(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191749
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】電波伝搬特性の解析装置、解析方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 29/08 20060101AFI20221221BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20221221BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20221221BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20221221BHJP
【FI】
G01R29/08 Z
H04B17/391
H04B17/309
H04W16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100179
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】本吉 正博
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA21
5K067DD41
5K067EE01
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】受信点における伝搬損失をより高精度に算出する電波伝搬特性の解析装置を提供する。
【解決手段】送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と障害物における乱反射波とに基づいて、送信点と受信点とを含む3次元空間において送信点から送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する障害物により回折または乱反射して受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する。複数の電波経路を経て受信点で送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する。複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて受信点における受信電力を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する経路特定手段と、
前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する伝搬損失算出手段と、
を備える電波伝搬特性の解析装置。
【請求項2】
前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて前記受信点における受信電力を算出する受信電力算出手段と、
を備える請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記伝搬損失算出手段は、前記障害物である山の面と前記電波経路とが交差する交差位置の植生情報に基づいて前記乱反射波の前記受信点における伝搬損失を算出し、前記回折波の前記受信点における伝搬損失と前記乱反射波の前記受信点における伝搬損失とを用いて、前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する
請求項1または請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記伝搬損失算出手段は、前記障害物である山の面と前記電波経路とが交差する複数の前記交差位置の植生情報に基づいて複数の山の面における前記乱反射波の前記受信点における伝搬損失を算出し、前記回折波の前記受信点における伝搬損失と前記乱反射波の前記受信点における伝搬損失とを用いて、前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する
請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記伝搬損失算出手段は前記植生情報が示す樹木の高さが高いほど前記受信点における伝搬損失が高くなる算出手法を用いて前記乱反射波の前記受信点における伝搬損失を算出する
請求項3または請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記経路特定手段は、前記送信点と前記受信点とを含む地形情報のうち、前記送信電波の前記送信点を基準とする放射指向特定と前記受信点を基準とする受信指向特性とに基づいて特定した範囲の地形情報を用いて前記複数の電波経路を特定する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記送信電波のメインビームの複数の方向に基づいて算出した前記伝搬損失の合計または受信電力の値に基づいて前記送信電波の送信方向を決定する送信条件決定手段と、
を備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載の解析装置。
【請求項8】
送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定し、
前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出し、
前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて前記受信点における受信電力を算出する
解析方法。
【請求項9】
