを合口部に上側から嵌め込んだ構造のピストンリングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-31995号公報
【特許文献2】特開2000-130257号公報
【特許文献3】特開2008-14424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたピストンリングでは、上側リングにおける合口部の下側に、下側リングの上面が接触し、同様に、下側リングにおける合口部の上側に、上側リングの下面が接触している。したがって、それぞれの合口部は、幅方向(上下方向)において相手側のリング(下側リングもしくは上側リング)によって閉じられる。すなわち、幅方向に繋がっているガス通路は生じないようになっている。
【0008】
しかしながら、ピストンリングが配置されているリング溝は、ピストンリングが半径方向に伸縮できるように構成されている。すなわち、リング溝の溝底の外径は、ピストンリングの内径より小さく、両者の間に隙間が設けられている。特許文献1に記載された構成では、上側リングの合口部および下側リングの合口部は、いずれもリング溝の溝底側の隙間に開口して繋がっている。そのため、上側リングの合口部と下側リングの合口部とは、リング溝の溝底側の隙間を介して互いに連通していて、ガス通路となっており、この点でガスシール性に劣る可能性がある。
【0009】
なお、下側リングの合口部を、厚さ方向での段付き構造とした場合、一方の端部から延びている薄板状の部分と他方の端部から延びている薄板状の部分とが厚さ方向で重なるので、厚さ方向(半径方向)で直線的な通路は生じない。しかしながら、それぞれの薄板状の部分は、その根元の部分に曲げ荷重が掛かることを回避もしくは抑制するために、互いに接触しないように、僅かな隙間を空けて対向している。そのため、その隙間が内周側と外周側とを連通させるガス通路となる。結局、特許文献1に記載された構成では、ブローバイガスの漏洩の要因となるガス通路を解消できておらず、この点で改善の余地がある。
【0010】
また、特許文献2に記載されたピストンリングは、特許文献1に記載されている上側リングを内周リングに置き換え、下側リングを外周リングに置き換えた構成と言うことのできる構成のピストンリングである。すなわち、外周リングの合口部と内周リングの合口部とが周方向に互いにずれているから、外周リングにおける合口部の内周側に、内周リングが接触してその合口部を内周側で閉じ、かつ内周リングにおける合口部の外周側に、外周リングが接触してその合口部を外周側で閉じることになるので、ピストンリングの内周側と外周側とを、直線的に連通するガス通路は生じない。しかしながら、外周リングにおける合口部は、厚さ方向(半径方向)で薄板状部分を対向させるいわゆる段付き合口であるから、その部分で隙間が生じ、これがガス通路となることは、特許文献1に記載されている構成と同様である。結局、特許文献2に記載された構成であっても、段付き合口とすることによる不都合を含めて、ブローバイガスの漏洩の要因となるガス通路を解消できておらず、この点で改善の余地がある。
【0011】
さらに、特許文献3に記載された構成について検討すると、ピストンリングは温度変化に応じて伸縮する必要があるので、合口部における隙間(端面同士の間隔)が温度変化に応じて変化する。特許文献3に記載された構成では、合口部に嵌め込まれている合口ピースが、上側に開いた対向面に接触しているから、それらの対向面の間隔の変化に応じて合口ピースが上下動し、その結果、合口ピースが合口部にはまり込んで、それらの端面に接触している状態が維持される。しかしながら、合口ピースの上下動を可能にするために、合口ピースの上側もしくは下側に隙間を設ける必要があるために、その隙間がピストンリングの外周側と内周側とを連通させるガス通路となってしまう。特許文献3にはその合口ピースに対して半径方向に荷重を掛けるガイドを設けた構成が記載されているが、そのガイドは合口ピースと一体となっているので、合口ピースが上下動することに伴ってガイドも上下動するから、結局、そのガイドの上下のいずれかに隙間が生じ、その隙間がガス通路になってしまう。
【0012】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ブローバイガスの漏洩の要因となるガス通路を可及的に解消することのできるピストンリングを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために、合口部で開いている環状をなし、ボアの内部で軸線方向に往復動するピストンの外周部に形成されたリング溝の内部に配置され、外周部が前記ボアの内周面に押し付けられて摺動するピストンリングにおいて、前記リング溝の内部に前記軸線方向で互いに密着した状態で重ねて配置される複数の第1リング片を備え、前記各第1リング片は、端面同士が周方向に離隔して所定寸法のリングギャップをもって対向している合口部を有するとともに、前記各第1リング片の前記合口部は、前記周方向に互いにずれて配置されており、さらに、前記各第1リング片の前記合口部を、前記各第1リング片の半径方向に対して閉塞する閉塞部材が設けられていることを特徴としている。
【0014】
本発明では、前記閉塞部材は、前記リング溝内で前記各第1リング片の内周側に配置されて前記各第1リング片の内周面に接触することにより、前記各第1リング片の前記合口部の内周側の開口端を閉じている第2リングによって構成され、前記第2リングは、前記周方向に開いている合口部を有するとともに、前記第2リングの前記合口部は、少なくとも、前記各第1リング片のうち前記ピストンの上下方向で最も上側に位置する第1リング片における前記合口部に対して前記周方向にずれて位置していてよい。
【0015】
本発明では、前記第2リングは、前記各第1リング片の重ね合わせ方向と同方向に互いに密着させて重ね合わせた複数の第2リング片によって構成されていてよい。
【0016】
