IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図1
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図2
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図3
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図4
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図5
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図6
  • 特開-エンジンの遮熱層形成方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191678
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】エンジンの遮熱層形成方法
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/10 20060101AFI20221221BHJP
   F02F 3/12 20060101ALI20221221BHJP
   F02F 3/14 20060101ALI20221221BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20221221BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221221BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20221221BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20221221BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20221221BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221221BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20221221BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221221BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221221BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20221221BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20221221BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20221221BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F02F3/10 B
F02F3/12
F02F3/14
F02F1/00 F
F02F1/00 G
B82Y40/00
F16L59/02
C01B33/18 Z
C09D183/04
C09D7/61
B05D3/02 Z
B05D7/14 L
B05D7/24 302Y
C25D11/04 E
C25D11/16 301
C23C26/00 C
C23C28/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100048
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】山本 一陽
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】角島 信司
(72)【発明者】
【氏名】古賀 広之
【テーマコード(参考)】
3G024
3H036
4D075
4G072
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
3G024AA02
3G024AA22
3G024BA12
3G024FA10
3G024GA16
3G024GA18
3G024GA21
3G024HA11
3G024HA13
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB23
3H036AC06
4D075BB04X
4D075BB26Z
4D075BB28Z
4D075BB67X
4D075BB93Z
4D075BB95Z
4D075CA18
4D075DA19
4D075DA23
4D075DB07
4D075DC13
4D075EA07
4D075EB43
4D075EC02
4D075EC03
4D075EC24
4D075EC53
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB16
4G072DD03
4G072DD04
4G072DD05
4G072DD06
4G072DD07
4G072GG02
4G072QQ07
4G072UU07
4G072UU30
4J038DL031
4J038HA216
