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  • 特開-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191743
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20221221BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100158
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 一樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】笹川 浩
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敬史
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA03
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】負極の不均一反応を抑え、高容量でサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極と負極と非水電解質とを含み、前記負極が負極活物質粒子を含む負極活物質層を有し、前記負極活物質粒子がリチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料である非水電解質二次電池において、前記負極活物質層の厚みを前記負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解質とを含み、
前記負極は、負極活物質粒子を含む負極活物質層を有し、
前記負極活物質粒子は、リチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料であり、
前記負極活物質層の厚みは、前記負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下である
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質粒子の最頻粒子径が、0.1以上100μm以下である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記リチウムと合金を形成することが可能な元素が、ケイ素及び錫から選択される少なくとも一つの元素である請求項1または2のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料が、ケイ素及び錫から選択される少なくとも一つの元素の単体、前記元素を含む合金又は前記元素の酸化物である請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質層の厚みが、4μm以上200μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質層中のリチウムと合金を形成することが可能な元素の含有量が、60質量%以上95質量%以下である請求項1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池と比べ、高電圧、高容量であるためスマートフォンをはじめとしたモバイル端末の電源として広く普及していている。近年はモバイル端末の小型軽量化に伴い、電源となるリチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が求められている。高容量化に向けて、注目されている電極材料としてケイ素(Si)や酸化ケイ素(SiO)などの合金系負極材料があげられる。特にSiの理論放電容量は4210mAh/gであり、従来の材料である黒鉛の11倍もの高容量を示すことが知られている。
【0003】
一般に負極材料は充電時に電位が低くなるため電解液の還元分解が起きる。その際に二酸化炭素や水素などのガスが発生する。また電解液の分解生成物が活物質表面に形成される。発生したガスは電極間距離を広げるために、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を増大させる。電解液の分解生成物は活物質と電解液の反応を緩和する効果があるため、電解液の還元分解は抑制される。一方で、過度の電解液分解が起きると、電極の内部抵抗が増大し、不可逆容量が大きくなるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-81927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SiやSiOを負極活物質とした場合は充放電サイクル時の体積変化が大きく、体積変化は充電前後で最大4倍にもなる。そのため充放電サイクルを繰り返す際に、導電助剤やバインダの剥離が起き、負極活物質間の導電パスが失われやすい。導電パスが失われた場合、負極活物質間で電位分布が生じ、反応が不均一になる。このような不均一反応により負極活物質に吸蔵されるリチウムイオンの量も不均一になるため、負極活物質ごとに不均一な膨張や反応が起きる。この不均一な膨張によって導電パスの切断や電解液の分解が加速され、さらなる容量劣化につながる。
【0006】
本発明は上記課題を鑑み、不均一反応を抑えることで、高容量でかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる非水電解質二次電池は、正極と負極と非水電解質とを含み、前記負極は、負極活物質粒子を含む負極活物質層を有し、前記負極活物質粒子は、リチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料であり、前記負極活物質層の厚みは、前記負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下であることを特徴とする。
【0008】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0009】
上記本発明にかかる負極活物質粒子の最頻粒子径は0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0010】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0011】
上記本発明にかかるリチウムと合金を形成することが可能な元素が、ケイ素及び錫から選択される少なくとも一つの元素であることが好ましい。
【0012】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池高容量化する。
【0013】
上記本発明にかかる前記リチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料が、ケイ素及び錫から選択される少なくとも一つの元素の単体、前記元素を含む合金又は前記元素の酸化物であっても良い。
【0014】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0015】
上記本発明にかかる負極活物質層の厚みは4μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0017】
上記本発明にかかる負極活物質層中のリチウムと合金を形成することが可能な元素の含有量が60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0018】
上記本発明にかかる負極とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、十分なサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池用負極を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照にしつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
(リチウムイオン二次電池)
図1は、本実施形態とするリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60、62を備えている。
【0023】