解析装置を、
送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する経路特定手段、
前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する伝搬損失算出手段、
前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて前記受信点における受信電力を算出する受信電力算出手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬特性の解析装置、解析方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳地帯などを隔てた送信点と受信点との間で直接波が届かない電波通信を行う為の技術がある。このような技術では、送信点の送信アンテナと受信点の受信アンテナの方位を正対させてそれぞれのアンテナを山岳地帯の頂上近傍に向ける。当該電波通信に利用する送信アンテナと受信アンテナはアンテナの口径が大きく、高出力な電力増幅装置が必要となる。なお関連する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、送信点と受信点との間の地形あるいは地物の情報と、電波の周波数の情報とに基づいて、地形地物高を算出し、その地形地物高に基づいて電波の伝搬損失を算出する技術が開示されている。
特許文献2には、見通し外環境下の測定困難な受信高における電波伝搬損失を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-33583号公報
【特許文献2】特開2014-45285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような電波通信の技術において、受信点における伝搬損失をより高精度に算出する技術が求められている。
【0006】
そこでこの発明は、上述の課題を解決する電波伝搬特性の解析装置、解析方法、プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、電波伝搬特性の解析装置は、送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する経路特定手段と、前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する伝搬損失算出手段と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、解析方法は、送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定し、前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出し、前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて前記受信点における受信電力を算出する。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、プログラムは、解析装置を、送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と前記障害物における乱反射波とに基づいて、前記送信点と前記受信点とを含む3次元空間において前記送信点から前記送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する前記障害物により回折または乱反射して前記受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する経路特定手段、前記複数の電波経路を経て前記受信点で前記送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する伝搬損失算出手段、前記複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて前記受信点における受信電力を算出する受信電力算出手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電波通信の技術において、受信点における伝搬損失をより高精度に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態による電波通信システムの構成を示す図である。
【
図2】本実施形態による解析装置のハードウェア構成図である。
【
図3】本実施形態による解析装置の機能ブロック図である。
【
図4】本実施形態による送信点と受信点のアンテナの放射指向性と複数の電波経路を示す図である。
【
図5】本実施形態による解析装置の処理フローを示す図である。
【
図6】本実施形態による解析装置の最小構成を示す図である。
【
図7】本実施形態による最小構成の解析装置による処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態による電波通信システムを、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態における電波通信システムの構成を示す図である。
図1で示すように、本実施形態における電波通信システム100は、山岳地帯を隔てたA地点とB地点のそれぞれにアンテナと無線制御装置とで構成された無線通信設備を有する。A地点における第一無線設備にはアンテナ10と無線制御装置11とが備わる。B地点における第二無線設備にはアンテナ20と無線制御装置21とが備わる。電波伝搬特性の解析装置1は無線制御装置11と無線制御装置21とに通信接続されてよい。
【0013】
