(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191758
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B66C 13/00 20060101AFI20221221BHJP
B66C 23/88 20060101ALI20221221BHJP
B66C 15/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B66C13/00 D
B66C23/88 D
B66C15/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100191
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 和彰
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204CA05
3F204DC05
3F204DC06
3F204DD06
3F205AA06
3F205CA03
3F205CB02
(57)【要約】
【課題】センサの数を抑えながら、高精度で車体側方の物体を検出可能な作業車両を提供すること。
【解決手段】作業車両は、車体10の側方の物体OBを検出する物体検出装置200を備える。物体検出装置200は、長距離センサ210と、短距離センサ220とを備え、長距離センサ210は、転舵可能な前輪12Fよりも前方の車体10に設置され、かつ、設置位置から車体10の後端に亘る車体10の側方の物体OBを検出可能なセンサであり、短距離センサ220は、前輪12Fよりも後方に設置され、かつ、設置位置の車体10の側方の物体OBを検出可能なセンサとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側方の物体を検出する物体検出装置を備え、
前記物体検出装置は、第1センサと、第2センサとを備え、
前記第1センサは、前記車体に設けられた複数の車輪のうち、前後方向で前後の一方の端部に配置された転舵可能な前記車輪よりも前後方向で前記一方の側の前記車体に設置され、かつ、前記設置された位置から前後方向で前記車体の他方の端部に亘る前記車体の側方の物体を検出可能なセンサであり、
前記第2センサは、前記一方の端部に配置された前記転舵可能な前記車輪よりも前記他方の側に設置され、かつ、設置位置の前記車体の側方の物体を検出可能なセンサである作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記第1センサ及び前記第2センサは、前記車体の左右方向でキャビンが設けられている側とは反対側の前記車体に設けられている作業車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の作業車両において、
前記車体の前記一方の端部に配置された前記転舵可能な前記車輪の転舵角を検出する転舵角センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサによる前記物体の検出を制御する検出制御装置と、を備え、
前記検出制御装置は、前記転舵角が予め設定された閾値未満の場合は、前記第1センサのみの検出に基づいて前記物体の検出を行い、前記転舵角が前記閾値以上の場合は、前記第1センサと前記第2センサとの検出に基づいて前記物体の検出を行うようにされている作業車両。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の作業車両において、
前記第2センサは、検出距離が前記第1センサの検出距離よりも短く設定されている作業車両。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の作業車両において、
前記車輪には、転舵可能なものが前後方向で複数含まれる作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走行可能なクレーンなどの作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体の左右側方の障害物を検出する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、機体左後方及び右後方の路面上の障害物を検出する左右の物体検出装置を備え、前進しながら左後方検出データ及び右後方検出データを収集する技術が開示されている。