4J038HA446
4J038KA08
4J038KA21
4J038MA14
4J038NA13
4J038PA19
4J038PB07
4J038PC02
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC12
4K044CA07
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】原料被膜を十分に硬化させて安定した遮熱層を形成しつつ、当該遮熱層の内部応力を軽減する。
【解決手段】本発明のエンジンの遮熱層形成方法は、遮熱対象面にシリコーン系樹脂を含む原料被膜を塗布する塗布工程と、塗布された原料被膜を加熱して硬化させることにより遮熱層を形成する焼成工程とを含む。焼成工程では、原料被膜に対する加熱温度を周期的に増減させるとともに、当該加熱温度の低下時の変化率(Rb)を上昇時の変化率(Ra)よりも小さくする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの遮熱対象面に遮熱層を形成する方法であって、
前記遮熱対象面にシリコーン系樹脂を含む原料被膜を塗布する塗布工程と、
塗布された前記原料被膜を加熱して硬化させることにより前記遮熱層を形成する焼成工程とを含み、
前記焼成工程では、前記原料被膜に対する加熱温度を周期的に増減させるとともに、当該加熱温度の低下時の変化率を上昇時の変化率よりも小さくする、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの遮熱層形成方法において、
前記塗布工程の前に、前記遮熱対象面に表面改質処理を施す工程をさらに含む、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの遮熱層形成方法において、
前記遮熱対象面は、アルミニウム合金製の部品の一面であり、
前記表面改質処理としてアルマイト処理を行う、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンの遮熱層形成方法において、
前記塗布工程の前に、前記遮熱対象面に粗面化処理を施す工程をさらに含む、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンの遮熱層形成方法において、
前記遮熱対象面は、前記エンジンの燃焼室を規定する壁面である、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの遮熱層形成方法において、
前記塗布工程では、前記原料被膜として、シリコーン系樹脂の樹脂溶液に中空粒子およびナノ粒子が含有されたものを前記遮熱対象面に塗布する、ことを特徴とするエンジンの遮熱層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの遮熱対象面に遮熱層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの熱効率の向上等を目的として、エンジン部品の壁面を遮熱層で覆うことが提案されている。例えば、下記特許文献1には、シリコーン系の樹脂バインダに中空粒子およびナノ粒子が付加された遮熱層を、ピストン冠面を含む燃焼室壁面に形成することが開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1では、次のような手順で遮熱層を形成する例が開示されている。まず、遮熱層の原料として、シリコーン系樹脂を含む樹脂溶液に上記中空粒子およびナノ粒子が添加されたもの(以下、これを原料被膜という)が用意され、当該原料被膜がピストン冠面に塗布される。次に、塗布された原料被膜が加熱され、加熱により硬化した原料被膜が遮熱層として形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/213637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような遮熱層の形成方法において、原料被膜を十分に硬化させて安定した遮熱層を得るには、原料被膜の加熱時に十分な熱エネルギーを投入することが望ましい。ただし、本願発明者の研究によれば、遮熱層の安定化のために加熱温度をむやみに高くすると、遮熱層の内部応力が許容範囲を超えて増大するおそれがある。これは、原料被膜内のシリコーン分子の分子運動が非常に激しい状態で架橋反応が進むことが一因であると考えられる。内部応力の増大は、遮熱層と遮熱対象面との密着性をかえって弱めるので、これを避けるための対策が必要である。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、原料被膜を十分に硬化させて安定した遮熱層を形成しつつ、当該遮熱層の内部応力を軽減することが可能なエンジンの遮熱層形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンの遮熱対象面に遮熱層を形成する方法であって、前記遮熱対象面にシリコーン系樹脂を含む原料被膜を塗布する塗布工程と、塗布された前記原料被膜を加熱して硬化させることにより前記遮熱層を形成する焼成工程とを含み、前記焼成工程では、前記原料被膜に対する加熱温度を周期的に増減させるとともに、当該加熱温度の低下時の変化率を上昇時の変化率よりも小さくする、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、遮熱対象面に塗布された原料被膜を加熱する際にその加熱温度が周期的に増減されるので、加熱温度を一定にした場合と比べて、熱エネルギーを同等にしつつ加熱温度の最大値を高くすることができる。これにより、原料被膜に含まれるシリコーン系樹脂の架橋反応が促進されるので、原料被膜の硬化割合を高めることができ、硬化後の原料被膜からなる遮熱層の硬度もしくは強度を向上させることができる。
