(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191735
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】膜状体の異物検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20221221BHJP
G01N 21/3581 20140101ALI20221221BHJP
【FI】
G01N21/892 Z
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100145
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】射庭 彩人
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠人
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
【Fターム(参考)】
2G051AA40
2G051AA41
2G051BA04
2G051BB09
2G051CA01
2G051CB01
2G051DA06
2G059AA05
2G059BB10
2G059DD12
2G059EE02
2G059HH01
2G059HH05
2G059JJ11
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】より小さな異物を検出可能なフィルムの異物検出装置を提供する。
【解決手段】異物検出装置1は、電磁波A1を発信する発信部10と、発信部10から発した電磁波A1を集光しフィルムFに照射するスーパーオシレーションレンズ11と、スーパーオシレーションレンズ11によって電磁波A1が照射されたフィルムFから出力された出力波A2を受信する受信部12と、受信部12で受信した出力波A2に基づいて異物の有無を判断する判断部13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状体の異物を検出する異物検出装置であって、
電磁波を発信する発信部と、
前記発信部から発した電磁波を集光し膜状体に照射するスーパーオシレーションレンズと、
前記スーパーオシレーションレンズによって電磁波が照射された膜状体から出力された出力波を受信する受信部と、
前記受信部で受信した出力波に基づいて異物の有無を判断する判断部と、を備える、膜状体の異物検出装置。
【請求項2】
前記スーパーオシレーションレンズは、前記膜状体の短辺方向の全幅に亘る線状の集光スポットを形成する、請求項1に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項3】
前記スーパーオシレーションレンズは、平行に並べて配置された複数のスリットを有し、
複数の前記スリットは、前記電磁波の波長よりも短い幅を有する、請求項1または2に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項4】
前記複数のスリットは、当該スリットの長手方向が、長尺状の前記膜状体の長辺方向に対して垂直になるように向けられ、前記膜状体の長辺方向に沿って並べて配置されている、請求項3に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項5】
前記複数のスリットは、長尺状の前記膜状体の短辺方向の幅と同程度かそれ以上の長さを有する、請求項3または4に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項6】
前記スーパーオシレーションレンズは、電磁波の入射面と出射面とが互いに平行であり、かつ、平坦な形状を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項7】
前記スーパーオシレーションレンズは、出射面と前記膜状体の表面とが平行となるように配置される、請求項1~6のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項8】
前記受信部は、複数配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項9】
前記複数の受信部は、長尺状の前記膜状体の短辺方向に沿って並べて配置されている、請求項8に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項10】