積層体30は、一対の正極10、負極20が、セパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものである。負極20は、板状(膜状)の負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14の主面及び負極活物質層24の主面が、セパレータ18の主面にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60、62が接続されており、リード60、62の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0024】
以下、正極10及び負極20を総称して、電極10、20といい、正極集電体12及び負極集電体22を総称して集電体12、22といい、正極活物質層14及び負極活物質層24を総称して活物質層14、24ということがある。まず、電極10、20について具体的に説明する。
【0025】
(正極集電体)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム(Al)又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0026】
(正極活物質層)
正極活物質層14は、正極活物質、バインダ、及び、必要に応じた量の導電助剤から主に構成されるものである。
【0027】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF )とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の電極活物質を使用できる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMnMaO(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0028】
(正極バインダ)
バインダは、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と集電体12とを結合している。バインダは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、バインダとして、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、バインダとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダが導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0029】
正極活物質層14中のバインダの含有量も特に限定されないが、添加する場合には正極活物質の質量に対して0.5~5質量%であることが好ましい。
【0030】
(正極導電助剤)
導電助剤も、正極活物質層14の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0031】
正極活物質層14中のバインダの含有量は特に限定されないが、正極活物質、導電助剤及びバインダの質量の和を基準にして、1~10質量%であることが好ましい。正極活物質とバインダの含有量を上記範囲とすることにより、得られた正極活物質層14において、バインダの量が少なすぎて強固な正極活物質層を形成できなくなる傾向を抑制できる。また、電気容量に寄与しないバインダの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向も抑制できる。
【0032】
正極活物質層14中の導電助剤の含有量も特に限定されないが、添加する場合には正極活物質の質量に対して0.5~5質量%であることが好ましい。
【0033】
(負極集電体)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0034】
(負極活物質層)
負極活物質層24は、負極活物質粒子、バインダ、及び、必要に応じた量の導電助剤から主に構成されるものである。また、この負極活物質層の厚みは、負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下である。
【0035】
負極活物質層の厚みを負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下とすることにより、電極の厚み方向の最頻粒子数が2個になって厚み方向に負極活物質粒子が必ず接触している部分がある形態となる。この形態であることでリチウムイオンの拡散が負極活物質粒子間で行われる。そのため粒子間の電位差の発生が抑えられ、粒子ごとの反応の不均一性が抑えられる。
【0036】
(負極活物質)
負極活物質粒子の最頻粒子径は、0.1~100μmであることが好ましい。この範囲内であれば、負極活物質の厚みを負極活物質粒子の最頻粒子径の2倍以下としても、十分な電気容量を確保できる。また粒径がこの範囲より小さい場合、結晶構造の大きさが不十分であるために、反応電位が一定でなくなるため初回の充放電において死蔵リチウム量が多くなり、エネルギー密度が減少してしまうため好ましくない。加えて小粒径の活物質粒子はバインダの存在比率が電極内で偏ってしまい反応が不均一となり好ましくない。また範囲より大きい粒径の活物質を使用した場合は活物質粒子の中心付近のリチウムイオンが脱離しにくくなるため死蔵リチウム量が増えるため好ましくない。
【0037】
リチウムと合金を形成することが可能な元素は、Si及び錫(Sn)から選択される少なくとも一つであることが好ましい。これらの元素は、電気容量が特に大きく、高エネルギー密度なリチウムイオン電池を作成可能だからである。
【0038】
また、リチウムと合金を形成することが可能な元素を含有する材料は、結晶、低結晶及びアモルファスのいずれの状態であっても良い。また、この材料は、リチウムと合金を形成することが可能な元素の単体、それらの元素を含む合金、及びそれらの元素の酸化物又は窒化物などを用いることができる。例えば、Si、Sn、SiO、酸化錫(SnO)、又はSi、Sn、などと他の金属の固溶体、金属間化合物などである。Siを含有する材料には、例えば、ホウ素(B)やリン(P)のドープによりn型またはp型の半導体となり電気抵抗が低下したものを用いてもよい。
【0039】
負極活物質層の厚みは活物質粒子の最頻粒子径で決まるが、その厚みは4μm以上が好ましい。この範囲内であれば電極材料の担持量が適度となり、必要な電池容量が確保できる。また、活物質粒子の作製やその塗布を容易にするため、負極活物質層の厚みは200μm以下が好ましい。
【0040】
負極活物質層の電気抵抗は活物質以外の導電助剤、バインダの配合量で決まる。活物質が60質量%より小さくなると導電助剤やバインダの量が過剰量となる。過剰量のバインダを配合した場合、電極内の電気抵抗が増加するため好ましくない。また過剰量の導電助剤が配合された場合、電極の塗工性が悪化し好ましくない。また電極の重量当たりの容量が低下するため好ましくない。一方で、活物質が95質量%より大きくなると活物質層内の導電助剤とバインダの量が相対的に減少する。導電助剤の配合量が減少すると電極の電気抵抗が増加するため好ましくない。またバインダの配合量が減少すると活物質と集電体バインダが悪化するため好ましくない。
【0041】
(負極バインダ及び負極導電助剤)
バインダ及び導電助剤には、上述した正極10に用いる材料に加え、PAA等のアクリル系樹脂も用いることができる。また、バインダ及び導電助剤の含有量も、負極活物質の体積変化の大きさや箔との密着性を加味しなければならない場合は適宜調整し、上述した正極10における含有量と同様の含有量を採用すればよい。添加する場合にはバインダの添加量は、負極活物質の質量に対して2~20質量%であることが好ましい。導電助剤の添加量は、負極活物質の質量に対して0.5~5質量%であることが好ましい。
【0042】
上述した構成要素により、電極10、20は、通常用いられる方法により作製できる。例えば、活物質(正極活物質または負極活物質)、バインダ(正極バインダまたは負極バインダ)、溶媒、及び、導電助剤(正極導電助剤または負極導電助剤)を含む塗料を集電体上に塗布し、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去することにより製造することができる。
【0043】
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、水等を用いることができる。
【0044】
塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0045】
集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0046】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10~50kgf/cmとすることができる。