【0009】
ただし、加熱温度を増減させる際の変化率が一定であると、遮熱層の内部応力が有意に増大するおそれがある。すなわち、加熱温度の周期変化は、上述のとおり、加熱温度の最大値を高めること、ひいては原料被膜内の架橋反応を促進することにつながる。しかしながら、加熱温度の上昇時と低下時とで温度変化率が同一であると、一旦最大値まで上昇した加熱温度を漸減させる期間が十分に確保されず、原料被膜の温度上昇が高い頻度で繰り返される結果、原料被膜の内部温度が過度に上昇するおそれがある。このような過度な温度上昇は、原料被膜の硬化割合を高めるメリットをもたらす一方で、硬化後の原料被膜からなる遮熱層の内部に生じる残留応力つまり内部応力を増大させるデメリットをもたらす可能性がある。すなわち、原料被膜の温度が過度に上昇することにより、分子運動が非常に激しい状態で架橋反応が進行するようになり、このことが遮熱層の内部応力を増大させる可能性がある。
【0010】
これに対し、本発明では、加熱温度の低下時の変化率が上昇時の変化率よりも小さくされるので、前記のような事情による内部応力の増大を抑制することができる。すなわち、当該変化率の相違により、加熱温度が最大値に向けて上昇している期間よりも、加熱温度が最小値に向けて低下している期間が長く確保されるので、原料被膜の内部温度の過度な上昇を抑えることができる。これにより、加熱温度の周期変化による上述した効果(原料被膜の硬化を促進する効果)を享受しながら、遮熱層の内部応力を効果的に軽減することができ、遮熱層と遮熱対象面との密着強度を高めることができる。
【0011】
好ましくは、前記遮熱層形成方法は、前記塗布工程の前に、前記遮熱対象面に表面改質処理を施す工程をさらに含む(請求項2)。
【0012】
この態様では、表面改質処理により改質された遮熱対象面に原料被膜が塗布されて焼成されることにより、硬化後の原料被膜からなる遮熱層を遮熱対象面に強固に密着させることができ、遮熱層の安定性を向上させることができる。
【0013】
前記遮熱対象面は、アルミニウム合金製の部品の一面とすることができる。この場合、前記表面改質処理としてアルマイト処理を行うことが好ましい(請求項3)。
【0014】
この態様では、アルマイト処理により遮熱対象面に酸化被膜が形成されるので、その後に遮熱対象面に塗布される原料被膜の加熱により、当該原料被膜に含まれるシリコーン系樹脂の有機基が酸化被膜の表面のOH基と結合する。これにより、硬化後の原料被膜からなる遮熱層を遮熱対象面に強固に密着させることができ、遮熱層の安定性を向上させることができる。
【0015】
好ましくは、前記遮熱層形成方法は、前記塗布工程の前に、前記遮熱対象面に粗面化処理を施す工程をさらに含む(請求項4)。
【0016】
この態様では、粗面化処理により遮熱対象面に微細な凹凸が形成される(表面粗さが増大する)ので、当該微細な凹凸に原料被膜が入り込んだ状態で原料被膜が焼成される結果、遮熱層と遮熱対象面との密着性を高めることができ、遮熱層の安定性を向上させることができる。
【0017】
好ましくは、前記遮熱対象面は、前記エンジンの燃焼室を規定する壁面である(請求項5)。
【0018】
この態様では、燃焼室で燃焼した混合気の熱エネルギーが燃焼室壁面を通じて外部に放出されることが遮熱層により抑制される。これにより、当該熱エネルギーの放出により生じる損失つまり冷却損失が低減されるので、エンジンの燃費性能を効果的に向上させることができる。
【0019】
好ましくは、前記塗布工程では、前記原料被膜として、シリコーン系樹脂の樹脂溶液に中空粒子およびナノ粒子が含有されたものを前記遮熱対象面に塗布する(請求項6)。
【0020】
この態様では、塗布された原料被膜を焼成工程で焼成することにより、シリコーン系の樹脂バインダと中空粒子とナノ粒子とを含んだ遮熱層を形成することができる。この場合、樹脂バインダの分子運動がナノ粒子により抑制されるので、樹脂バインダの熱劣化を抑制することができ、遮熱層の耐熱性を向上させることができる。また、内部が空洞の中空粒子が遮熱層に含有されるので、遮熱層の熱伝導率をより低下させることができ、遮熱層による遮熱性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のエンジンの遮熱層形成方法によれば、原料被膜を十分に硬化させて安定した遮熱層を形成しつつ、当該遮熱層の内部応力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る遮熱層形成方法が適用されるエンジンの断面図である。
図2】上記エンジンのピストンの上部構造を示す断面図である。
図3】上記ピストンの冠面に形成された遮熱層の内部構造を示す拡大断面図である。
図4】上記遮熱層を形成する手順を示すフローチャートである。
図5】上記遮熱層の原料である原料被膜をピストンの冠面に塗布する様子を示す断面図である。
図6】上記原料被膜を焼成する際の加熱温度の時間変化を示すグラフである。