本発明では、前記各第2リング片は、前記周方向に開いている合口部を有するとともに、前記第2リング片の前記合口部同士は、前記周方向に互いにずれるとともに、前記第2リング片の前記合口部は、前記各第1リング片における前記合口部に対して前記周方向にずれて位置していてよい。
【0017】
本発明では、前記第1リング片のうち前記軸線方向で最も上側の第1リング片における前記合口部は、前記周方向に所定のリングギャップをもって離隔している一対の第1端面を有し、前記第1端面同士の間隔である前記リングギャップは、前記第1リング片の半径方向での内側で次第に小さくなっており、前記閉塞部材は、前記第1端面同士の間に、前記各第1端面に密着した状態を維持して前記第1リング片の半径方向に移動可能に前記第1リング片の外周側から詰め込まれている第1プラグ片によって構成されていてよい。
【0018】
本発明では、前記第1プラグ片を前記第1リング片における前記合口部の内部で、前記第1リング片の半径方向で内側に弾性的に押圧する第1押圧部材を更に備えていてよい。
【0019】
本発明では、前記第1リング片より下側に位置する他の第1リング片における前記合口部は、前記周方向に所定のリングギャップをもって離隔している一対の第2端面を有し、前記第2端面同士の間隔である前記リングギャップは、前記他の第1リング片の半径方向での外側で次第に小さくなっており、前記閉塞部材は、前記第2端面同士の間に、前記各第2端面に密着した状態を維持して前記他の第1リング片の半径方向に移動可能に前記他の第1リング片の内周側から詰め込まれている第2プラグ片を更に備えていてよい。
【0020】
本発明では、前記他の第1プラグ片を前記他の第1リング片における前記合口部の内部で、前記第1リング片の半径方向で外側に弾性的に押圧する第2押圧部材を更に備えていてよい。
【0021】
本発明では、前記閉塞部材は、前記各第1リング片の内周面に、各第1リング片における前記合口部を閉じるように密着させられかつ前記合口部毎に設けられた内周側湾曲部材によって構成され、前記内周側湾曲部材は、前記合口部を挟んだ両側の部分のうちのいずれか一方の部分で前記第1リング片に接合されていてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、上下に密着させて重ねた複数の第1リング片を有し、それらの第1リング片の合口部が周方向に互いにずれているから、それぞれの第1リング片における合口部は、その上側あるいは下側に位置する他の第1リング片によって閉じられる。したがって、上下方向に連通している隙間部分であるいわゆるガス通路が生じない。また、各合口部は、閉塞部材によって、半径方向に対して閉じられているから、合口部が要因となる半径方向に連通した隙間部分であるいわゆるガス通路が生じない。結局、本発明によれば、ピストンリングの上下両側に亘って連通するガス通路が解消もしくは抑制されるので、ブローバイガスの漏洩を効果的に防止もしくは低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ピストンリングを装着されたピストンの一例を示す一部を断面した正面図である。
図2】本発明に係るピストンリングの一例を分解して示す斜視図である。
図3】そのピストンリングをリング溝に収容した状態での部分断面図である。
図4図3と同様の断面図であって、(A)は図2の符号「A」の部分での部分断面図、(B)は図2の符号「B」の部分での部分断面図、(C)は図2の符号「C」の部分での部分断面図である。
図5】ピストンリングがリング溝の上面に密着している状態を示す図4と同様の断面図であって、(A)は図2の符号「A」の部分での部分断面図、(B)は図2の符号「B」の部分での部分断面図、(C)は図2の符号「C」の部分での部分断面図である。
図6】内周リングを上下に二分した実施形態を説明するための部分断面図であって、(A)はリング溝の下面に密着している状態を示す部分断面図、(B)はリング溝の上面に密着しかつ上側の内周リング片がガス圧で変形した場合を上側のリング片の合口部の部分で断面した部分断面図、(C)は同下側のリング片の合口部の部分で断面した部分断面図である。
図7】下側のリング片に対してのみ内周リングを設けた実施形態を説明するための部分断面図である。
図8】外周リングの各リング片と内周リングとの合口部の相対位置および接合位置の一例を示す平面図である。
図9】外周リングをリング溝の下面側に押圧するように構成した例を説明するための模式的な部分断面図であり、(A)は内周リングの外周面の単一の傾斜面で構成した例を示し、(B)は内周リングの内周側に更にスプリングを設けた例を示す。
図10】外周リングの各リング片を内周リングによって幅方向に拘束した例を示す模式的な部分断面図であり、(A)は一つの凹部で各リング片を拘束した例を示し、(B)は各リング片に対応させて凹部を設けた例を示し、(C)は内周リングを上下に二分した例を示し、(D)は更にスプリングを内周側に設けた例を示す。
図11】閉塞部材として円弧状片を設けた例を示す平面図である。
図12】閉塞部材としてプラグ片を設けた例を示す部分平面図であり、(A)は上側のリング片についてのプラグ片および合口部を示し、(B)は下側のリング片についてのプラグ片および合口部を示す。
図13】円柱状のプラグ片を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関におけるピストンに装着されるピストンリングについて実施することができ、その実施形態を以下に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0025】
図1は内燃機関のピストンの一般的な構造を簡略化して示しており、ピストン1はシリンダにおけるボア2の内部にその軸線方向に往復動するように収容されている。ピストン1の上端側の外周部にリング溝3が形成され、そのリング溝3の内部にピストンリング4が嵌め込まれている。ピストンリング4は、一例として、コンプレッションリングが2本、オイルリングが1本の合計3本であり、図1に示す例では、上側の2本がコンプレッションリングであり、下側の1本がオイルリングである。
