(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191714
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/40 20190101AFI20221221BHJP
【FI】
G16C20/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100105
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐津 秀一
(57)【要約】
【課題】処理を簡素化し且つモデルの生成速度を向上した高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムを提供する。
【解決手段】複数のポリマー粒子が連なる第1種モデルと、少なくとも1つの粒子を有する第2種モデルとを含む複数種類のモデルを配置するための仮想空間を目標密度に対応する第1体積よりも大きな第2体積に設定し、大きさが同一であり且つ格子状に配置される複数の仮想部屋に仮想空間を分割し、1つの仮想部屋に対して1つのモデルのみが配置されるように、複数種類のモデルの全てをいずれかの仮想部屋に配置し、仮想空間の体積が前記第2体積から前記第1体積になるまで、仮想空間の体積を徐々に収縮変形させる処理と、所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算処理と、を繰り返し実行し、仮想空間の体積が前記第1体積になった後、所定温度及び所定圧力を指定した状態での分子動力学計算により平衡化する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、
複数のポリマー粒子が直鎖状又は分岐状に連なる第1種モデルと、少なくとも1つの粒子を有する第2種モデルとを含む複数種類のモデルを配置するための仮想空間を、目標密度に対応する第1体積よりも大きな第2体積に設定することと、
前記仮想空間を、大きさが同一であり且つ格子状に配置される複数の仮想部屋に分割することと、
を含み、
前記複数の仮想部屋のそれぞれは前記複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズ以上であり、
前記方法は、
1つの前記仮想部屋に対して1つのモデルのみが配置されるように、前記複数種類のモデルの全てをいずれかの前記仮想部屋に配置することと、
前記仮想空間の体積が前記第2体積から前記第1体積になるまで、前記仮想空間の体積を徐々に収縮変形させる処理と、所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算処理と、を繰り返し実行することと、
前記仮想空間の体積が前記第1体積になった後、前記所定温度及び所定圧力を指定した状態での分子動力学計算により平衡化することと、を更に含む、高分子モデルの生成方法。
【請求項2】
前記複数種類のモデルの配置数の合計数を特定することと、
前記仮想空間における一辺当たりの仮想部屋の個数をN(Nは自然数)とし、N3≧前記合計数の関係を満たすNを特定することと、
前記複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズを特定することと、
前記最も大きいモデルの一辺のサイズと前記Nとに基づき前記仮想空間の一辺の長さ及び前記第2体積を特定することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法を実行する1又は複数のプロセッサを備えるシステム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子モデルは、複数種類のモデルを有する。高分子モデルの一例として、フィラー充填ゴムモデルが挙げられる。フィラー充填ゴムモデルは、フィラーモデルと、ポリマーモデルとが少なくとも含まれる。特許文献1には、複数のポリマーモデルと、複数のフィラーモデルを仮想空間に配置し、その後、仮想空間の体積を圧縮して、高分子モデルを生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法において、ポリマーモデルとフィラーモデルの仮想空間への配置は、新たに配置しようとするモデルを仮想空間におけるランダムな座標に一旦配置し、新たに配置したモデルと既に配置されているモデルの座標とに基づいてモデルの重複判定を行う。しかし、粒子は径を有し、また、各粒子の広がり具合も異なるため、粒子の中心座標に基づく重複判定は複雑な処理となる。