前記複数の受信部の少なくとも1つの受信部は、前記膜状体の長辺方向に対して、他の受信部と異なる位置に配置されている、請求項8または9に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項11】
前記判断部は、出力波の強度の変化に基づいて、異物の有無を判断する、請求項1~10のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項12】
前記発信部の電磁波は、30GHz以上10THz以下の周波数を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項13】
前記スーパーオシレーションレンズは、電磁波の照射方向に沿って並べて配置された複数の膜状体に対し電磁波を照射可能に構成され、
前記受信部は、前記複数の膜状体から出力された出力波を受信可能に構成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【請求項14】
前記発信部及び前記スーパーオシレーションレンズを少なくとも有する光学系を、膜状体に対し相対的に走査させる走査部を、さらに備える、請求項1~13のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、膜状体の異物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルムの異物検出装置として、照明光をフィルムに照射し、異物から発生する散乱光を検出するものがある(特許文献1参照)。また、その際に一般的なレンズで電磁波の照射範囲を絞ることで、スポット(観察視野内)に異物が存在した場合に、全反射波の周波数および/またはスペクトルのうち、異物の反射波の周波数またはスペクトルの比率(SN)を高めて検出感度を上げて計測していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、照明光などの電磁波の照射範囲を絞ることができる範囲は、レンズの大きさと焦点距離で決まる回折限界で表現され、現実的に製作できるレンズの大きさから使用する波長程度が下限とされており、実際には、照射範囲を絞ることが可能な範囲は、使用する電磁波の波長の等倍程度にとどまる。したがって、異物が小さくなればなるほど、異物の周囲から反射した電磁波が、異物自体から反射した電磁波よりも強くなり、異物の正確な検出が難しくなる。フィルムの異物検出の要求精度は年々上がっており、フィルムのより小さな異物を検知する異物検出装置が求められている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、従来のレンズの回析限界よりも小さな範囲に電磁波の照射範囲を絞ることを可能とし、より小さな異物を検出可能なフィルムなどの膜状体の異物検出装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、スーパーオシレーションの技術を用いることで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の態様は以下を含む。
【0007】
(1)膜状体の異物を検出する異物検出装置であって、電磁波を発信する発信部と、前記発信部から発した電磁波を集光し膜状体に照射するスーパーオシレーションレンズと、前記スーパーオシレーションレンズによって電磁波が照射された膜状体から出力された出力波を受信する受信部と、前記受信部で受信した出力波に基づいて異物の有無を判断する判断部と、を備える、膜状体の異物検出装置。
(2)前記スーパーオシレーションレンズは、前記膜状体の短辺方向の全幅に亘る線状の集光スポットを形成する、(1)に記載の膜状体の異物検出装置。
(3)前記スーパーオシレーションレンズは、平行に並べて配置された複数のスリットを有し、複数の前記スリットは、前記電磁波の波長よりも短い幅を有する、(1)または(2)に記載の膜状体の異物検出装置。
(4)前記複数のスリットは、当該スリットの長手方向が、長尺状の前記膜状体の長辺方向に対して垂直になるように向けられ、前記膜状体の長辺方向に沿って並べて配置されている、(3)に記載の膜状体の異物検出装置。
(5)前記複数のスリットは、長尺状の前記膜状体の短辺方向の幅と同程度かそれ以上の長さを有する、(3)または(4)に記載の膜状体の異物検出装置。