【0026】
本発明は、主としてコンプレッションリングに適用することができ、その一例を図2に分解図として示してある。ここに示すピストンリング4は、その中心軸線の方向(幅方向)に重ねた2本のリング片5,6からなる外周リング7と、それらのリング片5,6の内周側に配置されている内周リング8とによって構成されている。外周リング7における2本のリング片5,6は、本発明における第1リング片に相当し、従来のコンプレッションリングに用いられている金属と同様の金属製であり、その形状は完全な環状ではなく合口部9,10で開いている環状である。合口部9,10は、外径が拡大および減少するように所定寸法のリングギャップを設けてある箇所であって、周方向で互いに対向する端面9a,10a同士の間隔がリングギャップである。
【0027】
各リング片5,6の外径(荷重を掛けていない自由状態での外径)は、ボア2の内径より大きく、内径(ボア2の内側に嵌め込んだ使用状態での内径)は、リング溝3の溝底の外径より大きい。また、各リング片5,6のボア2に摺接する外周部の形状は、バレル形状やテーパ形状、ベベル形状、プレイン形状など、従来知られている適宜の形状であってよい。さらに、合口部9,10は、従来知られているいわゆる直角合口、斜め合口、段付き合口などのいずれであってもよい。
【0028】
内周リング8は、本発明における閉塞部材に相当し、幅方向に重ねて互いに密着させてあるリング片5,6(すなわち外周リング7)の内周側に嵌め込まれる環状の部材である。この内周リング8は、弾性変形して外径が増減するように構成されており、そのような変形を可能にするために、上記の各リング片5,6と同様に、合口部11が設けられている。内周リング8の外径(荷重を掛けていないいわゆる自由状態での外径)は、ボア2に嵌め込んだ状態での外周リング7の内径以上であって、弾性力によって外周リング7の内周面に密着するように構成されている。なお、内周リング8は外周リング7と共にリング溝3の内部に収容されるから、その内径はリング溝3の溝底の外径より大きい。さらに、内周リング8は、外周リング7における合口部9,10の内周側の全体を覆って、それらの合口部9,10の内周側の開口端を閉じるためのものであるから、内周リング8の幅(軸線方向に測った寸法)は、外周リング7の幅(密着させて重ね合わせたリング片5,6の合計の幅)以上に設定されている。なお、内周リング8における合口部11の形状は、各リング片5,6における合口部9,10の形状と同様に、直角合口、斜め合口、段付き合口などの従来知られている形状であってもよい。
【0029】
上記の各リング片5,6は幅方向に重ねて密着させ、かつその内周側に内周リング8を嵌め込んだ状態でリング溝3の内部に組み付けられる。その状態を図3に部分断面図として示してある。前述したように各リング片5,6(外周リング7)のいわゆる自由状態での外径は、ボア2の内径より大きいから、各リング片5,6をピストン1に取り付けてシリンダのボア2の内部に挿入した状態では、各リング片5,6は外径が小さくなるように弾性変形させられて張力が掛かり、その張力によってボア2の内面に気密状態を維持するように押し付けられる。
【0030】
これらのリング片5,6の内周側に組み付けられている内周リング8は、リング片5,6の径の縮小に合わせて弾性変形させられ、それに伴う張力によって各リング片5,6の内周面に押し付けられて密着する。したがって、各リング片5,6は、自らの張力と内周リング8から受ける張力とによってボア2の内周面に押し付けられる。これらの張力は、ガス圧によってリング片5,6がボア2の内面から離隔することがなく、またピストン1が上下動する際のボア2との間の摩擦力が過剰にならないように設計上設定される。また、ピストンリング4が図3に示すようにリング溝3の下面に接触している状態では、合口部9,10,11を除いて、ピストンリング4とリング溝3の下面との間に隙間は生じていない。
【0031】
そして、合口部9,10,11がガス通路を形成しないように、上述の各リング片5,6ならびに内周リング8は、それぞれの合口部9,10,11が周方向に互いにずれて位置するようにリング溝3の内部にセットされている。このように合口部9,10,11が周方向に互いにずれている状態を図2に示してある。これは、それぞれの合口部9,10,11を各リング片5,6および内周リング8で閉じて、合口部9,10,11がガス通路とならないようにするためである。
【0032】
具体的に説明すると、図4(A)は、ピストンリング4がリング溝3の下面に密着している状態で図2の「A」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。ピストンリング4の幅とリング溝3の開口幅(図4の上下方向に測った寸法)の差は、0.02mm~0.03mm程度が通常であるから、ピストンリング4の上側には隙間が空いており、これに加えて上側のリング片5はその合口部9で切り開かれているから、これらの隙間および合口部9によって燃焼室(図示せず)とリング溝3の内部とが連通する。これに対して、上側のリング片5と下側のリング片6とが密着しているので、上側のリング片5における合口部9の下側の開口部は下側のリング片6によって密閉されている。したがって、この合口部9は上下方向には貫通しておらず、燃焼室からクランク室(図示せず)に到るガス通路となることはない。また、下側のリング片6およびその内周面に密着している内周リング8は、リング溝3の下面に密着していて両者の間は気密状態となっている。したがって、リング溝3の内部は、下側のリング片6の外周端がボア2の内周面に気密状態に接触していることと相まって、クランク室に対して気密状態に遮蔽されている。そのため、ブローバイガスが例えば図4の(A)に矢印の付いた曲線で示すように流れてリング溝3の内部に到ったとしても、そのブローバイガスは図4の(A)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。すなわち、上側のリング片5に合口部9が形成されているとしても、これが燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路となることはない。