図7】上記原料被膜の硬化が加熱により進行する様子を示すグラフであり、(a)は加熱温度の時間変化を、(b)は硬化割合の時間変化をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[エンジンの全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る遮熱層形成方法が適用されるエンジン1の断面図である。本図に示されるエンジン1は、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンであって、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、およびピストン5を備える。なお、本実施形態では、シリンダブロック3からシリンダヘッド4に向かう側を上、その逆を下として扱うが、これは説明の便宜のためであって、エンジンの据付姿勢を限定する趣旨ではない。
【0024】
シリンダブロック3は、円筒形の気筒2を内部に有する中空部材である。シリンダヘッド4は、気筒2を上から閉塞する部材であり、図外のガスケット等を介してシリンダブロック3上に固定されている。ピストン5は、気筒2の径(ボア径)よりもわずかに小さい外径を有する断面円形の部材であり、気筒2の内部に往復動可能に収容されている。なお、車両に搭載される本実施形態のエンジン1は、典型的には複数の気筒2を有する多気筒エンジンである。この場合、エンジン1は、気筒2と同数のピストン5を備えるが、各ピストン5および各気筒2の構成に特に差異はなく、以下の説明は全てのピストン5および気筒2について共通のものである。
【0025】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6は、シリンダヘッド4の下面と、気筒2の側周面(シリンダーライナ)と、ピストン5の冠面15(上面)とにより画成された空間である。
【0026】
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリンを含有する燃料)を噴射するインジェクタ7が取り付けられている。インジェクタ7の先端部には噴孔が形成され、当該噴孔を通じて燃焼室6に噴射された燃料が空気と混合されて混合気が形成される。図示を省略するが、シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火する点火プラグが取り付けられる。この点火プラグの点火を受けて混合気が燃焼すると、当該燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復動する。このピストン5の往復動は、図外のクランク機構を介してエンジン1の出力軸(クランク軸)に伝達され、当該出力軸を回転させる。
【0027】
シリンダヘッド4は、燃焼室6に連通する吸気ポート8および排気ポート9を有する。吸気ポート8は、図外の吸気通路から導入される吸気を燃焼室6に導くためのポートである。排気ポート9は、燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)を図外の排気通路に導出するためのポートである。シリンダヘッド4には、吸気ポート8の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁10と、排気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁11とが組み付けられている。吸気弁10および排気弁11の各傘部の底面は、シリンダヘッド4の下面と共に燃焼室6の天井面を規定している。
【0028】
[ピストンの構造]
図2は、ピストン5の上部構造を示す断面図である。本図に示すように、ピストン5の冠面15(以下、ピストン冠面15ともいう)における中央部を含む領域には、キャビティCが形成されている。キャビティCは、ピストン冠面15を部分的に下方(シリンダヘッド4と反対側)に凹ませた凹部であり、インジェクタ7(図1)の先端部と対向する位置に形成されている。言い換えると、ピストン冠面15は、キャビティCを規定するキャビティ面15aと、キャビティ面15aの外側に形成された平坦なベース面15bとを有する。
【0029】
ピストン冠面15には遮熱層20が形成されている。遮熱層20は、一定の厚みを有する薄肉の層であり、キャビティ面15aおよびベース面15bの双方を連続的に覆うように形成されている。遮熱層20の厚みは、好ましくは20μm以上150μm以下、より好ましくは40μm以上100μm以下である。なお、遮熱層20が形成されるピストン冠面15は、本発明における「遮熱対象面」に相当する。
【0030】
遮熱層20は、ピストン5を構成する金属材料(母材)よりも熱伝導率が大幅に低い材料により構成されている。具体的に、本実施形態では、ピストン5がアルミニウム合金により構成されるとともに、遮熱層20がシリコーン系樹脂を含む材料により構成されている。詳しくは後述するが、遮熱層20は、ピストン冠面15に塗布されるペースト状の原料(原料被膜20A)を焼成することでピストン冠面15に固着される。
【0031】
図3は、遮熱層20の内部構造を示す拡大断面図である。本図に示すように、遮熱層20は、樹脂バインダ21と、樹脂バインダ21の内部に保持された中空粒子22およびナノ粒子23とを含む。
【0032】