(6)前記スーパーオシレーションレンズは、電磁波の入射面と出射面とが互いに平行であり、かつ、平坦な形状を有する、(1)~(5)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(7)前記スーパーオシレーションレンズは、出射面と前記膜状体の表面とが平行となるように配置される、(1)~(6)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(8)前記受信部は、複数配置されている、(1)~(7)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(9)前記複数の受信部は、長尺状の前記膜状体の短辺方向に沿って並べて配置されている、(8)に記載の膜状体の異物検出装置。
(10)前記複数の受信部の少なくとも1つの受信部は、前記膜状体の長辺方向に対して、他の受信部と異なる位置に配置されている、(8)または(9)に記載の膜状体の異物検出装置。
(11)前記判断部は、出力波の強度の変化に基づいて、異物の有無を判断する、(1)~(10)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(12)前記発信部の電磁波は、30GHz以上10THz以下の周波数を有する、(1)~(11)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(13)前記スーパーオシレーションレンズは、電磁波の照射方向に沿って並べて配置された複数の膜状体に対し電磁波を照射可能に構成され、前記受信部は、前記複数の膜状体から出力された出力波を受信可能に構成されている、(1)~(12)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
(14)前記発信部及び前記スーパーオシレーションレンズを少なくとも有する光学系を、膜状体に対し相対的に走査させる走査部を、さらに備える、(1)~(13)のいずれか一項に記載の膜状体の異物検出装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より小さな異物を検出可能な膜状体の異物検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】異物検出装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】異物検出装置のスーパーオシレーションレンズを上面から見た模式図である。
【
図3】異物検出装置のスーパーオシレーションレンズを通過しフィルムに照射される電磁波と、その強度分布を示す模式図である。
【
図4】スーパーオシレーションレンズのスリット配置により作成される電磁波の強度分布について説明する説明図である。
【
図6】2枚のフィルムの異物を検出する異物検出装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態にかかる異物検出装置1の構成の一例を示す模式図である。異物検出装置1は、検出対象Fの表面や検出対象Fの内部に入り込んだ異物を検出するためのものである。本実施形態にかかる異物検出装置は、検出対象が膜状体である場合に好適である。検出対象の膜状体としては、例えば、フィルム、ガラスクロス、不織布、プリプレグ等が挙げられる。以下、フィルムFを例にして説明するが、検出対象はこれに限られるものではない。フィルムFは、例えば長尺の帯状で、PEなどの樹脂製である。異物Pは、金属片などである。
【0012】
異物検出装置1は、電磁波A1を発信する発信部10と、発信部10から発した電磁波A1を集光しフィルムFに照射するスーパーオシレーションレンズ11と、スーパーオシレーションレンズ11によって電磁波A1が照射されたフィルムFから出力された結果として生じる出力波A2を受信する受信部12と、受信部12で受信した出力波A2に基づいて異物Pの有無を判断する判断部13と、発信部10及びスーパーオシレーションレンズ11を少なくとも有する光学系を、フィルムFに対し相対的に走査させる走査部14を備えている。
【0013】
発信部10は、例えば量子カスケードレーザやショットキーバリアダイオード、ガンダイオード又はタンネットダイオードなどの電磁波発信素子である。発信部10は、いわゆるミリ波やTHz波を含む、30GHz以上10THz以下の周波数の電磁波A1を発信することができる。なお、より好ましくは、電磁波A1は、100GHz以上10THz以下の周波数を有する。発信部10は、スーパーオシレーションレンズ11の全面に対し電磁波A1を発信することができる。発信部10は、複数個の発振器を異物の検出対象であるフィルムFの短辺方向(