【0033】
図4の(B)は、ピストンリング4がリング溝3の下面に密着している状態で図2の「B」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。ピストンリング4とリング溝3の上面との間には、上述した隙間が空いており、その隙間によってリング溝3の内部が燃焼室に連通している。また、下側のリング片6には合口部10が設けられているので、この部分でリング溝3の内部の一部がクランク室に連通している。しかしながら、この合口部10の上側には上側のリング片5が密着しているので、その合口部10は上側にはこの上側のリング片5によって閉じられている。また、下側のリング片6の内周面には、内周リング8が密着し、しかもその内周リング8はリング溝3の下面に気密状態で密着している。そのため、ブローバイガスが例えば図4の(B)に矢印の付いた曲線で示すように流れてリング溝3の内部に到ったとしても、そのブローバイガスは図4の(B)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。したがって、下側のリング片6における合口部10は、上側のリング片5および内周リング8によって上方向(軸線方向)および半径方向に密閉されているから、下側のリング片6に合口部10が形成されているとしても、これが燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路となることはない。
【0034】
図4の(C)は、ピストンリング4がリング溝3の下面に密着している状態で図2の「C」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。ピストンリング4とリング溝3の上面との間に隙間が生じていることは上述した図4の(A)および(B)の場合と同様であり、したがってリング溝3の内部と燃焼室とが連通している。このリング溝3の内部に対しては、内周リング8における合口部11で、各リング片5,6の内周面が露出している。それらのリング片5,6同士は実質的に気密状態に密着しており、また下側のリング片6はリング溝3の下面に、同様に気密状態に密着している。したがって、各リング片5,6同士の間、および下側のリング片6の下面とリング溝3の下面との間をブローバイガスが通過することはない。そのため、ブローバイガスが例えば図4の(C)に矢印の付いた曲線で示すように流れてリング溝3の内部に到ったとしても、そのブローバイガスは図4の(C)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。結局、内周リング8に合口部11が形成されているとしても、これが燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路となることはない。
【0035】
なお、ここで説明している実施形態では、各リング片5,6同士が密着していることが、ガス通路の解消あるいはブローバイガスの遮断に機能しており、これは、以下の理由による。すなわち、各リング片5,6は単に重ねるだけであるから、両者が接触する面圧が特には制限されず、互いに荷重が掛かる程度に強固に接触させることができる。これに対して、例えば段付き合口における薄板片のように、曲げ荷重が掛かることにより破断の可能性があり、あるいは小さい曲げ荷重でも疲労破断の可能性がある構造では、その薄板片同士が接触しないように僅かなクリアランスを設定する必要がある。そのクリアランスが、合口部における外周側もしくは上側の開口部と内周側もしくは下側の開口部とを連通させてガス通路となってしまう。上述した実施形態ではそのようなクリアランスを各リング片5,6同士の間に設ける必要がないので、リング片5,6をその幅方向に重ねて密着させる構成は、段付き合口における薄板片同士を重ねる構成とは大きく異なり、ガス流路の解消に有効に機能する。
【0036】
一方、高速運転時にはピストンリング4の慣性力が大きくなって、膨張行程あるいは吸気行程でピストンリング4がリング溝3の上面に接触した状態になる場合がある。図5はその状態を示しており、本発明による実施形態ではこのような場合であってもガス流路の解消に有効に機能する。すなわち、ピストンリング4がリング溝3の上面に押し付けられて密着している状態では、合口部9,10,11を除いて、ピストンリング4とリング溝3の上面との間に隙間は生じていない。また、合口部9,10,11においては、以下のような封止状態が成立し、ガス流路は生じない。
【0037】
すなわち、図5の(A)は、ピストンリング4がリング溝3の上面に密着している状態で図2の「A」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。上側のリング片5における合口部9は、上側に開口しているから、燃焼室に連通する。しかしながら、下側のリング片6が上側のリング片5に密着しているから、合口部9の下側の開口部は下側のリング片6によって密閉されている。また、内周リング8が上側のリング片5の内周面に密着しているから、合口部9の内周側の開口部は内周リング8によって密閉されている。そして、その内周リング8の上面がリング溝3の上面に密着しているから、結局、上側のリング片5における合口部9は、リング溝3の内部に対しては閉じている。そのため、ブローバイガスが例えば図5の(A)に矢印の付いた曲線で示すように流れてリング溝3の内部に到ったとしても、そのブローバイガスは図5の(A)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。すなわち、上側のリング片5に合口部9が形成されているとしても、これが燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路となることはない。