【0047】
次に、リチウムイオン二次電池100の他の構成要素を説明する。
【0048】
(セパレータ)
セパレータは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔質シート、又は不織布が挙げられる。
【0049】
(電解質)
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解質として用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiBETI、LiFSI、LiBOB等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、(CFSONLi等の有機酸陰イオン塩等を用いることができる。
【0050】
また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン性液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF 、PF 、(CFSO等が挙げられる。イオン性液体は前述の有機溶媒と混合して使用することが可能である。
【0051】
電解液のリチウム塩の濃度は、電気伝導性の点から、0.5~2.0Mが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/m以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0052】
電解質を固体電解質やゲル電解質とする場合には、ポリ(ビニリデンフルオライド)等を高分子材料として含有することが可能である。
【0053】
更に、本実施形態の電解液中には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0054】
(ケース)
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0055】
(リード)
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。リード60、62は、公知の方法により、正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、リチウムイオン二次電池は図1に示した形状のものに限定されず、コイン形状に打ち抜いた電極とセパレータとを積層したコインタイプや、電極シートとセパレータとをスパイラル状に巻回したシリンダータイプ等であってもよい。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質としてLiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)を96重量%と、導電助剤としてカーボンブラックを2重量%と、グラファイトを0.5重量%と、バインダとしてPVDFを1.5重量%と、N-メチル-2-ピロリドンの溶媒とを混合分散させて、ペースト状の正極スラリーを作製した。そして、コンマロールコーターを用いて、この正極スラリーを厚さ20μmのAl箔の両面に、均一に正極活物質層を塗布した。次いで、乾燥炉内にて、110℃の大気雰囲気下で上記正極活物質中のN-メチル-2-ピロリドン溶媒を乾燥させた。正極活物質の塗布量は22.0mg/cmとした。なお、上記Al箔の両面に塗布された正極活物質層の塗膜の厚みは、ほぼ同じ膜厚に調整した。上記正極活物質が形成された正極をロールプレス機によって、正極活物質層を正極集電体の両面に圧着させ、正極活物質層の密度が3.6g/cmなるように正極を作製した。以上により正極シートを得た。
【0059】
(負極の作製)
負極活物質としてSi粉80重量%と、アセチレンブラック10重量%と、ポリアミドイミド樹脂10重量%と、N-メチル-2-ピロリドンの溶媒とを混合分散させて、負極活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ10μmの銅箔の一面に、負極活物質の塗布量が3.3mg/cmとなるように塗布し、100℃で乾燥することで負極活物質層を形成した。上記負極活物質が形成された負極をロールプレス機によって、負極活物質層を負極集電体の両面に圧着させ、負極活物質層の密度が1.5g/cmになるように負極を作製した。以上により負極シートを得た。
【0060】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製した正極、負極を用いて、これらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF溶液(溶媒:EC/DEC=3/7(体積比))を注液した後に真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
[実施例2~5]
使用する負極活物質をSn、SiO、SnO、Alに変更し、実施例1と同様に負極を作製した。
上記の負極活物質を用いた事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0062】
[実施例6~14]
使用する負極活物質の粒径を0.05μmから150μmの粒径を有するものに変更し、負極活物質層の厚みをそれぞれの負極活物質の粒径の2倍としたのち、実施例1と同様に負極を作製した。
上記の負極活物質を用いた事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0063】
[実施例15~22]
負極活物質の添加量を負極活物質層構成部材の全重量に対して50重量%から99重量%とし、それぞれの負極活物質の添加量に応じて、負極活物質層構成部材の全重量%と活物質の添加量の重量%差の半分をアセチレンブラックの重量%とし、負極活物質層構成部材の全重量%と活物質の添加量の重量%差の半分をポリアミドイミド樹脂の重量%とした。
上記の配合割合で作製したスラリーを用いた事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0064】
[実施例23~26]
負極活物質層の厚みをそれぞれの負極活物質の粒径の2倍としたのち、実施例1と同様に負極を作製した。
上記の負極活物質を用いた事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0065】
[実施例27]
負極活物質の粒径が0.08μmであり、負極活物質層の厚みを負極活物質の粒径の2倍とし、活物質をAlとし、活物質添加量を50重量%としたのち、実施例1と同様に負極を作製した。
上記の負極活物質を用いた事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0066】
[比較例1~3]
比較例1~3では負極活物質層の厚みを負極活物質の粒径の2倍以下としなかった事以外は実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0067】
<サイクル特性の評価方法>
実施例及び比較例で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、サイクル特性の測定を行った。0.5Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.5Vまで定電流放電する充放電サイクルを500サイクル繰り返し、500サイクル後の容量維持率を測定し、サイクル特性を評価した。
【0068】
表1に実施例1~26及び比較例1~3の負極活物質の粒径、活物質、負極活物質層の厚み、活物質添加量・エネルギー密度、容量維持率について示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1から27では高いサイクル維持率を示した。比較例1から3の電池では活物質層の厚みが活物質粒子の粒径の2倍になっていない場合にはサイクル維持率の顕著な低下が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池を用いることにより、容量維持率が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0072】
10…正極、12…正極集電体、14…正極活物質層、18…セパレータ、20…負極、22…負極集電体、24…負極活物質層、30…積層体、50…ケース、52…金属箔、54…高分子膜、60,62…リード、100…リチウムイオン二次電池。
図1