樹脂バインダ21は、遮熱層20の母材(マトリックス)を構成する樹脂材であり、主に耐熱性のシリコーン系樹脂により構成される。シリコーン系樹脂としては、メチルシリコーン樹脂やメチルフェニルシリコーン樹脂に代表される、分岐度の高い3次元ポリマーからなるシリコーン樹脂が好適である。中でも、ポリアルキルフェニルシロキサン(ポリアルキルフェニルシリコーン)が好適である。
【0033】
中空粒子22は、内部に空洞を有する無機系の粒子である。中空粒子22としては、Si系酸化物成分(例えばシリカ)およびAl系酸化物成分(例えばアルミナ)の少なくとも一方を含有するセラミック系中空粒子を採用することが好ましい。例えば、ガラスバルーン、ガラスバブル、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、アルミノシリケートバルーンが好適である。中空粒子22の粒径は、遮熱層20の膜厚(20~150μm)よりも十分に小さい。具体的に、中空粒子22の平均粒径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。また、中空粒子22の中空率は、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。
【0034】
ナノ粒子23としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア等の無機化合物よりなる無機ナノ粒子、および、Ti,Zr,Al等の金属からなる金属ナノ粒子の少なくとも一方を採用することができる。中でも、表面がフェニル基で修飾されたシリカナノ粒子が好適である。ナノ粒子23の粒径は、中空粒子22の粒径(平均30μm以下)よりも十分に小さい。具体的に、ナノ粒子23の平均粒径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは1nm以上200nm以下、さらに好ましくは1nm以上120nm以下である。なお、ナノ粒子23は中空であっても中実であってもよい。
【0035】
中空粒子22の配合量は、遮熱層20全体(樹脂バインダ21、中空粒子22、およびナノ粒子23の総量)に占める中空粒子22の割合が30体積%以上60体積%以下となるように調整される。また、ナノ粒子23の配合量は、樹脂バインダ21とナノ粒子23との総量に占めるナノ粒子の割合が10体積%以上55体積%以下となるように調整される。
【0036】
上記のような構成の遮熱層20をピストン冠面15に形成することは、冷却損失の低減、ひいてはエンジンの燃費性能の改善につながる。すなわち、遮熱層20は、燃焼室6で燃焼した混合気の熱エネルギーがピストン冠面15を通じて外部に放出されることを抑制し、当該熱エネルギーの放出により生じる損失つまり冷却損失を低減する作用をもたらす。これにより、熱エネルギーが仕事に変換される割合である熱効率の向上、換言すればエンジンの燃費性能の改善が見込まれる。
【0037】
[遮熱層の形成方法]
次に、ピストン冠面15に遮熱層20を形成する方法について詳しく説明する。遮熱層20は、図4に示す工程S1~S4を順に経ることで形成される。なお、この図4に示す方法が実施される前提として、ピストン5の成形および熱処理は既に完了しているものとする。
【0038】
図4の方法が開始されると、まず、ピストン冠面15を粗面化する粗面化工程S1が実施される。具体的に、本実施形態では、ピストン冠面15を粗面化する処理(粗面化処理)として、ピストン冠面15に微小な投射材を衝突させるブラスト処理が行われる。これにより、ピストン冠面15に付着していた汚れや油分などが除去されるとともに、ピストン冠面15に微細な凹凸が形成されてピストン冠面15の表面粗さが増大する。
【0039】
上記粗面化工程S1の後、ピストン冠面15を表面改質する表面改質工程S2が実施される。具体的に、本実施形態では、ピストン冠面15を表面改質する処理(表面改質処理)として、ピストン5を電解液中で通電するアルマイト処理(陽極酸化処理)が行われる。これにより、ピストン冠面15が強制的に酸化されてピストン冠面15に酸化被膜が形成される。
【0040】
上記表面改質工程S2の後、図5に示される原料被膜20Aをピストン冠面15に塗布する塗布工程S3が実施される。原料被膜20Aは、上述した遮熱層20の原料として用意されたペースト状の塗布物である。具体的に、原料被膜20Aは、樹脂バインダ21の原料である反応性シリコーン系樹脂をトルエンやキシレン等の溶媒で希釈した樹脂溶液と、当該樹脂溶液に添加された中空粒子22およびナノ粒子23とを含む。このような原料被膜20Aを調製する際、溶媒の添加量は、原料被膜20Aの粘度がピストン冠面15への塗布(後述するスプレーガンGを用いた塗布)に適した粘度になるように調整される。また、中空粒子22およびナノ粒子23を上記樹脂溶液に添加した後、その樹脂溶液は、中空粒子22およびナノ粒子23が均一に分散するまで十分に撹拌される。
【0041】
図5に示すように、ピストン冠面15に原料被膜20Aを塗布する際には、スプレーガンGが用いられる。すなわち、スプレーガンGから原料被膜20Aをスプレー状に噴射することにより、当該原料被膜20Aをまんべんなくピストン冠面15(キャビティ面15aおよびベース面15b)に吹き付ける。これにより、略一定の厚みを有する原料被膜20Aの層をピストン冠面15に形成する。
【0042】