【0038】
図5の(B)は、ピストンリング4がリング溝3の上面に密着している状態で図2の「B」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。図5の(B)に示すように、この部分では、下側のリング片6には合口部10が形成されているが、上側のリング片5は合口部9以外の部分でリング溝3の上面に密着し、かつそのリング片5の外周端部がボア2の内周面に密着しているから、結局、ピストン1とボア2との間の隙間は、上側のリング片5によって閉じられている。そのため、ブローバイガスが例えば図5の(B)に矢印の付いた曲線で示すように流れるとしても、そのブローバイガスは図5の(B)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。すなわち、この部分においても、燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路は生じていない。
【0039】
図5の(C)は、ピストンリング4がリング溝3の上面に密着している状態で図2の「C」の位置でピストンリング4を切断した場合の断面図である。この場合も、上側のリング片5が、ピストン1とボア2との間の隙間をリング溝3より上側で閉じるから、ブローバイガスが例えば図5の(C)に矢印の付いた曲線で示すように流れるとしても、そのブローバイガスは図5の(C)に「×」印を付した箇所に押しとどめられる。すなわち、図5の(B)に示す部分と同様に、燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路は生じていない。
【0040】
上述したように、内周リング8は、外周リング7に設けられている合口部9,10を、内周側から閉じるように機能する。上述した実施形態では、1本の内周リング8によって上下2つの合口部9,10を閉じるように構成されているが、本発明はそのような構成に限らないのであって、内周リング8は、外周リング7と同様に、幅方向(各リング片5,6の重ね合わせ方向)に重ねた2本(複数本)のリング片によって構成してもよい。図6はその例を示しており、外周リング7を構成している各リング片5,6の内周側に、それぞれのリング片5,6に対応した内周リング片12,13が設けられている。これらの内周リング片12,13は本発明の実施形態における第2リング片に相当し、上述した内周リング8をその幅方向の中央部で二分割したものであり、したがってこれらの内周リング片12,13は、特には図示しないが、合口部を備えている。
【0041】
図6の(A)に示す実施形態における内周リング片12,13は、通常状態においては幅方向で互いに密着し、またそれぞれに対応する外周側のリング片5,6の内周面に密着している。したがって、各内周リング片12,13が互いに密着して一体となって動作している状態では、前述した図2ないし図5に示す実施形態と同様に作用して、ガス流路が生じることがなく、ブローバイガスの漏洩を回避もしくは低減することができる。
【0042】
なお、図6の(A)に示す構成では、ピストンリング4がリング溝3の上面に接触している場合、シリンダの内圧(ガス圧)が、上側のリング片5における合口部9において上側の内周リング片12を撓ませるように作用する。その状態を図6の(B)に示してある。そのガス圧が大きいと、内周リング片12の一部が内径を減じる方向に変形することがある。図6の(C)はそのような上側の内周リング片12の一部が、下側のリング片6における合口部10の近い箇所で生じている状態を示している。この状態では、上側の内周リング片12が上側のリング片5の内周面から離隔し、両者の間に隙間が生じる。しかしながら、内周リング8は上下に分離している内周リング片12,13によって構成されているから、上側の内周リング片12の変形が下側の内周リング片13に及ぶことがなく、下側の内周リング片13は、下側のリング片6の内周面に密着し、その合口部10を閉じている。このように、上側の内周リング片12がガス圧で変形したとしても、燃焼室とクランク室とを連通させるガス流路が生じないので、ブローバイガスの漏洩を効果的に防止もしくは抑制することができる。
【0043】
なお、内周リング8を幅方向(上下方向)に分けたことによる特有の作用は、上述したように、ピストンリング4がリング溝3の上面に張り付いた場合に生じる。したがって、ピストンリング4がリング溝3の上面に張り付くことがないエンジンもしくは張り付くことの少ないエンジンにおいては、内周リング8を下側のリング片6のみに対応させて設けてもよい。その一例を図7に部分的な断面図として示してある。なお、上側リング片5の厚さ(半径方向に測った寸法)は、下側のリング片6の厚さ以上、好ましくは下側のリング片6の厚さより大きい。これは、下側のリング片6における合口部10を、上側のリング片5によって確実に覆うためである。
【0044】
図7に示す構成では、ピストンリング4とリング溝3の上面との間に隙間が空いており、また上側のリング片5はその合口部9で切り開かれており、さらに下側のリング片6に対応させて設けている内周リング8はその合口部11で切り開かれている。したがって、燃焼室あるいはピストン1とボア2との間の隙間は、リング溝3の内部に連通している。しかしながら、クランク室に連通している下側のリング片6における合口部10は、その内周面に内周リング8が密着していることによりこの内周リング8によってリング溝3の内部に対しては閉じられている。すなわち、燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路は生じていないので、上述した図3図6に示す例と同様に、ブローバイガスの漏洩を防止もしくは抑制することができる。