【0003】
また、車両において、自車両周囲に存在する物体を検出する複数のレーザセンサを設けたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-43599号公報
【特許文献2】特開2017-94949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレーンなどの作業車両には、一般的にキャビンからの視界が十分得られないものがある。特に、クレーンでは、キャビンからの視界は、左右方向でブームが存在する側の側方が死角となるため、この死角となった側の障害物を高精度で検出することが求められる。
【0006】
そこで、車体の側方の物体を検出する場合、車体の側面に前後方向に多数のセンサを設けた場合、コストが嵩む。また、少ないセンサで物体を検出しようとした場合、検出精度が低下するおそれがある。特に、クレーンでは、車体の上下方向寸法に対して車輪の上下方向寸法が大きいため、車輪の転舵時に、車輪がセンサの検出を妨げるおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、センサの数を抑えながら、高精度で車体側方の物体を検出可能な作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本開示の作業車両は、車体の側方の物体を検出する物体検出装置を備え、前記物体検出装置は、第1センサと、第2センサとを備える。そして、前記第1センサは、前記車体に設けられた複数の車輪のうち、前後方向で前後の一方の端部に配置された転舵可能な前記車輪よりも前後方向で前記一方の側の前記車体に設置され、かつ、前記設置された位置から前後方向で前記車体の他方の端部に亘る前記車体の側方の物体を検出可能なセンサである。また、前記第2センサは、前記一方の端部に配置された前記転舵可能な前記車輪よりも前記他方の側に設置され、かつ、設置位置の前記車体の側方の物体を検出可能なセンサである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の作業車両は、第1センサにより、設置位置から前後方向で車体の他方の端部に亘って車体の側方の物体を検出でき、少ないセンサで物体の検出が可能である。さらに、第2センサにより、設置位置の車体の側方の物体を検出できる。よって、第1センサに死角が生じた場合でも、第2センサにより死角範囲内の物体の検出が可能である。
【0010】
したがって、センサの数を抑えながら、高精度で車体側方の物体(障害物)を検出可能な作業車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1のクレーンを示す側面図である。
【
図2】実施の形態1のクレーンを示す平面図である。
【
図3】実施の形態1のクレーンにおける物体検出装置としての物体検出装置の概略を示すブロック図である。
【
図4】(a)は、実施の形態1のクレーンにおける各距離センサの検出領域及び作用を示す概略図であり、(b)は、他の実施の形態のクレーンにおける各距離センサの検出領域及び作用を示す概略図である。
【
図5】実施の形態1のクレーンにおける物体検出装置の物体検出処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示による作業車両を実現する実施形態を、図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1では作業車両の一例としてラフテレーンクレーン(以下、単にクレーンという)に適用した例を示す。
【0013】
[クレーンの構成]
図1は、実施の形態1のクレーン1を示す側面図である。
図2は、実施の形態1のクレーン1を示す平面図である。以下、実施の形態1のクレーン1の構成を説明する。
【0014】
図1に示すように、クレーン1は、車体10と、旋回体20と、ブーム30とを備える。なお、クレーン1に対し、矢印FRが前方を、矢印RRが後方を、矢印LSが左方向を、矢印RSが右方向を、矢印UPが上方を、矢印DNが下方を示す。