アンテナ10とアンテナ20は、一方から送信された送信電波の山岳地帯などの障害物における回折波や反射波を他方が受信する。これによりアンテナ10とアンテナ20との間で見通しがきかない電波通信を行う。無線制御装置11はアンテナ10における信号の増幅や出力電力、送信電波の送信方向、受信電波の受信方向、などを制御してよい。無線制御装置21はアンテナ20における信号の増幅や出力電力、送信電波の送信方向、受信電波の受信方向、などを制御してよい。解析装置1はアンテナ10やアンテナ20で受信した信号の電力や、アンテナの方向などの情報やそのアンテナ10の制御条件の情報を取得する。解析装置1は、アンテナ10とアンテナ20の一方から送信された送信電波の受信点における伝搬損失を少なくとも算出するものである。
【0014】
図2は本実施形態による解析装置のハードウェア構成図である。
この図が示すように解析装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、HDD(Hard Disk Drive)104、通信モジュール105、データベース106等の各ハードウェアを備えたコンピュータである。無線制御装置11や無線制御装置12も同様のハードウェア構成を備えてよい。
【0015】
図3は本実施形態による解析装置の機能ブロック図である。
解析装置1は、解析プログラムを実行する。これにより解析装置1には、制御部111、経路特定部112、伝搬損失算出部113、受信電力算出部114、送信条件決定部115の各機能を発揮する。
制御部111は、解析装置1の各機能部を制御する。
経路特定部112は、送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と障害物における乱反射波とに基づいて、送信点と受信点とを含む3次元空間において送信点から送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する障害物により回折または乱反射して受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する。
伝搬損失算出部113は、特定した複数の電波経路を経て受信点で送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する。
受信電力算出部114は、特定した複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を用いて受信点における受信電力を算出する。
送信条件決定部115は、送信電波のメインビームの複数の方向に基づいて算出した受信電力の値に基づいて送信電波の送信方向を決定する。
【0016】
本実施形態の解析装置1は、上述の各機能により、送信電波の送信点から受信点までの障害物における回折波と乱反射波を少なくとも考慮した各電波経路の受信点における伝搬損失に基づいてより精度の高い伝搬損失を算出する。山岳地帯などでは山の頂上で回折する回折波に加え、山の壁面や樹木などで乱反射して受信点に到達する電波もあり得る。従って、回折波に加えて山などの障害物で乱反射して受信点に到達する電波も考慮して受信点における合計伝搬損失を算出する。これにより、精度高く伝搬損失を算出することができる。また、精度高く伝搬損失を算出することで、大口径のアンテナや高出力の電力増幅装置を用いずに受信点での必要な受信電力が得られるかどうかの確認を行うことで、不必要なスペックの高いアンテナや無線制御装置を用いなくてよいことを確認することができる。これによりアンテナや無線制御装置などのアンテナ設備の簡略化やコスト減を図ることができる。
【0017】
図4は送信点と受信点のアンテナの放射指向性と複数の電波経路を示す図である。
図4において、送信点のアンテナ10の電力半値幅(3dBビーム幅)による放射指向性41と、受信点のアンテナ20の電力半値幅(3dBビーム幅)による受信指向性42とを示す。この場合、受信点のアンテナ20では、点線で囲む3次元空間内の処理対象範囲50における電波を、直接波、反射波、回折波として受信する。電波経路43は地点Aが送信点であり地点Bが受信点である場合のアンテナ10からアンテナ20までの直線方向の陸地L3やL4の山の頂上で回折した電波経路を示す。電波経路44は送信電波が陸地L5の山腹などで乱反射または反射して受信点に到達した場合の電波経路を示す。電波経路45は送信電波が陸地L6の山腹などで回折して受信点に到達した場合の電波経路を示す。本実施形態の解析装置1は、少なくとも
図4で示すような各電波経路の受信点における伝搬損失の合計を算出する。また解析装置1は、伝搬損失の合計を用いて受信点における受信電力を算出する。
【0018】
図5は解析装置の処理フローを示す図である。
次に解析装置の処理フローについて説明する。
解析装置1は、解析処理にあたり、アンテナ10の送信条件と、アンテナ20の受信条件と、送信点である地点Aと受信点である地点Bとの各位置を含む地形データと、を含むパラメータを取得する(ステップS101)。送信条件には送信電波の周波数、地点Aを基準とする放射指向性41の3次元空間範囲、アンテナ10の設置に位置に基づく送信点の高さ、送信出力、アンテナパターン(各送信方向の利得)、メインビームの利得などが含まれる。受信条件には地点Bを基準とする受信指向性42の3次元空間範囲、アンテナ20の設置位置に基づく受信の高さ、アンテナ20から無線制御装置21までの通信ケーブルを信号のケーブル損失などの情報が含まれてよい。
【0019】