【0045】
本発明の実施形態におけるピストンリング4は、従来知られているピストンリングと同様に、内径を増大させるように弾性的に変形させ、その状態でピストン1の外周側に嵌め込み、その後、自らの弾性力で内径を縮小させてリング溝3の内部に収める。このような組み付け操作を行う場合、本発明の実施形態におけるピストンリング4にあっては、外周リング7および内周リング8などを構成する複数のリング片を一体にしてピストン1に組み付けることになるので、各リング片がバラバラにならないように構成することが好ましい。そのような構成の一例を図8に示してあり、ここに示す例では、合口部9,10,11が互いに周方向にずれて位置するように組み付けた各リング片5,6および内周リング8が、それらの合口部9,10,11から外れた箇所Pで接合されている。その接合は、溶接、接着剤による接着などの他に、リング溝3への組み付け後に外れる紐などによる結束であってもよく、さらには接着剤は時間の経過と共に溶融もしくは消失するタイプのものであってもよい。またさらに、互いに嵌合するディンプルと突起とを接合手段として採用することもできる。
【0046】
ところで、上述した内周リング8や内周リング片12,13は自らの弾性力で拡張しようとするので、内周リング8や内周リング片12,13と外周リング7との間に半径方向の力が作用する。本発明の実施形態ではその半径方向力を、より有効に利用するように構成することができる。その例を説明すると、図9に示す例は、内周リング8による半径方向の力によって外周リング7をリング溝3の下面に押し付けるように構成した例である。ここに示す内周リング8の外周面は、上側ほど外径が大きくなる傾斜面8aになっており、これに対して上下にリング片5,6を重ねた外周リング7の内周面は、内周リング8の外周面に対応させて、上側ほど内径が大きくなる傾斜面7aになっている。したがって、内周リング8の外周面と外周リング7の内周面との間では、内周リング8が半径方向で外側に拡張しようとする力に基づいて下向きの分力が生じ、その分力によって外周リング7を図9の(A)に示すようにリング溝3の下面に押し付けることができる。なお、図9の(B)に示すように、内周リング8の内周側に、拡張する方向に弾性力を生じさせるスプリングSPを設けてもよい。
【0047】
図10の(A)ないし(D)は、外周リング7を構成している各リング片5,6を幅方向に拘束するように構成した例を示している。図10の(A)に示す内周リング8の外周部には、幅方向(上下方向)での中央部が最も窪んだ断面V字状の凹部8bが形成されている。これに対して、外周リング7を構成している上側のリング片5の内周部には、上面側が下面に向けて次第に下降傾斜している断面直角三角形状の凸部5aが形成され、またその凸部5aと対称形状の凸部6aが下側のリング片6の内周部に形成されている。すなわち、下側のリング片6における凸部6aは、下面側が上面に向けて次第に上昇傾斜している断面直角三角形状をなしている。これらの凸部5a,6aは、両者合わさって、内周リング8の凹部8bの断面形状とほぼ同じ断面形状の凸部となって凹部8bの内部に挿入されている。
【0048】
内周リング8には、外径を拡張する方向に弾性力が作用しているから、外周リング7の各リング片5,6による凸部5a,6aと内周リング8における凹部8bとの間に互いに強く嵌合する方向の力が作用する。これに対してそれらの接触面はその形状に応じた傾斜面になっているので、結局,凸部5a,6aと凹部8bとの間には、凸部5a,6aを幅方向(上下方向)に締め付ける力が作用し、各リング片5,6は幅方向(上下方向)に結束させられる。
【0049】
図10の(B)に示す例は、各リング片5,6を個別に内周リング8によって幅方向に拘束するように構成した例である。各リング片5,6の内周部には、幅方向での中央部に向けて先細りになる断面三角形状の凸部5b,6bが形成されている。また、内周リング8の外周部には、それらの凸部5b,6bに対応しかつそれらの凸部5b,6bの断面形状と同じ断面形状の凹部8c,8dが形成されている。したがって、それらの凹部8c,8dに各リング片5,6の凸部5b,6bが嵌合することにより、各リング片5,6が内周リング8によって幅方向に拘束される。
【0050】
さらに、図10の(C)は、上記の図10の(B)に示す構成の内周リング8を上下に二分割した例である。また、図10の(D)に示す例は、上記の図10の(C)に示す構成に加えて、第2の内周リング18を内周リング8の内周側に設けるとともに、半径方向で外側に向けて押圧する弾性力を発生するスプリング19を、その第2の内周リング18の内側に配置した例である。その第2の内周リング18と上下に二分割された内周リング8のそれぞれとは、V字状の凹部およびその凹部に嵌合する突部とを介して接触し、したがって、上下方向に対して拘束した構成になっている。
【0051】
なお、上述したいずれの実施形態においても、各リング片5,6同士がその幅方向に密着することにより、両者の間のガス通路が生じることを回避している。同様に、下側のリング片6や内周リング8がリング溝3の下面に密着し、また上側のリング片5や内周リング8がリング溝3の上面に密着することにより、ガス通路が生じることを回避している。したがって本発明における実施形態では、各リング片5,6ならびに内周リング8の上面および下面、各リング片5,6の内周面ならびに内周リング8の外周面など、相手部材に密着する箇所に樹脂コーティングを施すことが好ましい。
【0052】
上述した各実施形態における内周リング8は、外周リング7の内周面に密着することにより、各リング片5,6に設けられている合口部9,10を閉じるように機能する部材である。したがって、本発明の実施形態において外周リング7の内周面に密着させる部材は、上述した合口部のあるリング状部材に替えて各合口部9,10に対応させて設けた円弧状片8A,8Bであってもよい。円弧状片8A,8Bは本発明における閉塞部材あるいは内周側湾曲部材に相当し、その一例を図11に示してある。外周リング7は、合口部9のある上側のリング片5と、これと同様の構造であって、合口部10のある下側のリング片6とを幅方向に密着させて重ね合わせることにより構成されている。