【0005】
また、重複判定処理において、新たに配置しようとするモデルが既に配置された他のモデルと重複していると判定された場合には再配置が必要となり、仮想空間のサイズ、モデルのサイズ、配置予定のモデルの数によっては、重複判定が頻発してモデルの配置処理が一向に進まず、モデルの生成速度が低下するおそれがある。
【0006】
本開示は、処理を簡素化し且つモデルの生成速度を向上した高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の高分子モデルの生成方法は、1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、複数のポリマー粒子が直鎖状又は分岐状に連なる第1種モデルと、少なくとも1つの粒子を有する第2種モデルとを含む複数種類のモデルを配置するための仮想空間を、目標密度に対応する第1体積よりも大きな第2体積に設定することと、前記仮想空間を、大きさが同一であり且つ格子状に配置される複数の仮想部屋に分割することと、を含み、前記複数の仮想部屋のそれぞれは前記複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズ以上であり、前記方法は、1つの前記仮想部屋に対して1つのモデルのみが配置されるように、前記複数種類のモデルの全てをいずれかの前記仮想部屋に配置することと、前記仮想空間の体積が前記第2体積から前記第1体積になるまで、前記仮想空間の体積を徐々に収縮変形させる処理と、所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算処理と、を繰り返し実行することと、前記仮想空間の体積が前記第1体積になった後、前記所定温度及び所定圧力を指定した状態での分子動力学計算により平衡化することと、を更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】システムが実行する処理を示すフローチャート。
【
図3】第2体積に設定された仮想空間に配置された複数のポリマー、複数のフィラー及び架橋粒子を示す図。
【
図4】仮想空間を第2体積から第1体積まで収縮変形させる処理の工程を示す図。
【
図5】仮想空間を分割した仮想部屋と、各部屋に配置される各種モデルとを示す図。
【
図6】仮想部屋に各種モデルを配置する様子を示す図。
【
図7】実施例2の各モデルを配置した仮想空間を第2体積から第1体積まで収縮変形させる処理の工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
[モデル生成システム]
本実施形態のシステム1(装置)は、高分子モデルを生成する。高分子モデルは、第1種モデルと第2種モデルを含む少なくとも2種類のモデルを含む。第1種モデルは、複数のポリマー粒子が直鎖状又は分岐状に連なるポリマーモデルである。第2種モデルは、少なくとも1つの粒子を有していれば、ポリマーでもよいし、ポリマーではなくてもよい。第2種モデルは、例えば、硫黄などの架橋粒子を有する架橋粒子モデルでもよいし、ゴムに充填されるフィラーモデルでもよい。
【0011】
本実施形態の実施例1において、
図3及び
図5に示すように、第1種モデルは、複数のポリマー粒子20が直鎖状に結合したポリマーモデル2である。第2種モデルは、複数のフィラー粒子30が集合したフィラーモデル3である。第3種モデルは、結合関係にない複数の架橋粒子40を有する架橋粒子モデル4である。
【0012】
実施例1では、第1種モデル(ポリマーモデル2)を5つ、第2種モデル(フィラーモデル3)を4つ、第3種モデル(架橋粒子モデル4)を4つ配置する例を挙げて説明する。1つのポリマーモデル2には、鎖長(粒子数)100個のポリマーが2本含まれる。1つのフィラーモデル3には1つのフィラーが含まれる。1つの架橋粒子モデル4は5つの架橋粒子40が含まれる。
【0013】