図1のTD方向)に並べられていることが好ましい。これにより、強度の高い電磁波A1を生成することができ、異物の検出感度を上げることができる。また発信部10の偏光の向きは、スーパーオシレーションレンズ11の短辺方向(
図1のY方向)と平行になるように設定される。
【0014】
本開示のスーパーオシレーションレンズ11は、矩形状かつ平坦な形状の板形状を有し、電磁波の入射面11aと出射面11bとが互いに平行になっている。なお、ここでいう「平坦な形状」は、全体形状が平坦であればよく、表面に凹凸を有するものも含む。スーパーオシレーションレンズ11の厚みは、照射する電磁波A1の集光を妨げない範囲であれば特に限定されない。より具体的には、集光する電磁波A1の波長の半分未満の厚み寸法に設定されることが好ましい。一例として、100GHz(波長約3mm)の電磁波A1をスーパーオシレーションレンズ11により集光する場合、その厚みは、その波長の半分である1.5mm未満とすることが好ましい。本開示において、スーパーオシレーションレンズ11は、400μm以下の厚み寸法を有する。
【0015】
本開示のスーパーオシレーションレンズ11は、数百μmの厚みを有する高分子フィルムと、高分子フィルムの表面に設けられた金属薄膜とを有する。金属薄膜が設けられていない箇所が後述するスリット30を形成する。スーパーオシレーションレンズ11の表面の凹凸は、スーパーオシレーションレンズ11による、電磁波A1の集光を妨げない程度の凹凸をいう。本開示において、表面の凹凸は、金属薄膜が形成された箇所と、金属薄膜が形成されていない箇所との厚みの差を示す程度の凹凸をいう。一例として、このような凹凸は、数百nm程度の厚み寸法を有する。金属薄膜は、蒸着プロセス等の公知の方法により形成することができる。本開示において、スーパーオシレーションレンズ11は、フィルムFの短辺方向(TD方向)と同程度または同程度よりも長い長さを有している。すなわち、スーパーオシレーションレンズ11は、検出対象のフィルムFの短辺方向の全体が電磁波A1の照射領域となるように構成されている。
【0016】
スーパーオシレーションレンズ11は、出射面11bがフィルムFに対向するように配置される。また、スーパーオシレーションレンズ11は、電磁波A1のスーパーオシレーションにより、所定値以上の強度を有する集光スポットSが、フィルムFと重なるように、フィルムFから所定距離離れた位置に配置される。このとき、スーパーオシレーションレンズ11は、フィルムFの水平面(
図1のMD-TD平面)と平行に配置されることが好ましい。これにより、フィルムFからの正反射光はスーパーオシレーションレンズ11側に反射し、その結果、正反射光が後述する検出部12に入射することを防止することができ、検出部12における検出感度を上げることが出来る。なお、スーパーオシレーションレンズ11は、水平方向のX方向の軸回りに所定角度傾けて設置してもよい。これによると、検出対象の異物の後方散乱波を検出部12で補捉することができる。
【0017】
なお、スーパーオシレーションレンズ11は、鉛直(フィルムFの水平面に垂直な方向の軸回りに所定角度回転し、後述するスリット30がフィルムFの短辺方向(TD方向)に対して傾くように設置されてもよい。これによると、集光された電磁波A1が異物に照射されて発生する散乱波が検出部12に届くタイミングを、異物の場所によって異ならせることができる。その結果、異物がフィルムFのTD方向のいずれの位置に存在するかの検出感度を上げることができる。
【0018】
スーパーオシレーションレンズ11は、直線状の複数のスリット30を有する。複数の直線状のスリット30は、電磁波A1が出射面11bから所定の距離離れた点で集光スポットSを形成するように、規則的に平行に並べて配置されている。複数のスリット30は、例えば、透明基材の表面に金属薄膜のパターンを施すことで形成される。これにより、金属薄膜がない部分がスリット30となる。スリット30は、細長の方形形状を有している。
【0019】
互いに平行に並べられた、複数の直線状のスリット30を有するスーパーオシレーションレンズ11により、スーパーオシレーションレンズ11の出射面11bから所定距離離れた位置に、直線状のスリット30に平行な、集光スポットSが形成される。本開示において、スーパーオシレーションレンズ11は、集光スポットSがフィルムFと交差する位置に発生するように設けられている。これにより、直線状のスリット30に平行に形成された集光スポットSは、フィルムFの短辺方向を横切るように連続的に形成される。これにより、フィルムFをその搬送方向(MD方向)に搬送することで、フィルムFの全体を、検出範囲にすることができる。スーパーオシレーションレンズ11は、集光スポットSがフィルムFの短辺方向に平行に形成されるように配置される。またスーパーオシレーションレンズ11は、集光スポットSがフィルムFの短辺方向に対して所定の角度を有して形成されるように、フィルムFに対して所定の角度傾けて配置されてもよい。