【0015】
車体10は、アウトリガー11と、道路や作業現場を自走するための走行装置等を備える。また、走行装置には、車体10の左右に設けられた前輪12F及び後輪12Rが含まれる。なお、以下の説明において、前輪12F及び後輪12Rを総称する場合、単に車輪12F,12Rと称する。
【0016】
アウトリガー11は、作業時に、水平方向及び垂直方向に張り出し、車輪12F、12Rが地面から離れるまで車体10を持ち上げて、姿勢を安定させる。
【0017】
旋回体20は、車体10の上部に設けられ、車体10に対して、鉛直軸C1回りに回転可能となっている。そして、旋回体20は、キャビン21を備える。キャビン21は、
図2に示すように、旋回体20をクレーン1の前方に向けた状態で、ブーム30の右側に配置されている。なお、キャビン21は、旋回体20をクレーン1の前方に向けた状態でブーム30の左側に設けられてもよい。
【0018】
キャビン21は、車体10の走行を制御するための操作部(例えば、ステアリング、シフトレバー、アクセルペダル、及びブレーキペダル等)を有する。また、キャビン21は、旋回体20やブーム30やウィンチ24等を操作する操作部を有する。キャビン21に搭乗した運転者Mは、操作部を操作して、旋回体20を旋回させ、ブーム30を起伏及び伸縮させ、ウィンチ24を回転させて作業を行う。
【0019】
ブーム30は、
図1に示すように、基端側の基端ブーム31と、中間ブーム32と、先端側の先端ブーム33と、を備える。中間ブーム32と先端ブーム33は、順次、基端ブーム31の内部に格納される入れ子式のものである。
【0020】
基端ブーム31は、旋回体20に設けられた起伏シリンダ(不図示)に支持されている。そして、起伏シリンダが伸縮することで、ブーム30が起伏し、伸縮シリンダ(不図示)が伸縮することによって、ブーム30が伸縮する。
【0021】
先端ブーム33の先端に設けられたブームヘッド33aには、シーブ34が配置されている。旋回体20に設けられたウィンチ24には、吊り荷用のワイヤロープ35が巻かれている。ワイヤロープ35は、ウィンチ24からシーブ34までブーム30に沿って配置されている。シーブ34に掛け回されたワイヤロープ35は、シーブ34から鉛直方向の下方に吊り下げられる。ワイヤロープ35の最下部には、フック36が設けられている。
【0022】
このフック36は、荷物を吊ることができる。そして、ウィンチ24によってワイヤロープ35が繰り出されることで、フック36が降下し、ワイヤロープ35が巻き上げられることで、フック36が上昇する。
【0023】
以上のように構成されたクレーン1は、ウィンチ24によるワイヤロープ35の繰り出し・巻き上げ、ブーム30の起伏及び伸縮、並びに旋回体20の旋回により、フック36に吊られた荷物を所定の位置に移動させることができる。
【0024】
[クレーンの車輪の転舵]
ここで、クレーン1の車輪12F,12Rの転舵について説明を加える。クレーン1は、前輪12Fのみを転舵させる通常モードと、後輪12Rのみを転舵させる後輪転舵モードと、前輪12Fと後輪12Rとを逆相で転舵させる逆相モードと、前輪12Fと後輪12Rとを同相で転舵させる同相モードとの転舵が可能となっている。例えば、走行時には、通常モードとして前輪12Fのみを転舵させる。また、後退時には、通常モードや後輪転舵モードにより転舵させることができる。また、狭小地等でクレーン1を小回りさせたい場合には、前輪12F及び後輪12Rを逆相モードで転舵させる。また、前輪12F及び後輪12Rを同相モードで転舵させることにより、クレーン1を平行移動させることができる。
【0025】
[物体検出装置の構成]
クレーン1には、
図3に示す走行制御装置100が搭載されている。この走行制御装置100は、クレーン1の走行時に障害物等の物体OB(
図4参照)を検出すると、自動的にクレーン1を減速あるいは停止させる走行制御を行う。
【0026】
クレーン1には、物体を検出する手段の1つとして物体検出装置としての物体検出装置200が搭載されている。この物体検出装置200は、クレーン1の周囲の物体OBを検出するにあたり、特に、クレーン1の左側方の物体の距離や相対位置等を検出する。なお、クレーン1には、車両前方及び車両後方の物体OBを検出する装置も搭載しているが、その構成は、本開示の要旨に含まないため、説明は省略する。