図1に示すように、システム1は、体積設定部10と、空間分割部11と、モデル配置部12と、分子動力学計算実行部13と、を有する。システム1は、最大サイズ特定部14と、配置数特定部15と、部屋数決定部16と、第2体積特定部17と、を有するとしてもよい。これら各部10~17は、プロセッサ1a、メモリ1b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図2に示す処理ルーチンをプロセッサ1aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。メモリ1bは、高分子モデルを構成する複数種類のモデルデータ、分子動力学計算を実行するための解析条件(所定温度、所定圧力など)を記憶する。
【0014】
本実施形態の実施例1では、
図3で模式的に示すように、高分子モデルは、フィラー充填未架橋ゴムを表すモデルである。第1種モデルとしての少なくとも1つのポリマーモデル2と、第2種モデルとしてのフィラーモデル3と、第3種モデルとしての架橋粒子モデル4と、を有する。なお、本開示に記載の方法で完成したフィラー充填未架橋ゴムモデルに対して架橋処理を行えば、フィラー充填架橋ゴムモデルを得ることができる。架橋処理は分子動力学計算を所定ステップ進め、ポリマーモデルに設定された架橋可能点に架橋粒子が所定距離に近づいたときに所定確率で結合するかを判定し、結合と判定された場合には、両者を結合ポテンシャルで結合し、全ての架橋粒子を結合させる処理である。
【0015】
図3に示すように、ポリマーモデル2は、複数のポリマー粒子20が結合ポテンシャル(結合相互作用と表記する場合がある)によって直鎖状または分岐状に連なるポリマーを表す。各ポリマー粒子20には、他の粒子との非結合ポテンシャル(非結合相互作用と表記する場合がある)が設定される。ポリマーモデル2は、各々のポリマー粒子20の座標、互いに結合関係にあるポリマー粒子20同士の結合ポテンシャル、他の粒子との非結合ポテンシャルが設定されたデータである。
【0016】
フィラーモデル3は、複数のフィラー粒子30が結合ポテンシャルによって結合されたモデルを示す。各フィラー粒子30には、他の粒子との非結合ポテンシャルが設定される。フィラーモデル3は、各々のフィラー粒子30の座標、互いに結合関係にあるフィラー粒子30同士の結合ポテンシャル、他の粒子との非結合ポテンシャルが設定されたデータである。
図3に示す実施形態では、複数のフィラー粒子30が球状に結合しているが、これに限定されず、種々の形状が採用可能である。
【0017】
架橋粒子モデル4は、少なくとも1つの粒子40を有する。本実施形態では、1つの架橋粒子モデル4に複数の架橋粒子40が含まれているが、架橋粒子40の数は1つ以上であれば任意に変更可能である。架橋粒子40には結合ポテンシャルが設定されず、非結合ポテンシャルが設定されている。
【0018】
本実施形態において、粒子間に作用する結合ポテンシャルには、FENE-LJ(レナードジョーンズ)が設定されている。具体的に、結合ポテンシャルは、フィラー粒子30同士の結合、ポリマー粒子20同士の結合に用いられる。ポテンシャルの強さを表すパラメータ及び粒子の径を示すパラメータは同じ値にしている。これらは一例であり、種々変更可能である。
【0019】
本実施形態において、粒子間に作用する非結合ポテンシャルには、WCA(斥力のみのLJポテンシャル)が設定されている。具体的に、非結合ポテンシャルは、フィラー粒子30と他の粒子との間、フィラー粒子30とポリマー粒子との間、ポリマー粒子20と他の粒子との間、架橋粒子と他の粒子との間など、に設定される。ポテンシャルの強さを表すパラメータ及び粒子の径を示すパラメータは同じ値にしている。これらは一例であり、種々変更可能である。
【0020】
図1に示す体積設定部10は、上記複数種類のモデルを配置するための仮想空間6の体積を設定(又は変更)する。体積設定部10は、
図4に示すように、仮想空間6の体積を、モデル完成時の目標密度(本実施形態では0.85)に対応する第1体積V1よりも大きい第2体積V2に設定する。その後、体積設定部10は、
図4に示すように、第2体積V2から第1体積V1になるまで、仮想空間6を徐々に収縮変形させる。1度の収縮変形(体積変更)における体積の変化率は、所定値以下になるように抑制することが好ましい。急激な体積変更を行うと、体積変更により各粒子に作用する力の変化が過大になり、計算破綻を招来するおそれがあるからである。収縮変形における体積の変化率は、収縮変形を伴う分子動力学計算の1ステップあたり変化前の体積に対して0.01%以下にするのが好ましい。変化率[%]={変化前の体積-変化後の体積}/変化前の体積×100 である。目標密度に対する第2体積V2時の第2密度の比率は、0.1以下であるのが好ましい。比率=第2密度/目標密度である。