上記塗布工程S3の後、原料被膜20Aを加熱して硬化させる焼成工程S4が実施される。具体的に、焼成工程S4では、冠面15に原料被膜20Aが塗布された状態のピストン5が電気炉に投入され、この電気炉に備わるヒータからの入熱によって原料被膜20Aが加熱される。このような加熱処理を受けて、原料被膜20Aの温度は、当該原料被膜20Aに含まれる反応性シリコーン系樹脂の架橋が進行する温度まで上昇する。これにより、ペースト状の原料被膜20Aが硬化し、その硬化後の原料被膜20Aが遮熱層20としてピストン冠面15に形成される。
【0043】
図6は、上記焼成工程S4での加熱温度の時間変化を示すグラフである。なお、ここでいう加熱温度とは、原料被膜20Aを加熱する熱源(ヒータ)からの入熱温度のことであり、電気炉の内部温度と等価である。本図に示すように、焼成工程S4では、加熱温度を周期的に増減させつつ原料被膜20Aを加熱する処理が行われる。このような周期的な加熱は、電気炉内のヒータへの通電量を周期的に増減させることで実現される。
【0044】
図6では、加熱が開始される時点をt1、加熱が終了される時点をt2としている。加熱温度は、加熱開始時点t1の直後に大幅に上昇するとともに、加熱終了時点t2の直前に大幅に低下する。上述した加熱温度の周期的な増減は、これらの時期(つまり加熱期間の最初期/最終期)を除いた期間である実加熱期間Pに亘って継続的に行われる。すなわち、焼成工程S4では、加熱期間の大部分をなす実加熱期間Pに亘って加熱温度が比較的高い範囲で周期的に増減するように、上述した電気炉内のヒータが制御される。
【0045】
詳しくは、実加熱期間P中の加熱温度は、一定の振幅Aおよび周期Bをもって増減するように制御される。すなわち、温度増減の中心温度を基準温度Txとすると、実加熱期間P中の加熱温度は、基準温度Txに振幅Aの半分を足した最大値(Tx+A/2)と、基準温度Txから振幅Aの半分を減じた最小値(Tx-A/2)との間で繰り返し増減される。また、加熱温度の増減スピードは、1サイクル分の温度変化(つまり基準温度Txから最大値および最小値を経て再び基準温度Txに戻るという変化)が一定の周期Bの間に完了するように設定される。
【0046】
また、実加熱期間P中の加熱温度は、温度上昇時と低下時とで温度変化率が異なるように制御される。具体的に、加熱温度が上昇するときの単位時間あたりの温度変化量を上昇時変化率Ra、加熱温度が低下するときの単位時間あたりの温度変化量(絶対値)を低下時変化率Rbとすると、本実施形態では、低下時変化率Rbの方が上昇時変化率Raよりも小さくなるように加熱温度が制御される。このような変化率の相違を実現するため、本実施形態では、加熱温度が最大値(Tx+A/2)から最小値(Tx-A/2)まで低下するのに要する時間Δtbの方が、加熱温度が最小値(Tx-A/2)から最大値(Tx+A/2)まで上昇するのに要する時間Δtaよりも長くされる。これにより、振幅AをΔtbで除した値(=A/Δtb)で定義される低下時変化率Rbの方が、振幅AをΔtaで除した値(=A/Δta)で定義される上昇時変化率Raよりも小さくされる。
【0047】
焼成工程S4では、上記のような態様で増減される加熱温度で原料被膜20Aが加熱されることにより、原料被膜20Aに含有されるシリコーン分子どうしが結合する架橋反応が進行し、原料被膜20Aが硬化する。硬化後の原料被膜20Aは、所望の硬度(もしくは強度)をもった遮熱層20として形成され、ピストン冠面15に固着される。
【0048】
なお、焼成工程S4での具体的な温度条件は次のとおりである。実加熱期間P中に加熱温度を周期変化させる際の中心温度つまり基準温度Txは、100~140℃に設定することが好ましい。加熱温度の周期Bは、4~5minに設定することが好ましい。加熱温度の振幅Aは、30~50℃に設定することが好ましい。加熱温度の上昇時変化率Raは、40~60℃/minに設定することが好ましく、加熱温度の低下時変化率Rbは、上昇時変化率Raの1/6~1/4に設定することが好ましい。上昇時実加熱期間Pは、40~60minに設定することが好ましい。
【0049】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、ピストン冠面15にシリコーン系樹脂を含むペースト状の原料被膜20Aを塗布する塗布工程S3と、塗布された原料被膜20Aを加熱して硬化させる焼成工程S4とを含む方法により、ピストン冠面15に遮熱層20が形成される。焼成工程S4では、加熱温度を低下させるときの変化率(低下時変化率Rb)が加熱温度を上昇させるときの変化率(上昇時変化率Ra)よりも小さくなるように、加熱温度が制御される。このような構成によれば、原料被膜20Aを十分に硬化させて安定した遮熱層20を形成しつつ、当該遮熱層20の内部応力を軽減できるという利点がある。
【0050】
本願発明者は、鋭意研究の結果、原料被膜20Aへの加熱により投入される熱エネルギーが同等の条件では、加熱温度に周期的な変化をもたせた方が、加熱温度を一定にするよりも硬化割合を高め易いことを突き止めた。なお、ここでいう硬化割合とは、原料被膜20Aの架橋反応がどの程度進行したかを表す指標であり、硬化割合が高いほど架橋反応が進行したことを意味する。加熱温度に周期的な変化をもたせた方が硬化割合が高くなるのは、加熱温度の最大値の相違に起因するものと考えられる。すなわち、加熱温度に周期的な変化をもたせた方が、加熱温度を一定にするよりも加熱温度の最大値が高くなり、このことが原料被膜20Aの硬化(架橋反応)を促進するものと考えられる。本実施形態では、焼成工程S4において加熱温度が周期的に増減されるので、原料被膜20Aの硬化割合を高めることができ、硬化後の原料被膜20Aからなる遮熱層20の硬度もしくは強度を向上させることができる。