【0027】
物体検出装置200は、長距離センサ(第1センサ)210と、短距離センサ(第2センサ)220と、転舵角センサ230と、検出制御装置240とを備える。
【0028】
長距離センサ210は、
図1、
図4(a)に示すように、車体10において、転舵輪の1つである前輪12Fよりも前方位置の左側面あるいはアウトリガー11に設置され、車体10の左側方の物体OBを検出する。なお、図示のように、車体10は、上下方向の寸法が小さいのに対し、車輪12F、12Rの直径が大きいため、長距離センサ210は、上下方向で前輪12Fの高さの範囲内に配置されている。
【0029】
この長距離センサ210は、例えば、ミリ波レーダが用いられており、検出物体の距離や水平角度といった位置情報及び相対速度を検出可能なものである。この長距離センサ210の検出範囲RDLは、
図4(a)に示す例では水平方向に120度程度の範囲であり、かつ、検出距離Ddは、長距離センサ210の設置位置から車体10の後端迄の距離の物体OB(障害物)を検出可能な距離に設定されている。そして、長距離センサ210は、車体10の左側方の物体OBを検出するものであるから、検出範囲(角度)RDLの一端OSを車体10の左側面に沿わせるように設置されている。このように、長距離センサ210は、これのみで車体10の設置位置から車体10の後端迄の側面の左側方の検出が可能となっている。
【0030】
短距離センサ220は、超音波センサなどの、長距離センサ210と比較して、検出範囲RDSが狭く、検出距離が短い、安価なセンサが用いられている。そして、短距離センサ220は、車体10の左側面において、前輪12Fよりも後方であって、前輪12Fと後輪12Rとの間の位置と、後輪12Rの後方の位置とに設置されている。また、短距離センサ220も、上下方向において、前輪12Fの高さの範囲に配置されている。
【0031】
2つの短距離センサ220は、それぞれ、検出範囲RDSが前後方向で重なっており、車体10に対して左側方から相対的に接近する物体に対して、いずれかのセンサにより検出することが可能となっている。また、短距離センサ220は、超音波センサを用いた場合、物体(障害物)OBの距離(有無)を検出するものであるが、後述する死角BSの外側の物体OBの検出は長距離センサ210により行うことができる。このため、短距離センサ220は、死角BSにおける物体OBの距離(有無)を検出できればよい。
【0032】
なお、
図1ではクレーン1として、前輪12F及び後輪12Rが、1輪ずつ設けられたものを示しているが、例えば、
図4(b)に示すように、前輪12F及び後輪12Rが複数のものに適用することもできる。このようなクレーンに適用する場合には、短距離センサ220の数は、2個に限らず、図示のように3個、あるいはそれ以上の複数を設置してもよい。また、
図4(a)に示す例においても、前輪12Fと後輪12Rとの間に設置する短距離センサ220の数を2以上の複数としてもよい。さらに、車体10の構造が、後輪12Rと車体後端との間隔が広いものなどでは、後輪12Rと車体後端との間に短距離センサ220を複数設置してもよい。
【0033】
転舵角センサ230は、前輪12Fの転舵角θSを検出する。なお、この転舵角θSの検出にあたり、前輪12Fの転舵角θSを直接検出してもよいし、キャビン21に設けられたステアリングの操舵角、あるいは、操舵の伝達系の回転角度を検出し、これらの角度から前輪12Fの転舵角θSを求めるようにしてもよい。
【0034】
検出制御装置240は、クレーン1の車体10の左側方の物体OBを検出するための制御である後述する物体検出処理を行う。
【0035】
[実施の形態1のクレーンが目的とする解決課題]
ここで、検出制御装置240による物体検出処理の説明を行う前に、本開示のクレーン1が目的とする解決課題について説明する。
【0036】
長距離センサ210は、
図4(a)に示すように、その検出範囲RDLは、水平方向に広く、かつ、検出距離Ddも長く、この1つのセンサにより、車体10の左側面の側方に位置する物体OBを検出することができる。
【0037】