図7の例は、10万ステップの分子動力学計算により、比率=0.01/0.82=約0.012の収縮変形を行った過程を示している。
【0021】
第2体積V2は、第1体積V1よりも十分に大きければ、予め設定された固定値を用いてもよい。不足ない第2体積V2を的確に求めるために、
図1に示すように、最大サイズ特定部14、配置数特定部15、部屋数決定部16、第2体積特定部17を設ける、としてもよい。
【0022】
図1に示す配置数特定部15は、複数種類のモデルの配置数の合計値を特定する。
図5に示すように、実施例1では、第1種~第3種モデルの個数は、それぞれ5つ、4つ、4つであり、合計値は13個である。
【0023】
図1に示す空間分割部11は、
図5に示すように、立方体の仮想空間6を、大きさが同一であり格子状に配置される複数(N
3個)の仮想部屋60に分割する。仮想部屋60は6の相似形であり、X軸にN個、Y軸にN個およびZ軸にN個配置される。Nは1以上の自然数である。仮想空間6における一辺(X軸、Y軸、Z軸)の仮想部屋60の数がNである。
図1に示す部屋数決定部16は、仮想空間6における一辺あたりの仮想部屋の個数をNとし、N
3≧合計値の関係を満たすNを特定する。実施例1は、モデルの合計数が13であり、N=3であれば、条件を満たす。
【0024】
最大サイズ特定部14は、複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズを特定する。
具体的に、最大サイズ特定部14は、フィラーモデル3についてその径からサイズ(一辺の長さ)を取得する。最大サイズ特定部14は、ポリマーモデル2について粒子数及び密度からサイズ(一辺の長さ)を取得する。ポリマーモデルは、粒子数/体積=0.85となるようにモデルの体積を決定するのが好ましい。実施例1の1つのポリマーモデル2は、鎖長100×2本=200粒子であるので、体積は200/0.85=235.29となる。直方体の1辺の長さは2351/3=6.17となる。仮に、フィラーモデル3の一辺の長さが4.85であれば、ポリマーモデル2の方が大きいので、最大サイズは6.17となる。一方、フィラーモデル3の一辺の長さが9.7であれば、フィラーモデル3の方が大きいので、最大サイズは9.7となる。小さい方のモデルの体積は、大きい方のモデルの体積に合わせて拡大処理を行う。体積のみを拡大し、モデルの大きさは変更しない。
【0025】
図1に示す第2体積特定部17は、最も大きいモデルの一辺のサイズと、仮想空間6における一辺あたりの仮想部屋の個数Nとに基づき、仮想空間6の一辺の長さ及び第2体積V2を特定する。実施例1において、最大サイズが6.17であれば、仮想空間6の一辺の長さが6.17×3=18.51となり、第2体積V2=18.51
3となる。実施例1において、最大サイズが9.7であれば、仮想空間6の一辺の長さが9.7×3=29.1となり、第2体積V2=29.1
3となる。
【0026】
図1に示すモデル配置部12は、1つの仮想部屋60に対して1つのモデルのみが配置されるように、複数種類のモデルの全てをいずれかの仮想部屋60に配置する。
図6は、X軸及びY軸に直交するZ軸に平行な視線で仮想空間6(仮想部屋60)を見た模式図である。
図6に示すように、まず、第1種モデル(ポリマーモデル2)の全てを配置し、次に、同図に示すように、第3種モデル(架橋粒子モデル4)の全てを配置し、次に、同図に示すように、第2種モデル(フィラーモデル3)の全てを配置している。配置候補となるモデルの選択および選択されたモデルの配置先の仮想部屋60を決定するのは、ランダムで行っている。ここで、一度選択されてモデルが配置された仮想部屋60は、配置対象から外れるようにメモリで管理している。これにより、複数種類のモデルを重ならないように仮想空間6に配置可能となり、しかも簡素なロジックで実現できる。
【0027】
図1に示す分子動力学計算実行部13は、仮想空間6に配置されている粒子について、指定された条件(所定温度、体積、圧力)に基づき分子動力学計算を実行する。分子動力学計算では、タイムステップ毎(時点毎)に粒子の挙動(位置を含む)が計算される。