【0020】
また、集光スポットSは、集光された電磁波A1のうち強度が所定値以上の範囲がフィルムFの厚み寸法以上となるように形成される。すなわち、集光スポットSは、フィルムFの厚み方向に、所定の被写界深度を有するように形成される。
【0021】
本開示において、各スリット30は、その長手方向Xが、長尺状のフィルムFの長辺方向(MD方向)に対して垂直になるように向けられている。複数のスリット30は、フィルムFのMD方向に沿って並べて配置されている。
【0022】
図2に示すように複数のスリット30は、フィルムFの短辺方向(TD方向)の幅と同程度かそれ以上の長手方向Xの長さを有している。また、複数のスリット30は、電磁波A1の波長よりも短い短手方向Yの幅D1を有している。
【0023】
図3に示すように、複数のスリット30は、スーパーオシレーションの条件を満たすように、すなわち、集光スポットSが、フィルムFと重なるように形成されるように、その数、配置、幅D1が設計されている。すなわち、複数のスリット30は、通過する電磁波A1を回折させることで複数の空間周波数を生じさせ、当該電磁波A1について生じさせた、互いに異なる空間周波数、強度を持つ複数の電磁波を干渉させる。これにより、フィルムFの照射位置において、強度分布が、一般のレンズの回析限界を超える細さのピークH1を有するように設計されている。
【0024】
例えば複数のスリット30は以下のように設計される。最初に使用するスリットの最小幅を決め、レンズ全体に対して集光したい方向に領域をこの最小幅に区切っていき、各領域での電磁波透過率を定める。初期値はランダムで決め、そのデザインを使ったときの焦点位置での強度分布を計算し、スポット径を算出する。強度分布の計算には角スペクトル法などが使われる。スポット径を評価関数としこれが小さく、かつ集光した電磁波強度が強くなるよう、レンズのデザインを最適化していく。この最適化にはBPSO(binary particle swarm optimization)などが使われる。
【0025】
例えば
図4に示すようにスーパーオシレーションレンズ11の複数のスリット30は、複数のスリットパターンP1、P2・・P6を重ね合わせたものになるように作成される。これにより、実質的に各スリットパターンP1、P2・・・P6を通過しフィルムFに照射される電磁波A1の強度分布は、複数の波形、例えば、A、Bcos(x)、Ccos(2x)、Dcos(3x)、Ecos(4x)、Fcos(5x)(A乃至Fは定数)となる。そして、これらの強度分布の波形を次式のように加算し重ね合わせ、最適化することで、フィルムFの集光スポットS(レンズの中心)において電磁波A1の強度分布のピークHを形成する波形が形成される。
f(x)=A+Bcos(x)+Ccos(2x)+Dcos(3x)+Ecos(4x)+Fcos(5x)
【0026】
図1に示すように受信部12は、例えばショットキーバリアダイオードや焦電素子などの電磁波検出素子である。受信部12は、例えば複数配置されている。複数の受信部12は、例えばフィルムF上(フィルムFの発信部10がある側)であって、例えばフィルムFのTD方向に沿って並べて配置されている。受信部12は、電磁波A1がフィルムFに照射され、その電磁波A1の照射によってフィルムFから出力された出力波(反射波、散乱波、回析波などを含む)A2を受信する。受信部12で受信した出力波A2の情報は、判断部13に出力される。
【0027】
なお、複数の受信部12は、フィルムFのMD方向にその位置がずれるように並べてもよい。これによると、受信部12毎に、出力波A2の強度の変化が発生する時間が異なる。よって、受信する出力波A2の強度の変化に加え、受信する出力波A2の時間的な変化を利用して異物の検出を行うことができる。
【0028】
さらに上述のようにスーパーオシレーションレンズ11を鉛直軸回りに所定角度回転させて配置した場合には、複数の受信部12は、スーパーオシレーションレンズ11の鉛直軸回りの回転角度に合わせ、スーパーオシレーションレンズ11に形成されたスリット30の長手方向Xに平行に並べてもよい。また、スーパーオシレーションレンズ11をX方向の軸回りに所定角度傾けて設置した場合には、複数の受信部12は、スーパーオシレーションレンズ11のX方向の軸に対する傾きに応じて適正な位置に設置してもよい。