しかしながら、長距離センサ210は、前輪12Fの前方において、前輪12Fの高さの範囲内の車体10の側面に配置されている。このため、前輪12Fを図示のように転舵させたときに前輪12Fが車体10の側面から左側方にはみ出すと、長距離センサ210の検出信号の一部が前輪12Fに遮られ、図示の点線dLと車体10の側面との間に、死角BSが生じる。物体OBの検出精度の悪化を招く。
【0038】
一方、このような死角BSが生じないように、長距離センサ210を複数設置した場合、高い検出精度を確保できるものの、製造コストの増加を招く。
【0039】
そこで、実施の形態1のクレーン1は、設置するセンサの数、コストを抑えつつ、高い検出精度を確保することを目的とする。
【0040】
[検出制御装置による物体検出処理の説明]
以下に、
図5のフローチャートに基づいて、検出制御装置240が実行する物体検出処理について説明する。この物体検出処理は、クレーン1の走行時に実行を開始する。なお、走行時の検出は、キャビン21に設けられたシフトレバー(不図示)の操作位置(走行ポジション)の検出や、アクセルペダル(不図示)の踏み込みの検出や、車速の検出や、イグニッションスイッチ(不図示)のONの検出等により行うことができる。なお、走行時とは、駐車状態ではない運転中を指し、発進時、一旦停車時などの車速0km/hの状態を含む。
【0041】
最初のステップS101では、検出制御装置240は、前輪12Fの転舵角θSを読み込む。そして、次のステップS102では、検出制御装置240は、転舵角θSが予め設定された閾値θlim未満であるか否か判定する。そして、転舵角θSが閾値θlim未満の場合は、ステップS103に進み、転舵角θSが閾値θlim以上の場合は、ステップS104に進む。
【0042】
ここで、閾値θlimは、前輪12Fが、車体10の側面の外にはみ出し、この前輪12Fのはみ出した部分が、長距離センサ210の検出信号の一部を遮り、検出範囲RDLに死角BSが生じる角度に設定されている。あるいは、閾値θlimは、死角BSが生じる直前の角度や、検出精度に影響が無い程度の僅かな死角BSが生じる角度に設定することができる。
【0043】
なお、死角BSの広さは、前輪12Fの転舵角θSが大きくなるほど広くなるが、この閾値θlimは、このような死角BSが生じる角度、あるいは、その前後の角度に設定されている。
【0044】
前輪12Fの転舵角θSが閾値θlim未満の場合に進むステップS103では、検出制御装置240は、長距離センサ210の検出信号を読み込み、長距離センサ210の検出信号に基づいて障害物の検出を行う。すなわち、前輪12Fの転舵角θSが閾値θlim未満の場合は、車体10の左側方に長距離センサ210の検出範囲RDLに実質的な死角BSは生じないため、長距離センサ210のみにより物体OBの検出を行う。
【0045】
一方、前輪12Fの転舵角θSが閾値θlimを越えた場合に進むステップS104では、検出制御装置240は、長距離センサ210及び短距離センサ220,220の検出信号に基づいて障害物の検出を行う。すなわち、前輪12Fの転舵角θSが閾値θlim以上の場合は、長距離センサ210の検出範囲RDLに死角BSが生じる。このため、死角BSの物体OBの有無の検出を、短距離センサ220により行う。なお、短距離センサ220は、超音波センサを用いており、長距離センサ210と比較して、検出距離が短く検出範囲も狭く、また、物体OBとの距離のみを検出し相対位置の検出はできない。しかしながら、死角BSの外側の領域の物体OBの検出は長距離センサ210により行うことができるため、死角BS内の物体OBの有無及び距離を検出できればよい。
【0046】
また、ステップS103、ステップS104において物体OBを検出した場合は、走行制御装置100により自動的にクレーン1を減速あるいは停止させる走行制御を行う。これにより、走行制御装置100は、衝突被害軽減ブレーキとして機能する。
【0047】
さらに、検出制御装置240は、短距離センサ220が死角BSの物体OBを検出した場合は、キャビン21内のMFD(マルチファンクションディスプレイ)等の表示装置21dにおいて、短距離センサ220の検出範囲RDSに相当する範囲を赤色表示する。また、同時にブザー等の音による報知を行うようにしてもよい。
【0048】
[実施の形態1の作用効果]
以下に、実施の形態1のクレーン1の作用効果を列挙する。