図4に示すように仮想空間6の体積が第2体積V2から第1体積V1になるまでは、体積設定部10が指定した体積及び指定された所定温度になるように分子動力学計算が実行され、圧力が可変となる。例えば、第2体積V2では圧力が0.1となり、第1体積V1では圧力が1.0となる。すなわち、仮想空間6の体積が第2体積V2から第1体積V1になるまで、体積設定部10による仮想空間6の体積を徐々に収縮変形させる処理と、分子動力学計算実行部13による所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算処理と、が繰り返し実行される。
【0028】
一方、仮想空間6の体積が第1体積V1になった後では、指定された所定温度及び所定圧力になるように分子動力学計算が実行され、体積が可変となり、平衡化処理が行われる。平衡化処理では、仮想空間6すなわちモデルの体積がほぼ一定になる(体積変化が閾値以下になる)まで各分子の挙動を計算する。体積の算出方法としては、仮想空間6に配置されている各粒子の座標に基づき、全ての粒子を含むように粒子を配置するための最小の立方体又は直方体の計算領域(セル)の体積が、フィラー充填未架橋高分子モデルの体積となる。これで、高分子モデルが完成する。
【0029】
[高分子モデルの生成方法]
上記システム1が実行する、高分子モデルの生成方法を、
図2を用いて説明する。ここでは、メモリ1bには、分子動力学計算で用いる第1体積、所定圧力、所定温度が予め設定され、記憶されている。
【0030】
まず、ステップST1において、配置数特定部15は、高分子モデルを構成する複数種類のモデルの配置数の合計数を特定する。実施例1では、13個と特定する。次のステップST2において、部屋数特定部16は、仮想空間6における一辺あたりの仮想部屋の個数Nの三乗(N3)がモデルの配置数の合計数以上となるように、仮想部屋60の個数Nを特定する。実施例1では、モデルの個数の合計数が13であるので、N=3と特定する。次のステップST3において、最大サイズ特定部14は、複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズを特定する。次のステップST4において、第2体積特定部17は、最も大きいモデルの一辺のサイズと、前記仮想空間6における一辺あたりの仮想部屋の個数Nとに基づき仮想空間6の一辺の長さ及び第2体積を特定する。ステップST1~ステップST4は、第2体積V2を予め決定している場合には、省略可能である。
【0031】
次のステップST5において、体積設定部10は、仮想空間6を第2体積V2に設定する。次にステップST6において、空間分割部11は、仮想空間6を複数の仮想部屋60に分割する。次のステップST7において、モデル配置部12は、1つの仮想部屋60に対して1つのモデルのみが配置されるように、複数種類のモデルの全てをいずれかの仮想部屋60に配置する。次に、ステップST8及びステップST9を仮想空間6の体積が第2体積V2から第1体積V1になるまで繰り返し実行する。ステップST8において、体積設定部10は、仮想空間6の体積を収縮変形させる。一回の収縮変形が所定割合で行うとしてもよい。ステップST9において、分子動力学計算実行部13は、所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算を実行し、平衡化を図る。
仮想空間6の体積が第1体積V1になった後、分子動力学計算実行部13は、所定温度及び所定圧力を指定した状態での分子動力学計算により平衡化する。平衡化が完了すれば、高分子モデルの生成が完了する。
【0032】
実施例2
実施例2は、高分子モデルは、第1~4種モデルで構成される。第1種モデルは、第1種ポリマーモデルであり、鎖長100個のポリマーを1本有する。第2種モデルは、第2種ポリマーモデルであり、鎖長100個のポリマーを1本有する。第3種モデルは、10個の架橋粒子40を有する架橋粒子モデル4である。第4種モデルは、1個のフィラーモデル3である。第1種モデルが10個の仮想部屋60に配置され、第2種モデルが5個の仮想部屋60に配置され、第3種モデルが8個の仮想部屋60に配置され、第3種モデルが4個の仮想部屋60に配置されている。モデルの配置数の合計数は10+5+8+4=27個である。
図7は、第2体積V2の仮想空間6に実施例2の各モデルを配置した後、第1体積V1になるまで体積の収縮処理と、平衡化処理を繰り返した様子を示している。
【0033】