【0029】
また、受信部12は、発信部10とスーパーオシレーションレンズ11に対し、フィルムFを挟んで反対側に設けられていてもよい。この場合は異物の後方散乱を計測することができ、異物の性質や形状によってはSNが向上する
【0030】
判断部13は、例えばコンピュータであり、受信部12から得た出力波A2の強度の変化に基づいて、異物Pの有無を判断する。例えば、判断部13は、出力波A2の強度分布のピーク強度が閾値よりも大きい場合には、異物Pが有ると判断し、出力波A2の強度分布のピーク強度が閾値よりも小さい場合には、異物Pが無いと判断する。なお、判断部13は、複数の受信部12のうちの全部の受信部12の出力波A2の情報に基づいて、異物の有無を判断してもよいし、一部の受信部12の出力波A2の情報に基づいて、異物の有無を判断してもよい。
【0031】
走査部14は、例えばフィルムFをそのMD方向に移送する移送装置である。この移送装置は、例えば回転によりフィルムFを移送するローラ50を有している。走査部14は、フィルムFを、スーパーオシレーションレンズ11に対向した状態でスーパーオシレーションレンズ11に対し相対的に移動させる。なお、移送装置は、フィルムFを製造するフィルム製造装置に設けられたものであってもよく、この場合、フィルムFの製造工程において異物Pを検出する。
【0032】
次に、異物検出装置1の動作について説明する。
図1に示すように、先ず、フィルムFが、スーパーオシレーションレンズ11に対向した状態で、走査部14によりMD方向に移送される。これによりフィルムFは、スーパーオシレーションレンズ11の下方を一定速度で通過する。そして、フィルムFが移送されている状態で、発信部10から電磁波A1が発信され、電磁波A1が、スーパーオシレーションレンズ11の複数のスリット30を通過し集光して、フィルムFに照射される。このとき、電磁波A1は、フィルムFのMD方向の1点で、なおかつフィルムFのTD方向の全幅に亘る線状部分(集光スポットS)に照射される。このとき、
図3に示したような、一般のレンズの回析限界よりも細いピークH1のある、MD方向の強度分布を有する電磁波A1が照射される。なお、電磁波A1は、TD方向に一定の強度分布を有している。
【0033】
そして、受信部12が、フィルムFで反射、散乱して出力された出力波A2を受信する。例えばフィルムFに異物がない部分については、電磁波A1の多くがフィルムFを透過し、フィルムFに異物がある部分については、電磁波A1の多くがフィルムFで反射する。異物がある場合、受信部12は、
図5に示したような、出力波A2を受信する。受信部12で受信された出力波A2の情報は判断部13に出力される。例えば異物がある場合には、異物がない場合に比べて出力波A2のピーク強度が大きくなる。
【0034】
次に、判断部13において、出力波A2の強度分布のピーク強度が、閾値よりも大きい場合には異物が有ると判断され、閾値よりも小さい場合には異物が無いと判断される。
【0035】
本実施の形態によれば、異物検出装置1は、発信部10と、スーパーオシレーションレンズ11と、受信部12と、判断部13を備えるので、従来のレンズの回析限界よりも小さい範囲に電磁波A1の照射範囲を絞って、より小さな異物を検出することができる。
【0036】
スーパーオシレーションレンズ11は、フィルムFの短辺方向の全幅に亘る線状の集光スポットSを形成するので、フィルムF上の異物を漏れなく検出することができる。
【0037】
スーパーオシレーションレンズ11は、平行に並べて配置された複数のスリット30を有し、複数のスリット30は、電磁波A1の波長よりも短い幅D1を有する。これにより、スーパーオシレーションレンズ11による電磁波A1の集光や照射を好適に行うことができる。
【0038】
複数のスリット30は、当該スリット30の長手方向Xが、フィルムFの長辺方向(MD方向)に対して垂直になるように向けられ、フィルムFのMD方向に沿って並べて配置されている。これにより、電磁波A1がフィルムFのMD方向に集光され、フィルムFの短辺方向(TD方向)に線状に照射される。この結果、フィルムFのTD方向に幅広な異物検出が可能であり、フィルムFにおける異物の検出を好適に行うことができる。
【0039】
複数のスリット30は、フィルムFの短辺方向(TD方向)の幅と同程度かそれ以上の長さを有するので、電磁波A1がフィルムFのTD方向の全幅に亘り照射される。これにより、フィルムFにおける異物の検出を好適に行うことができる。
【0040】