(a)実施の形態1のクレーン1は、車体10の側方の物体OBを検出する物体検出装置200を備える。そして、物体検出装置200は、第1センサとしての長距離センサ210と、第2センサとしての短距離センサ220とを備える。
【0049】
長距離センサ210は、車体10に設けられた複数の車輪12F、12Rのうちの前端の転舵輪である前輪12Fよりも前方の車体10に設置され、かつ、設置された位置から車体10の後端部に亘る車体10の側方の物体OBを検出可能なセンサである。短距離センサ220は、前輪12Fよりも後方側に設置され、かつ、設置位置の車体10の側方の物体OBを検出可能なセンサである。
【0050】
したがって、前輪12Fの転舵の際に、前輪12Fが長距離センサ210の検出信号を妨げて検出範囲RDLに死角BSが生じても、死角BSの物体OBを短距離センサ220により検出することができ、高い検出精度を得ることができる。また、車体10の側面に前後方向に、短距離センサ220を多数設けたり、長距離センサ210を複数設けたりした場合と比較して、設置するセンサの数を抑え、コストを抑えることができる。
【0051】
(b)実施の形態1のクレーン1は、長距離センサ210及び短距離センサ220は、車体10の左右方向でキャビン21が設けられている側とは反対側の車体10に設けられている。
【0052】
したがって、物体検出装置200は、運転者Mのキャビン21からの視界がブーム30により妨げられ、視認性が良くない車体10の左側方の物体OBを、高精度で検出することができる。
【0053】
(c)実施の形態1のクレーン1は、前輪12Fの転舵角θSを検出する転舵角センサ230と、長距離センサ210及び短距離センサ220による物体OBの検出を制御する検出制御装置240と、を備える。そして、検出制御装置240は、転舵角θSが予め設定された閾値θlim未満の場合は、長距離センサ210のみの検出に基づいて物体OBの検出を行い、転舵角θSが閾値θlim以上の場合は、長距離センサ210と短距離センサ220の検出に基づいて物体OBの検出を行う。
【0054】
したがって、前輪12Fが長距離センサ210の検出の障害にならない場合は、長距離センサ210のみの信号処理により物体OBの検出を行う。このため、物体検出処理の単純化を図ることができる。一方、前輪12Fが長距離センサ210の検出の障害となり死角BSが生じる場合は、物体OBの検出に短距離センサ220の検出も加える。これにより、長距離センサ210に死角BSが生じる場合であっても、検出精度を確保できる。
【0055】
(d)実施の形態1のクレーン1では、第2センサとしての短距離センサ220は、検出距離が第1センサとしての長距離センサ210の検出距離Ddよりも短いものを用いる。したがって、第2センサとして、長距離センサ210と同様のセンサを用いるものと比較して、検出精度を確保しつつ、製造コストを抑えることができる。
【0056】
(e)実施の形態1のクレーン1では、前輪12F及び後輪12Rが転舵可能となっており、前後輪12F,12Rの一方を転舵させたり、前後輪12F,12Rを同位相や逆位相で転舵させたりして、前述の4通りのモードの転舵を行うことができる。
【0057】
したがって、クレーン1は、運転者Mからの視界が良くない左側方に対して4通りの転舵モードに対応する4通りの移動パターンを有するもので、このような複雑な動きをするクレーン1において、上記のように車体10の左側方の物体OBを高精度で検出できるため、特に有効である。
【0058】
(f)実施の形態1のクレーン1では、長距離センサ210は、前輪12Fの高さの範囲内に設置されている。このように、長距離センサ210が、前輪12Fの高さの範囲内に設置されているため、前輪12Fが長距離センサ210による物体OBの検出を妨げるおそれがあるが、その場合は、上記のように短距離センサ220による物体OBの検出により検出精度を確保できる。
【0059】
(g)実施の形態1のクレーン1では、第1センサとしての長距離センサ210に、ミリ波レーダを用いた。したがって、物体OBの検出の際には、物体OBまでの距離及び相対位置を検出可能であり、単に距離のみを検出するものと比較して、高精度の物体OBの検出が可能である。
【0060】
(h)実施の形態1のクレーン1では、第2センサとしての短距離センサ220に、超音波センサを用いた。したがって、第2センサとしてミリ波レーダ等を用いた場合と比較して、物体検出装置200を安価に製造可能である。