【0053】
その上側のリング片5における合口部9の内周側には、その合口部9を中心にして周方向での両側に延びている円弧状片8Aが配置されており、この円弧状片8Aは上側のリング片5の内周面に密着してその合口部9を閉じている。また、この円弧状片8Aは、合口部9を挟んで円周方向での両側のうちの一方で、上側のリング片5に接合されている。その接合部を符号P1で示してある。上側のリング片5がその外径を拡大・縮小するように弾性変形することを可能にし、また円弧状片8Aにおける非接合側の端部がリング片5を内周側から半径方向で外側に押圧して両者が密着するようにするためである。
【0054】
同様に、下側のリング片6における合口部10の内周側には、その合口部10を中心にして周方向での両側に延びている円弧状片8Bが配置されており、この円弧状片8Bは下側のリング片6の内周面に密着してその合口部10を閉じている。また、この円弧状片8Bは、合口部10を挟んで円周方向での両側のうちの一方で、下側のリング片6に接合されている。その接合部を符号P2で示してある。下側のリング片6がその外径を拡大・縮小するように弾性変形することを可能にし、また円弧状片8Bにおける非接合側の端部がリング片6を内周側から半径方向で外側に押圧して両者が密着するようにするためである。
【0055】
本発明の更に他の実施形態について説明する。本発明の実施形態における閉塞部材は、上述した内周リング8や円弧状片8A,8Bのように、外周リング7における合口部9,10を半径方向において閉じるように機能する部材であるから、外周リング7の内周面に密着して合口部9,10を閉じる替わりに、合口部9,10に嵌め込まれて閉じるように構成された部材であってもよい。その例を図12の(A)および(B)に示してある。
【0056】
図12の(A)は、上側のリング片5における合口部9、およびその合口部9に嵌め込まれたプラグ片14を模式的に示している。周方向で互いに対向してその合口部9を構成している各端面9a,9aは本発明の実施形態における第1端面に相当し、その間隔(リングギャップ)が半径方向の外側で次第に大きくなる形状とされている。すなわち、半径方向もしくは周方向に対して傾斜し、半径方向で外側にいわゆる開いた形状となっている。
【0057】
この合口部9に嵌め込まれたプラグ片14は本発明の実施形態における第1プラグ片に相当し、各端面9a,9aに気密状態で接触して合口部9を埋めるように構成されている。図12の(A)に示す例では、プラグ片14は、ほぼ扇状をなし、かつリング片5と同一幅の板片として構成されている。なお、プラグ片14における前記各端面9a,9aに接触する面は、各端面9a,9aと同様の平面であってもよいが、気密状態を維持して接触できる凸曲面であってもよい。このプラグ片14は合口部9の半径方向での外側から内側に向けて嵌め込まれている。そして、各端面9a,9aが上述したいわゆる傾斜面となっているので、リング片5の外径の変化に応じて合口部9のリングギャップが変化すると、プラグ片14が半径方向で内側あるいは外側に移動して、各端面9a,9aの間を常時、気密状態に埋めるようになっている。また、プラグ片14の周長(周方向での長さ)は、外周側で長く、内周側で短くなっている。言い換えれば、ピストンリング4を前述したリング溝3の内部に配置した状態で、プラグ片14の外周側の受圧面積が内周側の受圧面積より広く、したがってガス圧によってプラグ片14が半径方向で内側に押されるようになっている。
【0058】
図12の(B)は、下側のリング片6における合口部10、およびこの合口部10に嵌め込まれるプラグ片15を模式的に示しており、これらの構造は、図12の(A)に示す構造とは反対に、半径方向で外側に向けてプラグ片15を押して合口部10を、半径方向に向けて気密状態に閉じるようになっている。具体的に説明すると、周方向で互いに対向して合口部10を構成している各端面10a,10aは本発明の実施形態における第2端面に相当し、その間隔(リングギャップ)が半径方向の外側で次第に小さくなる形状とされている。すなわち、半径方向もしくは周方向に対して傾斜し、半径方向で内側にいわゆる開いた形状となっている。
【0059】
この合口部10に嵌め込まれたプラグ片15は本発明の実施形態における第2プラグ片に相当し、各端面10a,10aに気密状態に接触して合口部10を埋めるように構成されている。図12の(B)に示す例では、プラグ片15は、ほぼ扇状をなし、かつリング片6と同一幅の板片として構成されている。なお、プラグ片15における前記各端面10a,10aに接触する面は、各端面10a,10aと同様の平面であってもよいが、気密状態を維持して接触できる凸曲面であってもよい。このプラグ片15は合口部10の半径方向での内側から外側に向けて嵌め込まれている。そして、各端面10a,10aが上述したいわゆる傾斜面となっているので、リング片6の外径の変化に応じて合口部10のリングギャップが変化すると、プラグ片15が半径方向で内側あるいは外側に移動して、各端面10a,10aの間を常時、気密状態に埋めるようになっている。また、プラグ片15の周長(周方向での長さ)は、内周側で長く、外周側で短くなっている。言い換えれば、ピストンリング4を前述したリング溝3の内部に配置した状態で、プラグ片15の内周側の受圧面積が外周側の受圧面積より広く、したがってガス圧によってプラグ片14が半径方向で外側に押されるようになっている。
【0060】