制御部111は経路特定部112へ処理の開始を指示する。経路特定部112は、送信点Aの位置、高さ、送信点Bの位置、高さを取得する。経路特定部112は送信条件の情報から送信点である地点Aを基準とする放射指向性41の3次元空間範囲と、地点Bを基準とする受信指向性42の3次元空間範囲とを取得する(ステップS102)。放射指向性41の3次元空間範囲は、地点Aを頂点とした放射指向性41の円錐形状を示す。受信指向性42の3次元空間範囲は、地点Bを頂点とした放射指向性41の円錐形状を示す。経路特定部112は、地点Aを頂点とした放射指向性41の円錐形状のデータと、地形データにおいて特定した3次元空間範囲の地点Aの座標系を合わせる。また経路特定部112は、地点Bを頂点とした放射指向性42の円錐形状のデータと、地形データにおいて特定した3次元空間範囲の地点Bの座標系を合わせる。そして経路特定部112は、地点Aと地点Bとを基準とする各円錐形状のデータで合成される3次元空間範囲の処理対象範囲50を特定する(ステップS103)。当該処理対象範囲には地点Aと地点Bが含まれる。
【0020】
経路特定部112は、地形データと、地点Aと地点Bとを含む3次元空間範囲において、各円錐形状のデータで合成される処理対象範囲50と、地点Aと地点Bの各位置と高さと、レイトレーシング法とを用いて、送信点である地点Aを基準として放射状に放射される電波のうち、処理対象範囲50の空間内で障害物により回折または乱反射して地点Bに到達する1つまたは複数の電波経路を特定する(ステップS104)。この時、経路特定部112は、地点Aを基準とする3次元空間範囲において送信電波のビームを上下左右に所定の微小な角度ごとに順次ずらしながら、それぞれのビームが地点Aから地点Bに反射、回折、乱反射等して地点Bに到達するかを解析する。
【0021】
当該レイトレーシング法を用いて特定した電波経路は、地点Aから出た送信電波が障害物で回折して地点Bに到達する回折経路、地点Aから出た送信電波が障害物で反射して地点Bに到達する反射経路、地点Aから出た送信電波が障害物で乱反射して地点Bに到達する乱反射経路の何れかを示す。ただし、反射経路については、アンテナ10とアンテナ20とが見通し外通信のために山頂方向にビームを向けていると仮定すると、送信元のアンテナ10の送信電波が山などの障害物で反射(または乱反射)した反射波の多くは送信先のアンテナ20に届かない可能性が高い。なお、本実施形態による解析装置1は、アンテナ10とアンテナ20のうちの一方の送信元の送信電波の直接波や正規反射波が送信先のアンテナに届くものを排除するものでない。つまり、解析装置1は、アンテナ10とアンテナ20のうちの一方の送信元の送信電波の直接波や正規反射波が送信先のアンテナに届く場合の電波経路を特定するものであってもよい。
【0022】
なおレイトレーシング法の技術は公知の技術であって、この技術を用いればよい。または経路特定部112は、レイトレーシング法でなくとも、3次元空間において障害物で反射、回折などを繰り返しながら、所定の地点から他の地点まで到達する光線の経路を求める手法であればどのような技術を用いてもよい。例えば、経路特定部112は、回折点を起点にして複数の回折方向に電波を分岐させ、分岐した電波毎に経路を追跡する技術として、「GTD(幾何光学的回折理論),J. B. Keller,“Geometrical Theory of Diffraction,” J. Opt. Soc. Amer.,vol.52, 2, pp.116-130, 1962.」等に記載の技術を用いてよい。また経路特定部112は、当該技術を用いて、反射点を起点にして複数の乱反射方向に電波を分岐させ、分岐した電波毎に経路を追跡する技術を用いてよい。
【0023】
これにより経路特定部112は、地点Aと地点Bとを含む3次元空間範囲において、地点Aと地点Bを頂点とする各円錐形状のデータで合成される処理対象範囲50においてのみ、レイトレーシング法を用いて電波経路を特定する。従って、電波経路を計算する範囲が狭まり、また電波経路上に含まれる山などの障害物の数が少なくなるため、レイトレーシング法における地点Aから地点Bへ到達する電波経路を特定する処理の計算量が少なくなる。この経路特定部112の処理は、送信点と受信点とを含む地形情報のうち、送信電波の送信点を基準とする放射指向特定と受信点を基準とする受信指向特性とに基づいて特定した範囲の地形情報を用いて前記複数の電波経路を特定する処理の一態様である。
【0024】
経路特定部112は特定した各電波経路のうち障害物で反射して地点Bに到達する反射経路の障害物における反射点の座標を地形データから特定する(ステップS105)。経路特定部112は反射点の植生情報を取得する(ステップS106)。当該植生情報は一例として樹木の高さであってよい。植生情報は予め地形データに含まれていてよい。または地点に応じた植生情報を記憶する植生テーブルを解析装置1が予め記憶しておき、経路特定部112は、この植生テーブルから反射点における植生情報(樹木の高さ)を取得してもよい。植生テーブルは、合成開口レーダが取得した地表の走査結果により得られたデータに基づいて作成されたデータテーブルであってよい。経路特定部112は、特定した電波経路と、反射点の座標と、植生情報とを伝搬損失算出部113へ出力する。
【0025】
伝搬損失算出部113は、経路特定部112の特定した1つまたは複数の電波経路の情報と、反射点の座標と、植生情報とを取得する。伝搬損失算出部113は、所定の伝搬損失算出式を用いて、回折経路により地点Bに到達する送信電波の伝搬損失を算出する(ステップS107)。また伝搬損失算出部113は、所定の伝搬損失算出式を用いて、乱反射経路により地点Bに到達する送信電波の伝搬損失を、植生情報Tを用いて算出する(ステップS108)。この処理は、障害物である山の面と電波経路とが交差する交差位置の植生情報に基づいて乱反射波の受信点における伝搬損失を算出する処理の一態様である。なお伝搬損失算出部113は、伝搬損失算出式が示す植生情報が示す樹木の高さが高いほど受信点における伝搬損失が高くなる算出手法を用いて、乱反射波の受信点における伝搬損失を算出する。