【0051】
図7は、原料被膜20Aの硬化が加熱により進行する様子を示すグラフであり、(a)は加熱温度の時間変化を、(b)は硬化割合の時間変化をそれぞれ示している。なお、グラフ(b)における硬化割合とは、熱分析計を用いた分析により推定される推定値である。(a)(b)の各グラフにおいて、本パターンと付記された実線の波形は、加熱温度に周期的な変化をもたせる実施形態の方法で原料被膜20Aを加熱した場合の加熱温度および硬化割合を表し、比較パターンと付記された一点鎖線の波形は、加熱温度を一定にする方法で原料被膜20Aを加熱した場合の加熱温度および硬化割合を表している。グラフ(a)に示すように、本パターンにおける加熱温度は、実加熱期間Pに亘って周期的に増減されるのに対し、比較パターンにおける加熱温度は、実加熱期間Pに亘って加熱温度が一定値に維持される。ただし、本パターンの加熱方法により付与される熱エネルギー(温度×時間)と、比較パターンの加熱方法により付与される熱エネルギーとは同一であるものとする。言い換えると、比較パターンにおいて設定される実加熱期間P中の加熱温度(一定値)は、図6に示した基準温度Txと同一である。
【0052】
図7に示すように、加熱温度を一定にする比較パターンでは、加熱開始時点t1からの時間経過に応じて原料被膜20Aの硬化割合が増大するものの、加熱終了時点t2よりも前の時点で硬化割合の増大が実質的に停止してしまう。すなわち、比較パターンでは、加熱終了時点t2よりも前の時点において、加熱終了時点t2での硬化割合Y0と実質的に同一の値まで硬化割合が増大し、それ以降は硬化割合の増大がほとんど見られなくなる。これに対し、加熱温度に周期的な変化をもたせた本パターンでは、加熱初期の硬化割合の増大率こそ比較パターンのそれと特に変わらないものの、その後も硬化割合は継続的に増大を続け、最終的な(加熱終了時点t2での)硬化割合は上記Y0よりも大きいY1に達する。このことは、本実施形態による加熱方法の優位性を示唆している。すなわち、加熱温度に周期的な変化をもたせた本実施形態によれば、熱エネルギーを同等に維持しつつ原料被膜20Aの硬化割合を高めることができ、より安定した遮熱層20を形成することができる。
【0053】
ただし、加熱温度を増減させる際の変化率が一定であると、遮熱層20の内部応力が有意に増大するおそれがある。すなわち、加熱温度の周期変化は、上述のとおり、加熱温度の最大値を高めること、ひいては原料被膜20A内の架橋反応を促進することにつながる。しかしながら、加熱温度の上昇時と低下時とで温度変化率が同一であると、一旦最大値まで上昇した加熱温度を漸減させる期間が十分に確保されず、原料被膜20Aの温度上昇が高い頻度で繰り返される結果、原料被膜20Aの内部温度が過度に上昇するおそれがある。このような過度な温度上昇は、原料被膜20Aの硬化割合を高めるメリットをもたらす一方で、硬化後の原料被膜20Aからなる遮熱層20の内部に生じる残留応力つまり内部応力を増大させるデメリットをもたらす可能性がある。すなわち、原料被膜20Aの温度が過度に上昇することにより、分子運動が非常に激しい状態で架橋反応が進行するようになり、このことが遮熱層20の内部応力を増大させる可能性がある。
【0054】
これに対し、本実施形態では、加熱温度の低下時の変化率である低下時変化率Rbの方が、加熱温度の上昇時の変化率である上昇時変化率Raよりも小さくされるので、上記のような事情による内部応力の増大を抑制することができる。
【0055】
具体的に、低下時変化率Rbの方が上昇時変化率Raよりも小さいことは、加熱温度が最小値に向けて低下している期間(以下、これを温度低下期間という)の方が、加熱温度が最大値に向けて上昇している期間(以下、これを温度上昇期間という)よりも長く確保されることを意味する。ここで、加熱温度が最大値に達したのち低下に転じたとしても、その時点から直ちに原料被膜20Aの温度が低下するわけではなく、加熱温度の低下と原料被膜20Aの温度低下との間には多少のタイムラグが存在する。このため、仮に温度上昇期間と温度低下期間とが同一であると、原料被膜20Aの温度が十分に低下しないうちに加熱温度が再び上昇に転じるおそれがあり、このことが原料被膜20Aを過度に上昇させるおそれがある。これに対し、温度低下期間が温度上昇期間よりも長くなるように加熱温度の変化率が設定される(つまりRb<Raとされる)本実施形態では、温度が十分に低下しないまま再び上昇する上記のような事態を回避でき、原料被膜20Aの内部温度の過度な上昇を抑えることができる。これにより、加熱温度の周期変化による上述した効果(原料被膜20Aの硬化を促進する効果)を享受しながら、遮熱層20の内部応力を効果的に軽減することができ、遮熱層20とピストン冠面15との密着強度を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態では、ピストン冠面15に原料被膜20Aを塗布する塗布工程S3の前に、ピストン冠面15にアルマイト処理(陽極酸化処理)を施す表面改質工程S2が実施されるので、アルミニウム合金製のピストン冠面15に対する遮熱層20の密着強度を向上させることができる。すなわち、アルマイト処理により酸化被膜が形成されたピストン冠面15に原料被膜20Aが塗布され、その状態で原料被膜20Aが焼成されることにより、当該焼成の際に、原料被膜20Aに含まれるシリコーン系樹脂の有機基が酸化被膜の表面のOH基と結合する。