上記のプラグ片14,15を備えた各リング片5,6は、それぞれの合口部9,10が周方向にずれた状態で密着状態に重ね合わされてリング溝3の内部に配置される。ピストンリング4がリング溝3の下面に密着している状態では、ピストンリング4の上面とリング溝3の上面との間に隙間が空いており、燃焼室とリング溝3の内部とが連通している。その場合、上側のリング片5におけるプラグ片14は、外周側の受圧面積が内周側の受圧面積より広いので、合口部9に対して半径方向で内側に向けて押圧される。そのため、プラグ片14は合口部9の端面9a,9aに密着し、合口部9をピストンリング4の半径方向に対して気密状態に閉じる。また、プラグ片14が合口部9に半径方向で深く押し込まれて、その外周面とボア2の内周面との間に隙間が生じることがある。しかしながら、この合口部9の下側には下側のリング片6が密着状態で配置されているから、その隙間は、上下方向(ピストンリング4の幅方向)において密閉されている。すなわち、合口部9は、ピストンリング4の上下両側、すなわち燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路とはならない。
【0061】
また一方、下側のリング片6においては、図12の(B)に示すように、プラグ片15が合口部10にその内周側から外周側に向けて押し込まれている。プラグ片15は、合口部10を閉じるためのものであって、ボア2の内周面との間の隙間を閉じるためのものではないから、図12の(B)に示すように、プラグ片15の外周側に僅かな隙間が空き、その隙間がクランク室に連通している。したがって、プラグ片15の内周面には、燃焼室のガス圧が作用し、プラグ片15は半径方向で外側に押圧される。そのため、プラグ片15は合口部10の端面10a,10aに密着し、合口部10をピストンリング4の半径方向に対して気密状態に閉じる。また、下側のリング片6およびプラグ片15は、リング溝3の下面に密着していてリング溝3の内部をクランク室に対して密閉している。すなわち、合口部10は、ピストンリング4の上下両側、すなわち燃焼室とクランク室とを連通させるガス通路とはならない。
【0062】
なお、エンジンを運転している状態では、燃焼室のガス圧が高くなって、各プラグ片14,15をそれぞれの合口部9,10の端面9a,10aに押し付けておくことができる。これに対して、エンジンを運転していない状態では、各プラグ片14,15にガス圧が作用しないので、各プラグ片14,15が合口部9,10の内部で移動し、衝突音もしくは打撃音を発生する可能性がある。このような不都合を回避するために、各プラグ片14,15をそれぞれの合口部9,10に押し込む方向に力を作用させる弾性部材を用いることができる。その弾性部材の例を図12の(A)および(B)にそれぞれ記載してある。
【0063】
上側のリング片5におけるプラグ片14については、中央部をプラグ片14の内周面に接合し、かつその左右両側をリング片5の内周面に接触させた波状に湾曲している板バネ16が設けられている。その板バネ16は本発明における第1押圧部材に相当し、左右の両側をリング片5の内側に弾性的に変位させた状態でリング片5の内側に組み付けられており、したがってプラグ片14を接合している中央部が半径方向で内側に変位する方向の弾性力が生じ、その弾性力によってプラグ片14は、合口部9の内部で半径方向で内側に向けて引っ張られ、各端面9a,9aに密着している。
【0064】
同様に、下側のリング片6におけるプラグ片15については、中央部をプラグ片15の内周面に接触させ、かつその左右両側をリング片6の内周面に接合して波状に湾曲している板バネ17が設けられている。その板バネ17は本発明の実施形態における第2押圧部材に相当し、中央部をリング片6の内側に弾性的に変位させた状態でリング片6の内側に組み付けられており、したがってプラグ片15に接触している中央部が半径方向で外側に変位する方向の弾性力が生じ、その弾性力によってプラグ片15は、合口部10の内部で半径方向で外側に向けて押され、各端面10a,10aに密着している。
【0065】
ここで、本発明の実施形態における閉塞部材に相当するプラグ片について更に説明すると、プラグ片は、合口部を構成している両端面の間に挟み込まれてリングギャップを埋め、合口部を半径方向において閉じるように構成されていればよい。したがってその形状は設計上、適宜に決めてよく、合口部の開口形状に相似の形状以外に、例えば、図13に示すように、円柱状であってもよい。なお、その上下いずれかに隙間が生じることを回避するために、プラグ片は、リング片の幅と同じ幅(上下方向での寸法)とする。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、外周リングは複数のリング片を重ね合わせた構成であればよいので、二段に重ね合わせた構成に限定されない。三段以上に重ね合わせた構成とする場合、最も上側のリング片の合口部とその直下のリング片における合口部とを周方向に互いにずらせばよく、必ずしも全ての合口部を周方向にずらさなくてもよい場合がある。また、本発明では、各実施形態で説明した構成を適宜に組み合わせて実施することができるであり、例えば、上側のリング片に対してプラグ片を採用し、かつ下側のリング片に対して内周リングを設け、あるいはその反対に上側のリング片に対して内周リングを設け、かつ下側のリング片に対してプラグ片を採用してもよい。さらに、本発明は、主としてコンプレッションリングに適用することができ、またトップリングだけでなく他のコンプレッションリングにも適用できる。そして、複数のピストンリングのうち、トップリングのみを本発明に係る構成とし、他のピストンリングはこれとは異なる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 ピストン
2 ボア
3 リング溝
4 ピストンリング
5,6 リング片
5a,6a 凸部
5b,6b 凸部
7 外周リング
7a 傾斜面
8 内周リング(閉塞部材)
8A,8B 円弧状片
8a 傾斜面
8b,8c,8d 凹部
9,10,11 合口部
9a,10a 端面
12,13 内周リング片
14,15 プラグ片
16,17 板バネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13