スーパーオシレーションレンズ11は、電磁波A1の入射面11aと出射面11bとが互いに平行であり、かつ、平坦な形状を有するので、異物検出装置1の小型化、省スペース化が図られる。
【0041】
また、スーパーオシレーションレンズ11は、出射面11bとフィルムFの表面とが平行となるように配置されると、フィルムFからの正反射光がレンズ側に反射し検出部12に入射することが防止されるので、検出部12における検出感度を上げることができる。
【0042】
受信部12は、複数配置されているので、フィルムFから出力された出力波A2を、より確実に受信することができ、異物の検出精度を向上することができる。
【0043】
複数の受信部12は、フィルムFの短辺方向(TD方向)に沿って並べて配置されているので、フィルムFのTD方向のどの位置に異物があっても異物を適切に検出することができる。
【0044】
本実施の形態において、複数の受信部12の少なくとも1つの受信部12が、フィルムFの長辺方向に対して、他の受信部と異なる位置(ずれた位置)に配置されている場合には、集光された電磁波A1が異物に照射されて発生する散乱波が検出部12に届くタイミングを、異物の場所によって異ならせることができる。その結果、異物がフィルムFのTD方向のいずれの位置に存在するかの検出感度を上げることができる。
【0045】
判断部13は、出力波A2の強度の変化に基づいて、異物の有無を判断するので、異物の検出を精度よく行うことができる。
【0046】
発信部10の電磁波A1は、フィルムFに対する透過性が高い30GHz以上10THz以下の周波数を有するので、異物の無い部分は電磁波A1を透過させ、異物のある部分は電磁波A1を反射、散乱させることができ、これにより異物の検出をより精度よく行うことができる。また、フィルムFの内部にある異物を適切に検出することができる。
【0047】
異物検出装置1は、発信部10及びスーパーオシレーションレンズ11を少なくとも有する光学系を、フィルムFに対し相対的に走査させる走査部14を備える。これにより、フィルムFの全体の異物の検出を好適に行うことができる。
【0048】
上記実施の形態では、異物検出装置1が一枚のフィルムFの異物を検出していたが、複数枚のフィルムの異物を同時に検出してもよい。かかる場合、例えば
図6に示すように、スーパーオシレーションレンズ11は、電磁波A1の照射方向(上下方向)に沿って並べて配置された複数、例えば2枚のフィルムF1、F2に対し電磁波A1を照射可能に構成され、受信部12は、2枚のフィルムF1、F2から出力された出力波A2を受信可能に構成されていてもよい。かかる場合、スーパーオシレーションレンズ11を通過した一部の電磁波A1は、フィルムF1に照射され、また一部の電磁波A1は、フィルムF1を透過し、フィルムF2に照射される。そして、フィルムF1、フィルムF2から出力された出力波A2は受信部12で受信される。このようにスーパーオシレーションレンズ11を通過した電磁波A1は、焦点の被写界深度が少なくともフィルムFの厚み寸法以上となるように構成されているため、照射方向に並べられたフィルムF1、F2の両方に適切に照射され、フィルムF1、F2から出力波A2が適切に出力される。これにより、2枚のフィルムF1、F2の異物を同時に適切に検出することができる。
【0049】
以上の実施の形態において、走査部14が、発信部10やスーパーオシレーションレンズ11などの光学系に対しフィルムFを移送するものであったが、発信部10やスーパーオシレーションレンズ11などの光学系をフィルムF上で移動させるものであってもよい。かかる場合、異物検出装置1に、例えば、発信部10やスーパーオシレーションレンズ11などの光学系をフィルムFのMD方向に沿って移動させる移動装置が設けられる。なお、フィルムFに対し相対的に移動する光学系には、受信部12や判断部13が含まれていてもよい。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えばスーパーオシレーションレンズ11のスリット30の配置や数、幅等は、上記実施の形態のものに限られない。フィルムFの種類、素材等も上記実施の形態のものに限られない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、より小さな異物を検出可能なフィルムの異物検出装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 異物検出装置
10 発信部
11 スーパーオシレーションレンズ
12 受信部
13 判断部
14 走査部
30 スリット
A1 電磁波
A2 出力波
F フィルム