【0061】
(i)実施の形態1のクレーン1では、短距離センサ220が物体OBを検出した際には、表示装置21dで、短距離センサ220による検出領域を着色表示するようにした。したがって、物体OBとの距離を検出する短距離センサ220による物体OBの検出でありながら、運転者Mに対して、物体OBが存在する位置を視覚的に報せることができる。
【0062】
以上、本開示の作業車両の実施の形態について説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や、追加や、各実施の形態の組み合わせ等は許容される。
【0063】
例えば、実施の形態では、作業車両として走行可能なクレーンを示したが、作業車両としてはクレーンに限定されるものではない。すなわち、車体の側方の視界を十分得られず、特に、車輪の外径が大きく、転舵輪の転舵時に第1センサの検出を妨げるおそれのある他の作業用車両(例えば、ホイールショベルやホイルローダなど)にも適用することができる。
【0064】
また、実施の形態では、物体検出装置200は、クレーン1の車体10の左右方向でキャビン21とは反対側の左側方の物体OBを検出するものを示したが、これに限定されず、左右方向でキャビン21が設けられている側の物体OBを検出するのに用いてもよい。また、クレーンとしても、自走可能なクレーンであれば、実施の形態で示したいわゆるラフテレーンタイプに限られるものではなく、トラッククレーンなど、クレーン用キャビンと走行用キャビンとを備えたものなどの他のクレーンにも適用可能である。
【0065】
また、実施の形態では、第1センサとしての長距離センサ210に、ミリ波レーダを用いた例を示した。しかし、第1センサとして、LiDAR(Light Detection and Ranging)等のレーザーや赤外線を用いた距離センサを用いることもでき、物体を検出するものであれば速度を検出しないものも用いることもできる。さらに、実施の形態では、長距離センサ210の水平方向の検出範囲RDLが120度程度のものを示したが、この検出範囲は、これに限定されるものではなく、これよりも広いものやこれよりも狭い(例えば90度程度)ものを用いてもよい。また、第2センサとしての短距離センサ220も、超音波センサに限定されず、レーダ、LiDARなどを用いることができる。
【0066】
また、実施の形態では、転舵輪として前輪12Fを示したが、実施の形態のように後輪12Rも転舵するものでは、後輪12Rを転舵輪としてもよい。この場合、第1センサとしての長距離センサ210は、後輪12Rよりも後方に配置し、検出信号を斜め前方に照射するように設置する。そして、第2センサとしての短距離センサ220は、前輪12Fと後輪12Rとの間に加え、前輪12Fの前方に設置する。
【0067】
また、実施の形態では、前輪12Fと後輪12Rとの数が同一の例を示したが、これに限定されず、例えば、前輪12Fが一輪で後輪12Rが複数というように、前輪12Fと後輪12Rとの数が異なっていてもよい。
【0068】
実施の形態では、短距離センサ220による物体OBの検出は、前輪12Fの転舵角θSが閾値θlimを越えた場合に行うこととしたが、これに限定されず、常時、短距離センサ220による検出も併用するようにしてもよい。
【0069】
また、実施の形態では、閾値θlimとして1つの値を示したが、閾値θlimとして、左転舵時と、右転舵時とで、異なる値を用いるようにしてもよい。すなわち、左転舵時と、右転舵時とでは、転舵輪としての前輪12Fが車体10からはみ出す位置が異なることから、死角BSの生じ方も異なる。よって、左転舵時と右転舵時とで、それぞれ、異なる閾値θlimを設定してもよい。因みに、右転舵時には、特に、後退時に車体10の左側方の物体OBの検出が重要である。
【符号の説明】
【0070】
1 クレーン(作業車両)
10 車体
12F 前輪(一方の端部の転舵輪)
12R 後輪
21 キャビン
30 ブーム
100 走行制御装置
200 物体検出装置
210 長距離センサ(第1センサ)
220 短距離センサ(第2センサ)
230 転舵角センサ
240 検出制御装置
BS 死角
OB 物体(障害物)
θS 転舵角
θlim 閾値