これにより、硬化後の原料被膜20Aからなる遮熱層20をピストン冠面15に強固に密着させることができ、遮熱層20の安定性を向上させることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、表面改質工程S2の前に、ピストン冠面15にブラスト処理を施す粗面化工程S1が実施されるので、ピストン冠面15に対する遮熱層20の密着強度をより向上させることができる。すなわち、ブラスト処理によりピストン冠面15に微細な凹凸が形成される(表面粗さが増大する)ので、当該微細な凹凸に原料被膜20Aが入り込んだ状態で原料被膜20Aが焼成される結果、遮熱層20とピストン冠面15との密着性を高めることができ、遮熱層20の安定性をより向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態では、中空粒子22およびナノ粒子23が含有された遮熱層20がピストン冠面15に形成されるので、遮熱層20の耐熱性を確保しつつ当該遮熱層20による遮熱性能を向上させることができる。すなわち、遮熱層20の母材となるシリコーン系の樹脂バインダ21の分子運動がナノ粒子により抑制されるので、樹脂バインダ21の熱劣化を抑制することができ、遮熱層20の耐熱性を向上させることができる。また、内部が空洞の中空粒子22が遮熱層20に含有されるので、遮熱層20の熱伝導率をより低下させることができ、遮熱層20による遮熱性能を向上させることができる。
【0059】
[変形例]
上記実施形態では、冠面15に原料被膜20Aが塗布された状態のピストン5を電気炉に投入し、電気炉内のヒータへの通電量を周期的に増減させることにより、原料被膜20Aに対する加熱温度を周期的に増減させるようにしたが、原料被膜20Aに対する加熱方法はこれに限られない。例えば、加熱温度が多段階に異なる複数のステージを有する加熱炉にピストン5を投入し、当該加熱炉の各ステージをピストン5が順次通過するようにピストン5を搬送することにより、加熱温度を周期的に増減させる方法が考えられる。その他、加熱温度の周期変化が得られる限りにおいて種々の加熱方法を採用可能である。
【0060】
上記実施形態では、燃焼室6の底面を規定するピストン冠面15にのみ遮熱層20を形成したが、同様の遮熱層は、遮熱による効果が期待されるエンジンの各部に適用することが可能である。例えば、燃焼室6の天井面を規定するシリンダヘッド4の下面および吸・排気弁10,11の傘部底面に遮熱層を形成してもよいし、燃焼室6の側面を規定するシリンダブロック3の内壁面(シリンダーライナ)に遮熱層を形成してもよい。さらに、燃焼室6から出入りするガスの流路(例えば吸気ポート8および排気ポート9)の壁面に遮熱層を形成してもよい。いずれの面の断熱層についても、上記実施形態の遮熱層20と同様に、遮熱層の原料であるペースト状の原料被膜を加熱、焼成するという方法で形成することができる。
【0061】
上記実施形態では、スプレーガンGを用いてピストン冠面15に原料被膜20Aを塗布したが、原料被膜20Aの塗布をヘラや刷毛等を用いて行ってもよい。
【0062】
上記実施形態では、ピストン冠面15に原料被膜20Aを直接塗布したが、ピストン冠面15に接着剤(プライマー)を塗布し、塗布した接着剤の上に原料被膜20Aを塗布してもよい。言い換えると、ピストン冠面15と原料被膜20Aとの間に接着剤を介在させてもよい。
【0063】
上記実施形態では、中空粒子22およびナノ粒子23が含有された遮熱層20を形成したが、遮熱層20は少なくともシリコーン系樹脂を含むものであればよく、中空粒子22およびナノ粒子23は省略してもよい。
【0064】
上記実施形態では、ピストン冠面15を粗面化する処理(粗面化工程S1)として、ピストン冠面15に微小な投射材を衝突させるブラスト処理を行ったが、ピストン冠面15を粗面化する方法はこれに限られない。例えば、ピストン冠面15にレーザを照射するレーザ加工によりピストン冠面15を粗面化してもよい。
【0065】
上記実施形態では、ピストン冠面15を表面改質する処理(表面改質工程S2)として、電解液中の通電によりピストン冠面15に酸化被膜を形成するアルマイト処理(陽極酸化処理)を行ったが、ピストン冠面15を表面改質する方法はこれに限られない。例えば、ピストン冠面15にプラズマを照射するプラズマ処理によりピストン冠面15を表面改質してもよい。
【0066】
上記実施形態では、ピストン冠面15を粗面化する処理(粗面化工程S1)とピストン冠面15を表面改質する処理(表面改質工程S2)とをこの順に行ったが、これら2つの処理を逆の順番で行ってもよいし、いずれか一方の処理だけを行ってもよい。
【0067】
上記実施形態では、ガソリン燃料を燃焼室6で燃焼させるガソリンエンジンに本発明を適用した例について説明したが、本発明を適用可能なエンジンはガソリンエンジンに限られず、例えばディーゼルエンジン等の他の形式のエンジンにも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 エンジン
6 燃焼室
15 ピストン冠面(遮熱対象面)
20 遮熱層
20A 原料被膜
22 中空粒子
23 ナノ粒子
S1 粗面化工程
S2 表面改質工程
S3 塗布工程
S4 焼成工程
Ra (加熱温度の)上昇時変化率
Rb (加熱温度の)低下時変化率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7