【0026】
伝搬損失算出部113は電波経路が複数の山の山腹でそれぞれ乱反射して受信点に到達したものであってよい。この処理は、障害物である山の面と電波経路とが交差する複数の交差位置の植生情報に基づいて複数の山の面における乱反射波の受信点における伝搬損失を算出する処理の一態様である。
【0027】
また伝搬損失算出部113は、地点Aから地点Bに直接届く直接波の経路の送信電波がある場合にも所定の伝搬損失算出式を用いて、当該送信電波の伝搬損失を算出してよい。また伝搬損失算出部113は、障害物で反射した反射経路で地点Bに到達する送信電波がある場合にも所定の伝搬損失算出式を用いて、当該送信電波の伝搬損失を算出してよい。伝搬損失算出部113は、それら伝搬損失を合計した合計伝搬損失を算出する(ステップS109)。上記伝搬損失算出式は、送信出力、周波数、伝搬距離、放射方位、到来方位、アンテナパターン、各回折点/反射点/乱反射点における伝搬損失、フィーダ損失、山岳における反射の電力係数等を用いて受信電力を算出する式である。
【0028】
伝搬損失算出部113は、合計伝搬損失を受信電力算出部114へ出力する。受信電力算出部114は、合計伝搬損失を所定の受信電力算出式に入力して受信電力を算出する(ステップS110)。
【0029】
以上の処理によれば、解析装置1は、山頂などの障害物の上方で送信電波が回折して送信先の地点Bへ到達する回折経路や、山腹などの障害物の面に当たった送信電波が乱反射して送信先の地点Bへ到達する乱反射経路などの、3次元空間で地点Aから地点Bに到達すると推定した各電波経路の伝搬損失の合計を算出する。そしてその伝搬損失の合計に基づいて地点Bにおける受信電力を算出する。これにより、送信点の地点Aと受信点の地点Bとを結ぶ水平をx方向、垂直をz方向とするxz平面における山頂などの回折経路を二次元的に推定して受信点での伝搬損失や受信電力を算出することに比べて、より精度高く当該受信点での伝搬損失や受信電力を算出することができる。
【0030】
解析装置1は伝搬損失算出部113が算出した受信点での合計伝搬損失や、受信電力算出部114の算出した受信点での受信電力に基づいて、アンテナ10やアンテナ20の向きや指向特性が示す利得の高い方向を変更した場合の、合計伝搬損失や受信電力を再計算してよい。この場合、送信条件決定部15は、各電波経路について算出された伝搬損失を伝搬損失算出部113から取得する。送信条件決定部115は、最も伝搬損失の低い再計算用の電波経路を特定する(ステップS111)。送信条件決定部115は、最も伝搬損失の低い再計算用の電波経路が示す送信電波の送信点(地点A)を基準とする方向に基づいて、ステップS102からの処理を繰り返すよう各処理部に要求する。これにより、新たな各電波経路の地点Bにおける伝搬損失に基づく合計伝搬損失と、地点Bにおける受信電力が算出される。送信条件決定部115は、前回算出した合計伝搬損失と新たに算出した合計伝搬損失との比較、または前回算出した受信電力と新たに算出した受信電力との比較に基づいて、より合計伝搬損失の低い、またはより受信電力の高い場合に処理に用いた、送信元のアンテナ10の方向を決定する(ステップS112)。送信条件決定部115は、決定した送信元のアンテナ10の方向を含む条件変更通知を送信元の無線制御装置11へ出力する。無線制御装置11は、条件変更通知が示す方向に、アンテナ10の向きや指向特性が示す利得の高い方向が一致するようにアンテナ10の向きを制御する。
【0031】
送信条件決定部115は、送信元のアンテナ10の方向を変更制御した場合、受信点(地点B)におけるアンテナ20の方向を制御してもよい。この場合、送信条件決定部115は、再計算用の電波経路が示す方向にアンテナ10を向けてもよいし、順にアンテナ20の方向を変更してもよい。そして最も送信条件決定部115は、受信点における受信強度を取得して、最も受信強度の高い位置にアンテナ20の方向を合わせる制御を行うようにしてよい。送信条件決定部115は、ステップS111~ステップS112の処理を繰り返して、最も合計伝搬損失の低い、またはより受信電力の高い場合に処理に用いた、送信元のアンテナ10の方向を決定してよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の処理によれば、受信点における伝搬損失をより高精度に算出することができる。
【0033】
図6は本実施形態による解析装置の最小構成を示す図である。
図7は本実施形態による最小構成の解析装置による処理フローを示す図である。
解析装置1は、少なくとも、経路特定手段61と、伝搬損失算出手段62の機能を発揮する。
経路特定手段61は、送信電波の送信点から障害物を挟んで位置する受信点までの回折波と障害物における乱反射波とに基づいて、送信点と受信点とを含む3次元空間において送信点から送信電波の指向性の範囲で放射され当該指向性の範囲に位置する障害物により回折または乱反射して受信点に到達する電波の複数の電波経路を特定する(ステップS201)。
伝搬損失算出手段62は、複数の電波経路を経て受信点で送信電波を受信した場合の当該複数の電波経路それぞれの伝搬損失の合計を算出する(ステップS202)。
【0034】
上述の各装置は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0035】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0036】
1・・・解析装置
10,20・・・アンテナ
100・・・電波通信システム
111・・・制御部
112・・・経路特定部
113・・・伝搬損失算出部
114・・・受信電力算出部
115・・・送信条件決定部