以上のように、本実施形態の高分子モデルの生成方法のように、1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、複数のポリマー粒子20が直鎖状又は分岐状に連なる第1種モデル(ポリマーモデル2)と、少なくとも1つの粒子30を有する第2種モデル(フィラーモデル3)とを含む複数種類のモデルを配置するための仮想空間6を、目標密度に対応する第1体積V1よりも大きな第2体積V2に設定すること(ST5)と、仮想空間6を、大きさが同一であり且つ格子状に配置される複数の仮想部屋60に分割すること(ST6)と、を含み、複数の仮想部屋60のそれぞれは複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズ以上であり、方法は、1つの仮想部屋60に対して1つのモデルのみが配置されるように、複数種類のモデルの全てをいずれかの仮想部屋60に配置すること(ST7)と、仮想空間6の体積が第2体積V2から第1体積V1になるまで、仮想空間6の体積を徐々に収縮変形させる処理(ST8)と、所定温度及び収縮後の体積を指定した分子動力学計算処理(ST9)と、を繰り返し実行することと、仮想空間6の体積が第1体積V1になった後、所定温度及び所定圧力を指定した状態での分子動力学計算により平衡化すること(ST10)と、を更に含む、としてもよい。
【0034】
このように、複数種のモデルを配置するための仮想空間6を複数の仮想部屋60に分割しておき、各々の仮想部屋60が最も大きなモデル以上のサイズであり、1つの仮想部屋60に対して1つのモデルのみが配置されるように、複数種のモデルの全てがいずれかの仮想部屋60に配置される。この処理によれば、既にモデルが配置された仮想部屋60の管理だけをすれば、全てのモデルが重ならないので、複雑な重なり判定処理を実装せずに、モデルを重ならない様に配置可能となる。また、配置のやり直しがなくなるので、モデルの配置処理速度を向上可能となる。
【0035】
本実施形態のように、複数種類のモデルの配置数の合計数を特定すること(ST1)と、仮想空間6における一辺当たりの仮想部屋60の個数をN(Nは自然数)とし、N3≧合計数の関係を満たすNを特定すること(ST2)と、複数種類のモデルのうち最も大きいモデルのサイズを特定すること(ST3)と、最も大きいモデルの一辺のサイズとNとに基づき仮想空間6の一辺の長さ及び第2体積V2を特定すること(ST4)と、を含む、としてもよい。
この構成によれば、第2体積V2を闇雲に大きなサイズにしなくても、複数種類のモデルを過不足なく配置可能となるように、仮想空間6の個数及び第2体積V2を特定でき、確実性が向上すると共に、第2体積V2を必要以上に大きくすることによるモデル生成の時間を短縮可能となる。
【0036】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0037】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0038】
(1)前記実施形態では、仮想空間が立方体で且つ仮想部屋も立方体であるが、これに限定されない。仮想空間と仮想部屋が相似形であれば、形状は直方体でもよい。
また、仮想部屋の一辺あたりの数は、3軸(3辺)で同一であるが、異なっていてもよい。
【0039】
(2)前記実施形態では、ステップST1~4を実行しているが、第2体積V2を予め広めに決定している場合には、ステップST1~4を省略可能である。それに伴い、
図1に示す各部14~17も省略可能である。
【0040】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0041】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0042】
図1に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1は、一つのコンピュータのプロセッサ1aにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0043】
システム1は、プロセッサ1aを含む。例えば、プロセッサ1aは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1は、システム1のデータを格納するためのメモリ1bを含む。一例では、メモリ1bは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0044】
2…ポリマーモデル(第1種モデル)、3…フィラーモデル(第2種モデル)、6…仮想空間、60…仮想部屋。